説明

ナノメータ粒子を製造するための気相法

本発明は、反応流(14)とエネルギー流(15)の間の相互作用がある気相において、粒子製造用リアクター(11)中でナノメータ粒子(10)を製造する気相法に関する。この方法は、以下の工程を含む:
−該リアクター(11)と気体の塩化物(12)を製造するための装置を連結する工程
−粉末の形態の塩基前駆物質(20)から気体の塩化物を製造する工程、及び
−前記反応流(14)をリアクター(11)内に注入する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータ粒子を製造するための気相法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメータ粒子、又はナノ粒子は3次元空間で100nmより小さいサイズを有する粒子である。非常に小さいサイズであるため、これらナノ粒子は幅広い範囲の用途に、特に魅力ある特性(反応性、量子閉じこめ効果)を有する。全ての従来の又は将来の用途の中で、バイオメディカル分野の標識、追跡又は標的療法(Fe、SiO、Si…)、紫外線バリア(UV)を有する化粧品、又はさらに製薬における色づけ効果のためのナノ粒子の用途が挙げられる。
【0003】
触媒作用又はエネルギーの先進システムの分野における他の用途もまた可能である(Pt-TiO、Pd-TiO、フラーレン、…)。窒化物及び炭化物ナノ粒子(ZrC、ZrN、TiC、TiN、SiC、Si、WC、…)及び混合物、例えば純粋なMAXフェーズ、は非常にさまざまな分野の用途(研磨、航空、自動車、核、刃物)が見つかるだろう。例えば、炭化物ナノ粒子は、厳しい環境における改良された特性を有する高密度セラミックを得るために成形及び焼結されうる(高温、酸化雰囲気、照射)。これらのナノ粒子は改良された特性を有する混合物を形成する目的のため、互いに結合してもよい。既知の例は、刃物の用途のための、アルミナ(Al)又は炭化ケイ素(SiC)による窒化ケイ素(Si)マトリックスの強化に関するものである。炭化物タイプのナノ粒子を使用することによって、混合物の場合、マトリックスの特性が強く改良されうる。
【0004】
上記のMAXフェーズは、化学式がMn+1AX[式中、nは値1、2又は3である;Mは遷移金属(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr又はMo)である;AはAl、Si、Ge又はGaであり、XはC、N又はBである]である化合物の一群を表す。この一群の物質は、ナノメータの層の積み重ねを含む六角形結晶構造、と少ない割合の非金属原子(nが値1,2及び3を有する場合、それぞれ25%、33%及び37.5%)によって特徴付けられる。ナノ粒子の使用によって、焼結後、超塑性挙動の発生につながる成形部分のセラミックの微細構造の精錬が可能である。この挙動は、Si/SiC型の微細/ナノ構造の化合物の場合で、又はナノ構造のSiCにおいて、すでに明らかにされている。超塑性は、セラミック部分を、加熱成形によって、単純な形から複雑な形状に成形されることを可能にするので、興味深い特性である。
ナノ粒子を製造するための数多くの方法が存在し(プラズマ、レーザー熱分解、燃焼、蒸発凝縮、超臨海流体、ゲル−ソル、共沈殿、熱水合成)、あるものは酸化物の製造により適しており(燃焼、蒸発凝縮、超臨海流体、ゲル−ソル、共沈殿、熱水合成)、他のものは気相における非酸化物粒子の合成に適している(非特許文献1に記載のレーザー熱分解、プラズマ、蒸発凝縮)。
【0005】
これらの方法のすべては、金属、酸化物、炭化物、窒化物及び混合物のナノ粒子を製造するために、気体及び/又は液体及び/又は固体の前駆物質を使用する。使用される前駆物質は、使用する方法に加えて、合成しようとするナノ粒子の性質に依存する。液体及び固体は、有機金属の前駆物質(イソプロポキシド、アルコキシド、水酸化物、メタロセン、硝酸塩)、金属元素に加えて酸素及び水素原子及び頻繁には炭素原子又は窒素原子さえも含む分子であってもよい。有機金属の固体の粒子は、水又は有機溶媒に可溶である。これらの前駆物質は、大多数の場合で酸素を含んでなる分子であるので、酸化物ナノ粒子の合成に使用されてもよい。金属原子は、いつも、酸素及び/又は炭素及び/又は窒素及び水素原子と同時に、方法に導入される。この特徴は、合成方法の最後に、形成されたナノ粒子の性質に制約を生じさせるための性質である。実際、有機金属分子が、金属原子と結合しうる、酸素及び/又は炭素及び/又は窒素及び水素元素を含むことは、形成されるナノ粒子の性質に制約を生じさせる:酸素と酸素原子が1つの同じ分子に同時に存在することは、酸化物−炭化物混合物の形成を促進しうる。例えば、レーザー熱分解のような気相合成法における、金属、炭素、酸素(又は窒素)及び水素を含む分子の使用は、酸化物−炭化物(又は酸化物−窒化物)混合物の形成を導く。