説明

ドリル及びそれを用いた穿孔装置

【課題】皿孔や面取り、座ぐり孔等をドリル交換なしで加工できるようにして、穴あけ加工の作業効率および加工精度を高めるドリルを提供し、また、そのドリルを用いて集塵回収することが可能な穿孔装置を提供する。
【解決手段】ドリル本体101内に軸心に沿って切屑排出路102を形成したドリルにおいて、ドリル本体101の基端側に段差部Gを介して外径を大きくした大径筒体101aを設け、ドリル本体の先端部に第1切れ刃110とその近傍に前記切屑排出路に通じる第1屑導入ポケット112を設け、前記段差部には第2切れ刃120とその近傍に前記切屑排出路に通じる第2屑導入ポケット122を設ける。また、そのようなドリル本体の切屑排出路102の後端に集塵機構を連結し、駆動源により前記ドリル本体101を回転させながら被削材Wを穿孔することにより、発生する切り屑が集塵機構へ吸引回収されるように穿孔装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドリル及びそれを用いた穿孔装置に関し、詳しくはドリル本体内に切屑排出路を形成したドリル、及びそれを使用した穴あけ加工用であって、被削材(ワーク)が繊維強化複合材料、特に航空機の主翼素材や車両用の車体素材であるCFRP(炭素繊維強化プラスチック)などの非金属材料、あるいはAl合金等の穴あけ加工に好適な集塵機構付き穿孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、CFRP素材にドリル穿孔する場合は、加工中に切断された微細な炭素繊維が切削粉となって切り屑に大量に混在し、それが作業場に飛散した場合には作業環境を著しく悪化することになる。そのため、作業者が防塵服や防塵マスクを着用するなどの対応をしているが、人体に有害な炭素繊維の微粉であることから、より確実な切り屑の回収が要請されている。
従来、作業環境を改善する目的で、中空状の機械主軸(スピンドル)の先端に筒状ドリルを取り付け、穿孔加工中に生成される切り屑を筒状ドリルのシャンクと機械主軸の中空部(吸引孔)を通して集塵機へ吸引回収する工具が提案されていた(特許文献1)。
また、同じく筒状ドリルを使用する工具において、切り屑の発生量を低減させるために、筒状ドリルで被削材をくり抜き、そのくり抜かれた切削コアがドリル孔を通して真空吸引装置で吸引されるようにすることも提案されていた(特許文献2)。
本出願人は、それら従来技術の不具合を改善すべく、駆動源により回転する主軸を中空主軸とし、その中空主軸の先端にチャックを介して先端に刃部を有する筒状ドリルを取り付け、前記中空主軸内の通路後端に集塵機構を連結し、前記駆動源で中空主軸を介して筒状ドリルを回転させながら被削材を穿孔することにより、発生する切り屑および切削コアが前記中空主軸内の通路を通して集塵機構へ吸引回収されるようにした穿孔装置を提案してきた(特許文献3、特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2−35653号全文公報
【特許文献2】特開平2−237707号公報
【特許文献3】特願2009−257996号報
【特許文献4】特願2010−109057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献3および特許文献4においては、CFRPなどの被削材に穴あけ加工することを具体的に開示したものの、当該被削材に均一内径の通し孔を穿孔する場合のみを明示したものである。
しかしながら、実際の作業現場においては、前記通し孔のみならず皿孔、面取りや座ぐり孔などの穴あけ加工が必要とされている。その場合には、上記の穴あけ用ドリルを用いて通し孔を穿孔した後に、ドリルを皿孔用や座ぐり孔用に交換して再度所要の穴あけ加工を実施する必要がある。
そのために、複数の穴あけ用ドリルを取り揃えておく必要があるばかりでなく、ドリルの交換作業に手数を要して作業能率の効率化が望めず、しかも当初の通し孔と後続の皿孔、座ぐり孔等との間で芯ズレが生じるなど加工精度上の不具合がある。
【0005】
一方、筒状ドリルなどドリル本体内に切屑排出路を形成するものではなく、ドリル本体の外周面に切屑排出溝を設ける従来一般のドリルにおいては面取りや座ぐり加工を可能にした構造も提案されているが、それら面取り刃や座ぐり刃の形状や配置構造が複雑なために成形が困難なこともあり実用化に至っていないばかりか、集塵機構との組み付けが著しく困難である。
【0006】
