説明

ナプロキセンのニトロキシアルキルエステル

【課題】少なくとも97%、好ましくは98%以上の、より高い鏡像体過剰率を有するナプロキセンのニトロキシアルキルエステルを得ることを課題とする
【解決手段】式A−Hal(ここで、Aは酸のアシル残基である)の2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のハライドを、脂肪族のニトロキシアルカノールHO−Y−ONO2(ここで、YはC1〜C20のアルキレンまたは炭素原子3〜8のシクロアルキレン、または定義されたようなシクロアルキレンを含む定義されたようなアルキレンである)と、不活性な有機溶媒中で、無機塩基の存在下に反応させることを特徴とする、97%以上の、好ましくは98%以上の鏡像体過剰率を有する、2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のニトロキシアルキルエステルにより上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、97%以上の、好ましくは98%以上の(S)型の鏡像体過剰率を有する、2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸(ナプロキセン)のニトロキシアルキルエステルを、75〜80%より高い、好ましくは85%より高い高収率で、製造するための新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記化合物の薬理学的見地から、鏡像異性体の(S)型が活性型であることは、先行技術において周知である。
先行技術において、2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のニトロキシアルキルエステルの合成法は公知である。特許出願WO98/25918号には、飽和のC3〜C8のシクロアルキル基をアルキル鎖中に含むナプロキセンのニトロキシアルキルエステルの合成法が記載されている。当該方法では、酸またはその官能性誘導体の一つ、例えば、クロライドまたは無水物を、上記で定義したようなシクロアルキル基を含むニトロキシアルカノールと、不活性な有機溶媒中で反応させている。この反応は、例えば、4−ジメチルアミノピリジン、モルホリン、N−メチルモルホリンまたはトリエチルアミンのような、有機窒素化塩基の存在下に起こる。本出願人により行われた試験では、先行技術のこの方法では、55〜80%の範囲の鏡像体過剰率を有するナプロキセンのニトロキシアルキルエステルを得られず、特定の有機塩基、4―N,N−ジメチルアミノピリジンでのみ、94%が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許出願WO98/25918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それゆえ、少なくとも97%、好ましくは98%以上の、より高い鏡像体過剰率を有するナプロキセンのニトロキシアルキルエステルを得る必要性が感じられていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、式 :
A−Hal
(式中、Aは前記の酸のアシル残基である)
の2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のハライドを、脂肪族のニトロキシアルカノール:
HO−Y−ONO2
(式中、Yは以下の意味の一つを有する:
− 直鎖状または任意に分枝したC1〜C20、好ましくはC2〜C5のアルキレン;
− 3〜8の炭素原子、好ましくは5〜7の炭素原子の環からなるシクロアルキレンであり、該シクロアルキレンは、上記で定義したような1または2のアルキレンで、および/またはアルキレンについて上記で定義したような炭素原子数を鎖中に有する1以上のアルキル基で任意に置換され得る;
− 5または6の炭素原子を有する環をもった芳香族基であり、該芳香族基は、上記で定義したような1または2のアルキレンで、および/またはアルキレンについて上記で定義したような炭素原子数を鎖中に有する1以上のアルキル基で、または−COOH基で任意に置換され得る;
【化1】

Tは上記で定義したようなアルキレンであり、pは0または1に等しい整数であり、アルキレンは上記の意味を有し、nf'は1〜6の整数、好ましくは1〜4の整数である);
と、不活性な有機溶媒中で、無機塩基の存在下に反応させて、式:
A−O−Y−ONO2
(式中、AおよびYは上記で定義したとおりである)
の、対応する2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のニトロキシアルキルエステルを得ることを特徴とする、97%以上の、好ましくは98%以上の鏡像体過剰率を有する、2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のニトロキシアルキルエステルを得る方法である。
【0006】
Yは上記の基の二つ以上の組み合わせでもあり得る。
脂肪族のニトロキシアルコールの量は、酸ハライドの量に対してモル基準で1〜2の範囲内、好ましくは1.2〜1.5の範囲内である。
