説明

ドリルホルダ及び刃先交換式ドリル

【課題】ホルダ基端側へのクーラントの流出を抑制して、ホルダ本体の先端部にクーラントを十分に留まらせることができ、切れ刃の耐摩耗性を高めることで安定して切削加工が行えること。
【解決手段】軸状のホルダ本体2と、ホルダ本体2の先端部に、径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃3aを有する切削インサート3が着脱可能に装着されるインサート取付座4と、ホルダ本体2の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、ホルダ本体2の先端面5に開口するとともにインサート取付座4を含み、ホルダ本体2の基端側に向けて延びる切屑排出溝6と、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に形成されたランド部12と、ホルダ本体2の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔7と、を備えたドリルホルダであって、ホルダ本体2の先端面5には、凹部13が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルホルダ及びこれを用いた刃先交換式ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のドリルホルダとして、例えば下記特許文献1に示されるように、軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、前記ホルダ本体の先端部に、前記軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、を備えたものが知られている。尚、ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に位置する部位は、ランド部と呼ばれている。
【0003】
一般に、このようなドリルホルダには、ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔が形成されている。そして、クーラント供給孔から切削インサートの切れ刃近傍にクーラントが供給されることにより、切れ刃が冷却されて耐摩耗性が高められることで、切れ味が維持されるとともに、切削により生じた切屑が切屑排出溝を通ってホルダ本体の基端側に向けて搬送されるようになっている。
また、刃先交換式ドリル以外のソリッドタイプのドリルとしては、例えば下記特許文献2〜4に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭53−15234号公報
【特許文献2】特開昭51−33372号公報
【特許文献3】実開昭59−183713号公報
【特許文献4】実開昭63−47814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来のドリルホルダ及び刃先交換式ドリルにおいては、下記の課題があった。
すなわち、この種の刃先交換式ドリルでは、鋼材等からなるホルダ本体の外周面(ランド部)は加工(切削以外のバニシングも含む)に寄与することはなく、よって通常ランド部は、インサート取付座に装着された切削インサートの径方向外方の端縁よりも径方向内方に一段後退させられている。つまり、ドリリングにより被削材に穿設された加工穴の内周面と、ランド部との間には、隙間が形成されている(特許文献1の第2図を参照)。また、切削インサートにおいてホルダ先端側に位置する切れ刃は、ホルダ本体の先端面から突出されており、該先端面と加工穴の底面との間にも、隙間が形成されている。また通常、ホルダ本体の先端面には逃げ角が設定されているので、該先端面と加工穴の底面との隙間は大きくなる。これら隙間があることにより、ホルダ本体の先端部に供給されたクーラントが、切れ刃を冷却したり該切れ刃の耐摩耗性に寄与したり切屑を搬送することなく、隙間を通って該ホルダ本体の基端側に向けて流出してしまい、十分なクーラント効果を得ることができなかった。また、十分なクーラント効果を得るために、クーラント供給量を多く確保しなければならなかった。
【0006】
