説明

ドリル及び孔加工方法

【課題】作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行えるようにする。
【解決手段】ドリルは、当該ドリルの先端部に設けられ、被加工物Wに穿孔することが可能な切削刃2aを有する穿孔部2と、穿孔部2の基端側に配設され、穿孔部2によって形成された貫通孔50の内面に回転しながら押し付けられることによりその貫通孔50の内面を押しならして滑らかにすることが可能な押しならし部4と、押しならし部4の先端側に連続して設けられ、貫通孔50の下端部に回転しながら押し付けられることにより、その下端部を面取りすることが可能な第1面取り部6と、押しならし部4の基端側に連続して設けられ、貫通孔50の上端部に回転しながら押し付けられることにより、その上端部を面取りすることが可能な第2面取り部8とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル及び孔加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物に貫通孔を形成するためのドリルが知られており、下記の特許文献1には、そのようなドリルの一例が示されている。
【0003】
具体的には、この特許文献1に開示されたドリルでは、その先端部に被加工物に穿孔して貫通孔を形成するためのドリル刃が設けられているとともに、そのドリル刃の基端側に貫通孔の内面を切削してその貫通孔の内径を規定するための外径刃が連続して設けられている。さらに、外径刃の基端側には、貫通孔の端部の面取りを行うための面取り刃が設けられている。そして、特許文献1では、このドリルを軸回りに自転させながらそのドリル刃及び外径刃によって被加工物に貫通孔を形成した後、引き続いて、ドリルを軸回りに自転させながら公転させることにより、ドリルの進行方向側に位置する貫通孔の一端部を面取り刃で面取りするようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−288813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなドリルによって形成された貫通孔の内面は、そのドリルの外径刃によって切削されることにより微細な傷が多数形成された状態となっている。このため、その貫通孔の内面を滑らかに研磨する仕上げ加工を行う必要がある。しかしながら、この場合には、ドリルによって被加工物に貫通孔を形成し、その貫通孔の端部の面取り加工をした後、ドリルを研磨工具に取り替えて貫通孔の内面を研磨しなければならないため、ドリルを研磨工具に取り替える煩雑な作業を行うことになる。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明によるドリルは、延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成するためのドリルであって、当該ドリルの先端部に設けられ、前記被加工物に穿孔することが可能な切削刃を有する穿孔部と、前記穿孔部の基端側に配設され、前記穿孔部によって形成された貫通孔の内面に回転しながら押し付けられることによりその貫通孔の内面を押しならして滑らかにすることが可能な押しならし部と、前記押しならし部の先端側と基端側とのうち少なくとも一方に連続して設けられ、前記貫通孔の軸方向における対応する端部に回転しながら押し付けられることにより、その端部を面取りすることが可能な面取り部とを備えている。
【0008】
このドリルは、被加工物に穿孔することが可能な穿孔部と、その穿孔部によって被加工物に形成された貫通孔の内面を押しならして滑らかにすることが可能な押しならし部と、貫通孔の端部を面取りすることが可能な面取り部とを備えているため、同一のドリルによって、被加工物に貫通孔を形成した後、その貫通孔の内面を押しならし、さらに貫通孔の端部の面取りを行うことができる。すなわち、ドリルを研磨工具等に交換する煩雑な作業を行うことなく、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面の仕上げ加工からなる一連の工程を行うことができる。従って、このドリルでは、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【0009】
また、このドリルでは、面取り部が押しならし部の先端側と基端側とのうち少なくとも一方に連続して設けられているので、押しならし部を貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならすと同時に、面取り部を貫通孔の軸方向における対応する端部に押し付けてその端部を面取りすることも可能である。これにより、貫通孔の内面を押しならす仕上げ加工と、貫通孔の少なくとも一方の端部を面取りする面取り加工とを別々に行う場合に比べて加工工程を簡略化することもできる。
