説明

ドラフトチャンバ

【課題】開閉扉の上下開口と左右開口が得られると共にその開口面積を変化させても逆流の起きない常に設定された風速の吸込風の流れを確保する。
【解決手段】制御部15により、上下開口位置センサ31からの検出信号により前面開放口3の上下方向の開口面積を、左右開口位置センサ33からの検出信号により前面開放口3の左右方向の開口面積を、排気風速検出センサ43からの検出信号により排気風量をそれぞれ割り出し、割り出した上下方向の開口面積情報と排気風量情報、又は、左右方向の開口面積情報と排気風量情報とをそれぞれ比較演算し、前面開放口が上下方向に開口した開口面積時、又は、左右方向に開口した開口面積時に基づきそれぞれ常に設定された風速の吸込風が作業空間内へ向かって流れるよう前記排気風量調整手段11をコントロールすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラフトチャンバに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にドラフトチャンバの内部は実験用の作業空間に作られている。作業空間の前面開放口は透明な開閉扉により開閉可能となっていて、内部の様子は開閉扉を介して外から見えるようになっている。
【0003】
実験中の前面開放口は、全面開放とせずに開閉扉によって開口面積が制限され、その開口面積は作業空間内で実験器具等の操作が手で行なえる広さとなっている。
【0004】
前面開放口を全面開放とせずに開閉扉によって開口面積を制限する理由は、例えば、実験中に作業空間内で発生する有毒ガス等から実験者を守るためである。具体的には前面開放口の開口面積を開閉扉によって制限する一方、前面開放口から内部の作業空間内へ向かう吸込風の流れを作ることで、実験中に発生した有毒ガス等が前記吸込風によって前面開放口から室内へ逆流するのを阻止するようになっている。
【特許文献1】特許第2801864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前面開放口から内部の作業空間内へ向かう吸込風の流れは、排気装置によって作業空間内の空気を室外へ強制的に排気することで作られるが、吸込風の風速は、予め実験等によって求められた設定された風速値となっている。この時の前面開放口は標準の開口面積となっているため、開口面積を変化させると吸込風の風速値も変化する。例えば、実験中に開口面積を小さく制限すると、それに対応して通過面積が絞られるため吸込風の風速は速くなる。それとは逆に前面開放口の開口面積を拡大すると、それに対応して通過面積が拡がるため吸込風の風速は遅くなることが知られており、特に、実験中に前面開放口を必要以上に大きく開口した場合、吸込風の流れが遅くなることで、例えば、有害ガス等が室内へ逆流する問題を招く。
【0006】
また、実験中の吸込風の流れの変化は、実験領域の周囲の雰囲気に影響を与えるところから、同一の条件下でのデータが得られにくくなる恐れがある。
【0007】
そこで、本発明にあっては前面開放口の開口面積を変化させても常に設定された吸込風の流れが得られるようにしたドラフトチャンバを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明にあっては、内部に作業空間を備えたチャンバ本体に、前記作業空間の前面開放口を上下及び左右方向に開閉する開閉可能な開閉扉と、その開閉扉の開口時に前記前面開放口から作業空間内へ向かう吸込風の流れを作ると共に、その吸込風を排気ダクトを介して室外へ強制的に排気する排気風量調整手段と、前記開閉扉の上下方向の上下開口位置を検出する上下開口位置センサからの検出信号及び前記開閉扉の左右方向の左右開口位置を検出する左右開口位置センサからの検出信号並びに前記排気ダクトを流れる排気風速を検出する排気風速検出センサからの検出信号がそれぞれ入力される制御部とを有し、前記制御部は、上下開口位置センサからの検出信号により前面開放口の上下方向の開口面積を、左右方向位置センサからの検出信号により前記開放口の左右方向の開口面積を、排気風速検出センサからの検出信号により排気風量をそれぞれ割り出し、割り出した上下方向の開口面積情報と排気風量情報、又は、左右方向の開口面積情報と排気風量情報から各開口面積時の吸込風の風速値を演算し、その風速値が設定された吸込風の風速値と同じになるよう前記排気風量調整手段をコントロールすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、開閉扉によって上下方向に開口した開口面積の前面開放口を得ることができる。また、開閉扉によってと左右方向に開口した開口面積の前面開放口を得ることができるため、各前面開放口を選択することで各種実験に対応した一番好適な前面開放口の開口状態で実験作業を行なうことができる。
