ナイロン6/ポリプロピレンブレンド配向フィルム及びその製造方法
【課題】ナイロン6/ポリプロピレンブレンドは、ナイロン6の、耐衝撃性等の物性と、ポリプロピレンの低吸水性等の特性をバランスよく兼ね備えた材料として期待されている。本発明では、ナイロン6とポリプロピレンの結晶配向を制御することにより二次元的に優れた機械的特性を有する結晶配向フィルムを提供する。
【解決手段】ナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中でアイソタクチックポリプロピレンを再結晶化することにより、ポリプロピレンの結晶配向を制御し、延伸方向及び垂直方向の破断強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができた。
【解決手段】ナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中でアイソタクチックポリプロピレンを再結晶化することにより、ポリプロピレンの結晶配向を制御し、延伸方向及び垂直方向の破断強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン6とポリプロピレンの分子鎖軸が互いに直交方向に配向した直交配向構造あるいは分子鎖軸が互いに斜め方向に配向した傾斜配向構造を有し、二次元的に優れた機械的特性を有する結晶配向フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形材料として、種々のポリマーが使用されているが、ポリマー単独では付与できる特性に限界があるため、複数のポリマーをブレンドすることにより、それぞれ単独のポリマーの場合に比較して、強度、耐熱性、高衝撃性などを改善した種々の多成分系樹脂組成物が開発されている。
このポリマーブレンドには、構成成分が互いに溶け合う相溶性ブレンドと、構成成分が溶け合わない非相溶性ブレンドの2種類があるが、後者の場合には界面において破壊が生じるために、相溶化剤などにより界面を強化して利用する場合が多い。
例えば、ナイロン6にポリプロピレンを配合させたものは、ナイロン6が有する耐衝撃性、耐薬品性、熱的安定性等の物性と、ポリプロピレンの低吸水性、化学的安定性、低コストの特性をバランスよく兼ね備えた材料として期待されているが、ナイロンとポリプロピレンは互いに非相溶性であるために、種々の相溶化が報告されている(特許文献1,2)。
【0003】
一方、ポリマーフィルムやロッドを一方向に延伸することにより、延伸方向に強化された材料を作成することは周知であり、多数の高分子材料に適用されている。
本発明者らは、幾つかのポリマーブレンドからなる延伸フィルムについて研究を重ねてきた。
例えば、特許文献1では、結晶性ポリスチレンとポリフェニレンオキシド(PPO)からなる相溶性ポリマーブレンドから一軸延伸フィルムを製造する際に、延伸による配向制御と熱処理による結晶化とを組み合わせることにより、フィルムの延伸方向における結晶性アイソタクチックポリスチレンの配向度が0.6〜1であり、PPOの分子鎖がランダムに配向したものであるフィルムであって、フィルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフィルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フィルムと同程度の強度であり、フィルムの延伸方向の強度がフィルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フィルムの強度を凌ぐ一軸延伸フィルムが得られることを見いだしている。
また、特許文献2では、相溶性ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とポリブチレンサクシネート(PBSU)を溶媒に溶解した後、フィルム化し、加熱して該フィルムを溶融した後急冷して得られたフィルムを一軸延伸し、その後PVdFの融点よりも低く、PBSUの融点よりも高い温度においてPBSUを融解し、その後50〜100℃に保温してPBSUを結晶化することにより、PVdFの分子鎖方向の結晶軸(c軸)とPBSUの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向フィルムが得られ、該フィルムは無配向のブレンド膜の強度と比較して、延伸方向に4〜7.5倍強く、延伸と垂直方向にも1.2〜1.5倍強化された物性を有することを見いだしている。
【0004】
さらに、本発明者らは、非相溶性ポリマーブレンドからなるフィルムについても鋭意研究し、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とナイロン11とからなるポリマーブレンド(特許文献3)、或いは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とナイロン6とからなるポリマーブレンドを混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロンの融点よりも低い温度においてPVdFのみを融解した後徐冷してPVdFを結晶化することにより、ナイロンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)とPVdFの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向し、延伸方向と垂直方向の二方向に破断強度と弾性率が向上した多軸結晶配向フィルムが得られることを見いだしている。
【0005】
しかしながら、非相溶性ポリマーブレンドであるナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなるフィルムについては、まだ充分な検討がなされていない。
例えば、特許文献5には、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなるフィルムが、易引裂き性を示すことから、包装用フィルムとして用いられることが記載されているが、延伸については、引裂き性が損なわれない範囲で一軸又は二軸延伸処理により引裂き強度、破断強度等の特性を調整してもよいとしているだけである。
また、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなる繊維については、延伸にともなうブレンド繊維の構造及び強伸度特性の変化について報告がなされているが(非特許文献3参照)、フィルムに関しては検討がなされていない。
【特許文献1】特許第3783052号公報
【特許文献2】特許第3962810号公報
【特許文献3】特許第4035607号公報
【特許文献4】特開2007−302723号公報
【特許文献5】特開平7−299858号公報
【非特許文献1】Ide, F.; Hasegawa, A. Studies on polymer blend of nylon 6 and polypropylene or nylon 6 and polystyrene using the reaction of polymer. J. Appl. Polym. Sci. 1974, 18, 963-974.
