説明

ノッチリガンドDelta−1、GM−CSF、TGF−βを用いたヒト末梢血単核球であるCD14陽性細胞からのランゲルハンス細胞の調製方法

本発明は、ヒト末梢血単核球であるCD14陽性細胞からランゲルハンス細胞を調製するための方法を提供を目的とする、ヒト末梢血単核球をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、樹状細胞(dendritic cells;DC)の一亜型である表皮ランゲルハンス細胞(Langerhans cells;LC)の培養に関し、ヒト末梢血単核球であるCD14陽性細胞からノッチリガンド(Notch ligand)Delta−1、GM−CSF、TGF−βを用いてランゲルハンス細胞を調製する方法に関する。該細胞は、癌、感染症、移植片拒絶、移植片対宿主病、自己免疫疾患あるいはアレルギー性疾患などの治療剤に利用することができる。
【背景技術】
樹状細胞(dendritic cells;DC)は、T細胞を介する初期免疫応答を惹起する最も強力な抗原提示細胞である(Steinman RMら、Annu Rev Immunol 9:271−296,1991;Caux Cら,Immunol Today 16:2−5,1995;Hart DNJ、Blood 90:3245−3287,1997;Cella MFら、Curr Opin Immunol 9:10−16,1997;Banchereau Jら、Nature 392:245−252,1998;Banchereau Jら、Annu Rev Immunol 18:767−811,2000)。皮膚の表皮に存在するDCの一亜型である表皮ランゲルハンス細胞(Langerhans cells;LC)は、細胞表面にランゲリン(Langerin)、E−カドヘリン(E−Cadherin)、CCR6を発現し、細胞内にはBirbeck顆粒を保持するなどの特徴を持つ(Schuler G(ed.)、Epidermal Langerhans Cells.CRC Press,Boca Raton,FL,1991;Valladeau Jら、Immunity 12:71−81,2000;Tang Aら、Nature 361:82−85,1993;Greaves DRら、J Exp Med 186:837−844,1997)。LCは皮膚に侵入した様々な異物に対する適切な免疫反応を引き起こす。具体的には、LCは皮膚に侵襲した病原体や腫瘍細胞などの異物を取り込んだ後、所属リンパ節に移動し、そこでプロセッシングした抗原をnaive T細胞あるいはメモリーT細胞に提示し、それらを初期活性化あるいは再活性化し、異物に由来する抗原に対する特異的免疫応答を効果的に誘導する。活性化されたT細胞が異物の侵襲した組織に浸潤し、それらの除去を進行させ、過度の組織傷害から組織を防御している。
ヒトのLCは、再生不良性貧血に対する同種骨髄移植における観察において、移植を受けた患者さんの皮膚のLCが骨髄の提供者(ドナー)と同じ組織適合抗原を表現していたことから、骨髄細胞由来であると考えられていた(Volc−Platzer Bら、N Engl J Med 310:1123−1124,1984)。これまでのin vitroの実験においては、臍帯血あるいは末梢血のCD34陽性造血前駆細胞をgranulocyte−macrophage colony−stimulating factor(GM−CSF) + tumor necrosis factor−α(TNF−α)の存在下に培養すると、培養細胞の一部はLCに分化していることが報告されており(Caux Cら、Nature 360:258−261,1992;Caux Cら、J Exp Med 184:695−706,1996;Strunk Dら、Blood 87:1292−1302,1996)、LCは造血幹細胞由来であることが示されていた。しかしながら、造血幹細胞からLCまでの分化経路およびそれらの制御機構については未だ十分に明らかにされていない。また、ヒト末梢血単球をGM−CSF + interleukin4(IL−4) + transforming growth factor−β(TGF−β)、GM−CSF + IL−15、GM−CSF + TGF−βなどの造血因子の組み合わせで培養すると、一部の細胞はLCに分化すると報告されているが(Geissmann Fら、J Exp Med 187:961−966,1998;Mohamadzadeh Mら、J Exp Med 194:1013−1020,2001;Guironnet Gら、J Leukoc Biol 71:845−853,2002)、これらの造血因子の存在下におけるLCへの分化は十分なものとは言い難い。一方、皮膚の真皮などには、LCとは異なる骨髄系DCである真皮DC(dermal DC)が存在しており、これらのdermal DCはヒト末梢血単球からGM−CSF + IL−4によって分化誘導される(Romani Nら、J Exp Med 180:83−93,1994;Sallusto Fら、J Exp Med 179:1109−1118,1994)。造血系を含め様々な組織の発生や分化に重要な役割をしていることが明らかにされてきているNotch ligandの一つであるDelta−1が(Ohishi Kら、Int J Hematol 75:449−459,2002;Ohishi Kら、Semin Cell Dev Biol 14:143−150,2003)、ヒト末梢血単球あるいは骨髄由来のCD34陽性細胞からのdermal型DCの分化に関わっていることも報告されている(Ohishi Kら、Blood 98:1402−1407,2001)。このように、造血幹細胞からDCへの分化は、多種類のサイトカインや他の因子からなるネットワークにより制御されていると推察される。
【発明の開示】
ヒト末梢血単核球であるCD14陽性細胞からランゲルハンス細胞を調製するための方法を提供する。
本発明者等は、抗原提示能を有する樹状細胞の一亜型であるランゲルハンスを細胞生物学的研究やDCを用いたワクチン細胞療法の開発に利用すべく、該細胞の培養分化方法について鋭意検討を行った。従来より、ランゲルハンス細胞を培養により得る試みは為されていたが、細胞の発現抗原から考え、ランゲルハンス細胞と言える細胞は得られていなかった。
本発明者等は、ノッチリガンド(Notch ligand)Delta−1、GM−CSF、TGF−βを用いた動物細胞培養培地にてヒト末梢血単核球であるCD14陽性細胞を培養することにより、ランゲルハンス細胞が得られることを見出し、本発明のランゲルハンス細胞の調製方法を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] ヒト末梢血単核球をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法、
[2] ヒト末梢血単核球のノッチにノッチリガンドを用いてノッチシグナルを伝達させ、かつ該単核球をGM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法、
[3] ノッチリガンドを培養用容器に固相化しておくことを特徴とする、[1]または[2]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[4] ノッチリガンドが他のペプチドとの融合ペプチドを構成し、培養用容器に該他のペプチドに対する抗体を固相化し、ノッチリガンドが該抗体と前記他のペプチドの結合を介して培養用容器に固相されている、[3]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[5] 他のペプチドがmycである[4]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[6] ノッチリガンドが、Delta−1、Delta−2、Delta−3、Delta−4、Jagged−1およびJagged−2からなる群から選択される[1]から[5]のいずれかのランゲルハンス細胞の調製方法、
[7] ノッチリガンドがDelta−1である[6]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[8] ヒト末梢血単核球が単離されたCD14陽性細胞である、[1]または[2]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[9] ランゲルハンス細胞表面に、E−カドヘリン、ランゲリンおよびCCR6が発現されていることを特徴とする[1]から[8]のいずれかのランゲルハンス細胞の調製方法、
