説明

ネギ由来のサポニンを有効成分とする抗菌活性剤

【課題】ネギ(Allium fistulosum.L)由来のサポニンを用いた抗菌活性剤を提供する。
【解決手段】廃材であるネギの根および盤茎から抽出したサポニン含有物が、農作物に多大な被害を与える植物病原菌や、ヒト日和見細菌に殺菌効果を示すことを見出し、ネギの根および盤茎から抽出したサポニンを有効成分とする、植物病原菌およびヒト日和見細菌に対する天然物由来の安全な殺菌作用を有する抗菌活性剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネギ(Allium fistulosum.L)由来のサポニンを有効成分とした抗菌活性剤に関する。詳しくは、廃材であるネギの根あるいは葉鞘基部(以下「盤茎」)から抽出したサポニン含有抽出物を利用した、植物病原菌およびヒト日和見細菌に対する抗菌活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野においては、病害の80%が糸状菌によって、10%が細菌によってひきおこされる。これらの植物病原微生物の感染・増殖を抑える種々の化合物が開発され、それらは化学農薬として用いられている。しかしながら、近年の食の安全、安心への意識の高まりや、環境への配慮から、植物など天然物由来の抗菌物質が注目されるようになっている。
【0003】
多くの植物は抗菌性の二次代謝物を生産し、組織に蓄積している。これらの二次代謝物は病原菌に対する化学的障壁と推察されており、先在性抗菌物質(ファイトアンティシピン)と呼ばれている。ファイトアンティシピンの一種であるサポニンは、構造的にはトリテルペンやステロイドにオリゴ糖(2個以上の糖が結合したもの)が結合した配糖体の一種であり(非特許文献1、2)、ステロイドサポニンは、構造の違いによりフロスタノール型サポニンとスピロスタノール型サポニンに分類される(非特許文献3)。
【0004】
サポニンの特性は、親水基と疎水基とが共存しているため、石鹸と同じように油を溶かす界面活性作用があり、水で洗浄することができる。またサポニンは、細胞膜の構造を破壊したり、物質の透過性を高めたりする作用も持っている。サポニンに溶血作用があるのは、赤血球膜中のコレステロールがサポニンと強く結合し、膜構造が壊されてしまうためと考えられている(非特許文献3)。サポニンの中には、ヒトに対して、抗炎症、解熱、抗腫瘍作用など、有用な生物活性を示すものが存在する。たとえば、トマトに含まれるα-トマチンは免疫応答の促進やコレステロールの低下作用があり(非特許文献4)ジギタリスに含まれるジギトニンは心臓血管の治療に使用されている(非特許文献5、6)。さらに、メキシコヤマイモに含まれるジオスゲニンはヒト大腸ガン細胞の増殖を抑制する(非特許文献7)。また一方で、哺乳動物に対する溶血、血球凝集、魚類に対する毒作用、微生物に対する抗菌性など、真核細胞の機能を障害する生物活性も有している(非特許文献3)。
【0005】
最近、いくつかのAllium属植物のサポニンの中に、すぐれた生物活性を有するものが含まれていることが明らかになった(非特許文献8、9)。ノビル(Allium macrostemon )のステロイドサポニンであるマクロステモノシドAは抗糖尿病活性があり、グルコース代謝を調節する(非特許文献10)。また、わが国における一般的な食用ネギである九条ネギ(Allium fistulosum L.)のステロイドサポニンは、糸状菌に対して抗菌性を持つ(非特許文献11)。ネギ属植物の持つ殺菌効果を利用する発明として、ニンニク、ラッキョウ、ネギ、タマネギ等から抽出したエキス、好ましくはこれらの植物体の絞り汁、水抽出液、水蒸気蒸留による香気成分、液化炭酸ガスによる抽出物を含有し、細菌やカビの胞子を殺菌する胞子殺菌剤(特許文献1)、タマネギの揮発成分、好ましくはタマネギの破砕物を水戻しして得られる揮発成分を有効成分とする抗菌剤(特許文献2)、さらに、シャロットの球根由来の抗糸状菌化合物(特許文献3)が開示されている。しかしながら、特許文献3においても、シャロット由来の化合物以外は開示されておらず、他のネギ属由来のサポニンについて明らかにしたものではない。また、これらの発明の多くは、球根部から抽出したエキスに関するもので、廃棄される部位(根および盤茎)に含まれる抗菌活性物に関するものではない。我が国において、ネギは、食卓に欠かせない野菜であり、年間を通じて栽培・出荷されており、廃棄される部位の有効な利用が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−016514号公報(図1)
【特許文献2】特開2007−267639号公報(表1、図2)
