ナイフシリンダ、ロータリカッタ、及びナイフ取り付け台の取り付け方法
【課題】ロータリカッタにおいて、最近の切断速度の高速化及び段ボールシートの広幅化に対応し得る、軽量で十分な曲げ剛性及び捻り剛性をもったナイフシリンダを実現する。
【解決手段】一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、シリンダ本体がCFRP層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成する。好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層41からなり、該最内層の上に、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層42及び該軸方向に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層43,44を複数層ランダムに積層して、圧縮強度と各層間の密着性を高め、かつ捻り剛性を向上させた。
【解決手段】一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、シリンダ本体がCFRP層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成する。好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層41からなり、該最内層の上に、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層42及び該軸方向に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層43,44を複数層ランダムに積層して、圧縮強度と各層間の密着性を高め、かつ捻り剛性を向上させた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルゲータと称され、走行するライナ、中芯及び片面シートなどのシートを貼り合わせて段ボールシートを製造する段ボールシート製造装置において、貼り合わされた段ボールシートをカットオフするロータリカッタ、また特に該ロータリカッタを構成し高剛性化及び低慣性化をなし得たナイフシリンダの構成及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コルゲータと称される段ボール製造装置の製造ライン上流側には、一般的に、段ボールシートの原料になるライナや中芯原紙などのロール原紙を装備するミルロールスタンドと、コルゲータに向けて連続的に段ボール原紙を供給するための紙継ぎ装置としてのサプライサと、該ミルロールスタンドから繰り出された中芯原紙を波形に段成形してライナと貼り合わせ、片面段ボールシートを製造するシングルフェーサと、該シングルフェーサで製造された片面段ボールシートの段頂部に糊付けしてバックライナと貼り合わせて両面段ボールシートを製造するダブルフェーサとから構成される。
【0003】
さらにダブルフェーサの製造ライン下流側には、両面段ボールシートの生産オーダに沿って所望位置に罫線加工及び裁断加工を行なうスリッタスコアラと、両面段ボールシートの切断加工を行なうカットオフ装置(ロータリカッタ)が設けられ、ロータリカッタの下流側には、紙継ぎ装置やコルゲータで段ボールシート製造中に発生した不良シートを除去する不良シート除去機が設けられている。
【0004】
特許文献1(特開2002−284430号公報)には、従来の段ボールシートのカットオフ装置が開示されている。図12はこのカットオフ装置の立面図、図13は同じく右側面図、図14は図12中のB−B線に沿う横断面図である。図12〜14において、左右のフレーム01,01に上ベアリング04及び下ベアリング05を介して回転可能に両軸端部を支持されて上下ナイフシリンダ02,03が備えられ、上ナイフシリンダ02には上ナイフ08が、下ナイフシリンダ03には下ナイフ09が、いずれもヘリカル状に取り付けられており、上下のナイフ08,09が噛み合って走行する段ボールシートDを切断するように構成されている。
【0005】
本装置では、上ナイフシリンダ02の一方(ここでは右方)の軸端には上メインギア020が取り付けられ、下ナイフシリンダ03の一方(右方)の軸端には上メインギア020と噛み合う下メインギア021が取り付けられている。下メインギア021は、上メインギア020とのガタ調整のため2分割されたスプリット歯車を構成しており、2分割された一方の歯車で上メインギア020との噛み合いにおいてバックラッシュを防止できる機構となっている。
【0006】
また下メインギア021には下ピニオンギア023a、023bを介して補助駆動モータとしての下駆動モータ025a、025bが接続されており、上メインギア020には上ピニオンギア022a、022bを介して主駆動モータとしての上駆動モータ024a、024bが接続されている。これらの駆動モータ024a、024b、025a、025bは、コントローラ026により制御されるようになっている。
【0007】
上下ナイフ08,09は、ヘリカル状に取り付けられているため、ナイフ08,09の噛み合いは、一端(図12では右側端、これを始端Sとする)から始まり他端(図12では左側端、これを終端Eとする)に向かって進む。このように段ボールシートDの切断を始端Sから終端Eに向かって行なうシェア切断とし、過大な切断荷重を上下ナイフ刃先にかけないようにしている。
図14は、本装置の横断面から視た、上下ナイフの噛み合い状態と段ボールシートDの潰れ(切断)状態を示す説明図である。図14において、上下ナイフシリンダ02、03の外周面には、上下ナイフシリンダのメタルインサート部032,033に取り付けられる固定用ボルト034,035によって上下ナイフ取り付け台030、031が取り付けられている。
【0008】
上下ナイフ取り付け台030,031には、上下ナイフ固定用ボルト036,037によって上下ナイフ08,09が取り付けられている。t1は上ナイフ08の刃先の軌跡であり、t2は下ナイフ09の刃先の軌跡である。
かかる構成において、段ボールシートDは矢印R3方向に走行し、上下ナイフシリンダ08,09が、夫々矢印R1、R2方向に回転して、上下ナイフの噛み合い開始点Aで切断を開始し、噛み合い終了点Bで切断を終了する。
【0009】
段ボールシートDの切断時切断荷重がナイフ08,09にかかる。このためナイフ08,09及びナイフシリンダ02,03に撓みが生じて、両ナイフ08,09の刃先が開くことになる。この刃先の開きが大きくなると、シートDの切断ができないため、切断中の刃先の開きを防止するため、予めナイフ08,09間に所定の押付力(上下ナイフ08,09の対向面間を押し付ける接触力、以下「与圧力」という。)を与えている。
【0010】
従来この与圧力を与えるために、下ナイフシリンダ09のナイフ取り付け台031に与圧力付与用ボルト038を取り付けていた。与圧力付与用ボルト038によって下ナイフ09を上ナイフ08側に押すことによって上下ナイフシリンダ間に互いに撓みを発生させ、これによって上下ナイフ08,09間に与圧力を付与するようにしていた。なお与圧力付与用ボルト038は、上ナイフシリンダ02に設けてもよい。
【0011】
しかしかかる方法では、終端E側にも上下メインギア020、021を設けて、ナイフシリンダの両端側からナイフシリンダを支持して、上下ナイフの刃先の開きを拘束する必要がある。またナイフシリンダの必要以上の撓みの増大をなくすためにはナイフシリンダの剛性を高くしなければならなかった。
【0012】
そのため本装置では、上下ナイフ08,09が噛み合う範囲では、下メインギア021の歯面を削り、上メインギア020との間に積極的に遊隙ができるように構成し、この遊隙により上下ナイフ08,09が互いに接近するよう上下ナイフシリンダの回転位相を変えることができるようにしている。
【0013】
また上下ナイフ08,09が噛み合っていない範囲では、下駆動モータ025a、025bは上駆動モータ024a、024bに連れ回り状態となるか、又は上駆動モータ024a、024bと同期して回転するようにコントローラ026により制御される。そして上下ナイフが噛み合う範囲では、下駆動モータ025a、025bは、下ナイフ09を上ナイフ08に押し付ける押付力が生じるようにコントローラ026によってトルク制御されるようになっている。
【0014】
このようにナイフシリンダの駆動モータを制御することにより、両ナイフ間に押付力を与えるようにしており、これによって押付力の調整を容易にし、ナイフシリンダの剛性を小さいものにすることができ、またナイフシリンダの一端側の歯車を省略できるようになり、ナイフシリンダの駆動モータを小容量化することができるようになる利点がある。
【0015】
しかし最近になって段ボールシートの生産コストの低減及び生産効率の向上がますます要求されるようになってきており、そのため切断精度を維持しながらカットオフ装置(ロータリカッタ)における段ボールシートの切断速度をさらに増大させるとともに、シートの広幅化を図り、一方で駆動モータの容量を低減する必要性が高まってきた。
高速回転あるいは広幅化に耐え得るためにはナイフシリンダの曲げ剛性及び捩れ剛性を一層向上させる必要があり、一方で軽量化を図って低慣性とする必要がある。
【0016】
特許文献2(実用新案登録第2527288号公報)には、ナイフシリンダを、鋼鉄製の軸芯材と、該軸芯材を外装する炭素繊維の非鋼鉄製の外周材とをもって形成することにより、曲げ剛性、捻り剛性を損なうことなく、回転慣性の軽減を図ったロータリカッタが開示されている。
【0017】
また特許文献3(特開2002−254388号公報)には、ロールに巻き取られた状態の紙、プラスチックフィルム等の材料(原反)走行過程で長さ方向に沿って所定の幅間隔ごとに複数枚にスリットするスリッタの広幅化、軽量化を図るとともに、高速回転を可能にし、短時間で大量のスリット製品を生産可能にしたスリッタ用下刃溝付きローラについて開示されている。
【0018】
このスリッタは、上刃を該下刃溝付きローラの軸方向に所定の間隔(原反のスリット幅に相当)ごとに配置するとともに、上刃を対応する下刃溝内に入れた状態で下刃溝付きローラを回転させ、かつ原反を該ローラと上刃間に案内し、該ローラの回転に合わせて原反を走行させることにより、原反を上刃によって切断するものであるが、該ローラの主軸を円筒状に形成した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製で構成するとともに、該主軸の外面に嵌合される溝付円筒体をCFRP製内管と外周面に下刃用溝を有するステンレス製外管とを密着した二重管構造とすることにより、軽量化を図るとともに、撓み、歪み等に対し高剛性を維持するようにしたものである。
【0019】
【特許文献1】特開2002−284430号公報
【特許文献2】実用新案登録第2527288号公報
【特許文献3】特開2002−254388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら特許文献2に開示されたナイフシリンダは、軸芯材が鋼鉄製であるため、未だ十分な低慣性化が図られていない。また炭素繊維を、軸芯材を外装する外周材に使うというアイデアのみが開示されているにすぎない。
また特許文献3においても、スリッタ用下刃溝付きローラの主軸等をCFRP製とするというアイデアのみが開示されているにすぎず、このアイデアをそのままロータリカッタのナイフシリンダに適用しても、最近のニーズに十分対応できる高い曲げ剛性や捻り剛性及び低慣性のナイフシリンダを実現することができない。
【0021】
ロータリカッタでは、段ボールシートの切断速度の高速化に伴い、モータからの熱伝導や、高温シートを切断するナイフからの熱伝導、高い雰囲気温度等の影響により、ナイフシリンダ自体の温度も上昇する。このためナイフシリンダの表面温度は約60℃にも達し、熱膨張係数は、鉄で16.6×10−6(/℃)、ピッチ系CFRPで0.7×10−6(/℃)であり、鉄のほうが熱膨張係数は約24倍大きい。
【0022】
ナイフシリンダの軸方向長さは通常1400mm〜2800mmあり、このためCFRP製のナイフシリンダを採用した場合、ナイフシリンダの表面温度が60℃となれば、CFRP自体よりその外周面に取り付けてあるナイフ及びナイフ取り付け台が、熱膨張係数の違いにより主に幅方向(ナイフシリンダ軸方向)に伸長し、結果としてナイフシリンダは、ナイフ取り付け台がない側を内側にバナナ状に曲がってしまい、幅方向に均一な切断ができなくなる。
【0023】
またロータリカッタには様々な振動要因があり、ナイフシリンダが振動すると、与圧力に影響を与えるため、適正な与圧状態を保持しにくい。そこで振動振幅を小さくするために、ナイフシリンダの剛性を高くすると、従来の金属製では回転の慣性モーメントが大きくなり、シリンダ系の回転慣性GD2(Gは回転体の重量、Dは回転体の直径)も増大し、加減速制御する駆動モータの容量を大きくしなければならない。
【0024】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、ロータリカッタにおいて、最近の切断速度の高速化及び段ボールシートの広幅化に対応し得る、軽量で低慣性でありかつ十分な引張り強度と曲げ剛性及び捻り剛性をもったナイフシリンダを実現することを目的とする。
また段ボールシートのジャムアップ(シート詰まり)等でナイフシリンダに過大な外力が加わった場合や、シートがナイフシリンダに接触した場合に、ナイフシリンダのシートによる破損、磨耗を防ぎ、こわれにくいナイフシリンダを実現することを目的とする。
【0025】
またナイフシリンダの高温化による熱変形を防止するとともに、ナイフシリンダの振動を防止し、かつCFRP製のナイフシリンダ外周面への金属製のナイフ取り付け台の取り付けを強固かつ容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
かかる目的を達成するため、本発明のナイフシリンダは、一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成されたものである。
【0027】
このようにナイフシリンダ本体を金属よりも軽いCFRP層で構成し、さらにシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成することで、引張り強度と曲げ剛性が高いナイフシリンダを実現でき、引張り強度と曲げ剛性が高いため、ナイフシリンダを薄肉とすることができ、かつCFRP層自体が軽量であるため、この相乗効果で極めて低慣性なナイフシリンダを実現することができる。
該CFRP層は、繊維勾配角が一様となるよう一方向に揃えて並べた炭素繊維に樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグ(樹脂がまだ柔らかい状態で表面の摩擦係数が大)を複数層積層した後、加熱硬化させて製造することができる。
【0028】
CFRP層中の炭素繊維をシリンダ軸方向に対して傾きをもたせて配置すると、該炭素繊維のシリンダ軸方向の引張り弾性率は急激に低下する。従ってシリンダ軸方向の引張り弾性率を206GPa以上とするためには、CFRP層を構成する炭素繊維の70体積%以上がシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有し、該繊維勾配角を有する炭素繊維が590GPa以上の引張り弾性率を有するように構成するとよい。
【0029】
即ちCFRP層中の炭素繊維の繊維密度は、通常60体積%程度が上限であるが、次の計算式(1)から、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角をもつ炭素繊維の割合が70体積%以上であり、かつ該繊維勾配角をもつ炭素繊維の引張り弾性率が590GPa以上であれば、シリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上であるナイフシリンダを製造することができる。
【数1】
【0030】
またシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角をもつ炭素繊維の割合が70%以上である場合、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維の80体積%以上をピッチ系CFRPとすれば、残りのCFRPがPAN系CFRPであっても、シリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大きいナイフシリンダを製造可能である。即ちピッチ系CFRPの引張り弾性率は640GPaであり、PAN系CFRPの引張り弾性率230GPaであり、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維の80体積%以上をピッチ系CFRPとし、残りをPAN系CFRPとすれば、次の計算式(2)及び(3)から、合計の引張り弾性率が206GPaを越えるので、シリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大きいナイフシリンダを製造可能となる。
【0031】
【数2】
【数3】
【0032】
また本発明では、好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層からなり、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度及び−30〜−60度の繊維勾配角を有するCFRP層を複数層積層してシリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大となるように構成するとよい。なお本明細書では、便宜上ナイフシリンダのシリンダ軸方向を0度とし、シリンダ周方向を90度とする。
【0033】
従来多層からなる円筒形状のCFRP層を製造する方法は、炭素繊維を液状の樹脂にドブ漬けした後、成形用マンドレルに所定の角度をもたせて直接炭素繊維を巻き付け、これを複数回繰り返して多層に形成し、その後加熱硬化して多層のCFRP層を形成する方法と、炭素繊維を一方向に揃えて並べたりあるいは織ったりしてシート状にした後、樹脂を含浸させてシート状のプリプレグを製造し、それを成形用マンドレルに一層ずつ巻き付けた後加熱硬化する方法とがある。本発明の前記積層構造においては、後者の方法で多層の円筒状CFRP層を製造する。
【0034】
また前記積層構造においては、最内層をシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層で構成する。CFRPの繊維勾配角をシリンダ周方向に配置することによって、ナイフシリンダの外側から内側方向に作用する圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持することができるため、かかる圧縮荷重に対抗して良好な保形性をもつことができる。
【0035】
該最内層の上部には、シリンダ軸方向(0度)に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層を複数層積層する構成としているが、繊維勾配角がシリンダ周方向(90度)以外に配置された繊維勾配角を有するCFRP層は、炭素繊維が含浸した樹脂の内側への熱収縮を炭素繊維が阻止する作用を有しないため収縮が起こり、この収縮作用によって最内層に対して隙間のない密着した積層体を形成することができる。
【0036】
この収縮作用は、繊維勾配角がシリンダ軸方向に対して±45度に配置された場合を極大として、シリンダ軸方向に対して±30〜±60度の範囲で配置された場合に大きな収縮作用があり、この範囲の繊維勾配角を有するCFRP層を配置することによって、各層間に隙間のない強固に一体化された積層体を形成することができる。
【0037】
ナイフシリンダは、金属製(通常鉄製)の支持円筒の外面に嵌入されて該円筒で支持固定されるが、本発明のナイフシリンダを該円筒から引き抜く場合には、最内層の保形性を利用し、かつ金属とCFRPとの熱膨張率の違いを利用して、引抜きを容易に行なうことができる。
【0038】
即ち該支持円筒を冷却して熱収縮させ、該支持円筒とCFRP層との間に緩みをもたせる。この場合最内層のCFRP層の繊維勾配角がシリンダ周方向を向いているので、この繊維勾配角を有する炭素繊維が炭素繊維に含浸した樹脂の熱収縮で発生する圧縮荷重に対抗して熱収縮を阻止する作用をなす。また金属の高い熱膨張係数により、支持円筒を冷却した場合、CFRP層との間に十分な隙間を生じさせることができるため、支持円筒からの引抜きを容易にすることができる。
【0039】
本発明のナイフシリンダを成形用マンドレルで成形した後、該成形用マンドレルから引き抜く場合も前記の性質を利用してナイフシリンダと該成形用マンドレルとの間に隙間を持たせることにより該形成用マンドレルからの引抜きを容易にすることができる。
なお好ましくは、最内層を構成するCFRPとしてピッチ系CFRPよりも高強度をもつPAN系CFRPを用いれば、熱収縮に対する圧縮荷重に抗して十分な圧縮強度をもつことができる。
【0040】
また最内層の上にシリンダ軸に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層を配置することによって、ナイフシリンダの捻り剛性を高めることができる。
またシリンダ軸方向のCFRP層をシリンダ本体の引張り弾性率が206GPa以上となるように配置することによって、高い引張り強度と曲げ剛性を得ることができる。
【0041】
このように本発明のナイフシリンダのうち前記積層構造としたときには、シリンダ周方向の繊維勾配角をもつ最内層と、該最内層の上にシリンダ軸方向の繊維勾配角をもつCFRP層と、シリンダ軸方向に対して±30度〜±60度の繊維勾配角をもつCFRP層とを積層することにより、圧縮強度に対する良好な保形性と、鉄より大きい引張り強度及び曲げ剛性と、各CFRP層間の強固な一体化と、高い捻り剛性とを保有することができる。
またこのように異方向の繊維勾配角をもつCFRP層を重ね合わせることにより、各層間の摩擦係数を増やして滑りをなくし、各層間の密着性を良くすることができる。
【0042】
また前記積層構造において、CFRP層の繊維密度が50体積%以上で、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206PGa以上となるように該炭素繊維の繊維勾配角とCFRP層に占めるピッチ系CFRP層の割合を設定するようにすれば、鉄より高い曲げ剛性を可能とし、同時に高い捻り剛性を付与することができる。このため図11に示す特許文献1のロータリカッタの構成と同様に、ナイフシリンダの一側側の歯車を省略することができる。
【0043】
本発明において、最内層の上に、シリンダ軸方向の繊維勾配角を有する第1のCFRP層、シリンダ軸方向に対して+30〜+60度の繊維勾配角を持つ第2のCFRP層、及びシリンダ軸方向に対して−30〜−60度の繊維勾配角を持つ第3のCFRP層を規則的に積層するようにすれば、高い曲げ剛性及び正逆両方向の荷重に対する高い捻り剛性を保持したナイフシリンダを実現でき、かつナイフシリンダの製造が容易になる。
【0044】
即ち一方向に揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグを複数層重ね合わせ、重ね合わせ時各プリプレグの繊維勾配角を前記第1〜第3のCFRP層の繊維勾配角に一致する方向に配置した積層体を予め用意しておき、該積層体を最内層上に複数重ね合わせるようにしていけば、ナイフシリンダを構成するCFRP層の製造が容易になる。
また第2のCFRP層と第3のCFRP層とをシリンダ軸方向に対して対称となる繊維勾配角とすれば、ナイフシリンダに発生する正逆両方向の捻り力に対して同一の捻り剛性を付与することができる。
【0045】
なお本発明の前記積層構造において、0度方向の引張り弾性率を鉄より高く構成することを前提として、ピッチ系CFRP層又はPAN系CFRP層のどちらか一方、あるいは両方を使用することができる。
【0046】
また本発明において、好ましくは、CFRP層で構成したナイフシリンダの表面をライニング層で被覆すれば、段ボールシートがジャムアップ(シート詰まり)した時などナイフシリンダの外周面に過大な外力がかかった場合や、段ボールシートがナイフシリンダに接触して磨耗するおそれがある場合に、このライニング層がナイフシリンダのCFRP層を保護し、CFRP層の破損、磨耗を防止するため、破壊しにくいナイフシリンダを実現することができる。
【0047】
ライニング層は、ゴム材又はガラス繊維強化プラスチック(GFRP)材等を用いるとよい。ゴム製ライニング層を用いれば、安価で済み、取り付けが比較的容易である。またGFRP製ライニング層を用いると、特にCFRP層の保護効果が著しい。
【0048】
また本発明のロータリカッタは、CFRP層で構成された前記ナイフシリンダと、該ナイフシリンダの内周面に嵌合される金属製ボスとからなり、該金属製ボスは、ナイフシリンダの内周面に嵌入される中空の円筒部と、該円筒部の一端に取り付けられたフランジ部と、該フランジ部から外方に突設された軸部とからなり、該ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの内周面に該円筒部を嵌入させることにより該金属製ボスで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成するものである。
【0049】
本発明のロータリカッタでは、CFRP層で構成した軽量であって曲げ剛性及び捩れ剛性の高いナイフシリンダを中空の円筒部に嵌合して回転可能に支持させるようにする。このようにナイフシリンダを中空の円筒部を有する金属製ボスで両端支持させることで、ナイフシリンダの重量増大を防ぎ、低慣性を保持できるようにしている。
これによってナイフシリンダの駆動モータの容量低減を図り、切断速度の増大を可能にしている。
【0050】
また最内層をシリンダ本体周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層で構成しているため、前述のように、該中空円筒部を冷却することにより、該最内層の圧縮強度とCFRPと金属との熱膨張率の違いを利用して、該最内層と該中空円筒部との間に隙間を生じさせ、金属製ボスからの脱着を容易にすることができる。
【0051】
また本発明のロータリカッタは、ナイフシリンダの外周面にナイフ取り付け台をスパイラル状に設け、該ナイフ取り付け台にナイフを取り付けるように構成し、該ナイフシリンダ軸と線対称となる位置の該ナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同等の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けるとよい。このようにすれば、鉄等金属製のナイフ取り付け台とCFRPとの熱膨張係数の違いに起因したナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。
【0052】
段ボールシートの切断速度の高速化に伴い、モータからの熱伝導や、高温シートを切断するナイフからの熱伝導、高い雰囲気温度等の影響により、ナイフシリンダ自体の温度も上昇する。このためナイフシリンダの表面温度は約60℃にも達し、熱膨張係数は、鉄で16.6×10−6(/℃)、ピッチ系CFRPで0.7×10−6(/℃)であり、鉄のほうが熱膨張係数は約24倍大きい。
【0053】
従ってナイフシリンダをCFRP層で構成し、CFRP層の外周面に鉄製のナイフ及びナイフ取り付け台を取り付けた場合、ナイフシリンダの表面が60℃ともなれば、ナイフ及びナイフ取り付け台の熱膨張により、ナイフシリンダはナイフ取り付け台がない側を内側にバナナ状に曲がってしまい、幅方向に均一な切断ができなくなる。
【0054】
本発明では、前記構成により、熱伸び防止部材の伸び量とナイフ及びナイフシリンダの伸び量とがキャンセルされ、その結果ナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。特に熱伸び防止部材の体積をナイフ及びナイフ取り付け台の合計体積と等しくすれば、両者の熱膨張による伸び分を同一とすることができるので、ナイフシリンダの曲がりを完全になくすことができる。
これにより、シート切断時に上下のナイフシリンダの取り付けられた上下ナイフの刃先ギャップが開くことなく、正確にシートを切断できる。
【0055】
実験によれば、全長3000mmのCFRP層を被覆したナイフシリンダで鉄製のナイフ及びナイフシリンダを取り付けた場合、常温から40℃の昇温によりナイフシリンダの中央部で約0.5mmの撓みが発生する。これは無視できない数値であり、シートの切断性能に影響を与える。
【0056】
さらに熱伸び防止部材を、ナイフシリンダに固設される取り付け台と、該取り付け台に着脱可能に取り付けられる本体部材とから構成すれば、ナイフシリンダが熱変形を生じた時に必要に応じて熱伸び防止部材をナイフシリンダに取り付けることができ、ナイフシリンダの熱変形を簡単に防止することができる。
【0057】
また熱伸び防止部材がシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に取り付けられることで、カウンタウェイトとしても機能させ、ナイフシリンダの振動防止用としても用いることができる。
前記構成により、熱伸び防止部材の本体部材を着脱可能とすれば、重量の異なる部材に取替え可能であるので、ナイフシリンダの固有振動数に合わせて重量を選択することにより、ナイフシリンダの振動を効果的に防止することができる。
【0058】
またナイフシリンダの外周面にスパイラル状に設けたナイフ取り付け台にシリンダ軸方向に向かって1個以上のスリットを設ければ、ナイフ取り付け台による熱伸びが半減することが本発明者等によって解明された。この構成によれば、かかる簡単な手段によってナイフシリンダの熱伸びを半減させ、シートの切断に支障をきたさないようにすることができる。
【0059】
また本発明によれば、ナイフシリンダに冷却手段を設けて、熱伸びによるナイフシリンダの曲がりを防止することもできる。冷却手段として、ナイフシリンダの外周面に複数のフィン又はフィン溝を設けるようにするか、あるいはナイフシリンダの内部に冷却空気を導入するようにしてもよい。例えばCFRP層からなるナイフシリンダの外周面にライニング層を被覆し、該ライニング層にナイフシリンダの周方向に間隔を置いてアルミニウム製のフィンを並設してもよい。
【0060】
また本発明において、CFRP層からなるナイフシリンダの外周面にナイフ取り付け台を固設する方法として、ナイフ取り付け台をナイフシリンダの外周面に熱硬化性樹脂系接着剤で接着する。熱硬化性樹脂系接着剤として、例えば接着性の良いエポキシ樹脂を用いてもよい。なお、強度面から剪断強度10MPa以上の接着強度のものを用いる方が好ましい。
さらに、安全面を考慮してナイフ取り付け台をナイフシリンダの外周面に該接着剤による接着に加えて、ボルト接合を併用してもよい。接着剤で十分な剪断強度が得られる場合は必ずしも必要ないが、ボルト接合を併用することにより、接着力をさらに強化できる。
【0061】
また本発明の前記積層構造を有するナイフシリンダの製造方法は、次のようにして行うことができる。即ち成形用マンドレルの円筒面上に、炭素繊維を一方向に揃えてシート状にした後樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグを、炭素繊維の勾配角が所定の角度になるように最内層から順に常温(15〜30℃、好ましくは18〜25℃)及び加圧下で巻き付けていくようにする。
本発明の前記積層構造は、最内層にシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層、好ましくはPAN系CFRP層を有し、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度並びに−30〜−60度の繊維勾配角を有するCFRP層を、シリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上となるように複数層積層した構成をもつ。
【0062】
次にこのように形成した積層体を加熱硬化し、その後加熱硬化した該積層体を前記成形用マンドレルから引抜くようにする。
