説明

ドリルホルダ及び刃先交換式ドリル

【課題】切削抵抗を増大させるようなことなく、ランド部へのクーラントの流出を抑制して切屑排出性を向上でき、高精度に安定して切削加工が行えること。
【解決手段】軸状のホルダ本体2と、ホルダ本体2の先端部に少なくとも2つ形成され、切れ刃3aを有する切削インサート3が着脱可能に装着されるインサート取付座4と、ホルダ本体2の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体2の先端面5に開口するとともにインサート取付座4を含み、該ホルダ本体2の基端側に向けて延びる切屑排出溝6と、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に形成されたランド部12と、ホルダ本体2の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔7と、を備えたドリルホルダ1であって、ランド部12には、該ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に間隔をあけて、凹部13が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルホルダ及びこれを用いた刃先交換式ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のドリルホルダとして、例えば下記特許文献1に示されるように、軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、前記ホルダ本体の先端部に、前記軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、を備えたものが知られている。尚、ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に位置する部位は、ランド部と呼ばれている。
【0003】
一般に、このようなドリルホルダには、ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔が形成されている。そして、クーラント供給孔から切削インサートの切れ刃近傍にクーラントが供給されることにより、切れ刃が冷却されて耐摩耗性が高められることで、切れ味が維持されるとともに、切削により生じた切屑が切屑排出溝を通ってホルダ本体の基端側に向けて搬送されるようになっている。
また、刃先交換式ドリル以外のソリッドタイプのドリルとしては、例えば下記特許文献2〜4に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭53−15234号公報
【特許文献2】特開昭51−33372号公報
【特許文献3】実開昭59−183713号公報
【特許文献4】実開昭63−47814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のドリルホルダ及び刃先交換式ドリルにおいては、下記の課題があった。
すなわち、この種の刃先交換式ドリルでは、鋼材等からなるホルダ本体の外周面(ランド部)は加工(切削以外のバニシングも含む)に寄与することはなく、よって通常ランド部は、インサート取付座に装着された切削インサートの径方向外方の端縁よりも径方向内方に一段後退させられている。つまり、ドリリングにより被削材に穿設された加工穴の内周面と、ランド部との間には、隙間が形成されている(特許文献1の第2図を参照)。このような隙間があることにより、ホルダ本体の先端部に供給されたクーラントが、切屑排出溝内を通り基端側へ向けて流れる際、該切屑排出溝からランド部へ乗り上げるように流出するとともに、該ランド部上を基端側へ向けて流れ、切屑を搬送する効果が低減されていた。また、十分な切屑搬送効果を得るために、クーラント供給量を多く確保しなければならなかった。
【0006】
また、このようにクーラントが切屑排出溝からランド部へ流出すると、クーラントとともに切屑がランド部上へ乗り上げて加工穴の内周面を傷付けてしまうことがあり、穴面の加工品位を確保できないことがあった。
【0007】
一方、このような隙間をなくす目的で、ランド部を切削インサートの径方向外方の端縁に面一となるように形成した場合には、ランド部へのクーラントの流出は抑制されるものの、ホルダ本体と加工穴とが擦れ合い、大きな切削抵抗が生じるとともに、このこともまた、穴面の加工品位を損なうことになる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削抵抗を増大させるようなことなく、ランド部へのクーラントの流出を抑制して切屑排出性を向上でき、高精度に安定して切削加工が行えるドリルホルダ及び刃先交換式ドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、前記ホルダ本体の先端部に、軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、前記ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に形成されたランド部と、前記ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔と、を備えたドリルホルダであって、前記ランド部には、該ランド部と前記切屑排出溝との交差稜線に間隔をあけて、凹部が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の刃先交換式ドリルは、前述のドリルホルダと、前記切削インサートと、を備えたことを特徴としている。
【0010】
本発明のドリルホルダ及びこれを用いた刃先交換式ドリルによれば、ホルダ本体の外周面におけるランド部に、該ランド部と切屑排出溝との交差稜線に間隔をあけて凹部が形成されているので、下記の効果を奏する。
【0011】
すなわち、ランド部と加工穴の内周面との間には隙間が形成されており、該ランド部上には、例えばホルダ先端面などから流入したクーラントが存在している。このようなクーラントは、ランド部に形成された凹部に流入し一時的に貯留されるが、この際、凹部内で渦を巻くように流れるので、該凹部内においてクーラントの乱流が生じることになる。
【0012】
一方、ホルダ本体の先端部から、切削で生じた切屑を搬送しつつ切屑排出溝を通って基端側へ向かうクーラントは、該切屑排出溝内を流れていく際、ランド部と加工穴の内周面との隙間へ流出するように該ランド部上へ乗り上げようとする。しかしながら、前述のようにランド部に形成された凹部で乱流が生じているため、該ランド部上におけるクーラントの流速が減じられるとともに圧力損失が大きくなって、クーラントが切屑排出溝からランド部へ向けて流出することが抑制される。
【0013】
さらに、凹部は、ランド部と切屑排出溝との交差稜線に間隔をあけて形成されているから、クーラントが該ランド部上に乗り上げにくくなっている。具体的に、例えば本発明とは異なり、凹部が前記交差稜線上に、切屑排出溝に開口して形成された場合、クーラントが、切屑排出溝から前記凹部内を通ってランド部上に案内されやすくなるとともに、該ランド部上に乗り上げやすくなるおそれがある。一方、本発明によれば、凹部が前記交差稜線上になく、つまり切屑排出溝に開口していないので、該切屑排出溝からランド部上へのクーラントの乗り上げを確実に抑制できる。
このように、切屑排出溝からランド部へクーラントが流出することが抑制されるので、クーラント供給量を増大させることなく、切屑を効率よくホルダ基端側へ向けて搬送でき、切屑排出性が向上する。
【0014】
また、切屑排出溝からランド部へのクーラントの流出が抑制されることにより、該切屑排出溝内を基端側へ搬送される切屑が、クーラントとともにランド部上へ乗り上げるようなことも抑制される。また、凹部は切屑排出溝に開口していないから、切屑が該凹部を通ってランド部上に案内されることもない。すなわち、切屑が、ランド部と加工穴の内周面(加工面)との間で噛み込むなど、加工面を傷付けてしまうようなことが抑制されるので、穴面の加工品位が確保される。
よって、本発明によれば、高精度に安定して切削加工が行える。
また、この構成によれば、例えばランド部へのクーラントの流出を抑制する目的で、ランド部を加工穴の内周面に当接させる必要はないので、切削抵抗が増大することや、穴面の加工品位を損なうこともない。
【0015】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記凹部の内面は、凹曲面状とされていることとしてもよい。
【0016】
この場合、凹部の内面が凹曲面状とされているので、該凹部における局所的な応力集中が防止されて、ランド部ひいてはホルダ本体の機械的強度が確保される。尚、このような凹部の形状としては、例えば凹球面状(内面全体が凹曲面状)や円柱穴状(内面のうち少なくとも周壁が凹曲面状)等が挙げられる。
【0017】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記凹部は、互いに間隔をあけて複数形成されていることとしてもよい。
【0018】
この場合、凹部による前述の乱流作用がランド部の複数個所で得られ、圧力損失が十分に高められて、切屑排出溝からランド部へのクーラントの流出や切屑の乗り上げが効果的に抑制される。
【0019】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記凹部は、前記ランド部全体に亘り形成されていることとしてもよい。
【0020】
この場合、前述した効果が顕著に得られることになる。
【0021】
また、本発明のドリルホルダにおいて、少なくとも前記凹部は、前記交差稜線に沿うように配置されていることとしてもよい。
【0022】
