説明

ナノ複酸化物AxMyOzの製造方法

【課題】
多元素を含む複酸化物Aの機能性ナノ粒子を量産するための合成手法を提供する。
【解決手段】
一般式A(式中、Aはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、Mは遷移金属、Oは酸素であり、xyzは、各元素の原子価により決定される整数である。)で表わされるナノ複酸化物を得る溶融塩合成法において、原料および塩を加熱乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気、乾燥剤の添加のいずれかもしくは複数の工程を含む乾燥工程を行ったのち、溶融塩中でA複酸化物を合成することを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性複酸化物のナノ結晶粒子を合成方法に関ものであり、より詳細には、溶融塩を反応物および反応媒体として利用して、ナノメートル程度の大きさで制御されたAの化学組成(ここでAはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、Mは遷移金属、Oは酸素であり、x、y、zは化学組成を決定すための各元素の原子価により決定される整数である。)を有する多元素からなる複酸化物の粒子を合成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスなどにおける素子の材料は、装置の特性に強く影響する。近年、素子材料として、材料の形状をナノメートル程度(10−9 m)の微細な大きさで制御したナノ材料が求められている。
ナノ材料を利用することで、従来のより大きな材料に比較して、機能を高めたり、従来にはない新しい機能を発現したりできるためである。例えば、電池の電極材料では、活物質の形状をナノメートル程度で制御することにより、体積当たりの電極反応面積を大きくし、高速での充電や放電が行うことが可能になる。
また反応触媒においては、ナノ材料の使用により反応面積の拡大とともに、触媒の表面エネルギーが向上することから触媒活性が高められる。磁性材料にナノ材料を応用することで、単位面積あたりに多くの記録媒体素子をおくことができることから、大容量の記録媒体の作製が見込まれる。半導体では、ナノ材料をもちいることで電子装置の高速化と小型化を目指している。光学素子にナノ材料が応用できると、より精密な映像の表示や精密なレーザーの創出につながる。
従来の技術では、ナノサイズの粒子の合成方法に大別して固相法、気相法、液相法がある。固相法としては、機械的粉砕法があり、これは粉砕容器に試料粒子と粉砕媒体を容れて、これらを強制的に動かし、粉砕媒体を試料粒子に衝突させて、その衝撃力によって粒子を機械的に粉砕することで、10より100 nmに至るナノ粒子を調整する方法である。機械的粉砕法は、装置・操作が簡単であること、非加熱で室温調整が可能であること、安全性に優れること、非水系工程であるため結晶水が生じてナノ粒子の機能を損なうことがないことなどの利点がある反面、粉砕容器と粉砕媒体の機械的運動に大部分のエネルギーが消費されるためにエネルギー効率が低いことや一度に調整できる試料が少量であり、またスケールアップが困難であるといった欠点がある。
【0003】
またナノ粒子の合成には大きな衝撃力を必要とするのだが、この衝撃によって結晶歪みを発生させたり、結晶構造を破壊したりして、試料の性能が著しく低下することがある。例えば、リチウム電池正極材料として利用されるLiCoO2は機械的粉砕法により微細化すると、微細粒子が得られるのだが、同時に機械的衝突力によってLiCoO2結晶に特徴的な層状構造が破壊されてしまい、電池材料として特性が著しく低下した。機械的粉砕法が利用できる機能物質は限られる。
気相法は、ガスの化学反応によるナノ結晶の合成プロセスであり、化学蒸着法(CVD法)が挙げられる。短時間の一段階工程により高純度で化学量論比が制御されたナノ粒子の合成が可能であることが利点である。また非水系工程であるため結晶水を含まないナノ粒子の合成が可能である。しかしながら、ナノ粒子には分散性が良く、安定性が高いことが求められるのだが、CVD法では粒子が一次粒子の凝集粒子となることが多い。粒子径の制御についても、製造条件の変化だけでは困難で、製造工程のあとに粒子を分級する操作が必要となる。またガス化学反応の反応物としては、有機金属化合物の一つである金属アルコキシドが用いられるが、アルコキシドは一般に人体に有害であるとともに、反応活性が高く空気中において発火や爆発の危険を伴う。また、金属アルコキシドは多くの金属において比較的高価である。
液相法によるナノ粒子の合成法には、共沈法、ゾル‐ゲル法、噴霧熱分解法がある。
共沈法では、水溶液中で組成変動を抑制した複数の金属イオンを同時に沈殿させることで、成分の分布が均一なナノサイズの原料粉末を作製し、これを比較的低い焼成温度で多成分系のナノ粒子を合成する。共沈法で得られる原料粉末はナノ粒子であり、反応性が良いので、比較的低温で焼成できるという利点がある。
【0004】
ゾル−ゲル法は有機金属化合物のひとつである金属アルコキシドMn+(ORを原料として、これを水溶液中で加水分解することでナノ材料を沈殿させる合成法である。金属アルコシキド法の特徴は、均一溶液が調整でき、加水分解速度が速く、沈殿が溶媒に溶解しない多くの反応系に適用できることである。ただしアルコキシドは一般に人体に有害であるとともに、反応活性が高く空気中において発火や爆発の危険を伴うことがある。また、金属アルコキシドは多くの金属において比較的高価である。
