説明

ナトリウムイオンキャパシタ

【課題】本発明は、低価格なナトリウムイオンキャパシタの高エネルギー密度化、優れた高出力特性及び長寿命を可能にすることを課題とする。
【解決手段】少なくとも、正極と、負極と、電解液とを有するキャパシタであって、前記正極が、三次元構造を有する耐電解液性の金属多孔体からなる正極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものであり、前記電解液がナトリウム塩を含む非水電解液であることを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナトリウム非水系キャパシタ、ナトリウムイオンキャパシタやナトリウムイオンハイブリッドキャパシタ(以下、これらを総称してナトリウムイオンキャパシタという)に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの種類のキャパシタが実用化されているが、とくに両極に活性炭を用いて電気二重層を利用する非水(主として有機電解液)系キャパシタが広く普及してきた。
ところが近年とくにリチウムイオンキャパシタに注目が集まっている。このキャパシタは、電気二重層の原理を使いながら負極にはリチウムイオン吸蔵可能な炭素系材料を使い、そこにリチウムイオンを添加することでエネルギー密度を向上させたキャパシタである。正極と負極とで反応の原理が異なり、リチウムイオン電池の負極と電気二重層の正極を組み合わせた構造を持つ。性能面では既存の電気二重層キャパシタの市場を代替する可能性があり、期待が寄せられている。
また、負極に活性炭、正極にリチウムイオン電池同様の作用物質を用いるハイブリッドキャパシタも提案されている。
これらキャパシタの用途は、携帯電話、ノート型パソコン、家庭用分散型蓄電システム、ハイブリッド車、電気自動車、メモリーバックアップなどである。
【0003】
ところで、リチウムイオン電池やリチウムイオンキャパシタに使われているリチウムは、その化合物の産出地が南米などにかたよっており、価格も高く、資源量も少ない。将来、使用範囲が広がった際にはこれらの資源や価格の問題は一層深刻化する。そこでリチウムに替えてナトリウムイオン電池の研究開発が始まっている(例えば特許文献1)。
ナトリウムはリチウムと同じアルカリ金属であり、その塩化物が海水などに多量に存在していてリチウムに比べれば資源的には、はるかに豊富で価格もリチウムより安い。ナトリウムは周期表でリチウムに近く、特性は似ているが、リチウムより密度が約80%大きく、イオン半径もリチウムより約30%大きいといわれている。そのため、リチウムイオン電池で可能なリチウムイオンのようなインターカレート、デインターカレートは困難であるとされている。
【0004】
ところが結晶構造が少ないハードカーボン(難黒鉛化性炭素といわれている)がリチウムイオン電池同様に負極作用物質として取上げられている(特許文献2、3)。また、特許文献4には、負極作用物質としては、ハードカーボンの他に人造黒鉛、天然黒鉛などの炭素材料やチタン酸リチウム、Siや、Si−Ni、Si−CuなどのSi系合金、SiO酸化物、Si−SiO2複合体、Si−SiO2−カーボンなどの複合体などがあげられている。
【0005】
また、三次元構造のニッケルクロムからなる正極集電体に関しては、例えば非水電解液系二次電池に関しては特許文献5に、また、同じくキャパシタに関しては特許文献6で提案されている。例えば、発泡状ニッケルをクロマイジング処理して得られるクロムの含有率が20質量%以上である三次元構造ニッケルクロムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−021920号公報
【特許文献2】特開2009−266821号公報
【特許文献3】特開2010−199063号公報
【特許文献4】特開2010−135316号公報
【特許文献5】特開2009−176517号公報
【特許文献6】特開2010−171154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ナトリウムイオンに注目し、低廉化を可能にしつつ、エネルギー密度、放電電圧、良好な高率放電特性が得られるナトリウムイオンキャパシタを提供するものである。
【0008】
すなわち、リチウムイオンと異なり、ナトリウムイオンは、そのイオン半径が大きいことから、充放電において活性炭支持体へのインターカレート、デインターカレートが容易でなく、ナトリウムイオンキャパシタはリチウムイオンキャパシタに近いエネルギー密度や寿命が得られていない。
また、ナトリウムイオンキャパシタは、依然として両極の集電体には、銅やアルミニウムなどの箔状集電体が用いられ、これに塗着や充填される作用物質の明確な組合せも確立されていないので、リチウムイオン系のキャパシタに比べて、高エネルギー密度、高出力特性、長寿命などが得られていない。
本発明はこのような課題を解決するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の構成を採用する。
(1)少なくとも、正極と、負極と、電解液とを有するキャパシタであって、
前記正極が、三次元構造を有する耐電解液性の金属多孔体からなる正極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものであり、
前記電解液がナトリウム塩を含む非水電解液である
ことを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。
