説明

ニトロ化カーボンナノチューブおよび表面修飾カーボンナノチューブの製造方法

【課題】水やエタノールなどの溶媒に、より高濃度で分散(溶解)させることが可能な表面修飾されたカーボンナノチューブを製造する方法を提供すること。
【解決手段】発煙硝酸中または発煙硝酸と濃硫酸との混酸中、60〜90℃で、カーボンナノチューブに超音波処理を施して前記カーボンナノチューブにニトロ基を付加せしめることにより得られるニトロ化カーボンナノチューブと、求核剤とを反応せしめることにより、前記ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基を他の官能基に置換せしめることを特徴とする表面修飾カーボンナノチューブの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトロ化カーボンナノチューブの製造方法および前記ニトロ化カーボンナノチューブを用いた表面修飾カーボンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)は、熱伝導性、電気伝導性、機械的特性などに優れ、また貯蔵安定性も有することから注目され、例えば、電子デバイス材料、顕微鏡探針、電界放出ディスプレイ用エミッタ、リチウム二次電池負極などの電極材料、燃料電池の拡散層やセパレーター、電界効果トランジスタ、ドラッグデリバリーシステム用材料などの医療用材料、樹脂やセラミックスとの複合材料、分子貯蔵材料などへの用途展開に向けた開発が進められている。しかしながら、カーボンナノチューブは、ファンデルワールス力により凝集しやすく、溶媒中や樹脂中での分散性が悪いため、前記特性を十分に発揮できないという問題があった。
【0003】
そこで、カーボンナノチューブの溶媒中での分散性を向上させるため、カーボンナノチューブの表面に官能基を導入して溶媒との親和性を高める方法が提案されている。例えば、特表2002−503204号公報(特許文献1)には、グラファイト性ナノチューブの表面炭素を硝酸および硫酸と反応させてニトロ化ナノチューブを形成し、その後、ニトロ化ナノチューブを還元してアミノ化ナノチューブを形成する方法が開示されている。また、Y. Wang et al.、J. Am. Chem. Soc.、2006年、第128巻、第1号、95〜99ページ(非特許文献1)には、硝酸と硫酸との混合液中でシングルウォールカーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」と略す。)にマイクロ波処理を施して、高水分散性(10mg/mL)のナノチューブを合成する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法により得られた表面修飾カーボンナノチューブは、溶媒への分散性の点で未だ十分なものではなかった。
【0004】
また、Y. Wang et al.、Chem. Phys. Lett.、2005年、第407巻、68〜72ページ(非特許文献2)には、SWCNTシートを硝酸カリウム水溶液中で電極として作用させることによりSWCNT上にNO基を形成する方法が開示されている。しかしながら、この方法においては、SWCNTをシート状に成形する必要があるため、大量のSWCNTをニトロ化する方法としては不向きであった。
【特許文献1】特表2002−503204号公報
【非特許文献1】Y. Wang et al.、J. Am. Chem. Soc.、2006年、第128巻、第1号、95〜99ページ
【非特許文献2】Y. Wang et al.、Chem. Phys. Lett.、2005年、第407巻、68〜72ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、水やエタノールなどの溶媒に、より高濃度で分散(溶解)させることが可能な表面修飾されたカーボンナノチューブを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、発煙硝酸中、特定の温度でカーボンナノチューブに超音波処理を施すことにより前記カーボンナノチューブにニトロ基が付加されることを見出し、また、前記カーボンナノチューブ上のニトロ基は、求核剤と反応して種々の官能基(以下、「他の官能基」という。)に置換されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法は、発煙硝酸中または発煙硝酸と濃硫酸との混酸中、60〜90℃で、カーボンナノチューブに超音波処理を、好ましくは1〜6時間施して、前記カーボンナノチューブにニトロ基を付加せしめることを特徴とする方法である。
【0008】
また、前記カーボンナノチューブが、マルチウォールカーボンナノチューブである場合においては、発煙硝酸と濃硫酸との混酸中でこのマルチウォールカーボンナノチューブに超音波処理を施すことが好ましい。
【0009】
また、本発明の表面修飾カーボンナノチューブの製造方法は、このようにして得られるニトロ化カーボンナノチューブと求核剤とを反応せしめることにより、前記ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基を他の官能基に置換せしめることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水やエタノールなどの溶媒に、より高濃度で分散(溶解)させることができる表面修飾されたカーボンナノチューブを製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0012】
<ニトロ化カーボンナノチューブ>