【特許文献3】特開2010−077100号公報(表2、図6)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】北川 勲・磯部 稔,天然物化学・生物有機化学I―天然物化学―,朝倉書店, 88−89,2008
【非特許文献2】前田 幸恵,山口大学農学部 卒業論文 2009
【非特許文献3】Sparg SG,et al.J Ethnopharm 94:219−243 2004
【非特許文献4】Friedman M,J Agric Food Chem 50:5751−5780 2002
【非特許文献5】Haridas V,et al.Proc Natl Acad Sci USA 98:11557−11562 2001
【非特許文献6】Haridas V,et al.Proc Natl Acad Sci USA 98:5821−5826 2001
【非特許文献7】Raju JP,et al.Cancer Lett 255:194−204 2007
【非特許文献8】Chen H−F,et al.Molecules 14:2246−2253 2009
【非特許文献9】Do JC,et al.J Nat Prod 2:168−173 1992
【非特許文献10】Zhou H,et al.Biol Pharm Bull 30: 279−283 2007
【非特許文献11】甲斐 詳乃,山口大学農学部 卒業論文 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ネギ由来のサポニンを用いた抗菌活性剤を提供することをその主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、廃材であるネギの根および盤茎から抽出したサポニン含有物が、植物病原菌や、ヒト日和見細菌に殺菌効果を示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)を提供する。
【0011】
(1)ネギ(Allium fistulosum.L)の廃材から抽出したサポニンを有効成分とする抗菌活性剤。
【0012】
(2)ネギの廃材がネギの根または盤茎である上記(1)に記載の抗菌活性剤。
【0013】
(3)ネギの廃材から抽出したサポニンが、脂肪族炭化水素系溶媒に溶解せず、アルコール類に溶解性を示すものであり、かつ、薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)で展開したRf値が、0.2〜0.49であり、UV照射(254nm)で蛍光を発し、p−アニスアルデヒド試薬により緑色に発色する特徴を有するものである、上記(1)または(2)のいずれかに記載の抗菌活性剤。
【0014】
(4)植物病原糸状菌、植物病原細菌、およびヒト日和見細菌に対する増殖抑制活性を有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の抗菌活性剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のサポニン含有物は、農作物に多大な被害を与える炭そ病菌等の植物病原糸状菌の他、植物病原細菌およびヒト日和見細菌に対し、増殖抑制効果を示すことから、天然物由来の安全な殺菌作用を有する抗菌活性剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各種ネギ属から抽出したサポニンのTLCパターンを、波長254nmで照射した時の図面に代わる写真である。
【図2】各種炭そ病菌(Colletotrichum属菌)に対するシャロットの盤茎サポニンと、NSS葱59号の根サポニンの抗菌性を示した図である。
【図3】各Fusarium oxysporum菌に対するシャロットサポニンと、NSS葱59号サポニンの抗菌性を示した図である。
【図4】切り出したNSS葱15号の根サポニン各フラクションのTLCパターンを、波長254nmで照射した時の図面に代わる写真である。
【図5】Magnaporthe griseaおよびColletotrichum gloeosporioidesに対するNSS葱15号の根サポニン抽出物をTLC分画した各フラクションの抗菌性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のネギ(Allium fistulosum.L)とは、単子葉植物綱・ユリ目・ユリ科・ネギ属(Allium:以下「A.」)に属する植物である。ネギ属は、世界的にみると、主に北半球に分布し、300種以上の栽培品種が存在する。日本に自生している主な自生種としては、ニラ(A.Tuberosum)、イトラッキョウ(A.virgunculae)、ノビル(A.macrostemon)、アサツキ(A.schoenoprasum)などがあり、食用などに栽培されている栽培種としては、タマネギ(A.cepa L.)、ネギ(A.fistulosum L.)、リーキ(A.porrum L.)、ニンニク(A.sativum L.)、ラッキョウ(A.chinensis)、シャロット(Allium cepa L.)などがある。日本においては、ネギは、食卓に欠かせない野菜であり、年間を通じて栽培・出荷されていることから、経済的にも重要な農作物になっている。