【0010】
上記ドリルにおいて、前記押しならし部は、前記貫通孔の内面に押し付けられる刃部を有し、その刃部は、前記押しならし部の軸方向に対して垂直な面において半径0.1mm以上の円弧を形成する先端面を有していてもよい。
【0011】
このように構成すれば、押しならし部の刃部の先端面に適度な丸みを持たせることができ、その刃部の先端面で貫通孔の内面を切削することなく良好に押しならすことができる。
【0012】
上記ドリルにおいて、前記押しならし部は、前記貫通孔の内面に押し付けられる刃部を有し、その刃部は、前記押しならし部の軸方向に対して垂直な面において前記貫通孔の内面に対して20°以下の角度で押し付け可能な先端面を有していてもよい。
【0013】
押しならし部の刃部の先端面が貫通孔の内面に対して急角度で起立している場合には、押しならし部が回転しながら貫通孔の内面に押し付けられた際にその押しならし部の刃部の先端面で貫通孔の内面が切削される虞がある。これに対して、本構成のように、押しならし部の刃部の先端面が、押しならし部の軸方向に対して垂直な面において貫通孔の内面に対して20°以下の角度で押し付けられる程度に寝ていれば、その刃部の先端面によって貫通孔の内面が切削されるのを防ぐことができ、貫通孔の内面を良好に押しならすことができる。
【0014】
上記ドリルにおいて、前記面取り部は、前記押しならし部の先端側と基端側の両方にそれぞれ連続して設けられ、前記押しならし部は、前記貫通孔に挿通された状態でその先端側の前記面取り部と基端側の前記面取り部とを前記貫通孔の対応する各端部に同時に接触させることが可能な軸方向の長さを有することが好ましい。
【0015】
このように構成すれば、押しならし部を貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす際に、押しならし部の先端側の面取り部と押しならし部の基端側の面取り部とを貫通孔の対応する各端部に押し付けてそれら両端部の面取りを同時に行うことができる。このため、貫通孔の軸方向における両端部をそれぞれ別々に面取りする必要がある場合に比べて、加工工程をより簡略化することができる。
【0016】
また、本発明による孔加工方法は、上記押しならし部の先端側と基端側の少なくとも一方に面取り部が連続して設けられたドリルを用いて延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成する孔加工方法であって、前記ドリルを自転させながら軸方向に移動させ、当該ドリルの前記穿孔部により被加工物に貫通孔を形成する穿孔工程と、前記穿孔工程の後、前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記押しならし部を前記貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす押しならし工程と、前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記面取り部を前記貫通孔の軸方向における対応する端部に押し付けてその端部の面取りを行う面取り工程とを備えている。
【0017】
この孔加工方法では、上記ドリルについて記載した作用と同様に、同一のドリルによって、被加工物に貫通孔を形成した後、その貫通孔の内面を押しならし、さらに貫通孔の端部の面取りを行うことができる。従って、この孔加工方法では、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【0018】
上記孔加工方法において、前記面取り工程は、前記押しならし工程と同時に行われることが好ましい。
【0019】
この構成では、ドリルの押しならし部を貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす押しならし工程と、ドリルの面取り部を貫通孔の軸方向における対応する端部に押し付けてその端部の面取りを行う面取り工程とを同時に行うので、貫通孔の内面を押しならす仕上げ加工と、貫通孔の少なくとも一方の端部を面取りする面取り加工とを別々に行う場合に比べて加工工程を簡略化することができる。
【0020】
また、本発明による孔加工方法は、上記押しならし部の先端側と基端側の両方に面取り部がそれぞれ連続して設けられたドリルを用いて延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成する孔加工方法であって、前記ドリルを自転させながら軸方向に移動させ、当該ドリルの前記穿孔部により被加工物に貫通孔を形成する穿孔工程と、前記穿孔工程の後、前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記押しならし部を前記貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす押しならし工程と、前記押しならし工程と同時行われ、前記押しならし部の先端側の前記面取り部と基端側の前記面取り部とを前記貫通孔の軸方向における対応する各端部に同時に押し付けてそれら各端部の面取りを同時に行う面取り工程とを備えている。