この場合、凹部が、ランド部と切屑排出溝との交差稜線に沿うように配置されているので、切屑排出溝内からランド部へ向けてクーラントや切屑が乗り上げることを、前記交差稜線に沿う長い距離に亘り抑制でき、切屑排出性が安定して高められる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のドリルホルダ及び刃先交換式ドリルによれば、切削抵抗を増大させるようなことなく、ランド部へのクーラントの流出を抑制して切屑排出性を向上でき、高精度に安定して切削加工が行える。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを、図3とは異なる方向から見た側面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す正面図である。
【図6】図3のA−A断面を示す図である。
【図7】図3のB−B断面を示す図である。
【図8】図3のC−C断面を示す図である。
【図9】図8のD部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態に係るドリルホルダ1及びこれを用いた刃先交換式ドリル10について、図1〜図9を参照して説明する。
本実施形態のドリルホルダ1及び刃先交換式ドリル10は、ドリリングにより、鋼材等からなる被削材に加工穴を穿設するものである。
【0026】
図1〜図4に示されるように、ドリルホルダ1は、軸状をなし、軸線O回りに回転されるホルダ本体2と、ホルダ本体2の先端部に、軸線Oを挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサート3が着脱可能に装着されるインサート取付座4と、ホルダ本体2の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体2の先端面5に開口するとともにインサート取付座4を含み、該ホルダ本体2の基端側に向けて延びる切屑排出溝6と、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に形成されたランド部12と、ホルダ本体2の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体2の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔7とを備えている。また、刃先交換式ドリル10は、このドリルホルダ1と、切削インサート3とを有する。
尚、以下の説明では、軸線O方向に垂直な方向を径方向と言い、軸線Oを中心に周回する方向を周方向と言うことがある。
【0027】
図3〜図5において、ホルダ本体2は、鋼材等により形成されており、軸線O方向(図3及び図4における上下方向)の基端側(図3及び図4における上側)部分がシャンク部8とされ、該シャンク部8の先端側(図3及び図4における下側)には、シャンク部8より大径のフランジ部9を介して、シャンク部8より小径の刃部11が形成されている。フランジ部9は、その基端側部分が最も大径とされており、該フランジ部9の先端側部分は、軸線O方向に沿って先端側に向かうに従い漸次径方向内方に向かって傾斜して形成されているとともに、刃部11の基端部に滑らかに連なっている。
【0028】
この刃先交換式ドリル10は、ホルダ本体2のシャンク部8が不図示の工作機械の主軸に把持されて、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられることにより、切削インサート3の切れ刃で被削材に切れ込み、被削材を穴明け加工する。図5に示されるように、本実施形態における工具回転方向Tは、刃先交換式ドリル10を軸線O方向の先端側から見て、軸線Oを中心とした周方向のうち反時計回りの方向となっている。
【0029】
図3〜図5において、ホルダ本体2の外周面には、刃部11の先端からフランジ部9に亘って、ホルダ先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、切屑排出溝6が螺旋状に延びて形成されている。本実施形態では、切屑排出溝6は、軸線Oを挟むように一対形成されている。図6〜図8に示されるように、切屑排出溝6の軸線O方向に垂直な断面は、工具回転方向Tの前方を向く壁面が直線状とされ、該壁面以外の部分が凹曲線状となっている。
【0030】
また、図3〜図5において、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に位置する部位は、ランド部12となっている。ランド部12は、ホルダ本体2の先端面5の外周端縁に交差稜線14を介して連なっており、この交差稜線14から基端側へ向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、螺旋状に延びて形成されている。本実施形態では、ランド部12は、一対の切屑排出溝6に対応して、軸線Oを挟むように一対形成されている。ランド部12の周方向の両端は、交差稜線15を介して切屑排出溝6に連なっている。
