説明

ネッパリ防止剤及びそれを含有する表面処理剤を塗工したオフセット印刷用紙

【課題】本発明の目的は、所望の紙表面の強度が得られ、さらに紙粉発生を防止するのに十分な塗布量の表面処理剤を塗工した場合にも、オフセット印刷時の紙粉及びネッパリトラブルの発生が防止でき、かつ印刷適性に優れるネッパリ防止剤(I)、及び該ネッパリ防止剤を含有する表面処理剤を塗工することによりオフセット印刷時においても、ネッパリ強度の低下と優れた印刷適性を両立させたネッパリトラブルのないオフセット印刷用紙を提供する。
【解決手段】
分配係数Pの対数値logPが−2.0以上であり、熱可塑性樹脂であることを特徴とするネッパリ防止剤(I)および前記ネッパリ防止剤(I)と澱粉類などの水溶性高分子を含有する表面処理剤を塗工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は澱粉等の表面処理剤を塗工した紙のオフセット印刷時のネッパリトラブルを防止するために効果的なネッパリ防止剤(I)、及び該ネッパリ防止剤(I)を含有する表面処理剤を塗工したオフセット印刷時においてもネッパリトラブルがなく、紙粉の発生を低減したオフセット印刷用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷はオフセット化、カラー化及び高速化が急速に進んでおり、印刷媒体となる印刷用紙に対して、より優れたカラー印刷適性や印刷作業性が求められている。最近、印刷用紙はメカニカルパルプや脱墨パルプを主体とする紙が使用されるようになり、特にゴミ増加等の環境問題や省資源の観点から古紙の高率配合化が求められている。しかしながら、微細繊維を多量に含む古紙パルプを原料として製造した新聞用紙等は、印刷時に紙粉が発生するといった問題がある。
【0003】
また、オフセット印刷は刷版に湿し水とインキを供給し、次いでブランケットと呼ばれるゴム版にインキを転移させた後、紙に転移させて印刷を行う方法であり、従来から使用されていた凸版印刷方式と比べて、比較的タックの強い印刷インキを使用するために、印刷用紙としては表面強度が強いことが要求される。表面強度が弱いと、紙剥け等により用紙から遊離した繊維や印刷用紙に含まれる填料や紙粉等がブランケットに堆積する所謂ブランケットパイリングの問題や、それらがインキに混入することにより、紙面の印刷面に所謂カスレ等が生じ、印刷品質の低下や印刷作業性の低下といったトラブルが起こる。
【0004】
さらに、新聞用紙は、これまでの坪量43g/mの超軽量紙から坪量40g/mの超々軽量紙へと移行しているため、新聞用紙等の重要な紙質である不透明度が低下する傾向にある。そのため、填料の配合割合を高めることにより不透明度を保持する処置が行われている。しかし、この配合された填料も紙粉を発生させる原因となっている。
【0005】
こうした紙粉を抑えるために、新聞用紙等においては、ゲートロールコーター等で酸化澱粉等の澱粉類等の表面処理剤を紙表面に塗工することにより、強度を向上させ、これにより紙粉の発生量を低減させている。
【0006】
また、上質紙、中質紙等の印刷用紙においては、印刷適性等を向上させるために酸化澱粉等の表面処理剤を紙表面に塗工することが一般的に行われている。
【0007】
各種印刷用紙に対するこれら表面処理剤の適切な塗布量は、用紙の種類に応じて異なるものの、一般的には該塗布量を増加させれば、紙の表面強度が向上することが知られている。しかし、表面処理剤を高付着量となるように塗布した印刷用紙は、オフセット印刷を行った場合に、印刷時の湿し水により表面処理剤が溶解され、その結果、紙に粘着性が生じ、印刷用紙のブランケットへの張り付きや紙同士の付着、いわゆるネッパリトラブルが起こり、印刷作業に支障をきたす懸念がある。また、印刷後においても高湿度の条件下に保存された場合には、紙同士の付着によるブロッキングの問題がある。
【0008】
こうした紙のネッパリトラブルを防止する手段として、熱硬化性樹脂であるポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂を表面処理剤と併用することにより、表面処理剤を耐水化する方法(特許文献1)が開示されている。ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂により、表面処理剤の水に対する不溶性は高められ、紙表面の耐水性は改良される。しかし、一方で官能基の架橋反応により表面処理剤の分子量が高くなり、湿潤状態におかれた時の粘着性が、かえって高くなるため、ネッパリトラブルの問題は解決されていない。そのため、ネッパリトラブルが問題とならない低い塗布量の範囲で表面処理剤を塗布した印刷用紙を使用して印刷が行われているのが現状であり、そのような低塗布量では十分な表面強度を付与することができず、紙粉の発生防止の対策としては必ずしも満足される状況にない。
【0009】
【特許文献1】特開平2003−286685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、所望の紙表面の強度が得られ、さらに紙粉発生を防止するのに十分な塗布量の表面処理剤を塗工した場合にもオフセット印刷時の紙粉及びネッパリトラブルの発生が防止でき、かつ印刷適性に優れるネッパリ防止剤(I)、及び該ネッパリ防止剤(I)を含有する表面処理剤を塗工することによりオフセット印刷時においても、ネッパリ強度の低下と優れた印刷適性を両立させた紙粉の発生及びネッパリトラブルのないオフセット印刷用紙を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、分配係数Pの対数値logPが−2.0以上である熱可塑性樹脂をネッパリ防止剤(I)として用いることおよび、前記ネッパリ防止剤(I)と澱粉類などの水溶性高分子を含有する表面処理剤を原紙に塗工することにより、従来の表面処理剤よりも優れたネッパリ防止性を有し、かつ、紙粉の発生が防止できる印刷適性の向上したオフセット印刷用紙が得られることを見い出し、本発明を完成させた。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明におけるネッパリ防止剤(I)は分配係数Pの対数値であるlogPが−2.0以上の熱可塑性樹脂であり、logPが−1.7以上がより好ましい。
【0013】
