説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】単位時間あたり単位面積あたりのナノファイバの生産量を高い状態に維持し、ナノファイバの質の均一化を図る。
【解決手段】原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置100であって、原料液300を空間中に流出させる流出孔を複数有する流出体115は、第一流出孔118の先端である第一開口部119が所定の間隔で一次元的に並んで配置され第二流出孔218の先端である第二開口部219は、隣り合う第一開口部119の間に対応する位置に一つ配置され、第一開口部119の中心を結ぶ線と第二開口部219の中心を結ぶ線とが1mmの範囲内に収まるように配置される先端部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電延伸現象によりサブミクロンオーダーやナノオーダーの細さである繊維(ナノファイバ)を製造するナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などから成り、サブミクロンスケールやナノスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質を製造する方法として、静電延伸現象(エレクトロスピニング)を用いた方法が知られている。
【0003】
この静電延伸現象とは、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(噴射)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的に静電延伸現象を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で原料液が爆発的に線状に延伸される現象が生じる。これが静電延伸現象である。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンオーダーやナノオーダーの樹脂から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のような静電延伸現象を用いてナノファイバを製造する装置の専らの課題として生産効率の向上が挙げられる。例えば、原料液を空間中に流出させる円筒状のノズルをマトリクス状に配置し、単位時間あたり単位面積あたりのナノファイバの発生量を増加させ、ナノファイバの生産効率を向上させることが考えられる。単位面積あたりのナノファイバの発生量を増加させるためには、ノズルの配置間隔を狭めればよいが、間隔が狭まると隣接するノズル同士が電界干渉を起こして発生するナノファイバに不具合が発生する。そこで当該課題を解決するために特許文献1に記載の発明は、ノズルの間に格子状に隔離板を配置し、該隔離板に交流電圧を印加することで、電界干渉を防止している。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明ではノズルの間に隔離板を設ける必要があるため、その分ノズルの間隔が広くなり、生産効率低下を招くことになる。また、ノズルを隔離板で囲うことになるため、当該囲われた空間に帯電蒸気が滞りやすくなり製造されるナノファイバに悪影響を及ぼすことが懸念される。また、各ノズルに供給される原料液の圧力を均一にするのは難しく、製造されるナノファイバの質にムラが発生することが考えられる。
【0007】
さらに、隔離板が設けられていたとしても、ノズルの外周壁や隔離版などからイオン風が発生し、該イオン風が製造されるナノファイバに悪影響を及ぼすこともある。
【0008】
ここで、イオン風とは、次のような現象で発生するものであると考えられている。すなわち、ノズルなどの外周壁面のある部分に電荷が溜まると、該部分の周辺に存在する空気がイオン化する。そして、イオン化した空気が壁面の電荷に反発して飛び出すことで、イオンを含んだ空気の流れであるイオン風が発生する。特にイオン風は、例えば突起部の先端や角の先端など、高電圧が印加される外周壁の形状の特異な部分で発生し易いという知見を得ている。
【0009】
また、当該イオン風が空間中を飛行している原料液と交差すると、原料液や製造されつつあるナノファイバの飛行経路を乱したり、飛行中の原料液の帯電状態に悪影響を及ぼしたりして製造されるナノファイバの品質が低下していた。また、ナノファイバの生産効率の低下にもつながっていた。
【0010】
そこで本出願人は先に、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を空間中に流出させる流出孔を複数有する流出体であり、前記流出孔の先端である開口部が所定の間隔で一次元的に並んで配置される先端部と、前記先端部から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置され、前記先端部から前記流出孔を挟むように延設される二つの側面部とを有する流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とを備えるナノファイバ製造装置に関する発明を出願している(特願2010−174928号)。