【0018】
本発明のネギの廃材とは、主にネギの根、盤茎、盤茎を含む葉身基部をいうが、不要な葉身や球根も含まれる。ネギの種類としては、山口県産ネギの「NSSネギ15号」、「NSSネギ59号」、「ふゆひこ」、埼玉県産ネギの「羽録」、群馬県産ネギの「下仁田ネギ」、東京都産ネギの「千住ネギ」、石川県産ネギの「加賀ネギ」、栃木県産ネギの「曲がりネギ」、京都府産ネギの「九条ネギ」、広島県産ネギの「観音ネギ」、福岡県産ネギの「万能ネギ」、高知県産ネギの「やっこネギ」、愛知県産ネギの「越津ネギ」、岐阜県産ネギの「徳田ネギ」の他、ワケギ等がある。
【0019】
本発明のサポニンは、前記各種ネギ属から得られた廃材を原料として、溶媒抽出・精製工程を経て得ることができる。抽出工程としては、ネギサポニンが収率良く得られる方法であれば、いかなる方法でも良いが、以下の工程を行うことが望ましい。(1):原料の破砕または磨砕、(2):破砕物に、脂肪族炭化水素系溶媒、好ましくはヘキサンを加え、同溶媒に溶解性を有する物質を除去、(3):脂溶性物質を除去した残留物に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール溶媒、好ましくはメタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を抽出、(4):前記抽出物から乾燥等によりアルコール溶媒を除き、残留物を水に溶解する。ここに、水と分離できる脂肪族炭化水素系溶媒ではない溶媒、好ましくはブタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を水溶液から分離抽出、(5):吸引乾燥等により溶媒を除去し、粗サポニンを得る。
【0020】
ネギ廃材より抽出された粗サポニンは、精製することにより効果を高めることができ、商品としての価値も高くなると考えられる。精製工程としては、ネギサポニンが収率良く得られる方法であれば、いかなる方法でも良いが、以下の工程を行うことが望ましい。(1):薄層クロマトグラフィー(例えば、展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)を行う、(2):UV照射(波長254nm)により、サポニン区分のスポットを確認する。(3):サポニン区分のスポットの部分を掻き取る、(4):溶媒を加えて溶解し、遠心分離により残渣を除去し、抽出した溶媒から自然乾燥して精製サポニンを得る。
【0021】
精製サポニンは、薄層クロマトグラフィーで展開したのち、スポットをUV照射(波長254nm)により確認することができるが、p−アニスアルデヒド試薬やEhrlich’s試薬を、前記薄層に噴霧して、発色させて確認することもできる。
【0022】
精製サポニンは、展開溶媒:クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5で展開したTLCにおいて、Rf値が0.2〜0.49に位置する。Rf値が、0.2〜0.49の間は、数種のサポニンが混在してスメア状になっており、本発明の抗菌活性物質は複数のサポニンからなっているものと推察される。
【0023】
本発明の抗菌活性剤は、植物病原菌、およびヒト日和見細菌に対する増殖抑制効果を示すものである。植物病原菌とは、植物病原糸状菌および植物病原細菌である。
【0024】
本発明の抗菌活性剤は、植物病原菌に感染した農業用作物の殺菌剤としての他、農業用作物の感染予防のための抗カビ剤、抗真菌剤としての機能を有する。また、本発明の抗菌活性剤は、ヒト日和見細菌に感染したヒトあるいは動物の感染治療や感染防御のために使用することができる。さらに、食品を良好に保つための抗カビ剤、抗真菌剤としての機能も有する。
【0025】
本発明に係るネギの廃材由来のサポニンを農業用抗菌活性剤として使用する場合は、サポニン含量が、好ましくは10〜50000ppm、好ましくは、10〜20000ppm濃度とし、ヒトまたは動物に対する抗菌活性剤として使用する場合は、サポニン含量が、1〜10000ppm、好ましくは、5〜5000ppm濃度とし、さらに、食品保存のための抗カビ剤、抗真菌剤として使用する場合は、サポニン含量が、1〜50000ppm、好ましくは、5〜10000ppm濃度とするが、水、アルコール類の他、必要な補助剤を用いて溶液にして用いることが望ましい。
【0026】