[10] さらに、ランゲルハンス細胞表面に、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が発現されていることを特徴とする[9]のランゲルハンス細胞の調製方法、
[11] [1]から[10]のいずれかの調製方法で調製したランゲルハンス細胞にCD40リガンド、TNF−α及びLPSからなる群から選択される一種以上を添加して、さらに培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法、
[12] ランゲルハンス細胞が未成熟なものである、[1]から[10]のいずれかのランゲルハンス細胞の調製方法、
[13] ランゲルハンス細胞が成熟なものである、[1]から[11]のいずれかのランゲルハンス細胞の調製方法、
[14] [1]から[13]のいずれかの方法で調製されたランゲルハンス細胞、
[15] E−カドヘリン、ランゲリンおよびCCR6が細胞表面に発現されている[14]のランゲルハンス細胞、
[16] さらに、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が細胞表面に発現されている[15]のランゲルハンス細胞、
[17] ヒト末梢血単核球由来である、E−カドヘリン、ランゲリン、CCR6、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が表面に発現されているランゲルハンス細胞、
[18] 未成熟細胞である、[15]から[17]のいずれかのランゲルハンス細胞、
[19] 成熟細胞である、[15]から[17]のいずれかのランゲルハンス細胞、
[20] [14]から[19]のいずれかのランゲルハンス細胞を含む医薬組成物、
[21] 癌または感染症治療薬である[20]の医薬組成物、
[22] ランゲルハンス細胞が成熟細胞である、[21]の医薬組成物、
[23] 細胞、臓器または組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療に用いられる、[20]の医薬組成物、
[24] ランゲルハンス細胞が未成熟細胞である、[23]の医薬組成物、
[25] ヒトから採取した末梢血単核球を、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、癌または感染症治療用ランゲルハンス細胞の調製方法、
[26] ヒトから採取した末梢血単核球を、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、癌、感染症、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法、
[27] ノッチリガンドが、Delta−1、Delta−2、Delta−3、Delta−4、Jagged−1およびJagged−2からなる群から選択される[25]または[26]に記載の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法、ならびに
[28] ノッチリガンドがDelta−1である[27]の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−277892号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、Delta−1存在下あるいは非存在下でのGM−CSF + IL−4 + TGF−βによりCD14陽性細胞から誘導された細胞の形質の解析の結果を示す図である。
図2は、Delta−1存在下あるいは非存在下でのGM−CSF + IL−15によりCD14陽性細胞から誘導された細胞の形質の解析の結果を示す図である。
図3は、Delta−1存在下あるいは非存在下でのGM−CSF + TGF−βによりCD14陽性細胞から誘導された細胞の形質の解析の結果を示す図である。
図4は、Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導されたLC様細胞中のCD1a陽性細胞におけるE−カドヘリンとランゲリンの発現およびランゲリン陽性細胞におけるE−カドヘリンとCCR6の発現の解析の結果を示す図である。
図5は、Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導された細胞の抗原提示機能関連分子の発現の解析の結果を示す図である。
図6は、CD14陽性細胞におけるDelta−1によるHES−1遺伝子の発現亢進を示す図である。
図7は、培養細胞の電子顕微鏡像を示す写真である。
図8は、LCのFITC−デキストランの取り込みの検討の結果を示す図である。
図9は、CD40リガンドとTNF−αにより成熟したLCのHLA−ABC、HLA−DR、CD80、CD86、CD40、CD54、CD83の発現を示す図である。
図10は、CD14陽性細胞から生成された成熟LCのペプチド特異的CD8陽性細胞の活性化を示す図である。
図11は、成熟LCと成熟DCによる自己CD4陽性細胞の刺激の結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
1.ランゲルハンス細胞の調製
本発明は、ヒト末梢血単核球をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法である。
ヒト末梢血単核球は、ヒトから採取した血液から公知の方法で得ることができる。例えば、ヒトから末梢血を採取し、Ficoll−Hypaque等を用いた比重遠心法で得ることができる。本発明においてはヒト末梢血単核球のうちのCD14陽性細胞を用いる。該CD14陽性細胞は、公知の方法で単離することができ、例えばMACS Microbead(Mitenyi Biotec社)を用いればよい。ランゲルハンス細胞の調製に用いるCD14陽性細胞の純度は、90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。用いる細胞が単球であるかどうかは、例えば非特異的エステラーゼ染色を行うことにより判断することができる。
本発明の方法においては、このようにしてヒト末梢血単核球より得られたCD14陽性細胞をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βで処理する。処理とはCD14陽性細胞をこれらの化合物と接触させることをいい、CD14陽性細胞の培養時にこれらの化合物を添加して培養を行えばよい。この際、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βのいずれもCD14陽性細胞の培養用培地に溶解状態で添加させればよいが、ノッチリガンドは後述のように培養に用いる容器の内表面等に固相化させて細胞と接触させるのが望ましい。
ノッチ(Notch)は細胞が有する細胞の分化に関連するシグナル伝達に関与するたんぱく質であり、ノッチリガンドがノッチに結合することでノッチが活性化される。ノッチリガンドにはデルタ(Delta)とジャグド(Jagged)があり、それぞれDelta−1、Delta−2、Delta−3およびDelta−4ならびにJagged−1およびJagged−2と呼ばれるホモローグが存在する(Mumm JSら.,Dev.Biol.,228,151−165,2000)。本発明においてはこれらのいずれのノッチリガンドも用いることができ、また今後発見されるノッチリガンドも含まれる。この中でも特にDelta−1が好ましい。ノッチリガンドまたはノッチリガンドをコードするDNAは、Delta−1を発現しているヒト由来の細胞、例えばケラチノサイト(keratinocyte)より遺伝子増幅法により単離可能であり、また、既に報告されている配列情報(Gray GEら、Am.J.Pathol.,154,785−793,1999)を基に合成することもできる。
GM−CSFおよびTGF−βは天然のものリコンビナントのものいずれを用いてもよい。公知の遺伝子配列情報から容易に作製することもできるし、市販品を用いてもよい。
培養用培地は通常動物細胞の培養に用いられる培地を用いればよく、例えばRPMI1640、DMEM、MEM等がある。培地には必要に応じて、FCS等の動物血清、糖、アミノ酸、抗生物質等を添加する。無血清培地あるいはヒト由来血清、血漿あるいはその成分をFCS等の動物血清の代わりに用いた培養液が望ましい。培養用容器も通常細胞培養に用いる容器を用いればよく、培養規模に応じてプレート、ディッシュ、フラスコ等を用いればよい。なお、後述のようにノッチリガンドを培養容器内面に固相化して用いる場合は、培養容器はタンパク質等の固相化に適したポリスチレン製容器やアミノ基等の適当な官能基を結合させた容器を用いるのが好ましい。また、採血用バッグを用いて行ってもよい。
