説明

ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法、およびニオブ酸アルカリ金属塩粒子

【課題】液相系の製造方法であって、ニオブ酸アルカリ金属塩微粒子のサイズや形状を制御できるニオブ酸アルカリ金属塩微粒子の製造方法、及び形状や大きさが制御されたニオブ酸アルカリ金属塩微粒子の提供。
【解決手段】
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法であって、特定の4つの工程を含む略直方体状ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法、及び略直方体の形状を有し、上記略直方体の辺のうち、最長辺の長さLmaxが0.10〜25μm、最短辺の長さLminが0.050〜15μmである上記式(1)のニオブ酸アルカリ金属塩粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法、およびニオブ酸アルカリ金属塩粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電セラミックスは、各種センサや超音波振動子といった従来の応用に加えて、最近では、例えば、パーソナルコンピュータの液晶バックライト用トランスやインクジェットプリンタ用ヘッド部品材料として使用されるなど、電子機器の小型化や高性能化に多大な貢献をしている。
【0003】
そのような圧電セラミックスとしては、現在PZT系などの鉛系材料が主流である。しかしながら、鉛系材料は有害な酸化鉛を大量に含むことから、例えば廃棄の際における酸化鉛の流出による環境汚染が懸念されている。そこで、従来の鉛系材料に代替できる実用可能な無鉛圧電セラミック材料の開発が強く求められている。
【0004】
近年、比較的良好な圧電性を示す無鉛系セラミック材料として、ニオブ酸アルカリ系の圧電セラミックスが注目されている。例えば特許文献1においてはニオブ酸リチウムナトリウムを基本組成とする固溶体に、副成分として、酸化アルミニウム、酸化鉄を添加した圧電セラミックスが提案されている。また特許文献2には、ニオブ酸カリウムとニオブ酸ナトリウムを主成分とした圧電セラミックとして、これに銅、リチウム及びタンタルを添加することにより物性を改善した組成物が提案されている。
【0005】
このような圧電セラミックスを得るための方法として、原料となる複数の原料粉体を機械的に混合又は混練した後、ペレットに成型し、焼成する工程を経る方法、いわゆる固相法がよく知られている。
【0006】
また近年、液相系によるNaNbO粒子の合成法も検討されている。例えば、非特許文献1には、Nb粒子にNaOH又はKOH溶液を作用させてNaNbO粒子を合成する方法が報告されている。
【0007】
またKNbO粒子の合成として、層状のKNb17粒子を一旦合成し、ついで溶融塩中で高温加熱することによってKNbO粒子を合成する手法も近年報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭60−52098号公報
【特許文献2】特開2000−313664号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C.Sunら、European Journal of Inorganic Chemistry、2007,1884
【非特許文献2】Y.Saitoら、Journal of the European Ceramic Society、27(2007)4085
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら固相法では、一般に入手できる原料粉体の粒径がそもそも数mm〜数μm程度のものが多いこともあり、ナノレベルで原料粉体を均一に混合することは一般的に困難であった。また原料粉体を高温で焼成する際には、原料粉体本来の構造からペロブスカイト構造結晶への構造の変化を伴うこともあり、固相法では結晶子サイズや粒界を厳密に制御することは困難であった。特に粒界は圧電特性や強度などに大きな影響を及ぼすことから、粒界を制御することは圧電セラミックスの特性向上に不可欠であり、粒界の制御が充分でない材料を使用した場合には製品の欠陥や特性の低下等に繋がるおそれがあった。
【0011】
一方、従来の液相法においては粒子が凝集するという問題があり、また得られる粒径や形態が均一に成るよう制御することも一般的には困難であった。例えば上記特許文献1記載の方法で得られる粒子は凝集体であり、近年微細化する圧電素子を成型するための原料としては不適である。このように粒子のサイズや形状を制御できない点が問題であった。
