説明

ニードルパンチ不織布

【課題】低環境負荷であり、自動車内装材として用いることができる耐久性を持ったニードルパンチ不織布を得ること。
【解決手段】エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維20〜40質量%と、ポリエチレンテレフタレート短繊維80〜60質量%とを含み、かつ目付が100〜200g/m、単位質量当たりの引張強力がタテ0.30〜0.60(N/cm)/(g/m)、ヨコ0.48〜0.90(N/cm)/(g/m)であることを特徴とするニードルパンチ不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸短繊維を用いたニードルパンチ不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球規模での環境に対する意識が高まる中で、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されている。
【0003】
このような背景から、非石油系原料、特に植物由来原料(バイオマス)からなり、使用後は自然環境中で最終的に水と二酸化炭素まで分解する自然循環型の環境対応素材が切望されている。そして、この自然循環型の環境対応素材として最も期待されている素材の一つがポリ乳酸(PLA)である。
【0004】
かかる状況下において、ポリ乳酸繊維の開発としては、生分解性を活かした農業資材や土木資材等が先行しているが、それに続く大型の用途として衣料用途や衛生用途、寝装用途およびその他の産業資材用途への応用も期待されている。
【0005】
また、ポリ乳酸繊維(PLA繊維)は、強度と伸度のバランスが良く、ヤング率が低いために布帛としてやわらかな風合いとなることから、不織布の材料としても注目すべきものである。
【0006】
そこで、近年、ポリ乳酸繊維を用いた不織布が自動車用内装材として開発されてきている。すなわち、自動車用内装材として、既に不織布も使用されているが、自動車産業界においては環境対応素材への切り替えの要望が多く、ポリ乳酸繊維を用いた不織布が自動車用内装材として有望視されているのである。そのため、これまでに自動車用内装材を目的としたポリ乳酸繊維を含む不織布の検討がなされてきており、ポリ乳酸繊維のみからなる不織布の他、ポリ乳酸と他の繊維からなる不織布などが開発されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、バイオ由来繊維であるポリ乳酸繊維とポリトリメチレンテレフタレート繊維を使用したニードルパンチ不織布が提案されている。しかし、この特許文献1に記載の技術では、車両用内装材として用いる場合の耐久性が不十分であり、成形時のPLA繊維の融着、成形時の伸びやすさにも課題があった。
【0008】
また、特許文献2には、ポリ乳酸の短繊維を用いた不織布が提案されている。この特許文献2に記載の技術は、不織布を形成する際の収縮を抑制することを目的として、予め熱収縮させて乾熱収縮率の低いポリ乳酸を得て、それによって不織布を構成するものである。自動車内装材の成型には120〜180℃程度に加熱され、その際の収縮による反りや変形が問題視されていたためである。しかし、この特許文献2に記載の技術は収縮の抑制には効果的であるが、耐久性についてはまだ不十分な点があった。また、自動車内装材の成型においては、成形時の収縮の抑制も重要であるが、伸びが良いことが求められる。この点で、特許文献2に記載の技術においては、成形時の伸びの良さについてもまだ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−314913号公報
【特許文献2】特開2005−307359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、非石油系原料を用いた自動車内装材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決する本発明のニードルパンチ不織布は、下記(1)の構成を有する。
(1)エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維20〜40質量%と、ポリエチレンテレフタレート短繊維80〜60質量%を含み、かつ目付が100〜200g/m、単位質量あたりの引張強力がタテ0.30〜0.60(N/cm)/(g/m)、ヨコ0.48〜0.90(N/cm)/(g/m)であることを特徴とするニードルパンチ不織布。
