説明

ナノドットの作製方法

【課題】有機半導体に効率よくナノドットを作製できるナノドットの作製方法を提供する。
【解決手段】有機半導体からなる薄膜に中性粒子ビームを照射することによって、平均最大径が5〜800nmのナノドットを作製するナノドットの作製方法であり、中性粒子ビームは酸素からなることが好ましく、有機半導体はアセン類、ビススチリルベンゼン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリレン誘導体、フラーレン又はフラーレン誘導体のいずれかであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均最大径が5〜800nmのナノドットの作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体集積回路、ハードディスク等の情報記憶媒体、あるいはマイクロマシーン等の分野において、その加工パターンが著しく微細化されている。特に太陽電池やレーザー素子等を製造するにあたり、半導体の表面に柱状、ドット状等の微細な加工パターンを形成することが要求されている。かかる分野の加工においては、直進性が高く(高指向性であり)、且つ比較的大口径で高密度の中性粒子ビーム又はイオンビーム等のエネルギービームを照射して被処理物の微細加工等を施す技術が注目されている。
【0003】
このようなエネルギービームのビーム源としては、正イオン、負イオン、中性粒子、ラジカル粒子等の各種のビームを生成するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような正イオン、負イオン、中性粒子、ラジカル粒子等のビームをビーム源から被処理物の任意の部位に照射することで、被処理物の局所的なエッチングを始めとした微細加工を行なうことができる。
【0004】
一方、有機半導体化合物は、シリコン半導体と同じように電気を流し半導体としてふるまい、シリコンウエハ上で無機化合物層を形成するシリコン半導体と比較して、コスト、加工性に優れているため注目されている。有機半導体層の形成は、真空装置等の高価な設備を用いず、塗布法や浸漬法等で製造できるため、無機半導体に比べて低コストで製造でき、容易に大面積化が可能である。また、比較的低い温度下で形成されるため、プラスチック基板等の耐熱性のないフレキシブルな基板等に形成することもでき、機械的衝撃に対しても安定である。
【0005】
従って、有機半導体層に微細な加工パターン、例えば直径がナノメーターオーダーの微小構造体(ナノドット)を形成できれば、有機半導体を用いた太陽電池、レーザー素子への適用等、種々の分野への応用が可能となる。
【0006】
しかしながら、有機半導体に例えばプラズマのような荷電粒子を照射すると、有機半導体が容易に分解してしまうため、微細な加工パターンを形成することは困難であり、ナノドットを形成する方法が見出されれば、その意義は大きいといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−289584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、有機半導体に効率よくナノドットを作製できるナノドットの作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明により当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、有機半導体からなる薄膜に中性粒子ビームを照射することによって、平均最大径が5〜800nmのナノドットを作製するナノドットの作製方法である。当該ビーム照射方法において、中性粒子ビームは酸素からなることが好ましい。また、有機半導体としてはアセン類、ビススチリルベンゼン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリレン誘導体、フラーレンまたはフラーレン誘導体のいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機半導体に効率よくナノドットを作製できるナノドットの作製方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のナノドットの作製方法に使用される装置の一例を説明する構成説明図である。
【図2】実施例1で形成されたナノドットのAFM画像を示す図である。
【図3】実施例2で形成されたナノドットのAFM画像を示す図である。
