説明

ニッケル電解液中のカルシウムの除去方法

【課題】本発明は、ニッケルの電解採取におけるカルシウム蓄積による硫酸カルシウムの析出が原因である配管詰り等のトラブルを解決し、操業を安定させる技術を提供することを目的としたものである。
【解決手段】ニッケル地金を製造する硫酸ニッケル溶液から、不純物として含有しているカルシウムをアルキルリン酸エステルにより、抽出時のpHを1.5以上5.0以下で抽出、除去するニッケル電解液の精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ニッケル含有溶液を用いて電解採取により、ニッケルを製造する方法において、電解液中からカルシウムを連続的あるいは間歇的に除去することにより、硫酸カルシウムが配管、電槽等に析出することを防止し、安定してニッケルを製造することに関する。
【背景技術】
【0002】
電解液に使用される硫酸ニッケル溶液は、ニッケルを含む硫化物、スクラップを硫酸に溶解した後、銅、鉄、亜鉛等の不純物を除去し、加熱蒸発することで濃縮、冷却することにより、晶出させた硫酸ニッケルを溶解して得られる。スクラップには、カルシウムやマグネシウム等も含まれていることもある。通常、ニッケル溶液中の銅や鉄を除去するには、難溶性の水酸化物を形成させる中和反応を利用する方法が採られている。この中和反応には、水酸化カルシウムおよび水酸化ナトリウムが使用され、コストやろ過性から水酸化カルシウムを使用することが多い。
【0003】
また、銅製錬において、硫酸浴を用いて電気銅を製造するが、原料の銅鉱石に含まれる種々の不純物のうち銅より卑な金属成分が電解液中に蓄積する。この不純物の中に有価金属であるニッケルがある為、銅電解液の一部を抜き出して、主成分の銅を晶出、電解、硫化処理等で除いて、得られた硫酸ニッケル溶液を、濃縮、冷却して硫酸ニッケルとして回収している。この硫酸ニッケルには、不純物として、鉄、銅、コバルト、銅、カルシウムが含まれている。銅、鉄、亜鉛およびコバルトは、特開2007−270291に示される方法で除去し、炭酸ニッケルにした後、再度硫酸に溶解することで、高純度硫酸ニッケル溶液を得ることができる。
【0004】
ニッケル地金を製造する場合には、特許文献1(特開2007−270291)記載のように、前記のようにして不純物を除いた硫酸ニッケル溶液を用いて、不溶性電極を用いた電解採取を行うことが普通である。電解採取の場合、電解により減少したニッケル成分を炭酸ニッケルや水酸化ニッケルの形で補給する。
電解液中の銅、鉄、亜鉛等の不純物は、ニッケルと共析してニッケル地金の純度を悪くする為、炭酸ニッケルや水酸化ニッケルも銅、鉄、亜鉛が少ないものが望まれている。
そこで銅、鉄、亜鉛、コバルトを除去した硫酸ニッケルから炭酸ニッケルや水酸化ニッケルを製造することが考えられた。
特許文献2(特開平10−30135)には、高純度ニッケル溶液は、スクラップを硫酸に溶解した硫酸ニッケル溶液を、溶媒抽出処理で鉄、コバルトを0.03g/L以下まで精製できるが、カルシウムも0.02g/L残存している。
炭酸ニッケルは、特許文献1(特開2007−270291)の0014段落に記載されているように不純物を除去した硫酸ニッケルを炭酸ナトリウムで中和して製造するが、硫酸ニッケル中に含まれるカルシウムは、不純物として炭酸ニッケルに残存することが判った。
このカルシウムを含有した炭酸ニッケルを使用して、長期間ニッケルの電解採取を行うとカルシウムが蓄積する。化学便覧に記載(非特許文献1)の通り、硫酸カルシウムの溶解度は、25℃において0.208wt%(カルシウムとして、約0.61g/L)、60℃において0.152wt%(同、約0.55g/L)、80℃において0.1wt%(同、約0.30g/L)と小さい為、カルシウムが蓄積すると硫酸カルシウムの形で配管や電解槽内に析出する。特に電解液の温度を調整する熱交換器では、70−80℃の高温部と接触する為、より硫酸カルシウムが析出し易い。このように、カルシウムが蓄積すると硫酸カルシウムの形で析出し、配管や熱交換器を詰まらせて、ニッケル電解のトラブルになっている。
【特許文献1】特開2007−270291「粗製硫酸ニッケルからの金属ニッケル製造方法」
【特許文献2】特開平10−30135「高純度ニッケル水溶液の製造方法」
【非特許献1】
化学便覧(改訂3版)基礎編II、II−168
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電解採取によりニッケル地金を製造する場合において、電解液中に蓄積したカルシウムが硫酸カルシウムとして析出して、配管詰まり等のトラブルを防止する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するため、電解液に含有されているカルシウムを溶媒抽出により除去し、硫酸カルシウムの析出による配管の詰り等のトラブルを防止し、効率的にニッケル地金を製造できるとの知見を得た。
この知見に基づき、本発明は
(1) ニッケル地金を製造する硫酸ニッケル溶液から、不純物として含有しているカルシウムをアルキルリン酸エステルにより、抽出時のpHを1.5以上5.0以下で抽出、除去することを特徴とする除去したニッケル電解液の精製方法。
【0007】
