説明

ネジ落下防止具

【課題】ネジ回し工具によって緩めたネジを片手操作のみで落下させずに確実に回収することが可能なネジ落下防止具を提供する。
【解決手段】ネジ回し工具90によって緩められるネジ83を把持可能なキャッチ部122と端子台20の接続端子82側と接触可能な第1の押圧面122aとを有する内側絶縁筒10と、キャッチ部122の外周を覆う保持筒部21と端子台80の接続端子82側と接触可能な第2の押圧面21cとを有する外側絶縁筒20と、第2の押圧面21cを第1の押圧面122aから軸方向に突出させる方向に外側絶縁筒20を軸方向に付勢するとともに、第1の押圧面122aと第2の押圧面21cとを端子台80の接続端子82側に接触させた状態では、外側絶縁筒20に対して内側絶縁筒10を後退させる方向に付勢する付勢手段40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ネジ回し工具に装着して使用するネジ落下防止具に関し、とくにネジ回し工具によってネジを緩めた際にネジの落下を確実に防止することが可能なネジ落下防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
制御盤などの電気機器には、電線同士を接続するための中継用の端子台が設けられている。端子台の接続端子には、電線の端部がネジの締付けによって固定されている。通電時に、配線を端子台の接続端子から取外す際には、一方の手で配線を保持し、他方の手で
ネジ回し工具を回転させることによってネジを緩める必要がある。制御盤などでは、ネジ回し工具によって緩められたネジを落下させることは、通電中の他の部位に落下したネジが接触するおそれがあり、機器の故障につながるおそれがある。そこで、通電中の電気機器類では、緩めたネジの落下を確実に防止する必要がある。
【0003】
従来から緩めたネジの落下を防止する技術は知られている(特許文献1、2参照。)。この特許文献1、2の技術は、ネジ回し工具の先端部に、緩めたネジを保持する円筒が軸方向に移動可能に設けられており、円筒は弾性部材を介して軸方向に付勢されている。また、ネジの頭部を把持した状態でネジを締めこむ技術も知られている(特許文献3、4参照。)。この特許文献3、4の技術は、ハイヒールのヒール部にネジを締め付ける際に、ネジの頭部を把持することで、ネジが倒れるのを防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭50−29598号公報
【特許文献2】実開昭62−150070号公報
【特許文献3】実用新案登録第3113223号公報
【特許文献4】特開2010−179432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通電中の電気機器類において、ネジ回し工具を用いて端子台から取外す際には、一方の手で配線を保持し、他方の手でネジ回し工具を回転させることによってネジを緩めて端子台から外した後、ネジを配線の端子から抜き取るが、このときにネジを落下させることがある。また、感電の危険があるので、ネジを直接手で保持することができず、ゴム手袋を使用することになるが、ゴム手袋を使用した場合は、手の感覚が鈍くなり、ネジの落下を確実に防止することができない。従来では、ネジを緩める際は、ネジが落下した場合を考慮して電気機器類の下部を絶縁シートなどで絶縁養生しており、準備に手間を要していた。
【0006】
また、例えば電力供給事業者の電力設備においては、ネジ回し工具によって緩められるネジは、高い導電性を確保するために黄銅などの非鉄金属製のネジが多く採用されており、ネジ回し工具の先端部を磁化したものであっても、ネジを緩めた際にネジの落下を確実に防止することが難しい。
【0007】
上述の特許文献1、2のように、ネジ回し工具の先端にネジを保持する円筒を設けた技術では、緩めたネジが円筒内に入ることになるが、ネジ回し工具を移動させる際に円筒から脱落するおそれがあり、信頼性に欠けるという問題がある。また、上述の特許文献3、4は、ネジの締付けに関する技術であり、緩めたネジを確実に保持することはできない。さらに、特許文献3、4では、ネジを装置に把持させるには、一方の手でネジを持ち、他方の手で締付け装置の作用部を押し下げる必要があり、両手を用いなければネジの締付け作業ができないという問題がある。
【0008】
したがって、通電中の電気機器におけるネジを緩める作業については、ネジ回し工具によって緩めたネジを片手操作のみで落下させずに確実に回収することが要求される。