先ず、本発明のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法について説明する。本発明のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法は、発煙硝酸中または発煙硝酸と濃硫酸との混酸中、60〜90℃で、カーボンナノチューブに超音波処理を施すことを特徴とする方法である。これにより、カーボンナノチューブに多くのニトロ基を付加させることができる。また、発煙硝酸を用いることによって、硝酸を用いた場合に比べて高収率でニトロ化カーボンナノチューブを製造することができる。
【0013】
本発明に用いられるカーボンナノチューブとしては、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)およびマルチウォールカーボンナノチューブ(以下、「MWCNT」と略す。)が挙げられる。また、前記カーボンナノチューブには炭素以外の原子や分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。
【0014】
前記カーボンナノチューブの平均直径は特に制限されないが、100nm以下であることが好ましく、90nm以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの平均直径が前記上限を超えると反応性が低下する傾向にある。なお、前記平均直径の下限は特に制限されないが、通常1nm以上である。
【0015】
本発明に用いられるカーボンナノチューブは、レーザーアブレーション法、アーク合成法、化学気相成長法(CVD法)、または溶融紡糸法などの従来公知の製造方法を用途に応じて適宜選択することにより製造することが可能であるが、本発明に用いられるカーボンナノチューブはこれらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0016】
本発明においては、発煙硝酸として、通常のニトロ化反応に用いられるものを使用することが可能である。また、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を用いることもできる。発煙硝酸と濃硫酸との混酸は反応性が高く、発煙硝酸のみを用いた場合に比べてより多くのニトロ基をカーボンナノチューブに付加させることができる。また、反応性が低いMWCNT、特に口径が7〜100nm(好ましくは40〜100nm)の大口径のMWCNTをカーボンナノチューブとして使用する場合においては、より多くのニトロ基をMWCNTに付加させることができるという観点から、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を使用することが好ましい。
【0017】
前記混酸中の濃硫酸の量は、発煙硝酸100質量部に対して50〜200質量部であることが好ましく、80〜150質量部であることがより好ましい。混酸中の濃硫酸の量が前記下限未満になると反応性が十分に高くならず、カーボンナノチューブにニトロ基が十分に付加されない傾向にある。他方、前記上限を超えても反応性の向上に関してそれ以上の効果が得られない傾向にある。また、前記濃硫酸には反応性に影響がない範囲で水が含まれていてもよいが、その含水率は2質量%以下であることが好ましい。
【0018】
本発明において、発煙硝酸、または発煙硝酸と濃硫酸との混酸に添加する前記カーボンナノチューブの量は、発煙硝酸100質量部または発煙硝酸と濃硫酸との混酸100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。カーボンナノチューブの添加量が前記上限を超えると反応系全体の粘性が高くなり、反応効率が低下してカーボンナノチューブが十分にニトロ化されない傾向にある。
【0019】
また、本発明においては超音波処理を60〜90℃で実施する。超音波処理を施すことによって高収率でニトロ化カーボンナノチューブを製造することができる。また、超音波処理温度が前記下限未満になるとニトロ化反応が十分に進行せず、ニトロ化カーボンナノチューブの収率が低下したり、カーボンナノチューブに十分な量のニトロ基が付加されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、超音波処理温度が発煙硝酸または発煙硝酸と濃硫酸との混酸の沸点に近く、反応を制御しにくくなる傾向にある。また、このような観点から超音波処理温度は70〜90℃が好ましい。一方、ニトロ化率を低く制御する場合には超音波処理温度は60℃未満でもよい。
【0020】
本発明における超音波処理時間としては1〜6時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。超音波処理時間が前記下限未満になるとニトロ化反応が十分に進行せず、カーボンナノチューブに十分な量のニトロ基が付加されない傾向にあり、他方、前記上限を超える時間超音波処理を施してもそれ以上の効果が得られない傾向にある。
【0021】
このように、発煙硝酸中または発煙硝酸と濃硫酸との混酸中、特定の温度でカーボンナノチューブに超音波処理を施すことによって、カーボンナノチューブにニトロ基を付加することができる。ニトロ化されたカーボンナノチューブは、エタノールに高濃度(例えば、0.01〜0.5質量%)で分散(溶解)させることが可能となり、特にニトロ化SWCNTは、エタノール、アセトン、酢酸エチルなどの溶媒に高濃度(例えば、0.01〜0.1質量%)で分散(溶解)させることが可能となる。
【0022】
また、ニトロ化されたカーボンナノチューブにおいて、ラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)は特に制限されないが、ニトロ化SWCNTにおいては0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。ニトロ化SWCNTのG/D値が前記下限未満になるとニトロ基の付加率が高くなりすぎてカーボンナノチューブとしての性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとニトロ基の付加率が低く、溶媒への分散性(溶解性)が低下する傾向にある。
