説明

ナノファイバ製造装置、不織布製造装置、および、ナノファイバ製造方法

【課題】高い品質のナノファイバを製造できる装置の提供。
【解決手段】ナノファイバ製造用の原料液200を噴射する噴射孔112を有する噴射手段110と、前記噴射孔112から噴射され製造されたナノファイバ200を収集する収集電極120とを備えるナノファイバ製造装置180であって、前記噴射手段110を接地し、前記噴射手段110と収集電極120との間の電圧を電源150により、10KV以上、200KV以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子物質からなるナノファイバの製造装置、及び、製造方法に関する。また、ナノファイバで構成される不織布の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子物質から成り、サブミクロンスケールの直径を有する糸状物質(以下、「ナノファイバ」と記す。)を製造する方法として、エレクトロスピニング法が知られている。
【0003】
このエレクトロスピニング法とは、コレクタ(収集電極)に対し高電圧を印加した針状のノズルから溶媒中に高分子物質を分散させた高分子溶液をコレクタに向かって噴射(流出)させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的には、噴射ノズルを高電圧にすることにより帯電した高分子溶液が空間中に噴射され、溶媒が蒸発するに伴い空間中を飛翔中の高分子溶液の電荷密度が上昇する。そして、高分子溶液中に発生する反発方向のクーロン力が高分子溶液の表面張力より勝った時点で高分子溶液が爆発的に線状に延伸される現象(静電爆発)が生じる。この静電爆発が、空間において次々と発生することで、サブミクロンの直径の高分子から成るナノファイバが製造される。
【0005】
また、前述の方法で製造されたナノファイバを基板上に堆積させることで、立体的な網目を持つ3次元構造の薄膜を得ることができ、さらに厚く形成することでサブミクロンの網目を持つ高多孔性ウェブ(不織布)を製造することができる。
【0006】
このようにエレクトロスピニング法を採用して製造されたウェブは、ナノオーダーの孔からなる高多孔性であり、ウェブ全体としての表面積が広いため、フィルタや電池のセパレータや燃料電池の高分子電解質膜や電極等に適用され、高い効果を得ることが期待されている。
【0007】
従来、ナノファイバを多量に製造してナノファイバからなる実用的なウェブを製造する方法として、複数のノズルを並列に配置し、多量のナノファイバを堆積させてウェブを製造する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
当該装置は、前記ノズルとコレクタとの間に5KV以上の高電圧を付与し、コレクタを接地するか、ノズルと反対の極性の電圧を付与してナノファイバを製造している。
【特許文献1】特開2002−201559号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが従前は、特許文献1にも記載されているように、ノズルを高電圧(例えば5KV以上)にすることで高分子溶液が帯電し、静電気爆発が発生するものと考えられていた。
【0010】
従って、ノズルを高電圧で維持するため、ノズル周辺に存在する部材との間に高耐圧の絶縁を施し、さらに、安全上の問題から、高電圧になるノズル全体を囲いで覆い、人の手などが触れないようにしている。
【0011】
しかしノズルは、上述したように、ナノファイバを製造するための原料液を噴射する部分であるため、ノズルには原料液を供給するためのパイプやタンクがつながっており、また、原料液を圧送するためにポンプが接続されている。また、原料液の圧力や温度はセンサを用いて監視され、センサからの情報は、コンピュータで解析されフィードバック制御等に利用される。
【0012】
従って、ノズルを含むこれら全体を高電圧に耐えうるように絶縁しなければならず、また、高電圧に耐えうる部品を選定しなければならない。従って、装置全体の構造が複雑になり、価格も上昇することになる。
【0013】
さらに本発明者らは、製造されるナノファイバの品質向上を目指した研究の過程において、ノズルを覆う前記囲いが、ナノファイバの品質向上を阻害する要因であることを見出だした。当該囲いがナノファイバの品質に影響するメカニズムは以下の通りと考える。
【0014】
すなわち、ノズルなどの高電圧の部材を覆う囲いは、高電圧のノズルなどより帯電する。そして、前記帯電により空気中の塵埃が吸引されるとともに、所定の条件を満たすと吸引されていた塵埃が囲いから高速で離れていく。このようにしてイオン風が発生し、この塵埃や風が製造されるナノファイバに影響を及ぼす。
【0015】
また、前記イオン風により発生した高電圧に帯電した埃やゴミは、周辺機器に付着し、周辺機器に使用されている部品や半導体素子等を破壊して、装置そのものを使用できない状態にしてしまう場合もある。さらに、ノズルの先に高電圧を印加している場合には、電気力線がそのノズルからナノファイバの製造装置を覆う囲い等に向けて、発生しており、前記発生した帯電した埃やゴミ等は、猛烈な勢いで、前記電気力線に沿って、囲い等に移動し付着する。このように、周辺機器や付帯設備に付着した帯電した埃やゴミ等は、高電圧を保持しており、ノズルから発生する同極性に帯電したナノファイバ自身にも、大きな影響を与え、正常な回収への妨げや、回収率の低下等につながって行く。