【非特許文献2】Gonzalez-Montiel, A.; Keskkula, H.; Paul, D.R. Impact-modified nylon 6/polypropylene blends: 1. Morphology-property relationships. Polymer 1995, 36, 4587-4603.
【非特許文献3】ポリプロピレン/ポリアミド6ブレンド繊維の延伸による構造及び強伸度特性の変化、高橋、近田、清水、繊維学会誌、52,396、(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドは、ナイロン6の、耐衝撃性、耐薬品性、熱的安定性等の物性と、ポリプロピレンの低吸水性、化学的安定性、低コストの特性をバランスよく兼ね備えた材料として期待されており、一層の力学特性の向上が必要であるものの、未だに充分な検討がなされていないのが現状である。
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであって、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの延伸膜においてポリプロピレンを配向結晶化することによりポリプロピレンの結晶配向を制御し、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの力学物性の向上を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ナイロン6の配向膜中で、ポリプロピレンの結晶配向を制御することにより、ナイロン6とポリプロピレンのポリマーブレンドの優れた物理的特性を保持したまま、延伸方向及び垂直方向の破断強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができるという知見を得た。
【0008】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルム。
[2]前記相溶化剤が、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレンである前記[1]の結晶配向フィルム。
[3]前記ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)とを、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含む前記[1]又は[2]に記載の結晶配向フィルム。
[4]前記相溶化剤を0.1〜30重量%含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
[5]ナイロン6とアソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン6の融点よりも低く、アイソタクチックポリプロピレンの融点よりも高い温度においてアイソタクチックポリプロピレンを融解した後、アイソタクチックポリプロピレンをナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中で再結晶化することを特徴とする結晶配向フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ナイロン6の配向膜中でポリプロピレンの結晶配向を制御することにより、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの優れた物理的性質を保持したまま、延伸方向及び垂直方向の強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルムを提供するものである。
【0011】
本発明の結晶配向フィルムを構成するポリマーブレンドにおいて、ナイロン−6(ポリウンデカンアミド)とアイソタクチックポリプロピレン(PP)の配合は、どのような割合のものでも良いが、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含むもの、より好ましくはナイロン6/PP=60/40〜80/20の割合で含むものがよい。ナイロン6の量が多すぎるとポリプロピレンをブレンドすることにより得られる効果が小さくなる。一方、ポリプロピレンの量が多すぎると、ポリプロピレンがマトリックスとなって連続相を形成するため、結晶化過程で配向が乱れ、目的の配向構造を形成することができない。
【0012】
また、本発明の結晶配向材料に用いられる相溶化剤は、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)からなる非相溶性ポリマーブレンドに対して、反応性、相溶性、又は親和性を示す化合物であれば特に制限されるものではない。
相溶化剤には、例えば、官能基が導入された変性ポリオレフィンなどが含まれ、該官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、グリシジル基などのエポキシ基が含まれ、これらの官能基が、複数組み合わせてポリオレフィンに導入されてもよく、また、これらの変性ポリオレフィンを二種以上組み合わせてもよい。
本発明において、変性ポリオレフィンの好ましいオレフィンとしては、プロピレンが用いられ、また、好ましい官能基として、エチレン性不飽和カルボン酸とそのエステル、無水マレイン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸の酸無水物などが好ましく用いられるが、特に、本発明においては、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレン(PP−g−MA)が好ましく用いられる。
【0013】
本発明の結晶配向フィルムを構成するポリマーブレンドにおける相溶化剤の割合は、界面が強化され、相構造が微細化されればどのような割合でも良いが、ブレンド中に相溶化剤を重量比で0.1〜30%含むもの、より好ましくは1〜10%含むものがよい。
【0014】
本発明の上記結晶配向フィルムは、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むポリマーブレンドから一軸延伸フィルムを製造する際に、延伸による配向制御と熱処理による結晶化を組み合わせることにより製造することができる。