噴霧熱分解法は分子レベルで十分に混合された金属塩などが溶けている液滴の熱分解により、ナノ粒子を製造する方法である。各種の複合酸化物微粒子の製造が可能である。加熱および反応時間が数十秒程度と非常に短いために、連続的に微粒子が製造できる。噴霧液にフラックス塩を添加すると、高結晶性の凝集していない各種のナノ粒子が製造できる。ナノ粒子を生成するためには原料溶液濃度をできるだけ低くするか、あるいは微小な液滴が発生する噴霧器を用いることになる。
液相法においては一般にナノサイズの粒子を得るためには、反応物を十分に希薄化することが必要とされるため、ナノ粒を量産合成するためには比較的大量の水溶液が必要である。また水溶液中での反応となるため、ナノ粒子に結晶水が含まれることがある(非特許文献1参照)。
また、コバルト酸リチウムの溶融塩合成法による合成が報告されているが、融点が低い溶融塩を用いて、300℃程度の低温度で、かつ加熱乾燥、真空乾燥、添加物による乾燥など試薬の十分な乾燥工程を含む合成は報告されていない。また、粒子径は200nm程度よりも大きく、ナノ粒子を得られてない(非特許文献2〜7参照)。
同様にマンガン酸リチウムの溶融塩合成法による合成の報告例はあるのだが、300℃程度の低温度で、かつ十分な乾燥工程を含む合成法は報告されていない。また、粒子径は200nm程度よりも大きく、ナノ粒子を得られてない(非特許文献8〜10参照)。
【0005】
【非特許文献1】国武豊喜 監修「ナノマテリアルハンドブック」(2005)発行 エヌ・ティー・エス
【非特許文献2】Han,C. H. et al, Solid State Ionics, 159, 95 (2001)
【非特許文献3】Liang,H. et al, Electrochem. Commun., 6, 789 (2004)
【非特許文献4】Liang,H. et al, Electrochem. Commun., 6, 505 (2004)
【非特許文献5】Tan,K. S. et al, J.Power.Sources, 147, 241 (2005)
【非特許文献6】Hong,Y.S. et al. Chem. Lett., 2000, 1384 (2000)
【非特許文献7】Han,C. H. et al. J.Power.Sources, 92, 95 (2001)
【非特許文献8】Tang, Weiping.et al., J.Mater. Chem., 12, 2991-2997 (2002)
【非特許文献9】Kim, J. -H. etal., Electrochimica Acta, 49, 219-227 (2004)
【非特許文献10】Shaju, K. M. et al., Electrochemistry Communications, 4, 633-638(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノ材料の合成においては、成分が均一でナノメートル程度の大きさで形状制御された材料を、汎用性のある一般的な装置と比較的安価で有毒性のない試薬を用いて、簡単な単一工程で、短時間に大量に高い収率で得ることが望まれている。しかしながら、前に挙げた従来のナノ材料の合成法でこれらの条件をすべて満たす方法はない。
工業プロセスとして確立するためには、環境負荷が小さく、合成工程に関わる物質の有害性が極めて小さいことが加えて望まれる。すなわち、ナノ材料の合成に際して、消費するエネルギーが小さく、廃棄物が発生しないかもしくは再利用が可能であり、また合成に関わる溶媒や添加剤が無害であることが望まれる。
特に、多元素からなる複合酸化物のナノ材料は、電極材料、反応触媒、磁性材料などの各種機能に優れるため均一成分の大量合成が望まれるにもかかわらず、その汎用的な手法は確立されていない。各種のナノ材料の合成が可能で、そのナノ材料の成分やナノ構造を容易でかつ安価な方法で制御できれば、なお利用価値の高い合成方法となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、溶融塩を反応物および反応媒体とした材料合成プロセスにおいて、真空乾燥や添加剤による乾燥工程を伴うことで、ナノ材料の合成する方法を提供する。すなわち、本発明は、一般式A(式中、Aはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、Mは遷移金属、Oは酸素であり、xyzは、各元素の原子価により決定される整数である。)で表わされるナノ複酸化物を得る溶融塩合成法において、塩およびA原料とM原料を加熱乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気、乾燥剤の添加のいずれかもしくは複数の工程を含む乾燥工程を行ったのち、A原料とM原料を含む溶融塩中でA複酸化物を合成することを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法である。
また、本発明は、乾燥剤として過酸化物若しくは酸化物を添加することができる。
溶融塩合成では、塩の乾燥工程を行うことや、酸化物や過酸化物の添加することで、溶融塩の酸化物イオン濃度が大きくなる。溶融塩では酸化物イオンの濃度が大きいと塩基性が強くなる。本発明は、溶融塩合成において用いる溶融塩に、塩基性を強めた溶融塩をもちいることを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法である。
本発明による溶融塩合成においては、反応温度を500℃以下とし、より好ましくは300℃付近とすることを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法である。
さらに本発明は、前記の乾燥工程において、添加する乾燥剤の分量を調節することによって、合成される結晶粒子の形態をナノメートル程度の大きさで制御することができる。
