説明

ニワトリキメラ抗体およびその利用

【課題】 分子量の小さい2価のニワトリ型モノクローナル抗体と、その代表的な利用技術とを提供する。
【解決手段】 本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、ニワトリ抗体のヒンジ領域に相当する領域の代わりに哺乳動物、好ましくはヒト由来のヒンジ領域を付加している。これにより、分子量の小さい2価の抗体を得ることができるとともに、当該2価抗体を大腸菌等の原核生物で発現させることが可能となる。さらに、哺乳動物由来のヒンジ部を有しているため、抗体のフレキシビリティをより一層向上させることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくともニワトリ由来の可変領域を有するニワトリキメラ抗体とその代表的な利用に関するものであり、特に、2価を実現することが可能であり、一般的なニワトリ抗体と比べて抗原認識のフレキシビリティに優れ、より実用性を有するニワトリキメラ抗体と、その生産方法等の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノクローナル抗体は、抗原の特定部分のみを認識する単一抗体であり、ポリクローナル抗体(抗血清)と比較して、抗原特異性が均一で抗体の力価が高いといった利点を有する。それゆえ、モノクローナル抗体は、バイオサイエンスの研究全般において広く汎用される研究試薬として重要であるが、近年では、研究開発レベルから、例えばヒトの各種疾患の診断薬や治療薬等のような実用化レベルにまでその技術が進歩している。
【0003】
上記モノクローナル抗体の中でも、近年、本発明者らにより提案されているニワトリ型のものが注目されている。ニワトリ(Gallus gallus)を含む鳥類は、系統発生学的に哺乳動物より下等であるものの、哺乳動物と同様に極めて精緻な免疫能力を有している。特に、ニワトリは食用家畜として古くから飼育されており、特に、鶏卵は、食用ではなくタンパク質という素材を生産するという観点から見れば、高い生産性を有する原料として用いることができる。それゆえ、ニワトリは、免疫動物としての信頼性を有し、かつ、抗体生産の効率性も有しているため、免疫動物として好適に用いることができる。
【0004】
ニワトリを免疫動物としてニワトリ型モノクローナル抗体を生産する技術としては、まず、ニワトリハイブリドーマを用いた方法が本発明者らのグループによって報告されている(非特許文献1参照)。また、遺伝子組換えを利用した技術も種々提案されている。例えば、本発明者らは、ニワトリCλ鎖(L鎖定常領域)をコードする遺伝子が導入されている発現用ベクターを用いる方法を提案している(特許文献1参照)。
【0005】
さらに、遺伝子組換えを利用した技術としては、ファージディスプレイを応用して単鎖抗体を得る技術も知られている。例えば、ニワトリV遺伝子とヒトCκ遺伝子、ニワトリVH遺伝子とヒトC遺伝子とをPCRにて連結し、ファージディスプレイ用のベクターであるpCob3に組み込んでFab型のニワトリ−ヒトキメラ抗体を発現させる方法が知られている(非特許文献2参照)。また、本発明者らも、ファージディスプレイ法による調製が可能なニワトリ型モノクローナル抗体についての技術を提案している(上記特許文献1および特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−238676号公報(平成13(2001)年9月4日公開)
【特許文献2】特開2004−283111号公報(平成16年(2004)10月14日公開)
【非特許文献1】Nishinaka et al., 1989. Arch. Allergy Appl. Immunol., 89, 416-419
【非特許文献2】Andris-Widhopf et al., 2000. J Immunol Methods 242, 159-181
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ニワトリ型モノクローナル抗体の抗体分子は、哺乳動物の抗体分子(IgG)よりも分子量が大きい。そのため、用途によっては実用性が不十分となる場合がある。具体的には、例えば、サンプル中において特定の分子の存在を抗体で認識して検出する用途の場合、当該特定の分子の含有量が微量であれば、十分な検出ができない場合がある。
【0007】
そこで、ニワトリ型モノクローナル抗体の抗体分子から一部の重鎖定常領域を削除して分子量を小さくすることが考えられるが、本発明者らが鋭意検討した結果、このようにして得られる抗体ΔFcは構造的に不安定となるため、2価ではなく1価のものが多くできることが明らかとなった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、例えば微量物質の高感度検出等に好適に用いることが可能な、分子量の小さい2価のニワトリ型モノクローナル抗体と、その代表的な利用技術とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ニワトリキメラ抗体において2価抗体を実現するためには、ヒンジ部が非常に重要であることを独自に見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、少なくとも可変領域がニワトリ由来であるとともに、ヒンジ部が哺乳動物由来であることを特徴としている。
