説明

ドレープ付き開瞼器

【課題】一つのサイズの器具により、多くの個体の眼瞼や顔面にフィットさせての開瞼を可能とし、また、手術を容易とすると共に、眼球への負担が少ない安全性に優れたドレープ付き開瞼器を提供すること。
【解決手段】眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リング1と、結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される扁平なリング状プレートよりなる下リング2と、端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々拡張等して取り付けられ、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する、柔軟な筒型薄膜よりなる弾性シート3と、弾性シートに接続し、術中に手術部となるシート内側と外部を連通するチューブ4とにより構成し、前記弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、眼科における内眼手術のさいに、感染予防の観点から睫毛等を術野に出さないため、及び、手術中の視野を確保しておくため、眼瞼を開いた状態で保持する開瞼器に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科における眼球への手術や治療のさいには、瞼を上下に強制的に開いた状態に置き、術野を確保する必要があり、そのための器具として開瞼器が用いられる。従来の開瞼器としては、金具などのフック部分を上眼瞼及び下眼瞼に引っ掛けて、上下に引張り、瞼を大きく開いた状態に維持するもの等が一般的であるが、開瞼器の一部を結膜嚢内に挿入して用いるものとして、全体として扁平な筒体であって、眼球にアクセス可能な開口部を有し、該開口の周囲に形成されるウエスト部と、前記ウエスト部から垂れ下がるフレアスカート部を備え、該フレアスカート部は、結膜嚢内に挿入して眼球の一部に接して覆うように構成された柔軟性のある成形枠体として形成され、前記ウエスト部により開瞼状態を維持する器具が提案されている。(特許文献1)
【特許文献1】特表2005−512662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記文献1の開瞼器は、眼瞼にフックを引っ掛けるなどする開瞼器に比較して、眼球や周囲組織への負担が少なく、また、手術中感染防止のため、睫毛やマイボーム腺を術野に出さないように覆うドレープが不要となるなど、装着が容易であるといった利点があげられているが、結膜嚢や瞼裂の大きさは年齢や個体差により様々であることから、このように成形枠体として特定の大きさに形成されたものでは、一様に、幅広く多くの個体に適合させることは不可能で、特に、結膜嚢の浅い人や瞼裂の狭い人に対しては、無理な装着となる可能性を払拭できない。また、これを解消するためには、常に複数のサイズの器具を用意しておく必要があり、必ずしも使い勝手の良いものではない。
更に、前記の器具では、結膜嚢内に挿入するフレアスカート部が厚く、大きな面積となるため、手術中、安定した装着が可能となる反面、眼球との接触面積が大きくなり、該眼球への負担が大きく悪影響を与えてしまう懸念がある。
【0004】
また、内眼手術では、手術中に、眼球の乾燥防止や血液の洗浄のために注入され、手術部(眼球表面上)に溜まってしまう水や分泌物を、術野をクリアに保つため頻繁に排除する必要があり、従来は、助手が吸引チューブを保持し、該チューブ先端を手術部に差し入れて、外部に吸引排除する作業を行なっているが、該作業は手術部を塞ぐことになり、時として手術の進行を妨げる場合があり、また、作業のための人手が必要になるといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、結膜嚢内に一部を挿入して用いる開瞼器において、一つのサイズの器具であっても、幅広く、個体の結膜嚢や瞼裂の大きさの違いを吸収して、眼瞼や眼球、及び顔面にフィットさせての開瞼保持を可能とするドレープ付き開瞼器を提供することを課題とした。
また、眼瞼や眼球への負担が少ない安全性の高いドレープ付き開瞼器を提供することを課題とした。
