説明

ナノファイバー不織布の製造方法及び装置

【課題】効率的に均一なナノファイバー不織布を製造できるナノファイバー不織布の製造方法及び装置を提供する。
【解決手段】送風機4及び排風機5を作動させ、ハウジング3内のノズル1と捕集材2との間に電圧を印加し、ノズル1からポリマー溶液を吐出させると、ノズル1からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。静電爆発が生じて爆発的に延伸され、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバー8が効率的に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーから成るナノファイバーを堆積したナノファイバー不織布の製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーから成るサブミクロンスケールの直径を有するナノファイバーを製造する方法として、電荷誘導紡糸法(電界紡糸法)が知られている。この電荷誘導紡糸法では、高電圧を印加した針状のノズルにポリマー溶液を供給し、この針状のノズルからポリマー溶液を捕集部に向けて線状に吐出させる。この線状ポリマー溶液が帯電し、ポリマー溶液の溶媒蒸発に伴って線状ポリマー溶液の径が小さくなり、帯電電荷が集中し、線状ポリマー溶液に作用するクーロン力が大きくなる。このクーロン力が線状ポリマー溶液の表面張力よりも大きくなると、線状ポリマー溶液が爆発的に延伸される現象(静電爆発現象)が生じ、この静電爆発現象が繰り返されることにより、サブミクロン(例えば50〜1000nm)の直径のナノファイバーが生成する。
【0003】
このナノファイバーを捕集部上に堆積させることにより、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができる。また、ナノファイバーを厚く形成することにより、サブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブを製造することができる。こうして製造された高多孔性ウェブはフィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に好適に適用することができる。
【0004】
ナノファイバー不織布の製造方法として、ポリマー溶液をノズルから流出させて電荷誘導紡糸法にて生成させたナノファイバーを捕集部としての通風可能な移動シート上に堆積させると共に、このシートの下側を吸引する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−223179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された構成では、シートの下側から吸引するだけであるため、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散したり、捕集部上の堆積厚さのムラが大きくなったりするおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の課題を解決し、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができるナノファイバー不織布の製造方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1のナノファイバー不織布の製造方法は、ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から、該吐出部との間に電圧が印加された捕集部の一側に向けて吐出させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜100%とすることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1において、前記送風手段が発生させる風量を、前記気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%とすることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1または2において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの雰囲気を調節することを特徴とするものである。
【0012】
請求項5のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの雰囲気の温度を調節することを特徴とするものである。
【0013】
請求項6のナノファイバー不織布の製造方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性ポリマー或いは導電性ポリマーであることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7のナノファイバー不織布の製造装置は、ナノファイバーの原料ポリマー溶液を吐出する吐出部と、該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、該捕集部を通風可能な構成とし、該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段とをさらに備えたことを特徴とするものである。
【0015】
請求項8のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの外周囲を包囲する包囲体を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