【0011】
上記ニワトリキメラ抗体においては、上記ヒンジ部がヒト由来であることが好ましい。また、上記ニワトリキメラ抗体は2価の抗体とすることができる。さらに、上記ニワトリキメラ抗体は、ニワトリ由来の可変領域をコードするポリヌクレオチドと、ヒト由来のヒンジ部をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも有する発現ベクターを用いて、原核細胞を形質転換することにより生産することができる。なお、上記原核細胞は特に限定されないが大腸菌であることが好ましい。
【0012】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体の代表例としては、配列番号1に示されるアミノ酸配列、または、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを重鎖とし、配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを軽鎖とする抗体、すなわち、ヒンジ部がヒト由来のニワトリ−ヒトキメラ抗体を挙げることができるが、もちろん本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体の生産方法は、少なくともニワトリ由来の可変領域を含むニワトリキメラ抗体の生産方法であって、例えば、宿主細胞として原核細胞を用いるとともに、原核細胞内で機能するプロモーターと、ニワトリ由来の可変領域をコードするポリヌクレオチドと、哺乳動物由来のヒンジ部をコードするポリヌクレオチドとを含んでいる発現ベクターを用いて、原核細胞を形質転換する方法を挙げることができる。
【0014】
上記生産方法においては、上記原核細胞が大腸菌であり、プロモーターがlacプロモーターである場合を挙げることができるが、特に限定されるものではない。なお、上記ヒンジ部はヒト由来であることが好ましい。
【0015】
上記発現ベクターには、さらに、タグとして機能するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドや、ファージディスプレイ法で利用可能なファージをコードするポリヌクレオチドが含まれていてもよい。
【0016】
本発明には、上記ニワトリキメラ抗体の生産方法を行うためのキットや、ニワトリキメラ抗体の生産方法あるいはキットに用いられる発現ベクターも含まれる。これら生糸や発現ベクターの具体的な構成は特に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、上記のように、ニワトリ抗体のヒンジ領域に相当する領域の代わりに哺乳動物のヒンジ領域を付加している。これにより、分子量の小さい2価の抗体を得ることができる。特に、本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、通常のニワトリ抗体に比べてサイズが小さくなるため、当該2価抗体を大腸菌等の原核生物で発現させることが可能となる上に、哺乳動物由来のヒンジ部を有しているため、ニワトリ抗体の一般的な欠点として知られているフレキシビリティの低さを解消し、抗体のフレキシビリティをより一層向上させることが可能となる。それゆえ、本発明では、安価で実用性の高い2価抗体を容易に得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の一実施形態について図1ないし図6に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
〔1〕本発明にかかるニワトリキメラ抗体
本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、少なくとも可変領域がニワトリ由来であるとともに、ヒンジ部が哺乳動物由来である構造を有している。具体的には、図1に示すように、例えば、ヒンジ部がヒト由来であり、重鎖可変領域VHおよび軽鎖可変領域VLが少なくともニワトリ由来であるニワトリ−ヒトキメラ抗体を挙げることができる。なお、図1に示すニワトリ−ヒトキメラ抗体では、ヒンジ部を除く重鎖定常領域CHおよび軽鎖定常領域CLがニワトリ由来となっているが、本発明にかかるニワトリキメラ抗体の構造は特にこの構造に限定されるものではなく、その利用分野等に応じて適宜設計することができる。