例は、非特許文献2に記載されている、それぞれヘキサメチルジシロキサン及びヘキサメチルジシラザンを使用したSi/C/O又は更にSi/C/Nの粉末のレーザー熱分解による合成である。一種類のフェーズ(酸化物又は炭化物又は窒化物)、又は複数のフェーズのよく決定された混合物、及び出発分子のものとは異なるものを含むナノ粒子を得ることは、このタイプの分子を使用する方法において、製造物の酸化、炭化、窒化に向けて努力することが要求され、それは追加の出費である。炭化物、窒化物、ケイ化物及び純粋なMAXフェーズを合成使用とする場合には、酸素及び/又は炭素及び/又は窒素が有機金属分子に同時に存在することは、全くレッドヒビトリーである。さらには、有機金属分子の価格は高く、前駆物質の純度レベルいより非常に急速に上がる。
【0006】
カルボニルはCO基(Cr(CO)、MO(CO)、W(CO)、Fe(CO)、…)で囲まれた金属原子を構成する他の分子であり、炭素(C、C…)、窒素(NH、…)前駆物資得又は更なるシリコン前駆物質(SiH,SiHCl、…)及びチタン前駆物質を加えることによって、特定の金属炭化物、窒化物、ケイ化物ナノ粒子及び特定のMAXフェーズの合成に使用されてもよい。しかしながら、カルボニル前駆物質の使用に関するとても不利な点は、その価格である(後に記載する表1のいくつかの例を参照)。
【0007】
また、いくつかの既知の塩化物又はフッ化物(TiCl、SiHCl、WF、…)は、炭化物、窒化物、ケイ化物ナノ粒子及び特定のMAXフェーズの製造に使用されうる。これらの前駆物資の使用に関する利点は、それらの純度である:有機金属分子とは異なり、これらの分子は実際に酸素及び/又は炭素及び/又は更には窒素のような化学種、合成の後不十分に制御された方法で固体金属酸化物、炭化物又は窒化物フェーズと形成可能である種を含まない。これらの分子は、炭化物及び/又は窒化物及び/又はケイ化物を形成するために、炭素前駆物質(C、C、…)及び/又は窒素前駆物質(NH、…)及び/又は更なるシリコン前駆物質(SiH)と組合わされてもよい。さらには、いくらかの酸化物ナノ粒子(TiO)の大量生産はこのタイプの前駆物質を使用することによって、遂行される。これらの前駆物質の使用に関係する別の利点は、形成されたフェーズの化学成分に応じた許容された柔軟性である。実際に、固相において得ようとする、これらの種の1つを含むだけの分子を使用した、構成成分の導入は最上の柔軟性をもたらす。ケイ化物フェーズ(TiSi、…)及び混合物フェーズの形成が可能であり、それらの化学成分は、形成しようとするフェーズの構成原子を別々に提供する様々な試薬を、制御された流速で注入することによって、任意に調整されてもよい。
【0008】
他の固体粒子(又は粉末)は、気相におけるナノ粒子の合成に使用されてもよい。後者は、不溶性無機粒子である。粉末の使用に関する注目に値する利点は、コストである。実際に、化学反応に由来する前駆物資の代わりに粉末を使用することによって、製造のコスト上の10倍の利益を得ることが可能である(後に記載する表1の例を参照)。粉末は、エネルギーの大量かつ急速な供給及び粉末の構成成分の蒸発及び粒子の発芽が導かれ、クエンチング効果でその成長が妨げられることによって特徴付けられる合成方法において、前駆物質として使用されてもよい。例には、粉末の使用によるナノ粒子のプラズマ合成がある。しかしながら、粉末の構成成分の蒸発は完了には程遠いので、この方法の使用によって得られる合成は低い。
【0009】
無機固体前駆物質の使用の別の例は、蒸発凝縮による金属又は酸化物ナノ粒子の合成である。しかしながら、これらの方法では、高融点を有する耐火性金属要素(Zr、W、Mo、…)から構成されるナノ粒子の合成は、可能でない。
【0010】
そのため、最新技術による技術的問題は、金属炭化物、窒化物、酸化物及び混合物タイプ、そのMAXフェーズで耐火性金属(Zr、W、Mo、…)を含むものか又は含まないものの幅広い範囲のナノ粒子の低コスト合成である。耐火性金属では、大量に、可能な限り低い温度を使用して、高融点を有する耐火性金属の反応領域に、注入を可能にする最適化されたコストの方法を見つけることが特に問題である。
本発明の目的は、低コストで、高い純度を有するナノ粒子を製造するための気相法を提案することでこの技術的問題を解決することである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W. R. Cannon, S. C. Danforth, J. H. Flint, J. S. Haggerty 及びR.A. Marra著 Sinterable Ceramic Powders from laser-Driven Reactions: I, Process Description and Modeling (Journal of the American Ceramic Society, 65巻, 7号, 324-239頁, 1982年7月)。
