説明

ニアゼロ位相差のフィルム

すべての光入射角(633ナノメートルの波長における入射光を使用して測定した)で、ニアゼロ位相差を有する水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーを含む、画像表示デバイス又は装置(たとえば、LCDデバイス又は偏光板アセンブリ)に適した、又はこれに使用する、又はこれの構成要素としての光学フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年5月7日に出願された「ニアゼロ位相差のフィルム(NEAR−ZERO OPTICAL RETARDATION FILM)」という表題の、米国仮特許出願第61/051,160号の優先権を主張する通常出願であり、この教示内容は、下記にすべてを転載したかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般にポリマーフィルム、特に水素化ブロックコポリマー、好ましくは実質的に水素化したブロックコポリマー、及びさらに好ましくは十分に水素化したブロックコポリマーを含むポリマーフィルムに関し、水素化前のブロックコポリマーは、ビニル芳香族モノマー及びジエン(たとえば1,3−ブタジエン、イソプレン又はそれらの混合物などの共役ジエン)のコポリマーである。本発明は、特に、それぞれ、R及びRthと表記されるフィルム面及び厚み方向の両方において位相差が非常に低い(約ゼロナノメートル(nm))フィルムに関する。本発明は、延伸(配向)又は未延伸(未配向)のいずれであるかにかかわらず、液晶表示(LCD)テレビジョン(TV)セットの色調改善及び視野角増大、又は他の表示装置の光学素子を含むが、それだけには限らないさまざまな最終用途におけるこのような光学フィルムの用途にも関する。
【背景技術】
【0003】
LCD TVセットの製造業者は、一般に多層の前面偏光板アセンブリ、多層の後面偏光板アセンブリ、並びにこのようなアセンブリにはさまれた液晶ガラスセル又は層を含む構造を使用している。各偏光板アセンブリは、順序通りに、かつ有効に(好ましくは物理的な、より好ましくは、物理的で層状の結合又は接着状態の)接触をして、外側の保護層又はフィルムと、一般に偏光層又はフィルム(前面偏光板アセンブリの場合の前面偏光層及び後面偏光板アセンブリの場合の後面偏光層)としてヨウ素などの二色性物質を含むポリビニルアルコール(PVA)フィルムと、内側保護層又はフィルムとを含む。「内側」及び「外側」は、液晶ガラスセル又は層に対して保護層を配向させており、内側は、液晶ガラスセル又は層の表面、好ましくは主要面、より好ましくは主平面に隣接しており、好ましくは隣接しており、かつ物理的に又は有効に接触していて、外側は前記液晶ガラスセル又は層から遠く離れて配置されている。
【0004】
多数のLCDデバイス用に、たとえば面内切替型(IPS)方式のLCD TVにおいて、LCDディスプレイ製造業者は、光入射のすべての角における位相差がゼロnmに近い、好ましくは約ゼロnmであり、最も好ましくはゼロnmに等しい内側保護層を要望している。
【0005】
トリアセチルセルロース(TAC)フィルムはニアゼロ位相差を提供する1種類の物質を構成するが、このようなフィルムには、時間とともに吸湿して寸法安定性を損なう感湿傾向がある。
【0006】
環状オレフィンのポリマー(「COP」)又はコポリマー(「COC」)は、TACフィルムより感湿性が低いが、この種のTACフィルムよりかなり高いR及びRthを有するフィルムをもたらす。たとえば、一般的なCOPフィルムのRは、5nmから10nmまでの範囲に入る。一般的なCOCフィルムは、COPフィルムよりわずかに低い位相差値を取り得るが、製造業者は、COCフィルムが偏光フィルムアセンブリの保護フィルムとしての用途には、あまりにも脆弱であると考えている。
【0007】
米国特許出願公開第2003/0031848号(サワダら)には、飽和ノルボルネン樹脂などの非結晶熱可塑性樹脂の溶融押出しにより作製された、100マイクロメートル(μm)未満の厚みを有する光学フィルムが開示されている。
【0008】
2007年11月20日に出願された米国仮特許出願第60/989154号には、複屈折が0.001から0.05までの範囲であり、波長633nmにおけるRが25nmから500nmまでの範囲であるポリマーフィルムが開示されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
いくつかの実施形態では、本発明は、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーを含む光学フィルムであり、この光学フィルムは、633nmの波長で、フィルムの主平面に対し垂直に向けた入射光を使用して測定したRが5nm未満であり、次式(((nx+ny)/2)−nz)d)によって表されるRthが10nm未満である。水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーは、好ましくは実質的に十分に水素化したビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマー、より好ましくは、十分に水素化したビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーである。あるいは、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーは、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマー、実質的に十分に水素化したビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマー、及び十分に水素化したビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーのうちの2種以上のブレンドである。
【0010】
フィルムの主平面に垂直な入射光を使用するR測定及び40度(40°)の斜光の入射角で得られた測定値からRthを算出する。その遅相軸方向又はその進相軸方向のいずれかに関してフィルムを40°に傾けることによって、斜入射光の入射角を測定する。R測定からフィルム遅相軸方向、又は進相軸方向を決定する。光学フィルムは、未延伸であってもよく(たとえば、実質的に、ほとんど機械的な配向を誘発しない方法によって調製されるように)、又は1軸、2軸又は多軸のいずれであるかにかかわらず当業者にとって公知の従来技術によって延伸してもよい。光学フィルムは、未延伸フィルムが好ましい。延伸した場合、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーの結晶化度は、好ましくは、全フィルム重量に基づいて、3重量パーセント未満である。