【0009】
そこで本発明は、ネジ回し工具によって緩めたネジを片手操作のみで落下させずに確実に回収することが可能なネジ落下防止具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、ネジ回し工具が挿入可能な電気絶縁性を有する筒状部材から構成され、軸方向の一方に半径方向に弾性変形可能で前記ネジ回し工具によって緩められるネジの頭部を把持可能なキャッチ部を有し、該キャッチ部の軸方向の先端面が前記ネジが螺合される螺合部材側と接触可能な第1の押圧面に形成された内側絶縁筒と、前記内側絶縁筒に対して軸方向に進退可能な電気絶縁性を有する筒状部材から構成され、軸方向の一方に前記キャッチ部の外周を覆う保持筒部を有し、該保持筒部の軸方向の先端面が前記螺合部材側と接触可能な第2の押圧面に形成された外側絶縁筒と、前記内側絶縁筒の外周に設けられ、前記第2の押圧面を前記第1の押圧面から軸方向に突出させる方向に前記外側絶縁筒を軸方向に付勢するとともに、前記第1の押圧面と前記第2の押圧面とを前記螺合部材側に接触させた状態では、前記外側絶縁筒に対して前記内側絶縁筒を後退させる方向に付勢する付勢手段と、を備え、前記キャッチ部は、前記第1の押圧面と前記第2の押圧面が前記螺合部材側に接触している状態から前記付勢手段の付勢力によって前記内側絶縁筒が前記外側絶縁筒に対して軸方向に所定距離後退した際に、前記外側絶縁筒に形成された縮径部との接触によって半径方向内方に変位することを特徴とするネジ落下防止具である。
【0011】
この発明によれば、ネジが螺合される螺合部材側に第1の押圧面と第2の押圧面を押付けた状態で、ネジ回し工具によりネジを緩める。そして、ネジを緩めた後、螺合部材側に第1の押圧面と第2の押圧面を押付けた状態で、ネジ回し工具による軸方向の押圧を解除することにより、付勢手段の付勢力により内側絶縁筒が外側絶縁筒に対して後退し、外側絶縁筒に形成された縮径部との接触により、緩められたネジの頭部がキャッチ部によって把持される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のネジ落下防止具において、前記内側絶縁筒と前記外側絶縁筒の少なくともいずれか一方に、前記付勢手段による前記第1の押圧面に対する前記第2の押圧面の軸方向の突出長さを調整する長さ調整部が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のネジ落下防止具において、前記付勢手段は、金属製の圧縮コイルスプリングから構成されており、該圧縮コイルスプリングは、前記内側絶縁筒の外側に設けられた電気絶縁カバーによって覆われていることを特徴としている。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のネジ落下防止具において、前記内側絶縁筒と前記外側絶縁筒は、透明または半透明の樹脂から構成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、外側絶縁筒の第2の押圧面が螺合部材に接触している状態では、内側絶縁筒の後退によってネジの頭部をキャッチ部によって把持することが可能となるので、ネジ回し工具によって緩めたネジを片手の操作のみで確実に回収することができ、絶縁シートによる養生も不要となる。また、一方の手でのみ操作ができるので、ネジを緩める際には、このネジを介して螺合部材側に接続されている配線を他方の手で保持することができ、安全に作業を行うことができる。さらに、ネジの頭部は、キャッチ部によって把持されるので、磁石によって吸着できない非鉄金属からなるネジであっても、落下させずに確実に回収することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、内側絶縁筒と外側絶縁筒の少なくともいずれか一方に、付勢手段による第1の押圧面に対する第2の押圧面の軸方向の突出長さを調整する長さ調整部を設けるようにしたので、ネジの長さに対応して外側絶縁筒の突出長さを調整することが可能となり、長さの異なる種々のネジを把持することができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、付勢手段としての金属製の圧縮コイルスプリングは、内側絶縁筒の外側に設けられた電気絶縁カバーによって覆われているので、感電に対する安全性を高めることができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、内側絶縁筒と外側絶縁筒は、透明または半透明の樹脂から構成されているので、ネジ回し工具および緩められるネジの状態を外部から確認することができ、作業能率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1に係わるネジ落下防止具を用いたネジの緩み作業開始時の断面図である。