更に、手術中の手術部に溜まる水や分泌物の排除作業を容易で効率の良いものとするドレープ付き開瞼器を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドレープ付き開瞼器は、眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される扁平なリング状プレートよりなる下リングと、端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々拡張等して取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する、柔軟な筒型薄膜の弾性シートと、該弾性シートに接続し、術中に手術部となるシート内側と外部を連通するチューブを備えて構成し、前記弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成して構成した。
【0007】
また、各部は次の構成とすることが好ましい。
・上リングは、可撓性を有する扁平なリング状プレートより形成する。
・上リング及び下リングは、円形または楕円形、あるいは、楕円類似形状に形成する。
尚、楕円類似形状とは、楕円の定義からは外れているが、全体としての概観が楕円に類似して見える形状を示し、例えば、弾性体円形リングを2方向から押しつぶす、あるいは引っ張って形成される形状を示している。
・下リングの最大直径部は、上リングの最大直径部の25%以上、40%以下の長さに形成する。
・弾性シートは、透明あるいは半透明なシートより形成する。
・弾性シートは、引張り伸び率600%以上の樹脂より形成する。
・弾性シートに接続するチューブは、該弾性シートに設けるアタッチメントを介してシートに接続する。
・チューブに逆止弁を備えて構成する。
【0008】
(作用)
前記手段のドレープ付き開瞼器によると、前記弾性シートの最小部(上リングと、下リングの間の括れ部分)の外径が、瞼裂とほぼ同等か、それよりも大きな径に形成されており、また、該弾性シートが上リングと下リングに拡張等により取付けて固定された構造であることにより、該開瞼器の下リングを結膜嚢内部に挿入し、眼瞼に装着すると、前記上下のリング及び弾性シートの張力によって、瞼裂が外側方向に引っ張られるため、上眼瞼と下眼瞼の閉じようとする力に抗して、開瞼状態を保持することができる。また、前記弾性シートの最小部は、前記上眼瞼と下眼瞼の閉じようとする力により僅かに押し縮められるため、顔面側に位置する上リングと瞼結膜側に位置する下リングの間隔が狭まり、弾性シートによる眼瞼内外への密着度が増し、該眼瞼の一層確実な挟持ができ、また、該弾性シートによる皮膚側から瞼結膜側までの密着度も増すことで確実な装着状態が自然に形成される。
また、上リングは、可撓性を有していることにより、前記のように上下の眼瞼により弾性シートが押し縮められると、該弾性シートにリングが引っ張られることで撓み、自然に顔面形状に適合して密着するため、顔面に一層フィットした装着状態となる。
【0009】
更に、下リングを扁平なリング状プレートとすることにより、結膜嚢内というデリケートで狭い隙間へ、該下リングを挿着するさい無理なく安全に挿入することができ、また、眼球表面との密着性を高くすることができる。
また、弾性シートに接続して、術中に手術部となるシート内側と外部を連通するチューブを設けると、手術中、手術部に溜まってしまう水や分泌物を、該チューブを通して外部に排除することができるため、助手による、別途吸引チューブを手術部に挿入しての排水作業の必要がなく、この作業により術野を塞ぐこともない。更に、チューブの外部側端部を自動吸引装置に接続しておくと、この排除作業が自動化されるため、該作業に人手をかける必要がない。
また、このチューブを利用すれば、例えば、アルカリ化学外傷に対する、大量の生理食塩水を用いた持続洗眼などのさいには、該チューブから水を逆流させて、結膜嚢の深い位置を洗眼するなどの手技を容易にすることができる。
【0010】
また、上リングを、可撓性を有する扁平なリング状プレートとすると、凹凸のある顔面に対して密着しやすいためドレープとしての効果を高めることができる。
また、上リングを楕円、あるいは楕円類似形状とすることにより、上リングの顔面横方向への大きさを確保しても、突起部となる鼻に器具が掛かるなどにより装着を不安定にすることなく、顔面に適合させての装着ができる。一方、下リングを楕円、あるいは楕円類似形状とすることにより、眼球への縦方向の長さを変えることなく、横方向のより広い領域の視野を展開することが可能となる。