植物病原菌のうち、主な植物病原糸状菌としては、Fusarium属菌があげられる。Fusarium属菌(以下「F.」)としては、F.oxysporum、F.pseudograminearum、F.solani、F.graminearum、F.cortaderiae、F.asiaticum、F.austroamericanum、F.meridionale、F.mesoamericanum、F.boothii、F.acaciae−mearnsii、F.poae、F.nygamai、F.proliferatum、F.sacchari、F.subglutinans、F.lichenicola、F.heterosporum、F.guttiforme、F.sporotrichioides、F.culmorum、F.cerealis、F.lunulosporum、F.venenatum、F.equiseti、F.nisikadoi、F.verticillioides、F.proliferatum等があげられる。
【0027】
特に、効果を表わすF.oxysporum菌は、根や塊茎などが、腐敗する乾腐病と名付けられた植物の病気の原因菌とされ、サポニン耐性を有することが知られているが、本発明の抗菌活性剤は、F.oxysporum菌の以下の種で、増殖抑制効果を示すものである。すなわち、F.oxysporum f.sp.cepae、F.oxysporum f.sp.batatas、F.oxysporum f.sp.cucumerium、F.oxysporum f.sp.dianthi、F.oxysporum f.sp.fragariae、F.oxysporum f.sp.lycopersici、F.oxysporum f.sp.radicis−lycopersici等に対する効果を有する。
【0028】
植物病原糸状菌としては、さらに、Colletotrichum属菌があげられる。Colletotrichum属菌は、炭そ病の原因菌といわれている。炭そ病の症状の特徴は、葉、葉柄、つるおよび果実などあらゆる部位で発生するもので、葉では径3〜20mm程度の縁が不定形の円形の病斑が生じる。病斑の縁は褐色を呈し、中央部は退色して破れやすくなる。葉柄では淡褐色の紡すい形のくぼんだ病斑が生じ、縦に小さな亀裂が入ることもある。果実では、最初油浸状の小さな斑点が生じ、やがて拡大し、くぼみ、鮭肉色の粘着物が形成され、亀裂が入る。病斑部に小さな黒点が形成されることもある。このように、植物が炭そ病に感染した場合、農産物としての品質が劣化し、商品価値が低下することになる。
【0029】
本発明の抗菌活性剤が、増殖抑制効果を示すColletotrichum属菌(以下「C.」)としては、イチゴ、リンゴ、マンゴーが感染するC.gloeosporioides、アブラナ科植物が感染するC.destructivum、サクランボ、リンゴが感染するC.acutatum、イネ科植物が感染するC.graminicola等があげられる。特に、C.gloeosporioidesに対して強い効果を有する。
【0030】
その他、本発明の抗菌活性剤が増殖抑制効果を示す植物病原糸状菌としては、Sclerotium cepivorum(ユリ類黒腐菌核病)、Magnaporthe grisea(イネいもち病菌)、Botrytis cinerea(イチゴ灰色かび病)、Thanatephorus cucumeris(テンサイ根腐病)があげられる。特に、Magnaporthe grisea(イネいもち病菌)に対して強い効果を有する。
【0031】
本発明の抗菌活性剤が増殖抑制効果を期待できる植物病原細菌としては、Ralstonia solanacearum(ナス科青枯れ病菌)、Clavibacter michiganensis(トマトかいよう病菌)、Erwinia carotovora(ハクサイ軟腐病菌)、Burkholderia glumae(イネもみ枯れ病菌)、Agrobacterium rhizogenes(メロン毛根病菌)、Pseudomonas fluorescens(蛍光シュードモナス細菌)等があげられる。特に、Burkholderia glumae(イネもみ枯れ病菌)に対して強い効果を有する。
【0032】
さらに、本発明の抗菌活性剤が増殖抑制効果を期待できるヒト日和見細菌としては、Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)、Citrobacter freundii(腸内細菌)、Serratia marcescens(セラチア菌)、Proteus vulgaris(腸内細菌)、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Escherichia coli(大腸菌)等があげられる。
【0033】