【0011】
これによれば、ナノファイバの生産効率を向上させると共にイオン風の発生を抑制することができ、製造されるナノファイバの品質の向上を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−174867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、ナノファイバの生産効率をさらに向上させるためには、前記ナノファイバ製造装置の流出体に一次元的に並んで配置される開口部のピッチを狭めて、原料液が流出する密度を高めれば良いが、開口部のピッチが狭すぎると、同電位で帯電している原料液同士が干渉して原料液が流出する軌跡が安定しないため、製造されるナノファイバの品質にムラが発生する。一方、一次元的に配置される開口部の列を複数列配置することで一度に流出する原料液の量を増加させ、ナノファイバの生産効率の向上を図ることも考えられるが、開口部の列同士の間隔を電界干渉を回避できる距離まで離間させる必要があるため、開口部の列のそれぞれの帯電状況に僅かにムラが生じる可能性があり、その分開口部の列のそれぞれを同じ状態に帯電させることは困難となる。従って、開口部の列ごとに製造されるナノファイバの品質にムラが発生する可能性が高まる。
【0014】
本願発明は、上記知見に課題に鑑みなされたものであり、製造されるナノファイバの品質のムラを可及的に抑えつつ、生産効率の向上を図ることのできナノファイバ製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を空間中に流出させる流出孔を複数有する流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とを備え、前記流出体は、複数の前記流出孔の一方の群に属する複数の第一流出孔の先端である第一開口部が所定の間隔で一次元的に並んで配置される第一開口列と、前記流出孔の他方の群に属する複数の第二流出孔の先端である第二開口部が所定の間隔で前記第一開口列に沿って一次元的に配置される第二開口列とを備え、隣り合う前記第一開口部の間に対応する位置に前記第二開口部が一つ配置され、前記第一開口部の中心を結ぶ線と前記第二開口部の中心を結ぶ線とが1mmの範囲内に収まるように前記第一開口列と前記第二開口列とが配置される先端部と、 前記先端部から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置され、前記流出孔を挟むように延設される二つの側面部と、前記第一流出孔、および、前記第二流出孔と連通し、前記第一開口部、および、前記第二開口部から流出する原料液を当該流出体の内部に貯留する貯留槽とを備えることを特徴としている。
【0016】
以上のように、隣り合う第一開口部の間に対応する位置に第二開口部を一つ設ける配置、すなわち、第一開口部と第二開口部とが千鳥(ジグザグ)の位置関係で配置されることにより、隣り合う二つの第一開口部とその間に対応する位置に配置される第二開口部とは三角形の頂点にそれぞれ位置することとなる。従って、第二開口部から流出する原料液は、近傍に配置される二つの第一開口部から流出する原料液との間に発生する静電気的斥力の合力により、二つの第一開口部を結ぶ線と交差する方向に力が安定した状態で発生し、原料液の流出する軌跡が安定する。他の第一開口部や第二開口部から流出する原料液も同様の状態となるため、流出体から流出する原料液は、第一開口列や第二開口列と交差する方向に交互に異なる向きに流出し、流出する軌跡も安定する。
【0017】
しかも、第一開口列と第二開口列との間隔は、開口部の中心間の距離において1mm以下とすることで、第一開口列と第二開口列との間の帯電状態をほぼ同じにすることができ、さらに、全て貯留槽に一旦貯留された原料液が流出するため、流出する原料液の状態をほぼ同じにすることができ、製造されるナノファイバの品質のムラを可及的に抑制することが可能となる。
【0018】
また、上記目的を達成するために、本願発明に係るナノファイバ製造方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、複数の流出孔の一方の群に属する複数の第一流出孔の先端である第一開口部が所定の間隔で一次元的に並んで配置される第一開口列と、前記流出孔の他方の群に属する複数の第二流出孔の先端である第二開口部が所定の間隔で前記第一開口列に沿って一次元的に配置される第二開口列とを備え、隣り合う前記第一開口部の間に対応する位置に前記第二開口部が一つ配置され、前記第一開口部の中心を結ぶ線と前記第二開口部の中心を結ぶ線とが1mmの範囲内に収まるように前記第一開口列と前記第二開口列とが配置される先端部と、前記先端部から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置され、前記流出孔を挟むように延設される二つの側面部と、前記第一流出孔、および、前記第二流出孔と連通し、前記第一開口部、および、前記第二開口部から流出する原料液を当該流出体の内部に貯留する貯留槽とを備える流出体から原料液を流出させる流出工程と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体との間に所定の電圧を印加する帯電工程とを含むことを特徴とする。
