説明

ドーパミン輸送体レベルを造影するための方法

対象の中枢神経系の選択領域中のドーパミン輸送体レベルをSPECT造影により評価する方法であって、標識されたドーパミン輸送体リガンドの注射を、SPECT造影のために対象を位置付けたおよその時点で投与するステップと、標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる約30分の持続期間にわたるSPECT取得を開始するステップと、ドーパミン輸送体に結合する標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を前記SPECT取得に基づいて評価するステップとを含む方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願の情報)
本願は、2007年10月31日に出願された米国特許出願第11/931,979号の利益を主張する。米国特許出願第11/931,979号の教示は、その全体が本明細書中に参照として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、ドーパミン輸送体部位を造影すること、より詳細には、神経障害を診断およびモニターすることに関する。
【背景技術】
【0003】
神経障害のための診断方法の改善が必要とされている。ドーパミン輸送タンパク質(ドーパミン輸送体)を選択的に標的とし、セロトニン輸送体として知られる別のタンパク質と区別できる、神経障害を診断する方法がとりわけ必要である。正常な脳組織では、ドーパミン輸送体:セロトニン輸送体の密度比はおよそ10:1である。パーキンソン病など特定の神経変性障害では、ドーパミンを産生する(および、その上にドーパミン輸送体が位置する)神経細胞が激しい欠乏を起こすが、セロトニン神経細胞が受ける影響はそれより少ない。ドーパミン輸送体:セロトニン輸送体の比率は、パーキンソン病においては2:1に低下することがある。
【0004】
別の神経変性障害は、レヴィー小体認知症、別名、レヴィー小体を伴う認知症(DLB)である。DLBは、アルツハイマー病に次いで、高齢者における変性認知症の2番目に多い原因である。DLBは、黒質中のドーパミン産生ニューロンの喪失(パーキンソン病において見られる喪失に似ている)と、マイネルト基底核およびそれ以外の場所におけるアセチルコリン産生ニューロンの喪失との両方を特徴とする。この側面は、アルツハイマー病において見られるものと類似している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、対象の中枢神経系中のドーパミン輸送体レベルを評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様では、対象の中枢神経系中のドーパミン輸送体レベルを評価する方法は、a)対象を造影台上に位置付けるステップと、b)該対象を造影台上に位置付けた後で、標識されたドーパミン輸送体リガンドの注射を該対象に行うステップと、c)標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる約30分の持続期間にわたる単独のSPECT取得を開始するステップと、d)該対象について、対象の中枢神経系の少なくとも1つの領域中のドーパミン輸送体に結合する標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を評価するステップとを含む。ボーラス注入または急速注入による標識されたドーパミン輸送体リガンドの注射は、有用な選択肢として注目される。
【0007】
別の態様では、本発明は、対象の中枢神経系中のドーパミン輸送体レベルを評価するステップを含む、対象における神経障害を診断またはモニターする方法を提供する。一実施形態では、この神経障害は、レヴィー小体を伴う認知症である。別の実施形態では、この神経障害はパーキンソン病である。
【0008】
本発明は、対象の中枢神経系の選択領域中のドーパミン輸送体レベルをSPECT造影により評価する方法であって、造影に有効な持続期間(ある場合には約10から約45分、とりわけ約20から約30分、特に約30分)にわたる前記選択領域の少なくとも1回のSPECT取得を開始するステップであって、前記持続期間が、標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与後の永続平衡の開始期間内にあるステップと、前記選択領域中のドーパミン輸送体に結合する標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を、前記SPECT取得に少なくとも部分的に基づいて評価するステップとを含む方法をさらに含む。場合により、この方法では、標識されたドーパミン輸送体リガンドは、[123I]−2β−カルボメトキシ−3β−(4−フルロフェニル)−N−(3−ヨード−E−アリル)ノルトロパン、別名123Iアルトロパン(Altropane)である。特定の場合においては、この標識されたドーパミン輸送体リガンドは、約8mCiの用量で投与される。特に、この方法では、選択領域は、脳の部分、とりわけ線条体を含む。この方法の一実施形態では、永続平衡期間は、標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まり、約45分後に終了する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】123Iアルトロパンのボーラス注射を受け、60分にわたり造影された健康対照対象についての動的な時間−活性データのグラフ表示である。