【0020】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、図1に示すように2価の抗体(ニワトリF(ab’)2 )となっていることが非常に好ましい。ニワトリ由来のFab抗体に、哺乳動物由来のヒンジ部を付加すれば、当該ヒンジ部に存在するシステイン残基により、2価抗体F(ab’)2 )となる。前述したように、本発明者らはニワトリ抗体(ニワトリ型モノクローナル抗体)の分子量を小さくして実用化を図る検討を行ってきたが、一部の重鎖定常領域を削除する手法で得られる抗体はほとんど1価となる。これに対して本発明では2価抗体を得ることができるため、ニワトリキメラ抗体の実用性をより優れたものとすることができる。
【0021】
本発明において、ヒンジ部の由来となる哺乳動物としては特に限定されるものではなく、本発明にかかるニワトリキメラ抗体の用途等に応じて適宜選択することができるが、汎用性や医療分野への応用を考慮すれば、ヒト由来であることが好ましい。
【0022】
ところで、本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、ヒンジ部を哺乳動物由来とすることで2価抗体を実現しているが、さらに、抗体のフレキシビリティも向上させることが可能となっている。ニワトリ由来の抗体では、ヒンジ部に相当する領域はCH2であるが、この領域のフレキシビリティは哺乳動物由来の抗体のヒンジ部と比較してもフレキシビリティに劣ることが知られていた。これに対して、本発明にかかるニワトリキメラ抗体では、ヒンジ部が哺乳動物由来であるため、2価を実現できるだけでなく、抗体そのもののフレキシビリティを高めることができるという利点も有している。
【0023】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体の具体例は特に限定されるものではないが、後述する実施例に示すように、配列番号1に示されるアミノ酸配列、または、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを重鎖とし、配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを軽鎖とするニワトリ−ヒトキメラ抗体を挙げることができる。このニワトリ−ヒトキメラ抗体は、重鎖が278個のアミノ酸残基から、軽鎖が229個のアミノ酸残基からなり、同図中に示すように、可変領域VLおよびVH、並びにヒンジ部、後述するタグ(StrepTagII)に相当するアミノ酸配列には下線を引いている。
【0024】
また、上記配列番号1および2に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの一例として、配列番号3に示される塩基配列を有するDNAを挙げることができる。このDNAにおいては、図2ないし図5に示すように、1〜19番目までの塩基配列がgene IIIのシグナル配列となっており、20〜856番目までの塩基配列が配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードしており、1101〜1790番目までの塩基配列が配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードしている。なお、当該塩基配列に含まれる制限酵素の認識部位は、同図中の塩基配列において下線を引いた配列であり、対応する制限酵素については、同下線部の下方に名称を記載している。
【0025】
〔2〕本発明にかかるニワトリキメラ抗体の生産方法
上記ニワトリヒトキメラ抗体の生産方法は特に限定されるものではないが、特に本発明では、原核細胞に発現ベクターを導入して原核細胞内で生産させることができる。これは、一般的なニワトリ抗体に比べて、本発明にかかるニワトリキメラ抗体の分子量が小さいためである。一般的なニワトリキメラ抗体の分子量は、2価の場合、約180kDaであるが、本発明にかかるニワトリキメラ抗体の分子量は、例えば、約95kDa程度とすることができる(後述する実施例参照)。
【0026】
上記原核細胞としては、通常は大腸菌(E. coli)を非常に好ましく用いることができる。周知の通り、大腸菌は分子生物学の分野で極めて広く用いられている原核細胞であり、かつ、形質転換や遺伝子組換えについて十分な技術的蓄積がある上に、さらに、培養動物細胞等と比べると培養や形質転換が簡便であるという利点も有している。そのため、本発明にかかるニワトリキメラ抗体を容易に生産することが可能となる。
【0027】
なお、用いられる大腸菌の株については特に限定されるものではない。後述する実施例ではJM109株を用いているが、公知の他の株であっても好適に用いることができる。また、用途等によって大腸菌以外の原核細胞を用いてもよいことや、各種真核細胞(酵母等の単細胞生物や、各種培養動物細胞等)を用いてもよいことは言うまでもない。