【0012】
また、かかる本発明のニードルパンチ不織布において、好ましくは、さらに下記(2)の構成とするとよい。
(2)前記ニードルパンチ不織布に樹脂加工がされていないことを特徴とする上記(1)記載のニードルパンチ不織布。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、低環境負荷であり、自動車内装材として用いることができる耐久性を持ち、かつ成形時に伸びやすいニードルパンチ不織布を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明のニードルパンチ不織布は、エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維20〜40質量%と、ポリエチレンテレフタレート短繊維80〜60質量%とを含み、かつ目付が100〜200g/m、単位質量当たりの引張強力がタテ0.30〜0.60(N/cm)/(g/m)、ヨコ0.48〜0.90(N/cm)/(g/m)であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のニードルパンチ不織布は、樹脂加工をされていないことが好ましい形態である。樹脂加工がされていないものにすることにより、自動車内装材として用いることが可能な耐久性を持ち、さらに成型時の伸びが良いという、より優れたニードルパンチ不織布を得ることができるのである。
【0016】
本発明で特に好適に用いられるポリ乳酸は、L−乳酸を主体とするものとD−乳酸を主体とするものの2種類が知られているが、本発明においては、いずれを主体としたポリ乳酸を用いてもよい。ポリ乳酸中の乳酸の光学純度が97%以上であれば、樹脂の融点を高くすることができ、耐熱性に優れるため好ましい。一般にポリ乳酸は、光学純度が低下すると結晶性が低下するため、光学純度が低いポリ乳酸から得られた成形物は概して耐熱性が低下してしまい、実用的な成形物を得られない。このことから、光学純度98%以上のポリ乳酸が好適に用いられる。ポリマー1分子中の光学純度が上記値を満たしている場合、例えば、L−乳酸を主体とするポリマーとD−乳酸を主体とするポリマーを溶融混合したポリ乳酸を用いることもできる。この場合には、L−乳酸を主体としたポリ乳酸分子鎖とD−乳酸を主体としたポリ乳酸分子鎖がステレオコンプレックス結晶を形成し、該結晶はホモポリマーと比較して更に高融点となることから、本発明の不織布や、更にはこれから製造される最終成形物にした場合に耐熱性に優れたものとなる。
【0017】
また、ポリ乳酸の重量平均分子量は8万以上であることが、耐熱性、成形性の観点から好ましい。重量平均分子量を8万以上とすることにより、得られる成形物の力学特性が向上し、耐久性に優れたものを得られるばかりでなく、溶融時の流動性や結晶化特性も好ましい範囲とすることが可能となり、本発明に使用されるステープルファイバー(短繊維)を得る際にも安定した生産が可能になる。これらの理由から重量平均分子量は8万〜40万の範囲であるとより好ましく、10万〜25万の範囲が最も好ましい。
【0018】
また、本発明において用いられるポリ乳酸に対して、その特性を維持できる範囲内で他の改質剤、添加剤や他のポリマーを含有することもできる。これら改質剤、添加剤や他のポリマーは重合時に添加してもよいし、先に混練したマスターペレットの形態としてもよいし、直接的にポリ乳酸ペレットと混合して溶融成形してもよい。更に、本発明におけるポリ乳酸は、その特性を維持できる範囲内で他のモノマーを共重合させることもできる。共重合成分としてはジカルボン酸やジオール、ヒドロキシカルボン酸及びこれらの変性体などが挙げられる。これらの共重合成分の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリ乳酸に対して40モル%を超えない範囲で共重合を行うと基質となる脂肪族ポリエステルの特性を大幅に変化させずに改質効果が得られるため好適である。
【0019】
