説明

ナノ粒子合成方法

【課題】均一な粒径を有する機能性酸化物ナノ粒子を簡便に合成可能な技術を提供する。
【解決手段】ナノ粒子合成装置1は、紫外線レーザー光源2と、レーザー光反射鏡3と、反応容器4と、反応容器4中に投入された金属塩の溶媒溶液5と、を備えている。反応容器4には、金属塩を溶媒に溶かした溶液が納められている。溶媒の適性は、紫外線領域における吸収性能に依存する。硝酸セリウムについては、溶媒としてアルコールを必要としない。但し、塩の種類(例えば鉄系)によってはアルコール溶媒が必要となる。図4は、X線回折図形を用いてセリウム酸化物の粒径、格子定数、収率のレーザー出力依存性を計算した結果である。これより、粒径2nmのセリウム酸化物ナノ粒子が合成され、レーザー出力の増大に伴って粒径を維持したまま収率が向上していくことが分かる。また、格子定数及び粒径は出力にほとんど依存せず一定であることが分かる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ粒子合成方法に係り、特に数nmかつ均一な粒径を有する金属酸化物ナノ粒子の合成を可能とするナノ粒子合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ粒子の合成法としては、液相又は気相下での化学反応を利用する手法が広く用いられている。液相法としては、還流法やスプレー噴霧法などがあり、また、固体材料にレーザーや電子線を照射し、瞬間的に蒸発させた粒子を凝縮・回収する方法がある。また、近年では赤外波長域のレーザー光の照射による合成方法も提案されている(例えば特許文献1参照)。さらに、界面活性剤水溶液中で金属にレーザーアブレーションによってナノ粒子を合成する方法も提案されている(例えば特許文献2参照)。このように、ナノ粒子合成法自体については、既存技術が存在する。
【0003】
しかしながら、ナノ粒子の特性をより生かすためには、粒径分布を小さくすること(理想的には単分散)や、得られた微粒子を溶液中に安定に分散、コロイド化する技術が重要となる。この点、還流法では反応進行の制御が難しく、収率を高めようとすると反応が進み過ぎてしまう。このため、粒径の平均値や分布が大きくなり、目的とする粒径の粒子を選別するために、多数回の遠心分離を行うなどの工程が増えるという問題がある。一方、赤外波長域のレーザー光の照射による方法については、得られるナノ粒子の粒径分布の幅が大きいという問題がある。さらに、レーザーアブレーションによる方法については、レーザー照射の対象となる固体ターゲットを液体中に設置し、そこにレーザー光を集光する必要があるため、ターゲットからの金属の溶出によるコンタミネーションや、粉体、ゴミの混入、正確な光軸と集光の調整が必要という問題がある。
【特許文献1】特開平5−65512号公報
【特許文献2】特開2005−264089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、均一な粒径を有する機能性酸化物ナノ粒子を簡便に合成可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは鋭意研究の結果、紫外線領域波長レーザーの照射により、均一粒径の金属酸化物ナノ粒子を合成できることに着目し、試験により確認して以下の発明を完成した。すなわち、
【0006】
請求項1の発明は、金属塩又は金属錯体を含む溶液に、紫外線領域波長レーザーを照射することにより、金属酸化物ナノ粒子を合成することを特徴とするナノ粒子合成方法である。
本発明に用いる「金属塩」としては、機能性酸化物ナノ粒子の原料となる物質、例えば硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)、塩化セリウムCeCl、硝酸鉄(Fe(NO・9HO)、塩化鉄(FeCl、FeCl)を挙げることができる。硝酸塩、塩化物に限らず溶媒に溶ける原料であれば同様に用いることができる。すなわち、上記無機塩に限らず、アルコキシドであるトリエトキシセリウム(Ce(OC)、トリメトキシ鉄(Fe(OCH)、トリエトキシ鉄(Fe(OC)、トリイソプロポキシ鉄(Fe(O−i−C)、さらに、ペンタカルボニル鉄(Fe(CO))等の金属錯体も用いることができる。
【0007】
本発明が目的とする「金属酸化物」はいわゆる機能性酸化物と呼ばれ、蛍石型酸化物であるセリウム酸化物とジルコニウム酸化物、ペロブスカイト型酸化物、酸化鉄等が例示される。さらに、例えばセリウム酸化物に価数の異なる希土類(例えば、Gd、Sm等)が添加された希土類セリウム添加酸化物をも含む。
【0008】
「紫外線領域波長レーザー」としては、193nm乃至400nmの波長を有するレーザーを用いることができる。例えば、KrFエキシマレーザー(波長248nm)を用いることができる。また、紫外線領域の波長を有する他のレーザー、例えばArF(波長193nm)やNd:YAG4倍波レーザー(波長266nm)でも同等の効果を得ることができる。レーザーの波長と光子エネルギーの関係は次式で表される。
【0009】
【数1】