【0023】
ニトロ基は脱離性の高い官能基であるため、ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基を様々な他の官能基に置換させることができる。したがって、本発明の製造方法により得られたニトロ化カーボンナノチューブは様々な表面修飾カーボンナノチューブの原料として有用である。
【0024】
<表面修飾カーボンナノチューブ>
次に、本発明の表面修飾カーボンナノチューブの製造方法について説明する。本発明の表面修飾カーボンナノチューブの製造方法は、前記本発明のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法により得られたニトロ化カーボンナノチューブと求核剤とを反応させることを特徴とする方法である。これにより前記ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基が他の官能基に置換され、表面が化学的に修飾されたカーボンナノチューブを高収率で得ることが可能となる。
【0025】
本発明に用いられる求核剤としては、ニトロ基を求核置換できるものであれば特に制限されず、従来公知のものを使用することができる。このような求核剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、硫化ナトリウム、1級または2級の有機アミン、ナトリウムアルコキシド、シアン化ナトリウム、ニトロメタンのナトリウム塩、マロン酸エステルのナトリウム塩などが挙げられ、これらの求核剤により前記ニトロ基は、それぞれアミノ基、水酸基、メルカプト基、有機アミノ基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロメチル基、ビス(アルコキシカルボニル)メチル基などの官能基に置換される。本発明においては、前記求核剤は通常、溶媒(例えば、水)に溶解した状態で使用される。この場合、求核剤の濃度としては1〜30質量%が好ましい。求核剤の濃度が前記下限未満になると前記ニトロ基が十分に他の官能基に置換されず、ニトロ基が残存する傾向にある。他方、前記上限を超えても他の官能基への置換に関してそれ以上の効果が得られない傾向にある。
【0026】
前記求核剤と混合するニトロ化カーボンナノチューブの量は、前記求核剤100質量部に対して10〜1000質量部であることが好ましい。ニトロ化カーボンナノチューブの混合量が前記下限未満になると表面修飾カーボンナノチューブの収率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとニトロ基が十分に他の官能基に置換されず、ニトロ基が残存する傾向にある。
【0027】
本発明において、前記置換反応の条件(反応温度、反応時間など)は適宜設定することができる。例えば、反応温度としては0〜100℃が好ましく、0〜50℃がより好ましく、反応時間としては0.1〜24時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。反応時間または反応温度が前記下限未満になると前記ニトロ基が十分に他の官能基に置換されず、ニトロ基が残存する傾向にある。他方、反応温度または反応時間が前記上限を超えた場合でも他の官能基への置換に関してそれ以上の効果が得られない傾向にある。
【0028】
このように、ニトロ化カーボンナノチューブを求核剤と反応せしめることによって、ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基を他の官能基に置換することができる。このような他の官能基を備えるカーボンナノチューブは、水に、高濃度(例えば、1〜10質量%)で分散(溶解)させることが可能となる。また、アミノ基や水酸基などの他の官能基を反応活性点として有機化合物を反応させ、カーボンナノチューブを有機化することも可能となる。
【0029】
また、他の官能基を備えるカーボンナノチューブにおいて、ラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)は特に制限されないが、他の官能基を備えるSWCNTにおいては0.1〜10であることが好ましく、1〜5であることがより好ましい。他の官能基を備えるSWCNTのG/D値が前記下限未満になると他の官能基への置換率が高くなりすぎてカーボンナノチューブとしての性能が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると他の官能基への置換率が低く、溶媒への分散性(溶解性)が低下する傾向にある。
【実施例】
【0030】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
先ず、シングルウォールカーボンナノチューブ(アルドリッチ社製、商品名「カルボレックス」、平均直径:1.2〜1.5nm、アスペクト比:1300〜4200、G/D値:14.3。以下、「SWCNT」と略す。)50mgを10ml(15g)の発煙硝酸に添加し、この分散液に90℃で6時間、超音波処理(発振周波数:40kHz)を施した。その後、この分散液をろ過し、ろ滓を水で洗浄してニトロ化SWCNTを65mg得た。
【0032】
このニトロ化SWCNTについてX線光電子分光分析(XPS分析)を実施したところ、図1に示すように、405eVを中心とするニトロ基の窒素原子に対応したピークが観察され、SWCNTにニトロ基が付加されていることが確認された。また、前記XPS分析により測定した前記ニトロ化SWCNTの元素比を表1に示す。
【0033】