培養形式は、限定されず回分培養、連続培養いずれの形式で行ってもよい。
培養時のヒト末梢血から得られたCD14陽性細胞の密度は、1×10〜1×10個/mL、好ましくは1×10〜1×10個/mLである。
ヒト末梢血から得られたCD14陽性細胞を培養する際の、GM−CSF濃度は、10〜100ng/mLが好ましく、TGF−βは1〜100ng/mLが好ましい。
ノッチリガンドは、前述のように培養容器の内表面等に固相化して用いるのが好ましい。また、培養容器内表面だけではなく、ポリスチレンビーズ等の粒子上に固相化し、細胞培養時に培養系に該固相化粒子を添加してもよい。
ノッチリガンドの固相化は直接ノッチリガンドを容器内面等に固相化してもよいが、スペーサー等を介して固相化するのが望ましい。スペーサーは限定されないが、アミノ酸数個から十数個からなるペプチドを用いるのが望ましい。スペーサーに用いるペプチドとして、mycタンパク質、V5タンパク質、6×His等のポリヒスチジン等を用いることができる。これらのスペーサーとノッチリガンドを結合させるが、結合方法は限定されず、これらのペプチドをコードするDNAとノッチリガンドをコードするDANをインフレームで融合させ、適当な宿主細胞に導入し、リコンビナント融合タンパク質として発現させればよい。DNAの融合方法、遺伝子組み換えタンパク質の産生は公知の方法で行うことができ、例えば、J.Sambrook,E.F.Fritsch & T.Maniatis(1989):Molecular Cloning,a laboratory manual,second edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press及びEd Harlow and David Lanc(1988):Antibodies,a laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press等の当業者に良く知られた文献に記載された方法に従って行えばよい。本発明において、ノッチリガンド単体ではなく他のペプチドが結合している場合であっても、細胞を培養した際にノッチリガンドが細胞にノッチシグナルを伝達する限り、ノッチリガンドで細胞を処理するという。また、1分子のノッチリガンドに結合させるペプチドは1分子に限らない。ペプチド分子の数が多くなると、ノッチリガンドの固相化密度が高くなり、ノッチリガンドの作用が増強される。ペプチドは1個から数十個、好ましくは1個から15個を連結させたものを用いる。
あらかじめこれらのスペーサー用ペプチドに結合する特異的抗体を培養用容器内表面等に結合させ、スペーサーペプチドと抗体を結合させることにより、間接的にノッチリガンドを培養用容器内表面等に結合させればよい。抗体と培養用容器内表面等とは、物理的吸着によって結合させてもよいし、特定の官能基を利用した化学的結合によってもよく、公知の方法で行うことができる。ノッチリガンドの容器内表面等への結合密度に限定はなく、用いるプレートやバッグ等によって結合性が異なり、適宜決定することができる。ノッチリガンドの固相化密度が大きくなればなるほど、ノッチリガンドの細胞に対する作用が大きくなるので、固相化密度は大きいほうが望ましい。例えば、培養にポリスチレン製のプレートを用い、ノッチリガンドDelta−1を6分子のmycタンパク質と融合させて用いる場合、培養用容器に1μg/mL〜20μg/mLの濃度の抗myc抗体を入れ固相化すればよい。
ヒト末梢血から得たCD14陽性細胞のノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下での培養は、1日から10日間程度、例えば6日間行えばよく、その間適宜培地の一部または全部を交換する。この際、培養細胞の表面抗原の発現をFACS等で調べることにより、ランゲルハンス細胞が得られる培養期間を適宜決定することができる。
このようにヒト末梢血から得た末梢血単核球よりCD14陽性細胞を単離し、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することによりランゲルハンス細胞を調製することができる。ここで、ノッチリガンドにより細胞を処理することにより、ノッチリガンドが細胞が元々有するノッチに結合し、細胞にノッチシグナルを伝達する。すなわち、細胞をノッチリガンドで処理することは、細胞のノッチにノッチリガンドを用いてノッチシグナルを伝達させることを意味する。
得られた細胞がランゲルハンス細胞であるかどうかは、細胞の表面抗原を調べればよく、本発明の方法で調製されるランゲルハンス細胞においては、細胞表面にE−カドヘリン、ランゲリン、およびCCR6が発現している。さらに、本発明の方法で調製されるランゲルハンス細胞の表面には、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が発現されている。これらの抗原が発現されているかどうかは、これらの抗原に対する抗体であって、発色酵素、蛍光化合物等で標識した抗体を用いて細胞が染色されたか否かを顕微鏡観察等により決定することができる。例えば、これらの抗体を用いて細胞を免疫染色して、表面抗原の有無を決定することができ、また該抗体を結合させた磁性ビーズを用いても決定することができる。また、FACSまたはフローサイトメーターを用いても表面抗原があるかどうか決定することができる。FACS、フローサイトメーターとしては例えばFACS Vantage(ベクトン・ディッキンソン社製)、FACS Calibur(ベクトン・ディッキンソン社製)等を用いることができる。
なお、本発明の方法により成熟したランゲルハンス細胞も未成熟のランゲルハンス細胞も得られる。
ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養する方法によっては、主に未成熟のランゲルハンス細胞が得られ、さらに成熟化させて成熟ランゲルハンス細胞を得ることができる。免疫応答刺激のためには、成熟ランゲルハンス細胞を用いることが好ましい。
未成熟のランゲルハンス細胞を成熟させるための因子として、樹状細胞を成熟させるために通常用いられている因子を用いることができ、例えばTNF−α、LPS、IL−1β等のIL−1、IL−6、PGE2等のプロスタグランジン、INF−α、β、γ、CD40リガンド等またはこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。
未成熟のランゲルハンス細胞を成熟させるための因子としての適当な濃度は、0.1ng/mL〜100μg/mLの範囲が挙げられる。例えば、TNF−α濃度は1〜200ng/mLが好ましく、CD40リガンド濃度は0.1〜10μg/mLが好ましく、LPS濃度は0.1〜10ng/mLが好ましい。
本発明は、またヒト末梢血単核球を上記の方法によりノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することにより得られるランゲルハンス細胞をも包含する。該ランゲルハンス細胞等は、上記のような表面抗原を発現している。
2.ランゲルハンス細胞の利用
本発明は上記の方法により得られたランゲルハンス細胞を含む医薬組成物をも包含する。本発明のランゲルハンス細胞は、細胞療法に用いることができ、本発明のランゲルハンス細胞を含む医薬組成物は細胞療法に用いるための医薬組成物として利用することができる。
該医薬組成物は、癌やAIDS等の感染症の治療、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患等の治療に用いることができる。特に成熟したランゲルハンス細胞は、免疫増強作用を有しているため癌やAIDS等の感染症の治療に適しており、未成熟のランゲルハンス細胞は、反対に免疫抑制作用を有しているため、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患等の治療に適している。また、本発明のランゲルハンス細胞、特に未成熟のランゲルハンス細胞は、慢性関節リウマチ、多発性硬化症、I型糖尿病、ぶどう膜炎、自己免疫性心筋炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス、自己免疫性溶血性貧血、全身性強皮症、潰瘍性大腸炎、クローン病、シェーグレン症候群、自己免疫性肝疾患(例えば、原発性胆汁性肝硬変)、乾癬、突発性血小板減少性紫斑病、Goodpasture症候群(例えば、糸球体腎炎)、悪性貧血、橋本病、尋常性白斑、ベーチェット病、自己免疫性胃炎、天疱瘡、ギラン・バレー症候群、HTLV−1関連脊髄症のような自己免疫疾患、あるいは接触過敏症、アレルギー性鼻炎、食物アレルギー、喘息のようなアレルギー性疾患等の治療に用いることもできる。
