ニューロンの可塑性および再生を増強するための組成物および方法
本発明は、神経組織におけるPirB発現および機能に関する。ニューロンにおいて発現されたPirBは、神経回路の可塑性を制限するように、および/または皮質表出にとって異なる活性パターンまたはレベルで回路間の競合を制限するように作用する。したがって、本発明は、被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法ならびに関連する障害および疾患に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援に関する声明
本発明の基金は、米国政府の米国国立衛生研究所助成金番号NIH NEI EY 02858によって部分的に提供された。米国政府は本発明に一定の権利を保有する。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、古典的免疫によって媒介されない非免疫系関連疾患/障害および有益な治療/診断的有用性における、主要組織適合抗原複合体クラスI分子、特にペア型イムノグロブリン様受容体B(paired immunoglobulin-like receptor-B)の役割に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明が属する技術分野の現状を説明するために、いくつかの刊行物および特許文書が本明細書を通して引用されている。番号をつけたそれらの参考文献の完全な引用は、明細書の末尾に見いだされうる。それぞれの引用は本発明において十分に記述されるように本明細書に組み入れられる。
【0004】
MHCファミリーは、多数の遺伝子を含み、そのいくつかはゲノムにおける最も多形性の座に存在する。マウスMHCは3つの広いカテゴリーに分けられる可能性がある:クラスI(ヒトにおけるHLA A、B、およびC);クラスII(ヒトにおけるHLA DP、DQ、およびDR);および補体系の成分が含まれるクラスIII。MHCクラスIは、T-細胞によって媒介される適応免疫応答にとって重要である、そのいわゆる「古典的」クラスI産物のためによく知られているが、クラスI遺伝子の大部分は、実際には「非古典的MHCクラスI産物」をコードして、その多くが免疫系において公知の機能を有しない。いくつかの非古典的クラスIタンパク質は、MHCクラスI軽鎖、β2ミクログロブリン(β2m)に会合して、特定のペプチドに結合し、古典的MHCクラスIのメンバーと高い配列および構造的相同性を有するが、後者とは異なり、それらはより制限的な発現パターンを示し、ほとんどまたは全く多形を示さない。興味深いことに、最近の研究から、その配列は公知であるが、その産物の位置がまだ特定されていないこれらの「オーファン」MHCクラスIの1つのファミリーが、フェロモンを検出するように特殊化されたいくつかの哺乳動物の前鼻腔における小さい間隙である鋤鼻器(VNO)内のみに存在することが示された。
【0005】
最近の結果は、正常な損傷のないニューロンがインビボで古典的および非古典的MHCクラスIの双方を発現することを示唆している。MHCクラスI mRNAおよび/またはタンパク質は、運動神経核、黒質緻密部、後根神経節ニューロン、ドーパミン作動神経黒質細胞、発達中および成人海馬錐体細胞、鋤鼻器の知覚ニューロン、脳幹および脊髄運動ニューロン、ならびに皮質錐体細胞を含む多様なニューロン集団において検出されている。個々の古典的および非古典的MHCクラスI遺伝子に対して特異的なプローブとのインサイチューハイブリダイゼーションにより、健康な成人の脳においてMHCクラスI mRNA発現の複雑なパターンが明らかとなっている。これらの試験のいくつかはまた、ニューロンにおけるMHCクラスI発現が、軸索切断、サイトカインに対する曝露、および電気的活性の変化を含む処置によってさらに増加されうることを確認している。
【0006】
MHCクラスI遺伝子は、重複するが明確なニューロン発現パターンを示し、これらのパターンは正常な発達の際に特に動的である。MHCクラスI発現が天然に存在する電気的活性によって調節されうるという事実と共に、これらの結果は、MHCクラスI発現の正確なタイミングおよびレベルが、脳におけるその機能にとって非常に重要であることを示唆している。
【0007】
脳におけるMHCクラスI機能に関する先駆的研究は、特異的ニューロン集団のゲノムスクリーニングにおいてMHCクラスIファミリーのメンバーが同定されたことに基づいて開始された。ニューロンにおけるMHCクラスIの非免疫機能に関する最初のヒントは、それが発達中の視覚系における活性依存的可塑性に関与する遺伝子に関する不偏の機能的スクリーニングにおいて同定された場合に得られた。MHCクラスI発現は、TTXによる活性の遮断後に、特に、成熟した分離された接続パターンを形成するためにLGNニューロンに対する重複する眼特異的入力のシナプス精密化にとって自発的な網膜活性が必要である期間に、減少することが見いだされた。その後の研究により、MHCクラスI発現は、生後初期の網膜およびLGN、ならびに成体の小脳および海馬を含む、発達中および成体の哺乳動物の脳における活性依存的可塑性の時間および場所と平行することが判明した。併せると、これらの知見は、MHCクラスIが活性依存的構造および機能可塑性に関与している可能性があることを示唆している。
【0008】
神経系における接続の可塑性は、ニューロン活性に反応した既存のシナプスを強化または減弱させる細胞プロセスの後に回路に対する構造の変更が起こる長期の変化によって促進されると考えられる。シナプスの可塑性に関与する細胞および分子機構は、十分に研究されている。しかし、短期のシナプスの変化を長期の構造再構築に共役させるメカニズムおよび分子成分はあまりよくわかっていない。
【0009】
免疫系において、MHCIタンパク質は、免疫系の細胞における多様な膜貫通受容体との相互作用を通して機能する(4〜8)。これらの細胞-細胞相互作用は、正常細胞を異常なまたは外来細胞と区別する手段である。神経系において、それによってニューロンMHCIがシナプス発達を調節するメカニズムはわかっていない。免疫系における多くの実例から暗示を引き出す1つの仮説は、ニューロンMHCIが、他のニューロンにおいて発現される膜貫通MHCI受容体と連動することによってニューロン機能を調節することを示唆している。これらの相互作用は、シナプスの強度、ニューロンの形態、および回路の特性を最終的に変更する細胞内シグナルを生成しうるであろう。このように、ニューロンMHCI受容体を同定することは、これらのタンパク質のニューロン活性およびそれらが調節するニューロン可塑性の基礎となるメカニズムを理解するために非常に重要となる可能性がある。
【0010】
脳におけるMHCクラスIの役割の理解における重要な最初の段階は、多くのMHCクラスIタンパク質のどれがニューロンにおいて発現されるかを決定すること、ならびに発達中のおよび成体の脳におけるそれぞれのMHCクラスI産物の特異的発現プロフィールの特徴を調べることである。さらに、大きいMHCクラスI遺伝子ファミリーメンバーは、ほとんどの有核細胞の表面において発現されていることから、正常な発達、疾患、または全ての細胞タイプの損傷に対する反応にに関係するMHCクラスI分子が同定されて、治療物質および診断法を開発するためのツールとして用いられれば、大きい恩典となるであろう。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、神経組織におけるペア型イムノグロブリン様受容体B(PirB)の発現および機能に関する。ニューロンにおいて発現されるPirBは、神経回路の再生および可塑性を制限するように、および/または皮質表出のために異なる活性パターンまたはレベルによって回路間の競合を制限するように作用する。免疫系において、PirBは、Shp-1およびShp-2ホスファターゼを通して機能して、正常で健康な細胞に対する免疫細胞の不適当で危険な活性化に至りうるシグナルを阻害する。PirBは細胞骨格の動力学、細胞の運動性、および接着を調節して、Srcファミリーキナーゼの下流に作用してインテグリン活性を調節する。ニューロンにおいて、PirBは、活性に対するニューロンの反応の制限において類似の活性を有する可能性があり、限定的な可塑性を許容するに過ぎない。機能的PirBの非存在下では、シナプスの強化、新規シナプスの形成、または新規神経突起の生長に関する規則は、シナプスの受け持ち区域に関する競合において活性依存的長所を有するそれらの回路の豊富で異常な強化を許容するように変更される可能性がある。
【0012】
本発明の好ましい態様は、被験体のニューロンにおいてペア型イムノグロブリン様受容体B(PirB)の活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法に関する。より好ましい態様において、物質は、低分子または阻害性ペプチド模倣体となりうる、PirBに対する受容体アンタゴニストとして作用する。
【0013】
本発明のなおさらなる態様には、被験体のニューロンにおけるPirBの活性またはシグナル伝達を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法が含まれる。この場合も、好ましい態様には、PirBの活性またはシグナル伝達を減少させるように作用して、低分子となりうる物質が含まれる。
【0014】
本発明の1つの他の態様は、特に物質が、1つまたは複数の低分子干渉リボ核酸(siRNA)からなる、被験体のニューロンにおけるPirBの発現を減少させる物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法に関する。
【0015】
被験体におけるシナプス可塑性に関連する様々な障害および/または疾患を処置する方法はまた、本発明の態様であり、方法は被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質を投与する段階を含む。これらの障害および疾患には、CNS疾患、アルツハイマー病のような記憶喪失または記憶形成欠損;学習障害;自閉症、失読症、または脳性麻痺のような発育障害;脊髄損傷;外傷性脳損傷;卒中;および視覚系を伴う障害または疾患が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0016】
本発明の好ましい治療法は一般的に、CNS疾患に苦しむ、またはCNS疾患に対して感受性がある被験体(たとえば、哺乳動物、特にヒト)に、上記の化合物(低分子、抗体、ペプチド模倣体、ペプチド断片、siRNAが含まれるがこれらに限定されるわけではない)の1つまたは複数の治療的有効量を投与する段階を含む。
【0017】
本発明にはまた、任意で薬学的に許容される担体と混合され、任意で本明細書に開示の状態のために組成物を用いるための説明書(たとえば、書面での)と共に包装された、上記の化合物の1つまたは複数を含む薬学的組成物が含まれる。
【0018】
さらに、本発明は、PirBの活性、シグナル伝達、および/または発現を阻害、調節、または減少させる薬物を同定および設計するための方法を提供する。これは、薬物の治療的価値の決定および/またはニューロン処置のための新規候補薬物の同定において有用である。たとえば、ニューロンまたは下流のシグナル伝達経路に存在するPirBと相互作用することが知られている、または相互作用するように設計された全てのアゴニストおよびアンタゴニストのような、神経疾患および障害を処置するための薬物。
【0019】
さらに、本発明は、物質がPirB受容体に対するアンタゴニスト、PirBの低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣体アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、PirBの活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体におけるPir-Aのレベルを増加させる方法に関する。
【0020】
本発明の開示の他のおよびさらなる局面、特色、および利点は、開示の目的に関して提供される本発明の開示の様々な態様の以下の説明から明らかとなるであろう。
【0021】
発明の詳細な説明
接続の構造を変更することおよびその強度を機能的に変化させることの双方によって、シナプスの接続を変化させることによって、経験が脳の回路を急激に変更することができる場合、脳の発達において臨界期が存在することが長く知られている(39)。これらの臨界期は、神経の接続を、単眼視枯渇、または眼の摘出のような経験によって変化させることができる急激性と容易さによって定義され、そのような期間は進行性の発達の変化によって終了して、可塑性が起こるとしてもさらにより限定的な成体の状態に至ると考えられる。一般的に、視覚皮質におけるMDの効果に関する臨界期は、初期のシナプス可塑性を可能にする要因のダウンレギュレーションまたは除去により終わると考えられている。しかし、本明細書において記述される遺伝子の機能喪失実験から、視床および視覚皮質の双方に存在するシナプス可塑性の程度の限定にPirBが役割を有することが証明され、この効果は中枢神経系の他の領域に関係している可能性がある。PirB機能の非存在下で、これらの構造の双方の可塑性は、それがより高齢であっても急速で広範であるという意味において未熟なままである。このことは、シナプスの可塑性の正の調節因子のみならず負の調節因子が存在すること、および負の調節因子であるPirBの活性またはレベルを除去または低減することによって、成体脳にさえ存在する可能性がある初期のより強い型の可塑性を回復することが可能であることを暗示していることから、この発見は刺激的である。
【0022】
この発見のもつ意味は広い。PirBは脳および脊髄全体に発現されており、このように視覚系を超えて多くの神経系における可塑性の制限において役割を果たす可能性がある。たとえば、PirBは、シナプスの可塑性および回路の精密化によって学習、記憶の形成および整理統合において機能することが知られている構造である、海馬および大脳皮質において発現される。このように、PirBおよびそのヒト相同体であるLILRB/LIR/ILTファミリータンパク質は、加齢およびアルツハイマー病による記憶喪失を緩和するための、および場合によっては自閉症、失読症、または脳性麻痺のような発育障害を処置するための治療薬の主要な候補標的を表す。
【0023】
免疫系において、PirBは、インテグリンシグナル伝達およびケモカインシグナル伝達を阻害することによって細胞骨格の動力学を調節する。ニューロンPirBは同様に機能する可能性があり、ニューロンの細胞骨格活性を限定して、それによって神経突起の生長およびシナプスの再構築を限定することによって、シナプスの可塑性を制限する。PirBまたはその下流のエフェクター分子の標的化阻害を通してこれらの限定を開放すると、脊髄損傷、頭部損傷、または卒中によって失われた神経回路の再生を有意に増強する可能性がある。さらに、残っている損傷を受けていない脳の回路の再教育が、それらをより初期のより強い型のシナプス可塑性に近づけることによって促進されうるという考えから、卒中からの回復は、リハビリテーションおよび再教育治療をPirBの薬理学的な標的化阻害とカップリングさせることによって増強される可能性がある。
【0024】
逆に、てんかん性の脳は、不適当な活性によって誘導されるニューロンの発芽および生長に苦しむ。てんかんは家族に遺伝し、このように遺伝的成分を有する。てんかんに苦しむ人々は、遺伝的要因によりPirB/LILRB活性が低減されている可能性があるか、または治療的介入を通してPirB機能を増強することによって発作誘発可塑性の程度を限定することによって恩典が得られる可能性がある。本明細書における根本的概念は、発達中の脳のシナプス可塑性特徴のより強い型の基盤が成体の脳にもなお存在しているが、無傷のPirBは成体期において神経の可塑性の程度にブレーキをかけるように機能するという点である。このように、神経可塑性の阻害剤は、損傷および卒中から回復するための、学習および記憶を増強するための機能遮断治療薬として、ならびにてんかんまたは他の型の異常な脳の活性と共に起こりうる神経回路の望ましくない変化を防止するための機能増強治療薬として同定および設計される。
【0025】
本明細書において、本発明者らは、MHCIの候補ニューロン受容体としてペア型イムノグロブリン様受容体B、PirBを同定した。PirBは様々なタイプの白血球において発現される膜貫通型MHCI受容体(9〜15)であり、広いアレイのMHCI分子に結合すると共に必須のMHCIコサブユニットであるβ2ミクログロブリンに直接結合することが示されている(12、13、16)。本発明者らの研究は、PirBが、調べた全ての年齢でマウス脳全体のニューロンのサブセットにおいて発現されることを証明している。培養皮質および海馬ニューロンは、ニューロンの軸索および生長錐体に沿ってPirBの免疫染色を示す。ニューロンPirBタンパク質はグリコシル化、リン酸化され、およびシナプトソームと共に部分的に分画される。免疫系(17〜21)の場合のように、ニューロンPirBはホスファターゼShp-1およびShp-2と複合体を形成する。変異体マウスにおける機能的実験により、視覚皮質における眼の優位性可塑性はより強く、分離された網膜神経節軸索は、PirBシグナル伝達の非存在下では異常に可塑性であることが判明している。これらの結果は、ニューロン発現MHCI受容体が視覚系の可塑性を限定するように作用することを証明する。
【0026】
定義
本発明は、本明細書に記述の特定の材料および方法に限定されないと理解される。同様に本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記述する目的のためであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないと理解される。本明細書において用いられるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」には、本文がそうでないことを特に明記している場合を除き、複数形が含まれる。たとえば、「白血球」という言及には、当業者に公知の細胞の複数が含まれる。
【0027】
特に明記していなければ、本明細書において用いられる科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において言及される刊行物は全て、刊行物において報告され、本発明に関連して用いられる可能性があるモデル、プロトコール、および試薬を記述および開示する目的のために引用される。本明細書のいかなる内容も、先行発明に基づいて本開示がなされた日付を早める権利が本発明者にはないと自認したと解釈されるべきではない。
【0028】
本明細書において用いられるように、「低分子」は通常、分子量が約25K未満、好ましくは10K未満であり、細胞の浸透を増強して、分解に耐えさせて、その生理的半減期を延長させる多くの物理化学的および薬理学的特性を保有する可能性がある。好ましくは低分子は免疫原性ではない。さらに、低分子はハイスループットスクリーニングに対して敏感に反応しなければならない。
【0029】
本明細書において用いられるように、「発現」は、細胞における内因性の遺伝子(PirB)、異種遺伝子もしくは核酸セグメント、またはトランスジーンの転写および/または翻訳を指す。たとえば、siRNA構築物の場合、発現は、siRNAのみの転写を指してもよい。さらに、発現は、センス(mRNA)または機能的RNAの転写および安定な蓄積を指す。発現はまた、タンパク質の産生を指してもよい。
【0030】
本明細書において用いられるように、「分子を細胞に投与する」(たとえば、発現ベクター、核酸、サイトカイン、血管新生因子、送達媒体、物質等)という用語は、分子を細胞に形質導入、トランスフェクト、マイクロインジェクション、電気穿孔、または発射することを指す。いくつかの局面において、分子は、標的細胞を送達細胞に接触させることによって(たとえば、細胞融合によって、または標的細胞の近位に存在する場合に送達細胞を溶解することによって)、標的細胞に導入される。
【0031】
本明細書において用いられるように、「MHCクラスI分子」は、古典的(クラス1a)MHC I分子(HLA-A、-B、-C、-G等)および他の非古典的(クラス1b)MHCクラスI分子を指す。MHCクラスI分子には、ヒトMHCクラスI分子(ヒト白血球抗原(HLA)複合体)ならびに、マウスのH-2座、特にH-2 DおよびK座のクラスI抗原のようなその脊椎動物同等物が含まれる。ヒトMHCクラスI抗原には、たとえば、HLA-A、-B、C、Qa、およびT1が含まれる。さらに、HLA-Gは、非古典的MHCクラスI産物をコードする。同様に多数のMHCクラスI様遺伝子が存在し、その多くは、HFE、MICA、MICB、CD1-a、-b、-c、-dおよびULPBファミリーメンバーを含む模範的なMHCクラスI領域外でコードされる。ヒトおよびマウスの双方のデータに関する起源:http://imgt.cines.fr/textes/IMGTrepertoireMHC/LocusGenes/nomenclatures/mouse/MHC/Mu_ MHCnom.html(その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0032】
PirB受容体は、最近、そのヒトFcα受容体(FcαR)との相同性に基づいてマウスにおいて同定されている。PirBはヒトFcαRおよびキラー阻害性受容体 (KIR)、マウスgp49、IgGのウシFc受容体(FcγR)、および最近同定されたヒトIg様転写物(ILT)/白血球Ig様受容体(LIR)/単球/マクロファージIg様受容体(MIR)が含まれる遺伝子ファミリーに対して配列類似性を共有する。PirB遺伝子は、FcαR、KIR、およびILT/LIR/MIR遺伝子を含有するヒト染色体19q13領域とシンテニーである領域におけるマウス第7染色体に存在する。PirBに関するDNA配列から、それぞれが6個のIg様ドメインを含有する類似のエクトドメイン(>92%相同性)を有するI型膜貫通タンパク質であると予測される。PirB遺伝子によってコードされるPirBタンパク質は、典型的な非荷電膜貫通領域と、多数の候補免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を有する長い細胞質テールとを有する。最近の研究から、PirB細胞質領域における2つの最も膜に遠位のITIMユニットの阻害機能が証明された。PirB阻害機能は、タンパク質チロシンホスファターゼSHP-1のITIM動員を通して媒介される。
【0033】
上記のPirBはポリペプチドを指すのみならず、遺伝子およびその変種が生じることができる異なるmRNA転写物、および解明される可能性がある任意のさらなる遺伝子変種を含む、遺伝子および現在公知の全てのその変種を指すと認識すべきである。しかし、一般的にそのような変種は先の表の配列と有意な相同性(配列同一性)を有し、たとえば変種は、上記の表1〜5の配列と少なくとも約70%の相同性(配列同一性)、より典型的に上記の表1〜5の配列と少なくとも約75、80、85、90、95、97、98、または99%相同性(配列同一性)を有するであろう。変種の相同性は、BLASTプログラムのような多数の任意の標準的な技術によって決定することができる。
【0034】
本明細書において用いられるように、「中枢神経系の疾患、または障害」は、中枢神経系の神経変性障害(パーキンソン病;アルツハイマー病)または自己免疫障害(多発性硬化症);記憶喪失;長期および短期記憶障害;学習障害;自閉症、うつ病、良性の健忘症、小児学習障害、内部頭部損傷、および注意欠陥障害;脳の自己免疫障害、ウイルス感染症に対する神経の反応;脳損傷;うつ病;双極性障害、統合失調症等のような精神障害;ナルコレプシー/睡眠障害(概日リズム障害、不眠症およびナルコレプシー);神経切断または神経損傷;脳脊髄神経(CNS)切断;および脳または神経細胞に対する任意の損傷;AIDSに関連する神経欠損;チック(たとえば、ジル・ド・ラ・ツレット症候群);ハンチントン舞踏病、統合失調症、外傷性脳損傷、耳鳴り、神経痛、特に三叉神経痛、神経障害性疼痛、糖尿病、MSおよび運動ニューロン疾患、アタキシア、筋硬直(痙縮)、および側頭下顎関節機能障害のような、疾患においてニューロディステシア(neurodysthesias)が起こる不適当な神経活動;被験体における報酬欠損症候群(RDS)行動が含まれるがこれらに限定されるわけではない、その疾患の経過または重症度が本発明の教示によって防止または処置されうる;すなわち神経の可塑性または再生を増強する治療薬によって恩典が得られうる任意の神経学的障害を指す。
【0035】
「診断」は、病的状態の存在または性質を同定することを意味する。診断法はその感度および特異性が異なる。診断アッセイの「感度」は、検査陽性である疾患を有する個体の百分率(「真の陽性」の百分率)である。アッセイによって検出されない疾患を有する個体は、「偽陰性」である。疾患を有さず、アッセイにおいて検査陰性である被験体は「真の陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は、1−偽陽性率であり、「偽陽性」率は、検査陽性である疾患を有しない被験体の百分率として定義される。特定の診断法は、疾患に関する明確な診断を提供しない可能性があるが、方法が診断を助ける正の指標を提供すれば十分である。
【0036】
本明細書において用いられるように、「薬学的に許容される」成分は、妥当な恩典/リスク比に釣り合った不当な有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー反応)がなく、ヒトおよび/または動物での使用にとって適した成分である。
【0037】
「患者」または「個体」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、これは処置される哺乳動物被験体を意味し、ヒト患者が好ましい。いくつかの場合において、本発明の方法は、実験動物、獣医学応用、ならびにマウス、ラット、およびハムスターを含む齧歯類;ならびに霊長類が含まれるがこれらに限定されるわけではない、疾患の動物モデルの開発にとって有用である。
【0038】
本明細書において用いられるように、「処置」は、ルーチンの統計学的検査を用いて決定した場合に、標準化値に近づく、たとえば標準化値との差が50%未満である、好ましくは標準化値との差が25%未満である、より好ましくは標準化値との差が10%未満である、およびなおより好ましくは標準化値とは有意差がない症状を指す。たとえば、うつ病の処置には、たとえば、気分の変化、強い悲しみおよび絶望の感情、精神遅滞、集中力の喪失、悲観的な心配、激昂、および自己嫌悪が含まれるがこれらに限定されるわけではないうつ病の症状の軽減が含まれる。不眠症、食欲不振および体重減少、エネルギーおよび性欲の減少、ならびに正常なホルモン概日リズムの回復を含む身体的変化もまた、軽減される可能性がある。本明細書において用いられるように、「パーキンソン病を処置する」または「改善する」という用語を用いる場合のもう1つの例は、振せん、運動緩徐、硬直、および体位障害が含まれるがこれらに限定されるわけではないパーキンソン病の症状の軽減を意味する。
【0039】
本明細書において用いられるように、「免疫系の細胞」または「免疫細胞」は、B細胞とも呼ばれるBリンパ球、T細胞とも呼ばれるTリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンフォカイン活性化キラー(LAK)細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、肥満細胞、血小板、ランゲルハンス細胞、幹細胞、樹状細胞、末梢血単核球、腫瘍浸潤(TIL)細胞、ハイブリドーマを含む遺伝子改変免疫細胞、薬物改変免疫細胞、および上記の細胞タイプの誘導体、前駆体、または前駆細胞が含まれるがこれらに限定されるわけではない、アッセイされる可能性がある免疫系の任意の細胞が含まれることを意味する。
【0040】
「免疫エフェクター細胞」は、免疫応答を媒介する抗原に結合することができる細胞を指す。これらの細胞には、T細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞障害性Tリンパ球(CTL)、たとえばCTL細胞株、CTLクローン、および腫瘍、炎症性、または他の浸潤物に由来するCTLが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0041】
「T細胞」または「Tリンパ球」は、胸腺に端を発し、CD3複合体のタンパク質(たとえば、再配列T細胞受容体、抗原/細胞のMHC特異性に関与するT細胞表面上のヘテロ二量体タンパク質)に関連するヘテロ二量体受容体を有するリンパ球のサブセットである。T細胞反応は、他の細胞に及ぼすその効果(たとえば、標的細胞の殺細胞、マクロファージ活性化、B細胞活性化)、またはそれらが産生するサイトカインに関するアッセイによって検出される可能性がある。
【0042】
「活性」、「活性化」、または「増強」は、「休止期」免疫細胞が、反応して測定可能なレベルで免疫機能を示す能力である。活性化の程度の測定は、前回の活性化の結果としてさらに刺激された場合に活性の増強を表す免疫系の細胞の能力の定量的査定を指す。能力の増強は、免疫細胞を低用量の刺激物質に反応して活性化されるように刺激させる活性化プロセスの際に起こる生化学的変化に起因する可能性がある。
【0043】
本明細書において用いられるように、「ポリペプチド」という用語は、本明細書において引用した配列を含む完全長のタンパク質を含む、任意の長さのアミノ酸の鎖を含む。本明細書に記述の配列を含むタンパク質のエピトープを含むポリペプチドは、ほぼエピトープのみからなってもよく、またはさらなる配列を含んでもよい。さらなる配列は、本来のタンパク質に由来してもよく、または異種であってもよく、そのような配列は免疫原性もしくは抗原性特性を有してもよい(しかし有する必要はない)。
【0044】
本明細書において用いられるように、抗体とタンパク質またはペプチドの相互作用を参照して「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、その相互作用が、タンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原性決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する;言い換えれば、抗体は、タンパク質全般に対するよりむしろ特異的タンパク質構造を認識してこれに結合する。たとえば、抗体がエピトープ「A」に対して特異的であれば、標識「A」と抗体とを含む反応においてエピトープA(または遊離の未標識のA)を含むタンパク質が存在すれば、抗体に結合した標識Aの量が低減するであろう。全般的に「特異的結合」は、Tリンパ球によって発現されたT細胞受容体の、抗原提示細胞上のMHC分子およびペプチドに対する結合のような、そのリガンドに対する任意のMHCクラスI分子の結合を指す。
【0045】
本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体結合ドメインが、抗原との免疫学的反応を起こさせる、抗原の抗原性決定因子の特色と相補的な内部表面形状および電荷分布を有する三次元結合空間を形成するように抗体分子の可変ドメインの折り畳みから形成される、少なくとも1つの結合ドメインを含むポリペプチドまたはポリペプチドの群を指す。抗体には、結合ドメインを含む組換え型タンパク質と共に、Fab、Fab'、F(ab)2、およびF(ab')2断片が含まれる。本明細書において用いられる「抗体」という用語にはまた、抗体全体の改変によって産生されたまたは組換えDNA方法論を用いてデノボで合成された抗体断片が含まれる。同様に、これには、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または一本鎖抗体が含まれる。抗体の「Fc」部分は、1つまたは複数の重鎖定常領域ドメインCH1、CH2、およびCH3を含むが、重鎖可変領域は含まれない免疫グロブリン重鎖の一部を指す。
【0046】
本明細書において用いられるように、「エピトープ」は、B-細胞および/またはT-細胞表面抗原受容体によって認識される(すなわち、特異的に結合される)ポリペプチドの一部である。エピトープは一般的に、Paul, Fundamental Immunology, 3rd ed., 243-247 (Raven Press, 1993)およびそこで引用されている参考文献において概要されているような、周知の技術を用いて同定される可能性がある。そのような技術には、抗原特異的抗血清および/またはT-細胞株もしくはクローンに対して反応できるか否かに関して、本来のポリペプチドに由来するポリペプチドをスクリーニングする段階が含まれる。ポリペプチドのエピトープは、完全長のポリペプチドの反応性と類似のレベルで(たとえば、ELISAおよび/またはT-細胞反応アッセイにおいて)そのような抗血清および/またはT細胞と反応する部分である。そのようなスクリーニングは、一般的に、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988において記述される方法のような、当業者に周知の方法を用いて行ってもよい。B-細胞およびT-細胞エピトープは、コンピューター分析によって予測してもよい。腫瘍組織において選択的に発現された(さらなるアミノ酸配列の有無によらず)ポリペプチドのエピトープを含むポリペプチドは、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語は、特に明記していなければ、本明細書において互換的に用いられるであろう。本明細書において用いられるように、「核酸分子」は、一本鎖型または二重らせんのいずれかにおける、リボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、またはシチジン;「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミン、またはデオキシシチジン;「DNA分子」)、またはホスホロチオエートおよびチオエステルようのなその任意のホスホエステル類似体のホスフェートエステルポリマー型を指す。二本鎖DNA-DNA、DNA-RNA、およびRNA-RNAへリックスが可能である。核酸分子という用語、特にDNAまたはRNA分子は、分子の一次および二次構造のみを指し、それを任意の特定の三次構造型に限定しない。このように、この用語には、中でも直線状または環状DNA分子(たとえば、制限断片)、プラスミド、および染色体において見いだされる二本鎖DNAが含まれる。特定の二本鎖DNA分子の構造について考察する場合、本明細書において、配列は、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAと相同な配列を有する鎖)に沿って5'から3'方向の配列のみを与える通常の慣例に従って記述されるであろう。「組換え型DNA分子」は、分子生物学的操作を経たDNA分子である。
【0048】
本明細書において用いられるように、核酸配列、遺伝子、またはポリペプチドに応用される場合の「断片またはセグメント」という用語は、長さが、通常少なくとも約5隣接核酸塩基(核酸配列または遺伝子の場合)またはアミノ酸(ポリペプチドの場合)であり、典型的に少なくとも約10隣接核酸塩基またはアミノ酸、より典型的に少なくとも約20隣接核酸塩基またはアミノ酸、通常、少なくとも約30隣接核酸塩基またはアミノ酸、好ましくは少なくとも40隣接核酸塩基またはアミノ酸、より好ましくは少なくとも約50隣接核酸塩基またはアミノ酸、およびさらにより好ましくは少なくとも約60〜80またはそれより多い隣接核酸塩基またはアミノ酸であろう。本明細書において用いられるように、「重複する断片」は、核酸またはタンパク質のアミノ末端で始まり、核酸またはタンパク質のカルボキシ末端で終わる、隣接する核酸またはペプチド断片を指す。それぞれの核酸またはペプチド断片は、次の核酸またはペプチド断片と共有して少なくとも約1個の隣接核酸またはアミノ酸位置を有し、より好ましくは少なくとも約3個の隣接核酸塩基またはアミノ酸位置を共有し、最も好ましくは少なくとも約10個の隣接核酸塩基またはアミノ酸位置を共有する。
【0049】
核酸の状況における有意な「断片」は、少なくとも約17ヌクレオチド、一般的に少なくとも約20ヌクレオチド、より一般的に少なくとも23ヌクレオチド、通常、少なくとも26ヌクレオチド、より通常少なくとも29ヌクレオチド、しばしば少なくとも32ヌクレオチド、よりしばしば少なくとも35ヌクレオチド、典型的に少なくとも38ヌクレオチド、より典型的に少なくとも41ヌクレオチド、通常少なくとも44ヌクレオチド、より通常少なくとも47ヌクレオチド、好ましくは少なくとも50ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも53ヌクレオチド、および特に好ましい態様において少なくとも56ヌクレオチドまたはそれより多いヌクレオチドの隣接セグメントである。
【0050】
さらに、MHCクラスI遺伝子対立遺伝子変種は、実施例の章において詳しく記述されるように汎特異的プローブ、たとえばPan PIRBプローブを用いるPCRを行うことによって、たとえばヒト核酸から単離されてもよい。たとえば、反応の鋳型は、たとえばPIR遺伝子またはその対立遺伝子変種を発現することが公知であるまたは疑われる、ヒトまたは非ヒト細胞株または組織から調製されるmRNAの逆転写によって得られたcDNAであってもよい。好ましくは、対立遺伝子変種はPIR媒介神経障害を有する個体から単離されるであろう。この方法はまた、任意のMHCクラスI発現の非存在を決定するために用いられる。
【0051】
本発明のもう1つの局面において、MHCクラスIの異常な発現レベルまたは異常な発現パターンを補正することが望ましい。たとえば、MHCクラスIおよびクラスI様遺伝子配列またはその一部を、遺伝子置換治療において用いることができる。具体的に、正常なクラスI MHC遺伝子または正常なクラスI MHC遺伝子機能を示すクラスI MHC遺伝子産物の産生を指示するクラスI MHC遺伝子の一部の1つまたは複数のコピーを、リポソームのような細胞にDNAを導入する他の粒子のほかに、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスベクターが含まれるがこれらに限定されるわけではないベクターを用いて、患者内の適当な細胞内に挿入してもよい。好ましくは、ベクターは、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,501,979号および第5,661,033号において記述されるような、単純ヘルペスウイルスベクターである。
【0052】
総PirB発現レベルおよび/またはPirB遺伝子産物活性を増加、減少、または調節するために利用してもよいさらなる方法には、PirB受容体の発現を修正するために十分な位置および数で、適当なPirB発現細胞、好ましくは自己細胞、および/または幹細胞、および/または神経前駆細胞を患者に導入することが含まれる。
【0053】
そのような細胞に基づく遺伝子治療技術は、当業者に周知であり、たとえばAnderson、米国特許第5,399,349号を参照されたい。
【0054】
さらに、先におよび以降に記述される化合物のような、PirB活性を調節することができる化合物を、当業者に周知の標準的な方法を用いて投与することができる。投与される化合物が脳細胞との相互作用を伴う場合、投与技術には、血液-脳関門の通過を可能にする周知の技術が含まれなければならない。
【0055】
PirBの調節物質には、低分子、抗体、ペプチド、核酸、タンパク質、または核酸アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、三重らせん分子、炭水化物等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。好ましい調節物質には、たとえば神経の可塑性に関係する物質のような、アップレギュレートする物質、または他の場合において、たとえば(すなわちPirB)ニューロン細胞可塑性を阻害する化合物のような、ダウンレギュレート物質が含まれる。
【0056】
調節物質を同定するために、化合物のライブラリをスクリーニングしてもよい。(1)化学物質ライブラリ、(2)天然物ライブラリ、および(3)ランダムペプチド、オリゴヌクレオチド、または有機分子を含む組み合わせライブラリを含む、低分子調節物質を同定するために用いられる多数の異なるライブラリが存在する。化学物質ライブラリはランダム化学構造からなり、そのいくつかは、公知の化合物の類似体、または他の薬物開発スクリーニングにおいて「ヒット」もしくは「リード」として同定されている化合物の類似体であり、そのいくつかは天然物に由来し、およびそのいくつかは、非方向性の合成有機化学から生じる。天然物ライブラリは、(1)土壌、植物、もしくは海洋微生物からのブロスの発酵および抽出、または(2)植物もしくは海洋生物の抽出物、によってスクリーニングするための混合物を作製するために用いられる微生物、動物、植物、または海洋生物の集合体である。天然物ライブラリには、ポリケチド、非リボソームペプチド、およびその変種(天然に存在しない)が含まれる。論評に関しては、Science 282: 63-68 (1998)を参照されたい。組み合わせライブラリは、混合物として多数のペプチド、オリゴヌクレオチド、または有機化合物からなる。これらのライブラリは、従来の自動合成法、PCR、クローニング、固有の合成法によって比較的容易に調製される。特に重要であるのは、非ペプチド組み合わせライブラリである。関心対象のなお他のライブラリには、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣体、マルチパラレル合成コレクション、組換え、およびポリペプチドライブラリが含まれる。コンビナトリアルケミストリーおよびそこから作製されたライブラリに関する論評に関しては、Myers, Curr. Opin. Biotechnol. 8: 701-707 (1997)を参照されたい。本明細書に記述される様々なライブラリを用いての調節物質の同定によって、活性を調節する「ヒット」の能力を最適にするための候補「ヒット」(または「リード」)の改変を許容する。化合物ライブラリは購入してもよく(たとえば、Tripos(St. Louis, MO.)からのLeadQuest(商標)ライブラリのような)、または当技術分野において周知の方法を用いて合成してもよい。
【0057】
本発明の方法を用いて、MHCクラスI分子発現を調節する1つまたは複数のmRNA分子の機能的発現を阻害するアンチセンス分子をスクリーニングすることができる。アンチセンス核酸分子は、それが、標的タンパク質の発現を干渉することができる限り、多数の異なる方法で構築されてもよい。スクリーニングされる典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは、長さが30〜100ヌクレオチドである。アンチセンス核酸分子は一般的に、標的MHCクラスI分子配列と実質的に同一であろう(もっともアンチセンス方向であるが)。最少の同一性は典型的に、約80%より大きく、約90%より大きく、約95%より大きく、または約100%より大きいであろう。
【0058】
核酸調節物質にはまた、リボザイムが含まれてもよい。このように、本発明の方法を用いて、MHCクラスI分子を調節する1つまたは複数のタンパク質をコードする1つまたは複数のmRNA分子の機能的発現を阻害するリボザイム分子をスクリーニングすることができる。標的RNA特異的リボザイムの設計および使用は、Haseloff et al., Nature 334: 585, 1988において記述されている。同様にたとえば、米国特許第5,646,023号も参照されたい。Tablor, et al., Gene 108: 175, 1991は、アンチセンスRNAとリボザイム技術の長所を1つの構築物に組み合わせることによって、触媒RNAの構築を大きく単純化した。リボザイム触媒にとってより小さい相同性領域が必要であり、したがって、これは切断部位が保存される場合、大きい遺伝子ファミリー(たとえば、Igファミリー)の異なるメンバーの抑制を促進することができる。
【0059】
もう1つの好ましい態様において、siRNAは、たとえば神経障害において役割を果たすと同定されたMHCクラスI分子をダウンレギュレートするために用いられる。siRNAを構築するために、市販の起源を含むいくつかの方法が利用可能である。siRNAは、T7ファージポリメラーゼを用いて構築することができる。T7ポリメラーゼを用いて、個々のsiRNAセンスおよびアンチセンス鎖を転写して、次にこれをアニールしてsiRNAを作製する。T7ポリメラーゼはまた、シスで連結してヘアピン構造を形成するsiRNA鎖を転写するために用いられる。転写されたRNAは、5'三リン酸末端を含み、または哺乳動物細胞にとって最も好ましくは5'一リン酸を含む。哺乳動物遺伝子のsiRNA媒介ノックダウンの成功が最近報告されている。
【0060】
薬物スクリーニングに関するもう1つの技術は、関心対象タンパク質に対して適した結合親和性を有する化合物のハイスループットスクリーニングを提供する(たとえば、Geysen et al., 1984, PCT出願WO84/03564を参照されたい)。この方法において、多数の異なる低分子試験化合物が固相基質上で合成される。試験化合物をMHCクラスI分子またはその断片と反応させて、洗浄する。次に、結合したMHCクラスI分子を当技術分野において周知の方法によって検出する。精製MHCクラスI分子はまた、上記の薬物スクリーニング技術において用いるために、プレート上に直接コーティングすることができる。または、非中和抗体を用いてペプチドを捕獲して、固相支持体上にこれを固定することができる。
【0061】
患者または他の試験被験体においてMHCクラスI分子の同一性を決定するための成分を含む、診断および研究試薬キットも同様に提供される。このように、キットは、MHCクラスI分子、遺伝子、対立遺伝子、もしくはその断片の試料、またはMHCクラスI分子、遺伝子、対立遺伝子、もしくはその断片の発現産物を含んでもよい。キットはまた、診断アッセイを実施するための説明書(書面)を含有してもよい。キットはまた、アッセイまたは試験支持体、典型的に固相支持体、および陽性対照試料、陰性対照試料、細胞、酵素、検出標識、緩衝液等のような他の材料を含有してもよい。
【0062】
PirBアンタゴニスト活性を有する候補物質を同定するためのアッセイ:
本明細書において記述される「物質」または「化合物」という用語は、PirBの生物活性の拮抗能を有する任意の分子、たとえばタンパク質または薬剤を記述する。一般的に、様々な濃度に対する示差反応を得るために、異なる物質濃度で複数のアッセイ混合物を同時に行うことができる。典型的に、これらの濃度の1つは、陰性対照として、すなわちゼロ濃度または検出レベル未満として役立つ。
【0063】
候補物質(化合物)は、多数の化学クラスを含むが、典型的にそれらは有機分子であり、好ましくは分子量50ダルトンより大きく約2,500ダルトン未満の低分子有機化合物である。候補物質は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合にとって必要な官能基を含み、典型的に少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基が含まれ、好ましくは少なくとも2つの官能化学基が含まれる。候補物質はしばしば、環状炭素または複素環構造および/または上記の官能基の1つもしくは複数によって置換された芳香族もしくは多価芳香族構造を含む。候補物質はまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン誘導体、構造類似体、またはその組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない生体分子において見いだされる。
【0064】
