説明

ナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体、ナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法、及びその製造装置

【課題】ナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体、ナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法、及びその製造装置を提供する。
【解決手段】平均粒径が200nm以下の熱電変換材料のナノ粒子11同士が連結したマトリックス部11aを有し、マトリックス部11a内にナノメートルサイズの空孔12の一部又は全部が連通した連続気孔が形成され、ゼーベック係数が、非ナノ組織を有するバルク状熱電変換材料と同程度となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体、ナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法、及びその製造装置に関する。ここで、バルク状熱電変換多孔体とは、バルクサイズ、例えばミリメートル〜センチメートルの単位の寸法を有し、熱電変換に使用可能な多孔体を指す。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電変換材料の発電性能指数であるZは、ゼーベック係数(熱起電力)S、電気伝導度σ、熱伝導率κを用いて、Z=Sσ/κと表される。従って、熱電変換効率のよい材料とは、ゼーベック係数S及び電気伝導度σが大きく、熱伝導率κが小さいものとなる。ここで、ゼーベック係数S、電気伝導度σ、及び熱伝導率κは伝導電子等のキャリア濃度に依存するため、これらは相互依存して変化するという性質を有しており、ゼーベック係数S、電気伝導度σ、及び熱伝導率κを個々に最適化することは困難となっている。しかし、熱は、伝導電子によって運搬されるのに加えて、フォノン(格子振動)によっても運搬されるという性質を備えているため、熱伝導率κは、伝導電子による熱伝導率κとフォノンによる熱伝導率κの和と表され、更に、熱伝導率κは、材料を構成する元素や構造に依存するという特徴を有している。そこで、材料を構成する元素の面から熱伝導率κを小さくすることで熱伝導率κを下げる試みとして、最適なキャリア濃度を持ち、熱伝導率κの小さな、例えばビスマステルライド等の平均原子量の大きい化合物半導体が提案されている。一方、構造の面から熱伝導率κを小さくすることで熱伝導率κを下げる試みとして、粒子(結晶)サイズをナノメートルサイズまで縮小してフォノンの平均自由行程を下げることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3559962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の発明は、不活性ガス中でターゲット材料にパルスレーザ光を照射し、レーザアブレーションにより生成させた0.5nm以上100nm以下の粒子を高真空中に差動排気により取出し、高真空中に配置した基板上に堆積させて熱電変換材料を作製するものである。このため、特許文献1の発明は、小面積の薄膜レベルの熱電変換材料の作製には適用できるが、広い面積を有する膜状の熱電変換材料や、ナノメートルサイズ組織のバルク多孔体の熱電変換材料の作製には適用できないという問題がある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、ナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体、ナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法、及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う第1の発明に係るナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体は、平均粒径が200nm以下の熱電変換材料のナノ粒子同士が連結したマトリックス部を有し、
前記マトリックス部内にナノメートルサイズの空孔の一部又は全部が連通した連続気孔が形成され、
ゼーベック係数が、非ナノ組織を有するバルク状熱電変換材料と同程度である。
【0007】
前記目的に沿う第2の発明に係るナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法は、熱電変換材料の原料粉末を粉砕し、平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕工程と、