【0016】
さらに、前記帯電した埃やゴミ等が所定の場所に集まった場合には、その場所は高電位になり、瞬間的に放電が起こり、火花が発生するような現象も起こっている。このような場合には、原料液の中に、有機溶媒を使用している場合には、前記発生した火花が引き金となって、発火してしまうということにもつながる危険性を有している。
【0017】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、囲いによるナノファイバ製造の影響を可及的に回避し、併せて、簡単な装置構成で実現可能なナノファイバ製造装置等の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置であって、前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、前記噴射手段に−1KV以上、+1KV以下の範囲から選定される電位を印加する第2電源とを備えることを特徴とする。また、ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置であって、前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、前記噴射手段とアースとを接続し、前記噴射手段を接地電位とする接地手段とを備えてもよい。
【0019】
以上によれば、噴射手段と周辺に存在する部材との電位差が小さく、または、無くなるため、噴射手段に施す絶縁の耐圧を低くでき、または、絶縁を省略でき、噴射手段の構造を簡単にすることができる。また、噴射手段と周辺に存在する部材との電位差が小さく、または、無くなるため、噴射手段と収集電極との間に生じる電界(電気力線)に対し、前記部材が及ぼす影響を少なくすることが可能となる。さらに、噴射手段と周辺に存在する部材との電位差が小さく、または、無くなるため、前記部材からのコロナ放電を抑制することができる。
【0020】
さらに、前記噴射手段は、前記原料液が導入される回転体と、前記回転体を回転させる駆動源とを備え、前記回転体は、回転体の回転により遠心力が付与された前記原料液が噴射できるように、回転軸を中心として放射状に前記噴射孔を備えることが好ましい。
【0021】
これにより、回転部分を備える噴射手段であっても、絶縁を簡略化、または、省略することができ構造を簡単にできると共に、多量のナノファイバを製造することが可能となる。
【0022】
また、前記ナノファイバ製造装置を備える不織布製造装置であれば、前記作用効果を享受して高品質な不織布を製造することができる。
【0023】
また、上記目的は、ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置に適用するナノファイバ製造方法であって、前記噴射手段の電位を−1KV以上、+1KV以下の範囲に設定し、前記収集電極との電位を−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲に設定し、前記電位状態により発生する電界中で前記原料液を飛翔させてナノファイバを得るナノファイバ製造方法、または、ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置に適用するナノファイバ製造方法であって、前記噴射手段を接地し、前記収集電極の電位を−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲に設定し、前記電位状態により発生する電界中で前記原料液を飛翔させてナノファイバを得るナノファイバ製造方法によって達成することができ、上記と同様の作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、製造されるナノファイバの性能の向上を図ると共に、高い安全性を確保し、構成を簡易とするナノファイバの製造装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
次に、本発明にかかるナノファイバ製造装置を備える不織布製造装置の実施の形態を説明する。
【0026】
図1は、本発明にかかる不織布製造装置を概略的に示す斜視図である。
同図に示すように不織布製造装置100は、噴射手段110と、収集電極120とで構成されるナノファイバ製造装置180と、被堆積手段としてのシート160とを備えている。なお、噴射される原料液と、製造されつつあるナノファイバとは明確に区別できないため、いずれにも200の符号を付し、製造された不織布には210を付している。
【0027】
噴射手段110は、ナノファイバを製造するための原料液を噴射(流出)する噴射孔を備えた装置であり、接地手段102を介してアース101と接続されるか、第2電源151を介してアース101と接続される。なお、同図ではいずれを介して接続するかが選択可能に記載されているが特にこれに限定されるものではない。また、原料液を貯蔵するタンク(図示せず)と接続されるパイプ111が噴射手段110に接続されており、所定の圧力で原料液が供給されるようになっている。