【図1A】特徴的な線条体取込みおよび皮質の均質なバックグラウンドを示す画像である。
【図2】123Iアルトロパンのボーラス注射後に、60分にわたり造影されたPD対象についての動的な時間−活性データのグラフ表示である。
【図2A】図2のデータに対応する画像である。
【図3】123Iアルトロパンのボーラス注射後のPD対象および対照対象についての動的な線条体結合比のグラフ表示である。
【図4】PD対象および対照対象についてのピークの線条体結合比(SBR)の、年齢に対するグラフ表示である。
【図5】PD対象の1回目および2回目(再試験)の試験ならびに対照対象についてのピークの線条体結合比(SBR)のグラフ表示である。
【図6】再構成用に3個、2個および1個の造影ヘッド(複数可)を用いた場合のPD対象における横断SPECT画像の図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様では、脳、とりわけ線条体など、対象の中枢神経系中のドーパミン輸送体レベルを評価する方法は、好ましくは対象を造影台上に位置付けた後で、標識されたドーパミン輸送体リガンド(場合により123Iアルトロパン)の注射を対象に行うステップと、標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる、造影に有効な持続期間、とりわけ約30分の持続期間にわたる単独のSPECT取得を開始するステップと、次いで、該対象の中枢神経系の少なくとも1つの領域中のドーパミン輸送体に結合する標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を評価するステップとを含む。
【0011】
SPECT画像は、1個または複数のヘッドを備えるSPECT断層撮影機を用いて取得できる。一実施形態では、SPECTの取得は、ヘッドを1個付けたSPECT断層撮影機を用いて実施する。別の実施形態では、SPECTの取得は、ヘッドを2個付けたSPECT断層撮影機を用いて実施する。別の実施形態では、SPECTの取得は、ヘッドを3個付けたSPECT断層撮影機を用いて実施する。造影に有効な持続期間は、ヘッドの数および各ヘッドの感度、造影剤の投与量および放出量により、ならびに、収集する画像またはデータの所望の詳細により影響されよう。これらのパラメーターは、当業者には周知である。
【0012】
一実施形態では、標識されたドーパミン輸送体リガンドは、約1mCiから約10mCiの範囲の用量で投与される。別の実施形態では、標識されたドーパミン輸送体リガンドは、約5mCiから約8mCiの範囲の用量で投与される。別の実施形態では、標識されたドーパミン輸送体リガンドは、約8mCiの用量で投与される。
【0013】
別の態様では、本発明は、対象の中枢神経系中のドーパミン輸送体レベルを評価するステップを含む、対象における神経障害を診断またはモニターする方法を提供する。一実施形態では、この神経障害は、レヴィー小体を伴う認知症である。別の実施形態では、この神経障害はパーキンソン病である。
【0014】
本明細書中で使用する場合、用語「ドーパミン輸送体リガンド」は、ドーパミン輸送体に結合する化合物を意味する。一実施形態では、化合物は、セロトニン輸送体より優先的にドーパミン輸送体に選択的に結合する。
【0015】
用語「対象」は、治療、診断および予防のステップおよび手順が含まれると広く理解されている治療を必要とする患者を意味する。一実施形態では、対象は、哺乳動物、とりわけヒトである。
【0016】
用語「選択領域」は、脳、とりわけ脳の線条体など、対象の中枢神経系を意味する。
【0017】
一態様では、標識されたドーパミン輸送体リガンドは、SPECT造影のために対象を位置付けたおよその時点で対象に投与する。用語「およその時点」は、SPECT造影のために対象を位置付ける前後約60分、とりわけ約30分、さらにはとりわけ約15分から実質的な直前直後までを指す。一実施形態では、対象を造影台上にまず位置付けてから、次いでドーパミン輸送体リガンドを投与する。別の実施形態では、対象にドーパミン輸送体リガンドをまず投与し、続いて造影台上に対象を位置付ける。
【0018】
走査時間については、ドーパミン輸送体リガンドのSPECT走査のシグナル−ノイズ(S/N)比はドーパミン輸送体リガンドの注射後約15分から約45分の時点の間で最適であることが見出されている。
