説明

ドリルユニット並びにそのドリルユニットに使用されるドリル及びホルダ

【課題】工具剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるドリルユニット並びにそのドリルユニットに使用されるドリル及びホルダを提供すること。
【解決手段】ドリルユニット1によれば、ドリル10は、吸引路16が本体部11の外周面に凹設され、かかる吸引路16を通じて切り屑を排出するように構成されているので、従来品のように、本体部11を中空に構成し、かかる本体部11内を通じて切り屑を排出する場合と比較して、工具剛性を確保することができ、工具寿命の向上を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリルユニット並びにそのドリルユニットに使用されるドリル及びホルダに関し、特に、工具剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるドリルユニット並びにそのドリルユニットに使用されるドリル及びホルダに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ドリルによる穴あけ加工において、切削液を使用して、切り屑を排除することは、工具寿命の延長や加工精度の確保などのために重要である。しかしながら、切削液には塩素やリン等の有害な物質が含まれているため、環境汚染を引き起こす恐れがあった。このため、近年では、切削液の使用を抑制し得る技術の開発が望まれていた。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、切り屑を吸引し、その吸引した切り屑を中空の工具本体内を通じて排出するドリルが開示されている。
【特許文献1】特開昭40−19634号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1におけるドリルでは、工具本体を中空とすることで、工具剛性が低下して、工具寿命の低下を招くという問題点があった。
【0005】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、工具剛性を確保して、工具寿命の向上を図ることができるドリルユニット並びにそのドリルユニットに使用されるドリル及びホルダを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を解決するために請求項1記載のドリルユニットは、軸心回りに回転される本体部とその本体部の先端に配設されると共に切れ刃を有する刃部とその刃部に設けられると共に前記切れ刃のすくい面を形成する溝とを有するドリルと、そのドリルの本体部が挿入される挿入孔を有するホルダとを備え、そのホルダの挿入孔に前記ドリルの本体部を焼きばめて、前記ホルダにより前記ドリルを保持するものであって、前記ドリルは、前記本体部の外周面に凹設され、前記溝に連設されると共に前記本体部の後端面まで延設される吸引路を備えると共に、前記本体部の外径が前記刃部の外径よりも小径に構成され、前記ホルダは、外周面に凹設される送風路を備えると共に、外径が前記ドリルの刃部の外径よりも小径に構成され、前記ホルダの挿入孔内の吸気が行われることで、前記ドリルの切れ刃により生成され、前記溝に収容された切り屑を前記吸引路を通じて吸引し、前記本体部後端から排出するように構成されている。
【0007】
請求項2記載のドリルユニットは、請求項1記載のドリルユニットにおいて、前記ドリルの吸引路は、前記本体部の回転方向と同一方向へねじれて形成されている。
【0008】
請求項3記載のドリルユニットは、請求項1又は2に記載のドリルユニットにおいて、前記ホルダの送風路は、前記ホルダの先端面から後端側へかけて延設されることで前記ホルダの先端面に開口されると共に、前記ドリルは、前記送風路が開口される前記ホルダの先端面側に保持される。
【0009】
請求項4記載のドリルユニットは、請求項1から3のいずれかに記載のドリルユニットにおいて、前記ホルダの送風路は、前記ドリルの回転方向と反対方向へねじれて形成されている。
【0010】
請求項5記載のドリルユニットは、請求項4記載のドリルユニットにおいて、前記ホルダの送風路は、多条に形成されている。
【0011】
請求項6記載のドリルユニットは、請求項1から5のいずれかに記載のドリルユニットにおいて、前記ドリルは、前記軸心方向への前記刃部の長さが、前記刃部の直径の50%以上、かつ、150%以下の長さに設定されている。