【0021】
この孔加工方法では、上記した孔加工方法と同様に、同一のドリルによって、被加工物に貫通孔を形成した後、その貫通孔の内面を押しならし、さらに貫通孔の端部の面取りを行うことができるので、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【0022】
また、この孔加工方法では、押しならし工程と同時に行う面取り工程において、押しならし部の先端側の面取り部と押しならし部の基端側の面取り部とを貫通孔の対応する各端部に押し付けてそれら両端部の面取りを同時に行うことができる。このため、貫通孔の軸方向における両端部をそれぞれ別々に面取りする必要がある場合に比べて、加工工程をより簡略化することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔の形成、貫通孔の端部の面取り加工及び貫通孔の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態によるドリルの正面図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるドリルのうち貫通孔の形成に用いられる部分を模式的に示した図である。
【図3】本発明の第1実施形態によるドリルの図2中のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるドリルの図2中のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】第1実施形態によるドリルの押しならし部の刃部が貫通孔の内面を押しならす際の状況を示した図である。
【図6】本発明の第1実施形態による孔加工方法におけるドリルの動きを示す図である。
【図7】本発明の第1実施形態による孔加工方法において穿孔工程後のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図8】本発明の第1実施形態による孔加工方法において押しならし工程及び面取り工程が開始される際のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図9】図7に示した押しならし工程及び面取り工程の開始時の状態からドリルが半周分公転した時点でのドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図10】図8に示した状態からさらにドリルが半周分公転して押しならし工程及び面取り工程が終了した時点でのドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図11】本発明の第1実施形態による孔加工方法において貫通孔の加工が終了し、ドリルを退避させる前のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図12】本発明の第2実施形態によるドリルのうち貫通孔の形成に用いられる部分を模式的に示した図である。
【図13】本発明の第2実施形態による孔加工方法におけるドリルの動きを示す図である。
【図14】本発明の第2実施形態による孔加工方法において穿孔工程後、貫通孔の上端部の面取り工程中のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図15】本発明の第2実施形態による孔加工方法において貫通孔の上端部の面取り工程後、押しならし工程及び貫通孔の下端部の面取り工程へ移行する途中でのドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図16】本発明の第2実施形態による孔加工方法において押しならし工程及び貫通孔の下端部の面取り工程が開始される際のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図17】図16に示した押しならし工程及び貫通孔の下端部の面取り工程の開始時の状態からドリルが半周分公転した時点でのドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図18】図17に示した状態からさらにドリルが半周分公転して押しならし工程及び貫通孔の下端部の面取り工程が終了した時点でのドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図19】本発明の第2実施形態による孔加工方法において貫通孔の加工が終了し、ドリルを退避させる前のドリルと被加工物との位置関係を示す断面図である。