ここに、Eはエネルギー、hはプランク定数、cは真空中での光の速度、λはレーザーの波長である。よって波長の短い紫外線領域波長レーザーは赤外(800〜10,000nm程度)や可視光レーザー(400〜800nm程度)に比べて光子エネルギーが高い。この紫外線レーザーの光子エネルギーは、溶液中の錯体の結合エネルギーやセリウム酸化物(CeO)のバンドギャップと近いため効果的に吸収され、ナノ粒子の合成を効率的に行うことができる。
【0010】
本発明に用いる「溶媒」としては、水又は還元性溶媒を用いることができる。「還元性溶媒」としては、メタノール、エタノール、プロパノール又はメトキシエタノール等のアルコール類、又はこれらの混合液、又はこれらと水との混合液が例示される。従来、液相中の化学反応によるナノ粒子合成においては、金属イオンを還元するために種々の還元剤が用いられている。還元剤としてはヒドラジン、NaBH、水素ガス等があるが、白金等の貴金属ナノ粒子の合成においてはアルコールを温和な還元剤として用いる方法が有効である。アルコールは、自身が酸化される性質を有するため還元性の溶媒である。本発明では紫外線レーザーを溶液に照射することにより酸化物ナノ粒子を直接合成することが可能であるが、その生成反応を補助するため、また、生成したナノ粒子を溶液中で安定に保つために還元性溶媒が有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、液相中で直接、金属酸化物ナノ粒子を合成することが可能となる。また、レーザー光照射強度、時間を制御することにより、粒径分布の幅が小さいナノ粒子を産業応用上有意な収率で合成することが可能となった。
また、本発明により合成されたセリウム酸化物は、ナノサイズ効果により比表面積が大となるため、排ガス浄化用三元触媒の性能向上に資する。また、燃料電池や水素製造において作動温度のさらなる低下に優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至5を参照してさらに詳細に説明する。なお、本発明の範囲は特許請求の範囲記載のものであって、以下の実施形態等に限定されないことはいうまでもない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るナノ粒子合成装置1の構成を示す図である。ナノ粒子合成装置1は、紫外線レーザー光源2と、レーザー光反射鏡3と、反応容器4と、反応容器4中に投入された金属塩の溶液5、を主要構成として備えている。
反応容器4には、金属塩を溶媒に溶かした溶液が納められている。本発明に用いる溶媒の適性は、紫外線領域における吸収性能に依存する。図2は、紫外可視分光光度計により測定した各種溶媒及び硝酸セリウム水溶液の透過率の波長依存性を示す図である。また、表1は波長248nmにおける角溶媒の透過率を示したものである。これらより、アルコール類は紫外線領域で水より強い吸収を示すことが分かる。よって、アルコール類は上記の還元性溶媒としての効果に加えて、紫外線レーザーのエネルギーを吸収する媒体としての機能も有している。一方、硝酸セリウム水溶液は紫外線領域の波長を全て吸収する。よって、硝酸セリウムについては、溶媒としてアルコールを必ずしも必要としない。但し、塩の種類(例えば鉄系)によってはアルコール溶媒が必要となる。
【0014】
【表1】

本実施形態では、レーザー光源2としてKrFエキシマレーザー(ラムダフィジック社製
COMPex205F)(波長248nm)を用いている。レーザー出力は最大650mJ/パルス、繰り返し周波数は最大50Hzである。従って、300mJ/パルスを10Hz(1秒間当り10回)で出力した場合、0.3×10=3(W)となる。
【実施例1】
【0015】
以下、合成装置1を用いてセリウム酸化物ナノ粒子を合成した例について説明する。表2の該当欄に試料の作製条件等を示す。
【表2】


図3は、試料に対してレーザー出力条件を変えて1時間照射し、合成された生成物をX線回折した結果を示す図である。いずれのレーザー出力条件でも、回折角2θ=28、47、56、77°近傍でピークを示しており、これらはJCPDSカードに登録された蛍石構造を有するセリウム酸化物の(111)、(220)、(311)、(331)面からの回折ピークと一致する。よって、生成物が蛍石型構造を有するセリウム酸化物であることが確認された。
【0016】
図4は、(a)収率(水溶液中に存在する原料に対して回収されたセリウム酸化物の量)と、(b)図3のX線回折図形を用いて計算されたセリウム酸化物の格子定数、および(c)セリウム酸化物の粒径のレーザー出力依存性を計算した結果を示す図である。(c)の粒径は、X線回折図形の各ピークの半値幅(最高強度の半分の強度における幅)から計算した。半値幅から粒径を算出する方法は種々あるが、本発明ではピークの広がりを装置に起因する部分と、粒子の粒径及び歪みに起因する部分に分離するにあたりコーシー・ガウシアン近似によるプロファイルフィッティングを用いた上で、シェラーの式を適用し算出した。なお、シェラーの式は全ての回折ピークに適用され、最小自乗法により精密化された。また、(b)の格子定数aは、各ピークの回折角2θから面間隔dを算出し、対応する結晶面の面指数(hkl)との間に成り立つ次式から決定された。
【0017】
【数2】