分配係数Pとは、有機化合物の疎水性を表す指標であり、有機相、水相の2相に分配している溶質の割合を示す係数である。1つの溶質が互いに混じり合わない2つの溶媒に分配する場合、平衡状態において、分配係数Pは、非極性溶媒相中における溶質の活動度と、同条件の極性溶媒相中における活動度の比として定義される。但し、両相における溶質の濃度が低く、かつ溶液のイオン強度が小さい場合には、活動度は濃度とみなし得るため、一般に両相における溶質濃度の比として近似的に記述される。また通常、極性溶媒として水、非極性溶媒として1−オクタノールに対する分配係数Pが用いられ、その対数値logPが小さいほど親水性であることを表し、大きいほど疎水性であることを表す。logPが−2.0より小さい値になると親水性が強く、ネッパリ防止性を低下させる恐れがある。
【0014】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)としては、分配係数Pの対数値であるlogPが−2.0以上の熱可塑性樹脂であれば、特に制限されない。 本発明における熱可塑性樹脂としては、例えば、変性ポリアミン樹脂、アミン類とカルボン酸類との反応物などである変性ポリアミドポリアミン樹脂、アミン類とカルボン酸類と脂肪族や芳香族のエステル化合物類との反応物などである変性ポリエステルポリアミド樹脂、およびそれらの塩、およびそれらの4級化物、スチレン及び/又はスチレン誘導体/(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体樹脂(なお、(メタ)アクリル酸は、「アクリル酸及び/またはメタクリル酸」を意味する。)、スチレン及び/又はスチレン誘導体/マレイン酸及び/又はマレイン酸誘導体樹脂、オレフィン類/マレイン酸及び/又はマレイン酸誘導体樹脂およびそれらの塩、スチレン及び/又はスチレン誘導体/N.N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド樹脂およびそれらの4級化物、スチレン及び/又はスチレン誘導体/(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル樹脂、およびそれらの4級化物、無水マレイン酸及び/又は無水マレイン酸誘導体/(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体/スチレン及び/又はスチレン誘導体樹脂等が挙げられ、これらのうち、変性ポリアミン樹脂、変性ポリアミドポリアミン樹脂、変性ポリエステルポリアミド樹脂およびそれらの塩、およびそれらの4級化物などが好ましい。変性ポリアミン樹脂としては、例えばアミン類とエポキシ化合物類との反応物、アミン類と有機ハロゲン化化合物類との反応物、アミン類とイソシアネート化合物類との反応物、アミン類と尿素類との反応物、アミン類とα,β−不飽和ニトリル化合物との反応物が挙げられる。
【0015】
本発明においてネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の塩を得る方法としては、特に制限されるものではなく、一般的な酸で中和すればよい。酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸などの無機酸、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸などの有機酸を挙げることができる。
【0016】
本発明においてネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の4級化物を得る方法としては特に制限されるものではなく、例えば、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アラルキル、ジアルキル硫酸、エポキシ化合物などと反応することにより4級化することができる。ハロゲン化アルキルとしては、例えば、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、塩化エチル、臭化エチル、ヨウ化エチルなどを挙げることができる。ハロゲン化アラルキルとしては、例えば、塩化ベンジル、臭化ベンジル、ヨウ化ベンジルなどを挙げることができる。ジアルキル硫酸としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸などを挙げることができる。エポキシ化合物としては、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドなどを挙げることができる。これらの方法により4級化したとき、陰イオンは、塩素イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、リン酸水素イオン、蟻酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、乳酸イオン、リンゴ酸イオン、クエン酸イオン、パラトルエンスルホン酸イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、メチル硫酸イオン、エチル硫酸イオンなどとなる。
【0017】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるアミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなどの炭素数1〜10程度のアルキル基と1級アミノ基とからなるモノアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルエチルアミンなどの炭素数1〜10程度のアルキル基を2級アミノ基で結合してなるジアルキルアミン;エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどのアルキレンジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミン;イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を含有する脂肪族アミン;複素環アミンなどが挙げられる。
【0018】