【0012】
請求項7記載のドリルは、請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用される。
【0013】
請求項8記載のホルダは、請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用される。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のドリルユニットによれば、ドリルは、吸引路が本体部の外周面に凹設されているので、ホルダによりドリルが保持された状態では、ホルダとドリルとの間に吸引路の断面積に相当する隙間を設けることができる。また、吸引路は溝に連設されると共に本体部の後端面まで延設されているので、ホルダの挿入孔内の吸気を行うことで、切れ刃により生成され、溝に収容された切り屑を吸引路を通じて強制的に吸引し、その吸引した切り屑を本体部後端からホルダを介して排出することができる。
【0015】
よって、従来品と比較して、切り屑を排除するための切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができ、環境汚染の予防を図ることができる。また、ドリルは、吸引路が本体部の外周面に凹設され、かかる吸引路を通じて切り屑を排出するように構成されているので、従来品のように、本体部を中空に構成し、かかる本体部内を通じて切り屑を排出する場合と比較して、工具剛性を確保することができ、工具寿命の向上を図ることができるという効果がある。
【0016】
また、吸引路が本体部の後端面まで延設されることで本体部の後端面に開口されているので、例えば、本体部の側面に開口する場合と比較して、切り屑を排出するためのホルダの構造を簡素化することができるという効果がある。
【0017】
また、ドリルは、本体部の外径が刃部の外径よりも小径に構成され、そのドリルの本体部が挿入されるホルダは、外径がドリルの刃部の外径よりも小径に構成されているので、被加工物に加工する加工穴がドリルの軸心方向への刃部の長さより深い場合でも、被加工物とホルダとが干渉することなく、切削加工を正常に行うことができる。
【0018】
ところで、加工穴がドリルの軸心方向への刃部の長さより深い場合には、ホルダが加工穴の内部に入り込むので、吸気時に空気を吸い込むための被加工物とホルダとの間に形成される隙間が狭く、吸気抵抗が増大する。これに対し、本発明によれば、ホルダは、送風路が外周面に凹設されているので、被加工物とホルダとの間に形成される隙間を、送風路の断面積に相当する分だけ拡大することができる。
【0019】
よって、加工穴がドリルの軸心方向への刃部の長さより深い場合でも、ドリルの回転に伴って、かかる送風路を通じて加工穴の内部へ空気を十分に送り込むことができるので、吸気抵抗を低下させて、吸気効率の向上を図ることができるという効果がある。
【0020】
また、本発明におけるドリルユニットによれば、ホルダとドリルとが別体に構成され、ホルダの挿入孔にドリルの本体部を焼きばめて、ホルダによりドリルを保持するので、ドリルをスローアウェイ工具として構成することができる。よって、強度が必要とされるドリルのみを高価な材料で構成することができ、ドリルユニット全体を高価な材料で構成する場合と比較して、工具コストの低下を図ることができるという効果がある。
【0021】
請求項2記載のドリルユニットによれば、請求項1記載のドリルユニットの奏する効果に加え、ドリルの吸引路は、本体部の回転方向と同一方向へねじれて形成されているので、本体部が回転される回転力により、切り屑を吸引路に沿って円滑に排出することができる。よって、切り屑排出性の向上を図ることができるという効果がある。
【0022】
請求項3記載のドリルユニットによれば、請求項1又は2に記載のドリルユニットの奏する効果に加え、ホルダの送風路は、ホルダの先端面から後端側へかけて延設されることでホルダの先端面に開口されると共に、ドリルは、送風路が開口されるホルダの先端面側に保持されるので、ホルダの送風路の開口とドリルの溝とが連接するようにドリルを保持した場合には、送風路を通じて空気を直接溝に送り込むことができるという効果がある。その結果、吸気抵抗をより低下させて、更なる吸気効率の向上を図ることができるという効果がある。
【0023】