また、得られたニトロ化SWCNTを、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から1000℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施した。その結果を図2に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、前記熱重量分析中において発生したガスを、発生ガス分析法(EPA)により分析したところ、200〜300℃において一酸化窒素が発生していることが確認された。この一酸化窒素はニトロ化SWCNT中のニトロ基に由来するものと推察される。したがって、前記熱重量分析における100〜300℃の範囲の質量減少はニトロ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記ニトロ化SWCNTのニトロ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0034】
また、濃度が0.1質量%となるように、得られたニトロ化SWCNTをエタノール、アセトンまたは酢酸エチルに添加したところ、いずれの溶媒においてもこのニトロ化SWCNTは溶解した。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得たニトロ化SWCNT(65mg)を1mol/Lのアンモニア水(10ml)に添加し、この分散液を室温で1時間攪拌した。その後、この分散液からアンモニア水を減圧留去し、残渣を10mlの水に再溶解して30分間攪拌した。その後、この溶液をろ過し、得られたろ液から減圧処理により水を留去してアミノ化SWCNTを60mg得た。
【0036】
このアミノ化SWCNTについてX線光電子分光分析(XPS分析)を実施したところ、図1に示すように、ニトロ基の窒素原子に対応したピークは観察されず、399eVを中心とするアミノ基の窒素原子に対応したピークが観察された。このことから、ニトロ化SWCNTのニトロ基がアミノ基に置換されたことが確認された。また、前記XPS分析により測定した前記アミノ化SWCNTの元素比を表1に示す。実施例2のアミノ化SWCNTの酸素含有量は、実施例1のニトロ化SWCNTに比べて少ないことからも、ニトロ化SWCNTのニトロ基がアミノ基に置換されたことが確認された。
【0037】
また、得られたアミノ化SWCNTについて、ラマン分光光度計(日本分光(株)製「NRS−3300」)を用いてラマン測定を実施した。その結果を図3に示す。
【0038】
さらに、得られたアミノ化SWCNTを、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から1000℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施した。その結果を図4に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化SWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0039】
また、濃度が10質量%となるように、得られたアミノ化SWCNTを水に添加したところ、このアミノ化SWCNTは溶解した。
【0040】
(実施例3)
超音波処理温度を80℃に変更した以外は実施例1と同様にしてニトロ化SWCNTを得た後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを61mg得た。このアミノ化SWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表1には前記アミノ化SWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。
【0041】
また、得られたアミノ化SWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図5に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化SWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0042】
さらに、濃度が10質量%となるように、得られたアミノ化SWCNTを水に添加したところ、このアミノ化SWCNTは溶解した。
【0043】
(実施例4)
超音波処理温度を70℃に変更した以外は実施例1と同様にしてニトロ化SWCNTを得た後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを60mg得た。このアミノ化SWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表1には前記アミノ化SWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。
【0044】
また、得られたアミノ化SWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図6に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化SWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0045】
さらに、濃度が10質量%となるように、得られたアミノ化SWCNTを水に添加したところ、このアミノ化SWCNTは溶解した。
【0046】
(実施例5)
超音波処理温度を60℃に変更した以外は実施例1と同様にしてニトロ化SWCNTを得た後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを48mg得た。このアミノ化SWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表1には前記アミノ化SWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。