【0012】
また特許文献2記載の方法でも粒径制御が事実上不可能であることや多段階の合成を必要とする等、改善が求められていた。
【0013】
これらの現状を鑑み、大量生産に適した方法であって、粒子の凝集を防ぎ、粒界や粒径を制御できるニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法、及び粒子サイズの均一性が高いニオブ酸アルカリ金属塩微細粒子の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、液相系の製造方法であって、ニオブ酸アルカリ金属塩微粒子のサイズや形状を制御できるニオブ酸アルカリ金属塩微粒子の製造方法を提供することを目的とする。さらに本発明は、形状や大きさが制御されたニオブ酸アルカリ金属塩微粒子、及び高い圧電性を有する非鉛系ニオブ含有セラミックス材料を提供することを目的とする。
【0015】
本発明の第一の態様は、
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法であって、
(a)ニオブ含有溶液と、0.1〜30mol/Lの濃度を有するアルカリ溶液とを混合し、懸濁液を調製する工程と、
(b)得られた懸濁液を80℃〜150℃で12〜48時間静置する工程と、
(c)静置後の懸濁液を150℃〜300℃で1〜12時間ソルボサーマル反応させる工程と、
(d)ソルボサーマル反応後の反応物からニオブ酸アルカリ金属塩粒子を回収する工程と、
を含む、略直方体状ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法
に関する。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記式(1)中のMはNaであり、上記アルカリ溶液は、NaOHである。
【0017】
別の好ましい実施形態においては、上記式(1)中のMはKであり、上記アルカリ溶液はKOHである。
【0018】
別の好ましい実施形態においては、上記ニオブ含有溶液は、酸化ニオブ及び/又はハロゲン化ニオブと、水、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも一つの溶媒と、酸とを含む。
【0019】
本発明の第二の態様は、
下記式(1):
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子であって
ニオブ酸アルカリ金属塩は略直方体の形状を有し、
上記略直方体の辺のうち、最長辺の長さLmaxが0.10〜25μm、
最短辺の長さLminが0.050〜15μmである
ニオブ酸アルカリ金属塩粒子
に関する。
【0020】
好ましい実施形態においては、上記最長辺の長さLmaxと上記最短辺の長さLminの比Lmax/Lminが1〜5の範囲である。
【0021】
別の好ましい実施形態においては、上記式(1)中のMはNa又はKである。
【0022】
さらに別の好ましい実施形態においては、上記ニオブ酸アルカリ金属塩粒子は上記製造方法によって調製される。
【0023】
本発明の第三の態様は、上記ニオブ酸アルカリ金属塩粒子からなる圧電セラミックス材料に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法によれば、ニオブ酸アルカリ金属塩粒子、好ましくはNaNbOあるいはKNbOの微粒子を、そのサイズ及び形態を制御しつつ大量に合成することができる。また得られる粒子は、略直方体、好ましくは略立方体形状という特殊形状を有しており、その大きさ、形状共に非常に制御されたものである。本発明は、大量合成にも適した方法により、実用上好適なサブミクロン〜数μm程度の粒子を合成できる点で有利な方法である。
【0025】
さらに、このようにして得られたニオブ系粒子をペレット成型・焼成することにより得られたセラミック材料は、従来の固相法により調製したニオブ系圧電セラミック材料に比べて、
1.低温焼成が可能である
2.優れた圧電特性を示す
3.セラミック材料の緻密化が容易である
4.積層化する際のスラリー調製が容易である
などの利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の略直方体状ニオブ酸アルカリ金属塩粒子を説明するための模式図である。
【図2】実施例1で合成したNaNbO粒子のSEM写真である。
【図3】実施例1で合成したNaNbO粒子のXRD(X線回折、X−ray diffraction)測定結果である。