(2)前記金属多孔体が、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化した金属多孔体であることを特徴とする上記(1)に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(3)前記三次元構造を有するニッケル多孔体が樹脂多孔体にニッケルめっきを施すことにより得られたものであることを特徴とする上記(2)に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(4)前記三次元構造を有するニッケル多孔体は樹脂多孔体にニッケルめっきを施した後に、樹脂を加熱により焼却して得られたものであることを特徴とする上記(2)又は(3)に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(5)前記三次元構造を有するニッケル多孔体のニッケル目付量が200〜500g/m2であることを特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(6)前記金属多孔体の多孔度が90〜97%であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(7)前記金属多孔体におけるクロムの量がニッケルクロム合金に対して25〜50質量%であることを特徴とする上記(2)〜(6)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(8)前記金属多孔体が前記ニッケル多孔体をクロマイジング処理することによって形成されたものであることを特徴とする上記(2)〜(7)いずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(9)前記ナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料が活性炭であることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(10)前記負極が、三次元構造を有するニッケル多孔体からなる負極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものである
ことを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(11)ナトリウムイオンキャパシタを構成する前の前記負極のナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料にナトリウムが担持されていることを特徴とする上記(10)に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(12)前記負極用集電体が、前記ニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化することにより得られたものである
ことを特徴とする上記(10)又は(11)に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(13)前記負極用集電体に充填されているナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料が、活性炭、黒鉛、ハードカーボン、スズ、スズ化合物、チタン酸リチウム、シリコン微粒子、及びシリコン酸化物からなる群より選択される1以上の材料である
ことを特徴とする上記(10)〜(12)のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
(14)正極は三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた正極用集電体の多孔部に、活性炭を充填して得られたものであり、
負極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の多孔部にハードカーボンを充填して得られたものであり、
電解液としてナトリウム塩を含む非水電解液を備え、
負極計算容量と正極計算容量の比が、10〜100、の範囲にあることを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。
(15)正極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた正極用集電体の多孔部に、活性炭を充填して得られたものであり、
負極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた負極用集電体の多孔部にハードカーボンを充填して得られたものであり、
電解液としてナトリウム塩を含む非水電解液を備え、
負極計算容量と正極計算容量の比が、10〜100、の範囲にあることを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、低廉化を可能にしつつ、エネルギー密度、放電電圧、良好な高率放電特性が得られるナトリウムイオンキャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るナトリウムイオンキャパシタの放電曲線を表す図である。
【図2】アルミ箔正極と銅箔負極を用いたコイン形のナトリウムイオンキャパシタの放電曲線を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の通り、本発明はナトリウム塩を含む非水電解液を用いることによりリチウムイオンキャパシタよりも低廉で資源性に優れた長所を活かしつつ、従来のナトリウムイオンキャパシタにはない高エネルギー密度、高出力特性、長寿命などを発揮可能なナトリウムイオンキャパシタを提供することを目的としている。