本発明は、上記従来不具合を解消すべく一本のドリルで被削材に単に通し孔等を穿孔するだけでなく、必要に応じて皿孔や面取り、座ぐり孔等をドリル交換なしで加工できるようにして、穴あけ加工の作業効率および加工精度を高めるドリルを提供することを目的とする。
また、この新規なドリルを比較的容易に成形可能にするとともに切り屑の集塵機構との組み付けを容易にして、穿孔加工中に発生する切り屑(切削コアを含む態様もあり)を確実に集塵回収することが可能な穿孔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
斯る本発明のドリルは、ドリル本体内に軸心に沿って形成した内部通路を切屑排出路としたドリルにおいて、ドリル本体の基端側に段差部を介して外径を大きくした大径筒体を同軸上に設け、ドリル本体の先端部に第1切れ刃とその後方に伸びる縁線の回転方向前方側に開口して前記切屑排出路に通じる第1屑導入ポケットを設け、前記段差部には第2切れ刃とその前後に延びる縁線の回転方向前方側に開口して前記切屑排出路に通じる第2導入ポケットを設けたことを特徴とする(請求項1)。
【0008】
上記ドリル本体は、特許文献1〜4に開示されたような筒状ドリル、つまりドリル本体内に形成される切屑排出路が基端側から先端に渉り貫通した構造であって、その先端縁に第1切れ刃(穿孔刃、ドリル刃)を形成したドリルのみならず、先端面が所定の先端角をもち形成されて切屑排出路の先端を封鎖し、その先端面に第1切れ刃を形成するドリルを包含するものである。
それら第1切れ刃により被削材を穿孔して穴あけ加工を施し(通し孔またはメクラ孔のいずれも可)、加工時に発生する切り屑(切削コアも含む)が第1屑導入ポケットを通して切屑排出路へ入り込む。また、穿孔工程の終端においては、第2切れ刃により穴あけ加工が続行し、その加工時に発生する切り屑が第2屑導入ポケットを通して切屑排出路へ入り込む。
【0009】
上記段差部の一形態は、基端側に向かい順次に外径を大きくする傾斜面であり、その場合、第2切れ刃が前記傾斜面に形成された皿孔加工用または面取り加工用の切れ刃となる(請求項2)。
また、段差部の他の形態は、ドリル本体の軸心に対して直交する直角面であり、その場合には、第2切れ刃が前記直角面に形成された座ぐり加工用の切れ刃となる(請求項3)。
【0010】
次に本発明の穿孔装置は、駆動源により回転する主軸を中空主軸とし、その中空主軸の先端にチャックを介して前記請求項1〜3のいずれか1項記載のドリルを取り付け、前記中空主軸内の通路後端に集塵機構を連結し、前記駆動源で中空主軸を介して前記ドリルを回転させながら被削材を穿孔し、前記ドリルの第1切れ刃の穿孔時に発生する切り屑が第1屑導入ポケットを通して切屑排出路へ吸入され、前記ドリルの第2切れ刃の穿孔時に発生する切り屑が第2屑導入ポケットを通して切屑排出路へ吸入され、それら切屑排出路へ吸入された切り屑が前記中空主軸内の通路を通して集塵機構へ吸引回収されるようにしたことを特徴とする(請求項4)。
【0011】
上記穿孔装置の具体的構成としては、中空主軸が単筒構造からなり、その単筒主軸の先端にチャックを介して前記ドリルが取り付けられ、単筒主軸の後端に集塵機構を連結する(請求項5)。
一方、上記駆動源は、単筒主軸を回転させる回転モータであれば特に種類や構造に制約されるものではないが、装置の小型化を考慮すれば、装置のハウジング内に配設される中空モータを採用することが好ましく、その場合には、中空モータのロータに前記単筒主軸を回転可能に組み込むようにする(請求項6)。
また、好ましい実施形態として駆動源は前記中空モータと送りモータの組み合せがよく、それにより被削材の厚さや材質等に対応した自動送りが可能である。その中空モータと送りモータとの組み合せにおいては、両モータを同軸上に配設してコンパクトな構造とし、或いは製作性を考慮して、送りモータが前記中空モータに近接する下位に配設された構造とし、いずれの構造においても、その送りモータの駆動により送り機能により中空モータを進退動させて中空主軸およびドリルをピッチ送りするようにする(請求項7)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ドリル交換なしで被削材に穿孔と共に皿孔、面取りや座ぐり孔等を形成するので穴あけ加工の作業効率および加工精度を高めることができる。また、ドリル本体内に切屑排出路を有するドリル構造を利用するので、切れ刃および屑導入ポケットを比較的容易かつ多様的に成形することができるとともに、集塵機構との組み付けを容易にした穿孔装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は第1実施例ドリルの一部切欠した側面図、(b)はその正面図、(c)は平面図、(d)は(c)における(d)−(d)線に沿う断面図。