【図4】実施例2で合成したKNbO粒子のSEM写真である。
【図5】実施例2で合成したKNbO粒子のSEM写真(図4の写真をさらに拡大したもの)である。
【図6】実施例2(二次加熱温度150℃)で合成した微細KNbO粒子のSEM写真である。
【図7】実施例4(出発原料:酸化ニオブ)で合成したKNbO粒子のSEM写真である。
【図8】実施例5(100℃加熱あり)において調製したNaNbO粒子のSEM写真である。
【図9】比較例1(100℃加熱なし)において調製したNaNbO粒子のSEM写真である。
【図10】実施例6(スケールアップして合成)において合成したKNbO粒子のSEM写真である。
【図11】実施例6において合成したKNbO粒子のSEM写真(図10の写真をさらに拡大したもの)である。
【図12】スケールアップして合成したKNbO粒子のXRDパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明を詳述する。
<ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法>
上述の通り、本発明の第一の態様は、
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法であって、
(a)ニオブ含有溶液と、0.1〜30mol/Lの濃度を有するアルカリ溶液とを混合し、懸濁液を調製する工程と、
(b)得られた懸濁液を80℃〜150℃で12〜48時間静置する工程と、
(c)静置後の懸濁液を150℃〜300℃で1〜12時間ソルボサーマル反応させる工程と、
(d)ソルボサーマル反応の反応物からニオブ酸アルカリ金属塩粒子を回収する工程と、
を含む、略直方体状ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法に関する。
【0028】
上記式(1)中のMは、アルカリ金属、具体的にはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)から選択される1種の元素である。好ましくはLi、Na又はKであり、さらに好ましくはNa又はKである。中でも、得られる粒子のサイズがより小さく、またより立方体に近い均一性の高い粒子が得られる点で、MはKであることが好ましい。
【0029】
以下、各工程について説明する。
工程(a)は、ニオブ源であるニオブ含有溶液と、高濃度アルカリ溶液とを混合し、懸濁液を調製する工程である。
【0030】
ニオブ含有溶液を調製する方法は特に限定されないが、一例としてはニオブ化合物を酸性液体溶媒中に溶解させることにより調製できる。上記ニオブ化合物は、特に限定されないが、酸化ニオブ及びハロゲン化ニオブから選択される少なくとも一種であることが好ましい。ハロゲン化ニオブとしては、フッ化ニオブ、塩化ニオブ、臭化ニオブ、ヨウ化ニオブが挙げられるが、取り扱い性や反応性の観点から、塩化ニオブが好ましい。これらは単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0031】
上記酸性液体溶媒に含まれる溶媒としては、特に限定されないが、水;メチルアルコールやエチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール(EG)、グリセリン及びポリエチレングリコール(PEG)等のポリオール類が挙げられる。中でも沸点が比較的高く、ソルボサーマル法にも適用できる点で、水、エチレングリコール及びポリエチレングリコール、並びにその混合物が好ましく、水が特に好ましい。
【0032】
また酸性液体媒体に含まれる酸としては、特に限定されず、塩酸、硫酸及び硝酸等の無機酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸が挙げられる。中でも、反応後の除去が容易である点で塩酸、硝酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。
【0033】
次に工程(a)で用いるアルカリ溶液について説明する。
本発明において、アルカリ溶液は、所定の高濃度を達成できるものである限り特に限定されない。但し、通常アルカリ金属に含まれるアルカリ金属は、MNbOで表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子のMを構成するものであることから、具体的には、下記式(2):
MOH (2)
(式中、Mは式(1)における定義と同じ)
で表されるアルカリ金属の水酸化物等が好ましい。中でもNaOH又はKOHが特に好ましい。
【0034】
