説明

ノルボルネンジオール誘導体の製造方法

【解決手段】本発明のノルボルネンジオール誘導体の製造方法は、特定のジシクロペンタジエン類(DCP)あるいはシクロペンタジエン類(CPD)と、特定のジオール化合物(BTD)とを、加熱下に相溶させ、ディールスアルダー反応により特定のノルボルネンジオール誘導体(NBDM)を製造する方法であり、ディールスアルダー反応によるNBDMの生成率を3
0〜40%の範囲内に制御し、このディールスアルダー反応の反応液から、減圧下に、DCP或いは CPDおよびBTDの少なくとも一部と、NBDMとを分離する操作を少なくとも1回行うと共に、蒸留分離されたDCP或いはCPDおよびBTDの混合物を、冷却・静置して相分離させ
、この相分離したDCP或いはCPDと、BTDとを上記ディールスアルダー反応の原料成分の一
部として再使用することを特徴としている。
【効果】本発明によれば、高純度のノルボルネンジオールを製造することができ、またその収率も高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シクロペンタジエン類あるいはジシクロペンタジエン類と、アルキレンジオール化合物とのディールスアルダー反応により、ノルボルネンジオール誘導体を製造する方法に関する。さらに詳しくは本発明は、有機溶媒を実質的に使用することなく、シクロペンタジエン類あるいはジシクロペンタジエン類と、アルキレンジオール化合物とのディールスアルダー反応により、非常に高い純度のノルボルネンジオール誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノルボルネン誘導体であるテトラシクロドデセンなどの環状オレフィンは、鎖状オレフィン類との付加重合により、あるいは、環状オレフィンの開環重合により種々の特性の樹脂を製造することができる有用性の高いモノマーである。このような環状オレフィンは、シクロペンタジエン類あるいはジシクロペンタジエン類と、二重結合を有する化合物とを用いて、ディールスアルダー反応により製造することができる。
【0003】
このようなディールスアルダー反応に際しては、シクロペンタジエン類どうしの副反応、逆ディールスアルダー反応などの種々の副反応が進行すると共にディールスアルダー反応自体が可逆的であるために、通常のディールスアルダー反応の反応条件に沿って目的物である環状オレフィンを製造したとしても、高い収率で環状オレフィンを得ることは必ずしも容易ではない。
【0004】
例えば、特開2005-263644号公報(特許文献1)では、目的物の収率を高くするために、反応容器にシクロペンタジエン類を分割して導入しており、反応系におけるシクロペンタジエンの量よりも極性基含有ジエノフィルを多量に存在させることによりシクロペンタジエン類どうしの付加重合を抑制して目的物である環状オレフィンの生成収率を向上させている。
【0005】
しかしながら、この方法においても、収率は35%以上とそれほど高くはならず、従って、この反応で得られる目的物を化合物原料などに使用する場合には、改めて精製工程を経て使用する必要がある。
【0006】
また、二重結合を有する化合物としてジオール化合物を用いる場合には、ジオール化合物の親水性が高いため、シクロペンタジエンまたはジシクロペンタジエンと相溶しにくいという問題がある。
【特許文献1】特開2005-263644号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、シクロペンタジエンあるいはジシクロペンタジエンあるいはこれらの誘導体と、不飽和二重結合を有するジオール化合物あるいはこの誘導体を用いて環状オレフィンジオールを製造するに際して、目的物である環状オレフィンジオールであるノルボルネンジオール誘導体を高純度でかつ効率よく連続的に製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のノルボルネンジオール誘導体の製造方法は、式(1)で表されるジシクロペンタジエン類(以下、「化合物(1)」ともいう)および/または式(2)で表されるシク
ロペンタジエン類(以下、「化合物(2)」ともいう)と式(3)で表されるジオール化合物(以下、「化合物(3)」ともいう)とを有する原料成分を、反応装置内で加熱下に相溶させ、反応させて式(4)で表されるノルボルネンジオール誘導体(以下、「特定ノルボルネンジオール誘導体」ともいう)を生成する工程、