一方、ランド部と加工穴内周面との隙間をなくす目的で、該ランド部を切削インサートの径方向外方の端縁に面一となるように形成した場合には、ホルダ基端側へのクーラントの流出は抑制されるものの、ホルダ本体と加工穴とが擦れ合い、大きな切削抵抗が生じるとともに、穴面の加工品位を損なうことになる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、切削抵抗を増大させるようなことなく、ホルダ基端側へのクーラントの流出を抑制して、ホルダ本体の先端部にクーラントを十分に留まらせることができ、切れ刃の耐摩耗性を高めることで安定して切削加工が行えるドリルホルダ及び刃先交換式ドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち、本発明は、軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、前記ホルダ本体の先端部に、前記軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、前記ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に形成されたランド部と、前記ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔と、を備えたドリルホルダであって、前記ホルダ本体の先端面には、凹部が形成されていることを特徴とする。
また、本発明の刃先交換式ドリルは、前述のドリルホルダと、前記切削インサートと、を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明のドリルホルダ及びこれを用いた刃先交換式ドリルによれば、ホルダ本体の先端面(以下、ホルダ先端面と言うことがある)に凹部が形成されているので、下記の効果を奏する。
すなわち、クーラント供給孔からホルダ本体の先端部に供給されたクーラントは、その一部が、ホルダ先端面からランド部と加工穴の内周面との間の隙間を通って該ホルダ本体の基端側へ向けて流出しようとするが、この際、ホルダ先端面に形成された凹部内において、クーラントの滞留が生じることになる。つまり、凹部に流入したクーラントが該凹部内に留まることにより、先端面にクーラントが常に供給される状態となる。
【0010】
このように、ホルダ基端側へのクーラントの流出が抑制されるので、クーラントがホルダ本体の先端部に留まりやすくなり、従ってクーラント供給量を増大させることなく、ホルダ本体の先端部へのクーラント供給量が十分に確保されて、切れ刃の耐摩耗性を高めることができる。
【0011】
また、ホルダ本体の先端面は、インサート取付座に装着される切削インサートのホルダ先端側に位置する切れ刃よりも一段後退されており、また該先端面には逃げ角が設定されているため、ホルダ先端面と加工穴の底面との間にも、隙間が形成されている。本発明によれば、前述した凹部の滞留作用によって、この隙間からクーラントが切削インサートに向けて供給されやすくなるとともに、切れ刃を冷却したり潤滑することなくランド部上や切屑排出溝へ流出するようなことが抑制される。
【0012】
よって、本発明によれば、切削インサートの工具寿命の延長が可能となり、安定した切削加工を行うことができる。
また、この構成によれば、例えばホルダ基端側へのクーラントの流出を抑制する目的で、ランド部を加工穴の内周面に当接させる必要はないので、切削抵抗が増大することもない。
【0013】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記凹部は、前記ホルダ本体の先端面と前記ランド部との交差稜線に間隔をあけて形成されていることとしてもよい。
【0014】
この場合、凹部が、ホルダ本体の先端面において、該先端面とランド部との交差稜線に間隔をあけて形成されているので、該凹部に一時的に貯留されたクーラントが、ランド部上により乗り上げにくくなっている。具体的に、例えば本発明とは異なり、凹部が前記交差稜線上に開口して形成された場合、凹部に一時的に貯留されたクーラントが、ホルダ先端面から前記凹部内を通ってランド部上に案内されやすくなるとともに、該ランド部上に乗り上げやすくなるおそれがある。一方、本発明によれば、凹部が前記交差稜線上になく、つまりランド部に開口していないので、ホルダ先端面からランド部上へのクーラントの乗り上げを確実に抑制できる。
【0015】
さらに、凹部が前記交差稜線に間隔をあけて形成されていることにより、該凹部の滞留作用によって流速が低下したクーラントは、径方向外方に向かいにくくなる代わりに、工具回転方向の後方に位置するインサート取付座の切削インサートに供給されやすくなる。従って、前述した効果が顕著に得られる。
【0016】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記凹部は、複数形成されていることとしてもよい。
【0017】
この場合、凹部による前述の滞留作用がホルダ本体の先端面の複数個所で得られ、圧力損失が十分に高められて、該先端面からのクーラントの流出が効果的に抑制される。
【0018】