【0047】
また、得られたアミノ化SWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図7に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化SWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0048】
さらに、濃度が10質量%となるように、得られたアミノ化SWCNTを水に添加したところ、このアミノ化SWCNTは溶解した。
【0049】
(実施例6)
超音波処理時間を3時間に変更した以外は実施例1と同様にしてニトロ化SWCNTを得た後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを61mg得た。このアミノ化SWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表1には前記アミノ化SWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。
【0050】
また、得られたアミノ化SWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図8に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化SWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表1に示す。
【0051】
さらに、濃度が10質量%となるように、得られたアミノ化SWCNTを水に添加したところ、このアミノ化SWCNTは溶解した。
【0052】
(比較例1)
実施例1、3〜6で使用した未処理のSWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表1には前記未処理のSWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。また、未処理のSWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図9に示す。この場合の質量減少は吸着物質の脱離に起因するものと推察される。さらに、濃度が0.1質量%となるように、前記未処理のSWCNTを水、エタノール、アセトンまたは酢酸エチルに添加したところ、いずれの溶媒においても未処理のSWCNTは溶解しなかった。
【0053】
(比較例2)
発煙硝酸の代わりに濃度60質量%の硝酸10mlを用いた以外は実施例1と同様にしてニトロ化処理を施した後、実施例2と同様にしてアミノ化処理を施したが、アミノ化SWCNTは、ほとんど得られなかった。
【0054】
(比較例3)
前記SWCNT50mgを10ml(15g)の発煙硝酸に添加し、90℃で6時間、スターラーを用いて攪拌した以外は、実施例1と同様にしてニトロ化処理を施した後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを調製したところ、アミノ化SWCNTは2mgしか得られなかった。
【0055】
(比較例4)
超音波処理温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてニトロ化処理を施した後、実施例2と同様にしてアミノ化SWCNTを調製したところ、アミノ化SWCNTは1mgしか得られなかった。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示した結果から明らかなように、未処理のSWCNT(比較例1)においては窒素は含まれていなかったが、本発明の製造方法により得られたニトロ化SWCNT(実施例1)およびアミノ化SWCNT(実施例2〜6)においては窒素が含まれていた。このことから、本発明の製造方法によりSWCNTにニトロ基を付加させることが可能であり、さらにこのニトロ基をアミノ基に置換できることが確認された。
【0058】
また、本発明の製造方法により得られたアミノ化SWCNT(実施例2〜6)は水溶性であり、これらが溶解した水溶液から、ろ過により不溶分を除去した後、得られたろ液を減圧処理して水を除去することによって容易に回収することが可能であることが確認された。また、その収量も、原料の未処理のSWCNT(50mg)に対して48〜61mgと高いものであった。
【0059】
一方、通常の硝酸を用いた場合(比較例2)においては、アミノ化SWCNTの収量は、原料の未処理のSWCNT(50mg)に対して1mg以下であり、超音波処理を施さなかった場合(比較例3)においては2mgであり、超音波処理温度が40℃の場合(比較例4)においては1mgであり、いずれの場合も非常に少なかった。
【0060】
以上の結果から明らかなように、本発明の製造方法によって、より多くのニトロ基をSWCNTに付加させることが可能であり、さらにこのニトロ基をアミノ基に置換できることが確認された。また、その収率も高いものであった。
【0061】
また、表1に示すように、実施例1のニトロ化SWCNTおよび実施例2〜6のアミノ化SWCNTには、約15〜22質量%のニトロ基またはアミノ基が含まれており、SWCNTの炭素原子5〜6個当たり1個のニトロ基が付加または1個のアミノ基が置換されていることが確認された。
【0062】