該反応液から、減圧下に、特定ノルボルネンジオール誘導体と残存する原料成分とを分離する操作を少なくとも1回行う工程、および
該分離された原料成分の少なくとも一部を、上記反応装置内に再供給して原料成分の一部として再使用する工程を有することを特徴としている。
【0009】
【化5】

【0010】
上記式(1)において、nは、0〜12の何れかの数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。
【0011】
【化6】

【0012】
上記式(2)において、R41〜R46は、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。
【0013】
【化7】

【0014】
上記式(3)において、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。
【0015】
【化8】

【0016】
式(4)において、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表し、R20〜R27は、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、上記式(4)で表されるノルボルネンジオール誘導体を高い収率で製造することができる。しかも、原料として使用した成分は反応生成物から効率よく回収することができ、再び原料物質として使用するので、有効に製造原料を活用することができ、収率を高くすることができる。
【0018】
さらに本発明の方法では、得られるノルボルネンジオール誘導体を高い純度で得ることができる。従って、このノルボルネンジオール誘導体は、本願発明の製造方法に続く工程を経て、例えば光学的に優れた特性を有するポリマーを形成するための原料の形成に好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明のノルボルネンジオール誘導体の製造方法について、図面に沿って具体的に説明する。
図1は、特定ノルボルネンジオール誘導体を製造する工程の例を示す図である。
【0020】
図1に示すように、特定ノルボルネンジオール誘導体は、化合物(1)および/または化合物(2)を出発物質として使用する。
上記式(1)において、nは、0〜12の何れかの数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。すなわち、式(1)において、R
は、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基の何れかである。
【0021】
化合物(1)の具体的な例としては、ジシクロペンタジエン(DCP)、2−メチルジシ
クロペンタジエン、5−メチルジシクロペンタジエン、7−メチルジシクロペンタジエン、2−エチルジシクロペンタジエン、5−エチルジシクロペンタジエン、7−エチルジシクロペンタジエン、5,5−ジメチルジシクロペンタジエンを挙げることができる。これらは単独で或いは組み合わせて使用することができる。
【0022】
上記式(2)において、R41〜R46は、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。すなわち、R41〜R46は、具体的には、それぞれ独立に、水素原子、メチル基、エチル基の何れかである。
【0023】
化合物(2)の具体的な例としては、シクロペンタジエン(CPD)、5−メチルシクロ
ペンタジエン、5−エチルシクロペンタジエン、5,5−ジメチルシクロペンタジエンを挙げることができる。これらは単独で或いは組み合わせて使用することができる。
【0024】
本発明の製造方法において、出発物質としては、化合物(1)と化合物(2)との混合物を使用することもできるし、化合物(1)または化合物(2)を単独で使用することもできる。出発物質として化合物(1)を用いる場合、反応する際には、化合物(1)であるジシクロペンタジエン類は、一般に化合物(2)であるシクロペンタジエン構造に類似した構造になって反応すると考えられている。
【0025】
