説明

ノイズを減少する添加剤を含む改善されたマトリクスおよびそれを含む使い捨てターゲット

質量分析のためのマトリクスが開示される。このマトリクスは、付加物形成および/または化学ノイズ発生を最小限にするかまたは排除する添加剤を含有する。また、可溶性の予備マトリクスが置かれたMALDIのターゲットおよび使い捨てプレート上にマトリクスを置くための方法が、開示される。このマトリクス材料は、2,5−ジメトキシ安息香酸および付加物減少添加剤としての一塩基塩または二塩基塩または三塩基塩(例えば、一塩基リン酸アンモニウム塩および一塩基硫酸アンモニウム塩、二塩基クエン酸塩、および三塩基クエン酸塩)であり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する出願への相互参照)
本出願は、2003年12月23日に出願された米国仮特許出願番号60/532,660の利益を主張する。上記仮特許出願の全内容は、本明細書中でその全体が参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
(導入部)
マトリクス支援レーザー脱離/イオン化(MALDI)分析は、生化学、免疫学、遺伝学および生物学における構造の問題を解決するための有用なツールである。実際には、大きな分子(例えば、DNA、ペプチド、タンパク質および他の生物分子)の分析のために、MALDIイオン化を用いた質量分析が、標準的な方法である。このマトリクス材料の役割は、分析物の分子(すなわち、分析されるべき物質)を互いから分離し、レーザーの光子により提供されたエネルギーを吸収し、そしてそのエネルギーを分析物の分子に移して、これにより、その励起およびイオン化をもたらすことである。MALDI質量分析のためのマトリクス材料の選択は、しばしば、分析される生物分子の型に依存し、過去数年にわたって、100を超える異なるマトリクス材料が、当該分野において公知となった。α−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(α−CHCA)は、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間質量分析におけるタンパク質分析物およびペプチド分析物のイオン化を容易にするためのマトリクスとして広く使用されている。しかし、低存在量の低質量の分析物を正確に検出する能力に干渉し得るα−CHCA付加物が、生成する。さらに化学ノイズが発生し、このノイズもまた分析物に干渉する。さらに、α−CHCAの溶解度は、生物分子の分析において代表的に使用される水溶液中では低く、従ってサンプルが、乾燥されたα−CHCAマトリクス材料の上部にスポッティングされる場合に、分析物溶液にほんのわずかな量のα−CHCAが溶解し、それと混合することで、分析物/マトリクスの結晶を形成してサンプルとマトリクスとの混合物が析出される場合よりも低い感度をもたらす。サンプルの分析物のイオン化を容易にするために使用される別のマトリクス材料は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)である。DHBはまた、サンプル分析に干渉する付加物形成および化学ノイズの発生を欠点として持つ。DHBは、α−CHCAよりも水溶液により可溶性であるが、DHBは、代表的にMALDIターゲット上に環として結晶化し、このことは、自動化した質量分析に関する用途についての困難を提示する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(要旨)
本教示に従って、MALDI質量分析のためのマトリクス材料は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)ならびに付加物の形成および/または化学ノイズの発生を最小限にするかあるいは排除する添加剤を含有する。本教示はまた、MALDI質量分析を実施するためのターゲットを提供する。「ターゲット」によって、本発明者らは、MALDI質量分析の間レーザー光線と直面するためにサンプルを位置決めするために使用される構造体、基材、またはデバイスを意図する。また、可溶性の予備マトリクスが析出されたMALDIのターゲットおよび使い捨てプレート上にマトリクスを析出するための方法が、提供される。
【0004】
種々の実施形態において、マトリクス材料は、2,5−ジメトキシ安息香酸ならびに付加物減少添加剤として一塩基塩または二塩基塩を含んで提供される。上記添加剤は、一塩基リン酸塩および一塩基硫酸塩(例えば、一塩基リン酸アンモニウム)、ならびに二塩基クエン酸塩(例えば、二塩基クエン酸アンモニウム)であり得る。
