ノイズキャンセルシステム、ノイズキャンセル方法、及びプログラム
【課題】MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部でのノイズキャンセルを実現するノイズキャンセルシステムを提供する。
【解決手段】MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホン11と、ノイズキャンセル装置13とを備える。ヘッドホン11は、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカ21と、スピーカ21が音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する、光マイクである内蔵マイク22とを備える。ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、スピーカ21に出力する。
【解決手段】MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホン11と、ノイズキャンセル装置13とを備える。ヘッドホン11は、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカ21と、スピーカ21が音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する、光マイクである内蔵マイク22とを備える。ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、スピーカ21に出力する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRIの被験者が装着するヘッドホンにおけるノイズをキャンセルするノイズキャンセルシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は医用画像撮像装置の一つであり、有用性が高く、医療診断や脳研究によく使われている。しかしながら、強力なパルス状電流を磁場コイルなどに流して、磁場を急激に変化させて撮像するため、騒音ノイズや電磁誘導ノイズ、振動ノイズなどを発生する。高磁場のMRI装置が稼動しているときでは、100dB(高架線のガード下の騒音レベル)を超えるような強烈な騒音が発生するため、被験者は遮音性の高いヘッドホンやイヤーマフ、耳栓などを装着した上で、撮像を行うことになる。なお、脳研究の分野では、被験者に刺激音を提示して、それに対する被験者の反応をMRI装置によって撮像したいという要求がある。その場合には、耳栓などによって騒音を遮音するのみではなく、刺激音を適切に聞くことができるようにMRI騒音を十分に低減させることが必要になる。
【0003】
従来、そのMRI装置(核磁気共鳴撮像装置)で発生する騒音を能動的に消音するための技術(アクティブノイズキャンセル。以下、「ANC」と呼ぶこともある)が開発されてきている。例えば、被験者の位置検出手段と、その位置に対応する騒音の特性と、MRI装置の磁場印加手順(パルスシーケンス)とに基づき、付加音源を制御することによって、被験者の耳の位置付近のMRI騒音をキャンセルするANC装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。なお、その装置におけるスピーカの振動部材としては圧電素子が用いられている。
【0004】
また、MRI騒音をとらえるためのリファレンスマイク(参照用マイク)をMRI装置のガントリ開口部の前面の壁付近に配置し、被験者の左右の耳元にマイク(エラーマイク)を配置し、リファレンスマイクで検出したMRI騒音波形にフィルタを掛けて被験者の耳元のMRI騒音を推定し、さらに逆位相となるように被験者の耳元の圧電型スピーカから音を出力し、被験者の耳元のMRI騒音をキャンセルするANC装置が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。その場合に、ANCの効果を被験者の耳元のエラーマイクでモニタしながら、ANCの効果が上がるように、適応的にフィルタパラメータを変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−246193号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Frederic G.Pla,Scott D.Sommerfeldt,Robert A.Hedeen,「Active control of noise in magnetic resonance imaging」,Active 95,p573−582,1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MRI装置では、狭い空間内で強烈な音が出されるため、激しく変化する音場となっている。このため、上記特許文献1で開示されている位置の検出と、その検出された位置に対応する騒音の特性と、パルスシーケンスの情報とを用いたとしても、正確に特定位置の騒音を再現することは難しい。さらに、被験者が異なれば耳の位置は変わり、また同じ被験者でも検査ごとに位置が変わりうるため、被験者の耳の位置でのMRI騒音を精度よく再現することは困難である。その結果、有用性の高いANCを実現することが困難であるという問題があった。
【0008】
また、上記非特許文献1で開示されている技術は、リファレンスマイクとエラーマイクの位置が離れているため、リファレンスマイクでとらえたMRI騒音波形と、MRI装置内の激しく変化するエラーマイク位置での騒音波形の違いが大きくなり、リファレンスマイクの騒音波形からエラーマイクの騒音波形を精度よく推定することは困難となる。リファレンスマイクとエラーマイクとを用いたフィードフォワード制御のANCの場合には、リファレンスマイクでとらえた騒音波形から、エラーマイク近傍の消音ゾーンの騒音波形を推定できることが前提となっているからである。
【0009】
また、近年、一般のオーディオの分野において、音響機器の各メーカーがANC機能付きヘッドホンを開発し、販売している。これらのANC機能付きヘッドホンの対象となる騒音はかなり低音であり、これらのANC処理技術を用いてもMRI騒音のキャンセルはできない。また、これらヘッドホンには磁性体が使用されているため、そのままMRI装置に対するANCに適用することはできない。
【0010】
なお、ノイズキャンセルなどの信号処理については種々の方法が用いられており、ノイズキャンセルにおいては、FIR(Finite Impulse Response)フィルタがよく用いられる。それらのノイズキャンセルの処理については、例えば、次の文献を参照されたい。ただし、必ずしもMRI特有の音場特性に適合した処理方法ではない。
文献:足立、佐野、「能動騒音制御におけるシステム同定の役割」、システム/制御/情報、Vol.41,No.2,p.64−72,1997年
【0011】
また、特にMRI装置を用いた脳研究の分野では、遮音性の高いMRI用ヘッドホンを用いて刺激音を被験者に提示するため、その遮音性の高いヘッドホンの内部でのANCが必要となる。しかしながら、遮音性の高いヘッドホンの内部では、騒音は外部の1/10程度に低減されることになるが、電磁誘導ノイズは低減されない。したがって、ヘッドホンの内部のノイズを取得する場合に、騒音よりも電磁誘導ノイズをとらえてしまうことになり、電磁誘導ノイズに対してANCを行うこととなり、騒音自体は低減されないことになるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部での効果的なノイズキャンセルを実現することができるノイズキャンセル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明によるノイズキャンセルシステムは、MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンと、ノイズキャンセル装置とを備えたノイズキャンセルシステムであって、前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力する、ものである。
このような構成により、ヘッドホンの密閉空間の内部のノイズを取得して、ヘッドホン内部のノイズを適切にキャンセルすることができるようになりうる。
【0014】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記スピーカは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のスピーカを実現することができるようになる。
【0015】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、光マイクであってもよい。
このような構成により、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、ヘッドホンの密閉空間のノイズを効果的に取得することができ、その結果、適切なノイズキャンセルを実現できる。
【0016】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、圧電体素子によって構成されたものであってもよい。
このような構成により、感度の高い内蔵マイクを用いることによって、電磁誘導ノイズに比べて、音波のノイズを効果的にとらえることができ、適切なノイズキャンセルを実現できうる。
【0017】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のマイクを実現することができるようになる。
【0018】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ヘッドホンの外部のノイズを取得する非磁性のマイクであって、前記被験者の体長方向における前記内蔵マイクと同じ位置に配置されるマイクであるリファレンスマイクをさらに備え、前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルしてもよい。
【0019】
このような構成により、フィードフォワード制御により、ノイズをキャンセルすることができるようになる。特に、リファレンスマイクを被験者の体長方向における内蔵マイクと同じ位置に配置することによって、より効果的にノイズをとらえることができるようになると考えられる。
【0020】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクと、前記内蔵マイクとは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置してもよい。
このような構成により、リファレンスマイクによって、さらに効果的にノイズをとらえることができるようになると考えられる。
【0021】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部と、前記フィルタパラメータ計算部が計算したフィルタパラメータを用いて、前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部と、を備え、前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力してもよい。
【0022】
このような構成により、計算されたフィルタパラメータを用いてフィルタを構成すると共に、ノイズ信号が小さくなるように位相及びゲインの少なくとも一方を調整することによって、適切なフィードフォワード制御によるノイズキャンセルを実現することができるようになる。
【0023】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記スピーカは、外部から入力された音信号をも出力するものであり、前記フィルタパラメータ計算部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて前記フィルタパラメータを計算し、前記ノイズキャンセル部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、前記スピーカに外部から音信号が入力されている際にも用いてもよい。
【0024】
このような構成により、外部から音信号が入力されていない状況でフィルタパラメータを計算し、そのフィルタパラメータを、外部から音信号が入力されている際にも用いることによって、外部から音信号が入力されている際にフィルタパラメータの計算を行う必要がなく、リアルタイム性を向上させることができる。また、MRI環境は、被験者や台、ヘッドコイルなど、ガントリ内の物体は全て固定されており、また温度や湿度も安定している変化の少ない環境であるため、そのようにして算出したフィルタパラメータを用いたとしても、効果的なノイズキャンセルを実現することができると考えられる。
【0025】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、光マイクであってもよい。
このような構成により、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、リファレンスマイクによって効果的に騒音をとらえることができる。
【0026】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。
このような構成により、密閉空間の外部では、電磁誘導ノイズに対して騒音が十分大きいため、圧電体素子を用いたリファレンスマイクであっても、十分騒音をとらえることができる。
【0027】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のリファレンスマイクを実現することができるようになる。
【0028】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、1または2以上のスライスの撮像に対応する、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を蓄積する蓄積部と、前記1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、前記蓄積部が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号を前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、を備えてもよい。
このような構成により、あらかじめ蓄積していたノイズ信号を用いてノイズキャンセルを実現することができるようになる。
【0029】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部をさらに備え、前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力してもよい。
このような構成により、位相及びゲインの少なくとも一方を調整することによって、より効果的にノイズをキャンセルすることができるようになる。
【0030】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルしてもよい。
このような構成により、フィードバック制御により、ノイズをキャンセルすることができるようになる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によるノイズキャンセルシステム等によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部でのノイズキャンセルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1によるノイズキャンセルシステムの構成を示すブロック図
【図2】同実施の形態におけるヘッドホンの概略断面図
【図3】同実施の形態におけるヘッドホンについて説明するための図
【図4】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の構造の一例を示すブロック図
【図5】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図6】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図7】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図8】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図9】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図10】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図11】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の構造の一例を示すブロック図
【図12】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図13】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図14】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図15】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図16】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図17】同実施の形態におけるシステム全体の構成の一例を示す図
【図18】同実施の形態におけるノイズキャンセルシステムの構成の一例を示すブロック図
【図19】同実施の形態におけるノイズキャンセルの効果について説明するための波形図
【図20】上記実施の形態におけるコンピュータシステムの外観一例を示す模式図
【図21】上記実施の形態におけるコンピュータシステムの構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明によるノイズキャンセルシステムについて、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0034】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1によるノイズキャンセルシステムについて、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1は、MRI環境において使用されるものである。
【0035】
図1は、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1は、ヘッドホン11と、リファレンスマイク12と、ノイズキャンセル装置13とを備える。
【0036】
ヘッドホン11は、MRIの被験者が装着するものである。そのヘッドホン11は、遮音性の高い、密閉型のものである。図1で示されるように、ヘッドホン11は、スピーカ21と、内蔵マイク22とを備える。スピーカ21、及び内蔵マイク22は、一方の耳用のものである。なお、本実施の形態では、説明の便宜上、ヘッドホン11が、スピーカ21と、内蔵マイク22とを1個ずつ備える場合について説明するが、通常のヘッドホンと同様に、ヘッドホン11は、スピーカ21と内蔵マイク22とのセットを両耳分、備えていてもよい。
【0037】
スピーカ21は、音を出力するものであり、圧電体素子によって構成されたものである。なお、スピーカ21は、圧電体素子そのものであってもよく、あるいは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。本実施の形態では、後者の場合について説明する。なお、複合圧電体については、特開昭63−4799号公報を参照されたい。MRI騒音の周波数特性は、900Hz付近に基本周波数があり、その高調波成分も存在する。効果的なノイズキャンセルを実現するには、対象とする騒音波形に対して、少なくともその1/20波長程度の精度でコントロールする必要があると言われている。複合圧電体を用いたスピーカ21は、再生帯域が20〜40000Hzで応答性にも優れ、温度や湿度などに対する安定性にも優れているため、MRI環境におけるノイズキャンセル用に好適である。また、スピーカ21が出力する音は、ノイズをキャンセルするための音であってもよい。また、スピーカ21は、外部から入力された音信号(例えば、脳研究のために被験者に提示される刺激音など)をも出力してもよい。
【0038】
なお、ここで、スピーカ21として圧電体素子によって構成されたものを用いる理由について簡単に説明する。通常、MRIに起因する電磁誘導ノイズは10mV程度であり、スピーカ21に入力される音信号は数V程度である。したがって、音信号に対して電磁誘導ノイズは、十分小さいと考えられるため、スピーカ21として圧電体素子によって構成されたものを用いることができるのである。
【0039】
内蔵マイク22は、スピーカ21が音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得するものである。その内蔵マイク22は、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたものであってもよい。光マイクは、振動板の音圧による振動を、その振動板に光ビームを照射し、その反射光を受光することによって検知するものである。光マイクの詳細については、特開2001−119784号公報を参照されたい。また、光マイクは、例えば、コバテル株式会社製のものを用いてもよい。光マイクを用いることによって、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、ヘッドホン11の密閉空間の内部のMRI騒音を高音質で取得することができる。内蔵マイク22が圧電体素子によって構成されたものである場合に、その内蔵マイク22は、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。なお、内蔵マイク22が圧電体素子によって構成されたものである場合には、内蔵マイク22によって電磁誘導ノイズをとらえてしまうことになる。したがって、よりよいノイズキャンセルを実現するために、その圧電体素子によって構成された内蔵マイク22は、音波のノイズを効果的にとらえることができる高感度のものであることが好適である。そのようにすることで、内蔵マイク22によってとらえる音波のノイズと、電磁誘導ノイズとにおいて、音波のノイズの割合を高くすることができるからである。例えば、圧電体素子から構成される薄膜の振動板を用いることによって、内蔵マイク22の感度を上げることができうる。また、その振動板の面積の広い方が、より高感度となりうる。
【0040】
内蔵マイク22は、スピーカ21から音が出力されていない場合や、スピーカ21からノイズキャンセル用の音のみが出力されている場合には、密閉空間の内部のノイズのみを取得することになる。一方、スピーカ21から、外部入力された音信号に応じた音(例えば、脳研究用の刺激音など)が出力されているときには、内蔵マイク22は、密閉空間の内部のノイズと、外部入力された音信号に応じた音とを取得することになる。この内蔵マイク22は、いわゆるエラーマイクとして用いられるものである。
【0041】
なお、本実施の形態では、ヘッドホン11に、後述するリファレンスマイク12や、被験者用の通話マイク109が接続される場合について説明する。したがって、ヘッドホン11の振動(この振動は、ヘッドホン11のスピーカ21から出力される音ではない)がこれらのマイクに伝わることで、ノイズキャンセルの性能を劣化させる場合がある。振動は、発音体であるスピーカ21からヘッドホン11のハウジングに伝わり、さらにこれがマイクに伝わる。そこで、スピーカ21とヘッドホン11のハウジングとの振動伝達をなくす構造とすることが望ましい。
【0042】