【図2】(a)は第2実施例ドリルの一部切欠した側面図、(b)はその正面図、(c)は平面図、(d)は(c)における(d)−(d)線に沿う断面図。
【図3】(a)は第3実施例ドリルの一部切欠した側面図、(b)はその正面図、(c)は平面図、(d)は(c)における(d)−(d)線に沿う断面図。
【図4】被削材に皿孔(面取り)加工を施す断面図。
【図5】被削材に座ぐり孔加工を施す断面図。
【図6】(a)は第4実施例ドリルの一部切欠した側面図、(b)はその正面図、(c)は平面図、(d)は(c)における(d)−(d)線に沿う断面図。
【図7】(a)は第5実施例ドリルの一部切欠した側面図、(b)はその正面図、(c)は平面図、(d)は(c)における(d)−(d)線に沿う断面図。
【図8】図7(第5実施例)のドリルにより穴あけ加工を施す工程を示す断面図。
【図9】本発明の穿孔装置を一部切欠して概要を示した側面図。
【図10】被削材を穿孔加工する途中の状態を示す装置先端部の拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明すると、図1〜図8により本発明ドリルの各種形態とその穿孔工程を説明し、図9及び図10により本発明の穿孔装置を説明する。
【0015】
図1は第一実施例のドリル100を示し、ドリル本体101を基本形態とする。
ドリル本体101は、先端が所定の先端角を有する先端面(先端ヘッド)で封鎖され、内部全長に渉り切屑排出路102が形成された先端封鎖形の細筒状である。このドリル本体101は、先端から所定間隔をおいた基端側(後方側)に段差部Gを介して外径を大きくした大径筒体101aを一体としたもので、大径筒体101aの後部がシャンク103として用いられる。
ドリル本体101の段差部Gは、基端側に向かい順次に外径を大きくする傾斜面とした形態である。
【0016】
ドリル本体101は、その先端面に第1切れ刃110を形成し、傾斜面からなる段差部Gには第2切れ刃120を形成する。
第1切れ刃110は、先端面の先端角により形成される一対の切れ刃、詳しくはチゼルエッジの各端から外周端に向けて一対の切れ刃110,110を形成した場合を例示し、第2切れ刃120も前記傾斜状の段差部Gにおけるドリル回転中心の両側に一対の切れ刃120,120を形成した場合を例示している。
第1切れ刃110及び第2切れ刃120は、いずれもドリル本体101に切削刃工具を所定角度で押し当て切り込むことによって作製され、その切削刃工具の切込み形状によって第1切れ刃110の近傍に第1屑導入ポケット112が形成され、第2切れ刃120の近傍には第2屑導入ポケット122が形成される。
【0017】
第1屑導入ポケット112は、第1切れ刃110と、それがドリル本体101の外周に延びる縁線111を基準縁として回転方向前方へ開口させた切欠孔部分であり、この第1屑導入ポケット112を介して第1切れ刃110が前記切屑排出路102に対向している。
また、第2屑導入ポケット122は、第2切れ刃120と、それがドリル本体101の外周に延びる縁線121a,121bを基準縁として回転方向前方へ開口させた切欠孔部分であり、この第2屑導入ポケット122を介して第2切れ刃120が前記切屑排出路102に対向している。
それにより、上記ドリル100による穿孔工程において、第1切れ刃110が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、第1屑導入ポケット112を通してドリル本体101内の切屑排出路102へ排出され、その後に第2切れ刃120が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、第2屑導入ポケット122を通してドリル本体101内の切屑排出路102へ排出される。
【0018】
図2は第二実施例のドリル200を示し、そのドリル本体201が、大径筒体101a、切屑排出路102、シャンク103を有すること、第1切れ刃110及び第1屑導入ポケット112を有することは第一実施例と同様である。説明の重複を避けるために、同一部材については同一符号を図中に付すことにより説明を省略する。
このドリル200が第一実施例と相違する点は、段差部の形状とそれに関連した第2切れ刃220の形状である。