前記ナノ粒子を用いて多孔質成形体を作製する成形工程と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理工程とを有する。
【0008】
前記目的に沿う第3の発明に係るナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法は、熱電変換材料の原料粉末を有機溶媒中に分散させて懸濁液を生成し、該懸濁液中の前記原料粉末を粉砕して平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕工程と、
前記懸濁液から前記ナノ粒子を回収し、該ナノ粒子を解砕して成形用粉末を調製し、該成形用粉末を加圧成形して多孔質成形体を作製する成形工程と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理工程とを有する。
【0009】
前記目的に沿う第4の発明に係るナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置は、熱電変換材料の原料粉末を平均粒径が200nm以下のナノ粒子まで粉砕する粉砕手段と、
前記ナノ粒子を用いて多孔質成形体を作製する成形手段と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理手段とを有する。
【0010】
前記目的に沿う第5の発明に係るナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置は、熱電変換材料の原料粉末を有機溶媒中に分散させて懸濁液を生成し、該懸濁液中の前記原料粉末を粉砕して平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕手段と、
前記懸濁液から前記ナノ粒子を回収し、該ナノ粒子を解砕して成形用粉末を調製し、該成形用粉末を加圧成形して多孔質成形体を作製する成形手段と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理手段とを有する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載のナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体においては、ナノ粒子同士の連結により形成されているので、マトリックス部内にナノメートルサイズの空孔が多数存在し、ナノ粒子と空孔の境界でフォノンが散乱され、バルク状熱電変換多孔体のフォノンの平均自由行程を、例えば、マトリックス部を形成しているナノ粒子のサイズ程度まで減少させることができ、熱伝導率が低下する。更に、バルク状熱電変換多孔体では、熱移動はナノ粒子の連結部を介して起こるため、熱移動の有効断面積が狭くなって熱移動抵抗が増大する。その結果、バルク状熱電変換多孔体の熱伝導率は、マトリックス部がナノ粒子で形成されることによるフォノンの平均自由行程の減少と、ナノメートルサイズの空孔が多数形成されることによる熱移動の有効断面積の低下の複合(相乗)作用により、ナノ組織を有さない同一密度のバルク状熱電変換材料の熱伝導率と比較して大幅に低減し、断熱特性を大幅に向上させることができる。
【0012】
請求項2記載のナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法においては、原料粉末を粉砕してナノ粒子を作製するので、容易かつ安価に多量のナノ粒子を製造することができる。また、ナノ粒子を用いて作成した多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で(例えば、100℃以上250℃以下の温度範囲で)熱処理するので、ナノ粒子の酸化と粒サイズの増加を防止することができ、ナノ粒子同士が連結したマトリックス部と、マトリックス部内に形成されたナノメートルサイズの孔を含んだ空孔部で構成されるナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体を容易かつ安価に製造することができる。
【0013】
請求項3記載のナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法においては、多孔質成形体を、有機溶媒中に分散している懸濁液から回収したナノ粒子を加圧成形して作製するので、種々の形状のバルクサイズの多孔質成形体を容易かつ安価に製造できる。
【0014】