【0028】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体を生産するために用いられる発現ベクターとしては、特に限定されるものではなく、用途に応じた所望のニワトリキメラ抗体の構造と、宿主の種類とに応じて適切なセグメントを有する発現ベクターを設計すればよい。基本的には、ニワトリ由来の可変領域をコードするポリヌクレオチドと、哺乳動物(好ましくはヒト)由来のヒンジ部をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも有する発現ベクターを用いればよい。
【0029】
ここで、プロモーターとしては、宿主となる細胞に応じた公知のものを選択すればよく、特に限定されるものではない。宿主が原核細胞であれば原核細胞内で機能するプロモーターを選択すればよい。後述する実施例では、宿主が大腸菌であるため、プロモーターとしてはlacプロモーターを用いている。
【0030】
また、抗体となる各領域をコードするポリヌクレオチドについても特に限定されるものではなく、構築しようとするニワトリキメラ抗体の構造に応じて、ニワトリおよび哺乳動物由来のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いればよい。
【0031】
上記発現ベクターには、抗体となる各領域をコードするポリヌクレオチドおよびプロモーター以外のセグメントが含まれていてもよい。具体的には、例えば、タグとして機能するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。後述する実施例に示すように、生産されたニワトリキメラ抗体にタグとなるアミノ酸配列を含ませることにより、当該ニワトリキメラ抗体の精製をより容易とすることができる。なお、タグの具体的な種類は特に限定されるものではなく、精製方法や精製に用いるカラム担体の種類等に応じて適切なタグを選択すればよい。後述する実施例では、図3にも示すように、タグとしてStrepTagIIを用いている。
【0032】
他のセグメントの例としては、例えば、ファージディスプレイ法で利用可能なファージをコードするポリヌクレオチドを挙げることができる。このようなセグメントを含んでいることで、当該発現ベクターをファージディスプレイ法にも利用することができる。後述する実施例では、gene IIIリーダー配列を用いている。
【0033】
本発明にかかるニワトリキメラ抗体に用いられるより具体的な発現ベクターとしては、pBluescriptSK(-)をベースとして構築した、図6に示す構造のプラスミドpFabHL−2を挙げることができるが、本発明はもちろんこれに限定されるものではない。
【0034】
〔3〕本発明の利用
本発明の利用分野は特に限定されるものではなく、ニワトリキメラ抗体およびその生産方法抗体を用いたあらゆる用途に利用することができる。
【0035】
例えば、本発明には、上記ニワトリキメラ抗体の生産方法を行うためのキットが含まれる。キットの具体的な構成は特に限定されるものではなく、上記発現ベクターや宿主細胞、形質転換用の試薬類等を含むものであればよい。したがって、本発明には、上記ニワトリキメラ抗体の生産方法に用いられる発現ベクターも含めることができる。
【0036】
本発明により得られるニワトリキメラ抗体は、2価を実現することができ、一般的なニワトリ抗体よりも分子量が小さく、さらには、哺乳動物由来のヒンジ部を有しているためフレキシビリティにも優れている。それゆえ、本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、例えば、サンプル中に特定の物質が含まれているか否かを検出するような用途には、特に好適に用いることができる。サンプル中に含まれている物質が微量であるとしても本発明によれば、従来よりも高感度で物質を検出することが可能となる。
【0037】
また、もともとニワトリ抗体は、免疫寛容により哺乳動物では抗体の生じにくい抗原についてもモノクローナル抗体を作製することが可能である。しかも、本発明にかかるニワトリキメラ抗体は、2価で分子量が小さく、フレキシビリティにも優れているため、より一層実用性を高めることが可能である。それゆえ、本発明にかかるキメラ抗体は、臨床分野への応用が期待される。
【0038】
より具体的には、応用可能な技術・製品としては、抗体医薬品や診断薬を挙げることができる。抗体は特定の抗原に対して特異的に結合する能力を有する。そのため、例えば、抗体医薬品として用いる場合は、患部の特定細胞(がん細胞等)に生じている抗原に対する抗体を作製すれば、当該特定細胞のみを殺すことができるので、高い治療効果を発揮できるとともに、副作用も軽減することが可能となる。また、診断薬として用いる場合には、特定の疾患に特異的なタンパク質を抗原として、これに対する抗体を作製すれば、抗原抗体反応により検体中に抗原が存在するか否かを確認することができる。
【0039】
本発明は、これまで免疫寛容により抗体を作製することが困難であった、哺乳動物間で相同性の高い抗原に対しても抗体を作製することができるので、上記抗体医薬品や診断薬として幅広い応用が期待される。
【0040】
なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0041】