シート状のプリプレグを加圧しながら一層ずつあるいは複数層ずつ成形用マンドレルに巻いていくやり方は、例えば図15に示す装置で実施することができる。図15において、成形用マンドレル042は3本のロール043、044及び045に挟持され、これらロール群の矢印方向の回転によって従動回転される。
【0063】
プリプレグ041は、最内層から順にマンドレル042とロール群043〜045との間に挿入されて該ロールの加圧力を受けながらマンドレル042に巻き付けられる。このようにプリプレグが一層又は複数層ずつ順にマンドレル042に巻き付けられ、該ロールの加圧力で巻き付け状態が保持される。
その後該積層されたプリプレグを成形用マンドレルごと加熱炉に入れて加熱硬化する。
【0064】
かかる方法によって、積層間の密着強度が大で繊維勾配角の異なる複数層のCFRP層からなる、高強度で曲げ剛性及び捩れ剛性がともに大であり、軽量で低慣性なナイフシリンダを製造することができる。
かかる方法は、炭素繊維を成形用マンドレルに直接巻き付ける従来の方法に比べて容易にナイフシリンダを製造可能である。
【0065】
なお最内層の上に、0度の繊維勾配角を有する第1のピッチ系CFRP層、+30〜+60度の繊維勾配角を有する第2のピッチ系CFRP層及び−30〜−60度の繊維勾配角を有する第3のピッチ系CFRP層を規則的に積層していくことにより、高い曲げ剛性及び正逆両方向の荷重に対する高い捻り剛性を保持しながら、前述のようにナイフシリンダの製造が容易になる。
【0066】
なお本発明のナイフシリンダの外周面にライニング層を被覆する場合、ゴム製ライニング層の場合は、加熱硬化処理した後のCFRP層の積層体の外表面にゴム製ライニング層を巻き付けた状態で、加熱炉に入れて加熱し、ゴム製ライニング層を加硫し硬化する。
またGFRP製のライニング層を被覆する場合は、形成用マンドレルに巻き付けた状態で加熱硬化処理前の前記炭素繊維プリプレグの積層体の外表面に該ライニング層を巻き付け、加熱炉に入れて該炭素繊維プリプレグの加熱硬化処理と該ライニング層の加熱硬化処理とを同時に行なっても良い。あるいは加熱硬化処理後のCFRP層に該ライニング層を巻き付けて加熱炉に入れ、該ライニング層のみを加熱硬化処理してもよい。
【0067】
このような方法でCFRP層の積層体からなるナイフシリンダの外周面にライニング層を強固に被着することができる。
またライニング層をナイフシリンダに軸方向に分割して被覆するようにすれば、低コストでライニング層による保護効果を得ることができ、またライニング層を分割するため、取り付けも容易になる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成されたナイフシリンダであるので、引張り強度と曲げ剛性が高く、そのためナイフシリンダを薄肉とすることができ、かつCFRP層自体が軽量であるため、この相乗効果で極めて低慣性なナイフシリンダを実現することができる。
【0069】
好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層、好ましくは高強度のPAN系CFRP層からなり、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するピッチ系CFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度並びに−30〜−60度の繊維勾配角を有するピッチ系CFRP層を複数層積層してシリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大となるように構成したことにより、曲げ剛性及び捩れ剛性が高く軽量で低慣性化を達成したナイフシリンダを実現できるとともに、ナイフシリンダの外側から内側に作用する圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して良好な保形性をもつことができる。
【0070】
このように外方から加わる圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して良好な保形性をもつことができるとともに、該保形性及びCFRP層と金属との熱膨張率の違いを利用して金属製の成形用マンドレル又は金属製ボスの支持円筒を冷却することにより、ナイフシリンダの該マンドレル又は該支持円筒からの着脱を容易にすることができる。
【0071】
これによって、シリンダ剛性が高く、破損しにくく、シリンダ寿命が延長できるとともに、ナイフシリンダの広幅化及び駆動モータの容量低減を図ることができ、切断速度を大幅に増大することができる。
また好ましくは、CFRPで構成したナイフシリンダの表面をライニング層で被覆すれば、このライニング層がナイフシリンダのCFRP層を保護し、CFRP層の破損、磨耗を防止でき、破壊しにくいナイフシリンダを実現することができる。
【0072】
また好ましくは、ナイフシリンダの外周面にスパイラル状に設けたナイフ取り付け台に対してシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同一の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けるようにすれば、鉄等金属製のナイフ取り付け台とCFRPとの熱膨張係数の違いに起因したナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。
【0073】
また熱伸び防止部材がシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に取り付けられることで、カウンタウェイトとしても機能させ、ナイフシリンダの振動防止を可能する。
また本発明によれば、ナイフシリンダに冷却手段を設けて、熱伸びによるナイフシリンダの曲がりを防止することもできる。
【0074】
また本発明のロータリカッタによれば、CFRP製のナイフシリンダを該ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの内周面に中空の円筒部を嵌入させることにより、該マンドレルで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成しているため、ナイフシリンダの重量増大を防ぎ、低慣性を保持でき、これによってナイフシリンダの駆動モータの容量低減を図り、切断速度の増大を可能にしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
図1の(a)は、本発明の第1実施形態の上ナイフシリンダを示す立面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う横断面図、図2は前記第1実施形態のナイフシリンダの横断面図、図3は前記第1実施形態のナイフシリンダのナイフ取り付け部の静的破壊試験結果を示す線図である。
【0076】
図4は本発明の第2実施形態のナイフシリンダの横断面図、図5は本発明の第3実施形態のナイフシリンダの横断面図、図6は本発明の第4実施形態のナイフシリンダの横断面図、図7は前記第4実施形態のナイフシリンダの立面図である。
図8は本発明の第5実施形態のナイフシリンダの横断面図、図9は本発明の第6実施形態のナイフ取り付け台の斜視図、図10は本発明の第7実施形態のナイフシリンダの横断面図、図11の(a)は本発明の第8実施形態のナイフシリンダの立面図、(b)はナイフシリンダの縦断面図である。
(実施形態1)
【0077】
本発明の第1実施形態を示す図1及び2において、上ナイフシリンダ2は、円筒形をしたCFRP層の積層体40で構成され、該積層体40を両側から鋼鉄製のボス50a及び50bが回転可能に支持している。ボス50a及び50bは、積層体40の内周面に嵌合される円筒部53a、53b、積層体40の端面が当接されるフランジ部52a及び52b、及びフランジ部52a、52bから外方に突設された軸部51a及び51bから構成される。
【0078】
上ナイフシリンダ2の外周部を構成する積層体40の一部はメタルインサート部32が形成され、そこに上ナイフ取り付け台30が固定ボルト34によって、図1(a)に図示するようにナイフシリンダ2の軸方向に沿ってスパイラル状に固設されている。また同時に上ナイフ取り付け台30は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂系接着剤によって積層体40の表面に接着されている。上ナイフ取り付け台30には固定ボルト36によって上ナイフ8が固定されている。下ナイフシリンダは、図示を省略しているが、図12に示すように、下ナイフ取り付け台を上ナイフ取り付け台30とシリンダ軸方向に対称に配置する以外は、上ナイフシリンダ2と同一構成をなす。
【0079】
上ナイフ8(及び図示しない下ナイフ)がナイフシリンダの軸方向に沿ってスパイラル状に固設される理由は、段ボールシートをナイフ始端S(図1(a)で右側)からナイフ終端E(同左側)に向かって徐々に切断するシェア切断を行い、過大な切断荷重を上下ナイフの刃先に付加しないためである。
【0080】
ナイフシリンダ2の外側部を構成するCFRP積層体40は、図2に示すように、その最内層は繊維勾配角がナイフシリンダ周方向(90度)に向いたPAN系CFRP層41で構成され、その上層は、順に繊維勾配角がナイフシリンダの軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42、繊維勾配角が+45度の方向に向いたピッチ系CFRP層43及び繊維勾配角が−45度の方向(ナイフシリンダ軸方向を中心として+と反対方向)に向いたピッチ系CFRP層44で構成されている。
【0081】
なおCFRP層43と44とは、重ね順序が逆であってもよい。かかる3層で構成された積層体が外周面まで複数層(n層)積層されている。このCFRP積層体40は、例えば25mmの厚さをもつ。
第1実施例は、上ナイフシリンダ2及び図示しない下ナイフシリンダがCFRP積層体40で構成されている。
【0082】
かかるナイフシリンダの製造方法は、図15に図示したような装置を用い、炭素繊維を一方向に揃えシート状とした後樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグ041を一層又は複数層ずつ常温(18〜25℃)下で成形用マンドレル042の周囲に配したロール群043〜045により加圧しながら成形用マンドレル042に巻いていく。この場合該プリプレグを加熱硬化した後の各CFRP層が前述のような繊維勾配角をもつように各プリプレグの巻き付け時の向きを変えていく。
【0083】
その後この積層体を成形用シリンダ042に巻き付けたまま加熱炉に入れ加熱硬化することにより、各層間を一体に固着してCFRP層からなるナイフシリンダを製造する。その後製造したナイフシリンダの最内層の高圧縮強度と、CFRPと金属との熱膨張率の違いを利用して、該ナイフシリンダを成形用マンドレル042から引き抜く。
【0084】
この場合該シート状のプリプレグ層を成形用マンドレル042に下層から順々に一層ずつ巻き付けていってもよいし、あるいは予め3層の該シート状プリプレグをそれぞれCFRP層42,43,44と同一方向の繊維勾配角となるように配置方向を調整して重ね巻きしておき、この3層からなる積層体を複数組順に成形用マンドレル042に巻き付けていくようにしてもよい。
本実施例においては、繊維勾配角がナイフシリンダの軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42の割合をナイフシリンダ本体の引張り弾性率が240GPaとなるように調節している。
【0085】
第1実施形態によれば、積層体40の最内層が繊維勾配角をナイフシリンダの周方向に向いたPAN系CFRP層41で構成されているため、ナイフシリンダの外側から内側に半径方向に向かう圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して、潰れにくい保形性をもつことができる。
【0086】
従って積層体40を成形用マンドレル又は金属製ボス50a、50bの円筒部53a、53bとの嵌合面から取り外す場合に、成形用マンドレルや該円筒部53a、53bを冷却したとき、該PAN系炭素繊維が高い圧縮強度をもつため、該炭素繊維に含浸した樹脂の熱収縮による圧縮荷重に抗して積層体40の潰れや収縮を阻止し、この保形性と金属製のマンドレル又は円筒部53a、53bとCFRP層との熱膨張率の差を利用して積層体40と該マンドレル又は円筒部53a、53bとの間に隙間を形成できるため、取り外しが容易になる利点がある。
【0087】
また上ナイフシリンダ2の外周部が高強度を有するピッチ系CFRP層の積層体で構成され、繊維勾配角がシリンダ軸方向に配置されたピッチ系CFRP層42の全体CFRP層に対する体積割合がナイフシリンダ2の引張り弾性率が240GPaとなるように設定され、かつピッチ系CFRP層43及び44が+45度、−45度の繊維勾配角を有するものであるため、曲げ剛性及び捻り剛性をともに高く維持でき、かつ軽量で低慣性なナイフシリンダとすることができる。
【0088】
そのためナイフシリンダで振動の発生が起こりにくく、シート切断時に上下ナイフシリンダに取り付けられた上下ナイフの刃先にギャップが生じないため、正確にシートを切断することができる。また低慣性であるため、ナイフシリンダの駆動モータを低容量とすることができ、シートの切断速度を大幅に増大することができる。
【0089】
また第1実施形態では、CFRP層43及び44の繊維勾配角を±45度とすることにより、炭素繊維が含浸している樹脂の収縮作用を最大にすることができ、これによってピッチ系CFRP層42〜44が収縮してPAN系CFRP層で構成された最内層41に密着し、強固に一体化された積層体を作ることができる。
なおCFRP層43及び44の繊維勾配角が±30〜±60度の範囲内で対称となる繊維勾配角になるように積層することにより、ナイフシリンダに発生する正逆両方向の捻りに対して同一の捻り剛性を確保することができる。
【0090】
なお第1実施形態において、0度の繊維勾配角をもつピッチ系CFRP層42と45度の繊維勾配角をもつピッチ系CFRP層43の間にさらにシリンダ周方向(90度)のPAN系CFRP層を挿入すれば、圧縮強度の一層優れた積層体を得ることができる。
【0091】
また上ナイフ取り付け台30を積層体40の表面に固定用ボルト34だけでなく、熱硬化性樹脂系接着剤(エポキシ樹脂接着剤;平均剪断荷重10MPa以上)で固着しているため、鋼鉄製の取り付け台30とCFRP積層体40との熱膨張率の大きな相違にかかわらず、取り付け台30を強固に積層体40に取り付けることができる。
また前述の方法でナイフシリンダを製造するため、炭素繊維をシリンダ成形用マンドレルに直接巻き付ける等の従来の方法に比べて製造工程が容易である。
【0092】
次に、本実施形態のナイフシリンダのナイフ取り付け部に対して行なった静的破壊試験結果及び疲労試験結果について説明する。
(1)ナイフ取り付け部の静的破壊試験結果
この試験は、室温にて供試体のナイフシリンダを固定した状態でナイフ取り付け台の長手軸方向中央部に垂直方向から静的荷重をかけ、即ち図2のナイフ取り付け台30に矢印a方向から静的荷重をかけ、静的破壊試験を行った。この結果を図3に示す。図3において、縦軸は荷重(N)、横軸は荷重方向のナイフ取り付け台の変位(mm)を示す。図3に示すように、ナイフ切断荷重1600Nの20倍の荷重を付与しても破断されなかった(Pmax=70440Nで破断した)。
【0093】
(2)ナイフ取り付け部の疲労試験結果
前記と同様の供試体について、前記試験と同一箇所で同一方向から以下のような条件で繰り返し荷重をかけて試験を行ったが、繰り返し数1×107回後でも供試体に目視で確認できる欠陥はなく、破断しなかった。
・試験温度:室温
・負荷荷重:Pmax1000N、Pmin100N
・振幅荷重:450N
・試験速度:5Hz
・試験機:島津製10ton疲労試験機
(実施形態2)
【0094】
次に本発明の第2実施形態を図4により説明する。図4において、第2実施形態は、積層体40の表面に、ライニング層としてグラス繊維強化プラスチック(GFRP)層又はゴム層55を被覆したものであり、その他の構成は第1実施形態と同一であるため、第1実施形態と同一の符号を付し、該同一符号を付した部位については説明を省略する。
かかるライニング層の被覆方法は、ライニング層としてゴム層を用いる場合には、すでに加熱硬化済みのCFRP層からなるナイフシリンダの外周面にゴム層を巻き付け、加熱炉に入れて加熱することによりゴム層を加硫硬化させる。