【0019】
画像の取得についてはいくつかの選択肢が使用可能である。一実施形態では、SPECT走査は、連続的な1回の走査またはより短い一連の走査である。別の実施形態では、SPECT走査は、1回または複数回の一連の2分間走査を含む。別の実施形態では、SPECT走査は、1回または複数回の一連の10分間走査を含む。特定の一実施形態では、SPECT画像は、連続的な1回の30分間走査を用いて生成する。別の特定の実施形態では、SPECT画像は、60分の期間にわたる一連の2分間走査を用いて生成する。別の特定の実施形態では、SPECT画像は、40分の期間にわたる一連の4分間走査を用いて生成する。
【0020】
ドーパミン輸送体レベルの評価は、診断調査の過程におけるのと同様に、ドーパミン輸送体の利用能を測定することにより実施できる。測定は、陽電子放射型断層撮影法(「PET」)または単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(「SPECT」)などの装置を用いて行うことができる。ドーパミン輸送体の利用能を測定するには、この輸送体を標的とする標識されたプローブを脳中に(例えば静脈内に)導入し、PETまたはSPECTを実施する。PETまたはSPECTのデータおよび画像から、ドーパミン輸送体の密度を定量化する。一実施形態では、定量化は、結合能をコンピュータで計算することにより決定するが、この場合の結合能は、結合部位の最大数Bmaxを解離定数Kで割ったものと定義される。結合能は、約15分の時点で開始する連続的な走査から計算する。関心領域を同定し、その領域中の計数を決定する。適切なモデル化を用いて結合能についての数値が計算でき、これらの値を、同等の治療および走査のプロトコールを受けている対象間で比較できる。123I−アルトロパンの線条体結合能(k3/k4)は、Fardeら(Fardeら、1989年、J. Cereb.、Blood Flow Metab、9巻、696〜708頁)により記載されたような基準領域法により計算する。
【0021】
ドーパミン輸送体を標的とする造影剤としては、(11C)アルトロパン、(11Cまたは18F)WIN35,428((11C)CFT)、123Iアルトロパン、(99mTc)O−1505、99mTc−テクネピン(technepine)および同様の化合物が挙げられる。特定の理論になんら拘束されるものではないが、このような薬剤は、さまざまな親和性のドーパミン輸送体を結合させ、それにより、複数の異なる評価を実施することが可能になると考えられる。前述の薬剤のうちいくつかの構造、合成および/または供給源については、Fischmanら、1998年、Synapse、29巻、125〜41頁((123I) Altropane);Madrasら、1996年、Synapse、22巻、239〜46頁;Meltzerら、1993年、J. Med. Chem.、36巻、855〜62頁;およびMiliusら、1990年、J. Medicinal Chem.、34巻、1728〜31頁に記載があり、そのそれぞれは、すべての参考文献が本明細書中に引用されているのと同様に、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる。別の有用な化合物としては、123I−イオフルパン(DatSCAN(商標)、(Nycomed−Amersham、Piscataway、NJ)が挙げられる。
【0022】
適当なリガンドの例としては、(11C)CFT((11C)WIN35,428)、(123I)アルトロパン(登録商標)および(18F)CFTが挙げられる。PETにおける使用にとりわけ適したリガンドとしては、(11C)アルトロパンが挙げられるが、これに限定されない。SPECTにおける使用に適したリガンドとしては、(99mTc)テクネピン、O−1505および同様の化合物などテクネチウム標識されたフェニルトロパンのプローブが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法において有用な化合物の他の例は、米国特許第5,493,026号、同第5,506,359号、同第5,770,180号、同第5,853,696号、同第5,948,933号、同第6,171,576号、同第6,548,041号および同第7,081,238号に記載があり、その開示内容は参照により本明細書に組み込まれる。評価のための対象の中枢神経系の部分は、好ましくはヒトの脳の部分、例えば線条体である。
【0023】
一態様では、本発明は、神経障害を区別するために、とりわけ2β−カルボメトキシ−3β−(4’−フルロフェニル)−N−(3−ヨード−E−アリル)ノルトロパン(ALTROPANE(登録商標)、Alseres Pharmaceuticals,Inc.、Hopkinton、MA)に関連して、米国特許第5,493,026号中で開示されたような123I化合物を採用する。これらの同じ機能について、本発明は、米国特許第6,171,576号および同第6,548,041号中で開示されているような放射標識として、テクネチウム(99mTc)を組み込むトロパンも採用する。