また、この式も全ての回折ピークに適用され最小自乗法により精密化された。
【0018】
(c)より、得られたセリウム酸化物が粒径2nm程度のナノ粒子であることが確認されるが、粒径はレーザー出力にはほとんど依存しない。(b)の格子定数は0.546nmであり、この値は数μmの粒径をもつ通常のセリウム酸化物の値0.541nmよりも約1%大きい。また、粒径と同様にレーザー出力依存性は小さい。これに対し、(a)の収率はレーザー出力の増大に伴って単調に増加していくことが分かる。このことは、溶液中でのセリウム酸化物ナノ粒子の生成反応自身は光子エネルギーの大きさで決定され、反応量は入力された総エネルギー量で決まると理解される。応用上の観点からは、収率を高めても粒径が変化しないことは重要である。
【0019】
図5は、水溶液中の粒径の度数分布を示す図である。図3において、粒径は2nm程度と見積もられた。しかし、実際にはその2nmの粒子が水溶液中では凝集している。そこで動的光散乱法により、水溶液中に存在する凝集体の粒径を測定した。同図から、粒径は8−100nmの範囲に分布している。このことから、ナノ粒子は凝集体を形成していることが分かる。触媒等への応用では、この凝集体のまま利用することも可能であるが、凝集体を形成しているナノ粒子を個々の状態に分散させるためには、レーザー照射する溶液にナノ粒子表面を帯電させクーロン力により反発させる添加剤や、ナノ粒子表面に吸着して緩衝体として機能する高分子添加剤を分散剤として投入することが必要である。
【実施例2】
【0020】
次に、合成装置1を用いて鉄ナノ粒子を合成した例について説明する。表2の該当欄に試料の作製条件等を示す。
何れの溶媒でも酸化鉄(Fe)が生成した。

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、種々の金属酸化物ナノ粒子の合成方法として広く利用可能である。特に本発明は、ナノ粒子の合成に必要な要素が溶液と紫外線レーザーだけであることから、小ロット多品種の製品開発に有効である。さらに、本発明の合成方法により得られたセリウム酸化物は大きな比表面積を有するため三元触媒として自動車等の排ガス浄化触媒に利用可能である。さらに、GdやSmを含むセリウム酸化物ナノ粒子は、水素製造、燃料電池技術分野にも応用可能である。また、紫外線を吸収する性質も有するため、化粧品や機能性ガラスへの応用も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る合成装置1の構成を示す図。
【図2】各種溶媒及び硝酸セリウム水溶液の透過率の波長依存性を示す図である。
【図3】生成物のX線回折結果を示す図である。
【図4】合成したセリウム酸化物の粒径、格子定数、収率のレーザー出力依存性を示す図である。
【図5】合成したセリウム酸化物の水溶液中における粒径度数分布を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 合成装置
2 紫外線レーザー光源
3 レーザー光反射鏡原料ガス流入部
4 反応容器
5 金属塩の溶媒溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩又は金属錯体を含む溶液に、紫外線領域波長レーザーを照射することにより、金属酸化物ナノ粒子を合成することを特徴とするナノ粒子合成方法。
【請求項2】
前記金属塩が硝酸セリウム(Ce(NO・6HO)であり、前記金属酸化物が酸化セリウム(CeO2)であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子合成方法。
【請求項3】
前記紫外線領域波長レーザーが、波長193nm乃至波長400nmのレーザーであることを特徴とする請求項1又は2に記載のナノ粒子合成方法。
【請求項4】
前記紫外線領域波長レーザーが、KrFエキシマレーザー(波長248nm)であることを特徴とする請求項1乃至3に記載のナノ粒子合成方法。
【請求項5】
前記溶液の溶媒が水又は還元性溶媒であることを特徴とする請求項1乃至4に記載のナノ粒子合成方法。
【請求項6】
前記還元性溶媒が、メタノール、エタノール、プロパノール又はメトキシエタノールのいずれか、又はこれらの混合液、又はこれらと水との混合液であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子合成方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−44817(P2008−44817A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−222289(P2006−222289)
【出願日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(506281897)株式会社スリー・アール (1)
【Fターム(参考)】