ここで複素環アミンとは、通常、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を少なくとも1個含有する脂環式炭化水素基である複素環を含むアミンである。具体的には、ピロリジン、ピペリジン、2−ピペコリン、3−ピペコリン、4−ピペコリン、2,4−ピペコリン、2,6−ピペコリン、3,5−ルペチジン、ピペラジン、ホモピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−プロピルピペラジン、N−メチルホモピペラジン、N−アセチルピペラジン、N−アセチルホモピペラジン、1−(クロロフェニル)ピペラジンなどの複素環内に窒素原子を少なくとも1個含有する複素環アミン;N−アミノエチルピペリジン、N−アミノプロピルピペリジン、N−アミノエチルピペラジン、N−アミノプロピルピペラジン、N−アミノエチルモルホリン、N−アミノプロピルモルホリン、N−アミノプロピル−2−ピペコリン、N−アミノプロピル−4−ピペコリン、1,4−ビス(アミノプロピル)ピペラジンなどのアミノアルキル基と窒素原子を少なくとも1個含有する複素環とを含有する複素環アミンなどが挙げられる。
【0019】
アミン類として2種類以上のアミンを混合して使用してもよい。
アミン類としては、中でも、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン、複素環アミンが好ましく、とりわけ、ポリアルキレンポリアミン、複素環アミンが好ましく、さらに好ましくは、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、N−アミノエチルピペラジンである。
【0020】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるエポキシ化合物類としては、1個のエポキシ基を分子中に有するエピクロルヒドリン、エピブロムヒドリン、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイドや2個以上のエポキシ基を分子中に有するエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのアルキレングリコールジグリシジルエーテル類;ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル類;レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどの芳香族多価グリシジルエーテル類;トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどのトリメチロールプロパン多価グリシジルエーテル類;ソルビトールジグリシジルエーテル、ソルビトールトリグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールペンタグリシジルエーテル、ソルビトールヘキサグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテルなどの脂肪族多価グリシジルエーテル類等が挙げられる。
【0021】
エポキシ化合物類として2種類以上のエポキシ化合物を混合して使用してもよい。
エポキシ化合物類としては、中でも、エピクロルヒドリン、エピブロムヒドリン、芳香族多価グリシジルエーテル類およびそのオリゴマーが好ましく、とりわけ、エピクロルヒドリン、ビスフェノールAジグリシジルエーテルが好ましい。
【0022】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられる有機ハロゲン化化合物類としては、1,1,1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、1−又は2−ブロモプロパン、1−ブロモブタン、臭化ラウリル、1−ブロモ−3−クロロプロパン、1,3−ジブロモプロパン、1,4−ジブロモブタン、1,5−ジブロモペンタン及び2,3−ジブロモ−1−プロパノール、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロエタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロプロパン、ジクロロプロパン、トリクロロプロパン、クロロブタン、ジクロロブタン、クロロペンタン、ジクロロペンタン、クロロヘキサン、ジクロロヘキサン、クロロヘプタン、ジクロロヘプタン、ポリクロロトリフルオロエタン等の脂肪族系のものが挙げられる。なお、有機ハロゲン化合物として、芳香族化合物やヘテロ原子を含む化合物の混入もありうる。
【0023】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるイソシアネート化合物類としては、脂肪族イソシアネート、脂環式イソシアネート、芳香族イソシアネートであって、例えば、1,4―ジイソシアナトペンタン、1,6―ジイソシアナトヘキサン、2―メチル―1,5―ジイソシアナトペンタン、1,5―イジソシアナト―2,2―ジメチルペンタン、2,2,4―および2,4,4―トリメチル―1,6―ジイソシアナトヘキサン、1,10―ジイソシアナトデカン、1,3―および1,4―ジイソシアナトシクロヘキサン、1,3―および1,4―ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1―イソシアナト―3,3,5―トリメチル―5―イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソフォロンジイソシアネート,IPDI)、4,4´―ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン、1―イソシアナト―1―メチル―1―メチル―4(3)―イソシアナト―メチルシクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン、1,3―および1,4―ビス(2―イソシアナトプルプ―2―イル)ベンゼン、2,4―および2,6―イジソシアナトトルエン(TDI)、2,4´―および4,4´―ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5―ジイソシアナトナフタレンなどが挙げられる。