【図20】本発明の第1実施形態の第1変形例によるドリルの押しならし部の刃部が貫通孔の内面を押しならす際の状況を示した図である。
【図21】本発明の第1実施形態の第2変形例によるドリルのうち貫通孔の形成に用いられる部分を模式的に示した図である。
【図22】本発明の第2実施形態の変形例によるドリルのうち貫通孔の形成に用いられる部分を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0026】
(第1実施形態)
まず、図1〜図5及び図7を参照して、本発明の第1実施形態によるドリルの構成について説明する。
【0027】
この第1実施形態によるドリルは、延性を有する金属材料からなる板材や管材等の被加工物Wに貫通孔50(図7参照)を形成するためのものである。このドリルは、図1に示すように、穿孔部2と、押しならし部4と、第1面取り部6と、第2面取り部8と、基部10とを備えており、これら穿孔部2、押しならし部4、第1面取り部6、第2面取り部8及び基部10は同軸に配置されている。
【0028】
穿孔部2は、ドリルを軸回りに自転させながら被加工物Wに押し付けて貫通孔50を形成する際に被加工物Wに穿孔することが可能な部分であり、ドリルの先端部に設けられている。この穿孔部2は、被加工物Wに穿孔することが可能な2つの切削刃2aを有する。この2つの切削刃2aは、ドリルの軸心に対して互いに対称形に形成されているとともに、そのドリルの軸心に沿って螺旋状に形成されている。そして、各切削刃2aの先端部は、図3に示すように鋭角となっており、被加工物Wへの穿孔時には、この切削刃2aによって貫通孔50の内面を切削するようになっている。
【0029】
押しならし部4は、穿孔部2によって形成された貫通孔50の内面に回転しながら押し付けられることによりその貫通孔50の内面を押しならして滑らかにすることが可能な部分である。この押しならし部4は、穿孔部2から基端側に離間して配設されており、当該押しならし部4の最外径は、穿孔部2の最外径よりも小さくなっている。
【0030】
そして、押しならし部4は、貫通孔50の内面に押し付けられてその内面を押しならす2つの刃部4aを有する。この2つの刃部4aは、ドリルの軸心に対して互いに対称形に形成されている。各刃部4aは、穿孔部2の切削刃2a、後述する第1面取り部6の面取り刃6a及び後述する第2面取り部8の面取り刃8aとともに一連の螺旋状に形成されている。各刃部4aは、図4に示すように、丸みを帯びた先端面4bを有しており、この各刃部4aの先端面4bが図5に示すように貫通孔50の内面に押し付けられてその内面を滑らかに押しならす。この刃部4aの先端面4bは、押しならし部4の軸方向(ドリルの軸方向)に対して垂直な面において半径0.1mm以上の円弧を形成する。
【0031】
なお、貫通孔50の内面の押しならし工程において、押しならし部4が1回転する毎の刃部4aの先端面4bによる貫通孔50の内面の押し込み量dは、約20μmとなっているものとする。この場合、刃部4aの先端面4bの前記円弧の半径は、押しならし部4の1回転毎の押し込み量dが当該刃部4aの先端面4bの円弧の半径の1/5以下となるような値となる。したがって、刃部4aの先端面4bで貫通孔50の内面を押しならす際に切り屑が発生しないようになる。
【0032】
また、押しならし部4は、貫通孔50に挿通された状態でその先端側に位置する後述の第1面取り部6とその基端側に位置する後述の第2面取り部8とを貫通孔50の対応する各端部に同時に接触させることが可能な軸方向の長さL(図2参照)を有する。具体的には、押しならし部4は、貫通孔50に挿通された状態で、第1面取り部6の先端側の端部(下端部)の位置が貫通孔50の下端部の位置に一致するとともに第2面取り部8の基端側の端部(上端部)の位置が貫通孔50の上端部の位置に一致するような軸方向の長さを有している。従って、押しならし部4の軸方向の長さLは、形成すべき貫通孔50の軸方向の長さ、すなわち被加工物Wの厚みに応じて決められている。
【0033】
第1面取り部6は、穿孔部2によって被加工物Wに貫通孔50が形成された後、その貫通孔50のうちドリルの進行方向側の端部に回転しながら押し付けられることにより、その端部の面取りをすることが可能な部分である。この第1面取り部6は、穿孔部2と押しならし部4との間に設けられている。すなわち、この第1面取り部6は、押しならし部4の先端側に連続して設けられている。この第1面取り部6の最外径は、穿孔部2側から押しならし部4側へ向かうにつれて徐々に小さくなっている。そして、第1面取り部6は、貫通孔50の端部に押し付けられてその端部の面取りを行う2つの面取り刃6a(図1参照)を有している。この2つの面取り刃6aは、ドリルの軸心に対して互いに対称形に形成されている。各面取り刃6aは、穿孔部2の切削刃2aと押しならし部4の刃部4aとの間でそれら切削刃2a及び刃部4aと連続して設けられている。