(2) (1)に於いて、電解液に含有しているカルシウム濃度が、0.2g/L以下であることを特徴とするニッケル電解液の精製方法。
(3) (1)または(2)の何れかの記載の電解液を用いてカルシウムを除去する工程の後に活性炭処理工程を有することを特徴とするニッケル電解液の精製方法。
【発明の効果】
【0008】
以上から、本発明により、
(1)電解液中のカルシウムを溶媒抽出で除去することにより、硫酸カルシウムの析出による配管の詰り等のトラブルを防止できる。
(2)効率的にニッケル地金を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一態様である溶媒抽出によるカルシウム除去工程を含むニッケル電解精製の概略図を示す。
【図2】従来のニッケル電解精製の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ニッケル地金を製造する電解採取において、アノードに不溶性のDSEやPbを使用するため、電着により減少したニッケルは、炭酸ニッケルや水酸化ニッケルの形で補給する。炭酸ニッケルの補給は、連続的あるいは間歇的に電解液の一部を抜き出し、所定量の炭酸ニッケルを電解液に加えて溶解、ろ過し、電解槽あるいは貯蓄槽に移送し戻される。炭酸ニッケルには、不純物としてカルシウムを含むため、長期間連続電解すると、カルシウムが電解液に蓄積し、硫酸カルシウムの形で析出し、配管詰り等のトラブルの原因となる。
【0011】
本発明では、連続的あるいは間歇的に抜き出した電解液に対して、アルキルリン酸系エステルを抽出剤として用い、抽出時のpHを1.5−5.0としてカルシウムを除去する。
また電解液温度を50−55℃に調整する場合、熱交換器における温度が70−80℃であることから、80℃におけるカルシウムの溶解度から、カルシウム濃度は、電解液中で約0.3g/L以下で硫酸カルシウムの析出は防止できるが、安全性を顧慮すると、0.2g/L以下が必要であり、より安定させるには0.1g/L以下がより好ましい。
【0012】
カルシウムの除去には、溶媒抽出が有効である。抽出剤としては、ジアルキルリン酸エステル(商品例:DP−8R 大八化学)が適している。カルシウム濃度を0.2g/L以下にするには、O/A比 1/1ではpH1.5以上、O/A比 1/2−1/4ではpH2.0以上で達成できる。カルシウム濃度0.1g/L以下にするには、O/A比 1/1ではpH2.0以上、O/A比 1/2−1/4ではpH2.5以上で達成できる。pHが5.5以上になると、水酸化ニッケルの沈殿が生じるため、pH5.0以下が好ましく、より好ましくはpH4.5以下である。
【0013】
カルシウムを除去した電解液には、微量の抽出剤や有機溶媒が残っている場合があり、有機物が混入した電解液を用いてニッケル地金を製造すると、ニッケル地金の表面に気泡によるピンホールやノジュールが生じ、外観不良になる為、活性炭処理により抽出剤や有機溶媒を除去することが好ましい。活性炭処理は、公知の技術で十分である。活性炭の処理量としては、電解液1Lあたり0.1−10gである。
【0014】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想の範囲内で、実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【実施例】
【0015】
図2に、従来のニッケルの電解採取装置の概略図を示す。ニッケル電解装置には、全液量1000L、各槽の液保有量は電解槽100L、カソード貯液槽900−700L、アノード貯液槽0−200Lとし、ポンプおよびフィルターを装備している。
電解槽はカソードとアノードを隔膜で分離している。電解液は、カソード側に10−25L/分で供給し、オーバーフローによりカソード貯液槽に戻る。アノード側は、オーバーフロー部の液面をカソード側より若干低くし、カソード側液面とアノード側液面差により隔膜を通過した電解液がアノード貯液槽に戻る。アノード貯液槽には、おおよそ10−15L/時間で電解液が溜まる。アノード貯液槽に溜まった電解液は、6〜8時間毎に炭酸ニッケルでニッケル濃度の調整、および必要に応じてpHを調整して、カソード貯液槽に戻した。ニッケルの電解は、アノードおよびカソード面積共に50dm2とし、電流密度0.5−5.0A/dm2で実施した。電解液は、ニッケル濃度を80−105g/Lの範囲で管理した。
【0016】
(実施例1−9、比較例1−3)
図2の電解装置により、連続的に電解を続けて、カルシウム濃度0.523g/Lの電解液を作製した。この電解液を用いて、20vol%のアルキルリン酸エステル抽出剤(大八化学;DP−8R、希釈液shellsol D−70)で表1の条件で振とうした結果、表1に示す通り、カルシウム濃度0.2g/L以下になる条件は、O/A比 1/1の場合、pH1.5以上、O/A比 1/2では、pH2.0以上であった。
更にカルシウム濃度0.1g/L以下になる条件は、O/A比 1/1および1/2の場合、pH2.0以上、O/A比 1/4では、pH2.5以上であった。比較例1〜3に示すとおり、pHが低いときは、カルシウム濃度は0.3g/L以上であり、80℃における硫酸カルシウムの溶解度を超えている。
【表1】