請求項4記載のドリルユニットによれば、請求項1から3のいずれかに記載のドリルユニットの奏する効果に加え、ホルダの送風路は、ドリルの回転方向と反対方向へねじれて形成されているので、ドリルが回転される回転力により、送風路を通じて空気を強制的に送り込むことができるという効果がある。その結果、吸気抵抗をより低下させて、更なる吸気効率の向上を図ることができるという効果がある。
【0024】
請求項5記載のドリルユニットによれば、請求項4記載のドリルユニットの奏する効果に加え、ホルダの送風路は多条に形成されているので、1条の場合と比較して、送風路を通じて加工穴の内部に送り込む空気の量を増加することができるという効果がある。その結果、吸気抵抗をより低下させて、更なる吸気効率の向上を図ることができるという効果がある。
【0025】
請求項6記載のドリルユニットによれば、請求項1から5のいずれかに記載のドリルユニットの奏する効果に加え、ドリルは、軸心方向への刃部の長さが、刃部の外径の50%以上、かつ、150%以下の長さに設定されているので、工具寿命の向上と加工精度の向上との両立を図ることができるという効果がある。
【0026】
即ち、軸心方向への刃部の長さが刃部の外径の50%よりも短い場合には、刃部の剛性が低下して、工具寿命の低下を招くところ、本発明によれば、軸心方向への刃部の長さを刃部の外径の50%以上としたので、刃部の剛性を確保することができ、工具寿命の低下を抑制することができる。
【0027】
一方、軸心方向への刃部の長さが刃部の外径の150%よりも長い場合には、切削加工時にドリルの振れが生じ易くなるところ、軸心方向への刃部の長さを刃部の外径の150%以下とすることで、ドリルの振れを抑制することができる。これにより、工具寿命の向上と加工精度の向上との両立を図ることができる。
【0028】
請求項7記載のドリルによれば、請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用されるドリルと同様の効果を奏する。
【0029】
請求項8記載のホルダによれば、請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用されるホルダと同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照して説明する。まず、図1を参照して、ドリルユニット1の概略構成について説明する。図1(a)は、本発明の第1実施の形態におけるドリルユニット1の正面図であり、図1(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるドリルユニット1を拡大して示す拡大側面図である。
【0031】
ドリルユニット1は、加工機械(図示せず)から伝達される回転力により被加工物に切削加工(例えば、穴あけ加工)を行うためのものであり(図4参照)、図1に示すように、ドリル10と、そのドリル10を保持するホルダ20とを備えて構成されている。このドリルユニット1は、ホルダ20がコレット(図示せず)を介して加工機械に取り付けられることで、加工機械の回転力が付与される。
【0032】
ドリル10は、ホルダ20により保持されることで加工機械の回転力が伝達され、その伝達された加工機械の回転力によって回転しつつ被加工物に切削加工を行うための切削工具であり、図1に示すように、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金から構成されている。但し、ドリル10は、超硬合金に限られず、高速度工具鋼などから構成しても良い。
【0033】
ホルダ20は、上述したように、コレット(図示せず)を介して加工機械に取り付けられると共にドリル10を保持するためのものであり、図1に示すように、高速度工具鋼から構成されている。但し、ホルダ20は、高速度工具鋼に限られず、超硬合金などから構成しても良い。
【0034】
次に、図2を参照して、ドリル10の詳細構成について説明する。図2(a)は、ドリル10の正面図であり、図2(b)は、図2(a)の矢印IIb方向視におけるドリル10を拡大して示す拡大側面図である。
【0035】
図2に示すように、ドリル10は、本体部11と、その本体部11の先端側(図2(a)右側)に配設される刃部12と、本体部11の外周面に凹設される吸引路16とを主に備えて構成されている。なお、本実施の形態では、刃部12の外径(刃部12の一番大きい箇所の直径)Dkが10mmに設定されている。