【0019】
以上のように、隣り合う第一開口部の間に対応する位置に第二開口部を一つ設ける配置、すなわち、第一開口部と第二開口部とが千鳥(ジグザグ)の位置関係で配置されることにより、隣り合う二つの第一開口部とその間に対応する位置に配置される第二開口部とは三角形の頂点にそれぞれ位置することとなる。従って、第二開口部から流出する原料液は、近傍に配置される二つの第一開口部から流出する原料液との間に発生する静電気的斥力の合力により、二つの第一開口部を結ぶ線と交差する方向に力が安定した状態で発生し、原料液の流出する軌跡が安定する。他の第一開口部や第二開口部から流出する原料液も同様の状態となるため、流出体から流出する原料液は、第一開口列や第二開口列と交差する方向に交互に異なる向きに流出し、流出する軌跡も安定する。
【0020】
しかも、第一開口列と第二開口列との間隔は、開口部の中心間の距離において1mm以下とすることで、第一開口列と第二開口列との間の帯電状態をほぼ同じにすることができ、さらに、全て貯留槽に一旦貯留された原料液が流出するため、流出する原料液の状態をほぼ同じにすることができ、製造されるナノファイバの品質のムラを可及的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本願発明によれば、ナノファイバの生産効率を向上させると共に、製造されるナノファイバの品質のムラの発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、流出体をXZ平面で切断して示す斜視図である。
【図3】図3は、先端部を下方から示す平面図である。
【図4】図4は、先端部のバリエーションを示す斜視図である。
【図5】図5は、流出体を正面から示す平面図である。
【図6】図6は、力の発生状態を模式的に示す図である。
【図7】図7は、原料液の流出軌跡を模式的に示す図である。
【図8】図8は、流出体のバリエーションの一つを示す断面図である。
【図9】図9は、流出体のバリエーションの一つを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に、本願発明に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜視図である。
【0025】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバ301を製造する装置であって、流出体115と、供給手段107と、帯電電極121と、帯電電源122とを備えている。本実施の形態の場合さらに、ナノファイバ製造装置100は、収集手段128と、誘引手段104と、移動手段129とを備えている。
【0026】
図2は、流出体をXZ平面で切断して示す斜視図である。
【0027】
流出体115は、原料液300を空間中に流出させるための部材であり、流出孔である第一流出孔118、および、第二流出孔218と、先端部116と、側面部117と、貯留槽113とを備えている。
【0028】
また、流出体115は、流出する原料液300に電荷を供給する帯電手段の電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、流出体115全体が金属で形成されており、先端部116の全体が均等に帯電することができるものとなっている。なお、流出体115を構成する金属の種類は、導電性を備えていれば特に限定されるものではなく、例えば黄銅やステンレス鋼、アルミニウムやその合金など任意の材料を選定しうる。
【0029】
第一流出孔118は、原料液300を空間中に流出させる孔の一の群であり、流出体115に複数個設けられている。また、第一流出孔118の先端にある開口部である第一開口部119は、所定の間隔で一次元的に並んで配置され第一開口列を形成している。本実施の形態の場合、第一流出孔118は、第一開口部119が同一平面内に直線的(図2中Y軸方向)に並ぶように配置されており、第一開口列(Y軸方向)に対し第一流出孔118の軸が直角に交わるようにZ軸方向に沿って配置されている。
【0030】
第二流出孔218は、第一流出孔118と同様、原料液300を空間中に流出させる孔の他の群であり、流出体115に複数個設けられている。また、第二流出孔218の先端にある開口部である第二開口部219は、所定の間隔で一次元的に並んで配置され第二開口列を形成している。本実施の形態の場合、第二流出孔218は、第二開口部219が同一平面内に直線的(図2中Y軸方向)に並ぶように配置されており、第二開口列(Y軸方向)に対し第二流出孔218の軸が直角に交わるようにZ軸方向に沿って配置されている。
【0031】
図3は、流出体の先端部を下方から示す平面図である。
【0032】