【図2】図1のネジ落下防止具によるネジの把持状態を示す断面図である。
【図3】図1のネジ落下防止具の内筒のキャッチ部の斜視図である。
【図4】図1のネジ落下防止具の突き出し長さ調整部の拡大断面図である。
【図5】図1のネジ落下防止具を用いたネジの緩み作業の各工程を示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態2に係わるネジ落下防止具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
つぎに、この発明の実施の形態について、図面を用いて詳しく説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1ないし図5は、本発明の実施の形態1を示している。図1に示すように、ネジ落下防止具1は、例えば配電盤などの電力設備における端子台80の通電中のネジ83を緩める作業に用いられる。端子台80は、端子台本体81と、螺合部材としての接続端子82と、ネジ83と、から構成されている。端子台本体81は、絶縁部材から構成されており、複数の接続端子82が横並びで配置されている。各接続端子82は、端子台本体81に形成された絶縁壁を介して区画されている。各接続端子82には、ネジ83が螺合されるネジ穴82aが形成されている。
【0022】
ネジ回し工具90は、端子台80のネジ83を緩めるための工具であり、作業者が握るための柄部91を有している。ネジ回し工具90は、柄部91と連結された軸方向に延びる金属製の芯棒92を有している。芯棒92の先端部92aは、ネジ83の頭部83aの十字溝に係合可能となっている。柄部91は、芯棒92に対して電気的に絶縁されている。ネジ回し工具90は、柄部91を片手で軸心回りに回転させることにより、先端部92aと係合しているネジ83を緩めることが可能となっている。
【0023】
ネジ落下防止具1は、内側絶縁筒10と、外側絶縁筒20と、電気絶縁カバー30と、付勢手段としての第1の圧縮コイルスプリング40と、を有している。内側絶縁筒10は、第1の内側絶縁筒11と、第2の内側絶縁筒12とから構成されている。第1の内側絶縁筒11は、ネジ回し工具90の芯棒92が挿入可能な電気絶縁性を有する筒状部材から構成されている。
【0024】
第1の内側絶縁筒11は、電気絶縁性を有する透明または半透明の樹脂から構成されており、円筒状に形成されている。第1の内側絶縁筒11の内周面11aは、ネジ回し工具90の芯棒92をネジ83に向けて案内するガイド面としての機能を有している。第1の内側絶縁筒11の外周面11bは、第2の内側絶縁筒12を軸方向に移動可能に保持するガイド面としての機能を有している。第1の内側絶縁筒11の軸方向の一方は、ネジ回し工具90の芯棒92が挿入可能な開口端部11cに形成されている。第1の内側絶縁筒11の軸方向の他方は、ネジ回し工具90の芯棒92が挿通可能とするために開口しており、外周面11b側は半径方向外方に膨出する第1のストッパ部11dに形成されている。第1のストッパ部11dは、第2の内側絶縁筒12の軸方向の動きを規制する機能を有している。
【0025】
第2の内側絶縁筒12は、電気絶縁性を有する透明または半透明の樹脂から構成されている。第2の内側絶縁筒12は、第1の内側絶縁筒11の外側に設けられており、軸方向の他方は円筒状の摺動筒部121に形成されている。摺動筒部121の内周面121aは、第1の内側絶縁筒11の外周面11bに対して摺動可能となっている。摺動筒部121の外周面121bは、外側絶縁筒20を軸方向に移動可能に保持するガイド面としての機能を有している。第2の内側絶縁筒12の軸方向の他方は、第1の内側絶縁筒11が突出可能な開口端部121cに形成されている。
【0026】