【0095】
ライニング層としてGFRP層を用いる場合には、ナイフシリンダ本体の成形時に、図15の巻付け装置を使ってナイフシリンダ本体を構成するCFRP層用プリプレグを巻き付けた後、ライニング層としてのGFRP層を同様に加圧しながら巻き付ける。
その後CFRP層用プリプレグとGFRP層とを成形用マンドレルに巻き付けた状態で加熱炉に入れ、CFRP層用プリプレグとGFRP層とを同時に加熱硬化する。その後ナイフシリンダを成形用マンドレルから引き抜く。この引き抜き時ナイフシリンダの保形性及びCFRPと金属の熱膨張率の違いを利用してナイフシリンダを成形用マンドレルから容易に引抜くことができる。
【0096】
あるいは加熱硬化処理後のナイフシリンダ(成形用マンドレルに巻き付けた状態のまま又は成形用マンドレルから引抜いた後のどちらでもよい)にGFRP層を巻きつけ、加熱炉に入れて加熱硬化させるようにしてもよい。
【0097】
第2実施形態によれば、積層体40の表面をGFRP層又はゴム層55で被覆したことにより、該ライニング層55がナイフシリンダの積層体40を保護し、積層体40のCFRP層の破損、磨耗を防止するため、破壊しにくいナイフシリンダとすることができる。ゴム製ライニング層を用いれば、安価で済み、取り付けが比較的容易であり、またGFRP製ライニング層を用いると、特にCFRP層の保護効果が著しい。
【0098】
なおこのようなライニング層をナイフシリンダの軸方向に分割して被覆するようにすれば、低コストでライニング層による保護効果を得ることができ、かつ取り付けが容易になる。例えばナイフシリンダの両端部及びナイフ取り付け台を取り付ける場所等特に積層体40が破損、磨耗しやすい場所を選んでライニング層を設ければよい。
(実施形態3)
【0099】
次に本発明の第3実施形態を図5により説明する。図5において、第3実施形態は、ナイフシリンダの外周部を構成する積層体40’の最内層は繊維勾配角がシリンダ周方向(90度)に向いたPAN系CFRP層41で構成され、その上層は下層から順に繊維勾配角がシリンダ軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42、繊維勾配角が+45°の方向に向いたPAN系CFRP層45、繊維勾配角が−45°の方向に向いたPAN系CFRP層46で構成されている。このような3層42,45,46をこの順序で組み合わせた積層体が外周面まで複数層(n層)積層されている。
【0100】
また積層体40’の外表面には前記第2実施形態と同様に、GFRP層又はゴム層からなるライニング層55を被覆している。またライニング層55は、ナイフシリンダの軸方向(シートの幅方向)に複数分割して被覆されている。
かかる構成の第3実施形態によれば、繊維勾配角が±45°の方向に向いたCFRP層を引張り弾性率がピッチ系より劣るがピッチ系より安価なPAN系CFRP層45及び46で構成したことにより、コスト低減を達成することができる。ただしシリンダ軸方向(0度)方向の引張り弾性率が240GPaとなるように0度方向のピッチ系CFRP層42の全体CFRP層に対する体積割合を調節している。
またライニング層55をナイフシリンダの幅方向に分割して被覆したことにより、低コストで積層体40’の保護効果を得ることができ、また取り付けが容易になる。
(実施形態4)
【0101】
次に本発明の第4実施形態を図6により説明する。図6において、第4実施形態は、ナイフシリンダの外周部を構成する積層体40の外表面に、熱伸び防止部材61を取り付けたものであり、その他の構成は図2に示す第1実施形態と同一であるので、第1実施形態と同一部位は同一符号を付すとともに、それらの説明を省略する。
【0102】
熱伸び防止部材61は、鋼鉄製のナイフ8及びナイフ取り付け台30と同一の熱膨張係数を有するもの(例えば鋼鉄製)であり、ナイフシリンダの軸方向にスパイラル状に配置されたナイフ8及びナイフ取り付け台30とナイフシリンダの軸線に対して線対称となる位置に配置されるとともに、ナイフ8及びナイフ取り付け台30の合計体積と同一の体積を有している。例えば図7に示すような形状及び配置位置をなす。
【0103】
CFRP製の積層体40と熱膨張係数が異なる鋼鉄製のナイフ8及びナイフ取り付け台30が高温化する運転環境により膨張し、これによってナイフシリンダ2を軸線hに沿ってバナナ形状に曲げる現象が生じるが、第4実施例では、積層体40の表面に熱伸び防止部材61を取り付けることにより、熱伸び防止部材61の伸び量とナイフ8及びナイフ取り付け台30の伸び量とが互いにキャンセルし合い、その結果ナイフシリンダ2の軸方向の曲がりを防止することができる。
【0104】
なお熱伸び防止部材61の積層体表面への取り付け方法は、ナイフ取り付け台30を積層体40に取り付ける場合の前述の取り付け方法と同一でよい。
また熱伸び防止部材61は、ナイフシリンダの軸方向に複数に分割して取り付けてもよく、この場合ナイフシリンダ周囲のスペースの無駄を省くことができる。
(実施形態5)
【0105】
次に本発明の第5実施形態を図8により説明する。図8において、第5実施形態は、第4実施形態の熱伸び防止部材61をナイフシリンダの外周部を構成する積層体40の内周面に取り付けたものである。熱伸び防止部材62は、熱伸び防止部材61と同様に、ナイフ8及びナイフ取り付け台30とナイフシリンダの軸線に対して線対称となる位置に配置されるとともに、ナイフ8及びナイフ取り付け台30と同一の体積を有している。
かかる構成によっても、第4実施形態と同様にナイフシリンダ2の曲がりを効果的に防止することができる。またナイフシリンダ2の内側に熱伸び防止部材62を設けているために、ナイフシリンダの外周にスペースを確保でき、シンプルな構造とすることができる。
(実施形態6)
【0106】
次に本発明の第6実施形態を図9により説明する。本実施形態は、ナイフ取り付け台(例えば図2に示すナイフ取り付け台30)の構造に関するものである。図9において、本実施形態のナイフ取り付け台70は、ナイフシリンダ外周面との接触面tを有する接触部71と、接触部71から立設されたナイフ取り付け部72とからなる。ナイフ取り付け部72には、複数のスリット73が長手方向に等間隔で並設されている。また接触部71には、スリット73と同一間隔でスリット73の延長上にR溝73が凹設されている。スリット73の間隔は例えば100〜200mmで構成される。
【0107】
第6実施形態によれば、かかる構成にナイフ取り付け台70を設けることにより、前記第4実施形態のように、熱伸び防止部材61を設けなくとも、ナイフ8及びナイフ取り付け台30によるナイフシリンダの熱伸びを半減することができる。このため回転慣性GD2も増加せず、ナイフシリンダの駆動モータの容量を低減でき、シンプルな構成でコスト低減を図ることができる。
このように第6実施形態では、ナイフ取り付け台の構造を工夫することにより、簡単にナイフシリンダの熱変形を少なくして、シートの切断に支障がないようにすることができる。
(実施形態7)
【0108】
次に本発明の第7実施形態を図10により説明する。図10は、上ナイフシリンダ2(下ナイフシリンダでもよい)の横断面図であり、本実施例は、ナイフ取り付け台30に対してナイフシリンダ軸線hを中心に線対称となる位置のナイフシリンダ外周面にカウンタバランス取り付け台81が取り付けられ、取り付け台81にカウンタバランス82が着脱可能に取り付けられている。
【0109】
なおカウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82の合計体積は、ナイフ及びナイフ取り付け台30と等しく、かつカウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82の熱膨張係数は、ナイフ及びナイフ取り付け台30と等しくなるように構成されている。
【0110】
かかる構成によれば、カウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82は、前記第4実施形態又は第5実施形態の熱伸び防止部材61又は62と同様に、ナイフシリンダの熱変形防止効果を有するとともに、ナイフシリンダの振動を防止する効果を有する。即ちカウンタバランス82を重量の異なる部材に取替え可能であるので、ナイフシリンダの固有振動数に合わせて重量を選択することにより、ナイフシリンダの振動を効果的に防止することができる。
またカウンタバランス82は、着脱可能であるので、ナイフシリンダの熱変形を防止する必要がある時のみ取り付けることができる。
(実施形態8)
【0111】
次に本発明の第8実施形態を図11により説明する。図11(a)は上ナイフシリンダ2を示す立面図であり、(b)は、ナイフシリンダ外周部の一部拡大断面図である。図11において、CFRP積層体40からなるナイフシリンダ2の外周部に、GFRP層又はゴム層からなるライニング層55を被覆し、ライニング層55の表面にナイフシリンダの周方向に間隔を置いて並設されたフィン91を設けている。
【0112】
かかる構成のフィン91を設けたことにより、ナイフシリンダ2の冷却効果が高まり、ナイフシリンダの軸方向熱伸びを効果的に防止することができる。これによってナイフシリンダの熱変形を防ぎ、上下ナイフシリンダに設けた上下ナイフ間のギャップの開きを防止し、シートの切断性能を維持することができる。
なお本実施形態において、別な手段としてライニング層55に溝(フィン溝)を設けて冷却機能をもたせてもよいし、あるいは別な冷却手段として、ナイフシリンダの中空な内部に冷却空気を供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態の上ナイフシリンダを示す立面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う横断面図である。
【図2】前記第1実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図3】前記第1実施形態のナイフ取り付け部の静的破壊試験結果を示す線図である。
【図4】本発明の第2実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図7】前記第4実施形態のナイフシリンダの立面図である。
【図8】本発明の第5実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図9】本発明の第6実施形態のナイフ取り付け台の斜視図である。
【図10】本発明の第7実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図11】(a)は本発明の第8実施形態のナイフシリンダの立面図、(b)はナイフシリンダの縦断面図である。
【図12】従来のロータリカッタの立面図である。
【図13】図11のロータリカッタの右側面図である。
【図14】従来のロータリカッタの上下ナイフの噛み合い状態を示す説明図である。
【図15】CFRP層又はライニング層の形成装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0114】
2 上ナイフシリンダ
8 上ナイフ
30、70 上ナイフ取り付け台
40、40’ CFRP層積層体
42、43、44 ピッチ系CFRP層
41、45、46 PAN系CFRP層
50a、50b ボス
51a、51b 軸
52a、52b フランジ部
53a、53b 円筒部
55 GFRP層又はゴム層(ライニング層)
61、62 熱伸び防止部材
73 スリット
82 カウンタバランス
91 フィン(冷却手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、コルゲータと称され、走行するライナ、中芯及び片面シートなどのシートを貼り合わせて段ボールシートを製造する段ボールシート製造装置において、貼り合わされた段ボールシートをカットオフするロータリカッタ、また特に該ロータリカッタを構成し高剛性化及び低慣性化をなし得たナイフシリンダの構成及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コルゲータと称される段ボール製造装置の製造ライン上流側には、一般的に、段ボールシートの原料になるライナや中芯原紙などのロール原紙を装備するミルロールスタンドと、コルゲータに向けて連続的に段ボール原紙を供給するための紙継ぎ装置としてのサプライサと、該ミルロールスタンドから繰り出された中芯原紙を波形に段成形してライナと貼り合わせ、片面段ボールシートを製造するシングルフェーサと、該シングルフェーサで製造された片面段ボールシートの段頂部に糊付けしてバックライナと貼り合わせて両面段ボールシートを製造するダブルフェーサとから構成される。
【0003】
さらにダブルフェーサの製造ライン下流側には、両面段ボールシートの生産オーダに沿って所望位置に罫線加工及び裁断加工を行なうスリッタスコアラと、両面段ボールシートの切断加工を行なうカットオフ装置(ロータリカッタ)が設けられ、ロータリカッタの下流側には、紙継ぎ装置やコルゲータで段ボールシート製造中に発生した不良シートを除去する不良シート除去機が設けられている。
【0004】
特許文献1(特開2002−284430号公報)には、従来の段ボールシートのカットオフ装置が開示されている。図12はこのカットオフ装置の立面図、図13は同じく右側面図、図14は図12中のB−B線に沿う横断面図である。図12〜14において、左右のフレーム01,01に上ベアリング04及び下ベアリング05を介して回転可能に両軸端部を支持されて上下ナイフシリンダ02,03が備えられ、上ナイフシリンダ02には上ナイフ08が、下ナイフシリンダ03には下ナイフ09が、いずれもヘリカル状に取り付けられており、上下のナイフ08,09が噛み合って走行する段ボールシートDを切断するように構成されている。
【0005】
本装置では、上ナイフシリンダ02の一方(ここでは右方)の軸端には上メインギア020が取り付けられ、下ナイフシリンダ03の一方(右方)の軸端には上メインギア020と噛み合う下メインギア021が取り付けられている。下メインギア021は、上メインギア020とのガタ調整のため2分割されたスプリット歯車を構成しており、2分割された一方の歯車で上メインギア020との噛み合いにおいてバックラッシュを防止できる機構となっている。
【0006】
また下メインギア021には下ピニオンギア023a、023bを介して補助駆動モータとしての下駆動モータ025a、025bが接続されており、上メインギア020には上ピニオンギア022a、022bを介して主駆動モータとしての上駆動モータ024a、024bが接続されている。これらの駆動モータ024a、024b、025a、025bは、コントローラ026により制御されるようになっている。
【0007】
上下ナイフ08,09は、ヘリカル状に取り付けられているため、ナイフ08,09の噛み合いは、一端(図12では右側端、これを始端Sとする)から始まり他端(図12では左側端、これを終端Eとする)に向かって進む。このように段ボールシートDの切断を始端Sから終端Eに向かって行なうシェア切断とし、過大な切断荷重を上下ナイフ刃先にかけないようにしている。
図14は、本装置の横断面から視た、上下ナイフの噛み合い状態と段ボールシートDの潰れ(切断)状態を示す説明図である。図14において、上下ナイフシリンダ02、03の外周面には、上下ナイフシリンダのメタルインサート部032,033に取り付けられる固定用ボルト034,035によって上下ナイフ取り付け台030、031が取り付けられている。
【0008】
上下ナイフ取り付け台030,031には、上下ナイフ固定用ボルト036,037によって上下ナイフ08,09が取り付けられている。t1は上ナイフ08の刃先の軌跡であり、t2は下ナイフ09の刃先の軌跡である。
かかる構成において、段ボールシートDは矢印R3方向に走行し、上下ナイフシリンダ08,09が、夫々矢印R1、R2方向に回転して、上下ナイフの噛み合い開始点Aで切断を開始し、噛み合い終了点Bで切断を終了する。
【0009】
段ボールシートDの切断時切断荷重がナイフ08,09にかかる。このためナイフ08,09及びナイフシリンダ02,03に撓みが生じて、両ナイフ08,09の刃先が開くことになる。この刃先の開きが大きくなると、シートDの切断ができないため、切断中の刃先の開きを防止するため、予めナイフ08,09間に所定の押付力(上下ナイフ08,09の対向面間を押し付ける接触力、以下「与圧力」という。)を与えている。