【0034】
第2面取り部8は、前記貫通孔50のうち第1面取り部6によって面取りされる端部と反対側の端部に回転しながら押し付けられることにより、その端部の面取りをすることが可能な部分である。この第2面取り部8は、押しならし部4の基端側に連続して設けられている。この第2面取り部8の最外径は、押しならし部4側からドリルの基端側へ向かうにつれて徐々に大きくなっている。そして、第2面取り部8は、貫通孔50の端部に押し付けられてその端部の面取りを行う2つの面取り刃8a(図1参照)を有している。この2つの面取り刃8aは、ドリルの軸心に対して互いに対称形に形成されている。各面取り刃8aは、押しならし部4の刃部4aと連続して設けられている。
【0035】
基部10は、第2面取り部8の基端側に連続して設けられている。この基部10は、穿孔部2の最外径と等しい最外径を有している。この基部10のうち基端部から先端部側へ所定の長さの範囲は、図略の加工装置のドリル保持部に保持されるシャンク10aとなっている。このシャンク10aが加工装置のドリル保持部に保持されてそのドリル保持部とともに回転されることにより、ドリルが軸回りに自転するようになっている。
【0036】
次に、この第1実施形態によるドリルを用いた孔加工方法について、図6〜図11を参照しながら説明する。
【0037】
この孔加工方法では、まず、図略の加工装置のドリル保持部に上記したドリルのシャンク10aを保持させる。この際、ドリルの穿孔部2が下向きになるようにドリルをドリル保持部にセットする。また、被加工物Wをそのドリルの下方に設置する。そして、加工装置による加工をスタートさせると、加工装置は、被加工物Wに貫通孔50を形成する穿孔工程を行う。具体的には、加工装置は、ドリルを軸回りに自転させながら、図6中の矢印S1で示すように当該ドリルの軸方向に沿って直線的に降下させ、被加工物Wに穿孔する。この際、ドリルの穿孔部2によって被加工物Wに貫通孔50が形成され、その貫通孔50の内面は、穿孔部2の切削刃2aによって切削される。この時点では、貫通孔50の内面は、切削刃2aによって切削されることにより、微小な傷が多数形成された状態となっている。そして、加工装置は、この穿孔工程において、第1面取り部6の下端部の位置が貫通孔50の下端部の位置に揃うとともに第2面取り部8の上端部の位置が貫通孔50の上端部の位置に揃う位置までドリルを降下させる。
【0038】
次に、加工装置は、貫通孔50の内面を押しならす押しならし工程と貫通孔50の軸方向の両端部(上端部及び下端部)を面取りする面取り工程とを行う。この際、加工装置は、ドリルを自転させながら図6中の矢印S2で示す方向に移動させた後、図6中の矢印S3で示すように1周分公転させる。すなわち、加工装置は、ドリルを自転させながら貫通孔50の径方向外側へ向かって移動させた後、貫通孔50の内面に沿って周回移動させる。これにより、図8に示すように、ドリルの押しならし部4が貫通孔50の内面に押し付けられるとともに、第1面取り部6と第2面取り部8が貫通孔50の対応する各端部にそれぞれ押し付けられた後、その状態で、押しならし部4及び両面取り部6,8は、図9及び図10に示すように貫通孔50の内面に沿って周回移動する。この周回移動に伴って、貫通孔50の内面は、自転する押しならし部4の刃部4aの先端面4bによって押しならされて滑らかになる。詳細には、被加工物Wは、延性を有する金属材料からなるので、貫通孔50の内面は、自転する押しならし部4の刃部4aの先端面4bが押し付けられることによって変形し、その結果、上記穿孔工程において多数の傷が形成された貫通孔50の内面が押しならされて滑らかな面となる。また、前記周回移動に伴って、貫通孔50の下端部は、第1面取り部6の面取り刃6aによって切削されて面取りされ、貫通孔50の上端部は、第2面取り部8の面取り刃8aによって切削されて面取りされる。
【0039】
すなわち、この第1実施形態の孔加工方法では、貫通孔50の内面の押しならし工程と、貫通孔50の下端部の面取り工程と、貫通孔50の上端部の面取り工程とが同時に行われる。
【0040】
そして、加工装置は、ドリルを一周公転させると、そのドリルを自転させた状態で図6中の矢印S4で示すように貫通孔50の径方向内側へ向かって移動させる。この際、加工装置は、ドリルを前記穿孔工程の時のドリルと同じ水平方向の位置(ドリルの軸心が貫通孔50の軸心に一致する位置:図11参照)まで移動させる。この後、加工装置は、図6中の矢印S5で示すように、ドリルをその軸方向に沿って上昇させて被加工物Wに対する孔加工を終了する。
【0041】