癌や感染症の治療に用いる場合、本発明のランゲルハンス細胞を成熟させた後、そのまま用いるか、あるいは患者の末梢血を共培養することにより得られるCTL(cytotoxic T lymphocyte)を利用することもできる。
本発明のランゲルハンス細胞に対象疾患によって適宜選択された抗原を付与するが、付与は数日間の期間、タンパク質抗原の場合、1〜1000μg/ml、好ましくは10〜100μg/mlの濃度でin vitroで付与すればよい。
本発明のランゲルハンス細胞を含む医薬組成物を治療に用いる場合、0.5×10〜10を、静脈内あるいは皮下、皮内で投与すればよい。また、患者への投与に関しては随時におこなえる。特に臓器・組織移植に伴う移植片拒絶、移植片対宿主病については、発症が予想される処置以前での投与が好ましい。ランゲルハンス細胞の投与時期、投与量は、疾患の種類、疾患の重篤度、患者の状態等に応じて適宜決定することができる。
さらに、本発明は、ヒトから採取した末梢血単核球を、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、癌、感染症、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患治療用ランゲルハンス細胞の調製方法を含む。この方法により得られた治療用ランゲルハンス細胞により、上記のように各種疾患の治療を行うことができる。細胞は、治療目的によって患者本人の細胞あるいは患者本人以外の細胞を適宜選択して用いる。
従って、本発明はさらに、上記のランゲルハンス細胞を用いて癌またはAIDS等の感染症、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患等を治療する方法を提供する。
本発明はさらに、ランゲルハンス細胞により癌またはAIDS等の感染症、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患等を治療するための医薬品の製造における、上記のヒト抗原提示細胞の使用を提供する。
以下に、本明細書における参考文献を示す。





さらに、本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
実施例1 ランゲルハンス細胞の調製
本実施例において、用いた培養液と試薬は以下の通りである。
培養液は2mMのL−グルタミン、50U/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシンを含むRPMI 1640(日水製薬、東京)を使用し、牛胎児血清(FCS)(Hyclone,Logan,UT,USA)を10%で添加した。GM−CSFはキリンビール(東京)、IL−4は小野薬品(大阪)から供与を受けた。TGF−βとIL−15はR&DSystems(Minneapolis,MN,USA)から購入した。GM−CSFは10ng/ml、IL−4は10ng/ml、TGF−βは10ng/ml、IL−15は10ng/mlで使用した。
Delta−1の固相化は、以下のようにして行った。
Delta−1はこれまでに報告してきた方法で培養用プレートに固相化した(Ohishi Kら、Blood 98:1402−1407,2001;Ohishi Kら、Blood 95:2847−2854,2000;Ohishi Kら、J Clin Invest 110:1165−1174,2002)。まず、マウス抗myc抗体F(ab’)断片をPBSにて5〜10μg/mlの濃度に調整し、24ウェル組織培養用プレート(Nunc,Roskilde,Denmark)に1〜2時間37℃で添加し固相化した。PBSで洗浄した後、非特異的結合をブロックするために2〜10%のFCSを含むRPMI 1640を培養用プレートへ30分37℃で添加し、その後、ヒトDelta−1の細胞外ドメインと6個のmyc蛋白からなるDelta−1コンストラクトを加えて固相化した。Delta−1コンストラクトは、遺伝子導入したNSO細胞株の上清から精製した。Delta−1コンストラクトのコントロールとして、遺伝子改変してないNSO細胞株の馴化培地(conditioned medium)を用いた(Ohishi K.ら、Blood 98:1402−1407,2001;Ohishi K.ら、Blood 95:2847−2854,2000)。
使用した抗体および入手先は以下の通りである。
使用したモノクローナル抗体:FITC−抗CD1a抗体,PE−抗HLA−ABC抗体(DAKO,Glostrup,Denmark);PE−抗CD14抗体,PE−抗CD80抗体,PE−抗HLA−DR抗体(Becton Dickinson Immunocytometry,San Jose,CA,USA)、PE−抗Langerin(CD207)抗体,抗E−Cadherin抗体(Immunotech,Marseille,France)、PE−抗CD86抗体,(Becton Dickinson Pharmingen,San Diego,CA,USA)、FITC−抗CCR6抗体(R&D Systems)。HTC−mouse IgG2a(Becton Dickinson)、FITC−rat anti−mouse IgG1,PE−mouse IgG1(Becton Dickinson Pharmingen)、mouse IgG2b(Coulter Miami,FL,USA)。
本実施例において用いた細胞の細胞分離は、以下のようにして行った。
同意を得た後、健常日本人より末梢血をヘパリン加採取した。末梢血単核球(PBMCs)はFicoll−Hypaque(Nycomed Phama AS,Oslo,Norway)を用いての比重遠沈法にて分離した。CD14陽性細胞はPBMCsよりMACS Microbeads(Miltenyi Biotec,Auburn,CA,USA)にて分離した(Mitani Hら、Br J Haematol 109:288−295,2000;Araki Hら、Br J Haematol 114:681−689,2001)。この方法で得られたCD14陽性細胞の純度は95%以上である。非特異的エステラーゼ染色(武藤化学、東京)を施行すると、CD14陽性細胞は非特異的エステラーゼ陽性であった。
得られたCD14陽性細胞を以下の方法により培養した。
CD14陽性細胞は5×10個/mlの濃度で、10%FCSを添加したRPMI 1640を用いて24ウェル組織培養用プレートに培養した。培養液は3〜4日毎に交換した。このような条件で6日間培養後、位相差顕微鏡を用いて形態学的観察を行い、生細胞数はtrypan blue dye exclusion法で算定した。
細胞の評価のための細胞形質の解析は、以下の方法により行った。
細胞表面形質の検討は蛍光標識あるいは非蛍光標識モノクローナル抗体での単一あるいは二重染色で行い、分析はFACScan(Becton Dickinson Immunocytometry)を用いて施行した。データ解析にはCellQuestソフト(Becton Dickinson Immunocytometry)を使用した。染色方法は、細胞を2%AB型血清にて非特異的結合をブロックした後、各種抗体を4℃で30分間添加して行った。Propiumiodide陽性細胞を死細胞として除去した。なお、E−カドヘリンとランゲリンの二重染色は、まず、抗E−カドヘリン抗体と反応させ、洗浄後FITC−ラット抗マウスIgG1抗体を添加し、十分量のマウスIgG1でブロックした後、PE−抗ランゲリン抗体で染色した。
(1) GM−CSF + IL−4 + TGF−β存在化におけるCD14陽性細胞に対するDelta−1の作用
Delta−1のヒト末梢血単球からLCへの分化に及ぼす作用を検討するために、PBMCsより分離したCD14陽性細胞をあらかじめDelta−1が固相化された。培養用プレートに、単球からLCへの分化を支持すると報告されているGM−CSF + IL−4 + TGF−β(Geissmann Fら、J Exp Med 187:961−966,1998)、GM−CSF + IL−15(Mohamadzadeh Mら、J Exp Med 194:1013−1020,2001)、あるいはGM−CSF + TGF−β(Guironnet Gら、J Leukoc Biol 71:845−853,2002)の存在下に6日間培養し、細胞形態および表現形質を検討した。Delta−1のコントロールとしては、方法に示した馴化培地を用いた。CD14陽性細胞を24ウェルプレートに5×10個/mlの濃度でDelta−1存在下あるいは非存在下でGM−CSF + IL−4 + TGF−βを添加して培養した。培養6日後に、細胞を回収し、図に示した抗原分子に対するモノクローナル抗体で染色した。