【0010】
また、前面開放口が上下方向に開口した開口面積の時、又は、前面開放口が左右方向に開口した開口面積の時に、排気風量調整手段の働きによって設定された吸込風の流れを得ることができる。
【0011】
この結果、実験中に、例えば、前面開放口を広く開口しても、その開口変化に対応した設定された吸込風の流れが確保され前面開放口からの有害ガス等の逆流を確実に阻止し、実験する人の安全を確実に守る。しかも、吸込風の流れが変化しない同一条件下で実験を行なえるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明にあっては、第1に、前記制御部によって、上下方向の開口面積と左右方向の開口面積を組合せた組合せ開口面積情報と排気風量情報から組合せ開口面積の吸込風の風速値を演算し、その風速値が設定された吸込風の風速値と同じになるよう前記排気風量調整手段をコントロールすることで、実験中に発生した有害ガス等が前面開放口から室内側へ逆流するのを確実に阻止する。
【0013】
第2に、前記排気風速検出センサを、一端が排気ダクトと接続連続し、他端が室内に大気開放されたセンサダクト内に設けることで、不良発生要因となる腐食性ガス等が直接触れないようにする。
【0014】
第3に、前記排気風量調整手段を、前記排気ダクト内に設けられ排気風の流れを制御する開閉制御弁とすることで、簡単な構造により、設定された吸込風の流れを確保する。
【実施例】
【0015】
以下、図1乃至図5の図面を参照しながら本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0016】
図1は本発明に係るドラフトチャンバ全体の概要説明図を示している。ドラフトチャンバ本体1の内部は実験を行なうための作業空間となっていて、その作業空間の前面開放口3は開閉扉5を有すると共に上方は排気ダクト7を備えた天井となっている。
【0017】
排気ダクト7は、仮想線で示すように室外へ延長された延長ダクト9と接続連通し、内部には排気風量調整手段となる開閉制御弁11が設けられている。延長ダクト9には排気装置13が設けられ、排気装置13を作動させることで、例えば、図3に示すように前記前面開放口3から内部の作業空間へ向かう吸込風aの流れが作られるようになっている。
【0018】
開閉制御弁11は、後述する制御部15からの信号が駆動部17に入力されることで回動し、排気ダクト7のダクト通路幅の拡縮が可能となっている。これにより、例えば、排気ダクト7のダクト通路幅を縮小する方向へ回動させることで、それに比例して吸込風aの流れが遅くなるよう設定される。
【0019】
また、排気ダクト7のダクト通路幅を拡大する方向へ回動させることで、それに比例して吸込風aの流れが速くなるよう設定されるようになっている。
【0020】
開閉扉5は、左右のガイドレール19に案内された上下動する四角に枠組された枠体21に対して左右にスライド可能な引戸タイプの一対の開閉体23が設けられた構造となっている。
【0021】
枠体21は、上部と下部が鴨居と敷居の関係となっていて前記開閉体23が左右にスライド可能に組付けられている。枠体21の両サイドには図2に示すように滑車25に掛け回されたワイヤ27の一方が、ワイヤ27の他方にはバランスウェイト29がそれぞれ結合され、このバランスウェイト29によって軽い操作力で開閉扉5の上下動が可能となっている。開閉扉5の上下動位置は上下開口位置センサ31によって検出可能となっている。
【0022】
開閉体23は、内部が見えるように透明な2枚のガラス板によって作られていて、左右にスライドさせることで右半分、又は、左半分の開閉が可能となっている。開閉体23の左右のスライド開口は、左右開口位置センサ33によって検出可能となっている。
【0023】
