説明

ニトロソアミンを発生しないゴム組成物

【課題】ゴム用加硫促進剤であるN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドの代替となる化合物の提供。
【解決手段】
化1で表されるベンゾチアゾール化合物をN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドの代替化合物として用いる。
【化1】


(式中R及びRは同一又は異なる炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐したアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム用の加硫促進剤に関し、具体的には有害なニトロソアミンの発生源となるN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドの代替となる化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のベンゾチアゾリルスルフェンアミド化合物はゴム用加硫促進剤として用いられており、加硫反応に遅効性を与えることを特徴とし、一般的にスルフェンアミド系加硫促進剤と称する。ゴムは熱伝導性が悪く、肉厚のゴム製品を製造する上で均一な加硫をすることが難しく、その場合加硫反応に遅効性を与えるスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが有効とされている。またスルフェンアミド系加硫促進剤は構造内に1級のアミノ基を有した化合物と2級のアミノ基を有した化合物があるが、加硫反応の遅効性を得るには、2級のアミノ基を有したスルフェンアミド系加硫促進剤を用いることが好ましい。例えばN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミド(略称:OBS)やN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(略称:DCBS)等が市販されている(非特許文献1〜3参照)。
【0003】
一方、非特許文献4は発癌の危険性のある有害なニトロソアミン化合物について記載されており、その発生源としてジシクロヘキシルアミノ基を構造内に有するDCBSは問題とならないものの、モルホリン構造を有するOBSは有害なニトロソアミン化合物の発生源となる可能性があり、代替物質が求められている。
尚、特許文献1に本発明に用いられる2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾールの製法について記載されているが、N−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドの代替を目的とした記載はない。
【0004】
【非特許文献1】遅効性加硫用薬剤としてのS−N化合物(その1),日本ゴム協会誌,第51巻,第11号,1978年,842〜852頁
【非特許文献2】遅効性加硫用薬剤としてのS−N化合物(その2),日本ゴム協会誌,第51巻,第12号,1978年,905〜910頁
【非特許文献3】遅効性加硫用薬剤としてのS−N化合物(その3),日本ゴム協会誌,第52巻,第1号,1979年,34〜40頁
【非特許文献4】TRGS552(N−Nitrosamine)
【特許文献1】US4017489
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ゴム用加硫促進剤であるN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)の代替となるニトロソアミンを発生しない化合物を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。即ち、化1で表されるベンゾチアゾール化合物をゴム用加硫促進剤、N−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドの代替化合物として用いることで、有害なニトロソアミンの発生源とならないゴム組成物を得ることができた。
【0007】
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なる炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐したアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)
【0008】
化1で表される化合物の具体例としては、2−(ジイソプロピルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジオクチルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジ−2−エチルヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール等が挙げられるが、化2で表される2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾールが好ましい。
【0009】
【化2】

【発明の効果】
【0010】
化1で表されるベンゾチアゾール化合物はゴム用加硫促進剤であるN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミド(OBS)の代替化合物として有用であり、有害なニトロソアミンの発生源とならないゴム組成物を得ることができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明が実施例によって何ら限定されないことは勿論である。
【0012】
2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾールの合成例
3L四ツ口フラスコにN,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DZ)225.0g(0.65mol)、硫黄22.1g(0.69mol)、ジシクロヘキシルアミン122.6g(0.68mol)、イソプロパノール1125mlを仕込み、30分かけて83℃まで昇温させた。25時間撹拌後、室温まで冷却し、n−ヘキサン1800mlを加えて副生物を沈殿させた。副生物をろ過により除去し、ろ液を一晩静置した。静置すると副生物が再度析出するのでこれをろ過した後、ろ液を45℃で全量が1/3位になるまで濃縮を行った。得られた溶液に種晶を0.3g添加し一晩静置すると目的物が析出した。結晶をろ別後ヘキサン80mlで洗浄し、ろ液は再度種晶0.3gを添加し一晩静置後、ろ過、ヘキサン80mlで洗浄を行った。2回分の結晶を合わせメタノール750mlで洗浄した後、25℃で真空乾燥することで微黄色結晶性粉末である2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾール(DZ−SS)89.5gを得た(収率36.4%)。
m/z 378(M
IR(KBr)2923,2853,1740,1452,1420,1159,1105,1051,997,973,889,754,724,488cm−1
【0013】
表1に実施例と比較例のゴム試験結果を示す。
各ゴム配合は、密閉混合機およびオープンロールを用いた通常の方法で混練りし、加硫プレスを用いて所定条件にて試験用加硫ゴムを得た。ムーニースコーチ試験は、JIS K6300に準拠して行った。振動式加硫試験機による加硫試験は、アルファテクノロジーズ社製、M.D.R.2000を用いて測定した。加硫ゴム物性試験はJIS K6251,K6252,K6253およびK6257にそれぞれ準拠して行った。
【0014】
表1に示されたゴム試験結果より、実施例(化1)は比較例1(OBS)と近似したスコーチタイム(t5)および最適加硫時間(Tc(90))となり、加硫条件を変えることなく代替が容易にできる。一方、比較例2(DCBS)は比較例1(OBS)よりも加硫反応が遅い傾向にあるため、直接的な代替は難しい。また、加硫ゴム物性についても実施例と比較例1の間には大きな差は見られない。したがって、2−(ジシクロヘキシルアミノジチオ)ベンゾチアゾールの加硫性能はN−オキシジエチレンベンゾチアゾリルスルフェンアミドと近似しており、置換することで得られるゴム組成物は有害なニトロソアミン化合物の発生源となることを回避できる。
【0015】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム100重量部に対して、化1で表される化合物を0.1〜5.0重量部配合することを特徴とするゴム組成物。
【化1】

(式中、R及びRは同一又は異なる炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐したアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)

【公開番号】特開2009−263607(P2009−263607A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137250(P2008−137250)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000199681)川口化学工業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】