【0024】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられる尿素類としては、尿素、メチル尿素、ジメチル尿素、チオ尿素、4,5−ジヒドロキシ−2−イミダゾリジノン、1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノン、ジエチレントリアミンと尿素との脱アンモニア反応によって得られる1−(2−アミノエチル)−2−イミダゾリジノンを主成分とする混合物などが挙げられる。
【0025】
尿素類として2種類以上の尿素類を混合して使用してもよい。
尿素類としては、中でも、尿素が好ましい。
【0026】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるα,β−不飽和ニトリル化合物としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。
【0027】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるカルボン酸化合物類としては、分子中に1個のカルボキシル基を有するモノカルボン酸、複数のカルボキシル基を有する多価カルボン酸、該カルボキシル基に炭素数1〜4のアルコールでエステル化された化合物(半エステルを含む)、あるいは該カルボン酸の無水物である。カルボン酸系化合物は、分子中に二重結合、脂環式構造、芳香環構造を有していてもよい。
【0028】
カルボン酸系化合物の遊離カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、2−エチルヘキサン酸、ラウリル酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマール酸、1,2,3−プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸のような脂肪族カルボン酸、安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、トリメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸のような芳香族カルボン酸、及び、シクロヘキサンカルボン酸、テトラハイドロフタル酸、ヘキサハイドロフタル酸、シクロヘキサン−1,3−又は−1,4−ジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、3−又は4−メチルテトラハイドロフタル酸、3−又は4−メチルヘキサハイドロフタル酸のような脂環式カルボン酸が挙げられる。なお、脂環式基が不飽和結合を有し、その不飽和結合の位置が明示されていない場合、その不飽和結合の位置は任意であると理解されるべきであり、以下の説明においても同様である。
【0029】
カルボン酸系化合物は、これら遊離酸のほか、そのエステル類、酸無水物などであってもよい。エステル類の例としては、上記遊離酸と低級アルコールとのモノ−又はジ−エステル類、上記遊離酸とグリコール類とのポリエステル類などが挙げられる。また酸無水物の具体例としては、無水コハク酸、無水フタル酸、テトラハイドロ無水フタル酸、ヘキサハイドロ無水フタル酸、3−又は4−メチルテトラハイドロ無水フタル酸、3−又は4−メチルヘキサハイドロ無水フタル酸などが挙げられる。
【0030】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)として用いられる熱可塑性樹脂の構成要素として用いられるエステル化合物類としては、上記遊離酸のうちの多価カルボン酸類と低級アルコールとのモノ−又はジ−エステル類、上記遊離酸とグリコール類とのポリエステル類などが挙げられる。
【0031】
本発明においては上記の化合物以外にも反応可能な化合物をネッパリ防止性の向上や印刷適性向上などの本来の性質を阻害しない範囲で使用する事ができる。
【0032】
本発明におけるネッパリ防止剤(I)の製造方法としては、公知の方法で良く、特に制限されるわけではないが、例えばアミン類とエポキシ化合物類との反応の場合には、通常、反応温度30〜120℃程度で約1〜20時間、好ましくは50〜100℃で2〜10時間、反応させる方法等が挙げられる。アミン類と尿素類との反応のような脱アンモニア反応の場合には、反応温度80〜180℃程度、好ましくは90〜160℃程度で、発生するアンモニアを除外しながら約4〜30時間、好ましくは5〜20時間攪拌したのち水で希釈する方法などが挙げられる。アミン類とα,β−不飽和ニトリル化合物との反応の場合には、30〜100℃程度の反応温度で1〜20時間程度攪拌する。溶媒が水と有機溶媒との混合物である場合には40〜90℃程度、溶媒が水を含まない有機溶媒の場合には40〜70℃程度にて、攪拌することが好ましい。この反応は無触媒でも進行するし、アンモニアや苛性ソーダのような塩基性触媒、または塩化アルミニウムのようなルイス酸触媒の存在下で反応させてもよい。アミン類とカルボン酸類との反応の場合には、反応温度を50〜200℃程度で、発生する水を留去しながら、約2〜10時間反応させる方法等が例示される。
【0033】
こうして得られる前記変性ポリアミン樹脂、アミン類とカルボン酸類との反応物などである変性ポリアミドポリアミン樹脂、アミン類とカルボン酸類と脂肪族や芳香族のエステル化合物類との反応物などである変性ポリエステルポリアミド樹脂、およびそれらの塩、およびそれらの4級化物、スチレン及び/又はスチレン誘導体/(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体樹脂、スチレン及び/又はスチレン誘導体/マレイン酸及び/又はマレイン酸誘導体樹脂、オレフィン類/マレイン酸及び/又はマレイン酸誘導体樹脂およびそれらの塩、スチレン及び/又はスチレン誘導体/N.N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド樹脂およびそれらの4級化物、スチレン及び/又はスチレン誘導体/(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル樹脂、およびそれらの4級化物、無水マレイン酸及び/又は無水マレイン酸誘導体/(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸誘導体/スチレン及び/又はスチレン誘導体樹脂などを本発明では、ネッパリ防止剤として使用することが可能であり、それぞれを適宜組み合わせて使用することもできる。