請求項9のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7または8において、該送風手段で送風される気体の加温手段を備えたことを特徴とするものである。
【0017】
請求項10のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7ないし9のいずれか1項において、該吐出部と捕集部との間の雰囲気の湿度を調節する湿度調節手段を備えたことを特徴とするものである。
【0018】
請求項11のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7ないし10のいずれか1項において、吐出部を加温する加温手段を備えたことを特徴とするものである。
【0019】
請求項12のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7ないし11のいずれか1項において、前記吐出部に供給されるポリマー溶液を加温する加温手段を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
請求項13のナノファイバー不織布の製造装置は、請求項7ないし12のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性ポリマー或いは導電性ポリマーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、捕集部を吐出部と反対側(他側)から吸引するだけでなく、吐出部から捕集部に向う方向に送風するので、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバー(電解紡糸繊維)が均一な分布状態を維持しつつ、捕集部からはみ出すことなく、捕集部上に確実に堆積するようになるので、均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。なお、ナノファイバーの堆積物は、捕集部を通過する気体流によって捕集部に押し付けられるので、通常の場合、シート状となる。本発明の通り、送風手段の風量を気体吸引手段の風量の30%以上とすることにより、捕集部に堆積したナノファイバーの毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集部上のナノファイバーの堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風手段の風量を多くし過ぎると、捕集部の吐出部側(一側)の風量が過剰となって該送風手段の周りで風が循環するようになり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が捕集部に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の100%以下とすることにより、捕集部の吐出部側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバーの飛散を防止することができる。
【0022】
捕集部にナノファイバーが捕集されると、徐々に捕集部が閉塞されるため、送風手段の風量と気体吸引手段の風量とが同等である場合には、この捕集部の閉塞に伴って送風手段の風量が過剰となり、吐出部から捕集部に向って飛翔するナノファイバーの一部が飛散するおそれがあるが、請求項2の通り、この送風手段の風量を気体吸引手段の風量の80%以下とすることにより、捕集部へのナノファイバーの捕集が進んでも送風手段の風量が過剰となりにくく、ナノファイバーの飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0023】
吐出部と捕集部との間のゾーンの外周囲を包囲体で囲むことにより、一層均一なナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0024】
また、吐出部から捕集部に向う気体流の湿度や温度を調節することにより、飛翔中のナノファイバーや捕集部上のナノファイバー不織布からの溶媒の蒸発速度を制御することができ、品質の良いナノファイバー不織布を製造できて好適である。
【0025】
吐出部や吐出部に供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態に係る不織布製造装置の断面図である。
【図2】実施の形態に係る不織布製造装置の断面図である。
【図3】実施の形態に係る不織布製造装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。第1図〜第3図はそれぞれ実施の形態に係るナノファイバー不織布の製造装置の断面図である。
【0028】
[第1図のナノファイバー不織布製造装置]
第1図では、ポリマー溶液を細線状に吐出するための吐出部としてのノズル1と、該ノズル1から吐出して生成したナノファイバーを捕集する捕集部としての捕集材2とが包囲体としてのハウジング3内に配置されている。この実施の形態では、ハウジング3は円筒形、角筒形等の筒状であり、一端側に送風手段としての送風機4が配置され、他端側に気体吸引手段としての排風機5が設けられている。
【0029】
排風機5は捕集材2を挟んでノズル1と反対側に配置されている。ノズル1に対しては配管6を介してポリマー溶液が供給される。ノズル1と捕集材2との間には電圧源7によって高電圧が印加される。第1図では、捕集材2が正、ノズル1が負となるように高電圧が印加されている。なお、この極性を逆としてもよい。印加電圧は1kV〜100kV特に5kV〜100kV程度が好適であるが、これに限定されない。