【0005】
種々の実施形態において、本教示は、2,5−ジメトキシ安息香酸ならびに付加物減少添加剤として一塩基塩または二塩基塩を含むマトリクス材料を基材上に置き、それを真空下で乾燥することにより、予備装填マトリクスを含む基材を形成する方法に関する。均一なマトリクススポットが形成され、このスポットは、分析物がマトリクス内で均一に分散するように、置かれた分析物溶液を引き付け得る。種々の実施形態において、サンプルの分析物を置くことは、手作業でか、または自動化されたロボットを用いてかのいずれかで達成され得る。本教示はまた、そのように形成される基材に関する。基材は、マトリクス材料を配置するため、そしてサンプルの分析物を配置するための規定された領域を備え得る。
【0006】
本教示のこれらの特徴および他の特徴は、本明細書中に示される。
【0007】
当業者は、以下に記載される図面は、例示の目的のみのためであることを理解する。これらの図面は、いかなる様式においても本教示の範囲を限定するとは意図されない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(種々の実施形態の詳細な説明)
本発明の記載において、任意の生物分子および生体物質を含む、分析されるべき物質は、「分析物」と称される。本明細書中で使用される用語「生物分子」または「生体物質」としては、オリゴヌクレオチド(すなわち、生物界の本質的な基礎単位)、タンパク質、ペプチドおよび脂質(これらの特定のアナログおよび結合体(例えば、糖タンパク質および脂質タンパク質)を含む)が挙げられる。本教示内のMALDI分析に適用可能な他の物質は、低分子、代謝物、天然の産物および薬物である。本発明の記載で使用される場合、分析物/マトリクスの組み合わせ(任意の付加物減少マトリクス添加剤を含む)は、「サンプル」と称される。
【0009】
分析物は、光吸収物質のマトリクス内に包埋され得、これは、一般に分析物に対して大過剰に存在する。サンプルは、イオン化され、そして質量分析器(例えば、飛行時間型(TOF)分析器)が使用されてイオン質量を測定し得る。質量分析は、創薬および医薬品開発、遺伝子型決定、およびプロテオーム研究の分野において非常に強力なツールであり得る。ある形態にある分析物の分子の、結晶性マトリクス材料の結晶化の間の結晶性マトリクス材料への取り込み、または小さなマトリクス結晶間の少なくとも境界表面への取り込みは、MALDIプロセスのために有利である。
【0010】
適切な基材またはターゲットは、MALDI TOF質量分析において従来使用される基材またはターゲットである。種々の実施形態において、この基材は、実質的に平面の、通常は電気伝導性であり、そしてMALDI装置のイオン化チャンバ内に適合するような寸法である。この基材は、一般に導電性金属(例えば、金、銀、クロム、ニッケル、アルミニウム、銅およびステンレス鋼からなる群より選択される金属)であり得るが、他の剛体表面(例えば、シリコンまたは石英)が使用され得る。基材の材料は、この手順において使用されるべきデバイスまたは化学物質(MALDI質量分析の代表的なマトリクス材料および溶媒を含む)の操作に対して不活性であり得る(そしてデバイスまたは化学物質に干渉しない)。
【0011】
種々の実施形態において、マトリクス材料は、化学バックグラウンド(chemical background)(例えば、質量分析において検出される付加物(例えば、マトリクス付加物)の形成)を減少可能な添加剤と混合された2,5−ジヒドロキシ安息香酸(DHB)であり得る。適切な添加剤は、揮発性の塩、特に揮発性の一塩基性の塩、二塩基性の塩または三塩基性の塩であり得、これらは、分析されるサンプルに干渉するほどに塩基性ではない。この添加剤は、一塩基リン酸塩および一塩基硫酸塩(例えば、一塩基リン酸アンモニウム)、ならびに二塩基クエン酸塩(例えば、二塩基クエン酸アンモニウム)、および三塩基クエン酸塩(例えば、三塩基クエン酸アンモニウム)であり得る。この添加剤は、水に溶解し得、次いで、DHBの水溶液に混合され得、5mg/mlの濃度のDHBおよび約1mM〜約50mMの濃度の一塩基リン酸アンモニウムを得るか、あるいは5mg/mlの濃度のDHBおよび約1mM〜約20mMの濃度の二塩基クエン酸アンモニウムを得る。不十分な量の添加剤の使用は、付加物の形成を有意には減少させず、一方で過剰な添加剤の使用は、質量分析におけるペプチドシグナルを抑制し得る。当業者は、過度の実験なくして、特定の分析物の分析を最適にするための添加剤の適切な量を決定することができる。