また、本発明のニードルパンチ不織布に用いるポリ乳酸短繊維においては、ポリ乳酸の末端封鎖剤として、エポキシ系化合物を含有することが重要である。特に、3官能以上のエポキシ系化合物を含有させ、さらにこの3官能以上のエポキシ系化合物をポリ乳酸の少なくとも一部に反応させること、望ましくはポリ乳酸の末端の少なくとも一部に反応させることが好ましい。上記3官能以上のエポキシ系化合物は、化合物1分子中にエポキシ基を3個以上有するものである。化合物1分子に対してエポキシ基を3個以上とする理由としては、ポリ乳酸と溶融混練を行う際、一部がポリ乳酸と反応し、また、再度溶融成形を行う際に残存したエポキシ基が更にポリ乳酸と反応することで分子量が増大し、最終成形物の耐久性を飛躍的に向上させることが可能となる。また、エポキシ系化合物は、他の末端反応性物質、例えばカルボジイミド化合物と比較してポリ乳酸に対する反応速度が遅い。そのため、ポリ乳酸に添加する物質をエポキシ化合物とすればポリ乳酸の分子量が極端に大きくなることがないため、エポキシ基全てがポリ乳酸と反応した構造となりにくく、ポリ乳酸短繊維中に未反応のエポキシ基が残存した構造とすることが容易となる。
【0020】
また、本発明に用いられる3官能以上のエポキシ系化合物は、グリシジルオキシカルボニル基またはN−(グリシジル)アミド基を1分子内に少なくとも1個持つ化合物であることがより好ましい。
【0021】
本発明に用いるポリ乳酸としては、エポキシ系化合物との反応性を示すポリ乳酸中のCOOH末端基濃度が、1〜20当量/tの範囲にあることが重要である。ポリ乳酸のCOOH末端基濃度を20当量/t以下とする理由については、保管時や船便での輸送などに際して、加水分解による劣化を受けやすいポリ乳酸の耐久性を向上させることが可能となることが挙げられる。また、COOH末端基濃度は1当量/t未満であると、短繊維の製造が極めて難しくなる。
【0022】
本発明に用いるポリ乳酸短繊維としては、エポキシ系化合物を末端封鎖剤として添加することが必要である。エポキシ系化合物にて末端封鎖されたポリ乳酸短繊維を用いることで、本発明のニードルパンチ不織布は、自動車内装材として必要な耐久性を得ることができる。
【0023】
エポキシ系化合物のポリ乳酸短繊維に含まれる濃度としては、ポリ乳酸短繊維中のエポキシ残価が0.1〜0.5当量/kgであることが好ましい。
【0024】
エポキシ残価とは、JIS K7236:2001:エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方に準じて行うものであり、試料をビーカーにとり、クロロホルム20mlを加え、溶解し、酢酸40mlおよび臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mlを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行なう。その後、試料による0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液消費量を補正するため、試料にクロロホルム・酢酸のみを加え、滴定した値を差し引きして補正を行う方法により算出したものである。
【0025】
ポリ乳酸短繊維中のエポキシ残価が0.1当量/kg未満の場合、ポリ乳酸と反応するエポキシ系化合物の量が少ないことから、自動車内装材として使用するために必要な耐久性を得ることができない。また、0.5当量/kgよりも大きいと、ポリ乳酸ポリマーとエポキシ系末端封鎖剤が増粘し短繊維の製造が極めて難しくなる。
【0026】
本発明に使用できる3官能以上のエポキシ化合物として耐熱性やエポキシ指数による反応効率を考慮した場合、7,8−ジメチル−1,7,8,14−テトラデカンテトラカルボン酸テトラキス(オキシラニルメチル)、7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン−3,4−ジカルボン酸ジグリシジル、トリグリシジルイソシアヌレートが好ましく、更に反応性が高く取り扱い性に優れることから、単量体としてトリグリシジルイソシアヌレートを用いると特に好適である。トリグリシジルイソシアヌレートは融点が約100℃の粉体であり、取り扱いが容易であるほか、本発明に用いるポリ乳酸ポリマーと溶融混合した際にトリグリシジルイソシアヌレートが溶融することで、ポリ乳酸中に3官能以上のエポキシ化合物が微分散した構造とすることができ、樹脂の溶融粘度や分子量の斑を低減でき、本発明に用いるポリ乳酸短繊維を安定して製造することが可能となる。更には、化合物自体の結晶性に優れることから、特に本発明に用いるポリ乳酸短繊維を用いた溶融成形品の製造に際して、エポキシ化合物の飛散による発煙を抑制することが可能となることから好適である。
