説明

ナノファイバシート

【課題】ナノファイバの分布が均一なナノファイバ層を備えたナノファイバシートを提供すること。
【解決手段】本発明のナノファイバシートは、基材層と、該基材層に積層され且つナノファイバを含むナノファイバ層とを備えている。基材層が通気性を有し、且つ該基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kV以下である。基材層には多数の開孔が形成されていることが好ましい。また、基材層としてはメッシュシートが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバを含むナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性等の光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、高い比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、高い分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野でも検討がなされている。このような特徴を有するナノファイバは、例えば単繊維として用いられるほか、集積体(ファブリック)や複合材としても用いられている。
【0003】
ナノファイバの応用例として、エレクトロスピニング法により紡糸されたナノファイバと繊維構造体からなる複合繊維構造体が提案されている(特許文献1参照)。この繊維構造体は、JISK6271リング法測定による表面抵抗率が103〜1012Ωの不織布、織物、編物から選択される。同文献の記載によれば、低強度や極細繊度のため従来取扱いが難しかった、低目付けのナノファイバの集積体(ナノファイバ層)を、繊維構造体に密着させることができ、これにより、同文献に記載の複合繊維構造体は、ナノファイバ層が繊維構造体から剥離し難く、フィルター用盧材、医療用組織培養支持体、燃料電池用電解質膜支持体、アルカリ系二次電池、非水系二次電池セパレーター等として好適であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−303521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノファイバを集積させてなるナノファイバ層においては、通常、ナノファイバがナノファイバ層全体に均一に分布し、ナノファイバの分布にムラが無く、ナノファイバ層の厚みが均一であることが望まれる。ナノファイバ層においてナノファイバの分布にムラがあると、例えばナノファイバに美白効果を奏する機能剤(美白成分)が含まれている場合に、その機能剤の分布にもムラが生じるため、そのようなナノファイバ層を肌に付着させて用いても、美白効果が安定して得られないおそれがある。また一般に、ナノファイバの分布にムラの無いナノファイバ層の方が、該分布にムラのあるものよりも外観が良好である。
【0006】
しかしながら、ナノファイバの分布にムラの無いナノファイバ層を安定して供給しうる技術は未だ提供されておらず、特に、低目付けのナノファイバ層においてナノファイバの分布にムラを生じさせないようにすることは困難であった。特許文献1に記載されているように、ナノファイバ層が積層される基材層の表面抵抗率を特定範囲に設定しても、そのようにして得られるナノファイバ層は、特に低目付けの場合に、ナノファイバの分布にムラが生じていた。
【0007】
本発明の課題は、ナノファイバの分布が均一なナノファイバ層を備えたナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、基材層上にエレクトロスピニング法によって形成されたナノファイバ層におけるナノファイバの分布について種々検討した結果、該基材層として、JIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が特定値以下の低帯電性基材層を用いることにより、ナノファイバの分布が均一になることを知見した。
【0009】
本発明は、前記知見に基づきなされたもので、基材層と、該基材層に積層され且つエレクトロスピニング法によって形成されたナノファイバを含むナノファイバ層とを備えたナノファイバシートであって、前記基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kV以下であるナノファイバシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナノファイバの分布が均一なナノファイバ層を備えたナノファイバシートが提供される。斯かる本発明のナノファイバシートは、ナノファイバの均一な分布に起因して、外観が良好であり、また各種用途に好適に使用でき、例えばナノファイバに各種機能剤を含有させた場合には、当該機能剤の作用による効果が安定的に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、エレクトロスピニング法を実施するための装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、基材層と、該基材層に積層され且つナノファイバを含むナノファイバ層とを備えている。
【0013】
ナノファイバ層は、ナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、ナノファイバ層が、ナノファイバに加えて他の成分を含むことは妨げられない。ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって10000倍に拡大して観察し、その2次元画像から欠陥(ナノファイバの塊、ナノファイバの交差部分、ポリマー液滴)を除き、繊維(ナノファイバ)を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に垂直に線を引き、その繊維径を直接読み取ることで測定することができる。
【0014】
ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法に応じた長さのものを用いることができる。また、ナノファイバは、ナノファイバ層において、一方向に配向した状態で存在していてもよく、あるいはランダムな方向を向いていてもよい。
