説明

ナノ構造二酸化チタン膜を有する支持体及びその使用

本発明は、バイオアッセイ用の支持体及び、細胞培養、細胞に基づく方法及びアッセイにおけるその使用に関する。より詳細には、本発明は、ウイルスの固定化及び細胞接着に適したナノ構造二酸化チタン膜でコーティングされた固体物質を提供する。本発明のナノ構造TiO膜でコーティングされた支持体は、遺伝子分析及び表現型分析用のマイクロアレイの作成に特に役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオアッセイ用の支持体及び、細胞培養、細胞に基づく方法及びアッセイにおけるその使用に関する。より詳細には、本発明は、ウイルスの固定化及び細胞接着に適したナノ構造二酸化チタン膜でコーティングされた固体物質を提供する。本発明のナノ構造TiO膜でコーティングされた支持体は、遺伝子分析及び表現型分析用のマイクロアレイの作成に特に役立つ。
【背景技術】
【0002】
ゲノムは完全に配列が決定されたので、正常状態及び病的状態における機能のために、タンパク質の完全なレパートリーを探索することの要求が、新規薬剤ターゲット識別及び遺伝子治療応用の主な目標になっている(非特許文献1)。
【0003】
遺伝子機能の研究用の高スループット分析は、遺伝子の形質導入の高効率性と、異なる細胞モデルの系を、数千の遺伝子を免疫蛍光のような単純な方法で同時に分析可能な適切な支持体(例えば、スライド)上において、便利なフォーマットで分析できる可能性とを必要とする。
【0004】
遺伝子の形質導入の方法は複数提案されており、トランスフェクション(非特許文献2)、エレクトロポレーション(非特許文献3)、マイクロインジェクション(非特許文献4)、ウイルス感染(非特許文献5)によるプラスミドDNAの取り込みが挙げられる。
【0005】
こうした技術の中で最も効率的なのは、ウイルス媒介性遺伝子送達である。何故ならば、異なる種類の細胞系(哺乳類起源の一次細胞及び癌細胞)が、異なるウイルスベクターで上手く形質導入されることが示されているからである。
【0006】
二酸化チタン(TiO)は生体適合性のある物質として知られており(非特許文献6)、インプラントにおいて幅広く使用されている。TiO膜上のタンパク質及び細胞付着のメカニズムについては研究されている(非特許文献7、非特許文献8)。ナノ結晶TiO膜上のタンパク質の吸着については非特許文献19において研究されている。ナノスケールでの表面の変更は、細胞接着を改善するために重要であると認識されている。しかしながら、ナノ構造基板上の細胞付着に影響を与えるメカニズムについては、大部分が知られていない(非特許文献9)。
【0007】
TiO‐オリゴヌクレオチドナノコンポジットが、遺伝物質の細胞内への導入用のベクターとして最近提案されている(非特許文献10)。こうしたナノコンポジットは、オリゴヌクレオチドDNAの生物活性を保持しており、遺伝子治療を考慮して核酸エンドヌクレアーゼを誘導するために光活性化させることができる。
【0008】
ウイルスアレイとは、そこで細胞のクラスターのそれぞれが基板に固定化されたウイルス粒子によって感染するものであるが、その実現はまだ挑戦的なものである。即ち、この方法は、a)ターゲット細胞に対するウイルスの活性を維持しながら基板上にウイルスを固定化すること、b)ウイルスは固定化されるがターゲット細胞内には侵入できること、c)固定化基板が、細胞の付着、感染及び増殖を可能にするために生体適合性があり、また、光学的に透明であることを可能にしなければならない。
【0009】
【特許文献1】米国特許第6392188号明細書
【非特許文献1】D.Stoll外、Drug Discovery Today:Targets、2004年、第3巻、p.24
【非特許文献2】M.Jordan、F.Wurm、Methods、2004年、第33巻、p.136
【非特許文献3】D.J.Wells、Therapy、2004年、第11巻、p.1363
【非特許文献4】T.H.Chou、S.Biswas、S.Lu、Methods Mol.Biol.、2004年、第245巻、p.147
【非特許文献5】A.C.Hansen、F.S.Pedersen、Curr.Opin.Mol.Ther.、2002年、第4巻、p.324
【非特許文献6】N.Bruneel、J.A.Helsen、J.Biomed.Mater.Res.、1988年、第22巻、p.203
【非特許文献7】F.Hook外、Colloids Surf.B:Biointerfaces、2002年、第24巻、p.155
【非特許文献8】L.G.Gutwein、T.J.Webster、J.Nanopart.Res.、2002年、第4巻、p.231
【非特許文献9】B.Kasemo、Surf.Sci.、2002年、第500巻、p.656
【非特許文献10】T.Paunesku外、Nature Mater.、2003年、第2巻、p.343
【非特許文献11】K.Cornetta、W.F.Anderson、J.Virol.Methods、1989年、第23巻、p.187