また本発明は、前記の溶融塩反応に用いる溶融塩浴として、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属をカチオンとする水酸化物、硝酸塩、亜硝酸、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩から選ばれる酸素酸塩およびハロゲン物の一種または二種以上の塩を成分として含む溶融塩とすることができる。
さらに本発明は、溶融塩の組成や反応の雰囲気を調節することによって、合成される結晶粒子の形態をナノメートル程度の大きさで制御することができる。
また本発明は、溶融塩反応で得られたナノ材料から塩の成分を水洗することで分離し、その塩を含む水溶液に蒸発乾燥処理を施すことで、塩と水を再生する工程を含むことができる。
さらに本発明は、複酸化物Aにおける遷移金属Mの前駆体として、遷移金属Mの水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、酢酸塩などの塩および酸化物、もしくは金属からなる群から選ばれた一種または二種以上を成分として含むことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成分および形状の揃ったナノ粒子を、汎用性のある一般的な装置と比較的安価な試薬を用いて、簡単な単一工程で、短時間に大量に高い収率で得る合成方法が提供できる。
溶融塩としてはアルカリ金属の硝酸塩や水酸化物などが挙げられるが、これらの試薬は、人体に対しての有害性は比較的小さく、工業的に汎用されており安価で容易に入手が可能である。
本発明の好適な実施形態によれば、乾燥工程として加熱乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気、乾燥添加剤による乾燥もしくはこれらを複合的に行うことで達成される。加熱乾燥や真空乾燥で用いられる乾燥炉や真空ポンプは汎用の器具を利用が可能である。溶融塩の乾燥添加剤としては、気体、液体、固体の状態を問わない。乾燥添加剤の一例としてはアルカリ金属過酸化物が挙げられる。これらの試薬は比較的安価で入手が可能である。
本発明の好ましい実施形態によれば、溶融塩を形成する塩は、最終的に水溶液として回収されるが、水分を蒸発させて塩を回収できることから再利用が可能であり、廃棄物が全く発生しないナノ粒子の合成方法となる。
本発明の実施形態によれば、溶融塩中の脱水添加剤の濃度によって、生成する粒子の大きさの制御が可能である。また溶融塩の組成を変化させることでも、ナノ粒子の形状を制御することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の一般式Aで示されるナノ複酸化物は、Aはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属であり、具体的には、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの一種もしくは二種以上であり、Mは遷移金属であり、具体的にはチタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム、ゲルマニウム、砒素、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、カドミニウム、インジウム、錫、タンタル、タングステンの一種もしくは二種以上であり、Oは酸素、xyzは、各元素の原子価により決定される整数である。
本発明において、乾燥工程としては、加熱による乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気、乾燥剤の添加を利用できる。乾燥剤としては、例えば酸化物や過酸化物などの塩の物理的および化学的な脱水作用のある添加剤を利用できる。これらの乾燥工程を行うことで、溶融塩中の酸化物イオン濃度が高まり、溶融塩の塩基性が強くなる。
溶融塩とは、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などの低温において固体の塩を、融点以上に加熱することで融解させた液体状態のものである。溶融塩の融点は、複数種の塩を適切に混合して共晶組成とすることで、それぞれの単体よりも下げることができる。溶融塩は塩の成分であるイオンが完全に解離した状態で存在しており、様々なイオンを溶解させることができる。また溶融塩は液相であり、溶解したイオンはイオンレベルで完全に混合されて存在している。溶融塩では、化学熱力学的平衡で安定な物質が形成しやすいという特性がある。
溶融塩中での反応を利用した材料合成はこれまでにも行われているが、本発明では塩に含まれる水分を、真空乾燥工程や脱水作用のある添加剤を用いて、十分に乾燥した溶融塩を用いることで、ナノ粒子を合成できることを可能にした。さらに溶融塩中の脱水添加剤の濃度によって、粒子の大きさの制御を可能にした。溶融塩の組成を変化させることで、ナノ粒子の形状の制御を可能にした。
【0010】
本発明の溶融塩法によるナノ粒子の合成を示す合成手順図を図1に示す。
溶融塩合成に使用する塩は、合成する物質が化学平衡論的に安定となり、かつ反応温度において融解する組成とする。また合成する物質の結晶成長が起こる温度よりも低い温度に融点をもつ溶融塩を反応浴として用いるとさらによい。
塩と遷移金属原料とアルカリ金属原料もしくはアルカリ土類金属原料を混合する。