本発明について、実施例および比較例、並びに図2ないし図9に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0042】
〔発現用ベクターpFabHL−2の構築〕
本発明で用いられる発現用ベクターであるプラスミドpFabHL−2は、図6に示すように、L鎖をコードする配列(便宜上、L鎖フラグメントと称し、図中ではVLおよびCLと表記)およびH鎖をコードする配列(便宜上、H鎖フラグメントと称し、図中ではVHおよびCHと表記)のそれぞれ上流にgene IIIリーダー配列(図中L)を有しており、さらにその上流にlacプロモーター(図中P)を有している。また、H鎖フラグメントの下流にはヒト由来のヒンジ部をコードする配列(ヒンジ配列)にStrepTagIIをつないだ配列(図中H)を有している。
【0043】
上記pFabHL−2は、プラスミドpBluescriptSK(-)をベースとして、図7に示すプラスミドpFabLH−1を用いて構築した。そこで、まず、プラスミドpFabLH−1について説明する。
【0044】
図7に示すように、pFabLH−1は、L鎖フラグメントおよびH鎖フラグメントのそれぞれ上流にSD配列(図中SD)およびgene IIIリーダー配列を有しており、さらにL鎖フラグメントの最上流にはlacプロモーターを有している。また、H鎖フラグメントの下流にはヒト由来のヒンジ配列にStrepTagIIをつないだ配列を有している。このpFabLH−1も、プラスミドpBluescriptSK(-)をベースとして構築した。
【0045】
なお、図8に示すように、pFabHL−2を構築するに当って、制限酵素SalIの認識部位を導入するため、CH1をコードする配列とヒンジ配列との間に2個の塩基置換を生じさせており(CTをGAに置換)、その結果コードされるアミノ酸も置換している(LがDに置換)。
【0046】
まず、次の表1に示すLeaderLF-SacIおよびLeaderLR-Eag/Nheのプライマーペア(便宜上、プライマーペア1と称する)と、LeaderHF-BamおよびLeaderHR-EcoRI/SacIIのプライマーペア(便宜上、プライマーペア2と称する)により、pPDS(Accession number:D50401)をテンプレートとしてSD配列およびgene IIIリーダー配列を含む領域をPCRにより増幅した。なお、表中の下線部を引いた塩基配列はその直下に記載している制限酵素が認識する部位を示している。
【0047】
【表1】

【0048】
得られたPCR産物のうち、プライマーペア1による増幅産物は、SacIおよびEagIで両端を切断し、プライマーペア2による増幅産物は、BamHIおよびEcoRIで両端を切断し、それぞれpBluescriptSK(-)に挿入した。これにより得られたプラスミドをpFabVLVHと称する。
【0049】
次に、表2に示す4本のオリゴヌクレオチドを合成し、Hinge1およびHinge2、並びに、StrepTag1およびStrepTag2をペアとしてそれぞれ表2に示すようにアニールさせた。得られた二本鎖オリゴヌクレオチド断片をリン酸化した。
【0050】
【表2】

【0051】
また、別途、上記pFabVLVHをSalIおよびKpnIで切断した上で、脱リン酸化し、上記リン酸化した二本鎖オリゴヌクレオチド断片と連結した。得られたプラスミドをpFab−HSと称する。このpFab−HSには、ヒンジ配列およびStrepTagIIが挿入されていることになる。
【0052】
次に、表3に示すプライマーペアを用いて、2価抗体発現用のH鎖プラスミド(pcDHF3−15、本発明者らにより先に構築されたニワトリ型組換え2価抗体の重鎖発現用プラスミド、特願2005−056670号(2005年3月1日出願)の明細書および図面参照)をテンプレートとしてPCRによりH鎖フラグメントを増幅した。
【0053】
【表3】

【0054】
また、別途、pBluescriptSK(-)をHincIIで切断しておき、これに上記PCR産物を挿入したプラスミドを作製し、シークエンスによりH鎖フラグメントの塩基配列を確認した。その後、上記プラスミドをHincIIおよびSacIIで切断し、同じ制限酵素で切断した上記pFab−HSに挿入した。得られたプラスミドをpFabH−1と称する。
【0055】
次に、表4に示すプライマーペアを用い、2価抗体発現用のL鎖プラスミド(pcCKL3−15、本発明者らにより先に構築されたニワトリ型組換え2価抗体の軽鎖発現用プラスミド、特願2005−056670号(2005年3月1日出願)の明細書および図面参照)をテンプレートとしてPCRによりL鎖フラグメントを増幅した。
【0056】
【表4】

【0057】
また、別途、pBluescriptSK(-)をXbaIで切断しておき、これに上記PCR産物を挿入したプラスミドを作製し、シークエンスによりL鎖フラグメントの塩基配列を確認した。その後、上記プラスミドをXbaIおよびNheIで切断し、同じ制限酵素で切断した上記pFabH−1に挿入した。これにより、プラスミドpFabLH−1を得た。このpFabLH−1はシークエンスによりその塩基配列を確認した。