【0031】
インサート取付座4は、多角形穴状又は円形穴状をなし、切屑排出溝6の先端部における工具回転方向Tの前方を向く壁面に形成されている。本実施形態では、インサート取付座4は、軸線Oを挟むように各切屑排出溝6に1つずつ、計2つ(一対)形成されている。
【0032】
これらインサート取付座4のうち、径方向の外方に位置する一のインサート取付座4Aは、ホルダ本体2の先端面5及びランド部12に開口して形成されている。また、径方向の内方に位置する他のインサート取付座4Bは、軸線O近傍に配置されて、ホルダ本体2の先端面5に開口している。
このように、ホルダ本体2の先端部には、軸線Oに関して回転非対称に配置された複数のインサート取付座4が形成されている。
【0033】
切削インサート3は、超硬合金等からなり、多角形板状又は円形板状をなしている。本実施形態では、切削インサート3が正方形板状をなしており、これに対応して、前記インサート取付座4は正方形穴状に切り欠かれるように形成されている。切削インサート3は、厚さ方向を向く一対の正方形面のうち、一方を向く面がすくい面とされ、他方を向く面が着座面とされている。また、切削インサート3において厚さ方向に垂直な側方向を向く側面は、逃げ面となっている。そして、切削インサート3のすくい面と逃げ面との交差稜線が、前記切れ刃とされている。
【0034】
切削インサート3には、厚さ方向に貫通する取付孔が形成されている。また、インサート取付座4において工具回転方向Tの前方を向く壁面には、ネジ孔が形成されている。そして、切削インサート3の取付孔にクランプネジが挿通されるとともに、該クランプネジがインサート取付座4のネジ孔にねじ込まれることにより、切削インサート3はインサート取付座4に着脱可能に装着される。
【0035】
切削インサート3がインサート取付座4に装着された状態において、該切削インサート3のすくい面は工具回転方向Tの前方を向き、着座面はインサート取付座4において工具回転方向Tの前方を向く壁面に着座される。本実施形態では、一のインサート取付座4Aに装着される切削インサート3と、他のインサート取付座4Bに装着される切削インサート3とが互いに同一の構成を有する共通品とされている。
【0036】
図1〜図5において、一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3は、すくい面の外周端縁に形成された複数の切れ刃のうち、一の切れ刃3aを先端面5から先端側へ向けて突出させ、他の切れ刃3bをランド部12から径方向外方に向けて突出させている。また、他のインサート取付座4Bに装着された切削インサート3は、一の切れ刃3aを先端面5から先端側へ向けて突出させている。
【0037】
クーラント供給孔7は、ホルダ本体2の周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間(すなわちランド部12の径方向内方)に対応するように配置されている。本実施形態では、クーラント供給孔7は、一対のランド部12に対応して、軸線Oを挟むように一対形成されている。クーラント供給孔7は、ホルダ先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、螺旋状に延びて形成されている。
【0038】
特に図示しないが、これらクーラント供給孔7は、シャンク部8の基端面に開口されている。また、図5において、これらクーラント供給孔7のうち、一のクーラント供給孔7Aは、ホルダ本体2の先端面5に開口している。具体的に、一のクーラント供給孔7Aは、ホルダ本体2の先端面5における一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置するように開口されている。また、これらクーラント供給孔7のうち、他のクーラント供給孔7Bは、ホルダ本体2の先端部に向けて、切屑排出溝6に開口している。具体的に、他のクーラント供給孔7Bは、他のインサート取付座4Bが配置された切屑排出溝6の先端部に開口されている。
【0039】
そして、ランド部12には、該ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に間隔をあけて、凹部13が形成されている。図3及び図4に示されるように、ランド部12を正面に見て、凹部13は円形状をなし、互いに間隔をあけて複数形成されている。また、凹部13の内面は、凹曲面状とされており、本実施形態では、凹部13の内面全体が凹曲面状をなすように、凹部13の内面は凹球面状とされている。
【0040】