【0012】
本教示によるDHBへの添加剤の添加に関して、化学ノイズを伴った付加物(例えば、マトリクス付加物のピーク)は、MALDI質量分析において有意に減少または排除される。それに対応して、分析物のピークの強度およびシグナル対ノイズ比は、有意に増加される。質量分析におけるこれらの改善は、塩に汚染されたサンプルの首尾よい質量分析、および非常に低濃度(例えば、amolレベル)の分析物の首尾よい分析を可能にする。
【0013】
種々の実施形態において、マトリクスは、ターゲット上に置かれて、本教示の付加物減少マトリクス添加剤および適切な溶媒(例えば、水、またはアセトニトリル/水(50:50体積)を含む溶液にDHBを溶解することにより、別個のスポットを形成する。得られた溶液は、MALDI基材上に置かれ、そしてこの基材は、真空チャンバ内におかれ、その結果DHB/付加物減少添加剤溶液は、真空下で乾燥される。真空乾燥は、より均一なサンプルスポットをもたらす。すなわち、分析物の同時の取り込みに伴うマトリクスの結晶化は、図2Aに示されるように本質的にターゲットサンプルのスポット全体にわたって起こる。
【0014】
種々の方法が、ターゲットプレートに分析物およびマトリクスを適用するために使用され得る。種々の実施形態において、マトリクスの塗布は、清澄な金属(例えばステンレス鋼)のサンプルの支持体プレート上に、分析物およびマトリクスの溶液の小滴をピペッティングする工程を包含する。この小滴は、金属表面の領域を湿らせ、そのサイズは小滴の直径に大体一致し、そして金属表面の疎水性および小滴の特徴に依存する。この溶液が乾燥した後、サンプルのスポットは、かつて湿っていた領域にわたって広がる小さなマトリクス結晶から構成される。この分析物/マトリクス析出プロセスは、MALDI質量分析のためのサンプル調製の「乾燥小滴」法と称される。しかし、乾燥小滴を置くための分析物溶液とマトリクス溶液との予備混合は、分析物の希釈をもたらし、このことは、低濃度の分析物についての問題となり得る。
【0015】
本教示の添加剤を含まないDHBが、マトリクス材料として使用される場合、マトリクス/分析物結晶は、事前に湿っていた領域を均一に被覆しない。かわりに、小さなマトリクス結晶のほとんどは、湿った表面の周囲で成長し始め、金属性プレート上の湿った領域の内側に向かって成長する。これは、結果として図1Aに示されるターゲットのサンプルスポットをもたらし得る。
【0016】
種々の実施形態において、まずこのマトリクス材料がターゲット上に置かれ得、その後、分析物が置かれる。マトリクス堆積物は、基材上で乾燥され、溶媒が蒸発するにつれてマトリクスの結晶を形成し得る。乾燥したマトリクスの上部の分析物溶液のその後の堆積は、乾燥したマトリクス析出物の部分的溶解および再溶解したマトリクスと分析物との同時の結晶化をもたらす。このサンプルの調製方法および析出方法を使用して、分析物の希釈が回避される;しかし、このプロセスは、結果として生じるマトリクス中の不均一な分析物の分散を伴う不均一な結晶化をもたらし、これにより、質量分析に悪影響を及ぼす。サンプル処理において高速でサンプルを移動し、置くロボットを使用する高スループットMALDI質量分析に関する種々の実施形態において、処理に使用されるサンプルプレートは、プレートごとに均一な表面を有しているべきであり、これにより測定されるデータの改善された信頼性を提供する。高スループット自動化サンプル分析について、決まった量の置かれたサンプルの足跡領域(footprint area)は、自動化データ取得モードにおいてMALDI装置ソフトウェアを利用するために、均一であり、小さくかつ予測可能であるべきである。このような均一なサンプルスポットはまた、有用な質量スペクトルを作製するのに必要とされるレーザーショットの回数を減らし、時間を節約し、そして過度なデータ処理を避けることにより高スループット解析を可能にする。
【0017】
ここで、図1Aおよび1Bを参照して、乾燥小滴技術に従って、MALDIターゲットプレートの小滴を置いた(scribed)領域内に析出したDHB/ペプチド結晶(10fmol、β−ガラクトシダーゼ消化物)を含むマトリクス/分析物のサンプルが図1Aに示される。示されるように、サンプルは環として結晶化するために、小滴をおいた領域のほとんどは、サンプルが欠ける。図1Bは、この析出物の分析により得られた質量スペクトルを示す。このスペクトルにおける低質量ピークは、マトリクス由来のものであると決定され、そしてペプチドピークは、抑制されたかまたは低強度のどちらかであり、バックグラウンドノイズとを区別することが出来なかった。特に、より高い質量の値における図1Bのスペクトルのシグナル対ノイズ比は、低い。