【0034】
本発明では、表面処理剤中に、前記ネッパリ防止剤を含有させることにより、表面処理剤の塗布量が多い場合にも、ネッパリ強度が低く、かつインキ受理性が高く、オフセット印刷時のネッパリ防止効果に優れたオフセット印刷用紙を製造することができる。
【0035】
本発明で使用する表面処理剤中には、オフセット印刷用紙の表面強度向上のために、水溶性高分子を含有させることが望ましい。水溶性高分子としては、例えば、澱粉、酵素変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉(ヒドロキシエチル化澱粉など)、ジアルデヒド化澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉などの澱粉類、完全ケン化ポリビニルアルコール、部分ケン化ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール類、カルボキシメチルセルロース類、アニオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド等の各種の天然高分子物質または合成高分子物質が挙げられ、これらは単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
本発明の表面処理剤で用いられる水溶性高分子は、表面強度向上(言い換えれば、紙粉抑制)の点では、主体的な役割を果たす。しかし、水溶性高分子はネッパリトラブルの原因ともなる。表面強度向上効果、ネッパリとのバランスを考えれば、水溶性高分子としては、前述の例の中でも、澱粉類を好ましく使用でき、その中でも、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉が最も好ましい。
【0037】
本発明において、印刷用紙にサイズ性を付与する目的で、表面処理剤中に表面サイズ剤を含有させてもよい。表面サイズ剤としては、スチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体、スチレン/マレイン酸半エステル共重合体、スチレン/マレイン酸エステル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、イソブチレン/(メタ)アクリル酸共重合体、n−ブチレン/(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プロピレン/マレイン酸共重合体、エチレン/マレイン酸共重合体などが挙げられる。これらの共重合体は、ナトリウム塩、カリウム塩、あるいはアンモニウム塩として使用してもよい。
【0038】
また、本発明に影響のない範囲で、防腐剤、消泡剤、紫外線防止剤、退色防止剤、蛍光増白剤、粘度安定化剤、滑剤、防滑剤などの助剤や填料を含有させてもよい。
【0039】
本発明のネッパリ防止剤の使用量は、澱粉類等の水溶性高分子100重量部に対して、固形分換算で、通常0.1〜50重量部、好ましくは0.5〜30重量部である。0.1重量部未満では十分なネッパリ防止の効果がなく、また、50重量部を越えて添加しても効果がさらに向上するものではなく、また、塗工液中のネッパリ防止剤の量が相対的に低下し、所望するネッパリ抑制の効果を得るには紙への塗工量を増加する必要が生じ、コストの上昇を招くため好ましくない。
【0040】
本発明のネッパリ防止剤を塗工する方法は特に制限はされないが、(1)ネッパリ防止剤を含有する表面処理剤の水溶液を紙表面に塗工する際に、該水溶液中にネッパリ防止剤をそのままで、エマルジョン化して、または適宜希釈するなどして混合添加し、該混合液を紙に塗工する方法、(2)ネッパリ防止剤を含有しない表面処理剤の水溶液を(1)と同様の方法により予め塗工した紙に、改めてネッパリ防止剤を塗工する方法等を採用してもよい。工業的な簡便さからは(1)の方法が好ましい。塗工装置としては、サイズプレスコーター、タブサイズ、カレンダーサイズ、ワイヤーバーコーター、エアナイフコーター、ロールコーター(ゲートロールコーター)、ブレードコーター(ビルブレードコーター)、スプレー等で、これらのなかでも、表面処理剤を高速、高濃度で塗工でき、紙層表面への歩留まりが高く、乾燥熱量が少なくてすむことから、ブレードコーター、ロールコーターを使用するのが好ましい。また、ロールコーターのなかでもゲートロールコーターが、異種類の表面処理剤を用いて両面同時塗工が可能なこと、平滑度、白色度、光沢、インキ受理性等の印刷適性の改善ができること、さらに高濃度塗工が可能なため紙層中への水分移動が少なく塗工中の紙切れ、シワの発生が少ないこと等の点から好ましい。
【0041】
本発明のネッパリ防止剤を含有してなる表面処理剤塗工液を、紙表面に塗工する際の濃度、粘度は特に制限はされないが、通常は濃度0.5〜20重量%程度、好ましくは1〜15重量%、粘度1000mPa・s程度(25℃)以下、好ましくは400mPa・s(25℃)以下である。
【0042】
また、本発明の表面処理剤の塗布量は、紙の種類により異なるが、紙に塗布された水溶性高分子とネッパリ防止剤の固形分付着量が、通常0.005〜5.0g/m程度、好ましくは0.01〜3.0g/mの範囲となるよう調節するのがよい。
【0043】
本発明のネッパリ防止剤を含有する表面処理剤を塗工するオフセット印刷用紙原紙は、必ずしも、新聞用紙原紙に限定されるものではないが、新聞用紙原紙の場合に、本発明の効果が顕著に認められるので、以下に言及する。
【0044】
本発明で用いる新聞用紙原紙は、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、セミケミカルパルプなどの機械パルプ(MP)30重量%以上に対し、残りの部分をクラフトパルプ(KP)に代表されるケミカルパルプ(CP)及びこれらのパルプを含む故紙を脱墨して得られる脱墨パルプ(DIP)及び抄紙工程からの損紙を離解して得られる回収パルプなどを、単独、あるいは任意の比率で混合したものである。DIPの配合率については任意の範囲で配合すればよいが、本発明のネッパリ防止剤はDIPの配合率が50〜100重量%の範囲においても良好な効果を示す。一般にDIPの配合率が高くなるとネッパリは悪化する傾向があるが、この原因として樹脂酸類似物が含まれるバージンの機械パルプの配合率が減少することがその一つと考えられる。