【0024】
米国特許第6,548,041号中に記載の化合物には、テクネチウムまたはレニウムの放射性核種を複合体化してドーパミン輸送体に選択的に結合する中性の標識複合体を生成する能力のある、8位の窒素原子を介してキレート化リガンドに結合されたトロパン化合物がある。このトロパン化合物は、ドーパミン輸送体に結合すると考えられる。
【実施例】
【0025】
以下の実施例は、本発明の特定の有用な実施形態および態様を例証するのに役立つものであり、その範囲を限定するものではないと解釈されたい。代替的な材料および方法を利用して、同様の結果を得ることができる。
【0026】
(実施例1)
パーキンソン病対象および対照対象におけるALTROPANE(登録商標)のSPECT造影
以下の実施例は、123IアルトロパンのSPECT造影試験に参加するパーキンソン病の調査参加者および健康対照についての単一光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)による画像取得、分析方法および結果をまとめるものである。この実験は、パーキンソンの対象および同じくらいの年齢の健康対照対象において、時間的解像度の良好な動的SPECTを用いた123Iアルトロパンの注射後最初の1時間にわたる時間−活性曲線および線条体のドーパミン輸送体占有率を評価するオープンラベル試験である。加えて、PD対象につき、2回目の注射および走査を別々の試験日において各対象について実施して、視覚的分析および定量的分析両方についての試験/再試験再現性データを評価する。
【0027】
A.対象および薬物投与
試験への登録についての地域広告および口頭伝達により、15名の突発性パーキンソン病対象を募集する。造影は、New Haven、Connecticut、USA所在のMolecular NeuroImaging,LLCで実施する。123Iアルトロパンを、MDS Nordion,Inc(Vancouver、BC、カナダ)により提供された被験物質を用い、医師主導IND番号76,024、主導医師J. Seibyl博士の指揮下で試験する。すべての対象は、一切の試験手順に先立ち、インフォームドコンセントを受ける。15名の対象は全員、分割注射を2回、および、およそ296mBq(8mCi)の123Iアルトロパンを用いたSPECT走査セッションを完了した。対象は、運動障害の専門医により投与される抗パーキンソン病薬を投薬しない一晩の期間の後に、統合パーキンソン病評価尺度(スケール)(UPDRS)を用いて運動評価を受ける。
【0028】
PD(パーキンソン病)対象として、同一のSPECT画像取得プロトコールを用い、123Iアルトロパンを用いた単独の走査セッションへの参加のために、12名の健康対照対象を募集する。健康対象は、運動障害の専門医により評価して、神経疾患に罹患していないことを確認する。
【0029】
B.SPECT造影および分析
296mBq(8.0mCi)の123Iアルトロパンを用いた静脈内注射に続く60分間、SPECT走査画像を取得する。一連の動的なSPECT走査画像は、1取得当たり6分で5枚の走査画像として、次いで、1取得当たり10分で3枚の走査画像として得る。対象は、取得の持続期間中はカメラの中に留まる。ファンビームコリメーターを取り付けたPhilips PRISM 3000XPの、ヘッドを3個付けたSPECTカメラ(Cleveland、Ohio、USA)を用いて各SPECT試験を取得する。各ヘッドは360度回転し、1ヘッド当たり3度毎に合計120枚の生の投影画像をサンプリングする。投影データは、159kEv(±10%)の中心にある対称のエネルギー窓内の128×128マトリックス中で収集した。この取得プロトコールにより、1個、2個または3個すべてのヘッドからの情報を用いて各時点での造影データの事後分析が、ひいてはそれぞれ2.7、5.3および8.0mCiでの異なる注射用量の123Iアルトロパンの影響をモデル化することが可能になる。
【0030】
フィルター逆投影および単純なランプフィルターの後に事後用の(3D)標準化されたローパスフィルターを使用して、データを再構成する。標準または特注の自動化ソフトウェアパッケージを用いてChang 0補正および0.11cm−1のmuを適用することで減弱補正を実施した。左右の尾状核および被殻ならびに後頭部のバックグラウンド領域について個々の関心領域(ROI)サンプリングを行い、3個ヘッドのデータ中にROIを設定する。次に、注射セッション(合計24=8時点×3通りのヘッド条件(1、1および2、1および2および3)におけるすべての画像にROIを適用した。各SPECT走査に先立ち、各走査セッション内のヘッドの動きを確認するために、1μCiの123Iを含有する5個の外部皮膚基準マーカーを、外眼角外耳道線に沿って設置した(右側2個、左側3個)。線条体領域中の計数密度(1分当たりのボクセル当たり計数)を後頭部のバックグラウンド領域中の計数密度で割ったものとして定義される線条体取込み比(SBR)を定量するために、ROI内総計数、総体積および計数密度(計数/ボクセル)を各走査から抽出してから、データスプレッドシートにログインした。左右の尾状核および被殻のSBR評点の平均値として、平均の線条体SBR評点を計算した。線条体小領域中のサンプリングは同一サイズのROIを使用したので、左右の尾状核および被殻から平均SBRへは、同等の寄与があった。