具体的には、例えば結晶性ポリプロピレンとしてアイソタクチックポリプロピレン(PP)を使用し、これに、ナイロン6及び相溶化剤を加えて混練し、ナイロン6、PP、及び相溶化剤からなるポリマーブレンドを作製する。混練は、混練機を用いて、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むポリマーブレンドが溶融した状態で行われるが、用いる混練機はどのようなものであってもよい。また、混練温度は、ナイロン6の融解温度(230℃)以上、好ましくは、235〜340℃で混練される。
【0015】
次いで、得られた混練物を、熱プレスにより、230〜235℃で溶融してシート状に成形し、さらに、20〜200℃、好ましくは80〜160℃で、一軸方向に、2倍以上、好ましくは3倍以上に延伸する。
【0016】
延伸後、形態を拘束してナイロン6の融解温度より低く、ポリプロピレンの融解温度より高い温度、好ましくは175℃以上210℃以下の温度でポリプロピレンを融解した後、ポリプロピレンを再結晶化する。
ポリプロピレンの結晶化は、一定温度における等温結晶化でも、一定冷却速度における非等温結晶化でもよく、冷却方法に依存しない。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ナイロン6、アイソタクチックポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(PP−g−MA)をそれぞれ、35グラム、10グラム、5グラムを24時間80℃で真空乾燥した後、混練機を用いて235℃で10分間、混練してナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドを作製した。熱プレスを用いて233℃において溶融しシート状に成形した。さらに、140℃において3.7倍に延伸して配向膜を作製した。延伸膜の形態を固定して200℃に3分間保持してPPを融解した後、130℃で4時間、真空下で熱処理してPPを配向結晶化した。
【0018】
延伸膜の電子顕微鏡観察を行うと、シリンダー状に変形したPPドメイン(径約200〜500nm)がナイロン6のマトリックスに分布し、延伸方向に配向しているのが観測された。
図1は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図2は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0019】
広角X線回折像(図1)には、ナイロン6の200反射および002反射が赤道方向(延伸と垂直方向)に観測され、ナイロン6の分子鎖軸(結晶b軸)が延伸方向に配向しているのが確認された。さらに、広角X線回折像(図1)およびPPの110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図2)を調べると、PPの040反射は垂直方向にスポットとして観測され、PPの結晶b軸は延伸と垂直方向に高度に配向している。さらに、110反射は、主として延伸方向から少し傾いた角度(方位角±15°)に観測され、このことからa*軸が延伸方向に配向し、分子鎖軸(結晶c軸)と結晶b軸が垂直方向に配向していることが確認された。
【0020】
図3は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図3から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ180MPa、1.72GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ35.0MPa、1.22GPaであり、未延伸フィルムと比較すると二方向に優れた力学物性を示した。
【0021】
(実施例2)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドについて、実施例1と同様に延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの形態を固定して200℃で3分間PPを融解した後、氷水中に投下し急冷してPPを配向結晶化した。
図4は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図5は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0022】
広角X線回折像(図4)から、ナイロン6の分子鎖軸(b軸)は、実施例1と同様に、延伸方向に配向しているのが確認された。広角X線回折像(図4)および110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図5)によると、PPの040反射は垂直方向にスポットとして観測され、結晶b軸は垂直方向に高度に配向した。一方、PPの110反射は、複雑な方位角依存性を示し、延伸方向から±15°、±90°にスポット状の反射を示した。方位角±15°の110反射はPP結晶のa* 軸の延伸方向への配向に起因する。方位角±42°の110反射は、111反射の子午線(延伸方向)への出現と共に増加し、PPの結晶c軸の傾斜配向が形成されたことを示している。以上より、急冷フィルムでは、実施例1の熱処理試料とは異なり、a* 軸配向(結晶c軸の垂直配向)と結晶c軸の傾斜配向が混在することが確認された。
【0023】
図6は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力−ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図6から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ161.5MPa、1.35GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ37.6MPa、1.10GPaであり、未延伸フィルムと比較すると二方向に優れた力学物性を示した。
【0024】
(実施例3)
実施例1および実施例2とは組成比が異なるナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドについて実施例1と同様に延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの形態を固定して200℃で3分間PPを融解した後、130℃で4時間、真空下で熱処理してPPを配向結晶化した。
延伸膜の電子顕微鏡観察を行うと、シリンダー状に変形したPPドメイン(径約1〜2ミクロン)がナイロン6のマトリックスに分布し、延伸方向に配向しているのが観測された。