【0015】
ナノファイバ層の厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバ層の厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバ層の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Nとする。
【0016】
ナノファイバ層の坪量(目付け)も、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に付着させるために用いる場合には、ナノファイバ層の坪量を0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。
【0017】
尚、一般に、ナノファイバ層が低坪量(例えば坪量0.1g/m2、特に0.05〜3.0g/m2)であると、ナノファイバが均一に分布せずにムラが生じやすくなるところ、本発明においては、後述するようにナノファイバ層が積層される基材層として、JIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が特定値以下の低帯電性基材層を用いることで、ナノファイバ層が低坪量であってもそのナノファイバの分布を均一にし、ムラを生じさせ難くしている。
【0018】
ナノファイバ層において、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバ層は、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバ層(ナノファイバシート)の製造方法によって相違する。
【0019】
ナノファイバは、高分子化合物を原料とするものである。高分子化合物としては、天然高分子及び合成高分子のいずれをも用いることができる。この高分子化合物は、水溶性高分子化合物でもよく、水不溶性高分子化合物でもよい。
【0020】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物を1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0021】
また、本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物を1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物をいう。
【0022】
ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β-グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子等が挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン、並びにけん化度80〜96mol%の部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0023】
ナノファイバを構成する水不溶性高分子化合物としては、例えばポリビニルアルコール(ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール)、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等が挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性高分子化合物のうち、安全性が高く入手しやすい、エチルアルコールやイソプロピルアルコール等の溶媒に可溶である、等の観点から、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、水溶性ポリエステル、ツエイン等を用いることが好ましい。
【0024】
ナノファイバは、上述の高分子化合物のみから構成されていてもよく、あるいは高分子化合物に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような他の成分としては、例えば、架橋剤、顔料、添料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。架橋剤は、例えば上述の部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋して、これを不溶化する目的で用いられる。顔料は、ナノファイバを着色する目的で用いられる。これら他の成分は、それぞれ、ナノファイバ中に好ましくは0.01〜70質量%含有される。
【0025】
本発明のナノファイバシートにおいて、ナノファイバ層は、基材層の上に直接積層されている。基材層は、ナノファイバ層に対して剥離可能に積層されていることが好ましい。このような構成とすることで、ナノファイバ層を、例えばヒトの肌に付着させた後に、基材層をナノファイバ層から剥離除去して、ナノファイバ層を、ヒトの肌に残すことが可能になるという利点がある。したがって、ナノファイバ層と基材層との間には接着手段等をはじめとする何等の層も設けられていないことが好ましい。基材層のナノファイバ層からの剥離性を高める観点から、必要に応じ、基材層におけるナノファイバ層の積層面に、シリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理等の剥離処理が施されていてもよい。
【0026】
基材層は、通気性を有していることが好ましい。基材層が通気性を有していると、基材層のナノファイバ層からの剥離性が向上し、例えば上述したようにナノファイバ層をヒトの肌に付着させて用いる場合等に、基材層を該ナノファイバ層から剥離しやすくなる。尚、通常、ナノファイバ層自体も通気性を有しているため、基材層が通気性を有していると、該基材層及びナノファイバ層からなる本発明のナノファイバシートは、該シート全体としても通気性を有している。
【0027】