図2は、ヘッドホン11の概略断面図である。複合圧電体61の端部は、固定用の枠62に固着されている。詳細については、前述の特開昭63−4799号公報を参照されたい。固定用の枠62の裏面は、密閉されたプレートで閉じられていて、その前面は音波が出るように多数の孔が開いている。この固定用の枠62が、ヘッドホン11のハウジング63と機械的に弱く接続されるようにするため、シート状の防振材64を介する構造とする。イヤーパッド65は、被験者がヘッドホン11を装着したときの装着感を高めるための部材であり、スポンジ等の弾性部材をベースとしたものである。防振材64としては、ゲル状に柔らかく、MRI撮像に影響しない振動防止材が好適である。例えば、ソルボセイン(登録商標)や、スーパーゲルなどの商品名のものが知られている。
【0043】
なお、リファレンスマイク12や、通話マイク109をヘッドホン11に固定する際にも、振動吸収材を使用して、それらのマイクとヘッドホン11のハウジング63との振動伝達を下げる構成として、それらのマイクにヘッドホン11の振動ができるだけ入らない構造とすることが望ましい。この振動吸収材は、防振材64と同様の材質のものが好適である。このように、リファレンスマイク12や通話マイク109にヘッドホン11などからの振動ができるだけ入らない構造とすることによって、それらのマイクによるより適切なノイズ信号や、被験者の音声信号等の取得が可能となる。
また、非磁性のヘッドホンとしては、エアーチューブタイプのものもあるが、音質がよくないため、ノイズキャンセルシステム1において用いることは困難であると考えられる。
また、本実施の形態では、リファレンスマイク12や、通話マイク109がヘッドホン11に固定される場合について説明するが、そうでなくてもよい。リファレンスマイク12や、通話マイク109は、その他のもの、例えば、MRI装置本体や、後述するRFコイル105などに固定されてもよい。その固定の際には、防振材64と同様な材質の振動吸収材を用いることによって、振動が伝わらないようにすることが望ましい。
【0044】
図3(a)は、ヘッドホン11のハウジング63を上から見た図であり、ハウジング63にはマイクを取り付けるためのプレート72が接合されている。そのプレート72には、マイクの軸を固定するための孔73が設けられている。孔73には、プラスチックネジなどで、リファレンスマイク12や通話マイク109を固定できるが、防振材を入れて固定することが好適である。通話マイク109は、被験者の口元側に向けられ、リファレンスマイク12は被験者の発声した音声が入ることがないように、被験者の口とは反対に向けられることが望ましい。
【0045】
図3(b)は、複合圧電体を用いた内蔵マイク22の密閉された面に防振材75を配置し、ヘッドホン11の密閉空間内に設置した状態を示している。防振材75は、固定用の枠62の穴のあいたプラスチック面と接触するが、ヘッドホン11の振動は、内蔵マイク22には伝わらない。
【0046】
図3(c)は、円筒形状の光マイクである内蔵マイク22を防振材76で包み、ヘッドホン11の密閉空間内に設置した状態を示している。防振材76は、固定用の枠62の穴のあいたプラスチック面に貼着されるが、ヘッドホン11の振動は、内蔵マイク22には伝わらない。なお、図2,図3において、説明の便宜上、ケーブルはすべて省略した。
【0047】
このように、ヘッドホン11の振動が内蔵マイク22に伝わらない構造とすることによって、内蔵マイク22によるより適切なノイズ信号の取得が可能となる。
【0048】
リファレンスマイク12は、ヘッドホン11の外部のノイズを取得する非磁性のマイクである。このリファレンスマイク12は、被験者の体長方向における内蔵マイク22と同じ位置に配置されることが好適である。また、リファレンスマイク12と、内蔵マイク22とは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置することがさらに好適である。これらの理由については後述する。なお、「同じ位置」や、「同じ半径」は、実質的に同じ位置や同じ半径であれば、厳密な意味において同じでなくてもよい。実質的に同じであるとは、リファレンスマイク12で取得したノイズから、内蔵マイク22の位置でのノイズを精度よく推定できる程度に同じである、という意味である。そうでなければ、適切なノイズキャンセルを行うことができないからである。
【0049】
リファレンスマイク12は、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。後者の場合に、リファレンスマイク12は、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
【0050】
ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、スピーカ21に出力する。また、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号をも用いて、ノイズキャンセルを行ってもよい。
【0051】
本実施の形態では、ノイズキャンセル装置13のノイズキャンセルの方法として、(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセル方法、(2)メモリ方式のノイズキャンセル方法、(3)フィードバック制御のノイズキャンセル方法について説明するが,それ以外のノイズキャンセル方法を用いてもよいことは言うまでもない。
【0052】
(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセル方法
フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号をも用いてノイズキャンセルを行う。図4は、フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行うノイズキャンセル装置13の構成を示すブロック図である。図4において、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルするものであり、フィルタパラメータ計算部31と、ノイズキャンセル部32と、決定部33とを備える。
【0053】
フィルタパラメータ計算部31は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22が取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算する。フィルタパラメータ計算部31は、例えば、非特許文献1にも記載されているフィルタードXLSM法や、その他の方法を用いて、フィルタパラメータを計算することができる。
【0054】
ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31が計算したフィルタパラメータを用いてフィルタを構成し、内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルする音信号を生成してスピーカ21に出力する。また、後述する決定部33によって位相及びゲインの少なくとも一方が決定された場合には、ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号が、その決定された位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号となるようにする。
【0055】
決定部33は、ノイズキャンセル部32が音信号をスピーカ21に出力している際に内蔵マイク22が取得したノイズ信号を用いて、そのノイズ信号が小さくなるように、ノイズキャンセル部32が出力する音信号の位相及びゲイン(出力波形の強度)の少なくとも一方を決定する。したがって、決定部33は、音信号の位相のみを決定してもよく、音信号のゲインのみを決定してもよく、あるいは、音信号の位相とゲインの両方を決定してもよい。電気的な信号である音信号においてノイズキャンセルをキャンセルする場合には、このような位相やゲインの調整は必要ないが、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1のように、スピーカ21からノイズの逆位相の音を出力することによってノイズをキャンセルする場合には、スピーカ21や内蔵マイク22等の特性に応じて、スピーカ21に出力する音信号の位相やゲインを調整した方が、より効果的なノイズキャンセルを実現できることになる。したがって、この決定部33によって、位相とゲインの少なくとも一方を調整することになる。具体的には、位相やゲインを少しずつ変化させてノイズのキャンセルを行い、その結果、内蔵マイク22によって得られたノイズ信号が最も小さくなるように位相とゲインの少なくとも一方を調整することになる。
【0056】
なお、スピーカ21に外部から音信号が入力されうる場合には、フィルタパラメータ計算部31は、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号(このノイズ信号は、内蔵マイク22と、リファレンスマイク12とによって取得されたノイズ信号である)を用いてフィルタパラメータを計算する。そして、ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、スピーカ21に外部から音信号が入力されている際にも用いて、ノイズキャンセルを行う。もちろん、ノイズキャンセル部32は、そのフィルタパラメータを用いて、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際にノイズキャンセルを行ってもよいことは言うまでもない。また、決定部33も、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際に、位相とゲインの少なくとも一方を決定するものとする。
【0057】
また、フィルタパラメータ計算部31がフィルタパラメータを計算する際や、決定部33が位相とゲインの少なくとも一方を決定する際には、ノイズが発生しているものとする。したがって、MRI装置が稼働して騒音の発生している環境下で、それらの処理が実行されるものとする。
【0058】
次に、フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行う場合のノイズキャンセル装置13の動作について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートにおいて、ステップS101はオフライン処理であり、ステップS102,S103はオンライン処理である。
【0059】
(ステップS101)フィルタパラメータ計算部31は、フィルタパラメータの計算を行うことによって、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号から、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズ信号を精度よく予測するフィルタを構成する。スピーカ21から出力された音波が内蔵マイク22に到達するには時間がかかるため、この時間だけ未来のMRI騒音波形を推定することが必要となる。ノイズキャンセルシステム1では、平均化処理(例えば、後述する図18の平均化処理部211において行われる)や、ローパスフィルタの処理(例えば、後述する図18のLPF214,215において行われる)が行われるのであれば、さらに時間遅れが生じることがある。ここでは、最良のノイズキャンセルを実現するために、位相を変えた何種類かの騒音波形の予測フィルタを構成することになる。この処理の詳細については、図6のフローチャートを用いて後述する。
【0060】
(ステップS102)決定部33は、そのようにして構成されたフィルタの評価を行う。すなわち、位相とゲインの少なくとも一方を決定する。この処理の詳細については、図7のフローチャートを用いて後述する。
【0061】
(ステップS103)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、決定部33によって決定された位相とゲインの少なくとも一方とを用いて、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズの予測信号を生成し、逆位相となるようにスピーカ21に出力することによって、ノイズのキャンセル処理を行う。そして、ノイズをキャンセルする一連の処理は終了となる。この処理の詳細については、図8のフローチャートを用いて後述する。
【0062】
図6は、図5のフローチャートにおけるフィルタの構成の処理(ステップS101)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS201)フィルタパラメータ計算部31は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号とを取り込む。
【0063】
(ステップS202)フィルタパラメータ計算部31は、それらのノイズ信号を用いて、リファレンスマイク12のノイズ信号から、内蔵マイク22のノイズ信号を予測推定するフィルタパラメータを計算することによって、何種類か位相を変えた予測フィルタを構成する。なお、位相に関する評価を行わない場合には、1種類の位相に応じた予測フィルタを構成するのみであってもよい。
【0064】
(ステップS203)フィルタパラメータ計算部31は、フィルタの構成が完了したかどうか判断する。そして、完了した場合には、図5のフローチャートに戻り、まだ構成されていないフィルタが存在する場合には、ステップS201に戻ってフィルタを構成する処理を継続する。例えば、ヘッドホン11の右側と左側のそれぞれについてフィルタを構成する場合には、1回の処理で構成されるのは一方であるため、ステップS201〜S202の処理が2回繰り返されることによって、右側のフィルタと、左側のフィルタとが設定されることになる。なお、以下の各フローチャートの説明においても、ヘッドホン11の右側と左側とのそれぞれについての処理が実行されてもよい。
【0065】
図7は、図5のフローチャートにおけるフィルタの評価の処理(ステップS102)の詳細を示すフローチャートである。図7のフローチャートでは、決定部33が、ヘッドホン11への出力ゲインを決定する場合について説明する。(決定部33が、位相を決定する場合は、出力ゲインを固定して何種類か位相を変えた予測フィルタで最もキャンセル効果の高いフィルタを採用すればよい。位相とゲインの両方を決定する場合も、同様にして実行することができる。)
【0066】
(ステップS301)決定部33は、ヘッドホン11への出力ゲインの初期値と、ノイズキャンセルの効果の評価時間とを設定する。その出力ゲインの初期値や評価時間は、あらかじめ決められていてもよい。
【0067】
(ステップS302)ノイズキャンセル部32は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0068】
(ステップS303)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、その時点の出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。具体的には、ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータを用いてノイズに対応する音信号の予測値を計算し、設定された出力ゲインを乗じて逆位相にする。この出力ゲインは、決定部33によって設定されたものである。
【0069】
(ステップS304)ノイズキャンセル部32は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS305に進み、超えていない場合には、ステップS306に進む。
【0070】
(ステップS305)ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0071】
なお、ステップS304,S305の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部32は、ステップS304,S305の処理を行わなくてもよい。
【0072】
(ステップS306)ノイズキャンセル部32は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0073】
(ステップS307)決定部33は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0074】
(ステップS308)決定部33は、そのノイズ信号の2乗値を計算し、その2乗値を、それまでに計算して来ている、図示しない記録媒体で記憶されている2乗値の積算値である2乗積算値に加算する。なお、出力ゲインのある設定値について、はじめて2乗値を計算した場合には、決定部33は、その2乗値を2乗積算値として図示しない記録媒体に新たに蓄積する。また、その図示しない記録媒体で記憶されている2乗積算値は、その時点の出力ゲインの設定値に対応付けられて記憶されていることが好適である。
【0075】
(ステップS309)決定部33は、フィルタの評価の処理を開始してから、評価時間が経過したかどうか判断する。そして、評価時間が経過した場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻って、2乗積算値の計算を継続する。なお、フィルタの評価の処理の開始からの経過時間が分かるように、フィルタの評価の処理の開始からタイマでの計時を開始してもよく、あるいは、フィルタの評価の処理の開始時点の時刻を図示しない記録媒体で記憶しておいてもよい。また、この評価時間は、時間そのものではなく、2乗積算値において積算された2乗値の個数であってもよい。すなわち、2乗積算値において積算された2乗値の個数があらかじめ決められた個数に到達した場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻るようにしてもよい。その場合には、その判断で用いられる2乗値の個数を、2乗積算値に対応付けて図示しない記録媒体で記憶していてもよい。
【0076】
(ステップS310)決定部33は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断する。そして、次の出力ゲインの設定が存在する場合には、ステップS312に進み、その時点の出力ゲインの設定が最後の設定であって、それ以上の出力ゲインの設定が存在しない場合には、ステップS311に進む。決定部33が設定する出力ゲインの候補は、あらかじめ決められていてもよい。例えば、その出力ゲインの候補の最小値と最大値と幅とが決められており、その情報を用いて、決定部33は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断してもよい。
【0077】
(ステップS311)決定部33は、それまでに蓄積した2乗積算値のうち、最も小さい値に対応する出力ゲインを、ノイズキャンセル部32がスピーカ21に出力する音信号の出力ゲインに決定する。なお、その決定された出力ゲインは、図示しない記録媒体に蓄積されてもよい。そして、図5のフローチャートに戻る。
【0078】
(ステップS312)決定部33は、出力ゲインを次の設定値に設定する。そして、ステップS302に戻って、その設定値に対する2乗積算値の計算を開始する。
【0079】
図8は、図5のフローチャートにおけるノイズキャンセルの処理(ステップS103)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS401)ノイズキャンセル部32は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0080】
(ステップS402)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、ステップS102において決定された出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。この処理は、ステップS303と同様にして行われる。
【0081】
(ステップS403)ノイズキャンセル部32は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS404に進み、超えていない場合には、ステップS405に進む。
【0082】
(ステップS404)ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0083】
なお、ステップS403,S404の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部32は、ステップS403,S404の処理を行わなくてもよい。
【0084】
(ステップS405)ノイズキャンセル部32は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0085】
(ステップS406)ノイズキャンセル部32は、ノイズをキャンセルする処理を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図5のフローチャートに戻り、ノイズをキャンセルする一連の処理を終了し、そうでない場合には、ステップS401に戻る。なお、ノイズキャンセル部32は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けた場合に、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよい。
【0086】
なお、フィルタの評価(ステップS102)において、位相とゲインの少なくとも一方の調整が終了しているのであれば、ノイズキャンセル(ステップS103)においては、ノイズキャンセルをリアルタイムで行いながら、外部から入力された音信号をスピーカ21に出力することもでき、その外部からの音を被験者に聞かせることができる。この場合には、ステップS101,S102において一度、フィルタパラメータや出力ゲイン等の設定が終了すれば、ステップS103においては、それらの設定をする必要がないからである。その外部から入力される音信号は、例えば、任意の刺激音の信号であってもよく、CDプレーヤなどから出力される音楽の信号であってもよく、その他の音信号であってもよい。
【0087】
また、ここでは、ノイズキャンセル装置13が、フィルタパラメータ計算部31と、ノイズキャンセル部32と、決定部33とを備え、それらの構成要素によってフィードフォワード制御によるノイズキャンセル処理が実行される場合について説明したが、それら以外の構成によって、フィードフォワード制御によるノイズキャンセル処理が実行されてもよいことは言うまでもない。
【0088】
ここで、リファレンスマイク12の位置について説明する。図9は、ガントリ内のほぼ中央で、ガントリの円筒の中心軸から約10cmの位置で測定した騒音波形(図9(a))と、約12cmの位置で同時に測定した騒音波形(図9(b))とを示す波形図である。これらは、50μsでサンプリングされている。図9(a),(b)を比較すると、両者は測定位置が2cmほどしか違わないが、かなり波形が異なっていることが分かる。このことから、MRI騒音には、半径方向の位置によって騒音波形が急激に変化するなどの位置依存性があることがわかる。したがって、リファレンスマイクが騒音源の近く設置され、エラーマイクが騒音源から遠くに設置されていて、リファレンスマイクのノイズ信号でエラーマイクの位置のノイズ信号を推定し、エラーマイクの近くの2次音源としてのスピーカから、推定したノイズ信号の逆位相の音を出して、ノイズキャンセルを行うという通常のノイズキャンセルの手法が効果的でないことを意味する。つまり、音源(この場合はガントリの壁)に近い図9(b)の波形で、図9(a)の波形の精度のよい推定ができない。
【0089】
図10は、ガントリ内のほぼ中央で、ガントリの円筒の中心軸からほぼ直角な平面上における、半径約10cmの同心円の真上で測定した騒音波形(図10(a))と、その同心円の真上から90度の位置の騒音波形(図10(b))とを示す波形図である。これらは、50μsでサンプリングされている。これらの波形は非常によく似ていることが分かる。このことから、MRI騒音には、ガントリの円筒の中心軸からほぼ直角な平面上で、同心円状の位置で、かなり近い騒音波形の音場が形成されていることがわかる。すなわち、MRI騒音は、ガントリの円筒の中心軸に対する同心円の円周方向について依存性がないことが分かる。