本発明において用いるアルカリ金属原料としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどアルカリ金属をカチオンとする水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩などの酸素酸塩、および塩化物などのハロゲン化物、およびアルカリ金属の過酸化物、酸化物、等を挙げることができ、好ましくは、水酸化リチウム、硝酸リチウム、過酸化リチウム、水酸化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過酸化ナトリウム、水酸化カリウム、硝酸カリウム、過酸化カリウムを挙げることができる。
また、本発明において用いるアルカリ土類金属原料としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属をカチオンとする水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩などの酸素酸塩、および塩化物などのハロゲン化物、およびアルカリ土類金属の過酸化物、酸化物、等を挙げることができ、好ましくは、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硝酸カルシウム、過酸化カルシウム、水酸化バリウム、硝酸バリウム、過酸化バリウムを挙げることができる。

さらに、本発明において用いる遷移金属原料としては、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム、ゲルマニウム、砒素、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、カドミニウム、インジウム、錫、タンタル、タングステン、など遷移金属の水酸化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩などの酸素酸塩、および塩化物などのハロゲン化物、および遷移金属の金属、過酸化物、酸化物、等を挙げることができ、好ましくは、硝酸マンガン、水酸化マンガン、塩化マンガン、マンガン酸化物、金属マンガン、硝酸コバルト、水酸化コバルト、塩化コバルト、コバルト酸化物、金属コバルト、硝酸鉄、水酸化鉄、塩化鉄、鉄酸化物、金属鉄、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、塩化ニッケル、ニッケル酸化物、金属ニッケル、硝酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、アルミニウム酸化物、金属アルミニウム、を挙げることができる。
【0011】
本発明において、反応物および塩について、溶融塩合成を行う前に加熱乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気などのいずれかもしくは複数の乾燥工程を行う。乾燥工程を行うことで、塩に含まれる水分を物理的もしくは化学的に脱水することは、溶融塩合成工程における溶融塩中の酸化物イオン濃度を高めることになる。
乾燥工程および混合工程の順序の前後はどちらでもよい。
混合工程および乾燥工程を行った混合試薬を溶融塩の融点以上に加熱して、溶融塩合成を行う。溶融塩合成を行う温度は、溶融塩浴中で合成する物質が化学平衡論的に安定な温度とする。また溶融塩合成における反応温度は、合成する物質の結晶成長が起こる温度よりも低い温度で行うとさらによい。
溶融塩合成を行った後に、試料を室温に冷却する。このとき生成物は塩と混合した状態で回収される。この混合物をイオン交換水中で攪拌することで、水溶性の塩は溶解する。溶液と生成物をろ過や遠心分離により分離することで、生成物を回収できる。
回収した生成物を乾燥させることで、ナノ粒子の粉末を得ることができる。
【0012】
乾燥添加剤を使用して溶融塩の乾燥を行う工程を含む場合の本発明による溶融塩法によるナノ粒子合成手順を図2に示す。塩に予め乾燥添加剤を混合しても良い。乾燥添加剤としては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類の酸化物や過酸化物が挙げられる。例えば、過酸化リチウムLi2O2では、溶融塩中に存在する水分子、もしくは空気中から化学的に溶解した水分と反応して水酸化リチウムを生成することで、乾燥添加剤として作用する。
【化1】

また酸化物や過酸化物の添加は、溶融塩の塩基性を高めることになる。溶融塩の塩基性の指標は酸化物イオン濃度で表される。そして溶融塩中では、以下の式に示す酸化物イオンと水の平衡関係がある。
【化2】

すなわち溶融塩において脱水工程を行うことは、上の平衡式で平衡を右に偏らせることになり、溶融塩中の酸化物イオン濃度を増大させることと同義である。溶融塩中の酸化物イオン濃度を高める方法としては、塩に酸化物や過酸化物を添加することでも達成される。
溶融塩中での複酸化物の合成反応には、溶融塩の塩基性が強く影響する。複酸化物の合成反応は、溶融塩の酸化物イオン濃度が高く、塩基性が強いすることで反応速度が向上し、より小さい粒子径のナノ粒子が生成しやすい環境となる。すなわち、乾燥の加減や乾燥剤の添加量を調整することで、溶融塩中の酸化物イオン濃度を調節し、合成される物質の粒子径の制御が可能となる。

溶融塩の再利用工程を含む本発明による溶融塩法によるナノ粒子合成手順を図3に示す。溶融塩合成の後に発生する塩を溶解させた水溶液を蒸発乾燥させることで、塩を回収することができる。この塩は溶融塩合成に再度利用でき、また蒸発した水蒸気は冷却し水として回収することで、塩の水洗工程で利用できる。溶融塩の再利用工程を行うことで、廃棄物の発生しないナノ粒子の合成経路となり、環境への負荷が少ない。
また、本発明においては、前記の溶融塩合成に用いる溶融塩浴として、
一般式(Am+(Bn−