図3に示した結果から明らかなように、未処理のSWCNT(比較例1)においては1600cm−1付近にグラファイト構造に対応するピーク(G)のみが観察された。一方、アミノ化されたSWCNT(実施例2〜6)においては、1350cm−1付近にアモルファス状態のカーボンに対応するピーク(D)が明確に観察された。このことから、アミノ基はSWCNTの末端だけでなく、カーボンナノチューブの側面にも存在していることが確認された。したがって、本発明の製造方法においては、ニトロ基はSWCNTの末端だけでなく側面にも付加されるものと推察される。また、このピーク(D)の強度は処理温度の上昇とともに高くなる(G/Dが小さくなる)傾向にあり、処理温度を上昇させることによって、より多くのニトロ基をSWCNTの側面に付加させることが可能であることが推察される。
【0063】
(実施例7)
SWCNTの代わりにマルチウォールカーボンナノチューブ(ナノカーボンテクノロジーズ(株)製、商品名「MWNT−7」、平均直径:40〜90nm、アスペクト比:>100、G/D値:6.7〜16.7。以下、「MWCNT」と略す。)1.0gを用いた以外は実施例1と同様にしてニトロ化MWCNTを調製した。このニトロ化MWCNTの元素比を実施例2と同様にしてXPS分析により測定した。その結果を表2に示す。
【0064】
また、得られたニトロ化MWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図10に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はニトロ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記ニトロ化MWCNTのニトロ基含有率とした。その結果を表2に示す。
【0065】
さらに、濃度が0.01質量%となるように、得られたニトロ化MWCNTをエタノールまたは酢酸エチルに添加したところ、このニトロ化MWCNTは分散した。
【0066】
(実施例8)
ニトロ化SWCNTの代わりに実施例7で得たニトロ化MWCNTを用いた以外は実施例2と同様にしてアミノ化MWCNTを1.0g得た。このアミノ化MWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表2には前記アミノ化MWCNTの元素比、図3にはラマンスペクトルを示す。
【0067】
(実施例9)
発煙硝酸の代わりに、発煙硝酸と濃硫酸とを含有する混酸(発煙硝酸:濃硫酸=1:2(質量比))30mlを用いた以外は実施例7と同様にしてニトロ化MWCNTを0.8g得た。このニトロ化MWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表2には前記ニトロ化MWCNTの元素比、図11にはラマンスペクトルを示す。
【0068】
また、得られたニトロ化MWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図12に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はニトロ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記ニトロ化MWCNTのニトロ基含有率とした。その結果を表2に示す。
【0069】
さらに、濃度が0.5質量%となるように、得られたニトロ化MWCNTをエタノールまたは酢酸エチルに添加したところ、このニトロ化MWCNTは分散した。
【0070】
(実施例10)
実施例7で得たニトロ化MWCNTの代わりに実施例9で得たニトロ化MWCNT(0.8g)を用いた以外は実施例8と同様にしてアミノ化MWCNTを0.7g得た。このアミノ化MWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表2には前記アミノ化MWCNTの元素比、図11にはラマンスペクトルを示す。
【0071】
また、得られたアミノ化MWCNTについて実施例2と同様にして熱重量分析を実施した。その結果を図13に示す。室温〜100℃の範囲の質量減少は吸着水の脱離に起因するものと推察される。また、100〜300℃の範囲の質量減少はアミノ基の脱離に起因するものと推察され、この質量減少率を前記アミノ化MWCNTのアミノ基含有率とした。その結果を表2に示す。
【0072】
(比較例5)
実施例7および9で使用した未処理のMWCNTについて、実施例2と同様にしてXPS分析およびラマン測定を実施した。表2には前記未処理のMWCNTの元素比、図11にはラマンスペクトルを示す。また、濃度が0.01質量%となるように、前記未処理のMWCNTを水、エタノール、アセトンまたは酢酸エチルに添加したところ、いずれの溶媒においても未処理のMWCNTは分散しなかった。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示した結果から明らかなように、未処理のMWCNT(比較例5)においては、窒素は含まれていなかったが、本発明の製造方法により得られたニトロ化MWCNT(実施例7および9)ならびにアミノ化MWCNT(実施例8および10)においては窒素が含まれていた。このことから、本発明の製造方法によりMWCNTにニトロ基を付加させることが可能であり、さらにこのニトロ基をアミノ基に置換できることが確認された。
【0075】
また、表2に示した結果から明らかなように、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を用いた場合(実施例10)には、濃硫酸を用いなかった場合(実施例8)に比べて、ニトロ基の含有率が高くなった。このことから、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を用いることによって、より多くのニトロ基をMWCNTに付加させることが可能であることが確認された。
【0076】