【0010】
従来この与圧力を与えるために、下ナイフシリンダ09のナイフ取り付け台031に与圧力付与用ボルト038を取り付けていた。与圧力付与用ボルト038によって下ナイフ09を上ナイフ08側に押すことによって上下ナイフシリンダ間に互いに撓みを発生させ、これによって上下ナイフ08,09間に与圧力を付与するようにしていた。なお与圧力付与用ボルト038は、上ナイフシリンダ02に設けてもよい。
【0011】
しかしかかる方法では、終端E側にも上下メインギア020、021を設けて、ナイフシリンダの両端側からナイフシリンダを支持して、上下ナイフの刃先の開きを拘束する必要がある。またナイフシリンダの必要以上の撓みの増大をなくすためにはナイフシリンダの剛性を高くしなければならなかった。
【0012】
そのため本装置では、上下ナイフ08,09が噛み合う範囲では、下メインギア021の歯面を削り、上メインギア020との間に積極的に遊隙ができるように構成し、この遊隙により上下ナイフ08,09が互いに接近するよう上下ナイフシリンダの回転位相を変えることができるようにしている。
【0013】
また上下ナイフ08,09が噛み合っていない範囲では、下駆動モータ025a、025bは上駆動モータ024a、024bに連れ回り状態となるか、又は上駆動モータ024a、024bと同期して回転するようにコントローラ026により制御される。そして上下ナイフが噛み合う範囲では、下駆動モータ025a、025bは、下ナイフ09を上ナイフ08に押し付ける押付力が生じるようにコントローラ026によってトルク制御されるようになっている。
【0014】
このようにナイフシリンダの駆動モータを制御することにより、両ナイフ間に押付力を与えるようにしており、これによって押付力の調整を容易にし、ナイフシリンダの剛性を小さいものにすることができ、またナイフシリンダの一端側の歯車を省略できるようになり、ナイフシリンダの駆動モータを小容量化することができるようになる利点がある。
【0015】
しかし最近になって段ボールシートの生産コストの低減及び生産効率の向上がますます要求されるようになってきており、そのため切断精度を維持しながらカットオフ装置(ロータリカッタ)における段ボールシートの切断速度をさらに増大させるとともに、シートの広幅化を図り、一方で駆動モータの容量を低減する必要性が高まってきた。
高速回転あるいは広幅化に耐え得るためにはナイフシリンダの曲げ剛性及び捩れ剛性を一層向上させる必要があり、一方で軽量化を図って低慣性とする必要がある。
【0016】
特許文献2(実用新案登録第2527288号公報)には、ナイフシリンダを、鋼鉄製の軸芯材と、該軸芯材を外装する炭素繊維の非鋼鉄製の外周材とをもって形成することにより、曲げ剛性、捻り剛性を損なうことなく、回転慣性の軽減を図ったロータリカッタが開示されている。
【0017】
また特許文献3(特開2002−254388号公報)には、ロールに巻き取られた状態の紙、プラスチックフィルム等の材料(原反)走行過程で長さ方向に沿って所定の幅間隔ごとに複数枚にスリットするスリッタの広幅化、軽量化を図るとともに、高速回転を可能にし、短時間で大量のスリット製品を生産可能にしたスリッタ用下刃溝付きローラについて開示されている。
【0018】
このスリッタは、上刃を該下刃溝付きローラの軸方向に所定の間隔(原反のスリット幅に相当)ごとに配置するとともに、上刃を対応する下刃溝内に入れた状態で下刃溝付きローラを回転させ、かつ原反を該ローラと上刃間に案内し、該ローラの回転に合わせて原反を走行させることにより、原反を上刃によって切断するものであるが、該ローラの主軸を円筒状に形成した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製で構成するとともに、該主軸の外面に嵌合される溝付円筒体をCFRP製内管と外周面に下刃用溝を有するステンレス製外管とを密着した二重管構造とすることにより、軽量化を図るとともに、撓み、歪み等に対し高剛性を維持するようにしたものである。
【0019】
【特許文献1】特開2002−284430号公報
【特許文献2】実用新案登録第2527288号公報
【特許文献3】特開2002−254388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら特許文献2に開示されたナイフシリンダは、軸芯材が鋼鉄製であるため、未だ十分な低慣性化が図られていない。また炭素繊維を、軸芯材を外装する外周材に使うというアイデアのみが開示されているにすぎない。
また特許文献3においても、スリッタ用下刃溝付きローラの主軸等をCFRP製とするというアイデアのみが開示されているにすぎず、このアイデアをそのままロータリカッタのナイフシリンダに適用しても、最近のニーズに十分対応できる高い曲げ剛性や捻り剛性及び低慣性のナイフシリンダを実現することができない。
【0021】
ロータリカッタでは、段ボールシートの切断速度の高速化に伴い、モータからの熱伝導や、高温シートを切断するナイフからの熱伝導、高い雰囲気温度等の影響により、ナイフシリンダ自体の温度も上昇する。このためナイフシリンダの表面温度は約60℃にも達し、熱膨張係数は、鉄で16.6×10−6(/℃)、ピッチ系CFRPで0.7×10−6(/℃)であり、鉄のほうが熱膨張係数は約24倍大きい。
【0022】
ナイフシリンダの軸方向長さは通常1400mm〜2800mmあり、このためCFRP製のナイフシリンダを採用した場合、ナイフシリンダの表面温度が60℃となれば、CFRP自体よりその外周面に取り付けてあるナイフ及びナイフ取り付け台が、熱膨張係数の違いにより主に幅方向(ナイフシリンダ軸方向)に伸長し、結果としてナイフシリンダは、ナイフ取り付け台がない側を内側にバナナ状に曲がってしまい、幅方向に均一な切断ができなくなる。
【0023】
またロータリカッタには様々な振動要因があり、ナイフシリンダが振動すると、与圧力に影響を与えるため、適正な与圧状態を保持しにくい。そこで振動振幅を小さくするために、ナイフシリンダの剛性を高くすると、従来の金属製では回転の慣性モーメントが大きくなり、シリンダ系の回転慣性GD2(Gは回転体の重量、Dは回転体の直径)も増大し、加減速制御する駆動モータの容量を大きくしなければならない。
【0024】
本発明は、かかる従来技術の課題に鑑み、ロータリカッタにおいて、最近の切断速度の高速化及び段ボールシートの広幅化に対応し得る、軽量で低慣性でありかつ十分な引張り強度と曲げ剛性及び捻り剛性をもったナイフシリンダを実現することを目的とする。
また段ボールシートのジャムアップ(シート詰まり)等でナイフシリンダに過大な外力が加わった場合や、シートがナイフシリンダに接触した場合に、ナイフシリンダのシートによる破損、磨耗を防ぎ、こわれにくいナイフシリンダを実現することを目的とする。
【0025】
またナイフシリンダの高温化による熱変形を防止するとともに、ナイフシリンダの振動を防止し、かつCFRP製のナイフシリンダ外周面への金属製のナイフ取り付け台の取り付けを強固かつ容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
かかる目的を達成するため、本発明のナイフシリンダは、一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成されたものである。
【0027】
このようにナイフシリンダ本体を金属よりも軽いCFRP層で構成し、さらにシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成することで、引張り強度と曲げ剛性が高いナイフシリンダを実現でき、引張り強度と曲げ剛性が高いため、ナイフシリンダを薄肉とすることができ、かつCFRP層自体が軽量であるため、この相乗効果で極めて低慣性なナイフシリンダを実現することができる。
該CFRP層は、繊維勾配角が一様となるよう一方向に揃えて並べた炭素繊維に樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグ(樹脂がまだ柔らかい状態で表面の摩擦係数が大)を複数層積層した後、加熱硬化させて製造することができる。
【0028】
CFRP層中の炭素繊維をシリンダ軸方向に対して傾きをもたせて配置すると、該炭素繊維のシリンダ軸方向の引張り弾性率は急激に低下する。従ってシリンダ軸方向の引張り弾性率を206GPa以上とするためには、CFRP層を構成する炭素繊維の70体積%以上がシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有し、該繊維勾配角を有する炭素繊維が590GPa以上の引張り弾性率を有するように構成するとよい。
【0029】
即ちCFRP層中の炭素繊維の繊維密度は、通常60体積%程度が上限であるが、次の計算式(1)から、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角をもつ炭素繊維の割合が70体積%以上であり、かつ該繊維勾配角をもつ炭素繊維の引張り弾性率が590GPa以上であれば、シリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上であるナイフシリンダを製造することができる。
【数1】
【0030】
またシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角をもつ炭素繊維の割合が70%以上である場合、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維の80体積%以上をピッチ系CFRPとすれば、残りのCFRPがPAN系CFRPであっても、シリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大きいナイフシリンダを製造可能である。即ちピッチ系CFRPの引張り弾性率は640GPaであり、PAN系CFRPの引張り弾性率230GPaであり、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維の80体積%以上をピッチ系CFRPとし、残りをPAN系CFRPとすれば、次の計算式(2)及び(3)から、合計の引張り弾性率が206GPaを越えるので、シリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大きいナイフシリンダを製造可能となる。
【0031】
【数2】
【数3】
【0032】
また本発明では、好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層からなり、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度及び−30〜−60度の繊維勾配角を有するCFRP層を複数層積層してシリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大となるように構成するとよい。なお本明細書では、便宜上ナイフシリンダのシリンダ軸方向を0度とし、シリンダ周方向を90度とする。
【0033】
従来多層からなる円筒形状のCFRP層を製造する方法は、炭素繊維を液状の樹脂にドブ漬けした後、成形用マンドレルに所定の角度をもたせて直接炭素繊維を巻き付け、これを複数回繰り返して多層に形成し、その後加熱硬化して多層のCFRP層を形成する方法と、炭素繊維を一方向に揃えて並べたりあるいは織ったりしてシート状にした後、樹脂を含浸させてシート状のプリプレグを製造し、それを成形用マンドレルに一層ずつ巻き付けた後加熱硬化する方法とがある。本発明の前記積層構造においては、後者の方法で多層の円筒状CFRP層を製造する。
【0034】
また前記積層構造においては、最内層をシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層で構成する。CFRPの繊維勾配角をシリンダ周方向に配置することによって、ナイフシリンダの外側から内側方向に作用する圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持することができるため、かかる圧縮荷重に対抗して良好な保形性をもつことができる。
【0035】
該最内層の上部には、シリンダ軸方向(0度)に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層を複数層積層する構成としているが、繊維勾配角がシリンダ周方向(90度)以外に配置された繊維勾配角を有するCFRP層は、炭素繊維が含浸した樹脂の内側への熱収縮を炭素繊維が阻止する作用を有しないため収縮が起こり、この収縮作用によって最内層に対して隙間のない密着した積層体を形成することができる。
【0036】
この収縮作用は、繊維勾配角がシリンダ軸方向に対して±45度に配置された場合を極大として、シリンダ軸方向に対して±30〜±60度の範囲で配置された場合に大きな収縮作用があり、この範囲の繊維勾配角を有するCFRP層を配置することによって、各層間に隙間のない強固に一体化された積層体を形成することができる。
【0037】
ナイフシリンダは、金属製(通常鉄製)の支持円筒の外面に嵌入されて該円筒で支持固定されるが、本発明のナイフシリンダを該円筒から引き抜く場合には、最内層の保形性を利用し、かつ金属とCFRPとの熱膨張率の違いを利用して、引抜きを容易に行なうことができる。
【0038】
即ち該支持円筒を冷却して熱収縮させ、該支持円筒とCFRP層との間に緩みをもたせる。この場合最内層のCFRP層の繊維勾配角がシリンダ周方向を向いているので、この繊維勾配角を有する炭素繊維が炭素繊維に含浸した樹脂の熱収縮で発生する圧縮荷重に対抗して熱収縮を阻止する作用をなす。また金属の高い熱膨張係数により、支持円筒を冷却した場合、CFRP層との間に十分な隙間を生じさせることができるため、支持円筒からの引抜きを容易にすることができる。
【0039】
本発明のナイフシリンダを成形用マンドレルで成形した後、該成形用マンドレルから引き抜く場合も前記の性質を利用してナイフシリンダと該成形用マンドレルとの間に隙間を持たせることにより該形成用マンドレルからの引抜きを容易にすることができる。
なお好ましくは、最内層を構成するCFRPとしてピッチ系CFRPよりも高強度をもつPAN系CFRPを用いれば、熱収縮に対する圧縮荷重に抗して十分な圧縮強度をもつことができる。
【0040】
また最内層の上にシリンダ軸に対して±30〜±60度の繊維勾配角を有するCFRP層を配置することによって、ナイフシリンダの捻り剛性を高めることができる。
またシリンダ軸方向のCFRP層をシリンダ本体の引張り弾性率が206GPa以上となるように配置することによって、高い引張り強度と曲げ剛性を得ることができる。
【0041】
このように本発明のナイフシリンダのうち前記積層構造としたときには、シリンダ周方向の繊維勾配角をもつ最内層と、該最内層の上にシリンダ軸方向の繊維勾配角をもつCFRP層と、シリンダ軸方向に対して±30度〜±60度の繊維勾配角をもつCFRP層とを積層することにより、圧縮強度に対する良好な保形性と、鉄より大きい引張り強度及び曲げ剛性と、各CFRP層間の強固な一体化と、高い捻り剛性とを保有することができる。
またこのように異方向の繊維勾配角をもつCFRP層を重ね合わせることにより、各層間の摩擦係数を増やして滑りをなくし、各層間の密着性を良くすることができる。
【0042】
また前記積層構造において、CFRP層の繊維密度が50体積%以上で、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206PGa以上となるように該炭素繊維の繊維勾配角とCFRP層に占めるピッチ系CFRP層の割合を設定するようにすれば、鉄より高い曲げ剛性を可能とし、同時に高い捻り剛性を付与することができる。このため図11に示す特許文献1のロータリカッタの構成と同様に、ナイフシリンダの一側側の歯車を省略することができる。
【0043】
本発明において、最内層の上に、シリンダ軸方向の繊維勾配角を有する第1のCFRP層、シリンダ軸方向に対して+30〜+60度の繊維勾配角を持つ第2のCFRP層、及びシリンダ軸方向に対して−30〜−60度の繊維勾配角を持つ第3のCFRP層を規則的に積層するようにすれば、高い曲げ剛性及び正逆両方向の荷重に対する高い捻り剛性を保持したナイフシリンダを実現でき、かつナイフシリンダの製造が容易になる。