また、下リングの最大直径部を、上リングの最大直径部の25%以上、40%以下の長さに形成すると、下リングを眼球内に挿入するのに適正な大きさとしたときに、上リングが顔面の適正な範囲を覆うことのできる大きさとなり、本発明の用途に最も適合する器具とすることができる。例えば、これを逆に、下リングの直径を上リングの25%未満とすると、下リングを眼球内に挿入したさいに、上リングが大きすぎ、顔面より大きくはみ出す可能性が高くなり、一方、40%より大きくした場合は、下リングの眼球内挿入時に、上リングが十分に顔面を覆うことができない可能性が高くなってしまう。
更に、弾性シートが透明あるいは半透明であるため、術中、眼瞼や眼球の状態を確認しながらの処置が可能で、充血や乾燥などの異常状態を容易に把握して、直に対応することができる。
加えて、弾性シートの引張り伸び率を600%以上とすると、製造段階で拡張してのリングへの取り付けが容易となり、また、装着後の前記弾性に起因する作用を無理なく達成することができ、適正な開瞼状態を獲得することができる。例えば、これを逆に、伸び率が600%未満のものとすると、拡張しての製造が困難であることに加え、結膜嚢内へ装着したさいの張力が大きくなることで、必要以上の開孔状態となって眼瞼に負担をかけてしまう懸念があり、また、弾性シートの柔軟性も損なわれるため装着時にシワが発生してしまい術野が確保し難くなることが懸念される。
また、弾性シートに接続するチューブを、該弾性シートに設けたアタッチメントを介してシートに接続すると、弾性シートとチューブを直接接続する場合の製造手段となる接着に比較して、製造を容易にすることができる。
更に、該チューブに、弾性シート内側から外部方向にのみ流通を許容する逆止弁を備えると、手術部(眼球)への万一の不潔液逆流による不都合を、未然に防止することができる。
【0011】
また、本開瞼器では、顔面(皮膚)側から瞼結膜側までを覆う弾性シート部分がドレープとしての役割も担っており、睫毛の露出や、マイボーム腺分泌物等により引き起こされる感染を、別途ドレープを用いることなく防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のドレープ付き開瞼器によると、前記構成及び作用により、確実な開瞼状態の保持と、眼瞼への装着が可能となることに加え、下リングを除き全体がフレキシブルであるため、本器具を眼瞼に装着すると、装着された人に適合して無理のない形状が自然に形作られることで、一つのサイズの器具により、幅広く個体差を吸収した、眼瞼及び顔面にフィットさせての保持が可能な器具とすることができる。
また、結膜嚢内に挿入され瞼結膜側に接触する下リングの面積を小さくしても、前記作用のように眼瞼をしっかり挟持して、確実な装着を可能とすることができるため、該下リングを従来のものと比較して小さくすることができ、結果、眼球への接触面積が小さくなり、該眼球に対する負担を小さくすることができる。
更に、弾性シートが透明、あるいは半透明であるため眼瞼の状態を確認しながらの手術が可能であり、また、弾性シートにより、睫毛やマイボーム腺が覆われ、術野に出ないため、感染予防が図られるなど安全性の高い器具とすることができる。
加えて、手術部に溜まってしまう水や分泌物を排除するチューブを備えることで、クリアな術野を確保するための排水作業が、人手(助手)を必要としないなど前記作用のように著しく容易となり、また、作業のために手術部を塞ぐことがないため、手術の進行を妨げることなく、効率の良いものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参考にしながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施の形態を示すドレープ付き開瞼器の全体構成図(Aが正面図、Bが底面図)で、図2はその一部断面図を示している。
本実施の形態のドレープ付き開瞼器は、眼瞼に装着したさいに、顔面側に位置する上リング1と、結膜嚢内に挿入される(瞼結膜側に位置する)下リング2と、両端部を前記上リング1と下リング2に取り付けた顔面側から結膜嚢に位置する、ドレープの役割も兼ねる弾性シート3と、該弾性シート3に一方端部を接続し、手術部となる弾性シート内側と外部とを連通するチューブ4により構成される。
【0014】