【図4】実施例3で形成されたナノドットのAFM画像を示す図である。
【図5】参考例のAFM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のナノドットの作製方法は、有機半導体からなる薄膜に中性粒子ビームを照射するものである。これによって、平均最大径が5〜800nmのナノドットを作製することができる。以下、図面を参照して、本発明のナノドットの作製方法について説明する。
【0013】
まず、本発明のナノドットの作製するための装置について説明する。当該装置は、中性粒子ビームを有機半導体からなる薄膜に照射できる構成であれば特に限定されないが、例えば、図1に示すような中性粒子ビーム処理装置により行なうことができる。中性粒子ビーム処理装置10は、例えば、石英ガラス管、セラミック管又は金属管等により構成されるビーム生成室12と処理室14とからなる。ビーム生成室12の外周には誘導結合型のコイル16が巻回されている。
【0014】
コイル16は、8mmφ程度の外径を有するコイルであり、ビーム生成室12に2〜3ターン程度で巻回されている。コイル16は、不図示のマッチングボックスを介して高周波電源に接続されており、例えば、13.56MHzの高周波電圧がコイル16に供給される。コイル16、マッチングボックス及び高周波電源の作動によってプラズマ生成部Pが形成される。すなわち、コイル16に高周波電流を流すことで誘導磁場が生じ、その変位電流によりガス中の原子・分子が電離されプラズマが生成する。
【0015】
ビーム生成室12の上面及び下面にはそれぞれ、電極18A,メッシュ電極18Bが設けられており、上面の電極18A側には、ガス導入口20が設けられている。このガス導入口20は不図示のガス供給配管を介してガス供給源に接続されている。このガス供給源から、SF6、CHF3、CF4、C12、Ar、O2、N2、C48等のガスがビーム生成室12内に供給される。なお、電極18Aおよびメッシュ電極18Bは、例えばカーボンプレートを用いることができる。
【0016】
また、下面(底部)に固定されたメッシュ電極18Bには、中性粒子ビームが処理室14へ抽出される孔22が設けられており、抽出された中性粒子ビームは処理室14内の被処理物24に照射される。処理室14には、被処理物24を保持する保持部が必要に応じて配置されており、この保持部の上面に被処理物24が載置されている。この被処理物24は、基板26上に厚さ10〜1000nm程度の有機半導体化合物からなる有機薄膜28が形成されている。当該有機薄膜を構成する有機半導体としては、例えばテトラセンやペンタセンなどのアセン類、4,4’−ビス[(N−カルバゾル)スチリル]ビフェニルなどのビススチリルベンゼン誘導体、キナクリドン誘導体、ポルフィリン誘導体、メロシアニン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリレン誘導体、ルブレン類、ジアミン誘導体、ナフタレン誘導体、ペリレン誘導体、トリス(8−キノリラト)アルミニウム錯体(Alq3)誘導体、フラーレン、フラーレン誘導体、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミンなどが挙げられ、アセン類、ビススチリルベンゼン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリレン誘導体、フラーレンまたはフラーレン誘導体のいずれかであることが好ましい。有機半導体は、有機EL、有機太陽電池、有機TFT、有機メモリー、有機センサー等、用途に応じて適宜選択される。
有機薄膜28は、例えば、真空蒸着により基板に有機半導体層を形成する方法、適当な溶媒中に有機半導体を溶解させた溶液を基板に塗布して有機半導体層を形成する方法等で形成することができる。基板としては、ガラス板やシリコンウェハ、合成樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0017】
処理室14にはガスを排出するためのガス排出ポー卜(不図示)が設けられており、このガス排出ポートはガス排出配管(不図示)を介して真空ポンプ(不図示)に接続されている。この真空ポンプによって処理室は所定の圧力に維持される。
【0018】
本発明のナノドットの作製方法を、図1に示す中性粒子ビーム処理装置10を用いて行なう場合、まず、真空ポンプを作動させることはより、ビーム生成室12及び処理室14を真空排気する。所定の真空度に到達した後に、ガス供給源から、SF6、CHF3、CF4、Cl2、Ar、O2、N2、C48等のガスをビーム生成室12に導入する。