候補物質は、合成または天然化合物のライブラリを含む多様な起源から得られる。たとえば、ランダムオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む広く多様な化合物および生体分子のランダムおよび方向性の合成のために、多数の手段が利用可能である。または、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形での天然化合物のライブラリが入手可能であるか、または容易に産生される。さらに、天然または合成によって産生されたライブラリおよび化合物は、通常の化学、物理、および生化学手段を通して容易に改変され、これを用いて組み合わせライブラリを産生してもよい。公知の薬理物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような方向性またはランダム化学改変に供して、構造類似体を産生してもよい。スクリーニングを公知の薬理活性化合物およびその化学類似体に向けてもよい。
【0065】
スクリーニングアッセイが、PirB受容体を利用する結合アッセイである場合、1つまたは複数の分子を標識に連結させてもよく、そこで標識は検出可能なシグナルを直接または間接的に提供することができる。様々な標識には、放射性同位元素、蛍光体、化学発光体、酵素、特異的結合分子、粒子、たとえば磁気粒子等が含まれる。特異的結合分子には、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシン等のような対が含まれる。特異的結合メンバーに関して、相補的メンバーは通常、公知の技法に従って検出を提供する分子によって標識されるであろう。
【0066】
多様な他の試薬がスクリーニングアッセイに含まれてもよい。これらには、最適なタンパク質-タンパク質相互作用を促進するおよび/または非特異的またはバックグラウンド相互作用を低減するために用いられる塩、中性タンパク質、たとえばアルブミン、洗浄剤等のような試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤等のようなアッセイ効率を改善する試薬を用いてもよい。必須の結合を提供する任意の順序で成分の混合物を加える。インキュベーションは、任意の適した温度、典型的に4〜40℃で行う。最適な活性が得られるようにインキュベーション期間を選択するが、迅速なハイスループットスクリーニングを促進するためにインキュベーション期間を最適化してもよい。
【0067】
もう1つの態様において、本発明は、PirBに結合する、またはKSHV env媒介膜融合を遮断する組成物を同定するための方法を提供する。方法には、成分を相互作用させるために十分な条件で組成物を含む成分とPirBとをインキュベートする段階、およびPirBに対する組成物の結合を測定する段階が含まれる。PirBに結合する組成物には、ペプチド、ペプチド模倣体、ポリペプチド、化学化合物および先に記述した生物学的物質が含まれる。
【0068】
インキュベートする段階には、試験組成物とPirBとを接触させる条件が含まれる。結合する段階は、細胞における生化学的変更(たとえば、カルシウム流入)によって間接的に測定することができる。接触させる段階には、液相および固相が含まれる。試験リガンド/組成物は、任意で複数の組成物をスクリーニングするための組み合わせライブラリであってもよい。本発明の方法において同定された組成物はさらに、溶液中で、または固相支持体に結合させた後に、PCR、オリゴマー制限(Saiki, et al., Bio/Technology, 3:1008-1012, 1985)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ分析(Conner, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:278, 1983)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)(Landegren, et al, Science, 241:1077, 1988)等のような特異的DNA配列の検出に通常応用される任意の方法によって、評価、検出、クローニング、シークエンシング等を行うことができる。DNA分析のための分子技術は論評されている(Landegren, et al., Science, 242:229-237, 1988)。
【0069】
試験組成物が組み合わせライブラリに存在する場合、または遺伝子産物として発現される場合(化学組成物とは対照的に)、多様な任意の技法を用いて本発明の遺伝子をクローニングしてもよい。そのような1つの方法は、組成物遺伝子を含有するインサートの存在に関してDNAインサートのシャトルベクターライブラリ(組成物を発現する細胞に由来する)を分析する段階を必然的に伴う。そのような分析は、ベクターを細胞にトランスフェクトさせて、組成物結合活性の発現に関してアッセイする段階によって行ってもよい。これらの遺伝子をクローニングするための好ましい方法は、組成物タンパク質のアミノ酸配列を決定する段階を必然的に伴う。通常、この作業は所望の組成物タンパク質を精製する段階およびそれを自動シークエンサーによって分析する段階によって行われるであろう。または、それぞれのタンパク質を臭化シアン、またはパパイン、キモトリプシン、もしくはトリプシンのようなプロテアーゼによって断片化してもよい(Oike, Y., et al., J. Biol. Chem., 257:9751-9758 (1982);Liu, C., et al., Int. J. Pept. Protein Res., 21:209-215 (1983))。これらのタンパク質の全アミノ酸配列を決定することは可能であるが、これらの分子のペプチド断片の配列を決定することが好ましい。
【0070】
組成物が受容体タンパク質と機能的に複合体を形成できるか否かを決定するために、たとえば外因性の遺伝子によってコードされるタンパク質のタンパク質レベルの変化をモニターすることによって、外因性の遺伝子の誘導をモニターする。外因性の遺伝子の転写を誘導することができる組成物が見いだされる場合、この組成物は、初回試料試験組成物をコードする核酸によってコードされる受容体タンパク質に対して結合することができると結論される。
【0071】
外因性遺伝子の発現は、たとえば機能的アッセイまたはタンパク質産物に関するアッセイによってモニターすることができる。したがって、外因性の遺伝子は、外因性の遺伝子の発現を検出させるためにアッセイ可能な/測定可能な発現産物を提供するであろう遺伝子である。そのような外因性遺伝子には、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、グアニンキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、および抗生物質耐性遺伝子(たとえば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ)のようなレポーター遺伝子が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0072】
外因性の遺伝子の発現は、組成物-受容体結合を示しており、このように結合するまたは遮断する組成物を同定および単離することができる。本発明の組成物は、抽出、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過等のような一般的に用いられる公知のタンパク質精製技術を用いることによって、培養培地または細胞から抽出および精製することができる。組成物は、カラムマトリクスに結合した改変受容体タンパク質細胞外ドメインを用いるアフィニティクロマトグラフィーによって、またはヘパリンクロマトグラフィーによって単離することができる。
【0073】
PirB抗体
もう1つの態様において、本発明は、PirB受容体自身またはPirB可溶性リガンドに結合することによってPirB活性化を遮断する、PirBに対する抗体を提供する。そのような抗体は、PirB関連障害または疾患の試験における、ならびに有効な治療物質の開発における研究および診断ツールとして有用である。さらに、PirBに対する抗体を含む薬学的組成物は有効な治療物質を表す可能性がある。
【0074】
本発明の抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ならびにポリクローナルおよびモノクローナル抗体の断片が含まれる。
【0075】
本発明のPirBポリペプチドはまた、PirBポリペプチドのエピトープに対して免疫反応性である、または結合する抗体を産生するために用いることができる。本質的に、異なるエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体からなる抗体と共に、個々のモノクローナル抗体調製物が提供される。モノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法によってタンパク質の断片を含有する抗原から作製される(Kohler, et al., Nature, 256:495, 1975;Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, et al., ed., 1989)。
【0076】
本発明において用いられるように、「抗体」という用語には、無傷の分子と共に、エピトープ決定基に結合することができるFab、F(ab')2、およびFvのようなその断片が含まれる。これらの抗体断片は、その抗原または受容体との何らかの選択的結合能を保持し、以下のように定義される:
(1)Fab、抗体分子の一価の抗原結合断片を含有する断片は、抗体全体を酵素パパインによって消化することによって産生することができ、無傷の軽鎖と1つの重鎖の一部とを生じる;
(2)Fab'、抗体の断片は、抗体全体をペプシンによって処置した後に還元することによって得られ、無傷の軽鎖と重鎖の一部とを生じる;抗体1分子あたり、2つのFab'断片が得られる;
(3)(Fab')2、抗体全体を酵素ペプシンによって処置した後還元を行わなずに得ることができる抗体断片;F(ab')2は、2つのジスルフィド結合によって互いに保持された2つのFab'断片の二量体である;
(4)Fv、軽鎖の可変領域と、2つの鎖として発現された重鎖の可変領域とを含有する遺伝子改変断片として定義される;および
(5)一本鎖抗体(「SCA」)、遺伝子融合一本鎖分子として適したポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作分子として定義される。
【0077】
これらの断片を作製する方法は、当技術分野において公知である(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)を参照されたい)。
【0078】
本発明において用いられるように、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原性決定基を意味する。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような化学的に活性な表面基からなり、通常、特異的な三次元構造特徴と共に特異的な電荷特徴を有する。
【0079】
本発明のPirBポリペプチドに結合する抗体は、免疫抗原として関心対象低分子ペプチドを含有する無傷のポリペプチドまたは断片を用いて調製することができる。動物を免疫するために用いられるポリペプチドまたはペプチドは、翻訳されたcDNAまたは化学合成に由来しえて、これを望ましければ担体タンパク質に共役させることができる。ペプチドに化学的に共役されるそのような一般的に用いられる担体には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風類毒素が含まれる。次に、共役されたペプチドを用いて動物(たとえば、マウス、ラット、またはウサギ)を免疫する。
【0080】
望ましければ、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、たとえばそれに対する抗体が作製されるポリペプチドまたはペプチドが結合するマトリクスに対する結合およびマトリクスからの溶出によって、さらに精製することができる。当業者は、ポリクローナル抗体と共にモノクローナル抗体の精製および/または濃縮に関して、免疫学の技術分野において一般的な様々な技術を承知しているであろう(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Coligan, et al., Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1994を参照されたい)。
【0081】
同様に、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生するために抗イディオタイプ抗体を用いることも可能である。たとえば、第一のモノクローナル抗体に対して作製された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、第一のモノクローナル抗体によって結合されるエピトープの「像」である高度可変領域において結合ドメインを有するであろう。
【0082】
ポリクローナル抗体の調製は、当業者に周知である。たとえば参照により本明細書に組み入れられる、Green et al., Production of polyclonal Antisera, in IMMUNOCHEMICAL PROTOCOLS (Manson, ed.), pages 1-5 (Humana Press 1992);Coligan et al., Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters, in CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY, section 2.4.1 (1992)を参照されたい。
【0083】
モノクローナル抗体の調製も同様に慣例的である。たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Kohler & Milstein, Nature 256:495 (1975);Coligan et al., sections 2.5.1-2.6.7;およびHarlow et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, page 726 (Cold Spring Harbor Pub. 1988)を参照されたい。簡単に説明すると、モノクローナル抗体は、抗原を含む組成物をマウスに注入する段階、血清試料を採取することによって抗体産生の存在を確認する段階、脾臓を摘出してBリンパ球を得る段階、B細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを産生する段階、ハイブリドーマをクローニングする段階、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択する段階、およびハイブリドーマ培養物から抗体を単離する段階によって得ることができる。モノクローナル抗体は、多様な十分に確立された技術によってハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる。そのような単離技術には、プロテインAセファロースによるアフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる。たとえば、Coligan et al., sections 2.7.1-2.7.12 and sections 2.9.1-2.9.3;Barnes et al., Purification of Immunoglobulin G (IgG), in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, VOL. 10, pages 79-104 (Humana Press 1992)を参照されたい。モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ拡大のための方法は当業者に周知である。インビトロでの拡大は、任意で仔ウシ胎児血清のような哺乳動物の血清または微量元素、および正常マウス腹腔滲出細胞、脾細胞、骨髄マクロファージのような生育維持補助物質を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地またはRPMI 1640培地のような適した培養培地において行ってもよい。インビトロでの産生は、比較的純粋な調製物を提供して、大量の所望の抗体を生じるように規模拡大することができる。大規模ハイブリドーマ培養は、エアリフトリアクター、連続撹拌リアクター、または固定もしくはエントラップ細胞培養における均一な浮遊培養によって行うことができる。インビボでの拡大は、親細胞と組織適合性である哺乳動物、たとえば同系マウスに細胞クローンを注入して、抗体産生腫瘍を生育させることによって行ってもよい。任意で、注入の前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)のような油によって動物をプライミングする。1〜3週間後、所望のモノクローナル抗体を動物の体液から採取する。
【0084】
本発明の抗体について治療応用が考えられる。たとえば、本発明の抗体はまた、ヒト下霊長類抗体に由来してもよい。ヒヒにおいて治療的に有用な抗体を作製するための全般的技術は、たとえば参照により本明細書に組み入れられるGoldenberg et al., 国際特許出願WO 91/11465 (1991)およびLosman et al., Int. J. Cancer 46:310 (1990)において見いだされるであろう。
【0085】
または、治療的に有用な抗PirB抗体は、「ヒト化」モノクローナル抗体に由来してもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変鎖からのマウス相補性決定領域をヒト可変ドメインに移して、次に、マウス相対物のフレームワーク領域においてヒト残基を置換することによって産生される。ヒト化モノクローナル抗体に由来する抗体成分を用いることにより、マウス定常領域の免疫原性に関連する起こりうる問題が回避される。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングするための全般的技術は、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、Orlandi et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:3833 (1989)によって記述されている。ヒト化モノクローナル抗体を産生するための技術は、たとえば参照により本明細書に組み入れられる、 Jones et al., Nature 321 : 522 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323 (1988);Verhoeyen et al., Science 239: 1534 (1988);Carter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89: 4285 (1992);Sandhu, Crit. Rev. Biotech. 12: 437 (1992);およびSinger et al., J. Immunol. 150: 2844 (1993)によって記述されている。
【0086】
本発明の抗体はまた、組み合わせ免疫グロブリンライブラリから単離されたヒト抗体断片に由来してもよい。たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Barbas et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL.2, page 119 (1991);Winter et al.,Ann. Rev. Immunol. 12: 433 (1994)を参照されたい。ヒト免疫グロブリンファージライブラリを産生するために有用なクローニングおよび発現ベクターは、たとえばSTRATAGENE Cloning Systems (La Jolla, Calif.)から得ることができる。
【0087】
さらに、本発明の抗体は、ヒトモノクローナル抗体に由来してもよい。そのような抗体は、抗原チャレンジに反応して特異的ヒト抗体を産生するように「操作され」ているトランスジェニックマウスから得られる。この技術において、ヒト重鎖および軽鎖座の要素を、内因性の重鎖および軽鎖座の標的化破壊を含む胚幹細胞株に由来するマウス系統に導入する。トランスジェニックマウスはヒト抗原に対して特異的な抗体を合成することができ、マウスを用いてヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、参照により本明細書に組み入れられる、Green et al., Nature Genet. 7:13 (1994);Lonberg et al., Nature 368:856 (1994);およびTaylor et al., Int. Immunol. 6:579 (1994)によって記述される。
【0088】
本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質分解加水分解によって、または断片をコードするDNAの大腸菌における発現によって調製することができる。抗体断片は、通常の方法によって全抗体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。たとえば、抗体断片は、抗体のペプシンによる酵素的切断によって産生され、F(ab')2と呼ばれる5S断片を提供する。この断片はさらに、チオール還元試薬を用いて、任意でジスルフィド連結の切断に起因するスルフヒドリル基のブロッキング基を用いて切断することができ、3.5S Fab'一価断片を産生することができる。または、パパインを用いる酵素的切断は2つの一価Fab断片とFc抗体を直接産生する。これらの方法は、たとえばGoldenberg、米国特許第4,036,945号および第4,331,647号、ならびにその中に含まれる参考文献において記述されている。これらの特許はその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる。同様に、Nisonhoff et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230 (1960);Porter, Biochem. J. 73:119 (1959);Edelman et al., METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 1, page 422 (Academic Press 1967);およびColigan et al. at sections 2.8.1-2.8.10 and 2.10.1- 2.10.4.を参照されたい。
【0089】
一価の軽鎖重鎖断片を形成するための重鎖の分離のような抗体を切断する他の方法、断片のさらなる切断または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝子技術も同様に、断片が無傷の抗体によって認識される抗原に結合する限り、用いてもよい。
【0090】
たとえば、Fv断片は、VHおよびVL鎖の会合を含む、この会合はInbar et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 69:2659 (1972)において記述されるように、非共有結合であってもよい。または、可変鎖を分子間ジスルフィド結合によって連結する、またはグルタルアルデヒドのような化学物質によってクロスリンクさせることができる。たとえば、Sandhu、前記を参照されたい。好ましくはFv断片はペプチドリンカーによって接続されたVおよびVL鎖を含む。これらの一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによって接続されたVおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入して、次にこれを大腸菌のような宿主細胞に導入する。組換え型宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドと共に1つのポリペプチド鎖を合成する。sFvを産生する方法は、たとえば、Whitlow et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 2, page 97 (1991);Bird et al., Science 242:423-426 (1988);Ladner et al., 米国特許第4,946,778号;Pack et al., Bio/Technology 11: 1271-77 (1993);およびSandhu、前記によって記述される。
【0091】
抗体断片のもう1つの型は、1つの相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最少認識単位」)は、関心対象抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、抗体産生細胞のRNAからの可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応を用いることによって調製される。たとえば、Larrick et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 2, page 106 (1991)を参照されたい。
【0092】
PirBのペプチド断片
もう1つの態様において、本発明はPirBの活性化を遮断するPirBの実質的に精製されたペプチド断片に関する。そのようなペプチド断片は、PirB関連治療物質の試験において研究および診断ツールを表しうる。さらに、PirBの単離および精製ペプチド断片を含む薬学的組成物は、有効な治療物質を表す可能性がある。
【0093】
本明細書において用いられるように、「実質的に精製された」という用語は、他のタンパク質、脂質、炭水化物、核酸、およびそれが天然に会合する他の生物材料を実質的に含まないペプチドのような分子を指す。たとえば、ポリペプチドのような実質的に純粋な分子は、関心対象分子の乾燥重量で少なくとも60%となりうる。当業者は、標準的なタンパク質精製法を用いてPIRBペプチドを精製することができ、ポリペプチドの純度は、たとえばポリアクリルアミドゲル電気泳動(たとえば、SDS-PAGE)、カラムクロマトグラフィー(たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、およびアミノ末端アミノ酸配列分析を含む標準的な方法を用いて決定することができる。
【0094】
本発明は、天然に存在するPirBの断片のみならず、受容体の活性化を遮断するPirB変異体およびPirBの化学合成誘導体にも関する。
【0095】
たとえば、PirBのアミノ酸配列における変化が本発明において企図される。PirBは、タンパク質をコードするDNAを変化させることによって変更することができる。好ましくは、同じまたは類似の特性を有するアミノ酸を用いて、保存的アミノ酸の変更のみを行う。例示的なアミノ酸置換には、アラニンのセリンへの変化;アルギニンのリジンへの変化;アスパラギンのグルタミンまたはヒスチジンへの変化;アスパラギン酸のグルタミン酸への変化;システインのセリンへの変化;グルタミンのアスパラギンへの変化;グルタミン酸のアスパラギン酸への変化;グリシンのプロリンへの変化;ヒスチジンのアスパラギンまたはグルタミンへの変化;イソロイシンのロイシンまたはバリンへの変化;ロイシンのバリンまたはイソロイシンへの変化;リジンのアルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸への変化;メチオニンのロイシンまたはイソロイシンへの変化;フェニルアラニンのチロシン、ロイシン、またはメチオニンへの変化;セリンのトレオニンへの変化;トレオニンのセリンへの変化;トリプトファンのチロシンへの変化;チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニンへの変化;バリンのイソロイシンまたはロイシンへの変化が含まれる。
【0096】
さらに、PIRBの他の変種および断片を本発明において用いることができる。変種には、膜融合の遮断能を保持するPIRBの類似体、相同体、誘導体、ミューテインおよび模倣体が含まれる。PirBの断片は、その能力を同様に保持するPirBのアミノ酸配列の一部を指す。変種および断片は、化学改変によって、タンパク質分解酵素消化によって、またはその組み合わせによってPirB自身から直接生成することができる。さらに、遺伝子操作技術と共に、アミノ酸残基から直接ポリペプチドを合成する方法を用いることができる。
【0097】
PirBのアンタゴニスト結合を模倣する非ペプチド化合物(「模倣体」)は、Saragovi et al., Science 253 : 792-95 (1991)において概要されるアプローチによって産生することができる。模倣体は、タンパク質の二次構造の要素を模倣する分子である。たとえば、Johnson et al.,「Peptide Turn Mimetics」 in BIOTECHNOLOGY AND PHARMACY, Pezzuto et al., Eds., (Chapman and Hall, New York 1993)を参照されたい。ペプチド模倣体を用いる背景の基礎となる原理は、タンパク質のペプチド骨格が、主に分子の相互作用を促進するような方向にアミノ酸側鎖を向けるために存在するという点である。本発明の目的に関して、PirBリガンドに結合するように投与された場合、適当な模倣体は、PirB自身の同等物であると見なすことができる。
【0098】
変種および断片はまた、ゲノムまたはcDNAクローニング法を用いる組換え技術によって作製することができる。部位特異的および領域特異的変異誘発技術を用いることができる。CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY vol. 1, ch. 8 (Ausubel et al. eds., J. Wiley & Sons 1989 & Supp. 1990-93);PROTEIN ENGINEERING (Oxender & Fox eds., A. Liss, Inc. 1987)を参照されたい。さらに、リンカー走査およびPCR媒介技術を変異誘発のために用いることができる。PCR TECHNOLOGY (Erlich ed., Stockton Press 1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2、前記を参照されたい。上記の任意の技術について用いるためのタンパク質のシークエンシング、構造およびモデリングアプローチは、PROTEIN ENGINEERING、上記引用文、およびCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2、前記において開示されている。
【0099】
PirB発現の阻害
PirB遺伝子発現の阻害または低減において用いることができるいくつかの方法があり、これらには以下が含まれる:
【0100】
「遺伝子沈黙化」は、遺伝子発現、たとえばトランスジーン、異種遺伝子、および/または内因性遺伝子発現の抑制を指す。遺伝子沈黙化は、転写に影響を及ぼすプロセスを通しておよび/または転写後メカニズムに影響を及ぼすプロセスを通して媒介されてもよい。いくつかの態様において、遺伝子沈黙化は、siRNAがRNA干渉によって配列特異的に関心対象遺伝子のmRNAの分解を開始する場合に起こる。いくつかの態様において、遺伝子沈黙化は対立遺伝子特異的であってもよい。「対立遺伝子特異的」遺伝子沈黙化は、遺伝子の1つの対立遺伝子の特異的沈黙化を指す。
【0101】
「ノックダウン」、「ノックダウン技術」は、siRNAの導入前の遺伝子発現と比較して標的遺伝子の発現が低減されている遺伝子沈黙化技術を指し、これによって標的遺伝子産物の産生阻害が起こりうる。「低減された」という用語は、本明細書において標的遺伝子発現が1〜100%低下することを示すために用いられる。たとえば、発現は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、または99%でさえ低減されてもよい。遺伝子発現のノックダウンは、dsRNAまたはsiRNAを用いることによって指示されてもよい。たとえば、siRNAを用いることを伴いうる「RNA干渉(RNAi)」は、植物、ショウジョウバエ(D. melanogaster)、シーエレガンス(C. elegans)、トリパノソーマ、プラナリア、ヒドラ、およびマウスを含むいくつかの脊椎動物種において特異的遺伝子の発現をノックダウンするために適用され成功している。
【0102】
「RNA干渉(RNAi)」は、siRNAによって開始される配列特異的な転写後遺伝子沈黙化のプロセスである。RNAiはショウジョウバエ(Drosophila)、線虫、真菌および植物のような多くの生物において認められ、抗ウイルス防御、トランスポゾン活性の調整、および遺伝子発現の調節に関係していると考えられている。RNAiの際に、siRNAは、標的mRNAの分解を誘導し、その後、配列特異的遺伝子発現阻害を誘導する。
【0103】
「低分子干渉」または「短い干渉RNA」、またはsiRNAは、関心対象遺伝子にターゲティングされるヌクレオチドのRNA二本鎖である。「RNA二本鎖」は、RNA分子の2つの領域間の相補的対形成によって形成される構造を指す。siRNAは、siRNAの二本鎖部分のヌクレオチド配列が標的遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であるという点において遺伝子に「ターゲティング」される。いくつかの態様において、siRNAの二本鎖の長さは30ヌクレオチド未満である。いくつかの態様において、二本鎖は長さが29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または10ヌクレオチドとなりうる。いくつかの態様において、二本鎖の長さは19〜25ヌクレオチドである。siRNAのRNA二本鎖部分は、ヘアピン構造の一部となりうる。二本鎖部分のほかに、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列のあいだに位置するループ部分を含有してもよい。ループの長さは異なりうる。いくつかの態様において、ループは長さが5、6、7、8、9、10、11、12、または13ヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3'または5'オーバーハング部分を含有してもよい。いくつかの態様において、オーバーハングは、3'または5'オーバーハングであり、長さが0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドである。
【0104】
さらに、本明細書において用いられる「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」、または「化学改変低分子干渉核酸分子」という用語は、たとえばRNA干渉「RNAi」または遺伝子沈黙化を配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害またはダウンレギュレートすることができる任意の核酸分子を指す。たとえば、Zamore et al., 2000, Cell, 101, 25-33;Bass, 2001, Nature, 411, 428-429;Elbashir et al., 2001, Nature, 411, 494-498;およびKreutzer et al., PCT国際公開番号WO 00/44895;Zernicka-Goetz et al., PCT国際公開番号WO 01/36646;Fire, PCT国際公開番号WO 99/32619;Plaetinck et al., PCT国際公開番号WO 00/01846;Mello and Fire, PCT国際公開番号WO 01/29058;Deschamps-Depaillette, PCT国際公開番号WO 99/07409;およびLi et al., PCT国際公開番号WO 00/44914;Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819;Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837;Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237;Hutvagner and Zamore, 2002, Science, 297, 2056-60;McManus et al., 2002, RNA, 8, 842-850;Reinhart et al., 2002, Gene & Dev., 16, 1616- 1626;およびReinhart & Bartel, 2002, Science, 297, 1831を参照されたい。本発明のsiRNA分子の非制限的な例を、本明細書の図18〜20および表1に示す。たとえば、siRNAは自己相補的センスおよびアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子となりえて、アンチセンス領域は標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有する。siRNAは、異なる2つのオリゴヌクレオチドから組み立てることができ、1つの鎖はセンス鎖であり、もう1つはアンチセンス鎖であり、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、それぞれの鎖は、アンチセンス鎖とセンス鎖とが二重らせんまたは二本鎖構造を形成する場合のように、他方の鎖におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む、たとえば二本鎖領域は約19塩基対である);アンチセンス鎖は、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む。または、siRNAは1つのオリゴヌクレオチドから組み立てられ、この場合siRNAの自己相補的センスおよびアンチセンス領域は、核酸に基づくまたは非核酸に基づくリンカーによって連結される。siRNAは、二重らせん、非対称二重らせん、ヘアピン、または非対称ヘアピン二次構造を有し、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を有するポリヌクレオチドとなりえて、アンチセンス領域は、異なる標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有する。siRNAは、アンチセンス領域が標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域が標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有し、環状ポリヌクレオチドがインビボまたはインビトロのいずれかで処理されて、RNAiを媒介することができる活性なsiRNA分子を生成する、2つまたはそれより多いループ構造と、自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域を含む幹部分を有する環状の一本鎖ポリヌクレオチドとなりうる。siRNAはまた、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドを含みえて(たとえば、そのようなsiRNA分子は、siRNA分子内に標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列の存在を必要としない)、一本鎖ポリヌクレオチドはさらに、5'ホスフェート(Martinez et al., 2002, Cell., 110, 563-574、およびSchwarz et al., 2002, Molecular Cell, 10, 537-568を参照されたい)、または5', 3'-ジホスフェートのような末端のリン酸基を含みうる。一定の態様において、本発明のsiRNA分子は、異なるセンスおよびアンチセンス配列または領域を含み、センスおよびアンチセンス領域は、当技術分野において公知であるようにヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有的に連結されるか、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、および/またはスタッキング相互作用によって非共有的に連結される。一定の態様において、本発明のsiRNA分子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む。もう1つの態様において、本発明のsiRNA分子は標的遺伝子の発現の阻害を引き起こすように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書において用いられるように、siRNA分子は、RNAのみを含む分子に限定される必要はないが、化学改変ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに含む。一定の態様において、本発明の低分子干渉核酸分子は、2'-ヒドロキシ(2'-OH)含有ヌクレオチドを欠損する。任意で、siRNA分子はヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40、または50%でリボヌクレオチドを含みうる。本発明の改変低分子干渉核酸分子は、低分子改変オリゴヌクレオチド「siMON」とも呼ばれうる。本明細書において用いられるように、siRNAという用語は、配列特異的RNAiを媒介することができる核酸分子、たとえば低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロ-RNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉改変オリゴヌクレオチド、化学改変siRNA、転写後遺伝子沈黙化RNA(ptgsRNA)、およびその他を記述するために用いられる他の用語と同等であることを意味する。さらに、本明細書において用いられるように、RNAiという用語は、転写後遺伝子沈黙化、翻訳後阻害、または後成学のような配列特異的RNA干渉を記述するために用いられる他の用語と同等であることを意味する。たとえば、本発明のsiRNA分子は、転写後レベルまたは転写前レベルの双方で遺伝子を後成学的に沈黙化させるために用いることができる。非制限的な例において、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現の後成学的調節は、遺伝子発現を変更させるための染色質構造のsiRNA媒介改変に起因しうる(たとえば、Verdel et al., 2004, Science, 303, 672-676;Pal-Bhadra et al., 2004, Science, 303, 669-672;Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819;Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837;Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237を参照されたい)。
【0105】
siRNAは、核酸配列によってコードされえて、核酸配列にはまた、プロモーターが含まれうる。核酸配列にはまた、ポリアデニル化シグナルが含まれうる。いくつかの態様において、ポリアデニル化シグナルは合成最小ポリアデニル化シグナルである。
【0106】
本発明のsiRNA分子の合成
本発明の一定のsiRNA分子を含むRNAのために用いられる合成法は、Usman et al., 1987, J. Am. Chem. Soc., 109, 7845;Scaringe et al., 1990, Nucleic Acids Res., 18, 5433;およびWincott et al., 1995, Nucleic Acids Res. 23, 2677-2684 Wincott et al., 1997, Methods Mol. Bio., 74, 59において記述される技法に従い、5'末端でジメトキシトリチルおよび3'末端でホスホルアミダイトのような共通の核酸保護およびカップリング基を利用する。非制限的な例において、0.2μmolスケールのプロトコールを用いてアルキルシリル保護ヌクレオチドに関して7.5分のカップリング段階で、および2'-O-メチル化ヌクレオチドに関して2.5分のカップリング段階で、小規模合成を394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーにおいて行う。または、0.2μmol規模での合成を、Protogene (Palo Alto, Calif.)によって製造された機器のような96ウェルプレートシンセサイザーにおいてサイクルに最少の改変を加えて行うことができる。2'-O-メチルホスホルアミダイトの33倍過剰量(0.11 Mを60μl=15μmol)、およびS-エチルテトラゾールの75倍過剰量(0.25 Mを60μl=15μmol)を、ポリマー結合5'-ヒドロキシルに対して2'-O-メチル残基のそれぞれのカップリングサイクルにおいて用いることができる。アルキルシリル(リボ)保護ホスホルアミダイトの66倍過剰量(0.11 Mを120μl=13.2μmol)およびS-エチルテトラゾールの150倍過剰量(0.25 Mを120μl=30μmol)をポリマー結合5'-ヒドロキシルに対してリボ残基のそれぞれのカップリングサイクルにおいて用いることができる。トリチル分画の比色定量によって決定された394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーでの平均カップリング収率は典型的に、97.5〜99%である。394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーに関する他のオリゴヌクレオチド合成試薬には、以下が含まれる:脱トリチル化溶液は3%TCAの塩化メチレン溶液(ABI)である;キャッピングは、16%N-メチルイミダゾールのTHF溶液(ABI)および10%無水酢酸/10%2,6-ルチジンのTBF溶液(ABI)によって行う;酸化溶液は、THF(PERSEPTIVE(商標))における16.9 mM I2、49 mMピリジン、9%水である。Burdick & Jackson合成等級アセトニトリルを試薬瓶から直接使用する。S-エチルテトラゾール溶液(アセトニトリルにおいて0.25 M)は、American International Chemical, Inc.から得た固体から作製する。または、ホスホロチオテート連結を導入するために、ビューケージ試薬(0.05 Mアセトニトリルにおいて3H-1,2-ベンゾジチオル-3-オン1,1-ジオキシド)を用いる。
【0107】
RNAの脱保護は、2-ポットまたは1-ポットプロトコールのいずれかを用いて行われる。2-ポットプロトコールの場合、ポリマー結合トリチル-オンオリゴリボヌクレオチドを4 mlガラススクリュートップバイアルに移して、40%メチルアミン水溶液(1 ml)において65℃で10分間懸濁する。-20℃に冷却後、上清をポリマー支持体から除去する。支持体をEtOH:MeCN:H2O/3:1:1 1.0 mlによって3回洗浄して撹拌し、上清を第一の上清に加える。オリゴリボヌクレオチドを含む併せた上清を乾燥させると白色粉末が得られる。塩基脱保護オリゴリボヌクレオチドを無水TEA/HF/NMP溶液(N-メチルピロリジノン1.5 ml、TEA 750μl、およびTEA.3HF 1 mlの溶液300μlは1.4 M HF濃度を提供する)に懸濁して、65℃に加熱する。1.5時間後、オリゴマーの反応を1.5 M NH4HCO3によって停止させる。