基材層が通気性を有していることは、例えば、JIS P8117(ISO5636/5−Part5に準拠)によって測定される通気度で判断することができる。通気度は、100mlの空気が6.42cm2の面積を通過する時間で定義される値である。通気度が大きいことは、空気の通過に時間がかかること、即ち通気性が低いことを意味し、逆に、通気度が小さいことは、通気性が高いことを意味している。このように、通気度の大小と通気性の高低とは逆の関係になっている。通気性を有している基材層の通気度は、好ましくは30秒以下、更に好ましくは20秒以下である。通気度が30秒を超える基材層は、通気性を有しているとは言えない。
【0028】
通気性を有している基材層としては、例えば、メッシュシート(繊維を織って作製したもの、あるいは繊維を編んで作製したもの、あるいは押し出し成形により作製されたもの)、開孔シート(シートに、該シートを厚み方向に貫通する開孔を多数形成したもの)、紙、不織布等を用いることができ、これらの2種以上を貼り合わせてなる積層シートを用いることもできる。開孔シートとしては、例えば、樹脂からなるシートに機械的手段によって多数の孔を形成したもの;樹脂と無機フィラーとの混合シートを延伸により界面剥離させ、該混合シートに微孔を形成したもの;発泡成形による連続気泡を利用し微孔を連通させたもの等が挙げられる。また、メッシュシート及び開孔シートの形成材料となる樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィンやポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリエチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0029】
但し、後述するように、本発明においては基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kV以下である必要があり、基材層としては、斯かる初期帯電圧の特定範囲を満たしうるものを選択する必要がある。斯かる観点から、基材層としては、多数の開孔が形成されているものが好ましく、特に、基材層を厚み方向(ナノファイバ層の積層方向)に貫通する多数の開孔(目開き)を有し且つ多数の該開孔が所定の規則性を持って形成されているものが好ましく、具体的にはメッシュシート、開孔シートが挙げられ、特にメッシュシートが好ましい。基材層に多数の開孔が所定の規則性を持って形成されていると、例えば個々の開孔の面積を大きくすることにより、基材層の初期耐電圧を低下させることができ、目的の低い初期帯電圧を得られやすい。ここで、「多数の開孔が所定の規則性を持って形成されている」とは、開孔が1インチあたり5〜400個、好ましくは10〜200個形成されており且つこれら多数の開孔が少なくとも一方向に連続的に又は所定間隔を置いて形成されていることを意味する。例えば、基材層におけるナノファイバ層の積層面に、1インチあたり5〜400個の多数の開孔が格子状や千鳥状に形成されている場合は、「多数の開孔が所定の規則性を持って形成されている」といえる。
【0030】
本発明のナノファイバシートの主たる特徴の一つとして、基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kV以下である点が挙げられる。このような、初期耐電圧が低い低帯電性基材層は、帯電しにくいため、低帯電性基材層上にエレクトロスピニング法によって常法に従ってナノファイバ層を形成した場合、ナノファイバが低帯電性基材層上で電気的に弾かれることが少なく、低帯電性基材層上の所望の位置にナノファイバを精度よく堆積させることが可能となる。従って、低帯電性基材層を用いてナノファイバ層を形成することで、低坪量のナノファイバ層を形成する場合であっても、ナノファイバの分布が均一でムラの無いナノファイバ層が得られる。基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧は、好ましくは0.01〜0.3kVである。初期帯電圧は次のようにして測定される。
【0031】
<初期帯電圧の測定方法>
基材層の初期帯電圧は、JIS L1094の帯電性試験方法に規定される半減期測定方法に従い、オネストメーター(シシド静電気社製、型番H−0110)を用いて、23℃、50%RHの環境下で測定する。初期帯電圧の測定は、基材層におけるナノファイバ層の積層面について実施する。測定条件は次の通り。印加電圧:10kV、印加電極と試料間の距離:15mm、受電圧部と試料間の距離:15mm。
【0032】
基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧を0.3kV以下にする方法としては、例えば、1)基材層の表面抵抗率を低下させる、2)基材層に帯電防止剤及び/又は導電性物質を含有させる、3)基材層に開孔が形成されている場合、特に、該基材層を厚み方向に貫通する多数の開孔(目開き)が所定の規則性を持って形成されている場合(例えばメッシュシートを用いた場合)は、その開孔の面積等を調整する(大きくする)、等の方法が挙げられる。前記1)〜3)の方法は組み合わせてもよい。
【0033】
前記1)の初期帯電圧の低下方法に関し、基材層の表面抵抗率を低下させる方法としては、例えば、基材層に制電加工を施す方法が挙げられる。制電加工方法としては、一般的に、繊維に界面活性剤等の制電加工剤を含有させて該繊維に親水性を付与することで、静電気の発生や繊維の帯電を防止する加工が挙げられる。具体的には、制電加工剤を用いる方法、コロナ放電を用いる方法、プラズマを用いる方法等が挙げられる。制電加工剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、カーボンブラック等が挙げられ、これらの制電加工剤の1種以上を基材層(ナノファイバ層の積層面)に所定量塗布あるいは含浸することにより、目的の表面抵抗率に調整することが可能である。
【0034】
基材層(ナノファイバ層の積層面)の表面抵抗率は、好ましくは1012Ω以下、更に好ましくは106〜1010Ωである。表面抵抗率は次のようにして測定される。
【0035】
<表面抵抗率の測定方法>
サンプルを測定環境下で安定化させるため、23℃、50%RHの環境下でサンプルを4時間放置した後に、サンプルの表面低効率の測定を行う。JIS K6271の6項に規定される2重リング法による方法で500Vの電圧で測定する。表面低効率の測定にはADVANTEST社製の表面抵抗計R8340を用いることができる。