同図に示すように、第一開口部119と第二開口部219とは隣り合う第一開口部119の間に対応する位置に第二開口部219が一つ位置するように配置されている。すなわち、第一開口部119と第二開口部219とは千鳥(ジグザグ)の位置関係で配置されている。本実施の形態の場合、第二開口部219は、隣り合う第一開口部119の中央(中間)に対応する位置に配置されている。また、第一開口部119の中心を結ぶ線と第二開口部219の中心を結ぶ線との間隔dは、1mm以下となっている。
【0033】
流出孔の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に開口部の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。
【0034】
また、第一開口部119や第二開口部219が並べられる間隔pは、全てを等間隔としてもよく、また、流出体115の端部における間隔は、流出体115の中央部における間隔よりも広く(狭く)するなど任意に定めることができる。現在得られている知見において、開口部の孔径が0.3mmの場合、第一開口列と第二開口列との間隔dを0.5mmとした場合、開口部の間隔pは、5mm未満とすることが可能である。
【0035】
先端部116は、第一流出孔118の第一開口部119、および、第二流出孔218の第二開口部219が配置される流出体115の部分であり、所定の間隔で配置される第一開口部119、および、第二開口部219の間を滑らかな面で接続する部分である。本実施の形態の場合、先端部116は、細長い矩形の平面を表面に備え、その幅は、第一開口列と第二開口列とが所定の間隔dで配置できる長さを備えている。
【0036】
なお、先端部116は、矩形の平面を備えるものに限定されるわけではない。例えば図4(a)に示すように、先端部116は、曲面を備えてもよく、また、図4(b)に示すように、端部がつきあわされた二つの平面を備えていてもよい。以上のように、先端部116は、複数存在する第一開口部119、および、第二開口部219の間を面でつなげている(図4(b)では、上記のように二つの平面でつなげている)ため、形状的に特異な部分が少なく、イオン風の発生を抑制することができる。
【0037】
側面部117は、先端部116を挟むように配置される二つの面である。本実施の形態の場合、側面部117は、先端部116から延設され、起立状態で配置されている。側面部117は、それぞれ並んで配置されている第一流出孔118、第二流出孔218の配置方向(Y軸方向)に延びた状態で設けられており、全ての流出孔を側面部117で挟むように設けられている。また、側面部117は、図2に示すように、先端部116から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置されている。
【0038】
なお、図4(a)、図4(b)に示すように先端部116と側面部117との境界は曖昧である。また、側面部117の形状は、平面ばかりでなく、曲面であってもかまわない。
【0039】
貯留槽113は、図2に示すように、流出体115の内部に形成され、供給手段107(図1参照)から供給される原料液300を貯留するタンクである。また、貯留槽113は、複数の第一流出孔118、および、第二流出孔218に接続され、第一流出孔118、および、第二流出孔218に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、流出体115に一つ設けられており、流出体115のY軸方向の一端部から他端部にわたって延びて設けられ、全ての第一流出孔118、第二流出孔218と連通状態で接続されている。
【0040】
貯留槽113は、流出孔の開口部が並ぶ方向(Y軸方向)に延びて配置され、Y軸方向に直交する貯留槽113の断面(XZ平面)は、円形となっている。本実施の形態の場合、流出体115は、管形状(筒形状)となっており、貯留槽113として原料液300を貯留するための空間は円柱形状となっている。
【0041】
以上のように貯留槽113は、原料液300を第一流出孔118、および、第二流出孔218の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバ301のY軸方向における品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
【0042】
また、貯留槽113の内壁面が単純な曲面(円筒の内壁面)となっているため、構造的に特異な部分の存在が可及的に抑制されており、特異な部分を起点として成長する溶質の固化現象を効果的に抑止することが可能となる。
【0043】
図5は、中間部分を省略して流出体を正面から示す図である。
【0044】
同図に示すように、流出体115は、両端が開口し、流出孔(図示せず)が設けられる管形状の本体131と、本体131の開口の一方(同図中左側)を着脱可能に閉塞する蓋体132と、本体131の開口の他方(同図中右側)に着脱可能に取り付けられ、流出体115の内部に形成される貯留槽113に原料液300を供給する供給口を有する供給体133とを備えている。
【0045】
蓋体132は、円板状の閉塞用のフランジであり、本体131との間にOリングなどの封止部材を配置し、ボルトなどの締結部材で本体131に取り付けることで本体131の開口を封止することができるものとなっている。