一般に、汎用のリチウムイオン電池には正極にリチウム金属酸化物、負極に黒鉛が使用され、負極には活性炭の他に、ケイ素、スズなどの材料あるいは酸化物がそれぞれ使われている。また、非水系キャパシタには、両極に活性炭が使われており、リチウムイオンキャパシタには正極に活性炭、負極に黒鉛などが用いられている。そして、これらはいずれも集電体としてアルミニウム箔、銅箔などが使われている。
【0013】
これに対し、本発明は、ナトリウムイオンのイオン半径が大きいことに着目し、特に正極の集電体として耐電解液性の三次元構造を有する金属多孔体を用いることが主たる解決手段である。即ち、本発明に係るナトリウムイオンキャパシタは、少なくとも、正極と、負極と、電解液とを有するキャパシタであって、前記正極が、三次元構造を有する耐電解液性の金属多孔体からなる正極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものであり、前記電解液がナトリウム塩を含む非水電解液であることを特徴とする。
【0014】
上記の三次元構造を有する耐電解液性の金属多孔体の金属としては特に制限はないが、例えば、ニッケル−クロム合金が好ましい。このため、前記金属多孔体は、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層が形成して合金化した金属多孔体であることが好ましい。そして、かかる耐電解液性の金属多孔体を正極用集電体として用いることが好ましく、これにより、イオン半径が大きいナトリウムイオンの電気化学的反応の促進が大きく改良される。そして、リチウムイオン系キャパシタとそれほど遜色のないナトリウムイオン系のキャパシタが得られる。
【0015】
本発明のナトリウムイオンキャパシタにおいては、耐電解液性の三次元構造を有する金属多孔体を正極用集電体として使用するが、特に三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化することにより得られた金属多孔体を正極用集電体として使用することが好ましい。また、正極に限らず、正極と負極の両極に用いることもできる。なお、リチウムイオン電池と同様に負極として構成される電極には、その集電体として三次元構造を有するニッケル多孔体を用いてもよい。
【0016】
三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化した金属多孔体としては、作用物質の充填性や多孔度の点で、発泡状ニッケル、不織布状ニッケルなど、発泡ウレタンや不織布を基材として作製したものを好ましく用いることができる。また、三次元構造を有するニッケル多孔体は、発泡ウレタンや不織布等の三次元構造を有する樹脂多孔体にニッケルめっきを施し、その後、樹脂を加熱により焼却することにより得られたものであることが好ましい。
かかる三次元構造を有するニッケル多孔体は、ニッケル目付量が200〜500g/m2であることが好ましい。これにより好適な強度を備え、かつ、クロムと合金化した場合に良好な耐電解液性を発揮させることができる。
【0017】
本発明のナトリウムイオンキャパシタにおける正極用及び/又は負極用集電体としては、発泡ウレタン樹脂やポリオレフィン系不織布を基材としてニッケルめっきを施すことにより得られた三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化されたものであることが最適である。
クロム層を形成する方法としては、例えば、ニッケル多孔体の表面にクロムめっきを施す方法を挙げられる。そして、クロムめっきを施した後の多孔体を加熱により処理することによりニッケル多孔体中にクロムを拡散させ合金化することができる。
【0018】
また、本発明のナトリウムイオンキャパシタにおける正極用及び/又は負極用集電体は前記ニッケル多孔体をクロマイジング処理することにより得られたものであることが好ましい。
クロマイジング処理は、ニッケル膜にクロムを拡散浸透させる処理であり、公知の手法を採用できる。例えば、前記ニッケル多孔体(発泡状ニッケル、不織布状ニッケル等)にクロム粉末、ハロゲン化物、アルミナ粉末を混合した浸透材を充填して還元性雰囲気で加熱する粉末パック法を採用することができる。また、浸透材とニッケル多孔体を離間して配置し、還元性雰囲気中で加熱し、浸透材のガスを形成してニッケル多孔体表面のニッケルに浸透材を浸透させることもできる。
ニッケルクロムは製造方法が確立しているため、アルミニウムやステンレスの多孔体に比べて安価に製造することができる。
【0019】
前記正極用及び/又は負極用集電体として使用する金属多孔体におけるクロムの含有量は、前記クロムめっきのめっき量やクロマイジング処理の加熱時間によって調整することができる。本発明においてはクロムの含有率をニッケルクロム合金に対して25〜50質量%とすることが好ましく、より好ましくは30〜40質量%である。25質量%未満であると耐酸化性が不足するため充分な耐電解液性が発揮されない場合がある。また、50質量%を超えると電気抵抗が増加して集電性が下がる場合がある。
【0020】
上記正極用集電体に充填する、ナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料としては、例えば、活性炭を用いることが好ましい。