(式中のAm+はアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属のカチオンであり、具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムである。mはカチオンの価数である。Bn−はアニオンであり、水酸化物イオン、硝酸イオン、亜硝酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、燐酸塩イオン、チタン酸イオン、バナジウム酸イオン、クロム酸イオン、マンガン酸イオン、鉄酸イオン、コバルト酸イオン、ニッケル酸イオン、銅、アルミニウム酸イオン、ゲルマニウム酸イオン、砒素酸イオン、イットリウム酸イオン、ジルコニウム酸イオン、モリブデン酸イオン、カドミニウム酸イオン、インジウム酸イオン、錫酸イオン、タンタル酸イオン、タングステン酸イオン、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンに属し、nはアニオンの価数である。)で表される塩の1種もしくは2種以上を用いることができる。
【実施例1】
【0013】
本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
本発明の溶融塩を利用したナノ粒子の合成法によって、コバルト酸リチウムLiCoO2のナノ粒子を合成したときの実施例を示す。実施の手順を図4に示す。
0.10molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(4.2g)と0.10molの硝酸リチウムLiNO3(6.9g)を混合した。さらに、0.010molの過酸化リチウムLi2O2(0.46g)を添加して混合した。ここに0.010molの無水水酸化コバルトCo(OH)2(0.92g)を加えて、混合した。
混合試薬をムライト製るつぼ(30mL)に容れて、真空乾燥器内で120℃の加熱真空下で12時間乾燥した。このとき、試薬に含まれる水分や結晶水が水蒸気として発生した。
【化3】

また水酸化コバルトCo(OH)2は酸化コバルトCoOに脱水された。
【化4】

その後、乾燥器を大気圧に戻し、試料の入ったるつぼを取り出し、直ちに300℃に熱せられた電気炉に移した。電気炉内は空気で満たされた300℃の電気炉内で、試料を3時間、加熱した。このとき塩は融解して、溶融塩の状態であった。
過酸化リチウムLi2O2は、溶融塩中に存在する水分子、もしくは空気中から化学的に溶解した水分と反応して水酸化リチウムを生成する。
【化5】

このように過酸化リチウムLi2O2は溶融塩中で乾燥添加剤として作用した。過酸化リチウムLi2O2を添加することは、溶融塩中の酸化物イオンO2-の濃度を高める。
【化6】

溶融塩の酸化物イオンO2-の濃度を高めることで、溶融塩の塩基性が高まると、コバルト酸リチウムLiCoO2生成反応の速度は増大する。生成物の反応速度の向上は、生成物粒子の微細化を促進する結果となる。
反応時間が終了した後、電気炉からるつぼを取り出すと、溶融塩に黒色の生成物が浮遊していた。溶融塩中では下に示す反応式にしたがって、酸化コバルトCoOが過酸化リチウムLi2O2もしくは水酸化リチウムLiOHと酸素O2と反応することで生じ、コバルト酸リチウムLiCoO2が生成した。
【化7】

試料を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。
塩が十分に冷えて、固体化した後、試料を容器ごと、約200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、塩を水に溶解した。ここで生成物は水に不溶性であるため、水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液をろ過すると、ろ紙上の黒色固体のろ物と透明なろ液が得られた。黒色固体を120℃で12時間程度、真空乾燥し、得られた固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕すると、黒色粉末体が得られた。
ろ液を加熱して水分を蒸発することで、塩が回収できた。
実施例1で得られたコバルト酸リチウムLiCoO2のX線回折の結果を図5に示す。ピークより生成物がコバルト酸リチウムLiCoO2であることが示された。また、コバルト酸リチウム以外の成分は観測されなかった。X線回折のピークの半地幅からSherrerの式を用いて、結晶子の大きさを計算すると、柱の高さが5nmで底面の長さが11nmであり、平均径は10nmであった。
実施例1で得られたコバルト酸リチウムLiCoO2の透過型電子顕微鏡による写真を図6に示す。得られたコバルト酸リチウムLiCoO2は、柱状であり柱の高さが4 nmから6 nmで底面の長さが10 nmから20nmの粒子が存在していた。
これらの結果から、本手法を用いることでコバルト酸リチウムLiCoO2のナノ粒子を合成できた。
添加する過酸化リチウムの分量を変えることで、溶融塩中の酸化物イオン濃度を調整でき、生成物の生成反応速度を制御できる。反応速度は生成する粒子の大きさに強く影響を及ぼす。そこで過酸化リチウムLi2O2の濃度を変えて、コバルト酸リチウムLiCoO2を合成したときの、粒子の大きさを図7に示す。過酸化リチウムLi2O2の濃度を高めることで、より微細なコバルト酸リチウムLiCoO2のナノ結晶を合成することができた。このように溶融塩中の酸化物イオン濃度を調節することによって、ナノ粒子の粒径を制御できた。