第2の内側絶縁筒12の軸方向の一方には、半径方向に弾性変形可能でネジ回し工具90によって緩められるネジ83の頭部83aを把持可能なキャッチ部122が形成されている。キャッチ部122は、図3に示すように、一方が周方向に複数に分離しており、他方が第2の内側絶縁筒11の摺動筒部121側で集束している。この実施の形態1においては、キャッチ部122の一方は、複数の切除部122eによって周方向に3つに分離されている。キャッチ部122は、第1の押圧面122aと、把持部122bと、テーパー部122c、第2のストッパ部122dとを有している。第1の押圧面122aは、キャッチ部122の軸方向の先端面に形成されており、ネジ83が螺合される螺合部材82側と接触可能となっている。第2の内側絶縁筒12の第2のストッパ部122dは、第1の内側絶縁筒11の第1のストッパ部11dと軸方向に係合可能となっている。
【0027】
把持部122bは、キャッチ部122の軸方向の先端部から半径方向内方に突出している。把持部122bは、ネジ83における頭部82aの外周部と軸方向に係合可能となっている。この実施の形態1においては、把持部122bの軸方向の先端面は、第1の押圧面122aと一致している。キャッチ部122は、テーパー部122cが外側絶縁筒20の縮径部22の内面端部22aと接触した際には、半径方向内方に変位することによってネジ83における頭部82aを把持部122bで把持するようになっている。
【0028】
外側絶縁筒20は、内側絶縁筒10の外側に設けられており、内側絶縁筒10に対して軸方向に移動可能となっている。外側絶縁筒20は、電気絶縁性を有する透明または半透明の樹脂から構成されており、円筒状に形成されている。外側絶縁筒20は、軸方向の一方に第2の内側絶縁筒12のキャッチ部122の外周を覆う保持筒部21を有している。保持筒部21の軸方向の先端面は、記螺合部材82側と接触可能な第2の押圧面21cに形成されている。外側絶縁筒20は、軸方向の他方に保持筒部21の径よりも小となる縮径部22が形成されている。縮径部22の軸方向の一方には、第2の押圧面21cが螺合部材としての接続端子82側に接触している状態の外側絶縁筒20に対して、内側絶縁筒10を軸方向に所定距離後退させた際に、テーパー部122cとの接触によってキャッチ部122を半径方向内方に変位させる内面端部22aが形成されている。縮径部22の軸方向の他方には、半径方向外方に膨出する第3のストッパ部22bが形成されている。
【0029】
付勢手段としての金属製の第1の圧縮コイルスプリング40は、内側絶縁筒10の外周に設けられている。第1の圧縮コイルスプリング40は、一方が外側絶縁筒20の第3のストッパ部22bに当接しており、他方が電気絶縁カバー30の端具30cに当接している。第1の圧縮コイルスプリング40は、外側絶縁筒20第2の押圧面21cを第2の内側絶縁筒12の第1の押圧面122aから軸方向に突出させる方向に外側絶縁筒20を軸方向に付勢している。第1の圧縮コイルスプリング40は、第1の押圧面122aと第2の押圧面21cとを接続端子82側に接触させた状態では、軸方向に圧縮され、外側絶縁筒20に対して内側絶縁筒10を後退させる方向に付勢するようになっている。
【0030】
第1の圧縮コイルスプリング40は、内側絶縁筒10の外側に設けられた電気絶縁カバー30によって覆われている。電気絶縁カバー30は、例えば不透明な樹脂から構成されており、圧縮コイルスプリング40の外周に位置するカバー本体部30aは、円筒形に形成されている。電気絶縁カバー30は、軸方向の一方に外側絶縁筒20の第3のストッパ部22bと軸方向に係合な第4のストッパ部22bが形成されており、軸方向の他方には押圧壁30cに形成されている。
【0031】
第1の内側絶縁筒11の外周面11bと第1の圧縮コイルスプリング40の内側との間には、第1の内側絶縁筒11に対して第2の内側絶縁筒12を軸方向に付勢する第2の圧縮スプリング50が設けられている。第2の圧縮スプリング50は、軸方向の一方が第2の内側絶縁筒12の端面121cに当接しており、軸方向の他方が電気絶縁カバー30の押圧壁30cに当接している。第2の圧縮スプリング50は、線材の径が第1の圧縮スプリング40の線材の径に対して大となっている。これにより、第2の圧縮スプリング50の付勢力は、第1の圧縮コイルスプリング40の付勢力よりも大に設定されている。
【0032】
図4は、外側絶縁筒20に設けられた長さ調整部Mの構造を示している。長さ調整部Mは、第1の圧縮コイルスプリング40による第1の押圧面122aに対する第2の押圧面21cの軸方向の突出長さを調整する機能を有している。長さ調整部Mは、外側絶縁筒20の縮径部22に形成された雄ネジ部221と雌ネジ部222とから構成されている。長さ調整部Mは、雄ネジ部221と雌ネジ222との螺合長さを調整することにより、縮径部22の軸方向の長さを変えることが可能となっている。すなわち、長さ調整部Mによって、第3のストッパ部22bと第4のストッパ部30bとの間の距離Lを調整することにより、第1の押圧面122aに対する第2の押圧面21cの軸方向の突出長さを調整することが可能となっている。軸方向の長さを調整した状態では、雌ネジ部222は、チューブ状の弾性リング23によって雄ネジ部221に対する軸心回りの動きが規制されている。