【0036】
本体部11は、後述するホルダ20の挿入孔21に挿入される部位であり、図2(a)に示すように、軸心Oを有する円柱状に形成されている。この本体部11は、外径Dbが刃部12の外径Dkよりも小径に構成されている。これにより、ドリル10には、本体部11と刃部12との間に段差部12aが形成される。
【0037】
よって、ホルダ20によりドリル10を保持する場合には、ホルダ20の先端面を、ドリル10の段差部12aに突き当てて焼きばめることができ(図1参照)、焼きばめの作業性を向上させることができる。
【0038】
刃部12は、切削加工を行うための部位であり、図2に示すように、溝13と、切れ刃14とを主に備えて構成されている。溝13は、切れ刃14により生成される切り屑を収容するためのものであり、2本の溝13a,13bが、本体部11の回転方向(図2(b)反時計回り)と同一方向へねじれて形成されている。即ち、本実施の形態では、溝13が右ねじれに形成されている。
【0039】
切れ刃14は、刃部12の先端側(図2(a)右側)に形成される切れ刃であり、刃部12の先端に形成される逃げ面15a,15bと溝13a,13bとがそれぞれ交差する各稜線部分に2枚の切れ刃14a,14bが軸心Oに対して対称に形成されている。
【0040】
吸引路16は、溝13に収容された切り屑を排出するためのものであり、2本の吸引路16a,16bが、本体部11の回転方向と同一方向へねじれ(即ち、本実施の形態では、右ねじれ)、かつ、溝13のリードと略同一のリードで形成されると共に、それら2本の吸引路16a,16bが上述した2本の溝13a,13bにそれぞれ連設されている。
【0041】
なお、請求項2に記載した、本体部の回転方向と同一方向へねじれて形成されているとは、本実施の形態のように、本体部11の回転方向が右回転(図2(b)反時計回り)の場合には、吸引路16が右ねじれに形成されることを意味する一方、本体部11の回転方向が左回転(図2(b)時計回り)の場合には、吸引路16が左ねじれに形成されることを意味している。
【0042】
また、吸引路16は、図2(a)に示すように、本体部11の後端面(図2(a)左側の面)まで延設されており、吸引路16が本体部11の後端面に開口され、ホルダ20によりドリル10が保持された状態では、後述するホルダ20の挿入孔21内に連通されるように構成されている(図4参照)。
【0043】
更に、吸引路16の溝幅は、本体部11の外径Dbの50%の幅に構成されると共に、吸引路16の溝深さは、本体部11の外径Dbの17.5%の深さに構成されている。なお、吸引路16の溝幅は、本体部11の外径Dbの45%以上、かつ、55%以下の幅に設定することが望ましい。
【0044】
即ち、吸引路16の溝幅が本体部11の外径Dbの45%よりも狭い場合には、吸引路16の断面積が小さくなり、吸引路16を通じて切り屑を排出する際に吸引路16に切り屑が詰まり易くなるところ、吸引路16の溝幅を本体部11の外径Dbの45%以上とすることで、吸引路16の断面積を確保して、切り屑詰まりを抑制することができる。
【0045】
一方、吸引路16の溝幅が本体部111の外径Dbの55%よりも広い場合には、ホルダ20とドリル10との接触面積が減少して、ホルダ20によるドリル10の保持力が低下するところ、吸引路16の溝幅を本体部11の外径Dbの55%以下とすることで、ホルダ20とドリル10との接触面積を確保して、保持力の低下を抑制することができる。これにより、切り屑排出性の向上とホルダ20によるドリル10の保持力の向上との両立を図ることができる。
【0046】
更に、吸引路16の溝深さは、本体部11の外径Dbの15%以上、かつ、20%以下の深さに設定することが望ましい。即ち、吸引路16の溝深さが本体部11の外径Dbの15%よりも浅い場合には、吸引路16の断面積が小さくなり、吸引路16を通じて切り屑を排出する際に吸引路16に切り屑が詰まり易くなるところ、吸引路16の溝深さを本体部11の外径Dbの15%以上とすることで、吸引路16の断面積を確保して、切り屑詰まりを抑制することができる。
【0047】
一方、吸引路16の溝深さが本体部11の外径Dbの20%よりも深い場合には、工具剛性が低下して、工具寿命が低下するところ、吸引路16の溝深さを本体部11の外径Dbの20%以下の大きさとすることで、工具剛性を確保して、工具寿命の低下を抑制することができる。これにより、切り屑排出性の向上と工具寿命の向上との両立を図ることができる。