無機塩基では、アルカリおよびアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩、シリケート、アルミノシリケート、あるいはIIB族に属する金属、好ましくは亜鉛、またはIIIaもしくはIVa族に属する金属、好ましくはスズの水酸化物、酸化物、炭酸塩および炭酸水素塩が意味される。
無機塩基の量は、酸ハライドの量に対して、モル比で通常1〜2の範囲内、好ましくは1.2〜1.5の範囲内である。
【0007】
本発明による不活性有機溶媒では、例えばトルエンおよびキシレンのような芳香族炭化水素、例えば塩化メチレン、クロロベンゼンのような塩素化または弗素化された有機溶媒、例えば酢酸エチルおよび酢酸ブチルのような、例えばC1〜C5アルコールとのC1〜C4酸エステルのような脂肪族エステルが意味される。
溶媒の量は限定的ではなく、一般に酸ハライドの重量に基づいて1〜10倍量の溶媒が用いられ、好ましくは2〜5倍量である。
【0008】
この反応は、−20℃〜50℃の範囲内、好ましくは、0℃〜20℃の範囲内の温度で行われる。
2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸のニトロキシアルキルエステルは、反応の終了後、有機相に水を添加した後、相を分離し、溶媒を蒸発させて、回収される。もし必要であれば、生成物の力価を上げるために、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって、さらなる精製を行うことができる。
代替として、該化合物は適当な溶媒からの結晶化によっても精製することができる。
脂肪族のニトロキシアルコールは、先行技術の公知の方法に従って製造され得る。例えば、Gazzetta Chim. It. 1987, 117, 173およびWO 98/25918を参照されたい。
【0009】
本出願人は、驚くべきことに、無機塩基を用いることによって、上記で見られたように有機塩基を用いる先行技術の方法に比べて、上記のように高い収率で、ナプロキセンのニトロキシアルキルエステルの鏡像体過剰率を改善できることを見出した。
【0010】
以下の実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0011】
実施例1(比較)
WO98/25918による2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸の4−ニトロキシアルキルエステルの製造
2-(S)-(6-メトキシ-2-ナフチル)-プロピオン酸(0.32 g, 1.4ミリモル)、4-N,N-ジメチルアミノピリジン(16 mg, 0.13ミリモル)、4-ニトロキシブタン-1-オール(0.34 g, 2.5ミリモル)のジクロロメタン(6 m1)中混合物を、N,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(0.29 g, 1.4ミリモル)のジクロロメタン(6 m1)溶液に、0℃〜5℃の範囲内の温度で、撹拌下に加える。混合物を同温度で撹拌しながら3時間放置し、次いで、真空下に溶媒を蒸発させて乾燥する。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒ジクロロメタン)により精製して、2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸の4−ニトロキシブチルエステル(0.41 g, 1.19ミリモル, 収率85 %)を油状の形態で得る。HPLC純度:98 %。
1H NMR(CDCl3) δ(ppm): 1.59 (d, 3H, J=7.5 Hz); 1.65 (m, 4H); 3.85 (q, 1H, J=7.5 Hz); 3.91 (m, 2H); 4.10 (m, 2H); 7.1-7.7 (m, 芳香族, 8H).
鏡像体過剰率: 94 %.
【0012】
実施例2
0℃〜5℃に冷却した4-ニトロキシブタン-1-オール(2.0 g; 14.8 ミリモル)のジクロロメタン(20 m1)溶液に、炭酸カリウム(3.21 g, 23.2 ミリモル)を撹拌下に加える。
この混合物に、2-(S)-(6-メトキシ-2-ナフチル)-プロピオン酸クロライド(3.86 g, 15.5 ミリモル;鏡像体過剰率98 %)のジクロロメタン(22 m1)溶液を、温度を10℃〜15℃の範囲に維持しながら加える。添加が終わったとき、温度が上昇し、15℃〜20℃の範囲に10時間維持し、次いで溶液をろ過する。溶媒を真空下に蒸発させる。残渣をシリカゲルカラムクロマトフラフィー(溶出溶媒ジクロロメタン)で精製して、2-(S)-(6-メトキシ-2-ナフチル)-プロピオン酸の4-ニトロキシブチルエステル(4.4 g, 12.6 ミリモル, 収率 85 %)を油状の形態で得る。HPLC純度: 99 %
1H-NMR(CDC13)δ(ppm): 1.59 (d, 3H, J=7.5 Hz); 1.65 (m, 4H); 3.85 (q, 1H, J=7.5 Hz); 3.91 (m, 2H); 4.10 (m, 2H); 7.1-7.7 (m, 芳香族, 8H).