ガス導入後の真空度としては、0.01〜10Paの範囲が好ましく、0.05〜2Paの範囲がより好ましい。また、ガスとしては、ナノドット形成の効率性の観点から酸素ガスが好ましい。
【0019】
その後、例えば13.56MHzの高周波電圧を高周波電源によってコイル16に印加する。この高周波電圧の印加によってビーム生成室12内には高周波電界が形成される。ビーム生成室12内に導入されたガスは、この高周波電界によって加速された電子により電離され、ビーム生成室内に高密度プラズマが生成される(プラズマ生成部P)。このときに形成されるプラズマは、主として正イオンと加速された電子とからなるプラズマである。
【0020】
そして、高周波電源による高周波電圧の印加を停止する。高周波電圧の印加を停止することで電子温度が低下し、残留しているガスに電子が付着して負イオンが生成される。再び高周波電圧を印加することによってプラズマ中の電子が加熱される。このサイクルを繰り返すことによって、負イオンを効率よく且つ継続して生成することができる。この高周波電圧の印加停止時間は、プラズマ中の電子が残留しているガスに付着することによって負イオンが生成されるのに要する時間よりも十分に長く、且つプラズマ中の電子密度が低下してプラズマが消滅するよりも十分に短い時間であることが好ましい。高周波電圧の印加時間は、この高周波電圧の印加を停止している間に低下したプラズマ中の電子のエネルギーを回復させるのに十分な時間であることが好ましい。
【0021】
このようにして、プラズマ中に負イオンが生成される。即ち、通常のプラズマは正イオンと電子とからなる場合が多いが、正イオンと共に負イオンが共存した状態のプラズマを効率的に形成することができる。
【0022】
次に、バイポーラ電源によって+0.1〜+100V程度の直流電圧を電極に印加する。この直流電圧の印加によって、対向して配置された電極18Aとメッシュ電極18Bとの間には、電極18Aを陽極、メッシュ電極18Bを陰極とした電位差が生じる。従って、プラズマ中の正イオンは、被処理物に向けてドリフト空間を飛行する。
【0023】
逆にパイポーラ電源によって−0.1〜−100Vの直流電圧を電極18Aに印加すると対向して配置された電極18Aとメッシュ電極18Bとの間には、電極18Aを陰極、メッシュ電極18Bを陽極とした電位差が生じる。従って、プラズマ中の負イオンは、下流側に進行して被処理物に向けてドリフト空間を飛行する(図1参照)。
【0024】
正イオン又は負イオンは、メッシュ電極18Bの孔22を通過するときに中性化され中性粒子となる。この中性粒子は、運動エネルギーを有しているので、処理室の内部を直進して保持部に載置された被処理物に照射され、この中性粒子によって、基板26上の有機薄膜28に、ナノドットが作製される。ナノドットの形状は、特に限定されず、例えば、球状、ドーム状、円錐状などが挙げられる、また、不定形であってもよい。
ナノドットの平均最大径とは、原子間力顕微鏡を用いて1μm×1μmの領域に存在する各ナノドットの最大径を測定した値の平均値のことをいう。
なお、当該薄膜状には所定パターンを有するマスクを設けてもよい。
【0025】
中性粒子ビーム照射を行なう時間は、有機半導体の分解を抑制する観点から、0.1〜60分間であることが好ましく、0.5〜20分間であることがより好ましい。また、ビーム照射時の温度は、有機半導体の昇華を抑制する観点から、−100〜200℃であることが好ましく、−20〜5℃であることがより好ましい。また、中性粒子ビーム他の照射は、直流電圧を連続的に印加して連続して照射してもよいし、直流電圧の印加と停止を繰り返してパルスで照射してもよい。パルスで照射することでプラズマから発生する紫外線の照射物への影響を低減させることができる。パルスを行なう際の周波数は、10〜1000kHzであることが好ましく、50〜500kHzであることがより好ましい。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
基板として、酸化膜絶縁層(厚さ300nm)を有するシリコンウェハを以下の工程(1)〜(5)を順次経て洗浄し、酸化膜絶縁層表面の有機物を除去したものを用いた。
(1)アセトンを用いての超音波洗浄(10分間)
(2)イソプロパノールを用いての超音波洗浄(10分間)
(3)イソプロパノールで煮沸洗浄(10分間)
(4)窒素ブローによる乾燥
(5)紫外線オゾン処理