【0017】
(実施例10−14、比較例4,5)
アルキルリン酸エステル抽出剤(大八化学DP−8R、希釈液shellsol D−70)を10vol%にした抽出剤を用いて、表2の条件で実施した。
表2に示すとおり、pカルシウム濃度0.2g/L以下になる条件は、O/A比 1/1の場合、pH1.5以上、O/A比 1/2では、pH2.0以上であった。
更にカルシウム濃度0.1g/L以下になる条件は、O/A比 1/1の場合、pH2.0以上、O/A比 1/2では、pH4.0以上であった。
比較例4および5に示すとおり、pHが低いときは、カルシウム濃度は0.3g/L以上であり、80℃における硫酸カルシウムの溶解度を超えている。
【表2】

【0018】
(実施例15)
図1に示す溶媒抽出によるカルシウム除去工程を含むニッケル電解精製の電解装置を用いて、ニッケル濃度90g/L、カルシウム濃度0.582g/Lの電解液を、連続的に電解を実施し、同時にカルシウムの除去を行い、その後、活性炭処理を行った。
アノード貯液槽に溜まった電解液は、6〜8時間毎に炭酸ニッケルでニッケル濃度を調整し、セトラーミキサーで、O/A比 1/2、最終pH2.5−3.0になる条件でカルシウムの除去を実施した。
その結果、電解液中のCa濃度は、連続電解中に減少し、100時間後 0.192g/L、200時間後 0.0986g/L、300時間以降は 0.04−0.07g/Lと安定した。
電解により得られたニッケル地金の表面状態は、ピンホールやノジュールがなく良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル地金を製造する硫酸ニッケル溶液から、不純物として含有しているカルシウムをアルキルリン酸エステルにより、抽出時のpHを1.5以上5.0以下で抽出、除去することを特徴とする除去したニッケル電解液の精製方法。
【請求項2】
請求項1に於いて、電解液に含有しているカルシウム濃度が、0.2g/L以下であることを特徴とするニッケル電解液の精製方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2の何れかの記載の電解液を用いてカルシウムを除去する工程の後に活性炭処理工程を有することを特徴とするニッケル電解液の精製方法。

【図1】
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【図2】
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