【0033】
つぎに、ネジ落下防止具1を用いてネジ83を緩める際の作業手順および作用について説明する。
【0034】
図5(a)に示すように、ネジ83を緩めるに際し、まずネジ落下防止具1の内側絶縁筒10にネジ回し工具90の芯棒92を挿入する。そして、柄部91が電気絶縁カバー30の押圧壁30cに接触するまでネジ回し工具90を軸方向に移動させる。この状態では、第2の押圧面21cは第1の押圧面122aに対して軸方向の距離Lだけ突出している。また、ネジ回し工具90の芯棒92の先端部92aは、第2の内側絶縁筒12の把持部122bの近傍に位置している。
【0035】
つぎに、図5(a)の矢印F1に示すように、ネジ回し工具90を端子台80に向かって移動させ、外側絶縁筒20の第2の押圧面21cをネジ83が螺合している接続端子82側に接触させる。そして、ネジ回し工具90を矢印F1方向に押圧し続けると、図5(b)に示すように、第2の内側絶縁筒12の第1の押圧面122aが接続端子82側と接触した状態となる。この状態では、まだネジ回し工具90の芯棒92の先端部92aは、ネジ83の頭部83aの十字溝には係合していない。さらに、ネジ回し工具90を矢印F1方向に強い力で押し続けると、第2の圧縮スプリング50が軸方向に弾性変形し、ネジ回し工具90の先端部92aがネジ83の頭部83aの十字溝には係合することになる。
【0036】
図5(b)に示すように、第1の押圧面122aと第2の押圧面21cの双方が接続端子82側と接触している状態では、キャッチ部122のテーパー部122cが縮径部22の内面端部22aと非接触状態となるので、把持部122bは半径方向外方に変位し、ネジ83の頭部83aから離れている。ネジ回し工具90の先端部92aをネジ83の頭部83aの十字溝に係合させた状態で、ネジ回し工具90の柄部91を軸心回り方向(矢印F2方向)に回転させることにより、ネジ83は接続端子82との螺合が緩められ、ネジ83は軸方向(矢印F3)方向に移動する。これにより、ネジ83の頭部83aは、接続端子82から離れることになる。
【0037】
ネジ回し工具90によってネジ83が完全に緩められた状態では、キャッチ部122の把持部122bは、接続端子82とネジ83の頭部83aとの間に位置することになる。第2の押圧面21cが接続端子82側に接触している状態で、作業者によるネジ回し工具90の軸方向(矢印F1方向)の押圧を解除(中止)することにより、第1の圧縮スプリング40の付勢力によって、外側絶縁筒20に対して内側絶縁筒10は後退する方向(矢印F4)に移動することになる。この状態では、図5(c)に示すように、キャッチ部122のテーパー部122cが外側絶縁筒20の縮径部22の内面端部22aと接触し、把持部122bが半径方向内方に変位することにより、ネジ82の頭部82aが把持部122bによって把持される。
【0038】
このように、外側絶縁筒20の第2の押圧面21cが端子台80の接続端子82側に接触している状態では、ネジ回し工具90による軸方向(矢印F1方向)の押圧を解除することにより、内側絶縁筒10の後退によってネジ83の頭部83aをキャッチ部122によって把持することが可能となる。したがって、ネジ回し工具90によって緩めたネジ83を片手の操作のみで確実に回収することができ、絶縁シートによる養生も不要となる。また、一方の手でのみ操作ができるので、ネジ83を緩める際には、このネジ38を介して端子台80の接続端子82側に接続されている配線(図示略)を他方の手で保持することができ、安全に作業を行うことができる。すなわち、端子台80の接続端子82側に接続されている配線(図示略)は、先端にネジ83が挿入される導電体からなる圧着端子部を有しており、ネジ83を接続端子82から取外した際には、圧着端子部が不特定の方向に変位する可能性があるので、この配線を他方の手で保持することで、圧着端子部の通電中の他の部位との接触を回避することができ、安全に作業を行うことが可能となる。さらにネジ83の頭部83aは、キャッチ部122によって把持されるので、磁石によって吸着できない黄銅などの非鉄金属からなるネジ83であっても、落下させずに確実に回収することができる。