上記菌類に対する増殖抑制効果は、「増殖抑制率」によって明らかにすることができる。「増殖抑制率」とは、サポニンを含まない培地上で生育したコントロールの菌叢直径に対して、サポニン含有培地で菌が生育した菌叢直径から、到達できなかった分を、「増殖抑制率」とする。たとえば、ある菌のコントロールの直径が8cmで、サポニン含有培地での直径が2cmだったとすると、「増殖抑制率」は(8−2)/8で75%となる。
【0034】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、実施例をあげるが本発明はこれに限定されない。
【実施例1】
【0035】
<材料>
抗菌活性を有するサポニン抽出を行ったネギ属植物の種類は、下記のノビル、ネギ、シャロットであり、品種および試験部位を表1に示した。
【0036】
【表1】

【0037】
増殖抑制作用による抗菌活性を調べた菌株は、F.oxysporum菌10株(表2)、Colletotrichum属菌8株(表3)、その他の植物病原糸状菌6株(表4)、および植物病原細菌6株(表5)、ヒト日和見病原細菌7株(表6)であり、下記に示した。
【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【実施例2】
【0043】
<サポニンの抽出>
表1に示した各種ネギ属植物からサポニンを抽出した。圃場から採取したNSS葱15号については、組織別(葉、盤茎、根)に切り分け、ネギ廃棄物を実験に供した羽緑については、根と盤茎に切り分けた。ノビルについては球根部のみを切断して使用し、シャロットについては、盤茎とその他の球根部に切り分けた。切り分けた各植物部位は、植物用大型乾燥機を用いて、110℃で30分間処理後、70℃で3〜4日間乾燥した。
【0044】
上記で得た乾燥サンプルをそれぞれ10gずつコーヒーミルに入れ、粉状になるまで磨砕した後、300ml用三角フラスコに移し、ヘキサンを100ml加えて軽く振盪した。次いで、超音波処理装置で30分間超音波処理し、ろ紙を装着した漏斗でろ過することにより、ろ液と残渣を得た。残渣を300ml用三角フラスコに戻し、同様に100mlのヘキサンを加え、再度30分間超音波処理し、ろ過した。ろ過後、残渣からメタノール抽出物を得るため、残渣を300ml用三角フラスコに戻し、70%メタノールを100ml加え、30分間超音波処理した後に、ろ過を行って、ろ液を回収した。再度、残渣を300ml用三角フラスコに戻し、同様に70%メタノールを100ml加え、30分間超音波処理後にろ過をするという過程を2回繰り返した。回収したろ液は、ナスフラスコに入れ、45℃の温度条件でエバポレーターを用いて減圧留去した。ナスフラスコ内に残った溶液をイオン交換水で洗い、メスシリンダーに移して100mlにフィルアップした。分液漏斗に、100mlにフィルアップした溶液を移し、ブタノールを100ml加え、軽く振蕩した後、約6時間静置した。2層に分かれた後、上層のブタノール層をナスフラスコに移し、45℃の温度条件でエバポレーターを用いてブタノールを完全に減圧除去し、ナスフラスコ壁面に粗サポニンの付着物を得た。付着物を数mlの80%エタノールで洗い溶かし、あらかじめ質量を量った0.5mlエッペンドルフチューブに移した。これを自然乾燥させた後、チューブごとに質量を量り粗サポニン画分(以下「サポニン」)の質量を算出した。結果を表7に示した。
【0045】
【表7】

【実施例3】
【0046】
<薄層クロマトグラフィーによるサポニンの確認>
薄層クロマトグラフィー(TLC)用のボックスに展開液(クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)を入れ、ろ紙を浸して展開液を約30分間飽和させた。TLCプレート(TLCアルミニウムプレート:シリカゲル60F254、メルク社)は、サンプル数に合わせた幅で、高さ10cmの大きさに切って用いた。サンプル量が30μg/μlになるように80%エタノールに溶解し、それぞれ3μl(90μg)スポットした。サンプルを完全に乾燥させた後、TLCを行った。溶媒を除去し、UV照射(254nm)でスポットを確認後、ドラフト内で呈色試薬のp−アニスアルデヒド試薬(p‐アニスアルデヒ5.3ml、エタノール100ml、硫酸1ml)、およびEhrlich’s試薬(p‐ジメチルアミノベンズアルデヒド0.8g、メタノール40ml、塩酸40ml)を、それぞれのプレートに万遍なくスプレーし、160℃のヒーターでカラースポットが出現するまで約5分間加熱した。TLCプレートをヒーターから取り出し、発色スポットを観察するとともに、写真撮影を行った。
【0047】