【0058】
次に、pFabHL−2の構築について説明する。まず、次の表5に示すLSD-EcoRIおよびLST-XhoIのプライマーペアにより上記pFabLH−1をテンプレートとしてL鎖フラグメントを増幅した。また、次の表6にHSD-SacIおよびHTA-XbaIのプライマーペアにより上記pFabLH−1をテンプレートとしてH鎖フラグメントを増幅した。なお、表中の下線部を引いた塩基配列はプライマーの名称に含まれている制限酵素が認識する部位を示している。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
次に、上記各PCR産物、すなわちL鎖フラグメントおよびH鎖フラグメントをpBluescriptSK(-)に挿入した。なお、pBluescriptSK(-)は、予め上記L鎖フラグメントおよびH鎖フラグメントに対応した制限酵素で切断しておき、L鎖フラグメントから順にpBluescriptSK(-)に挿入した。得られたプラスミドは、シークエンスにより塩基配列を確認した。
【0062】
次に、表7に示すプライマーペアを用いて、pBluescriptSK(-)をテンプレートとしてlacプロモーターを増幅し、BamHIにて切断した。
【0063】
【表7】

【0064】
そして、上記L鎖フラグメントおよびH鎖フラグメントを挿入したプラスミドもBamHIで切断し、脱リン酸価処理を行った後、上記lacプロモーターのBamHIフラグメントを挿入した。これによりプラスミドpFabHL−2を得た。なお、pFabHL−2は、シークエンスによりプロモーターの向きおよび塩基配列を確認した。
【0065】
〔ニワトリ−ヒトキメラ抗体の発現および精製〕
上記pFabHL−2を用いて大腸菌(E. coli)JM109株を形質転換し、本発明にかかるニワトリ−ヒトキメラ抗体を大腸菌で発現させた。大腸菌のペリプラスミの画分を、非還元条件下でSDS−PAGEにより分離し、ウエスタンブロッティングにより抗体を検出した。約90kDaの2価の抗体(F(ab’)2 )と約50kDaのFabを検出することができた。
【0066】
なお、形質転換の方法は公知のE. coliの形質転換方法にしたがったが、形質転換後の細胞の培養については、ニワトリ−ヒトキメラ抗体のより効率的な生産条件を検討するために、培養温度および培養時間を変化させた。その結果、LB培地で30℃、24時間という培養条件であれば、抗体の生産量が最も多かった。
【0067】
また、上記抗体の精製は、C末端に付加したStrepTagIIによるアフィニティーカラムを用いて以下手順で行った。なお、精製に用いた緩衝液の組成を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
まず、培養した大腸菌を集菌した後、上記PE緩衝液に懸濁し、氷上で30分間静置した。遠心後、沈殿を5mMのMgSO4 に懸濁し、氷上で30分間静置した。さらに遠視後、上清をペリプラズム画分とし、カラムに供与した。
【0070】
上清にリン酸緩衝液(pH7.5)およびNaClをそれぞれ最終濃度50mMおよび300mMになるように加え、あらかじめlysis緩衝液で平衡化したstreptactinと4℃で混ぜた。その後、lysis緩衝液で洗浄し、2.5mMのdestiobiotinを含むlysis緩衝液で溶出した。
【0071】
カラムによる精製の結果を図8のSDS−PAGEの電気泳動結果(銀染色)として示す。同図から明らかなように、本発明では、1ステップで抗体をほぼ精製することが可能であった。本発明にかかる抗体は2価抗体であり、1価の抗体とは分子量よりも分子量が大きいため、ゲル濾過カラムにかけることにより容易に分離できると考えられる。
【0072】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0073】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明によれば、2価でより分子量の小さいニワトリキメラ抗体を得ることが可能となる。そのため、ニワトリモノクローナル抗体の実用性をより一層向上させることができる。したがって、本発明は、抗体を用いた物質検出等の試薬関連だけでなく、医薬品、特に、抗体医薬品や診断薬に関わる産業にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の具体的な構造の一例を示す模式図である。
【図2】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の代表例であるニワトリ−ヒトキメラ抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列の対応を示す図である。