図7は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図8は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0025】
広角X線回折像(図7)によると、実施例1および実施例2の場合と同様にナイロン6の分子鎖軸(結晶b軸)が延伸方向に配向しているのが確認された。さらに、広角X線回折像(図7)およびPPの110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図8)を調べると、PPの040反射は垂直方向に観測され、PPの結晶b軸は延伸と垂直方向に高度に配向している。さらに、110反射は、主として方位角±15°に観測され、このことから実施例1と同様にa*軸が延伸方向に配向し、分子鎖軸(結晶c軸)と結晶b軸が垂直方向に配向していることが確認された。
【0026】
図9は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図9から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ148.8MPa、1.30GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ30.7MPa、1.27GPaであり、二方向に優れた力学物性を示した。
【0027】
(比較例1)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸フィルムの力学物性を評価した。降伏強度、26.2MPa、弾性率0.47Gpaであり、低ひずみ域における未延伸膜の力学物性は、実施例1(図3参照)および実施例2(図6参照)の配向フィルムの力学物性より劣った。
【0028】
(比較例2)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドの未延伸フィルムの力学物性を評価した。降伏強度、26.4MPa、弾性率0.44GPaであり、低ひずみ域における未延伸膜の力学物性は、実施例3(図9参照)の配向フィルムの力学物性より劣った。
【0029】
(比較例3)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドを実施例1と同様に140℃で延伸し、熱処理を行わずに広角X線回折を測定した。
図10は、140℃で延伸した延伸フィルムの広角X線回折像であり、図中、aは、ナイロン6の場合を、bは、ポリプロピレンの場合を、cは、ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの場合を、それぞれ示している。いずれも、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
ブレンドの延伸フィルムの広角X線回折像(図10c)は、ナイロン6の延伸フィルムの広角X線回折像(図10a)とPPの延伸フィルムの広角X線回折像(図10b)との重ね合わせであり、ブレンド延伸フィルムにおいてナイロン6の分子軸とPPの分子軸が共に延伸方向に配向した。
【0030】
引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ218MPa、1.90Gpaであった。また、垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ29.0Mpa、1.02GPaであり、延伸方向に高い力学物性を示したが、垂直方向の力学物性は実施例1および実施例2の熱処理試料に比べて低い値に留まった。
【0031】
(比較例4)
PPの変わりにエチレン−メタクリル酸共重合体を用いて、実施例1と同様の実験を行った。すなわち、ナイロン6/エチレン−メタクリル酸共重合体ブレンドの延伸フィルムを作製し、120℃でエチレンメタクリル酸共重合体を融解し、80℃で熱処理してエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化した。
図11は、広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。図中、aは、ナイロン6/エチレン−メタクリル酸コポリマーブレンド延伸膜の広角X線回折像であり、bは、比較例4の、熱処理してポリエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化したフィルムの広角X線回折像である。
未熱処理の延伸フィルムの広角X線回折像(a)と、熱処理後の延伸フィルムの広角X線回折像(b)を比較すると、有意な違いは認められなかった。すなわち、比較例4により、PPの変わりにエチレン−メタクリル酸共重合体を用いた場合には、熱処理によりエチレン−メタクリル酸共重合体の結晶配向は変化せず、延伸フィルムと同様にエチレン−メタクリル酸共重合体の分子鎖軸が延伸方向に配向していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、高強度プラスチックフィルムとして広範な用途に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図2】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図3】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図4】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図5】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図6】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図7】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図8】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図9】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図10】140℃で延伸した延伸フィルムの広角X線回折像であり、a:ナイロン、b:ポリプロピレン、c:比較例3。