【非特許文献12】H.Hanenberg外、Nature Med.、1996年、第2巻、p.876
【非特許文献13】E.Barborini外、Appl.Phys.Lett.、2002年、第81巻、p.3052
【非特許文献14】E.Barborini外、Appl.Phys.Lett.、2000年、第77巻、p.1059
【非特許文献15】E.Barborini外、J.Phys.D、1999年、第32巻、p.L105
【非特許文献16】P.Piseri外、Rev.Sci.Instrum.、2001年、第72巻、p.2261
【非特許文献17】T.M.Kinsella外、Hum.Gene Ther.、1996年、第7巻、p.1405
【非特許文献18】C.Hughes外、Molecular Therapy、2001年、第3巻、p.623
【非特許文献19】E.Topoglidis外、Anal.Chem.、1998年、第70巻、p.5111
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の根底にある技術的な課題は、ウイルス及び/又は細胞を使用するバイオアッセイにおいて用いられる新規支持体を提供することである。
【0011】
上述の技術的な課題の解決策は、特許請求の範囲において特徴付けられる本発明の実施形態によって提供される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
特に、気相からのナノ粒子の堆積によって得られたナノ構造TiOは、ウイルス吸着及び細胞接着用の利用価値の高い基板を提供し、細胞培養及び成長に完全に互換性があることがわかっている。
【0013】
第一側面によると、本発明は、インビトロ(in vitro)バイオアッセイに特に適した固体支持体を対象としており、表面上に固定化したウイルス及び/又は細胞を有するナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされた生体適合性のある基板物質から成る。
【0014】
細胞または組織培養に適した、また、細胞に基づいたアッセイに適したあらゆる物質を、TiO膜コーティング用の基板として使用することができ、好ましくは、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、または、生分解性または非分解性の生体高分子物質が使用される。従来用いられているように、「生体適合性のある」という用語は、物質が、正常な細胞活性(例えば、インビトロ成長及び増殖)に影響を与えたり干渉したりせず、または、細胞培養の準備において使用される基板に相互作用したり、基板を変更したりしないということを指す。
【0015】
支持体材料は、求められる応用及びアッセイフォーマットに応じて、様々な形に成形される。適切な支持体として、特に、高スループット法用のマイクロアッセイのための、及び、細胞培養のための、スライド(例えば顕微鏡用スライド)、皿、フラスコ、プレート(例えば、多重(例えば96の)ウェルを有するマイクロタイタープレート)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の支持体の他の適切な形状は、カバースリップ、ファイバ、発泡体、粒子、膜、多孔質足場、網、インプラントである。
【0016】
本発明によるナノ構造TiO(ns‐TiO)膜は、直径20nm未満のTiOナノ粒子(つまり、微結晶)から成ることが好ましく、75%未満のTiOのかさ密度でアモルファスマトリクス(つまり、TiOから成る)内に埋め込まれている。ns‐TiO膜は、基板上への気相からのナノ粒子の堆積によって基板物質上に形成可能であり、特許文献1の装置を用いた超音速クラスタービーム堆積(Supersonic Cluster Beam Deposition,SCBD)を用いることが好ましい。
【0017】
従って、本発明は更に、上述の固体支持体を製造するための方法に関する。本方法は、
(a)基板上への気相からのナノ粒子の堆積、例えば、パルスマイクロプラズマクラスター源を用いた超音速クラスタービーム堆積(SCBD)によって、生体物質(つまり、ウイルス及び/又は細胞)に接触することになる基板物質の少なくとも領域の上には、ナノ構造TiO膜を形成する段階と、
(b)ナノ構造TiO膜の表面をウイルス及び/又は細胞に接触させる段階とを備える。
【0018】
簡潔に言えば、SCBD法の本質は、超音速膨張で生じたクラスターを集結させることにある。クラスター間にリンクを生成し、物質を成長させるのには十分な衝撃エネルギーではあるが、衝突粒子の構造を破壊するには十分でない衝撃エネルギーを提供するために、クラスターは、超高温エネルギーへと空気力学的に加速される。この生成プロセスは、パルスマイクロプラズマクラスター源(Pulsed Microplasma Cluster Source,PMCS)として知られるクラスター源を利用する。このプロセスによって、クラスターの質量分布及び運動エネルギーを精密に制御して、ナノ構造薄膜を堆積させることが可能になる。PMCS技術の本質は、不活性キャリアガスを用いた所望の物質(つまり、TiO)のプラズマの凝縮によるクラスターの発生にある。このプロセスは、基板を室温に保ったままで実行することができる。堆積装置及び方法の更なる詳細については、本願において参照される特許文献1に開示されている。