【0090】
フィードフォワード制御のノイズキャンセルにおいては、リファレンスマイク12の取得したノイズ信号から、エラーマイクである内蔵マイク22の位置のノイズ信号を精度よく推定できることが重要なポイントとなる。したがって、内蔵マイク22の位置でのノイズ信号を適切に推定することができるように、リファレンスマイク12は、被験者の体長方向における内蔵マイク22と同じ位置に配置されることが好適であるが、さらに、図9,図10の波形図から、精度の高い推定を行うためには、リファレンスマイク12と内蔵マイク22とがガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置することがさらに好適であることが分かる。
【0091】
(2)メモリ方式のノイズキャンセル方法
メモリ方式のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を蓄積し、その蓄積したノイズ信号を用いてノイズキャンセルを行う。この場合には、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を用いなくてもよいため、ノイズキャンセルシステム1は、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。また、この方式のノイズキャンセル方法の主要な部分については、例えば、特開2005−211154号公報に記載されている。図11は、メモリ方式のノイズキャンセルを行うノイズキャンセル装置13の構成を示すブロック図である。図11において、ノイズキャンセル装置13は、蓄積部41と、ノイズキャンセル部42と、決定部43とを備える。
【0092】
蓄積部41は、1または2以上のスライスの撮像に対応する、内蔵マイク22が取得したノイズ信号を記録媒体に蓄積する。MRI装置からは、規定数量のスライスを撮像するごとにトリガー信号が出力される。蓄積部41は、そのトリガー信号をトリガーとして、ノイズ信号を蓄積してもよい。蓄積部41がノイズ信号を蓄積する時間は、1スライスの撮像に対応する時間であってもよく、2以上のスライスの撮像に対応する時間であってもよい。後者の場合には、蓄積部41は、例えば、規定数量のスライス(すなわち、全スライス)の撮像に対応する時間であるレピティションタイムだけノイズ信号を蓄積してもよい。レピティションタイムは、MRI装置にも依存するが約3秒程度である。また、蓄積される対象となる「内蔵マイク22が取得したノイズ信号」とは、内蔵マイク22がノイズ信号のみを取得した場合には、その信号そのものであってもよく、内蔵マイク22がノイズ信号と、外部から入力された音(例えば、被験者に提示される刺激音など)に対応する音信号とを取得した場合には、そのノイズ信号と音信号とを含む信号から音信号を除去したノイズ信号であってもよい。また、蓄積部41がノイズ信号を蓄積する記録媒体は、例えば、半導体メモリや、光ディスク、磁気ディスク等であり、蓄積部41が有していてもよく、あるいは蓄積部41の外部に存在してもよい。また、この記録媒体は、ノイズ信号一時的に記憶するものであってもよく、そうでなくてもよい。
【0093】
ノイズキャンセル部42は、1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、蓄積部41が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号をスピーカ21に出力する。例えば、あるレピティションタイムにおいて蓄積部41が蓄積したノイズ信号を用いて、ノイズキャンセル部42は、別のレピティションタイムにおいてノイズキャンセルの処理を行う。当然ながら、蓄積部41がノイズ信号を蓄積した際の条件と、ノイズキャンセル部42がノイズキャンセルを行う際の条件とは、似ていることが好適である。例えば、両者での撮像スライス数は、一致していることが好適である。また、蓄積部41がノイズ信号を蓄積したタイミングと、ノイズキャンセル部42がノイズをキャンセルするための音信号を出力するタイミングとは同期していることが好適である。例えば、蓄積部41がトリガー信号をトリガーとしてノイズ信号を蓄積した場合には、ノイズキャンセル部42は、同じトリガー信号をトリガーとしてノイズをキャンセルするための音信号を出力することが好適である。また、ノイズキャンセル部42は、後述する決定部43が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号をスピーカ21に出力する。
【0094】
決定部43は、ノイズキャンセル部42が音信号をスピーカ21に出力している際に内蔵マイク22が取得したノイズ信号を用いて、そのノイズ信号が小さくなるように、ノイズキャンセル部42が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する。この決定部43は、前述の決定部33と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0095】
次に、メモリ方式のノイズキャンセルを行う場合のノイズキャンセル装置13の動作について、図12のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS501)蓄積部41は、内蔵マイク22が取得したノイズ信号を記録媒体に蓄積する。この処理の詳細については、図13のフローチャートを用いて後述する。
【0096】
(ステップS502)決定部43は、そのようにして蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルの評価を行う。すなわち、位相とゲインの少なくとも一方を決定する。この処理の詳細については、図14のフローチャートを用いて後述する。
【0097】
(ステップS503)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号と、決定部43によって決定された位相とゲインの少なくとも一方とを用いて、ノイズのキャンセル処理を行う。すなわち、ノイズキャンセル部42は、蓄積されたノイズ信号を、内蔵マイク22の位置で逆位相となるようにスピーカ21に出力する。そして、ノイズをキャンセルする一連の処理は終了となる。この処理の詳細については、図15のフローチャートを用いて後述する。
【0098】
図13は、図12のフローチャートにおけるノイズ信号の蓄積の処理(ステップS501)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS601)蓄積部41は、ノイズ信号の蓄積を開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS602に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS601の処理を繰り返す。蓄積部41は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズ信号の蓄積を開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズ信号の蓄積を開始すると判断してもよい。
【0099】
(ステップS602)蓄積部41は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0100】
(ステップS603)蓄積部41は、その取り込んだノイズ信号を記録媒体に蓄積する。この蓄積の際に、タイムコードに対応付けて蓄積してもよい。その蓄積したノイズ信号を読み出す場合に、時系列に沿って読み出すことができるようにするためである。
【0101】
(ステップS604)蓄積部41は、ノイズ信号の蓄積を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図12のフローチャートに戻り、そうでない場合には、ステップS602に戻る。蓄積部41は、例えば、ノイズ信号の蓄積を開始してからレピティションタイムだけ経過した場合に、ノイズ信号の蓄積を終了すると判断してもよく、その他の場合に、ノイズ信号の蓄積を終了すると判断してもよい。なお、レピティションタイムを用いた判断を行う場合には、ノイズ信号の蓄積の処理の開始からの経過時間が分かるように、ノイズ信号の蓄積の処理の開始からタイマでの計時を開始してもよく、あるいは、ノイズ信号の蓄積の処理の開始時点の時刻を図示しない記録媒体で記憶しておいてもよい。
【0102】
図14は、図12のフローチャートにおける評価の処理(ステップS502)の詳細を示すフローチャートである。図14のフローチャートでは、決定部43が、ヘッドホン11への出力ゲインを決定する場合について説明する。決定部43が、位相を決定する場合や、位相とゲインの両方を決定する場合も、同様にして実行することができる。
【0103】
(ステップS701)決定部43は、ヘッドホン11への出力ゲインの初期値と、ノイズキャンセルの効果の評価時間とを設定する。その出力ゲインの初期値や評価時間は、あらかじめ決められていてもよい。
【0104】
(ステップS702)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルを開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS703に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS702の処理を繰り返す。ノイズキャンセル部42は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよい。
【0105】
(ステップS703)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を読み出す。ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を時系列に沿って、すなわち、時間的に先頭の部分から順次、読み出していくものとする。その際に、ノイズ信号と一緒に蓄積されたタイムコードを用いて読み出してもよい。
【0106】
(ステップS704)ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号と、その時点の出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。具体的には、ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号に設定された出力ゲインを乗じて逆位相にする。この出力ゲインは、決定部43によって設定されたものである。
【0107】
(ステップS705)ノイズキャンセル部42は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS706に進み、超えていない場合には、ステップS707に進む。
【0108】
(ステップS706)ノイズキャンセル部42は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0109】
なお、ステップS705,S706の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部42は、ステップS705,S706の処理を行わなくてもよい。
【0110】
(ステップS707)ノイズキャンセル部42は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0111】
(ステップS708)決定部43は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0112】
(ステップS709)決定部43は、そのノイズ信号の2乗値を計算し、その2乗値を、それまでに計算して来ている、図示しない記録媒体で記憶されている2乗値の積算値である2乗積算値に加算する。なお、このステップの処理は、決定部33によるステップS308の処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0113】
(ステップS710)決定部43は、フィルタの評価の処理を開始してから、評価時間が経過したかどうか判断する。そして、評価時間が経過した場合には、ステップS711に進み、そうでない場合には、ステップS703に戻って、2乗積算値の計算を継続する。なお、このステップの処理は、決定部33によるステップS309の処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。この評価時間は、1枚のスライスの撮像に対応する程度の時間であってもよい。その程度の時間で、十分評価を行うことができうるからである。
【0114】
(ステップS711)決定部43は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断する。そして、次の出力ゲインの設定が存在する場合には、ステップS713に進み、その時点の出力ゲインの設定が最後の設定であって、それ以上の出力ゲインの設定が存在しない場合には、ステップS712に進む。
【0115】
(ステップS712)決定部43は、それまでに蓄積した2乗積算値のうち、最も小さい値に対応する出力ゲインを、ノイズキャンセル部42がスピーカ21に出力する音信号の出力ゲインに決定する。なお、その決定された出力ゲインは、図示しない記録媒体に蓄積されてもよい。そして、図12のフローチャートに戻る。
【0116】
(ステップS713)決定部43は、出力ゲインを次の設定値に設定する。そして、ステップS702に戻って、その設定値に対する2乗積算値の計算を開始する。
【0117】
図15は、図12のフローチャートにおけるノイズキャンセルの処理(ステップS503)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS801)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルを開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS802に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS801の処理を繰り返す。ノイズキャンセル部42は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよい。このフローチャートでは、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断されるものとする。
【0118】
(ステップS802)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を読み出す。ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を時系列に沿って読み出していくものとする。その際に、ノイズ信号と一緒に蓄積されたタイムコードを用いて読み出してもよい。
【0119】
(ステップS803)ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号と、ステップS502において決定された出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。この処理は、ステップS704と同様にして行われる。
【0120】
(ステップS804)ノイズキャンセル部42は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS805に進み、超えていない場合には、ステップS806に進む。
【0121】
(ステップS805)ノイズキャンセル部42は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0122】
なお、ステップS804,S805の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部42は、ステップS804,S805の処理を行わなくてもよい。
【0123】
(ステップS806)ノイズキャンセル部42は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0124】
(ステップS807)ノイズキャンセル部42は、ノイズをキャンセルする処理を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図12のフローチャートに戻り、ノイズをキャンセルする一連の処理を終了し、そうでない場合には、ステップS808に進む。なお、ノイズキャンセル部42は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けた場合に、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよい。
【0125】
(ステップS808)ノイズキャンセル部42は、ステップS801でノイズキャンセルを開始すると判断されてから繰り返し時間が経過したかどうか判断する。そして、繰り返し時間が経過した場合には、ステップS801に戻り、そうでない場合には、ステップS802に戻る。
【0126】
なお、このメモリ方式のノイズキャンセル方法においても、評価(ステップS502)において、位相とゲインの少なくとも一方の調整が終了しているのであれば、ノイズキャンセル(ステップS503)においては、ノイズキャンセルをリアルタイムで行いながら、外部から入力された音信号をスピーカ21に出力することもでき、その外部からの音を被験者に聞かせることができる。この場合には、ステップS502において一度、出力ゲイン等の設定が終了すれば、ステップS503においては、それらの設定をする必要がないからである。
【0127】
また、このメモリ方式のノイズキャンセル方法において、決定部43によって位相とゲインの少なくとも一方を決定する場合について説明したが、精度の高いノイズキャンセルが要求されない場合には、その位相とゲインの少なくとも一方に関する調整を行わなくてもよい。そのように、位相とゲインの少なくとも一方に関する調整を行わない場合には、ノイズキャンセル装置13は、決定部43を備えていなくてもよい。
【0128】
ここで、このメモリ方式のノイズキャンセルの原理について簡単に説明する。図16は、脳研究用のシーケンスで、ガントリ内のある特定位置で騒音を測定した波形図の一例である。図16(a)は、1番目のトリガー信号をトリガーとして測定されたMRI騒音である。図16(b)は、2番目以降のトリガー信号をトリガーとして測定されたMRI騒音である。これらは、50μsでサンプリングされている。図16(a)の区間401の波形は、最初のスライス位置で断層像を撮像したときの騒音であり、区間402の波形は、次のスライス位置での騒音である。各スライス位置での騒音は、互いにかなり近い波形となっている。また、図16(a)、(b)の波形はよく一致している。このように、図16の場合では、トリガー信号ごとに繰り返し性があることがわかる。また、例えば、図16において、図16(a)のノイズ信号を蓄積しておき、図16(b)のノイズ信号のキャンセルを行った場合には、効果的にノイズをキャンセルすることができることは明らかである。したがって、あるトリガー信号を用いて蓄積されたノイズ信号を用いて、他のトリガー信号を用いてノイズキャンセルの処理を行った場合に、効果的なノイズキャンセルを実現することができると考えられる。
【0129】
(3)フィードバック制御のノイズキャンセル方法
フィードバック制御のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルする。この場合には、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を用いなくてもよいため、ノイズキャンセルシステム1は、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。また、このフィードバック制御のノイズキャンセルの方法は、通常のフィードバック制御の場合と同様であり、その詳細な説明を省略する。なお、「内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号」は、内蔵マイク22がノイズ信号のみを取得した場合には、その信号そのものであってもよく、内蔵マイク22がノイズ信号と、外部から入力された音(例えば、被験者に提示される刺激音など)に対応する音信号とを取得した場合には、スピーカ21から出力された音信号が内蔵マイク22で取得される音の波形を推定し、内蔵マイクで取得されたノイズ信号と音信号とを含む信号から、その推定された音信号を除去したノイズ信号であってもよい。ノイズキャンセル装置13は、その内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を、内蔵マイクの位置で打ち消すための信号を予測推定して、スピーカ21に出力してもよい。なお、前述の説明のように、この場合にも、ノイズキャンセル装置13がスピーカ21に出力する音信号の位相とゲインの少なくとも一方を決定し,その決定した位相とゲインの少なくとも一方に応じた音信号をスピーカ21に出力してもよい。
【0130】
なお、ここでは、3通りのノイズキャンセル方法について説明したが、オーディオ分野で知られているそれ以外のノイズキャンセル方法を用いてもよい。例えば、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを併合した2自由度ANCを用いてもよい。
【0131】
次に、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1の動作について、具体例を用いて説明する。この具体例では、図17で示されるように、MRIの被験者104がヘッドホン11を装着し、ノイズキャンセル処理が行われる場合について説明する。図17は、ノイズキャンセルシステム1やMRI装置101を含むシステム全体の構成を示す図である。図17において、MRI室100には、計算機室200が併設されている。MRI室100には、MRI装置101が存在し、計算機室200には、MRI制御装置201が存在する。ノイズキャンセルシステム1は、ANC処理装置202と、マイクアンプやミキサからなる音響入出力装置203と、被験者用のヘッドホン11と、内蔵マイク22の近傍であって、ヘッドホン11の外に設置されたリファレンスマイク12と、被験者104の口元付近に配置された被験者の通話マイク109と、計算機室200内で検査者の音声を入力するためのマイク204と、被験者104の音声を計算機室200内に出力するためのスピーカ205と、MRI室100と計算機室200との間の電気信号を通過させるためのノイズフィルタ110とを主に備えている。ヘッドホン11は、内蔵マイク22と、図示しないスピーカ21とを備えている。また、ノイズキャンセルシステム1は、被験者104に過大な音響出力がなされないようにするための保護回路206を備えていることが好適である。図17で示されるように、ノイズキャンセルシステム1は、図1で示す以外の構成要素を備えていてもよい。
【0132】
台102上の被験者104は、MRI装置101の円筒状のガントリ(ボアと呼ばれることもある)103内において、ヘッドコイルとよばれるRFコイル105が装着された状態となっている。さらに、被験者104には、ヘッドホン11、リファレンスマイク12、通話マイク109が装着されている。ヘッドホン11、リファレンスマイク12、通話マイク109は、前述のように、非磁性であることが要求される。通話マイク109は、例えば、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。また、ヘッドホン11は、遮音性が高いものである。
【0133】