請求項4記載のナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置においては、原料粉末を粉砕してナノ粒子を作製するので、容易かつ安価に多量のナノ粒子を製造することができる。また、ナノ粒子を用いて作成した多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で(例えば、100℃以上250℃以下の温度範囲で)熱処理するので、ナノ粒子の酸化と粒サイズの増加を防止することができ、ナノ粒子同士が連結したマトリックス部と、マトリックス部内に形成されたナノメートルサイズの孔を含んだ空孔部で構成されるナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体を容易かつ安価に製造することができる。
【0015】
請求項5記載のナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置においては、多孔質成形体を、有機溶媒中に分散している懸濁液から回収したナノ粒子を加圧成形して作製するので、種々の形状のバルクサイズの多孔質成形体を容易かつ安価に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るナノ組織を有するバルク多孔体の説明図である。
【図2】フォノンの平均自由行程に着目したビスマステルライドの温度300Kにおける熱伝導率分布の説明図である。
【図3】図2の熱伝導率分布関数を積分して得られる累積熱伝導率の説明図である。
【図4】実施例のバルク多孔体における温度と電気抵抗の関係を示す説明図である。
【図5】実施例のバルク多孔体に発生した温度差と熱起電力の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体(単にバルク多孔体ともいう)10は、熱電変換材料の一例であるビスマステルライドの平均粒径が60nm以上200nm以下のナノ粒子11同士が三次元的に連結して形成されるマトリックス部11aを有している。このマトリックス部11a内には、ナノメートルサイズの空孔12(球換算で直径が10〜200nm)が形成されている。ここで、空孔12は互いに独立した状態であっても、連通した状態(連続気孔)であっても、又は一部は独立し残部は連通した状態であってもよい。
なお、「平均粒径」は、体積平均粒径である(以下、同様)。平均粒径は、レーザ回折散乱法に基づく測定装置を用いて求められる。
【0018】
一般に、ビスマステルライド等の半導体の熱伝導は、フォノンによる熱輸送で説明できる。そして、フォノンによる熱輸送を気体分子運動論でモデル化すると、フォノンによる熱伝導率κは、比熱をC、フォノンの群速度をv、フォノンの平均自由行程をLとした場合、κ=CvL/3と表される。ここで、比熱Cの計算にデバイモデル、フォノンの群速度vの計算に正弦波近似、フォノンの平均自由行程Lの評価に不純物散乱とウムクラップ過程を考慮すると、κをフォノンの角周波数の関数として表現できる。更に、フォノンの角周波数の関数とした熱伝導率を、フォノンの平均自由行程依存性に変換すると、フォノンの平均自由行程に着目した熱伝導率の分布関数が得られる。図2に、温度300Kにおけるビスマステルライドの熱伝導率分布関数を示す。
【0019】
図2から、フォノンの平均自由行程は、数百nmとかなり広い範囲に分布していることが判る。また、図2に示す熱伝導率分布関数をフォノンの平均自由行程で積分することで、フォノンによる熱伝導率κを求めることができる。そして、図2の熱伝導率分布関数をフォノンの平均自由行程で積分して得られた熱伝導率をビスマステルライド固有の熱伝導率で規格化して求めた累積熱伝導率を、図3に示す。ここで、累積熱伝導率が1(100%)となる(累積熱伝導率がビスマステルライド固有の熱伝導率に到達する)フォノンの平均自由行程は30μm以上となる。図3から、例えば、平均自由行程が300nm以下のフォノンは、熱伝導率全体の60%しか担っておらず、平均自由行程が50nm以下のフォノンは、熱伝導率全体の25%しか担っていないことが判る。従って、ビスマステルライドの熱伝導率を低減させるには、ビスマステルライド中のフォノンの平均自由行程を小さくすることが重要であることが判る。
【0020】
ここで、平均粒径が60nm以上200nm以下のビスマステルライドのナノ粒子11を三次元的に連結してマトリックス部11aを形成した場合、マトリックス部11a内には、球換算で直径が10〜200nmのナノメートルサイズの空孔12が多数分散する。その結果、バルク多孔体10内のフォノンは、ナノ粒子11と空孔12の境界で散乱され、粗い見積もりを行うと、バルク多孔体10のフォノンの平均自由行程は、バルク多孔体の代表寸法である、例えば、マトリックス部11aを形成しているナノ粒子11の平均粒径(60nm以上200nm以下)と同程度まで、減少する。これによって、図3から、バルク多孔体10の熱伝導率は、フォノンの平均自由行程が200nm以下になると、ビスマステルライドの熱伝導率をビスマステルライド固有の熱伝導率の50%程度に、フォノンの平均自由行程が100nm以下になると、ビスマステルライドの熱伝導率をビスマステルライド固有の熱伝導率の35%程度にまで減少できる。更に、バルク多孔体10の熱伝導は、マトリックス部11aを形成するナノ粒子11の連結部を介して行われるため、熱移動の有効断面積が狭くなって、熱移動抵抗が増大する。その結果、バルク多孔体10の熱伝導率は、マトリックス部11aがナノ粒子11で形成されることによるフォノンの平均自由行程の減少と、ナノメートルサイズの空孔12が多数形成されることによる熱移動の有効断面積の低下の相乗作用により、フォノンの平均自由行程から見積もった熱伝導率より更に低下する。