また、負極用集電体に充填する、ナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料としては、活性炭、黒鉛、ハードカーボン、スズ、スズ化合物、チタン酸リチウム、シリコン微粒子、及びシリコン酸化物からなる群より選択される1以上の材料であることが好ましい。これらの中でもハードカーボンを使用することが特に好ましい。
【0021】
上記活性炭は、その原料として、木材、ヤシ殻、石炭、石油重質油、石炭・石油系ピッチや各種樹脂などがあげられる。活性炭は賦活するのが一般的で、高温下で水蒸気、炭酸ガス、不活性ガス中の酸素などとの反応や塩化亜鉛、水酸化ナトリウムなどの薬品による処理などがされる。活性炭の粒径としては、とくに限定はないが、20μm以下、比表面積としては、1000〜3000m2/g程度が望ましい。
【0022】
また、負極に用いる作用物質としては、上記の他にも、ナトリウムを吸蔵脱離できる、ケイ素(Si)、スズ(Sn)などとこれらの酸化物やナトリウムとの合金系材料があげられる。
【0023】
例えば、活性炭を使用する場合には、通常導電助剤としてカーボンブラック、増粘剤、バインダを添加してスラリーとして三次元構造のニッケル表面にクロム層を形成している集電体に充填する公知の方法が好ましい。
【0024】
また、本発明に係るナトリウムイオンキャパシタは、正極に活性炭が充填され、かつ、負極にハードカーボンが充填され、負極計算容量と正極計算容量の比、すなわちN/P比が10〜100の範囲にあるものであることが好ましい。かかるキャパシタにおいては、前述のように、負極用集電体としては、三次元構造を有するニッケル多孔体を使用することもできる。また、正極と同様に、ニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化したものも使用することができる。
【0025】
上記の正極用及び/又は負極用集電体に充填するナトリウムを吸着、あるいは吸蔵脱離できる材料は、導電助剤、増粘剤、バインダ、溶媒等を混合してスラリー状にして集電体に充填することができる。
【0026】
導電助剤としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛などを使用可能である。しかし、導電性などの観点からケッチェンブラックが最も好ましい。
導電助剤の添加量は、ハードカーボンを重量比で85に対して、0.1〜10程度が好ましい。
【0027】
また、バインダとしては例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらはエマルジョンや水溶液として用いることが出来ることから注目されている。
バインダの添加量は、材料にもよるが、ハードカーボンを重量比で85に対して、0.5〜15程度が好ましい。これ以下であると作用物質の保持性に劣り、これ以上では、容量が小さくなるとともに電気抵抗も大きくなる。
【0028】
三次元構造を有する金属多孔体への作用物質充填法としては、作用物質などをスラリー状にし、このスラリーを圧入法などの公知の方法などを使用すればよい。他には、例えば、スラリー中に集電体(金属多孔体)を浸漬し、必要に応じて減圧工程を加え、スラリーを集電体の一方面からポンプなどで加圧しながら充填するなどの方法も採用することができる。
【0029】
前記集電体に作用物質スラリーを充填した後、ローラープレス機などにより加圧することにより、圧縮成形することが好ましい。加圧前後の電極の厚さには限定はないが、圧縮前の厚さは、250μm〜1400μm程度、加圧後の厚さは、通常100μm〜700μm程度が好ましい。
ナトリウムイオン系キャパシタには、公知のようにリード端子を設け、板状、ボタン型、角型、円筒型などの形状することが好ましい。
【0030】
また、ナトリウムイオンキャパシタを構成する前の負極作用物質にナトリウムが担持(ドープ)されていることが好ましい。一般に負極にナトリウムイオンを吸蔵させることは、放電でナトリウムイオンを正極に充分供給するために好ましい手段であり、セル電圧を上げることも可能になる。正極に三次元構造を有する集電体を用いて高容量を可能にするためにも重要な工程である。
その方法として、ナトリウム金属粉末と負極用の電極材料(作用物質)をあらかじめ混合しておく、又は電極を製造後にナトリウム金属箔と接触させるなどがある。後者は一種の短絡法ともいえる。
【0031】
本発明に係るナトリウムイオンキャパシタの基本的な構成は従来通りであり、正極、負極を一対とし、この電極間に電解液が含浸されたセパレータで成立ち、電槽に収納されている。
なお、セパレータとしては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン、ポリエチレンレテフタラート、ポリアミド、ポリイミド、セルロース、ガラス繊維などの公知の多孔体を用いることができる。セパレータの平均孔径は特に限定されないが、孔径0.01μm〜4μm程度、多孔度35〜70%、厚さは10μm〜100μmが採用できる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明のナトリウムイオンキャパシタを作製した実施例を示す。しかし、本発明はそれにより限定されるものではない。
【0033】
[金属多孔体(集電体)の作製]
本実施例では、三次元構造を有する金属集電体として、三次元構造のニッケル多孔体の表面にクロム層を形成したものを使用した。
具体的には、発泡状ニッケル多孔体の表面にクロムを添加し加熱してニッケルクロム合金層を形成した三次元構造の金属多孔体を製造した。すなわち発泡状ニッケルにクロマイジング処理をして、作製された発泡状ニッケルクロム合金多孔体を用いた。
【0034】