【0108】
または、1-ポットプロトコールの場合、ポリマー結合トリチル-オンオリゴリボヌクレオチドを4 mlガラススクリュートップバイアルに移して、33%エタノールメチルアミン/DMSO:1/1(0.8 ml)の溶液に65℃で15分間懸濁する。バイアルを室温にしてTEA.3HF(0.1 ml)を加えて、バイアルを65℃で15分間加熱する。試料を-20℃で冷却した後1.5 M NH4HCO3によって反応を停止させる。
【0109】
トリチル-オンオリゴマーの精製に関して、反応を停止させたNH4HCO3溶液を、アセトニトリルの後に50 mM TEAAによって予め洗浄しておいたC-18含有カートリッジにローディングする。ロードしたカートリッジを水で洗浄後、RNAを0.5%TFAによって13分間脱トリチル化する。次にカートリッジを再度水で洗浄して、1 M NaClによって塩を交換して再度水で洗浄する。次にオリゴヌクレオチドを30%アセトニトリルによって溶出する。
【0110】
段階的カップリング収率の平均値は典型的に>98%である(Wincott et al., 1995 Nucleic Acids Res.23, 2677-2684)。当業者は、合成の規模を、96ウェルフォーマットが含まれるがこれらに限定されるわけではない先に記述した実施例より大きくまたは小さくなるように適合させることができると認識するであろう。
【0111】
または、本発明の核酸分子は、個別に合成して、合成後に、たとえばライゲーション(Moore et al., 1992, Science 256, 9923; Draper et al., PCT国際公開番号WO 93/23569;Shabarova et al., 1991, Nucleic Acids Research 19, 4247;Bellon et al., 1997, Nucleosides & Nucleotides, 16, 951;Bellon et al., 1997, Bioconjugate Chem. 8, 204)によって、または合成および/または脱保護後のハイブリダイゼーションによって接合することができる。
【0112】
改変塩基と共に天然に存在する塩基であるシトシン、ウラシル、アデノシン、およびグアノシンを含めることは、該改変塩基を含有するsiRNA分子に有利な特性を付与する可能性があることは当業者に明らかであろう。たとえば、改変塩基は、siRNA分子の安定性を増加させて、それによって所望の効果を生じるために必要な量を低減させる可能性がある。改変塩基の提供はまた、多かれ少なかれ安定であるsiRNA分子を提供する可能性がある。
【0113】
「改変ヌクレオチド塩基」という用語は、共有的に改変された塩基および/または糖を有するヌクレオチドを包含する。たとえば、改変ヌクレオチドには、3'位でのヒドロキシル基以外の、および5'位でホスフェート基以外の低分子量有機基に共有的に付着させた糖を有するヌクレオチドが含まれる。このように、改変ヌクレオチドにはまた、2'-O-メチル;2-O-アルキル;2-O-アリル;2'-S-アルキル;2'-S-アリル;2'-フルオロ;2'-ハロ、または2;アジド-リボースのような2'置換糖、炭素環糖類似体a-アノマー糖;アラビノース、キシロース、またはリキソースのようなエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、およびセドヘプツロースが含まれてもよい。
【0114】
改変糖は当技術分野において公知であり、これには例としてしかし制限的ではない以下が含まれる:アルキル化プリンおよび/またはピリミジン;アシル化プリンおよび/またはピリミジン;または他の複素環。これらのクラスのピリミジンおよびプリンは当技術分野において公知であり、これには、シュードシトシン;N4,N4-エタノシトシン;8-ヒドロキシ-N6-メチルアデニン;4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル;5-フルオロウラシル;5-ブロモウラシル;5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル;5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル;ジヒドロウラシル;イノシン;N6-イソペンチル-アデニン;1-メチルアデニン;1-メチルシュードウラシル;1-メチルグアニン;2,2-ジメチルグアニン;2-メチルアデニン;2-メチルグアニン;3-メチルシトシン;5-メチルシトシン;N6-メチルアデニン;7-メチルグアニン;5-メチルアミノメチルウラシル;5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル;β-D-マンノシルケオシン;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;5-メトキシウラシル;2-メチルチオ-N-6-イソペンテニルアデニン;ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル;シュードウラシル;2-チオシトシン;5-メチル-2-チオウラシル;2-チオウラシル;4-チオウラシル;5-メチルウラシル;N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル;ウラシル-5-オキシ酢酸;ケオシン;2-チオシトシン;5-プロピルウラシル;5-プロピルシトシン;5-エチルウラシル;5-エチルシトシン;5-ブチルウラシル;5-ペンチルウラシル;5-ペンチルシトシン;および2,6-ジアミノプリン;メチルシュードウラシル;1-メチルグアニン;1-メチルシトシンが含まれる。
【0115】
本発明のsiRNA分子は、通常のホスホジエステル連結ヌクレオチドを用いて合成することができ、および当技術分野において公知の標準的な固相または液相合成技術を用いて合成することができる。ヌクレオチド間の連結は、もう1つの連結分子を用いてもよい。たとえば、RがH(またはその塩)であるかアルキル(1-12C)であって、R6がアルキル(1-9C)である、式P(O)S、(チオエート);P(S)S、(ジチオエート);P(O)NR12;P(O)R';P(O)OR6;CO;またはCONR12の連結基を、--O--または--S--を通して隣接するヌクレオチドに接合する。
【0116】
本発明のsiRNA分子の投与
本発明のsiRNA分子は、任意のPirB関連疾患または障害、および細胞または組織における遺伝子産物レベルに反応することができる他の適応を処置するために、単独または他の治療と併用して用いるように適合させることができる。そのような疾患および状態の非制限的な例には、神経系の欠損として定義される疾患および状態、先に記述した障害および疾患、ならびに細胞または生物において発現された遺伝子産物のレベルに反応することができる任意の他の適応が含まれる(たとえば、McSwiggen、PCT国際公開番号WO 03/74654を参照されたい)。たとえば、siRNA分子は、被験体に投与するためのリポソーム、担体、および希釈剤およびその塩を含む送達媒体を含みえて、および/または薬学的に許容される処方に存在しうる。核酸分子を送達するための方法は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Akhtar et al., 1992, Trends Cell Bio., 2, 139;Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics, ed. Akhtar, 1995, Maurer et al., 1999, Mol. Membr. Biol., 16, 129-140;Hofland and Huang, 1999, Handb. Exp. Pharmacol., 137, 165-192;およびLee et al., 2000, ACS Symp. Ser., 752, 184-192において記述されている。Beigelman et al., 米国特許第6,395,713号およびSullivan et al., PCT WO 94/02595はさらに、核酸分子を送達するための一般的な方法を記述している。これらのプロトコールは、実質的にいかなる核酸分子の送達にも利用することができる。核酸分子は、リポソームへの封入、イオントフォレーシス、または生体分解性のポリマー、ハイドロゲル、シクロデキストリン(たとえば、Gonzalez et al., 1999, Bioconjugate Chem., 10, 1068-1074;Wang et al., PCT国際公開番号WO 03/47518およびWO 03/46185を参照されたい)、ポリ(乳酸-コグリコール酸)(PLGA)およびPLCAミクロスフェア(たとえば米国特許第6,447,796号および米国特許出願第2002130430号を参照されたい)、生体分解性のナノカプセル、および生体接着性のミクロスフェアのような他の媒体への組み込み、またはタンパク質様ベクター(O'Hare and Normand, PCT国際公開番号WO 00/53722)が含まれるがこれらに限定されるわけではない当業者に公知の多様な方法によって、細胞に投与することができる。1つの態様において、本発明の核酸分子は、弾性の形状記憶ポリマーのような生体分解性のインプラント材料によって投与される(たとえば、Lendelein and Langer, 2002, Science, 296, 1673を参照されたい)。もう1つの態様において、本発明の核酸分子はまた、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)、またはポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体のようなポリエチレンイミンおよびその誘導体と共に処方するまたは複合体を形成することができる。または、核酸/媒体の組み合わせは、直接注射または注入ポンプを用いることによって局所送達される。本発明の核酸分子の直接注射は、皮下、筋肉内、または皮内であれ、標準的な針およびシリンジの方法論を用いて、またはConry et al., 1999, Clin. Cancer Res., 5, 2330-2337およびBarry et al., PCT国際公開番号WO 99/31262において記述される技術のような針を使用しない技術によって行うことができる。当技術分野における多くの例は、浸透圧ポンプ(Chun et al., 1998, Neuroscience Letters, 257, 135-138, D'Aldin et al., 1998, Mol. Brain Research, 55, 151- 164, Dryden et al., 1998, J. Endocrinol., 157, 169-175, Ghimikar et al., 1998, Neuroscience Letters, 247, 21-24を参照されたい)、または直接注入(Broaddus et al., 1997, Neurosurg. Focus, 3, article 4)によるオリゴヌクレオチドのCNS送達法を記述している。他の送達経路には、経口(錠剤または丸剤型)および/または鞘内送達(Gold, 1997, Neuroscience, 16, 1153-1158)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。核酸の送達および投与に関するより詳細な記述は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Sullivan et al.、前記、Draper et al., PCT WO93/23569、Beigelman et al., PCT WO99/05094、およびKlimuk et al., PCT W099/04819において提供される。本発明の分子は薬剤として用いることができる。薬剤は、被験体における病態の発生を防止、調節、または処置(症状をある程度、好ましくは症状の全てを緩和する)する。
【0117】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、その図面を含む全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第20010007666号において記述される物質のような膜崩壊物質と複合体を形成する。もう1つの態様において、膜崩壊物質または複数の物質とsiRNA分子とは、その図面を含む全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,235,310号において記述される脂質のような、陽イオン脂質またはヘルパー脂質分子と複合体を形成する。
【0118】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、ポリエチレンイミン(たとえば、直鎖または分岐鎖PEI)および/またはそのガラクトースPEI、コレステロールPEI、抗体誘導体化PEI、およびポリエチレングリコールPEI(PEG-PEI)誘導体のような移植PEIを含むポリエチレンイミン誘導体(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Ogris et al., 2001, AAPA PharmSci, 3, 1-11;Furgeson et al., 2003, Bioconjugate Chem., 14, 840-847; Kunath et al., 2002, Phramaceutical Research, 19, 810-817; Choi et al., 2001, Bull. Korean Chem. Soc, 22, 46-52; Bettinger et al., 1999, Bioconjugate Chem., 10, 558-561; Peterson et al., 2002, Bioconjugate Chem., 13, 845- 854; Erbacher et al., 1999, Journal of Gene Medicine Preprint, 1, 1-18; Godbey et al., 1999., PNAS USA, 96, 5177-5181; Godbey et al., 1999, Journal of Controlled Release, 60, 149-160; Diebold et al., 1999, Journal of Biological Chemistry, 274, 19087-19094; Thomas and Klibanov, 2002, PNAS USA, 99, 14640-14645; and Sagara, 米国特許第6,586,524号を参照されたい)と共に処方される、または複合体を形成する。
【0119】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、生体共役体、たとえば、全て参照により本明細書に組み入れられる、Vargeese et al., 2003年4月30日に提出された米国特許出願第10/427,160号;米国特許第6,528,631号;米国特許第6,335,434号;米国特許第6,235,886号;米国特許第6,153,737号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,138,045号において記述される核酸共役体を含む。
【0120】
このように、本発明は、安定化剤、緩衝剤等のような許容される担体において本発明の1つまたは複数の核酸を含む薬学的組成物を特徴とする。本発明のポリヌクレオチドは、薬学的組成物を形成するために、任意の標準的な手段によって、安定化剤、緩衝剤等と共に、またはそれらの非存在下で被験体に投与(たとえば、RNA、DNA、またはタンパク質)および導入されうる。リポソーム送達メカニズムを用いることが望ましい場合、リポソームを形成するための標準的なプロトコールに従うことができる。本発明の組成物はまた、経口投与のための錠剤、カプセル剤、エリキシル剤として、直腸内投与のための坐剤として、注射投与のための滅菌溶液、懸濁液として、および当技術分野で公知の他の組成物として、処方され、用いることができる。
【0121】
本発明にはまた、望ましい化合物の薬学的に許容される処方が含まれる。これらの処方には、上記の化合物の塩、たとえば酸付加塩、たとえば塩酸、臭化水素酸、酢酸、およびベンゼンスルホン酸の塩が含まれる。
【0122】
薬理学的組成物または処方は、細胞、またはたとえばヒトを含む被験体に投与するために、たとえば全身投与するために適した剤形の組成物または処方を指す。適した剤形は、部分的に流入経路、たとえば経口、経皮、または注射に依存する。そのような剤形は組成物または処方が標的細胞(すなわち、陰性荷電核酸が送達にとって望ましい細胞)に達することを防止してはならない。たとえば、血流に注射された薬理学的組成物は溶解性でなければならない。他の要因は当技術分野において公知であり、これには、毒性および組成物または処方がその効果を発揮することを防止する剤形のような検討が含まれる。
【0123】
「全身投与」とは、血流における薬物のインビボ全身性の吸収または蓄積の後に全身への分布を意味する。全身吸収に至る投与経路には、以下が含まれるがこれらに限定されるわけではない:静脈内、皮下、腹腔内、吸入、経口、肺内、および筋肉内。これらの投与経路のそれぞれは、許容される疾患組織に対して本発明のsiRNA分子を曝露する。循環への薬物の流入速度は、分子量または大きさの関数であることが示されている。本発明の化合物を含むリポソームまたは他の薬物担体を用いることは、たとえば細網内皮系(RES)の組織のような、一定の組織タイプにおそらく薬剤を局在させることができる。リンパ球およびマクロファージのような細胞表面と薬物との会合を促進することができるリポソーム処方も同様に有用である。このアプローチは、癌細胞のような、異常な細胞のマクロファージおよびリンパ球免疫認識の特異性を利用することによって標的細胞に対する薬物の送達の増強を提供することができる。
【0124】
「薬学的に許容される処方」は、その所望の活性にとって最も適した物理的位置で本発明の核酸分子の有効な分布を可能にする組成物または処方を意味する。本発明の核酸分子と共に処方するために適した物質の非制限的な例には:CNSへの薬物の流入を増強することができるP-糖タンパク質阻害剤(Pluronic P85のような)(Jolliet-Riant and Tillement, 1999, Fundam. Clin. Pharmacol., 13, 16-26);脳内埋め込み後の持続的な放出送達のためのポリ(DL-ラクチド-コグリコリド)ミクロスフェア(Emerich, D F et al, 1999, Cell Transplant, 8, 47-58)(Alkermes, Inc. Cambridge, Mass.)のような生体分解性のポリマー;および血液脳関門を超えて薬物を送達させることができ、ニューロン取り込みメカニズムを変更させることができる、ポリブチルシアノアクリレートで作製された粒子のような、ロードされたナノ粒子(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 23, 941-949, 1999)が含まれる。本発明の核酸分子に関する送達戦略の他の非制限的な例には、Boado et al., 1998, J. Pharm. Sci, 87, 1308-1315;Tyler et al., 1999, FEBS Lett., 421, 280-284;Pardridge et al., 1995, PNAS USA., 92, 5592-5596;Boado, 1995, Adv. Drug Delivery Rev., 15, 73-107;Aldrian-Herrada et al., 1998, Nucleic Acids Res., 26, 4910-4916;およびTyler et al., 1999, PNAS USA., 96, 7053-7058において記述される材料が含まれる。
【0125】
本発明はまた、ポリ(エチレングリコール)脂質(PEG改変または長時間循環型リポソーム、またはステルスリポソーム)を含有する表面改変リポソームを含む組成物を用いることを特徴とする。これらの処方は、標的組織における薬物の蓄積を増加させるための方法を提供する。このクラスの薬物担体は、オプソニン化および単核球貪食系(MPSまたはRES)による消失に耐え、それによって封入された薬物のより長い血液循環時間および増強された組織曝露を可能にする(Lasic et al. Chem. Rev. 1995, 95, 2601-2627;Ishiwata et al., Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 1005-1011)。そのようなリポソームは、おそらく新生血管標的組織における滲出および捕獲によって、腫瘍において選択的に蓄積することが示されている(Lasic et al., Science 1995, 267, 1275-1276;Oku et al., 1995, Biochim. Biophys. Acta, 1238, 86-90)。長時間循環型リポソームは、特に、MPSの組織に蓄積することが知られている従来の陽イオンリポソームと比較した場合に、DNAおよびRNAの薬物動態および薬力学を増強する(Liu et al., J. Biol. Chem. 1995, 42, 24864-24870;Choi et al., PCT国際公開番号WO 96/10391;Ansell et al., PCT国際公開番号WO 96/10390;Holland et al., PCT国際公開番号WO 96/10392)。長時間循環型リポソームはまた、肝臓および脾臓のような代謝的に攻撃的なMPS組織における蓄積を回避できる能力に基づいて、陽イオンリポソームと比較して大きい程度にヌクレアーゼ分解から薬物を保護する可能性がある。
【0126】
本発明にはまた、薬学的に許容される担体または希釈剤において所望の化合物の薬学的有効量が含まれる、保存または投与のために調製された組成物が含まれる。治療的に用いるための許容される担体または希釈剤は薬学技術分野において周知であり、たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)において記述されている。たとえば、保存剤、安定化剤、色素、および着香料が提供されうる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸エステルが含まれる。さらに、抗酸化剤および懸濁剤を用いることができる。
【0127】
薬学的有効量は、疾患状態の発生を予防、阻害、または処置する(症状をある程度、好ましくは症状の全てを緩和する)ために必要な用量である。薬学的有効量は、疾患のタイプ、用いる組成物、投与経路、処置される哺乳動物のタイプ、検討される特異的哺乳動物の身体的特徴、同時投薬、および当業者が認識するであろう他の要因に依存する。一般的に、活性成分の0.1 mg/kg〜100 mg/kg体重/日の量が、陰性荷電ポリマーの効力に依存して投与される。
【0128】
本発明の核酸分子およびその処方は、従来の非毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または媒体を含有する単位投与処方において、経口、局所、非経口、吸入もしくはスプレーによって、または直腸内に投与することができる。本明細書において用いられる非経口という用語には、経皮、皮下、血管内(たとえば、静脈内)、筋肉内、または鞘内の注射または注入技術等が含まれる。さらに、本発明の核酸分子と薬学的に許容される担体とを含む薬学的処方が提供される。本発明の1つまたは複数の核酸分子は、1つまたは複数の非毒性の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/またはアジュバント、および望ましければ他の活性成分と会合して存在しうる。本発明の核酸分子を含有する薬学的組成物は、経口での使用に適した剤形、たとえば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分散型粉末もしくは顆粒剤、乳剤、硬もしくは軟カプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤となりうる。
【0129】
経口での使用が意図される組成物は、当技術分野で公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、薬学的に洗練された味のよい調製物を提供するために、1つまたは複数のそのような甘味料、着香料、着色料、または保存物質を含みうる。錠剤は、錠剤を製造するために適した非毒性の薬学的に許容される賦形剤と混合して活性成分を含有する。これらの賦形剤は、たとえば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;造粒および崩壊剤、たとえばコーンスターチおよびアルギン酸;結合剤、たとえばデンプン、ゼラチン、またはアカシア;および潤滑剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクとなりうる。錠剤は非コーティングとなりえて、またはそれらを公知の技術によってコーティングすることができる。いくつかの場合において、そのようなコーティングは、消化管における崩壊および吸収を遅らせて、それによって長期間にわたって持続的な作用を提供するために公知の技術によって調製することができる。たとえば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルのような時間遅延物質を用いることができる。
【0130】
経口で使用するための処方はまた、活性成分が不活性な固体希釈剤、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリンと混合される、硬ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水もしくは油性媒体、たとえば落花生油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油と混合される、軟ゼラチンカプセルとして表されうる。
【0131】
水性懸濁液は水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物において活性材料を含有する。そのような賦形剤は、懸濁剤、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴムであり;分散剤または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、たとえばレシチン、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合産物、たとえばステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合産物、たとえばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトールのような、エチレンオキシドと、脂肪酸とヘキシトールに由来する部分的エステルとの縮合産物、エチレンオキシドと、脂肪酸および無水ヘキシトールに由来する部分的エステルとの縮合産物、たとえばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタンとなりうる。水性懸濁剤はまた、1つまたは複数の保存剤、たとえばエチルもしくはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエート、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の着香料、および蔗糖またはサッカリンのような1つまたは複数の甘味料を含有しうる。
【0132】
油性懸濁剤は、活性成分を植物油、たとえば落花生油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはココナツ油に、または液体パラフィンのような鉱油に懸濁させることによって処方されうる。油性懸濁剤は、濃化剤、たとえば蜜ロウ、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有しうる。味のよい経口調製物を提供するために、甘味料および着香料を加えることができる。これらの組成物は、アスコルビン酸のような抗酸化剤を加えることによって保存することができる。
【0133】
水を加えることによって水性懸濁液を調製するために適した分散性粉剤および顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つまたは複数の保存剤と混合して活性成分を提供する。適した分散もしくは湿潤剤または懸濁剤は、上記で既に言及した物質によって例示される。さらなる賦形剤、たとえば甘味料、着香料、および着色料も同様に存在しうる。
【0134】
本発明の薬学的組成物は、水中油型乳剤の剤形となりうる。油性基剤は植物油もしくは鉱油、またはこれらの混合物となりうる。適した乳化剤は、天然に存在するゴム、たとえばアカシアゴムおよびトラガカントゴム、天然に存在するホスファチド、たとえばダイズ、レシチン、および脂肪酸と無水ヘキシトールに由来するエステルまたは部分的エステル、たとえばモノオレイン酸ソルビタン、該部分的エステルとエチレンオキシドとの縮合産物、たとえばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンとなりうる。乳剤はまた、甘味料および着香料を含有しうる。
【0135】
シロップおよびエリキシル剤を甘味料、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、グルコース、または蔗糖と共に処方することができる。そのような処方はまた、粘滑剤、保存剤、着香料および着色料を含有しうる。薬学的組成物は、滅菌注射型水性または油性懸濁液の剤形となりうる。この懸濁液は、先に言及した適した分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて、公知の技術に従って処方されうる。滅菌注射用調製物も同様に、たとえば1,3-ブタンジオール溶液として非毒性の非経口の許容される希釈剤または溶媒における滅菌注射用溶液または懸濁液となりうる。用いることができる許容される媒体および溶媒は、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌の固定油が溶媒または懸濁培地としても通常用いられる。この目的に関して、合成モノまたはジグリセリドを含む任意の刺激性の低い固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は注射剤の調製において有用である。
【0136】
本発明の核酸分子はまた、坐剤の剤形で、たとえば薬物の直腸内投与のために投与することができる。これらの組成物は、通常の温度では固体であるが直腸温度で液体であり、したがって直腸内で融解して薬物を放出する、適した非刺激性の賦形剤と共に薬物を混合することによって調製されうる。そのような材料には、ココアバターおよびポリエチレングリコールが含まれる。
【0137】
本発明の核酸分子は、滅菌培地において非経口投与することができる。用いる媒体および濃度に応じて、薬物を、媒体に懸濁または溶解させることができる。都合がよいことに、局所麻酔剤、保存剤、および緩衝剤のような補助物質を媒体に溶解することができる。
【0138】
上記の状態の処置において、約0.1 mg〜約140 mg/kg体重/日の次数の用量レベルが有用である(約0.5 mg〜約7 g/被験体/日)。1つの投与剤形を産生するために担体材料と混合することができる活性成分の量は、処置される宿主および特定の投与様式に応じて変化する。単位投与剤形は一般的に、活性成分約1 mg〜約500 mgを含有する。
【0139】
任意の特定の被験体に関する特異的用量レベルは、用いる特異的化合物の活性、年齢、体重、全身健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の併用、および治療を受ける特定の疾患の重症度を含む多様な要因に依存する。
【0140】
非ヒト動物に投与する場合、組成物を動物の飼料または飲料水に加えることができる。動物がその飼料と共に治療的適当量の組成物を摂取するように、動物飼料および飲料水組成物を処方することは簡便となりうる。同様に、飼料または飲料水に加える前のプレミクスとして組成物を提示することも簡便となりうる。
【0141】
本発明の核酸分子はまた、全体的な治療効果を増加させるために他の治療化合物と併用して被験体に投与することができる。適応を処置するために多数の化合物を用いることは、副作用の存在を低減させながら有益な効果を増加させることができる。
【0142】
キット
本発明は、単独で、または試験試料もしくは被験体にインビトロもしくはインビボでRNAの導入を行うために必要な試薬の少なくとも1つを有するキットの成分として用いることができる。たとえば、キットの好ましい成分には、本発明のsiRNA分子と、本明細書において記述される関心対象細胞へのsiRNAの導入を促進する媒体とが含まれる(たとえば、脂質および当技術分野において公知の他のトランスフェクション法を用いて、たとえばBeigelman et al, 米国特許第6.395,713号を参照されたい)。キットは、遺伝子機能および/または活性の決定、または薬物の最適化、および薬物発見の場合のような、標的のバリデーションのために用いることができる(たとえば、Usman et al., U.S. Ser. No. 60/402,996を参照されたい)。そのようなキットには、キットのユーザーに本発明を実践させるための説明書が含まれうる。
【0143】
低分子およびペプチド模倣体薬学的組成物
先に記述されたように同定され、本発明のPirBアンタゴニスト(同様に本明細書において「活性化合物」と呼ばれる)として作用する低分子およびペプチド模倣化合物を、投与にとって適した薬学的組成物に組み入れることができる。そのような組成物は典型的に、活性化合物と薬学的に許容される担体とを含む。本明細書において用いられるように、「薬学的に許容される担体」という用語には、薬学的投与に適合性の、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等が含まれると意図される。そのような媒体および物質を薬学的活性物質のために用いることは、当技術分野において周知である。先に考察したように、補助活性物質も同様に、組成物に組み入れることができる。
【0144】
本発明の薬学的組成物は、その意図される投与経路に適合性となるように処方される。投与経路の例には、非経口、たとえば静脈内、皮内、筋肉内、骨内、皮下、経口、鼻腔内、吸入、経皮(局所)、経粘膜、および直腸内投与が含まれるがこれらに限定されるわけではない。非経口、皮内、または皮下適用のために用いられる溶液または懸濁液には、以下の成分が含まれうる:注射用水、生理食塩液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩のような緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような等張性を調節する物質。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムのような酸または塩基によって調節することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨てシリンジ、または多用量バイアルに封入することができる。
【0145】
注射での使用に適した薬学的組成物には、滅菌水溶液(水溶液の場合)、または分散液および滅菌注射液もしくは分散液を即時調製するための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適した担体には、生理食塩液、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany, N.J.)、またはリン酸緩衝生理食塩液(PBS)が含まれる。組成物は好ましくは無菌的であり、容易なシリンジ作動性が存在する程度に流動性でなければならない。組成物は、製造および保存条件で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびその適した混合物を含有する溶媒または分散培地となりうる。たとえば、レシチンのようなコーティングを用いることによって、分散剤の場合には必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を用いることによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤によって、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサル等によって得ることができる。多くの場合において、組成物に等張剤、たとえば糖、マンニトール、ソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる物質、たとえばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらされうる。
【0146】
滅菌注射液は、活性化合物(たとえば、NeuAcα2-3(6-O-スルホ)Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ-O-(CH2)3-NH-CO(CH2)5NH-M、式中Mは水素またはアミド連結である)の治療的有効量または有益な量を、先に列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に適当な溶媒に組み入れて、必要に応じて濾過滅菌することによって調製されうる。一般的に、分散液は、基礎分散培地と先に列挙した成分からの必要な他の成分とを含有する滅菌媒体に、活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、予め濾過滅菌したその溶液から活性成分プラス任意のさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0147】
経口組成物には一般的に、不活性希釈剤または食用担体が含まれる。適した経口組成物は、たとえばゼラチンカプセルに封入されてもよく、または錠剤に圧縮されてもよい。経口での治療的投与の目的に関して、活性化合物を賦形剤と共に組み入れて、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の剤形で用いることができる。経口組成物はまた、マウスウォッシュとして用いるための液体担体を用いて調製することができ、この場合液体担体における化合物を、口腔内に入れてうがいをして、はき出すまたは飲み込む。薬学的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等は以下の任意の成分または類似の性質の化合物を含有しうる:微晶質セルロース、トラガカントゴム、またはゼラチンのような結合剤;デンプンまたは乳糖のような賦形剤;アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesのような潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素のようなグライダント;蔗糖またはサッカリンのような甘味料;ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料のような着香料。
【0148】
吸入投与の場合、化合物は、適した推進剤、たとえばヒドロキシフルオロアルカン(HFA)のような気体、またはネブライザーを含有する加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形で送達される。または、鼻腔内調製物は、HFAのような適した推進剤と共に乾燥粉剤を含みうる。
【0149】
全身投与は、経粘膜または経皮手段によっても行うことができる。経粘膜または経皮投与の場合、透過される障壁に対して適当な浸透剤を処方において用いる。そのような浸透剤は一般的に当技術分野において公知であり、たとえば経粘膜投与の場合、洗浄剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔内スプレーまたは坐剤を用いることによって達成されうる。経皮投与の場合、活性化合物を、当技術分野において一般的に公知の軟膏、軟膏剤、ゲル、またはクリームに処方する。
【0150】
化合物はまた、直腸内送達のために、坐剤(たとえば、カカオバターおよび他のグリセリドのような通常の坐剤基剤と共に)または貯留浣腸の形状で調製されうる。
【0151】
1つの態様において、活性化合物は、インプラントおよび微量封入送達系を含む徐放性製剤のような、化合物を全身からの急速な排泄に対して保護するであろう担体と共に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような、生体分解性で生体適合性のポリマーを用いることができる。そのような処方を調製するための方法は、当業者に明らかであろう。材料はまたたとえば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Incから購入することができる。リポソーム浮遊液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体と共に感染細胞にターゲティングされるリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として用いることができる。これらは、たとえば米国特許第4,522,811号において記述されるように、当業者に公知の方法に従って調製されうる。
【0152】
投与の容易さおよび用量の均一性のために、経口または非経口組成物を単位投与剤形に処方することは特に都合がよい。本明細書において用いられる単位投与剤形は、処置される被験体に関する単位用量として適した物理的に個別の単位を指し;それぞれの単位は、必要な薬学的担体と会合して所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の既定量を含有する。本発明の単位投与剤形の仕様は、活性化合物の独自の特徴、および達成される特定の治療効果、個体の処置のためにそのような活性化合物を合成する当技術分野における固有の限界によって指図され、直接依存する。
【0153】
そのような化合物の毒性および治療効果は、たとえばLD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)の決定に関する、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的技法によって決定されうる。毒性効果と治療効果との用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50として表記されうる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物を用いてもよいが、非罹患細胞に対する可能性がある損傷を最小限にして、それによって副作用を低減させるために、罹患組織部位にそのような化合物をターゲティングする送達系を設計するように注意しなければならない。
【0154】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを、ヒトにおいて用いるための用量範囲を設定するために用いることができる。そのような化合物の用量は好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を示さないED50が含まれる循環中の濃度範囲内に存在する。用量は、用いる投与剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法において用いられる任意の化合物に関して、治療的有効量は細胞培養アッセイから最初に推定されうる。用量は、細胞培養において決定されたIC50(すなわち症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)が含まれる循環中の血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて処方されてもよい。そのような情報を用いてヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血清中のレベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0155】
薬学的組成物は、投与のための説明書(たとえば、書面)、特にSiglec-8発現細胞に関連する疾患または障害を含む本明細書において開示される障害または疾患に対して処置するために活性物質を用いるためのそのような説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含まれうる。
【0156】
実施例
本発明は、説明目的のためにのみ提供される以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると決して解釈してはならず、むしろ本明細書において提供される教示の結果として明らかになる任意のおよび全ての変化を包含すると解釈すべきである。本明細書を通して引用された全ての参考文献、特許、および公表された特許出願の内容物は、図面と共に参照により本明細書に組み入れられる。以下の非制限的な実施例は本発明の例証である。
【0157】
方法および材料
PirBTMマウスの作製
ゲノムPirBをC57/BL6マウスからPCRによって増幅して、pK-11プラスミド(40)に挿入した。構築物は全て、シークエンシングによって確認した。エキソン5、6、7、8および9を含む3041 bp断片を、プライマーtctgggcccgtcttctggtgaattgtatggおよびgtgtgaatgtcgtgctatggを用いて増幅した。断片をApa1部位によって消化して、LoxPに対して5'のApa1部位にクローニングした。エキソン10、11、12および13を含む1027 bpの断片をプライマーatatgtcgaccagcatgagcctgtcacacおよびatatgtcgacttggccctaaggtttagcacによって増幅して、Sal Iによって切断し、LoxPに対して直ちに3'であって、Frtに対して5'であるSal I部位にクローニングした。エキソン14および15を含む1900 bp断片を、第二のLoxP部位が含まれるプライマーataccgcggataacttcgtataatgtatgctatacgaagttatgggaccatgtttcttccagおよび tatccgcggttaattaattgaacttagtataacagtccによって増幅して、Sac IIによって切断し、Frtに対して3'のSacII部位にクローニングして、図S1において示される構築物を得た。ベクターを129 J1 ES細胞に電気穿孔して、陽性クローンを、構築物の5'および3'末端を表す異なる2つのプローブを用いてPCRおよびサザンハイブリダイゼーションによって同定した。
【0158】
ゲノムDNAを創始マウスから抽出して、トランスジーンをサザンハイブリダイゼーションおよびPCRによって確認した。マウスをCre発現欠失系統(B6.FVB-TgN(EIIa-cre)C5379Lmgd, Jackson)と交雑させて、Creリコンビナーゼを発現させ、エキソン10、11、12、および13が欠失した変異体PirB遺伝子をPCRによって確認した。変異体タンパク質をウェスタンブロッティングによって確認した。ヘテロ接合体の独立した交配10〜15回から得られた子孫を得てWTおよびPirBTMコロニーを作製した。
【0159】
インサイチューハイブリダイゼーション