【0019】
ns‐TiO膜の堆積プロセスは、基板物質を完全にまたは部分的にコーティングするように設定可能である。一般的に、ns‐TiO膜は、生体物質(つまり、ウイルス及び/又は細胞)に接触することになる支持体表面上に堆積される。
【0020】
本願において使用される“固定化”という用語は、ウイルス及び/又は細胞が、何らかの化学的方法(例えば、ストレプトアビジン/ビオチン、抗原/抗体等の結合パートナーを使用することによって)または物理的方法(例えば、接着、吸着)によって、ナノ構造TiO膜の表面に付着することを意味する。
【0021】
従って、更なる側面において、本発明は、好ましくはパルスマイクロプラズマクラスター源を用いた超音速クラスタービーム堆積によって得られたナノ構造TiO膜の、ウイルス吸着または細胞接着用の基板としての使用を提供する。
【0022】
紫外光電子分光法(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy,UPS)分析は、堆積したns‐TiO膜の価電子バンドが、フェルミ準位(E)に対して3から9eVまでのエネルギー状態で特徴付けられるということを示す。この範囲内では、略6eVでのピーク及び略8eVでのピークが、π(非結合)及びσ(結合)のOの2p軌道に対応する。Eの下0.8eVに顕著なギャップ状態の存在が観測される。この状態は、酸素空孔によるTi3+の点欠陥に関係する。ns‐TiO膜の高い多孔性と化学吸着サイトの存在は、タンパク質の付着、ウイルスの吸着及び細胞の接着が、表面上に分布する正電荷の存在によって、また、大きな活性表面領域によって好ましいものになり得るということを意味する。
【0023】
細胞またはウイルスは、細胞調合液(例えば、懸濁液)またはウイルス含有溶液の単純な接触によって、TiO膜の表面上に接着または吸着可能である。
【0024】
本発明の他の実施形態によると、ストレプトアビジン、アビジンまたはニュートラアビジンを、ns‐TiO膜上への付着するビオチン化ウイルスと相互作用させるために、適切な支持体上に堆積させたns‐TiO膜上に固定化する。
【0025】
本発明は更に、細胞をウイルスに感染させるための、特に細胞へのウイルス媒介遺伝子送達のための本発明による固体支持体の使用に関する。
【0026】
従って、本発明は一般的に、ウイルスとのインビトロ細胞感染のための方法を提供する。本方法は、
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)感染ウイルスの存在下においてナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体の上で細胞を培養する段階と、を備える。
【0027】
従って、本発明による細胞感染の方法は、感染ウイルスの存在下においてナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体の上で単純に細胞を培養することによって実行可能であり、ビオチン/ストレプトアビジン等の結合ペアを利用しない。ns‐TiO膜の固有の特徴のおかげで、実際のところ、ポリブレンや他のポリカチオン等の感染エンハンサーを用いた場合の同程度の効率で、ウイルスは基板表面に接着し、細胞を感染させる。しかしながら、ポリブレンやポリカチオンとは異なり、ns‐TiOでコーティングされた支持体は、毒性の問題を生じさせることがなく、細胞の機能性に影響を与えることがない(非特許文献11)。
【0028】
好ましい実施形態によると、感染方法は、
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体をウイルスに接触させる段階と、
(c)ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体の表面上に接着したウイルスを細胞調合液に接触させる段階と、
(d)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える。
【0029】
代わりに、感染方法は、
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)ナノ構造TiO膜のコーティング上にストレプトアビジン、アビジンまたはニュートラアビジンを固定化する段階と、
(c)ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体をビオチン化ウイルスに接触させて、固定化したストレプトアビジン、アビジンまたはニュートラアビジンとのビオチン化ウイルスの複合体を形成する段階と、
(d)この複合体を細胞調合液に接触させる段階と、
(e)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える。
【0030】