図1に、Delta−1存在下あるいは非存在下でのGM−CSF + IL−4 + TGF−βによりCD14陽性細胞から誘導された細胞の形質の解析の結果を示す。
GM−CSF + IL−4 + TGF−βで誘導された細胞は、形態学的にはDC様で、CD1a陽性CD14陰性でE−カドヘリンを発現していたが、ランゲリンを発現していなかった。また、Delta−1を添加しても形態学的には変化はみられなかったが、E−カドヘリンの発現は若干増強された(図1)。図1中、白抜きがコントロール抗体での解析結果を示しており、黒塗りが用いたモノクローナル抗体での解析結果を示している。結果は数回の実験の内の代表的な1つからのものである。
(2) GM−CSF + IL−15存在化におけるCD14陽性細胞に対するDelta−1の作用
次に、Delta−1のGM−CSF + IL−15存在下におけるCD14陽性細胞に対する作用を検討した。CD14陽性細胞を24ウェルプレートに5×10個/mlの濃度でDelta−1存在下あるいは非存在下でGM−CSF + IL−15を添加して培養した。培養6日後に、細胞を回収し、図に示した抗原分子に対するモノクローナル抗体で染色した。図2に結果を示す。白抜きがコントロール抗体での解析結果を示しており、黒塗りが用いたモノクローナル抗体での解析結果を示している。結果は数回の実験の内の代表的な1つからのものである。GM−CSF + IL−15で誘導された細胞は、形態学的はマクロファージ様であり、表面形質ではCD1a弱陽性CD14弱陽性で、E−カドヘリンとランゲリンはともに陰性であった。Delta−1の添加により、CD1aの発現は誘導されランゲリンの発現も軽度に誘導されたが、E−カドヘリンの発現は誘導されなかった。
(3) GM−CSF + TGF−β存在化におけるCD14陽性細胞に対するDelta−1の作用
GM−CSF + TGF−β存在化におけるCD14陽性細胞に対するDelta−1の作用についても検討した。CD14陽性細胞を24ウェルプレートに5×10個/mlの濃度でDelta−1存在下あるいは非存在下でGM−CSF + TGF−βを添加して培養した。培養6日後に、細胞を回収し、図に示した抗原分子に対するモノクローナル抗体で染色した。図3に結果を示す。白抜きがコントロール抗体での解析結果を示しており、黒塗りが用いたモノクローナル抗体での解析結果を示している。結果は数回の実験の内の代表的な1つからのものである。GM−CSF + TGF−βで誘導された細胞はマクロファージ様の形態を示し、CD1a陰性CD14陽性であり、E−カドヘリンとランゲリンはともに陰性であった。興味深いことに、Delta−1の添加によりCD14が発現されたまま、CD1aの発現が強く誘導され、E−カドヘリンとランゲリンともに陽性となった。
(4) Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導されたLC様細胞のCD1a陽性細胞におけるE−カドヘリンとランゲリンの発現およびランゲリン陽性細胞におけるE−カドヘリンとCCR6の発現
Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導された細胞がLCであることを検討するために、CD1a陽性細胞におけるE−カドヘリンとランゲリンの発現およびランゲリン陽性細胞におけるE−カドヘリンとCCR6の発現を検討した。CD14陽性細胞を24ウェルプレートに5×10個/mlの濃度でDelta−1 + GM−CSF + TGF−βを添加して培養した。培養6日後に、細胞を回収し、抗CD1a抗体と抗ランゲリン抗体あるいは抗E−カドヘリン抗体、抗ランゲリン抗体と抗E−カドヘリン抗体あるいは抗CCR6抗体で染色し、解析結果をドットプロットで示した。図4に結果を示す。結果は数回の実験の内の代表的な1つからのものである。CD1a陽性細胞の81%の細胞がランゲリン陽性で、60%の細胞がE−カドヘリン陽性であった。また、ランゲリン陽性細胞の78%の細胞がE−カドヘリン陽性で、58%の細胞がCCR6陽性であった。5×10個のCD14陽性細胞から2.1±0.7x10(n=5)の細胞が回収された。
(5) Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導されたLC様細胞の抗原提示機能関連分子の発現
Delta−1 + GM−CSF + TGF−βで誘導されたLC様細胞の抗原提示機能関連分子の発現をランゲリン陽性細胞分画で検討した。CD14陽性細胞を24ウェルプレートに5×10個/mlの濃度でDelta−1 + GM−CSF + TGF−βを添加して培養した。培養6日後に、細胞を回収し、抗ランゲリン抗体と図に示した抗原分子に対するモノクローナル抗体で染色し、ランゲリン陽性細胞におけるそれぞれの抗原分子の発現を解析した。結果を図5に示す。白抜きがコントロール抗体での解析結果を示しており、黒塗りが用いたモノクローナル抗体での解析結果を示している。結果は数回の実験の内の代表的な1つからのものである。ランゲリン陽性分画の細胞は主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)のクラスI、クラスII分子であるHLA−ABC、HLA−DRや共刺激分子(co−stimulatory molecules)であるCD80、CD86を発現していた。
上記(1)から(5)の検討の結果より以下の事柄が判明した。
DCは皮膚においては表皮と真皮に存在しており、それぞれLCとdermal DCと呼ばれている(Steinman RMら、Annu Rev Immunol 9:271−296,1991;Banchereau Jら、Annu Rev Immunol 18:767−811,2000)。古くからDCは単球/マクロファージ系の細胞であると理解されていたが、マウスの骨髄細胞の培養系においてGM−CSF存在下に形成される穎粒球およびマクロファージからなるコロニーの内にDCの存在が示されたことで、DCが単球/マクロファージ系に属する細胞であることが確認された(Inaba Kら、J Exp Med 176:1693−1702,1992)。その後、in vitroの培養系において、ヒトの臍帯血あるいは末梢血などのCD34陽性細胞からのLCの誘導や末梢血CD14陽性細胞からのdermal DCの誘導が可能となったことにより、ヒトの骨髄系DCに関する細胞生物学は飛躍的に進歩し、それらに対する理解も深められた(Caux Cら、Nature 360:258−261,1992;Caux Cら、J Exp Med 184:695−706,1996;Strunk Dら、Blood 87:1292−1302,1996;Geissmann Fら、J Exp Med 187:961−966,1998;Mohamadzadeh Mら、J Exp Med 194:1013−1020,2001;Guironnet Gら,J Leukoc Biol 71:845−853,2002)。培養系の経時的な観察から、LCは造血前駆細胞からCD1a陽性CD14陰性細胞を経て、分化した細胞と認識され、CD14陽性の単球/マクロファージとは系列を異にする細胞群と考えられてきた(Caux Cら、J Exp Med 184:695−706,1996)。しかしながら、いくつかのサイトカインの組み合わせにより、末梢血CD14陽性単球からLC様細胞が誘導できるとの報告がなされ、もう1つのLCへの分化経路の可能性が提示された(Geissmann Fら、J Exp Med 187:961−966,1998;Mohamadzadeh Mら、J Exp Med 194:1013−1020,2001;Guironnet GらDezutter−Dambuyant Cら、J Leukoc Biol 71:845−853,2002)。