【0027】
本発明に用いられるポリ乳酸短繊維は、単繊維繊度が0.01〜25dtexの範囲に設定することが好ましい。カード、ニードルパンチ工程の通過性からは、1.5〜20dtexが好ましい。また、ポリ乳酸短繊維の断面形状は、特に限定されず、例えば、丸断面、三葉断面、十字断面、W型断面、H型断面、丸形中空断面あるいは「田」の字形中空断面などで形成できるが、丸断面が製造の容易さから好適である。
【0028】
また、本発明のポリ乳酸短繊維の強度は、0.8cN/dtex以上であることが好ましい。強度が0.8cN/dtex以上であるとカードやニードルパンチ工程での糸切れが少なく、安定した加工が可能となる。また、上限は特に規定されるものではないが、ポリ乳酸繊維の通常の強度から考えると8cN/dtex以下であれば問題ない。このことから、本発明のポリ乳酸短繊維の強度は、0.8〜8cN/dtexの範囲であることが好適である。
【0029】
また、ポリ乳酸短繊維は、短繊維を熱セットして繊維を収縮させることで、短繊維の150℃、20分の乾熱処理における乾熱収縮率を小さくしておくことが好ましい。その収縮率は、0.0〜2.0%の範囲であると、不織布が成型されるときの寸法変化を低減することができるために好適である。
【0030】
繊維長は、特に限定されるものではなく、従来からの短繊維で用いられる0.1〜100mmの範囲のものが使用可能である。カード、ニードルパンチ工程の通過性の観点からは、20〜80mmが好ましく、更に好ましくは、30〜70mmの範囲である。
【0031】
本発明に用いるポリ乳酸短繊維は、捲縮が付与されているものが好ましい。ポリ乳酸短繊維への捲縮の付与方法は従来から知られている方法でよく、例えば、スタッフィングボックス法、押し込み加熱ギア法、高速エアー噴射押し込み法等が挙げられる。また、必要に応じて、油剤を仕上げ剤として延伸後や捲縮付与後に付与することも好適に用いられる。捲縮の程度は、捲縮数で6〜25山/25mm、捲縮度で10〜40%が好ましく、より好ましくは、捲縮数で8〜15山/25mm、捲縮度で15〜30%とするのがよい。
【0032】
本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート短繊維は、従来から知られているものを使用することができる。その単繊維繊度は、特に限定されるものではないが、ポリ乳酸短繊維との混綿の観点から、0.01〜25dtexであることが好ましい。カード、ニードルパンチ工程の通過性からは、1.5〜20dtexが好ましい。
【0033】
また、ポリエチレンテレフタレート短繊維の断面は特に限定されるものではなく、丸断面、三葉断面、十字断面、W型断面、丸形中空断面や「田」の字形中空断面などを使用することが可能であるが、丸断面が製造の容易さから好適である。
【0034】
また、本発明に用いられるポリエチレンテレフタレート短繊維の強度は、0.8cN/dtex以上であることが好ましい。強度が0.8cN/dtex以上であるとカードやニードルパンチ工程での糸切れが少なく、安定した加工が可能となる。また、上限は特に規定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート繊維の通常の強度から考えると8cN/dtex以下であれば問題はない。このことから、本発明のポリエチレンテレフタレート短繊維の強度は、0.8〜8cN/dtexの範囲であることが好適である。
【0035】
繊維長は特に限定されるものではなく、従来からあるものと同一の長さレベルの短繊維であれば少なくとも用いられ得るものであり、0.1〜100mmの範囲のものが使用可能である。さらに、カード、ニードルパンチ工程の通過性の観点からは、20〜80mmが好ましく、更に好ましくは30〜70mmの範囲である。
【0036】
本発明のニードルパンチ不織布は、エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維が20〜40質量%、ポリエチレンテレフタレート短繊維を80〜60質量%の割合で混綿することが重要である。ニードルパンチ不織布の混綿の割合が、前記範囲内にあると、成型時の繊維融着がほとんどなく、成形時の伸びが良い不織布を得ることができる。
【0037】