【0048】
また、ドリル10は、軸心O方向への刃部12の長さXが、刃部12の外径Dkと略同等の長さに構成されている。なお、軸心O方向への刃部12の長さXは、刃部12の外径Dkの50%以上、かつ、150%以下の長さに設定することが望ましい。
【0049】
即ち、軸心O方向への刃部12の長さXが刃部12の外径Dkの50%よりも短い場合には、刃部12の剛性が低下して、工具寿命の低下を招くところ、軸心O方向への刃部12の長さXを刃部12の外径Dkの50%以上としたので、刃部12の剛性を確保することができ、工具寿命の低下を抑制することができる。
【0050】
一方、軸心O方向への刃部12の長さXが刃部12の外径Dkの150%よりも長い場合には、切削加工時にドリル10の振れが生じ易くなるところ、軸心O方向への刃部12の長さXを刃部12の外径Dkの150%以下とすることで、ドリル10の振れを抑制することができる。これにより、工具寿命の向上と加工精度の向上との両立を図ることができる。
【0051】
次に、図3を参照して、ホルダ20の詳細構成について説明する。図3(a)は、ホルダ20の正面図であり、図3(b)は、図3(a)の矢印IIIb方向視におけるホルダ20を拡大して示す拡大側面図である。なお、図3(a)では、ホルダ20の一部を断面視している。
【0052】
図3に示すように、ホルダ20は、円柱状に形成され、内部には、挿入孔21が貫通形成されている。このホルダ20は、外径Dhがドリル10の刃部12の外径Dkよりも小径に構成されている。
【0053】
挿入孔21は、その先端側(図3(a)右側)に、ドリル10の本体部11が挿入される部位であり、断面円形状に形成されると共にホルダ20の長手方向(図1左右方向)へ直線状に延設されている。この挿入孔21は、常温においてドリル10の本体部11の外径Dbよりも小径に形成されており、ドリル10の本体部11を焼きばめて、ドリル10を保持することができるように構成されている。
【0054】
即ち、ホルダ20が加熱された場合には、挿入孔21の内径が熱膨張により拡径して、ドリル10の本体部11が挿入可能となる一方、ドリル10の本体部11が挿入された状態でホルダ20が冷却された場合には、挿入孔21の内径が熱収縮により縮径して、ドリル10を離脱不能に保持することができる。
【0055】
また、図3に示すように、ホルダ20の外周面には送風路22が凹設されている。送風路22は、ドリル10の回転に伴って、被加工物に加工した加工穴の内部へ空気を送り込むためのものであり(図4参照)、ドリル10の回転方向と反対方向へねじれ(即ち、本実施の形態では、左ねじれ)、一定のリード、かつ、一定のピッチで2条に形成されると共に、ドリル10を保持する先端面(図3(a)右側の面)から後端側(図3(a)左側)へかけて延設されており、送風路22がホルダ20の先端面に開口されている。
【0056】
ホルダ20によりドリル10が保持された状態において、ドリル10は、送風路22の開口とドリル10の溝13とが連接するようにホルダ20に保持されている(図1(b)参照)。
【0057】
なお、請求項4に記載した、ドリルの回転方向と反対方向へねじれて形成されているとは、本実施の形態のように、ドリル10の回転方向が右回転の場合には、送風路22が左ねじれに形成されることを意味する一方、ドリル10の回転方向が左回転の場合には、送風路22が右ねじれに形成されることを意味している。
【0058】
次に、図4を参照して、ドリルユニット1を用いて切削加工を行う方法について説明する。図4は、ドリルユニット1を用いて切削加工を行う方法を説明する説明図であり、ドリルユニット1を用いて被加工物Wに加工穴Hを加工する様子を示している。なお、図4では、ホルダ20の一部と被加工物Wとを断面視していると共に、ホルダ20の長手方向(図4左方向)を省略して示している。また、図4では、切り屑の移動方向を矢印Aで、加工穴Hの内部へ送り込まれる空気の移動方向を矢印Bで、それぞれ模式的に示している。
【0059】
上述のように構成されたドリルユニット1を用いて切削加工を行う場合には、まず、コレットを介してホルダ20を加工機械に取り付ける。次いで、加工機械から伝達される回転力によってドリルユニット1により被加工物Wに切削加工を行う。
【0060】