すなわち、ドリル本体201の段差部G’は、傾斜面に代えて図2(c)に示すとおり、ドリル本体201の軸線Oに直交する直角面、つまり大径筒体101aの先端面を垂直面とし、その垂直面に第2切れ刃220を形成するとともに、第2切れ刃220の前後がドリル本体201の外周に延びる縁線221a,221bを基準縁として回転方向前方へ切欠孔部分を開口させて第2屑導入ポケット222を形成したものである。
【0019】
このドリル200を用いた穿孔工程においても、第1切れ刃110が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、第1屑導入ポケット112を通してドリル本体201内の切屑排出路102へ排出され、その後に第2切れ刃220が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、第2屑導入ポケット222を通してドリル本体201内の切屑排出路102へ排出される。
【0020】
図3は第三実施例のドリル300を示し、そのドリル本体301が、大径筒体101a、切屑排出路102、シャンク103を有すること、傾斜面からなる段差部Gに第2切れ刃120及び第2屑導入ポケット122を有することは第一実施例のドリル100と同様である。説明の重複を避けるために、同一部材については同一符号を図中に付すことにより説明を省略する。
このドリル300が第一実施例と相違する点は、ドリル本体301の先端面が開口している形状、すなわち、切屑排出路102が全長に渉り貫通した内部通路であってドリル本体が特許文献1〜4と同様に筒状ドリル構造であること、それに伴い、第1切れ刃310がドリル本体301の先端縁に形成されるとともに、縁線311の回転方向前方に形成される第1屑導入ポケット312が先端開口した切欠形状であることである。
このドリル300を用いた穿孔工程において、第1切れ刃310が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、ドリル本体301の先端口および第1屑導入ポケット312を通してドリル本体301内の切屑排出路102へ排出され、その後に第2切れ刃120が被削材Wを穿孔する工程で発生する切り屑は、第2屑導入ポケット122を通してドリル本体301内の切屑排出路102へ排出されることは、第1実施例の場合と同様である。
【0021】
なお、図示および説明を省略するが、ドリル300においても図2の第二実施例のように、傾斜面からなる前記段差部Gに代えて垂直面からなる段差部G’とすること、及びそこに第2切れ刃220、第2屑導入ポケット222を形成することも任意である。
【0022】
図4及び図5は、前記ドリル100〜300を用いてCFRP素材などの被削材Wを穿孔する加工例を示すが、図4は被削材Wに通し孔Hと共に皿孔(又は面取り)Hxを形成する皿孔加工例を示し、図5は通し孔Hと共に座ぐり孔Hzを形成する座ぐり孔加工例を示す。
図4においては、前記ドリル100又は300を用いて被削材Wに向け矢印Ya方向へ穿孔し、被削材Wには前述した第1切れ刃110(310)により通し孔Hを穿孔するが、その通し孔Hが貫通する穿孔工程の終端域において第2切れ刃120により被削材Wの上層部が切削されて図示のとおり皿孔Hxが形成される。この穿孔工程中に、第1切れ刃110(310)、第2切れ刃120により切削される切り屑は、ドリル本体内の切屑排出路102を通してドリル基端から矢印Yb方向へ排出される。
この皿孔加工を施した被削材Wはリベットによる板部材の接合用として有用である。
なお、ドリル100又は300の段差(傾斜面)Gの長さを短くし、あるいは段差Gの穿孔長さを短くすることにより、通し孔Hの入口端に皿孔までには至らない滑らかな面取り加工を施すことができる。
【0023】
同様に、図5においては、前記ドリル200を用いて被削材Wに向け矢印Ya方向へ穿孔し、被削材Wには前述した第1切れ刃110により通し孔Hを穿孔するとともにその通し孔Hが貫通する穿孔工程の終端域において第2切れ刃220により被削材Wの上層部が切削されて図示のとおり座ぐり孔Hzが形成される。この座ぐり孔加工を施した被削材Wはリベット又はボルトによる板部材の接合用として有用である。
なお、前記ドリル200に代えて、前述した変形型(ドリル300の段差部Gを垂直面からなる段差部G’とする)を使用しても同様の座ぐり孔加工が可能である。
【0024】
図6は第四実施例のドリル100Aを示す。このドリル100Aは、前述した図1(第一実施例)のドリル100と基本形態を同じくし、相違点はドリル本体101に副切れ刃130を形成したことであるので、説明の便宜上、ドリル100と同一の構成は図中に同一符号を付すことによって説明を省略する。