アルカリ溶液に含まれる溶媒については、特に限定されないが、水、アルコール、ジオール、トリオール、アセトン等が挙げられる。なかでも水が好ましい。
【0035】
本発明で用いるアルカリ溶液は、0.1〜30mol/Lという高濃度のものである。これは、溶液のpHが約13以上の超高濃度アルカリ溶液に相当する。すなわち、強塩基(NaOH、KOH等)を用い、その電離度はアルカリ溶液濃度に関わらず1であると仮定した場合、“0.1mol/L”のアルカリ溶液中のpHは、
[OH]=1.0×10−1mol/L
[H][OH]=1.0×10−14であるから、
[H]=1.0×10−13
pH=−log[H]=13
に相当する。
【0036】
アルカリ溶液の濃度が0.1mol/L未満の場合には粒子が充分に成長せず、所望の大きさ・形態の粒子を得ることができないことから好ましくない。一方、アルカリ溶液の濃度が30mol/Lを超えると、通常アルカリ溶液は飽和濃度に達する。従ってアルカリ溶液の濃度の上限は、事実上はアルカリ飽和濃度であり、この上限はアルカリの性質に応じて変動しうる。またアルカリ溶液の濃度の下限は、好ましくは1mol/L、さらに好ましくは2mol/Lである。なお、本発明で用いるアルカリ溶液はかなりの高濃度であることから、取り扱いには充分な注意を要する。特に限定されないが、工程(a)においては、テフロン(登録商標)製等の耐腐食性を有する反応容器を用いることが好ましい。
【0037】
このようにして別々に調製したニオブ含有溶液と、アルカリ溶液とを混合し、懸濁液を調製する。この際、添加方法は特に限定されず、ニオブ含有溶液をアルカリ溶液に添加してもよく、アルカリ溶液をニオブ含有溶液に添加してもよいが、安全面などを考慮すると、ニオブ含有溶液を、一定の時間をかけてゆっくりとアルカリ溶液中へ滴下するのが好ましい。混合時の温度や圧力は特に限定されず、通常は常温(15℃〜30℃)、常圧(約1気圧)の条件にて混合することができる。
【0038】
次に工程(b)について説明する。
工程(b)は、比較的低温で長時間懸濁液を加熱する工程である。本発明においては、比較的低温で長時間加熱する工程と、高温で短時間加熱するソルボサーマル反応工程の二段階を採ることが大きな特徴である。工程(b)を行わない場合には、通常、凝集体が生成し、粒径を充分に制御することができない。また工程(b)を行わない場合には、通常、本発明の一つの特徴でもある略直方体状の粒子は得られない。
【0039】
工程(b)においては、懸濁液を80〜150℃の温度に加熱する。この温度に一定時間保つことで、均一な前駆体を調製することができ、略直方体状へと粒子が成長するのを促進することができる。この温度は、好ましくは80〜120℃、より好ましくは90〜110℃、更に好ましくは溶媒の沸点である。すなわち、上記溶媒として水を用いる場合には、100℃に加熱するのが好ましい。
【0040】
工程(b)においては、上記特定の温度にて、12〜48時間静置することを特徴とする。このような時間静置することで、粒子生成のための均一な前駆体溶液あるいは懸濁液が得られ、略直方体状へと粒子が成長するのを促進することができる。静置する時間は、あまり短すぎると均一な前駆体の生成が充分に進まず、一方、あまり長すぎても効果が飽和し、また経済的ではない。従って、12〜48時間静置することが適当である。この時間は、好ましくは15〜36時間、より好ましくは18〜30時間、さらに好ましくは20〜26時間である。
【0041】
また工程(b)は、特に限定されないが、通常、常圧(約1気圧(約0.10MPa))下で行われる。
【0042】
次に工程(c)について説明する。
工程(c)は、工程(b)で比較的低温で加温した懸濁液を、さらに高温にてソルボサーマル反応させる工程である。
【0043】
ソルボサーマル反応とは、中〜高程度の圧力(通常、1atm〜10,000atm(0.10〜1,000MPa))と温度(通常100℃〜1000℃)の下で行われる反応であり、水を溶媒として使用する場合は特に「水熱反応(hydrothermal reaction)」と呼ばれる。この工程を経ることにより、粒子の結晶構造及び形状の制御を図ることができる。
【0044】
本発明において、ソルボサーマル反応時の温度は150℃〜300℃である。特に限定されないが、好ましくは150℃〜250℃である。
【0045】
また、ソルボサーマル反応を行う時間は、通常1〜72時間、好ましくは1〜8時間、より好ましくは2〜5時間である。
【0046】
ソルボサーマル反応を行う際の圧力は、特に限定されないが、通常0.10〜4.0MPaである。
【0047】
次に工程(d)について説明する。