【図11】ナイロン6/エチレン−メタクリル酸コポリマーブレンド延伸フィルムの広角X線回折像(a)、及び、該ブレンド延伸フィルムを熱処理して、ポリエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化したフィルムの広角X線回折像(b)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン6とポリプロピレンの分子鎖軸が互いに直交方向に配向した直交配向構造あるいは分子鎖軸が互いに斜め方向に配向した傾斜配向構造を有し、二次元的に優れた機械的特性を有する結晶配向フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
成形材料として、種々のポリマーが使用されているが、ポリマー単独では付与できる特性に限界があるため、複数のポリマーをブレンドすることにより、それぞれ単独のポリマーの場合に比較して、強度、耐熱性、高衝撃性などを改善した種々の多成分系樹脂組成物が開発されている。
このポリマーブレンドには、構成成分が互いに溶け合う相溶性ブレンドと、構成成分が溶け合わない非相溶性ブレンドの2種類があるが、後者の場合には界面において破壊が生じるために、相溶化剤などにより界面を強化して利用する場合が多い。
例えば、ナイロン6にポリプロピレンを配合させたものは、ナイロン6が有する耐衝撃性、耐薬品性、熱的安定性等の物性と、ポリプロピレンの低吸水性、化学的安定性、低コストの特性をバランスよく兼ね備えた材料として期待されているが、ナイロンとポリプロピレンは互いに非相溶性であるために、種々の相溶化が報告されている(特許文献1,2)。
【0003】
一方、ポリマーフィルムやロッドを一方向に延伸することにより、延伸方向に強化された材料を作成することは周知であり、多数の高分子材料に適用されている。
本発明者らは、幾つかのポリマーブレンドからなる延伸フィルムについて研究を重ねてきた。
例えば、特許文献1では、結晶性ポリスチレンとポリフェニレンオキシド(PPO)からなる相溶性ポリマーブレンドから一軸延伸フィルムを製造する際に、延伸による配向制御と熱処理による結晶化とを組み合わせることにより、フィルムの延伸方向における結晶性アイソタクチックポリスチレンの配向度が0.6〜1であり、PPOの分子鎖がランダムに配向したものであるフィルムであって、フィルムの延伸方向と垂直な方向の強度がフィルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フィルムと同程度の強度であり、フィルムの延伸方向の強度がフィルムを構成する結晶性ポリスチレンの未延伸フィルムの強度を凌ぐ一軸延伸フィルムが得られることを見いだしている。
また、特許文献2では、相溶性ポリマーであるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とポリブチレンサクシネート(PBSU)を溶媒に溶解した後、フィルム化し、加熱して該フィルムを溶融した後急冷して得られたフィルムを一軸延伸し、その後PVdFの融点よりも低く、PBSUの融点よりも高い温度においてPBSUを融解し、その後50〜100℃に保温してPBSUを結晶化することにより、PVdFの分子鎖方向の結晶軸(c軸)とPBSUの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向した多軸結晶配向フィルムが得られ、該フィルムは無配向のブレンド膜の強度と比較して、延伸方向に4〜7.5倍強く、延伸と垂直方向にも1.2〜1.5倍強化された物性を有することを見いだしている。
【0004】
さらに、本発明者らは、非相溶性ポリマーブレンドからなるフィルムについても鋭意研究し、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とナイロン11とからなるポリマーブレンド(特許文献3)、或いは、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)とナイロン6とからなるポリマーブレンドを混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロンの融点よりも低い温度においてPVdFのみを融解した後徐冷してPVdFを結晶化することにより、ナイロンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)とPVdFの分子鎖と垂直方向の結晶軸(b軸)が共に延伸方向に配向し、延伸方向と垂直方向の二方向に破断強度と弾性率が向上した多軸結晶配向フィルムが得られることを見いだしている。
【0005】
しかしながら、非相溶性ポリマーブレンドであるナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなるフィルムについては、まだ充分な検討がなされていない。
例えば、特許文献5には、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなるフィルムが、易引裂き性を示すことから、包装用フィルムとして用いられることが記載されているが、延伸については、引裂き性が損なわれない範囲で一軸又は二軸延伸処理により引裂き強度、破断強度等の特性を調整してもよいとしているだけである。
また、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドからなる繊維については、延伸にともなうブレンド繊維の構造及び強伸度特性の変化について報告がなされているが(非特許文献3参照)、フィルムに関しては検討がなされていない。
【特許文献1】特許第3783052号公報
【特許文献2】特許第3962810号公報
【特許文献3】特許第4035607号公報
【特許文献4】特開2007−302723号公報
【特許文献5】特開平7−299858号公報
【非特許文献1】Ide, F.; Hasegawa, A. Studies on polymer blend of nylon 6 and polypropylene or nylon 6 and polystyrene using the reaction of polymer. J. Appl. Polym. Sci. 1974, 18, 963-974.
【非特許文献2】Gonzalez-Montiel, A.; Keskkula, H.; Paul, D.R. Impact-modified nylon 6/polypropylene blends: 1. Morphology-property relationships. Polymer 1995, 36, 4587-4603.