副切れ刃130は、ドリル本体101の先端近傍から段差部Gの近傍に至る外周面に、長溝130aを周方向へ所定の間隔をおいて形成することにより長溝端縁に切れ刃を設けたものである。この副切れ刃130つまり長溝130aは、図示のように先端が回転方向前方へ先行する傾斜状に形成するとともに、副切れ刃130の掬い角を回転方向に向けて漸減するよう長溝130aの断面形状を変化させることが好ましい。それによって、副切れ刃130の切削性を向上させることができる。
【0025】
この第四実施例のドリル100Aによれば、特に限定するものではないが、CFRP素材を対象とした被削材Wに生じやすい弊害、つまり第1切れ刃110で穿孔したドリル孔が切削時に収縮するためドリル外周面の摩擦抵抗が増大する弊害、それを副切れ刃130の作用により穴あけ加工中における摩擦熱を低減することで解消し、孔内面に変質層が発生することを防止することができる。
なお、図6においては、図1(第一実施例)のドリルに副切れ刃130を追加した場合を例示したが、それに限定されるものではなく図2(第二実施例)、図3(第三実施例)のドリルに適用することも可能である。
【0026】
図7は第五実施例のドリル100Bを示す。このドリル100Bもまた、前述した図1(第一実施例)のドリル100と基本形態を同じくし、相違点はドリル本体101に副切れ刃140を形成したことであるので、説明の便宜上、ドリル100と同一の構成は図中に同一符号を付すことによって説明を省略する。
副切れ刃140は、一対の第1切れ刃110の直後であって両切れ刃110の円周方向の間に配置され、小口の屑導入ポケット142と共に形成した穿孔刃であり、図7の(b)(d)に示すように、副切れ刃140の外径Dbを第1切れ刃110の外径Daより大きく、換言すれば第1切れ刃110の外径Daを副切れ刃140の外径Dbより小さくしたことが特徴である。
【0027】
この第五実施例のドリル100Bによれば、CFRP素材を対象とした被削材Wに生じやすいバリの発生を防止することができる。すなわち、図8(1)に示すように、ドリル100Bを用いて被削材Wに穴あけ加工を施す場合、ドリル100Bが通し孔Hを貫通させる段階において、同図(2)に示すように第1切れ刃101の穿孔によりバリQが発生することもあるが、そのバリQは同図(3)に示すように後続の副切れ刃140の穿孔作用によって切断除去される。その後の同図(4)は、通し孔Hを貫通させた後に皿孔Hxを形成する状態を示している。
なお、図7においては、図1(第一実施例)のドリルに副切れ刃140を追加した場合を例示したが、それに限定されるものではなく図2(第二実施例)のドリルに適用することも可能である。
【0028】
なお、上記各実施例において、各ドリルの第1切れ刃110,310、第2切れ刃120,220は、いずれも回転中心の両側に配設された一対つまり二枚刃とし、それにより穿孔時におけるドリル回転の安定性を確保するとともに刃部作製を容易にしたものであるが、必ずしもそれに限定されるものではなく、従来ドリルにみられる一枚刃、三枚刃、四枚刃等とすることも含むものである。また、第2切れ刃120,220を、図示のように第1切れ刃110,310と同一円周上に配置した場合を例示したが、例えば90°など所定角度ずらした位置に形成することも任意である。
【0029】
そして、上記ドリル本体101,201,301は超硬合金や高速度鋼など超硬質性材料でもって作製され、切れ刃部分、すなわち上記第1切れ刃110,310、第2切れ刃120,220、副切れ刃140は、超高圧焼結体やダイヤモンド刃先、あるいはセラミックス材や炭化ケイ素などの基材により成形された刃部表面にダイヤモンドコーティングを施して切れ刃とし、それがロウ付け等により所定位置に付設される。
【0030】
次に、上述した本発明のドリルを用いる穿孔装置の実施形態を手持式ドリル装置Aの場合について図9及び図10図面により説明する。
図9は当該装置Aの要部を一部切欠して概要を示した側面図であり、ハウジング1内に駆動源としての中空モータ10及び送りモータ20を装備した構造を例示する。
ハウジング1は、略矩形状の筐体であって、その内底面に前後方向(図における左右方向をいう)へ延びるレール2を左右(図における奥行方向をいう)に間隔をおいて敷設し、そのレール2上に中空モータ10の摺動ブロック3を摺動可能に搭載する。また、ハウジング1内には、図示省略するが、レール2の上方に複数本の案内部材を設け、その案内部材に中空モータ10の上部を摺動可能に支持している。それにより、中空モータ10は、ハウジング1内の略中央域に前後動可能に配設されている。