【0045】
また、新聞用紙原紙の坪量としては、特に限定されるものではないが、34〜45g/m程度である。
【0046】
この新聞用紙原紙は、必要に応じて、一般に公知公用の製紙用填料、抄紙用薬品を適宜添加することができる。填料としては、ホワイトカーボン、クレー、シリカ、タルク、酸化チタン、炭酸カルシウム、合成樹脂填料(塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、尿素ホルマリン樹脂、メラミン系樹脂、スチレン/ブタジエン系共重合体系樹脂など)などを添加できる。特に中性抄紙においては、炭酸カルシウムが有効である。また、抄紙用薬品としては、ポリアクリルアミド系高分子、ポリビニルアルコール系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物などのろ水性/歩留まり向上剤、ロジンサイズ剤、エマルジョンサイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルコハク酸無水物(ASA)などのサイズ剤、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、紫外線防止剤、退色防止剤、消泡剤などの助剤などを含有してもよい。この原紙の物性は、オフセット印刷機で印刷可能である必要があり、通常の新聞用紙程度の引張り強度、引裂き強度、伸びなどの物性を有するものであればよい。
【0047】
また、本発明の新聞用紙原紙は、酸性抄きの新聞用紙原紙でもよいし、中性、あるいはアルカリ性抄きの新聞用紙原紙であってもよい。
【0048】
本発明のネッパリ防止剤が適用されるオフセット印刷用紙の種類については新聞用紙の他、ノート用紙、書籍用紙、フォーム用紙、PPC用紙等の各種の紙に使用できる。これらの中でもオフセット印刷用新聞用紙の印刷は操業性が重要視されており、短時間に多量の印刷を行わなければならない。そのため、新聞用紙に本発明のネッパリ防止剤を適用することにより、ネッパリ強度を低下させるとともに、吸水抵抗性も同時に付与することができる。従って、オフセット印刷機を使用して印刷する場合にも、表面処理剤のオフセット印刷時の湿し水の転移による紙表面の粘着性の増加によってブランケットへ張り付くネッパリトラブルを防止することができ、断紙による印刷の中断を未然に防ぐことができるといった顕著な効果がある。
【発明の効果】
【0049】
本発明のネッパリ防止剤を使用すれば、澱粉などの表面処理剤の塗布量を多くしなければならない各種用紙(例えば、新聞用紙)に適用した場合であっても、オフセット印刷時の紙粉及びネッパリトラブルの発生が防止でき、かつ印刷適性に優れるオフセット印刷用紙を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。例中、含有量又は使用量を表す%及び部は、特に断らないかぎり重量基準である。
【0051】
pHは、ガラス電極式水素イオン濃度計[東亜電波工業(株)製]を用い、試料のpHを25℃にて測定した値である。
【0052】
粘度は、B型粘度系[(株)東京計器製、BL型]を用い、2号ローター12rpm、25℃で、試料の粘度を測定した値である。
【実施例1】
【0053】
(ネッパリ防止剤(I)の製造)
温度計、還流冷却器及び攪拌棒を備えた容器に、N−(2−アミノエチル)ピペラジン150.0g(1.16モル)及びメタノール69.4gを仕込み、内温を45〜55℃に保って、そこへ、71.5%ビスフェノールAジグリシジルエーテルアセトン溶液237.7g(グリシジル基として0.93モル)を5時間かけて滴下した。滴下終了後、内温45〜55℃でさらに4時間反応させた。次に還流冷却器をリービッヒ冷却器に取り替えた後、アセトン及びメタノールを系外に抜きながら内温を80℃まで上げた。その後、水405.4gを徐々に加えながら冷却して、中間体の水溶液730.2gを得た。さらに上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体の水溶液500.0g(N−(2−アミノエチル)ピペラジンを基準として0.76モル)を仕込み、内温を65〜75℃に保って、そこへ80%アクリル酸水溶液20.4g(0.23モル)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、内温65〜75℃でさらに4時間反応させて、不揮発分43.1%、pH10.0、粘度1110mPa・sの変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)を得た。なお変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)のlogPは0.2である。熱硬化性の確認については、変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)を室温乾固させ、その後105℃にて3時間キュアリングしたフィルムの熱膨張係数(TMA)をTMA−100(セイコーインスツル株式会社製)を使用して測定した。その結果、該フィルムは室温にて触針自重に耐え切れず、熱可塑性樹脂であることが確認された。
【0054】
(表面処理剤およびオフセット印刷用新聞原紙の製造)
熱水で加熱溶解した固形分濃度10%の酸化澱粉(商品名:MS−3800/日本食品社)水溶液の固形分100重量部に、前記変性ポリアミン樹脂(A1)の固形分が10重量部となる割合で添加し、固形分を10.0%に調整し、調整時粘度133mPa・s、および50℃1日経時後粘度226mPa・sの表面処理剤T1を得た。
【0055】
表面処理剤T1を、非塗工新聞原紙(苫ざら、坪量43g)の片面に、MLC(マルチラボラトリーコーター、熊谷理機社製)にてワイヤーロッドを用いて塗工量が0.5g/m付近となるように塗布した。塗布後ただちに、130℃にて30秒間熱風乾燥し、次いで温度23℃、相対湿度50%にて16時間調湿して、オフセット印刷用新聞原紙P1を得た。