MRI装置101では、大きく分けて、静磁場、傾斜磁場、高周波磁場の3種類の磁場が用いられる。傾斜磁場、高周波磁場の印加手順はパルスシーケンスと呼ばれる。このシーケンスに基づき、MRI制御装置201から強力な電流パルスが周期的にMRI装置101の磁場コイルに流される。このため、電磁誘導ノイズや、コイルに生じた振動により大きな騒音を発生する。このように、MRI装置101には、電磁誘導ノイズ、騒音、振動、さらには静磁場中での振動による誘導ノイズが発生することになる。このとき、MRI制御装置201から、パルスシーケンスの開始時のタイミングを規定するためのトリガー信号が出力される。ANC処理装置202は、そのトリガー信号を取り込んで、前述のように、そのトリガー信号をノイズキャンセルの処理において用いることができる。
【0134】
図18は、ANC処理装置202や、音響入出力装置203の詳細な構成を示すブロック図である。図18において、ANC処理装置202は、AD変換器210と、平均化処理部211と、ノイズキャンセル装置13と、DA変換器213とを備える。音響入出力装置203は、多チャンネルのマイクアンプ207と、ヘッドホン11への出力信号を合成するためのミキサ208と、パーソナルコンピュータなどである音刺激提示部209と、ローパスフィルタ(LPF)214,215とを備える。
【0135】
通話マイク109が取得した被験者104の発した音声に対応する音声信号は、ノイズフィルタ110を通過し、マイクアンプ207で増幅された後に、スピーカ205に出力される。リファレンスマイク12が取得したヘッドホン11の外部のノイズ信号と、内蔵マイク22で取得したヘッドホン11の内部のノイズ信号とは、ノイズフィルタ110を通過し、マイクアンプ207で増幅される。そして、LPF214を介してAD変換器210でデジタル信号に変換され、平均化処理部211で移動平均処理などの平均化処理が行われ、ノイズキャンセル装置13に入力される。ノイズキャンセル装置13では、前述のように、ノイズキャンセルの処理が行われ、スピーカ21に出力する音信号がリアルタイムで生成される。ノイズキャンセル装置13で生成された音信号は、DA変換器213においてアナログ信号に変換され、ミキサ208に送られる。さらに、保護回路206で被験者104に過大な音量とならないように音量レベルが制限され、ノイズフィルタ110を通過して、スピーカ21に出力される。このようにして、ヘッドホン11の密閉空間内に残存するMRI騒音のキャンセルが行われる。なお、平均化処理部211による平均化処理により、リファレンスマイク12の取得したノイズ信号や、内蔵マイク22が取得したノイズ信号に含まれる電磁誘導ノイズやAD変換で混入する電気的なノイズを低減することが可能である。また、LPF214、215は、それぞれアンチエリアシングフィルタや、スムージングフィルタと呼ばれるローパスフィルタである。また、通常、スピーカ21への出力信号と、内蔵マイク22からの入力信号は、左右一つずつ存在する。そして、それぞれに対して独立にノイズキャンセル処理が実行されることになる。また、リファレンスマイク12は、1個であってもよく、右耳用と左耳用にそれぞれ1個ずつあってもよい。また、ノイズキャンセル装置13が、前述の(2)メモリ方式のノイズキャンセルや、(3)フィードバック制御のノイズキャンセルを行う場合には、これらのシステムが、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。
【0136】
なお、図17,図18において、50μsのサンプリング程度のリアルタイム性で、ヘッドホン11内のMRIのノイズのキャンセルを行いながら、通話マイク109が取得した被験者の音声信号をANC処理装置202でAD変換し、その音声信号に混入するMRI騒音をキャンセルして被験者の音声を明瞭にし、MRI制御装置201のトリガー信号とともに記録してもよい。さらに、計算機室200内の検査者の音声も、同様に記録してもよい。
【0137】
図19は、MRI騒音を録音し、その録音した騒音をスピーカから大音量で出力し、ノイズキャンセルの実験を行った場合の波形の一例を示す図である。その実験において、リファレンスマイク12は騒音源の近くに配置した。また、被験者は、内蔵マイク22を備えたヘッドホン11を装着した。そして、スピーカから100dB程度の騒音を出して、ノイズキャンセルを行った。また、ノイズキャンセルの方法としては、前述の(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセルの方法とほぼ等価なアルゴリズムを用いた。
【0138】
図19において、図19(a)、(b)、(c)はそれぞれ、ヘッドホン11の外部のMRI騒音の波形図、ヘッドホン11の密閉空間内に残存するMRI騒音の波形図、ノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内のMRI騒音の波形図である。図19(a)、(b)、(c)は、すべて同じレンジで表示している。
【0139】
図19(a)で示されるヘッドホン11の外部のノイズと、図19(b)で示されるヘッドホン11の密閉空間内のノイズとを比較すると、ヘッドホン11によって20dB以上の遮音効果が得られていることが分かる。さらに、図19(b)で示されるヘッドホン11の密閉空間内のノイズと、図19(c)で示されるノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内のノイズとを比較すると、ノイズキャンセル処理によって、10〜15dB程度のノイズキャンセル効果の得られていることが分かる。したがって、本実施の形態によるノイズキャンセル方法により、ヘッドホン11の外部の図19(a)のMRI騒音に対し、ノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内の騒音は、30〜35dBのノイズキャンセル効果が得られていることが分かる。このようにして、100dB程度のMRI騒音を、70〜65dB程度に低減できるため、例えば、MRI騒音が脳研究の結果に影響を及ぼす問題を解決できることになりうる。
【0140】
なお、図19の実験では、全て50μsのサンプリングを行った。50μsの時間内で、AD変換、ノイズキャンセルの計算処理、DA変換などの、ノイズキャンセル動作に必要な処理を全て行っている。さらに、出力ゲインが設定された後は、その設定されたパラメータを変更することなく、20分以上にわたって同様なキャンセル効果を得ることができることを確認した。
【0141】
以上のように、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン11の内部でのノイズキャンセルを実現することができる。特に、内蔵マイク22として、光マイクや、高感度の複合圧電体のマイクを用いることによって、ヘッドホン11の密閉空間内における音波のノイズを効果的にとらえることができる。
【0142】
また、発明者らの研究によって、MRIに起因するノイズには、時間的な繰り返し性と、被験者の体長方向及びガントリの円柱の中心軸からの半径方向に対する位置依存性とがあることが分かった。また、そのノイズには、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径の位置、すなわち、ガントリの円柱の長さ方向に垂直な面上における、その円柱の中心軸から同じ半径の位置では、そのノイズに位置依存性がないことが分かった。したがって、MRIに起因するノイズのそれらの特性を用いて、効果的なノイズキャンセルを行うことができうる。例えば、フィードフォワード制御のノイズキャンセルにおいて、リファレンスマイク12の位置と、内蔵マイク22の位置とを、被験者の体長方向における同じ位置とすると共に、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径の位置とすることによって、リファレンスマイク12によって取得したノイズ信号を用いて、内蔵マイク22の位置のノイズ信号をより精度よく推定できることになる。また、トリガー信号ごとの、あるいは、一のスライスの撮像ごとの時間的な繰り返し性を用いることによって、メモリ方式のノイズキャンセルを実現することができる。
【0143】
また、MRIに起因するノイズは、ガントリの壁からガントリの円筒空間の中心に向かって放出される。放出された音波は、ガントリ内の物体からの反射や反対側のガントリ壁からの反射など、非常に複雑な経路を経て特有の音場が形成される。しかしながら、MRI撮像時においては、被験者や台、ヘッドコイルなど、ガントリ内の物体は全て固定したままである。また、MRI室や計算機室の室温や湿度も一定に保たれている。したがって、複雑ではあるが、定常的に急激に変化するMRIに特有のノイズの音場が形成されることになる。したがって、一度、フィルタパラメータを計算し、位相とゲインの少なくとも一方を決定すると、その計算結果等を用いて、長期にわたって同じ精度のノイズキャンセルを実現することが可能となる。
【0144】
なお、図7、及び図14のフローチャートでは、自動的に出力ゲインを決定する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、内蔵マイク22の取得した音信号を図示しないスピーカから出力することによって、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズをモニタすることができる。そして、そのノイズをモニタしている者が、ノイズキャンセル部32の出力ゲイン、あるいは、ノイズキャンセル装置13とスピーカ21との間に位置するミキサ208のヘッドホン11への出力ボリュームを調整して、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズが小さくなるように調整してもよい。また、ここでは、出力ゲインの決定について説明したが、位相の決定についても、同様に行ってもよい。
【0145】
また、図5のフローチャートにおけるフィルタの評価の処理(ステップS102)や、図12のフローチャートにおける評価の処理(ステップS502)において決定された、位相とゲインの少なくとも一方は、MRIの被験者が変わったとしても、ノイズキャンセルシステム1におけるヘッドホン11等の機器が変更されない限り、同じ値を用いてもよい。その場合には、例えば、図5のフローチャートにおいて、すでに位相とゲインの少なくとも一方が決定されている場合には、ステップS101からステップS103に進んでもよい。また、例えば、図12のフローチャートにおいて、すでに位相とゲインの少なくとも一方が決定されている場合には、ステップS501からステップS503に進んでもよい。
【0146】
また、ヘッドホン11のスピーカ21をマイク(例えば、内蔵マイク22など)として用いてもよい。その場合には、面積が大きいため、高感度のマイクとなりうる。また、そのマイクによって、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズを測定することも可能となる。ただし、スピーカ21をマイク兼用にする場合には、送受分離が必要となる。
【0147】
また、上記説明では、フィルタパラメータや、出力ゲイン等を一度設定すると、その後は、その設定されたものを用いてノイズキャンセル処理を継続する場合について説明したが、そのノイズキャンセル処理の途中において、再度のフィルタパラメータの設定や、出力ゲイン等の設定を行ってもよい。例えば、フィルタパラメータ等が設定されてから所定の時間(例えば、15分や30分など)が経過した場合に、そのフィルタパラメータ等の再設定を行うようにしてもよい。所定の時間が経過することによって、被験者の体位などが少しはずれることもあり、フィルタパラメータ等が最適なものでなくなっている可能性もありうるからである。
【0148】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0149】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いるしきい値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していない場合であっても、図示しない記録媒体において、一時的に、あるいは長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、あるいは、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、あるいは、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0150】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いるしきい値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0151】
また、上記実施の形態において、ノイズキャンセル装置13等に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、あるいは、別々のデバイスを有してもよい。
【0152】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、あるいは、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。なお、上記実施の形態におけるノイズキャンセル装置13を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、コンピュータを、MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムであって、前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムである。
【0153】
なお、上記プログラムにおいて、上記プログラムが実現する機能には、ハードウェアでしか実現できない機能は含まれない。例えば、情報の取得や、情報の出力などにおけるモデムやインターフェースカードなどのハードウェアでしか実現できない機能は、上記プログラムが実現する機能には少なくとも含まれない。
【0154】
また、このプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、CD−ROMなどの光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。
【0155】
また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0156】
図20は、上記プログラムを実行して、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13を実現するコンピュータの外観の一例を示す模式図である。上記実施の形態は、コンピュータハードウェア及びその上で実行されるコンピュータプログラムによって実現されうる。
【0157】
図20において、コンピュータシステム900は、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)ドライブ905、FD(Floppy(登録商標) Disk)ドライブ906を含むコンピュータ901と、キーボード902と、マウス903と、モニタ904とを備える。
【0158】
図21は、コンピュータシステム900の内部構成を示す図である。図21において、コンピュータ901は、CD−ROMドライブ905、FDドライブ906に加えて、MPU(Micro Processing Unit)911と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM912と、MPU911に接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶すると共に、一時記憶空間を提供するRAM(Random Access Memory)913と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、及びデータを記憶するハードディスク914と、MPU911、ROM912等を相互に接続するバス915とを備える。なお、コンピュータ901は、LANへの接続を提供する図示しないネットワークカードを含んでいてもよい。
【0159】
コンピュータシステム900に、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13の機能を実行させるプログラムは、CD−ROM921、またはFD922に記憶されて、CD−ROMドライブ905、またはFDドライブ906に挿入され、ハードディスク914に転送されてもよい。これに代えて、そのプログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ901に送信され、ハードディスク914に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM913にロードされる。なお、プログラムは、CD−ROM921やFD922、またはネットワークから直接、ロードされてもよい。
【0160】
プログラムは、コンピュータ901に、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティプログラム等を必ずしも含んでいなくてもよい。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいてもよい。コンピュータシステム900がどのように動作するのかについては周知であり、詳細な説明は省略する。
【0161】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上より、本発明によるノイズキャンセルシステム等によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部でのノイズキャンセルを実現することができるという効果が得られ、例えば、MRIを用いた脳研究の分野で用いられるノイズキャンセルシステム等として有用である。
【符号の説明】
【0163】
1 ノイズキャンセルシステム
11 ヘッドホン
12 リファレンスマイク
13 ノイズキャンセル装置
21 スピーカ
22 内蔵マイク
31 フィルタパラメータ計算部
32、42 ノイズキャンセル部
33、43 決定部
41 蓄積部
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRIの被験者が装着するヘッドホンにおけるノイズをキャンセルするノイズキャンセルシステム等に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI装置は医用画像撮像装置の一つであり、有用性が高く、医療診断や脳研究によく使われている。しかしながら、強力なパルス状電流を磁場コイルなどに流して、磁場を急激に変化させて撮像するため、騒音ノイズや電磁誘導ノイズ、振動ノイズなどを発生する。高磁場のMRI装置が稼動しているときでは、100dB(高架線のガード下の騒音レベル)を超えるような強烈な騒音が発生するため、被験者は遮音性の高いヘッドホンやイヤーマフ、耳栓などを装着した上で、撮像を行うことになる。なお、脳研究の分野では、被験者に刺激音を提示して、それに対する被験者の反応をMRI装置によって撮像したいという要求がある。その場合には、耳栓などによって騒音を遮音するのみではなく、刺激音を適切に聞くことができるようにMRI騒音を十分に低減させることが必要になる。
【0003】
従来、そのMRI装置(核磁気共鳴撮像装置)で発生する騒音を能動的に消音するための技術(アクティブノイズキャンセル。以下、「ANC」と呼ぶこともある)が開発されてきている。例えば、被験者の位置検出手段と、その位置に対応する騒音の特性と、MRI装置の磁場印加手順(パルスシーケンス)とに基づき、付加音源を制御することによって、被験者の耳の位置付近のMRI騒音をキャンセルするANC装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。なお、その装置におけるスピーカの振動部材としては圧電素子が用いられている。
【0004】
また、MRI騒音をとらえるためのリファレンスマイク(参照用マイク)をMRI装置のガントリ開口部の前面の壁付近に配置し、被験者の左右の耳元にマイク(エラーマイク)を配置し、リファレンスマイクで検出したMRI騒音波形にフィルタを掛けて被験者の耳元のMRI騒音を推定し、さらに逆位相となるように被験者の耳元の圧電型スピーカから音を出力し、被験者の耳元のMRI騒音をキャンセルするANC装置が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。その場合に、ANCの効果を被験者の耳元のエラーマイクでモニタしながら、ANCの効果が上がるように、適応的にフィルタパラメータを変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−246193号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Frederic G.Pla,Scott D.Sommerfeldt,Robert A.Hedeen,「Active control of noise in magnetic resonance imaging」,Active 95,p573−582,1995年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MRI装置では、狭い空間内で強烈な音が出されるため、激しく変化する音場となっている。このため、上記特許文献1で開示されている位置の検出と、その検出された位置に対応する騒音の特性と、パルスシーケンスの情報とを用いたとしても、正確に特定位置の騒音を再現することは難しい。さらに、被験者が異なれば耳の位置は変わり、また同じ被験者でも検査ごとに位置が変わりうるため、被験者の耳の位置でのMRI騒音を精度よく再現することは困難である。その結果、有用性の高いANCを実現することが困難であるという問題があった。
【0008】
また、上記非特許文献1で開示されている技術は、リファレンスマイクとエラーマイクの位置が離れているため、リファレンスマイクでとらえたMRI騒音波形と、MRI装置内の激しく変化するエラーマイク位置での騒音波形の違いが大きくなり、リファレンスマイクの騒音波形からエラーマイクの騒音波形を精度よく推定することは困難となる。リファレンスマイクとエラーマイクとを用いたフィードフォワード制御のANCの場合には、リファレンスマイクでとらえた騒音波形から、エラーマイク近傍の消音ゾーンの騒音波形を推定できることが前提となっているからである。
【0009】
また、近年、一般のオーディオの分野において、音響機器の各メーカーがANC機能付きヘッドホンを開発し、販売している。これらのANC機能付きヘッドホンの対象となる騒音はかなり低音であり、これらのANC処理技術を用いてもMRI騒音のキャンセルはできない。また、これらヘッドホンには磁性体が使用されているため、そのままMRI装置に対するANCに適用することはできない。
【0010】
なお、ノイズキャンセルなどの信号処理については種々の方法が用いられており、ノイズキャンセルにおいては、FIR(Finite Impulse Response)フィルタがよく用いられる。それらのノイズキャンセルの処理については、例えば、次の文献を参照されたい。ただし、必ずしもMRI特有の音場特性に適合した処理方法ではない。
文献:足立、佐野、「能動騒音制御におけるシステム同定の役割」、システム/制御/情報、Vol.41,No.2,p.64−72,1997年
【0011】
また、特にMRI装置を用いた脳研究の分野では、遮音性の高いMRI用ヘッドホンを用いて刺激音を被験者に提示するため、その遮音性の高いヘッドホンの内部でのANCが必要となる。しかしながら、遮音性の高いヘッドホンの内部では、騒音は外部の1/10程度に低減されることになるが、電磁誘導ノイズは低減されない。したがって、ヘッドホンの内部のノイズを取得する場合に、騒音よりも電磁誘導ノイズをとらえてしまうことになり、電磁誘導ノイズに対してANCを行うこととなり、騒音自体は低減されないことになるという問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部での効果的なノイズキャンセルを実現することができるノイズキャンセル等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明によるノイズキャンセルシステムは、MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンと、ノイズキャンセル装置とを備えたノイズキャンセルシステムであって、前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力する、ものである。