送りモータ20は、ハウジング1の後部底面に設置し、前記中空モータ10を前後進退動させるように該モータ10と係合している。
【0031】
上記中空モータ10及び送りモータ20は、特にその種類に制約はないが中空モータ10にはサーボモータを使用し、送りモータ20にはネジ軸一体型のパルスモータを使用する場合を例示している。
中空モータ10は、モータケース11内の中空軸部分に機械主軸(スピンドル)を一体的に備えるが、該主軸として軸心に沿って貫通する通路12oのみを形成した単筒主軸12とし、該主軸12の外周面をロータ13に一体的に結合して回転可能に組み込まれる。送りモータ20は、その回転駆動軸21に連結された送りネジ22を前記中空モータ10の底面下に延設し、中空モータ10の底部に設けた図示省略の送りナットに前記送りネジ22を螺合させ、この送りモータ20の回転により中空モータ10を前後方向へ進退動させるものである。
【0032】
単筒主軸12は、先端にコレットチャック16を設け該チャック16により上述したドリルのいずれかを着脱交換できるように取り付け、集塵機構50に接続する集塵ホース51を接続する。
上記ドリルとしては何れを採用することも任意であるが、説明の便宜上、図3(第三実施例)のドリル300を使用する場合を例示する。
【0033】
上記中空モータ10の先端には、前記単筒主軸12の先端に設けたコレットチャック16の前方を覆う第1フード17を設け、また、ハウジング1の先端には、第1フード17の前方を覆う第2フード4を取り付け、第1フード17は第2フード4に摺動可能に嵌め合うように取り付ける。すなわち、第1フード17及び第2フード4によりコレットチャック16に取り付けたドリル300の外周を覆って保護している。
なお、第1フード17及び第2フード4は、モータケース11、ハウジング1と一体に形成することもよいが、好ましくは別部材として着脱可能に取り付ける。
【0034】
一方、上記単筒主軸12の後端には、連結具35を取り付け、その連結具35に集塵ホース51を介して集塵機構50を接続する。
なお、この連結具35は、アーム36を中空モータ10のケース11より突設した回り止め19に掛止させ、それによって回転が阻止されるようにしている。
集塵機構50は、吸引機能を備えた集塵機50aとそれから延出された集塵ホース51等で構成され、その集塵ホース51を前記単筒主軸12に接続して吸引させることにより、該主軸12の通路12oを介しドリル300の切屑排出路102先端に強力な吸引力を生起させ、その吸引作用により第1切れ刃310の穿孔時に発生する切り屑等を集塵機50aに回収するものである。この集塵機構50は、好ましくは集塵機50aにサイクロン52を内蔵させた構成とし、それにより回収する切り屑等をさらに効率よく吸塵するようにする。
【0035】
なお、図9に示す符号53は、電源や制御部を組込んだコントローラであり、このコントローラ53により動作制御される前記中空モータ10及び送りモータ20が配線コード54、55により結線されている。
また、ドリル装置Aは手持式の場合を例示していることから、図9に示すように、ハウジング1の上面には持ち運びする際の手提げ用ハンドル5を付設し、底面には、穿孔加工時に支え手となる把手杆6及び中空モータ10、送りモータ20の起動・停止を制御する操作杆7を設けておき、その操作杆7によりコントローラ53を操作するようにする。すなわち、ドリル装置Aは手持式であるが、穿孔本体部である中空モータ10等に集塵機構50及びコントローラ53など付属機器を接続してシステム化された装置を例示している。
【0036】
上述したドリル装置Aを用いた穿孔作業の加工状況を説明すれば、被削材WとしてCFRPに穴あけする場合を示し、被削材Wの表面には該面に沿って固定される治具60が取り付けられ、その治具60にドリル装置Aがセットされる(図10参照)。
治具60は、必ずしも限定される構造ではないが、空洞部61を有する支持筒構造を例示し、その先端面に前記ドリル300と軸心を一致させて該ドリル300を差込み可能な挿入口62を開口している。また、治具60の先端外周には前記ハウジング1の前部に突設した第2フード4の先端部を嵌め合い、かつ若干の回動により係止させるロック縁65を設けている。
【0037】