【0031】
注射後の60分のサンプリング期間中に取得した8画像のそれぞれについての平均の線条体計数密度および後頭部のバックグラウンドについての時間−活性データをプロットして、PD対象および対照対象における123Iアルトロパンの取込みおよびウォッシュアウトの特徴を視覚的に調べることができるようにした。さらに、注射後の8時点で得られた各SBR率をプロットした。1個、2個および3個のヘッドの造影データを用いて取得したデータにつき、各対象についてピークのSBRを評価した。
【0032】
各PD対象について、各注射の走査(図6にまとめる)について複合SBR率を決定したが、これは、注射後13〜40分にわたり(合計時間27分)収集したデータに対応する。これらの時点は、画像取得の60分にわたるSBRのピークおよび持続性の検討、ならびに、線条体の構造の最適同定のための走査画像を視覚的に調べた結果に基づいて選択した。次に、以下の式:
(1回目の注射の複合SBR−2回目の注射の複合SBR)/(1回目の注射の複合SBR)
を用いて、この複合SBRを各対象の1回目および2回目の123Iアルトロパン注射日の中で比較して、SBRの再現性を検討した。
【0033】
図3は、123Iアルトロパンのボーラス注射後の、PD対象および対照対象についての動的な線条体結合比のプロット図である。注射後約15分までに結合率は比較的安定していることに注意されたい。このことから、123Iアルトロパン注射の15分後に画像取得を開始すると、最適なシグナル:ノイズ情報が得られることが示唆される。
【0034】
図4は、PD対象および対照対象についてのピークの線条体結合比(SBR)の、年齢に対するプロット図である。SBRは、最大取込みを示す注射後の単独の走査として決定する。この結果尺度は、ドーパミン輸送体密度を評価するための正確な定量的尺度ではないが、とはいえ、特徴のはっきりしたこのPD対象群と健康対照との間を非常によく区別する。
【0035】
C.結果
登録された15名のPD対象全員が、ベースラインおよび再試験の123IアルトロパンのSPECT試験を用いた試行を完了し、12名の健康対照全員が123Iアルトロパンを用いた単独の試験についてのすべての造影評価を完了した。すべての造影データは、生の投影データセットにおける妥当な計数統計を有する良好な技術的品質のものであり、分析に組み入れた。いずれの走査も、技術的理由(例えば、ヘッドの動き、注射用量の低さ、または、準最適な品質についての他の理由)を理由に排除する必要はなかった。対象の人口統計的データを表1にまとめる。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

PDにおける123Iアルトロパンについての動的な時間−活性データ
対照およびPD対象における123Iアルトロパンの注射に続き、注射から10分後のピークの線条体計数密度に注目する。(図1および2)。大部分の対象は、脳からのアルトロパンの急速な消失を呈することが認められる。図1は、123Iアルトロパンのボーラス注射を受け、60分にわたり造影された健康対照対象についての動的な時間−活性データのグラフ表示である。線条体についてのピークの取込みは10分までに生じるが、バックグラウンド取込みは1回目の取得時にピークに達する。線条体および後頭部のバックグラウンド領域は両方とも急速なウォッシュアウトを示す。図1aは、特徴的な線条体取込みおよび皮質の均一なバックグラウンドを示す画像である。図2は、123Iアルトロパンのボーラス注射に続き、60分にわたり造影されたPD対象についての動的な時間−活性データのグラフ表示である。線条体についてのピークの取込みおよびバックグラウンド取込みは、1回目の取得時に生じる。図2aは、PDにおけるドーパミン輸送体喪失の公知のパターンと一致し図1および1aにおける対照対象とは視覚的に異なる、被殻中で最も顕著な線条体取込みの減少を示す。
【0038】
線条体構造中の取込みの局在性は、試験におけるすべての対象において十分実証され、対照においては特徴的な「カンマ」形状の外見の線条体の取込みが、また、PDにおけるアルトロパンおよび他のSPECT試験を用いた他のドーパミン輸送体試験と一致したPD対象においてはより非対称性の高い取込み(左右の非対称、および、尾状核>被殻という非対称)が見られた。123Iアルトロパンの注射後20〜30分までは、線条体および後頭部のバックグラウンド領域からのウォッシュアウト速度は類似しており、線条体結合比は安定していると結論される。