LCはケラチノサイトとともに表皮に存在していること、さらにケラチノサイトはCD14陽性単球やdermal DCの分化に影響を与えているDelta−1を発現していることから(Ohishi Kら、Blood 98:1402−1407,2001;Ohishi K.ら、Blood 95:2847−2854,2000;Lowell Sら、Curr Biol 10:491−500,2000)、我々はこれまで報告されているCD14陽性単球からLCを誘導する培養系におけるDelta−1の作用について検討してみた。GM−CSF + IL−4+TGF−βあるいはGM−CSF + IL−4 + TGF−B + Delta−1の存在下にCD14陽性単球を培養すると、得られた細胞にはE−カドヘリンは発現されていたもののランゲリンの発現は全く見られなかった。C−typeのレクチン(lectin)であるしランゲリンはBirbeck穎粒と密接に関連した分子であり、LCに特異性が高いことから(Valladeau Jら、Immunity 12:71−81,2000)、この分子が発現されていない細胞はLCの特性を十分に保持しているとは言い難い。GM−CSF + IL−15で得られた細胞はE−カドヘリンとランゲリンが陰性であり、それにDelta−1を加えた培養で得られた細胞はランゲリンを軽度に発現していたが、E−カドヘリンは陰性であり、いずれの細胞もLCの特性を持ちあわせていないと考えられた。GM−CSF + TGF−βを添加した培養で得られた細胞もランゲリンだけでなくE−カドヘリンも陰性であり、同様のことが言えよう。現時点で、これまでの報告(Geissmann Fら、J Exp Med 187:961−966,1998;Mohamadzadeh Mら、J Exp Med 194:1013−1020,2001;Guironnet Gら、J Leukoc Biol 71:845−853,2002)と我々の実験結果の違いは説明できず、今後の検討が必要であると考えている。しかしながら、驚いたことにGM−CSF + TGF−βにDelta−1を加えた培養では、50%以上の細胞にE−カドヘリンとランゲリンの発現が見られ、ランゲリン陽性細胞のかなりの部分がE−カドヘリンも発現していた。さらには、ランゲリン陽性細胞の約半分の細胞には、未熟なLCに発現しそれら真皮への遊走に関連すると言われているケモカインmacrophage inhibitory protein−3α(MIP−3α)の受容体であるCCR6(Charbonnier ASら、J Exp Med 190:1755−1768,1999)も発現されていた。これらのことから、CD14陽性単球からGM−CSF + TGF−β + Delta−1で誘導された細胞はLCであることが示唆された。また、これらの細胞がヒトMHCのクラスI、クラスII分子あるHLA−ABC,HLA−DRや共刺激分子であるCD80,CD86を発現していたことは、これらの細胞には抗原提示能があることが示唆される。
ケラチノサイトはDelta−1を発現しているだけでなく(Lowell Sら、Curr Biol 10:491−500,2000)、GM−CSFおよびTGF−βも分泌している(Luger TAら、J Dermatol Sci 13:5−10,1996)。すなわち、我々がin vitroでCD14陽性単球からLCを誘導した培養系はin vivoでの皮膚環境に近いものと思われ、生体内でも末梢血のCD14陽性単球が真皮を通して表皮に入り、ケラチノサイトが分泌あるいは発現するGM−CSF、TGF−β、Delta−1に触れ、LCに分化すると推測できる。真皮に存在する、付着性、表現型、macrophage colony−stimulating factorに対する反応性などが単球/マクロファージ系細胞とは異なったCD14陽性のLC前駆細胞についての報告があるが(Larregina ATら、Nat Immunol 2:1151−1158,2001)、我々がCD14陽性細胞から誘導したLC様細胞もCD14陽性であり、これらの2つの細胞群の関連性が注目される。
実施例2 調製したランゲルハンス細胞の特性分析
実施例2において用いた試薬および抗体は以下の通りであった。
CD40リガンドはBender MedSystems(Vienna,Austria)から購入した。TNF−αは大日本製薬(吹田)から、IL−2は武田薬品工業(大阪)より供与された。CD40リガンドは、1μg/ml、TNF−αは20ng/ml、IL−2は20IU/mlで使用した。使用したモノクローナル抗体は、PE−抗CD40抗体、PE−抗CD83抗体(Immunotech,Marseille,France)、PE−抗CD54抗体(Becton Dickinson Immunocytometry,San Jose,CA,USA)であった。
末梢血からの、細胞分離は、以下の方法で行った。同意を得た後、健常日本人より末梢血をヘパリン加採取した。PBMCsはFicoll−Hypaque(Nycomed Pharma AS,Oslo,Norway)を用いての比重遠沈法にて分離した。CD8陽性細胞とCD4陽性細胞はPBMCsよりMACS Microbeads(Miltenyi Biotec,Auburn,CA,USA)にて分離した。この方法で得られたCD8陽性細胞とCD4陽性細胞の純度は99%以上である。
Real−time RT−PCR(Real−time reversed transcriptase−polymerase chain reaction)は以前報告されている方法に準じて施行した(Ohishi K,J Clin Invest 110:1165−1174,2002)。分離されたばかりのCD14陽性細胞をDelta−1、GM−CSF、TGF−βの存在下で24時間培養し、これらの細胞からtotal RNAを抽出し、cDNAを合成した。用いたprimersは以下のものである。HES−1 forward primer,5’TGG AAA TGA CAG TGA AGC ACC 3’(配列番号1);HES−1 reverse primer,5’GTT CAT GCA CTC GCT GAA GC 3’(配列番号2);HES−1 probe,5’(FAM)−CGC AGA TGA CGG CTG CGC TG−(TAMRA)3’(配列番号3);the endogenous gene,GAPDH,forward primer,5’GAA GGT GAA GGT CGG AGT 3’(配列番号4);GAPDH reverse primer,5’GAA GAT GGT GAT GGG ATT TC 3’(配列番号5);GAPDH probe,5’(FAM)−TTG CCA TCA ATG ACC CCT TCA TTG AC−(TAMRA)3’(配列番号6)。増幅はABI Prism 7,700 Sequence Detector(Applied Biosystems,Foster City,CA,USA)を用いて行った。
CD14陽性細胞をDelta−1、GM−CSF、TGF−βの存在下で6日間培養した後、2.5%グルタールアルデヒドで固定し、エタノールで脱水させた後、エポンに包埋した。切片をクエン酸鉛と酢酸ウラニルで染色後、細胞をJEM−1200EX電子顕微鏡(JEOL、東京)で観察した。
誘導されたLCの貪食能は以下の方法で測定した。Delta−1、GM−CSF、TGF−βの存在下で4日間、さらにCD40リガンドとTNF−αを加えて2日間培養して得られた2x10個のLCを10%FCS RPMI 1640に浮遊し、1mg/mlのFITC−デキストラン(分子量40,000;Sigma,St.Louis,MO,USA)と氷上あるいは37℃で1時間反応させた。FITC−デキストランの取り込み反応は冷却した1%FCS PBSで中断させ、その後、細胞を1%FCS PBSで4回洗浄した。FITC−デキストランの取り込みはFACS Caliburで測定した。
ELISPOT(enzymed−linked immunosorbent spot)法は以前報告されている方法を少し変更して施行した(Ikuta Y et al.,Blood 99:3717−3724,2002)。成熟LCはCD14陽性細胞をDelta−1、GM−CSF、TGF−βの存在下に6日間培養し、後半の2日間はCD40リガンドとTNF−αを添加して調製した。96ウェルのnitrocellulose MAHA S4510 Milliporeプレート(Millipore,Bedford,MA,USA)に10μg/mlの抗インターフェロン−γ抗体(1−D1K;Mabtech,Stockholm,Sweden)を入れて、4℃にて一晩放置した。このプレートをPBSで洗浄後、非特異反応をブロックするために、10%AB型血清にて2時間37℃で処理した。HLA−AO201陽性の健常人から得られた 2x10個のCD8陽性細胞に改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)(ELAGIGILTV 配列番号7)をパルスし、放射線照射(46Gy)をされた4x10個の成熟LCとともに24ウェルプレートに、10%AB血清添加RPMI 1640で培養した。培養4日目と7日目にはIL−2(20IU/ml)を添加した。これらのCD8陽性細胞を培養10日目に回収し、効果細胞として用いた。改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)をパルスしたあるいは何もパルスしていないT2細胞を標的細胞とした。1x10個の効果細胞と5x10個のtarget細胞をELISPOTプレートに共培養した。18時間後に、プレートを0.05%Tweenを含むPBSで洗浄後、1μg/mlのビオチン化抗インターフェロン−γ抗体(7−B6−1;Mabtech)と2.5時間37℃で反応させ、洗浄後、さらに1μg/mlのストレプトアビジンアルカリフォスファターゼ(Mabtech)と1.5時間反応させた。洗浄後、プレートをアルカリフォスファターゼ結合基質キット(BioRad,Hercules,CA,USA)で染色し、顕微鏡下でスポット数を算定した。