以上説明したように、この第1実施形態では、ドリルが、被加工物Wに穿孔することが可能な穿孔部2と、その穿孔部2によって被加工物Wに形成された貫通孔50の内面を押しならして滑らかにすることが可能な押しならし部4と、貫通孔50の各端部を面取りすることが可能な第1面取り部6及び第2面取り部8とを備えている。このため、同一のドリルによって、穿孔工程において被加工物Wに貫通孔50を形成した後、押しならし工程においてその貫通孔50の内面を押しならし、さらに面取り工程において貫通孔50の各端部の面取りを行うことができる。すなわち、ドリルを研磨工具等に交換する煩雑な作業を行うことなく、貫通孔50の形成、貫通孔50の端部の面取り加工及び貫通孔50の内面の仕上げ加工からなる一連の工程を行うことができる。従って、この第1実施形態では、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔50の形成、貫通孔50の端部の面取り加工及び貫通孔50の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【0042】
また、この第1実施形態では、第1面取り部6が押しならし部4の先端側に連続して設けられているとともに、第2面取り部8が押しならし部4の基端側に連続して設けられているため、押しならし部4を貫通孔50の内面に押し付けてその貫通孔50の内面を押しならすと同時に、第1面取り部6及び第2面取り部8を貫通孔50の対応する各端部に押し付けてその各端部を面取りすることが可能である。すなわち、押しならし工程と面取り工程とを同時に行うことができるので、貫通孔50の内面を押しならす仕上げ加工と、貫通孔50の端部を面取りする面取り加工とを別々に行う場合に比べて加工工程を簡略化することができる。
【0043】
また、この第1実施形態では、ドリルの押しならし部4の刃部4aは、当該押しならし部4の軸方向に対して垂直な面において半径0.1mm以上の円弧を形成する先端面4bを有するので、当該刃部4aの先端面4bに適度な丸みを持たせることができる。その結果、その刃部4aの先端面4bで貫通孔50の内面を切削することなく良好に押しならすことができる。
【0044】
また、この第1実施形態では、ドリルの押しならし部4が、貫通孔50に挿通された状態で第1面取り部6と第2面取り部8とを貫通孔50の対応する各端部に同時に接触させることが可能な軸方向の長さを有するため、第1面取り部6と第2面取り部8とを貫通孔50の対応する各端部に同時に押し付けてそれら両端部の面取りを同時に行うことができる。このため、貫通孔50の軸方向における両端部をそれぞれ別々に面取りする必要がある場合に比べて、加工工程をより簡略化することができる。
【0045】
(第2実施形態)
次に、図12を参照して、本発明の第2実施形態によるドリルの構成について説明する。
【0046】
この第2実施形態によるドリルは、上記第1実施形態と異なり、基部10の最外径が穿孔部2の最外径よりも大きくなっている。そして、第2面取り部8の外径は、押しならし部4から基部10側へ向かうにつれて徐々に大きくなり、穿孔部2の最外径を超えて基部10の最外径に一致するまで大きくなっている。また、この第2実施形態では、押しならし部4の軸方向の長さLは、上記第1実施形態の押しならし部4の軸方向の長さLよりも大きくなっている。すなわち、この第2実施形態では、押しならし部4の軸方向の長さLは、後述するように第1面取り部6を貫通孔50の下端部に接触させてその下端部の面取りを行う際に、第2面取り部8が貫通孔50の上端部に接触しないような長さに設定されている。
【0047】
この第2実施形態によるドリルの上記以外の構成は、上記第1実施形態によるドリルの構成と同様である。
【0048】
次に、この第2実施形態によるドリルを用いた孔加工方法について、図13〜図19を参照しながら説明する。
【0049】
この第2実施形態による孔加工方法では、図略の加工装置は、上記第1実施形態と同様、まず被加工物Wに貫通孔50を形成する穿孔工程を行う。この際、加工装置は、ドリルを軸回りに自転させながら図13中の矢印S1で示すように当該ドリルの軸方向に沿って直線的に降下させる。これにより、ドリルの穿孔部2によって被加工物Wに貫通孔50が形成される。そして、この第2実施形態では、加工装置は、図14に示すように第2面取り部8が貫通孔50の上端部に押し付けられるまでドリルを降下させる。この第2実施形態では、第2面取り部8の外径が穿孔部2の最外径を超えて大きくなっているため、このようにドリルをその軸方向に沿って降下させるだけで、第2面取り部8が貫通孔50の上端部に押し付けられ、それによって貫通孔50の上端部の面取りが行われる。すなわち、この第2実施形態では、穿孔工程から連続してドリルを降下させることによって貫通孔50の上端部の面取り工程が行われる。