ビオチン化ウイルス(例えばレトロウイルス)の生成は、例えば非特許文献18に開示されているような当該分野において周知の方法により、実行可能である。
【0031】
代わりに、本発明の感染方法は、
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体に細胞調合液を加える段階と、
(c)適切な期間、細胞を培養する段階と、
(d)ウイルス上清を加える段階と、
(e)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える。
【0032】
本発明において使用されるのに好ましいウイルスはレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(Adeno‐Associated Virus,AAV)及び、細胞の遺伝子操作用のベクターとして利用可能な他のウイルスである。本発明による「細胞」は、バクテリア等の原核細胞、並びに、イースト菌、植物細胞、動物細胞(好ましくは哺乳類細胞、特に人間細胞)等の真核細胞を含む。
【0033】
一般的に、本発明によるns‐TiO膜でコーティングされた支持体を用いて、細胞へのウイルス媒介遺伝子送達に適したあらゆる方法を実行することができる。ns‐TiO膜でコーティングされた支持体上のウイルスの固定化は、例えば、適切な支持体(例えばペトリ皿やフラスコ)の表面上にコーティングされた際に細胞内へのレトロウイルス媒介遺伝子形質導入を顕著に増強する人間のフィブロネクチンのキメラペプチドや、レトロネクチン等のアンカー分子によって、達成可能である(非特許文献12)。代わりに、ウイルスまたは細胞の遺伝子を組み換えて、これらの表面上に、ns‐TiO膜上に固定化されたタンパク質または抗体によって認識及び結合される結合ペプチドまたは抗原を晒すことが可能である。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明によるns‐TiO膜でコーティングされた支持体を用いて、マイクロアレイシステムを構成する。従って、本発明はまた、ナノ構造TiO膜がマイクロパターンまたはナノパターンの形状である本発明の固体支持体を備えたマイクロアレイ装置も提供する。SCBD法によって得られる極端に高いコリメーションによって、実際に、マイクロ及びナノパターン化ns‐TiO膜を、非常に高い解像度で製造することができる(非特許文献13、非特許文献14)。マイクロまたはナノパターン化膜は、所望の応用に応じて、異なる機能性を有することができる。例えば、マイクロアレイパターン化ns‐TiO膜でコーティングされた支持体を、遺伝子及び表現型アッセイにおいて使用することができる。こうした応用に対しては、異なる遺伝子挿入物を有するウイルスをマイクロアレイ上にスポットして、細胞を感染させるために使用する。その後、感染した細胞を、適切な検出システムを用いて、外来性遺伝物質の発現または統合のために分析する。
【0035】
更に、本発明によるns‐TiOでコーティングされた物質を用いて、遺伝子治療及び細胞置換治療用の方法を開発することができる。例えば、ウイルスを積み込んだTiOナノ粒子を介した局所的な感染を実施するためのシステムでは、高レベルの局所的な遺伝子形質導入に有利に働くように、特定の組織内に注入することができる。また、本発明によるns‐TiOでコーティングした物質は、エキソビボ(ex vivo)遺伝子治療に有用である。本発明によるエキソビボ遺伝子治療の典型的な方法は、遺伝子を組み換えるための細胞を患者から回収する段階と、一次細胞の培養を達成する段階と、対応する遺伝子情報を有するウイルスでの感染という感染方法によって細胞を感染させる段階と、感染させた細胞を患者に投与する段階とを備える。
【0036】
従って、本発明は、ウイルスを積み込んだナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の注入可能な粒子または装置、つまり、二次元または三次元体(例えばチップ)を提供する。ウイルスは、ナノ構造TiO膜でコーティングされた物質の表面に接着または吸着され得て、または、結合ペアまたは上述の他の方法を用いることによって、付着し得る。
【0037】
更に、本発明は、インビボ(in vivo)遺伝子治療用の方法にも関する。本方法は、
(a)ナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の粒子または装置を提供する段階と、
(b)粒子または装置にウイルスを積み込む段階と、
(c)ウイルスを積み込んだ粒子を患者の組織内に注入する段階と、を備える。
【0038】
上述のように、本発明によるns‐TiOでコーティングされた物質は、細胞置換治療において有用である。従って、本発明の更なる実施形態は、細胞置換治療方法に関する。本方法は、
(a)ナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の粒子または装置を提供する段階と、
(b)患者内で置換される細胞(好ましくは遺伝子組み換え細胞)を粒子または装置に積み込む段階と、