【0011】
光学フィルムは、IPS方式のLCD装置の内側保護層として使用することができる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明は偏光板アセンブリであり、この偏光板アセンブリはPVAフィルム層及び保護フィルム層を含み、このPVAフィルム層はその主平面の少なくとも1面に上記の光学フィルムを含む保護フィルム層を付着させてあるものである。各保護フィルムは、PVAフィルム層の主平面と有効に接触しており、好ましくは接着剤を介して接着接触している。必要に応じて、コロナ処理、又はプラズマ処理などの周知の技術によってフィルムを処理することにより接着結合を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
光学フィルムは、TACベースの光学フィルムにおいて現在使用されている任意の光添加剤(たとえば、棒状又は円板状液晶分子)も任意選択で含む。しかしながら、光学フィルムは、ニアゼロR及びRthを達成するために1つ又は複数の光添加剤を含む必要はない。
【0014】
本明細書で範囲を、2から10までの範囲というように規定する場合、範囲の両方の終点(たとえば2及び10)及び各数値はこの種の値が有理数又は無理数のいずれであるかにかかわらず、特に除外されない限り、範囲の中に含まれるものとする。
【0015】
「含んでいる(comprising)」及びその派生語は、同じことが本明細書において開示されているかどうかにかかわらず、任意の追加的な要素、工程又は手順の存在を排除するものではない。対照的に、「本質的に〜からなっている(consisting essentially of)」は、その直後の任意の記述範囲から、実施可能性に必要でない要素、工程又は手順を除いて、他の任意の要素、工程又は手順を排除する。「〜からなっている(consisting of)」は、特に詳細に描写も列挙もされていない任意の要素、工程又は手順を排除する。「又は」とは、特に指定しない限り、列挙した構成部分のそれぞれ並びに任意の組合せを指す。
【0016】
温度は、その等価な℃とともに華氏(°F)又はより一般的に単に℃のいずれかによって表してもよい。
【0017】
他に示されていない限り、又は文脈から暗黙的でない限り、又は当該技術分野において慣習的でない限り、すべての部及びパーセントは重量に基づくものとする。
【0018】
米国特許実務のために、本明細書において参照される任意の特許、特許出願又は刊行物の内容は、本明細書にその全体が参照により組み込まれ(又は、その等価な米国版が、同じように参照により組み込まれる)、特に、合成技術、(本明細書に示す任意の定義と矛盾しない程度の)定義、及び当分野における一般知識の開示内容に関して参照により組み込まれる。
【0019】
説明及び例は、どのような形であれ本発明を規定又は制限するのではなく、例示するのに役立ち、本発明のすべての可能な実施形態の網羅的な又はすべてを含んだリストを構成するというわけではない。
【0020】
本明細書で使用している「ニアゼロ位相差」とは、Rが5nm未満であり、Rthが10nm未満であることを意味する。Rは、好ましくは3nm未満、より好ましくは2nm未満、より好ましくは1nm未満、さらに好ましくは0.5nm未満である。Rthは、好ましくは5nm未満であり、より好ましくは3nm未満である。
【0021】
本明細書において記載されている光学フィルムは、好ましくは水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーを含む。水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーは、より好ましくは実質的に十分に水素化し、さらに好ましくは十分に水素化したビニル芳香族/共役ジエンポリマーである。いずれの場合においても、「水素化した」という用語は、ビニル芳香族部分及び共役ジエン部分の両方に存在する二重結合の水素化のことをいう。
【0022】
耐熱性並びに弾性率及び靱性などの機械的特性の一方又は両方の低下を受け入れることを決めるならば、好ましい水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーの全部又は一部の代わりに、十分に水素化した、ランダムなビニル芳香族/共役ジエンコポリマーを使用することができる。たとえば、100℃の最低ガラス転移温度(T)を必要とする場合、このようなTを有するランダムコポリマーの水素化前のビニル芳香族(たとえばスチレン)の含量は、水素化前のランダムコポリマーの総重量に基づいて、代表的に85重量パーセント以上である。当業者は、通常、この種のランダムコポリマーから調製されたフィルムが、フィルムの切断及び取り扱い(たとえば積層)に必要なある程度の柔軟性又は非平面表面に順応する能力が必要とされる用途に使用するには、非常に脆弱であるため不適当であると考えている。
【0023】
ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーは、水素化に先立って、異種(distinct)ブロック、テーパード(tapered)ブロック及び放射状ブロックを含むどのような周知の構造であってもよい。ビニル芳香族ブロック及び共役ジエンブロックを交互に含む異種ブロック構造は、特に、ビニル芳香族末端ブロックを有するそれぞれのケースで、当該ブロック構造がトリブロックコポリマー又はペンタブロックコポリマーを生じるときに、好適な結果をもたらす。ペンタブロックコポリマーは、特に好適なブロックコポリマーを構成する。所望に応じて、ビニル芳香族ブロックは同一又は異なる分子量を有することができる。同様に、共役ジエンブロックは、同一又は異なる分子量を有することができる。
【0024】