【0050】
次に、加工装置は、ドリルを自転させながら当該ドリルを図13中の矢印S2で示すようにわずかに上昇させる。この際、加工装置は、図15に示すように第1面取り部6の下端部の位置が貫通孔50の下端部の位置に揃う位置までドリルを上昇させる。このようにドリルを上昇させた位置では、第2面取り部6は、貫通孔50の上端部よりも上側に位置する。
【0051】
この後、加工装置は、上記第1実施形態と同様のプロセスで貫通孔50の内面を押しならす押しならし工程と、貫通孔50の下端部を面取りする面取り工程とを行う。すなわち、加工装置は、ドリルを自転させながら当該ドリルを図13中の矢印S3で示すように貫通孔50の径方向外側へ向かって移動させて押しならし部4を貫通孔50の内面に押し付けるとともに第1面取り部6を貫通孔50の下端部に押し付ける(図16参照)。その後、加工装置は、ドリルを自転させながら図13中の矢印S4で示すように1周分公転させる。これにより、図16〜図18に示すように、押しならし部4及び第1面取り部6は、貫通孔50の内面に沿って周回移動し、それに伴って、貫通孔50の内面を滑らかに押しならすとともに、貫通孔50の下端部を面取りする。この後、加工装置は、図13中の矢印S5で示すようにドリルを前記穿孔工程の時と同じ水平方向の位置まで移動させ(図19参照)、その後、図13中の矢印図16で示すようにドリルを上昇させて孔加工を終了する。
【0052】
以上説明したように、この第2実施形態でも、ドリルが、穿孔部2と、押しならし部4と、第1面取り部6及び第2面取り部8とを備えている。このため、同一のドリルによって、貫通孔50の形成、貫通孔50の端部の面取り加工及び貫通孔50の内面の仕上げ加工からなる一連の工程を行うことができる。従って、この第2実施形態でも、上記第1実施形態と同様、作業工程が煩雑になるのを防ぎつつ、貫通孔50の形成、貫通孔50の端部の面取り加工及び貫通孔50の内面を滑らかに仕上げる仕上げ加工を行うことができる。
【0053】
また、この第2実施形態では、第1面取り部6が押しならし部4の先端側に連続して設けられているため、押しならし部4を貫通孔50の内面に押し付けてその貫通孔50の内面を押しならすと同時に、第1面取り部6を貫通孔50の下端部に押し付けてその下端部を面取りすることが可能である。すなわち、押しならし工程と貫通孔50の下端部の面取り工程とを同時に行うことができるので、貫通孔50の内面を押しならす仕上げ加工と、貫通孔50の下端部を面取りする面取り加工とを別々に行う場合に比べて加工工程を簡略化することができる。
【0054】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0055】
例えば、前記押しならし部4の刃部4aは、押しならし部4の軸方向に対して垂直な面において貫通孔50の内面に対して20°以下の角度で押し付け可能な先端面4bを有していてもよい。このような上記第1実施形態の第1変形例の構成は、図20に示されている。具体的には、この第1変形例では、押しならし部4の刃部4aの先端面4bは、平面に形成されており、この先端面4bと当該先端面4bが押し付けられる貫通孔50の内面との間の角度αが20°以下となるように構成されている。換言すると、この押しならし部4の刃部4aの先端面4bは、ドリルの自転に伴って刃部4aの先端が描く円状の軌跡の接線方向に対して内側に20°以下の角度をなすように形成されている。
【0056】
なお、この第1変形例では、貫通孔50の内面の押しならし工程において、押しならし部4が1回転する毎の刃部4aの先端面4bによる貫通孔50の内面の押し込み量dは、約10μm〜約20μmとなっている。
【0057】
ところで、押しならし部の刃部の先端面が貫通孔50の内面に対して急角度で起立している場合には、押しならし工程において押しならし部が回転しながら貫通孔50の内面に押し付けられた際にその押しならし部の刃部の先端面で貫通孔50の内面が切削される虞がある。これに対して、この第1変形例のように、押しならし部4の刃部4aの先端面4bが、押しならし部4の軸方向に対して垂直な面において貫通孔50の内面に対して20°以下の角度で押し付けられる程度に寝ていれば、その刃部4aの先端面4bによって貫通孔50の内面が切削されるのを防ぐことができ、貫通孔50の内面を良好に押しならすことができる。
【0058】
また、図21に示す上記第1実施形態の第2変形例のように、ドリルのうち第2面取り部8を省略してもよい。
【0059】
また、図22に示す上記第2実施形態の変形例のように、ドリルのうち第1面取り部6を省略してもよい。
【0060】
また、上記第1実施形態において、押しならし部4の軸方向の長さLを貫通孔50の軸方向の長さ以上の長さにして、押しならし部4による貫通孔50の内面の押しならし工程と、第1面取り部6による貫通孔50の下端部の面取り工程と、第2面取り部8による貫通孔50の上端部の面取り工程とをそれぞれ別々に行ってもよい。