【0018】
図2Aは、MALDIのターゲットプレートの小滴を置かれた領域内に析出されたDHB/ペプチド結晶(10fmol β−ガラクトシダーゼ消化物)を含むが、本教示により一塩基リン酸アンモニウムを添加しているマトリクス/分析物の別のサンプルを示す。示されるように、得られたサンプルの析出は、このプレートの小滴を置かれた領域全体を実質的に覆いながら、均一である。図2Bは、図1Bに示されるスペクトルと比較して、得られた良質な質量スペクトルを示す。マトリクスのピークのほとんどは抑えられ、そのペプチドピーク(特に1000m/z値を超えて見えるもの)は、顕著である。従って、図2Bのスペクトルにおいて、分析物のシグナル強度およびシグナル対ノイズ比の両方は、図1Bと比較して増加した。
【0019】
本教示によるマトリクス添加剤の使用は、MALDI基材の所定の規定された領域上で、均一なマトリクススポットの形成を可能にする。添加剤の添加は、図2Aに示されるように、図1Aに示されるような環パターンの結晶の形成を排除し、代わりに、所定の規定された領域において均一な析出物をもたらし、MALDI MS分析のためのロボットの使用を可能にする。種々の実施形態において、予備スポット化ターゲットは、このようにして形成され得る。従って、このように置かれたマトリクス材料は、非常に微細な結晶を含むか、または非結晶性であるかのいずれかであり得るとしても、このマトリクス材料は、分析物が乾燥したマトリクススポット上に置かれる場合に、分析物溶液に容易に溶解する。その後の分析物との再結晶化は、質量分析の効率を増強するより大きな結晶の形成をもたらす。驚くことに、サンプル分析物添加および再結晶化後のサンプルスポットのサイズは、本来のマトリクスのみのスポットサイズと非常に類似しており、データ取得のために自動化を使用する能力を増強する。
【0020】
さらに、真空乾燥されたDHB/添加剤のスポットは、ほぼ環状である均一のスポットをもたらす。このスポットは、分析溶液がDHB/添加剤の上部に置かれた場合、分析物溶液を引き付ける傾向がある。従って、真空乾燥されたDHB/添加剤のスポットは、分析物溶液を引き付け、そして分析物の堆積後に所望されないサンプルの広がりを防ぐ、アンカーとして振舞う。従って、これらのマトリクスのスポットは、MALDI基材の表面にわたって所定の間隔(代表的には、規則的な間隔)で置かれ得る。図5は、本教示によるDHBおよび付加物減少添加剤が、規定された領域においてプレート上に予備スポット化されたターゲットプレートを示す。図3Aおよび図3Bは、MALDIターゲット上の環状の小滴を置かれた領域内に最初に置かれ、次いで真空乾燥された5mg/ml DHBおよび一塩基リン酸アンモニウムの0.5μl溶液を示す。続いて分析物(例えば、10fmolのβ−ガラクトシダーゼ)が、アンカースポットの上部に手動でか、または自動化スポッティングロボットを用いて置かれ、それぞれ図4Aおよび4Bに示されるように乾燥された。この堆積技術を使用して、サンプル溶液は減らされて乾燥され、固体のマトリクス/添加剤アンカーの本来のスポットのサイズにされた。これにより、このアンカーは、サンプルの位置を規定し、そして図5のターゲットプレート上の座標としてアンカー位置を使用することにより、質量分析器装置システムによる自動化されたデータ取得は、本教示により容易となる。分析の完了の際に、ターゲットのプレートを、洗浄して再使用し得るか、または容易に廃棄し得る。
【0021】
種々の実施形態において、マトリクス/添加剤物質が析出される基材は、析出物が作製される各々の領域に少なくとも1種の物理障壁を含有し得る。この物理障壁は、例えば、金属性の基材のレーザーエッチングにより形成され得、MALDI質量分析において使用される水溶液の代表的な容量をその障壁内に保持するのに十分な、0.005〜0.10’’の幅、および0.0005〜0.001’’の深さを有する「くぼみ」をもたらす。この物理障壁は、環状(図3A〜図4Bに示される環状の線模様(scribe)により例示される)であり得るが、他の形状および形成方法は、本教示の範囲内である。種々の実施形態において、各々の領域は、第一の物理障壁により規定され得、そしてその第一の物理障壁の境界内に位置するさらなる物理障壁(例えば、図6に示されるより小さい、小滴を置かれた同心円状の領域)を有し得る。この様式において、マトリクス/添加剤のスポットは、上記のとおりにより小さな領域内に置かれ、真空乾燥され、次いでこのサンプルを含有する分析物は、より大きな領域内に析出され得る。次いで、このマトリクス/添加剤材料は、置かれた分析物溶液を引き付け、マトリクス添加剤の内部領域内でその分析物を移動させて均一に濃縮かつ分散させ、このマトリクスの内部領域内でその分析物は乾燥し、MALDI質量分析による分析の準備を整える。