而して、作業者が把手杆6及び操作杆7を持って、第2フード4を治具60の先端部に嵌め合いロック縁65に係止することによりドリル装置Aを治具60にセットし、次いで操作杆7に付属する起動スイッチ7aをONさせることにより穿孔加工が開始する。
先ず、送りモータ20の起動により、中空モータ10と共にドリル300が前進して治具60の挿入口62から空洞部61内に進入する。
次いで適時のタイミングで、中空モータ10が起動し単筒主軸12を介してドリル300が設定された回転数をもって回転し、さらに上記ドリル300が前進し第1切れ刃310が被削材Wに接触して穿孔加工つまり穴あけ加工が開始する。
【0038】
すなわち、図10に示すように、被削材Wを第1切れ刃310の回転によりそのコア部分を残しながら外周を切削しながら進行する。その穿孔加工に伴い第1切れ刃310の周辺に切り屑が発生するが、その切り屑は、集塵機構50による切屑排出路102内の負圧状態による強い吸引力によって、第1切れ刃310の周辺、つまり先端口および第1屑導入ポケット312を通して切屑排出路102内へ確実に吸入され、該切屑排出路102から単筒主軸12の通路12o、集塵ホース51を介して集塵機50aへ回収される。
そして、通し孔Hが貫通するまでの間は前記切り屑の集塵回収が同様に続行し、通し孔Hが貫通する穿孔終端域では、被削材Wからコア部分がくり抜かれて切屑排出路102より小径の円筒状(短柱状)チップである切削コアPが形成されるが、その切削コアPもまた切屑排出路102内の負圧状態による強い吸引力によって切り屑と共に切屑排出路102から通路12o、集塵ホース51を介して集塵機50aへ回収される。
また、穿孔工程の終端域において、第2切れ刃120が被削材Wを穿孔して皿孔Hxを形成するが、その段階で発生する切り屑もまた、第2屑導入ポケット122を通してドリル本体301内の切屑排出路102へ吸入され、単筒主軸12の通路12o、集塵ホース51を介して集塵機50aへ回収される。
【0039】
したがって、ドリル300を用いた穿孔加工中において、発生する切り屑および切削コアを確実に回収することができるので、作業環境を改善することができる。また、中空主軸が単筒構造であることから、単筒主軸12の外径を小さくすることができるので中空モータ10を小型化できる。
【0040】
なお、上記中空モータ10及び送りモータ20の起動タイミングなどの動作設定は、コントローラ53により設定されるもので、前記加工状況の説明と必ずしも一致する必要はなく適宜に変更することも任意である。特に、中空モータ10の回転数や送りモータ20の送り速度および送り量などは被削材Wの材質や厚さを考慮して設定される。
また、操作杆7には一つの起動スイッチ7aのみを設けた場合を図示しているが、中空モータ10と送りモータ20の起動スイッチを個別に設け、作業者の判断で穿孔作業の進行状況に合わせ両モータ10,20を適時に起動させるようにすることもよい。
【0041】
なお、上記ドリル装置Aは、ドリルとして図3(第三実施例)のドリル300を使用した場合を説明したが、それによれば、前述のとおり、切り屑の大部分を切削チップPとして集塵・回収することができるので集塵機能が向上させることができる。しかしながら、本発明においては、それに限らずドリル100、ドリル200又はドリル100A、ドリル100Bを使用しても同様に穿孔および皿孔加工や座ぐり加工を施すことができ、その場合でも、それら加工時に発生する切り屑はドリル本体の切屑排出路102を通し単筒主軸12の通路12o、集塵ホース51を介して集塵機50aへ回収することができる。
また、上記ドリル装置Aは、中空主軸として単筒主軸12を使用した場合を例示したが、それに限らず内通路と外通路からなる2重筒構造とすることもよく、それによって、その2重筒主軸の外通路に圧縮空気を送り込む給気機構を連結するとともに内通路の後端に集塵機構を連結し、前記外通路を介して送気される圧縮空気をドリルの切れ刃まわりから内通路へ吸気しながら被削材を穿孔することにより、発生する切り屑および切削コアが内通路を通して集塵機構へ吸引回収することも可能である。
【0042】
上記実施の形態においては、被削材としてCFRPの場合を説明したが、それに限られるものではなくFRPその他の繊維強化複合材料を対象とすることもよく、あるいは強度の高い切れ刃を備えたドリルを使用する場合にはAl合金その他の金属材料を対象とすることもよい。また、被削材によっては切削コアがくり抜かれずに切り屑だけが発生する穿孔加工に適用することも任意である。
【0043】