また、本発明のドリルホルダにおいて、前記ホルダ本体の先端面には、周方向に互いに間隔をあけるように複数の扇状部が形成され、前記凹部は、前記扇状部に対応して形成されていることとしてもよい。
【0019】
この場合、ホルダ先端面において周方向に間隔をあけるように隣り合う扇状部同士の間には、切屑排出溝が配置されており、該切屑排出溝にはインサート取付座が形成されている。つまり、扇状部の工具回転方向の後方には、インサート取付座が配置され、該インサート取付座には切削インサートが装着される。本発明によれば、凹部が、扇状部に対応して形成されているので、該凹部に一時的に貯留されたクーラントが、その工具回転方向の後方に位置する切削インサートに供給されやすくなる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のドリルホルダ及び刃先交換式ドリルによれば、切削抵抗を増大させるようなことなく、ホルダ基端側へのクーラントの流出を抑制して、ホルダ本体の先端部にクーラントを十分に留まらせることができ、切れ刃の耐摩耗性を高めることで安定した切削加工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルを示す正面図である。
【図3】図2のホルダ本体の先端部におけるA−A断面を示す図である。
【図4】図2のホルダ本体の先端部におけるB−B断面を示す図である。
【図5】図1におけるホルダ本体の先端部を拡大して示す図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る刃先交換式ドリルの先端部を略側方から見た斜視図である。
【図7】図5におけるホルダ先端面の扇状部を拡大して示す図である。
【図8】図5におけるホルダ先端面の扇状部を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態に係るドリルホルダ1及びこれを用いた刃先交換式ドリル10について、図1〜図8を参照して説明する。
本実施形態のドリルホルダ1及び刃先交換式ドリル10は、ドリリングにより、鋼材等からなる被削材に加工穴を穿設するものである。
【0023】
図1及び図2に示されるように、ドリルホルダ1は、軸状をなし、軸線O回りに回転されるホルダ本体2と、ホルダ本体2の先端部に、軸線Oを挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサート3が着脱可能に装着されるインサート取付座4と、ホルダ本体2の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体2の先端面5に開口するとともにインサート取付座4を含み、該ホルダ本体2の基端側に向けて延びる切屑排出溝6と、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に形成されたランド部12と、ホルダ本体2の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体2の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔7とを備えている。また、刃先交換式ドリル10は、このドリルホルダ1と、切削インサート3とを有する。
尚、以下の説明では、軸線O方向に垂直な方向を径方向と言い、軸線Oを中心に周回する方向を周方向と言うことがある。
【0024】
ホルダ本体2は、鋼材等により形成されており、軸線O方向の基端側(図1における右上側)部分がシャンク部8とされ、該シャンク部8の先端側(図1における左下側)には、シャンク部8より大径のフランジ部9を介して、シャンク部8より小径の刃部11が形成されている。フランジ部9は、その基端側部分が最も大径とされており、該フランジ部9の先端側部分は、軸線O方向に沿って先端側に向かうに従い漸次径方向内方に向かって傾斜して形成されているとともに、刃部11の基端部に滑らかに連なっている。
【0025】
この刃先交換式ドリル10は、ホルダ本体2のシャンク部8が不図示の工作機械の主軸に把持されて、軸線O回りに工具回転方向Tに回転させられることにより、切削インサート3の切れ刃で被削材に切れ込み、被削材を穴明け加工する。図2に示されるように、本実施形態における工具回転方向Tは、刃先交換式ドリル10を軸線O方向の先端側から見て、軸線Oを中心とした周方向のうち反時計回りの方向となっている。
【0026】
図1において、ホルダ本体2の外周面には、刃部11の先端からフランジ部9に亘って、ホルダ先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、切屑排出溝6が螺旋状に延びて形成されている。本実施形態では、切屑排出溝6は、軸線Oを挟むように一対形成されている。切屑排出溝6の軸線O方向に垂直な断面は、工具回転方向Tの前方を向く壁面が直線状とされ、該壁面以外の部分が凹曲線状となっている(図5を参照)。