【0039】
外側絶縁筒20には、第1の圧縮コイルスプリング40による第1の押圧面122aに対する第2の押圧面21cの軸方向の突出長さを調整する長さ調整部Mを設けるようにしたので、ネジ38の長さに対応して外側絶縁筒20の突出長さを調整することが可能となり、種々のネジを把持することができる。さらに、第1の圧縮コイルスプリング40は、内側絶縁筒10の外側に設けられた電気絶縁カバー30によって覆われているので、第1の圧縮コイルスプリング40が外部に露出することがなく、感電に対する安全性を高めることができる。そして、内側絶縁筒10と外側絶縁筒20は、電気絶縁性を有する透明または半透明の樹脂から構成されているので、ネジ回し工具90によって緩められるネジ83の状態を外部から確認することができ、作業能率を高めることができる。
【0040】
この実施の形態1においては、第2の圧縮コイルスプリング50を設けているので、ネジ回し工具90の柄部91を軸方向に押圧することにより、内側絶縁筒10の第2の内側絶縁筒12は、第2の圧縮コイルスプリング50を介して軸方向に押圧されることになる。そして、ネジ回し工具90の先端部92aがネジ83の頭部83aの十字溝と係合した状態で、第2の内側絶縁筒12の第1の押圧面122aが端子台80の接続端子82側と接触することになる。すなわち、この実施の形態1においては、ネジ回し工具90の芯棒92の軸方向の長さが多少異なっていても、ネジ回し工具90を先端部92aがネジ83の頭部83aの十字溝と係合するまで軸方向に押圧することにより、確実に第2の内側絶縁筒12の第1の押圧面122aを端子台80の接続端子82側と接触させることが可能となる。したがって、図1のネジ落下防止具1は、芯棒92の長さの異なる種々のネジ回し工具90に適用可能となる。
【0041】
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2を示している。実施の形態2が実施の形態1と異なるところは、内側絶縁筒10の構造のみであり、その他の部分は実施の形態1に準じるので、準じる部分に実施の形態1と同一の符号を付すことにより、順ずる部分の説明を省略する。
【0042】
実施の形態1においては、内側絶縁筒10は、第1の内側絶縁筒11と、第2の内側絶縁筒12とから構成されているが、実施の形態2においては、内側絶縁筒10は、第2の内側絶縁筒12´のみから構成されている。すなわち、実施の形態1においては、ネジ回し工具90の芯棒92の軸方向の長さが異なる場合を考慮して、内側絶縁筒10は、軸方向に分割された2つの内側絶縁筒11、12とから構成されているが、実施の形態2においては、ネジ落下防止具1のために専用のネジ回し工具90を使用することから、第1の内側絶縁筒11は不要となっている。
【0043】
図6に示すように、第2の内側絶縁筒12の摺動筒部121の内周面121aは、ネジ回し工具90の芯棒92をネジ83に向けて案内するガイド面としての機能を有している。摺動筒部121の外周面121bの外側には、第1の圧縮コイルスプリング40が設けられている。摺動筒部121の外周面121bは、キャッチ部122のテーパー部122cの外周面と円滑に接続されている。実施の形態2においては、ネジ回し工具90の柄部91が電気絶縁カバー30の押圧壁30cに接触する直前で、ネジ回し工具90の芯棒92の先端部92aがネジ83の頭部83aの十字溝に係合するようになっている。
【0044】
このように構成された実施の形態2においては、ネジ回し工具90を端子台80に向かって移動させ、外側絶縁筒20の第2の押圧面21cをネジ83が螺合している接続端子82側に接触させる。この状態でネジ回し工具90を軸方向に押圧すると、第1の圧縮スプリング40が軸方向に収縮し、第2の内側絶縁筒12の第1の押圧面122aが接続端子82側と接触した状態となる。この状態では、ネジ回し工具90の芯棒92の先端部92aがネジ83の頭部83aの十字溝には係合することになる。
【0045】
つぎに、ネジ回し工具90の柄部91を軸心回り方向に回転させることにより、ネジ83は接続端子82との螺合が緩められ、ネジ83の頭部83aは、接続端子82から離れることになる。
【0046】