ビニル芳香族ブロックは、米国特許(USP)第6,632,890号(Batesら)、及び同第6,350,820号(Hahnfeldら)に教示された任意のビニル芳香族モノマーを含むことができる。代表的なビニル芳香族モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンのすべての異性体(特にパラビニルトルエン)、エチルスチレン、プロピルスチレン、ブチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンなどのすべての異性体、及びそれらの混合物が挙げられる。ブロックコポリマーは、各ビニル芳香族ブロックにおいて1種又は複数の重合済みビニル芳香族モノマーを含むことができる。ビニル芳香族ブロックは、好ましくはスチレンを含み、より好ましくは本質的にスチレンからなり、さらに好ましくは、スチレンからなる。
【0025】
共役ジエンブロックは、USP第6,632,890号及びUSP第6,350,820号に教示されるように、2個の共役二重結合を有する任意のモノマーを含むことができる。例示的かつ非限定的な共役ジエンモノマーの例としては、ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、イソプレン及びそれらの混合物が挙げられる。ビニル芳香族ブロックの場合と同様に、ブロックコポリマーは1種(たとえばブタジエン又はイソプレン)又は2種以上(たとえばブタジエン及びイソプレンの両方)を含むことができる。ブロックコポリマーの好ましい共役ジエンポリマーブロックは、水素化に先立って、ポリブタジエンブロック、ポリイソプレンブロック又は混合したポリブタジエン/ポリイソプレンブロックを含むことができる。ブロックコポリマーが、水素化に先立って、1個以上のポリブタジエンブロック及び1個以上のポリイソプレンブロックを含んでもよいが、水素化に先立って、ポリブタジエンブロック単独又はポリイソプレンブロック単独のみの共役ジエンブロックを有するブロックコポリマーが、好ましい結果をもたらす。単一のジエンモノマーが好ましいのは、主として製造の簡便さに由来する。
【0026】
USP第6,350,820号には、ブロックを、コポリマーの構造的に又は組成的に異なるポリマーセグメントからミクロ相分離を呈することができるコポリマーのポリマーセグメントとして定義している。ミクロ相分離は、ブロックコポリマー内部のポリマーセグメントの不適合性のために起こる。
【0027】
各ビニル芳香族ブロックが、スチレン(S)を含み、各共役ジエンブロックが、ブタジエン(B)又はイソプレン(I)を含む例示的な好ましいビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーとしては、SBS及びSISトリブロックコポリマー並びにSBSBS及びSISISペンタブロックコポリマーが挙げられる。ブロックコポリマーはトリブロックコポリマー又はより好ましくはペンタブロックコポリマーであってもよいが、ブロックコポリマーは、1種又は複数の追加のビニル芳香族ポリマーブロック、1種又は複数の追加の共役ジエンポリマーブロック、又は1種又は複数の追加のビニル芳香族ポリマーブロックと1種又は複数の追加の共役ジエンポリマーブロックの両方、又は星形ブロックコポリマー(たとえば、カップリングによって製造される)を有するマルチブロックであってもよい。所望に応じて、2種以上のブロックコポリマー(たとえば、2種以上のトリブロックコポリマー、2種以上のペンタブロックコポリマー又は1種以上のトリブロックコポリマー及び1種以上のペンタブロックコポリマー)のブレンドを使用することができる。シングルブロックの内部に2種以上の異なるジエンモノマーを使用することもでき、これから、たとえば、SIBSとして示すことができる構造が得られよう。これらの代表的な構造は、これに限定されるものではないが、本発明の実施形態における使用に適し得るブロックコポリマーを例示する。いずれの場合においても、好ましいブロックコポリマーは、水素化に先立って示される。
【0028】
「実質的に十分に水素化した」とは、水素化前のビニル芳香族ブロック内に存在する二重結合の90パーセント(パーセント)以上が水素化されるか又は飽和され、水素化前のジエンブロック内に存在する二重結合の95パーセント以上が水素化されるか又は飽和されることを意味する。
【0029】
「十分に水素化した」とは、水素化前のビニル芳香族ブロック内に存在する二重結合の95パーセント以上が水素化されるか又は飽和され、水素化前のジエンブロック内に存在する二重結合の97パーセント以上が水素化されるか又は飽和されることを意味する。
【0030】
好ましい水素化ブロックコポリマーは、水素化した重合済みビニル芳香族モノマーのブロックを2以上、及び水素化した重合済みジエンモノマーのブロックを1以上含む。好ましい水素化トリブロックコポリマーは、水素化した重合済みビニル芳香族モノマーを2ブロック、水素化した重合済みジエンモノマーを1ブロック、及び20,000超、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらに好ましくは50,000以上、150,000未満、好ましくは120,000未満、より好ましくは100,000未満、さらに好ましくは90,000未満の総数平均水素化前分子量(M)を有する。好ましい水素化ペンタブロックコポリマーは、水素化した重合済みビニル芳香族モノマーを3ブロック、水素化した重合済みジエンモノマーを2ブロック及び30,000以上、好ましくは40,000以上、より好ましくは50,000以上、200,000まで、好ましくは150,000まで、より好ましくは120,000まで、さらに好ましくは100,000までの総Mを有する。
【0031】
ブロックコポリマーは、水素化に先立ち、好ましくは水素化及びフィルムへの成形に先立ち、55wtパーセントから90wtパーセント未満、好ましくは65wtパーセントから85wtパーセントまで、さらに好ましくは、65wtパーセントから80wtパーセントまでの範囲内のスチレン含量、及び45wtパーセントから10wtパーセント以上まで、好ましくは35wtパーセントから15wtパーセントまで、さらに好ましくは、35wtパーセントからの20wtパーセントまでの範囲内の共役ジエンモノマー含量を有し、各wtパーセントはブロックコポリマーの総重量に基づいており、一緒にすると100wtパーセントになるスチレン/共役ジエンモノマーのブロックコポリマーである。
【0032】