【0021】
続いて、本発明の第2の実施の形態に係るナノ粒子を用いたバルク多孔体の製造方法(以下、単にバルク多孔体の製造方法という)について説明する。
バルク多孔体の製造方法は、原料粉末、例えば熱電変換材料の一例であるビスマステルライドの粉末(平均粒径が20μm)を、有機溶媒を用いた湿式ビーズミルを用いて粉砕し、平均粒径が60nm以上200nm以下のビスマステルライドのナノ粒子を生成する粉砕工程と、ナノ粒子を用いて多孔質成形体を作製する成形工程と、多孔質成形体を不活性雰囲気中で100℃以上250℃以下の温度範囲で熱処理してバルク多孔体10を作製する熱処理工程とを有する。なお、この製造方法は、粉砕工程を行う粉砕手段、成形工程を行う成形手段、及び熱処理工程を行う熱処理手段を備えた製造装置によって実行される。
以下、各工程について説明する。
【0022】
(粉砕工程)
有機溶媒には、アセトン等のケトン系、エチルアルコール等のアルコール系、α−テルピノール等のテルペン系のものが使用できる。ここで、湿式粉砕時のビスマステルライドの粉末に対する有機溶媒の割合は、重量比でビスマステルライドの粉末1に対して有機溶媒が2.5〜100である。そして、湿式ビーズミルを使用した粉砕は、2段階に分けて行う。第1段階の粉砕は、湿式ビーズミル内に直径が0.1mmのジルコニア製のビーズを湿式ビーズミルの内容積に対して80%、ビスマステルライドの粉末と有機溶媒との懸濁液を湿式ビーズミルの内容積に対して20%それぞれ投入し、湿式ビーズミルを2000〜3900rpmの回転速度で6〜8時間回転させる条件で行う。そして、第1段階の粉砕が終了した後、湿式ビーズミルからジルコニア製のビーズを回収し、直径が0.3mmのジルコニア製のビーズを湿式ビーズミルの内容積に対して80%加えて、湿式ビーズミルを2000〜3900rpmの回転速度で6〜8時間回転させて第2段階の粉砕を行う。第2段階の粉砕が終了した時点で、有機溶媒中には、平均粒径が60nm以上200nm以下のビスマステルライドのナノ粒子が分散している。
【0023】
(成形工程)
第2段階の粉砕の終了後、ビスマステルライドのナノ粒子が有機溶媒中に分散している状態の懸濁液を湿式ビーズミルから回収し、室温、大気中で有機溶媒を蒸発させて(乾燥して)ナノ粒子の凝集物を回収する。次いで、室温、大気中でナノ粒子の凝集物を解砕して、例えば、粒径が0.1〜1mmの成形用粉末を調製する。そして、室温、大気中で金型内に成形用粉末を充填して、例えば、2〜4MPaの成形圧力で加圧成形して多孔質成形体を作製する。
【0024】
(熱処理工程)
得られた多孔質成形体を熱処理炉内に配置し、不活性ガスの一例であるアルゴンガスを熱処理炉内に流しながら熱処理炉内を不活性雰囲気(アルゴンガス雰囲気)に保持して、例えば、5〜10℃/分の昇温速度で100℃以上250℃以下の熱処理温度まで昇温し、1〜4時間保持する熱処理を行う。熱処理終了後、熱処理炉内で自然冷却してバルク多孔体が得られる。成形用粉末が圧密された組織状態の多孔質成形体は、熱処理により平均粒径が60nm以上200nm以下のビスマステルライドのナノ粒子同士が連結したマトリックス部11aを有し、そのマトリックス部11a内には、ナノメートルサイズの空孔12が形成されたバルク多孔体10に変わる。なお、アルゴンガスを流す代わりに、熱処理炉内を真空に保持して、熱処理を行ってもよい。
【0025】
ビスマステルライドのナノ粒子は、有機溶媒を用いた湿式ビーズミルによる粉砕で作製されるので、作製されたナノ粒子の表面の一部は有機溶媒の官能基により修飾されていると解される。更に、成形用粉末の調製及び多孔質成形体の成形は、室温、大気中で実施されたので、ナノ粒子の表面の一部には水分との反応による水和物や空気中の酸素との反応による酸化物が生成していると解される。このため、多孔質成形体では、ビスマステルライドのナノ粒子同士の直接連結が阻害され、多孔質成形体は通電性を示さない。