【0028】
収集電極120は、噴射手段110に対し所定の電圧が印加されるように第1電源としての電源150に接続され、製造されたナノファイバ200を収集するための装置である。
【0029】
なお、電源150は、アース101と収集電極120との間に電圧を発生させるものであり、噴射手段110がアース101と直接接続されている場合は、噴射手段110との間で所定の電圧を印加することとなる。
【0030】
ナノファイバ製造用の高分子物質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が例示できる。また、ナノファイバ製造に用いられる高分子物質は1種類に限定されるわけではなく、前記例示の高分子物質などから任意の複数種類を選定して用いても構わない。
【0031】
また、原料液を製造するために用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン、水等を例示することができる。また、ナノファイバ製造に用いられる溶媒は1種類に限定されるわけではなく、前記例示の溶媒などから任意の複数種類を選定し、混合して用いても構わない。
【0032】
また、原料液に無機質固体材料を混入しても構わない。これら無機質固体材料は、製造されるナノファイバの骨材として機能したり、ナノファイバに担持させる触媒等として機能するものである。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができる。また、耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。
【0033】
当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25 等を例示でき、これらより選ばれる少なくとも一種が用いられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0034】
また、ナノファイバを形成する樹脂材料としては、前記高分子物質ばかりでなく、低分子物質でも構わない。低分子物質でも原料液の内容は高分子物質と変わるわけではなく、低分子物質を溶媒に溶解すればよい。この場合、ナノファイバが長く連なる状態になるのでなく、微粒子の状態のナノファイバが製造される。このような微粒子状のナノファイバの応用例としては、有機ELや液晶用のカラーフィルタの顔料を溶媒に溶解して、顔料そのものを微細化するような場合が考えられる。
【0035】
シート160は、空間中で製造されたナノファイバ200が堆積する対象となる部材であり、堆積したナノファイバ200と容易に分離可能な材質で構成された薄く柔軟性のある長尺のシートである。シート160は、ロール状に巻き付けられた状態で供給され、ナノファイバ200が堆積する部分をゆっくりと移動手段170により図中矢印方向に移動するものとなっている。そして、シート160上で製造された不織布210とともに再びロール状に巻き付けられるようになっている。
【0036】
移動手段170は、シート160を所定の張力を維持しつつ一方方向に送ることができる装置であり、モータ(図示せず)などの駆動により図に示されるローラーを回転させてシート160を移動させるものである。
【0037】
図2は、ナノファイバ製造装置180の電位関係を示す図である。
噴射手段110は、同図に示す領域B(−1KV〜+1KV)から選定される電位となされる。
【0038】
収集電極120は、同図に示す領域A(+10KV〜+200KV)または領域C(−200KV〜−10KV)から選定される電位となされる。
【0039】
前記噴射手段110の電位を−1KV未満、または、+1KVより高く設定すると、噴射手段110が鋭利で尖った部分等を有する場合、イオン風の発生を回避することが困難となる。また、高度な絶縁処理で対応する必要が生じる。
【0040】
収集電極120の電位を−10KVより高く、+10KV未満の範囲に設定すると、収集電極120との間の電位差が十分ではなくなり、所望のナノファイバを製造することが困難となる。また、収集電極120の電位を+200KVより高く、または、−200KV未満に設定すると、比較的滑らかな表面の多い収集電極120であったとしても、収集電極120からの異常放電やイオン風、収集電極120近傍に配置された部材の帯電などが無視できなくなり、ナノファイバの製造に悪影響を及ぼす。
【0041】
なお、噴射手段110と、収集電極120とは種々の態様があり、また、それらの組み合わせ態様も種々存在する。図1においては、噴射手段110、及び、収集電極120については一点鎖線で象徴的に示しており、これらの具体的態様については後述の実施の形態において具体的に説明する。
【0042】
図3は、噴射手段および収集電極の具体例を示す図である。
図4は、ロータリーシリンダを示す断面図である。
【0043】