スチレン含量が55wtパーセントを下回るにつれて、特にスチレン含量が50wtパーセント以下に低下するにつれて、当該ポリマーから調製されるフィルムの寸法安定性は失われ始める。スチレン含量範囲は、より好ましくは60wtパーセントから85wtパーセント未満まで、さらに好ましくは65wtパーセントから80wtパーセント未満である。逆に、共役ジエンモノマー含量範囲は、より好ましくは15wtパーセント以上40wtパーセントまで、さらに好ましくは20wtパーセント以上35wtパーセントまでである。
【0033】
水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマー用のジエンモノマーの選択は、結晶化度の存在の有無にも、結晶化度が存在する場合の結晶化度の量にも影響を及ぼす。たとえば、水素化ポリイソプレンは交互ポリ(エチレン−alt−プロピレン)繰り返し単位構造を有しており、少なくとも現在の技術によって、識別可能な結晶化度を示さない。水素化ポリブタジエンは、ポリエチレン成分に起因する結晶化度を呈することができるポリ(エチレン−co−1−ブテン)繰り返し単位構造を有する。水素化ポリブタジエンブロックにおいて達成できる結晶性レベルは、少なくとも一部は、ポリマーの微細構造、すなわち、1,2−重合を経由して当該微細構造に組み込まれたブタジエンモノマー対1,4−重合を経由した組み込みの百分率に依存する。1,2−重合を経由して組み込まれたブタジエンモノマーの百分率が30wtパーセントを上回るにつれて、水素化ポリブタジエンブロックにおける明らかな結晶化度は減少し始める。同様に、水素化に先立って、イソプレン及びブタジエンモノマーのブレンドを含んだジエンブロックを有する水素化ブロックコポリマーの結晶化度は、ゼロと純粋な水素化ポリブタジエン成分によってもたらされる結晶化度との中間にある。
【0034】
ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーは、好ましくは3重量パーセント(wtパーセント)未満の結晶化度、より好ましくは1wtパーセント未満の結晶化度、さらに好ましくは0.5wtパーセント未満の結晶化度を有する。示差走査熱分析(DSC)によって結晶化率(%)を測定する。
【0035】
しかしながら、ゼロの結晶化度は、たとえば、加工品の中に存在する加工中の異方性ポリマー鎖の配向及び/又はブロックコポリマーモルフォロジーから生じる複屈折に少なくとも一部が起因して、ゼロの面内位相差(R)とは一致しない。
【0036】
非ブロックポリマー又はコポリマーを、光学フィルムがかなりの量の非ブロックポリマー又はコポリマーをさらに含むように1種以上のブロックコポリマーとブレンドしてもよい。例示的な非ブロックポリマー及びコポリマーとしては、これに限定されるものではないが、水素化ビニル芳香族ホモポリマー又はランダムコポリマー、ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、アクリルポリマー、アクリルコポリマー及びそれらの混合物を挙げることができる。非ブロックポリマー又はコポリマーは、ブロックコポリマーとブレンドすると、混和し、ブロックコポリマーの1個以上の相の中に封入される。非ブロックポリマーの量は、ブロックコポリマー及び非ブロックコポリマーの総重量に基づいて、好ましくは0.5wtパーセントから50wtパーセントまでの範囲に入る。この範囲は、より好ましくは、1wtパーセントから40wtパーセントまで、さらに好ましくは、5wtパーセントから30wtパーセントまでである。
【0037】
追加例示的な非ブロックコポリマーとしては、ビニル芳香族ホモポリマー及び水素化したビニル芳香族モノマー及び共役ジエンのランダムコポリマーからなる群から選択されたポリマー(たとえばホモポリマー、ランダムコポリマー又はインターポリマー)が挙げられる。
【0038】
「ホモポリマー」とは、単一のモノマー(たとえば、ポリスチレンホモポリマーのスチレンモノマー)の中で重合されたポリマーのことをいう。同様に、「コポリマー」とは、2種の異なるモノマー(たとえば、スチレンアクリロニトリルコポリマーのスチレンモノマー及びアクリロニトリルモノマー)の中で重合されたポリマーのことをいい、「インターポリマー」とは、3種以上の異なるモノマー(たとえば、エチレン/プロピレン/ジエンモノマー(EPDM)インターポリマーのエチレンモノマー、プロピレンモノマー及びジエンモノマー)の中で重合されたポリマーのことをいう。
【0039】
本明細書に記載される光学フィルムは、偏光板アセンブリ用の保護フィルム、特に、光入射角の範囲にわたって(たとえば、法線からフィルムまでの約90°まで、90°超、又は90°未満)ニアゼロ位相差を備える偏光フィルム積層体が必要とされるIPS方式のLCD TVセット又は他の任意の撮像装置において使用する偏光板アセンブリ用に有用である。このようなフィルムは、反射型及び半透過型LCDディスプレイにおいて使用される1/4波長板の保護フィルムとしても用いられている。このようなフィルムは、a)防眩性フィルム又は反射防止フィルム用のベースフィルム基板又は層、b)直線偏光板又は円偏光フィルム用のベースフィルム基板又は層、或いはc)タッチスクリーンフィルムのうちの任意の1種又は複数としてさらに用いられている。
【0040】
本明細書に記載されている光学フィルムは、単一すなわち単層フィルムであってもよいし、又は多層フィルム構造の1層又は複数の層を構成してもよい。光学フィルムは、2枚の、間隔を空けて離れた、好ましくは実質的に平行な主要面を有する。光学フィルムは、所望に応じて、酸化防止剤、紫外線(UV)光安定剤、可塑剤、離型剤、帯電防止剤、又はポリマーフィルムを製造する際に使用した他の従来の添加剤などの従来の添加剤を1種以上含んでもよい。
【0041】
光学フィルムは、従来の架橋添加剤(たとえば、シロキサン)及び架橋を開始するための紫外光、水分又は熱を使用することを含んだ従来の架橋機構を用いて、少なくとも部分的に架橋することができる。架橋は、フィルム押出し後に起こり得る。いずれにしても、架橋の程度は、他の光学フィルムの機能又は特性の中でも、とりわけフィルムの鮮明性又は透明性を損なうゲルの形成が誘導されない限りは、有益となり得る。
【0042】
光学フィルムを作製するために用いる組成物は、高密度デジタルビデオディスク及び光ピックアップレンズを含むが、これに限定されない低い位相差の恩恵を受ける他の製品を製造する際にも便利である。当業者は、ディスク又はレンズを成型する場合、フィルム押出しと異なる製造方法を必要とし、ひいては光学パラメータ及び物性性能要件の異なる1組が導かれ得ることを知っている。
【0043】