【0030】
捕集材2は、多孔板、メッシュ、織布、不織布などの通風可能な材料よりなる。多孔板やメッシュのノズル1側の板面に織布や不織布を配置したものなどであってもよい。
【0031】
このように構成されたナノファイバー不織布製造装置において、送風機4及び排風機5を作動させ、ノズル1と捕集材2との間に電圧を印加し、ノズル1からポリマー溶液を吐出させると、ノズル1からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。この線状体からポリマー溶液の溶媒が蒸発することで線状体の径が細くなり、それに伴って帯電されていた電荷が集中し、そのクーロン力が線状体のポリマー溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバー8が効率的に生成する。
【0032】
本発明においては、不織布製造時には、送風機4の風量が排風機5の風量の30〜100%好ましくは30〜80%となるように、該送風機4及び排風機5を作動させる。
【0033】
このナノファイバー8が捕集材2上に捕集されて堆積し、不織布が生成する。所定量の不織布が生成した後、上記の製造操作を停止し、捕集材2を取り出し、不織布を得る。
【0034】
本発明では、不織布製造時に、送風機4の風量が排風機5の風量の30%以上となるように該送風機4及び排風機5を作動させるため、捕集材2に堆積したナノファイバー8の毛羽立ちを抑えることができ、これにより捕集材2上のナノファイバー8の堆積厚さのムラを小さくすることができる。この送風機4の風量を多くし過ぎると、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となって該送風機4の周りで風が循環するようになり、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバー8の一部が捕集材2に捕集されずに飛散するおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の100%以下とすることにより、捕集材2のノズル1側の風量が過剰となることが防止され、ナノファイバー8の飛散を防止することができる。
【0035】
なお、捕集材2にナノファイバー8が捕集されると、徐々に捕集材2が閉塞されるため、送風機4の風量と排風機5の風量とが同等である場合には、この捕集材2の閉塞に伴って送風機4の風量が過剰となるおそれがあるが、この送風機4の風量を排風機5の風量の80%以下とすることにより、捕集材2へのナノファイバー8の捕集が進んでも送風機4の風量が過剰となりにくく、ナノファイバー8の飛散を長期にわたって、より確実に防止することができる。
【0036】
この実施の形態では、ノズル1と捕集材2との間のゾーンを取り囲むようにハウジング3が設けられ、送風機4がハウジング3の上流部に設けられ、排風機5が捕集材2の下流側に配置されているので、ノズル1から捕集材2に向って飛翔するナノファイバー8が周囲に飛散することなく、また均一に分布した状態で捕集材2に捕集される。従って、捕集材2上の不織布は、品質、特性及び厚みのムラが少ないものとなる。
【0037】
[第2図のナノファイバー不織布製造装置]
第2図では、第1図の製造装置において、ハウジング3を上流側に延長し、最上流側に前記送風機4を配置し、この送風機4とノズル1との間にエアヒータ10と、水蒸気吹出口11aを有した水蒸気供給器11とを設置している。エアヒータ10は送風機4で送られてくる空気を加温するためのものであり、水蒸気供給器11は雰囲気中に水蒸気を添加して湿度を調節するためのものである。
【0038】
第2図のその他の構成は第1図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。この製造装置においても、不織布製造時には、送風機4の風量が排風機5の風量の30〜100%好ましくは30〜80%となるように、該送風機4及び排風機5を作動させる。
【0039】
この第2図の製造装置によっても、第1図と同様に、品質、特性及び厚みのムラの小さいナノファイバー不織布が製造される。
【0040】
この第2図の製造装置では、エアヒータ10で空気を加温し、飛翔中の細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発を促進したり、ハウジング3内の雰囲気中の湿度(水蒸気濃度)を調整し、細線状ポリマー溶液からの溶媒の蒸発速度を制御したりすることが可能であり、これにより、ナノファイバーの長さや径を調節することが可能である。
【0041】
この第2図の製造装置のその他の作用効果は、第1図の製造装置と同様である。
【0042】
[第3図のナノファイバー不織布製造装置]
上記第1,2図の製造装置は、ナノファイバー不織布をバッチ式に製造するものであるが、第3図はナノファイバー不織布を連続的に製造するためのものである。
【0043】
この実施の形態では、捕集材20を連続的に移動させ、この捕集材20上にナノファイバーを堆積させて不織布40を製造するようにしている。
【0044】
この捕集材20は、メッシュ、織布、不織布などの通風可能かつ屈曲可能な材料よりなる無端ベルト状のものであり、駆動ローラ21,22間にエンドレスに架け渡され、上側走行部がガイドローラ23,23に案内されて水平に移動するよう構成されている。この捕集材20の上側走行部は、後述の多孔板34の上面に沿って移動する。
【0045】