【非特許文献3】ポリプロピレン/ポリアミド6ブレンド繊維の延伸による構造及び強伸度特性の変化、高橋、近田、清水、繊維学会誌、52,396、(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のとおり、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドは、ナイロン6の、耐衝撃性、耐薬品性、熱的安定性等の物性と、ポリプロピレンの低吸水性、化学的安定性、低コストの特性をバランスよく兼ね備えた材料として期待されており、一層の力学特性の向上が必要であるものの、未だに充分な検討がなされていないのが現状である。
本発明では、このような事情に鑑みてなされたものであって、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの延伸膜においてポリプロピレンを配向結晶化することによりポリプロピレンの結晶配向を制御し、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの力学物性の向上を図ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ナイロン6の配向膜中で、ポリプロピレンの結晶配向を制御することにより、ナイロン6とポリプロピレンのポリマーブレンドの優れた物理的特性を保持したまま、延伸方向及び垂直方向の破断強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができるという知見を得た。
【0008】
本発明は、これら知見に基づいて完成に至ったものであり、以下のとおりのものである。
[1]ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルム。
[2]前記相溶化剤が、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレンである前記[1]の結晶配向フィルム。
[3]前記ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)とを、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含む前記[1]又は[2]に記載の結晶配向フィルム。
[4]前記相溶化剤を0.1〜30重量%含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
[5]ナイロン6とアソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン6の融点よりも低く、アイソタクチックポリプロピレンの融点よりも高い温度においてアイソタクチックポリプロピレンを融解した後、アイソタクチックポリプロピレンをナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中で再結晶化することを特徴とする結晶配向フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ナイロン6の配向膜中でポリプロピレンの結晶配向を制御することにより、ナイロン6/ポリプロピレンブレンドの優れた物理的性質を保持したまま、延伸方向及び垂直方向の強度及び弾性率を向上し、機械的特性の改善を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルムを提供するものである。
【0011】
本発明の結晶配向フィルムを構成するポリマーブレンドにおいて、ナイロン−6(ポリウンデカンアミド)とアイソタクチックポリプロピレン(PP)の配合は、どのような割合のものでも良いが、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含むもの、より好ましくはナイロン6/PP=60/40〜80/20の割合で含むものがよい。ナイロン6の量が多すぎるとポリプロピレンをブレンドすることにより得られる効果が小さくなる。一方、ポリプロピレンの量が多すぎると、ポリプロピレンがマトリックスとなって連続相を形成するため、結晶化過程で配向が乱れ、目的の配向構造を形成することができない。
【0012】
また、本発明の結晶配向材料に用いられる相溶化剤は、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)からなる非相溶性ポリマーブレンドに対して、反応性、相溶性、又は親和性を示す化合物であれば特に制限されるものではない。
相溶化剤には、例えば、官能基が導入された変性ポリオレフィンなどが含まれ、該官能基としては、例えば、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、グリシジル基などのエポキシ基が含まれ、これらの官能基が、複数組み合わせてポリオレフィンに導入されてもよく、また、これらの変性ポリオレフィンを二種以上組み合わせてもよい。
本発明において、変性ポリオレフィンの好ましいオレフィンとしては、プロピレンが用いられ、また、好ましい官能基として、エチレン性不飽和カルボン酸とそのエステル、無水マレイン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸の酸無水物などが好ましく用いられるが、特に、本発明においては、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレン(PP−g−MA)が好ましく用いられる。
【0013】
本発明の結晶配向フィルムを構成するポリマーブレンドにおける相溶化剤の割合は、界面が強化され、相構造が微細化されればどのような割合でも良いが、ブレンド中に相溶化剤を重量比で0.1〜30%含むもの、より好ましくは1〜10%含むものがよい。
【0014】
本発明の上記結晶配向フィルムは、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むポリマーブレンドから一軸延伸フィルムを製造する際に、延伸による配向制御と熱処理による結晶化を組み合わせることにより製造することができる。
具体的には、例えば結晶性ポリプロピレンとしてアイソタクチックポリプロピレン(PP)を使用し、これに、ナイロン6及び相溶化剤を加えて混練し、ナイロン6、PP、及び相溶化剤からなるポリマーブレンドを作製する。混練は、混練機を用いて、ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むポリマーブレンドが溶融した状態で行われるが、用いる混練機はどのようなものであってもよい。また、混練温度は、ナイロン6の融解温度(230℃)以上、好ましくは、235〜340℃で混練される。
【0015】
次いで、得られた混練物を、熱プレスにより、230〜235℃で溶融してシート状に成形し、さらに、20〜200℃、好ましくは80〜160℃で、一軸方向に、2倍以上、好ましくは3倍以上に延伸する。
【0016】
延伸後、形態を拘束してナイロン6の融解温度より低く、ポリプロピレンの融解温度より高い温度、好ましくは175℃以上210℃以下の温度でポリプロピレンを融解した後、ポリプロピレンを再結晶化する。
ポリプロピレンの結晶化は、一定温度における等温結晶化でも、一定冷却速度における非等温結晶化でもよく、冷却方法に依存しない。
【実施例】
【0017】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