ネジ回し工具90によってネジ83が完全に緩められた状態では、キャッチ部122の把持部122bは、接続端子82とネジ83の頭部83aとの間に位置することになる。第2の押圧面21cが接続端子82側に接触している状態で、作業者によるネジ回し工具90の軸方向の押圧を解除(中止)することにより、第1の圧縮スプリング40の付勢力によって、外側絶縁筒20に対して内側絶縁筒10は後退する方向に移動することになる。この状態では、キャッチ部122のテーパー部122cが外側絶縁筒20の縮径部22の内面端部22aと接触し、把持部122bが半径方向内方に変位することにより、ネジ82の頭部82aが把持部122bによって把持される。
【0047】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は上記の実施の形態1、2に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、実施の形態1においては、電力設備の制御盤の端子台80のネジ83を緩める場合について説明したが、対象となるネジ83は端子台80だけでなく、例えば工作機械などのネジであってもよい。この場合は、一方の手にネジ落下防止具1が装着されたネジ回し工具90を持ち、他方の手に照明用のライトを持つことが可能となる。また、緩められるネジ83は、必ずしも通電中のものに限定されることはなく、ネジ83の落下防止が要求されている機器類であれば、電気機器類に限定されない。
【符号の説明】
【0048】
1 ネジ落下防止具
10 内側絶縁筒
11 第1の内側絶縁筒
12 第2の内側絶縁筒
122 キャッチ部
122a 第1の押圧面
122b 把持部
122c テーパー部
20 外側絶縁筒
21 保持筒部
21c 第2の押圧面
22 縮径部
22a 内面端部
30 電気絶縁カバー
40 第1の圧縮コイルスプリング(付勢手段)
50 第2の圧縮コイルスプリング
80 端子台
82 接続端子(螺合部材)
83 ネジ
90 ネジ回し工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ回し工具が挿入可能な電気絶縁性を有する筒状部材から構成され、軸方向の一方に半径方向に弾性変形可能で前記ネジ回し工具によって緩められるネジの頭部を把持可能なキャッチ部を有し、該キャッチ部の軸方向の先端面が前記ネジが螺合される螺合部材側と接触可能な第1の押圧面に形成された内側絶縁筒と、
前記内側絶縁筒に対して軸方向に進退可能な電気絶縁性を有する筒状部材から構成され、軸方向の一方に前記キャッチ部の外周を覆う保持筒部を有し、該保持筒部の軸方向の先端面が前記螺合部材側と接触可能な第2の押圧面に形成された外側絶縁筒と、
前記内側絶縁筒の外周に設けられ、前記第2の押圧面を前記第1の押圧面から軸方向に突出させる方向に前記外側絶縁筒を軸方向に付勢するとともに、前記第1の押圧面と前記第2の押圧面とを前記螺合部材側に接触させた状態では、前記外側絶縁筒に対して前記内側絶縁筒を後退させる方向に付勢する付勢手段と、
を備え、
前記キャッチ部は、前記第1の押圧面と前記第2の押圧面が前記螺合部材側に接触している状態から前記付勢手段の付勢力によって前記内側絶縁筒が前記外側絶縁筒に対して軸方向に所定距離後退した際に、前記外側絶縁筒に形成された縮径部との接触によって半径方向内方に変位することを特徴とするネジ落下防止具。
【請求項2】
前記内側絶縁筒と前記外側絶縁筒の少なくともいずれか一方に、前記付勢手段による前記第1の押圧面に対する前記第2の押圧面の軸方向の突出長さを調整する長さ調整部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のネジ落下防止具。
【請求項3】
前記付勢手段は、金属製の圧縮コイルスプリングから構成されており、該圧縮コイルスプリングは、前記内側絶縁筒の外側に設けられた電気絶縁カバーによって覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載のネジ落下防止具。
【請求項4】
前記内側絶縁筒と前記外側絶縁筒は、透明または半透明の樹脂から構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のネジ落下防止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223865(P2012−223865A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94827(P2011−94827)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(599151776)中国計器工業株式会社 (49)
【Fターム(参考)】