【0022】
種々の実施形態において、MALDIターゲットプレートは、疎水性材料で被覆され得、このDHB/付加物減少添加剤は、このような疎水性表面に直接適用され得る。MALDI基材上の疎水性表面の提供は、非疎水性表面を有する金属性基材と比較して、より小さな面積かつより大きな容量を有するサンプルを置くこと可能にする。さらに、疎水性表面は、表面にわたる液体の広がりを非常に小さくし、したがって、サンプルを含む分析物の交差汚染(cross−contamination)を避ける。しかし、このプレート表面は、置かれた液体サンプルの接触角を非常に大きくさせ、これにより置かれたサンプルの足跡領域を減少させるほどには疎水性であるべきではない。面積のこのような減少は、望ましくない。なぜならば、サンプルを励起し、イオン化するために使用されるレーザーは、自動化された操作の間、サンプルではなくサンプルプレートをたたく可能性が増加するためである。これは、タンデム質量分析(MS/MS)プロセスにおいて望ましくない。このプロセスは、しばしば、比較的大きなサンプルを必要とし、次に、サンプルのレーザーへの10,000回〜100,000回以上の曝露(ショット)を必要とし得る。ターゲットプレートを被覆するために使用され得る適切な疎水性コーティングとしては、合成ろう(例えば、パラフィンろう)、天然のろう(例えば、蜜ろう)、脂質、エステル、有機酸、シリコーンオイル、珪素ポリマー、およびこれらの混合物または市販の化学組成物(例えば、金属研磨ペースト剤または植物油)が挙げられる。本教示において有用な疎水性被覆を形成するために提供されるものは、米国特許出願番号10/227,088に記載され、この開示は、本明細書によりその全体が参考として援用される。
【0023】
本教示は、種々の実施形態に関連して記載されるが、本教示がこのような実施形態に限定されることは意図されない。反対に、当業者に理解されるように、本教示は種々の代替、改変、および等価物を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1Aは、先行技術に従って基材上のDHBマトリクス上に、置かれたペプチド溶液の図である。図1Bは、図1Aのサンプルの質量スペクトルである。
【図2】図2Aは、基材上で本教示の添加剤を用いたDHBマトリクス上に置かれたペプチド溶液の図である。図2Bは、図2Aのサンプルの質量スペクトルである。
【図3】図3Aは、本教示に従って、ターゲットの規定された領域内に置かれたマトリクス材料を含有するMALDIターゲットの低倍率における図である。図3Bは、本教示に従って、ターゲットの規定された領域内に置かれたマトリクス材料を含有するMALDIターゲットの高倍率における図である。
【図4】図4Aは、図3Aのマトリクス材料上に置かれた分析物溶液の図である。図4Bは、図3Bのマトリクス材料上に置かれた分析物溶液の図である。
【図5】図5は、本教示に従って、前もって置かれたマトリクスを用いたMALDIターゲットの上面図である。
【図6】図6は、例えば、レーザーエッチングにより形成された物理境界面により分離された同心円を含むMALDIターゲットのセクションの概略図である。マトリクスは、本教示に従って小さい内部円内に置かれ、そして真空下で乾燥される。分析物溶液は、より大きな円上に析出される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス支援レーザー脱離/イオン化質量分析のためのマトリクス材料であって、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、ならびに一塩基リン酸塩および一塩基硫酸塩、二塩基クエン酸塩、三塩基クエン酸塩、およびこれらの任意の組み合わせから選択される付加物減少添加剤を含有する、マトリクス材料。
【請求項2】
前記添加剤が一塩基リン酸アンモニウムを含有する、請求項1に記載のマトリクス材料。