光学フィルムは、好ましくはPlastics Engineering Handbook of the Society of Plastics Industry,Inc.、第4版、156、174、180、及び183頁(1976)において教示されるような溶融押出し又は溶融流延法から得られる。代表的な溶融流延法は、ポリマー又はポリマーのブレンドを固体(たとえば粒状又はペレット)状態から溶融状態すなわち溶融ポリマーに変換するのに十分な設定点温度、押出し機スクリュー速度、押出し機のダイ間隔の設定、及び押出し機背圧で運転するKillion Extruders,Inc.製のミニ−キャストフィルムライン(mini-cast film line)などの溶融押出し機の使用を含む。USP第6,965,003号(Soneら)において開示される「Tダイ(T-die)」又はModern Plastics Handbook、Modern Plastics;Charles A Harper編、(McGraw−Hill、2000)、第5章、Processing of Thermoplastics、64〜66頁において開示される「コートハンガーダイ(coat hanger die)」などの従来のフィルム成形ダイを使用して、上述した物理的特性及びパフォーマンスパラメータを満たしているフィルムを作製する。
【0044】
上記の光学フィルムを、特に押出し流延又は押出しカレンダリング、溶液流延法などの他の技術をも含んでいる周知のフィルム製造技術によって調製する。押出し流延については、適切な溶融加工は、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックポリマーの秩序−無秩序温度(TODT)から、TODTが存在する場合は、310(℃)未満まで、又はTODTが存在しない場合は180℃から310(℃)未満まで、好ましくは200℃から280℃までの範囲である。
【0045】
場合によっては、本発明の水素化ビニル芳香族共役ジエンブロックコポリマーのTODTは、そのTより低いため到達できないこともある。好ましい溶融加工ウィンドウは、Tg+30℃(超)であるが310℃未満、より好ましくはTg+50℃超であるが280℃以下の温度で、ポリマー溶融物を押し出すことが可能になる。他の場合では、水素化ビニル芳香族共役ジエンブロックコポリマーのTODTがあまりに高いために(310℃超)、このようなコポリマーを溶融押出しによってフィルム又はシートに加工することが非常に困難であり、したがって本発明のいくつかの実施形態にそぐわない場合もある。到達できるTODT、すなわち、Tg超であるが310℃未満の水素化ビニル芳香族共役ジエンブロックコポリマーについては、低い位相差の光学フィルムの調製に適切な溶融押出し温度は、TODT超であるが310℃未満、より好ましくはTODT+20℃超であるが310℃未満、さらにより好ましくはTODT+50℃超であるが310℃未満の溶融温度である。
【0046】
「TODT」は、ブロックコポリマーが、離散的で周期的な形態学的秩序を失って分子鎖の実質的に均一な溶融物に移行する温度を意味する。その秩序状態における水素化ブロックコポリマーの小角X線散乱(SAXS)画像は高異方性である。異方性は、ポリマー溶融物が、低周波(たとえば0.01ラジアン/秒(rad/s)〜0.1rad/sの周波数)及び大きい歪振幅振動せん断(たとえば100パーセントから300パーセントまでの歪振幅)の下でそのTODT未満の温度でせん断配向されるときに、最も明らかになる。ミクロ相分離したブロックコポリマーのせん断配向挙動は、周知であり、たとえばThe Physics of Block Copolymers、Ian Hamley著、Oxford University Press、1998に見出すことができる。逆に、無秩序状態の水素化ブロックコポリマーのSAXS画像からは、個々のポリマー鎖がランダムコイル構造を呈し始めるために、まったく異方性は検出されない。ポリマー溶融温度がポリマーのTODTを超える場合は、この種のポリマー溶融物からのキャストフィルムは非常に透明で、ヘイズが非常に小さい傾向がある。ポリマー溶融温度がポリマーのTODTをはるかに下回る場合(たとえばTODTより30℃超低い)、キャストフィルムの光透過性は加工条件によって影響される恐れがある。場合によっては、このようなフィルムは、フィルム表面上の微小な粗さが原因でわずかにかすんで見える恐れがある。後者の場合、このようなフィルムの透過度を改善するために、ポリマーのガラス転移温度(T)より高い温度で後続のフィルム配向/延伸工程(2軸又は1軸のいずれか)を、用いることができる。
【0047】
Ian Hamleyは、The Physics of Block Copolymers、29〜32頁、Oxford University Press、1998においてTODTの測定を論じており、この教示内容は、法律により認められた最大範囲までを本明細書に組み込むものとする。
【0048】
「未延伸の」(又は「未配向の」)フィルムは、押出し流延(又はカレンダリング)によって作製されたフィルムを意味し、そのように使用される。このようなフィルムの調製には、加熱下に(たとえば、フィルム作製に用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度で)フィルムを延伸することによってフィルムを配向させる別の加工工程を含まない。当業者は、フィルムキャスティングの間及びさらなる加工用にキャストフィルムを巻いてロールにする間の一方又は両方で、ある程度の配向がキャストフィルムに起こることは避けられないことを知っている。本発明は、このような不可避の配向度を「配向」又は「配向した」という定義から除外するものとする。
【0049】
逆に、「延伸した」(又は「配向した」)フィルムの調製は、押出し流延(又はカレンダリング)によって作製されたフィルムの調製に続く別の加工工程を含む。別の加工工程は、フィルムを作製するために用いるポリマーのガラス転移温度以上の温度で、1軸又は2軸のいずれかに、フィルムを配向させること又は延伸することを含む。フィルム配向又はフィルム延伸の周知の方法の詳細については、たとえば、モノグラフ「Plastic Films」、John H.Briston著、第8章、87〜89頁、Longman Scientific & Technical(1988)を参照されたい。
【0050】