【非特許文献2】Nathalie Heroin, Xavier Armand, Emmanuel Musset, Herve Martinengo, Michel Luce 及びMichel Cauchetier著 Nanometric Si-Based Oxide Powders: Synthesis by laser Spray Pyrolysis and Characterizations (Journal of the European Ceramic Society, 16, 1996年, 1063-1073頁)。
【発明の概要】
【0012】
本発明は、反応流とエネルギー流の間の相互作用がある気相において、粒子を製造するためのリアクター内でナノメータ粒子を製造する気相法であって、
−該リアクターと気体の塩化物を製造するための装置を連結する工程
−粉末の形態の塩基前駆物質から気体の塩化物を製造する工程、及び
−前記反応流をリアクター内に注入する工程
を含むことを特徴とする気相法に関する。
ナノメータ粒子は金属粒子であってもよい。
【0013】
好適な実施態様において、本発明の方法は、反応流を形成するために、気体の塩化物を少なくとも1つの他の前駆物質と組合わせる工程を、この反応流をリアクター内に注入する工程の前に更に含む。
ナノメーター粒子は、炭化物、窒化物、酸化物、ケイ化物及び混合物の粒子、例えば純粋なMAXフェーズであってもよい。
ナノメーター粒子は、高融点を有する耐火性金属要素、例えばZr、W、Mo、…、であってもよい。
好ましくは、気体の金属塩化物は、塩化物製造用装置で、1000℃より下の温度、さらには500℃より下の温度で、金属粉末を熱し、それらを塩酸と反応させることによって製造される。
【0014】
好適な具体的な実施態様において、金属粉末はジルコニウム金属粉末である。エネルギー流はCO又はCOレーザーによって放出される。炭素前駆物質はエチレンである。また、エネルギー流はプラズマトーチによって放出されてもよい。
この方法は、好適には、形成したいとナノメーター粒子の全ての構成成分の別々の注入及び多元素粒子の製造の促進を可能にし、それらの化学組成は、各前駆物質の流速を独立に変化させることによって任意に変化させてもよい。
また、この方法は、気体の塩素化分子として、市販の耐火性金属粉末及び塩酸(HCl)を使用することのみによって、最適化されたコストで、大量の耐火性金属(Zr、W、Mo、…)の生成及び注入を可能にする。
この方法は、市販の粉末の使用を可能にし、それは他の知られている前駆物質に等しい純度レベルを有する最も安価な前駆物質であるので、非常に高価にはならない利点を有する。ナノ粒子を合成するためのこの方法では、そのままで市販の粉末を塩素化することによって、市販の塩化物の使用に比べて、製造コスト上10倍の利益を獲得しうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の方法に使用される装置を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に図示したように、本発明は金属ナノメータ粒子、好ましくは炭化物、窒化物、酸化物、ケイ化物又は混合物のナノメーター粒子、例えば純粋なMAXフェーズ(10)を、塩素発生装置(12)によって発生した気体の塩化物(16)から、気相で、粒子を製造するためのリアクター(11)において、製造するための気相法に関する。この塩素発生装置(12)は、実際にこれらの気体の塩化物(16)が、粉末(20)(塩基前駆物質)から、例えば発熱エレメント(21)を使用して温度1000℃より下で、好ましくは500℃より下で熱し、塩酸(HCl)と反応させることによって、発生することを可能にする。これらの気体の塩化物(16)は、1つ以上の他の前駆物質(13)、例えばエチレン(C)と共に、リアクター(11)に注入されてもよい。
【0017】
この方法において、塩素発生装置(12)によって発生した気体の塩化物(16)と上記他の前駆物質(13)を含む反応流(14)とエネルギー流(15)の間に相互作用がある。このエネルギー流(15)に関して、混合物の熱分解反応を起こすために、エネルギーの反応流(14)への十分な移動が達成され、粒子の発芽に続く試薬の分解及びクエンチング効果でその成長が妨げられることに特徴づけられる。エネルギー流(15)の源はレーザー(レーザー熱分解法)又はプラズマトーチ(プラズマ法)であってもよい。レーザーを使用する場合は、CO又はCOレーザーであってもよい。
【実施例】
【0018】
(COレーザーを使用したレーザー熱分解による純粋なZrCナノ粒子の製造の例)
この実施例において、レーザー熱分解リアクター(11)が使用され、塩素発生装置(12)に接続され、粉末の空気との接触における自然発火効果を避けるために不活性雰囲気下で、ジルコニウム粉末(20)(塩基前駆物質)が塩素発生装置(12)中に導入される。