(c)細胞が積み込まれた粒子または装置を患者の組織内に注入する段階と、を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明を、下記の非限定的な例及び添付図面によって、更に例示する。
【0040】
〈1.ns‐TiO基板の作製〉
ナノ構造TiO膜を、パルスマイクロプラズマクラスター源(Pulsed Microplasma Cluster Source,PMCS)源を備えた超音速クラスタービーム堆積(Supersonic Cluster Beam Deposition,SCBD)装置によって堆積させた(非特許文献15)。簡潔に言うと、チタンターゲットを、不活性ガス(HeまたはAr)の閉じ込めプラズマジェットによって、スパッタリングする。スパッタリングされたTi原子は不活性ガス内で熱運動化して、凝集してクラスターを形成する。このTiクラスターは、真空背景内の残留ガスとの相互作用、または、プロセス中の適切な量の酸素の導入のどちらかによって酸化される。その後、クラスター及び不活性ガスの混合物は、ノズルを介して真空中に抽出され、シーディングされた超音速ビームを形成するが、このビームは、ビームの軌跡上に位置する基板上に収集される。クラスターの運動エネルギーは分裂を避けるのに十分低いものであり、従って、ナノ構造膜が成長する。クラスターの質量分布は、膜のナノ構造を調節するために、空気力学的な集束によって制御可能である(非特許文献16)。
【0041】
〈2.ns‐TiOアレイ上の細胞感染アッセイ〉
ウイルスベクターを、アンホトロピックフェニックスパッケージング細胞内のCa(POトランスフェクション法によって生成する(非特許文献17)。細胞をインビボ(in vivo)でビオチン化する(非特許文献18)。また、ウイルス上清を収集して、4℃で一晩培養した後で、8%のPEG8000で10倍に濃縮し、−80℃で100μg/mlの安定化糖(好ましくはトレハロース)の存在下で、等分する。
【0042】
ウイルス滴定は、10から1012cfu/mlまでの範囲の異なるウイルス濃度を示す。
【0043】
HEPES10mM/NaCl150mMのバッファ中の1μg/mlから0.1μg/mlまでの範囲のタンパク質(ストレプトアビジン)の単層を、ロボットスポッティングによってナノ構造TiOスライド上に作成し、吸着するように培養し、この単層を10%の血清によって安定化させる。その後、ビオチン化ウイルスを、ロボットスポッティングによって、機能性基板上に堆積させる。ウイルスを結合させるための培養時間後に、洗浄段階によって余剰ウイルスを除いて、細胞を基板上にプレートする。
【0044】
48〜72時間後に、感染したアレイの分析を実施するため、細胞を、顕微鏡による免疫検出用に処理するか、または、適切な抗生物質(ピューロマイシン、ハイグロマイシン、G418)で処理して、選別を実施し、クラスター中に成長し、高効率で対象の遺伝子を示すまたは下方制御する一様な分布の細胞を得る。選別の最後には、スライドを、顕微鏡またはスキャナー検出用に処理する。
【0045】
〈3.ns‐TiO2上へのストレプトアビジンの吸着〉
150mMのNaCl、10mMのHEPES中でCy3でラベルした0.1μg/mlのストレプトアビジンを、ナノ構造TiO膜でコーティングされたスライド上にスポットした。
【0046】
スライドを、異なる時間点(0、8、24、48時間)に対して、37℃で生理食塩水中で培養して、スポットされたタンパク質がTiO表面上に安定に吸着したかどうかを検証した。その後、スライドを走査して、蛍光強度を決定した。結果(図1)は、8時間後に、蛍光強度が一定であり、ストレプトアビジン分子がTiO上に吸着された安定な層を形成するということを示す。
【0047】
〈4.ポリブレンが存在しない場合のns‐TiO媒介メラニン細胞感染〉
一次メラニン細胞をターゲット細胞として使用した。簡潔に言うと、従来通りの感染プロトコルに対して、細胞を、プラスチック支持体(対照)の上及びns‐TiOコーティングされたカバースリップの上にプレートした。24時間後に、細胞を、ポリブレンが存在または存在しない下で溶液中においてGFP発現ウイルスで12時間感染させた。72時間後に、細胞を4%のパラホルムアルデヒドで10分間固定して、核をDAPIで染色した。
【0048】
細胞を蛍光顕微鏡で分析した。画像分析ソフトウェアを用いて、感染効率及び平均蛍光強度をそれぞれのサンプルに対して計算した。
【0049】
結果(図2A)は、ポリブレンが無い場合のns‐TiOを介した感染と、ポリブレンが有る場合のプラスチック支持体上の感染とのそれぞれが、同じ効率及び平均強度を有するということを示す。
【0050】
“逆感染”プロトコル用に、異なる基板に対して感染効率を比較した。つまり、ns‐TiOでコーティングしたカバースリップ、ゼラチンでコーティングしたカバースリップ、及びプラスチックウェルを、4℃で4時間、ウイルス調合液(GEP発現ウイルス)で培養した(ウイルス‐PEGは10倍に濃縮したウイルス調合液に対応し、ウイルス‐上清は濃縮していないウイルス調合液に対応する)。
【0051】