図1においては、タンク11には、化合物(2)が収容させており、タンク13には化合物(1)が収容されている。従って、化合物(1)と化合物(2)とを併用する場合、両者の配合比率は適宜選定することができる。
【0026】
本発明では、タンク11から配管12を通して化合物(2)が供給され、タンク13からは配管14を通して化合物(1)が、配管16に供給される。化合物(1)と化合物(2)とを併用する場合には、配管12と配管14に供給される流量調製装置(図示なし)でそれぞれのタンクから供給される成分の配合比率を調製することができる。
【0027】
図1には、タンク11とタンク13とが独立して設けてあるが、化合物(1)と化合物(2
)を予め所定の量で混合して使用する場合には、タンク11あるいはタンク13のいずれのタンクの設置を省略して、単一のタンクに両者の混合物を配合する充填することができる。また、化合物(1)または化合物(2)のいずれか一方を単独で使用する場合には、何れか一方のタンクがあればよいのは勿論である。
【0028】
上記タンク11あるいはタンク13から導出された原料成分は、配管16を通って、反応装置20に導入される。
化合物(1)および化合物(2)は、配管12,14,16を通過する際に液体であることが望ましく、従って、化合物(1)および化合物(2)は、必要により、これらの化合物の融点以上の温度に加熱して使用される。なお、化合物(1)の代表的な例であるジシクロペンタジエンの融点は、常圧で34℃である。
【0029】
化合物(1)あるいは化合物(2)と反応する原料成分である化合物(3)は、図1において付番15で表されるタンクから供給される。
本発明で使用する化合物(3)は、分子内に二重結合と2個の水酸基とを有する化合物
であり、上記式(3)で表すことができる。
【0030】
化合物(3)の例としては1,4-ブテンジオール(BTD)、2−ペンテン−1,5−ジオール、2−ヘキセン−1,6−ジオール、3−ヘキセン−1,6−ジオール、2−ヘプテン−1,7−ジオール、3−ヘプテン−1,7−ジオール、2−オクテン−1,8−ジオール、
3−オクテン−1,8−ジオール、4−オクテン−1,8−ジオールを挙げることができる。これらは単独で或いは組み合わせて使用することができる。特に本発明では1,4-ブテンジオールを用いることが好ましい。なお、化合物(3)は活性が高いので、老化防止剤などの安定剤を配合して使用することが望ましい。
【0031】
化合物(3)は、反応装置に液体状態で供給することが好ましく、必要により、これらの化合物の融点以上の温度に加熱して使用される。
化合物(3)は、タンク15から配管18により反応装置20に供給される。
【0032】
また、図1において、反応装置20には、後述する分離タンク50で分離された原料成分の供給配管52と53とからも、それぞれ化合物(3)(R-BTD)および化合物(1)あるいは
化合物(2)(R-CPD,R-DCP)が供給される。
【0033】
反応装置20に供給される原料成分の供給割合としては、化合物(3)(リサイクル品で
あるR-BTDを含む)1モルに対して、化合物(1)あるいは化合物(2)(リサイクル品
であるR-CPD,R-DCPを含む)がジシクロペンタジエン換算で通常0.1〜0.5モル、好
ましくは0.2〜0.3モルである。
【0034】
本発明の製造方法においては、原料成分を反応装置に連続的に供給して反応装置20内における原料成分の供給流量および滞留時間を調整して反応を制御することができる。原料成分の供給割合を各成分の供給流量で示せば、反応装置の大きさにもよるが、化合物(3)の供給流量を100kg/時間に設定した場合、化合物(1)あるいは化合物(
2)の供給流量は、通常は15〜75kg/時間、好ましくは30〜45kg/時間の範囲に設定される。即ち、化合物(3)の単位時間当たりの導入モル数1モルに対して、化合物(1)あるいは化合物(2)の単位時間当たりの導入モル数を通常は、ジシクロペンタジエン換算で0.1〜0.5モル、好ましくは0.2〜0.3モルの範囲内に制御する。このような供給流量で各成分を供給することにより、副反応を抑えて、より高い効率で目的とするノルボルネンジオール誘導体を製造することができる。
【0035】
なお、ここで各原料成分の供給流量は、タンク13,15などから導入される原料に限定さ