なお、図3は、噴射手段110と、収集電極120との関係を示すため、噴射手段110を大きく示しているが、実際は、収集電極120の径が数メートルの大きさであるのに対し、ロータリーシリンダ116の径は数センチメートルから数十センチメートル程度である。
【0044】
収集電極120は、円筒形状となされており、シート160の移動に伴い、または同期して回転しうるものとなされている。また、収集電極120は、収集電極120の端面に向かって徐々に縮径するように、円筒形状のエッジ部分にアール面取りが施されている。
【0045】
このように、噴射手段110から望む収集電極120の周縁部を噴射手段110から遠ざかるような曲面とすることで、収集電極120のエッジによる電場の乱れを抑止し、ナノファイバ200の堆積状態を良好とすることができる。
【0046】
図3に示すように、噴射手段110は、遠心力により原料液を噴射(流出)する装置であり、ロータリーシリンダ116と、原料液200を供給するためのパイプ111と兼用される回転軸となるシャフト117と、モータ118と、基体119と、ベルト115と、プーリー114とを備えている。
【0047】
ロータリーシリンダ116は、一端が封止された円筒の周壁に噴射孔112を備えたノズル113を複数個放射状に備えている。ロータリーシリンダ116の他端中央部分にはシャフト117が取り付けられている。ロータリーシリンダ116は、シャフト117を介して基体119に回転自在に取り付けられている。
【0048】
また、モータ118とシャフト117に固着されているプーリー114とはベルト115で接続されており、モータ118は、基体119に取り付けられている。モータ118を回転させることにより、ロータリーシリンダ116を基体119に対して回転させることができる構造となっている。
【0049】
また、図4に示すように、シャフト117とロータリーシリンダ116の他端とは液体を挿通可能に接続されている。また、シャフト117とロータリーシリンダ116とはいずれも導体で構成されており、シャフト117との接続は、ブラシ203を用い接地手段102を介してアース101と接続され接地されている。従って、ロータリーシリンダ116もシャフト117を介して接地された状態となる。また、ブラシ203を用いているため、ロータリーシリンダ116が回転状態であっても、接地電位を維持することが可能となっている。
【0050】
ロータリーシリンダ116は、シャフト117を介して原料液200が貯蔵されているタンク202と接続されている。また、原料液200の流通経路上にはポンプ201が取り付けられており、原料液200をロータリーシリンダ116に向かって圧送することができるようになっている。
【0051】
次に、噴射手段110と収集電極120とで構成されるナノファイバ製造装置180によるナノファイバ200の製造方法と、製造されたナノファイバ200を堆積させて不織布を製造する不織布の製造方法を説明する。
【0052】
まず、原料液200のタンク202からロータリーシリンダ116に向かって原料液200が圧送される。本実施の形態の場合、当該圧力により原料液200を噴射するものではないため、圧送の圧力は比較的低い。
【0053】
原料液200は、シャフト117(パイプ111)を通過してロータリーシリンダ116の内部に注入される。ロータリーシリンダ116は、モータ118により回転しており、注入された原料液200にも回転による遠心力が発生する。そしてロータリーシリンダ116の周壁に穿設される孔を介して原料液200が遠心力によりロータリーシリンダ116外部に放射状に噴射される。
【0054】
原料液200は、回転する噴射孔112から噴射されるので、各噴射孔112の形状に多少のばらつきがあったとしても全空間を総合すると均等な量で原料液200が噴射される。以上のような噴射手段110を採用すれば、比較的大量のナノファイバ200を一度に、かつ、均質に製造することができ、製造されたナノファイバが均等に分布した不織布210を製造することが可能となる。
【0055】
一方、収集電極120には、+10KV以上、+200KV以下、または、−10KV以下、−200KV以上の範囲内から選定される電圧が電源150により印加されている。そして、収集電極120に対峙して配置されるロータリーシリンダ116には、収集電極の電圧に対応した誘導電荷が生じると共に、ロータリーシリンダ116と収集電極120との間に電界(電気力線)が発生する。
【0056】
以上の状態で、ロータリーシリンダ116から原料液200が噴射されるため、原料液200に対しては静電爆発に必要な電荷が付与されると共に、前記電界(電気力線)に沿って原料液200が飛翔し、静電爆発を繰り返してナノファイバ200が製造される。
【0057】
製造されたナノファイバ200は、シート160上に堆積しつつシート160は徐々に移動するため、シート160上に長尺の不織布が製造されていく。
【0058】
以上のように、モータ118や基体119、原料液200を供給する経路を構成するパイプ111、原料液のタンク202、ポンプ201などは、接地電位であるため、噴射手段110を高電圧に維持するための高度な絶縁を施す必要が無い。従って、本実施の形態のように、噴射手段110は、原料液200を回転により噴射させる機構を簡単に備えることができる。また、原料液200のタンク等に接続されるモータ118やセンサも絶縁状態で取り付ける必要が無くなる。従って、噴射手段110全体の構成を簡単にすることができる。引いては、構造が簡単な噴射手段110は、高い耐久性や信頼性を容易に獲得でき、また、高い設計の自由度を有する。また、製造コストやメンテナンスコストの低減に寄与することができる。