【0027】
また、図1及び図5において、ホルダ本体2の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間に位置する部位は、ランド部12となっている。ランド部12は、ホルダ本体2の先端面5の外周端縁に交差稜線14を介して連なっており、この交差稜線14から基端側へ向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、螺旋状に延びて形成されている。本実施形態では、ランド部12は、一対の切屑排出溝6に対応して、軸線Oを挟むように一対形成されている。
【0028】
インサート取付座4は、多角形穴状又は円形穴状をなし、切屑排出溝6の先端部における工具回転方向Tの前方を向く壁面に形成されている。本実施形態では、インサート取付座4は、軸線Oを挟むように各切屑排出溝6に1つずつ、計2つ(一対)形成されている。
【0029】
これらインサート取付座4のうち、径方向の外方に位置する一のインサート取付座4Aは、ホルダ本体2の先端面5及びランド部12に開口して形成されている。また、径方向の内方に位置する他のインサート取付座4Bは、軸線O近傍に配置されて、ホルダ本体2の先端面5に開口している。
このように、ホルダ本体2の先端部には、軸線Oに関して回転非対称に配置された複数のインサート取付座4が形成されている。
【0030】
切削インサート3は、超硬合金等からなり、多角形板状又は円形板状をなしている。本実施形態では、切削インサート3が正方形板状をなしており、これに対応して、前記インサート取付座4は正方形穴状に切り欠かれるように形成されている。切削インサート3は、厚さ方向を向く一対の正方形面のうち、一方を向く面がすくい面とされ、他方を向く面が着座面とされている。また、切削インサート3において厚さ方向に垂直な側方向を向く側面は、逃げ面となっている。そして、切削インサート3のすくい面と逃げ面との交差稜線が、前記切れ刃とされている。
【0031】
切削インサート3には、厚さ方向に貫通する取付孔が形成されている。また、インサート取付座4において工具回転方向Tの前方を向く壁面には、ネジ孔が形成されている。そして、切削インサート3の取付孔にクランプネジが挿通されるとともに、該クランプネジがインサート取付座4のネジ孔にねじ込まれることにより、切削インサート3はインサート取付座4に着脱可能に装着される。
【0032】
切削インサート3がインサート取付座4に装着された状態において、該切削インサート3のすくい面は工具回転方向Tの前方を向き、着座面はインサート取付座4において工具回転方向Tの前方を向く壁面に着座される。本実施形態では、一のインサート取付座4Aに装着される切削インサート3と、他のインサート取付座4Bに装着される切削インサート3とが互いに同一の構成を有する共通品とされている。
【0033】
図5〜図8において、一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3は、すくい面の外周端縁に形成された複数の切れ刃のうち、一の切れ刃3aを先端面5から先端側へ向けて突出させ、他の切れ刃3bをランド部12から径方向外方に向けて突出させている。また、他のインサート取付座4Bに装着された切削インサート3は、一の切れ刃3aを先端面5から先端側へ向けて突出させている。
【0034】
図1〜図5において、クーラント供給孔7は、ホルダ本体2の周方向に隣り合う切屑排出溝6同士の間(すなわちランド部12の径方向内方)に対応するように配置されている。本実施形態では、クーラント供給孔7は、一対のランド部12に対応して、軸線Oを挟むように一対形成されている。クーラント供給孔7は、ホルダ先端から基端側に向かうに従い漸次工具回転方向Tの後方に向かって捩れるように、延びて形成されている。
【0035】
特に図示しないが、これらクーラント供給孔7は、シャンク部8の基端面に開口されている。また、図2において、これらクーラント供給孔7のうち、一のクーラント供給孔7Aは、ホルダ本体2の先端面5に開口している。具体的に、一のクーラント供給孔7Aは、ホルダ本体2の先端面5における一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置するように開口されている。また、これらクーラント供給孔7のうち、他のクーラント供給孔7Bは、ホルダ本体2の先端部に向けて、切屑排出溝6に開口している。具体的に、他のクーラント供給孔7Bは、他のインサート取付座4Bが配置された切屑排出溝6の先端部に開口されている。