【0046】
供給体133は、蓋体132とほぼ同じ構造を備え、円板の中心に厚さ方向に貫通する供給口が備えられている。また、供給口は、原料液を供給するための案内管114と接続することができるものとなっている。
【0047】
以上のように、流出体115は、直管形状であって両端が開口した本体131と、両端開口をそれぞれ蓋体132と供給体133とで着脱自在に閉塞することで、内部に貯留槽113が形成されるものとなっている。従って、流出体115の内方に貯留槽113を形成することが容易となる。例えば、本体131の内部空間をドリルにより容易に切削加工することができ、さらに切削痕などの特異点を除去するための研磨なども容易に行うことができる。さらに、切削加工により内部空間を形成することが困難な長さの本体131であっても、引抜加工などにより容易に本体131を得ることが可能となる。特に、引抜加工により形成される本体131は、貯留槽113を形成する内面がなめらか(例えば表面粗度(Ra)が5μm以下)であるため、溶質の固化現象を効果的に抑止することが可能となる。
【0048】
また、蓋体132と、供給体133とを取り外せば、直管状の貯留槽113が露出し、貯留槽113の内面に特異な部分がないため、貯留槽113の清掃作業が容易となり、流出体115のメンテナンス性を向上させることが可能となる。
【0049】
供給手段107は、図1に示すように、流出体115に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器151と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプ(図示せず)と、原料液300を案内する案内管114とを備えている。
【0050】
帯電電極121は、流出体115と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体115に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体115に電荷を誘導するための導電性を備える部材であり帯電手段を構成する要素である。本実施の形態の場合、帯電電極121は、空間中で製造されたナノファイバ301を誘引する誘引手段104としても機能しており、流出体115の先端部と対向する位置に配置されている。従って、帯電電極121が接地されており、流出体115に正の電圧が印加されると帯電電極121には、負の電荷が誘導され、流出体115に負の電圧が印加されると帯電電極121には、正の電荷が誘導される。
【0051】
帯電電源122は、流出体115に高電圧を印加することのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響を受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、逆極性の電位を印加した電極でナノファイバ301を誘引するような場合には、直流電源を採用することが好ましい。また、帯電電源122が直流電源である場合、帯電電源122が帯電電極121に印加する電圧は、5KV以上、100KV以下の範囲の値から設定されるのが好適である。
【0052】
本実施の形態のように、帯電電源122の一方の電極を接地電位とし、帯電電極121を接地するものとすれば、比較的大型の帯電電極121を接地状態とすることができ、安全性の向上に寄与することが可能となる。
【0053】
なお、帯電電極121に電源を接続して帯電電極121を高電圧に維持し、流出体115を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、帯電電極121と流出体115とのいずれも接地しないような接続状態であってもかまわない。
【0054】
収集手段128は、静電延伸現象により製造されるナノファイバ301を堆積させて収集する部材である。本実施の形態の場合、収集手段128は、ロール127に巻き付けられた状態で供給されている。
【0055】
なお、収集手段128はこれに限定されるわけではない。例えば、収集手段128は、剛性のある板状の部材からなるものでもかまわない。また、ナノファイバ301の堆積物のみを利用する場合には、収集手段128の表面にフッ素樹脂コート、または、シリコンコートを行うなど、ナノファイバ301を剥ぎ取る際の剥離性が高い収集手段128であってもよい。
【0056】
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバ301を収集手段128に誘引するための装置である。本実施の形態の場合、誘引手段104は、帯電電極121としても機能する金属板であり、収集手段128の後方に配置されている。誘引手段104は、帯電しているナノファイバ301を電界により収集手段128に誘引する。つまり、誘引手段104は、帯電したナノファイバ301を誘引するための電界を発生させるための電極である。また、誘引手段104は、吸引装置などによって収集手段128に向かう気体流を発生させるものでもよい。
【0057】