この際、ホルダ20の挿入孔21に接続された吸気ポンプ(図示せず)により挿入孔21内の吸気を行うことで、矢印Aで示すように、ドリル10の切れ刃14により生成され、溝13に収容された切り屑を吸引路16を通じて強制的に吸引し、その吸引した切り屑を本体部11後端からホルダ20を介して排出することができる。よって、従来品と比較して、切り屑を排除するための切削液の使用を抑制する(或いは、不要とする)ことができ、環境汚染の予防を図ることができる。
【0061】
また、ドリル10の吸引路16は、本体部11の回転方向と同一方向へねじれて形成されているので、本体部11が回転される回転力により、切り屑を吸引路16に沿って円滑に排出することができる。よって、切り屑排出性の向上を図ることができる。
【0062】
また、上述したように、ドリル10は、本体部11の外径Dbが刃部12の外径Dkよりも小径に構成され、そのドリル10の本体部11が挿入されるホルダ20は、外径Dhがドリル10の刃部12の外径Dkよりも小径に構成されているので、被加工物Wに加工する加工穴Hがドリル10の軸心O方向への刃部12の長さXより深い場合でも、被加工物Wとホルダ20とが干渉することなく、切削加工を正常に行うことができる。
【0063】
ところで、加工穴Hがドリル10の軸心O方向への刃部12の長さXより深い場合には、ホルダ20が加工穴Hの内部に入り込むので、吸気時に空気を吸い込むための被加工物Wとホルダ20との間に形成される隙間が狭く、吸気抵抗が増大する。これに対し、ホルダ20は、送風路22が外周面に凹設されているので、被加工物Wとホルダ20との間に形成される隙間を、送風路22の断面積に相当する分だけ拡大することができる。
【0064】
よって、加工穴Hがドリル10の軸心O方向への刃部12の長さXより深い場合でも、矢印Bで示すように、ドリル10の回転に伴って、かかる送風路22を通じて加工穴Hの内部へ空気を十分に送り込むことができる。これにより、吸気抵抗を低下させて、吸気効率の向上を図ることができる。
【0065】
また、ホルダ20の送風路22は、ホルダ20の先端面から後端側へかけて延設されることでホルダ20の先端面に開口されると共に、ドリル10は、送風路22が開口されるホルダ20の先端面側に保持されるので、送風路22を通じて空気を直接溝13に送り込むことができる。
【0066】
また、ホルダ20の送風路22は、ドリル10の回転方向と反対方向へねじれて形成されているので、ドリル10が回転される回転力により、送風路22を通じて空気を強制的に送り込むことができる。
【0067】
更に、ホルダ20の送風路22は2条に形成されているので、1条の場合と比較して、送風路22を通じて加工穴Hの内部に送り込む空気の量を増加することができる。その結果、吸気抵抗をより低下させて、更なる吸気効率の向上を図ることができる。
【0068】
上述したように、本発明におけるドリルユニット1によれば、ドリル10は、吸引路16が本体部11の外周面に凹設され、かかる吸引路16を通じて切り屑を排出するように構成されているので、従来品のように、本体部11を中空に構成し、かかる本体部11内を通じて切り屑を排出する場合と比較して、工具剛性を確保することができ、工具寿命の向上を図ることができる。
【0069】
また、吸引路16が本体部11の後端面まで延設されることで本体部11の後端面に開口されているので、例えば、本体部11の側面に開口する場合と比較して、切り屑を排出するためのホルダ20の構造を簡素化することができる。
【0070】
また、ホルダ20とドリル10とが別体に構成され、ホルダ20の挿入孔21にドリル10の本体部11を焼きばめて、ホルダ20によりドリル10を保持するので、ドリル10をスローアウェイ工具として構成することができる。よって、強度が必要とされるドリル10のみを高価な材料で構成することができ、ドリルユニット1全体を高価な材料で構成する場合と比較して、工具コストの低下を図ることができる。
【0071】
次に、図5を参照して、第2実施の形態について説明する。図5(a)は、第2実施の形態におけるドリル30の正面図であり、図5(b)は、図5(a)のVb−Vb線におけるドリル30を拡大して示す拡大断面図である。
【0072】
第1実施の形態では、ドリル10の吸引路16が本体部11の回転方向と同一方向へねじれて形成される場合を説明したが、第2実施の形態では、ドリル30の吸引路36が軸心Oと略平行に形成されている。なお、第1実施の形態と同一の部分には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0073】