上下開口位置センサ31は、図2に示すようにバランスウェイト29の上下動に対応して抵抗値が変化するポテンションメータとなっている。ポテンションメータはバランスウェイト29から延長されたワイヤ35が回転プーリ37を介して巻取りプーリ39に巻取られることで、回転プーリ37の回転動力がウオームとウオームホイールからなる伝導機構41を介して伝達され、その時の抵抗値の変化量が上下の開口位置情報として制御部15に入力されるようになっている。
【0024】
左右開口位置センサ33は、枠体21の上端部に沿ってセンサ部S1,S2,S3が複数配置され、開閉体23のスライド開口時に、その開閉体23のスライド開口位置を検出し、そのスライド開口位置情報として制御部15に入力するようになっている。
【0025】
この場合、左右開口位置センサ33のセンサ部S1…は、多数設けることで連続したきめの細かい開口状態の検出が可能となるが、一般に開口幅は実験によってある程度決まっているため、間欠的に検出する手段であっても支障なく対応が図れる。
【0026】
制御部15は、入力側に上下開口位置センサ31からの検出情報及び左右開口位置センサ33からの検出情報の外に排気風速検出センサ43からの検出信号が入力されるようになっている。
【0027】
排気風速検出センサ43は、排気ダクト7内の排気風の流れを検出するもので、センサダクト45内に設置されている。センサダクト45は一端が前記排気ダクト7と一部通路が絞られた状態で連続連通し合うと共に他端が室内47に大気開放された形状となっている。
【0028】
したがって、排気ダクト7内を排気風が流れると室内47の大気圧Vに対して排気ダクト7内が負圧域V1となることで室内47から排気ダクト7内へ向かう流れが作られる。この結果、不良発生要因となる腐食性ガス等と接触することなく検出が行なえるようになっている。
【0029】
排気ダクト7へ向かう空気の流れは、排気風の流れの速さに比例して変化する。例えば、排気風の流れが速くなると排気ダクト7に向かうセンサダクト45内の流れも速くなるところから、排気ダクト7に向かう流れを検出することで排気風の流れ、即ち、吸込風aの流れを知ることができる。
【0030】
具体的には、排気風速検出センサ43はセンサダクト45内を流れる風速値を調べる風速センサとなっていて、その風速センサによって検出された風速値が排気風速情報として制御部15に入力される。
【0031】
制御部15は、前記した通り入力側に上下開口位置センサ31からの検出信号が、左右開口位置センサ33からの検出信号が、排気風速検出センサ43からの検出信号がそれぞれ入力されるようになるが、上下開口位置センサ31からの検出信号が入力されるその検出信号から前面開放口3の上下方向の開口面積を割り出す機能と、左右開口位置センサ33からの検出信号が入力されるとその検出信号から前面開放口3の左右方向の開口面積を割出す機能と、上下開口位置センサ31及び左右開口位置センサ33からの組合せ検出信号が入力されるとその検出信号から前面開放口3の組合せ開口面積を割り出す機能と、排気風速検出センサ43からの検出信号が入力されるとその検出信号から排気風量を割り出す機能を備える。
【0032】
開口面積Pは、縦:H,横:LとするとP=H×Lで求められるところから縦H又は横Lのいずれか一方の寸法情報を予め入力しておくことで、検出信号からの位置情報とを掛けることで開口面積を割り出すことが可能となる。
【0033】
一方、制御部15は、標準開口面積時の設定された吸込風の風速値が予め入力されていて、割り出された上下方向の開口面積情報と排気風量情報及び左右方向の開口情報と排気風量情報並びに組合せ開口面積情報と排気風量情報から各開口面積時の吸込風の風速値を演算し、その風速値が予め入力されている設定された吸込風の風速値と同じになるよう前記開閉制御弁11を開閉制御する機能を有する。
【0034】
これにより、前記開放口3の開口面積に対応して常に設定された風速の吸込風の流れが確保されるようになっている。
【0035】
このように構成されたドラフトチャンバによれば、全閉状態にある最下位の開閉扉5を上昇させると、図3斜線領域で示すように上下に開口する開口面積の前面開放口3が得られる。この時、制御部15からの信号によって開閉制御弁11が働き、常に作業空間へ向かう設定された風速の吸込風aの流れが得られる。この結果、内部で発生した有害ガス等の逆流は起きない。同様に、全閉状態にある最下位の開閉扉5を構成する開閉体23の一方を、例えば、左へスライドさせれば、図4斜線領域で示すように左右に開いた開口面積の前面開放口3が得られる。
【0036】