本発明のニードルパンチ不織布は、不織布中に高温下で伸びやすいポリエチレンテレフタレート短繊維が存在することで、高温下での不織布の伸びが良くなるという特性がある。このことから、車輌内装材等の金型で成型する用途においては、従来使用されていたポリエチレンテレフタレート短繊維の不織布よりも、伸びやすく、より成型しやすい特徴がある。
【0038】
不織布中のエポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維が40質量%よりも大きいと、成形時の繊維の融着が発生しやすくなり、エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維が20質量%未満となると成型時の伸びが悪くなるばかりか、バイオマス比率も低くなる。また、本発明のニードルパンチ不織布は、目付が100〜200g/mで製造することが重要である。目付が前記範囲内であると、成型時に伸びやすく、成型後、深絞り部分の不織布のスケがほとんどないニードルパンチ不織布を得ることができる。
【0039】
また、本発明のニードルパンチ不織布の単位質量当たり引張強力は、タテ0.30〜0.60(N/cm)/(g/m)、ヨコ0.48〜0.90(N/cm)/(g/m)の範囲であることが重要である。タテ0.30(N/cm)/(g/)未満、ヨコ0.48(N/cm)/(g/m)未満となると、成型に必要な不織布の強力が不足することが多く、一方、タテが0.60(N/cm)/(g/)よりも大きく、ヨコが0.90(N/cm)/(g/)よりも大きくなると成型後の成型体の寸法変化が大きくなり、成型体同士の合わせが難しくなることや、高温下での寸法変化が大きくなることから好ましくない。
【0040】
本発明のニードルパンチ不織布の引張強力は、構成繊維の繊度比率や引張強度、繊維の絡合状態(ニードルパンチ針本数やパンチ回数)によって調整することができる。
【0041】
例えば、構成繊維の繊度は1.5〜10dtexのものが好ましく、その場合、構成比率としては1.5〜5dtexが10〜60%、5〜10dtexが40〜90%の比率であることが好ましい。構成繊維の繊度は、さらに好ましくは2.2〜8dtexである。
【0042】
構成繊維の引張強度は、ポリ乳酸繊維の強度としては1.0〜3.0cN/dtex、ポリエチレンテレフタレートの強度としては2.0〜5.0cN/dtexとし、生産時の繊維絡合状態としては、ニードルパンチの針本数として200〜600本/cmとする。なお、1.5〜5dtexの繊維比率が10〜30%の場合は200〜400本/cm、1.5〜5dtexの繊維比率が30〜60%の場合は300〜600本/cmが好ましい。
【0043】
本発明のニードルパンチ不織布は、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂等の樹脂が付着されていないことが好ましい。自動車内装材用途の不織布には一般に前記樹脂による樹脂加工を施すことがあるが、このような樹脂加工は、本発明のニードルパンチ不織布の最も大きな特徴の一つである成型時の伸びの良さを抑制してしまうためである。
【0044】
また、本発明のニードルパンチ不織布の製造方法は特に限定されないが、従来から知られているニードルパンチ不織布の製造方法にて製造することができる。すなわち、短繊維を開繊、混綿し、カードマシンからフリースを紡出させた後、そのフリースをニードルパンチ機にてパンチすることにより製造することができる。ニードルパンチの針本数は、好ましくは200〜600本/cmである。
【0045】
本発明のニードルパンチ不織布は、耐久性が高く、成型時に伸びやすいことから、自動車の天井材、フロアカーペット、オプションマット、ラゲージ表皮あるいはトリム表皮等の立体的な形態を持つ自動車内装材用途の全般に好適に使用することができる。
【実施例】
【0046】
製造例1