【0059】
また、噴射手段110の周囲に囲いを設けたとしても噴射手段110がアース101に接続され接地電位であるため、アース101と接続される囲いが帯電することがない。従って、囲いなどからイオン風が発生せず、また、コロナ放電も生じないと考えられる。従って、製造されるナノファイバの品質を向上させることが可能となる。
【0060】
なお、本実施の形態では、噴射手段110をアース101と接続し接地電位としたが、噴射手段110に第2電源151を接続し−1KV〜+1KVの範囲で電圧を印加しても構わない。比較的低電圧を噴射手段110に印加しておくことで、噴射手段110の接地電位に対する電位を安定させることが可能となり、収集電極120との間に発生する電界(電気力線)を安定させることができる。またこの場合、アース101と噴射手段110との間の電位差(絶対値)は、アース101と収集電極120との間の電位差(絶対値)よりも小さくすることが好ましい。さらに、アース101と収集電極120との間の電位差(絶対値)は、アース101と噴射手段110との間の電位差(絶対値)の3倍以上とすることが好ましい。このように電位を設定することで、噴射手段110の周囲に存在する部材の帯電を抑制し、イオン風やコロナ放電などによるナノファイバへの影響を低減させることが可能となる。
【0061】
また、図1、図2においては、噴射手段110は、固定にしているが、これらに移動手段を設けて、シート160の移動方向に対して略直角方向などに、周期的にもしくは、所定の動作パターンで移動させてもよい。そのようにすることで、シート160の幅が広くなっても、ナノファイバ200をシート160上の幅全体に堆積させることができる。
【0062】
また、上記のように、モータ等を使って、噴射手段110を移動させるような場合にも、これらの移動機構やこれを制御するための電子部品などに高度な絶縁を施す必要が無く、モータ等に使用している電子部品や半導体等の破壊を回避することが可能となる。
【0063】
また、図1、図2においては、噴射手段110は、一つのみを記載しているが、複数個並べて配置すれば、シート160の幅が広くなった場合や、堆積させたい厚みを増やす場合には、有効な手段である。
【0064】
なお、噴射手段110は、上記実施の形態に記載した構造に限定されるわけではない。例えば図5(a)、(b)に示すように、収集電極120に対して平行な軸で回転するロータリーシリンダを備えるものであっても良い。同図に示すロータリーシリンダ116には、第2電源151が接続されており、−1KV〜+1KVの範囲で電圧が印加されている。この場合、第2電源151の設定を0Vとし、ロータリーシリンダ116を接地電位と同電位に維持しても構わない。
【0065】
また、図6に示すように、ノズル113を収集電極120に対して固定的に配置するものであっても構わない。この場合、シート160の移動方向に対して複数個のノズル113を斜めに配置することで、各ノズル113の間隔を広くすることができ、シート160に対してナノファイバ200を均等に堆積することが可能となる。
【0066】
また、収集電極120は、上記実施の形態に記載した構造に限定されるわけではない。収集電極120は、図5に示す単なる平板であってもよく、図6に示すように、エッジにアールが施された形状の部材であっても構わない。
【0067】
さらに、図7に示すように、収集電極120と噴射手段110との位置関係を水平面内で配置しても構わない。このように配置すれば、ナノファイバにならずに塊状で飛翔している原料液200が、収集電極120に到達する前に重力によって落下するため、製造されるナノファイバ200及び不織布210の品質を向上させることが可能となる。
【0068】
また、ロータリーシリンダ116に対し収集電極120の反対側に反射板131を備え、収集電極120とは極性が逆の電圧を第3電源152を用いて印加しても構わない。このように印加する電圧を制御することができる反射板131を備えることで、電界の状態をある程度制御することができるようになり、ナノファイバの飛翔経路や堆積状態を制御することが可能となる。また、反射板131は、固定的に取り付けられ形状などを任意に選定できるため、構造的な困難性を伴うことなく容易に絶縁することが可能である。
【0069】
また、前記反射板131の代わりに、送風手段を設けて、生成されたナノファイバ200を収集電極120方向に送出してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、ナノファイバの製造に利用可能であり、特に、ナノファイバを用いた紡糸や不織布の製造に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明にかかる不織布製造装置を概略的に示す斜視図である。
【図2】ナノファイバ製造装置の電位関係を示す図である。