このような構成により、ヘッドホンの密閉空間の内部のノイズを取得して、ヘッドホン内部のノイズを適切にキャンセルすることができるようになりうる。
【0014】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記スピーカは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のスピーカを実現することができるようになる。
【0015】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、光マイクであってもよい。
このような構成により、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、ヘッドホンの密閉空間のノイズを効果的に取得することができ、その結果、適切なノイズキャンセルを実現できる。
【0016】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、圧電体素子によって構成されたものであってもよい。
このような構成により、感度の高い内蔵マイクを用いることによって、電磁誘導ノイズに比べて、音波のノイズを効果的にとらえることができ、適切なノイズキャンセルを実現できうる。
【0017】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記内蔵マイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のマイクを実現することができるようになる。
【0018】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ヘッドホンの外部のノイズを取得する非磁性のマイクであって、前記被験者の体長方向における前記内蔵マイクと同じ位置に配置されるマイクであるリファレンスマイクをさらに備え、前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルしてもよい。
【0019】
このような構成により、フィードフォワード制御により、ノイズをキャンセルすることができるようになる。特に、リファレンスマイクを被験者の体長方向における内蔵マイクと同じ位置に配置することによって、より効果的にノイズをとらえることができるようになると考えられる。
【0020】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクと、前記内蔵マイクとは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置してもよい。
このような構成により、リファレンスマイクによって、さらに効果的にノイズをとらえることができるようになると考えられる。
【0021】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部と、前記フィルタパラメータ計算部が計算したフィルタパラメータを用いて、前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部と、を備え、前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力してもよい。
【0022】
このような構成により、計算されたフィルタパラメータを用いてフィルタを構成すると共に、ノイズ信号が小さくなるように位相及びゲインの少なくとも一方を調整することによって、適切なフィードフォワード制御によるノイズキャンセルを実現することができるようになる。
【0023】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記スピーカは、外部から入力された音信号をも出力するものであり、前記フィルタパラメータ計算部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて前記フィルタパラメータを計算し、前記ノイズキャンセル部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、前記スピーカに外部から音信号が入力されている際にも用いてもよい。
【0024】
このような構成により、外部から音信号が入力されていない状況でフィルタパラメータを計算し、そのフィルタパラメータを、外部から音信号が入力されている際にも用いることによって、外部から音信号が入力されている際にフィルタパラメータの計算を行う必要がなく、リアルタイム性を向上させることができる。また、MRI環境は、被験者や台、ヘッドコイルなど、ガントリ内の物体は全て固定されており、また温度や湿度も安定している変化の少ない環境であるため、そのようにして算出したフィルタパラメータを用いたとしても、効果的なノイズキャンセルを実現することができると考えられる。
【0025】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、光マイクであってもよい。
このような構成により、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、リファレンスマイクによって効果的に騒音をとらえることができる。
【0026】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。
このような構成により、密閉空間の外部では、電磁誘導ノイズに対して騒音が十分大きいため、圧電体素子を用いたリファレンスマイクであっても、十分騒音をとらえることができる。
【0027】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記リファレンスマイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
このような構成により、用途に適した任意の大きさや形状のリファレンスマイクを実現することができるようになる。
【0028】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、1または2以上のスライスの撮像に対応する、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を蓄積する蓄積部と、前記1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、前記蓄積部が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号を前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、を備えてもよい。
このような構成により、あらかじめ蓄積していたノイズ信号を用いてノイズキャンセルを実現することができるようになる。
【0029】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部をさらに備え、前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力してもよい。
このような構成により、位相及びゲインの少なくとも一方を調整することによって、より効果的にノイズをキャンセルすることができるようになる。
【0030】
また、本発明によるノイズキャンセルシステムでは、前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルしてもよい。
このような構成により、フィードバック制御により、ノイズをキャンセルすることができるようになる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によるノイズキャンセルシステム等によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部でのノイズキャンセルを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1によるノイズキャンセルシステムの構成を示すブロック図
【図2】同実施の形態におけるヘッドホンの概略断面図
【図3】同実施の形態におけるヘッドホンについて説明するための図
【図4】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の構造の一例を示すブロック図
【図5】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図6】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図7】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図8】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図9】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図10】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図11】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の構造の一例を示すブロック図
【図12】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図13】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図14】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図15】同実施の形態によるノイズキャンセル装置の動作を示すフローチャート
【図16】同実施の形態におけるノイズ信号の一例を示す波形図
【図17】同実施の形態におけるシステム全体の構成の一例を示す図
【図18】同実施の形態におけるノイズキャンセルシステムの構成の一例を示すブロック図
【図19】同実施の形態におけるノイズキャンセルの効果について説明するための波形図
【図20】上記実施の形態におけるコンピュータシステムの外観一例を示す模式図
【図21】上記実施の形態におけるコンピュータシステムの構成の一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明によるノイズキャンセルシステムについて、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。
【0034】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1によるノイズキャンセルシステムについて、図面を参照しながら説明する。本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1は、MRI環境において使用されるものである。
【0035】
図1は、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1の構成を示すブロック図である。本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1は、ヘッドホン11と、リファレンスマイク12と、ノイズキャンセル装置13とを備える。
【0036】
ヘッドホン11は、MRIの被験者が装着するものである。そのヘッドホン11は、遮音性の高い、密閉型のものである。図1で示されるように、ヘッドホン11は、スピーカ21と、内蔵マイク22とを備える。スピーカ21、及び内蔵マイク22は、一方の耳用のものである。なお、本実施の形態では、説明の便宜上、ヘッドホン11が、スピーカ21と、内蔵マイク22とを1個ずつ備える場合について説明するが、通常のヘッドホンと同様に、ヘッドホン11は、スピーカ21と内蔵マイク22とのセットを両耳分、備えていてもよい。
【0037】
スピーカ21は、音を出力するものであり、圧電体素子によって構成されたものである。なお、スピーカ21は、圧電体素子そのものであってもよく、あるいは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。本実施の形態では、後者の場合について説明する。なお、複合圧電体については、特開昭63−4799号公報を参照されたい。MRI騒音の周波数特性は、900Hz付近に基本周波数があり、その高調波成分も存在する。効果的なノイズキャンセルを実現するには、対象とする騒音波形に対して、少なくともその1/20波長程度の精度でコントロールする必要があると言われている。複合圧電体を用いたスピーカ21は、再生帯域が20〜40000Hzで応答性にも優れ、温度や湿度などに対する安定性にも優れているため、MRI環境におけるノイズキャンセル用に好適である。また、スピーカ21が出力する音は、ノイズをキャンセルするための音であってもよい。また、スピーカ21は、外部から入力された音信号(例えば、脳研究のために被験者に提示される刺激音など)をも出力してもよい。
【0038】
なお、ここで、スピーカ21として圧電体素子によって構成されたものを用いる理由について簡単に説明する。通常、MRIに起因する電磁誘導ノイズは10mV程度であり、スピーカ21に入力される音信号は数V程度である。したがって、音信号に対して電磁誘導ノイズは、十分小さいと考えられるため、スピーカ21として圧電体素子によって構成されたものを用いることができるのである。
【0039】
内蔵マイク22は、スピーカ21が音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得するものである。その内蔵マイク22は、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたものであってもよい。光マイクは、振動板の音圧による振動を、その振動板に光ビームを照射し、その反射光を受光することによって検知するものである。光マイクの詳細については、特開2001−119784号公報を参照されたい。また、光マイクは、例えば、コバテル株式会社製のものを用いてもよい。光マイクを用いることによって、電磁誘導ノイズの影響を受けないで、ヘッドホン11の密閉空間の内部のMRI騒音を高音質で取得することができる。内蔵マイク22が圧電体素子によって構成されたものである場合に、その内蔵マイク22は、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。なお、内蔵マイク22が圧電体素子によって構成されたものである場合には、内蔵マイク22によって電磁誘導ノイズをとらえてしまうことになる。したがって、よりよいノイズキャンセルを実現するために、その圧電体素子によって構成された内蔵マイク22は、音波のノイズを効果的にとらえることができる高感度のものであることが好適である。そのようにすることで、内蔵マイク22によってとらえる音波のノイズと、電磁誘導ノイズとにおいて、音波のノイズの割合を高くすることができるからである。例えば、圧電体素子から構成される薄膜の振動板を用いることによって、内蔵マイク22の感度を上げることができうる。また、その振動板の面積の広い方が、より高感度となりうる。
【0040】
内蔵マイク22は、スピーカ21から音が出力されていない場合や、スピーカ21からノイズキャンセル用の音のみが出力されている場合には、密閉空間の内部のノイズのみを取得することになる。一方、スピーカ21から、外部入力された音信号に応じた音(例えば、脳研究用の刺激音など)が出力されているときには、内蔵マイク22は、密閉空間の内部のノイズと、外部入力された音信号に応じた音とを取得することになる。この内蔵マイク22は、いわゆるエラーマイクとして用いられるものである。
【0041】
なお、本実施の形態では、ヘッドホン11に、後述するリファレンスマイク12や、被験者用の通話マイク109が接続される場合について説明する。したがって、ヘッドホン11の振動(この振動は、ヘッドホン11のスピーカ21から出力される音ではない)がこれらのマイクに伝わることで、ノイズキャンセルの性能を劣化させる場合がある。振動は、発音体であるスピーカ21からヘッドホン11のハウジングに伝わり、さらにこれがマイクに伝わる。そこで、スピーカ21とヘッドホン11のハウジングとの振動伝達をなくす構造とすることが望ましい。
【0042】
図2は、ヘッドホン11の概略断面図である。複合圧電体61の端部は、固定用の枠62に固着されている。詳細については、前述の特開昭63−4799号公報を参照されたい。固定用の枠62の裏面は、密閉されたプレートで閉じられていて、その前面は音波が出るように多数の孔が開いている。この固定用の枠62が、ヘッドホン11のハウジング63と機械的に弱く接続されるようにするため、シート状の防振材64を介する構造とする。イヤーパッド65は、被験者がヘッドホン11を装着したときの装着感を高めるための部材であり、スポンジ等の弾性部材をベースとしたものである。防振材64としては、ゲル状に柔らかく、MRI撮像に影響しない振動防止材が好適である。例えば、ソルボセイン(登録商標)や、スーパーゲルなどの商品名のものが知られている。
【0043】
なお、リファレンスマイク12や、通話マイク109をヘッドホン11に固定する際にも、振動吸収材を使用して、それらのマイクとヘッドホン11のハウジング63との振動伝達を下げる構成として、それらのマイクにヘッドホン11の振動ができるだけ入らない構造とすることが望ましい。この振動吸収材は、防振材64と同様の材質のものが好適である。このように、リファレンスマイク12や通話マイク109にヘッドホン11などからの振動ができるだけ入らない構造とすることによって、それらのマイクによるより適切なノイズ信号や、被験者の音声信号等の取得が可能となる。
また、非磁性のヘッドホンとしては、エアーチューブタイプのものもあるが、音質がよくないため、ノイズキャンセルシステム1において用いることは困難であると考えられる。
また、本実施の形態では、リファレンスマイク12や、通話マイク109がヘッドホン11に固定される場合について説明するが、そうでなくてもよい。リファレンスマイク12や、通話マイク109は、その他のもの、例えば、MRI装置本体や、後述するRFコイル105などに固定されてもよい。その固定の際には、防振材64と同様な材質の振動吸収材を用いることによって、振動が伝わらないようにすることが望ましい。
【0044】
図3(a)は、ヘッドホン11のハウジング63を上から見た図であり、ハウジング63にはマイクを取り付けるためのプレート72が接合されている。そのプレート72には、マイクの軸を固定するための孔73が設けられている。孔73には、プラスチックネジなどで、リファレンスマイク12や通話マイク109を固定できるが、防振材を入れて固定することが好適である。通話マイク109は、被験者の口元側に向けられ、リファレンスマイク12は被験者の発声した音声が入ることがないように、被験者の口とは反対に向けられることが望ましい。
【0045】
図3(b)は、複合圧電体を用いた内蔵マイク22の密閉された面に防振材75を配置し、ヘッドホン11の密閉空間内に設置した状態を示している。防振材75は、固定用の枠62の穴のあいたプラスチック面と接触するが、ヘッドホン11の振動は、内蔵マイク22には伝わらない。
【0046】
図3(c)は、円筒形状の光マイクである内蔵マイク22を防振材76で包み、ヘッドホン11の密閉空間内に設置した状態を示している。防振材76は、固定用の枠62の穴のあいたプラスチック面に貼着されるが、ヘッドホン11の振動は、内蔵マイク22には伝わらない。なお、図2,図3において、説明の便宜上、ケーブルはすべて省略した。
【0047】
このように、ヘッドホン11の振動が内蔵マイク22に伝わらない構造とすることによって、内蔵マイク22によるより適切なノイズ信号の取得が可能となる。
【0048】
リファレンスマイク12は、ヘッドホン11の外部のノイズを取得する非磁性のマイクである。このリファレンスマイク12は、被験者の体長方向における内蔵マイク22と同じ位置に配置されることが好適である。また、リファレンスマイク12と、内蔵マイク22とは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置することがさらに好適である。これらの理由については後述する。なお、「同じ位置」や、「同じ半径」は、実質的に同じ位置や同じ半径であれば、厳密な意味において同じでなくてもよい。実質的に同じであるとは、リファレンスマイク12で取得したノイズから、内蔵マイク22の位置でのノイズを精度よく推定できる程度に同じである、という意味である。そうでなければ、適切なノイズキャンセルを行うことができないからである。
【0049】
リファレンスマイク12は、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。後者の場合に、リファレンスマイク12は、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものであってもよい。
【0050】
ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、スピーカ21に出力する。また、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号をも用いて、ノイズキャンセルを行ってもよい。
【0051】
本実施の形態では、ノイズキャンセル装置13のノイズキャンセルの方法として、(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセル方法、(2)メモリ方式のノイズキャンセル方法、(3)フィードバック制御のノイズキャンセル方法について説明するが,それ以外のノイズキャンセル方法を用いてもよいことは言うまでもない。
【0052】
(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセル方法
フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号をも用いてノイズキャンセルを行う。図4は、フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行うノイズキャンセル装置13の構成を示すブロック図である。図4において、ノイズキャンセル装置13は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルするものであり、フィルタパラメータ計算部31と、ノイズキャンセル部32と、決定部33とを備える。
【0053】
フィルタパラメータ計算部31は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22が取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算する。フィルタパラメータ計算部31は、例えば、非特許文献1にも記載されているフィルタードXLSM法や、その他の方法を用いて、フィルタパラメータを計算することができる。
【0054】
ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31が計算したフィルタパラメータを用いてフィルタを構成し、内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルする音信号を生成してスピーカ21に出力する。また、後述する決定部33によって位相及びゲインの少なくとも一方が決定された場合には、ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号が、その決定された位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号となるようにする。
【0055】