また、図1〜図4において、少なくとも凹部13は、ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に沿うように配置されている。図示の例では、複数の凹部13が、ランド部12における工具回転方向Tの前方に位置する交差稜線15、及び、工具回転方向Tの後方に位置する交差稜線15にそれぞれ沿うように配列されている。また、本実施形態では、凹部13は、ランド部12とホルダ先端面5との交差稜線14に沿うようにも配置されている(図3を参照)。
【0041】
ここで、図1に示される例では、凹部13は、ランド部12全体に亘り形成されている。詳しくは、複数の凹部13が、ランド部12において周方向に沿って互いに等間隔をあけるように行をなし、かつ、交差稜線15に平行に互いに等間隔をあけるように列をなしていて、互いに大きく間隔をあけることなく縦横に配列されている。
【0042】
また、図2〜図4に示される例では、複数の凹部13が、ランド部12における一対の交差稜線15、及び、交差稜線14にそれぞれ沿うように、該交差稜線15、14に接近して配列されている。一方、ランド部12において一対の交差稜線15から周方向に離れた部位、及び、交差稜線14から基端側に離れた部位には、凹部13は形成されていない。
【0043】
また、図6〜図9に示されるように、凹部13は、軸線O方向に垂直な断面が凹曲線状とされている。本実施形態では、凹部13の断面は、凹円弧状となっている。具体的に、図9において、凹部13は、ランド部12の径方向外方に中心を有する仮想球体Sの外面の一部をなすように、ランド部12を切り欠いて形成されている。つまり、凹部13の内面の曲率半径Rは、仮想球体Sの半径Rに等しい。本実施形態では、前記曲率半径Rは、2mm程度となっている。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のドリルホルダ1及び刃先交換式ドリル10によれば、ホルダ本体2の外周面におけるランド部12に、該ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に間隔をあけて凹部13が形成されているので、下記の効果を奏する。
【0045】
すなわち、ランド部12と加工穴の内周面との間には隙間が形成されており、該ランド部12上には、例えばホルダ先端面5などから流入したクーラントが存在している。このようなクーラントは、ランド部12に形成された凹部13に流入し一時的に貯留されるが、この際、凹部13内で渦を巻くように流れるので、該凹部13内においてクーラントの乱流が生じることになる。
【0046】
一方、ホルダ本体2の先端部から、切削で生じた切屑を搬送しつつ切屑排出溝6を通って基端側へ向かうクーラントは、該切屑排出溝6内を流れていく際、ランド部12と加工穴の内周面との隙間へ流出するように該ランド部12上へ乗り上げようとする。しかしながら、前述のようにランド部12に形成された凹部13で乱流が生じているため、該ランド部12上におけるクーラントの流速が減じられるとともに圧力損失が大きくなって、クーラントが切屑排出溝6からランド部12へ向けて流出することが抑制される。
【0047】
さらに、凹部13は、ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に間隔をあけて形成されているから、クーラントが該ランド部12上に乗り上げにくくなっている。具体的に、例えば本実施形態とは異なり、凹部が交差稜線15上に、切屑排出溝6に開口して形成された場合、クーラントが、切屑排出溝6から前記凹部内を通ってランド部12上に案内されやすくなるとともに、該ランド部12上に乗り上げやすくなるおそれがある。一方、本実施形態によれば、凹部13が交差稜線15上になく、つまり切屑排出溝6に開口していないので、該切屑排出溝6からランド部12上へのクーラントの乗り上げを効果的に抑制できる。
このように、切屑排出溝6からランド部12へクーラントが流出することが抑制されるので、クーラント供給量を増大させることなく、切屑を効率よくホルダ基端側へ向けて搬送でき、切屑排出性が向上する。
【0048】
また、切屑排出溝6からランド部12へのクーラントの流出が抑制されることにより、該切屑排出溝6内を基端側へ搬送される切屑が、クーラントとともにランド部12上へ乗り上げるようなことも抑制される。また、凹部13は切屑排出溝6に開口していないから、切屑が該凹部13を通ってランド部12上に案内されることもない。すなわち、切屑が、ランド部12と加工穴の内周面(加工面)との間で噛み込むなど、加工面を傷付けてしまうようなことが抑制されるので、穴面の加工品位が良好に確保される。
また、この構成によれば、切屑排出溝6からランド部12へ向けたクーラントの流出を抑制する目的で、例えばランド部12を加工穴の内周面に当接させる必要はない(つまり、ホルダ先端部において最も径方向外方に位置する切れ刃3b部分に面一とする必要はない)ので、切削抵抗が増大することや、穴面の加工品位を損なうこともない。
【0049】