一方、真空中又は不活性雰囲気(アルゴンガス雰囲気)中で熱処理を行うと、ビスマステルライドのナノ粒子表面に存在している有機溶媒の官能基、水和物、及び酸化物の一部がナノ粒子表面から離脱してビスマステルライドのナノ粒子の表面には清浄部が形成され、ビスマステルライドのナノ粒子同士が直接連結することが可能になって、バルク多孔体に強度が発現されると共に通電性が生じる。
【0026】
なお、形成圧力が2MPa未満の場合、多孔質成形体においてビスマステルライドのナノ粒子同士の近接が不十分となって、多孔質成形体に十分な取扱い強度(ハンドリング強度)を付与することができないという問題がある。更に、多孔質成形体においてビスマステルライドのナノ粒子同士の近接が不十分であると、熱処理時にビスマステルライドのナノ粒子表面に存在している有機溶媒の官能基、水和物及び酸化物が離脱して表面に清浄部が生成しても、これらの清浄部を介してナノ粒子同士が直接連結する頻度が小さくなるという問題も生じ、バルク多孔体に十分な強度と通電性を与えることができない。このため、多孔質成形体を成形する際の成形圧力の下限値を2MPaとした。
なお、成形圧力が大きい程、ビスマステルライドのナノ粒子同士の近接距離が縮まって、熱処理時にナノ粒子表面に生成する清浄部を介したナノ粒子同士の直接連結の頻度が向上するが、成形圧力が4MPaを超えても多孔質成形体の密度に大きな増加は認められず、多孔質成形体中のナノ粒子同士の近接距離は大きく減少しないと解される。このため、成形圧力の上限値を4MPaとした。
【実施例】
【0027】
平均粒径が20μmのビスマステルライド粉末をアセトンを用いた湿式ビーズミルを用いて2段階の粉砕を行い、平均粒径が100nmのナノ粒子を作製した。なお、この平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布装置(商品名:LA―950(株)堀場製作所製)を用いて測定した。ここで、第1段階の粉砕は、湿式ビーズミル内に直径が0.1mmのジルコニア製のビーズ(湿式ビーズミルの内容積に対して80%)と、ビスマステルライド粉末とアセトンの懸濁液(ビスマステルライド粉末に対するアセトンの割合は、重量比でビスマステルライドの粉末1に対して100であり、懸濁液は湿式ビーズミルの内容積に対して20%)をそれぞれ投入し、3900rpmの回転速度で8時間回転させることにより行った。第1段階の粉砕が終了すると、湿式ビーズミルから直径が0.1mmのジルコニア製のビーズを回収し、直径が0.3mmのジルコニア製のビーズ(湿式ビーズミルの内容積に対して80%)を加えて、湿式ビーズミルを3900rpmの回転速度で8時間回転させて第2段階の粉砕を行った(以上、粉砕工程)。
【0028】
第2段階の粉砕の終了後、ビスマステルライドのナノ粒子がアセトン中に分散している懸濁液を湿式ビーズミルから回収し、室温、大気中でアセトンを蒸発させてナノ粒子の凝集物を回収した。次いで、室温、大気中でナノ粒子の凝集物を、粒径が1mm以下となるまで解砕して成形用粉末を調製し、室温、大気中で金型内に成形用粉末を充填して、4MPaの成形圧力で加圧成形して直径が10mmで厚みが2mmの多孔質成形体を作製した。(以上、成形工程)。
【0029】
得られた多孔質成形体を熱処理炉内に配置し、アルゴンガスを熱処理炉内に流しながら熱処理炉内をアルゴンガス雰囲気に保持して、10℃/分の昇温速度で150℃の熱処理温度まで昇温し1時間保持して熱処理を行った。熱処理終了後、熱処理炉内で自然冷却して、直径が10mmで厚みが2mmのバルク多孔体を得た(以上、熱処理工程)。
【0030】
得られたバルク多孔体の熱伝導率をレーザフラッシュ法で測定したとこる、バルク多孔体の熱伝導率は0.43W/(m・K)となり、ナノメートルサイズより大きな粒子(結晶)サイズで構成されるビスマステルライドのバルク材(非ナノ組織を有するバルク状熱電変換材料の一例)の熱伝導率1.5W/(m・K)と比較して、約1/3.5となった。一方、バルク多孔体の密度を測定すると3.70g/cmとなり、ビスマステルライドのバルク材の密度7.86g/cmと比較すると、バルク多孔体の相対密度は47%となった。
バルク多孔体の熱伝導率が0.43W/(m・K)であることは、バルク多孔体の相対密度が47%であること(空孔率が53%であること)だけでは説明することができず、バルク多孔体が低い熱伝導率を示すことは、バルク多孔体が平均粒径が100nmのナノ粒子同士が連結したマトリックス部を有していること及びこのマトリックス部内にナノメートルサイズの空孔が存在していることの複合(相乗)作用であると解される。即ち、バルク多孔体の熱伝導率がビスマステルライドのバルク材の熱伝導率よりも大きく低減した理由は、多孔構造によりフォノンが激しく散乱、人工的にフォノン自由行程が短く抑えられたためと考えられる。
【0031】