図1に示すように、UV吸収スポットを比較すると、パターンは互いに類似していたが、種や品種間によって異なるスポットも存在した。また植物組織間でも異なるスポットがみられた。TLCプレートをp−アニスアルデヒドで発色させると、UV吸収スポットが検出されない部位にも、緑色のスポットが存在した。
【実施例4】
【0048】
<抽出サポニンの増殖抑制試験>
【0049】
(1)ペーパーディスクを用いた糸状菌増殖抑制試験
バレイショ−ブドウ糖寒天培地(PD寒天培地(potato dextrose agar):PDA39gにイオン交換水1000ml加えて作成)の平板に、PD寒天斜面培地で生育させた供試菌コロニーを白金耳で切り取ったものを置いた。そのPD寒天平板培地を25℃で3日間培養し、コロニーがある程度生長した段階で、オートクレーブ滅菌済みのコルクボーラーで菌糸プラグ(直径5mm)を抜き取り、新しいPD寒天平板培地の中央に置いた。次に、オートクレーブ滅菌したペーパーディスク(直径5mm)を培地上に等間隔になるように置いた。ペーパーディスクは、ろ紙をパンチで打ち抜いたものを使用した。実施例2で得られたサポニンを濃度500μg/15μlになるように80%エタノールで調製し、15μlをPD寒天平板培地平板上に置いたペーパーディスクにマイクロピペットを用いて滴下した。コントロールとして、15μlの80%エタノールを同様にしてペーパーディスクに滴下した。PD寒天平板培地を25℃で培養し、菌糸が生長して、コントロールのコロニー先端がペーパーディスク外周に達した段階で、培養を止め、菌糸の生長割合をコントロールと比較して増殖抑制の程度を判定した。
【0050】
(2)混釈法による糸状菌増殖抑制試験
直径30mmのシャーレに、実施例2で得られた各供試植物のサポニンを80%エタノールに溶解し、PD寒天培地(3ml)を加えて混釈した。サポニンの最終濃度は、100μg/ml、200μg/ml、および500μg/mlになるようにした。固化後、PD寒天平板培地で培養した供試菌コロニーから、オートクレーブ滅菌済みのコルクボーラーで抜き取った菌糸プラグ(直径5mm)を、サポニンを混釈した平板培地の中央に置いた。コントロールとして、サポニンを含まないPD寒天培地を用いた。コントロールのコロニーがシャーレ全体に広がるまで各培地を25℃で培養し、コロニーのサイズを測定するとともに写真撮影を行った。「増殖抑制率」は、コントロール上で生育した菌叢直径を100とし、サポニン含有培地上で生育した菌叢直径の割合から求めた。各菌株に対する、各供試植物から抽出したサポニンの「増殖抑制率」を表8に示した。
【0051】
【表8】

【0052】
(3)細菌増殖抑制試験
表5および表6に示した菌株を、それぞれLB液体培地(1%ポリペプトン、0.5%Yeast extract、1%NaCl、pH7.0)で37℃、120回/分の振盪培養を一晩行いOD600値が1.0以上に達した供試菌液を、100倍容量のLB平板培地(1%ポリペプトン、0.5%Yeast extract、1%NaCl、1.0% agar、pH7.0)と混釈した。固化後、等間隔になるようにオートクレーブ滅菌済みのコルクボーラーで培地上に穴をあけ(直径5mm)、その中に実施例2で得られたサポニンを濃度500μg/15μlになるように80%エタノールで調製し、15μlをマイクロピペットを用いて注入した。またコントロールとして80%エタノール15μlを注入したものを用意した。サポニンを注入後は、クリーンベンチ内で20分間放置してエタノールを蒸発させた。培地は37℃で一晩培養し、翌日それぞれ阻止円の大きさを測定した。増殖抑制活性は、菌体の増殖阻止円の直径の大きさから求めた。各菌株に対する、各供試植物から抽出したサポニンの「増殖抑制率」を表9に示した。
【0053】
【表9】

【0054】
(5)NSS葱59号の根サポニンとシャロットの盤茎サポニンの比較
直径30mmのシャーレに、80%エタノールに溶解したNSS葱59号の根とシャロットの盤茎由来のサポニンを入れ、それぞれPD寒天培地(3ml)を加えて混釈した。サポニンの最終濃度は、200μg/mlになるようにした。表2および表3から選ばれた菌株をPD寒天平板培地で培養し、菌体コロニーから、オートクレーブ滅菌済みのコルクボーラーで抜き取った菌糸プラグ(直径5mm)を、サポニンを混釈した平板培地の中央に置いた。コントロールとして、サポニンを含まないPD寒天培地を用いた。コントロールのコロニーがシャーレ全体に広がるまで各培地を25℃で培養し、コロニーのサイズを測定するとともに写真撮影を行った。「増殖抑制率」は、コントロール上で生育した菌叢直径を100とし、サポニン含有培地上で生育した菌叢直径の割合から求めた。図2および図3に示すように、ネギサポニンは、各種炭そ病菌(Colletotrichum属菌)に対して極めて強い抗菌性を示し、サポニン耐性菌であるFusarium oxysporum菌にも強い抗菌性を示した。