ドリル30は、ドリル10と同様に、ホルダ20により保持されることで加工機械の回転力が伝達され、その伝達された加工機械の回転力によって回転しつつ被加工物に切削加工(例えば、穴あけ加工)を行うための切削工具であり、図5に示すように、タングステンカーバイト(WC)等を加圧焼結した超硬合金から構成されている。但し、ドリル30は、超硬合金に限られず、高速度工具鋼などから構成しても良い。
【0074】
図5に示すように、ドリル30は、本体部31と、その本体部31の先端側(図5(a)右側)に配設される刃部32と、本体部31の外周面に凹設される吸引路36とを主に備えて構成されている。なお、本実施の形態では、刃部32の外径(刃部32の一番大きい箇所の直径)Dkが10mmに設定されている。
【0075】
本体部31は、ホルダ20の挿入孔21に挿入される部位であり、図5(a)に示すように、軸心Oを有する円柱状に形成されている。この本体部31は、直径Dbが刃部32の外径Dkよりも小径に構成されている。なお、第2実施の形態では、ホルダ20の挿入孔21に本体部31を焼きばめて、ホルダ20によりドリル30を保持する。
【0076】
刃部32は、切削加工を行うための部位であり、図5に示すように、溝33と、切れ刃34とを主に備えて構成されている。溝13は、切れ刃34により生成される切り屑を収容するためのものであり、2本の溝33a,33bが、軸心Oと略平行に形成されている。
【0077】
切れ刃34は、刃部32の先端側(図5(a)右側)に形成される切れ刃であり、刃部32の先端に形成される逃げ面35a,35bと溝33a,33bとがそれぞれ交差する各稜線部分に2枚の切れ刃34a,34bが軸心Oに対して対称に形成されている。
【0078】
吸引路36は、溝33に収容された切り屑を排出するためのものであり、2本の吸引路36a,36bが、軸心Oと略平行に形成されると共に、それら2本の吸引路36a,36bが上述した2本の溝33a,33bにそれぞれ連設されている。
【0079】
また、吸引路36は、図5(a)に示すように、本体部31の後端面(図5(a)左側の面)まで延設されており、吸引路36が本体部31の後端面において開口され、ホルダ20によりドリル30が保持された状態では、ホルダ20の挿入孔21内に連通されるように構成されている。
【0080】
上述したように、第2実施の形態によれば、吸引路36は、軸心Oと略平行に形成されているので、切り屑を排出するための構造を簡素化することができる。よって、切削工具の製造コストを低減することができる。
【0081】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0082】
例えば、上記第1実施の形態では、ドリル10の吸引路16が右ねじれに形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、左ねじれに形成しても良い。但し、吸引路16は、上述したように、切り屑排出性の向上を図るべく、本体部11の回転方向と同一方向へねじれて形成することが望ましい。
【0083】
また、上記実施の形態では、ドリル10,30の吸引路16,36が溝13,33のリードと略同一のリードで形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、溝13,33のリードとは異なるリードで形成しても良く、或いは、不等のリードで形成しても良い。
【0084】
また、上記実施の形態では、ホルダ20の送風路22が一定のリードで形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、不等のリードで形成しても良い。
【0085】
更に、上記実施の形態では、ホルダ20の送風路22が一定のピッチで2条に形成される場合を説明したが、必ずしもこれに限られるものではなく、不等のピッチで形成しても良く、或いは、各送風路22を交差して形成しても良い。また、送風路22の条数は、1条、或いは、3条以上に形成しても良い。但し、送風路22は、上述したように、切り屑排出性の向上を図るべく、2条以上に形成することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】(a)は、本発明の第1実施の形態におけるドリルユニットの正面図であり、(b)は、図1(a)の矢印Ib方向視におけるドリルユニットを拡大して示す拡大側面図である。