【図3】噴射手段および収集電極の具体例を示す図である。
【図4】ロータリーシリンダを示す断面図である。
【図5】噴射手段及び収集電極の他の態様を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【図6】噴射手段及び収集電極の他の態様を示す斜視図である。
【図7】噴射手段及び収集電極の他の態様を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【符号の説明】
【0072】
100 不織布製造装置
101 アース
102 接地手段
110 噴射手段
111 パイプ
112 噴射孔
113 ノズル
114 プーリー
115 ベルト
116 ロータリーシリンダ
117 シャフト
118 モータ
119 基体
120 収集電極
131 反射板
150 電源
151 第2電源
152 第3電源
160 シート
170 移動手段
180 ナノファイバ製造装置
200 ナノファイバ
200 原料液
201 ポンプ
202 タンク
203 ブラシ
210 不織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置であって、
前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、
前記噴射手段に−1KV以上、+1KV以下の範囲から選定される電位を印加する第2電源とを備える
ナノファイバ製造装置。
【請求項2】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置であって、
前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、
前記噴射手段とアースとを接続し、前記噴射手段を接地電位とする接地手段とを備える
ナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記噴射手段は、前記原料液が導入される回転体と、前記回転体を回転させる駆動源とを備え、
前記回転体は、回転体の回転により遠心力が付与された前記原料液が噴射できるように、回転軸を中心として放射状に前記噴射孔を備える請求項1または請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備える不織布製造装置であって、
前記収集電極の前記噴射孔側に配置され、製造されたナノファイバを堆積状に保持する被堆積手段と、
前記被堆積手段を所定方向に移動させる移動手段と、
前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、
前記噴射手段に−1KV以上、+1KV以下の範囲から選定される電位を印加する第2電源とを備える
不織布製造装置。
【請求項5】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備える不織布製造装置であって、
前記収集電極の前記噴射孔側に配置され、製造されたナノファイバを堆積状に保持する被堆積手段と、
前記被堆積手段を所定方向に移動させる移動手段と、
前記収集電極に−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲から選定される電位を印加する第1電源と、
前記噴射手段とアースとを接続し、前記噴射手段を接地電位とする接地手段とを備える
不織布製造装置。
【請求項6】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置に適用するナノファイバ製造方法であって、
前記噴射手段の電位を−1KV以上、+1KV以下の範囲に設定し、
前記収集電極との電位を−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲に設定し、
前記電位状態により発生する電界中で前記原料液を飛翔させてナノファイバを得る
ナノファイバ製造方法。
【請求項7】
ナノファイバ製造用の原料液を噴射する噴射孔を有する噴射手段と、前記噴射孔から噴射され製造されたナノファイバを収集する収集電極とを備えるナノファイバ製造装置に適用するナノファイバ製造方法であって、
前記噴射手段を接地し、
前記収集電極の電位を−200KV以上、−10KV以下、または、+10KV以上、+200KV以下の範囲に設定し、
前記電位状態により発生する電界中で前記原料液を飛翔させてナノファイバを得る
ナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−303496(P2008−303496A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151624(P2007−151624)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的部材産業創出プログラム/新産業創造高度部材基盤技術開発/先端機能発現型新構造繊維部材基盤技術の開発」にかかる委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】