PBSで簡単に洗浄した後、メラニン細胞を全てのサンプル上にプレートした。72時間後に、細胞を蛍光顕微鏡で分析した。画像分析ソフトウェアを用いて、感染効率及び平均蛍光強度をそれぞれのサンプルに対して計算した。
【0052】
結果(図2B)は、ポリブレンが無い場合のns‐TiOによって媒介させた感染が、他の基板(ゼラチン及びプラスチック)のものと比較して、より効率的であるということを示す。
【0053】
〈5.U2OS細胞を有するレトロウイルスマイクロアレイ〉
スライドを、超音速クラスタービーム堆積を用いてns‐TiO膜でコーティングした。スライドをストレプトアビジンでスポットして、培養及び洗浄して、余剰タンパク質を除いた。続いて、ビオチン化ウイルスを対応するスポット中にスポットした。異なる細胞内コンパートメントに位置し、細胞全体及び核小体のドットを染色する二つの異なるウイルスエンコーディング蛍光タンパク質を使用した。このシステムによって、異なるウイルスを特に発現する細胞クラスターの識別が可能になる。
【0054】
スライドを、ストレプトアビジン/ウイルス結合を可能にするように培養し、洗浄した。その後、細胞をプレートした。72時間後、スライドを4%のパラホルムアルデヒドで10分間固定し、細胞核をDAPIで染色した。画像の獲得及び分析は自動顕微鏡を用いて実行した。結果を図3に示す。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ns‐TiO上のストレプトアビジンの吸着。ns‐TiOの層の上のストレプトアビジン‐Cy3のスポッティング。異なる時間(0、8、24及び48時間)に対する培養液中での37℃での培養。
【図2A】レトロウイルス上清(GFP)でのメラニン細胞の従来通りの感染。
【図2B】レトロウイルス上清(GFP)でのメラニン細胞の“逆感染”。異なる基板(プラスチック、ゼラチンでコーティングしたカバースリップ、ns‐TiO)の感染効率に関する比較。
【図3】U2OS細胞を有するレトロウイルスマイクロアレイ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面上にウイルス及び/又は細胞が固定化されたナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体。
【請求項2】
前記ナノ構造TiO膜が、75%未満のTiOかさ密度でアモルファスTiOマトリクス内に埋め込まれた直径20nm未満のTiOナノ粒子から成る、請求項1に記載の固体支持体。
【請求項3】
スライド、皿、フラスコ、プレート、カバースリップ、ファイバ、発泡体、粒子、膜、多孔質足場、網またはインプラントの形状である、請求項1または請求項2のいずれかに記載の固体支持体。
【請求項4】
前記基板物質が、ガラス、プラスチック、セラミック、金属、または、生分解性または非分解性の生体高分子物質である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項5】
ビオチン化ウイルスが、ストレプトアビジンまたはニュートラアビジンを有する前記ナノ構造TiO膜上に固定化されている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項6】
前記ナノ構造TiO膜がマイクロパターンまたはナノパターンの形状である請求項1から5のいずれか一項に記載の固体支持体を備えたマイクロアレイ装置。
【請求項7】
異なる遺伝子挿入物を有するウイルスが前記ナノ構造TiO膜の表面上にスポットされている、請求項6に記載のマイクロアレイ装置。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の固体支持体を製造するための方法であり、
(a)気相からのナノ粒子の堆積によって、ウイルス及び/又は細胞に接触することになる基板材料の少なくとも領域の上に、ナノ構造TiO膜を堆積させる段階と、
(b)前記ナノ構造TiO膜の表面をウイルス及び/又は細胞に接触させる段階とを備える方法。
【請求項9】
前記気相からのナノ粒子の堆積は、パルスマイクロプラズマクラスター源を用いた超音速クラスタービーム堆積(SCBD)によって実行される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
細胞へのウイルス媒介遺伝子送達のための請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の固体支持体の使用。
【請求項11】
ウイルスとのインビトロ細胞感染のための方法であり、
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)感染ウイルスの存在下において前記ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体の上で細胞を培養する段階とを備える方法。
【請求項12】
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)前記ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体をウイルスに接触させる段階と、