上リング1は、下リング2を結膜嚢内に挿入するさいの操作性(後記)、あるいは、眼瞼に装着したさいに顔面形状にフィットして変形可能なように、可撓性を有する樹脂等(本例においては、ポリアセタール樹脂)により、薄く扁平な(0.6mm〜1.2mm程度、実施例では、1.0mm)楕円形状あるいは楕円類似形状(以下、楕円形状)のリング状プレートとして形成した上プレート11に、後記する弾性シート3の一方端部を拡張して、前記上プレート11全周囲を被覆し、接着して取付け形成されるもので、そのリングのサイズは特定するものではないが、一般的な大人への使用を考慮し、また、本用途に適合してドレープ機能を満足させ、顔面にフィットして使用しやすい大きさとして、楕円の長径50mm〜80mm程度(本例では、68mm)、短径45mm〜75mm程度(本例では、62mm)として形成した。また、上プレート11の幅を1mm〜3mm程度(本例では、2.1mm)とした。
【0015】
下リング2は、瞼結膜側(結膜嚢)に挿入したさいの装着安定性を考慮して、比較的硬質な樹脂(本例においては、ポリアセタール樹脂)等により、薄く扁平な(0.5mm〜1.0mm程度、実施例では、0.8mm)楕円形状のリング状プレートとして形成した下プレート21に、前記上リング1と同様に弾性シート3の端部を僅かに拡張して被覆し、接着により取付けて形成されるもので、そのリングのサイズは特定するものではないが、一般的な大人への使用を考慮したとき、結膜嚢内への無理のない挿入と、手術に十分な視野の展開が可能で、かつ、装着したさい安定して保持可能な大きさとして、楕円の長径18mm〜28mmm(本例では、24mm)、短径15mm〜26mm(本例では、22mm)として形成した。また、下プレート21の幅を0.8mm〜1.5mm程度(本例では、1.2mm)とした。
【0016】
弾性シート3は、柔軟で十分な引張り伸び率(600%以上、実施例においては、800%)を備えた、厚さ0.18mm以上、0.38mm以下程度(本例では、0.25mm)の薄膜状で半透明のシリコーン樹脂からなる円筒体のシートとして形成し、前記の通り、一方端部は上プレート11と、他方端部は下プレート21と、それぞれの端部を拡張して接着して取り付けて構成した。
尚、上下のプレートに取付ける前の弾性シート3の形状は、特定するものではないが、本例においては、製造時に該プレートへの取り付けを容易とするため、上プレート11に取付ける側の径は大きく、下プレート21に取付ける側の径は小さく形成された円筒状シートを用いている。即ち、下プレート21に取り付ける側となる、下部の半分程度は径が小さく一定の円筒状に形成され、上プレート11に取付ける側となる、上部の半分程度は、前記下側の円筒の径から、放射状に径を拡大して成形されたシートを使用した。
また、前記下半分の円筒の内径は、瞼を開いた状態に維持するといった目的から当然、上眼瞼と下眼瞼の間の瞼裂と同等か、あるいは、大きく形成されるが、本例においては適正な大きさとして20mmとした。そして、この大きさはそのまま開瞼器の開口部6の大きさとなっている。
尚、本例では、上リング1、下リング2を楕円形状に形成しているため、該開口部6は、眼瞼に装着されていない自然状態にあっても、該リングに連係する形で楕円形状となっている。また、協働して瞼を内外から挟持する上リング1と下リング2との間(上リングと下リングの隙間の長さ)の弾性シート3の長さを、装着したさいに確実に、かつ無理なく安全に保持できる長さとして、装着前の自然状態で、2mm以上、6mm以下程度(本例においては、4mm)に設定し構成した。
【0017】
チューブ4は、眼球との接触の可能性を考慮して、吸引等機能に支障の無い範囲で極力細径(本例においては、外径3mm、内径1mm)で、柔軟な樹脂(本例においては、シリコーン樹脂)により形成され、一方端部を前記弾性シート3の上リング1と下リング2の間の筒状部分上方側に設ける貫通孔31に、該弾性シート3の外周面側より、該チューブ4の内腔が連通するように接着により接続し、他方端部は外部に取り出され、手術部となる該弾性シート3内側から外部方向(図の矢印方向)のみに流通を許容する汎用の逆止弁42、及び、汎用のテーパー部などの吸引機器(自動吸引機など)との接続部とを備えたチューブ基41に接続して構成され、手術部となる弾性シート内側6、チューブ4、チューブ基41が水や分泌物等の吸引通路として連通される。
尚、チューブ4の弾性シート3への取り付け位置(弾性シートの貫通孔31の位置)は、前記の通り上リング1と下リング2の間の筒状部分となるが、下リングを結膜嚢内に装着したさい通孔が確実に確保されるように、眼球に接触してしまう可能性がある筒状部分下方部ではなく上方部に設けることが望ましい。また、該チューブ4の取り付け位置(貫通孔31の位置)は、臨床での使用において、顔の角度や、器具の装着状態を僅かに変えることで、排水作業に適切な液面位置に設定することができるため、製造段階では、それ程正確な位置に設定する必要はない。