【0027】
洗浄後の基板の酸化膜絶縁層上に、真空蒸着装置を用いて真空度を約6×10-4Paに保ちながら、抵抗加熱により、厚さ200nmになるように有機半導体として4,4’−ビス[(N−カルバゾル)スチリル]ビフェニル(BSB−Cz)を蒸着し、薄膜を形成した。なお、蒸着したBSB−Czの薄膜の厚さは、膜厚計(Veeco Instruments社製、「DEKTAK」)を用いて測定した。
【0028】
次に、形成した薄膜上にステンレス製マスクを配置してから、真空グリスを用いて、図1に示す中性粒子ビーム処理装置10の処理室14のホルダに固定した。チャンバー(ビーム生成室12及び処理室14)内の真空度を2×10-4Pa以下とした後、酸素ガスをチャンバー内に導入し、高周波(13.56MHz)を印加してプラズマを発生させ、高周波電圧の印加と停止を繰り返し、電極10Aに+5Vの直流電圧を印加してプラズマから抽出して得られた酸素中性粒子ビームをBSB−Czの薄膜に15分間照射してビーム照射を行った。酸素の中性粒子ビーム照射条件は以下の通りとした。
【0029】
照射方法:連続
プラズマガス圧.:0.1Pa
基板温度:20℃
プラズマ出力:1000W
中性粒子ビームの照射時間:1分
薄膜表面とメッシュ電極間の距離:30mm
【0030】
中性粒子ビームを照射したBSB−Czの薄膜を基板と共に中性粒子ビーム照射装置から取り出し、マスクを外して、中性粒子ビームが照射されたBSB−Czの表面を原子間力顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSPM−5400」)で観察したところ、図2に示す通り、表面に規則的なドット様の形状(ナノドット)が見られた。1μm×1μmの領域で測定した表面粗さは0.31nmであった。
なお、図2に示す画像(13万5千倍、画像のサイズは1μm×1μm)から算出したナノドットの平均最大径は30nmであった。
【0031】
(実施例2,3)
中性粒子ビームの照射時間を3分(実施例2)及び10分(実施例3)とした以外は、実施例1と同様にしてBSB−Czの薄膜にビーム照射を行なった。これらについて実施例1と同様な表面観察を行ったところ、図3及び図4に示す通り、表面にドット状の形状(ナノドット)が見られた。また、実施例2の場合の表面粗さは0.94nm、平均最大径50nmであり、実施例3の場合の表面粗さは5.93nm、平均最大径90nmであった。
【0032】
(参考例)
中性粒子ビームによるビーム照射処理を行なわないBSB−Czの薄膜の表面を実施例1と同様にして観察した。結果を図5に示す。図5から明らかように、表面にナノドットは形成されていなかった。なお、表面粗さは0.30nmであった。
【0033】
実施例の結果から本発明の方法によれば、ナノドットを効率よく作製できることがわかる。また、ビーム照射時間を制御することで、ナノドットの形状(径)を制御できることがわかる。
【符号の説明】
【0034】
10・・・中性粒子ビーム処理装置
12・・・ビーム生成室
14・・・処理室
16・・・コイル
18A・・・電極
18B・・・メッシュ電極
20・・・ガス導入口
22・・・孔
24・・・被処理物
26・・・基板
28・・・有機薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体からなる薄膜に中性粒子ビームを照射することによって、平均最大径が5〜800nmのナノドットを作製するナノドットの作製方法。
【請求項2】
前記中性粒子ビームが酸素からなる請求項1に記載のナノドットの作製方法。
【請求項3】
有機半導体がアセン類、ビススチリルベンゼン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリレン誘導体、フラーレンまたはフラーレン誘導体のいずれかである請求項1又は2に記載のナノドットの作製方法。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−228066(P2010−228066A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80247(P2009−80247)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(505036973)財団法人マイクロマシンセンター (4)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】