鏡像体過剰率: 98 %.
【0013】
実施例3
溶媒としてトルエンを用いて実施例2を繰り返す。ニトロキシエステルの収率は76 %であり、(HPLC)純度>99 %である。鏡像体過剰率は98 %である。
実施例4
実施例2を繰り返すが、炭酸カルシウムを塩基として用いる。ニトロキシエステル13.3ミリモルに等しい4.6 g (収率90 %)を得る。HPLC純度>99 %、鏡像体過剰率98 %である。
実施例5
実施例2を繰り返すが、カルシウムアルミノシリケートを塩基として用いる。ニトロキシエステル13.3ミリモルに等しい4.6 g (収率90 %)を得る。HPLC純度>99 %、鏡像体過剰率98 %である。
【0014】
実施例6
0℃〜5℃の範囲の温度に冷却した4-ニトロキシブタン-1-オール(2.0 g; 14.8ミリモル)のジクロロメタン(20 m1)溶液に、炭酸カリウム(3.21 g, 23.2ミリモル)を撹拌下に加える。
この混合物に、2-(S)-(6-メトキシ-2-ナフチル)-プロピオン酸クロライド(3.86 g, 15.5 ミリモル;鏡像体過剰率98 %)のジクロロメタン(22 m1)溶液を、温度を10℃〜15℃の範囲に維持しながら加える。添加が終わったとき、温度が上昇し、15℃〜20℃の範囲に10時間維持し、次いで溶液をろ過する。水(1 m1)およびN,N-ジメチルホルムアミド(2 m1)を溶液に加え、室温で3時間撹拌しながら放置する。最後に、有機相を分離し、水洗し、炭酸カリウムのパネルを通してろ過する。溶媒を真空下に蒸発させて、エステルの11.8ミリモルに等しい4.1 g (収率80 %)を油状の形態で得る。HPLC純度>99 %、鏡像体過剰率は98 %である。
【0015】
実施例7(比較)
実施例2を繰り返すが、トリエチルアミンを塩基として用いる。反応後得られた混合物を、鏡像体過剰率を評価するために分析したところ、80 %に等しい結果となった。
実施例8(比較)
実施例2を繰り返すが、ジイソプロピルエチルアミンを塩基として用いる。反応後得られた混合物を、鏡像体過剰率を評価するために分析したところ、76 %に等しい結果となった。
実施例9(比較)
実施例2を繰り返すが、N-メチルモルホリンを塩基として用いる。反応後得られた混合物を、鏡像体過剰率を評価するために分析したところ、56 %に等しい結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
97%以上の(S)型の鏡像体過剰率を有する2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸の4−ニトロキシブチルエステル。
【請求項2】
98%以上の(S)型の鏡像体過剰率を有する 2−(S)−(6−メトキシ−2−ナフチル)−プロピオン酸の4−ニトロキシブチルエステル。

【公開番号】特開2011−42690(P2011−42690A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266860(P2010−266860)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【分割の表示】特願2001−515282(P2001−515282)の分割
【原出願日】平成12年7月27日(2000.7.27)
【出願人】(398034032)ニコックス エス エイ (36)
【住所又は居所原語表記】Taissounieres HB4,1681 route des Dolines−BP313,06560 Sophia Antipolis−Valbonne,France
【Fターム(参考)】