移動手段129は、流出体115と、収集手段128とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、流出体115は固定されており、収集手段128のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段は、長尺の収集手段128を巻き取りながらロール127から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に収集手段128を搬送するものとなっている。
【0058】
なお、移動手段129は、収集手段128を移動させるばかりではなく、流出体115を収集手段128に対して移動させるものでもかまわない、また、移動手段129は、収集手段128を一定方向に移動させ、流出体115を往復動させるなど、任意の動作状態を例示することができる。また、第一開口部119(第二開口部219)の並び方向と直交する方向に収集手段128を移動させているが、それに限定するものではなく、第一開口部119(第二開口部219)の並び方向に収集手段128を移動させ、流出体115を第一開口部119(第二開口部219)の並び方向と直交する方向に往復動させるものであってもかまわない。
【0059】
ここで、ナノファイバ301を構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
【0060】
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0061】
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバ301の耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
【0062】
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30%となる。
【0063】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0064】
まず、供給手段107により流出体115に原料液300を供給する(供給工程)。以上により、流出体115の貯留槽113に原料液300が満たされる。
【0065】
次に、帯電電源122により帯電電極121を正または負の高電圧とする。帯電電極121と対向する流出体115の先端部116に電荷が集中し、当該電荷が第一流出孔118や第二流出孔218を通過して空間中に流出する原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0066】
前記帯電工程と供給工程とは同時期に実施され、流出体115の第一開口部119、および、第二開口部219から均等に帯電した原料液300が流出する(流出工程)。
【0067】
ここで、図6に示すように、ある一つの第二開口部219aに着目すると、第二開口部219aから流出する原料液300と、第二開口部219aを挟む位置に配置される二つの第一開口部119a、119bからそれぞれ流出している原料液300とは同極性で帯電しているため、第二開口部219aから流出する原料液300は、第一開口部119bとの間の斥力faと第一開口部119aとの間の斥力fbとの合力fcの方向に力を受ける。このような斥力の合力は、第二開口部219から流出する原料液300ばかりでなく、第一開口部119から流出する原料液300も同様に受ける。従って図7に示すように、第一開口部119から流出する原料液300は、第二流出孔218から遠ざかるように流出し、第二開口部219から流出する原料液300は、第一流出孔118から遠ざかるように流出する。これにより、原料液300の飛翔経路を安定させることが可能となる。
【0068】
ここで、開口部から流出する原料液300は、開口部を覆い先端部から垂れ下がる液溜まり303を形成する(図7参照)。この液溜まり303は、複数ある開口部毎に形成され、その先端から原料液300が糸状に垂れ下がる。このように液溜まり303が形成されることで、イオン風の発生を抑制し、製造されるナノファイバ301の品質を高めることが可能となる。
【0069】
また、流出体115の外観形状も先端部以外はなめらかな曲面で覆われているため、イオン風の発生の抑制に寄与している。
【0070】
次にある程度空間中を飛行した原料液300に静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。ここで、原料液300は、イオン風に影響されることなく強い帯電状態(高い電荷密度)で流出し、また、第一開口部119や第二開口部219から飛行する原料液300がまとまることなく細い状態で流出する。これにより、原料液300のほとんどがナノファイバ301に変化していく。また、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細いナノファイバ301が大量に製造される。
【0071】
この状態において、収集手段128の背方に配置される誘引手段104と流出体115との間に発生する電界により、ナノファイバ301が収集手段128に誘引される(誘引工程)。