【0061】
また、上記第2実施形態において、貫通孔50の内面の押しならし工程と貫通孔50の下端部の面取り工程とを同時に行ったが、この押しならし工程と貫通孔50の下端部の面取り工程とを別々に行ってもよい。すなわち、第1面取り部6による貫通孔50の下端部の面取り工程を行った後、押しならし部4による貫通孔50の内面の押しならし工程を行ってもよいし、逆に、押しならし部4による貫通孔50の内面の押しならし工程を行った後、第1面取り部6による貫通孔50の下端部の面取り工程を行ってもよい。
【符号の説明】
【0062】
2 穿孔部
2a 切削刃
4 押しならし部
4a 刃部
4b 先端面
6 第1面取り部
8 第2面取り部
50 貫通孔
W 被加工物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成するためのドリルであって、
当該ドリルの先端部に設けられ、前記被加工物に穿孔することが可能な切削刃を有する穿孔部と、
前記穿孔部の基端側に配設され、前記穿孔部によって形成された貫通孔の内面に回転しながら押し付けられることによりその貫通孔の内面を押しならして滑らかにすることが可能な押しならし部と、
前記押しならし部の先端側と基端側とのうち少なくとも一方に連続して設けられ、前記貫通孔の軸方向における対応する端部に回転しながら押し付けられることにより、その端部を面取りすることが可能な面取り部とを備えた、ドリル。
【請求項2】
前記押しならし部は、前記貫通孔の内面に押し付けられる刃部を有し、
その刃部は、前記押しならし部の軸方向に対して垂直な面において半径0.1mm以上の円弧を形成する先端面を有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記押しならし部は、前記貫通孔の内面に押し付けられる刃部を有し、
その刃部は、前記押しならし部の軸方向に対して垂直な面において前記貫通孔の内面に対して20°以下の角度で押し付け可能な先端面を有する、請求項1に記載のドリル。
【請求項4】
前記面取り部は、前記押しならし部の先端側と基端側の両方にそれぞれ連続して設けられ、
前記押しならし部は、前記貫通孔に挿通された状態でその先端側の前記面取り部と基端側の前記面取り部とを前記貫通孔の対応する各端部に同時に接触させることが可能な軸方向の長さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のドリル。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のドリルを用いて延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成する孔加工方法であって、
前記ドリルを自転させながら軸方向に移動させ、当該ドリルの前記穿孔部により被加工物に貫通孔を形成する穿孔工程と、
前記穿孔工程の後、前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記押しならし部を前記貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす押しならし工程と、
前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記面取り部を前記貫通孔の軸方向における対応する端部に押し付けてその端部の面取りを行う面取り工程とを備えた、孔加工方法。
【請求項6】
前記面取り工程は、前記押しならし工程と同時に行われる、請求項5に記載の孔加工方法。
【請求項7】
請求項4に記載のドリルを用いて延性を有する金属材料からなる被加工物に貫通孔を形成する孔加工方法であって、
前記ドリルを自転させながら軸方向に移動させ、当該ドリルの前記穿孔部により被加工物に貫通孔を形成する穿孔工程と、
前記穿孔工程の後、前記ドリルを自転させつつ公転させることにより、前記押しならし部を前記貫通孔の内面に押し付けてその貫通孔の内面を押しならす押しならし工程と、
前記押しならし工程と同時行われ、前記押しならし部の先端側の前記面取り部と基端側の前記面取り部とを前記貫通孔の軸方向における対応する各端部に同時に押し付けてそれら各端部の面取りを同時に行う面取り工程とを備えた、孔加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−247265(P2010−247265A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98868(P2009−98868)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】