【0056】
こうして得たオフセット印刷用新聞原紙P1につき、以下の試験を実施し、その結果を表1に示した。
【0057】
<ネッパリ性評価試験>
オフセット印刷用新聞原紙サンプル2枚を適当な大きさに切り、水を刷毛にて塗布した後、2枚を素早く密着させ、熱プレスにて110℃30秒間乾燥し、次いで温度23℃、相対湿度50%にて16時間調湿した後、引っ張り試験機を用いて、2枚の紙の剥離強度を測定した。数値が大きい程粘着性(ネッパリ性)が大きい。
【0058】
<インキ受理性評価試験>
A法:RI試験機(明製作所製)を使用して、塗工面を給水ロールで湿潤させた後に印刷し、インキの受理性をマクベス濃度計にて測定した。
B法:RI試験機(明製作所製)を使用して、金属ロールとゴムロールの間にわずかな間隙をあけ、その間隙に水を注いだ後速やかに印刷し、インキの受理性をマクベス濃度計にて測定した。
【0059】
<紙粉防止性評価試験>
RI試験機(明製作所製)を使用して、塗工面を印刷し、ゴムロールに付着した紙粉を別の原紙に転写し、ゴムロールに付着した紙粉量を肉眼で観察して判定した。判定基準は次のように行った。
耐水性 (劣)1〜5(優)
【実施例2】
【0060】
実施例1と同様の反応容器にテトラヒドロフタル酸無水物1677.5g(11.03モル)、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸の混合物458.0g(2.76モル、HN−2000;日立化成工業(株)製)を仕込み、内温125℃に上げ、エチレングリコール427.7g(6.89モル)を45分間で滴下した。滴下終了後、内温140〜155℃でさらに1時間攪拌し、末端に遊離カルボキシル基を有する中間体反応生成物2563.0gを得た。さらに上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体反応生成物の1208.4g(エチレングリコールを基準として3.25モル)を仕込み、内温を110℃まで昇温させたのち、トリエチレンテトラミン950.5g(6.50モル)を110〜135℃でゆっくりと滴下した。次いで、生成する水を留去しながら内温を145℃まで昇温させ、発生する水を留去しながら、さらに内温145〜155℃で4時間反応させた。このとき、留去した水の重量は39.0gであった。その後、水634.7gを加えて固形分濃度73.6%の中間体水溶液2766.4gを得た。さらに上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体水溶液190.7g(エチレングリコールを基準として0.22モル)と水24.3gを添加し、65〜75℃に内温を保持しながら、テトラヒドロ無水フタル酸17.0g(0.11モル)を添加し、さらに内温65〜75℃で2時間攪拌した。次に、内温65〜75℃でエピクロルヒドリン16.8g(0.18モル)を2時間かけて滴下し、さらに内温65〜75℃で4時間攪拌した。その後、80℃まで内温を昇温させた。次に、尿素33.0g(0.55モル)を添加した後、内温を90℃まで昇温させた。続いて、発生するアンモニアを系外に留去しながら、内温105℃まで2時間かけて昇温させ、さらに、発生するアンモニアを反応器から留去しながら、内温105℃程度で10時間反応させた。その後、水99.0gを徐々に加えながら冷却して、固形分濃度53.0%、25℃におけるB型粘度が80mPa・sの変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A2)を得た。なお変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A2)のlogPは−1.5である。熱硬化性の確認については、変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A2)を室温乾固させ、その後105℃にて3時間キュアリングしたフィルムの熱膨張係数(TMA)をTMA−100(セイコーインスツル株式会社製)を使用して測定した。その結果、該フィルムは室温にて触針自重に耐え切れず、熱可塑性樹脂であることが確認された。
【0061】
実施例1における変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)を変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A2)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、調整時粘度155mPa・s、および50℃1日経時後粘度319mPa・sの表面処理剤T2を得た。
【0062】
実施例1における表面処理剤T1を表面処理剤T2に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたオフセット印刷用新聞原紙P2について実施例1と同様の試験を実施した結果を表1に示す。
【実施例3】
【0063】
実施例1と同様の反応容器にテトラヒドロフタル酸無水物91.3g(0.6モル)、3−メチルテトラヒドロ無水フタル酸および4−メチルテトラヒドロ無水フタル酸の混合物24.9g(0.15モル、HN−2000;日立化成工業(株)製)を仕込み、内温125℃に上げ、エチレングリコール23.2g(0.37モル)を45分間で滴下した。滴下終了後、内温を150℃に上げ、1時間反応を行った。内温を100℃まで冷却し、トリエチレンテトラミン109.7g(0.75モル)を1時間20分で滴下した。滴下終了後、内温を150℃に上げ、4時間反応を行った。130℃まで冷却し、尿素54.1g(0.9モル)を仕込み、発生するアンモニアを系外に除去しながら12時間脱アンモニア反応を行った後、冷却して、水216.4gを加えた。さらに上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体の水溶液374.0gを仕込み、37%ホルマリン11.5g(0.14モル)を滴下した。滴下終了後、硫酸でpHを5.8に調整し、内温90〜95℃で4時間反応を行った後、28%水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.0に調整し、固形分濃度50.3%、25℃におけるB型粘度が52mPa・sの変性ポリアミン樹脂水溶液(A3)を得た。なお変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A3)のlogPは0.8である。熱硬化性の確認については、変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A3)を室温乾固させ、その後105℃にて3時間キュアリングしたフィルムの熱膨張係数(TMA)をTMA−100(セイコーインスツル株式会社製)を使用して測定した。その結果、該フィルムは室温にて触針自重に耐え切れず、熱可塑性樹脂であることが確認された。