工程(d)は、ソルボサーマル反応の反応物からニオブ酸アルカリ金属塩粒子を回収する工程である。
【0048】
ニオブ酸アルカリ金属塩粒子を回収する方法は特に限定されず、通常のろ過、洗滌、乾燥等により所望のニオブ酸アルカリ金属塩粒子を得ることができる。洗滌の回数や使用する溶媒等も特に限定されず、適宜選択することができる。
【0049】
<ニオブ酸アルカリ金属塩粒子>
次に本発明の第二の態様である、ニオブ酸アルカリ金属塩粒子について説明する。本発明のニオブ酸アルカリ金属塩粒子は、
下記式(1):
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子であって
ニオブ酸アルカリ金属塩は略直方体の形状を有し、
上記略直方体の辺のうち、最長辺の長さLmaxが0.10〜25μm、
最短辺の長さLmin長さは0.050〜15μmである。
【0050】
上記式(1)中のMは、具体的にはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)及びセシウム(Cs)から選択される1種の元素である。好ましくはLi、Na又はKであり、さらに好ましくはNa又はKである。中でも、サイズ・形状の面でより均一な粒子である点から、MはKであることが好ましい。
【0051】
本発明のニオブ酸アルカリ金属塩粒子は、粒子のサイズ・形状の均一性が高い略直方体形状をとる点が特徴的である。また物理的な粉砕工程などを経ることなく、化学的な操作のみで形状の制御ができ、しかも得られる粒子は、一般的な球状ではなく、略直方体状、という特殊な形状を有している。このような特徴は、公知の知見からは予想できないものである。
【0052】
本発明のニオブ酸アルカリ金属塩粒子は、微細な略直方体形状を有するものである。従来の方法により得られるニオブ酸アルカリ金属塩粒子はほとんどが凝集体であって、マイクロメートルオーダーの粒子サイズを有する粒子を得ることは困難であった。本発明ではニオブ酸アルカリ金属塩粒子の形状を略直方体に制御することにより、凝集体の発生を防ぎ、取り扱い性等の面で好適なマイクロメートルオーダーの粒子を得ることを可能にしたものである。
【0053】
またこのような粒子形状は、球体粒子や凝集粒子などと比較して密に充填することを可能にし、充填時の空隙を少なくする。従ってニオブ酸アルカリ金属塩粒子は本発明のセラミック材料とした場合に緻密化が容易である点で有利である。
【0054】
本願明細書において「略直方体」とは、実質的に直方体の形状や、立方体形状も含む。また「略直方体」には、直方体の一部が欠損しているものや、直方体の表面上に凹部や凸部を有しているものも含まれる。
【0055】
上記略直方体は、最長辺の長さLmaxが0.10〜25μm、最短辺の長さLminが0.050〜15μmである。略直方体は、通常、縦、横、高さとして表される全部で12の辺を有するが、本発明のニオブ酸アルカリ金属塩粒子は最長の辺の長さが0.10〜25μm、最短の辺の長さが0.050〜15μmである略直方体形状を有する、粒子サイズが制御された粒子である。
【0056】
この特徴について図面を参照しながら説明する。図1は本発明の略直方体粒子を模式図で表したものである。図1においては、x軸方向に向いた辺の長さをL1、y軸方向に向いた辺の長さをL2、z軸方向に向いた辺の長さをL3としている。ここでL1<L3<L2である。図1では、Lmax=L2、Lmin=L1である。従って図1を参照すれば、本願発明の粒子はL2が0.10〜25μm、L1が0.050〜15μmの範囲にあることを意味する。
【0057】
上記Lmaxは、好ましくは0.10〜20μmである。
【0058】
上記Lminは、好ましくは0.050〜10μm、より好ましくは0.050〜4μm、さらに好ましくは0.050〜2μm、特に好ましくは0.050〜1.5μmである。
【0059】
特にニオブ酸アルカリ金属塩がニオブ酸カリウムである場合には、よりサイズの小さい粒子を得ることができる。具体的には略直方体の各辺の長さが0.050〜1.5μm程度に制御された粒子を得ることができる。
【0060】
略直方体粒子の各辺の長さ及びLmax、Lminの値は、特に限定されないが、例えばニオブ酸アルカリ金属塩粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影し、その画像から各粒子の一辺の長さを読み取ることにより求めることができる。
【0061】