成熟LCによるCD4陽性細胞の刺激は、以下の方法で行った。2x10個の成熟LCと2x10個の自己CD4陽性細胞を抗CD3抗体(UCHT1,0.5mg/ml;BD PharMingen,SanDiego,CA,USA)の存在下に24ウェルプレートに培養し、培養4日目にIL−2(20IU/ml)を添加し、培養7日目にCD4陽性細胞数を算定した。成熟LCの代わりに、CD14陽性単球からGM−CSF、IL−4とCD40リガンド、TNF−αで誘導された成熟DCを用いて、同様のことを施行した。
実施例2の検討により、以下の結果が得られた。
Delta−1によるHES−1遺伝子の発現
HES−1遺伝子はノッチシグナルの標的遺伝子として知られている(Schroeter EH et al.,Nature 393:382−386,1998、Struhl G et al.,Cell 93:649−660,1998)。そこで、Delta−1がLCにノッチシグナルを伝達しているかどうかを確認するために、Delta−1のHES−1遺伝子発現に対する影響について検討した(図6)。培養系にDelta−1が存在したときは、存在しないときに比べて、HES−1の発現は約8倍に増加していた。Delta−1はCD14陽性細胞に作用していることが確認された。
図6は、CD14陽性細胞におけるDelta−1によるHES−1遺伝子の発現亢進を示す。Delta−1の存在下と非存在下のHES−1遺伝子の発現を検討した。結果は、HES−1遺伝子発現のGAPDH遺伝子発現に対する比で表し、新鮮CD14陽性細胞のHES−1遺伝子の発現レベルを1.0として発現レベルを示した。2回の実験のうちの代表例を示す。
電子顕微鏡検査
細胞は細長い多数の細胞突起を有し、細胞質内にはBirbeck顆粒も含んでいた(図7)。
図7は、培養細胞の電子顕微鏡像を示し、左のパネルの元の倍率は8,000倍でバーは2μmであり、右のパネルの元の倍率は30,000倍でバーは0.5μmである。
LCの貪食能
CD14陽性細胞からDelta−1、GM−CSF、TGF−βで調製されたLCの貪食能をFITC−デキストランの取り込みで検討した(図8)。LCはFITC−デキストランを取り込んだ。生成されたLCには貪食能があることが明らかになった。
図8に、LCのFITC−デキストランの取り込みの検討の結果を示す。Delta−1、GM−CSF、TGF−βで生成されたCD14陽性細胞由来のLCをFITC−デキストランと37℃あるいは氷上で1時間反応させた。3回洗浄後、FACS Caliburで解析した。同様の結果が3回の実験で得られた。
Delta−1、GM−CSF、TGF−βで生成されたLCの成熟
Delta−1、GM−CSF、TGF−βで生成されたLCがCD40リガンドとTNF−αに反応して、成熟するかどうかを検討した(図9)。CD14陽性細胞をDelta−1、GM−CSF、TGF−β存在下で6日間培養したが、後半の2日間にはCD40リガンドとTNF−αを添加した。得られた培養細胞のHLA−ABC、HLA−DR、CD80、CD86、CD40、CD54の発現は著しく亢進し、CD83の発現も認められるようになった。Delta−1、GM−CSF、TGF−βで生成されたLCは成熟できることが示された。
図9に、CD40リガンドとTNF−αにより成熟したLCのHLA−ABC、HLA−DR、CD80、CD86、CD40、CD54、CD83の発現を示す。CD14陽性細胞をDelta−1、GM−CSF、TGF−βで培養し、培養4日目にCD40リガンドとTNF−αを追加添加し、6日目に細胞を回収した。HLA−ABC、HLA−DR、CD80、CD86、CD40、CD54、CD83の発現をFACS Caliburで解析した。太い線が図に示した分子の発現を示しており、細い線がisotype controlを示している。同様の結果が5回の実験で得られている。
CD14陽性細胞由来成熟LCによるCD8陽性細胞の刺激
CD14陽性細胞から生成された成熟LCの機能を検討するために、HLA−AO201陽性の健常人より成熟LCを調整し、それらにHLA−AO201に特異的に結合する改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)をパルスした。ペプチドをパルスした成熟LCと共培養した自己CD8陽性T細胞を効果細胞として、同じ改変ペプチドをパルスしたT2細胞を標的細胞して反応させ、IFN−γを産生するCD8陽性T細胞数をELISPOT法にて測定した。ペプチドをパルスした成熟LCはIFN−γを産生する自己CD8陽性T細胞を誘導した(図10)。
図10に示すように、CD14陽性細胞から生成された成熟LCはペプチド特異的CD8陽性細胞を活性化する。HLA−AO201陽性の健常人由来のCD14陽性細胞より、Delta−1、GM−CSF、TGF−β、CD40リガンド、TNF−αを用いて成熟LCを調製した。2x10個の自己CD8陽性T細胞を4x10個の改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)をパルスした成熟LCで10日間刺激した。その後、CD8陽性細胞を回収し、1x10個のCD8陽性細胞と改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)(ELAGIGILTV)をパルスした5x10個のT2細胞をELISPOT plateに共培養した。18時間後、インターフェロン−γを産生する自己CD8陽性T細胞数を算定した。それぞれのbarは2つの測定値の平均を示している。2回の実験例を示す。
CD14陽性細胞由来成熟LCによるCD4陽性細胞の刺激
CD14陽性細胞から生成された成熟LCの自己CD4陽性細胞の刺激能を検討した。成熟LCあるいは成熟DCとCD4陽性細胞を抗CD3抗体存在下で培養し、刺激を受けたCD4陽性細胞をIL−2で増幅した。培養7日目にCD4陽性細胞数を算定した。成熟LCで刺激されたCD4陽性細胞数の方が、成熟DCで刺激されたCD4陽性細胞数より有意に高かった(図11)。
図11は、成熟LCと成熟DCによる自己CD4陽性細胞の刺激の結果を示す。健常人由来のCD14陽性細胞より、Delta−1、GM−CSF、TGF−β、CD40リガンド、TNF−αを用いて成熟LCを、GM−CSF、IL−4、CD40リガンド、TNF−αを用いて成熟DCを生成した。2x10個の自己CD4陽性T細胞を2x10個の成熟LCあるいは成熟DCで刺激した。培養4日目にIL−2を添加した。培養7日目に、CD4陽性T細胞数を算定した。それぞれのbarは4つの測定値の平均を示している。2回の実験のうちの代表例を示す。
実施例2の結果が示すように、Delta−1がヒト末梢血CD14陽性単球に作用していることをノッチシグナルの標的遺伝子であるHES−1遺伝子の発現増強で確認した。生成されたLCを電子顕微鏡で観察すると、LCに特異的なBirbeck顆粒が見られた。また、これらのLCには貪食能が認められた。LCをCD40リガンドとTNF−αに反応させると、主要組織適合抗原(major histocompatibility complex:MHC)のクラスI、クラスII分子であるHLA−ABC、HLA−DRやco−stimulatory分子であるCD80、CD86および接着分子であるCD40、CD54の発現が著しく亢進され、CD83の発現が認められるようになり、生成されたLCは成熟能を有していることが示された。癌精巣(Cancer−testis)抗原の1つであるMelan−A分子由来でHLA−AO201に対する結合モチーフを持つ改変Melan−A26−35ペプチド(A27L)(ELAGIGILTV)を用いて、成熟させたLCのMelan−A分子に特異的な細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導能をenzymed−linked immunosorbent spot(ELISPOT)法にて検討したところ、成熟LCはMelan−A分子に対するCD8陽性CTLを誘導した。また、LCの自己CD4陽性T細胞に対する刺激能は、ヒト末梢血CD14陽性単球からGM−CSF、インターロイキン−4(IL−4)とCD40リガンド、TNF−αで誘導された成熟樹状細胞(DC)と比べ高かった。