粉末は450℃より高く熱され、その蒸気を塩素処理するために、塩素ガス(HCl)の流れによって流される。その後、これらの蒸気は注入ノズル(22)を介して、レーザー熱分解リアクター)中に運ばれる。ノズル(22)は、ZrClの凝集を避けるための300℃より高く熱される。気体の前駆物質(13)はエチレン(C)である。それは、注入ノズル(22)に導入され、ZrClと混合される。それはレーザーの赤外線放射(15)の10.6ミクロン(COレーザーの波長)を吸収し、そのエネルギーを試薬に再分配するため炎色反応がおきるので、選択された。この反応は、ナノメータ粒子の発芽に続いて前駆物質の分解を起こし、その成長はクエンチング効果によって止められる。エネルギー流(15)の源は5kWのCOレーザーである。
【0019】
塩素発生装置の経路を通して、1kg/時間のジルコニウム ナノ粒子を製造するためのコストは、1300ユーロのオーダーである(前駆物質のコストはジルコニウムを供給するもののコストによって調製される。他については無視されてもよい)。
得られた純度は、出発の粉末のそれである。すなわち、後に記載する表に記載したジルコニウムの純度であり、99.7%のオーダーである。
【0020】
表1に関して、発明の方法は、例えば粉末のジルコニウムはキログラムあたり1300ユーロのオーダーの価格を有するが、一方で塩化ジルコニウム(ZrCl)は金属のキログラムあたり5700ユーロのオーダーの価格を有するので、コスト面の大幅な減少を提供すると理解されてよい。
(表1)
いくつかの耐火性金属用のいくつかの前駆物質のおおまかな価格の比較


【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応流(14)とエネルギー流(15)の間の相互作用がある気相中で、粒子製造用リアクター(11)内でナノメータ粒子(10)を製造する気相法であって、
−該リアクター(11)と気体の塩化物を製造するための装置(12)を連結する工程
−粉末の形態の塩基前駆物質(20)から気体の塩化物を製造する工程、及び
−前記反応流(14)をリアクター(11)内に注入する工程
を含むことを特徴とする気相法。
【請求項2】
ナノメーター粒子が金属粒子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
反応流(14)を形成するために、気体の塩化物(16)と少なくとも1つの他の前駆物質(13)を組合わせる工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ナノメータ粒子が炭化物粒子、窒化物粒子、酸化物粒子、ケイ化物粒子又は混合物粒子である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
混合物粒子が純粋なMAXフェーズである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ナノメータ粒子が高融点を有する耐火性金属を含む請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
耐火性金属がW、Zr又はCoから選択される金属である請求項6に記載の方法。
【請求項8】
塩化物を製造するための装置内で、1000℃より下の温度で粉末を熱し塩酸と反応させることによって、気体の金属塩化物が製造される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
温度が500℃より下である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ナノメーター粒子の全ての構成成分が別々に注入される請求項1に記載の方法。
【請求項11】
エネルギー流がCO又はCOレーザー、又はプラズマトーチにより放出される請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの他の前駆物質(13)がエチレンを含む請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2009−538745(P2009−538745A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−512566(P2009−512566)
【出願日】平成19年5月29日(2007.5.29)
【国際出願番号】PCT/EP2007/055161
【国際公開番号】WO2007/138034
【国際公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(502124444)コミッサリア タ レネルジー アトミーク (383)
【Fターム(参考)】