また、上記実施の形態では、駆動源として回転モータ(中空モータ)10および送りモータ20の二つを搭載した場合を示したが、必ずしもその必要はなく、送りモータ20を省略することも任意であり、しかも、手持式ドリル装置の場合を例示したがそれに制約されるものではなく、当該ドリル装置をロボットに組込み自動化したシステムとすることもよい。
【符号の説明】
【0044】
100:ドリル 101:ドリル本体
101a:大径筒体 102:切屑排出路
103:シャンク G:段差部
110:第1切れ刃 111:縁線
112:第1屑導入ポケット 120:第2切れ刃
121a,121b:縁線 122:第2屑導入ポケット
200:ドリル 201:ドリル本体
G’:段差部 O:軸線
220:第2切れ刃 221a,221b:縁線
222:第2屑導入ポケット 300:ドリル
301:ドリル本体 310:第1切れ刃
311:縁線 312:第1屑導入ポケット
120:第2切れ刃 121a,121b:縁線
122:第2屑導入ポケット W:被削材
H:通し孔 Hx:皿孔
Hz:座ぐり孔 Ya,Yb:矢印
100A:ドリル 130:副切れ刃
130a:長溝 100B:ドリル
140:副切れ刃 142:屑導入ポケット
Q:バリ A:ドリル装置
10:中空モータ 11:モータケース
12:単筒主軸 12o:単筒主軸内の通路
16:コレットチャック 20:送りモータ
40:給気機構 41:給気ホース
50:集塵機構 51:集塵ホース
P:切削コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリル本体内に軸心に沿って形成した内部通路を切屑排出路としたドリルにおいて、ドリル本体の基端側に段差部を介して外径を大きくした大径筒体を同軸上に設け、ドリル本体の先端部に第1切れ刃とその後方に伸びる縁線の回転方向前方側に開口して前記切屑排出路に通じる第1屑導入ポケットを設け、前記段差部には第2切れ刃とその前後に延びる縁線の回転方向前方側に開口して前記切屑排出路に通じる第2屑導入ポケットを設けたことを特徴とするドリル。
【請求項2】
上記段差部が基端側に向かい順次に外径を大きくする傾斜面であり、第2切れ刃がその傾斜面に形成された皿孔加工用または面取り加工用であることを特徴とする請求項1記載のドリル。
【請求項3】
上記段差部がドリル本体の軸心に対して直交する直角面であり、第2切れ刃がその直角面に形成された座ぐり加工用であることを特徴とする請求項1記載のドリル。
【請求項4】
駆動源により回転する主軸を中空主軸とし、その中空主軸の先端にチャックを介して前記請求項1〜3のいずれか1項記載のドリルを取り付け、前記中空主軸内の通路後端に集塵機構を連結し、前記駆動源で中空主軸を介して前記ドリルを回転させながら被削材を穿孔し、前記ドリルの第1切れ刃の穿孔時に発生する切り屑が第1屑導入ポケットを通して切屑排出路へ吸入され、前記ドリルの第2切れ刃の穿孔時に発生する切り屑が第2屑導入ポケットを通して切屑排出路へ吸入され、それら切屑排出路へ吸入された切り屑が前記中空主軸内の通路を通して集塵機構へ吸引回収されるようにした穿孔装置。
【請求項5】
上記中空主軸が単筒構造からなり、その単筒主軸の先端にチャックを介して前記ドリルが取り付けられ、単筒主軸の後端に集塵機構が連結されていることを特徴とする請求項4記載の穿孔装置。
【請求項6】
上記駆動源がハウジング内に配設された中空モータであって、そのロータ内に前記中空主軸が回転可能に連結されることを特徴とする請求項4又は5記載の穿孔装置。
【請求項7】
上記駆動源がハウジング内に配設された中空モータと送りモータとの組み合せであり、その中空モータのロータ内に前記中空主軸が回転可能に連結され、送りモータにより前記中空主軸を進退動させて前記ドリルをピッチ送りするようにしたことを特徴とする請求項4又は5記載の穿孔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240149(P2012−240149A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111798(P2011−111798)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、経済産業省、戦略的基盤技術高度化支援事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(303003225)UHT株式会社 (9)
【出願人】(596157045)ビーティーティー株式会社 (3)
【Fターム(参考)】