【実施例5】
【0055】
<サポニン抽出物の分画と活性試験>
【0056】
(1)各サポニンフラクションの再抽出
薄層クロマトグラフィー用のボックスに展開液(クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)を入れ、実施例4の(2)において強い抗菌活性がみられたNSS葱15号の根由来のサポニンを、数10mg量となるようTLCプレートにスポットし、展開した。展開後、UV照射(254nm)でスポットを確認し、フラクションを特定した。各フラクションをスパチュラで削り取り、エッペンドルフチューブに入れ、80%エタノール1mlを加えて溶解した。次いで、真空乾燥遠心処理(20℃、12000rpm、10分間)し、上澄みをあらかじめ空の質量を量ったエッペンドルフチューブに入れた。残渣に、前記と同じように、80%エタノール1ml加え、遠心処理を行う過程を2回繰り返した。上澄みの入ったチューブは自然乾燥させ、それぞれ抽出物の質量を算出した。
【0057】
(2)各サポニンフラクションの確認
上記(1)により再抽出したサポニンフラクションを、80%エタノールを用いて濃度が30μg/μlになるように調製し、120μg(4μl)をTLCプレートにスポットし、展開液(クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)中で、展開した。その後、UV照射でスポットを確認した。ドラフト内でp−アニスアルデヒド試薬をプレートに万遍なくスプレーし、160℃のヒーターでカラースポットが出現するまで約5分間熱した。その後ヒーターから取り出し、写真撮影を行った。図4にUV照射で確認したTLC上のスポットを示した。
【0058】
(3)生物活性試験
上記(1)により再抽出したサポニンフラクションを80%エタノールに溶解し、300μg相当量をマイクロピペットで取り、直径30mmのシャーレに入れた。これに溶解したPD寒天培地(3ml)を加えて混釈した。Colletotrichum gloeosporioidesと、Magnaporthe griseaをPD寒天平板培地に培養し、菌体コロニーから、オートクレーブ滅菌済みのコルクボーラーで抜き取った菌糸プラグ(直径5mm)を、サポニンフラクション含有平板培地の中央に置いた。コントロールとして、サポニンを含まないPD寒天培地を用いた。コントロールのコロニーがシャーレ全体に広がるまで各培地を25℃で培養し、コロニーのサイズを測定するとともに写真撮影を行った。「増殖抑制率」は、コントロール上で生育した菌叢直径を100とし、サポニンフラクション含有培地上で生育した菌叢直径の割合から求めた。
【0059】
その結果、NSS葱15号の根由来のサポニンフラクション3(上記TLCにおけるRf値が0.34のスポット)が、Magnaporthe griseaの増殖を70%抑制し、フラクション4(上記TLCにおけるRf値が0.49のスポット)が、Colletotrichum gloeosporioidesの増殖を40%増殖抑制し、フラクション2(上記TLCにおけるRf値が0.2のスポット)が、同菌の増殖を30%抑制した(図5)。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、廃材となるネギを有効利用できること、抗菌活性剤の主成分であるサポニンが水溶性であるため、消費者が安心して使用できる安全な農作物等の食品を提供できること、また環境に優しい抗菌活性剤であること、などから有用な抗菌剤として利用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギ(Allium fistulosum.l)の廃材から抽出したサポニンを有効成分とする抗菌活性剤。
【請求項2】
ネギの廃材がネギの根または盤茎である請求項1に記載の抗菌活性剤。
【請求項3】
ネギの廃材から抽出したサポニンが、脂肪族炭化水素系溶媒に溶解せず、アルコール類に溶解性を示すものであり、かつ、薄層クロマトグラフィーにおいて、展開溶媒(クロロホルム:メタノール:水=6:3:0.5)で展開したRf値が、0.2〜0.49であり、UV照射(254nm)で蛍光を発し、p−アニスアルデヒド試薬により緑色に発色する特徴を有するものである、請求項1または2のいずれか1項に記載の抗菌活性剤。
【請求項4】
植物病原糸状菌、植物病原細菌、およびヒト日和見細菌に対する増殖抑制活性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗菌活性剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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