図3および図11に示した結果から明らかなように、MWCNTを用いた場合(実施例8、10)においてもSWCNTの場合(実施例2)と同様に、アモルファス状態のカーボンに対応するピーク(D)が観察された。このことから、MWCNTにおいてもニトロ基またはアミノ基はカーボンナノチューブの側面に存在していることが確認された。また、図3に示すように、アミノ化MWCNTのG/D値(実施例8)はアミノ化SWCNT(実施例2)の場合に比べて大きくなった。これは、主としてMWCNTの最表面にニトロ基が付加され、アミノ基に置換され、内部のチューブ構造が変化しなかったためであると推察される。さらに、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を用いた場合(実施例10)には、濃硫酸を用いなかった場合(実施例8)に比べてピーク(D)の強度が高くなり(G/Dが小さくなり)、より多くのアミノ基がMWCNTに導入されたことが確認された。これは、発煙硝酸と濃硫酸との混酸を用いることによって、MWCNTの内部のカーボンナノチューブにニトロ基が付加され、このニトロ基がアミノ基に置換されたためであると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上説明したように、本発明によれば、エタノールなどの溶媒に、より高濃度で分散(溶解)させることが可能であり、脱離性の高いニトロ基を備えるニトロ化カーボンナノチューブを提供することが可能となる。
【0078】
したがって、本発明の表面修飾カーボンナノチューブの製造方法は、このような脱離性の高いニトロ基を備えるニトロ化カーボンナノチューブと求核剤とを反応させるため、ニトロ基をアミノ基や水酸基などの他の官能基に容易に置換することが可能であり、表面修飾カーボンナノチューブを簡便に製造する方法として有用である。
【0079】
また、本発明の製造方法により得られたニトロ化カーボンナノチューブおよび表面修飾カーボンナノチューブは、溶媒中や樹脂中における分散性に優れるため、カーボンナノチューブが有する特性を十分に樹脂などに付与することが可能であり、機械特性が求められる用途、電磁波遮蔽が求められる用途、耐熱性が求められる用途、寸法性が求められる用途(熱線膨張係数の低下)、熱伝導性が求められる用途、電気伝導性が要求される用途など様々な用途に展開可能であり、これらの特性が要求される樹脂成形体、樹脂シート、樹脂フィルムなどに好適に用いることができる
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1で得たニトロ化SWCNTおよび実施例2で得たアミノ化SWCNTのXPSスペクトルを示すグラフである。
【図2】実施例1で得たニトロ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図3】未処理のSWCNTおよび実施例2〜6、8で得たアミノ化SWCNTのラマンスペクトルを示すグラフである。
【図4】実施例2で得たアミノ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図5】実施例3で得たアミノ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図6】実施例4で得たアミノ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図7】実施例5で得たアミノ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図8】実施例6で得たアミノ化SWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図9】未処理のSWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図10】実施例7で得たニトロ化MWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図11】未処理のSWCNT、実施例9で得たニトロ化MWCNTおよび実施例10で得たアミノ化MWCNTのラマンスペクトルを示すグラフである。
【図12】実施例9で得たニトロ化MWCNTの熱重量変化を示すグラフである。
【図13】実施例10で得たニトロ化MWCNTの熱重量変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発煙硝酸中または発煙硝酸と濃硫酸との混酸中、60〜90℃で、カーボンナノチューブに超音波処理を施して、前記カーボンナノチューブにニトロ基を付加せしめることを特徴とするニトロ化カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項2】
発煙硝酸と濃硫酸との混酸中でマルチウォールカーボンナノチューブに超音波処理を施すことを特徴とする請求項1に記載のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項3】
前記超音波処理を1〜6時間施すことを特徴とする請求項1または2に記載のニトロ化カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の製造方法により得られるニトロ化カーボンナノチューブと求核剤とを反応せしめることにより、前記ニトロ化カーボンナノチューブのニトロ基を他の官能基に置換せしめることを特徴とする表面修飾カーボンナノチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−24127(P2010−24127A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−191361(P2008−191361)
【出願日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(592032636)学校法人トヨタ学園 (57)
【Fターム(参考)】