【0044】
即ち一方向に揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグを複数層重ね合わせ、重ね合わせ時各プリプレグの繊維勾配角を前記第1〜第3のCFRP層の繊維勾配角に一致する方向に配置した積層体を予め用意しておき、該積層体を最内層上に複数重ね合わせるようにしていけば、ナイフシリンダを構成するCFRP層の製造が容易になる。
また第2のCFRP層と第3のCFRP層とをシリンダ軸方向に対して対称となる繊維勾配角とすれば、ナイフシリンダに発生する正逆両方向の捻り力に対して同一の捻り剛性を付与することができる。
【0045】
なお本発明の前記積層構造において、0度方向の引張り弾性率を鉄より高く構成することを前提として、ピッチ系CFRP層又はPAN系CFRP層のどちらか一方、あるいは両方を使用することができる。
【0046】
また本発明において、好ましくは、CFRP層で構成したナイフシリンダの表面をライニング層で被覆すれば、段ボールシートがジャムアップ(シート詰まり)した時などナイフシリンダの外周面に過大な外力がかかった場合や、段ボールシートがナイフシリンダに接触して磨耗するおそれがある場合に、このライニング層がナイフシリンダのCFRP層を保護し、CFRP層の破損、磨耗を防止するため、破壊しにくいナイフシリンダを実現することができる。
【0047】
ライニング層は、ゴム材又はガラス繊維強化プラスチック(GFRP)材等を用いるとよい。ゴム製ライニング層を用いれば、安価で済み、取り付けが比較的容易である。またGFRP製ライニング層を用いると、特にCFRP層の保護効果が著しい。
【0048】
また本発明のロータリカッタは、CFRP層で構成された前記ナイフシリンダと、該ナイフシリンダの内周面に嵌合される金属製ボスとからなり、該金属製ボスは、ナイフシリンダの内周面に嵌入される中空の円筒部と、該円筒部の一端に取り付けられたフランジ部と、該フランジ部から外方に突設された軸部とからなり、該ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの内周面に該円筒部を嵌入させることにより該金属製ボスで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成するものである。
【0049】
本発明のロータリカッタでは、CFRP層で構成した軽量であって曲げ剛性及び捩れ剛性の高いナイフシリンダを中空の円筒部に嵌合して回転可能に支持させるようにする。このようにナイフシリンダを中空の円筒部を有する金属製ボスで両端支持させることで、ナイフシリンダの重量増大を防ぎ、低慣性を保持できるようにしている。
これによってナイフシリンダの駆動モータの容量低減を図り、切断速度の増大を可能にしている。
【0050】
また最内層をシリンダ本体周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層で構成しているため、前述のように、該中空円筒部を冷却することにより、該最内層の圧縮強度とCFRPと金属との熱膨張率の違いを利用して、該最内層と該中空円筒部との間に隙間を生じさせ、金属製ボスからの脱着を容易にすることができる。
【0051】
また本発明のロータリカッタは、ナイフシリンダの外周面にナイフ取り付け台をスパイラル状に設け、該ナイフ取り付け台にナイフを取り付けるように構成し、該ナイフシリンダ軸と線対称となる位置の該ナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同等の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けるとよい。このようにすれば、鉄等金属製のナイフ取り付け台とCFRPとの熱膨張係数の違いに起因したナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。
【0052】
段ボールシートの切断速度の高速化に伴い、モータからの熱伝導や、高温シートを切断するナイフからの熱伝導、高い雰囲気温度等の影響により、ナイフシリンダ自体の温度も上昇する。このためナイフシリンダの表面温度は約60℃にも達し、熱膨張係数は、鉄で16.6×10−6(/℃)、ピッチ系CFRPで0.7×10−6(/℃)であり、鉄のほうが熱膨張係数は約24倍大きい。
【0053】
従ってナイフシリンダをCFRP層で構成し、CFRP層の外周面に鉄製のナイフ及びナイフ取り付け台を取り付けた場合、ナイフシリンダの表面が60℃ともなれば、ナイフ及びナイフ取り付け台の熱膨張により、ナイフシリンダはナイフ取り付け台がない側を内側にバナナ状に曲がってしまい、幅方向に均一な切断ができなくなる。
【0054】
本発明では、前記構成により、熱伸び防止部材の伸び量とナイフ及びナイフシリンダの伸び量とがキャンセルされ、その結果ナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。特に熱伸び防止部材の体積をナイフ及びナイフ取り付け台の合計体積と等しくすれば、両者の熱膨張による伸び分を同一とすることができるので、ナイフシリンダの曲がりを完全になくすことができる。
これにより、シート切断時に上下のナイフシリンダの取り付けられた上下ナイフの刃先ギャップが開くことなく、正確にシートを切断できる。
【0055】
実験によれば、全長3000mmのCFRP層を被覆したナイフシリンダで鉄製のナイフ及びナイフシリンダを取り付けた場合、常温から40℃の昇温によりナイフシリンダの中央部で約0.5mmの撓みが発生する。これは無視できない数値であり、シートの切断性能に影響を与える。
【0056】
さらに熱伸び防止部材を、ナイフシリンダに固設される取り付け台と、該取り付け台に着脱可能に取り付けられる本体部材とから構成すれば、ナイフシリンダが熱変形を生じた時に必要に応じて熱伸び防止部材をナイフシリンダに取り付けることができ、ナイフシリンダの熱変形を簡単に防止することができる。
【0057】
また熱伸び防止部材がシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に取り付けられることで、カウンタウェイトとしても機能させ、ナイフシリンダの振動防止用としても用いることができる。
前記構成により、熱伸び防止部材の本体部材を着脱可能とすれば、重量の異なる部材に取替え可能であるので、ナイフシリンダの固有振動数に合わせて重量を選択することにより、ナイフシリンダの振動を効果的に防止することができる。
【0058】
またナイフシリンダの外周面にスパイラル状に設けたナイフ取り付け台にシリンダ軸方向に向かって1個以上のスリットを設ければ、ナイフ取り付け台による熱伸びが半減することが本発明者等によって解明された。この構成によれば、かかる簡単な手段によってナイフシリンダの熱伸びを半減させ、シートの切断に支障をきたさないようにすることができる。
【0059】
また本発明によれば、ナイフシリンダに冷却手段を設けて、熱伸びによるナイフシリンダの曲がりを防止することもできる。冷却手段として、ナイフシリンダの外周面に複数のフィン又はフィン溝を設けるようにするか、あるいはナイフシリンダの内部に冷却空気を導入するようにしてもよい。例えばCFRP層からなるナイフシリンダの外周面にライニング層を被覆し、該ライニング層にナイフシリンダの周方向に間隔を置いてアルミニウム製のフィンを並設してもよい。
【0060】
また本発明において、CFRP層からなるナイフシリンダの外周面にナイフ取り付け台を固設する方法として、ナイフ取り付け台をナイフシリンダの外周面に熱硬化性樹脂系接着剤で接着する。熱硬化性樹脂系接着剤として、例えば接着性の良いエポキシ樹脂を用いてもよい。なお、強度面から剪断強度10MPa以上の接着強度のものを用いる方が好ましい。
さらに、安全面を考慮してナイフ取り付け台をナイフシリンダの外周面に該接着剤による接着に加えて、ボルト接合を併用してもよい。接着剤で十分な剪断強度が得られる場合は必ずしも必要ないが、ボルト接合を併用することにより、接着力をさらに強化できる。
【0061】
また本発明の前記積層構造を有するナイフシリンダの製造方法は、次のようにして行うことができる。即ち成形用マンドレルの円筒面上に、炭素繊維を一方向に揃えてシート状にした後樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグを、炭素繊維の勾配角が所定の角度になるように最内層から順に常温(15〜30℃、好ましくは18〜25℃)及び加圧下で巻き付けていくようにする。
本発明の前記積層構造は、最内層にシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層、好ましくはPAN系CFRP層を有し、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度並びに−30〜−60度の繊維勾配角を有するCFRP層を、シリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上となるように複数層積層した構成をもつ。
【0062】
次にこのように形成した積層体を加熱硬化し、その後加熱硬化した該積層体を前記成形用マンドレルから引抜くようにする。
シート状のプリプレグを加圧しながら一層ずつあるいは複数層ずつ成形用マンドレルに巻いていくやり方は、例えば図15に示す装置で実施することができる。図15において、成形用マンドレル042は3本のロール043、044及び045に挟持され、これらロール群の矢印方向の回転によって従動回転される。
【0063】
プリプレグ041は、最内層から順にマンドレル042とロール群043〜045との間に挿入されて該ロールの加圧力を受けながらマンドレル042に巻き付けられる。このようにプリプレグが一層又は複数層ずつ順にマンドレル042に巻き付けられ、該ロールの加圧力で巻き付け状態が保持される。
その後該積層されたプリプレグを成形用マンドレルごと加熱炉に入れて加熱硬化する。
【0064】
かかる方法によって、積層間の密着強度が大で繊維勾配角の異なる複数層のCFRP層からなる、高強度で曲げ剛性及び捩れ剛性がともに大であり、軽量で低慣性なナイフシリンダを製造することができる。
かかる方法は、炭素繊維を成形用マンドレルに直接巻き付ける従来の方法に比べて容易にナイフシリンダを製造可能である。
【0065】
なお最内層の上に、0度の繊維勾配角を有する第1のピッチ系CFRP層、+30〜+60度の繊維勾配角を有する第2のピッチ系CFRP層及び−30〜−60度の繊維勾配角を有する第3のピッチ系CFRP層を規則的に積層していくことにより、高い曲げ剛性及び正逆両方向の荷重に対する高い捻り剛性を保持しながら、前述のようにナイフシリンダの製造が容易になる。
【0066】
なお本発明のナイフシリンダの外周面にライニング層を被覆する場合、ゴム製ライニング層の場合は、加熱硬化処理した後のCFRP層の積層体の外表面にゴム製ライニング層を巻き付けた状態で、加熱炉に入れて加熱し、ゴム製ライニング層を加硫し硬化する。
またGFRP製のライニング層を被覆する場合は、形成用マンドレルに巻き付けた状態で加熱硬化処理前の前記炭素繊維プリプレグの積層体の外表面に該ライニング層を巻き付け、加熱炉に入れて該炭素繊維プリプレグの加熱硬化処理と該ライニング層の加熱硬化処理とを同時に行なっても良い。あるいは加熱硬化処理後のCFRP層に該ライニング層を巻き付けて加熱炉に入れ、該ライニング層のみを加熱硬化処理してもよい。
【0067】
このような方法でCFRP層の積層体からなるナイフシリンダの外周面にライニング層を強固に被着することができる。
またライニング層をナイフシリンダに軸方向に分割して被覆するようにすれば、低コストでライニング層による保護効果を得ることができ、またライニング層を分割するため、取り付けも容易になる。
【発明の効果】
【0068】
本発明によれば、シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上、好ましくは220GPa以上となるように構成されたナイフシリンダであるので、引張り強度と曲げ剛性が高く、そのためナイフシリンダを薄肉とすることができ、かつCFRP層自体が軽量であるため、この相乗効果で極めて低慣性なナイフシリンダを実現することができる。
【0069】
好ましくは、最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有するCFRP層、好ましくは高強度のPAN系CFRP層からなり、該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有するピッチ系CFRP層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度並びに−30〜−60度の繊維勾配角を有するピッチ系CFRP層を複数層積層してシリンダ軸方向の引張り弾性率が鉄より大となるように構成したことにより、曲げ剛性及び捩れ剛性が高く軽量で低慣性化を達成したナイフシリンダを実現できるとともに、ナイフシリンダの外側から内側に作用する圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して良好な保形性をもつことができる。
【0070】
このように外方から加わる圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して良好な保形性をもつことができるとともに、該保形性及びCFRP層と金属との熱膨張率の違いを利用して金属製の成形用マンドレル又は金属製ボスの支持円筒を冷却することにより、ナイフシリンダの該マンドレル又は該支持円筒からの着脱を容易にすることができる。
【0071】
これによって、シリンダ剛性が高く、破損しにくく、シリンダ寿命が延長できるとともに、ナイフシリンダの広幅化及び駆動モータの容量低減を図ることができ、切断速度を大幅に増大することができる。
また好ましくは、CFRPで構成したナイフシリンダの表面をライニング層で被覆すれば、このライニング層がナイフシリンダのCFRP層を保護し、CFRP層の破損、磨耗を防止でき、破壊しにくいナイフシリンダを実現することができる。
【0072】
また好ましくは、ナイフシリンダの外周面にスパイラル状に設けたナイフ取り付け台に対してシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同一の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けるようにすれば、鉄等金属製のナイフ取り付け台とCFRPとの熱膨張係数の違いに起因したナイフシリンダの軸方向の曲がりを防止することができる。
【0073】
また熱伸び防止部材がシリンダ軸と線対称となる位置のナイフシリンダ外周面又は内周面に取り付けられることで、カウンタウェイトとしても機能させ、ナイフシリンダの振動防止を可能する。
また本発明によれば、ナイフシリンダに冷却手段を設けて、熱伸びによるナイフシリンダの曲がりを防止することもできる。
【0074】
また本発明のロータリカッタによれば、CFRP製のナイフシリンダを該ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの内周面に中空の円筒部を嵌入させることにより、該マンドレルで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成しているため、ナイフシリンダの重量増大を防ぎ、低慣性を保持でき、これによってナイフシリンダの駆動モータの容量低減を図り、切断速度の増大を可能にしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0075】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明をそれのみに限定する趣旨ではない。
図1の(a)は、本発明の第1実施形態の上ナイフシリンダを示す立面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う横断面図、図2は前記第1実施形態のナイフシリンダの横断面図、図3は前記第1実施形態のナイフシリンダのナイフ取り付け部の静的破壊試験結果を示す線図である。