動物技法は全て、Harvard Medical Schoolの施設内ガイドラインおよび承認されたプロトコールに従って行った。マウスをハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって麻酔して、Euthasol(Delmarva Laboratories)0.1 mlの注射によって安楽死させた。脳を摘出して、M1抱埋マトリクス(Shandon)に入れて、ドライアイス/エタノール浴において凍結した。インサイチューハイブリダイゼーションは、記述されているとおりに(41)行った。脳の凍結切片(12μm)を作製して、空気乾燥させ、リン酸ナトリウム緩衝4%パラホルムアルデヒドにおいて30分間固定して、エタノールにおいて脱水して-80℃で保存した。切片を融解して、プロテナーゼK処理によって透過性にして、アセチル化し、エタノールによって脱水して、[35S] UTP(1250 Ci/mmol)によって標識したリボプローブによって62℃で12〜18時間ハイブリダイズさせた。次に切片を50μg/ml RNアーゼAと共に37℃で30分間インキュベートして、一連のSSC溶液によって洗浄し、0.1×SSCによって60℃で30分間の高ストリンジェンシー洗浄を行った。室温でKodak XAR-5フィルムに露光した後、切片をNTB-2乳剤によってコーティングして2〜4週間後に現像した。PirBプローブを作製するために、PirB mRNAの3'末端をプライマー配列tcggggaaaattcaggaaおよびgagaaatctctagctttatttを用いてRT-PCRによって増幅した。アンチセンスプローブを転写するために、T7結合配列taatacgactcactatagggacを3'プライマーに、またはT7 RNAポリメラーゼを用いてセンス対照プローブを増幅するために5'プライマーに加えた。ArcプローブをPCRによって生成された完全長のArc配列から転写した。
【0160】
抗体
ヤギ抗PirB抗体C19およびA20は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。C19およびA20は、PirBに対して独自のドメインであり、任意の他の公知のマウスタンパク質に対してほとんど相同性を有しないPirBの細胞質ドメインに対して特異的である。ラット6C1抗PirA/BをPharmingenから購入したが、これはPirBおよびPirAタンパク質の細胞外ドメインに対して特異的である。4G10マウス抗ホスホチロシンはUpstate Biotechnologyから購入した。シナプトフィジンモノクローナル抗体SVP38をSigma(St. Louis)から購入した。シナプシンIモノクローナル抗体クローン8をBD Transduction labsから購入した。抗PirB 1477抗体を、PirB細胞質ドメインの一部を表すペプチド
によってウサギを免疫することによって生成した。ウサギ抗Shp-2およびマウス抗Shp-1はSanta Cruz Biotechnologyから購入した。
【0161】
免疫染色
マウスをイソフルオランによって麻酔して、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)の後4%パラホルムアルデヒドの経心臓灌流によって固定した。脳を摘出して4%パラホルムアルデヒドに終夜浸して後固定した後、凍結保護のために30%蔗糖/PBSにおいて24時間浸した。55μmミクロトーム切片を採取して、0.1%Tweenおよび0.5%ブロック試薬(Perkin Elmer, Boston)を含有するトリス緩衝生理食塩液においてブロックし、C19もしくはA20抗PirB抗体または対照ヤギIgGによって0.5μg/mlで4℃で終夜染色した。シグナルをビオチニル化二次抗体ABCおよびDAB(Vector Labs, Burlingame CA)によって検出した。皮質培養物を4%パラホルムアルデヒドにおいて10分間固定した。培養物を0.5〜1.0 μg/ml抗体と共に、0.1%Tweenおよび10%ウマ血清を含有するトリス緩衝生理食塩液において4℃で終夜染色した後、蛍光共役二次抗体、または非共役二次抗体の後に蛍光共役三次抗体によって染色した。アクチンを蛍光共役ファロイジン(Molecular Probes)と共に15分間染色した。染色した培養物を60倍の油浸対物レンズを用いて撮像した。
【0162】
可溶性のPirB結合
PirBアルカリホスファターゼ融合タンパク質(PirB-AP)発現ベクターを生成するために、PirBの細胞外ドメインのコード配列をプライマー
によってImageクローン4488338(Genbank EG247984)から増幅して、APtag-5ベクター(GenHunter)のSfiIおよびBglII部位に挿入した。Flanagan et al. (2000)によって記述されるように、得られた構築物またはAPtag-5ベクター単独を、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)によって293T細胞にトランスフェクトして、可溶性のHis-およびmyc-タグPirB-APまたはAP含有条件培地を、トランスフェクションの約6日後に採取した。PirB-APまたはAPをProBond Resin(Invitrogen)のカラム上で条件培地から精製して、100 mMイミダゾール(Sigma)によって溶出した。PirB-APおよびAP含有分画を可溶性のAP基質p-ニトロ-フェニルホスフェート(pNPP;Sigma)によって同定して、合わせ、Neurobasal培地(Gibco)に対して透析した。
【0163】
ニューロンに対するPirB-AP結合の飽和分析に関して、解離した皮質培養物をP0 CD-1およびC57Bl/6マウスから調製して、5〜7 DIV生育させた。細胞を様々な濃度のPirB-APまたはAP(0.125〜2μM)と共に37℃で2時間インキュベートして、洗浄して未結合のAP-融合タンパク質を除去して1%Triton X-100によって溶解した。溶解物を採取して内因性のAPを65℃で熱不活化した。AP活性を基質としてpNPPを用いて測定し、Bio-Rad Model 680マイクロプレートリーダーにおいてMicroplate Managerソフトウェア(バージョン5.2.1)を用いて405 nm(42)で読み取った。データは、独立した3回の実験から各濃度で8〜13回測定して、PirB-AP結合から差し引いたバックグラウンドAP結合を表す。
【0164】
初代培養マウス胚線維芽細胞(MEF)に対するPirB-AP結合を調べるために、線維芽細胞を標準的な技法(43)によってE13.5でWWWおよびB2m/Tapl -/-胚(3)から単離した。ニューロンにおけるMHCIのPIRB-AP結合を調べるために、解離した皮質ニューロンをP0 WWWおよびB2m/Tapl -/-マウスから調製して、5〜6 DIV生育させた。それぞれの遺伝子型からの細胞の同数を500 nM(MEF)または1μM(ニューロン)APタンパク質と共にインキュベートして、結合したPirB-AP/APを、先に記述したように基質としてpNPPを用いて(42)測定した。データは、独立した3回の実験からそれぞれの遺伝子型を12回(MEF)および15回(ニューロン)測定して、PirB-AP結合から差し引いたバックグラウンドAP結合を表す。
【0165】
切片におけるニューロンに対するPirB-APの結合を調べるために(42)、成体WTマウスの非固定脳を3%UltraPure低融点アガロース(Invitrogen)に抱埋して150〜200μm切片をビブラトームによって作製した。切片をPirB-APまたはAP(0.5〜1μM)と共に4℃で16〜18時間インキュベートして、内因性のAP活性を65℃で熱不活化した。PirB-AP結合を色素可塑性AP基質ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(Roche)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート(Roche)を用いて可視化した。
【0166】
細胞下分画化
マウス脳を解剖して、10倍量の氷冷緩衝液(0.32 M蔗糖、10 mM HEPES(pH 7.5)、0.1 mM EDTA)中でテフロン-ガラスホモジナイザーにおいて約1000 rpmで8〜10ストロークを用いてホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで10分間遠心した。非破壊細胞および破片を含有する沈降物を捨てた。上清を10,000×gで遠心して、沈降物(P10)を採取した。上清を100,000×gで遠心して、沈降物(P100)、および100,000×gの上清(S100)を得て、これらを採取して免疫沈降/ウェスタンブロットによって分析した。
【0167】
シナプトソームを、Nagy and Delgado-Escueta(44)によって記述されるように調製した。P19 CD1マウス脳1個を、0.32 M蔗糖、10 mM HEPES(pH 7.5)、0.1 mM EDTAを含有する10倍量の氷冷緩衝液中でテフロン-ガラスホモジナイザーにおいて約1000 rpmで8〜10ストロークを用いてホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで10分間遠心して沈降物P1および上清S1を得た。S1を12,000×gで20分間遠心して、沈降物(P2)および上清(S2)を産生した。S2を100,000×gで遠心して、P100(軽い膜)、およびS100(可溶性分画)を産生した。P2を蔗糖緩衝液0.5 mlに浮遊させて、Percoll段階的勾配に適用した。
【0168】
Percoll勾配は、SIP(Percoll(Amersham)9に対して2.5 M蔗糖1)を培地II(0.25 M蔗糖、5 mM HEPES、pH 7.2、0.1 mM EDTA)によって希釈して、段階的勾配にとって適当な濃度のPercollを産生することによって調製した。16%(vol/vol)Percoll 4 mlを10%Percoll 4 mlの上に静かに重層して氷中で保存した。浮遊させたP2(0.5 ml)を8.5%Percoll/蔗糖4 ml(最終的に7.5%Percoll)によって希釈して、10%/16%Percoll勾配の上に重層し、Sorvall SM-24ローターにおいて15,000×gで20分間遠心した。シナプトソームを10%/16%Percoll界面から採取した。シナプトソームを12,000×gで10分間遠心した後、水400μlに短時間浮遊させ(低張ショックを与えてシナプス小胞を放出させるため)、1 M HEPES、pH 7.4 2μlによって緩衝させた。シナプス小胞を25,000×gで沈降させて、細胞膜は上清に残った。各分画の総タンパク質の10%をマーカータンパク質の分析のために採取した。それぞれの分画における残りのタンパク質を1%NP-40濃度にして、PirBをその後のSDS-PAGE/ウェスタンブロット分析のために終夜免疫沈降させた。
【0169】
免疫沈降/ウェスタンブロット
マウス脳を解剖して1%NP-40、150 mM NaCl、50 mM Tris(pH 7.4)、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、1 mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1 mMフッ化ナトリウムおよび1 mMバナジン酸ナトリウムを含有する氷冷緩衝液の約10倍量においてホモジナイズした。試料を100,000×gで15分間遠心した。免疫沈降を4℃で終夜行い、同時免疫沈降の場合4℃で2時間行った。免疫沈降物をプロテインGアガロース(Invitrogen)において回収した。試料をSDS-PAGEによって分離して、PVDFまたはニトロセルロースメンブレンに転写して、適当な抗体によってプロービングして、強化化学発光(Pierce)およびKodak XAR-5フィルムによって可視化した。
【0170】
眼球摘出
外科技法は全て、Harvard Medical Schoolで記録される承認された動物使用プロトコールに従って行った。単眼摘出実験の場合、マウスを吸入イソフルオランによって麻酔した。眼球1つを摘出して、眼瞼を6-0滅菌手術用絹糸によって縫合した。眼科用軟膏(Pharmaderm)を用いて感染症を予防した。
【0171】
Arc誘導実験
皮質ニューロンの眼優位性を機能的に査定するために、Tagawaらに従うArc mRNA誘導法を用いた。1つの眼を麻酔下で摘出した(上記を参照されたい);マウスの意識を回復させて、終夜完全な暗所に置いた。残りの眼を通しての視覚によって促進される皮質におけるArc mRNAを誘導するために、マウスを明るい環境に30分間戻した。光の露出後、マウスをハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって安楽死させて、脳を摘出し、M-1封入培地(ThermoShandon)において瞬間凍結して、16μmの冠状断面をArc mRNAに関するインサイチューハイブリダイゼーション(23)のために採取した。
【0172】
[3H]プロリンの経ニューロン輸送
層4に対する膝状体皮質突出部のパターンを可視化するために、マウス(年齢P35)をイソフルランによって麻酔してL[2,3,4,5-3H]-プロリン(Amersham)200μCiをガラスマイクロピペットを用いて1つの眼に注射した(23)。7日間の輸送時間の後、動物をハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって麻酔した後、Euthasol(Delmarva laboratories)0.1 mlの注入によって安楽死させた。脳を摘出してM1抱埋マトリクス(Shandon)に入れて、ドライアイス/エタノール浴において凍結した。脳の冠状凍結切片(20μm)を切断して、空気乾燥させ、リン酸ナトリウム緩衝4%パラホルムアルデヒドにおいて30分間固定して、エタノールによって脱水して、NTB-2乳剤によってコーティングして3ヶ月間現像した。注射した眼と同側の視覚皮質の像をNikon Eclipse顕微鏡を用いて暗視野において獲得した。同側の視床皮質突出部の幅を、走査によって遺伝子型に対して盲検的に測定した(以下を参照されたい)。
【0173】
皮質層4におけるArc誘導の密度測定スキャンおよび経ニューロン標識
Arc発現の定量的分析をMATLAB(The Mathworks)において層4のラインスキャンによって行った。層4の中心に沿った線は、20〜100点を選択した後に、これらの点のあいだの立方スプライン補間を行うことによって生成した。この線に沿ったピクセル毎に、層を通しての垂直な線(長さ15〜30ピクセル、1ピクセル=3.5μm)を計算して、この線に沿ってピクセルの平均シグナル強度を測定した。得られた強度のラインスキャンを、低域濾波して(8次Butterworth)、Arcシグナル強度対層4に沿った距離の曲線を生成した。Arcシグナルは両眼視域において最大まで上昇した。両眼視域の幅は、シグナル強度がArcバックグラウンドシグナル強度(両眼域外での15ピクセルの平均強度として決定)の2標準偏差より大きい最大強度周囲の領域として測定された。同一の分析技術を用いて経ニューロン標識切片の標識強度を定量した。分析は遺伝子型および操作に対して盲検的に行った;異なる動物および操作からのスライドガラスを互いに挟んでそれらが暗号解除された場合に限って再集合させた。
【0174】
網膜神経節軸索の前方標識
マウス(P15)をイソフルランによって麻酔して、ローダミン(製品番号107)またはFITC(製品番号106)のいずれかを共役させたコレラ毒素Bサブユニット(List Biological Laboratories)の0.2%溶液1〜2μlを、ガラスマイクロピペットを用いてそれぞれの眼に注射した(45)。24時間後、動物をEuthasol(Delmarva laboratories)によって安楽死させた。0.9%生理食塩液および4%パラホルムアルデヒドの心臓内灌流によって脳を固定した。脳を摘出して4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で終夜後固定した後、30%蔗糖に終夜入れた。凍結ミクロトームにおいてLGNを通して冠状断面(55μm)を切断し、Vectashield.(Vector Laboratories)を用いてスライドガラスに載せて、Nikon Eclipse蛍光顕微鏡において撮像した。像は全て、ピーク強度の値がまさに飽和するように獲得した。
【0175】
実施例1:神経組織におけるPirB発現
PirBが脳において発現されるか否かを決定するために、本発明者らはP0から成体までの様々な年齢のマウス脳組織切片においてPirB-特異的プローブを用いてインサイチューハイブリダイゼーションを行った。試験した全ての年齢における脳全体に特異的mRNAシグナルを検出し、大脳皮質、海馬、小脳、および嗅球に強い発現を認めた(図1A〜F)。これらの脳領域はまた、MHCI mRNAおよびタンパク質を発現することが知られている(1,2)。
【0176】
次に、PirBタンパク質の免疫染色を、PirBの細胞質ドメインに対して特異的な異なる2つの抗体を用いて、脳切片について行った(図1G)。P0から成体まで調べた全ての年齢において特異的発現が検出された(データは示していない)。タンパク質はニューロン細胞体のサブセット、ならびに軸索経路および神経網において検出された。
【0177】
PirBがニューロンにおいて発現されるか否かを決定するために、E17またはP0からの新皮質を解剖して、培養し、GAP-43、シナプシン、PSD-95、およびニューロフィラメントを含むニューロン特異的マーカーと共に、異なる3つのPirB特異的抗体によって染色した(図2)。これらの培養物において、培養物に応じて20〜50%であるニューロンのサブセットを、PirBに関して免疫染色した。PirB染色は、点状に見えるニューロン突起において濃縮され、および軸索の生長錐体にも存在して、アクチンに富む先端部のすぐ後方のラメリポディウムに局在する(図2)。
【0178】
脳由来PirBタンパク質発現の特徴をさらに調べるために、PirBタンパク質を脳から直接免疫沈降させた。免疫沈降およびその後のウェスタンブロットは、特異性を確保するために異なる抗体を用いて行った。免疫系の場合(14,15,19,20)と同様に、脳由来PirBは主に130 kDのグリコシル化タンパク質として存在する(図3)。PirBは、調べた全ての年齢の、視神経を含む全ての脳の領域において検出されうる(図3A)。脳からのPirBは、N-連結オリゴ糖を除去するPNGアーゼFによる脱グリコシル化に対して感受性であることから、グリコシル化されている(図3B);PirBは、より限定されたサブセットのオリゴ糖を切断するEndo Hに対して非感受性である。マウス脳組織からのシナプトソームの調製は、PirBタンパク質の有意な部分がシナプトソーム形質膜と共に分画することを示し(図3C)、PirBがシナプスで、またはシナプス近傍で機能する可能性があることを示唆している。
【0179】
アルカリホスファターゼに融合したPirBの細胞外ドメイン(PirBAP)からなる可溶性の組換え型融合タンパク質を用いて、WTマウスおよび欠失β2ミクログロブリンおよびTap1遺伝子(2m/Taq)を有するマウスからの培養皮質ニューロンを染色した。これらの変異体マウスは、MHCクラスIタンパク質の細胞表面発現が低減していた(22,23)。本発明者らは、PirBAPがWTニューロンに特異的に結合すること、およびこの結合が2m/Tap -/-ニューロンでは重度に低減されることを発見し(図4)、可溶性のPirBがMHCI依存的にニューロンに結合することを示している。
【0180】
実施例2:神経組織におけるPirBのシグナル伝達
CNSニューロンにおいてPirB発現が発見されたことは、PirBニューロン機能に関する疑問を生じる。したがって、本発明者らは、膜貫通ドメインとPirB細胞内ドメインの一部をコードする4つのエキソンを除去した変異体マウスを作製して、PirBが形質膜を通してシグナルを伝達できないようにした(図8)。得られた変異体マウスは、完全に元気であり、変異体タンパク質は、このようにPirBTMと呼ばれる。タンパク質の膜貫通ドメインおよびその細胞内シグナル伝達構造を除去する効果を決定するために、PirBTMマウスにおけるPirBタンパク質発現を調べた。図5Aは、野生型およびPirBTM脳の細胞下分画の後にPirBおよびより短いPirBTM変異体タンパク質のそれぞれの免疫沈降を示す。野生型PirBは重いおよび軽い膜の双方と共に分画するが、可溶性分画にはシグナルは検出されなかった。変異体PirBTMタンパク質は脳において検出されたが、これはより小さく、軽い膜およびサイトソル分画と共に分画する。このように、膜貫通ドメインの喪失は、予想されたようにPirBの可溶性を変更させた。
【0181】
次に、本発明者らは、変異体PirBTMの脳におけるシグナル伝達能を調べた。PirBの細胞質ドメインは、4つの免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含有する。これらの部位のリン酸化は、Shp-1およびShp-2ホスファターゼをPirBに動員して(17-21)、活性化状態の免疫細胞に影響を及ぼすシグナル伝達カスケードを開始する。PirBTM変異体が膜貫通ドメインのみならず、膜に対して最も近位のITIMも欠損することに注意されたい(図8)。免疫沈降を野生型およびPirBTM脳からの抗ホスホチロシン抗体について行った後、抗PirBウェスタンブロット分析を行うと、本発明者らはPirBが野生型脳に限ってリン酸化されることを見いだした;チロシンリン酸化PirBTMタンパク質は検出されなかった(図5B)。PirBTMは膜貫通タンパク質ではなく、このようにリガンドにかみ合って、リン酸化に至ることができないことから、この結果は予想通りであった(12,13,20)。PirBまたはPirBTMが直接免疫沈降されて、PirBに関するウェスタンブロット分析を行った後(図5C、上のパネル)、抗ホスホチロシンウェスタンブロット(下のパネル)を行うと、野生型PirBのみがリン酸化される。併せると、これらの知見は、PirBTMが、それによってPirBおよびこのクラスの他のタンパク質がシグナルを伝達する主な手段である、その残りのITIMモチーフのリン酸化を通してシグナルを伝達できないことを示唆している。
【0182】
免疫細胞において、PirBは主にShp-1およびShp-2ホスファターゼに会合して、それらを通してシグナルを伝達する;ニューロンPirBも同様に、これらのホスファターゼと会合する(図5D、E)。しかし、免疫系とは対照的に、マウス脳からのPirBとShp-2のより強固な直接同時免疫沈降によって示されるように、PirBはShp-2と選択的に会合するように主合われる(図5D対5E)。この差は、脳および免疫系におけるShp-1およびShp-2の相対的発現レベルをおそらく反映する;Shp-1は免疫細胞において高度に発現されるが、Shp-2はニューロンにおいてより顕著である(24,25)。予想されるように、変異体PirBTMは、Shp-2と同時I.P.しない(図5E)。このように本発明者らは、PirBTMマウスの脳ではPirBを通してのシグナル伝達が廃棄されるという結論に達する。
【0183】
実施例3:突出パターンの発達とPirB発現
ニューロンMHCI受容体の探索は、MHCI表面発現を欠損するマウスが、肉眼的には正常な脳を有するが、視覚系のシナプス接続の詳細なパターンにおいて異常を有し、シナプス可塑性の欠損を有する(1)という所見によって刺激された。PirBTMマウスに関する最初の観察も同様に、明白な表現型を明らかにしなかった。Nissl染色によって査定したところ、肉眼的組織学は正常である。PirBはニューロンの突起および生育錐体において発現されることから、本発明者らは、皮質-脊髄路および前交連の前方部分のような、PirBを発現する軸索路を調べた。逆行性および前方の軌跡実験から、双方の路が無傷であり、正常な突出パターンを発達させたように思われることが示される。
【0184】
実施例4:PirB機能およびシナプス可塑性
PirB機能が視覚系における正常なシナプス可塑性にとって必要であるか否かを調べるために、本発明者らは、一次視覚皮質における眼優位性の発達と可塑性を研究した。この選択は、PirBタンパク質が大脳皮質において高度に発現されているという事実によって動機が与えられた(図1)。成体マウス視覚皮質は、LGNを通して双方の眼から機能的入力を受容する。制限された両眼視域は、同側および反対側の眼の双方からの入力を受容するが、視覚皮質の残りは、ニューロンが主に反対側の眼によってのみ促進される大きい単眼視域からなる(26,27)。発達すると、視覚皮質の広い領域を超えてニューロンは、同側の眼からの機能的入力を受容するが、生後4週間までに、この領域は、活性依存的に成体の両眼視域へと制限されるようになる。両眼視域の形成および視覚皮質ニューロンの眼優位性の発達は、マウス脳における発達可塑性を研究するための信頼できるモデルである(28〜32)。
【0185】
活性調節型前初期遺伝子Arcによって、眼優位性をマウス視覚皮質において査定した。1つの眼が視覚的に刺激されると、Arc mRNAは視覚皮質において急速に誘導されて、刺激された眼に機能的に接続された皮質の程度が明らかとなる(32)。この技術は、マウス視覚皮質における同側の眼の表出の精密化および可塑性に関する信頼できる定量的測定を提供し、同様にネコにおける眼優位性カラム形成を証明することによって確認されている(32)。したがって、本発明者らは、Arc誘導によって野生型およびPirBTMマウスにおける両眼視域内での同側の眼の表出を調べた。
【0186】
P34でのWTおよびPirBTMマウスの双方において、同側の眼の刺激は、刺激された眼と同側の半球の両眼視域における皮質2〜4および6層においてArc mRNA発現を誘導する(図6G)。これは成体の眼優位性パターンである(32)。p34でのPirBTMマウスにおけるArc誘導パターンは、WTのパターンとは区別ができないように思われる。これらの観察を定量するために、視覚皮質の4層に沿って連続的なラインスキャンを行い(遺伝子型に対して盲検的に)、両眼視域の幅を測定した。P34でのWTおよびPirBTMマウスの両眼視域の幅は、同一であった。PirBTMマウスにおいてp34で同側の眼が正常な大きさで表出されたことは、実際には正常とは異なるより初期の広範囲の表出から生じる可能性がある。しかし、P19でのArc誘導パターンはまた、PirBTMおよびWTにおいて区別できない(図6C)。Arc誘導の幅はP34よりP19において大きいことに注意されたく(図6B、C、D)、PirB機能は、同側の突出の正常な発達的制限にとって必要ではないことを示している。
【0187】
実施例5:眼優位性の可塑性およびPirB
視覚系の回路の活性依存的精密化は、変更された知覚経験が接続性を劇的に変更することができる臨界期のあいだに起こる。皮質の眼優位性は、2つの眼のあいだの相対的活性量を変更することによって容易にシフトさせることができる;これは眼優位性の可塑性と呼ばれる。OD可塑性は臨界期後により限定的となる(29、32〜38)。臨界期のあいだの1つの眼を閉じるまたは摘出すると、残りの眼に対するODの劇的なシフトが起こる。このシフトは、残りの眼に対して同側の、皮質におけるArc誘導によって直接可視化されうる。Arc mRNAシグナルは正常視域より広く占有するように拡大する(図6E〜H)。顕著に、PirBTMマウスにおけるOD可塑性は存在するのみならず、臨界期において調べた以下の全ての年齢でWTマウスより強力であった;通常の同側の精密化のピークおよび臨界期のピークと重なりあうP19〜25;臨界期の最後であるP31〜36、およびOD可塑性のピークに及ぶP22〜31。これらの年齢において、PirBTMマウスの第4層におけるArc発現の程度はXX%(P31〜36)からWTの50%(P19〜25)もの程度まで増加した(図6A、D、E、F、G)。
【0188】
視覚皮質の両眼視域におけるArc mRNAの誘導は眼優位性の機能的測定であり、ニューロンが同側眼に対する視覚的刺激に反応することができる、大脳皮質における視覚野を示す。単眼摘出に反応した両眼視域の拡大は、皮質内接続性の増加、視床皮質軸索の広がりの増加、またはその双方による可能性がある。この問題に取り組むために、本発明者らは、年齢P25〜40のWTおよびPirBTMマウスにおいてMEを行って、1つの眼に注射した3H-プロリンの経ニューロン輸送によって皮質への視床皮質入力を可視化した(図6H)。これらの実験は、PirBTMマウスがWTマウスよりMEに反応してより大きい程度の視床皮質軸索の拡大を受けることを証明し、Arc発現によって観察された可塑性の増強の少なくとも一部は、視床皮質軸索によって神経支配される領域の拡大による可能性があることを示している。併せて考慮すると、構造レベル(視床皮質軸索)および機能レベル(皮質ニューロンにおけるArc誘導)での可塑性の増強が観察されたことは、PirBが臨界期における皮質OD可塑性の程度を調節するように機能することを示している。
【0189】
視覚刺激は、眼を起源として視床の外側膝状体(LGN)におけるシナプス接続を通して皮質に入る。マウスにおいてLGNを神経支配する網膜神経節軸索は、生後第1週のあいだに眼特異的分離を経験する。完全に分離されたLGNは反対側の軸索によって支配され、小さい領域が同側の軸索に向けられる。これらの軸索はLGNにおいて眼特異的ニューロンに接続し、次にこれが視覚皮質に突出する。分離されたLGNは経験依存的構造可塑性に対して感受性がないと思われるが、PirBTMマウスの皮質における可塑性の増強は、一部、異常に可塑性のLGNが原因である可能性がある。このように、本発明者らは、MEが変異体LGN同側表出の拡大を引き起こすか否かを決定するために、WTおよびPirBTMマウスにおいて前方標識実験を行った。図7は、実際にPirBTMマウスの同側領域がMEに反応して拡大するが、野生型マウスでは拡大しないことを示し、PirBTMマウスが実際に異常に可塑性のLGNを有することを示している。これらの知見は、これらのマウスの皮質において観察された過剰な可塑性を部分的に説明する可能性があるか、またはPirB機能が脳の多くの部分において正常な可塑性にとって独立して必要とされる可能性がある。
【0190】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】PirB mRNAはマウス脳において発現される。PirB mRNAの3'領域を表す35S-標識PirB特異的アンチセンスまたはセンス対照プローブを用いて、様々な年齢のマウス脳からの断面におけるPirB mRNAを検出した。A.PO冠状断面。B.P7矢状断面。C.P14矢状断面。D.P29矢状断面。E.P25冠状断面。F.成体矢状断面。尺度のバー=1 mm。G.抗PirB抗体C19によって免疫染色したP9脳の冠状断面。
【図2】培養皮質ニューロンのPirB免疫反応性。A.3日間培養して、抗PirB抗体1477(赤色)、アクチン結合タンパク質ファロイジン(青色)、およびシナプシン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロンからの成長錐体。B.抗PirB抗体C19、抗PSD-95(緑色)、およびDAPI(青色)によって免疫染色したインビトロで9日間培養した皮質ニューロン。C.抗PirB抗体A20(赤色)、および抗ニューロフィラメント(緑色)によって免疫染色したインビトロで9日間培養した皮質ニューロン。D.3日間培養して抗PirB抗体C19(赤色)、軸索成長錐体マーカーGAP-4(青色)、およびアクチン染料ファロイジン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロンの成長錐体。
【図3】マウス嗅球からのPirBタンパク質。A.PirBを、6C 1モノクローナル抗体を用いてP5およびP20マウス脳(視神経に関してはP14)からのタンパク質の等しい全量に由来する、脳幹、視床および線条体、小脳、皮質、海馬、または視神経から免疫沈降させて、ポリクローナルC19抗体によるウェスタンブロットによって検出した。対照I.P.は、小脳溶解物からの全ラットig G.I.P.であった。B.PirBをP7で総マウス脳から免疫沈降させて、EndoHおよびPNGアーゼFグリコシダーゼによって処置した。C.シナプトソーム分画を調製し(方法を参照されたい)、PirBを分画から免疫沈降させた。P100=軽いメンブレン。シナプトソームを、低張ショックによって、シナプス形質膜とシナプス小胞とに細分画した。S100 repは可溶性分画を表す。シナプシンおよびシナプトフィジン、シナプス小胞タンパク質を分画対照として用いた。
【図4】可溶性のPirBAP融合タンパク質は、MHC依存的に培養皮質ニューロンに結合する。PirBAPは、WTマウス胚線維芽細胞(MEF)および培養皮質ニューロンに結合する。この結合は、B2M/Tap変異体マウスにおいて劇的に低減され、この場合、MHC-I分子の細胞表面発現は排除される(左)。スキャッチャードプロット分析により、飽和結合が明らかとなり、解離定数は約1μMである。
【図5】PirB機能はPirBTMマウスにおいて排除される。(A)野生型およびPirBTMマウス脳からの細胞下分画。WTマウスにおいて、130 kD成熟PirBは、重い膜(P10)および軽い膜(P100)に分隠し、可溶性の5100分画には何も検出されない。PirBTMはより小さいが、溶解度の増加を示し、大きい部分は可溶性の(S100)分画に認められる。(B)抗ホスホチロシン免疫沈降の後に抗PirBウェスタンブロットを行うことにより、PirBがリン酸化されていることが明らかとなる。(C)抗PirB I.P.の後の抗PirBウェスタンブロット、次にこれを剥がして抗ホスホチロシンに関してプロービングする。WT PirBのみがリン酸化され、リン酸化されていないPirBTMは検出されない。(D)抗Shp-1免疫沈降の後のShp-1およびPirBウェスタンブロットにより、マウス脳においてShp-1とPirBとのあいだに検出可能な相互作用があることが示される。E.抗Shp-2免疫沈降は、WTマウス脳において強いPirB/Shp-2複合体を示し、PirBTM脳では相互作用を示さない(左のパネル)。PND5およびPND20脳からのShp-2免疫沈降も同様にこの相互作用を示す。Shp-2抗体の特異性を証明するために、WT脳からの非特異的Ig対照免疫沈降を用いて対照を行った(右のパネル)。
【図6】PirBは、マウス視覚皮質における眼優位性可塑性を制限する。(A)P19およびP34のWTおよびPirBTMマウスにおける同側のArc誘導域の幅の平均値(左のパネル)およびP19〜25、P22〜31、およびP31〜36からの単眼摘出(ME)後の幅。通常の発達に差は認められないが、MEはWTマウスの場合よりPirBTMマウスにおいて非摘出眼に対してより大きいシフトを生じる。条件あたりn=6〜9。(BF)それぞれの年齢および各条件において個々の測定の累積ヒストグラム。(G)WT(左上)およびPirBTM(左下)における精密化完了後のP34での同側のArc小片(黄色の矢印)、および右のパネルにおけるP22〜31 ME後の消費された小片の例。(H)3H-プロリン標識同側小片の幅は、PirBTMマウスではP25〜P40からのME後のWTマウスよりより広い。
【図7】PirBTMマウスの分離されたLGNにおける可塑性。前方追跡1gは、同側の軸索によって占有されるLGNの領域がWTおよびPirBTMマウスにおいてP23で同じであることを示している。P15からP23までのME後、PirBTMマウスにおける同側の領域は、WTマウスより拡大した。
【図8】PirBTMに関するターゲティングベクターの略図(方法を参照されたい)。A.水色の四角はエキソンを示す。その細胞内ドメインのPirB膜貫通ドメイン末端部をコードするエキソン10、11、12、および13は、Creレコンビナーゼに対する曝露の際に欠失する。B.仮説上のPirBおよびPirBTM変異体タンパク質の略図。Ig=Igドメイン、ITIM=免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ。
【図9】PirB mRNAおよびタンパク質がニューロンにおいて発現されていることを図示する: A〜C:PirB mRNAの3'領域を表す35S標識PirB特異的プローブを用いて、様々な年齢のマウス脳からの切片においてPirB mRNAを検出した。インサイチューハイブリダイゼーションを暗視野(銀色の粒は白色に見える)において示す。 A.P14矢状断面; B.P29矢状断面; C.成体矢状断面(上)プラス知覚対照(下); D〜J:PirB-特異的抗体を用いる免疫組織化学; D.P18冠状断面; E.抗PirB抗体A20によって染色した成体矢状断面。尺度のバーA〜E=1 mm; F.抗PirB 1477(赤色)、ファロイジン(青色)および抗シナプシン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロン3 DIVの成長錐体; G.抗PirB(赤色)、後シナプスマーカーPSD-95(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン18 DIV; H.抗PirB(赤色)、前シナプスタンパク質シナプトフィジン(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン14 DIV; I.抗PirB(赤色)、前シナプスタンパク質シナプシン(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン14 DIV; J.Iの高倍率。尺度のバーF〜J=10μm
【図10】可溶性のPirBがニューロンに結合することを図示する;可溶性PirB-APはマウス胚線維芽細胞(MEF)(A)および培養皮質ニューロン(B)に結合する;結合はβ2m-/-/Tap1-/-マウスに由来する培養では有意に低減されることから、結合はMHCIタンパク質の表面発現に依存する(MEFに関してp<0.01およびニューロンに関してp=0.03);(C)ニューロンに対するPirB-APの結合は飽和型である(上);スキャッチャード分析(下)は、解離定数〜1.3μMを予測する。(D)PirB-APは皮質断面における錐体ニューロンに結合する。数値は皮質の層を示す。尺度のバー=250μm(左、中央のパネル)または50μm(右のパネル)。
【図11】PirBタンパク質が脳全体に発現されて、Shp-1およびShp-2と複合体を形成することを図示する: A.生後5日目、P12、P20、P28、または成体(Ad)の全脳から、PirBを6C1モノクローナル抗体を用いて免疫沈降させて、C19ポリクローナル抗体を用いてウェスタンブロットによって検出した; B.P5またはP20マウス脳からのタンパク質の等量に由来する脳幹、視床、および線条体(thal, striat)、小脳、および皮質/海馬(ctx. hipp)から免疫沈降されたPirBタンパク質。対照I.P.は、小脳からの溶解物における非特異的ラットIgGであった; C.PirBをP7の全脳から免疫沈降させて、EndoHまたはPNGアーゼFグリコシダーゼによって処置した; D.PirBをシナプトソーム分画から免疫沈降させた(方法を参照されたい)。PLT100=軽い膜、SPM=シナプス形質膜、VES=シナプス小胞分画、SUP100=可溶性分画。シナプシンおよびシナプトフィジンシナプス小胞タンパク質を分画マーカーとして用いた。 E.WTおよびPirBTMマウス脳からの細胞下分画。WTにおいて、130 kD成熟PirBは重い膜(P10分画)および軽い膜(P100分画)と共に分画するが、可溶性S100分画には何も検出されない。対照的に、変異体PirBTMはより小さく、溶解度の増加を示し、大きい割合が可溶性(S100)分画に現れる; F.抗ホスホチロシン免疫沈降後の抗PirBウェスタンブロットにより、PirBがリン酸化されること、およびPirBTMマウスにはシグナルが検出されないことが明らかとなる; G.抗PirB I.P.の後に抗PirBウェスタンブロットを行って、これを剥がして抗ホスホチロシンに関してプロービングする。WT PirBのみがリン酸化され;非リン酸化PirBTMは検出されない; H.抗Shp-1 I.P.の後のShp-1およびPirBウェスタンブロットにより、PirBが脳においてShp-1と相互作用することが証明される; I.P5またはP12脳の抗Shp-2 I.P.後のShp-2およびPirBウェスタンブロットにより、脳にPirB/Shp-2複合体が存在することが証明される; J.PirBTM/Shp-2複合体はPirBTM脳には存在しない。
【図12】PirBTMマウスの視覚皮質におけるOD可塑性の増強;Arc mRNA誘導(A〜G)、経ニューロンオートラジオグラフィー(H〜J)を図示する; A.網膜から外側膝状体(LGN)から視覚皮質までの接続を示す視覚系の略図である。両方の眼からLGNを通って視覚入力を受容する小さい両眼視域(BZ)に注意されたい。 B〜D:同側の眼の表出の発達制限が、通常、PirBTMマウスにおいて進行する; B.P34マウスの視覚刺激によって誘導され、刺激された眼と同側の皮質におけるインサイチューハイブリダイゼーションによって検出されたArc mRNA。黄色の矢印の先は、両眼視域に対応するArc誘導域を描写する。P19またはP34での通常飼育のマウスでは、WTまたはPirBTMマウスにおけるArc誘導の幅は区別できないように思われる; C.ヒストグラムは層4におけるArc誘導の幅の平均値を表す。P19:WT n=9、PirBTM n=7;P34:WT n=7、PirBTM n=7、切片3〜4個/動物; D.P34での全てのWT(青色)またはPirBTM(赤色)切片からの平均ラインスキャン。スキャンは遺伝子型に対して盲検的に行われ、BZの左境界域(黒色の垂直の線、左)に調整した。青色または赤色の線は、Arc誘導の右境界域を示す; E〜G:OD可塑性はPirBTMマウスにおいて増強される; E.Arc誘導によって査定した、P22〜31からの単眼摘出(ME)後のOD可塑性。WTにおいてME後のインサイチューハイブリダイゼーションパターンの幅の拡大に注意されたい(Eの上部をBの上部と比較して)。ME後のArc誘導域は、WT(上のパネル)よりPirBTMマウス(Eの下のパネル)においてさらにより広い; F.P19〜25、P22〜31、P31〜36、またはP100〜110からのME期間後のPirBTM対WTマウスにおけるArc誘導の幅の一貫して増強された拡大。ヒストグラムは、Arc誘導の幅の平均値を表す。P19〜25からのME:WT n=5、PirBTM n=9;P21〜32:WT n=6、PirBTM n=6;P31〜36 WT n=9、PirBTM n=9;P11〜110:WT n=5、PirBTM n=5、切片3〜4個/動物; G.P22〜31からのME後の全てのWT(青色)またはPirBTM(赤色)断面における層4 Arcシグナルの平均ラインスキャン。スキャンをBZの左境界域(垂直の線、左)で調整した。青色または赤色の垂直の線は右境界域を示す。PirBTMマウスでは幅がより大きいことに注意されたい; H〜J:経ニューロンオートラジオグラフィーにより、PirBTMマウスにおいてME(P25〜40)後の同側の眼を表すLGNニューロンと皮質の層4とのあいだの解剖学的接続の幅の増加が明らかとなる; H.PirBTM(底)対WT(上)マウスの皮質の層4における同側の眼からの入力を表す、経ニューロン輸送放射活性標識の幅の増加を示す暗視野オートラジオグラフである; I.ヒストグラムは全てのマウスからの平均値である(WT n=7、PirBTM n=6);および J.全てのWTまたはPirBTM断面からの平均ラインスキャン。スキャンを、BZの左境界域(黒い垂直の線、左)で調整した。青色または赤色の垂直の線は、WTまたはPirBTMにおける視床皮質突出部の幅を示している。C、F、Iにおけるエラーバー=1 S.E.M.。星印*=p<0.05;**=p<0.01。
【図13】以下を図示する: A.PirBTMに関するターゲティングベクターの略図(方法を参照されたい)。水色の四角はエキソンを示す。PirB膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインの一部をコードするエキソン10、11、12および13は、Creレコンビナーゼに対する曝露の際に欠失する;ならびに B.仮説上のPirBおよびPirBTM変異体タンパク質の図解。Ig=Igドメイン、ITIM=免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ。色のついた四角は、離れたエキソンによってコードされるタンパク質ドメインを示す。エキソンは、四角の上の数字で示す。
【図14】以下を図示する: A.クレジルバイオレットによって染色したP30 WT(上)およびPirBTM(下)マウスの矢状断面(20μm)。脳の肉眼的組織学的構築は、PirBTMマウスにおいて正常と区別できない;尺度のバー=1 mm;ならびに B.前方のトレースは、PirBTMマウスのLGNにおける網膜膝状体軸索の眼特異的分離の正常なパターンを明らかにする。WTマウス3匹(左)およびPirBTMマウス3匹(右)における網膜膝状体軸索のパターンは類似であるように思われる、尺度のバー=100μm。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【技術分野】
【0001】
政府支援に関する声明
本発明の基金は、米国政府の米国国立衛生研究所助成金番号NIH NEI EY 02858によって部分的に提供された。米国政府は本発明に一定の権利を保有する。
【0002】
発明の分野
本発明の分野は、古典的免疫によって媒介されない非免疫系関連疾患/障害および有益な治療/診断的有用性における、主要組織適合抗原複合体クラスI分子、特にペア型イムノグロブリン様受容体B(paired immunoglobulin-like receptor-B)の役割に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
本発明が属する技術分野の現状を説明するために、いくつかの刊行物および特許文書が本明細書を通して引用されている。番号をつけたそれらの参考文献の完全な引用は、明細書の末尾に見いだされうる。それぞれの引用は本発明において十分に記述されるように本明細書に組み入れられる。
【0004】
MHCファミリーは、多数の遺伝子を含み、そのいくつかはゲノムにおける最も多形性の座に存在する。マウスMHCは3つの広いカテゴリーに分けられる可能性がある:クラスI(ヒトにおけるHLA A、B、およびC);クラスII(ヒトにおけるHLA DP、DQ、およびDR);および補体系の成分が含まれるクラスIII。MHCクラスIは、T-細胞によって媒介される適応免疫応答にとって重要である、そのいわゆる「古典的」クラスI産物のためによく知られているが、クラスI遺伝子の大部分は、実際には「非古典的MHCクラスI産物」をコードして、その多くが免疫系において公知の機能を有しない。いくつかの非古典的クラスIタンパク質は、MHCクラスI軽鎖、β2ミクログロブリン(β2m)に会合して、特定のペプチドに結合し、古典的MHCクラスIのメンバーと高い配列および構造的相同性を有するが、後者とは異なり、それらはより制限的な発現パターンを示し、ほとんどまたは全く多形を示さない。興味深いことに、最近の研究から、その配列は公知であるが、その産物の位置がまだ特定されていないこれらの「オーファン」MHCクラスIの1つのファミリーが、フェロモンを検出するように特殊化されたいくつかの哺乳動物の前鼻腔における小さい間隙である鋤鼻器(VNO)内のみに存在することが示された。
【0005】
最近の結果は、正常な損傷のないニューロンがインビボで古典的および非古典的MHCクラスIの双方を発現することを示唆している。MHCクラスI mRNAおよび/またはタンパク質は、運動神経核、黒質緻密部、後根神経節ニューロン、ドーパミン作動神経黒質細胞、発達中および成人海馬錐体細胞、鋤鼻器の知覚ニューロン、脳幹および脊髄運動ニューロン、ならびに皮質錐体細胞を含む多様なニューロン集団において検出されている。個々の古典的および非古典的MHCクラスI遺伝子に対して特異的なプローブとのインサイチューハイブリダイゼーションにより、健康な成人の脳においてMHCクラスI mRNA発現の複雑なパターンが明らかとなっている。これらの試験のいくつかはまた、ニューロンにおけるMHCクラスI発現が、軸索切断、サイトカインに対する曝露、および電気的活性の変化を含む処置によってさらに増加されうることを確認している。