【0039】
結合比は、造影ヘッド3個の投影データから造影ヘッド2個の投影データに移るとき、さらには、SPECT再構成において1個のみの造影ヘッドを使用するとき、わずかに低下する。SBR曲線の形状には影響がなく、ピークのSBRは1個および2個のヘッドの場合は両方について注射後15分から生じ、このことから、結合率が最高の時点でのシグナル対ノイズ比から見た最適な走査プロトコールが示唆される。表3は、PD対象および対照対象についてのピークのSBRを示しており(単独の走査に基づく)、より少ない数の造影ヘッドを再構成中に組み込むと、ピークのSBRが少し低下することが示される。
【0040】
【表3】

半定量的なピークのSBRを調べると、PD対象と健康対照との間の差が示される(図4、5)。図4は、PD対象および対照対象のピークの線条体結合比(SBR)の、年齢に対するグラフ表示である。SBRは、注射後の単独の走査として定量したものであり、最大取込みを示す。この尺度により、特徴のはっきりしたこのPD対象群と健康対照との間が非常によく区別される。図5は、PDの1回目および2回目(再試験)の試験ならびに対照対象についてのピークの線条体結合比(SBR)のグラフ表示である。図6は、再構成に3個、2個および1個の造影ヘッド(複数可)を使用した、PD対象における横断SPECT画像のグラフ表示である。図6は、総合的な走査画像として処理した、1個、2個および3個の造影ヘッドのデータについてのPD対象における画像を示すものである。8mCiの123Iアルトロパン注射後に単一のヘッドから取得したデータについては、こうした画像の視覚的な質は低下している。
【0041】
PDにおける123Iアルトロパン注射の試験−再試験の再現性
123Iアルトロパンのボーラス注射の約15分後に始まるおよそ30分の造影に相当する走査番号3から6の平均として得た平均総結合率を用いて、15名のPD対象全員におけるSPECT造影の試験−再試験の再現性を評価した。この尺度については、試験/再試験の再現率(%)は、以下のように表される:(試験の比率−再試験の比率)/(試験の比率)、単位は比率(%)。3個、2個および1個の造影ヘッドのデータ再構成の条件下におけるすべてのPD対象についての結果を表4に記載する。
【0042】
【表4−1】

【0043】
【表4−2】

123Iアルトロパン注射の15分後に始まるおよそ30分に相当する時点の間に得られる総合的な線条体結合により、試験した15名のPD対象における強い再現性が実証される。再構成に関連する計数の減少は、この分析において用いる再現性の尺度に対し顕著な影響を一切及ぼさなかった。
【0044】
手順を効率化するには、以下が好ましい:
a)対象を造影台上に位置付けた後、8mCiの123Iアルトロパンの単回の急速注射またはボーラス注射を投与する、
b)123Iアルトロパンの投与から15分後に始まる30分間の単独のSPECT取得を開始する、
c)2個および3個のヘッドを付けたSPECT断層撮影機を用いて走査を実施する。
【0045】
代替的な実施形態では、多様な低用量および高用量の範囲で、または、単独のヘッドを付けたカメラ装置において多様な再構成およびフィルター処理戦略を利用することにより、123Iアルトロパンを投与する。例えば、これらのデータの反復的な再構成を採用すれば、画像のシグナル対ノイズ特性を高めることになろう。一実施形態では、2Dまたは3Dのデータセットにおいて1つまたは複数のフィルターを使用する。
【0046】
このデータセットからの知見は一般化可能である。一実施形態では、123Iアルトロパン造影データの再構成およびフィルター処理は、典型的な臨床用核医学装置において遭遇する可能性のある一般に入手可能で標準的なアルゴリズムを使用する。
【0047】
参照による組込み
本明細書中において参照される特許および科学文献は、当業者に入手可能な知識を確立するものである。本明細書中で引用する、交付された特許、特許出願、公開された外国出願および刊行された参考文献はすべて、参照によりその全体が組み込まれるとそれぞれが具体的かつ個々に示された場合と同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0048】
等価物
当業者であれば、慣例的な実験法だけを用いて、本明細書中に具体的に記載した特定の実施形態との多数の等価物を認識するか、または、確認できるであろう。そのような等価物は、特許請求の範囲に記載の範囲内に包含されることを意図するものである。
【0049】
参考文献
【0050】
【化1】

【0051】
【化2】

【0052】
【化3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の中枢神経系の選択領域中のドーパミン輸送体レベルをSPECT造影により評価する方法であって、