【0036】
前記2)の初期帯電圧の低下方法に関し、帯電防止剤としては、例えば花王株式会社製エレクトロストリッパー等が挙げられ、導電性物質としては、例えばカーボンブラック等が挙げられ、これらの1種以上を基材層に含有させることができる。
【0037】
前記3)の初期帯電圧の低下方法に関し、多数の開孔(目開き)が所定の規則性を持って形成されている基材層(例えばメッシュシート)は、次のような構成のものが好ましい。
基材層における個々の開孔の面積は、好ましくは0.001mm2以上、更に好ましくは0.002〜5mm2である。
基材層の開孔率(1平方インチ当たりの空間面積/1平方インチ)は、好ましくは30%以上、更に好ましくは50〜90%である。
基材層における開孔の数は、1インチあたり5〜400個、好ましくは10〜200個である。個々の開孔の面積、開孔率、及び開孔の数は顕微鏡で観察し、画像から直接読み取ることで求めることができる。
開孔の平面視における形状は、特に限定されず、例えば円形、楕円形、四角形、菱形等とすることができる。
【0038】
本発明のナノファイバシートは、例えばエレクトロスピニング法を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させてナノファイバ層を形成することで好適に製造することができる。図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。エレクトロスピニング法を実施するためには、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えた装置30が用いられる。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる高分子化合物の溶液が充填されている。この溶液の溶媒は、高分子化合物の種類に応じ、水若しくは有機溶媒、又は水及び水と相溶性のある有機溶媒の混合溶媒とする。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における高分子溶液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるニードル31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0039】
シリンジ31と導電性コレクタ33との間に電圧を印加した状態下に、シリンジ31のピストン31bを徐々に押し込み、キャピラリ31cの先端から高分子化合物の溶液を押し出す。押し出された溶液においては、溶媒が揮発し、溶質である高分子化合物が固化しつつ、電位差によって伸長変形しながらナノファイバを形成し、導電性コレクタ33に引き寄せられる。このとき、導電性コレクタ33の表面に基材層(図示せず)となるべきシート(例えばメッシュシート)を配置しておくことで、該基材層の表面にナノファイバを堆積させることができる。このようにして形成されたナノファイバは、その製造の原理上は、無限長の連続繊維となる。なお、中空のナノファイバを得るためには、例えばキャピラリ31cを二重管にして芯と鞘に相溶し合わない溶液を流せばよい。
【0040】
このようにして得られたナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉等の植物表面等に付着させて用いることができる。この場合、ナノファイバ層を対象物の表面に付着させるのに先立ち、該表面を液状物で湿潤状態にしておくことが好ましい。そうすることによって、表面張力の作用を利用して、ナノファイバ層を対象物の表面に首尾良く付着させることができる。対象物の表面を湿潤状態にすることに代えて、ナノファイバ層の表面を液状物で湿潤状態にしてもよい。
【0041】
対象物の表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、ナノファイバ層を付着させる温度において液体成分を含み、且つその温度における粘度(E型粘度計を用いて測定される粘度)が5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等の水系液体、並びに非水系溶剤、その水溶液及びその分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘性多糖類等をはじめとする各種の増粘剤で増粘された液等も挙げられる。具体的には、ナノファイバ層(ナノファイバシート)を例えば化粧料として用い、ヒトの肌に付着させる場合には、対象物である肌の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0042】
本発明のナノファイバシートは、ナノファイバ層と基材層とが積層されて積層シートになっており、使用に際しては、ナノファイバ層側の面を対象物の表面と対向させて、ナノファイバシートを該表面に当接させる。その後、基材層をナノファイバ層から剥離除去することで、ナノファイバ層のみを対象物の表面に転写して付着させることができる。この方法によれば、剛性が低く取り扱い性が良好とは言えないナノファイバ層を、対象物の表面に首尾良く付着させることができる。
【0043】
本発明のナノファイバシートは、ナノファイバ層を構成するナノファイバが基材層上に均一に分布しているため、外観が良好であり、また各種用途に好適に使用でき、例えばナノファイバに各種機能剤を含有させた場合には、当該機能剤の作用による効果が安定的に得られる。機能剤としては、例えば、ビタミンC等の美白成分、グリセリン等の保湿成分等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
本発明のナノファイバシートは、例えば、美容の目的のための肌美白シート、シミ・シワ隠しシート、シート状ファンデーション、ポイントメイクシート等の各種化粧料に好適に用いられる。
【0045】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、図1に示すエレクトロスピニング法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0046】