【0006】
MHCクラスI遺伝子は、重複するが明確なニューロン発現パターンを示し、これらのパターンは正常な発達の際に特に動的である。MHCクラスI発現が天然に存在する電気的活性によって調節されうるという事実と共に、これらの結果は、MHCクラスI発現の正確なタイミングおよびレベルが、脳におけるその機能にとって非常に重要であることを示唆している。
【0007】
脳におけるMHCクラスI機能に関する先駆的研究は、特異的ニューロン集団のゲノムスクリーニングにおいてMHCクラスIファミリーのメンバーが同定されたことに基づいて開始された。ニューロンにおけるMHCクラスIの非免疫機能に関する最初のヒントは、それが発達中の視覚系における活性依存的可塑性に関与する遺伝子に関する不偏の機能的スクリーニングにおいて同定された場合に得られた。MHCクラスI発現は、TTXによる活性の遮断後に、特に、成熟した分離された接続パターンを形成するためにLGNニューロンに対する重複する眼特異的入力のシナプス精密化にとって自発的な網膜活性が必要である期間に、減少することが見いだされた。その後の研究により、MHCクラスI発現は、生後初期の網膜およびLGN、ならびに成体の小脳および海馬を含む、発達中および成体の哺乳動物の脳における活性依存的可塑性の時間および場所と平行することが判明した。併せると、これらの知見は、MHCクラスIが活性依存的構造および機能可塑性に関与している可能性があることを示唆している。
【0008】
神経系における接続の可塑性は、ニューロン活性に反応した既存のシナプスを強化または減弱させる細胞プロセスの後に回路に対する構造の変更が起こる長期の変化によって促進されると考えられる。シナプスの可塑性に関与する細胞および分子機構は、十分に研究されている。しかし、短期のシナプスの変化を長期の構造再構築に共役させるメカニズムおよび分子成分はあまりよくわかっていない。
【0009】
免疫系において、MHCIタンパク質は、免疫系の細胞における多様な膜貫通受容体との相互作用を通して機能する(4〜8)。これらの細胞-細胞相互作用は、正常細胞を異常なまたは外来細胞と区別する手段である。神経系において、それによってニューロンMHCIがシナプス発達を調節するメカニズムはわかっていない。免疫系における多くの実例から暗示を引き出す1つの仮説は、ニューロンMHCIが、他のニューロンにおいて発現される膜貫通MHCI受容体と連動することによってニューロン機能を調節することを示唆している。これらの相互作用は、シナプスの強度、ニューロンの形態、および回路の特性を最終的に変更する細胞内シグナルを生成しうるであろう。このように、ニューロンMHCI受容体を同定することは、これらのタンパク質のニューロン活性およびそれらが調節するニューロン可塑性の基礎となるメカニズムを理解するために非常に重要となる可能性がある。
【0010】
脳におけるMHCクラスIの役割の理解における重要な最初の段階は、多くのMHCクラスIタンパク質のどれがニューロンにおいて発現されるかを決定すること、ならびに発達中のおよび成体の脳におけるそれぞれのMHCクラスI産物の特異的発現プロフィールの特徴を調べることである。さらに、大きいMHCクラスI遺伝子ファミリーメンバーは、ほとんどの有核細胞の表面において発現されていることから、正常な発達、疾患、または全ての細胞タイプの損傷に対する反応にに関係するMHCクラスI分子が同定されて、治療物質および診断法を開発するためのツールとして用いられれば、大きい恩典となるであろう。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、神経組織におけるペア型イムノグロブリン様受容体B(PirB)の発現および機能に関する。ニューロンにおいて発現されるPirBは、神経回路の再生および可塑性を制限するように、および/または皮質表出のために異なる活性パターンまたはレベルによって回路間の競合を制限するように作用する。免疫系において、PirBは、Shp-1およびShp-2ホスファターゼを通して機能して、正常で健康な細胞に対する免疫細胞の不適当で危険な活性化に至りうるシグナルを阻害する。PirBは細胞骨格の動力学、細胞の運動性、および接着を調節して、Srcファミリーキナーゼの下流に作用してインテグリン活性を調節する。ニューロンにおいて、PirBは、活性に対するニューロンの反応の制限において類似の活性を有する可能性があり、限定的な可塑性を許容するに過ぎない。機能的PirBの非存在下では、シナプスの強化、新規シナプスの形成、または新規神経突起の生長に関する規則は、シナプスの受け持ち区域に関する競合において活性依存的長所を有するそれらの回路の豊富で異常な強化を許容するように変更される可能性がある。
【0012】
本発明の好ましい態様は、被験体のニューロンにおいてペア型イムノグロブリン様受容体B(PirB)の活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法に関する。より好ましい態様において、物質は、低分子または阻害性ペプチド模倣体となりうる、PirBに対する受容体アンタゴニストとして作用する。
【0013】
本発明のなおさらなる態様には、被験体のニューロンにおけるPirBの活性またはシグナル伝達を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法が含まれる。この場合も、好ましい態様には、PirBの活性またはシグナル伝達を減少させるように作用して、低分子となりうる物質が含まれる。
【0014】
本発明の1つの他の態様は、特に物質が、1つまたは複数の低分子干渉リボ核酸(siRNA)からなる、被験体のニューロンにおけるPirBの発現を減少させる物質を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法に関する。
【0015】
被験体におけるシナプス可塑性に関連する様々な障害および/または疾患を処置する方法はまた、本発明の態様であり、方法は被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質を投与する段階を含む。これらの障害および疾患には、CNS疾患、アルツハイマー病のような記憶喪失または記憶形成欠損;学習障害;自閉症、失読症、または脳性麻痺のような発育障害;脊髄損傷;外傷性脳損傷;卒中;および視覚系を伴う障害または疾患が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0016】
本発明の好ましい治療法は一般的に、CNS疾患に苦しむ、またはCNS疾患に対して感受性がある被験体(たとえば、哺乳動物、特にヒト)に、上記の化合物(低分子、抗体、ペプチド模倣体、ペプチド断片、siRNAが含まれるがこれらに限定されるわけではない)の1つまたは複数の治療的有効量を投与する段階を含む。
【0017】
本発明にはまた、任意で薬学的に許容される担体と混合され、任意で本明細書に開示の状態のために組成物を用いるための説明書(たとえば、書面での)と共に包装された、上記の化合物の1つまたは複数を含む薬学的組成物が含まれる。
【0018】
さらに、本発明は、PirBの活性、シグナル伝達、および/または発現を阻害、調節、または減少させる薬物を同定および設計するための方法を提供する。これは、薬物の治療的価値の決定および/またはニューロン処置のための新規候補薬物の同定において有用である。たとえば、ニューロンまたは下流のシグナル伝達経路に存在するPirBと相互作用することが知られている、または相互作用するように設計された全てのアゴニストおよびアンタゴニストのような、神経疾患および障害を処置するための薬物。
【0019】
さらに、本発明は、物質がPirB受容体に対するアンタゴニスト、PirBの低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣体アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、PirBの活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体におけるPir-Aのレベルを増加させる方法に関する。
【0020】
本発明の開示の他のおよびさらなる局面、特色、および利点は、開示の目的に関して提供される本発明の開示の様々な態様の以下の説明から明らかとなるであろう。
【0021】
発明の詳細な説明
接続の構造を変更することおよびその強度を機能的に変化させることの双方によって、シナプスの接続を変化させることによって、経験が脳の回路を急激に変更することができる場合、脳の発達において臨界期が存在することが長く知られている(39)。これらの臨界期は、神経の接続を、単眼視枯渇、または眼の摘出のような経験によって変化させることができる急激性と容易さによって定義され、そのような期間は進行性の発達の変化によって終了して、可塑性が起こるとしてもさらにより限定的な成体の状態に至ると考えられる。一般的に、視覚皮質におけるMDの効果に関する臨界期は、初期のシナプス可塑性を可能にする要因のダウンレギュレーションまたは除去により終わると考えられている。しかし、本明細書において記述される遺伝子の機能喪失実験から、視床および視覚皮質の双方に存在するシナプス可塑性の程度の限定にPirBが役割を有することが証明され、この効果は中枢神経系の他の領域に関係している可能性がある。PirB機能の非存在下で、これらの構造の双方の可塑性は、それがより高齢であっても急速で広範であるという意味において未熟なままである。このことは、シナプスの可塑性の正の調節因子のみならず負の調節因子が存在すること、および負の調節因子であるPirBの活性またはレベルを除去または低減することによって、成体脳にさえ存在する可能性がある初期のより強い型の可塑性を回復することが可能であることを暗示していることから、この発見は刺激的である。
【0022】
この発見のもつ意味は広い。PirBは脳および脊髄全体に発現されており、このように視覚系を超えて多くの神経系における可塑性の制限において役割を果たす可能性がある。たとえば、PirBは、シナプスの可塑性および回路の精密化によって学習、記憶の形成および整理統合において機能することが知られている構造である、海馬および大脳皮質において発現される。このように、PirBおよびそのヒト相同体であるLILRB/LIR/ILTファミリータンパク質は、加齢およびアルツハイマー病による記憶喪失を緩和するための、および場合によっては自閉症、失読症、または脳性麻痺のような発育障害を処置するための治療薬の主要な候補標的を表す。
【0023】
免疫系において、PirBは、インテグリンシグナル伝達およびケモカインシグナル伝達を阻害することによって細胞骨格の動力学を調節する。ニューロンPirBは同様に機能する可能性があり、ニューロンの細胞骨格活性を限定して、それによって神経突起の生長およびシナプスの再構築を限定することによって、シナプスの可塑性を制限する。PirBまたはその下流のエフェクター分子の標的化阻害を通してこれらの限定を開放すると、脊髄損傷、頭部損傷、または卒中によって失われた神経回路の再生を有意に増強する可能性がある。さらに、残っている損傷を受けていない脳の回路の再教育が、それらをより初期のより強い型のシナプス可塑性に近づけることによって促進されうるという考えから、卒中からの回復は、リハビリテーションおよび再教育治療をPirBの薬理学的な標的化阻害とカップリングさせることによって増強される可能性がある。
【0024】
逆に、てんかん性の脳は、不適当な活性によって誘導されるニューロンの発芽および生長に苦しむ。てんかんは家族に遺伝し、このように遺伝的成分を有する。てんかんに苦しむ人々は、遺伝的要因によりPirB/LILRB活性が低減されている可能性があるか、または治療的介入を通してPirB機能を増強することによって発作誘発可塑性の程度を限定することによって恩典が得られる可能性がある。本明細書における根本的概念は、発達中の脳のシナプス可塑性特徴のより強い型の基盤が成体の脳にもなお存在しているが、無傷のPirBは成体期において神経の可塑性の程度にブレーキをかけるように機能するという点である。このように、神経可塑性の阻害剤は、損傷および卒中から回復するための、学習および記憶を増強するための機能遮断治療薬として、ならびにてんかんまたは他の型の異常な脳の活性と共に起こりうる神経回路の望ましくない変化を防止するための機能増強治療薬として同定および設計される。
【0025】
本明細書において、本発明者らは、MHCIの候補ニューロン受容体としてペア型イムノグロブリン様受容体B、PirBを同定した。PirBは様々なタイプの白血球において発現される膜貫通型MHCI受容体(9〜15)であり、広いアレイのMHCI分子に結合すると共に必須のMHCIコサブユニットであるβ2ミクログロブリンに直接結合することが示されている(12、13、16)。本発明者らの研究は、PirBが、調べた全ての年齢でマウス脳全体のニューロンのサブセットにおいて発現されることを証明している。培養皮質および海馬ニューロンは、ニューロンの軸索および生長錐体に沿ってPirBの免疫染色を示す。ニューロンPirBタンパク質はグリコシル化、リン酸化され、およびシナプトソームと共に部分的に分画される。免疫系(17〜21)の場合のように、ニューロンPirBはホスファターゼShp-1およびShp-2と複合体を形成する。変異体マウスにおける機能的実験により、視覚皮質における眼の優位性可塑性はより強く、分離された網膜神経節軸索は、PirBシグナル伝達の非存在下では異常に可塑性であることが判明している。これらの結果は、ニューロン発現MHCI受容体が視覚系の可塑性を限定するように作用することを証明する。
【0026】
定義
本発明は、本明細書に記述の特定の材料および方法に限定されないと理解される。同様に本明細書において用いられる用語は、特定の態様を記述する目的のためであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図しないと理解される。本明細書において用いられるように、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その」には、本文がそうでないことを特に明記している場合を除き、複数形が含まれる。たとえば、「白血球」という言及には、当業者に公知の細胞の複数が含まれる。
【0027】
特に明記していなければ、本明細書において用いられる科学技術用語は全て、本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において言及される刊行物は全て、刊行物において報告され、本発明に関連して用いられる可能性があるモデル、プロトコール、および試薬を記述および開示する目的のために引用される。本明細書のいかなる内容も、先行発明に基づいて本開示がなされた日付を早める権利が本発明者にはないと自認したと解釈されるべきではない。
【0028】
本明細書において用いられるように、「低分子」は通常、分子量が約25K未満、好ましくは10K未満であり、細胞の浸透を増強して、分解に耐えさせて、その生理的半減期を延長させる多くの物理化学的および薬理学的特性を保有する可能性がある。好ましくは低分子は免疫原性ではない。さらに、低分子はハイスループットスクリーニングに対して敏感に反応しなければならない。
【0029】
本明細書において用いられるように、「発現」は、細胞における内因性の遺伝子(PirB)、異種遺伝子もしくは核酸セグメント、またはトランスジーンの転写および/または翻訳を指す。たとえば、siRNA構築物の場合、発現は、siRNAのみの転写を指してもよい。さらに、発現は、センス(mRNA)または機能的RNAの転写および安定な蓄積を指す。発現はまた、タンパク質の産生を指してもよい。
【0030】
本明細書において用いられるように、「分子を細胞に投与する」(たとえば、発現ベクター、核酸、サイトカイン、血管新生因子、送達媒体、物質等)という用語は、分子を細胞に形質導入、トランスフェクト、マイクロインジェクション、電気穿孔、または発射することを指す。いくつかの局面において、分子は、標的細胞を送達細胞に接触させることによって(たとえば、細胞融合によって、または標的細胞の近位に存在する場合に送達細胞を溶解することによって)、標的細胞に導入される。
【0031】
本明細書において用いられるように、「MHCクラスI分子」は、古典的(クラス1a)MHC I分子(HLA-A、-B、-C、-G等)および他の非古典的(クラス1b)MHCクラスI分子を指す。MHCクラスI分子には、ヒトMHCクラスI分子(ヒト白血球抗原(HLA)複合体)ならびに、マウスのH-2座、特にH-2 DおよびK座のクラスI抗原のようなその脊椎動物同等物が含まれる。ヒトMHCクラスI抗原には、たとえば、HLA-A、-B、C、Qa、およびT1が含まれる。さらに、HLA-Gは、非古典的MHCクラスI産物をコードする。同様に多数のMHCクラスI様遺伝子が存在し、その多くは、HFE、MICA、MICB、CD1-a、-b、-c、-dおよびULPBファミリーメンバーを含む模範的なMHCクラスI領域外でコードされる。ヒトおよびマウスの双方のデータに関する起源:http://imgt.cines.fr/textes/IMGTrepertoireMHC/LocusGenes/nomenclatures/mouse/MHC/Mu_ MHCnom.html(その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0032】
PirB受容体は、最近、そのヒトFcα受容体(FcαR)との相同性に基づいてマウスにおいて同定されている。PirBはヒトFcαRおよびキラー阻害性受容体 (KIR)、マウスgp49、IgGのウシFc受容体(FcγR)、および最近同定されたヒトIg様転写物(ILT)/白血球Ig様受容体(LIR)/単球/マクロファージIg様受容体(MIR)が含まれる遺伝子ファミリーに対して配列類似性を共有する。PirB遺伝子は、FcαR、KIR、およびILT/LIR/MIR遺伝子を含有するヒト染色体19q13領域とシンテニーである領域におけるマウス第7染色体に存在する。PirBに関するDNA配列から、それぞれが6個のIg様ドメインを含有する類似のエクトドメイン(>92%相同性)を有するI型膜貫通タンパク質であると予測される。PirB遺伝子によってコードされるPirBタンパク質は、典型的な非荷電膜貫通領域と、多数の候補免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を有する長い細胞質テールとを有する。最近の研究から、PirB細胞質領域における2つの最も膜に遠位のITIMユニットの阻害機能が証明された。PirB阻害機能は、タンパク質チロシンホスファターゼSHP-1のITIM動員を通して媒介される。
【0033】
上記のPirBはポリペプチドを指すのみならず、遺伝子およびその変種が生じることができる異なるmRNA転写物、および解明される可能性がある任意のさらなる遺伝子変種を含む、遺伝子および現在公知の全てのその変種を指すと認識すべきである。しかし、一般的にそのような変種は先の表の配列と有意な相同性(配列同一性)を有し、たとえば変種は、上記の表1〜5の配列と少なくとも約70%の相同性(配列同一性)、より典型的に上記の表1〜5の配列と少なくとも約75、80、85、90、95、97、98、または99%相同性(配列同一性)を有するであろう。変種の相同性は、BLASTプログラムのような多数の任意の標準的な技術によって決定することができる。
【0034】
本明細書において用いられるように、「中枢神経系の疾患、または障害」は、中枢神経系の神経変性障害(パーキンソン病;アルツハイマー病)または自己免疫障害(多発性硬化症);記憶喪失;長期および短期記憶障害;学習障害;自閉症、うつ病、良性の健忘症、小児学習障害、内部頭部損傷、および注意欠陥障害;脳の自己免疫障害、ウイルス感染症に対する神経の反応;脳損傷;うつ病;双極性障害、統合失調症等のような精神障害;ナルコレプシー/睡眠障害(概日リズム障害、不眠症およびナルコレプシー);神経切断または神経損傷;脳脊髄神経(CNS)切断;および脳または神経細胞に対する任意の損傷;AIDSに関連する神経欠損;チック(たとえば、ジル・ド・ラ・ツレット症候群);ハンチントン舞踏病、統合失調症、外傷性脳損傷、耳鳴り、神経痛、特に三叉神経痛、神経障害性疼痛、糖尿病、MSおよび運動ニューロン疾患、アタキシア、筋硬直(痙縮)、および側頭下顎関節機能障害のような、疾患においてニューロディステシア(neurodysthesias)が起こる不適当な神経活動;被験体における報酬欠損症候群(RDS)行動が含まれるがこれらに限定されるわけではない、その疾患の経過または重症度が本発明の教示によって防止または処置されうる;すなわち神経の可塑性または再生を増強する治療薬によって恩典が得られうる任意の神経学的障害を指す。
【0035】
「診断」は、病的状態の存在または性質を同定することを意味する。診断法はその感度および特異性が異なる。診断アッセイの「感度」は、検査陽性である疾患を有する個体の百分率(「真の陽性」の百分率)である。アッセイによって検出されない疾患を有する個体は、「偽陰性」である。疾患を有さず、アッセイにおいて検査陰性である被験体は「真の陰性」と呼ばれる。診断アッセイの「特異性」は、1−偽陽性率であり、「偽陽性」率は、検査陽性である疾患を有しない被験体の百分率として定義される。特定の診断法は、疾患に関する明確な診断を提供しない可能性があるが、方法が診断を助ける正の指標を提供すれば十分である。
【0036】
本明細書において用いられるように、「薬学的に許容される」成分は、妥当な恩典/リスク比に釣り合った不当な有害な副作用(毒性、刺激、およびアレルギー反応)がなく、ヒトおよび/または動物での使用にとって適した成分である。
【0037】
「患者」または「個体」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、これは処置される哺乳動物被験体を意味し、ヒト患者が好ましい。いくつかの場合において、本発明の方法は、実験動物、獣医学応用、ならびにマウス、ラット、およびハムスターを含む齧歯類;ならびに霊長類が含まれるがこれらに限定されるわけではない、疾患の動物モデルの開発にとって有用である。
【0038】
本明細書において用いられるように、「処置」は、ルーチンの統計学的検査を用いて決定した場合に、標準化値に近づく、たとえば標準化値との差が50%未満である、好ましくは標準化値との差が25%未満である、より好ましくは標準化値との差が10%未満である、およびなおより好ましくは標準化値とは有意差がない症状を指す。たとえば、うつ病の処置には、たとえば、気分の変化、強い悲しみおよび絶望の感情、精神遅滞、集中力の喪失、悲観的な心配、激昂、および自己嫌悪が含まれるがこれらに限定されるわけではないうつ病の症状の軽減が含まれる。不眠症、食欲不振および体重減少、エネルギーおよび性欲の減少、ならびに正常なホルモン概日リズムの回復を含む身体的変化もまた、軽減される可能性がある。本明細書において用いられるように、「パーキンソン病を処置する」または「改善する」という用語を用いる場合のもう1つの例は、振せん、運動緩徐、硬直、および体位障害が含まれるがこれらに限定されるわけではないパーキンソン病の症状の軽減を意味する。
【0039】
本明細書において用いられるように、「免疫系の細胞」または「免疫細胞」は、B細胞とも呼ばれるBリンパ球、T細胞とも呼ばれるTリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、リンフォカイン活性化キラー(LAK)細胞、単球、マクロファージ、好中球、顆粒球、肥満細胞、血小板、ランゲルハンス細胞、幹細胞、樹状細胞、末梢血単核球、腫瘍浸潤(TIL)細胞、ハイブリドーマを含む遺伝子改変免疫細胞、薬物改変免疫細胞、および上記の細胞タイプの誘導体、前駆体、または前駆細胞が含まれるがこれらに限定されるわけではない、アッセイされる可能性がある免疫系の任意の細胞が含まれることを意味する。
【0040】
「免疫エフェクター細胞」は、免疫応答を媒介する抗原に結合することができる細胞を指す。これらの細胞には、T細胞(Tリンパ球)、B細胞(Bリンパ球)、単球、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK)細胞、細胞障害性Tリンパ球(CTL)、たとえばCTL細胞株、CTLクローン、および腫瘍、炎症性、または他の浸潤物に由来するCTLが含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0041】
「T細胞」または「Tリンパ球」は、胸腺に端を発し、CD3複合体のタンパク質(たとえば、再配列T細胞受容体、抗原/細胞のMHC特異性に関与するT細胞表面上のヘテロ二量体タンパク質)に関連するヘテロ二量体受容体を有するリンパ球のサブセットである。T細胞反応は、他の細胞に及ぼすその効果(たとえば、標的細胞の殺細胞、マクロファージ活性化、B細胞活性化)、またはそれらが産生するサイトカインに関するアッセイによって検出される可能性がある。
【0042】
「活性」、「活性化」、または「増強」は、「休止期」免疫細胞が、反応して測定可能なレベルで免疫機能を示す能力である。活性化の程度の測定は、前回の活性化の結果としてさらに刺激された場合に活性の増強を表す免疫系の細胞の能力の定量的査定を指す。能力の増強は、免疫細胞を低用量の刺激物質に反応して活性化されるように刺激させる活性化プロセスの際に起こる生化学的変化に起因する可能性がある。
【0043】
本明細書において用いられるように、「ポリペプチド」という用語は、本明細書において引用した配列を含む完全長のタンパク質を含む、任意の長さのアミノ酸の鎖を含む。本明細書に記述の配列を含むタンパク質のエピトープを含むポリペプチドは、ほぼエピトープのみからなってもよく、またはさらなる配列を含んでもよい。さらなる配列は、本来のタンパク質に由来してもよく、または異種であってもよく、そのような配列は免疫原性もしくは抗原性特性を有してもよい(しかし有する必要はない)。
【0044】
本明細書において用いられるように、抗体とタンパク質またはペプチドの相互作用を参照して「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、その相互作用が、タンパク質上の特定の構造(すなわち、抗原性決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味する;言い換えれば、抗体は、タンパク質全般に対するよりむしろ特異的タンパク質構造を認識してこれに結合する。たとえば、抗体がエピトープ「A」に対して特異的であれば、標識「A」と抗体とを含む反応においてエピトープA(または遊離の未標識のA)を含むタンパク質が存在すれば、抗体に結合した標識Aの量が低減するであろう。全般的に「特異的結合」は、Tリンパ球によって発現されたT細胞受容体の、抗原提示細胞上のMHC分子およびペプチドに対する結合のような、そのリガンドに対する任意のMHCクラスI分子の結合を指す。
【0045】
本明細書において用いられるように、「抗体」という用語は、抗体結合ドメインが、抗原との免疫学的反応を起こさせる、抗原の抗原性決定因子の特色と相補的な内部表面形状および電荷分布を有する三次元結合空間を形成するように抗体分子の可変ドメインの折り畳みから形成される、少なくとも1つの結合ドメインを含むポリペプチドまたはポリペプチドの群を指す。抗体には、結合ドメインを含む組換え型タンパク質と共に、Fab、Fab'、F(ab)2、およびF(ab')2断片が含まれる。本明細書において用いられる「抗体」という用語にはまた、抗体全体の改変によって産生されたまたは組換えDNA方法論を用いてデノボで合成された抗体断片が含まれる。同様に、これには、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、または一本鎖抗体が含まれる。抗体の「Fc」部分は、1つまたは複数の重鎖定常領域ドメインCH1、CH2、およびCH3を含むが、重鎖可変領域は含まれない免疫グロブリン重鎖の一部を指す。
【0046】
本明細書において用いられるように、「エピトープ」は、B-細胞および/またはT-細胞表面抗原受容体によって認識される(すなわち、特異的に結合される)ポリペプチドの一部である。エピトープは一般的に、Paul, Fundamental Immunology, 3rd ed., 243-247 (Raven Press, 1993)およびそこで引用されている参考文献において概要されているような、周知の技術を用いて同定される可能性がある。そのような技術には、抗原特異的抗血清および/またはT-細胞株もしくはクローンに対して反応できるか否かに関して、本来のポリペプチドに由来するポリペプチドをスクリーニングする段階が含まれる。ポリペプチドのエピトープは、完全長のポリペプチドの反応性と類似のレベルで(たとえば、ELISAおよび/またはT-細胞反応アッセイにおいて)そのような抗血清および/またはT細胞と反応する部分である。そのようなスクリーニングは、一般的に、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988において記述される方法のような、当業者に周知の方法を用いて行ってもよい。B-細胞およびT-細胞エピトープは、コンピューター分析によって予測してもよい。腫瘍組織において選択的に発現された(さらなるアミノ酸配列の有無によらず)ポリペプチドのエピトープを含むポリペプチドは、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」という用語は、特に明記していなければ、本明細書において互換的に用いられるであろう。本明細書において用いられるように、「核酸分子」は、一本鎖型または二重らせんのいずれかにおける、リボヌクレオシド(アデノシン、グアノシン、ウリジン、またはシチジン;「RNA分子」)またはデオキシリボヌクレオシド(デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、デオキシチミン、またはデオキシシチジン;「DNA分子」)、またはホスホロチオエートおよびチオエステルようのなその任意のホスホエステル類似体のホスフェートエステルポリマー型を指す。二本鎖DNA-DNA、DNA-RNA、およびRNA-RNAへリックスが可能である。核酸分子という用語、特にDNAまたはRNA分子は、分子の一次および二次構造のみを指し、それを任意の特定の三次構造型に限定しない。このように、この用語には、中でも直線状または環状DNA分子(たとえば、制限断片)、プラスミド、および染色体において見いだされる二本鎖DNAが含まれる。特定の二本鎖DNA分子の構造について考察する場合、本明細書において、配列は、DNAの非転写鎖(すなわち、mRNAと相同な配列を有する鎖)に沿って5'から3'方向の配列のみを与える通常の慣例に従って記述されるであろう。「組換え型DNA分子」は、分子生物学的操作を経たDNA分子である。
【0048】
本明細書において用いられるように、核酸配列、遺伝子、またはポリペプチドに応用される場合の「断片またはセグメント」という用語は、長さが、通常少なくとも約5隣接核酸塩基(核酸配列または遺伝子の場合)またはアミノ酸(ポリペプチドの場合)であり、典型的に少なくとも約10隣接核酸塩基またはアミノ酸、より典型的に少なくとも約20隣接核酸塩基またはアミノ酸、通常、少なくとも約30隣接核酸塩基またはアミノ酸、好ましくは少なくとも40隣接核酸塩基またはアミノ酸、より好ましくは少なくとも約50隣接核酸塩基またはアミノ酸、およびさらにより好ましくは少なくとも約60〜80またはそれより多い隣接核酸塩基またはアミノ酸であろう。本明細書において用いられるように、「重複する断片」は、核酸またはタンパク質のアミノ末端で始まり、核酸またはタンパク質のカルボキシ末端で終わる、隣接する核酸またはペプチド断片を指す。それぞれの核酸またはペプチド断片は、次の核酸またはペプチド断片と共有して少なくとも約1個の隣接核酸またはアミノ酸位置を有し、より好ましくは少なくとも約3個の隣接核酸塩基またはアミノ酸位置を共有し、最も好ましくは少なくとも約10個の隣接核酸塩基またはアミノ酸位置を共有する。
【0049】
核酸の状況における有意な「断片」は、少なくとも約17ヌクレオチド、一般的に少なくとも約20ヌクレオチド、より一般的に少なくとも23ヌクレオチド、通常、少なくとも26ヌクレオチド、より通常少なくとも29ヌクレオチド、しばしば少なくとも32ヌクレオチド、よりしばしば少なくとも35ヌクレオチド、典型的に少なくとも38ヌクレオチド、より典型的に少なくとも41ヌクレオチド、通常少なくとも44ヌクレオチド、より通常少なくとも47ヌクレオチド、好ましくは少なくとも50ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも53ヌクレオチド、および特に好ましい態様において少なくとも56ヌクレオチドまたはそれより多いヌクレオチドの隣接セグメントである。
【0050】
さらに、MHCクラスI遺伝子対立遺伝子変種は、実施例の章において詳しく記述されるように汎特異的プローブ、たとえばPan PIRBプローブを用いるPCRを行うことによって、たとえばヒト核酸から単離されてもよい。たとえば、反応の鋳型は、たとえばPIR遺伝子またはその対立遺伝子変種を発現することが公知であるまたは疑われる、ヒトまたは非ヒト細胞株または組織から調製されるmRNAの逆転写によって得られたcDNAであってもよい。好ましくは、対立遺伝子変種はPIR媒介神経障害を有する個体から単離されるであろう。この方法はまた、任意のMHCクラスI発現の非存在を決定するために用いられる。
【0051】
本発明のもう1つの局面において、MHCクラスIの異常な発現レベルまたは異常な発現パターンを補正することが望ましい。たとえば、MHCクラスIおよびクラスI様遺伝子配列またはその一部を、遺伝子置換治療において用いることができる。具体的に、正常なクラスI MHC遺伝子または正常なクラスI MHC遺伝子機能を示すクラスI MHC遺伝子産物の産生を指示するクラスI MHC遺伝子の一部の1つまたは複数のコピーを、リポソームのような細胞にDNAを導入する他の粒子のほかに、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスベクターが含まれるがこれらに限定されるわけではないベクターを用いて、患者内の適当な細胞内に挿入してもよい。好ましくは、ベクターは、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,501,979号および第5,661,033号において記述されるような、単純ヘルペスウイルスベクターである。
【0052】
総PirB発現レベルおよび/またはPirB遺伝子産物活性を増加、減少、または調節するために利用してもよいさらなる方法には、PirB受容体の発現を修正するために十分な位置および数で、適当なPirB発現細胞、好ましくは自己細胞、および/または幹細胞、および/または神経前駆細胞を患者に導入することが含まれる。
【0053】
そのような細胞に基づく遺伝子治療技術は、当業者に周知であり、たとえばAnderson、米国特許第5,399,349号を参照されたい。
【0054】
さらに、先におよび以降に記述される化合物のような、PirB活性を調節することができる化合物を、当業者に周知の標準的な方法を用いて投与することができる。投与される化合物が脳細胞との相互作用を伴う場合、投与技術には、血液-脳関門の通過を可能にする周知の技術が含まれなければならない。
【0055】
PirBの調節物質には、低分子、抗体、ペプチド、核酸、タンパク質、または核酸アプタマー、アンチセンス分子、リボザイム、三重らせん分子、炭水化物等が含まれるがこれらに限定されるわけではない。好ましい調節物質には、たとえば神経の可塑性に関係する物質のような、アップレギュレートする物質、または他の場合において、たとえば(すなわちPirB)ニューロン細胞可塑性を阻害する化合物のような、ダウンレギュレート物質が含まれる。
【0056】
調節物質を同定するために、化合物のライブラリをスクリーニングしてもよい。(1)化学物質ライブラリ、(2)天然物ライブラリ、および(3)ランダムペプチド、オリゴヌクレオチド、または有機分子を含む組み合わせライブラリを含む、低分子調節物質を同定するために用いられる多数の異なるライブラリが存在する。化学物質ライブラリはランダム化学構造からなり、そのいくつかは、公知の化合物の類似体、または他の薬物開発スクリーニングにおいて「ヒット」もしくは「リード」として同定されている化合物の類似体であり、そのいくつかは天然物に由来し、およびそのいくつかは、非方向性の合成有機化学から生じる。天然物ライブラリは、(1)土壌、植物、もしくは海洋微生物からのブロスの発酵および抽出、または(2)植物もしくは海洋生物の抽出物、によってスクリーニングするための混合物を作製するために用いられる微生物、動物、植物、または海洋生物の集合体である。天然物ライブラリには、ポリケチド、非リボソームペプチド、およびその変種(天然に存在しない)が含まれる。論評に関しては、Science 282: 63-68 (1998)を参照されたい。組み合わせライブラリは、混合物として多数のペプチド、オリゴヌクレオチド、または有機化合物からなる。これらのライブラリは、従来の自動合成法、PCR、クローニング、固有の合成法によって比較的容易に調製される。特に重要であるのは、非ペプチド組み合わせライブラリである。関心対象のなお他のライブラリには、ペプチド、タンパク質、ペプチド模倣体、マルチパラレル合成コレクション、組換え、およびポリペプチドライブラリが含まれる。コンビナトリアルケミストリーおよびそこから作製されたライブラリに関する論評に関しては、Myers, Curr. Opin. Biotechnol. 8: 701-707 (1997)を参照されたい。本明細書に記述される様々なライブラリを用いての調節物質の同定によって、活性を調節する「ヒット」の能力を最適にするための候補「ヒット」(または「リード」)の改変を許容する。化合物ライブラリは購入してもよく(たとえば、Tripos(St. Louis, MO.)からのLeadQuest(商標)ライブラリのような)、または当技術分野において周知の方法を用いて合成してもよい。
【0057】
本発明の方法を用いて、MHCクラスI分子発現を調節する1つまたは複数のmRNA分子の機能的発現を阻害するアンチセンス分子をスクリーニングすることができる。アンチセンス核酸分子は、それが、標的タンパク質の発現を干渉することができる限り、多数の異なる方法で構築されてもよい。スクリーニングされる典型的なアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは、長さが30〜100ヌクレオチドである。アンチセンス核酸分子は一般的に、標的MHCクラスI分子配列と実質的に同一であろう(もっともアンチセンス方向であるが)。最少の同一性は典型的に、約80%より大きく、約90%より大きく、約95%より大きく、または約100%より大きいであろう。
【0058】
核酸調節物質にはまた、リボザイムが含まれてもよい。このように、本発明の方法を用いて、MHCクラスI分子を調節する1つまたは複数のタンパク質をコードする1つまたは複数のmRNA分子の機能的発現を阻害するリボザイム分子をスクリーニングすることができる。標的RNA特異的リボザイムの設計および使用は、Haseloff et al., Nature 334: 585, 1988において記述されている。同様にたとえば、米国特許第5,646,023号も参照されたい。Tablor, et al., Gene 108: 175, 1991は、アンチセンスRNAとリボザイム技術の長所を1つの構築物に組み合わせることによって、触媒RNAの構築を大きく単純化した。リボザイム触媒にとってより小さい相同性領域が必要であり、したがって、これは切断部位が保存される場合、大きい遺伝子ファミリー(たとえば、Igファミリー)の異なるメンバーの抑制を促進することができる。
【0059】
もう1つの好ましい態様において、siRNAは、たとえば神経障害において役割を果たすと同定されたMHCクラスI分子をダウンレギュレートするために用いられる。siRNAを構築するために、市販の起源を含むいくつかの方法が利用可能である。siRNAは、T7ファージポリメラーゼを用いて構築することができる。T7ポリメラーゼを用いて、個々のsiRNAセンスおよびアンチセンス鎖を転写して、次にこれをアニールしてsiRNAを作製する。T7ポリメラーゼはまた、シスで連結してヘアピン構造を形成するsiRNA鎖を転写するために用いられる。転写されたRNAは、5'三リン酸末端を含み、または哺乳動物細胞にとって最も好ましくは5'一リン酸を含む。哺乳動物遺伝子のsiRNA媒介ノックダウンの成功が最近報告されている。
【0060】
薬物スクリーニングに関するもう1つの技術は、関心対象タンパク質に対して適した結合親和性を有する化合物のハイスループットスクリーニングを提供する(たとえば、Geysen et al., 1984, PCT出願WO84/03564を参照されたい)。この方法において、多数の異なる低分子試験化合物が固相基質上で合成される。試験化合物をMHCクラスI分子またはその断片と反応させて、洗浄する。次に、結合したMHCクラスI分子を当技術分野において周知の方法によって検出する。精製MHCクラスI分子はまた、上記の薬物スクリーニング技術において用いるために、プレート上に直接コーティングすることができる。または、非中和抗体を用いてペプチドを捕獲して、固相支持体上にこれを固定することができる。
【0061】
患者または他の試験被験体においてMHCクラスI分子の同一性を決定するための成分を含む、診断および研究試薬キットも同様に提供される。このように、キットは、MHCクラスI分子、遺伝子、対立遺伝子、もしくはその断片の試料、またはMHCクラスI分子、遺伝子、対立遺伝子、もしくはその断片の発現産物を含んでもよい。キットはまた、診断アッセイを実施するための説明書(書面)を含有してもよい。キットはまた、アッセイまたは試験支持体、典型的に固相支持体、および陽性対照試料、陰性対照試料、細胞、酵素、検出標識、緩衝液等のような他の材料を含有してもよい。
【0062】
PirBアンタゴニスト活性を有する候補物質を同定するためのアッセイ:
本明細書において記述される「物質」または「化合物」という用語は、PirBの生物活性の拮抗能を有する任意の分子、たとえばタンパク質または薬剤を記述する。一般的に、様々な濃度に対する示差反応を得るために、異なる物質濃度で複数のアッセイ混合物を同時に行うことができる。典型的に、これらの濃度の1つは、陰性対照として、すなわちゼロ濃度または検出レベル未満として役立つ。
【0063】
候補物質(化合物)は、多数の化学クラスを含むが、典型的にそれらは有機分子であり、好ましくは分子量50ダルトンより大きく約2,500ダルトン未満の低分子有機化合物である。候補物質は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合にとって必要な官能基を含み、典型的に少なくともアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基が含まれ、好ましくは少なくとも2つの官能化学基が含まれる。候補物質はしばしば、環状炭素または複素環構造および/または上記の官能基の1つもしくは複数によって置換された芳香族もしくは多価芳香族構造を含む。候補物質はまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン誘導体、構造類似体、またはその組み合わせが含まれるがこれらに限定されるわけではない生体分子において見いだされる。
【0064】
候補物質は、合成または天然化合物のライブラリを含む多様な起源から得られる。たとえば、ランダムオリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む広く多様な化合物および生体分子のランダムおよび方向性の合成のために、多数の手段が利用可能である。または、細菌、真菌、植物および動物抽出物の形での天然化合物のライブラリが入手可能であるか、または容易に産生される。さらに、天然または合成によって産生されたライブラリおよび化合物は、通常の化学、物理、および生化学手段を通して容易に改変され、これを用いて組み合わせライブラリを産生してもよい。公知の薬理物質を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような方向性またはランダム化学改変に供して、構造類似体を産生してもよい。スクリーニングを公知の薬理活性化合物およびその化学類似体に向けてもよい。
【0065】
スクリーニングアッセイが、PirB受容体を利用する結合アッセイである場合、1つまたは複数の分子を標識に連結させてもよく、そこで標識は検出可能なシグナルを直接または間接的に提供することができる。様々な標識には、放射性同位元素、蛍光体、化学発光体、酵素、特異的結合分子、粒子、たとえば磁気粒子等が含まれる。特異的結合分子には、ビオチンとストレプトアビジン、ジゴキシンとアンチジゴキシン等のような対が含まれる。特異的結合メンバーに関して、相補的メンバーは通常、公知の技法に従って検出を提供する分子によって標識されるであろう。
【0066】
多様な他の試薬がスクリーニングアッセイに含まれてもよい。これらには、最適なタンパク質-タンパク質相互作用を促進するおよび/または非特異的またはバックグラウンド相互作用を低減するために用いられる塩、中性タンパク質、たとえばアルブミン、洗浄剤等のような試薬が含まれる。プロテアーゼ阻害剤、ヌクレアーゼ阻害剤、抗菌剤等のようなアッセイ効率を改善する試薬を用いてもよい。必須の結合を提供する任意の順序で成分の混合物を加える。インキュベーションは、任意の適した温度、典型的に4〜40℃で行う。最適な活性が得られるようにインキュベーション期間を選択するが、迅速なハイスループットスクリーニングを促進するためにインキュベーション期間を最適化してもよい。
【0067】
もう1つの態様において、本発明は、PirBに結合する、またはKSHV env媒介膜融合を遮断する組成物を同定するための方法を提供する。方法には、成分を相互作用させるために十分な条件で組成物を含む成分とPirBとをインキュベートする段階、およびPirBに対する組成物の結合を測定する段階が含まれる。PirBに結合する組成物には、ペプチド、ペプチド模倣体、ポリペプチド、化学化合物および先に記述した生物学的物質が含まれる。
【0068】
インキュベートする段階には、試験組成物とPirBとを接触させる条件が含まれる。結合する段階は、細胞における生化学的変更(たとえば、カルシウム流入)によって間接的に測定することができる。接触させる段階には、液相および固相が含まれる。試験リガンド/組成物は、任意で複数の組成物をスクリーニングするための組み合わせライブラリであってもよい。本発明の方法において同定された組成物はさらに、溶液中で、または固相支持体に結合させた後に、PCR、オリゴマー制限(Saiki, et al., Bio/Technology, 3:1008-1012, 1985)、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド(ASO)プローブ分析(Conner, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 80:278, 1983)、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(OLA)(Landegren, et al, Science, 241:1077, 1988)等のような特異的DNA配列の検出に通常応用される任意の方法によって、評価、検出、クローニング、シークエンシング等を行うことができる。DNA分析のための分子技術は論評されている(Landegren, et al., Science, 242:229-237, 1988)。
【0069】