重量平均分子量(Mw)が14万、分散度(Mw/Mn)が1.7、光学純度が97%以上のL−ポリ乳酸からなる粒度35mg/個、COOH末端基濃度25.2当量/tであるポリ乳酸チップを紡糸機ホッパーに仕込み、一方のホッパーからは、顔料(カーボンブラック)と3官能以上のエポキシ化合物(トリグリシジルイソシアヌレート)を投入し、エクストルーダー型紡糸機を用い220℃で溶融し、300ホールを有する口金から吐出量510g/分で紡出し、紡糸速度1000m/分で引き取りした。同様にした複数の糸条を合糸しキャンに受けた。そして、この延伸糸をさらに合糸して27.7ktexのトウとし、80℃の水槽中で3.5倍に延伸した後、スタッフィングボックスで捲縮を付与した。次いで、130℃でリラックス熱処理を行い、油剤を付与した後、カットし、単繊維繊度6.7dtex、繊維長51mm、強度2.1cN/dtex、伸度75.0%、捲縮数9.8山/25mm、捲縮度13.9%、乾熱収縮率1.2%、カルボキシル基末端量6.6当量/t、エポキシ残価0.166当量/kgの本発明に用いるポリ乳酸短繊維SF1を得た。
【0047】
製造例2
重量平均分子量(Mw)が14万、分散度(Mw/Mn)が1.7、光学純度が97%以上のL−ポリ乳酸からなる粒度35mg/個、COOH末端基濃度25.2当量/tであるポリ乳酸チップを紡糸機ホッパーに仕込み、一方のホッパーからは、顔料(カーボンブラック)を投入し、エクストルーダー型紡糸機を用い220℃で溶融し、300ホールを有する口金から吐出量510g/分で紡出し、紡糸速度1000m/分で引き取りした。同様にした複数の糸条を合糸しキャンに受けた。そして、この延伸糸をさらに合糸して27.7ktexのトウとし、80℃の水槽中で3.5倍に延伸した後、スタッフィングボックスで捲縮を付与した。次いで、130℃でリラックス熱処理を行い、油剤を付与した後、カットし、単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.0cN/dtex、伸度72.8%、捲縮数10.5山/25mm、捲縮度12.8%、乾熱収縮率1.0%、カルボキシル基末端量26.7当量/t、エポキシ残価<0.005当量/kgの本発明に用いるポリ乳酸短繊維SF2を得た。
【0048】
[測定方法]
(1)ポリ乳酸の重量平均分子量
試料のクロロホルム溶液にテトラヒドロフランを混合し、測定溶液とした。これをゲルパーミテーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量を求めた。
【0049】
(2)単繊維繊度(dtex)
JIS L 1015(1999) 8.5.1 A法に基づき、試料若干量を金ぐしで平行に引きそろえ、これを切断台上においたラシャ紙の上に載せ、適度の力でまっすぐに張ったままゲージ板を圧着し、安全かみそりの刃で30mmの長さに切断し、繊維を数えて300本を一組とし、その質量を量り見掛繊度を求めた。この見掛繊度と別に測定した平衡水分率とから、次式によって単繊維繊度(dtex)を5回の平均値から算出した。
=D’×{(100+R)/(100+R)}
=正量繊度(dtex)
D’=見掛繊度(dtex)
=ポリ乳酸の水分率(0.5%)
=平衡水分率
【0050】
(3)繊維長
JIS L 1015(1999) 8.4.1 A法に基づき試料を金ぐしに平行に引きそろえ、ペア形ソーターでステープルダイヤグラムを約25cm幅に作成する。作成の際、繊維を全部ビロード板上に配列するためにグリップでつかんで引き出す回数は、約70回とする。この上に目盛りを刻んだセルロイド板を置き方眼紙上に図記する。この方法で図記をしたステープルダイヤグラムを50の繊維長群に等分し、各区分の境界及び両端の繊維長を測定し、両端繊維長の平均に49の境界繊維長を加えて50で除し、平均繊維長(mm)を算出した。
【0051】
(4)強度、伸度
JIS L 1015(1999) 8.7.1に基づき、空間距離20mm、繊維を一本ずつ区分線に緩く張った状態で両端を接着剤で貼り付けて固着し、区分ごとを1試料とする。試料を引張試験器のつかみに取付け、上部つかみの近くで紙片を切断し、つかみ間隔20mm、引張速度20mm/分の速度で引っ張り、試料が切断したときの荷重(N)および伸び(mm)を測定し、次の式により引張強さ(cN/dtex)及び伸び率(%)を算出した。
=SD/F
:引張強さ(cN/dtex)
SD:破断時の荷重(cN)
:試料の正量繊度(dtex)
S={(E−E)/(L+E)}×100
S:伸び率(%)
:緩み(mm)
:切断時の伸び(mm)または最大荷重時の伸び(mm)
L:つかみ間隔(mm)
【0052】
(5)捲縮数