れず、分離タンク50から配管52によって反応装置20に供給される原料成分と、分離タンク50から配管53によって反応装置20に供給される原料成分も含むものである。
【0036】
これらの原料成分は、反応装置20においてディールスアルダー反応によりノルボルネンジオール誘導体を生成するが、化合物(1)あるいは化合物(2)と、化合物(3)とは、相溶性が低く、一般に常温では両者は相分離して均一相溶化物は形成されない。このような相溶化していない原料成分を用いたディールスアルダー反応では、均一に反応が進行せず、副反応の進行が優位になるため得られる反応物中における副反応物の含有率が高くなり、目的物を高選択率では得にくい。このため、本発明では原料成分を加熱下に混合することにより、両者を相溶させてディールスアルダー反応を行うことを特徴とする。
【0037】
ここで原料成分を通常は150〜200℃、好ましくは165〜180℃の範囲内の温度に加熱することにより、両者を相溶させることができる。このときの圧力は通常は0.05〜0.5MPa、好ましくは0.1〜0.4MPaである。従って、反応装置20は通常は加熱手段を備えた耐圧反応装置である。
【0038】
上記原料成分を用いたディールスアルダー反応は、特に触媒を使用せずに、原料成分の相溶化物を、加熱下に攪拌することにより進行する。従って、このときの反応収率は、反応時間(ディールスアルダー反応装置内における滞留時間)および反応温度によって制御することができる。本発明では、原料成分を再利用して、最終段階での収率を高くするために、反応収率を通常は30〜40%、好ましくは32〜38%程度に抑制する。このような収率を達成するために、反応装置20内における原料の滞留時間を通常は2〜8時間、好ましくは4〜5時間の範囲内に設定する。このように反応収率を上記の範囲内に抑えてディールスアルダー反応を行うことにより、副反応の進行が抑制され、最終的にこの反応系全体における反応収率を高くすることができる。
【0039】
反応装置20内の反応液は抜取配管22を通り、供給量を調整されて、未反応成分回収塔30に供給される。ここで移送される反応液には、原料成分である化合物(1)あるいは化合物(2)、化合物(3)および生成した特定ノルボルネンジオール誘導体と反応副生成物が含有されている。
【0040】
この未反応成分回収塔30で蒸留を行うことにより、反応生成物から残存する未反応の原料成分の大部分を除去する。ここで未反応成分回収塔30における精製条件は、通常は0.1〜5.0kPa、好ましくは0.3〜1.0kPaの減圧下に、通常は150〜200℃、
好ましくは160〜180℃の範囲内に設定される。原料成分は、一般に反応目的物であるノルボルネンジオール誘導体よりも沸点が低いので、上述の条件で蒸留することにより、生成した特定ノルボルネンジオール誘導体は未反応成分回収塔30内に留まり、原料成分は、未反応成分回収塔30から留去される。なお、ディールスアルダー反応で生成する多量体などの副生成物のほとんどは、この未反応成分回収塔30内に留まるが軽量なものは原料成分と共に留去される。
【0041】
この留去された成分は、未反応成分回収塔30の上部から配管39により分離タンク50に導入される。分離タンク50に導入された当該成分は、ここで冷却・静置されることにより、化合物(1)あるいは化合物(2)と、化合物(3)とに相分離する。この分離タンク50で相分離した原料成分の化合物(3)は、再利用品の供給配管52を通って反応装置20に再度供給して反応に供する。一方、原料成分の化合物(1)あるいは化合物(2)は配管53を通って反応装置20に再度供給して反応に供する。なお、この分離タンク50における回収原料の冷却温度は通常は20〜60℃、好ましくは30〜50℃であり、このような温度で冷却し・静置することにより、原料成分は相分離する。こうして相分離した原料成分には、分子量の小さい成分が混入していることがあるので、不純物が多い相の部分は廃棄してできるだけ不純物の含有が少ない中間部分の成分を再使用することが望ましい。こうした目的で廃棄される成分量は、全体量の1〜5%程度である。
【0042】
他方、未反応成分回収塔30内に留まった成分(未反応成分回収塔残渣)は、導入配管32から精製塔40に導入される。
こうして精製塔40に送られた未反応成分回収塔30の蒸留残渣には、特定ノルボルネンジオール誘導体およびディールスアルダー反応の副生成物と、通常、未反応成分回収塔30では留去仕切れなかった少量の原料成分とが含有されている。