また、ナノファイバ層は、単層構造でも2層以上の多層構造であってもよい。2層構造のナノファイバ層は、例えば、前記水溶性高分子化合物の水溶性ナノファイバを含む水溶性層と、前記水不溶性高分子化合物の水不溶性ナノファイバを含む水不溶性層とから構成することができる。
【0047】
また、ナノファイバ層の表面に接着層を形成して、ナノファイバ層と対象物表面との密着性を一層向上させてもよい。即ち、本発明のナノファイバシートは、基材層、ナノファイバ層及び接着層が順次積層された多層構造を有していてもよい。接着層を構成する接着剤としては、例えばオキサゾリン変成シリコーンや、アクリル樹脂系、オレフィン樹脂系、合成ゴム系の粘着剤等が挙げられる。また、接着層は、ナノファイバ層の一面の全面に亘って連続して(つまりベタで)施されていてもよいが、ナノファイバ層が有する特徴を最大限発揮させる観点からは、必要最小限の量でもって施されていることが好ましい。この目的のために、接着層は、ナノファイバ層の一面上に不連続に形成されていることが好ましい。接着層を不連続に形成する態様としては、例えば(i)ナノファイバ層上に接着剤を散点状に分散配置して接着層を形成する態様や、(ii)ナノファイバ層上にナノファイバ状の接着剤を堆積させて接着層を形成する態様などが挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
高分子化合物としてプルラン(水溶性高分子化合物、林原商事(株)製)を用い、これをイオン交換水に溶解し、濃度15%のエレクトロスピニング(ES)用溶液を得た。このES用溶液を用い、図1に示す装置によって、通気性を有する基材層となるべきメッシュシート(東京スクリーン株式会社製のポリエチレンテレフタレートメッシュ、商品名:ボルティングクロス テトロンT-No.120T)の表面にナノファイバ層を形成し、ナノファイバ層及び基材層の2層構造からなるナノファイバシートを得た。ナノファイバの製造条件は次のとおりである。印加電圧:27kV、キャピラリ−コレクタ間距離:185mm、水溶液吐出量:1ml/h、製造環境:28℃、36%RH。このようにして得られた実施例1のナノファイバシートにおけるナノファイバ層の厚みは30μm、ナノファイバの太さは300〜600nmであった。
【0050】
〔実施例2並びに比較例1〜3〕
実施例1において、基材層として下記表1に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。各実施例及び比較例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバ層の厚みは30μm、ナノファイバの太さは300〜600nmであった。
【0051】
各実施例及び比較例で用いた基材層は下記の通り。
・実施例1(メッシュシート):東京スクリーン株式会社製のポリエチレンテレフタレートメッシュ(商品名:ボルティングクロス テトロンT-No.120T)であり、開孔(目開き)の平面視における形状は四角形であり、開孔率は52%、開孔の数は1インチあたり120個。
・実施例2(メッシュシート):東京スクリーン株式会社製のポリエチレンテレフタレートメッシュ(商品名:ボルティングクロス テトロンT-No.80T)であり、開孔(目開き)の平面視における形状は四角形であり、開孔率は47%、開孔の数は1インチあたり80個。
・比較例1(スパンボンド不織布):構成繊維はポリエチレンテレフタレート繊維、坪量16g/m2
・比較例2(OA紙):構成繊維はパルプ、厚み100μm。
・比較例3(ポリエチレンテレフタレートフィルム):厚み25μm。
【0052】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシートについて、以下の方法で、ナノファイバ層におけるナノファイバの均一性について評価した。その結果を下記表1に示す。
【0053】
〔ナノファイバの均一性〕
ナノファイバシートにおけるナノファイバ層の表面を目視で観察し、下記評価基準に従って評価する。
○:ナノファイバの分布にムラがなく、ナノファイバが基材層におけるナノファイバ層の積層面上に均一に付着している。
×:基材層におけるナノファイバ層の積層面全体にナノファイバが付着しているが、ナノファイバの分布に細かいムラが見られる。
××:基材層におけるナノファイバ層の積層面において、ナノファイバが付着している部分と付着していない部分とが存在し、ナノファイバの分布に大きなムラが見られる。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例で得られたナノファイバシートは、ナノファイバ層においてナノファイバが均一に分布していてムラが無く、外観的に良好であった。これに対し、各比較例のナノファイバシートは、基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kVを超えているため、ナノファイバの分布にムラがあり、外観的に各実施例のナノファイバシートに劣る結果となった。
【符号の説明】
【0056】
30 装置
31 シリンジ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層と、該基材層に積層され且つエレクトロスピニング法によって形成されたナノファイバを含むナノファイバ層とを備えたナノファイバシートであって、
前記基材層のJIS L1094に規定される半減期測定方法で測定される初期帯電圧が0.3kV以下であるナノファイバシート。
【請求項2】
前記基材層に、多数の開孔が形成されている請求項1記載のナノファイバシート。
【請求項3】
前記基材層がメッシュシートである請求項1又は2記載のナノファイバシート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12711(P2012−12711A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147371(P2010−147371)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】