ナイロン6、アイソタクチックポリプロピレン(PP)、無水マレイン酸グラフトポリプロピレン(PP−g−MA)をそれぞれ、35グラム、10グラム、5グラムを24時間80℃で真空乾燥した後、混練機を用いて235℃で10分間、混練してナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドを作製した。熱プレスを用いて233℃において溶融しシート状に成形した。さらに、140℃において3.7倍に延伸して配向膜を作製した。延伸膜の形態を固定して200℃に3分間保持してPPを融解した後、130℃で4時間、真空下で熱処理してPPを配向結晶化した。
【0018】
延伸膜の電子顕微鏡観察を行うと、シリンダー状に変形したPPドメイン(径約200〜500nm)がナイロン6のマトリックスに分布し、延伸方向に配向しているのが観測された。
図1は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図2は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0019】
広角X線回折像(図1)には、ナイロン6の200反射および002反射が赤道方向(延伸と垂直方向)に観測され、ナイロン6の分子鎖軸(結晶b軸)が延伸方向に配向しているのが確認された。さらに、広角X線回折像(図1)およびPPの110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図2)を調べると、PPの040反射は垂直方向にスポットとして観測され、PPの結晶b軸は延伸と垂直方向に高度に配向している。さらに、110反射は、主として延伸方向から少し傾いた角度(方位角±15°)に観測され、このことからa*軸が延伸方向に配向し、分子鎖軸(結晶c軸)と結晶b軸が垂直方向に配向していることが確認された。
【0020】
図3は、実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図3から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ180MPa、1.72GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ35.0MPa、1.22GPaであり、未延伸フィルムと比較すると二方向に優れた力学物性を示した。
【0021】
(実施例2)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドについて、実施例1と同様に延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの形態を固定して200℃で3分間PPを融解した後、氷水中に投下し急冷してPPを配向結晶化した。
図4は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図5は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0022】
広角X線回折像(図4)から、ナイロン6の分子鎖軸(b軸)は、実施例1と同様に、延伸方向に配向しているのが確認された。広角X線回折像(図4)および110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図5)によると、PPの040反射は垂直方向にスポットとして観測され、結晶b軸は垂直方向に高度に配向した。一方、PPの110反射は、複雑な方位角依存性を示し、延伸方向から±15°、±90°にスポット状の反射を示した。方位角±15°の110反射はPP結晶のa* 軸の延伸方向への配向に起因する。方位角±42°の110反射は、111反射の子午線(延伸方向)への出現と共に増加し、PPの結晶c軸の傾斜配向が形成されたことを示している。以上より、急冷フィルムでは、実施例1の熱処理試料とは異なり、a* 軸配向(結晶c軸の垂直配向)と結晶c軸の傾斜配向が混在することが確認された。
【0023】
図6は、実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力−ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図6から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ161.5MPa、1.35GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ37.6MPa、1.10GPaであり、未延伸フィルムと比較すると二方向に優れた力学物性を示した。
【0024】
(実施例3)
実施例1および実施例2とは組成比が異なるナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドについて実施例1と同様に延伸フィルムを作製した。延伸フィルムの形態を固定して200℃で3分間PPを融解した後、130℃で4時間、真空下で熱処理してPPを配向結晶化した。
延伸膜の電子顕微鏡観察を行うと、シリンダー状に変形したPPドメイン(径約1〜2ミクロン)がナイロン6のマトリックスに分布し、延伸方向に配向しているのが観測された。
図7は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
図8は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射(────)及び040反射(─ - ─ - ─)の回折強度の方位角依存性を示す図であり、方位角0度と±90度は、それぞれ延伸方向および垂直方向に対応している。
【0025】
広角X線回折像(図7)によると、実施例1および実施例2の場合と同様にナイロン6の分子鎖軸(結晶b軸)が延伸方向に配向しているのが確認された。さらに、広角X線回折像(図7)およびPPの110反射と040反射のX線回折強度の方位角依存性(図8)を調べると、PPの040反射は垂直方向に観測され、PPの結晶b軸は延伸と垂直方向に高度に配向している。さらに、110反射は、主として方位角±15°に観測され、このことから実施例1と同様にa*軸が延伸方向に配向し、分子鎖軸(結晶c軸)と結晶b軸が垂直方向に配向していることが確認された。
【0026】
図9は、実施例3で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図であり、図中、(────)は、配向結晶化試料を延伸方向に試験した場合、(─ - ─ - ─)は、配向結晶化試料を垂直方向に試験した場合、(---------)は、ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドの未延伸試料の応力−ひずみ曲線を表している。
図9から明らかなように、引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ148.8MPa、1.30GPaであった。また、延伸と垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ30.7MPa、1.27GPaであり、二方向に優れた力学物性を示した。
【0027】
(比較例1)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの未延伸フィルムの力学物性を評価した。降伏強度、26.2MPa、弾性率0.47Gpaであり、低ひずみ域における未延伸膜の力学物性は、実施例1(図3参照)および実施例2(図6参照)の配向フィルムの力学物性より劣った。
【0028】
(比較例2)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/29/1(重量比)ブレンドの未延伸フィルムの力学物性を評価した。降伏強度、26.4MPa、弾性率0.44GPaであり、低ひずみ域における未延伸膜の力学物性は、実施例3(図9参照)の配向フィルムの力学物性より劣った。