また、本器具を眼瞼に装着するさいは、操作性や装着性を考慮して、チューブ4が目尻側から外部に取り出されるように装着するため、例えば上下のリングが楕円形状の場合は、チューブ4は、楕円の長径側に取付けられる。
また、本例においては、逆止弁42をチューブ基41と一体化したものを用いたが、逆止弁42は、別部品として、チューブ4の中途部分などに設けても良く、該チューブを注入管としても利用することが想定される場合には使用されない。
【0018】
尚、当然、前述したサイズなどの記述は、特定されるのではなく目的により最適となるものが選択されれば良い。また、弾性シート3を形成する円筒体のシートは、拡張することにより薄くなり透明性が高まることから、拡張したさいに透明性が確保可能であれば、自然状態(拡張前の状態)では、透明、あるいは半透明である必要はない。
【0019】
図3は、前記実施の形態の変形例を示すドレープ付き開瞼器の底面図で、上リング1、あるいは、下リング2の形状が楕円形状でないものの例を示しており、図Aが円形、図Bが楕円類似形状の一例として、トラック状の形状を示すものである。
【0020】
図4は、本発明の第二の実施形態を示すドレープ付き開瞼器の全体構成図(Aが正面図、Bが底面図)を示している。
本例のドレープ付き開瞼器は、器具を眼瞼に装着したさい、装着部位の顔面形状に一層フィットしやすいように、上リング1の形状を、予め円形あるいは楕円でなく、変形された液滴形状とし、また、装着したさいに、顔面の曲線に沿うように鼻側から耳側に低く下がるように傾斜させて形成したものを示している。
予め、このような形状に形成された上リング1を用いると、器具を眼瞼に装着したさいに、より確実な顔面との密着状態が得られると共に、手術中の洗眼のさい、洗眼水の逃げ道になり、手術部位に洗眼した水が溜まりにくい形状となっている。
上記されるように、上リング1の形状は本例(円形、楕円等を含む)に限定するものではなく、顔面装着部を考慮して適切となる、どの様な形状も採ることができる。
【0021】
図5は、第一の実施の形態の器具の弾性シート3とチューブ4との接続にアタッチメント5を使用した場合の実施の形態を示しており、BはAの主要部分の拡大図を示す。尚、弾性シート3とチューブ4との接続部以外は、第一の実施の形態と同様であるため説明しない。
本例のアタッチメント5は、樹脂あるいは金属よりなり、チューブとの接続部となる、該チューブの内径と同じかあるいは僅かに大きな外径に形成される凸部51と、該チューブ4と協働して弾性シート3を挟持して保持する、弾性シート3の貫通孔31より大きく形成される留部51より構成され、弾性シート3に、該アタッチメントの凸部51とほぼ同じ径で設けた貫通孔31に、シート内側より該凸部51を挿入し、該凸部51にシート外側よりチューブ4を接続することにより、前記留部52とチューブ4により弾性シート3を挟持して、該弾性シート3とチューブ4を固定している。
【0022】
次に、本例のドレープ付き開瞼器を眼瞼に装着しての使用状態に付いて、作用等を再度まとめて説明する。
本器具を眼瞼に装着するさいは、瞼裂を大きく開き、上リング1を半分に折り曲げるように大きく撓ませると共に、下リング2の一部を手指で掴み、該下リング2を掴んだ側と反対側から結膜嚢内(瞼結膜側)に挿入する。尚、この挿入のさい、チューブ4が目尻側に位置するように配置する。
挿入すると、該下リング2は眼球及び瞼結膜側に接触して位置し、上リング1は眼瞼を囲繞して顔面に接触して位置することになり、弾性シート3は、皮膚側から瞼結膜側に接触して位置することになる。そして、この状態で、弾性シート3により、上眼瞼及び下眼瞼は外方方向に開かれ、開瞼状態が維持され、前記弾性シート3の開口を手術のための開口部6として用い手術が行われることになる。
そして、このように装着されると、前述の通り、弾性シート3が上リング1と下リング2に拡張して取り付けられていることにより、該弾性シート3が上下瞼の閉じようとする力に抗して、瞼裂を開いた状態に維持すると同時に、同じ上下瞼の閉じようとする力により、該弾性シート3が僅かに押しつぶされ、該シートに連結している上リング1及び下リング2が近接する方向に引っ張られることにより、リング間の距離が小さくなり、結果、上リング1と下リング2とにより眼瞼を挟持する力が強くなり、装着状態が安定したものとなり、また、上リング1が可撓性を有しているため、この引っ張りの作用により、撓む等の変形が自然におこることで、顔面との密着状態を高め、顔面形状(例えば、鼻側が高く、耳側に低く傾斜する形状)に適合した装着状態を獲得することができる。