JIS L 1015(1999) 8.12.1に基づき上記(4)項の強度、伸度と同じ方法にて、区分線を作り(ただし、空間距離は25mmとした)、これに捲縮が損なわれていない数個の部分から採取した試料を1本ずつ、空間距離に対して25±5%の緩みをもたせて、両端を接着剤ではり付け固着させる。この試料を1本ずつ、捲縮試験機のつかみに取り付け、紙片を切断した後、試料に初荷重(0.18mN×表示テックス数)をかけたときのつかみ間の距離(空間距離)(mm)を読み、そのときの捲縮数を数え、25mm間当の捲縮数を求め、20回の平均値を求めた。
【0053】
(6)捲縮度
JIS L 1015(1999) 8.12.2に基づき試料に初荷重(0.18mN×表示テックス数)かけたときの長さと、これに荷重(4.41mN×表示テックス数)をかけたときの長さを測り、次式によって算出した。
={(b−a)/b}×100
:捲縮度(%)
a:初荷重をかけたときの長さ(mm)
b:4.41mN×テックス数をかけたときの長さ(mm)
【0054】
(7)乾熱収縮率
JIS L 1015(1999) 8.15に基づき、(4)項の強度、伸度と同じ方法にて区分線を作り(ただし、空間距離は25mmとした)、初荷重をかけたときの距離(mm)を読む。
【0055】
試料を装置から取り外し、150度の乾燥機中につり下げ、30分間放置後取り出し、室温まで冷却後、再び装置に取り付け初荷重をかけたときのつかみ間の距離を読み次式によって乾熱収縮率を測定した。
={(L−L’)/L}×100
:乾熱収縮率(%)
L:処理前の初荷重をかけたときのつかみ間の距離(mm)
L’:処理後の初荷重をかけたときのつかみ間の距離(mm)
【0056】
(8)不織布の目付(g/m
JIS L 1913(1999) 6.2に基づき、25cm×25cmの試験片3枚を採取し、それぞれの標準状態における質量(g)を量り、次の式によって、1m当たりの質量(g/m)を求め、その平均値を算出した。
=W/A
:目付(g/m
W:標準状態における試験片の質量(g)
A:試験片の面積(m
【0057】
(9)エポキシ残価
JIS K7236:2001:エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方に準じて行った。試料をビーカーにとり、クロロホルム20mlを加え、溶解し、酢酸40mlおよび臭化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液10mlを加え、0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液で電位差滴定を行った。その後、試料による0.1mol/L過塩素酸酢酸溶液消費量を補正するため、試料にクロロホルム・酢酸のみを加え、滴定した値を差し引きし、補正を行う方法により算出した。
【0058】
(10)カルボキシル基末端濃度
精秤した試料をo−クレゾール(水分5%)に溶解し、この溶液にジクロロメタンを適量添加した後、0.02規定のKOHメタノール溶液に滴定することにより求めた。このとき、乳酸の環状2量体であるラクチド等のオリゴマーが加水分解し、カルボキシル基末端を生じるため、ポリマーのカルボキシル基末端およびモノマー由来のカルボキシル基末端、オリゴマー由来のカルボキシル基末端の全てを合計したカルボキシル基末端濃度が求まる。
【0059】
(11)単位質量当たりの引張強力
JIS L 1913(1999) 6.3.1に基づき、インストロン型引張試験機を用い、幅30mm、つかみ間隔150mm、引張速度200mm/分にて試験片が切断するまで荷重を加え、試験片の最大荷重時の強さg0を0.1N単位で測定した。
【0060】
その後、上記(8)項で測定した不織布目付Smを次式にて割返し、単位質量当たりの引張強力を5回の平均値から算出した。
単位質量当たりの引張強力=g0/Sm
g0:試験片の最大荷重時の強さ
Sm:不織布の目付
【0061】
(12)高温雰囲気下での引張強力
試験片を130℃の雰囲気下で1分間放置した後、上記(9)項の単位質量当たりの引張強力と同様にして、測定をした。
【0062】
(13)耐久性
試験片25cm×25cmを80℃×30%Rh雰囲気下で500時間処理した後、不織布の外観変化を確認し、ポリ乳酸短繊維の劣化による著しい外観変化の有無を確認した。有無の判断基準は以下のとおりとした。
あり:ニードルパンチ不織布表面からポリ乳酸短繊維の劣化による粉体が発生するもの。
なし:ニードルパンチ不織布表面からポリ乳酸短繊維の劣化による粉体の発生がないもの。
【0063】
(14)成型後のポリ乳酸繊維の溶融