試験組成物が組み合わせライブラリに存在する場合、または遺伝子産物として発現される場合(化学組成物とは対照的に)、多様な任意の技法を用いて本発明の遺伝子をクローニングしてもよい。そのような1つの方法は、組成物遺伝子を含有するインサートの存在に関してDNAインサートのシャトルベクターライブラリ(組成物を発現する細胞に由来する)を分析する段階を必然的に伴う。そのような分析は、ベクターを細胞にトランスフェクトさせて、組成物結合活性の発現に関してアッセイする段階によって行ってもよい。これらの遺伝子をクローニングするための好ましい方法は、組成物タンパク質のアミノ酸配列を決定する段階を必然的に伴う。通常、この作業は所望の組成物タンパク質を精製する段階およびそれを自動シークエンサーによって分析する段階によって行われるであろう。または、それぞれのタンパク質を臭化シアン、またはパパイン、キモトリプシン、もしくはトリプシンのようなプロテアーゼによって断片化してもよい(Oike, Y., et al., J. Biol. Chem., 257:9751-9758 (1982);Liu, C., et al., Int. J. Pept. Protein Res., 21:209-215 (1983))。これらのタンパク質の全アミノ酸配列を決定することは可能であるが、これらの分子のペプチド断片の配列を決定することが好ましい。
【0070】
組成物が受容体タンパク質と機能的に複合体を形成できるか否かを決定するために、たとえば外因性の遺伝子によってコードされるタンパク質のタンパク質レベルの変化をモニターすることによって、外因性の遺伝子の誘導をモニターする。外因性の遺伝子の転写を誘導することができる組成物が見いだされる場合、この組成物は、初回試料試験組成物をコードする核酸によってコードされる受容体タンパク質に対して結合することができると結論される。
【0071】
外因性遺伝子の発現は、たとえば機能的アッセイまたはタンパク質産物に関するアッセイによってモニターすることができる。したがって、外因性の遺伝子は、外因性の遺伝子の発現を検出させるためにアッセイ可能な/測定可能な発現産物を提供するであろう遺伝子である。そのような外因性遺伝子には、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子、アルカリホスファターゼ遺伝子、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ遺伝子、緑色蛍光タンパク質遺伝子、グアニンキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、および抗生物質耐性遺伝子(たとえば、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ)のようなレポーター遺伝子が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0072】
外因性の遺伝子の発現は、組成物-受容体結合を示しており、このように結合するまたは遮断する組成物を同定および単離することができる。本発明の組成物は、抽出、沈殿、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ゲル濾過等のような一般的に用いられる公知のタンパク質精製技術を用いることによって、培養培地または細胞から抽出および精製することができる。組成物は、カラムマトリクスに結合した改変受容体タンパク質細胞外ドメインを用いるアフィニティクロマトグラフィーによって、またはヘパリンクロマトグラフィーによって単離することができる。
【0073】
PirB抗体
もう1つの態様において、本発明は、PirB受容体自身またはPirB可溶性リガンドに結合することによってPirB活性化を遮断する、PirBに対する抗体を提供する。そのような抗体は、PirB関連障害または疾患の試験における、ならびに有効な治療物質の開発における研究および診断ツールとして有用である。さらに、PirBに対する抗体を含む薬学的組成物は有効な治療物質を表す可能性がある。
【0074】
本発明の抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ならびにポリクローナルおよびモノクローナル抗体の断片が含まれる。
【0075】
本発明のPirBポリペプチドはまた、PirBポリペプチドのエピトープに対して免疫反応性である、または結合する抗体を産生するために用いることができる。本質的に、異なるエピトープ特異性を有するプールされたモノクローナル抗体からなる抗体と共に、個々のモノクローナル抗体調製物が提供される。モノクローナル抗体は、当技術分野において周知の方法によってタンパク質の断片を含有する抗原から作製される(Kohler, et al., Nature, 256:495, 1975;Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel, et al., ed., 1989)。
【0076】
本発明において用いられるように、「抗体」という用語には、無傷の分子と共に、エピトープ決定基に結合することができるFab、F(ab')2、およびFvのようなその断片が含まれる。これらの抗体断片は、その抗原または受容体との何らかの選択的結合能を保持し、以下のように定義される:
(1)Fab、抗体分子の一価の抗原結合断片を含有する断片は、抗体全体を酵素パパインによって消化することによって産生することができ、無傷の軽鎖と1つの重鎖の一部とを生じる;
(2)Fab'、抗体の断片は、抗体全体をペプシンによって処置した後に還元することによって得られ、無傷の軽鎖と重鎖の一部とを生じる;抗体1分子あたり、2つのFab'断片が得られる;
(3)(Fab')2、抗体全体を酵素ペプシンによって処置した後還元を行わなずに得ることができる抗体断片;F(ab')2は、2つのジスルフィド結合によって互いに保持された2つのFab'断片の二量体である;
(4)Fv、軽鎖の可変領域と、2つの鎖として発現された重鎖の可変領域とを含有する遺伝子改変断片として定義される;および
(5)一本鎖抗体(「SCA」)、遺伝子融合一本鎖分子として適したポリペプチドリンカーによって連結された、軽鎖の可変領域、重鎖の可変領域を含有する遺伝子操作分子として定義される。
【0077】
これらの断片を作製する方法は、当技術分野において公知である(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)を参照されたい)。
【0078】
本発明において用いられるように、「エピトープ」という用語は、抗体のパラトープが結合する抗原上の任意の抗原性決定基を意味する。エピトープ決定基は、通常、アミノ酸または糖側鎖のような化学的に活性な表面基からなり、通常、特異的な三次元構造特徴と共に特異的な電荷特徴を有する。
【0079】
本発明のPirBポリペプチドに結合する抗体は、免疫抗原として関心対象低分子ペプチドを含有する無傷のポリペプチドまたは断片を用いて調製することができる。動物を免疫するために用いられるポリペプチドまたはペプチドは、翻訳されたcDNAまたは化学合成に由来しえて、これを望ましければ担体タンパク質に共役させることができる。ペプチドに化学的に共役されるそのような一般的に用いられる担体には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、サイログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風類毒素が含まれる。次に、共役されたペプチドを用いて動物(たとえば、マウス、ラット、またはウサギ)を免疫する。
【0080】
望ましければ、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体は、たとえばそれに対する抗体が作製されるポリペプチドまたはペプチドが結合するマトリクスに対する結合およびマトリクスからの溶出によって、さらに精製することができる。当業者は、ポリクローナル抗体と共にモノクローナル抗体の精製および/または濃縮に関して、免疫学の技術分野において一般的な様々な技術を承知しているであろう(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Coligan, et al., Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1994を参照されたい)。
【0081】
同様に、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生するために抗イディオタイプ抗体を用いることも可能である。たとえば、第一のモノクローナル抗体に対して作製された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、第一のモノクローナル抗体によって結合されるエピトープの「像」である高度可変領域において結合ドメインを有するであろう。
【0082】
ポリクローナル抗体の調製は、当業者に周知である。たとえば参照により本明細書に組み入れられる、Green et al., Production of polyclonal Antisera, in IMMUNOCHEMICAL PROTOCOLS (Manson, ed.), pages 1-5 (Humana Press 1992);Coligan et al., Production of Polyclonal Antisera in Rabbits, Rats, Mice and Hamsters, in CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY, section 2.4.1 (1992)を参照されたい。
【0083】
モノクローナル抗体の調製も同様に慣例的である。たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Kohler & Milstein, Nature 256:495 (1975);Coligan et al., sections 2.5.1-2.6.7;およびHarlow et al., ANTIBODIES: A LABORATORY MANUAL, page 726 (Cold Spring Harbor Pub. 1988)を参照されたい。簡単に説明すると、モノクローナル抗体は、抗原を含む組成物をマウスに注入する段階、血清試料を採取することによって抗体産生の存在を確認する段階、脾臓を摘出してBリンパ球を得る段階、B細胞を骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを産生する段階、ハイブリドーマをクローニングする段階、抗原に対する抗体を産生する陽性クローンを選択する段階、およびハイブリドーマ培養物から抗体を単離する段階によって得ることができる。モノクローナル抗体は、多様な十分に確立された技術によってハイブリドーマ培養物から単離および精製することができる。そのような単離技術には、プロテインAセファロースによるアフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが含まれる。たとえば、Coligan et al., sections 2.7.1-2.7.12 and sections 2.9.1-2.9.3;Barnes et al., Purification of Immunoglobulin G (IgG), in METHODS IN MOLECULAR BIOLOGY, VOL. 10, pages 79-104 (Humana Press 1992)を参照されたい。モノクローナル抗体のインビトロおよびインビボ拡大のための方法は当業者に周知である。インビトロでの拡大は、任意で仔ウシ胎児血清のような哺乳動物の血清または微量元素、および正常マウス腹腔滲出細胞、脾細胞、骨髄マクロファージのような生育維持補助物質を補充した、ダルベッコ改変イーグル培地またはRPMI 1640培地のような適した培養培地において行ってもよい。インビトロでの産生は、比較的純粋な調製物を提供して、大量の所望の抗体を生じるように規模拡大することができる。大規模ハイブリドーマ培養は、エアリフトリアクター、連続撹拌リアクター、または固定もしくはエントラップ細胞培養における均一な浮遊培養によって行うことができる。インビボでの拡大は、親細胞と組織適合性である哺乳動物、たとえば同系マウスに細胞クローンを注入して、抗体産生腫瘍を生育させることによって行ってもよい。任意で、注入の前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンタデカン)のような油によって動物をプライミングする。1〜3週間後、所望のモノクローナル抗体を動物の体液から採取する。
【0084】
本発明の抗体について治療応用が考えられる。たとえば、本発明の抗体はまた、ヒト下霊長類抗体に由来してもよい。ヒヒにおいて治療的に有用な抗体を作製するための全般的技術は、たとえば参照により本明細書に組み入れられるGoldenberg et al., 国際特許出願WO 91/11465 (1991)およびLosman et al., Int. J. Cancer 46:310 (1990)において見いだされるであろう。
【0085】
または、治療的に有用な抗PirB抗体は、「ヒト化」モノクローナル抗体に由来してもよい。ヒト化モノクローナル抗体は、マウス免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変鎖からのマウス相補性決定領域をヒト可変ドメインに移して、次に、マウス相対物のフレームワーク領域においてヒト残基を置換することによって産生される。ヒト化モノクローナル抗体に由来する抗体成分を用いることにより、マウス定常領域の免疫原性に関連する起こりうる問題が回避される。マウス免疫グロブリン可変ドメインをクローニングするための全般的技術は、その全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、Orlandi et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 86:3833 (1989)によって記述されている。ヒト化モノクローナル抗体を産生するための技術は、たとえば参照により本明細書に組み入れられる、 Jones et al., Nature 321 : 522 (1986);Riechmann et al., Nature 332: 323 (1988);Verhoeyen et al., Science 239: 1534 (1988);Carter et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89: 4285 (1992);Sandhu, Crit. Rev. Biotech. 12: 437 (1992);およびSinger et al., J. Immunol. 150: 2844 (1993)によって記述されている。
【0086】
本発明の抗体はまた、組み合わせ免疫グロブリンライブラリから単離されたヒト抗体断片に由来してもよい。たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Barbas et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL.2, page 119 (1991);Winter et al.,Ann. Rev. Immunol. 12: 433 (1994)を参照されたい。ヒト免疫グロブリンファージライブラリを産生するために有用なクローニングおよび発現ベクターは、たとえばSTRATAGENE Cloning Systems (La Jolla, Calif.)から得ることができる。
【0087】
さらに、本発明の抗体は、ヒトモノクローナル抗体に由来してもよい。そのような抗体は、抗原チャレンジに反応して特異的ヒト抗体を産生するように「操作され」ているトランスジェニックマウスから得られる。この技術において、ヒト重鎖および軽鎖座の要素を、内因性の重鎖および軽鎖座の標的化破壊を含む胚幹細胞株に由来するマウス系統に導入する。トランスジェニックマウスはヒト抗原に対して特異的な抗体を合成することができ、マウスを用いてヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生することができる。トランスジェニックマウスからヒト抗体を得る方法は、参照により本明細書に組み入れられる、Green et al., Nature Genet. 7:13 (1994);Lonberg et al., Nature 368:856 (1994);およびTaylor et al., Int. Immunol. 6:579 (1994)によって記述される。
【0088】
本発明の抗体断片は、抗体のタンパク質分解加水分解によって、または断片をコードするDNAの大腸菌における発現によって調製することができる。抗体断片は、通常の方法によって全抗体のペプシンまたはパパイン消化によって得ることができる。たとえば、抗体断片は、抗体のペプシンによる酵素的切断によって産生され、F(ab')2と呼ばれる5S断片を提供する。この断片はさらに、チオール還元試薬を用いて、任意でジスルフィド連結の切断に起因するスルフヒドリル基のブロッキング基を用いて切断することができ、3.5S Fab'一価断片を産生することができる。または、パパインを用いる酵素的切断は2つの一価Fab断片とFc抗体を直接産生する。これらの方法は、たとえばGoldenberg、米国特許第4,036,945号および第4,331,647号、ならびにその中に含まれる参考文献において記述されている。これらの特許はその全内容物が参照により本明細書に組み入れられる。同様に、Nisonhoff et al., Arch. Biochem. Biophys. 89:230 (1960);Porter, Biochem. J. 73:119 (1959);Edelman et al., METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 1, page 422 (Academic Press 1967);およびColigan et al. at sections 2.8.1-2.8.10 and 2.10.1- 2.10.4.を参照されたい。
【0089】
一価の軽鎖重鎖断片を形成するための重鎖の分離のような抗体を切断する他の方法、断片のさらなる切断または他の酵素的、化学的、もしくは遺伝子技術も同様に、断片が無傷の抗体によって認識される抗原に結合する限り、用いてもよい。
【0090】
たとえば、Fv断片は、VHおよびVL鎖の会合を含む、この会合はInbar et al., Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 69:2659 (1972)において記述されるように、非共有結合であってもよい。または、可変鎖を分子間ジスルフィド結合によって連結する、またはグルタルアルデヒドのような化学物質によってクロスリンクさせることができる。たとえば、Sandhu、前記を参照されたい。好ましくはFv断片はペプチドリンカーによって接続されたVおよびVL鎖を含む。これらの一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドによって接続されたVおよびVLドメインをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を構築することによって調製される。構造遺伝子を発現ベクターに挿入して、次にこれを大腸菌のような宿主細胞に導入する。組換え型宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドと共に1つのポリペプチド鎖を合成する。sFvを産生する方法は、たとえば、Whitlow et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 2, page 97 (1991);Bird et al., Science 242:423-426 (1988);Ladner et al., 米国特許第4,946,778号;Pack et al., Bio/Technology 11: 1271-77 (1993);およびSandhu、前記によって記述される。
【0091】
抗体断片のもう1つの型は、1つの相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最少認識単位」)は、関心対象抗体のCDRをコードする遺伝子を構築することによって得ることができる。そのような遺伝子は、抗体産生細胞のRNAからの可変領域を合成するためにポリメラーゼ連鎖反応を用いることによって調製される。たとえば、Larrick et al., METHODS: A COMPANION TO METHODS IN ENZYMOLOGY, VOL. 2, page 106 (1991)を参照されたい。
【0092】
PirBのペプチド断片
もう1つの態様において、本発明はPirBの活性化を遮断するPirBの実質的に精製されたペプチド断片に関する。そのようなペプチド断片は、PirB関連治療物質の試験において研究および診断ツールを表しうる。さらに、PirBの単離および精製ペプチド断片を含む薬学的組成物は、有効な治療物質を表す可能性がある。
【0093】
本明細書において用いられるように、「実質的に精製された」という用語は、他のタンパク質、脂質、炭水化物、核酸、およびそれが天然に会合する他の生物材料を実質的に含まないペプチドのような分子を指す。たとえば、ポリペプチドのような実質的に純粋な分子は、関心対象分子の乾燥重量で少なくとも60%となりうる。当業者は、標準的なタンパク質精製法を用いてPIRBペプチドを精製することができ、ポリペプチドの純度は、たとえばポリアクリルアミドゲル電気泳動(たとえば、SDS-PAGE)、カラムクロマトグラフィー(たとえば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC))、およびアミノ末端アミノ酸配列分析を含む標準的な方法を用いて決定することができる。
【0094】
本発明は、天然に存在するPirBの断片のみならず、受容体の活性化を遮断するPirB変異体およびPirBの化学合成誘導体にも関する。
【0095】
たとえば、PirBのアミノ酸配列における変化が本発明において企図される。PirBは、タンパク質をコードするDNAを変化させることによって変更することができる。好ましくは、同じまたは類似の特性を有するアミノ酸を用いて、保存的アミノ酸の変更のみを行う。例示的なアミノ酸置換には、アラニンのセリンへの変化;アルギニンのリジンへの変化;アスパラギンのグルタミンまたはヒスチジンへの変化;アスパラギン酸のグルタミン酸への変化;システインのセリンへの変化;グルタミンのアスパラギンへの変化;グルタミン酸のアスパラギン酸への変化;グリシンのプロリンへの変化;ヒスチジンのアスパラギンまたはグルタミンへの変化;イソロイシンのロイシンまたはバリンへの変化;ロイシンのバリンまたはイソロイシンへの変化;リジンのアルギニン、グルタミン、またはグルタミン酸への変化;メチオニンのロイシンまたはイソロイシンへの変化;フェニルアラニンのチロシン、ロイシン、またはメチオニンへの変化;セリンのトレオニンへの変化;トレオニンのセリンへの変化;トリプトファンのチロシンへの変化;チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニンへの変化;バリンのイソロイシンまたはロイシンへの変化が含まれる。
【0096】
さらに、PIRBの他の変種および断片を本発明において用いることができる。変種には、膜融合の遮断能を保持するPIRBの類似体、相同体、誘導体、ミューテインおよび模倣体が含まれる。PirBの断片は、その能力を同様に保持するPirBのアミノ酸配列の一部を指す。変種および断片は、化学改変によって、タンパク質分解酵素消化によって、またはその組み合わせによってPirB自身から直接生成することができる。さらに、遺伝子操作技術と共に、アミノ酸残基から直接ポリペプチドを合成する方法を用いることができる。
【0097】
PirBのアンタゴニスト結合を模倣する非ペプチド化合物(「模倣体」)は、Saragovi et al., Science 253 : 792-95 (1991)において概要されるアプローチによって産生することができる。模倣体は、タンパク質の二次構造の要素を模倣する分子である。たとえば、Johnson et al.,「Peptide Turn Mimetics」 in BIOTECHNOLOGY AND PHARMACY, Pezzuto et al., Eds., (Chapman and Hall, New York 1993)を参照されたい。ペプチド模倣体を用いる背景の基礎となる原理は、タンパク質のペプチド骨格が、主に分子の相互作用を促進するような方向にアミノ酸側鎖を向けるために存在するという点である。本発明の目的に関して、PirBリガンドに結合するように投与された場合、適当な模倣体は、PirB自身の同等物であると見なすことができる。
【0098】
変種および断片はまた、ゲノムまたはcDNAクローニング法を用いる組換え技術によって作製することができる。部位特異的および領域特異的変異誘発技術を用いることができる。CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY vol. 1, ch. 8 (Ausubel et al. eds., J. Wiley & Sons 1989 & Supp. 1990-93);PROTEIN ENGINEERING (Oxender & Fox eds., A. Liss, Inc. 1987)を参照されたい。さらに、リンカー走査およびPCR媒介技術を変異誘発のために用いることができる。PCR TECHNOLOGY (Erlich ed., Stockton Press 1989);CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2、前記を参照されたい。上記の任意の技術について用いるためのタンパク質のシークエンシング、構造およびモデリングアプローチは、PROTEIN ENGINEERING、上記引用文、およびCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, vols. 1 & 2、前記において開示されている。
【0099】
PirB発現の阻害
PirB遺伝子発現の阻害または低減において用いることができるいくつかの方法があり、これらには以下が含まれる:
【0100】
「遺伝子沈黙化」は、遺伝子発現、たとえばトランスジーン、異種遺伝子、および/または内因性遺伝子発現の抑制を指す。遺伝子沈黙化は、転写に影響を及ぼすプロセスを通しておよび/または転写後メカニズムに影響を及ぼすプロセスを通して媒介されてもよい。いくつかの態様において、遺伝子沈黙化は、siRNAがRNA干渉によって配列特異的に関心対象遺伝子のmRNAの分解を開始する場合に起こる。いくつかの態様において、遺伝子沈黙化は対立遺伝子特異的であってもよい。「対立遺伝子特異的」遺伝子沈黙化は、遺伝子の1つの対立遺伝子の特異的沈黙化を指す。
【0101】
「ノックダウン」、「ノックダウン技術」は、siRNAの導入前の遺伝子発現と比較して標的遺伝子の発現が低減されている遺伝子沈黙化技術を指し、これによって標的遺伝子産物の産生阻害が起こりうる。「低減された」という用語は、本明細書において標的遺伝子発現が1〜100%低下することを示すために用いられる。たとえば、発現は、10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、または99%でさえ低減されてもよい。遺伝子発現のノックダウンは、dsRNAまたはsiRNAを用いることによって指示されてもよい。たとえば、siRNAを用いることを伴いうる「RNA干渉(RNAi)」は、植物、ショウジョウバエ(D. melanogaster)、シーエレガンス(C. elegans)、トリパノソーマ、プラナリア、ヒドラ、およびマウスを含むいくつかの脊椎動物種において特異的遺伝子の発現をノックダウンするために適用され成功している。
【0102】
「RNA干渉(RNAi)」は、siRNAによって開始される配列特異的な転写後遺伝子沈黙化のプロセスである。RNAiはショウジョウバエ(Drosophila)、線虫、真菌および植物のような多くの生物において認められ、抗ウイルス防御、トランスポゾン活性の調整、および遺伝子発現の調節に関係していると考えられている。RNAiの際に、siRNAは、標的mRNAの分解を誘導し、その後、配列特異的遺伝子発現阻害を誘導する。
【0103】
「低分子干渉」または「短い干渉RNA」、またはsiRNAは、関心対象遺伝子にターゲティングされるヌクレオチドのRNA二本鎖である。「RNA二本鎖」は、RNA分子の2つの領域間の相補的対形成によって形成される構造を指す。siRNAは、siRNAの二本鎖部分のヌクレオチド配列が標的遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であるという点において遺伝子に「ターゲティング」される。いくつかの態様において、siRNAの二本鎖の長さは30ヌクレオチド未満である。いくつかの態様において、二本鎖は長さが29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、または10ヌクレオチドとなりうる。いくつかの態様において、二本鎖の長さは19〜25ヌクレオチドである。siRNAのRNA二本鎖部分は、ヘアピン構造の一部となりうる。二本鎖部分のほかに、ヘアピン構造は、二本鎖を形成する2つの配列のあいだに位置するループ部分を含有してもよい。ループの長さは異なりうる。いくつかの態様において、ループは長さが5、6、7、8、9、10、11、12、または13ヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3'または5'オーバーハング部分を含有してもよい。いくつかの態様において、オーバーハングは、3'または5'オーバーハングであり、長さが0、1、2、3、4、または5ヌクレオチドである。
【0104】
さらに、本明細書において用いられる「低分子干渉RNA」、「siRNA」、「低分子干渉核酸分子」、「低分子干渉オリゴヌクレオチド分子」、または「化学改変低分子干渉核酸分子」という用語は、たとえばRNA干渉「RNAi」または遺伝子沈黙化を配列特異的に媒介することによって、遺伝子発現またはウイルス複製を阻害またはダウンレギュレートすることができる任意の核酸分子を指す。たとえば、Zamore et al., 2000, Cell, 101, 25-33;Bass, 2001, Nature, 411, 428-429;Elbashir et al., 2001, Nature, 411, 494-498;およびKreutzer et al., PCT国際公開番号WO 00/44895;Zernicka-Goetz et al., PCT国際公開番号WO 01/36646;Fire, PCT国際公開番号WO 99/32619;Plaetinck et al., PCT国際公開番号WO 00/01846;Mello and Fire, PCT国際公開番号WO 01/29058;Deschamps-Depaillette, PCT国際公開番号WO 99/07409;およびLi et al., PCT国際公開番号WO 00/44914;Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819;Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837;Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237;Hutvagner and Zamore, 2002, Science, 297, 2056-60;McManus et al., 2002, RNA, 8, 842-850;Reinhart et al., 2002, Gene & Dev., 16, 1616- 1626;およびReinhart & Bartel, 2002, Science, 297, 1831を参照されたい。本発明のsiRNA分子の非制限的な例を、本明細書の図18〜20および表1に示す。たとえば、siRNAは自己相補的センスおよびアンチセンス領域を含む二本鎖ポリヌクレオチド分子となりえて、アンチセンス領域は標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有する。siRNAは、異なる2つのオリゴヌクレオチドから組み立てることができ、1つの鎖はセンス鎖であり、もう1つはアンチセンス鎖であり、アンチセンス鎖とセンス鎖は自己相補的である(すなわち、それぞれの鎖は、アンチセンス鎖とセンス鎖とが二重らせんまたは二本鎖構造を形成する場合のように、他方の鎖におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む、たとえば二本鎖領域は約19塩基対である);アンチセンス鎖は、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス鎖は標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を含む。または、siRNAは1つのオリゴヌクレオチドから組み立てられ、この場合siRNAの自己相補的センスおよびアンチセンス領域は、核酸に基づくまたは非核酸に基づくリンカーによって連結される。siRNAは、二重らせん、非対称二重らせん、ヘアピン、または非対称ヘアピン二次構造を有し、自己相補的センスおよびアンチセンス領域を有するポリヌクレオチドとなりえて、アンチセンス領域は、異なる標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域は、標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有する。siRNAは、アンチセンス領域が標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含み、センス領域が標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列を有し、環状ポリヌクレオチドがインビボまたはインビトロのいずれかで処理されて、RNAiを媒介することができる活性なsiRNA分子を生成する、2つまたはそれより多いループ構造と、自己相補的なセンスおよびアンチセンス領域を含む幹部分を有する環状の一本鎖ポリヌクレオチドとなりうる。siRNAはまた、標的核酸分子またはその一部におけるヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドを含みえて(たとえば、そのようなsiRNA分子は、siRNA分子内に標的核酸配列またはその一部に対応するヌクレオチド配列の存在を必要としない)、一本鎖ポリヌクレオチドはさらに、5'ホスフェート(Martinez et al., 2002, Cell., 110, 563-574、およびSchwarz et al., 2002, Molecular Cell, 10, 537-568を参照されたい)、または5', 3'-ジホスフェートのような末端のリン酸基を含みうる。一定の態様において、本発明のsiRNA分子は、異なるセンスおよびアンチセンス配列または領域を含み、センスおよびアンチセンス領域は、当技術分野において公知であるようにヌクレオチドまたは非ヌクレオチドリンカー分子によって共有的に連結されるか、またはイオン相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用、および/またはスタッキング相互作用によって非共有的に連結される。一定の態様において、本発明のsiRNA分子は、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相補的であるヌクレオチド配列を含む。もう1つの態様において、本発明のsiRNA分子は標的遺伝子の発現の阻害を引き起こすように、標的遺伝子のヌクレオチド配列と相互作用する。本明細書において用いられるように、siRNA分子は、RNAのみを含む分子に限定される必要はないが、化学改変ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドをさらに含む。一定の態様において、本発明の低分子干渉核酸分子は、2'-ヒドロキシ(2'-OH)含有ヌクレオチドを欠損する。任意で、siRNA分子はヌクレオチド位置の約5、10、20、30、40、または50%でリボヌクレオチドを含みうる。本発明の改変低分子干渉核酸分子は、低分子改変オリゴヌクレオチド「siMON」とも呼ばれうる。本明細書において用いられるように、siRNAという用語は、配列特異的RNAiを媒介することができる核酸分子、たとえば低分子干渉RNA(siRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ミクロ-RNA(miRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、低分子干渉オリゴヌクレオチド、低分子干渉核酸、低分子干渉改変オリゴヌクレオチド、化学改変siRNA、転写後遺伝子沈黙化RNA(ptgsRNA)、およびその他を記述するために用いられる他の用語と同等であることを意味する。さらに、本明細書において用いられるように、RNAiという用語は、転写後遺伝子沈黙化、翻訳後阻害、または後成学のような配列特異的RNA干渉を記述するために用いられる他の用語と同等であることを意味する。たとえば、本発明のsiRNA分子は、転写後レベルまたは転写前レベルの双方で遺伝子を後成学的に沈黙化させるために用いることができる。非制限的な例において、本発明のsiRNA分子による遺伝子発現の後成学的調節は、遺伝子発現を変更させるための染色質構造のsiRNA媒介改変に起因しうる(たとえば、Verdel et al., 2004, Science, 303, 672-676;Pal-Bhadra et al., 2004, Science, 303, 669-672;Allshire, 2002, Science, 297, 1818-1819;Volpe et al., 2002, Science, 297, 1833-1837;Jenuwein, 2002, Science, 297, 2215-2218;およびHall et al., 2002, Science, 297, 2232-2237を参照されたい)。
【0105】
siRNAは、核酸配列によってコードされえて、核酸配列にはまた、プロモーターが含まれうる。核酸配列にはまた、ポリアデニル化シグナルが含まれうる。いくつかの態様において、ポリアデニル化シグナルは合成最小ポリアデニル化シグナルである。
【0106】
本発明のsiRNA分子の合成
本発明の一定のsiRNA分子を含むRNAのために用いられる合成法は、Usman et al., 1987, J. Am. Chem. Soc., 109, 7845;Scaringe et al., 1990, Nucleic Acids Res., 18, 5433;およびWincott et al., 1995, Nucleic Acids Res. 23, 2677-2684 Wincott et al., 1997, Methods Mol. Bio., 74, 59において記述される技法に従い、5'末端でジメトキシトリチルおよび3'末端でホスホルアミダイトのような共通の核酸保護およびカップリング基を利用する。非制限的な例において、0.2μmolスケールのプロトコールを用いてアルキルシリル保護ヌクレオチドに関して7.5分のカップリング段階で、および2'-O-メチル化ヌクレオチドに関して2.5分のカップリング段階で、小規模合成を394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーにおいて行う。または、0.2μmol規模での合成を、Protogene (Palo Alto, Calif.)によって製造された機器のような96ウェルプレートシンセサイザーにおいてサイクルに最少の改変を加えて行うことができる。2'-O-メチルホスホルアミダイトの33倍過剰量(0.11 Mを60μl=15μmol)、およびS-エチルテトラゾールの75倍過剰量(0.25 Mを60μl=15μmol)を、ポリマー結合5'-ヒドロキシルに対して2'-O-メチル残基のそれぞれのカップリングサイクルにおいて用いることができる。アルキルシリル(リボ)保護ホスホルアミダイトの66倍過剰量(0.11 Mを120μl=13.2μmol)およびS-エチルテトラゾールの150倍過剰量(0.25 Mを120μl=30μmol)をポリマー結合5'-ヒドロキシルに対してリボ残基のそれぞれのカップリングサイクルにおいて用いることができる。トリチル分画の比色定量によって決定された394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーでの平均カップリング収率は典型的に、97.5〜99%である。394 Applied Biosystems, Inc.シンセサイザーに関する他のオリゴヌクレオチド合成試薬には、以下が含まれる:脱トリチル化溶液は3%TCAの塩化メチレン溶液(ABI)である;キャッピングは、16%N-メチルイミダゾールのTHF溶液(ABI)および10%無水酢酸/10%2,6-ルチジンのTBF溶液(ABI)によって行う;酸化溶液は、THF(PERSEPTIVE(商標))における16.9 mM I2、49 mMピリジン、9%水である。Burdick & Jackson合成等級アセトニトリルを試薬瓶から直接使用する。S-エチルテトラゾール溶液(アセトニトリルにおいて0.25 M)は、American International Chemical, Inc.から得た固体から作製する。または、ホスホロチオテート連結を導入するために、ビューケージ試薬(0.05 Mアセトニトリルにおいて3H-1,2-ベンゾジチオル-3-オン1,1-ジオキシド)を用いる。
【0107】
RNAの脱保護は、2-ポットまたは1-ポットプロトコールのいずれかを用いて行われる。2-ポットプロトコールの場合、ポリマー結合トリチル-オンオリゴリボヌクレオチドを4 mlガラススクリュートップバイアルに移して、40%メチルアミン水溶液(1 ml)において65℃で10分間懸濁する。-20℃に冷却後、上清をポリマー支持体から除去する。支持体をEtOH:MeCN:H2O/3:1:1 1.0 mlによって3回洗浄して撹拌し、上清を第一の上清に加える。オリゴリボヌクレオチドを含む併せた上清を乾燥させると白色粉末が得られる。塩基脱保護オリゴリボヌクレオチドを無水TEA/HF/NMP溶液(N-メチルピロリジノン1.5 ml、TEA 750μl、およびTEA.3HF 1 mlの溶液300μlは1.4 M HF濃度を提供する)に懸濁して、65℃に加熱する。1.5時間後、オリゴマーの反応を1.5 M NH4HCO3によって停止させる。
【0108】
または、1-ポットプロトコールの場合、ポリマー結合トリチル-オンオリゴリボヌクレオチドを4 mlガラススクリュートップバイアルに移して、33%エタノールメチルアミン/DMSO:1/1(0.8 ml)の溶液に65℃で15分間懸濁する。バイアルを室温にしてTEA.3HF(0.1 ml)を加えて、バイアルを65℃で15分間加熱する。試料を-20℃で冷却した後1.5 M NH4HCO3によって反応を停止させる。
【0109】
トリチル-オンオリゴマーの精製に関して、反応を停止させたNH4HCO3溶液を、アセトニトリルの後に50 mM TEAAによって予め洗浄しておいたC-18含有カートリッジにローディングする。ロードしたカートリッジを水で洗浄後、RNAを0.5%TFAによって13分間脱トリチル化する。次にカートリッジを再度水で洗浄して、1 M NaClによって塩を交換して再度水で洗浄する。次にオリゴヌクレオチドを30%アセトニトリルによって溶出する。
【0110】
段階的カップリング収率の平均値は典型的に>98%である(Wincott et al., 1995 Nucleic Acids Res.23, 2677-2684)。当業者は、合成の規模を、96ウェルフォーマットが含まれるがこれらに限定されるわけではない先に記述した実施例より大きくまたは小さくなるように適合させることができると認識するであろう。
【0111】
または、本発明の核酸分子は、個別に合成して、合成後に、たとえばライゲーション(Moore et al., 1992, Science 256, 9923; Draper et al., PCT国際公開番号WO 93/23569;Shabarova et al., 1991, Nucleic Acids Research 19, 4247;Bellon et al., 1997, Nucleosides & Nucleotides, 16, 951;Bellon et al., 1997, Bioconjugate Chem. 8, 204)によって、または合成および/または脱保護後のハイブリダイゼーションによって接合することができる。
【0112】
改変塩基と共に天然に存在する塩基であるシトシン、ウラシル、アデノシン、およびグアノシンを含めることは、該改変塩基を含有するsiRNA分子に有利な特性を付与する可能性があることは当業者に明らかであろう。たとえば、改変塩基は、siRNA分子の安定性を増加させて、それによって所望の効果を生じるために必要な量を低減させる可能性がある。改変塩基の提供はまた、多かれ少なかれ安定であるsiRNA分子を提供する可能性がある。
【0113】
「改変ヌクレオチド塩基」という用語は、共有的に改変された塩基および/または糖を有するヌクレオチドを包含する。たとえば、改変ヌクレオチドには、3'位でのヒドロキシル基以外の、および5'位でホスフェート基以外の低分子量有機基に共有的に付着させた糖を有するヌクレオチドが含まれる。このように、改変ヌクレオチドにはまた、2'-O-メチル;2-O-アルキル;2-O-アリル;2'-S-アルキル;2'-S-アリル;2'-フルオロ;2'-ハロ、または2;アジド-リボースのような2'置換糖、炭素環糖類似体a-アノマー糖;アラビノース、キシロース、またはリキソースのようなエピマー糖、ピラノース糖、フラノース糖、およびセドヘプツロースが含まれてもよい。
【0114】
改変糖は当技術分野において公知であり、これには例としてしかし制限的ではない以下が含まれる:アルキル化プリンおよび/またはピリミジン;アシル化プリンおよび/またはピリミジン;または他の複素環。これらのクラスのピリミジンおよびプリンは当技術分野において公知であり、これには、シュードシトシン;N4,N4-エタノシトシン;8-ヒドロキシ-N6-メチルアデニン;4-アセチルシトシン、5-(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル;5-フルオロウラシル;5-ブロモウラシル;5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウラシル;5-カルボキシメチルアミノメチルウラシル;ジヒドロウラシル;イノシン;N6-イソペンチル-アデニン;1-メチルアデニン;1-メチルシュードウラシル;1-メチルグアニン;2,2-ジメチルグアニン;2-メチルアデニン;2-メチルグアニン;3-メチルシトシン;5-メチルシトシン;N6-メチルアデニン;7-メチルグアニン;5-メチルアミノメチルウラシル;5-メトキシアミノメチル-2-チオウラシル;β-D-マンノシルケオシン;5-メトキシカルボニルメチルウラシル;5-メトキシウラシル;2-メチルチオ-N-6-イソペンテニルアデニン;ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル;シュードウラシル;2-チオシトシン;5-メチル-2-チオウラシル;2-チオウラシル;4-チオウラシル;5-メチルウラシル;N-ウラシル-5-オキシ酢酸メチルエステル;ウラシル-5-オキシ酢酸;ケオシン;2-チオシトシン;5-プロピルウラシル;5-プロピルシトシン;5-エチルウラシル;5-エチルシトシン;5-ブチルウラシル;5-ペンチルウラシル;5-ペンチルシトシン;および2,6-ジアミノプリン;メチルシュードウラシル;1-メチルグアニン;1-メチルシトシンが含まれる。