【図2】(a)は、ドリルの正面図であり、(b)は、図2(a)の矢印IIb方向視におけるドリルを拡大して示す拡大側面図である。
【図3】(a)は、ホルダの正面図であり、(b)は、図3(a)の矢印IIIb方向視におけるホルダを拡大して示す拡大側面図である。
【図4】ドリルユニットを用いて切削加工を行う方法を説明する説明図である。
【図5】(a)は、第2実施の形態におけるドリルの正面図であり、(b)は、図5(a)の矢印IVb方向視におけるドリルを拡大して示す拡大側面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ドリルユニット
10,30 ドリル
11,31 本体部
12,32 刃部
13,33 溝
14,34 切れ刃
16,36 吸引路
20 ホルダ
21 挿入孔
22 送風路
O 軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心回りに回転される本体部とその本体部の先端に配設されると共に切れ刃を有する刃部とその刃部に設けられると共に前記切れ刃のすくい面を形成する溝とを有するドリルと、そのドリルの本体部が挿入される挿入孔を有するホルダとを備え、そのホルダの挿入孔に前記ドリルの本体部を焼きばめて、前記ホルダにより前記ドリルを保持するドリルユニットにおいて、
前記ドリルは、前記本体部の外周面に凹設され、前記溝に連設されると共に前記本体部の後端面まで延設される吸引路を備えると共に、前記本体部の外径が前記刃部の外径よりも小径に構成され、
前記ホルダは、外周面に凹設される送風路を備えると共に、外径が前記ドリルの刃部の外径よりも小径に構成され、
前記ホルダの挿入孔内の吸気が行われることで、前記ドリルの切れ刃により生成され、前記溝に収容された切り屑を前記吸引路を通じて吸引し、前記本体部後端から排出するように構成されていることを特徴とするドリルユニット。
【請求項2】
前記ドリルの吸引路は、前記本体部の回転方向と同一方向へねじれて形成されていることを特徴とする請求項1記載のドリルユニット。
【請求項3】
前記ホルダの送風路は、前記ホルダの先端面から後端側へかけて延設されることで前記ホルダの先端面に開口されると共に、前記ドリルは、前記送風路が開口される前記ホルダの先端面側に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載のドリルユニット。
【請求項4】
前記ホルダの送風路は、前記ドリルの回転方向と反対方向へねじれて形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のドリルユニット。
【請求項5】
前記ホルダの送風路は、多条に形成されていることを特徴とする請求項4記載のドリルユニット。
【請求項6】
前記ドリルは、前記軸心方向への前記刃部の長さが、前記刃部の直径の50%以上、かつ、150%以下の長さに設定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のドリルユニット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用されることを特徴とするドリル。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載のドリルユニットに使用されることを特徴とするホルダ。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−178941(P2008−178941A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−14208(P2007−14208)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「平成18年度、経済産業省、地域新生コンソーシアム研究開発事業委託研究(吸引式切り屑完全回収型次世代切削加工システムの開発)、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願」
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】