【請求項3】
前記添加剤が一塩基硫酸アンモニウムを含有する、請求項1に記載のマトリクス材料。
【請求項4】
前記添加剤が二塩基クエン酸アンモニウムを含有する、請求項1に記載のマトリクス材料。
【請求項5】
マトリクス支援レーザー脱離/イオン化質量分析のためのターゲットであって、該ターゲットは表面を備え、該表面の一部は予備装填マトリクスをその上に置かれ、該予備装填マトリクスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、ならびに一塩基リン酸塩、一塩基硫酸塩、二塩基クエン酸塩、三塩基クエン酸塩およびこれらの任意の組み合わせから選択される付加物減少添加剤を含有する、ターゲット。
【請求項6】
前記予備装填マトリクスが、表面上で真空乾燥される、請求項5に記載のターゲット。
【請求項7】
前記添加剤が一塩基リン酸アンモニウムを含有する、請求項5または請求項6に記載のターゲット。
【請求項8】
前記添加剤が一塩基硫酸アンモニウムを含有する、請求項5または請求項6に記載のターゲット。
【請求項9】
前記添加剤が二塩基クエン酸アンモニウムを含有する、請求項5または請求項6に記載のターゲット。
【請求項10】
前記表面が、複数の所定の規定された領域を含み、そして該領域の各々が、該領域内に前記マトリクスを置かれた、請求項5または請求項6に記載のターゲット。
【請求項11】
請求項10に記載のターゲットであって、前記領域の各々は、物理障壁により規定される、ターゲット。
【請求項12】
請求項10に記載のターゲットであって、前記表面は、疎水性コーティングを含有する、ターゲット。
【請求項13】
マトリクス支援レーザー脱離/イオン化質量分析のためのターゲットを作製する方法であって、以下:
a.サンプルの支持体の1つ以上の所定の規定された領域上に、マトリクス材料を置く工程であって、該マトリクス材料は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、ならびに一塩基リン酸塩および一塩基硫酸塩、二塩基クエン酸塩、三塩基クエン酸塩、およびこれらの任意の組み合わせから選択される付加減少添加剤を含有する、工程;ならびに
b.該マトリクス材料を真空乾燥する工程
を包含する、方法。
【請求項14】
マトリクス支援レーザー脱離/イオン化質量分析のためのサンプルを調製する方法であって、以下:
a.ターゲットの1つ以上の所定の規定された領域に、マトリクス材料を置く工程であって、該マトリクス材料は、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、ならびに一塩基リン酸塩および一塩基硫酸塩、二塩基クエン酸塩、三塩基クエン酸塩、およびこれらの任意の組み合わせから選択される付加減少添加剤を含有する、工程;
b.該マトリクス材料を真空乾燥する工程;ならびに
c.乾燥したマトリクススポットに対応する各々の規定された領域において該ターゲット上に分析物を置く工程
を包含する、方法。
【請求項15】
前記分析物が自動化ロボットにより置かれる、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記所定の規定された領域が物理障壁を構成する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、前記所定の規定された領域が内側領域と外側領域とを備え、該内側領域と外側領域との各々が物理障壁を含み、ここで、前記マトリクス材料は、該内側領域内に置かれ、そして前記分析物は、該外側領域内に置かれ、これにより該分析物が該内側領域に移動する、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−516448(P2007−516448A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547337(P2006−547337)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/043194
【国際公開番号】WO2005/064330
【国際公開日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(505310541)アプレラ コーポレイション (12)
【出願人】(506183133)エムディーエス インコーポレーテッド (7)
【Fターム(参考)】