決定部33は、ノイズキャンセル部32が音信号をスピーカ21に出力している際に内蔵マイク22が取得したノイズ信号を用いて、そのノイズ信号が小さくなるように、ノイズキャンセル部32が出力する音信号の位相及びゲイン(出力波形の強度)の少なくとも一方を決定する。したがって、決定部33は、音信号の位相のみを決定してもよく、音信号のゲインのみを決定してもよく、あるいは、音信号の位相とゲインの両方を決定してもよい。電気的な信号である音信号においてノイズキャンセルをキャンセルする場合には、このような位相やゲインの調整は必要ないが、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1のように、スピーカ21からノイズの逆位相の音を出力することによってノイズをキャンセルする場合には、スピーカ21や内蔵マイク22等の特性に応じて、スピーカ21に出力する音信号の位相やゲインを調整した方が、より効果的なノイズキャンセルを実現できることになる。したがって、この決定部33によって、位相とゲインの少なくとも一方を調整することになる。具体的には、位相やゲインを少しずつ変化させてノイズのキャンセルを行い、その結果、内蔵マイク22によって得られたノイズ信号が最も小さくなるように位相とゲインの少なくとも一方を調整することになる。
【0056】
なお、スピーカ21に外部から音信号が入力されうる場合には、フィルタパラメータ計算部31は、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号(このノイズ信号は、内蔵マイク22と、リファレンスマイク12とによって取得されたノイズ信号である)を用いてフィルタパラメータを計算する。そして、ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、スピーカ21に外部から音信号が入力されている際にも用いて、ノイズキャンセルを行う。もちろん、ノイズキャンセル部32は、そのフィルタパラメータを用いて、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際にノイズキャンセルを行ってもよいことは言うまでもない。また、決定部33も、スピーカ21に外部から音信号が入力されていない際に、位相とゲインの少なくとも一方を決定するものとする。
【0057】
また、フィルタパラメータ計算部31がフィルタパラメータを計算する際や、決定部33が位相とゲインの少なくとも一方を決定する際には、ノイズが発生しているものとする。したがって、MRI装置が稼働して騒音の発生している環境下で、それらの処理が実行されるものとする。
【0058】
次に、フィードフォワード制御のノイズキャンセルを行う場合のノイズキャンセル装置13の動作について、図5のフローチャートを用いて説明する。図5のフローチャートにおいて、ステップS101はオフライン処理であり、ステップS102,S103はオンライン処理である。
【0059】
(ステップS101)フィルタパラメータ計算部31は、フィルタパラメータの計算を行うことによって、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号から、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズ信号を精度よく予測するフィルタを構成する。スピーカ21から出力された音波が内蔵マイク22に到達するには時間がかかるため、この時間だけ未来のMRI騒音波形を推定することが必要となる。ノイズキャンセルシステム1では、平均化処理(例えば、後述する図18の平均化処理部211において行われる)や、ローパスフィルタの処理(例えば、後述する図18のLPF214,215において行われる)が行われるのであれば、さらに時間遅れが生じることがある。ここでは、最良のノイズキャンセルを実現するために、位相を変えた何種類かの騒音波形の予測フィルタを構成することになる。この処理の詳細については、図6のフローチャートを用いて後述する。
【0060】
(ステップS102)決定部33は、そのようにして構成されたフィルタの評価を行う。すなわち、位相とゲインの少なくとも一方を決定する。この処理の詳細については、図7のフローチャートを用いて後述する。
【0061】
(ステップS103)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、決定部33によって決定された位相とゲインの少なくとも一方とを用いて、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズの予測信号を生成し、逆位相となるようにスピーカ21に出力することによって、ノイズのキャンセル処理を行う。そして、ノイズをキャンセルする一連の処理は終了となる。この処理の詳細については、図8のフローチャートを用いて後述する。
【0062】
図6は、図5のフローチャートにおけるフィルタの構成の処理(ステップS101)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS201)フィルタパラメータ計算部31は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号と、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号とを取り込む。
【0063】
(ステップS202)フィルタパラメータ計算部31は、それらのノイズ信号を用いて、リファレンスマイク12のノイズ信号から、内蔵マイク22のノイズ信号を予測推定するフィルタパラメータを計算することによって、何種類か位相を変えた予測フィルタを構成する。なお、位相に関する評価を行わない場合には、1種類の位相に応じた予測フィルタを構成するのみであってもよい。
【0064】
(ステップS203)フィルタパラメータ計算部31は、フィルタの構成が完了したかどうか判断する。そして、完了した場合には、図5のフローチャートに戻り、まだ構成されていないフィルタが存在する場合には、ステップS201に戻ってフィルタを構成する処理を継続する。例えば、ヘッドホン11の右側と左側のそれぞれについてフィルタを構成する場合には、1回の処理で構成されるのは一方であるため、ステップS201〜S202の処理が2回繰り返されることによって、右側のフィルタと、左側のフィルタとが設定されることになる。なお、以下の各フローチャートの説明においても、ヘッドホン11の右側と左側とのそれぞれについての処理が実行されてもよい。
【0065】
図7は、図5のフローチャートにおけるフィルタの評価の処理(ステップS102)の詳細を示すフローチャートである。図7のフローチャートでは、決定部33が、ヘッドホン11への出力ゲインを決定する場合について説明する。(決定部33が、位相を決定する場合は、出力ゲインを固定して何種類か位相を変えた予測フィルタで最もキャンセル効果の高いフィルタを採用すればよい。位相とゲインの両方を決定する場合も、同様にして実行することができる。)
【0066】
(ステップS301)決定部33は、ヘッドホン11への出力ゲインの初期値と、ノイズキャンセルの効果の評価時間とを設定する。その出力ゲインの初期値や評価時間は、あらかじめ決められていてもよい。
【0067】
(ステップS302)ノイズキャンセル部32は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0068】
(ステップS303)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、その時点の出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。具体的には、ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータを用いてノイズに対応する音信号の予測値を計算し、設定された出力ゲインを乗じて逆位相にする。この出力ゲインは、決定部33によって設定されたものである。
【0069】
(ステップS304)ノイズキャンセル部32は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS305に進み、超えていない場合には、ステップS306に進む。
【0070】
(ステップS305)ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0071】
なお、ステップS304,S305の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部32は、ステップS304,S305の処理を行わなくてもよい。
【0072】
(ステップS306)ノイズキャンセル部32は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0073】
(ステップS307)決定部33は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0074】
(ステップS308)決定部33は、そのノイズ信号の2乗値を計算し、その2乗値を、それまでに計算して来ている、図示しない記録媒体で記憶されている2乗値の積算値である2乗積算値に加算する。なお、出力ゲインのある設定値について、はじめて2乗値を計算した場合には、決定部33は、その2乗値を2乗積算値として図示しない記録媒体に新たに蓄積する。また、その図示しない記録媒体で記憶されている2乗積算値は、その時点の出力ゲインの設定値に対応付けられて記憶されていることが好適である。
【0075】
(ステップS309)決定部33は、フィルタの評価の処理を開始してから、評価時間が経過したかどうか判断する。そして、評価時間が経過した場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻って、2乗積算値の計算を継続する。なお、フィルタの評価の処理の開始からの経過時間が分かるように、フィルタの評価の処理の開始からタイマでの計時を開始してもよく、あるいは、フィルタの評価の処理の開始時点の時刻を図示しない記録媒体で記憶しておいてもよい。また、この評価時間は、時間そのものではなく、2乗積算値において積算された2乗値の個数であってもよい。すなわち、2乗積算値において積算された2乗値の個数があらかじめ決められた個数に到達した場合には、ステップS310に進み、そうでない場合には、ステップS302に戻るようにしてもよい。その場合には、その判断で用いられる2乗値の個数を、2乗積算値に対応付けて図示しない記録媒体で記憶していてもよい。
【0076】
(ステップS310)決定部33は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断する。そして、次の出力ゲインの設定が存在する場合には、ステップS312に進み、その時点の出力ゲインの設定が最後の設定であって、それ以上の出力ゲインの設定が存在しない場合には、ステップS311に進む。決定部33が設定する出力ゲインの候補は、あらかじめ決められていてもよい。例えば、その出力ゲインの候補の最小値と最大値と幅とが決められており、その情報を用いて、決定部33は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断してもよい。
【0077】
(ステップS311)決定部33は、それまでに蓄積した2乗積算値のうち、最も小さい値に対応する出力ゲインを、ノイズキャンセル部32がスピーカ21に出力する音信号の出力ゲインに決定する。なお、その決定された出力ゲインは、図示しない記録媒体に蓄積されてもよい。そして、図5のフローチャートに戻る。
【0078】
(ステップS312)決定部33は、出力ゲインを次の設定値に設定する。そして、ステップS302に戻って、その設定値に対する2乗積算値の計算を開始する。
【0079】
図8は、図5のフローチャートにおけるノイズキャンセルの処理(ステップS103)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS401)ノイズキャンセル部32は、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0080】
(ステップS402)ノイズキャンセル部32は、フィルタパラメータ計算部31によって計算されたフィルタパラメータと、ステップS102において決定された出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。この処理は、ステップS303と同様にして行われる。
【0081】
(ステップS403)ノイズキャンセル部32は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS404に進み、超えていない場合には、ステップS405に進む。
【0082】
(ステップS404)ノイズキャンセル部32は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0083】
なお、ステップS403,S404の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部32は、ステップS403,S404の処理を行わなくてもよい。
【0084】
(ステップS405)ノイズキャンセル部32は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0085】
(ステップS406)ノイズキャンセル部32は、ノイズをキャンセルする処理を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図5のフローチャートに戻り、ノイズをキャンセルする一連の処理を終了し、そうでない場合には、ステップS401に戻る。なお、ノイズキャンセル部32は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けた場合に、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよい。
【0086】
なお、フィルタの評価(ステップS102)において、位相とゲインの少なくとも一方の調整が終了しているのであれば、ノイズキャンセル(ステップS103)においては、ノイズキャンセルをリアルタイムで行いながら、外部から入力された音信号をスピーカ21に出力することもでき、その外部からの音を被験者に聞かせることができる。この場合には、ステップS101,S102において一度、フィルタパラメータや出力ゲイン等の設定が終了すれば、ステップS103においては、それらの設定をする必要がないからである。その外部から入力される音信号は、例えば、任意の刺激音の信号であってもよく、CDプレーヤなどから出力される音楽の信号であってもよく、その他の音信号であってもよい。
【0087】
また、ここでは、ノイズキャンセル装置13が、フィルタパラメータ計算部31と、ノイズキャンセル部32と、決定部33とを備え、それらの構成要素によってフィードフォワード制御によるノイズキャンセル処理が実行される場合について説明したが、それら以外の構成によって、フィードフォワード制御によるノイズキャンセル処理が実行されてもよいことは言うまでもない。
【0088】
ここで、リファレンスマイク12の位置について説明する。図9は、ガントリ内のほぼ中央で、ガントリの円筒の中心軸から約10cmの位置で測定した騒音波形(図9(a))と、約12cmの位置で同時に測定した騒音波形(図9(b))とを示す波形図である。これらは、50μsでサンプリングされている。図9(a),(b)を比較すると、両者は測定位置が2cmほどしか違わないが、かなり波形が異なっていることが分かる。このことから、MRI騒音には、半径方向の位置によって騒音波形が急激に変化するなどの位置依存性があることがわかる。したがって、リファレンスマイクが騒音源の近く設置され、エラーマイクが騒音源から遠くに設置されていて、リファレンスマイクのノイズ信号でエラーマイクの位置のノイズ信号を推定し、エラーマイクの近くの2次音源としてのスピーカから、推定したノイズ信号の逆位相の音を出して、ノイズキャンセルを行うという通常のノイズキャンセルの手法が効果的でないことを意味する。つまり、音源(この場合はガントリの壁)に近い図9(b)の波形で、図9(a)の波形の精度のよい推定ができない。
【0089】
図10は、ガントリ内のほぼ中央で、ガントリの円筒の中心軸からほぼ直角な平面上における、半径約10cmの同心円の真上で測定した騒音波形(図10(a))と、その同心円の真上から90度の位置の騒音波形(図10(b))とを示す波形図である。これらは、50μsでサンプリングされている。これらの波形は非常によく似ていることが分かる。このことから、MRI騒音には、ガントリの円筒の中心軸からほぼ直角な平面上で、同心円状の位置で、かなり近い騒音波形の音場が形成されていることがわかる。すなわち、MRI騒音は、ガントリの円筒の中心軸に対する同心円の円周方向について依存性がないことが分かる。
【0090】
フィードフォワード制御のノイズキャンセルにおいては、リファレンスマイク12の取得したノイズ信号から、エラーマイクである内蔵マイク22の位置のノイズ信号を精度よく推定できることが重要なポイントとなる。したがって、内蔵マイク22の位置でのノイズ信号を適切に推定することができるように、リファレンスマイク12は、被験者の体長方向における内蔵マイク22と同じ位置に配置されることが好適であるが、さらに、図9,図10の波形図から、精度の高い推定を行うためには、リファレンスマイク12と内蔵マイク22とがガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置することがさらに好適であることが分かる。
【0091】
(2)メモリ方式のノイズキャンセル方法
メモリ方式のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を蓄積し、その蓄積したノイズ信号を用いてノイズキャンセルを行う。この場合には、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を用いなくてもよいため、ノイズキャンセルシステム1は、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。また、この方式のノイズキャンセル方法の主要な部分については、例えば、特開2005−211154号公報に記載されている。図11は、メモリ方式のノイズキャンセルを行うノイズキャンセル装置13の構成を示すブロック図である。図11において、ノイズキャンセル装置13は、蓄積部41と、ノイズキャンセル部42と、決定部43とを備える。
【0092】
蓄積部41は、1または2以上のスライスの撮像に対応する、内蔵マイク22が取得したノイズ信号を記録媒体に蓄積する。MRI装置からは、規定数量のスライスを撮像するごとにトリガー信号が出力される。蓄積部41は、そのトリガー信号をトリガーとして、ノイズ信号を蓄積してもよい。蓄積部41がノイズ信号を蓄積する時間は、1スライスの撮像に対応する時間であってもよく、2以上のスライスの撮像に対応する時間であってもよい。後者の場合には、蓄積部41は、例えば、規定数量のスライス(すなわち、全スライス)の撮像に対応する時間であるレピティションタイムだけノイズ信号を蓄積してもよい。レピティションタイムは、MRI装置にも依存するが約3秒程度である。また、蓄積される対象となる「内蔵マイク22が取得したノイズ信号」とは、内蔵マイク22がノイズ信号のみを取得した場合には、その信号そのものであってもよく、内蔵マイク22がノイズ信号と、外部から入力された音(例えば、被験者に提示される刺激音など)に対応する音信号とを取得した場合には、そのノイズ信号と音信号とを含む信号から音信号を除去したノイズ信号であってもよい。また、蓄積部41がノイズ信号を蓄積する記録媒体は、例えば、半導体メモリや、光ディスク、磁気ディスク等であり、蓄積部41が有していてもよく、あるいは蓄積部41の外部に存在してもよい。また、この記録媒体は、ノイズ信号一時的に記憶するものであってもよく、そうでなくてもよい。
【0093】
ノイズキャンセル部42は、1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、蓄積部41が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号をスピーカ21に出力する。例えば、あるレピティションタイムにおいて蓄積部41が蓄積したノイズ信号を用いて、ノイズキャンセル部42は、別のレピティションタイムにおいてノイズキャンセルの処理を行う。当然ながら、蓄積部41がノイズ信号を蓄積した際の条件と、ノイズキャンセル部42がノイズキャンセルを行う際の条件とは、似ていることが好適である。例えば、両者での撮像スライス数は、一致していることが好適である。また、蓄積部41がノイズ信号を蓄積したタイミングと、ノイズキャンセル部42がノイズをキャンセルするための音信号を出力するタイミングとは同期していることが好適である。例えば、蓄積部41がトリガー信号をトリガーとしてノイズ信号を蓄積した場合には、ノイズキャンセル部42は、同じトリガー信号をトリガーとしてノイズをキャンセルするための音信号を出力することが好適である。また、ノイズキャンセル部42は、後述する決定部43が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号をスピーカ21に出力する。
【0094】
決定部43は、ノイズキャンセル部42が音信号をスピーカ21に出力している際に内蔵マイク22が取得したノイズ信号を用いて、そのノイズ信号が小さくなるように、ノイズキャンセル部42が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する。この決定部43は、前述の決定部33と同様のものであり、詳細な説明を省略する。
【0095】
次に、メモリ方式のノイズキャンセルを行う場合のノイズキャンセル装置13の動作について、図12のフローチャートを用いて説明する。
(ステップS501)蓄積部41は、内蔵マイク22が取得したノイズ信号を記録媒体に蓄積する。この処理の詳細については、図13のフローチャートを用いて後述する。
【0096】
(ステップS502)決定部43は、そのようにして蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルの評価を行う。すなわち、位相とゲインの少なくとも一方を決定する。この処理の詳細については、図14のフローチャートを用いて後述する。
【0097】
(ステップS503)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号と、決定部43によって決定された位相とゲインの少なくとも一方とを用いて、ノイズのキャンセル処理を行う。すなわち、ノイズキャンセル部42は、蓄積されたノイズ信号を、内蔵マイク22の位置で逆位相となるようにスピーカ21に出力する。そして、ノイズをキャンセルする一連の処理は終了となる。この処理の詳細については、図15のフローチャートを用いて後述する。
【0098】
図13は、図12のフローチャートにおけるノイズ信号の蓄積の処理(ステップS501)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS601)蓄積部41は、ノイズ信号の蓄積を開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS602に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS601の処理を繰り返す。蓄積部41は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズ信号の蓄積を開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズ信号の蓄積を開始すると判断してもよい。
【0099】
(ステップS602)蓄積部41は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0100】