また、目尻側から外部に取り出されたチューブ先端を、自動吸引機に接続すると、手術中に手術部に溜まってしまう水や分泌物を排除する作業を自動化することができる。
尚、以上全ての実施の形態を含め本発明の開瞼器は、ディスポーザブル(一回使い捨て)の器具を想定しており、従来の開瞼器で一般的な滅菌して複数回使用するものに比較して、清潔であり、使用勝手に優れ、使用のための面倒もない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
また、本発明は人間への手術に限定することなく、動物の手術に対しても適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す全体構成図。(正面図、底面図)
【図2】前記実施の形態の一部断面図。
【図3】前記実施の形態の変形例を示す底面図。
【図4】本発明の第二の実施の形態を示す全体構成図。(正面図、底面図)
【図5】本発明の第一の実施の形態のチューブの接続にアタッチメントを使用したときの一部断面図。
【符号の説明】
【0025】
1. 上リング
11. 上プレート
2. 下リング
21. 下プレート
3. 弾性シート
31. 貫通孔
4. チューブ
41. チューブ基
42. 逆止弁
5. アタッチメント
51. 凸部
52. 留部
6. 弾性シート内側(開口部、手術部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、
結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される扁平なリング状プレートよりなる下リングと、
柔軟な筒型薄膜の端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する弾性シートと、
該弾性シートに接続し、シート内側と外部を連通するチューブを備えて構成し、
前記弾性シートの最小部の外径が、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)と同等か、あるいは、大きく形成されたことを特徴とするドレープ付き開瞼器。
【請求項2】
前記上リングは、可撓性を有する扁平なリング状プレートよりなる請求項1のドレープ付き開瞼器。
【請求項3】
前記上リング及び下リングは、円形または楕円形、あるいは楕円類似形状に形成される請求項1乃至2のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項4】
前記下リングの最大直径部は、前記上リングの最大直径部の25%以上、40%以下の長さに形成される請求項1乃至3のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項5】
前記弾性シートは、透明あるいは半透明である請求項1乃至4のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項6】
前記弾性シートは、引張り伸び率600%以上の樹脂より形成する請求項1乃至5のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項7】
前記弾性シートに接続するチューブは、該弾性シートに設けるアタッチメントを介してシートに接続する請求項1乃至6のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項8】
前記弾性シートに接続するチューブに、逆止弁を備えた請求項1乃至7のいずれかのドレープ付き開瞼器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−254427(P2009−254427A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104234(P2008−104234)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【出願人】(000153823)株式会社八光 (45)