【0064】
実施例1における変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)を変性ポリエステルポリアミド樹脂水溶液(A3)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、調整時粘度150mPa・s、および50℃1日経時後粘度302mPa・sの表面処理剤T3を得た。
【0065】
実施例1における表面処理剤T1を表面処理剤T3に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたオフセット印刷用新聞原紙P3について実施例1と同様の試験を実施した結果を表1に示す。
【0066】
(比較例1)
実施例1と同様の反応容器にジエチレントリアミン300.0g(2.91モル)、水21.5gを仕込み、アジピン酸403.6g(2.76モル)を徐々に添加し、さらに71%硫酸8.8gを滴下した。滴下終了後、昇温し、1時間還流させた。次いで、生成する水を留去しながら内温を160℃まで昇温させ、発生する水を留去しながら、さらに内温160〜162℃で6時間反応させた。このとき、留去した水の重量は105.6gであった。その後、水589.7gを加えて固形分濃度50.3%の中間体水溶液1212.7gを得た。さらに上で用いたのと同様の反応容器にこの中間体水溶液251.6g(ジエチレントリアミンを基準として0.60モル)と水109.8gを添加し、27〜30℃に内温を保持しながら、エピクロルヒドリン67.0g(0.72モル)を3時間かけて滴下し、さらに内温29〜31℃で4時間攪拌した。撹拌終了後、水122.4gを仕込み、50℃まで昇温し、内温50〜52℃で1時間半保温した。保温終了後、32℃まで冷却し、内温30〜34℃で9時間反応させた。反応終了後、水164.0gを添加し、さらに71%硫酸でpH2.3に調整し、不揮発分26.6%、25℃におけるB型粘度が120mPa・s、pH2.31であるポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(B1)を得た。なおポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂水溶液(B1)のlogPは−5.7である。熱硬化性の確認については、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂水溶液(B1)を室温乾固させ、その後105℃にて3時間キュアリングしたフィルムの熱膨張係数(TMA)をTMA−100(セイコーインスツル株式会社製)を使用して測定した。その結果、該フィルムは測定可能であり、熱硬化性樹脂であることが確認された。
【0067】
実施例1における変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)をポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン樹脂(B1)に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、調整時粘度270mPa・s、および50℃1日経時後粘度4650mPa・sの表面処理剤T4を得た。
【0068】
実施例1における表面処理剤T1を表面処理剤T4に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたオフセット印刷用新聞原紙P4について実施例1と同様の試験を実施した結果を表2に示す。
【0069】
(比較例2)
実施例1における表面処理剤T1を表面処理剤T4に変更し、塗工量が0.3g/m付近となるように塗布した以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたオフセット印刷用新聞原紙P5について実施例1と同様の試験を実施した結果を表2に示す。
【0070】
(比較例3)
実施例1における変性ポリアミン樹脂水溶液(A1)を使用しない以外は実施例1と同様の操作を行ない、調整時粘度301mPa・s、および50℃1日経時後粘度460mPa・sの表面処理剤T5を得た。
【0071】
実施例1における表面処理剤T1を表面処理剤T5に変更する以外は実施例1と同様の操作を行ない、得られたオフセット印刷用新聞原紙P6について実施例1と同様の試験を実施した結果を表2に示す。
【0072】
【表1】









【0073】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分配係数Pの対数値logPが−2.0以上であり、熱可塑性樹脂であることを特徴とするネッパリ防止剤(I)
【請求項2】
該熱可塑性樹脂が変性ポリアミン樹脂、変性ポリアミドポリアミン樹脂、変性ポリエステルポリアミド樹脂、およびそれらの塩、およびそれらの4級化物から成る群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物から成ることを特徴とする請求項1記載のネッパリ防止剤(I)
【請求項3】
印刷用紙原紙に、請求項1〜2に記載のネッパリ防止剤(I)を含有する表面処理剤を塗工、乾燥してなるオフセット印刷用紙。

【公開番号】特開2007−70758(P2007−70758A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258640(P2005−258640)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000216243)田岡化学工業株式会社 (115)
【Fターム(参考)】