溶融押出しが本発明のフィルムを加工する好ましい手段又は方法を表すが、所望に応じて、他のより好ましくない技術を使用してもよい。たとえば、溶剤の取り扱い及び溶剤除去が環境問題を含めた追加的な問題を提起することを認識した上で、溶液流延法を使用してもよい。また、プレス加工フィルムの手順によってフィルムを調製してもよい。
【0051】
押出し流延については、キャストロール又は冷却ロールの温度は、110℃未満が満足な結果を与える。キャスト又は冷却ロールの温度は、好ましくは100℃未満、より好ましくは95℃未満である。キャスト又は冷却ロールの温度の実用的な下限は、40℃である。
【0052】
光学フィルムの厚みは、好ましくは250マイクロメートル(μm)未満、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。フィルムの厚みの実用的な下限は15μmであり、好ましいフィルムの厚みの下限は25nmである。
【0053】
一旦調製されると、光学フィルムは1つ又は複数の後加工操作にかけることができる。たとえば、フィルムが測定可能な融解温度を有する場合、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーの融解温度(T)からそのTまでの範囲内の温度でアニールして、フィルムの光学及び機械特性の中の1種又は複数を改善することができる。例示的なアニーリング温度の範囲は、70℃から100℃までである。アニーリングの代替として、フィルムは、1方向以上(たとえばその縦方向(MD)及び/又はその横方向(TD))に、水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーのT−10℃からそのT+75℃までの範囲の温度で、配向させるか又は延伸することができる。この範囲は、好ましくはTgからTg+ 50℃までである。
【実施例】
【0054】
以下の例で、本発明を例示するが、これに限ったものではない。すべての温度は、℃で表記する。本発明の実施例(Ex)はアラビア数字によって示し、比較例(Comp Ex又はCEx)は大文字のアルファベット文字によって示す。特に明記しない限り本明細書において、「室温」又は「周囲温度」は、公称25℃である。
【0055】
水素化スチレンブロックコポリマーのTODTを、230℃の温度でこのコポリマーの一定分量をまず圧縮成形して25ミリメートル(mm)の直径及び1.5mmの厚みを有する円形の、ディスク形の試験片にすることによって測定する。この試験片に、線形粘弾性領域の動的レオロジー特性の決定を行うことにより、0.1ラジアン/秒(rad/sec)の発振周波数及び1パーセントの歪振幅で作動している平行平板レオメータ(ARES rheometer、TA Instruments、New Castle、DE)を使用して、160℃から300℃までの温度領域にわたって0.5℃/分の速度で加熱する際の立ち上がり時の低周波弾性率の不連続点を探し出す。動的レオロジーの測定に先立って、試料を160℃で30分間熱的平衡状態に置く。この様式におけるTODTの測定の精度は、±5℃である。
【0056】
EXICOR(商標)150ATS(Hinds Instrument)装置、及び633ナノメートル(nm)の波長を用いて、識別できる外観欠損を含まないフィルムの一部からフィルムの矩形区画(MD方向に30ミリメートル(mm)でTD方向に100mm)を選択することと、矩形区画の異なる領域にわたって位相差に関する120個以上の独立した測定を行うこととによって、フィルムサンプルの位相差を測定する。それぞれの測定値は、5mm×5mmのフィルム面積を測定していることを表す。入射光が矩形のフィルム区画の主平面に対して直角であるときに、Rを測定する。120個以上の独立した測定値の平均として面内位相差(R)を記し、フィルムのその区画で実施したすべての独立した測定値に基づいてRの標準偏差を算出する。上記の通りにRthを算出する。識別できる外観欠損を含まないフィルムの一部から、5個の独立した測定値の平均として、フィルムのRthを記す。その遅相軸方向又はその進相軸方向のいずれかに関してフィルムを40°傾けることによって、斜入射光の入射角R40を測定する。R測定からフィルムの遅相軸方向又は進相軸方向を決定する。フィルム遅相軸方向がそのx軸であり、このx軸がまた、R40測定のための傾斜軸であると仮定すると、以下の3つの方程式から(n、n、n)の値を解くことによってRthを算出することができる。
【0057】
【数1】

上記3つの方程式において、nはフィルム作製に使用したポリマーの屈折率であり(株式会社アタゴ製の多波長アッベ(Abbe)屈折計DR−M2で測定される)、dはフィルムの厚みを表し、角θは次の方程式によって算出される。
【0058】
【数2】

上記3つの方程式の解及びdに基づいて、Rthを次のように算出する:
【0059】
【数3】

【0060】
DSC分析及びモデルQ1000DSC(TA Instruments、Inc.)を使用して、水素化スチレン系ブロックコポリマー又はフィルム試料の総重量を基準にして、重量結晶化率(Xパーセント)を決定する。DSC測定の一般原理及び半結晶性ポリマーを研究することへのDSCの利用は、標準のテキスト(たとえば、E.A.Turi編、Thermal Characterization of Polymeric Materials、Academic Press、1981)に記載されている。
【0061】
Q1000用に推奨された標準手順に従って、最初にインジウム、次いで水を用いてモデルQ1000DSCを較正して、インジウムの融解熱(H)及び融解開始温度が、それぞれ、定められた標準(28.71J/g及び156.6℃)から0.5ジュール/グラム(J/g)及び0.5℃以内であり、水の溶融開始温度が、0℃から0.5℃以内であることを確実にする。
【0062】
230℃の温度でポリマー試料をプレスして薄いフィルムにする。DSC試料皿に、5ミリグラム(mg)から8mgまでの重量の1片の薄いフィルムを配置する。皿上の蓋を圧着して確実に密閉する。
【0063】
DSCのセルの中に試料皿を配置し、この皿の内容物を、約100℃/分の速度で230℃の温度まで加熱する。約3分間その温度で皿の内容物を維持し、次いで−60℃の温度まで10℃/分の速度で皿の内容物を冷却する。皿の内容物を等温で3分間−60℃に保ち、次に皿の内容物を「第2加熱」と呼ぶステップにおいて、10℃/分の速度で230℃まで加熱する。
【0064】