また、得られるニオブ酸アルカリ金属塩粉体(ニオブ酸アルカリ金属塩粒子を意味する)の全体を見た場合に粒子のサイズにばらつきが少ない点も本発明の特徴の一つである。特に限定されないが、粉体中の全略直方体状粒子の80%以上の粒子において、上記略直方体の各辺の長さが0.050〜25μmの範囲にあることが好ましい。上記比率は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0062】
また本発明の好ましい実施形態においては、略直方体の最長辺の長さLmaxと最短辺の長さLminの比Lmax/Lminが1〜5の範囲にある。
【0063】
図1を参照すると、Lmax=L2、Lmin=L1であることから、「比Lmax/Lminが1〜5の範囲」とは、図1ではL2/L1が1〜5の範囲にあることを意味する。
【0064】
上記比Lmax/Lminは1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1〜1.5がさらに好ましく、1であることが特に好ましい。比Lmax/Lminが1の場合とは、粒子形状が立方体であることを意味する。
【0065】
本発明のニオブ酸アルカリ金属塩粒子を調製する方法は、特に限定されないが、本発明の第一の態様である上述の製造方法によってニオブ酸アルカリ金属塩粒子を調製するのが好ましい。上記方法は粉砕等の物理的手段によらず、化学的手段のみで粒子サイズを制御できる画期的な方法であり、従来の手段に比べ工程の簡略化ができる点で好ましい。また粉砕等を行った場合には粒子サイズのばらつきを抑制することは一般的に困難であるのに対し、上記第一の態様の製造方法によれば、各粒子のサイズを制御でき、また粒子の凝集も防ぐことができる。その結果、得られる粒子は高度に粒子サイズが制御できることから、ニオブ酸アルカリ金属塩粒子を調製する方法としては、上記第一の態様の製造方法が好ましい。
【0066】
<圧電セラミックス材料>
本発明の第三の態様は、上記ニオブ酸アルカリ金属塩粒子からなる圧電セラミックス材料に関する。
【0067】
圧電セラミックス材料の製造方法は特に限定されないが、通常はニオブ酸アルカリ金属塩粒子を乾燥させたものと、有機バインダー、分散剤、可塑剤、溶媒等の必要な添加物等を混練した組成物を、公知の成型方法により成型し、高温(1000℃程度)で焼結させることにより得ることができる。公知の成型方法としては、プレス成型や金型成型等を挙げることができる。
【0068】
また圧電セラミックス材料から得られる成型体に電極を形成することにより、圧電ブザー、圧電振動子などの圧電素子を得ることができる。
【実施例】
【0069】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお下記実施例・比較例において、特に断りの無い限り、酸又はアルカリ溶液の濃度を示す「M」は「mol/L」を意味する。
【0070】
(実施例1)
(略立方体型NaNbO粒子の合成1)
塩化ニオブ27.02g(=100mmol)を0.10M HCl水溶液150mLに加え完全に溶解した後、容積200mLのメスフラスコに加え、0.10M HCl水溶液を用いて全量を200mLとすることにより0.50M NbClの0.10M HCl水溶液を得た。ついで、12.0M NaOH水溶液6.0mLを加えた30mL容のテフロン(登録商標)製容器に上記0.50M NbCl塩酸水溶液6.0mLを室温で攪拌しながらゆっくり加えた後、得られた白色懸濁液をテフロン(登録商標)容器中、100℃で24時間加熱静置した。ついで、内容物をテフロン(登録商標)内筒製オートクレーブに移し、250℃で3時間静置して加熱経時した。得られた懸濁液から固体を遠心分離で回収後、水に超音波分散・遠心沈降・乾燥してニオブ酸ナトリウム粒子を得た。得られた固体粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡(SEM、HITACHI、S−4800)で観察し、X線回折測定(XRD、Rigaku、Ultima−IV、40kV、40mA)により固体粒子の結晶構造を評価した。得られたNaNbO粒子のSEM写真およびXRDパターンを図2および図3にそれぞれ示す。一辺が2μm程度の立方体型粒子が得られ、NaNbO単相からなることがわかった。なお、2段階目の加熱温度を200℃としても目的粒子を得ることが可能であり、初期NaOH濃度を2〜18mol/Lと変化させることで、最長辺長さ0.10〜25μm、最短辺長さ0.050〜15μmの範囲で制御可能である。
【0071】
(実施例2)
(略立方体型KNbO粒子の合成1)