送風機30からの風がダクト31を介して上ハウジング32内に導入される。上ハウジング32は、下面が開放し、下端が捕集材20の上側走行部に近接配置されている。この上ハウジング32内に多数のノズル(吐出部)33が配置されている。各ノズル33に対しポリマー溶液タンク(図示略)からポリマー溶液がポンプ(図示略)を介して供給され、ノズル33から細線状に吐出させるよう構成されている。
【0046】
上ハウジング32と対向して下ハウジング35が捕集材20の上側走行部の下側に配置されている。この下ハウジング35の上端に多孔板34が取り付けられており、この多孔板34の上面に沿って捕集材20の上側走行部が移動する。
【0047】
下ハウジング35はダクト36を介して排風機37に接続されている。
【0048】
ノズル33と多孔板34との間には電圧源38を介して高電圧が印加される。
【0049】
このように構成されたナノファイバー不織布製造装置において、送風機30及び排風機37を作動させ、捕集材20を無端回転させ、ノズル33と多孔板34との間に電圧を印加し、ノズル33からポリマー溶液を吐出させると、ノズル33からポリマー溶液が細い線状体として吐出される。この線状体からポリマー溶液の溶媒が蒸発することで線状体の径が細くなり、それに伴って帯電されていた電荷が集中し、そのクーロン力が線状体のポリマー溶液の表面張力を超えた時点で一次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、その後さらに溶媒が蒸発して同様に二次静電爆発が生じて爆発的に延伸され、場合によってはさらに三次静電爆発が生じて延伸されることで、サブミクロンの直径を有するポリマーから成るナノファイバー39が効率的に生成する。
【0050】
このナノファイバー不織布製造装置においても、不織布製造時には、送風機30の風量が排風機37の風量の30〜100%好ましくは30〜80%となるように、該送風機4及び排風機5を作動させる。
【0051】
このナノファイバー39が捕集材20上に捕集されて堆積し、不織布40が生成する。この不織布40は、駆動ローラ21付近で捕集材20から剥離されて取り出される。
【0052】
この実施の形態でも、ノズル33と捕集材20との間のゾーンを取り囲むように上ハウジング32が設けられ、この上ハウジング32内に上方から送風するように送風機30が設けられており、また下ハウジング35及びダクト36を介して排風機37が捕集材20の下側を吸引するように設けられているので、ノズル33から捕集材20に向って飛翔するナノファイバー39が周囲に飛散することなく、また均一に分布した状態で捕集材20に捕集される。従って、捕集材20上の不織布40は、品質、特性及び厚みのムラが少ないものとなる。
【0053】
この第3図の製造装置のその他の作用効果は、第1図の製造装置と同様である。
【0054】
なお、第3図の製造装置においても、ダクト31や上ハウジング32内にエアヒータや水蒸気供給器を配置してもよい。
【0055】
[ナノファイバーの原料]
ナノファイバーの原料ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイドなどのポリエーテル、PTFE、CTFE、PFA、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素樹脂、ポリ塩化ビニルなどのハロゲン化ポリオレフィン、ナイロン−6、ナイロン−66などのポリアミド、ユリア樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリスチレン、セルロース、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルニトリル、ポリビニルアルコールおよびこれらの共重合体などの素材が使用できるが、この限りではない。特に1種類の素材に限定されることはなく、必要に応じて種々の素材を選択できる。ただし、荷電性や導電性のポリマーは電界紡糸により捕集部における毛羽立ちが起こり易いので本発明の効果が顕著であり好適である。なお、荷電性や導電性のポリマーにポリオレフィン、ポリエーテル等の他のポリマーを混合してもよい。
【0056】
導電性ポリマーとしては、ポリアセチレン、ポリチオフェン類などが挙げられる。
荷電性ポリマーとしては、パーフルオロカーボンスルホン酸重合体(Nafion(登録商標)、Fumion(商品名))、骨格となる非荷電性ポリマーにスルホン基、カルボキシル基、1〜4級アミノ基が付与されたポリマーを挙げることができる。骨格となる非荷電性ポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフロライドなどを挙げることができる。
【0057】
溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、フッ素系溶媒などが好適であるが、前記溶剤100体積部に対して水を10〜1000体積部混合した混合溶媒も好適である。
【0058】
このナノファイバーは、カチオン交換基、アニオン交換基及びキレート基の少なくとも1種が付与されてもよい。
【0059】
イオン交換基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボン酸基、水酸基、フェノール基、4級アンモニウム基、1〜3級アミン基、ピリジン基、アミド基などがあるがこの限りではない。これらの官能基はH型、OH型だけでなく、Naなどの塩型であってもよい。
【0060】