【0072】
以上により、収集手段128にナノファイバ301が堆積して収集される(収集工程)。収集手段128は、移動手段129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される。
【0073】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、ジグザグに配置される流出孔から高い空間密度で原料液300を流出させることができ、高い生産効率を確保することが可能となる。さらに、各流出孔から流出する原料液300の軌跡が乱れることなく安定し、全ての流出孔から流出する原料液300は、一つの貯留槽から流出し、また、一つの流出体によって帯電するため、特に第一流出孔118や第二流出孔218が並ぶY軸方向にムラが発生することなく均一に製造することが可能となる。
【0074】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
【0075】
例えば、図8、図9に示すように、流出体115の外観形状は任意の形状でよい。なお、図9に示す流出体115の場合、先端部116と側面部117との境界があいまいだが、流出孔の開口部が並ぶ周壁部分が先端部116に該当し、それ以外が側面部117に該当する。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本願発明は、ナノファイバの製造やナノファイバを用いた紡糸、不織布の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
100 ナノファイバ製造装置
104 誘引手段
107 供給手段
113 貯留槽
114 案内管
115 流出体
116 先端部
117 側面部
118 第一流出孔
119 第一開口部
121 帯電電極
122 帯電電源
127 ロール
128 収集手段
129 移動手段
131 本体
132 蓋体
133 供給体
151 容器
218 第二流出孔
219 第二開口部
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を空間中に流出させる流出孔を複数有する流出体と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、
前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とを備え、
前記流出体は、
複数の前記流出孔の一方の群に属する複数の第一流出孔の先端である第一開口部が所定の間隔で一次元的に並んで配置される第一開口列と、前記流出孔の他方の群に属する複数の第二流出孔の先端である第二開口部が所定の間隔で前記第一開口列に沿って一次元的に配置される第二開口列とを備え、隣り合う前記第一開口部の間に対応する位置に前記第二開口部が一つ配置され、前記第一開口部の中心を結ぶ線と前記第二開口部の中心を結ぶ線とが1mmの範囲内に収まるように前記第一開口列と前記第二開口列とが配置される先端部と、
前記先端部から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置され、前記流出孔を挟むように延設される二つの側面部と、
前記第一流出孔、および、前記第二流出孔と連通し、前記第一開口部、および、前記第二開口部から流出する原料液を当該流出体の内部に貯留する貯留槽とを備える
ナノファイバ製造装置。
【請求項2】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
複数の流出孔の一方の群に属する複数の第一流出孔の先端である第一開口部が所定の間隔で一次元的に並んで配置される第一開口列と、前記流出孔の他方の群に属する複数の第二流出孔の先端である第二開口部が所定の間隔で前記第一開口列に沿って一次元的に配置される第二開口列とを備え、隣り合う前記第一開口部の間に対応する位置に前記第二開口部が一つ配置され、前記第一開口部の中心を結ぶ線と前記第二開口部の中心を結ぶ線とが1mmの範囲内に収まるように前記第一開口列と前記第二開口列とが配置される先端部と、前記先端部から離れるに従い相互の間隔が広がるように配置され、前記流出孔を挟むように延設される二つの側面部と、前記第一流出孔、および、前記第二流出孔と連通し、前記第一開口部、および、前記第二開口部から流出する原料液を当該流出体の内部に貯留する貯留槽とを備える流出体から原料液を流出させる流出工程と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体との間に所定の電圧を印加する帯電工程と
を含むナノファイバ製造方法。
【請求項3】
さらに、
空間中で製造されるナノファイバを収集手段により収集する収集工程と、
前記収集手段にナノファイバを誘引する誘引工程と
を含む請求項2に記載のナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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