(c)前記ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体の表面上に接着した前記ウイルスを細胞調合液に接触させる段階と、
(d)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)前記ナノ構造TiO膜のコーティング上にストレプトアビジン、アビジンまたはニュートラアビジンを固定化する段階と、
(c)前記ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体をビオチン化ウイルスに接触させて、固定化した前記ストレプトアビジン、前記アビジンまたは前記ニュートラアビジンとの前記ビオチン化ウイルスの複合体を形成する段階と、
(d)前記複合体を細胞調合液に接触させる段階と、
(e)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
(a)ナノ構造TiO膜で少なくとも部分的にコーティングされている生体適合性のある基板物質の固体支持体を提供する段階と、
(b)前記ナノ構造TiO膜でコーティングされている支持体に細胞調合液を加える段階と、
(c)適切な期間、細胞を培養する段階と、
(d)ウイルス上清を加える段階と、
(e)感染が生じるのに十分な時間、細胞を培養する段階とを備える、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルスが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、または細胞遺伝子操作用のベクターとして利用可能な他のウイルスである、請求項10から請求項13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記ウイルスが遺伝子組み換えされている、請求項11から請求項15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
遺伝子治療または細胞置換治療用の手段を生じさせるためのナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の使用。
【請求項18】
ウイルスを積み込んだナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の注入可能な粒子または装置。
【請求項19】
エキソビボ遺伝子治療のための方法であり、
(a)遺伝子を組み換えるための細胞を患者から回収する段階と、
(b)回収した細胞から一次細胞の培養を達成する段階と、
(c)対応する遺伝子情報を有するウイルスを用いた請求項10から請求項15のいずれか一項に記載の方法によって、細胞を感染させる段階と、
(d)感染させた細胞を患者に再投与する段階とを備える方法。
【請求項20】
インビボ遺伝子治療のための方法であり、
(a)ナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の粒子または装置を提供する段階と、
(b)前記粒子または前記装置にウイルスを積み込む段階と、
(c)ウイルスを積み込んだ前記粒子または前記装置を患者の組織内に注入する段階とを備える方法。
【請求項21】
前記ウイルスが、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、または細胞遺伝子操作用のベクターとして利用可能な他のウイルスである、請求項19または請求項20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記ウイルスが遺伝子組み換えされている、請求項19から請求項21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
細胞置換治療のための方法であり、
(a)ナノ構造TiO膜でコーティングされた生体適合性のある物質の粒子または装置を提供する段階と、
(b)患者内で置換される細胞を前記粒子または前記装置に積み込む段階と、
(c)細胞が積み込まれた前記粒子または前記装置を患者の組織内に注入する段階とを備える方法。
【請求項24】
前記細胞が遺伝子組み換えされている、請求項23に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2009−501539(P2009−501539A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521961(P2008−521961)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【国際出願番号】PCT/EP2006/064377
【国際公開番号】WO2007/009994
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(508020498)
【Fターム(参考)】