【図3】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の代表例であるニワトリ−ヒトキメラ抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列の対応を示す図であり、図2の続きを示す。
【図4】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の代表例であるニワトリ−ヒトキメラ抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列の対応を示す図であり、図3の続きを示す。
【図5】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の代表例であるニワトリ−ヒトキメラ抗体のアミノ酸配列およびそれをコードする塩基配列の対応を示す図であり、図4の続きを示す。
【図6】本発明にかかるニワトリキメラ抗体の生産方法に用いられる発現ベクターの一例を示す模式図である。
【図7】図6に示す発現ベクターの作製に用いられたベクターの構成を示す模式図である。
【図8】図6に示す発現ベクターに含まれるC末端のヒンジ配列とStrepTagIIの塩基配列およびそれから推定されるアミノ酸配列を示す図である。
【図9】実施例において大腸菌で発現させた本発明にかかるニワトリ−ヒトキメラ抗体の精製結果を示す電気泳動図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可変領域がニワトリ由来であるとともに、ヒンジ部が哺乳動物由来であることを特徴とするニワトリキメラ抗体。
【請求項2】
上記ヒンジ部がヒト由来であることを特徴とする請求項1に記載のニワトリキメラ抗体。
【請求項3】
2価の抗体であることを特徴とする請求項1または2に記載のニワトリキメラ抗体。
【請求項4】
ニワトリ由来の可変領域をコードするポリヌクレオチドと、ヒト由来のヒンジ部をコードするポリヌクレオチドとを少なくとも有する発現ベクターを用いて、原核細胞を形質転換することにより生産されることを特徴とする請求項2または3に記載のニワトリキメラ抗体。
【請求項5】
上記原核細胞が大腸菌であることを特徴とする請求項4に記載のニワトリキメラ抗体。
【請求項6】
配列番号1に示されるアミノ酸配列、または、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを重鎖とし、
配列番号2に示されるアミノ酸配列、または、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを軽鎖とすることを特徴とするニワトリ−ヒトキメラ抗体。
【請求項7】
少なくともニワトリ由来の可変領域を含むニワトリキメラ抗体の生産方法であって、
宿主細胞として原核細胞を用いるとともに、
原核細胞内で機能するプロモーターと、ニワトリ由来の可変領域をコードするポリヌクレオチドと、哺乳動物由来のヒンジ部をコードするポリヌクレオチドとを含んでいる発現ベクターを用いて、原核細胞を形質転換することを特徴とするニワトリキメラ抗体の生産方法。
【請求項8】
上記原核細胞が大腸菌であり、プロモーターがlacプロモーターであることを特徴とする請求項7に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法。
【請求項9】
上記ヒンジ部がヒト由来であることを特徴とする請求項7または8に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法。
【請求項10】
上記発現ベクターには、さらに、タグとして機能するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが含まれていることを特徴する請求項7ないし9の何れか1項に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法。
【請求項11】
上記発現ベクターには、さらに、ファージディスプレイ法で利用可能なファージをコードするポリヌクレオチドが含まれていることを特徴とする請求項7ないし10の何れか1項に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法。
【請求項12】
請求項7ないし11の何れか1項に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法を行うためのキット。
【請求項13】
請求項7ないし11の何れか1項に記載のニワトリキメラ抗体の生産方法に用いられる発現ベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−282521(P2006−282521A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−101296(P2005−101296)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】