(ステップS603)蓄積部41は、その取り込んだノイズ信号を記録媒体に蓄積する。この蓄積の際に、タイムコードに対応付けて蓄積してもよい。その蓄積したノイズ信号を読み出す場合に、時系列に沿って読み出すことができるようにするためである。
【0101】
(ステップS604)蓄積部41は、ノイズ信号の蓄積を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図12のフローチャートに戻り、そうでない場合には、ステップS602に戻る。蓄積部41は、例えば、ノイズ信号の蓄積を開始してからレピティションタイムだけ経過した場合に、ノイズ信号の蓄積を終了すると判断してもよく、その他の場合に、ノイズ信号の蓄積を終了すると判断してもよい。なお、レピティションタイムを用いた判断を行う場合には、ノイズ信号の蓄積の処理の開始からの経過時間が分かるように、ノイズ信号の蓄積の処理の開始からタイマでの計時を開始してもよく、あるいは、ノイズ信号の蓄積の処理の開始時点の時刻を図示しない記録媒体で記憶しておいてもよい。
【0102】
図14は、図12のフローチャートにおける評価の処理(ステップS502)の詳細を示すフローチャートである。図14のフローチャートでは、決定部43が、ヘッドホン11への出力ゲインを決定する場合について説明する。決定部43が、位相を決定する場合や、位相とゲインの両方を決定する場合も、同様にして実行することができる。
【0103】
(ステップS701)決定部43は、ヘッドホン11への出力ゲインの初期値と、ノイズキャンセルの効果の評価時間とを設定する。その出力ゲインの初期値や評価時間は、あらかじめ決められていてもよい。
【0104】
(ステップS702)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルを開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS703に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS702の処理を繰り返す。ノイズキャンセル部42は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよい。
【0105】
(ステップS703)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を読み出す。ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を時系列に沿って、すなわち、時間的に先頭の部分から順次、読み出していくものとする。その際に、ノイズ信号と一緒に蓄積されたタイムコードを用いて読み出してもよい。
【0106】
(ステップS704)ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号と、その時点の出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。具体的には、ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号に設定された出力ゲインを乗じて逆位相にする。この出力ゲインは、決定部43によって設定されたものである。
【0107】
(ステップS705)ノイズキャンセル部42は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS706に進み、超えていない場合には、ステップS707に進む。
【0108】
(ステップS706)ノイズキャンセル部42は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0109】
なお、ステップS705,S706の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部42は、ステップS705,S706の処理を行わなくてもよい。
【0110】
(ステップS707)ノイズキャンセル部42は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0111】
(ステップS708)決定部43は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を取り込む。
【0112】
(ステップS709)決定部43は、そのノイズ信号の2乗値を計算し、その2乗値を、それまでに計算して来ている、図示しない記録媒体で記憶されている2乗値の積算値である2乗積算値に加算する。なお、このステップの処理は、決定部33によるステップS308の処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0113】
(ステップS710)決定部43は、フィルタの評価の処理を開始してから、評価時間が経過したかどうか判断する。そして、評価時間が経過した場合には、ステップS711に進み、そうでない場合には、ステップS703に戻って、2乗積算値の計算を継続する。なお、このステップの処理は、決定部33によるステップS309の処理と同様であり、その詳細な説明を省略する。この評価時間は、1枚のスライスの撮像に対応する程度の時間であってもよい。その程度の時間で、十分評価を行うことができうるからである。
【0114】
(ステップS711)決定部43は、次の出力ゲインの設定が存在するかどうか判断する。そして、次の出力ゲインの設定が存在する場合には、ステップS713に進み、その時点の出力ゲインの設定が最後の設定であって、それ以上の出力ゲインの設定が存在しない場合には、ステップS712に進む。
【0115】
(ステップS712)決定部43は、それまでに蓄積した2乗積算値のうち、最も小さい値に対応する出力ゲインを、ノイズキャンセル部42がスピーカ21に出力する音信号の出力ゲインに決定する。なお、その決定された出力ゲインは、図示しない記録媒体に蓄積されてもよい。そして、図12のフローチャートに戻る。
【0116】
(ステップS713)決定部43は、出力ゲインを次の設定値に設定する。そして、ステップS702に戻って、その設定値に対する2乗積算値の計算を開始する。
【0117】
図15は、図12のフローチャートにおけるノイズキャンセルの処理(ステップS503)の詳細を示すフローチャートである。
(ステップS801)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を用いたノイズキャンセルを開始するかどうか判断する。そして、開始する場合には、ステップS802に進み、そうでない場合には、開始するまでステップS801の処理を繰り返す。ノイズキャンセル部42は、例えば、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断してもよい。このフローチャートでは、MRI装置からトリガー信号が出力されたタイミングで、ノイズキャンセルを開始すると判断されるものとする。
【0118】
(ステップS802)ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を読み出す。ノイズキャンセル部42は、蓄積部41によって蓄積されたノイズ信号を時系列に沿って読み出していくものとする。その際に、ノイズ信号と一緒に蓄積されたタイムコードを用いて読み出してもよい。
【0119】
(ステップS803)ノイズキャンセル部42は、読み出したノイズ信号と、ステップS502において決定された出力ゲインとを用いて、ノイズキャンセルのためにスピーカ21に出力する音信号を生成する。この処理は、ステップS704と同様にして行われる。
【0120】
(ステップS804)ノイズキャンセル部42は、そのようにして生成した音信号が、あらかじめ決められた安全な上限値を超えているかどうか判断する。そして、超えている場合には、ステップS805に進み、超えていない場合には、ステップS806に進む。
【0121】
(ステップS805)ノイズキャンセル部42は、スピーカ21に出力する音信号のうち、上限値を超えている部分を上限値で置き換えることによって音信号を変更する。
【0122】
なお、ステップS804,S805の処理は、後述する保護回路206によって行われてもよい。その場合には、ノイズキャンセル部42は、ステップS804,S805の処理を行わなくてもよい。
【0123】
(ステップS806)ノイズキャンセル部42は、生成した音信号をスピーカ21に出力する。
【0124】
(ステップS807)ノイズキャンセル部42は、ノイズをキャンセルする処理を終了するかどうか判断する。そして、終了する場合には、図12のフローチャートに戻り、ノイズをキャンセルする一連の処理を終了し、そうでない場合には、ステップS808に進む。なお、ノイズキャンセル部42は、例えば、ユーザからの終了指示を受け付けた場合に、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよく、その他のタイミングで、ノイズをキャンセルする処理を終了すると判断してもよい。
【0125】
(ステップS808)ノイズキャンセル部42は、ステップS801でノイズキャンセルを開始すると判断されてから繰り返し時間が経過したかどうか判断する。そして、繰り返し時間が経過した場合には、ステップS801に戻り、そうでない場合には、ステップS802に戻る。
【0126】
なお、このメモリ方式のノイズキャンセル方法においても、評価(ステップS502)において、位相とゲインの少なくとも一方の調整が終了しているのであれば、ノイズキャンセル(ステップS503)においては、ノイズキャンセルをリアルタイムで行いながら、外部から入力された音信号をスピーカ21に出力することもでき、その外部からの音を被験者に聞かせることができる。この場合には、ステップS502において一度、出力ゲイン等の設定が終了すれば、ステップS503においては、それらの設定をする必要がないからである。
【0127】
また、このメモリ方式のノイズキャンセル方法において、決定部43によって位相とゲインの少なくとも一方を決定する場合について説明したが、精度の高いノイズキャンセルが要求されない場合には、その位相とゲインの少なくとも一方に関する調整を行わなくてもよい。そのように、位相とゲインの少なくとも一方に関する調整を行わない場合には、ノイズキャンセル装置13は、決定部43を備えていなくてもよい。
【0128】
ここで、このメモリ方式のノイズキャンセルの原理について簡単に説明する。図16は、脳研究用のシーケンスで、ガントリ内のある特定位置で騒音を測定した波形図の一例である。図16(a)は、1番目のトリガー信号をトリガーとして測定されたMRI騒音である。図16(b)は、2番目以降のトリガー信号をトリガーとして測定されたMRI騒音である。これらは、50μsでサンプリングされている。図16(a)の区間401の波形は、最初のスライス位置で断層像を撮像したときの騒音であり、区間402の波形は、次のスライス位置での騒音である。各スライス位置での騒音は、互いにかなり近い波形となっている。また、図16(a)、(b)の波形はよく一致している。このように、図16の場合では、トリガー信号ごとに繰り返し性があることがわかる。また、例えば、図16において、図16(a)のノイズ信号を蓄積しておき、図16(b)のノイズ信号のキャンセルを行った場合には、効果的にノイズをキャンセルすることができることは明らかである。したがって、あるトリガー信号を用いて蓄積されたノイズ信号を用いて、他のトリガー信号を用いてノイズキャンセルの処理を行った場合に、効果的なノイズキャンセルを実現することができると考えられる。
【0129】
(3)フィードバック制御のノイズキャンセル方法
フィードバック制御のノイズキャンセルを行う場合には、ノイズキャンセル装置13は、内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって内蔵マイク22の位置のノイズをキャンセルする。この場合には、リファレンスマイク12によって取得されたノイズ信号を用いなくてもよいため、ノイズキャンセルシステム1は、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。また、このフィードバック制御のノイズキャンセルの方法は、通常のフィードバック制御の場合と同様であり、その詳細な説明を省略する。なお、「内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号」は、内蔵マイク22がノイズ信号のみを取得した場合には、その信号そのものであってもよく、内蔵マイク22がノイズ信号と、外部から入力された音(例えば、被験者に提示される刺激音など)に対応する音信号とを取得した場合には、スピーカ21から出力された音信号が内蔵マイク22で取得される音の波形を推定し、内蔵マイクで取得されたノイズ信号と音信号とを含む信号から、その推定された音信号を除去したノイズ信号であってもよい。ノイズキャンセル装置13は、その内蔵マイク22によって取得されたノイズ信号を、内蔵マイクの位置で打ち消すための信号を予測推定して、スピーカ21に出力してもよい。なお、前述の説明のように、この場合にも、ノイズキャンセル装置13がスピーカ21に出力する音信号の位相とゲインの少なくとも一方を決定し,その決定した位相とゲインの少なくとも一方に応じた音信号をスピーカ21に出力してもよい。
【0130】
なお、ここでは、3通りのノイズキャンセル方法について説明したが、オーディオ分野で知られているそれ以外のノイズキャンセル方法を用いてもよい。例えば、フィードフォワード制御とフィードバック制御とを併合した2自由度ANCを用いてもよい。
【0131】
次に、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1の動作について、具体例を用いて説明する。この具体例では、図17で示されるように、MRIの被験者104がヘッドホン11を装着し、ノイズキャンセル処理が行われる場合について説明する。図17は、ノイズキャンセルシステム1やMRI装置101を含むシステム全体の構成を示す図である。図17において、MRI室100には、計算機室200が併設されている。MRI室100には、MRI装置101が存在し、計算機室200には、MRI制御装置201が存在する。ノイズキャンセルシステム1は、ANC処理装置202と、マイクアンプやミキサからなる音響入出力装置203と、被験者用のヘッドホン11と、内蔵マイク22の近傍であって、ヘッドホン11の外に設置されたリファレンスマイク12と、被験者104の口元付近に配置された被験者の通話マイク109と、計算機室200内で検査者の音声を入力するためのマイク204と、被験者104の音声を計算機室200内に出力するためのスピーカ205と、MRI室100と計算機室200との間の電気信号を通過させるためのノイズフィルタ110とを主に備えている。ヘッドホン11は、内蔵マイク22と、図示しないスピーカ21とを備えている。また、ノイズキャンセルシステム1は、被験者104に過大な音響出力がなされないようにするための保護回路206を備えていることが好適である。図17で示されるように、ノイズキャンセルシステム1は、図1で示す以外の構成要素を備えていてもよい。
【0132】
台102上の被験者104は、MRI装置101の円筒状のガントリ(ボアと呼ばれることもある)103内において、ヘッドコイルとよばれるRFコイル105が装着された状態となっている。さらに、被験者104には、ヘッドホン11、リファレンスマイク12、通話マイク109が装着されている。ヘッドホン11、リファレンスマイク12、通話マイク109は、前述のように、非磁性であることが要求される。通話マイク109は、例えば、光マイクであってもよく、圧電体素子によって構成されたマイクであってもよい。また、ヘッドホン11は、遮音性が高いものである。
【0133】
MRI装置101では、大きく分けて、静磁場、傾斜磁場、高周波磁場の3種類の磁場が用いられる。傾斜磁場、高周波磁場の印加手順はパルスシーケンスと呼ばれる。このシーケンスに基づき、MRI制御装置201から強力な電流パルスが周期的にMRI装置101の磁場コイルに流される。このため、電磁誘導ノイズや、コイルに生じた振動により大きな騒音を発生する。このように、MRI装置101には、電磁誘導ノイズ、騒音、振動、さらには静磁場中での振動による誘導ノイズが発生することになる。このとき、MRI制御装置201から、パルスシーケンスの開始時のタイミングを規定するためのトリガー信号が出力される。ANC処理装置202は、そのトリガー信号を取り込んで、前述のように、そのトリガー信号をノイズキャンセルの処理において用いることができる。
【0134】
図18は、ANC処理装置202や、音響入出力装置203の詳細な構成を示すブロック図である。図18において、ANC処理装置202は、AD変換器210と、平均化処理部211と、ノイズキャンセル装置13と、DA変換器213とを備える。音響入出力装置203は、多チャンネルのマイクアンプ207と、ヘッドホン11への出力信号を合成するためのミキサ208と、パーソナルコンピュータなどである音刺激提示部209と、ローパスフィルタ(LPF)214,215とを備える。
【0135】
通話マイク109が取得した被験者104の発した音声に対応する音声信号は、ノイズフィルタ110を通過し、マイクアンプ207で増幅された後に、スピーカ205に出力される。リファレンスマイク12が取得したヘッドホン11の外部のノイズ信号と、内蔵マイク22で取得したヘッドホン11の内部のノイズ信号とは、ノイズフィルタ110を通過し、マイクアンプ207で増幅される。そして、LPF214を介してAD変換器210でデジタル信号に変換され、平均化処理部211で移動平均処理などの平均化処理が行われ、ノイズキャンセル装置13に入力される。ノイズキャンセル装置13では、前述のように、ノイズキャンセルの処理が行われ、スピーカ21に出力する音信号がリアルタイムで生成される。ノイズキャンセル装置13で生成された音信号は、DA変換器213においてアナログ信号に変換され、ミキサ208に送られる。さらに、保護回路206で被験者104に過大な音量とならないように音量レベルが制限され、ノイズフィルタ110を通過して、スピーカ21に出力される。このようにして、ヘッドホン11の密閉空間内に残存するMRI騒音のキャンセルが行われる。なお、平均化処理部211による平均化処理により、リファレンスマイク12の取得したノイズ信号や、内蔵マイク22が取得したノイズ信号に含まれる電磁誘導ノイズやAD変換で混入する電気的なノイズを低減することが可能である。また、LPF214、215は、それぞれアンチエリアシングフィルタや、スムージングフィルタと呼ばれるローパスフィルタである。また、通常、スピーカ21への出力信号と、内蔵マイク22からの入力信号は、左右一つずつ存在する。そして、それぞれに対して独立にノイズキャンセル処理が実行されることになる。また、リファレンスマイク12は、1個であってもよく、右耳用と左耳用にそれぞれ1個ずつあってもよい。また、ノイズキャンセル装置13が、前述の(2)メモリ方式のノイズキャンセルや、(3)フィードバック制御のノイズキャンセルを行う場合には、これらのシステムが、リファレンスマイク12を備えていなくてもよい。
【0136】
なお、図17,図18において、50μsのサンプリング程度のリアルタイム性で、ヘッドホン11内のMRIのノイズのキャンセルを行いながら、通話マイク109が取得した被験者の音声信号をANC処理装置202でAD変換し、その音声信号に混入するMRI騒音をキャンセルして被験者の音声を明瞭にし、MRI制御装置201のトリガー信号とともに記録してもよい。さらに、計算機室200内の検査者の音声も、同様に記録してもよい。
【0137】
図19は、MRI騒音を録音し、その録音した騒音をスピーカから大音量で出力し、ノイズキャンセルの実験を行った場合の波形の一例を示す図である。その実験において、リファレンスマイク12は騒音源の近くに配置した。また、被験者は、内蔵マイク22を備えたヘッドホン11を装着した。そして、スピーカから100dB程度の騒音を出して、ノイズキャンセルを行った。また、ノイズキャンセルの方法としては、前述の(1)フィードフォワード制御のノイズキャンセルの方法とほぼ等価なアルゴリズムを用いた。
【0138】
図19において、図19(a)、(b)、(c)はそれぞれ、ヘッドホン11の外部のMRI騒音の波形図、ヘッドホン11の密閉空間内に残存するMRI騒音の波形図、ノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内のMRI騒音の波形図である。図19(a)、(b)、(c)は、すべて同じレンジで表示している。
【0139】
図19(a)で示されるヘッドホン11の外部のノイズと、図19(b)で示されるヘッドホン11の密閉空間内のノイズとを比較すると、ヘッドホン11によって20dB以上の遮音効果が得られていることが分かる。さらに、図19(b)で示されるヘッドホン11の密閉空間内のノイズと、図19(c)で示されるノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内のノイズとを比較すると、ノイズキャンセル処理によって、10〜15dB程度のノイズキャンセル効果の得られていることが分かる。したがって、本実施の形態によるノイズキャンセル方法により、ヘッドホン11の外部の図19(a)のMRI騒音に対し、ノイズキャンセル後のヘッドホン11の密閉空間内の騒音は、30〜35dBのノイズキャンセル効果が得られていることが分かる。このようにして、100dB程度のMRI騒音を、70〜65dB程度に低減できるため、例えば、MRI騒音が脳研究の結果に影響を及ぼす問題を解決できることになりうる。
【0140】
なお、図19の実験では、全て50μsのサンプリングを行った。50μsの時間内で、AD変換、ノイズキャンセルの計算処理、DA変換などの、ノイズキャンセル動作に必要な処理を全て行っている。さらに、出力ゲインが設定された後は、その設定されたパラメータを変更することなく、20分以上にわたって同様なキャンセル効果を得ることができることを確認した。
【0141】
以上のように、本実施の形態によるノイズキャンセルシステム1によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン11の内部でのノイズキャンセルを実現することができる。特に、内蔵マイク22として、光マイクや、高感度の複合圧電体のマイクを用いることによって、ヘッドホン11の密閉空間内における音波のノイズを効果的にとらえることができる。
【0142】
また、発明者らの研究によって、MRIに起因するノイズには、時間的な繰り返し性と、被験者の体長方向及びガントリの円柱の中心軸からの半径方向に対する位置依存性とがあることが分かった。また、そのノイズには、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径の位置、すなわち、ガントリの円柱の長さ方向に垂直な面上における、その円柱の中心軸から同じ半径の位置では、そのノイズに位置依存性がないことが分かった。したがって、MRIに起因するノイズのそれらの特性を用いて、効果的なノイズキャンセルを行うことができうる。例えば、フィードフォワード制御のノイズキャンセルにおいて、リファレンスマイク12の位置と、内蔵マイク22の位置とを、被験者の体長方向における同じ位置とすると共に、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径の位置とすることによって、リファレンスマイク12によって取得したノイズ信号を用いて、内蔵マイク22の位置のノイズ信号をより精度よく推定できることになる。また、トリガー信号ごとの、あるいは、一のスライスの撮像ごとの時間的な繰り返し性を用いることによって、メモリ方式のノイズキャンセルを実現することができる。
【0143】
また、MRIに起因するノイズは、ガントリの壁からガントリの円筒空間の中心に向かって放出される。放出された音波は、ガントリ内の物体からの反射や反対側のガントリ壁からの反射など、非常に複雑な経路を経て特有の音場が形成される。しかしながら、MRI撮像時においては、被験者や台、ヘッドコイルなど、ガントリ内の物体は全て固定したままである。また、MRI室や計算機室の室温や湿度も一定に保たれている。したがって、複雑ではあるが、定常的に急激に変化するMRIに特有のノイズの音場が形成されることになる。したがって、一度、フィルタパラメータを計算し、位相とゲインの少なくとも一方を決定すると、その計算結果等を用いて、長期にわたって同じ精度のノイズキャンセルを実現することが可能となる。