略立方体型KNbO粒子の合成は、12.0M NaOH水溶液の代わりに18.0M KOHを用いる以外は実施例1と同様の手順にて行った。得られたKNbO粒子のSEM写真を図4及び図5に示す。SEM写真に示すように、一辺の長さが約1μm程度の立方体型粒子が得られた。また立方体型粒子のXRD測定も行った。その結果、KNbO単相からなることがわかった。また、二段階目(工程(c))の加熱温度を150℃とすることで、収量の低下は見られるものの、図6に示すように0.2μm程度の粒度分布の狭い立方体型KNbO粒子が得られた。
【0072】
(実施例3)
(略立方体型NaNbO粒子の合成2)
テフロン(登録商標)製容器(30mL容)中の五酸化ニオブ0.40g(=3.0mmol)に8.0M NaOH水溶液6.0mLを添加し、全体積が12mLとなるようにイオン交換水を攪拌しながら加えた。ついで、テフロン(登録商標)製容器を密封し、100℃で24時間加熱静置した。ついで、内容物をテフロン(登録商標)内筒製オートクレーブに移し、250℃で3時間静置して加熱経時した。得られた懸濁液から固体を遠心分離で回収後、水に超音波分散・遠心沈降・乾燥してNaNbO粒子を得た。得られた粒子の評価は、実施例1に示した方法と同様の手法により行った。この際、初期NaOH濃度を5〜18mol/Lと変化させることで、略直方体のサイズを、各辺の長さが0.50〜25μmの範囲になるように制御できた。
【0073】
(実施例4)
(略立方体型KNbO粒子の合成2)
出発原料を五酸化ニオブとした略立方体型KNbO粒子の合成は、NaOH水溶液の代わりにKOH水溶液あるいは粒状KOHを加え、アルカリ濃度を18Mとした以外は実施例3と同様の加熱手順および洗浄操作により行った。得られたKNbO粒子のSEM写真を図7に示す。一辺が0.5μm程度の立方体型粒子であることがわかる。また、得られた粒子のXRD測定の結果、斜方晶系の結晶構造からなるKNbO粒子であった。
【0074】
(実施例5)
(略立方体型NaNbO粒子の合成3)
実施例1において調製した0.50M NbClの0.10M HCl水溶液6.0mLを、8.0M NaOH水溶液6.0mLに攪拌しながら加えることにより、白色懸濁液を調製した。白色懸濁液をテフロン(登録商標)製容器中で、100℃で24時間加熱静置したのち、内容物をテフロン(登録商標)内筒製オートクレーブに移し、250℃で3時間静置して加熱経時した。得られた懸濁液を遠心分離で固体を回収後、水に超音波分散・遠心沈降・乾燥してニオブ酸ナトリウム粒子を得た。得られた固体粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡で観察し、X線回折測定により固体粒子の結晶構造を評価した。得られたNaNbO粒子のSEM写真を図8に示す。
【0075】
(比較例1)
(一段階加熱を除いた略立方体型NaNbO粒子の合成)
100℃で24時間加熱静置する工程を省いた以外は実施例5と同様の方法でニオブ酸ナトリウム粒子を得た。得られた固体粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡で観察し、X線回折測定により固体粒子の結晶構造を評価した。また得られた粒子のSEM写真を図9に示す。
【0076】
実施例5と比較例1の比較から、あらかじめ100℃で加熱処理を施すことにより、凝集を防止しつつ粒径の揃った略立方体型NaNbO粒子が得られることが分かった。また、XRD測定の結果、図8および図9に示すいずれの粒子もNaNbO単相であった。
【0077】
(実施例6)
(略立方体型KNbO粒子の合成3)
テフロン(登録商標)製容器中、KOH濃度36Mとなるように調製したアルカリ溶液185mLに、Nb(12.3g)の分散液185mLを15mL/分の滴下速度にて攪拌しながら滴下した。得られた混合懸濁液をテフロン(登録商標)容器中で10分間攪拌した。得られた懸濁液をテフロン(登録商標)製内筒のオートクレーブに移し、30分かけて100℃に攪拌しながら昇温し、昇温後、100℃で24時間攪拌を続けた。ついで、2時間30分かけて200℃に昇温し、200℃で3時間攪拌しながら加熱した。加熱後、懸濁液を自然冷却し、得られた懸濁液から固体を遠心分離で回収後、水に超音波分散・遠心沈降およびデカンテーションによる洗浄を6回行った。ついで、洗浄液をアセトンとし、さらに3回遠心洗浄後、デシケーター中で乾燥することでニオブ酸カリウム粒子を得た。得られた固体粒子のサイズ・形態を走査型電子顕微鏡で観察し、X線回折測定により固体粒子の結晶構造を評価した。合成した粒子のSEM写真を図10及び図11に、XRD測定結果を図12にそれぞれ示す。粒子は立方体型の形状を有しており、菱面体晶のKNbOと帰属できる回折パターンであった。
【0078】