官能基の導入方法は、特に限定されるものではなく、各種の方法を採用することができる。例えば、ポリスチレンの場合、硫酸溶液中にパラホルムアルデヒドを適量添加し、加熱架橋することで、スルホン酸基の導入が可能である。ポリビニルアルコールの場合は、水酸基に、トリアルコキシシラン基やトリクロロロシラン基、あるいはエポキシ基などを作用させることなどにより、官能基を導入することができる。材質によって直接官能基を導入できない場合は、まず、スチレンなどの反応性の高いモノマー(反応性モノマーと呼ぶ)を導入した上で、官能基を導入するといったような、2段階以上の導入操作を経て、目的とする官能基を導入しても良い。これらの反応性モノマーとしては、グリシジルメタクリレート、スチレン、クロロメチルスチレン、アクロレイン、ビニルピリジン、アクリロニトリルなどがあるが、この限りではない。官能基は、ナノファイバ化する前に導入されていてもよいが、繊維を集束する際に、イオン交換能を有する高分子や樹脂を溶解あるいは微粉砕したものを、塗布したり、混練したり、化学反応によって結合させることによって、イオン交換基を導入しても良い。官能基を導入したフッ素系高分子としては、市販のナフィオンなどが例示される。
【0061】
[その他の実施の形態]
本発明では、ノズル1,33の加温用のヒータや、ノズルに供給されるポリマー溶液を30〜90℃特に30〜60℃程度に加温する加温器(ヒータや熱交換器など)を設けてもよい。このようにノズルやノズルに供給させるポリマー溶液を加温することにより、ポリマー溶液のゲル化や固化を防止し、ナノファイバー不織布を効率的に製造することができる。
【0062】
本発明では、排風機からの排風を送風機の吸込側に送ってもよい。
【実施例】
【0063】
<実施例1〜5及び比較例1>
[実施例1]
市販のナフィオン(スルホン酸基導入ポリテトラフルオロエチレン)10重量部と、ポリフッ化ビニリデン10重量部とをジメチルアセトアミド80重量部に溶解させてナノファイバ製造用ポリマー溶液を調製した。
【0064】
このポリマー溶液を第1図のノズル1に480分間にわたって供給し、ナノファイバーを製造した。その他の条件は次の通りである。
【0065】
ノズル口径:320μm
ノズルからの噴出量:0.1mL/min
ノズルと捕集材2との距離:80mm
ハウジング断面積:2800cm
送風量及び排気風量:30000L/min
湿度:50%
温度:室温
印加電圧:50kV
【0066】
これにより、面積2800cm、厚さ70μmの不織布が製造された。このナノファイバーの平均繊維径は300μmであった。
【0067】
[実施例2,3]
実施例1において製造時間を360分(実施例2)又は240分(実施例3)とした他は同一条件にて不織布を製造した。その結果、実施例2では厚さ53μmの不織布が製造され、実施例3では厚さ35μmの不織布が製造された。この結果より、製造時間を変更することにより、得られる不織布の厚さを変更することが可能であることが認められた。
【0068】
[実施例4,5]
実施例1において送風及び排気風量を20000L/min(実施例4)又は15000L/min(実施例5)とした他は同一条件にて不織布を製造した。その結果、実施例4では厚さ58μmの不織布が製造され、実施例5では厚さ35μmの不織布が製造された。この結果より、風量を変更することにより、得られる不織布の厚さを変更することが可能であることが認められた。
【0069】
[比較例1]
送風機4及びハウジング3を撤去したこと以外は実施例1と同様の設備を用いて不織布を製造を試みたが、ナノファイバーの多くが飛散してしまい、不織布の製造効率は低いものであった。
【0070】
<実施例6〜13及び比較例2,3>
[実施例6〜13]
送風機4の風量が排風機5の風量の30%(実施例6)、40%(実施例7)、50%(実施例8)、60%(実施例9)、70%(実施例10)、80%(実施例11)、90%(実施例12)及び100%(実施例13)となるように送風機4の出力を調整したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0071】
[比較例2]
送風機4の風量が排風機5の風量の20%となるように送風機4の出力を調整したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0072】
[比較例3]
送風機4の風量が排風機5の風量の110%となるように送風機4の出力を調整したこと以外は、実施例1と同様にして不織布を製造した。
【0073】
これらの実施例6〜13及び比較例2,3における具体的な送風機4及び排風機5の風量をそれぞれ表1に示す。
【0074】
上記の実施例6〜13及び比較例2,3の不織布製造工程において、それぞれ、捕集材2上に堆積したナノファイバー8が毛羽立っているか否かを目視にて観察した。また、捕集材2のノズル1側において、該捕集材2に捕集されずに舞い上がる(飛散する)ナノファイバー8が存在するか否か目視にて観察した。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1から明らかな通り、送風機4の風量を排風機5の風量の30〜80%とした実施例6〜11にあっては、いずれも、不織布製造工程において、捕集材2上に堆積したナノファイバー8が毛羽立たず、且つ捕集材2からノズル1側にナノファイバー8が舞い上がることもなかった。
【0077】
送風機4の風量を排風機5の風量の90%及び100%とした実施例12,13にあっても、不織布製造工程において、捕集材2上に堆積したナノファイバー8が毛羽立たなかった。この実施例12,13においても、不織布製造開始直後には、捕集材2からノズル1側にナノファイバー8が舞い上がることはなかったが、この実施例12,13では、捕集材2にナノファイバー8が捕集されるにつれて、徐々に捕集材2からノズル1側にナノファイバー8が舞い上がるようになった。これは、捕集材2にナノファイバー8が捕集されるにつれて捕集材2が閉塞され、捕集材2のノズル1側において、送風機4の風量が徐々に排風機5の風量に比べて過剰となっていったことによる。