【0036】
また、図2、図7及び図8に示されるように、ホルダ本体2の先端面5には、周方向に互いに間隔をあけるように複数の扇状部16が形成されている。詳しくは、ホルダ本体2の先端面5は、仮想の円形面が周方向に間隔をあけて複数の切屑排出溝6に扇状に切り欠かれるように形成されており、これら切り欠かれた扇状の部位以外の、残された扇状をなす部位が、前記扇状部16となっている。
【0037】
本実施形態では、一対の切屑排出溝6に対応して、扇状部16が軸線Oを挟むように一対形成されており、これら扇状部16は、互いの中心角部分同士を繋ぐように連なり一体となっている。尚、これら扇状部16同士は、大きさ、形状が互いに異なっている。
【0038】
具体的に、一対の扇状部16のうち、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16(図8を参照)は、他のインサート取付座4Bの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16(図7を参照)より大きい。また、一対の扇状部16のうち、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16には、一のクーラント供給孔7Aが開口している。
【0039】
図3及び図4に示されるように、ホルダ本体2の軸線O方向に沿う断面において、扇状部16は、径方向中央(内方)から外方へ向かうに従い漸次ホルダ本体2の基端側(図3及び図4における下側)に向かって傾斜して形成されている。また、図6において、扇状部16は、工具回転方向Tの後方へ向かうに従い漸次ホルダ本体2の基端側(図6における下側)に向かって傾斜して形成されている。これにより、ホルダ先端面5には、逃げ角が与えられている。
【0040】
そして、図2、図5、図7及び図8等に示されるように、ホルダ本体2の先端面5には、凹部13が形成されている。凹部13は、ホルダ本体2の先端面5とランド部12との交差稜線14に間隔をあけて形成されている。また、凹部13は、ホルダ先端面5に複数形成されている。本実施形態では、これら凹部13が三角形穴状をなしており、互いに間隔をあけて配置されている。
【0041】
また、凹部13は、ホルダ先端面5の扇状部16に対応して形成されている。本実施形態では、凹部13が、それぞれの扇状部16に1つずつ、計2つ(一対)形成されている。凹部13は、対応する扇状部16におけるインサート取付座4の工具回転方向Tの後方に配置されている。
【0042】
図2に示されるように、ホルダ本体2の先端面5を正面に見て、本実施形態における凹部13は、3つの角部がR形状とされた正三角形状をなしており、その3つの辺のうち一辺が、該凹部13の工具回転方向Tの前方に位置する切削インサート3の切れ刃3aに対して、略平行に延びている。また、一対の凹部13のうち、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16に形成された凹部13は、一のクーラント供給孔7Aの工具回転方向Tの後方に配置されている。
【0043】
また、図3及び図4において、凹部13の底面(ホルダ先端側を向く奥面)は、径方向中央(内方)から外方へ向かうに従い漸次ホルダ本体2の基端側に向かって傾斜して形成されている。また、凹部13の底面と、該底面の周囲に形成された周壁との間には、断面凹曲線状をなす凹曲面部13aが形成されており、該凹曲面部13aを介して、前記底面と前記周壁とは滑らかに連なっている。
【0044】
以上説明したように、本実施形態のドリルホルダ1及び刃先交換式ドリル10によれば、ホルダ本体2の先端面5に凹部13が形成されているので、下記の効果を奏する。
すなわち、クーラント供給孔7からホルダ本体2の先端部に供給されたクーラントは、その一部が、ホルダ先端面5からランド部12と加工穴の内周面との間の隙間を通って該ホルダ本体2の基端側へ向けて流出しようとするが、この際、ホルダ先端面5に形成された凹部13内において、クーラントの滞留が生じることになる。つまり、凹部13に流入したクーラントが該凹部13内で留まることにより、ホルダ先端側に常にクーラントが供給される状態となる。
【0045】
このように、ホルダ基端側へのクーラントの流出が抑制されるので、クーラントがホルダ本体2の先端部に留まりやすくなり、従ってクーラント供給量を増大させることなく、ホルダ本体2の先端部へのクーラント供給量が十分に確保されて、切れ刃3a、3bの耐摩耗性を高めることができる。
【0046】