a)標識されたドーパミン輸送体リガンドを、SPECT造影のために前記対象を位置付けたおよその時点で前記対象に投与するステップと、
b)前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる約30分の持続期間にわたる前記選択領域の少なくとも1回のSPECT取得を開始するステップと、
c)前記選択領域中のドーパミン輸送体に結合する前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を、前記SPECT取得に少なくとも部分的に基づいて評価するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記標識されたドーパミン輸送体リガンドが123Iアルトロパンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記標識されたドーパミン輸送体リガンドが、約8mCiの用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記選択領域が脳の部分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記脳の部分が線条体を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
対象におけるアルトロパンの配置をSPECT造影により評価する方法であって、
a)標識されたドーパミン輸送体リガンドを、SPECT造影のために前記対象を位置付けたおよその時点で前記対象に投与するステップと、
b)前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる約30分の持続期間にわたる選択領域の少なくとも1回のSPECT取得を開始するステップと、
c)前記選択領域中のドーパミン輸送体に結合する標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を、前記SPECT取得に少なくとも部分的に基づいて評価するステップと
を含む方法。
【請求項7】
対象の中枢神経系の選択領域中のドーパミン輸送体レベルをSPECT造影により評価する方法であって、
a)造影に有効な持続期間にわたる前記選択領域の少なくとも1回のSPECT取得を開始するステップであって、前記持続期間が、前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与後の永続平衡の開始期間内にあるステップと、
b)前記選択領域中のドーパミン輸送体に結合する前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの量を、前記SPECT取得に少なくとも部分的に基づいて評価するステップと
を含む方法。
【請求項8】
前記標識されたドーパミン輸送体リガンドが123Iアルトロパンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記標識されたドーパミン輸送体リガンドが約8mCiの用量で投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記選択領域が脳の部分を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記脳の部分が線条体を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記造影に有効な持続期間が約30分であり、前記永続平衡期間が、前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約15分後に始まる、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記永続平衡期間が、前記標識されたドーパミン輸送体リガンドの投与から約45分後に終了する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2】
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【図2A】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−502130(P2011−502130A)
【公表日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531324(P2010−531324)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/081419
【国際公開番号】WO2009/058754
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510098320)アルセレス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】