【0076】
図4は本発明の第2実施形態のナイフシリンダの横断面図、図5は本発明の第3実施形態のナイフシリンダの横断面図、図6は本発明の第4実施形態のナイフシリンダの横断面図、図7は前記第4実施形態のナイフシリンダの立面図である。
図8は本発明の第5実施形態のナイフシリンダの横断面図、図9は本発明の第6実施形態のナイフ取り付け台の斜視図、図10は本発明の第7実施形態のナイフシリンダの横断面図、図11の(a)は本発明の第8実施形態のナイフシリンダの立面図、(b)はナイフシリンダの縦断面図である。
(実施形態1)
【0077】
本発明の第1実施形態を示す図1及び2において、上ナイフシリンダ2は、円筒形をしたCFRP層の積層体40で構成され、該積層体40を両側から鋼鉄製のボス50a及び50bが回転可能に支持している。ボス50a及び50bは、積層体40の内周面に嵌合される円筒部53a、53b、積層体40の端面が当接されるフランジ部52a及び52b、及びフランジ部52a、52bから外方に突設された軸部51a及び51bから構成される。
【0078】
上ナイフシリンダ2の外周部を構成する積層体40の一部はメタルインサート部32が形成され、そこに上ナイフ取り付け台30が固定ボルト34によって、図1(a)に図示するようにナイフシリンダ2の軸方向に沿ってスパイラル状に固設されている。また同時に上ナイフ取り付け台30は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂系接着剤によって積層体40の表面に接着されている。上ナイフ取り付け台30には固定ボルト36によって上ナイフ8が固定されている。下ナイフシリンダは、図示を省略しているが、図12に示すように、下ナイフ取り付け台を上ナイフ取り付け台30とシリンダ軸方向に対称に配置する以外は、上ナイフシリンダ2と同一構成をなす。
【0079】
上ナイフ8(及び図示しない下ナイフ)がナイフシリンダの軸方向に沿ってスパイラル状に固設される理由は、段ボールシートをナイフ始端S(図1(a)で右側)からナイフ終端E(同左側)に向かって徐々に切断するシェア切断を行い、過大な切断荷重を上下ナイフの刃先に付加しないためである。
【0080】
ナイフシリンダ2の外側部を構成するCFRP積層体40は、図2に示すように、その最内層は繊維勾配角がナイフシリンダ周方向(90度)に向いたPAN系CFRP層41で構成され、その上層は、順に繊維勾配角がナイフシリンダの軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42、繊維勾配角が+45度の方向に向いたピッチ系CFRP層43及び繊維勾配角が−45度の方向(ナイフシリンダ軸方向を中心として+と反対方向)に向いたピッチ系CFRP層44で構成されている。
【0081】
なおCFRP層43と44とは、重ね順序が逆であってもよい。かかる3層で構成された積層体が外周面まで複数層(n層)積層されている。このCFRP積層体40は、例えば25mmの厚さをもつ。
第1実施例は、上ナイフシリンダ2及び図示しない下ナイフシリンダがCFRP積層体40で構成されている。
【0082】
かかるナイフシリンダの製造方法は、図15に図示したような装置を用い、炭素繊維を一方向に揃えシート状とした後樹脂を含浸させてなるシート状のプリプレグ041を一層又は複数層ずつ常温(18〜25℃)下で成形用マンドレル042の周囲に配したロール群043〜045により加圧しながら成形用マンドレル042に巻いていく。この場合該プリプレグを加熱硬化した後の各CFRP層が前述のような繊維勾配角をもつように各プリプレグの巻き付け時の向きを変えていく。
【0083】
その後この積層体を成形用シリンダ042に巻き付けたまま加熱炉に入れ加熱硬化することにより、各層間を一体に固着してCFRP層からなるナイフシリンダを製造する。その後製造したナイフシリンダの最内層の高圧縮強度と、CFRPと金属との熱膨張率の違いを利用して、該ナイフシリンダを成形用マンドレル042から引き抜く。
【0084】
この場合該シート状のプリプレグ層を成形用マンドレル042に下層から順々に一層ずつ巻き付けていってもよいし、あるいは予め3層の該シート状プリプレグをそれぞれCFRP層42,43,44と同一方向の繊維勾配角となるように配置方向を調整して重ね巻きしておき、この3層からなる積層体を複数組順に成形用マンドレル042に巻き付けていくようにしてもよい。
本実施例においては、繊維勾配角がナイフシリンダの軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42の割合をナイフシリンダ本体の引張り弾性率が240GPaとなるように調節している。
【0085】
第1実施形態によれば、積層体40の最内層が繊維勾配角をナイフシリンダの周方向に向いたPAN系CFRP層41で構成されているため、ナイフシリンダの外側から内側に半径方向に向かう圧縮荷重に対して高い圧縮強度を保持して、潰れにくい保形性をもつことができる。
【0086】
従って積層体40を成形用マンドレル又は金属製ボス50a、50bの円筒部53a、53bとの嵌合面から取り外す場合に、成形用マンドレルや該円筒部53a、53bを冷却したとき、該PAN系炭素繊維が高い圧縮強度をもつため、該炭素繊維に含浸した樹脂の熱収縮による圧縮荷重に抗して積層体40の潰れや収縮を阻止し、この保形性と金属製のマンドレル又は円筒部53a、53bとCFRP層との熱膨張率の差を利用して積層体40と該マンドレル又は円筒部53a、53bとの間に隙間を形成できるため、取り外しが容易になる利点がある。
【0087】
また上ナイフシリンダ2の外周部が高強度を有するピッチ系CFRP層の積層体で構成され、繊維勾配角がシリンダ軸方向に配置されたピッチ系CFRP層42の全体CFRP層に対する体積割合がナイフシリンダ2の引張り弾性率が240GPaとなるように設定され、かつピッチ系CFRP層43及び44が+45度、−45度の繊維勾配角を有するものであるため、曲げ剛性及び捻り剛性をともに高く維持でき、かつ軽量で低慣性なナイフシリンダとすることができる。
【0088】
そのためナイフシリンダで振動の発生が起こりにくく、シート切断時に上下ナイフシリンダに取り付けられた上下ナイフの刃先にギャップが生じないため、正確にシートを切断することができる。また低慣性であるため、ナイフシリンダの駆動モータを低容量とすることができ、シートの切断速度を大幅に増大することができる。
【0089】
また第1実施形態では、CFRP層43及び44の繊維勾配角を±45度とすることにより、炭素繊維が含浸している樹脂の収縮作用を最大にすることができ、これによってピッチ系CFRP層42〜44が収縮してPAN系CFRP層で構成された最内層41に密着し、強固に一体化された積層体を作ることができる。
なおCFRP層43及び44の繊維勾配角が±30〜±60度の範囲内で対称となる繊維勾配角になるように積層することにより、ナイフシリンダに発生する正逆両方向の捻りに対して同一の捻り剛性を確保することができる。
【0090】
なお第1実施形態において、0度の繊維勾配角をもつピッチ系CFRP層42と45度の繊維勾配角をもつピッチ系CFRP層43の間にさらにシリンダ周方向(90度)のPAN系CFRP層を挿入すれば、圧縮強度の一層優れた積層体を得ることができる。
【0091】
また上ナイフ取り付け台30を積層体40の表面に固定用ボルト34だけでなく、熱硬化性樹脂系接着剤(エポキシ樹脂接着剤;平均剪断荷重10MPa以上)で固着しているため、鋼鉄製の取り付け台30とCFRP積層体40との熱膨張率の大きな相違にかかわらず、取り付け台30を強固に積層体40に取り付けることができる。
また前述の方法でナイフシリンダを製造するため、炭素繊維をシリンダ成形用マンドレルに直接巻き付ける等の従来の方法に比べて製造工程が容易である。
【0092】
次に、本実施形態のナイフシリンダのナイフ取り付け部に対して行なった静的破壊試験結果及び疲労試験結果について説明する。
(1)ナイフ取り付け部の静的破壊試験結果
この試験は、室温にて供試体のナイフシリンダを固定した状態でナイフ取り付け台の長手軸方向中央部に垂直方向から静的荷重をかけ、即ち図2のナイフ取り付け台30に矢印a方向から静的荷重をかけ、静的破壊試験を行った。この結果を図3に示す。図3において、縦軸は荷重(N)、横軸は荷重方向のナイフ取り付け台の変位(mm)を示す。図3に示すように、ナイフ切断荷重1600Nの20倍の荷重を付与しても破断されなかった(Pmax=70440Nで破断した)。
【0093】
(2)ナイフ取り付け部の疲労試験結果
前記と同様の供試体について、前記試験と同一箇所で同一方向から以下のような条件で繰り返し荷重をかけて試験を行ったが、繰り返し数1×107回後でも供試体に目視で確認できる欠陥はなく、破断しなかった。
・試験温度:室温
・負荷荷重:Pmax1000N、Pmin100N
・振幅荷重:450N
・試験速度:5Hz
・試験機:島津製10ton疲労試験機
(実施形態2)
【0094】
次に本発明の第2実施形態を図4により説明する。図4において、第2実施形態は、積層体40の表面に、ライニング層としてグラス繊維強化プラスチック(GFRP)層又はゴム層55を被覆したものであり、その他の構成は第1実施形態と同一であるため、第1実施形態と同一の符号を付し、該同一符号を付した部位については説明を省略する。
かかるライニング層の被覆方法は、ライニング層としてゴム層を用いる場合には、すでに加熱硬化済みのCFRP層からなるナイフシリンダの外周面にゴム層を巻き付け、加熱炉に入れて加熱することによりゴム層を加硫硬化させる。
【0095】
ライニング層としてGFRP層を用いる場合には、ナイフシリンダ本体の成形時に、図15の巻付け装置を使ってナイフシリンダ本体を構成するCFRP層用プリプレグを巻き付けた後、ライニング層としてのGFRP層を同様に加圧しながら巻き付ける。
その後CFRP層用プリプレグとGFRP層とを成形用マンドレルに巻き付けた状態で加熱炉に入れ、CFRP層用プリプレグとGFRP層とを同時に加熱硬化する。その後ナイフシリンダを成形用マンドレルから引き抜く。この引き抜き時ナイフシリンダの保形性及びCFRPと金属の熱膨張率の違いを利用してナイフシリンダを成形用マンドレルから容易に引抜くことができる。
【0096】
あるいは加熱硬化処理後のナイフシリンダ(成形用マンドレルに巻き付けた状態のまま又は成形用マンドレルから引抜いた後のどちらでもよい)にGFRP層を巻きつけ、加熱炉に入れて加熱硬化させるようにしてもよい。
【0097】
第2実施形態によれば、積層体40の表面をGFRP層又はゴム層55で被覆したことにより、該ライニング層55がナイフシリンダの積層体40を保護し、積層体40のCFRP層の破損、磨耗を防止するため、破壊しにくいナイフシリンダとすることができる。ゴム製ライニング層を用いれば、安価で済み、取り付けが比較的容易であり、またGFRP製ライニング層を用いると、特にCFRP層の保護効果が著しい。
【0098】
なおこのようなライニング層をナイフシリンダの軸方向に分割して被覆するようにすれば、低コストでライニング層による保護効果を得ることができ、かつ取り付けが容易になる。例えばナイフシリンダの両端部及びナイフ取り付け台を取り付ける場所等特に積層体40が破損、磨耗しやすい場所を選んでライニング層を設ければよい。
(実施形態3)
【0099】
次に本発明の第3実施形態を図5により説明する。図5において、第3実施形態は、ナイフシリンダの外周部を構成する積層体40’の最内層は繊維勾配角がシリンダ周方向(90度)に向いたPAN系CFRP層41で構成され、その上層は下層から順に繊維勾配角がシリンダ軸方向(0度)に向いたピッチ系CFRP層42、繊維勾配角が+45°の方向に向いたPAN系CFRP層45、繊維勾配角が−45°の方向に向いたPAN系CFRP層46で構成されている。このような3層42,45,46をこの順序で組み合わせた積層体が外周面まで複数層(n層)積層されている。
【0100】
また積層体40’の外表面には前記第2実施形態と同様に、GFRP層又はゴム層からなるライニング層55を被覆している。またライニング層55は、ナイフシリンダの軸方向(シートの幅方向)に複数分割して被覆されている。
かかる構成の第3実施形態によれば、繊維勾配角が±45°の方向に向いたCFRP層を引張り弾性率がピッチ系より劣るがピッチ系より安価なPAN系CFRP層45及び46で構成したことにより、コスト低減を達成することができる。ただしシリンダ軸方向(0度)方向の引張り弾性率が240GPaとなるように0度方向のピッチ系CFRP層42の全体CFRP層に対する体積割合を調節している。
またライニング層55をナイフシリンダの幅方向に分割して被覆したことにより、低コストで積層体40’の保護効果を得ることができ、また取り付けが容易になる。
(実施形態4)
【0101】
次に本発明の第4実施形態を図6により説明する。図6において、第4実施形態は、ナイフシリンダの外周部を構成する積層体40の外表面に、熱伸び防止部材61を取り付けたものであり、その他の構成は図2に示す第1実施形態と同一であるので、第1実施形態と同一部位は同一符号を付すとともに、それらの説明を省略する。
【0102】
熱伸び防止部材61は、鋼鉄製のナイフ8及びナイフ取り付け台30と同一の熱膨張係数を有するもの(例えば鋼鉄製)であり、ナイフシリンダの軸方向にスパイラル状に配置されたナイフ8及びナイフ取り付け台30とナイフシリンダの軸線に対して線対称となる位置に配置されるとともに、ナイフ8及びナイフ取り付け台30の合計体積と同一の体積を有している。例えば図7に示すような形状及び配置位置をなす。
【0103】
CFRP製の積層体40と熱膨張係数が異なる鋼鉄製のナイフ8及びナイフ取り付け台30が高温化する運転環境により膨張し、これによってナイフシリンダ2を軸線hに沿ってバナナ形状に曲げる現象が生じるが、第4実施例では、積層体40の表面に熱伸び防止部材61を取り付けることにより、熱伸び防止部材61の伸び量とナイフ8及びナイフ取り付け台30の伸び量とが互いにキャンセルし合い、その結果ナイフシリンダ2の軸方向の曲がりを防止することができる。
【0104】
なお熱伸び防止部材61の積層体表面への取り付け方法は、ナイフ取り付け台30を積層体40に取り付ける場合の前述の取り付け方法と同一でよい。
また熱伸び防止部材61は、ナイフシリンダの軸方向に複数に分割して取り付けてもよく、この場合ナイフシリンダ周囲のスペースの無駄を省くことができる。
(実施形態5)
【0105】
次に本発明の第5実施形態を図8により説明する。図8において、第5実施形態は、第4実施形態の熱伸び防止部材61をナイフシリンダの外周部を構成する積層体40の内周面に取り付けたものである。熱伸び防止部材62は、熱伸び防止部材61と同様に、ナイフ8及びナイフ取り付け台30とナイフシリンダの軸線に対して線対称となる位置に配置されるとともに、ナイフ8及びナイフ取り付け台30と同一の体積を有している。
かかる構成によっても、第4実施形態と同様にナイフシリンダ2の曲がりを効果的に防止することができる。またナイフシリンダ2の内側に熱伸び防止部材62を設けているために、ナイフシリンダの外周にスペースを確保でき、シンプルな構造とすることができる。
(実施形態6)
【0106】
次に本発明の第6実施形態を図9により説明する。本実施形態は、ナイフ取り付け台(例えば図2に示すナイフ取り付け台30)の構造に関するものである。図9において、本実施形態のナイフ取り付け台70は、ナイフシリンダ外周面との接触面tを有する接触部71と、接触部71から立設されたナイフ取り付け部72とからなる。ナイフ取り付け部72には、複数のスリット73が長手方向に等間隔で並設されている。また接触部71には、スリット73と同一間隔でスリット73の延長上にR溝73が凹設されている。スリット73の間隔は例えば100〜200mmで構成される。
【0107】
第6実施形態によれば、かかる構成にナイフ取り付け台70を設けることにより、前記第4実施形態のように、熱伸び防止部材61を設けなくとも、ナイフ8及びナイフ取り付け台30によるナイフシリンダの熱伸びを半減することができる。このため回転慣性GD2も増加せず、ナイフシリンダの駆動モータの容量を低減でき、シンプルな構成でコスト低減を図ることができる。