発泡状ニッケルは、ウレタンシート(平均孔径90μm、厚さ1.4mm、多孔度96%の市販品)に導電処理後、350g/m2のニッケルめっきが施され、ウレタンを除去後に還元性雰囲気で加熱して作製されたものを使用した。
そして、発泡状ニッケル(三次元構造を有するニッケル多孔体)をクロマイジング処理することにより、ニッケルをニッケル−クロム合金とした。つまり、クロム粉末とハロゲン化物、アルミナを混合した浸透材を基材に充填して還元雰囲気で過熱する粉末パック法を用いたもので、発泡状ニッケルに浸透材(クロム:90%、NH4Cl:1%、Al23:9%)を充填し、水素ガス雰囲気中で800℃に加熱して作製した。
このようにして作製した金属多孔体におけるクロムの含有量は30重量%であり、厚さは1.4mmであった。
【0035】
[負極の作製]
作用物質材料としてハードカーボン(計算容量密度200mAh/g)を用いた。
市販の平均粒径約10μmのハードカーボンを重量比で85に対して、導電剤としてケッチェンブラック(KB)を3、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を12、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を100、を混合機で攪拌しながらバインダを溶媒に溶解して負極用スラリーを得た。
続いて、上記で作製した、約1250μm、多孔度96%、孔径100〜400μmの金属多孔体を、あらかじめ1000μmに厚さを調節し、金型で直径11mm円状に打抜いた。
そしてこの発泡状ニッケルクロム多孔体を負極用集電体とし、上記負極用スラリーを下記表1に示す充填量で充填し、乾燥、加圧して負極1及び負極2を得た。負極へのナトリウムのドープは電解により行った。
また、比較として銅箔を使用して、下記表1の条件により負極3及び負極4を作製した。
【0036】
【表1】

【0037】
[正極の作製]
正極には、上記で作製した発泡状ニッケルクロム多孔体を正極用集電体として用いた。正極では、発泡状ニッケルクロム多孔体を厚さ780μmに調節し、負極と同様に金型で直径11mm円状に打抜いて正極用集電体とした。そして、これに市販の活性炭(計算容量密度30mAh/g)を充填した。活性炭は、アルカリ処理により賦活した表面積(2500m2/g)、平均粒径10μmの活性炭を用いた。
また、作用物質の重量比80に対して、導電剤としてKBを5、バインダとしてPVdFを15、溶媒としてNMPを300、を混合機で攪拌しながらバインダを溶媒に溶解して正極用スラリーを得た。
そして、正極用スラリーを前記正極用集電体に下記表2に示す充填量で充填し、乾燥、加圧して正極1及び正極2を得た。
また、比較としてアルミニウム箔を使用して、下記表2の条件により正極3及び正極4を作製した。
【0038】
【表2】

【0039】
[キャパシタの作製]
上記で得られた正極1及び負極1の間にガラス製のセパレータを挟んで対向させてセルを構成し、R2032サイズのコイン形のセルケースに収納し、1mol/lのNaPF6を溶解した、体積比1:1のエチレンカーボネイト(EC)とジエチルカーボネイト(DEC)に溶解した電解液を用いて電極及びセパレータに含浸した。
さらに、プロピレン製の絶縁ガスケットを介してケース蓋を締めて封口して、コイン形のナトリウムイオンキャパシタAを作製した。同様に、前記負極2及び正極2を用いてナトリウムイオンキャパシタBを作製した。
また、比較として、前記負極3及び正極3を用いてナトリウムイオンキャパシタCを、負極4及び正極4を用いてナトリウムイオンキャパシタDを作製した。
それぞれのナトリウムイオンキャパシタのN/P値を表3に示す。
【0040】
【表3】

【0041】
また、上記のようにして作製した正極及び負極を用いたコイン形セルのナトリウムイオンキャパシタの放電曲線を図に示す。図1は本発明のナトリウムイオンキャパシタAの放電曲線を示す図であり、図2は比較例の銅箔(負極)、アルミニウム箔(正極)を使用したキャパシタCの放電曲線を示す図である。
なお、ナトリウムイオンキャパシタBもナトリウムイオンキャパシタAと同様に良好な放電曲線が示された。
【0042】
以上の実施例の結果から、正極、負極ともに三次元構造の金属多孔体、とくにニッケル多孔体表面にクロム層を形成して合金化した金属多孔体に、正極には活性炭を充填し、負極にはハードカーボンを充填し、負極計算容量と正極計算容量の比すなわちN/Pを10〜100、とくに12〜80を採用することにより、ナトリウム系二次電池に近いエネルギー密度、高出力密度、長寿命が得られ、資源性にも優れたナトリウムイオンキャパシタが得られたことが分かる。
なお、N/Pは以下のようにして求めた。負極活物質であるハードカーボンの容量を200mAh/g、正極活物質である活性炭の容量を30mAh/gとし、それぞれの電極に含有されているハードカーボンおよび活性炭の重量をかけたものをそれぞれの電極の容量とした。このようにして求めた負極の電極容量を正極の電極容量で割った値をN/P比とした。N/P比は集電体に充填する活物質の量を変化させることで調節した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の新規技術を導入したナトリウムイオンキャパシタは、携帯用、移動用、緊急用、その他の一般、産業用の電源として用途の拡大が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、正極と、負極と、電解液とを有するキャパシタであって、