また、図6に示されるように、ホルダ本体2の先端面5は、インサート取付座4に装着される切削インサート3のホルダ先端側に位置する切れ刃3aよりも一段後退されており、また該先端面5には逃げ角が設定されているため、ホルダ先端面5と加工穴の底面(ホルダ基端側を向く奥面)との間にも、隙間が形成されている。本実施形態によれば、前述した凹部13の滞留作用によって、この隙間からクーラントが切削インサート3に向けて供給されやすくなるとともに、切れ刃3a、3bを冷却したり潤滑することなくランド部12上や切屑排出溝6へ流出するようなことが抑制される。
【0047】
よって、本実施形態によれば、切削インサート3の工具寿命の延長が可能となり、安定した切削加工を行うことができる。
また、この構成によれば、例えばホルダ基端側へのクーラントの流出を抑制する目的で、ランド部12を加工穴の内周面に当接させる必要はないので、切削抵抗が増大することもない。
【0048】
また、凹部13が、ホルダ本体2の先端面5において、該先端面5とランド部12との交差稜線14に間隔をあけて形成されているので、該凹部13に一時的に貯留されたクーラントが、ランド部12上により乗り上げにくくなっている。具体的に、例えば本実施形態とは異なり、凹部が交差稜線14上に開口して形成された場合、前記凹部に一時的に貯留されたクーラントが、ホルダ先端面5から前記凹部内を通ってランド部12上に案内されやすくなるとともに、該ランド部12上に乗り上げやすくなるおそれがある。一方、本実施形態によれば、凹部13が交差稜線14上になく、つまりランド部12に開口していないので、ホルダ先端面5からランド部12上へのクーラントの乗り上げを効果的に抑制できる。
【0049】
さらに、凹部13が交差稜線14に間隔をあけて形成されていることにより、該凹部13に滞留されたクーラントは、径方向外方に向かいにくくなる代わりに、工具回転方向Tの後方に位置するインサート取付座4の切削インサート3に供給されやすくなる。従って、前述した効果が顕著に得られる。
【0050】
また、凹部13は複数形成されているので、凹部13による前述の滞留作用がホルダ本体2の先端面5の複数個所で得られ、ホルダ先端側のクーラント量が十分に高められて、該先端面5からのクーラントの流出が効果的に抑制される。
【0051】
また、ホルダ本体2の先端面5には、周方向に互いに間隔をあけるように複数の扇状部16が形成されており、周方向に隣り合う扇状部16同士の間には、切屑排出溝6が配置されているとともに、該切屑排出溝6の先端部にはインサート取付座4が形成されている。つまり、扇状部16の工具回転方向Tの後方には、インサート取付座4が配置され、該インサート取付座4には切削インサート3が装着されている。本実施形態によれば、凹部13が、扇状部16に対応して形成されているので、該凹部13に一時的に貯留されたクーラントが、その工具回転方向Tの後方に位置する切削インサート3に供給されやすくなる。
【0052】
また本実施形態において、ホルダ本体2の先端部には、軸線Oを挟むように径方向内方と径方向外方とに少なくとも2つのインサート取付座4が形成されている。つまり、これらインサート取付座4のうち、径方向外方に位置する一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3の切削速度は、径方向内方に位置する他のインサート取付座4Bに装着された切削インサート3の切削速度よりも速くなる。
【0053】
そして、本実施形態によれば、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16には、凹部13が、一のクーラント供給孔7Aの工具回転方向Tの後方に配置されているので、一のクーラント供給孔7Aから流出したクーラントがこの凹部13に捕捉されやすくなるとともに、当該凹部13による前述の滞留作用によって、一のインサート取付座4Aに装着された切削インサート3に対するクーラントの供給量が十分に確保される。すなわち、切削速度が速くクーラント供給量を多く必要とする径方向外方の切削インサート3に対して、クーラントを十分に供給することができるので、より効果的にクーラントによる潤滑及び冷却作用が得られる。
尚、本実施形態では、凹部13は、一のインサート取付座4Aの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16のみならず、他のインサート取付座4Bの工具回転方向Tの前方に位置する扇状部16にも形成されていることから、これらインサート取付座4A、4Bに装着される各切削インサート3に対して、クーラントを十分に供給できる。
【0054】
また、凹部13は、3つの角部がR形状とされた正三角形状をなしており(つまり凹部13の内面のうち、隣り合う周壁同士が滑らかに連なっており)、また凹部13の内面における底面と周壁とは、凹曲面部13aを介して滑らかに連なっている。すなわち、凹部13の内面には、例えば異なる平面同士が交差して形成される谷部のような部位が形成されてはおらず、従って、該凹部13における局所的な応力集中が防止されて、ホルダ本体2の機械的強度が確保されている。