【0115】
本発明のsiRNA分子は、通常のホスホジエステル連結ヌクレオチドを用いて合成することができ、および当技術分野において公知の標準的な固相または液相合成技術を用いて合成することができる。ヌクレオチド間の連結は、もう1つの連結分子を用いてもよい。たとえば、RがH(またはその塩)であるかアルキル(1-12C)であって、R6がアルキル(1-9C)である、式P(O)S、(チオエート);P(S)S、(ジチオエート);P(O)NR12;P(O)R';P(O)OR6;CO;またはCONR12の連結基を、--O--または--S--を通して隣接するヌクレオチドに接合する。
【0116】
本発明のsiRNA分子の投与
本発明のsiRNA分子は、任意のPirB関連疾患または障害、および細胞または組織における遺伝子産物レベルに反応することができる他の適応を処置するために、単独または他の治療と併用して用いるように適合させることができる。そのような疾患および状態の非制限的な例には、神経系の欠損として定義される疾患および状態、先に記述した障害および疾患、ならびに細胞または生物において発現された遺伝子産物のレベルに反応することができる任意の他の適応が含まれる(たとえば、McSwiggen、PCT国際公開番号WO 03/74654を参照されたい)。たとえば、siRNA分子は、被験体に投与するためのリポソーム、担体、および希釈剤およびその塩を含む送達媒体を含みえて、および/または薬学的に許容される処方に存在しうる。核酸分子を送達するための方法は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Akhtar et al., 1992, Trends Cell Bio., 2, 139;Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics, ed. Akhtar, 1995, Maurer et al., 1999, Mol. Membr. Biol., 16, 129-140;Hofland and Huang, 1999, Handb. Exp. Pharmacol., 137, 165-192;およびLee et al., 2000, ACS Symp. Ser., 752, 184-192において記述されている。Beigelman et al., 米国特許第6,395,713号およびSullivan et al., PCT WO 94/02595はさらに、核酸分子を送達するための一般的な方法を記述している。これらのプロトコールは、実質的にいかなる核酸分子の送達にも利用することができる。核酸分子は、リポソームへの封入、イオントフォレーシス、または生体分解性のポリマー、ハイドロゲル、シクロデキストリン(たとえば、Gonzalez et al., 1999, Bioconjugate Chem., 10, 1068-1074;Wang et al., PCT国際公開番号WO 03/47518およびWO 03/46185を参照されたい)、ポリ(乳酸-コグリコール酸)(PLGA)およびPLCAミクロスフェア(たとえば米国特許第6,447,796号および米国特許出願第2002130430号を参照されたい)、生体分解性のナノカプセル、および生体接着性のミクロスフェアのような他の媒体への組み込み、またはタンパク質様ベクター(O'Hare and Normand, PCT国際公開番号WO 00/53722)が含まれるがこれらに限定されるわけではない当業者に公知の多様な方法によって、細胞に投与することができる。1つの態様において、本発明の核酸分子は、弾性の形状記憶ポリマーのような生体分解性のインプラント材料によって投与される(たとえば、Lendelein and Langer, 2002, Science, 296, 1673を参照されたい)。もう1つの態様において、本発明の核酸分子はまた、ポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-GAL)、またはポリエチレンイミン-ポリエチレングリコール-トリ-N-アセチルガラクトサミン(PEI-PEG-triGAL)誘導体のようなポリエチレンイミンおよびその誘導体と共に処方するまたは複合体を形成することができる。または、核酸/媒体の組み合わせは、直接注射または注入ポンプを用いることによって局所送達される。本発明の核酸分子の直接注射は、皮下、筋肉内、または皮内であれ、標準的な針およびシリンジの方法論を用いて、またはConry et al., 1999, Clin. Cancer Res., 5, 2330-2337およびBarry et al., PCT国際公開番号WO 99/31262において記述される技術のような針を使用しない技術によって行うことができる。当技術分野における多くの例は、浸透圧ポンプ(Chun et al., 1998, Neuroscience Letters, 257, 135-138, D'Aldin et al., 1998, Mol. Brain Research, 55, 151- 164, Dryden et al., 1998, J. Endocrinol., 157, 169-175, Ghimikar et al., 1998, Neuroscience Letters, 247, 21-24を参照されたい)、または直接注入(Broaddus et al., 1997, Neurosurg. Focus, 3, article 4)によるオリゴヌクレオチドのCNS送達法を記述している。他の送達経路には、経口(錠剤または丸剤型)および/または鞘内送達(Gold, 1997, Neuroscience, 16, 1153-1158)が含まれるがこれらに限定されるわけではない。核酸の送達および投与に関するより詳細な記述は、その全てが参照により本明細書に組み入れられる、Sullivan et al.、前記、Draper et al., PCT WO93/23569、Beigelman et al., PCT WO99/05094、およびKlimuk et al., PCT W099/04819において提供される。本発明の分子は薬剤として用いることができる。薬剤は、被験体における病態の発生を防止、調節、または処置(症状をある程度、好ましくは症状の全てを緩和する)する。
【0117】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、その図面を含む全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許出願第20010007666号において記述される物質のような膜崩壊物質と複合体を形成する。もう1つの態様において、膜崩壊物質または複数の物質とsiRNA分子とは、その図面を含む全内容物が参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第6,235,310号において記述される脂質のような、陽イオン脂質またはヘルパー脂質分子と複合体を形成する。
【0118】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、ポリエチレンイミン(たとえば、直鎖または分岐鎖PEI)および/またはそのガラクトースPEI、コレステロールPEI、抗体誘導体化PEI、およびポリエチレングリコールPEI(PEG-PEI)誘導体のような移植PEIを含むポリエチレンイミン誘導体(たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Ogris et al., 2001, AAPA PharmSci, 3, 1-11;Furgeson et al., 2003, Bioconjugate Chem., 14, 840-847; Kunath et al., 2002, Phramaceutical Research, 19, 810-817; Choi et al., 2001, Bull. Korean Chem. Soc, 22, 46-52; Bettinger et al., 1999, Bioconjugate Chem., 10, 558-561; Peterson et al., 2002, Bioconjugate Chem., 13, 845- 854; Erbacher et al., 1999, Journal of Gene Medicine Preprint, 1, 1-18; Godbey et al., 1999., PNAS USA, 96, 5177-5181; Godbey et al., 1999, Journal of Controlled Release, 60, 149-160; Diebold et al., 1999, Journal of Biological Chemistry, 274, 19087-19094; Thomas and Klibanov, 2002, PNAS USA, 99, 14640-14645; and Sagara, 米国特許第6,586,524号を参照されたい)と共に処方される、または複合体を形成する。
【0119】
1つの態様において、本発明のsiRNA分子は、生体共役体、たとえば、全て参照により本明細書に組み入れられる、Vargeese et al., 2003年4月30日に提出された米国特許出願第10/427,160号;米国特許第6,528,631号;米国特許第6,335,434号;米国特許第6,235,886号;米国特許第6,153,737号;米国特許第5,214,136号;米国特許第5,138,045号において記述される核酸共役体を含む。
【0120】
このように、本発明は、安定化剤、緩衝剤等のような許容される担体において本発明の1つまたは複数の核酸を含む薬学的組成物を特徴とする。本発明のポリヌクレオチドは、薬学的組成物を形成するために、任意の標準的な手段によって、安定化剤、緩衝剤等と共に、またはそれらの非存在下で被験体に投与(たとえば、RNA、DNA、またはタンパク質)および導入されうる。リポソーム送達メカニズムを用いることが望ましい場合、リポソームを形成するための標準的なプロトコールに従うことができる。本発明の組成物はまた、経口投与のための錠剤、カプセル剤、エリキシル剤として、直腸内投与のための坐剤として、注射投与のための滅菌溶液、懸濁液として、および当技術分野で公知の他の組成物として、処方され、用いることができる。
【0121】
本発明にはまた、望ましい化合物の薬学的に許容される処方が含まれる。これらの処方には、上記の化合物の塩、たとえば酸付加塩、たとえば塩酸、臭化水素酸、酢酸、およびベンゼンスルホン酸の塩が含まれる。
【0122】
薬理学的組成物または処方は、細胞、またはたとえばヒトを含む被験体に投与するために、たとえば全身投与するために適した剤形の組成物または処方を指す。適した剤形は、部分的に流入経路、たとえば経口、経皮、または注射に依存する。そのような剤形は組成物または処方が標的細胞(すなわち、陰性荷電核酸が送達にとって望ましい細胞)に達することを防止してはならない。たとえば、血流に注射された薬理学的組成物は溶解性でなければならない。他の要因は当技術分野において公知であり、これには、毒性および組成物または処方がその効果を発揮することを防止する剤形のような検討が含まれる。
【0123】
「全身投与」とは、血流における薬物のインビボ全身性の吸収または蓄積の後に全身への分布を意味する。全身吸収に至る投与経路には、以下が含まれるがこれらに限定されるわけではない:静脈内、皮下、腹腔内、吸入、経口、肺内、および筋肉内。これらの投与経路のそれぞれは、許容される疾患組織に対して本発明のsiRNA分子を曝露する。循環への薬物の流入速度は、分子量または大きさの関数であることが示されている。本発明の化合物を含むリポソームまたは他の薬物担体を用いることは、たとえば細網内皮系(RES)の組織のような、一定の組織タイプにおそらく薬剤を局在させることができる。リンパ球およびマクロファージのような細胞表面と薬物との会合を促進することができるリポソーム処方も同様に有用である。このアプローチは、癌細胞のような、異常な細胞のマクロファージおよびリンパ球免疫認識の特異性を利用することによって標的細胞に対する薬物の送達の増強を提供することができる。
【0124】
「薬学的に許容される処方」は、その所望の活性にとって最も適した物理的位置で本発明の核酸分子の有効な分布を可能にする組成物または処方を意味する。本発明の核酸分子と共に処方するために適した物質の非制限的な例には:CNSへの薬物の流入を増強することができるP-糖タンパク質阻害剤(Pluronic P85のような)(Jolliet-Riant and Tillement, 1999, Fundam. Clin. Pharmacol., 13, 16-26);脳内埋め込み後の持続的な放出送達のためのポリ(DL-ラクチド-コグリコリド)ミクロスフェア(Emerich, D F et al, 1999, Cell Transplant, 8, 47-58)(Alkermes, Inc. Cambridge, Mass.)のような生体分解性のポリマー;および血液脳関門を超えて薬物を送達させることができ、ニューロン取り込みメカニズムを変更させることができる、ポリブチルシアノアクリレートで作製された粒子のような、ロードされたナノ粒子(Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry, 23, 941-949, 1999)が含まれる。本発明の核酸分子に関する送達戦略の他の非制限的な例には、Boado et al., 1998, J. Pharm. Sci, 87, 1308-1315;Tyler et al., 1999, FEBS Lett., 421, 280-284;Pardridge et al., 1995, PNAS USA., 92, 5592-5596;Boado, 1995, Adv. Drug Delivery Rev., 15, 73-107;Aldrian-Herrada et al., 1998, Nucleic Acids Res., 26, 4910-4916;およびTyler et al., 1999, PNAS USA., 96, 7053-7058において記述される材料が含まれる。
【0125】
本発明はまた、ポリ(エチレングリコール)脂質(PEG改変または長時間循環型リポソーム、またはステルスリポソーム)を含有する表面改変リポソームを含む組成物を用いることを特徴とする。これらの処方は、標的組織における薬物の蓄積を増加させるための方法を提供する。このクラスの薬物担体は、オプソニン化および単核球貪食系(MPSまたはRES)による消失に耐え、それによって封入された薬物のより長い血液循環時間および増強された組織曝露を可能にする(Lasic et al. Chem. Rev. 1995, 95, 2601-2627;Ishiwata et al., Chem. Pharm. Bull. 1995, 43, 1005-1011)。そのようなリポソームは、おそらく新生血管標的組織における滲出および捕獲によって、腫瘍において選択的に蓄積することが示されている(Lasic et al., Science 1995, 267, 1275-1276;Oku et al., 1995, Biochim. Biophys. Acta, 1238, 86-90)。長時間循環型リポソームは、特に、MPSの組織に蓄積することが知られている従来の陽イオンリポソームと比較した場合に、DNAおよびRNAの薬物動態および薬力学を増強する(Liu et al., J. Biol. Chem. 1995, 42, 24864-24870;Choi et al., PCT国際公開番号WO 96/10391;Ansell et al., PCT国際公開番号WO 96/10390;Holland et al., PCT国際公開番号WO 96/10392)。長時間循環型リポソームはまた、肝臓および脾臓のような代謝的に攻撃的なMPS組織における蓄積を回避できる能力に基づいて、陽イオンリポソームと比較して大きい程度にヌクレアーゼ分解から薬物を保護する可能性がある。
【0126】
本発明にはまた、薬学的に許容される担体または希釈剤において所望の化合物の薬学的有効量が含まれる、保存または投与のために調製された組成物が含まれる。治療的に用いるための許容される担体または希釈剤は薬学技術分野において周知であり、たとえば、参照により本明細書に組み入れられる、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co. (A. R. Gennaro edit. 1985)において記述されている。たとえば、保存剤、安定化剤、色素、および着香料が提供されうる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸エステルが含まれる。さらに、抗酸化剤および懸濁剤を用いることができる。
【0127】
薬学的有効量は、疾患状態の発生を予防、阻害、または処置する(症状をある程度、好ましくは症状の全てを緩和する)ために必要な用量である。薬学的有効量は、疾患のタイプ、用いる組成物、投与経路、処置される哺乳動物のタイプ、検討される特異的哺乳動物の身体的特徴、同時投薬、および当業者が認識するであろう他の要因に依存する。一般的に、活性成分の0.1 mg/kg〜100 mg/kg体重/日の量が、陰性荷電ポリマーの効力に依存して投与される。
【0128】
本発明の核酸分子およびその処方は、従来の非毒性の薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または媒体を含有する単位投与処方において、経口、局所、非経口、吸入もしくはスプレーによって、または直腸内に投与することができる。本明細書において用いられる非経口という用語には、経皮、皮下、血管内(たとえば、静脈内)、筋肉内、または鞘内の注射または注入技術等が含まれる。さらに、本発明の核酸分子と薬学的に許容される担体とを含む薬学的処方が提供される。本発明の1つまたは複数の核酸分子は、1つまたは複数の非毒性の薬学的に許容される担体および/または希釈剤および/またはアジュバント、および望ましければ他の活性成分と会合して存在しうる。本発明の核酸分子を含有する薬学的組成物は、経口での使用に適した剤形、たとえば錠剤、トローチ、ロゼンジ、水性もしくは油性懸濁液、分散型粉末もしくは顆粒剤、乳剤、硬もしくは軟カプセル、またはシロップもしくはエリキシル剤となりうる。
【0129】
経口での使用が意図される組成物は、当技術分野で公知の任意の方法に従って調製することができ、そのような組成物は、薬学的に洗練された味のよい調製物を提供するために、1つまたは複数のそのような甘味料、着香料、着色料、または保存物質を含みうる。錠剤は、錠剤を製造するために適した非毒性の薬学的に許容される賦形剤と混合して活性成分を含有する。これらの賦形剤は、たとえば炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、またはリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤;造粒および崩壊剤、たとえばコーンスターチおよびアルギン酸;結合剤、たとえばデンプン、ゼラチン、またはアカシア;および潤滑剤、たとえばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、またはタルクとなりうる。錠剤は非コーティングとなりえて、またはそれらを公知の技術によってコーティングすることができる。いくつかの場合において、そのようなコーティングは、消化管における崩壊および吸収を遅らせて、それによって長期間にわたって持続的な作用を提供するために公知の技術によって調製することができる。たとえば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルのような時間遅延物質を用いることができる。
【0130】
経口で使用するための処方はまた、活性成分が不活性な固体希釈剤、たとえば炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、もしくはカオリンと混合される、硬ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水もしくは油性媒体、たとえば落花生油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油と混合される、軟ゼラチンカプセルとして表されうる。
【0131】
水性懸濁液は水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物において活性材料を含有する。そのような賦形剤は、懸濁剤、たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム、およびアカシアゴムであり;分散剤または湿潤剤は、天然に存在するホスファチド、たとえばレシチン、アルキレンオキシドと脂肪酸との縮合産物、たとえばステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合産物、たとえばヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトールのような、エチレンオキシドと、脂肪酸とヘキシトールに由来する部分的エステルとの縮合産物、エチレンオキシドと、脂肪酸および無水ヘキシトールに由来する部分的エステルとの縮合産物、たとえばモノオレイン酸ポリエチレンソルビタンとなりうる。水性懸濁剤はまた、1つまたは複数の保存剤、たとえばエチルもしくはn-プロピルp-ヒドロキシベンゾエート、1つまたは複数の着色剤、1つまたは複数の着香料、および蔗糖またはサッカリンのような1つまたは複数の甘味料を含有しうる。
【0132】
油性懸濁剤は、活性成分を植物油、たとえば落花生油、オリーブ油、ゴマ油、もしくはココナツ油に、または液体パラフィンのような鉱油に懸濁させることによって処方されうる。油性懸濁剤は、濃化剤、たとえば蜜ロウ、硬パラフィンまたはセチルアルコールを含有しうる。味のよい経口調製物を提供するために、甘味料および着香料を加えることができる。これらの組成物は、アスコルビン酸のような抗酸化剤を加えることによって保存することができる。
【0133】
水を加えることによって水性懸濁液を調製するために適した分散性粉剤および顆粒剤は、分散剤または湿潤剤、懸濁剤および1つまたは複数の保存剤と混合して活性成分を提供する。適した分散もしくは湿潤剤または懸濁剤は、上記で既に言及した物質によって例示される。さらなる賦形剤、たとえば甘味料、着香料、および着色料も同様に存在しうる。
【0134】
本発明の薬学的組成物は、水中油型乳剤の剤形となりうる。油性基剤は植物油もしくは鉱油、またはこれらの混合物となりうる。適した乳化剤は、天然に存在するゴム、たとえばアカシアゴムおよびトラガカントゴム、天然に存在するホスファチド、たとえばダイズ、レシチン、および脂肪酸と無水ヘキシトールに由来するエステルまたは部分的エステル、たとえばモノオレイン酸ソルビタン、該部分的エステルとエチレンオキシドとの縮合産物、たとえばモノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタンとなりうる。乳剤はまた、甘味料および着香料を含有しうる。
【0135】
シロップおよびエリキシル剤を甘味料、たとえばグリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール、グルコース、または蔗糖と共に処方することができる。そのような処方はまた、粘滑剤、保存剤、着香料および着色料を含有しうる。薬学的組成物は、滅菌注射型水性または油性懸濁液の剤形となりうる。この懸濁液は、先に言及した適した分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて、公知の技術に従って処方されうる。滅菌注射用調製物も同様に、たとえば1,3-ブタンジオール溶液として非毒性の非経口の許容される希釈剤または溶媒における滅菌注射用溶液または懸濁液となりうる。用いることができる許容される媒体および溶媒は、水、リンゲル液、および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌の固定油が溶媒または懸濁培地としても通常用いられる。この目的に関して、合成モノまたはジグリセリドを含む任意の刺激性の低い固定油を用いることができる。さらに、オレイン酸のような脂肪酸は注射剤の調製において有用である。
【0136】
本発明の核酸分子はまた、坐剤の剤形で、たとえば薬物の直腸内投与のために投与することができる。これらの組成物は、通常の温度では固体であるが直腸温度で液体であり、したがって直腸内で融解して薬物を放出する、適した非刺激性の賦形剤と共に薬物を混合することによって調製されうる。そのような材料には、ココアバターおよびポリエチレングリコールが含まれる。
【0137】
本発明の核酸分子は、滅菌培地において非経口投与することができる。用いる媒体および濃度に応じて、薬物を、媒体に懸濁または溶解させることができる。都合がよいことに、局所麻酔剤、保存剤、および緩衝剤のような補助物質を媒体に溶解することができる。
【0138】
上記の状態の処置において、約0.1 mg〜約140 mg/kg体重/日の次数の用量レベルが有用である(約0.5 mg〜約7 g/被験体/日)。1つの投与剤形を産生するために担体材料と混合することができる活性成分の量は、処置される宿主および特定の投与様式に応じて変化する。単位投与剤形は一般的に、活性成分約1 mg〜約500 mgを含有する。
【0139】
任意の特定の被験体に関する特異的用量レベルは、用いる特異的化合物の活性、年齢、体重、全身健康、性別、食事、投与時間、投与経路、排泄速度、薬物の併用、および治療を受ける特定の疾患の重症度を含む多様な要因に依存する。
【0140】
非ヒト動物に投与する場合、組成物を動物の飼料または飲料水に加えることができる。動物がその飼料と共に治療的適当量の組成物を摂取するように、動物飼料および飲料水組成物を処方することは簡便となりうる。同様に、飼料または飲料水に加える前のプレミクスとして組成物を提示することも簡便となりうる。
【0141】
本発明の核酸分子はまた、全体的な治療効果を増加させるために他の治療化合物と併用して被験体に投与することができる。適応を処置するために多数の化合物を用いることは、副作用の存在を低減させながら有益な効果を増加させることができる。
【0142】
キット
本発明は、単独で、または試験試料もしくは被験体にインビトロもしくはインビボでRNAの導入を行うために必要な試薬の少なくとも1つを有するキットの成分として用いることができる。たとえば、キットの好ましい成分には、本発明のsiRNA分子と、本明細書において記述される関心対象細胞へのsiRNAの導入を促進する媒体とが含まれる(たとえば、脂質および当技術分野において公知の他のトランスフェクション法を用いて、たとえばBeigelman et al, 米国特許第6.395,713号を参照されたい)。キットは、遺伝子機能および/または活性の決定、または薬物の最適化、および薬物発見の場合のような、標的のバリデーションのために用いることができる(たとえば、Usman et al., U.S. Ser. No. 60/402,996を参照されたい)。そのようなキットには、キットのユーザーに本発明を実践させるための説明書が含まれうる。
【0143】
低分子およびペプチド模倣体薬学的組成物
先に記述されたように同定され、本発明のPirBアンタゴニスト(同様に本明細書において「活性化合物」と呼ばれる)として作用する低分子およびペプチド模倣化合物を、投与にとって適した薬学的組成物に組み入れることができる。そのような組成物は典型的に、活性化合物と薬学的に許容される担体とを含む。本明細書において用いられるように、「薬学的に許容される担体」という用語には、薬学的投与に適合性の、任意のおよび全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等が含まれると意図される。そのような媒体および物質を薬学的活性物質のために用いることは、当技術分野において周知である。先に考察したように、補助活性物質も同様に、組成物に組み入れることができる。
【0144】
本発明の薬学的組成物は、その意図される投与経路に適合性となるように処方される。投与経路の例には、非経口、たとえば静脈内、皮内、筋肉内、骨内、皮下、経口、鼻腔内、吸入、経皮(局所)、経粘膜、および直腸内投与が含まれるがこれらに限定されるわけではない。非経口、皮内、または皮下適用のために用いられる溶液または懸濁液には、以下の成分が含まれうる:注射用水、生理食塩液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒のような滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸のようなキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩のような緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースのような等張性を調節する物質。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムのような酸または塩基によって調節することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチック製の、アンプル、使い捨てシリンジ、または多用量バイアルに封入することができる。
【0145】
注射での使用に適した薬学的組成物には、滅菌水溶液(水溶液の場合)、または分散液および滅菌注射液もしくは分散液を即時調製するための滅菌粉末が含まれる。静脈内投与の場合、適した担体には、生理食塩液、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF, Parsippany, N.J.)、またはリン酸緩衝生理食塩液(PBS)が含まれる。組成物は好ましくは無菌的であり、容易なシリンジ作動性が存在する程度に流動性でなければならない。組成物は、製造および保存条件で安定でなければならず、細菌および真菌のような微生物の混入作用に対して保存されなければならない。担体は、たとえば、水、エタノール、ポリオール(たとえば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、およびその適した混合物を含有する溶媒または分散培地となりうる。たとえば、レシチンのようなコーティングを用いることによって、分散剤の場合には必要な粒子径を維持することによって、および界面活性剤を用いることによって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤によって、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサル等によって得ることができる。多くの場合において、組成物に等張剤、たとえば糖、マンニトール、ソルビトールのような多価アルコール、塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅らせる物質、たとえばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に含めることによってもたらされうる。
【0146】
滅菌注射液は、活性化合物(たとえば、NeuAcα2-3(6-O-スルホ)Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcβ-O-(CH2)3-NH-CO(CH2)5NH-M、式中Mは水素またはアミド連結である)の治療的有効量または有益な量を、先に列挙した成分の1つまたは組み合わせと共に適当な溶媒に組み入れて、必要に応じて濾過滅菌することによって調製されうる。一般的に、分散液は、基礎分散培地と先に列挙した成分からの必要な他の成分とを含有する滅菌媒体に、活性化合物を組み入れることによって調製される。滅菌注射液を調製するための滅菌粉末の場合、好ましい調製法は、予め濾過滅菌したその溶液から活性成分プラス任意のさらなる望ましい成分の粉末を生じる真空乾燥および凍結乾燥である。
【0147】
経口組成物には一般的に、不活性希釈剤または食用担体が含まれる。適した経口組成物は、たとえばゼラチンカプセルに封入されてもよく、または錠剤に圧縮されてもよい。経口での治療的投与の目的に関して、活性化合物を賦形剤と共に組み入れて、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の剤形で用いることができる。経口組成物はまた、マウスウォッシュとして用いるための液体担体を用いて調製することができ、この場合液体担体における化合物を、口腔内に入れてうがいをして、はき出すまたは飲み込む。薬学的に適合性の結合剤および/またはアジュバント材料を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等は以下の任意の成分または類似の性質の化合物を含有しうる:微晶質セルロース、トラガカントゴム、またはゼラチンのような結合剤;デンプンまたは乳糖のような賦形剤;アルギン酸、Primogel、またはコーンスターチのような崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesのような潤滑剤;コロイド状二酸化ケイ素のようなグライダント;蔗糖またはサッカリンのような甘味料;ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香料のような着香料。
【0148】
吸入投与の場合、化合物は、適した推進剤、たとえばヒドロキシフルオロアルカン(HFA)のような気体、またはネブライザーを含有する加圧容器またはディスペンサーからエアロゾルスプレーの形で送達される。または、鼻腔内調製物は、HFAのような適した推進剤と共に乾燥粉剤を含みうる。
【0149】
全身投与は、経粘膜または経皮手段によっても行うことができる。経粘膜または経皮投与の場合、透過される障壁に対して適当な浸透剤を処方において用いる。そのような浸透剤は一般的に当技術分野において公知であり、たとえば経粘膜投与の場合、洗浄剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔内スプレーまたは坐剤を用いることによって達成されうる。経皮投与の場合、活性化合物を、当技術分野において一般的に公知の軟膏、軟膏剤、ゲル、またはクリームに処方する。
【0150】
化合物はまた、直腸内送達のために、坐剤(たとえば、カカオバターおよび他のグリセリドのような通常の坐剤基剤と共に)または貯留浣腸の形状で調製されうる。
【0151】
1つの態様において、活性化合物は、インプラントおよび微量封入送達系を含む徐放性製剤のような、化合物を全身からの急速な排泄に対して保護するであろう担体と共に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような、生体分解性で生体適合性のポリマーを用いることができる。そのような処方を調製するための方法は、当業者に明らかであろう。材料はまたたとえば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals, Incから購入することができる。リポソーム浮遊液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体と共に感染細胞にターゲティングされるリポソームを含む)もまた、薬学的に許容される担体として用いることができる。これらは、たとえば米国特許第4,522,811号において記述されるように、当業者に公知の方法に従って調製されうる。
【0152】
投与の容易さおよび用量の均一性のために、経口または非経口組成物を単位投与剤形に処方することは特に都合がよい。本明細書において用いられる単位投与剤形は、処置される被験体に関する単位用量として適した物理的に個別の単位を指し;それぞれの単位は、必要な薬学的担体と会合して所望の治療効果を生じるように計算された活性化合物の既定量を含有する。本発明の単位投与剤形の仕様は、活性化合物の独自の特徴、および達成される特定の治療効果、個体の処置のためにそのような活性化合物を合成する当技術分野における固有の限界によって指図され、直接依存する。
【0153】
そのような化合物の毒性および治療効果は、たとえばLD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)の決定に関する、細胞培養または実験動物において標準的な薬学的技法によって決定されうる。毒性効果と治療効果との用量比が治療指数であり、これはLD50/ED50として表記されうる。大きい治療指数を示す化合物が好ましい。毒性の副作用を示す化合物を用いてもよいが、非罹患細胞に対する可能性がある損傷を最小限にして、それによって副作用を低減させるために、罹患組織部位にそのような化合物をターゲティングする送達系を設計するように注意しなければならない。
【0154】
細胞培養アッセイおよび動物試験から得られたデータを、ヒトにおいて用いるための用量範囲を設定するために用いることができる。そのような化合物の用量は好ましくは、ほとんどまたは全く毒性を示さないED50が含まれる循環中の濃度範囲内に存在する。用量は、用いる投与剤形および利用される投与経路に応じてこの範囲内で変化してもよい。本発明の方法において用いられる任意の化合物に関して、治療的有効量は細胞培養アッセイから最初に推定されうる。用量は、細胞培養において決定されたIC50(すなわち症状の半最大阻害を達成する試験化合物の濃度)が含まれる循環中の血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて処方されてもよい。そのような情報を用いてヒトにおける有用な用量をより正確に決定することができる。血清中のレベルは、たとえば高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0155】
薬学的組成物は、投与のための説明書(たとえば、書面)、特にSiglec-8発現細胞に関連する疾患または障害を含む本明細書において開示される障害または疾患に対して処置するために活性物質を用いるためのそのような説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサーに含まれうる。
【0156】
実施例
本発明は、説明目的のためにのみ提供される以下の実施例によってさらに説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されると決して解釈してはならず、むしろ本明細書において提供される教示の結果として明らかになる任意のおよび全ての変化を包含すると解釈すべきである。本明細書を通して引用された全ての参考文献、特許、および公表された特許出願の内容物は、図面と共に参照により本明細書に組み入れられる。以下の非制限的な実施例は本発明の例証である。
【0157】
方法および材料
PirBTMマウスの作製
ゲノムPirBをC57/BL6マウスからPCRによって増幅して、pK-11プラスミド(40)に挿入した。構築物は全て、シークエンシングによって確認した。エキソン5、6、7、8および9を含む3041 bp断片を、プライマーtctgggcccgtcttctggtgaattgtatggおよびgtgtgaatgtcgtgctatggを用いて増幅した。断片をApa1部位によって消化して、LoxPに対して5'のApa1部位にクローニングした。エキソン10、11、12および13を含む1027 bpの断片をプライマーatatgtcgaccagcatgagcctgtcacacおよびatatgtcgacttggccctaaggtttagcacによって増幅して、Sal Iによって切断し、LoxPに対して直ちに3'であって、Frtに対して5'であるSal I部位にクローニングした。エキソン14および15を含む1900 bp断片を、第二のLoxP部位が含まれるプライマーataccgcggataacttcgtataatgtatgctatacgaagttatgggaccatgtttcttccagおよび tatccgcggttaattaattgaacttagtataacagtccによって増幅して、Sac IIによって切断し、Frtに対して3'のSacII部位にクローニングして、図S1において示される構築物を得た。ベクターを129 J1 ES細胞に電気穿孔して、陽性クローンを、構築物の5'および3'末端を表す異なる2つのプローブを用いてPCRおよびサザンハイブリダイゼーションによって同定した。
【0158】
ゲノムDNAを創始マウスから抽出して、トランスジーンをサザンハイブリダイゼーションおよびPCRによって確認した。マウスをCre発現欠失系統(B6.FVB-TgN(EIIa-cre)C5379Lmgd, Jackson)と交雑させて、Creリコンビナーゼを発現させ、エキソン10、11、12、および13が欠失した変異体PirB遺伝子をPCRによって確認した。変異体タンパク質をウェスタンブロッティングによって確認した。ヘテロ接合体の独立した交配10〜15回から得られた子孫を得てWTおよびPirBTMコロニーを作製した。
【0159】
インサイチューハイブリダイゼーション
動物技法は全て、Harvard Medical Schoolの施設内ガイドラインおよび承認されたプロトコールに従って行った。マウスをハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって麻酔して、Euthasol(Delmarva Laboratories)0.1 mlの注射によって安楽死させた。脳を摘出して、M1抱埋マトリクス(Shandon)に入れて、ドライアイス/エタノール浴において凍結した。インサイチューハイブリダイゼーションは、記述されているとおりに(41)行った。脳の凍結切片(12μm)を作製して、空気乾燥させ、リン酸ナトリウム緩衝4%パラホルムアルデヒドにおいて30分間固定して、エタノールにおいて脱水して-80℃で保存した。切片を融解して、プロテナーゼK処理によって透過性にして、アセチル化し、エタノールによって脱水して、[35S] UTP(1250 Ci/mmol)によって標識したリボプローブによって62℃で12〜18時間ハイブリダイズさせた。次に切片を50μg/ml RNアーゼAと共に37℃で30分間インキュベートして、一連のSSC溶液によって洗浄し、0.1×SSCによって60℃で30分間の高ストリンジェンシー洗浄を行った。室温でKodak XAR-5フィルムに露光した後、切片をNTB-2乳剤によってコーティングして2〜4週間後に現像した。PirBプローブを作製するために、PirB mRNAの3'末端をプライマー配列tcggggaaaattcaggaaおよびgagaaatctctagctttatttを用いてRT-PCRによって増幅した。アンチセンスプローブを転写するために、T7結合配列taatacgactcactatagggacを3'プライマーに、またはT7 RNAポリメラーゼを用いてセンス対照プローブを増幅するために5'プライマーに加えた。ArcプローブをPCRによって生成された完全長のArc配列から転写した。
【0160】
抗体
ヤギ抗PirB抗体C19およびA20は、Santa Cruz Biotechnologyから購入した。C19およびA20は、PirBに対して独自のドメインであり、任意の他の公知のマウスタンパク質に対してほとんど相同性を有しないPirBの細胞質ドメインに対して特異的である。ラット6C1抗PirA/BをPharmingenから購入したが、これはPirBおよびPirAタンパク質の細胞外ドメインに対して特異的である。4G10マウス抗ホスホチロシンはUpstate Biotechnologyから購入した。シナプトフィジンモノクローナル抗体SVP38をSigma(St. Louis)から購入した。シナプシンIモノクローナル抗体クローン8をBD Transduction labsから購入した。抗PirB 1477抗体を、PirB細胞質ドメインの一部を表すペプチド
によってウサギを免疫することによって生成した。ウサギ抗Shp-2およびマウス抗Shp-1はSanta Cruz Biotechnologyから購入した。
【0161】
免疫染色
マウスをイソフルオランによって麻酔して、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)の後4%パラホルムアルデヒドの経心臓灌流によって固定した。脳を摘出して4%パラホルムアルデヒドに終夜浸して後固定した後、凍結保護のために30%蔗糖/PBSにおいて24時間浸した。55μmミクロトーム切片を採取して、0.1%Tweenおよび0.5%ブロック試薬(Perkin Elmer, Boston)を含有するトリス緩衝生理食塩液においてブロックし、C19もしくはA20抗PirB抗体または対照ヤギIgGによって0.5μg/mlで4℃で終夜染色した。シグナルをビオチニル化二次抗体ABCおよびDAB(Vector Labs, Burlingame CA)によって検出した。皮質培養物を4%パラホルムアルデヒドにおいて10分間固定した。培養物を0.5〜1.0 μg/ml抗体と共に、0.1%Tweenおよび10%ウマ血清を含有するトリス緩衝生理食塩液において4℃で終夜染色した後、蛍光共役二次抗体、または非共役二次抗体の後に蛍光共役三次抗体によって染色した。アクチンを蛍光共役ファロイジン(Molecular Probes)と共に15分間染色した。染色した培養物を60倍の油浸対物レンズを用いて撮像した。
【0162】
可溶性のPirB結合
PirBアルカリホスファターゼ融合タンパク質(PirB-AP)発現ベクターを生成するために、PirBの細胞外ドメインのコード配列をプライマー
によってImageクローン4488338(Genbank EG247984)から増幅して、APtag-5ベクター(GenHunter)のSfiIおよびBglII部位に挿入した。Flanagan et al. (2000)によって記述されるように、得られた構築物またはAPtag-5ベクター単独を、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)によって293T細胞にトランスフェクトして、可溶性のHis-およびmyc-タグPirB-APまたはAP含有条件培地を、トランスフェクションの約6日後に採取した。PirB-APまたはAPをProBond Resin(Invitrogen)のカラム上で条件培地から精製して、100 mMイミダゾール(Sigma)によって溶出した。PirB-APおよびAP含有分画を可溶性のAP基質p-ニトロ-フェニルホスフェート(pNPP;Sigma)によって同定して、合わせ、Neurobasal培地(Gibco)に対して透析した。
【0163】
ニューロンに対するPirB-AP結合の飽和分析に関して、解離した皮質培養物をP0 CD-1およびC57Bl/6マウスから調製して、5〜7 DIV生育させた。細胞を様々な濃度のPirB-APまたはAP(0.125〜2μM)と共に37℃で2時間インキュベートして、洗浄して未結合のAP-融合タンパク質を除去して1%Triton X-100によって溶解した。溶解物を採取して内因性のAPを65℃で熱不活化した。AP活性を基質としてpNPPを用いて測定し、Bio-Rad Model 680マイクロプレートリーダーにおいてMicroplate Managerソフトウェア(バージョン5.2.1)を用いて405 nm(42)で読み取った。データは、独立した3回の実験から各濃度で8〜13回測定して、PirB-AP結合から差し引いたバックグラウンドAP結合を表す。
【0164】
初代培養マウス胚線維芽細胞(MEF)に対するPirB-AP結合を調べるために、線維芽細胞を標準的な技法(43)によってE13.5でWWWおよびB2m/Tapl -/-胚(3)から単離した。ニューロンにおけるMHCIのPIRB-AP結合を調べるために、解離した皮質ニューロンをP0 WWWおよびB2m/Tapl -/-マウスから調製して、5〜6 DIV生育させた。それぞれの遺伝子型からの細胞の同数を500 nM(MEF)または1μM(ニューロン)APタンパク質と共にインキュベートして、結合したPirB-AP/APを、先に記述したように基質としてpNPPを用いて(42)測定した。データは、独立した3回の実験からそれぞれの遺伝子型を12回(MEF)および15回(ニューロン)測定して、PirB-AP結合から差し引いたバックグラウンドAP結合を表す。