また、凹部13の内面が凹曲面状とされているので、該凹部13における局所的な応力集中が防止されて、ランド部12ひいてはホルダ本体2の機械的強度が確保される。尚、このような凹部13の形状としては、前述した凹球面状(内面全体が凹曲面状)以外に、例えば円柱穴状(内面のうち少なくとも周壁が凹曲面状)等が挙げられる。
【0050】
また、凹部13は、互いに間隔をあけて複数形成されているので、凹部13による前述の乱流作用がランド部12の複数個所で得られ、圧力損失が十分に高められて、切屑排出溝6からランド部12へのクーラントの流出や切屑の乗り上げが効果的に抑制される。
【0051】
ここで、図1に示される例では、凹部13が、ランド部12全体に亘り形成されているから、前述した効果が顕著に得られることになる。
また、図1の例及び図2〜図4に示される例では、少なくとも凹部13が、ランド部12と切屑排出溝6との交差稜線15に沿うように配置されているので、切屑排出溝6内からランド部12へ向けてクーラントや切屑が乗り上げることを、交差稜線15に沿う長い距離に亘り抑制でき、切屑排出性が安定して高められる。
【0052】
具体的に、交差稜線15に沿う凹部13が、ランド部12周端において軸線O方向に沿うように間隔をあけて複数形成されているので、切屑排出溝6から該ランド部12を通ってクーラントが流出してしまうことがより確実に抑制されて、前述した効果が顕著に得られることになる。
【0053】
また本実施形態では、凹部13が、ランド部12とホルダ先端面5との交差稜線14に沿うように形成されているので、下記の効果をも奏する。
すなわち、クーラント供給孔7からホルダ本体2の先端部に供給されたクーラントは、その一部が、ホルダ先端面5からランド部12と加工穴の内周面との間の隙間を通って該ホルダ本体2の基端側へ向けて流出しようとする。しかしながら、ランド部12において交差稜線14に沿うように形成された凹部13で、前述同様にクーラントの乱流が生じている。つまり、凹部13に流入したクーラントが該凹部13内で渦を巻くように流れ、これにより、クーラントの流速が低下するとともに圧力損失が大きくなって、ホルダ先端面5から前記隙間に向けてクーラントが流出することが抑制される。
【0054】
このように、ランド部12へのクーラントの流出が抑制されるので、クーラントがホルダ本体2の先端部に留まりやすくなり、従ってクーラント供給量を増大させることなく、ホルダ本体2の先端部へのクーラント供給量が十分に確保されて、切れ刃3a、3bの耐摩耗性が安定して高められ、かつ、切屑排出性を向上できる。よって、安定した切削加工が可能となり、切削インサート3の工具寿命の延長が可能となる。
また、この構成によれば、ホルダ先端面5からランド部12へ向けたクーラントの流出を抑制する目的で、例えばランド部12を加工穴の内周面に当接させる必要はないので、切削抵抗が増大することもない。
【0055】
また本実施形態において、ホルダ本体2の先端部には、軸線Oを挟むように径方向内方と径方向外方とに少なくとも2つのインサート取付座4が形成されている。つまり、これらインサート取付座4のうち、径方向外方に位置する一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3の切削速度は、径方向内方に位置する他のインサート取付座4Bに装着された切削インサート3の切削速度よりも速くなる。
【0056】
そして、本実施形態によれば、交差稜線14に沿う凹部13が、一対のランド部12のうち、少なくとも一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置するランド部12に形成されているので、前述の乱流作用によって、ホルダ先端面5から当該ランド部12へ向けたクーラントの流出が抑制されるとともに、該一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3に対するクーラントの供給量が十分に確保される。すなわち、切削速度が速くクーラント供給量を多く必要とする径方向外方の切削インサート3に対して、クーラントを十分に供給することができるので、よりインサート切れ刃3a、3bの耐摩耗性が高められ、安定した切削加工が行える。特に、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置するランド部12に連なるホルダ先端面5部分には、一のクーラント供給孔7Aが開口しており、該先端面5からランド部12へ向けたクーラントの流出が多くなることが考えられるが、本実施形態によれば、この流出が抑制される。
【0057】
尚、本実施形態では、交差稜線14に沿う凹部13は、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置するランド部12のみならず、他のインサート取付座4Bの工具回転方向Tの前方に位置するランド部12にも形成されていることから、これらインサート取付座4A、4Bに装着される各切削インサート3に対して、クーラントを十分に供給できる。
【0058】