このように第6実施形態では、ナイフ取り付け台の構造を工夫することにより、簡単にナイフシリンダの熱変形を少なくして、シートの切断に支障がないようにすることができる。
(実施形態7)
【0108】
次に本発明の第7実施形態を図10により説明する。図10は、上ナイフシリンダ2(下ナイフシリンダでもよい)の横断面図であり、本実施例は、ナイフ取り付け台30に対してナイフシリンダ軸線hを中心に線対称となる位置のナイフシリンダ外周面にカウンタバランス取り付け台81が取り付けられ、取り付け台81にカウンタバランス82が着脱可能に取り付けられている。
【0109】
なおカウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82の合計体積は、ナイフ及びナイフ取り付け台30と等しく、かつカウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82の熱膨張係数は、ナイフ及びナイフ取り付け台30と等しくなるように構成されている。
【0110】
かかる構成によれば、カウンタバランス取り付け台81及びカウンタバランス82は、前記第4実施形態又は第5実施形態の熱伸び防止部材61又は62と同様に、ナイフシリンダの熱変形防止効果を有するとともに、ナイフシリンダの振動を防止する効果を有する。即ちカウンタバランス82を重量の異なる部材に取替え可能であるので、ナイフシリンダの固有振動数に合わせて重量を選択することにより、ナイフシリンダの振動を効果的に防止することができる。
またカウンタバランス82は、着脱可能であるので、ナイフシリンダの熱変形を防止する必要がある時のみ取り付けることができる。
(実施形態8)
【0111】
次に本発明の第8実施形態を図11により説明する。図11(a)は上ナイフシリンダ2を示す立面図であり、(b)は、ナイフシリンダ外周部の一部拡大断面図である。図11において、CFRP積層体40からなるナイフシリンダ2の外周部に、GFRP層又はゴム層からなるライニング層55を被覆し、ライニング層55の表面にナイフシリンダの周方向に間隔を置いて並設されたフィン91を設けている。
【0112】
かかる構成のフィン91を設けたことにより、ナイフシリンダ2の冷却効果が高まり、ナイフシリンダの軸方向熱伸びを効果的に防止することができる。これによってナイフシリンダの熱変形を防ぎ、上下ナイフシリンダに設けた上下ナイフ間のギャップの開きを防止し、シートの切断性能を維持することができる。
なお本実施形態において、別な手段としてライニング層55に溝(フィン溝)を設けて冷却機能をもたせてもよいし、あるいは別な冷却手段として、ナイフシリンダの中空な内部に冷却空気を供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態の上ナイフシリンダを示す立面図、(b)は(a)中のA−A線に沿う横断面図である。
【図2】前記第1実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図3】前記第1実施形態のナイフ取り付け部の静的破壊試験結果を示す線図である。
【図4】本発明の第2実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図7】前記第4実施形態のナイフシリンダの立面図である。
【図8】本発明の第5実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図9】本発明の第6実施形態のナイフ取り付け台の斜視図である。
【図10】本発明の第7実施形態のナイフシリンダの横断面図である。
【図11】(a)は本発明の第8実施形態のナイフシリンダの立面図、(b)はナイフシリンダの縦断面図である。
【図12】従来のロータリカッタの立面図である。
【図13】図11のロータリカッタの右側面図である。
【図14】従来のロータリカッタの上下ナイフの噛み合い状態を示す説明図である。
【図15】CFRP層又はライニング層の形成装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0114】
2 上ナイフシリンダ
8 上ナイフ
30、70 上ナイフ取り付け台
40、40’ CFRP層積層体
42、43、44 ピッチ系CFRP層
41、45、46 PAN系CFRP層
50a、50b ボス
51a、51b 軸
52a、52b フランジ部
53a、53b 円筒部
55 GFRP層又はゴム層(ライニング層)
61、62 熱伸び防止部材
73 スリット
82 カウンタバランス
91 フィン(冷却手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、
シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成されたことを特徴とするナイフシリンダ。
【請求項2】
前記炭素繊維強化プラスチック層を構成する炭素繊維の70体積%以上がシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有し、該繊維勾配角を有する炭素繊維が590GPa以上の引張り弾性率を有することを特徴とする請求項1記載のナイフシリンダ。
【請求項3】
最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層からなり、
該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度及び−30〜−60度の繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層を複数層積層してなることを特徴とする請求項1又は2のいずれか記載のナイフシリンダ。
【請求項4】
最内層がPAN系炭素繊維強化プラスチック層からなることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項5】
前記炭素繊維強化プラスチック層の繊維密度が50体積%以上であり、該炭素繊維強化プラスチック層の繊維がピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項6】
前記最内層の上に、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する第1の炭素繊維強化プラスチック層、シリンダ軸方向に対して+30〜+60度の繊維勾配角を持つ第2の炭素繊維強化プラスチック層、及びシリンダ軸方向に対して−30〜−60度の繊維勾配角を持つ第3の炭素繊維強化プラスチック層を規則的に積層してなることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項7】
前記第2の炭素繊維強化プラスチック層と前記第3の炭素繊維強化プラスチック層とをシリンダ軸方向に対して対称となる繊維勾配角としたことを特徴とする請求項6記載のナイフシリンダ。
【請求項8】
炭素繊維強化プラスチック層を積層して構成した前記ナイフシリンダの表面をライニング層で被覆することを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項9】
前記ライニング層がゴム又はガラス繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項8記載のナイフシリンダ。
【請求項10】
一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダで該ナイフシリンダ間を通る帯状紙を切断するようにしたロータリカッタにおいて、
シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成されたナイフシリンダと、
該ナイフシリンダを支持固定する金属製ボスとからなり、
該金属性ボスが、該ナイフシリンダの内周面に嵌入される中空の円筒部と、該円筒部の一端に取り付けられたフランジ部と、該フランジ部から外方に突設された軸部とからなり、
前記ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの両端部に前記円筒部を嵌入させることにより該金属製ボスで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成したことを特徴とするロータリカッタ。
【請求項11】
前記ナイフシリンダの外周面にスパイラル状に取り付けられたナイフ取り付け台にナイフを取り付けるように構成し、
該ナイフシリンダ軸と線対称となる位置の該ナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同等の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けたことを特徴とする請求項10記載のロータリカッタ。
【請求項12】
前記熱伸び防止部材の体積を前記ナイフ及びナイフ取り付け台の合計体積と等しくしたことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項13】
前記熱伸び防止部材を、
前記ナイフシリンダに固設される取り付け台と、
該取り付け台に着脱可能に取り付けられる本体部材とから構成したことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項14】
前記ナイフ取り付け台にナイフシリンダ軸方向に沿って1個以上のスリットを設けたことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項15】
前記ナイフシリンダに冷却手段を設けたことを特徴とする請求項10記載のロータリカッタ。
【請求項16】
前記冷却手段が、前記ナイフシリンダの外周面に設けられたフィン又はフィン溝であることを特徴とする請求項15記載のロータリカッタ。
【請求項17】
前記フィンが、前記ナイフシリンダの外周面に周方向に間隔を置いて複数並設されたアルミニウム製のフィンであることを特徴とする請求項16記載のロータリカッタ。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれか1項に記載のロータリカッタにナイフ取り付け台を取り付ける方法において、
前記ナイフ取り付け台を前記ナイフシリンダの外周面に熱硬化性樹脂系接着剤で接着することを特徴とするナイフ取り付け台の取り付け方法。
【請求項1】
一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダにおいて、
シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成されたことを特徴とするナイフシリンダ。
【請求項2】
前記炭素繊維強化プラスチック層を構成する炭素繊維の70体積%以上がシリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有し、該繊維勾配角を有する炭素繊維が590GPa以上の引張り弾性率を有することを特徴とする請求項1記載のナイフシリンダ。
【請求項3】
最内層がシリンダ周方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層からなり、
該最内層の上に、該シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層及びシリンダ軸方向に対して+30〜+60度及び−30〜−60度の繊維勾配角を有する炭素繊維強化プラスチック層を複数層積層してなることを特徴とする請求項1又は2のいずれか記載のナイフシリンダ。
【請求項4】
最内層がPAN系炭素繊維強化プラスチック層からなることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項5】
前記炭素繊維強化プラスチック層の繊維密度が50体積%以上であり、該炭素繊維強化プラスチック層の繊維がピッチ系炭素繊維であることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項6】
前記最内層の上に、シリンダ軸方向に沿う繊維勾配角を有する第1の炭素繊維強化プラスチック層、シリンダ軸方向に対して+30〜+60度の繊維勾配角を持つ第2の炭素繊維強化プラスチック層、及びシリンダ軸方向に対して−30〜−60度の繊維勾配角を持つ第3の炭素繊維強化プラスチック層を規則的に積層してなることを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項7】
前記第2の炭素繊維強化プラスチック層と前記第3の炭素繊維強化プラスチック層とをシリンダ軸方向に対して対称となる繊維勾配角としたことを特徴とする請求項6記載のナイフシリンダ。
【請求項8】
炭素繊維強化プラスチック層を積層して構成した前記ナイフシリンダの表面をライニング層で被覆することを特徴とする請求項3記載のナイフシリンダ。
【請求項9】
前記ライニング層がゴム又はガラス繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項8記載のナイフシリンダ。
【請求項10】
一対の円筒体の外周面にそれぞれナイフをスパイラル状に取り付けてなるナイフシリンダで該ナイフシリンダ間を通る帯状紙を切断するようにしたロータリカッタにおいて、
シリンダ本体が炭素繊維強化プラスチック層からなり、かつシリンダ軸方向の引張り弾性率が206GPa以上に構成されたナイフシリンダと、
該ナイフシリンダを支持固定する金属製ボスとからなり、
該金属性ボスが、該ナイフシリンダの内周面に嵌入される中空の円筒部と、該円筒部の一端に取り付けられたフランジ部と、該フランジ部から外方に突設された軸部とからなり、
前記ナイフシリンダの両端開口から該ナイフシリンダの両端部に前記円筒部を嵌入させることにより該金属製ボスで該ナイフシリンダを回転可能に支持するように構成したことを特徴とするロータリカッタ。
【請求項11】
前記ナイフシリンダの外周面にスパイラル状に取り付けられたナイフ取り付け台にナイフを取り付けるように構成し、
該ナイフシリンダ軸と線対称となる位置の該ナイフシリンダ外周面又は内周面に該ナイフ取り付け台と同等の熱膨張係数をもつ熱伸び防止部材を取り付けたことを特徴とする請求項10記載のロータリカッタ。
【請求項12】
前記熱伸び防止部材の体積を前記ナイフ及びナイフ取り付け台の合計体積と等しくしたことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項13】
前記熱伸び防止部材を、
前記ナイフシリンダに固設される取り付け台と、
該取り付け台に着脱可能に取り付けられる本体部材とから構成したことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項14】
前記ナイフ取り付け台にナイフシリンダ軸方向に沿って1個以上のスリットを設けたことを特徴とする請求項11記載のロータリカッタ。
【請求項15】
前記ナイフシリンダに冷却手段を設けたことを特徴とする請求項10記載のロータリカッタ。
【請求項16】
前記冷却手段が、前記ナイフシリンダの外周面に設けられたフィン又はフィン溝であることを特徴とする請求項15記載のロータリカッタ。
【請求項17】
前記フィンが、前記ナイフシリンダの外周面に周方向に間隔を置いて複数並設されたアルミニウム製のフィンであることを特徴とする請求項16記載のロータリカッタ。
【請求項18】
請求項11ないし17のいずれか1項に記載のロータリカッタにナイフ取り付け台を取り付ける方法において、
前記ナイフ取り付け台を前記ナイフシリンダの外周面に熱硬化性樹脂系接着剤で接着することを特徴とするナイフ取り付け台の取り付け方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2008−80429(P2008−80429A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262355(P2006−262355)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000236159)三菱化学産資株式会社 (101)
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