融点が300℃よりも低い溶融塩を使用した溶融塩法によるコバルト酸リチウムの合成としてはHong,Y. S.らによって、報告されている(非特許文献6)。水酸化リチウムと硝酸リチウムの混合溶融塩浴中において、塩化コバルト六水和物を出発原料として、コバルト酸リチウムLiCoO2を280℃で合成したと報告している。この方法では、300℃付近の比較的低温で合成しているものの、加熱乾燥、真空乾燥、や乾燥添加剤による乾燥工程は行っていなかった。合成されたコバルト酸リチウムLiCoO2の粒子径は200nm程度であった。
溶融塩法において試薬の加熱乾燥を行ったコバルト酸リチウムの合成例としてはHan, C. H.らによって報告されている(非特許文献7)。溶融塩としては塩化リチウムと炭酸リチウムの混合塩を用いた。この溶融塩の融点は506℃と比較的高く、反応温度は600℃以上で行ったため、結晶成長が進行し、合成されたコバルト酸リチウムLiCoO2の平均粒子径は10μm程度であった。
本発明の提供する溶融塩法によるナノ粒子の合成をコバルト酸リチウムLiCoO2に適用して、溶融塩合成の前段階で加熱真空乾燥工程を行うことにより、のナノ粒子を得ることができた。さらに乾燥添加剤として過酸化リチウムLi2O2を溶融塩に加えることで、粒子径をさらに小さくするができた。また過酸化リチウムLi2O2の濃度で粒子の大きさを制御できた。
【実施例2】
【0014】
本発明の溶融塩を利用したナノ粒子の合成法によって、コバルト酸ナトリウムNaCoO2のナノ粒子を合成したときの実施例を示す。実施の手順を図8に示す。
0.10molの水酸化ナトリウムNaOH (4.0 g)と0.10molの硝酸ナトリウムNaNO3(8.5 g)を混合した。ここに0.010 molの無水水酸化コバルトCo(OH)2(0.92g)を加えて、さらに混合した。
混合試薬をムライト製るつぼ(30 mL)に容れて、120℃の電気炉内で12時間加熱乾燥した。
その後、電気炉の温度を300℃に設定して試料を3時間、加熱した。このとき塩は融解して溶融塩となり、黒色の生成物が浮遊していた。溶融塩中では下に示す反応式にしたがって、コバルト酸ナトリウムNaCoO2が生成した。
【化8】

試料を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。
塩が十分に冷えて、固体化した後、試料を容器ごと、約200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、塩を水に溶解した。ここで生成物のコバルト酸ナトリウムNaCoO2は水に不溶性であるため、水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液をろ過すると、ろ紙上の黒色固体のろ物と透明なろ液が得られた。黒色固体を120℃で12時間程度、真空乾燥し、得られた固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕すると、黒色粉末体が得られた。
実施例2で得られたコバルト酸ナトリウムNaCoO2のX線回折の結果を図9に示す。ピークより生成物がコバルト酸ナトリウムNaCoO2であることが示された。また、コバルト酸ナトリウム以外の成分は観測されなかった。X線回折のピークの半地幅からSherrerの式を用いて、結晶子の大きさを計算すると、柱の高さが5nmで底面の長さが11nmであり、平均径は9nmであった。
実施例2で得られたコバルト酸ナトリウムNaCoO2の電子線顕微鏡(TEM)写真を図10に示す。10nmから30nm程度の粒子が生成していることが確認できた。
これらの結果から、本手法を用いることでコバルト酸ナトリウムNaCoO2のナノ粒子を合成できた。
【実施例3】
【0015】
本発明の溶融塩を利用したナノ粒子の合成法によって、マンガン酸リチウムLiMn2O4のナノ粒子を合成したときの実施例を示す。実施の手順を図11に示す。
0.10 molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(4.2g)と0.10 molの硝酸リチウムLiNO3(6.9g)を混合した。さらに、0.010molの過酸化リチウムLi2O2(0.46g)を添加して混合した。ここに0.010molの二酸化マンガンMnO (0.87g)を加えて、混合した。
混合試薬をムライト製るつぼ(30mL)に容れて、真空乾燥器内で120℃の加熱真空下で12時間乾燥した。
その後、乾燥器を大気圧に戻し、試料の入ったるつぼを取り出し、直ちに300℃に熱せられた電気炉に移した。空気で満たされた300℃の電気炉内で、試料を3時間、加熱した。このとき塩は融解して、溶融塩となり、黒色の生成物が浮遊していた。溶融塩中では下に示す反応式にしたがって、マンガン酸リチウムLiMn2O4が生成した。
【化9】

試料を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。
塩が十分に冷えて、固体化した後、試料を容器ごと、約200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、塩を水に溶解した。ここで生成物は水に不溶性であるため、水は黒色の懸濁液となった。黒色の懸濁液をろ過すると、ろ紙上の黒色固体のろ物と透明なろ液が得られた。黒色固体を120℃で12時間程度、真空乾燥し、得られた固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕すると、黒色粉末体が得られた。
実施例3で得られたマンガン酸リチウムLiMn2O4のX線回折の結果を図12に示す。ピークより生成物がマンガン酸リチウムLiMn2O4であることが示された。X線回折のピークの半地幅からSherrerの式を用いて、結晶子の大きさを計算すると、平均径は8 nmであった。