成型品の表皮表面を観察して、以下の基準により評価した。
あり:成型品の表皮表面にポリ乳酸繊維の融着による硬化部分がある。
なし:成型品の表皮表面にポリ乳酸繊維の融着による硬化部分がない。
【0064】
実施例1〜3、比較例1
〔混綿〕
ポリ乳酸短繊維SF1(6.6dtex、繊維長51mm)とポリエチレンテレフタレート短繊維SF3(単繊維繊度3.6dtex、繊維長51mm、強度3.0cN/dtex、伸度38.3%、捲縮数12.0山/25mm、捲縮度21.5%、乾熱収縮率1.5%)、ポリエチレンテレフタレート短繊維SF4(単繊維繊度6.7dtex、繊維長51mm、強度3.3cN/dtex、伸度68.0%、捲縮数13.2山/25mm、捲縮度20.2%、乾熱収縮率1.5%)を表1記載の比率にて計量器にて計量し、混打綿機に投入した。
【0065】
〔カード、ニードルパンチ〕
混綿した短繊維をメタルカードマシンに投入し、紡出量20g/mにて短繊維が交絡したフリースを紡出し、それをクロスラッパーにて9枚積層した。
【0066】
積層したフリースを針番手#38番、針深度15mm、1回目の針密度42本/cmのニードルパンチ機にて10回表裏から交互にパンチし、針本数420本/cmのニードルパンチ不織布を得た。得られたニードルパンチ不織布の物性を表1に示す。
【0067】
得られた実施例1〜3のニードルパンチ不織布は、成型時に伸びやすく、かつ成型後のポリ乳酸繊維の融着も見られず、耐久性にも優れ、車輌内装表皮として良好な特性を示した。一方、比較例1の不織布は、成型後ポリ乳酸繊維の溶融が見られ、外観品位、不織布の単位質量当たりの強力が実施例に比べて劣っていた。
【0068】
比較例2
〔混綿〕
ポリエチレンテレフタレート短繊維SF3、ポリエチレンテレフタレート短繊維SF4を表1の比率にて計量器にて計量し、混打綿機に投入した。
【0069】
以降の工程は、実施例1と同様の製造工程にてニードルパンチ不織布を得た。
【0070】
得られた不織布は、引張強力に優れていたものの、成型時にやや伸びにくい特性であった。
【0071】
比較例3
ポリ乳酸短繊維SF2(単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.0cN/dtex、伸度72.8%、捲縮数10.5山/25mm、捲縮度12.8%、乾熱収縮率1.0%)とポリエチレンテレフタレート短繊維SF3、そしてポリトリメチレンテレフタレート短繊維SF5(単繊維繊度6.6dtex、繊維長51mm、強度2.0cN/dtex、伸度93.5%、捲縮数8.6山/25mm、捲縮度5.4%、乾熱収縮率0.7%)を表1に比率にて計量器にて計量し、混打綿機に投入した。
以降の工程は、実施例1と同様の製造工程にてニードルパンチ不織布を得た。
【0072】
得られた不織布は、成型時伸びやすい特性であったものの、成型後の成型体表面にポリ乳酸繊維の融着が見られたことや、耐久性も実施例と比較して劣り、車両内装材として適さないものであった。
【0073】
比較例4
ポリ乳酸短繊維SF2を表1の比率にて計量器にて計量し、混打綿機に投入した。以降の工程は、実施例1と同様の製造工程にてニードルパンチ不織布を得た。
【0074】
得られた不織布は、成型時伸びやすい特性であったものの、成型後の成型体表面にポリ乳酸繊維の融着が見られたことや、耐久性も実施例と比較して劣り、車両内装材として適さないものであった。
【0075】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ系化合物を含有するポリ乳酸短繊維20〜40質量%と、ポリエチレンテレフタレート短繊維80〜60質量%を含み、かつ目付が100〜200g/m、単位質量あたりの引張強力がタテ0.30〜0.60(N/cm)/(g/m)、ヨコ0.48〜0.90(N/cm)/(g/m)であることを特徴とするニードルパンチ不織布。
【請求項2】
前記ニードルパンチ不織布に樹脂加工がされていないことを特徴とする請求項1記載のニードルパンチ不織布。

【公開番号】特開2010−270425(P2010−270425A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125712(P2009−125712)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】