本研究は、ヒトのLCの新たな分化経路を確認した点で生物学的に重要であり、さらにはこれまで困難だったex vivoおけるヒト末梢血CD14陽性単球からのLCの効率的な誘導方法を確立した点でその意義は大きい。従来のDCを用いたワクチン細胞療法では、ヒト末梢血CD14陽性単球からGM−CSF、IL−4、TNF−αなどによって誘導されるいわゆるdermal型DCが用いられてきているが、本研究で得られた知見を基盤にしたLCを用いた新たな免疫細胞療法の開発は、将来のワクチン細胞療法に飛躍的な発展をもたらす可能性がある。
【産業上の利用可能性】
ヒト末梢血単核球をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することにより、従来達成できていなかった、ランゲルハンス細胞を調製することができる。該ランゲルハンス細胞は未成熟細胞または成熟細胞の状態で得ることができ、ワクチン細胞療法として、癌、感染症、細胞、臓器または組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療に用いることができる。
本発明の方法で得られたランゲルハンス細胞をランゲルハンス細胞の細胞生物学的研究に用いることができる。また、本発明の方法で調製したランゲルハンス細胞をワクチン細胞療法に用いることができ、すなわち、癌、感染症、細胞、臓器または組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療に利用することができる。
本明細書に引用されたすべての刊行物は、その内容の全体を本明細書に取り込むものとする。また、添付の請求の範囲に記載される技術思想および発明の範囲を逸脱しない範囲内で本発明の種々の変形および変更が可能であることは当業者には容易に理解されるであろう。本発明はこのような変形および変更をも包含することを意図している。
【配列表】




【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト末梢血単核球をノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項2】
ヒト末梢血単核球のノッチにノッチリガンドを用いてノッチシグナルを伝達させ、かつ該単核球をGM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項3】
ノッチリガンドを培養用容器に固相化しておくことを特徴とする、請求項1または2記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項4】
ノッチリガンドが他のペプチドとの融合ペプチドを構成し、培養用容器に該他のペプチドに対する抗体を固相化し、ノッチリガンドが該抗体と前記他のペプチドの結合を介して培養用容器に固相されている、請求項3記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項5】
他のペプチドがmycである請求項4記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項6】
ノッチリガンドが、Delta−1、Delta−2、Delta−3、Delta−4、Jagged−1およびJagged−2からなる群から選択される請求項1から5のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項7】
ノッチリガンドがDelta−1である請求項6記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項8】
ヒト末梢血単核球が単離されたCD14陽性細胞である、請求項1または2に記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項9】
ランゲルハンス細胞表面に、E−カドヘリン、ランゲリンおよびCCR6が発現されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項10】
さらに、ランゲルハンス細胞表面に、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が発現されていることを特徴とする請求項9記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の調製方法で調製したランゲルハンス細胞にCD40リガンド、TNF−α及びLPSからなる群から選択される一種以上を添加して、さらに培養することを含む、ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項12】
ランゲルハンス細胞が未成熟なものである、請求項1から10のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項13】
ランゲルハンス細胞が成熟なものである、請求項1から11のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の方法で調製されたランゲルハンス細胞。
【請求項15】
E−カドヘリン、ランゲリンおよびCCR6が細胞表面に発現されている請求項14記載のランゲルハンス細胞。
【請求項16】
さらに、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が細胞表面に発現されている請求項15記載のランゲルハンス細胞。
【請求項17】
ヒト末梢血単核球由来である、E−カドヘリン、ランゲリン、CCR6、MHCクラスI分子であるHLA−ABC、MHCクラスII分子であるHLA−DR、CD80およびCD86が表面に発現されているランゲルハンス細胞。
【請求項18】
未成熟細胞である、請求項15から17のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞。
【請求項19】
成熟細胞である、請求項15から17のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞。
【請求項20】
請求項14から19のいずれか1項に記載のランゲルハンス細胞を含む医薬組成物。
【請求項21】
癌または感染症治療薬である請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
ランゲルハンス細胞が成熟細胞である、請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
細胞、臓器または組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療に用いられる、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項24】
ランゲルハンス細胞が未成熟細胞である、請求項23記載の医薬組成物。
【請求項25】
ヒトから採取した末梢血単核球を、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、癌または感染症治療用ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項26】
ヒトから採取した末梢血単核球を、ノッチリガンド、GM−CSFおよびTGF−βの存在下で培養することを含む、癌、感染症、細胞、臓器もしくは組織移植に伴う移植片拒絶反応の抑制、移植片対宿主病の治療、自己免疫疾患またはアレルギー性疾患の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項27】
ノッチリガンドが、Delta−1、Delta−2、Delta−3、Delta−4、Jagged−1およびJagged−2からなる群から選択される請求項25または26に記載の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法。
【請求項28】
ノッチリガンドがDelta−1である請求項27記載の治療用ランゲルハンス細胞の調製方法。

【国際公開番号】WO2005/007839
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511953(P2005−511953)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010783
【国際出願日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】