ピーク融解温度、結晶化開始温度及びピーク結晶化温度及びH(融解熱としても知られる)については、上述のポリマーフィルム試料の第2加熱から得られるエンタルピー曲線を解析する。直線のベースラインを用いて融解の開始から融解の終わりまで融解吸熱曲線下の面積を積分することによって、J/gを単位としてHを測定する。
【0065】
100パーセント結晶性ポリエチレンのHは、当該技術分野において承認されている292J/gである。以下の方程式を用いて、水素化スチレンブロックコポリマー又はフィルム試料の総重量を基準にして、重量結晶化率(Xパーセント)を算出する。
Xパーセント=(H/292)×100パーセント
【0066】
水素化ビニル芳香族共役ジエンブロックコポリマーを、水素化に先立ち、ブロックコポリマー用の溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用して、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)にかけることによって、このブロックコポリマーの分子量分析を行う。Polymer Labs,Inc.製の分布の狭い分子量のポリスチレン標準を用いて、GPCカラムを較正する。標準の分子量は、580ダルトンから3,900,000ダルトンまでに及ぶ。水素化前のブロックコポリマーのMn又は重量平均分子量(M)をポリスチレン換算値として記す。
【0067】
結晶化度がゼロか又は極端に低い結晶化度である十分に水素化したビニル芳香族共役ジエンブロックコポリマーのGPC分析を、二元溶媒(デカリン/THF、デカリンはデカヒドロナフタレン(C1018)の短縮形である)の使用により、水素化ブロックのような試料を最初に溶解してポリマー溶液を形成して、次いで、40℃で移動相として流れるTHFによって従来のGPCシステム(たとえば、Hewlet Packard HP1090)を使用してポリマー溶液を分析することにより行う。同様に、十分に水素化したブロックコポリマーのMn又は重量平均分子量(M)をポリスチレン換算値として記す。
【0068】
下の表1は、次の実施例(Ex)及び比較例(Comp Ex)で使用する水素化スチレン系ブロックコポリマー材料及び他の材料を要約したものである。比較例Aは、商標表記「ZEONOR(商標)ZF−14 フィルム」の下に日本ゼオンから市販されている環状オレフィンポリマー(COP)フィルムである。表1において、1,2−ビニル含量(1,2−ブタジエン又は1,2−イソプレン含量としても知られる)を水素化前にポリマーに存在する共役ジエン総含量に対するパーセントとして示す。表1において、Mという用語は、上述のように溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を使用するGPC分析に基づくポリスチレン換算分子量のことをいう。A及びE以外のすべての材料について、M値は、水素化の前のポリマー特性を反映している。材料A及びEのMは、上に詳述したように二元溶媒を使用するGPC分析によって十分に水素化したポリマーに対して測定された値である。純粋の水素化ポリイソプレンの結晶化度はゼロであるべきなので、材料Aの結晶化度は予想外に低い量である。
【0069】
【表1】

「nd」は未測定を意味する。
* Mn測定は、水素化前のポリマーではなく(十分に水素化した)後のポリマーに基づいた。
**は、比較例を作製するために使用した樹脂、又は材料を意味する。
【0070】
(実施例1〜実施例16及び比較例A〜比較例I)
上記表1から選択された水素化スチレン/共役ジエンブロックコポリマー及びKillion Extruders、Inc.製のミニキャストフィルムラインを使用して、未延伸単一層ポリマーフィルム材料の試料を調製する。フィルムラインは24:1の長さと直径の比(L/D)を有し、以下の表2に示すような設定点押出し温度で操作する25mmの押出し機を含む。この押出し機は、コートハンガー押出しダイ(ダイギャップが0.040インチ(1mm)に設定され、10インチ(25.4cm)の幅)と協働する。ダイは、200℃から290℃までの範囲内の設定点温度で操作する。フィルムラインも、セラミックコーティングした8インチ(20.3cm)の直径及び12インチ(30.5cm)の幅を有するキャスティングロールを備え、85℃から90℃までの範囲内の設定点温度で操作する。押出し機の押出し量を毎時約5ポンド(毎時11kg)の一定に保ち、製造されるフィルム厚さ(40μm、60μm、80μm又は130μm)に基づいてキャストロール速度を変化させる。それぞれの異なるフィルムサンプルについては、表2にフィルム厚さ、R及びRthも示す。
【0071】
【表2】

「ND」は未測定を意味する。
* は、フィルムが粘着し過ぎ又は粘つき過ぎて、有用な測定ができなかったことを意味する。
【0072】
上の表2に示されるデータは、いくつかの観察結果を裏付ける。第1に、実施例1〜6は、250℃から280℃までの30℃以上の溶融加工温度ウィンドウにわたり、広範囲の厚みで、70wtパーセントのスチレン含量を有する水素化SISISペンタブロックコポリマーを用いて、非常に低いR(1nm未満)及びRth(2nm未満)を有する光学フィルムを調製できることを示している。第2に、実施例7〜16及び比較例B〜比較例Fは、Mn値及び70wtパーセントから90wtパーセントにわたるスチレン含量を変化させた状態で、種々の水素化ペンタブロックコポリマー(実施例7〜9についてはSISIS並びに実施例10〜16及び比較例B〜比較例FについてはSBSBS)から光学フィルムを調製する際に、加工温度が重要な役割を果たすことを示している。溶融加工又は押出し温度が最適溶融加工温度未満(たとえば、上記の30℃溶融加工温度ウィンドウより低い)であると、実施例7〜16でのように、得られたキャストフィルムはある程度の分子配向を有すると考えられ、次いで、実施例1〜6(たとえば実施例7についての3.4のRに対して実施例1についての0.29のR)の位相差よりかなり高い位相差のレベルを示す。第3に、比較例B〜比較例Fは、ポリマー組成物(すなわちスチレン含量及び結晶化度)及びフィルムの厚みが位相差特性(特にR)に影響することを示す。比較例G及び比較例Hは、ペンタブロックSBSBS構造であっても、過剰の結晶化度(たとえば7.0パーセント以上)がRに悪影響を与え、フィルム押出しに使用する溶融加工温度に関わりなく、ニアゼロR及びRth値が必要とされる最終用途において、このようなペンタブロックSBSBS構造を使用することが不適切であることを示している。第4に、比較例Iは、極端にスチレン含量が低いと(この場合、水素化前ポリマーの総重量に基づいて50wtパーセント)ニアゼロR及びRth値が必要とされる用途では、光学フィルムとして使用するには軟らか過ぎ粘着性過ぎる水素化ポリマーを与えることを示す。第5に、比較例Aは、実施例1〜6のR値が1nm未満であるのに対して、COPフィルムのRは、そのRが5.9であるように、ゼロに近くないことを示す。