また、交差稜線14に沿う凹部13が、ランド部12先端に周方向に間隔をあけて複数形成されているので、ホルダ先端面5から該ランド部12を通ってクーラントが流出してしまうことがより確実に抑制されて、前述した効果が顕著に得られることになる。
【0059】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0060】
例えば、前述した実施形態では、切屑排出溝6、ランド部12及びクーラント供給孔7が、それぞれ一対ずつ形成されているとしたが、これら切屑排出溝6、ランド部12及びクーラント供給孔7の数は、前述の実施形態に限定されない。
また、インサート取付座4が、各切屑排出溝6の先端部に1つずつ形成されているとしたが、インサート取付座4の数についても前述の実施形態に限定されるものではなく、各切屑排出溝6に複数(例えば2つずつ)形成されていてもよい。
【0061】
また、ランド部12を正面に見て、凹部13が円形状をなしているとしたが、凹部13の形状は、前述の実施形態に限定されるものではない。すなわち、例えば凹部13は、前記円形状以外の溝状をなしているとともに、互いに間隔をあけて複数形成されていてもよい。尚、この場合、凹部13が丸溝からなることが好ましく、これにより凹部13の内面を凹曲面状に形成できる。
【0062】
また、ランド部12には、凹部13が複数形成されているとしたが、これに限らず、ランド部12には、凹部13が1つだけ形成されていてもよい。ただしこの場合、凹部13に所定以上の容積を確保して乱流作用を十分に得るため、凹部13の形状が溝状等に形成されることが好ましい。或いは、複数の凹部13の端部同士が連通状態となるように接近配置して、凹部13を一体に形成しても構わない。
【0063】
また、前述の実施形態では、凹部13が、ランド部12における一対の交差稜線15、及び、交差稜線14にそれぞれ沿うように形成されているとしたが、これに限定されるものではない。ただし、凹部13は、少なくとも交差稜線15に沿うように形成されていることが好ましい。
【0064】
また、前述の実施形態では、複数のインサート取付座4A、4Bに対して、共通品である切削インサート3がそれぞれ装着されるとしたが、これに限定されず、各インサート取付座4A、4Bに対応して、互いに異なる形状の切削インサート3が装着されることとしても構わない。
【符号の説明】
【0065】
1 ドリルホルダ
2 ホルダ本体
3 切削インサート
3a、3b 切れ刃
4 インサート取付座
5 ホルダ本体の先端面
6 切屑排出溝
7 クーラント供給孔
10 刃先交換式ドリル
12 ランド部
13 凹部
15 ランド部と切屑排出溝との交差稜線
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、
前記ホルダ本体の先端部に、軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、
前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、
前記ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に形成されたランド部と、
前記ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔と、を備えたドリルホルダであって、
前記ランド部には、該ランド部と前記切屑排出溝との交差稜線に間隔をあけて、凹部が形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載のドリルホルダであって、
前記凹部の内面は、凹曲面状とされていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドリルホルダであって、
前記凹部は、互いに間隔をあけて複数形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項4】
請求項3に記載のドリルホルダであって、
前記凹部は、前記ランド部全体に亘り形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルホルダであって、
少なくとも前記凹部は、前記交差稜線に沿うように配置されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のドリルホルダと、前記切削インサートと、を備えたことを特徴とする刃先交換式ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−206205(P2012−206205A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73419(P2011−73419)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】