前記正極が、三次元構造を有する耐電解液性の金属多孔体からなる正極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものであり、
前記電解液がナトリウム塩を含む非水電解液である
ことを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項2】
前記金属多孔体が、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化した金属多孔体であることを特徴とする請求項1に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項3】
前記三次元構造を有するニッケル多孔体が樹脂多孔体にニッケルめっきを施すことにより得られたものであることを特徴とする請求項2に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項4】
前記三次元構造を有するニッケル多孔体は樹脂多孔体にニッケルめっきを施した後に、樹脂を加熱により焼却して得られたものであることを特徴とする請求項2又は3に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項5】
前記三次元構造を有するニッケル多孔体のニッケル目付量が200〜500g/m2であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項6】
前記金属多孔体の多孔度が90〜97%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項7】
前記金属多孔体におけるクロムの量がニッケルクロム合金に対して25〜50質量%であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項8】
前記金属多孔体が前記ニッケル多孔体をクロマイジング処理することによって形成されたものであることを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項9】
前記ナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料が活性炭であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項10】
前記負極が、三次元構造を有するニッケル多孔体からなる負極用集電体の多孔部にナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料を充填して得られたものである
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項11】
ナトリウムイオンキャパシタを構成する前の前記負極のナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料にナトリウムが担持されていることを特徴とする請求項10に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項12】
前記負極用集電体が、前記ニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化することにより得られたものである
ことを特徴とする請求項10又は11に記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項13】
前記負極用集電体に充填されているナトリウムを吸着あるいは吸蔵脱離できる材料が、
活性炭、黒鉛、ハードカーボン、スズ、スズ化合物、チタン酸リチウム、シリコン微粒子、及びシリコン酸化物からなる群より選択される1以上の材料である
ことを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載のナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項14】
正極は三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた正極用集電体の多孔部に、活性炭を充填して得られたものであり、
負極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の多孔部にハードカーボンを充填して得られたものであり、
電解液としてナトリウム塩を含む非水電解液を備え、
負極計算容量と正極計算容量の比が、10〜100、の範囲にあることを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。
【請求項15】
正極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた正極用集電体の多孔部に、活性炭を充填して得られたものであり、
負極は、三次元構造を有するニッケル多孔体の表面にクロム層を形成して合金化して得られた負極用集電体の多孔部にハードカーボンを充填して得られたものであり、
電解液としてナトリウム塩を含む非水電解液を備え、
負極計算容量と正極計算容量の比が、10〜100、の範囲にあることを特徴とするナトリウムイオンキャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−38170(P2013−38170A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171958(P2011−171958)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】