【0055】
尚、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0056】
例えば、前述した実施形態では、切屑排出溝6、ランド部12、クーラント供給孔7及び扇状部16が、それぞれ一対ずつ形成されているとしたが、これら切屑排出溝6、ランド部12、クーラント供給孔7及び扇状部16の数は、前述の実施形態に限定されない。
また、インサート取付座4が、各切屑排出溝6の先端部に1つずつ形成されているとしたが、インサート取付座4の数についても前述の実施形態に限定されるものではなく、各切屑排出溝6に複数(例えば2つずつ)形成されていてもよい。
【0057】
また、ホルダ本体2の先端面5を正面に見て、凹部13が三角形状をなしているとしたが、凹部13の形状は、前述の実施形態に限定されるものではない。すなわち、例えば凹部13は、前記三角形状以外の多角形状、円形状、溝状などに形成されていてもよい。尚、凹部13の内面は、平面同士が交差するように形成された谷部を有していない、例えば凹曲面のみ、又は、凹曲面及び平面からなることが好ましい。
【0058】
また、ホルダ本体2の先端面5には、凹部13が複数形成されているとしたが、これに限らず、該先端面5には、凹部13が1つだけ形成されていてもよい。ただしこの場合、前述の滞留作用を十分に得るため、凹部13がホルダ先端面5において所定以上の開口面積及び容積を有するように形成されることが好ましい。
また、複数の凹部13が接近配置されることにより、互いの端部同士を連通させるように一体に形成されていても構わない。
【0059】
また、前述の実施形態では、複数のインサート取付座4A、4Bに対して、共通品である切削インサート3がそれぞれ装着されるとしたが、これに限定されず、各インサート取付座4A、4Bに対応して、互いに異なる形状の切削インサート3が装着されることとしても構わない。
【符号の説明】
【0060】
1 ドリルホルダ
2 ホルダ本体
3 切削インサート
3a、3b 切れ刃
4 インサート取付座
5 ホルダ本体の先端面
6 切屑排出溝
7 クーラント供給孔
10 刃先交換式ドリル
12 ランド部
13 凹部
14 ホルダ本体の先端面とランド部との交差稜線
16 扇状部
O 軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状をなし、軸線回りに回転されるホルダ本体と、
前記ホルダ本体の先端部に、前記軸線を挟むように径方向の内方と外方とに少なくとも2つ形成され、切れ刃を有する切削インサートが着脱可能に装着されるインサート取付座と、
前記ホルダ本体の外周面に周方向に間隔をあけて複数形成され、このホルダ本体の先端面に開口するとともに前記インサート取付座を含み、該ホルダ本体の基端側に向けて延びる切屑排出溝と、
前記ホルダ本体の外周面のうち、周方向に隣り合う切屑排出溝同士の間に形成されたランド部と、
前記ホルダ本体の内部を貫通するように形成され、該ホルダ本体の先端部にクーラントを供給するクーラント供給孔と、を備えたドリルホルダであって、
前記ホルダ本体の先端面には、凹部が形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載のドリルホルダであって、
前記凹部は、前記ホルダ本体の先端面と前記ランド部との交差稜線に間隔をあけて形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のドリルホルダであって、
前記凹部は、複数形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項4】
請求項3に記載のドリルホルダであって、
前記ホルダ本体の先端面には、周方向に互いに間隔をあけるように複数の扇状部が形成され、
前記凹部は、前記扇状部に対応して形成されていることを特徴とするドリルホルダ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のドリルホルダと、前記切削インサートと、を備えたことを特徴とする刃先交換式ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−206216(P2012−206216A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74215(P2011−74215)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】