【0073】
(実施例17〜19及び比較例J〜K)
実施例1を繰り返すが、以下の表3に示すような延伸比を使用して、延伸温度150℃の比較例K以外はすべて145℃の延伸温度で、配向を開始し、実施例17、実施例18及び比較例Kについては2軸延伸を、そして実施例19及び比較例Jについては1軸(縦方向)延伸を行う。表3は、未延伸フィルム特性及び延伸フィルム特性も示す。比較例Kは、比較例Aで使用したフィルムと同じであり、未延伸のもの(比較例Aと同じ)も、延伸したものも表3に示す。実施例17及び比較例Jは材料Eを使用し、実施例18及び実施例19は材料Bを使用し、両者とも上の表1に示す。
【0074】
【表3】

ndは未測定であることを意味する。
【0075】
表3に示されるデータは、1軸又は2軸のいずれであるかにかかわらず、フィルム配向によってRもRthも増加することを示す。実施例17及び比較例Jについてのデータは、いずれの場合も未延伸フィルム特性と比較して、1軸延伸(比較例J)が、2軸延伸(実施例17)より大きなR及びRthの増加を引き起こすことを示唆する。実施例18及び実施例19についてのデータは、2軸延伸が材料Bについての1軸延伸よりR及びRthの増加がいくぶん低く、それぞれの例における増加は、実施例17についての増加と同等で比較例Jについて記述した増加よりはるかに少ないことを示す。材料Bと材料Eの間の延伸に対する異なる応答についての考えられる説明は、材料Bは、材料Eよりも水素化前スチレン含量が高くて、ブロックコポリマーモルフォロジーが明確でなく、その一方又は両方が、それに対応して配向誘起性の複屈折をより下げる傾向にする。比較例Kは、延伸COPフィルムが、低位相差光学フィルム用途向けに、延伸前の同じCOPフィルムほど好ましいものではないということを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーを含み、633ナノメートルの波長で、フィルムの主平面に直角に向けた入射光を使用して測定した面内位相差(R)が5ナノメートル未満で、面外位相差(Rth)が10ナノメートル未満である、光学フィルム。
【請求項2】
水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーが実質的に十分に水素化されたブロックコポリマーである、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項3】
水素化ビニル芳香族/共役ジエンブロックコポリマーが十分に水素化されたブロックコポリマーである、請求項1に記載の光学フィルム。
【請求項4】
1軸延伸フィルム又は2軸延伸フィルムである、請求項1から3のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項5】
前記ブロックコポリマーが、水素化に先立って、55重量パーセントから90重量パーセント未満の範囲内のスチレン含量、及び45重量パーセントから10重量パーセントの範囲内の共役ジエン含量を有するスチレン/共役ジエンブロックコポリマーであり、各パーセントはブロックコポリマー全重量に基づいており、一緒にすると100重量パーセントになる、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項6】
前記ブロックコポリマーの結晶化度が、フィルム全重量に基づいて3重量パーセント未満である、請求項1から5のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項7】
前記ブロックコポリマーが、20,000〜150,000の範囲内の数平均分子量を有するビニル芳香族/共役ジエンモノマートリブロックコポリマーである、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項8】
前記ブロックコポリマーが、30,000〜200,000の範囲内の数平均分子量を有するビニル芳香族/共役ジエンモノマーペンタブロックコポリマーである、請求項1から6のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項9】
単層フィルムである、請求項1から8のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項10】
多層フィルムの少なくとも1つの層である、請求項1から18のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項11】
非ブロックコポリマーを、ブロックコポリマー及び非ブロックコポリマーの総重量に基づいて、0.5重量パーセントから50重量パーセントまでの範囲内の量でさらに含む、請求項1から10のいずれかに記載の光学フィルム。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の光学フィルムを含む、画像表示デバイス又は装置。
【請求項13】
面内切換型液晶表示(LCD)デバイスであって、請求項1から11のいずれかに記載の光学フィルムを含む内側保護層を備えたデバイス。
【請求項14】
ポリビニルアルコールフィルム層及び保護フィルム層を含み、前記ポリビニルアルコールフィルム層が、その主平面のうちの少なくとも1つを保護フィルム層と有効に接触させており、各保護フィルム層が請求項1から11のいずれかに記載の光学フィルムを含む、偏光板アセンブリ。

【公表番号】特表2011−523668(P2011−523668A)
【公表日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−508545(P2011−508545)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【国際出願番号】PCT/US2009/041650
【国際公開番号】WO2009/137278
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】