【0078】
送風機4の風量を排風機5の風量の20%とした比較例2にあっては、不織布製造工程において、捕集材2からノズル1側にナノファイバー8が舞い上がることはなかったが、捕集材2上に堆積したナノファイバー8が毛羽立った。これは、ナノファイバー8が送風機4からの風圧によって十分に捕集材2に押し付けられかったためである。
【0079】
送風機4の風量を排風機5の風量の110%とした比較例3にあっては、不織布製造工程において、捕集材2上に堆積したナノファイバー8が毛羽立つことはなかったが、捕集材2からノズル1側にナノファイバー8が舞い上がった。これは、送風機4の風量が排風機5の風量に比べて過剰であったことによる。
【0080】
以上から明らかな通り、送風機4の風量を排風機5の風量の30〜100%とした実施例6〜13にあっては、不織布製造工程におけるナノファイバー8の毛羽立ち及び捕集材2からの舞い上がりを防止することができる。特に、送風機4の風量を排風機5の風量の30〜80%とした実施例6〜11にあっては、ナノファイバー8の捕集材2からの舞い上がりを長期にわたって防止することができる。
【符号の説明】
【0081】
1,33 ノズル
2,20 捕集材
3 ハウジング
4,30 送風機
5,37 排風機
6 ポリマー溶液供給部
7,38 電圧源
8,39 極細繊維
10 エアヒータ
11 水蒸気供給器
20 捕集材
21,22 駆動ローラ
23 ガイドローラ
30 送風機
31,36 ダクト
32 上ハウジング
33 ノズル
34 多孔板
35 下ハウジング
37 排風機
40 不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解したポリマー溶液を吐出部から、該吐出部との間に電圧が印加された捕集部の一側に向けて吐出させてナノファイバーを生成させ、生成したナノファイバーを該捕集部で捕集してナノファイバー不織布とするナノファイバー不織布の製造方法において、
該捕集部を通風可能な構造とし、該捕集部の他側を気体吸引手段によって吸引すると共に、前記吐出部から捕集部に向う方向に送風手段によって送風するナノファイバー不織布の製造方法であって、
該送風手段が発生させる風量を、該気体吸引手段が発生させる風量の30〜100%とすることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記送風手段が発生させる風量を、前記気体吸引手段が発生させる風量の30〜80%とすることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの外周囲を包囲体で包囲することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの雰囲気を調節することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの雰囲気の温度を調節することを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性或いは導電性ポリマーであることを特徴とするナノファイバー不織布の製造方法。
【請求項7】
ナノファイバーの原料ポリマーを溶媒に溶解した溶液を吐出する吐出部と、
該吐出部からのナノファイバーを一側において捕集する捕集部と、
該吐出部と捕集部との間に電圧を印加する手段と、
を備えたナノファイバー不織布の製造装置において、
該捕集部を通風可能な構成とし、
該捕集部の他側を吸引する気体吸引手段と、
該吐出部から捕集部に向う方向に送風する送風手段と
をさらに備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項8】
請求項7において、前記吐出部と捕集部との間のゾーンの外周囲を包囲する包囲体を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項9】
請求項7または8において、該送風手段で送風される気体を加温する気体の加温手段を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、該吐出部と捕集部との間の雰囲気の湿度を調節する湿度調節手段を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項11】
請求項7ないし10のいずれか1項において、吐出部を加温する吐出部加温手段を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか1項において、前記吐出部に供給されるポリマー溶液を加温する加温手段を備えたことを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。
【請求項13】
請求項7〜13のいずれか1項において、原料ポリマーが荷電性或いは導電性ポリマーであることを特徴とするナノファイバー不織布の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−127008(P2012−127008A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277020(P2010−277020)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】