実施例2で得られたマンガン酸リチウムLiMn2O4の電子線顕微鏡(TEM)写真を図13に示す。10nm程度の粒子が生成していることが確認できた。
これらの結果から、本手法を用いることでマンガン酸リチウムLiMn2O4のナノ粒子を合成できた。
マンガン酸リチウムの溶融塩法による合成としては、Tang, Weiping らが報告している(非特許文献8、9)。融点610℃の塩化リチウムの溶融塩浴中で硝酸マンガンを出発原料として、粒子径が1μm程度のスピネル型マンガン酸リチウムLiMn2O4を合成した。この合成においては120℃で4時間の加熱乾燥工程を行っているものの、反応温度650℃以上と高いためが比較的大きな結晶が得られている。
本発明の提供する溶融塩法によるナノ粒子の合成をマンガン酸リチウムLiMn2O4の製造に適用して、溶融塩合成の前段階で加熱真空乾燥工程を行うとともに、乾燥添加剤として過酸化リチウムLi2O2を溶融塩に加えることで、ナノ粒子を得ることができた。
【実施例4】
【0016】
本発明の溶融塩を利用したナノ粒子の合成法によって、鉄酸リチウムLiFeO2のナノ粒子を合成したときの実施例を示す。実施の手順を図14に示す。
0.10 molの水酸化リチウム一水和物LiOH・H2O(4.2g)と0.10 molの硝酸リチウムLiNO3(6.9g)を混合した。さらに、0.010molの過酸化リチウムLi2O2(0.46g)を添加して混合した。ここに0.010molの塩化鉄(II)四水和物FeCl2・4H2O (1.6g)を加えて、混合した。
混合試薬をムライト製るつぼ(30mL)に容れて、真空乾燥器内で120℃の加熱真空下で12時間乾燥した。
その後、乾燥器を大気圧に戻し、試料の入ったるつぼを取り出し、直ちに300℃に熱せられた電気炉に移した。空気で満たされた300℃の電気炉内で、試料を3時間、加熱した。このとき塩は融解して、溶融塩となり、赤褐色の生成物が浮遊していた。溶融塩中では下に示す反応式にしたがって、α鉄酸リチウムα-LiFeO2が生成した。
【化10】

試料を電気炉から取り出して、室温にて冷却した。
塩が十分に冷えて、固体化した後、試料を容器ごと、約200mLのイオン交換水に浸し、攪拌することで、塩を水に溶解した。ここで生成物は水に不溶性であるため、水は赤褐色の懸濁液となった。黒色の懸濁液をろ過すると、ろ紙上の黒色固体のろ物と透明なろ液が得られた。赤褐色固体を120℃で12時間程度、真空乾燥し、得られた固体を、乳鉢と乳棒を用いて粉砕すると、赤褐色粉末体が得られた。
実施例4で得られたα鉄酸リチウムα-LiFeO2のX線回折の結果を図15に示す。ピークより生成物がα鉄酸リチウムα-LiFeO2であることが示された。X線回折のピークの半地幅からSherrerの式を用いて、結晶子の大きさを計算すると、平均径は10 nmであった。
実施例2で得られたマンガン酸リチウムLiMn2O4の電子線顕微鏡(TEM)写真を図16に示す。3nmから10nm程度の粒子が生成していることが確認できた。
これらの結果から、本手法を用いることでα鉄酸リチウムα-LiFeO2のナノ粒子を合成できた。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明に係る溶融塩法によるナノ粒子の合成は、多元素を含む複酸化物のナノ粒子を量産合成に適用することが可能である。
本発明によれば、機能性ナノ材料の合成に際して、単純な単一工程であること、比較的低い反応温度において短時間でナノ材料を合成すること、ナノ材料の形態制御が可能であること、様々な機能材料のナノ粒子を合成できること、溶融塩の再利用が可能であるため廃棄物を発生しないナノ材料の合成法であること、汎用的で安価な原料が利用できること、反応に特殊な装置を必要としないことを達成することが可能となり、その応用範囲は極めて広範囲である。
複酸化物には電池の電極材料、化学反応の触媒材料、熱電素子材料、磁性材料、半導体材料、光学素子材料で利用される機能材料が含まれており、本発明によればこれらのナノ粒子の合成が可能である。例えば、実施例に示したコバルト酸リチウム、コバルト酸マンガン、コバルト酸鉄はリチウム二次電池の正極材料として用いられている。またコバルト酸ナトリウムは熱電素子材料である。微細なナノ粒子とすることで、これまでの技術では達成できなかった特性を示したり、新たな機能を創成することが可能になる。
本発明に本発明に係る溶融塩法によるナノ粒子の製造方法は、機能性ナノ材料を量産に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るナノ粒子の合成手順の好適な実施形態の一例を示す図。
【図2】本発明に係るナノ粒子の合成手順で乾燥添加剤を使用した場合の好適な実施形態を示す図。
【図3】本発明に係る溶融塩の再利用工程を含むナノ粒子の合成手順の好適な実施形態を示す図。
【図4】本発明の第1実施例に係るLiCoO2ナノ粒子の合成手順の一例。
【図5】本発明の第1実施例によって合成されたLiCoO2ナノ粒子のX線回折の結果を示す線図。
【図6】本発明の第1実施例によって合成されたLiCoO2ナノ粒子の電子顕微鏡による観察写真。
【図7】本発明の第1実施例によって合成されたコバルト酸リチウムLiCoO2の粒子径への溶融塩浴中の過酸化リチウムLi2O2濃度の影響を示す線図。
【図8】本発明の第2実施例に係るNaCoO2ナノ粒子の合成手順。
【図9】本発明の第2実施例によって合成されたNaCoO2ナノ粒子のX線回折の結果を示す線図。
【図10】本発明の第2実施例によって合成されたNaCoO2ナノ粒子の電子顕微鏡による観察写真。
【図11】本発明の第3実施例に係るLiMn2O4ナノ粒子の合成手順の図。
【図12】本発明の第3実施例によって合成されたLiMn2O4ナノ粒子のX線回折の結果を示す線図。