【0029】
(比較例3)
ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドを実施例1と同様に140℃で延伸し、熱処理を行わずに広角X線回折を測定した。
図10は、140℃で延伸した延伸フィルムの広角X線回折像であり、図中、aは、ナイロン6の場合を、bは、ポリプロピレンの場合を、cは、ナイロン6/PP/PP−g−MA=70/20/10(重量比)ブレンドの場合を、それぞれ示している。いずれも、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。
ブレンドの延伸フィルムの広角X線回折像(図10c)は、ナイロン6の延伸フィルムの広角X線回折像(図10a)とPPの延伸フィルムの広角X線回折像(図10b)との重ね合わせであり、ブレンド延伸フィルムにおいてナイロン6の分子軸とPPの分子軸が共に延伸方向に配向した。
【0030】
引張り試験を行うと延伸方向の強度と弾性率は、それぞれ218MPa、1.90Gpaであった。また、垂直方向の強度と弾性率は、それぞれ29.0Mpa、1.02GPaであり、延伸方向に高い力学物性を示したが、垂直方向の力学物性は実施例1および実施例2の熱処理試料に比べて低い値に留まった。
【0031】
(比較例4)
PPの変わりにエチレン−メタクリル酸共重合体を用いて、実施例1と同様の実験を行った。すなわち、ナイロン6/エチレン−メタクリル酸共重合体ブレンドの延伸フィルムを作製し、120℃でエチレンメタクリル酸共重合体を融解し、80℃で熱処理してエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化した。
図11は、広角X線回折像であり、子午線(上下方向)が延伸方向に、また赤道(左右方向)が延伸と垂直方向に対応する。図中、aは、ナイロン6/エチレン−メタクリル酸コポリマーブレンド延伸膜の広角X線回折像であり、bは、比較例4の、熱処理してポリエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化したフィルムの広角X線回折像である。
未熱処理の延伸フィルムの広角X線回折像(a)と、熱処理後の延伸フィルムの広角X線回折像(b)を比較すると、有意な違いは認められなかった。すなわち、比較例4により、PPの変わりにエチレン−メタクリル酸共重合体を用いた場合には、熱処理によりエチレン−メタクリル酸共重合体の結晶配向は変化せず、延伸フィルムと同様にエチレン−メタクリル酸共重合体の分子鎖軸が延伸方向に配向していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、高強度プラスチックフィルムとして広範な用途に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図2】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図3】実施例1で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図4】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図5】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図6】実施例2で得られた、PPを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図7】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムの広角X線回折像。
【図8】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムにおけるポリプロピレンの110反射及び040反射の回折強度の方位角依存性を示す図。
【図9】実施例3で得られた、ポリプロピレンを配向結晶化したフィルムの応力―ひずみ曲線を示す図。
【図10】140℃で延伸した延伸フィルムの広角X線回折像であり、a:ナイロン、b:ポリプロピレン、c:比較例3。
【図11】ナイロン6/エチレン−メタクリル酸コポリマーブレンド延伸フィルムの広角X線回折像(a)、及び、該ブレンド延伸フィルムを熱処理して、ポリエチレン−メタクリル酸共重合体を結晶化したフィルムの広角X線回折像(b)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルム。
【請求項2】
前記相溶化剤が、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレンである請求項1に記載の結晶配向フィルム。
【請求項3】
前記ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)とを、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
【請求項4】
前記相溶化剤を0.1〜30重量%含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
【請求項5】
ナイロン6とアソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン6の融点よりも低く、アイソタクチックポリプロピレンの融点よりも高い温度においてアイソタクチックポリプロピレンを融解した後、アイソタクチックポリプロピレンをナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中で再結晶化することを特徴とする結晶配向フィルムの製造方法。
【請求項1】
ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を含むブレンドフィルムであり、ナイロン6の分子鎖方向の結晶軸(b軸)とアイソタクチックポリプロピレンの分子鎖方向の結晶軸(c軸)が互いに異なる方向に配向した結晶配向フィルム。
【請求項2】
前記相溶化剤が、無水マレイン酸をグラフトしたポリプロピレンである請求項1に記載の結晶配向フィルム。
【請求項3】
前記ナイロン6とアイソタクチックポリプロピレン(PP)とを、重量比で、ナイロン6/PP=50/50〜90/10の割合で含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
【請求項4】
前記相溶化剤を0.1〜30重量%含む請求項1又は2に記載の結晶配向フィルム。
【請求項5】
ナイロン6とアソタクチックポリプロピレンと相溶化剤を混練し、その後熱プレスでシート状に成形し、一軸延伸した後、ナイロン6の融点よりも低く、アイソタクチックポリプロピレンの融点よりも高い温度においてアイソタクチックポリプロピレンを融解した後、アイソタクチックポリプロピレンをナイロン6/アイソタクチックポリプロピレンブレンド延伸膜中で再結晶化することを特徴とする結晶配向フィルムの製造方法。
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図1】
【図4】
【図7】
【図10】
【図11】
【図3】
【図5】
【図6】
【図8】
【図9】
【図1】
【図4】
【図7】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−59335(P2010−59335A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227696(P2008−227696)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]