【0144】
なお、図7、及び図14のフローチャートでは、自動的に出力ゲインを決定する場合について説明したが、そうでなくてもよい。例えば、内蔵マイク22の取得した音信号を図示しないスピーカから出力することによって、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズをモニタすることができる。そして、そのノイズをモニタしている者が、ノイズキャンセル部32の出力ゲイン、あるいは、ノイズキャンセル装置13とスピーカ21との間に位置するミキサ208のヘッドホン11への出力ボリュームを調整して、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズが小さくなるように調整してもよい。また、ここでは、出力ゲインの決定について説明したが、位相の決定についても、同様に行ってもよい。
【0145】
また、図5のフローチャートにおけるフィルタの評価の処理(ステップS102)や、図12のフローチャートにおける評価の処理(ステップS502)において決定された、位相とゲインの少なくとも一方は、MRIの被験者が変わったとしても、ノイズキャンセルシステム1におけるヘッドホン11等の機器が変更されない限り、同じ値を用いてもよい。その場合には、例えば、図5のフローチャートにおいて、すでに位相とゲインの少なくとも一方が決定されている場合には、ステップS101からステップS103に進んでもよい。また、例えば、図12のフローチャートにおいて、すでに位相とゲインの少なくとも一方が決定されている場合には、ステップS501からステップS503に進んでもよい。
【0146】
また、ヘッドホン11のスピーカ21をマイク(例えば、内蔵マイク22など)として用いてもよい。その場合には、面積が大きいため、高感度のマイクとなりうる。また、そのマイクによって、ヘッドホン11の密閉空間内のノイズを測定することも可能となる。ただし、スピーカ21をマイク兼用にする場合には、送受分離が必要となる。
【0147】
また、上記説明では、フィルタパラメータや、出力ゲイン等を一度設定すると、その後は、その設定されたものを用いてノイズキャンセル処理を継続する場合について説明したが、そのノイズキャンセル処理の途中において、再度のフィルタパラメータの設定や、出力ゲイン等の設定を行ってもよい。例えば、フィルタパラメータ等が設定されてから所定の時間(例えば、15分や30分など)が経過した場合に、そのフィルタパラメータ等の再設定を行うようにしてもよい。所定の時間が経過することによって、被験者の体位などが少しはずれることもあり、フィルタパラメータ等が最適なものでなくなっている可能性もありうるからである。
【0148】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、あるいは、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0149】
また、上記実施の形態において、各構成要素が実行する処理に関係する情報、例えば、各構成要素が受け付けたり、取得したり、選択したり、生成したり、送信したり、受信したりした情報や、各構成要素が処理で用いるしきい値や数式、アドレス等の情報等は、上記説明で明記していない場合であっても、図示しない記録媒体において、一時的に、あるいは長期にわたって保持されていてもよい。また、その図示しない記録媒体への情報の蓄積を、各構成要素、あるいは、図示しない蓄積部が行ってもよい。また、その図示しない記録媒体からの情報の読み出しを、各構成要素、あるいは、図示しない読み出し部が行ってもよい。
【0150】
また、上記実施の形態において、各構成要素等で用いられる情報、例えば、各構成要素が処理で用いるしきい値やアドレス、各種の設定値等の情報がユーザによって変更されてもよい場合には、上記説明で明記していない場合であっても、ユーザが適宜、それらの情報を変更できるようにしてもよく、あるいは、そうでなくてもよい。それらの情報をユーザが変更可能な場合には、その変更は、例えば、ユーザからの変更指示を受け付ける図示しない受付部と、その変更指示に応じて情報を変更する図示しない変更部とによって実現されてもよい。その図示しない受付部による変更指示の受け付けは、例えば、入力デバイスからの受け付けでもよく、通信回線を介して送信された情報の受信でもよく、所定の記録媒体から読み出された情報の受け付けでもよい。
【0151】
また、上記実施の形態において、ノイズキャンセル装置13等に含まれる2以上の構成要素が通信デバイスや入力デバイス等を有する場合に、2以上の構成要素が物理的に単一のデバイスを有してもよく、あるいは、別々のデバイスを有してもよい。
【0152】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、あるいは、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。なお、上記実施の形態におけるノイズキャンセル装置13を実現するソフトウェアは、以下のようなプログラムである。つまり、このプログラムは、コンピュータを、MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムであって、前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムである。
【0153】
なお、上記プログラムにおいて、上記プログラムが実現する機能には、ハードウェアでしか実現できない機能は含まれない。例えば、情報の取得や、情報の出力などにおけるモデムやインターフェースカードなどのハードウェアでしか実現できない機能は、上記プログラムが実現する機能には少なくとも含まれない。
【0154】
また、このプログラムは、サーバなどからダウンロードされることによって実行されてもよく、所定の記録媒体(例えば、CD−ROMなどの光ディスクや磁気ディスク、半導体メモリなど)に記録されたプログラムが読み出されることによって実行されてもよい。また、このプログラムは、プログラムプロダクトを構成するプログラムとして用いられてもよい。
【0155】
また、このプログラムを実行するコンピュータは、単数であってもよく、複数であってもよい。すなわち、集中処理を行ってもよく、あるいは分散処理を行ってもよい。
【0156】
図20は、上記プログラムを実行して、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13を実現するコンピュータの外観の一例を示す模式図である。上記実施の形態は、コンピュータハードウェア及びその上で実行されるコンピュータプログラムによって実現されうる。
【0157】
図20において、コンピュータシステム900は、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)ドライブ905、FD(Floppy(登録商標) Disk)ドライブ906を含むコンピュータ901と、キーボード902と、マウス903と、モニタ904とを備える。
【0158】
図21は、コンピュータシステム900の内部構成を示す図である。図21において、コンピュータ901は、CD−ROMドライブ905、FDドライブ906に加えて、MPU(Micro Processing Unit)911と、ブートアッププログラム等のプログラムを記憶するためのROM912と、MPU911に接続され、アプリケーションプログラムの命令を一時的に記憶すると共に、一時記憶空間を提供するRAM(Random Access Memory)913と、アプリケーションプログラム、システムプログラム、及びデータを記憶するハードディスク914と、MPU911、ROM912等を相互に接続するバス915とを備える。なお、コンピュータ901は、LANへの接続を提供する図示しないネットワークカードを含んでいてもよい。
【0159】
コンピュータシステム900に、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13の機能を実行させるプログラムは、CD−ROM921、またはFD922に記憶されて、CD−ROMドライブ905、またはFDドライブ906に挿入され、ハードディスク914に転送されてもよい。これに代えて、そのプログラムは、図示しないネットワークを介してコンピュータ901に送信され、ハードディスク914に記憶されてもよい。プログラムは実行の際にRAM913にロードされる。なお、プログラムは、CD−ROM921やFD922、またはネットワークから直接、ロードされてもよい。
【0160】
プログラムは、コンピュータ901に、上記実施の形態によるノイズキャンセル装置13の機能を実行させるオペレーティングシステム(OS)、またはサードパーティプログラム等を必ずしも含んでいなくてもよい。プログラムは、制御された態様で適切な機能(モジュール)を呼び出し、所望の結果が得られるようにする命令の部分のみを含んでいてもよい。コンピュータシステム900がどのように動作するのかについては周知であり、詳細な説明は省略する。
【0161】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0162】
以上より、本発明によるノイズキャンセルシステム等によれば、MRI環境で用いられる遮音性の高いヘッドホン内部でのノイズキャンセルを実現することができるという効果が得られ、例えば、MRIを用いた脳研究の分野で用いられるノイズキャンセルシステム等として有用である。
【符号の説明】
【0163】
1 ノイズキャンセルシステム
11 ヘッドホン
12 リファレンスマイク
13 ノイズキャンセル装置
21 スピーカ
22 内蔵マイク
31 フィルタパラメータ計算部
32、42 ノイズキャンセル部
33、43 決定部
41 蓄積部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンと、ノイズキャンセル装置とを備えたノイズキャンセルシステムであって、
前記ヘッドホンは、
圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、
前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力する、ノイズキャンセルシステム。
【請求項2】
前記スピーカは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項1記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項3】
前記内蔵マイクは、光マイクである、請求項1または請求項2記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項4】
前記内蔵マイクは、圧電体素子によって構成されたものである、請求項1または請求項2記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項5】
前記内蔵マイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項4記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項6】
前記ヘッドホンの外部のノイズを取得する非磁性のマイクであって、前記被験者の体長方向における前記内蔵マイクと同じ位置に配置されるマイクであるリファレンスマイクをさらに備え、
前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項7】
前記リファレンスマイクと、前記内蔵マイクとは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置する、請求項6記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項8】
前記ノイズキャンセル装置は、
前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部と、
前記フィルタパラメータ計算部が計算したフィルタパラメータを用いて、前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、
前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部と、を備え、
前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力する、請求項6または請求項7記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項9】
前記スピーカは、外部から入力された音信号をも出力するものであり、
前記フィルタパラメータ計算部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて前記フィルタパラメータを計算し、
前記ノイズキャンセル部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、前記スピーカに外部から音信号が入力されている際にも用いる、請求項8記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項10】
前記リファレンスマイクは、光マイクである、請求項6から請求項9のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項11】
前記リファレンスマイクは、圧電体素子によって構成されたマイクである、請求項6から請求項9のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項12】
前記リファレンスマイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項11記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項13】
前記ノイズキャンセル装置は、
1または2以上のスライスの撮像に対応する、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を蓄積する蓄積部と、
前記1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、前記蓄積部が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号を前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、を備えた、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項14】
前記ノイズキャンセル装置は、
前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部をさらに備え、
前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力する、請求項13記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項15】
前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項16】
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル方法であって、
前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル方法。
【請求項17】
コンピュータを、
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムであって、
前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラム。
【請求項1】
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンと、ノイズキャンセル装置とを備えたノイズキャンセルシステムであって、
前記ヘッドホンは、
圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、
前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力する、ノイズキャンセルシステム。
【請求項2】
前記スピーカは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項1記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項3】
前記内蔵マイクは、光マイクである、請求項1または請求項2記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項4】
前記内蔵マイクは、圧電体素子によって構成されたものである、請求項1または請求項2記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項5】
前記内蔵マイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項4記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項6】
前記ヘッドホンの外部のノイズを取得する非磁性のマイクであって、前記被験者の体長方向における前記内蔵マイクと同じ位置に配置されるマイクであるリファレンスマイクをさらに備え、
前記ノイズキャンセル装置は、前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号とを用いて、フィードフォワード制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項7】
前記リファレンスマイクと、前記内蔵マイクとは、ガントリの円柱の中心軸から同じ半径に位置する、請求項6記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項8】
前記ノイズキャンセル装置は、
前記リファレンスマイクによって取得されたノイズ信号と、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号とを用いて、フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部と、
前記フィルタパラメータ計算部が計算したフィルタパラメータを用いて、前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、
前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部と、を備え、
前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力する、請求項6または請求項7記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項9】
前記スピーカは、外部から入力された音信号をも出力するものであり、
前記フィルタパラメータ計算部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて前記フィルタパラメータを計算し、
前記ノイズキャンセル部は、前記スピーカに外部から音信号が入力されていない際のノイズ信号を用いて計算されたフィルタパラメータを、前記スピーカに外部から音信号が入力されている際にも用いる、請求項8記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項10】
前記リファレンスマイクは、光マイクである、請求項6から請求項9のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項11】
前記リファレンスマイクは、圧電体素子によって構成されたマイクである、請求項6から請求項9のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項12】
前記リファレンスマイクは、圧電体素子が有機物中に配置された複合圧電体により構成されたものである、請求項11記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項13】
前記ノイズキャンセル装置は、
1または2以上のスライスの撮像に対応する、前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を蓄積する蓄積部と、
前記1または2以上のスライスの撮像とは異なるスライスの撮像において、前記蓄積部が蓄積したノイズ信号と逆位相の音信号を前記スピーカに出力するノイズキャンセル部と、を備えた、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項14】
前記ノイズキャンセル装置は、
前記ノイズキャンセル部が音信号をスピーカに出力している際に前記内蔵マイクが取得したノイズ信号を用いて、当該ノイズ信号が小さくなるように、前記ノイズキャンセル部が出力する音信号の位相及びゲインの少なくとも一方を決定する決定部をさらに備え、
前記ノイズキャンセル部は、前記決定部が決定した位相及びゲインの少なくとも一方に応じた音信号を前記スピーカに出力する、請求項13記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項15】
前記ノイズキャンセル装置は、前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を用いて、フィードバック制御によって前記内蔵マイクの位置のノイズをキャンセルする、請求項1から請求項5のいずれか記載のノイズキャンセルシステム。
【請求項16】
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル方法であって、
前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル方法。
【請求項17】
コンピュータを、
MRIの被験者が装着する密閉型のヘッドホンを用いたノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラムであって、
前記ヘッドホンは、圧電体素子によって構成された、音を出力するスピーカと、前記スピーカが音を出力する密閉空間の内部のノイズを少なくとも取得する非磁性の内蔵マイクと、を備え、
前記内蔵マイクによって取得されたノイズ信号を少なくとも用いることによって、前記密閉空間の内部のノイズがキャンセルされるように音信号を生成し、前記スピーカに出力するノイズキャンセル装置として機能させるためのプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図9】
【図10】
【図16】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図20】
【図21】
【図9】
【図10】
【図16】
【図19】
【公開番号】特開2010−227500(P2010−227500A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81421(P2009−81421)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【出願人】(000153421)株式会社日立アドバンストシステムズ (9)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(301022471)独立行政法人情報通信研究機構 (1,071)
【出願人】(000153421)株式会社日立アドバンストシステムズ (9)
【Fターム(参考)】
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