【図13】本発明の第3実施例によって合成されたLiMn2O4ナノ粒子の電子顕微鏡による観察写真。
【図14】本発明の第4実施例に係るLiFeO2ナノ粒子の合成手順の図。
【図15】本発明の第4実施例によって合成されたLiFeO2ナノ粒子のX線回折の結果を示す線図。
【図16】本発明の第4実施例によって合成されたLiFeO2ナノ粒子の電子顕微鏡による観察写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A(式中、Aはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属、Mは遷移金属、Oは酸素であり、xyzは、各元素の原子価により決定される整数である。)で表わされるナノ複酸化物を得る溶融塩合成法において、塩および原料を加熱乾燥、真空乾燥、乾燥ガスの通気、乾燥試薬の添加のいずれかもしくは複数の工程を含む乾燥工程を行ったのちに、溶融塩中でA複酸化物を合成することを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項2】
乾燥剤として過酸化物若しくは酸化物を添加することを特徴とする前記の乾燥工程として、請求項1に記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項3】
前記の溶融塩合成において、塩の乾燥工程を行うことや、酸化物や過酸化物の添加することで、溶融塩の酸化物イオン濃度を大きくして、塩基性を強めた溶融塩を用いることを特徴とするナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項4】
前記の溶融塩合成に用いる溶融塩浴として、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属をカチオンとする水酸化物、硝酸塩、亜硝酸、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩から選ばれる酸素酸塩およびフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物から選ばれるハロゲン化物の一種または二種以上の塩を成分として含む溶融塩を用いることを特徴とする請求項1乃至3に記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項5】
アルカリ金属が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムからなる群れより選ばれる1種であり、また、アルカリ土類金属原料が、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムからなる群れより選ばれる1種であり、遷移金属原料が、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、アルミニウム、ゲルマニウム、砒素、イットリウム、ジルコニウム、モリブデン、カドミニウム、インジウム、錫、タンタル、タングステンからなる群れより選ばれる1種である請求項4に記載の溶融塩反応によるナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項6】
前記の溶融塩合成においては、反応温度を500℃以下とすることを特徴とする請求項1乃至5に記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項7】
前記の乾燥工程において、添加する乾燥剤の分量を調節することによって、合成される結晶粒子の形態をナノメートル程度の大きさで制御することを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項8】
溶融塩の成分や濃度の調節することや反応の雰囲気ガスの種類や濃度を調節することによって、合成される結晶粒子の形態をナノメートル程度の大きさで制御することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項9】
溶融塩反応で得られたナノ材料から塩の成分を水洗することで分離し、その塩を含む水溶液に蒸発乾燥処理を施すことで、塩と水を再利用する工程を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のナノ複酸化物Aの製造方法。
【請求項10】
複酸化物Aにおける遷移金属Mの前駆体として、遷移金属Mの水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、燐酸塩、酢酸塩などの酸素酸塩およびハロゲン化物および酸化物、もしくは金属からなる群から選ばれた一種または二種以上を成分として含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の溶融塩反応によるナノ複酸化物Aの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2008−105912(P2008−105912A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292243(P2006−292243)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)/ナノテク・先端部材実用化研究開発/低抵抗・高イオン拡散性ナノポーラス電極による高出力型2次電池の研究開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】