この時、制御部15からの信号によって開閉制御弁11が働き、常に作業空間へ向かう設定された風速の吸込風の流れが得られる。同様に、全閉状態にある最下位の開閉扉5を上昇させた後、その開閉扉5を構成する開閉体23を左右にスライド開口させることで図5斜線領域で示すように組合せ開口面積の前面開放口3が得られる。
【0037】
この時、制御部15からの信号によって開閉制御弁11が働き常に作業空間へ向かう設定された風速の吸込風の流れを得ることができるようになり、前面開放口3からの有害ガス等の逆流を確実に阻止し、実験する人の安全を確実に守る。しかも、吸込風の流れが変化しない同一条件下での実験を行なえるようになる。
【0038】
また、上下方向に開口した開口面積、左右方向に開口した開口面積、それら二つを組合せた組合せ開口面積の前面開放口3をそれぞれ選択することで、各種実験に対応した一番好適な前面開放口3の開口状態で実験作業を行なうことができる。
【0039】
なお、本実施の形態にあっては、排気風量調整手段を開閉制御弁11として説明したが、排気装置13の作動を強⇔弱の範囲内において直接コントロールする手段であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明にかかるドラフトチャンバ全体の概要説明図。
【図2】上下開口位置センサの概要説明図。
【図3】前面開放口が上下方向に開口した状態を示した概要説明図。
【図4】前面開放口が左右方向に開口した状態を示した概要説明図。
【図5】前面開放口が上下と左右の組合せ開口状態を示した概要説明図。
【符号の説明】
【0041】
1 チャンバ本体
3 前面開放口
5 開閉扉
7 排気ダクト
11 開閉制御弁(排気風量調整手段)
13 排気装置
15 制御部
21 枠体
23 開閉体
31 上下開口位置センサ
33 左右開口位置センサ
43 排気風速検出センサ
45 センサダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に作業空間を備えたチャンバ本体に、前記作業空間の前面開放口を上下及び左右方向に開閉する開閉可能な開閉扉と、その開閉扉の開口時に前記前面開放口から作業空間内へ向かう吸込風の流れを作ると共に、その吸込風を排気ダクトを介して室外へ強制的に排気する排気風量調整手段と、前記開閉扉の上下方向の上下開口位置を検出する上下開口位置センサからの検出信号及び前記開閉扉の左右方向の左右開口位置を検出する左右開口位置センサからの検出信号並びに前記排気ダクトを流れる排気風速を検出する排気風速検出センサからの検出信号がそれぞれ入力される制御部とを有し、前記制御部は、上下開口位置センサからの検出信号により前面開放口の上下方向の開口面積を、左右方向位置センサからの検出信号により前記開放口の左右方向の開口面積を、排気風速検出センサからの検出信号により排気風量をそれぞれ割り出し、割り出した上下方向の開口面積情報と排気風量情報、又は、左右方向の開口面積情報と排気風量情報から各開口面積時の吸込風の風速値を演算し、その風速値が設定された吸込風の風速値と同じになるよう前記排気風量調整手段をコントロールすることを特徴とするドラフトチャンバ。
【請求項2】
前記制御部は、上下方向の開口面積と左右方向の開口面積を組合せた組合せ開口面積情報と排気風量情報から組合せ開口面積の吸込風の風速値を演算し、その風速値が設定された吸込風の風速値と同じになるよう前記排気風量調整手段をコントロールすることを特徴とする請求項1記載のドラフトチャンバ。
【請求項3】
前記排気風速検出センサは、一端が排気ダクトと接続連続し、他端が室内に大気開放されたセンサダクト内に設けられていることを特徴とする請求項1記載のドラフトチャンバ。
【請求項4】
前記排気風量調整手段は、前記排気ダクト内に設けられ排気風の流れを制御する開閉制御弁であることを特徴とする請求項1記載のドラフトチャンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61750(P2007−61750A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−251828(P2005−251828)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000114891)ヤマト科学株式会社 (17)
【Fターム(参考)】