また、バルク多孔体の温度を変えながら電気抵抗を測定した。温度と電気抵抗の関係を図4に示す。図4から求めたバルク多孔体の50℃における電気伝導度は10S/cmとなった。バルク多孔体の電気伝導度は、ビスマステルライドのバルク材の電気伝導度840S/cmに比較して低下しているが、十分に利用できる範囲の値と解される。更に、得られたバルク多孔体内に温度差を発生させ、このときのバルク多孔体に発生した熱起電力を測定した。温度差と熱起電力の関係を図5示す。図5から求めたバルク多孔体のゼーベック係数は220μV/Kであり、ビスマステルライドのバルク材のゼーベック係数と同一の値となった。ここで、「同一」とは、厳密な意味での同一ではなく、±10%の誤差が許容される。即ち、「同程度」という意味である。
【0032】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、粉砕が終了してナノ粒子が有機溶媒中に分散している懸濁液を用いて基板上にナノ粒子の凝集したパターンを形成し、このパターンを乾燥して多孔質成形体を作製することもできる。これによって、複雑な形状を有するバルクサイズの膜状の多孔質成形体を容易かつ安価に製造できる。更に、乾燥させたパターンを積層して加圧することで、面積の大きな多孔質成形体を容易かつ安価に製造できる。
なお、熱電変換材料は、ビスマステルライドに限定されるものではなく、任意の半導体でよい。また、酸化物も熱電変換材料となりうる。
【符号の説明】
【0033】
10:バルク状熱電変換多孔体、11:ナノ粒子、11a:マトリックス部、12:空孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が200nm以下の熱電変換材料のナノ粒子同士が連結したマトリックス部を有し、
前記マトリックス部内にナノメートルサイズの空孔の一部又は全部が連通した連続気孔が形成され、
ゼーベック係数が、非ナノ組織を有するバルク状熱電変換材料と同程度であることを特徴とするナノ組織を有するバルク状熱電変換多孔体。
【請求項2】
熱電変換材料の原料粉末を粉砕し、平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕工程と、
前記ナノ粒子を用いて多孔質成形体を作製する成形工程と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理工程とを有することを特徴とするナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法。
【請求項3】
熱電変換材料の原料粉末を有機溶媒中に分散させて懸濁液を生成し、該懸濁液中の前記原料粉末を粉砕して平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕工程と、
前記懸濁液から前記ナノ粒子を回収し、該ナノ粒子を解砕して成形用粉末を調製し、該成形用粉末を加圧成形して多孔質成形体を作製する成形工程と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理工程とを有することを特徴とするナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造方法。
【請求項4】
熱電変換材料の原料粉末を平均粒径が200nm以下のナノ粒子まで粉砕する粉砕手段と、
前記ナノ粒子を用いて多孔質成形体を作製する成形手段と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理手段とを有することを特徴とするナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置。
【請求項5】
熱電変換材料の原料粉末を有機溶媒中に分散させて懸濁液を生成し、該懸濁液中の前記原料粉末を粉砕して平均粒径が200nm以下のナノ粒子を生成する粉砕手段と、
前記懸濁液から前記ナノ粒子を回収し、該ナノ粒子を解砕して成形用粉末を調製し、該成形用粉末を加圧成形して多孔質成形体を作製する成形手段と、
前記多孔質成形体を真空中又は不活性雰囲気中で熱処理してバルク状熱電変換多孔体を作製する熱処理手段とを有することを特徴とするナノ粒子を用いたバルク状熱電変換多孔体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−249672(P2011−249672A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123159(P2010−123159)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【出願人】(391043332)財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 (53)