【0165】
切片におけるニューロンに対するPirB-APの結合を調べるために(42)、成体WTマウスの非固定脳を3%UltraPure低融点アガロース(Invitrogen)に抱埋して150〜200μm切片をビブラトームによって作製した。切片をPirB-APまたはAP(0.5〜1μM)と共に4℃で16〜18時間インキュベートして、内因性のAP活性を65℃で熱不活化した。PirB-AP結合を色素可塑性AP基質ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(Roche)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル-ホスフェート(Roche)を用いて可視化した。
【0166】
細胞下分画化
マウス脳を解剖して、10倍量の氷冷緩衝液(0.32 M蔗糖、10 mM HEPES(pH 7.5)、0.1 mM EDTA)中でテフロン-ガラスホモジナイザーにおいて約1000 rpmで8〜10ストロークを用いてホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで10分間遠心した。非破壊細胞および破片を含有する沈降物を捨てた。上清を10,000×gで遠心して、沈降物(P10)を採取した。上清を100,000×gで遠心して、沈降物(P100)、および100,000×gの上清(S100)を得て、これらを採取して免疫沈降/ウェスタンブロットによって分析した。
【0167】
シナプトソームを、Nagy and Delgado-Escueta(44)によって記述されるように調製した。P19 CD1マウス脳1個を、0.32 M蔗糖、10 mM HEPES(pH 7.5)、0.1 mM EDTAを含有する10倍量の氷冷緩衝液中でテフロン-ガラスホモジナイザーにおいて約1000 rpmで8〜10ストロークを用いてホモジナイズした。ホモジネートを1000×gで10分間遠心して沈降物P1および上清S1を得た。S1を12,000×gで20分間遠心して、沈降物(P2)および上清(S2)を産生した。S2を100,000×gで遠心して、P100(軽い膜)、およびS100(可溶性分画)を産生した。P2を蔗糖緩衝液0.5 mlに浮遊させて、Percoll段階的勾配に適用した。
【0168】
Percoll勾配は、SIP(Percoll(Amersham)9に対して2.5 M蔗糖1)を培地II(0.25 M蔗糖、5 mM HEPES、pH 7.2、0.1 mM EDTA)によって希釈して、段階的勾配にとって適当な濃度のPercollを産生することによって調製した。16%(vol/vol)Percoll 4 mlを10%Percoll 4 mlの上に静かに重層して氷中で保存した。浮遊させたP2(0.5 ml)を8.5%Percoll/蔗糖4 ml(最終的に7.5%Percoll)によって希釈して、10%/16%Percoll勾配の上に重層し、Sorvall SM-24ローターにおいて15,000×gで20分間遠心した。シナプトソームを10%/16%Percoll界面から採取した。シナプトソームを12,000×gで10分間遠心した後、水400μlに短時間浮遊させ(低張ショックを与えてシナプス小胞を放出させるため)、1 M HEPES、pH 7.4 2μlによって緩衝させた。シナプス小胞を25,000×gで沈降させて、細胞膜は上清に残った。各分画の総タンパク質の10%をマーカータンパク質の分析のために採取した。それぞれの分画における残りのタンパク質を1%NP-40濃度にして、PirBをその後のSDS-PAGE/ウェスタンブロット分析のために終夜免疫沈降させた。
【0169】
免疫沈降/ウェスタンブロット
マウス脳を解剖して1%NP-40、150 mM NaCl、50 mM Tris(pH 7.4)、1μg/mlアプロチニン、1μg/mlロイペプチン、1 mMフッ化フェニルメチルスルホニル、1 mMフッ化ナトリウムおよび1 mMバナジン酸ナトリウムを含有する氷冷緩衝液の約10倍量においてホモジナイズした。試料を100,000×gで15分間遠心した。免疫沈降を4℃で終夜行い、同時免疫沈降の場合4℃で2時間行った。免疫沈降物をプロテインGアガロース(Invitrogen)において回収した。試料をSDS-PAGEによって分離して、PVDFまたはニトロセルロースメンブレンに転写して、適当な抗体によってプロービングして、強化化学発光(Pierce)およびKodak XAR-5フィルムによって可視化した。
【0170】
眼球摘出
外科技法は全て、Harvard Medical Schoolで記録される承認された動物使用プロトコールに従って行った。単眼摘出実験の場合、マウスを吸入イソフルオランによって麻酔した。眼球1つを摘出して、眼瞼を6-0滅菌手術用絹糸によって縫合した。眼科用軟膏(Pharmaderm)を用いて感染症を予防した。
【0171】
Arc誘導実験
皮質ニューロンの眼優位性を機能的に査定するために、Tagawaらに従うArc mRNA誘導法を用いた。1つの眼を麻酔下で摘出した(上記を参照されたい);マウスの意識を回復させて、終夜完全な暗所に置いた。残りの眼を通しての視覚によって促進される皮質におけるArc mRNAを誘導するために、マウスを明るい環境に30分間戻した。光の露出後、マウスをハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって安楽死させて、脳を摘出し、M-1封入培地(ThermoShandon)において瞬間凍結して、16μmの冠状断面をArc mRNAに関するインサイチューハイブリダイゼーション(23)のために採取した。
【0172】
[3H]プロリンの経ニューロン輸送
層4に対する膝状体皮質突出部のパターンを可視化するために、マウス(年齢P35)をイソフルランによって麻酔してL[2,3,4,5-3H]-プロリン(Amersham)200μCiをガラスマイクロピペットを用いて1つの眼に注射した(23)。7日間の輸送時間の後、動物をハロタン(Halocarbon, River Edge NJ)によって麻酔した後、Euthasol(Delmarva laboratories)0.1 mlの注入によって安楽死させた。脳を摘出してM1抱埋マトリクス(Shandon)に入れて、ドライアイス/エタノール浴において凍結した。脳の冠状凍結切片(20μm)を切断して、空気乾燥させ、リン酸ナトリウム緩衝4%パラホルムアルデヒドにおいて30分間固定して、エタノールによって脱水して、NTB-2乳剤によってコーティングして3ヶ月間現像した。注射した眼と同側の視覚皮質の像をNikon Eclipse顕微鏡を用いて暗視野において獲得した。同側の視床皮質突出部の幅を、走査によって遺伝子型に対して盲検的に測定した(以下を参照されたい)。
【0173】
皮質層4におけるArc誘導の密度測定スキャンおよび経ニューロン標識
Arc発現の定量的分析をMATLAB(The Mathworks)において層4のラインスキャンによって行った。層4の中心に沿った線は、20〜100点を選択した後に、これらの点のあいだの立方スプライン補間を行うことによって生成した。この線に沿ったピクセル毎に、層を通しての垂直な線(長さ15〜30ピクセル、1ピクセル=3.5μm)を計算して、この線に沿ってピクセルの平均シグナル強度を測定した。得られた強度のラインスキャンを、低域濾波して(8次Butterworth)、Arcシグナル強度対層4に沿った距離の曲線を生成した。Arcシグナルは両眼視域において最大まで上昇した。両眼視域の幅は、シグナル強度がArcバックグラウンドシグナル強度(両眼域外での15ピクセルの平均強度として決定)の2標準偏差より大きい最大強度周囲の領域として測定された。同一の分析技術を用いて経ニューロン標識切片の標識強度を定量した。分析は遺伝子型および操作に対して盲検的に行った;異なる動物および操作からのスライドガラスを互いに挟んでそれらが暗号解除された場合に限って再集合させた。
【0174】
網膜神経節軸索の前方標識
マウス(P15)をイソフルランによって麻酔して、ローダミン(製品番号107)またはFITC(製品番号106)のいずれかを共役させたコレラ毒素Bサブユニット(List Biological Laboratories)の0.2%溶液1〜2μlを、ガラスマイクロピペットを用いてそれぞれの眼に注射した(45)。24時間後、動物をEuthasol(Delmarva laboratories)によって安楽死させた。0.9%生理食塩液および4%パラホルムアルデヒドの心臓内灌流によって脳を固定した。脳を摘出して4%パラホルムアルデヒドにおいて4℃で終夜後固定した後、30%蔗糖に終夜入れた。凍結ミクロトームにおいてLGNを通して冠状断面(55μm)を切断し、Vectashield.(Vector Laboratories)を用いてスライドガラスに載せて、Nikon Eclipse蛍光顕微鏡において撮像した。像は全て、ピーク強度の値がまさに飽和するように獲得した。
【0175】
実施例1:神経組織におけるPirB発現
PirBが脳において発現されるか否かを決定するために、本発明者らはP0から成体までの様々な年齢のマウス脳組織切片においてPirB-特異的プローブを用いてインサイチューハイブリダイゼーションを行った。試験した全ての年齢における脳全体に特異的mRNAシグナルを検出し、大脳皮質、海馬、小脳、および嗅球に強い発現を認めた(図1A〜F)。これらの脳領域はまた、MHCI mRNAおよびタンパク質を発現することが知られている(1,2)。
【0176】
次に、PirBタンパク質の免疫染色を、PirBの細胞質ドメインに対して特異的な異なる2つの抗体を用いて、脳切片について行った(図1G)。P0から成体まで調べた全ての年齢において特異的発現が検出された(データは示していない)。タンパク質はニューロン細胞体のサブセット、ならびに軸索経路および神経網において検出された。
【0177】
PirBがニューロンにおいて発現されるか否かを決定するために、E17またはP0からの新皮質を解剖して、培養し、GAP-43、シナプシン、PSD-95、およびニューロフィラメントを含むニューロン特異的マーカーと共に、異なる3つのPirB特異的抗体によって染色した(図2)。これらの培養物において、培養物に応じて20〜50%であるニューロンのサブセットを、PirBに関して免疫染色した。PirB染色は、点状に見えるニューロン突起において濃縮され、および軸索の生長錐体にも存在して、アクチンに富む先端部のすぐ後方のラメリポディウムに局在する(図2)。
【0178】
脳由来PirBタンパク質発現の特徴をさらに調べるために、PirBタンパク質を脳から直接免疫沈降させた。免疫沈降およびその後のウェスタンブロットは、特異性を確保するために異なる抗体を用いて行った。免疫系の場合(14,15,19,20)と同様に、脳由来PirBは主に130 kDのグリコシル化タンパク質として存在する(図3)。PirBは、調べた全ての年齢の、視神経を含む全ての脳の領域において検出されうる(図3A)。脳からのPirBは、N-連結オリゴ糖を除去するPNGアーゼFによる脱グリコシル化に対して感受性であることから、グリコシル化されている(図3B);PirBは、より限定されたサブセットのオリゴ糖を切断するEndo Hに対して非感受性である。マウス脳組織からのシナプトソームの調製は、PirBタンパク質の有意な部分がシナプトソーム形質膜と共に分画することを示し(図3C)、PirBがシナプスで、またはシナプス近傍で機能する可能性があることを示唆している。
【0179】
アルカリホスファターゼに融合したPirBの細胞外ドメイン(PirBAP)からなる可溶性の組換え型融合タンパク質を用いて、WTマウスおよび欠失β2ミクログロブリンおよびTap1遺伝子(2m/Taq)を有するマウスからの培養皮質ニューロンを染色した。これらの変異体マウスは、MHCクラスIタンパク質の細胞表面発現が低減していた(22,23)。本発明者らは、PirBAPがWTニューロンに特異的に結合すること、およびこの結合が2m/Tap -/-ニューロンでは重度に低減されることを発見し(図4)、可溶性のPirBがMHCI依存的にニューロンに結合することを示している。
【0180】
実施例2:神経組織におけるPirBのシグナル伝達
CNSニューロンにおいてPirB発現が発見されたことは、PirBニューロン機能に関する疑問を生じる。したがって、本発明者らは、膜貫通ドメインとPirB細胞内ドメインの一部をコードする4つのエキソンを除去した変異体マウスを作製して、PirBが形質膜を通してシグナルを伝達できないようにした(図8)。得られた変異体マウスは、完全に元気であり、変異体タンパク質は、このようにPirBTMと呼ばれる。タンパク質の膜貫通ドメインおよびその細胞内シグナル伝達構造を除去する効果を決定するために、PirBTMマウスにおけるPirBタンパク質発現を調べた。図5Aは、野生型およびPirBTM脳の細胞下分画の後にPirBおよびより短いPirBTM変異体タンパク質のそれぞれの免疫沈降を示す。野生型PirBは重いおよび軽い膜の双方と共に分画するが、可溶性分画にはシグナルは検出されなかった。変異体PirBTMタンパク質は脳において検出されたが、これはより小さく、軽い膜およびサイトソル分画と共に分画する。このように、膜貫通ドメインの喪失は、予想されたようにPirBの可溶性を変更させた。
【0181】
次に、本発明者らは、変異体PirBTMの脳におけるシグナル伝達能を調べた。PirBの細胞質ドメインは、4つの免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ(ITIM)を含有する。これらの部位のリン酸化は、Shp-1およびShp-2ホスファターゼをPirBに動員して(17-21)、活性化状態の免疫細胞に影響を及ぼすシグナル伝達カスケードを開始する。PirBTM変異体が膜貫通ドメインのみならず、膜に対して最も近位のITIMも欠損することに注意されたい(図8)。免疫沈降を野生型およびPirBTM脳からの抗ホスホチロシン抗体について行った後、抗PirBウェスタンブロット分析を行うと、本発明者らはPirBが野生型脳に限ってリン酸化されることを見いだした;チロシンリン酸化PirBTMタンパク質は検出されなかった(図5B)。PirBTMは膜貫通タンパク質ではなく、このようにリガンドにかみ合って、リン酸化に至ることができないことから、この結果は予想通りであった(12,13,20)。PirBまたはPirBTMが直接免疫沈降されて、PirBに関するウェスタンブロット分析を行った後(図5C、上のパネル)、抗ホスホチロシンウェスタンブロット(下のパネル)を行うと、野生型PirBのみがリン酸化される。併せると、これらの知見は、PirBTMが、それによってPirBおよびこのクラスの他のタンパク質がシグナルを伝達する主な手段である、その残りのITIMモチーフのリン酸化を通してシグナルを伝達できないことを示唆している。
【0182】
免疫細胞において、PirBは主にShp-1およびShp-2ホスファターゼに会合して、それらを通してシグナルを伝達する;ニューロンPirBも同様に、これらのホスファターゼと会合する(図5D、E)。しかし、免疫系とは対照的に、マウス脳からのPirBとShp-2のより強固な直接同時免疫沈降によって示されるように、PirBはShp-2と選択的に会合するように主合われる(図5D対5E)。この差は、脳および免疫系におけるShp-1およびShp-2の相対的発現レベルをおそらく反映する;Shp-1は免疫細胞において高度に発現されるが、Shp-2はニューロンにおいてより顕著である(24,25)。予想されるように、変異体PirBTMは、Shp-2と同時I.P.しない(図5E)。このように本発明者らは、PirBTMマウスの脳ではPirBを通してのシグナル伝達が廃棄されるという結論に達する。
【0183】
実施例3:突出パターンの発達とPirB発現
ニューロンMHCI受容体の探索は、MHCI表面発現を欠損するマウスが、肉眼的には正常な脳を有するが、視覚系のシナプス接続の詳細なパターンにおいて異常を有し、シナプス可塑性の欠損を有する(1)という所見によって刺激された。PirBTMマウスに関する最初の観察も同様に、明白な表現型を明らかにしなかった。Nissl染色によって査定したところ、肉眼的組織学は正常である。PirBはニューロンの突起および生育錐体において発現されることから、本発明者らは、皮質-脊髄路および前交連の前方部分のような、PirBを発現する軸索路を調べた。逆行性および前方の軌跡実験から、双方の路が無傷であり、正常な突出パターンを発達させたように思われることが示される。
【0184】
実施例4:PirB機能およびシナプス可塑性
PirB機能が視覚系における正常なシナプス可塑性にとって必要であるか否かを調べるために、本発明者らは、一次視覚皮質における眼優位性の発達と可塑性を研究した。この選択は、PirBタンパク質が大脳皮質において高度に発現されているという事実によって動機が与えられた(図1)。成体マウス視覚皮質は、LGNを通して双方の眼から機能的入力を受容する。制限された両眼視域は、同側および反対側の眼の双方からの入力を受容するが、視覚皮質の残りは、ニューロンが主に反対側の眼によってのみ促進される大きい単眼視域からなる(26,27)。発達すると、視覚皮質の広い領域を超えてニューロンは、同側の眼からの機能的入力を受容するが、生後4週間までに、この領域は、活性依存的に成体の両眼視域へと制限されるようになる。両眼視域の形成および視覚皮質ニューロンの眼優位性の発達は、マウス脳における発達可塑性を研究するための信頼できるモデルである(28〜32)。
【0185】
活性調節型前初期遺伝子Arcによって、眼優位性をマウス視覚皮質において査定した。1つの眼が視覚的に刺激されると、Arc mRNAは視覚皮質において急速に誘導されて、刺激された眼に機能的に接続された皮質の程度が明らかとなる(32)。この技術は、マウス視覚皮質における同側の眼の表出の精密化および可塑性に関する信頼できる定量的測定を提供し、同様にネコにおける眼優位性カラム形成を証明することによって確認されている(32)。したがって、本発明者らは、Arc誘導によって野生型およびPirBTMマウスにおける両眼視域内での同側の眼の表出を調べた。
【0186】
P34でのWTおよびPirBTMマウスの双方において、同側の眼の刺激は、刺激された眼と同側の半球の両眼視域における皮質2〜4および6層においてArc mRNA発現を誘導する(図6G)。これは成体の眼優位性パターンである(32)。p34でのPirBTMマウスにおけるArc誘導パターンは、WTのパターンとは区別ができないように思われる。これらの観察を定量するために、視覚皮質の4層に沿って連続的なラインスキャンを行い(遺伝子型に対して盲検的に)、両眼視域の幅を測定した。P34でのWTおよびPirBTMマウスの両眼視域の幅は、同一であった。PirBTMマウスにおいてp34で同側の眼が正常な大きさで表出されたことは、実際には正常とは異なるより初期の広範囲の表出から生じる可能性がある。しかし、P19でのArc誘導パターンはまた、PirBTMおよびWTにおいて区別できない(図6C)。Arc誘導の幅はP34よりP19において大きいことに注意されたく(図6B、C、D)、PirB機能は、同側の突出の正常な発達的制限にとって必要ではないことを示している。
【0187】
実施例5:眼優位性の可塑性およびPirB
視覚系の回路の活性依存的精密化は、変更された知覚経験が接続性を劇的に変更することができる臨界期のあいだに起こる。皮質の眼優位性は、2つの眼のあいだの相対的活性量を変更することによって容易にシフトさせることができる;これは眼優位性の可塑性と呼ばれる。OD可塑性は臨界期後により限定的となる(29、32〜38)。臨界期のあいだの1つの眼を閉じるまたは摘出すると、残りの眼に対するODの劇的なシフトが起こる。このシフトは、残りの眼に対して同側の、皮質におけるArc誘導によって直接可視化されうる。Arc mRNAシグナルは正常視域より広く占有するように拡大する(図6E〜H)。顕著に、PirBTMマウスにおけるOD可塑性は存在するのみならず、臨界期において調べた以下の全ての年齢でWTマウスより強力であった;通常の同側の精密化のピークおよび臨界期のピークと重なりあうP19〜25;臨界期の最後であるP31〜36、およびOD可塑性のピークに及ぶP22〜31。これらの年齢において、PirBTMマウスの第4層におけるArc発現の程度はXX%(P31〜36)からWTの50%(P19〜25)もの程度まで増加した(図6A、D、E、F、G)。
【0188】
視覚皮質の両眼視域におけるArc mRNAの誘導は眼優位性の機能的測定であり、ニューロンが同側眼に対する視覚的刺激に反応することができる、大脳皮質における視覚野を示す。単眼摘出に反応した両眼視域の拡大は、皮質内接続性の増加、視床皮質軸索の広がりの増加、またはその双方による可能性がある。この問題に取り組むために、本発明者らは、年齢P25〜40のWTおよびPirBTMマウスにおいてMEを行って、1つの眼に注射した3H-プロリンの経ニューロン輸送によって皮質への視床皮質入力を可視化した(図6H)。これらの実験は、PirBTMマウスがWTマウスよりMEに反応してより大きい程度の視床皮質軸索の拡大を受けることを証明し、Arc発現によって観察された可塑性の増強の少なくとも一部は、視床皮質軸索によって神経支配される領域の拡大による可能性があることを示している。併せて考慮すると、構造レベル(視床皮質軸索)および機能レベル(皮質ニューロンにおけるArc誘導)での可塑性の増強が観察されたことは、PirBが臨界期における皮質OD可塑性の程度を調節するように機能することを示している。
【0189】
視覚刺激は、眼を起源として視床の外側膝状体(LGN)におけるシナプス接続を通して皮質に入る。マウスにおいてLGNを神経支配する網膜神経節軸索は、生後第1週のあいだに眼特異的分離を経験する。完全に分離されたLGNは反対側の軸索によって支配され、小さい領域が同側の軸索に向けられる。これらの軸索はLGNにおいて眼特異的ニューロンに接続し、次にこれが視覚皮質に突出する。分離されたLGNは経験依存的構造可塑性に対して感受性がないと思われるが、PirBTMマウスの皮質における可塑性の増強は、一部、異常に可塑性のLGNが原因である可能性がある。このように、本発明者らは、MEが変異体LGN同側表出の拡大を引き起こすか否かを決定するために、WTおよびPirBTMマウスにおいて前方標識実験を行った。図7は、実際にPirBTMマウスの同側領域がMEに反応して拡大するが、野生型マウスでは拡大しないことを示し、PirBTMマウスが実際に異常に可塑性のLGNを有することを示している。これらの知見は、これらのマウスの皮質において観察された過剰な可塑性を部分的に説明する可能性があるか、またはPirB機能が脳の多くの部分において正常な可塑性にとって独立して必要とされる可能性がある。
【0190】
参考文献
【図面の簡単な説明】
【0191】
【図1】PirB mRNAはマウス脳において発現される。PirB mRNAの3'領域を表す35S-標識PirB特異的アンチセンスまたはセンス対照プローブを用いて、様々な年齢のマウス脳からの断面におけるPirB mRNAを検出した。A.PO冠状断面。B.P7矢状断面。C.P14矢状断面。D.P29矢状断面。E.P25冠状断面。F.成体矢状断面。尺度のバー=1 mm。G.抗PirB抗体C19によって免疫染色したP9脳の冠状断面。
【図2】培養皮質ニューロンのPirB免疫反応性。A.3日間培養して、抗PirB抗体1477(赤色)、アクチン結合タンパク質ファロイジン(青色)、およびシナプシン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロンからの成長錐体。B.抗PirB抗体C19、抗PSD-95(緑色)、およびDAPI(青色)によって免疫染色したインビトロで9日間培養した皮質ニューロン。C.抗PirB抗体A20(赤色)、および抗ニューロフィラメント(緑色)によって免疫染色したインビトロで9日間培養した皮質ニューロン。D.3日間培養して抗PirB抗体C19(赤色)、軸索成長錐体マーカーGAP-4(青色)、およびアクチン染料ファロイジン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロンの成長錐体。
【図3】マウス嗅球からのPirBタンパク質。A.PirBを、6C 1モノクローナル抗体を用いてP5およびP20マウス脳(視神経に関してはP14)からのタンパク質の等しい全量に由来する、脳幹、視床および線条体、小脳、皮質、海馬、または視神経から免疫沈降させて、ポリクローナルC19抗体によるウェスタンブロットによって検出した。対照I.P.は、小脳溶解物からの全ラットig G.I.P.であった。B.PirBをP7で総マウス脳から免疫沈降させて、EndoHおよびPNGアーゼFグリコシダーゼによって処置した。C.シナプトソーム分画を調製し(方法を参照されたい)、PirBを分画から免疫沈降させた。P100=軽いメンブレン。シナプトソームを、低張ショックによって、シナプス形質膜とシナプス小胞とに細分画した。S100 repは可溶性分画を表す。シナプシンおよびシナプトフィジン、シナプス小胞タンパク質を分画対照として用いた。
【図4】可溶性のPirBAP融合タンパク質は、MHC依存的に培養皮質ニューロンに結合する。PirBAPは、WTマウス胚線維芽細胞(MEF)および培養皮質ニューロンに結合する。この結合は、B2M/Tap変異体マウスにおいて劇的に低減され、この場合、MHC-I分子の細胞表面発現は排除される(左)。スキャッチャードプロット分析により、飽和結合が明らかとなり、解離定数は約1μMである。
【図5】PirB機能はPirBTMマウスにおいて排除される。(A)野生型およびPirBTMマウス脳からの細胞下分画。WTマウスにおいて、130 kD成熟PirBは、重い膜(P10)および軽い膜(P100)に分隠し、可溶性の5100分画には何も検出されない。PirBTMはより小さいが、溶解度の増加を示し、大きい部分は可溶性の(S100)分画に認められる。(B)抗ホスホチロシン免疫沈降の後に抗PirBウェスタンブロットを行うことにより、PirBがリン酸化されていることが明らかとなる。(C)抗PirB I.P.の後の抗PirBウェスタンブロット、次にこれを剥がして抗ホスホチロシンに関してプロービングする。WT PirBのみがリン酸化され、リン酸化されていないPirBTMは検出されない。(D)抗Shp-1免疫沈降の後のShp-1およびPirBウェスタンブロットにより、マウス脳においてShp-1とPirBとのあいだに検出可能な相互作用があることが示される。E.抗Shp-2免疫沈降は、WTマウス脳において強いPirB/Shp-2複合体を示し、PirBTM脳では相互作用を示さない(左のパネル)。PND5およびPND20脳からのShp-2免疫沈降も同様にこの相互作用を示す。Shp-2抗体の特異性を証明するために、WT脳からの非特異的Ig対照免疫沈降を用いて対照を行った(右のパネル)。
【図6】PirBは、マウス視覚皮質における眼優位性可塑性を制限する。(A)P19およびP34のWTおよびPirBTMマウスにおける同側のArc誘導域の幅の平均値(左のパネル)およびP19〜25、P22〜31、およびP31〜36からの単眼摘出(ME)後の幅。通常の発達に差は認められないが、MEはWTマウスの場合よりPirBTMマウスにおいて非摘出眼に対してより大きいシフトを生じる。条件あたりn=6〜9。(BF)それぞれの年齢および各条件において個々の測定の累積ヒストグラム。(G)WT(左上)およびPirBTM(左下)における精密化完了後のP34での同側のArc小片(黄色の矢印)、および右のパネルにおけるP22〜31 ME後の消費された小片の例。(H)3H-プロリン標識同側小片の幅は、PirBTMマウスではP25〜P40からのME後のWTマウスよりより広い。
【図7】PirBTMマウスの分離されたLGNにおける可塑性。前方追跡1gは、同側の軸索によって占有されるLGNの領域がWTおよびPirBTMマウスにおいてP23で同じであることを示している。P15からP23までのME後、PirBTMマウスにおける同側の領域は、WTマウスより拡大した。
【図8】PirBTMに関するターゲティングベクターの略図(方法を参照されたい)。A.水色の四角はエキソンを示す。その細胞内ドメインのPirB膜貫通ドメイン末端部をコードするエキソン10、11、12、および13は、Creレコンビナーゼに対する曝露の際に欠失する。B.仮説上のPirBおよびPirBTM変異体タンパク質の略図。Ig=Igドメイン、ITIM=免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ。
【図9】PirB mRNAおよびタンパク質がニューロンにおいて発現されていることを図示する: A〜C:PirB mRNAの3'領域を表す35S標識PirB特異的プローブを用いて、様々な年齢のマウス脳からの切片においてPirB mRNAを検出した。インサイチューハイブリダイゼーションを暗視野(銀色の粒は白色に見える)において示す。 A.P14矢状断面; B.P29矢状断面; C.成体矢状断面(上)プラス知覚対照(下); D〜J:PirB-特異的抗体を用いる免疫組織化学; D.P18冠状断面; E.抗PirB抗体A20によって染色した成体矢状断面。尺度のバーA〜E=1 mm; F.抗PirB 1477(赤色)、ファロイジン(青色)および抗シナプシン(緑色)によって免疫染色した皮質ニューロン3 DIVの成長錐体; G.抗PirB(赤色)、後シナプスマーカーPSD-95(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン18 DIV; H.抗PirB(赤色)、前シナプスタンパク質シナプトフィジン(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン14 DIV; I.抗PirB(赤色)、前シナプスタンパク質シナプシン(緑色)およびヘキスト(青色)によって染色した皮質ニューロン14 DIV; J.Iの高倍率。尺度のバーF〜J=10μm
【図10】可溶性のPirBがニューロンに結合することを図示する;可溶性PirB-APはマウス胚線維芽細胞(MEF)(A)および培養皮質ニューロン(B)に結合する;結合はβ2m-/-/Tap1-/-マウスに由来する培養では有意に低減されることから、結合はMHCIタンパク質の表面発現に依存する(MEFに関してp<0.01およびニューロンに関してp=0.03);(C)ニューロンに対するPirB-APの結合は飽和型である(上);スキャッチャード分析(下)は、解離定数〜1.3μMを予測する。(D)PirB-APは皮質断面における錐体ニューロンに結合する。数値は皮質の層を示す。尺度のバー=250μm(左、中央のパネル)または50μm(右のパネル)。
【図11】PirBタンパク質が脳全体に発現されて、Shp-1およびShp-2と複合体を形成することを図示する: A.生後5日目、P12、P20、P28、または成体(Ad)の全脳から、PirBを6C1モノクローナル抗体を用いて免疫沈降させて、C19ポリクローナル抗体を用いてウェスタンブロットによって検出した; B.P5またはP20マウス脳からのタンパク質の等量に由来する脳幹、視床、および線条体(thal, striat)、小脳、および皮質/海馬(ctx. hipp)から免疫沈降されたPirBタンパク質。対照I.P.は、小脳からの溶解物における非特異的ラットIgGであった; C.PirBをP7の全脳から免疫沈降させて、EndoHまたはPNGアーゼFグリコシダーゼによって処置した; D.PirBをシナプトソーム分画から免疫沈降させた(方法を参照されたい)。PLT100=軽い膜、SPM=シナプス形質膜、VES=シナプス小胞分画、SUP100=可溶性分画。シナプシンおよびシナプトフィジンシナプス小胞タンパク質を分画マーカーとして用いた。 E.WTおよびPirBTMマウス脳からの細胞下分画。WTにおいて、130 kD成熟PirBは重い膜(P10分画)および軽い膜(P100分画)と共に分画するが、可溶性S100分画には何も検出されない。対照的に、変異体PirBTMはより小さく、溶解度の増加を示し、大きい割合が可溶性(S100)分画に現れる; F.抗ホスホチロシン免疫沈降後の抗PirBウェスタンブロットにより、PirBがリン酸化されること、およびPirBTMマウスにはシグナルが検出されないことが明らかとなる; G.抗PirB I.P.の後に抗PirBウェスタンブロットを行って、これを剥がして抗ホスホチロシンに関してプロービングする。WT PirBのみがリン酸化され;非リン酸化PirBTMは検出されない; H.抗Shp-1 I.P.の後のShp-1およびPirBウェスタンブロットにより、PirBが脳においてShp-1と相互作用することが証明される; I.P5またはP12脳の抗Shp-2 I.P.後のShp-2およびPirBウェスタンブロットにより、脳にPirB/Shp-2複合体が存在することが証明される; J.PirBTM/Shp-2複合体はPirBTM脳には存在しない。
【図12】PirBTMマウスの視覚皮質におけるOD可塑性の増強;Arc mRNA誘導(A〜G)、経ニューロンオートラジオグラフィー(H〜J)を図示する; A.網膜から外側膝状体(LGN)から視覚皮質までの接続を示す視覚系の略図である。両方の眼からLGNを通って視覚入力を受容する小さい両眼視域(BZ)に注意されたい。 B〜D:同側の眼の表出の発達制限が、通常、PirBTMマウスにおいて進行する; B.P34マウスの視覚刺激によって誘導され、刺激された眼と同側の皮質におけるインサイチューハイブリダイゼーションによって検出されたArc mRNA。黄色の矢印の先は、両眼視域に対応するArc誘導域を描写する。P19またはP34での通常飼育のマウスでは、WTまたはPirBTMマウスにおけるArc誘導の幅は区別できないように思われる; C.ヒストグラムは層4におけるArc誘導の幅の平均値を表す。P19:WT n=9、PirBTM n=7;P34:WT n=7、PirBTM n=7、切片3〜4個/動物; D.P34での全てのWT(青色)またはPirBTM(赤色)切片からの平均ラインスキャン。スキャンは遺伝子型に対して盲検的に行われ、BZの左境界域(黒色の垂直の線、左)に調整した。青色または赤色の線は、Arc誘導の右境界域を示す; E〜G:OD可塑性はPirBTMマウスにおいて増強される; E.Arc誘導によって査定した、P22〜31からの単眼摘出(ME)後のOD可塑性。WTにおいてME後のインサイチューハイブリダイゼーションパターンの幅の拡大に注意されたい(Eの上部をBの上部と比較して)。ME後のArc誘導域は、WT(上のパネル)よりPirBTMマウス(Eの下のパネル)においてさらにより広い; F.P19〜25、P22〜31、P31〜36、またはP100〜110からのME期間後のPirBTM対WTマウスにおけるArc誘導の幅の一貫して増強された拡大。ヒストグラムは、Arc誘導の幅の平均値を表す。P19〜25からのME:WT n=5、PirBTM n=9;P21〜32:WT n=6、PirBTM n=6;P31〜36 WT n=9、PirBTM n=9;P11〜110:WT n=5、PirBTM n=5、切片3〜4個/動物; G.P22〜31からのME後の全てのWT(青色)またはPirBTM(赤色)断面における層4 Arcシグナルの平均ラインスキャン。スキャンをBZの左境界域(垂直の線、左)で調整した。青色または赤色の垂直の線は右境界域を示す。PirBTMマウスでは幅がより大きいことに注意されたい; H〜J:経ニューロンオートラジオグラフィーにより、PirBTMマウスにおいてME(P25〜40)後の同側の眼を表すLGNニューロンと皮質の層4とのあいだの解剖学的接続の幅の増加が明らかとなる; H.PirBTM(底)対WT(上)マウスの皮質の層4における同側の眼からの入力を表す、経ニューロン輸送放射活性標識の幅の増加を示す暗視野オートラジオグラフである; I.ヒストグラムは全てのマウスからの平均値である(WT n=7、PirBTM n=6);および J.全てのWTまたはPirBTM断面からの平均ラインスキャン。スキャンを、BZの左境界域(黒い垂直の線、左)で調整した。青色または赤色の垂直の線は、WTまたはPirBTMにおける視床皮質突出部の幅を示している。C、F、Iにおけるエラーバー=1 S.E.M.。星印*=p<0.05;**=p<0.01。
【図13】以下を図示する: A.PirBTMに関するターゲティングベクターの略図(方法を参照されたい)。水色の四角はエキソンを示す。PirB膜貫通ドメインおよび細胞内ドメインの一部をコードするエキソン10、11、12および13は、Creレコンビナーゼに対する曝露の際に欠失する;ならびに B.仮説上のPirBおよびPirBTM変異体タンパク質の図解。Ig=Igドメイン、ITIM=免疫受容体チロシンに基づく阻害モチーフ。色のついた四角は、離れたエキソンによってコードされるタンパク質ドメインを示す。エキソンは、四角の上の数字で示す。
【図14】以下を図示する: A.クレジルバイオレットによって染色したP30 WT(上)およびPirBTM(下)マウスの矢状断面(20μm)。脳の肉眼的組織学的構築は、PirBTMマウスにおいて正常と区別できない;尺度のバー=1 mm;ならびに B.前方のトレースは、PirBTMマウスのLGNにおける網膜膝状体軸索の眼特異的分離の正常なパターンを明らかにする。WTマウス3匹(左)およびPirBTMマウス3匹(右)における網膜膝状体軸索のパターンは類似であるように思われる、尺度のバー=100μm。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体のニューロンにおいてPirBの活性を調節する物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、
a.物質がPirB受容体のアンタゴニストとして作用する;
b.アンタゴニストが低分子である;
c.アンタゴニストがペプチド模倣体である;
d.物質が抗体PirBである、
方法。
【請求項2】
被験体のニューロンにおいてPirBのシグナル伝達を調節する物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、
a.物質がニューロンにおけるPirBのシグナル伝達を減少させるように作用する;
b.アンタゴニストが低分子である;および
c.アンタゴニストがペプチド模倣体である、
方法。
【請求項3】
被験体のニューロンにおけるPirBの発現を減少させる物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、物質が1つまたは複数のsiRNAである、方法。
【請求項4】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質の有効量を投与する段階を含む、被験体におけるCNS疾患または障害を処置する方法。
【請求項5】
被験体におけるCNS疾患または障害が自閉症である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
被験体におけるCNS疾患または障害が失読症である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
被験体におけるCNS疾患または障害が脳性麻痺である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
被験体におけるCNS疾患または障害が外傷性脳損傷である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
被験体におけるCNS疾患または障害が脊髄損傷である、請求項4記載の方法。
【請求項10】
被験体におけるCNS疾患または障害が卒中である、請求項4記載の方法。
【請求項11】
被験体におけるCNS疾患または障害がアルツハイマー病である、請求項4記載の方法。
【請求項12】
被験体におけるCNS疾患または障害が記憶障害である、請求項4記載の方法。
【請求項13】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を増加させる物質の投与を含む、被験体におけるてんかんを処置する方法。
【請求項14】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質の投与を含む、被験体における視覚系の障害または疾患を処置する方法。
【請求項15】
融合タンパク質を含む、ニューロンにおけるPirBの活性を調節する組成物。
【請求項16】
融合タンパク質がPirB融合タンパク質である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
融合タンパク質を含む、神経系の可塑性を増加させる組成物。
【請求項18】
融合タンパク質がPirB融合タンパク質である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
PirB受容体に対するアンタゴニスト、PirB受容体の低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、ニューロンにおけるPirBの活性を調節する組成物。
【請求項20】
PirB受容体に対するアンタゴニスト、PirB受容体の低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、PirBの活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体におけるPir-Aのレベルを増加させる方法。
【請求項21】
1つまたは複数の物質分子が標識に連結され、標識が検出可能なシグナルを直接または間接的に提供することができるPirB受容体を利用する結合アッセイにおいて治療物質を同定する方法。
【請求項1】
被験体のニューロンにおいてPirBの活性を調節する物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、
a.物質がPirB受容体のアンタゴニストとして作用する;
b.アンタゴニストが低分子である;
c.アンタゴニストがペプチド模倣体である;
d.物質が抗体PirBである、
方法。
【請求項2】
被験体のニューロンにおいてPirBのシグナル伝達を調節する物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、
a.物質がニューロンにおけるPirBのシグナル伝達を減少させるように作用する;
b.アンタゴニストが低分子である;および
c.アンタゴニストがペプチド模倣体である、
方法。
【請求項3】
被験体のニューロンにおけるPirBの発現を減少させる物質の有効量を被験体に投与する段階を含む、被験体における神経系の可塑性を増加させる方法であって、物質が1つまたは複数のsiRNAである、方法。
【請求項4】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質の有効量を投与する段階を含む、被験体におけるCNS疾患または障害を処置する方法。
【請求項5】
被験体におけるCNS疾患または障害が自閉症である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
被験体におけるCNS疾患または障害が失読症である、請求項4記載の方法。
【請求項7】
被験体におけるCNS疾患または障害が脳性麻痺である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
被験体におけるCNS疾患または障害が外傷性脳損傷である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
被験体におけるCNS疾患または障害が脊髄損傷である、請求項4記載の方法。
【請求項10】
被験体におけるCNS疾患または障害が卒中である、請求項4記載の方法。
【請求項11】
被験体におけるCNS疾患または障害がアルツハイマー病である、請求項4記載の方法。
【請求項12】
被験体におけるCNS疾患または障害が記憶障害である、請求項4記載の方法。
【請求項13】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を増加させる物質の投与を含む、被験体におけるてんかんを処置する方法。
【請求項14】
被験体のニューロンにおけるPirBの活性、シグナル伝達、または発現を減少させる物質の投与を含む、被験体における視覚系の障害または疾患を処置する方法。
【請求項15】
融合タンパク質を含む、ニューロンにおけるPirBの活性を調節する組成物。
【請求項16】
融合タンパク質がPirB融合タンパク質である、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
融合タンパク質を含む、神経系の可塑性を増加させる組成物。
【請求項18】
融合タンパク質がPirB融合タンパク質である、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
PirB受容体に対するアンタゴニスト、PirB受容体の低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、ニューロンにおけるPirBの活性を調節する組成物。
【請求項20】
PirB受容体に対するアンタゴニスト、PirB受容体の低分子アンタゴニスト、PirBのペプチド模倣アンタゴニスト、PirB受容体に対する抗体、PirB特異的リガンドに対する抗体、およびPirB発現を干渉することができるsiRNA分子からなる群より選択される、PirBの活性を調節する物質を被験体に投与する段階を含む、被験体におけるPir-Aのレベルを増加させる方法。
【請求項21】
1つまたは複数の物質分子が標識に連結され、標識が検出可能なシグナルを直接または間接的に提供することができるPirB受容体を利用する結合アッセイにおいて治療物質を同定する方法。
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図12H】
【図12I】
【図12J】
【図12K】
【図12L】
【図12M】
【図13】
【図14】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図6G】
【図6H】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図9F】
【図9G】
【図9H】
【図9I】
【図9J】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図11E】
【図11F】
【図11G】
【図11H】
【図11I】
【図11J】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図12H】
【図12I】
【図12J】
【図12K】
【図12L】
【図12M】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2009−529490(P2009−529490A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−551483(P2008−551483)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/002009
【国際公開番号】WO2007/092165
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508221121)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【国際出願番号】PCT/US2007/002009
【国際公開番号】WO2007/092165
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(508221121)プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ (1)
【Fターム(参考)】
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