(実施例7)
(焼結によるKNbOセラミックスの調製と圧電特性評価)
実施例2で合成したKNbO粒子をペレット成型し、温度を変えて焼成し、得られたセラミックの圧電特性を評価した。各特性値を表1に示す。
【0079】
表中、Sintering Temp.は焼成温度を意味する。ρは焼成密度であり、粒子の寸法(体積)と重量から算出した。tanδは誘電損失であり、インピーダンスアナライザーにて測定した。また、ε33/εは比誘電率であり、インピーダンスアナライザーにて測定した。さらに、Kは電気機械結合係数であり、インピーダンスアナライザーにて共振周波数と反共振周波数の測定値から算出した。Nは周波数定数であり、インピーダンスアナライザーにて共振周波数の測定値と素子の直径から算出した。d33は圧電定数であり、d33メータにて測定した。
【0080】
【表1】

【0081】
表1から分かるように、本発明で得られるKNbOセラミックスは高い圧電特性を示すことがわかる。特に焼成温度を1020℃とした場合にd33=133.4と高い特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の製造方法は、粉砕等の物理的手段を経ることなく、化学的手段のみで直接的に微細なニオブ酸アルカリ金属塩粒子を得る方法である。本方法によれば、液相系の製造方法において略直方体状粒子を得ることができ、このような略直方体形状によって凝集を抑制でき、粒子サイズのばらつきが少ない微細粒子を得ることができる。得られる粒子は一辺がマイクロメートルオーダーの取り扱い性に優れたものであり、圧電材料として好適に用いることができるものである。
【符号の説明】
【0083】
L1 x軸方向の一辺の長さ
L2 y軸方向の一辺の長さ
L3 z軸方向の一辺の長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法であって、
(a)ニオブ含有溶液と、0.1〜30mol/Lの濃度を有するアルカリ溶液とを混合し、懸濁液を調製する工程と、
(b)得られた懸濁液を80℃〜150℃で12〜48時間静置する工程と、
(c)静置後の懸濁液を150℃〜300℃で1〜12時間ソルボサーマル反応させる工程と、
(d)ソルボサーマル反応後の反応物からニオブ酸アルカリ金属塩粒子を回収する工程と、
を含む、略直方体状ニオブ酸アルカリ金属塩粒子の製造方法。
【請求項2】
前記式(1)中のMはNaであり、前記アルカリ溶液は、NaOHである
請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(1)中のMはKであり、前記アルカリ溶液はKOHである
請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
前記ニオブ含有溶液は、
酸化ニオブ及び/又はハロゲン化ニオブと、
水、エチレングリコール及びポリエチレングリコールから選択される少なくとも一つの溶媒と、
酸と、
を含む請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
下記式(1):
MNbO (1)
(式中、Mはアルカリ金属から選択される1種の元素を表す)
で表されるニオブ酸アルカリ金属塩粒子であって
ニオブ酸アルカリ金属塩は略直方体の形状を有し、
前記略直方体の辺のうち、最長辺の長さLmaxが0.10〜25μm、
最短辺の長さLminが0.050〜15μmである
ニオブ酸アルカリ金属塩粒子。
【請求項6】
前記Lmaxと前記Lminの比Lmax/Lminが1〜5の範囲である、
請求項5記載のニオブ酸アルカリ金属塩粒子。
【請求項7】
前記式(1)中のMはNa又はKである
請求項5又は6記載のニオブ酸アルカリ金属塩粒子。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項の製造方法によって調製される
請求項5〜7のいずれか一項記載のニオブ酸アルカリ金属塩粒子。
【請求項9】
請求項5〜8のいずれか一項記載のニオブ酸アルカリ金属塩粒子からなる圧電セラミックス材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−241658(P2010−241658A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95013(P2009−95013)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000154196)株式会社富士セラミックス (12)
【Fターム(参考)】