【0043】
本発明では、この精製塔の温度を反応目的物である特定ノルボルネンジオール誘導体の沸点以上の温度にして、特定ノルボルネンジオール化合物を蒸留することにより、精製塔から導出することが好ましい。ノルボルネンジオール誘導体は、常圧で融点が通常は70〜130℃、多くの場合80〜100℃の範囲内にある。本発明ではこの精製塔40の内部圧力をできるだけ低くして、できるだけ低温で特定ノルボルネンジオール誘導体を蒸留により精製することが好ましい。精製塔40において特定ノルボルネンジオール誘導体を蒸留精製する際には、通常0.1〜5.0kPa、好ましくは0.3〜1.0kPaの範囲内の圧力に減圧して、通常150〜200℃、好ましくは160〜180℃の温度に加熱する。例えば、上記のような条件で、精製塔で加熱することによりノルボルネンジオール誘導体を高い効率で蒸留精製することができ、しかも加熱による分解もほとんどない。
【0044】
精製塔40で蒸留精製された特定ノルボルネンジオール誘導体は、配管42を通ってNBDMホールドタンク60に一旦保持される。なおこのNBDMホールドタンク内では特定ノルボルネンジオール誘導体の融点以上の温度、通常は80〜100℃程度に保持することにより得られた特定ノルボルネンジオール誘導体を液体状態で貯蔵される。このNBDMホールドタンク60には液体状のノルボルネンジオール誘導体搬送用の配管61が配置されており、NBDMホールドタンク60内のノルボルネンジオール誘導体は、次の工程、例えばノルボルネンジオール誘導体のトシル化反応工程などに液体状態で移送可能にされている。
【0045】
なお、精製塔40の底部には排出口が設けられており、特定ノルボルネンジオール誘導体を蒸留した後の残渣(主として、原料成分の重合体などの副生成物)を廃棄用配管44から排出することが可能である。
【0046】
このようにして特定ノルボルネンジオール誘導体は、精製塔40で蒸留精製されることにより、非常に高い純度で得ることができ、NBDMホールドタンク60に貯蔵される時点で、特
定ノルボルネンジオール誘導体は通常は90%以上、好ましくは95%以上の純度を有している。従って、得られたノルボルネンジオール誘導体は、改めて精製することなく、そのまま次工程における製造原料として使用することができる。
【0047】
さらに、本発明ではディールスアルダー反応の収率を低く抑えて、未反応の原料成分を未反応成分回収塔で回収し、さらに反応生成物である特定ノルボルネンジオール誘導体を精製塔で蒸留精製する際にも未反応の原料成分を回収して分離タンク50に冷却静置した後、原料成分を再度、反応装置20に戻して再使用しており、このように原料成分を循環再使用することにより、この反応系における目的化合物の収率は79%以上になる。
【0048】
なお、上記説明においては、反応生成物を2基の蒸留塔を用いて精製しているが、条件
を好適に設定することにより、蒸留塔を1基用いて同等の操作を行うことも可能であり、
また、3基以上の蒸留塔を用いてさらに精密に各成分を分離することも可能である。
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。以下の実施例において、特に断りのない限り、%は、重量基準である。
【実施例1】
【0049】
図1に示す工程によりノルボルネンジメタノール(NBDM)を連続的に製造した。
先ず、老化防止剤を混合した1,4−ブテンジオール(BTD)と、ジシクロペンタジエン(DCP)と、さらに反応後の反応液から回収した未反応BTDとDCPを、それぞれ、39.7kg/h、29.8kg/h、63.4kg/h、12.3kg/hの流量
で容量0.9m3の反応装置内に連続的に送液した。
【0050】
反応装置内では、滞留時間4時間、反応温度175℃、反応圧力0.18MPaの運転
条件で連続的に加熱反応を行った。
反応装置から反応混合物を未反応成分回収塔に送液し、175℃、0.5kPaの条件で未反応成分と反応生成物成分とに分離した。
【0051】
得られた未反応成分には副生成物が含まれており、蒸留分離した蒸留分の組成は、BTDが81.5%、DCPが15.8%、副生成物が2.4%、ノルボルネンジメタノール(NBDM)が0.3%であった。
【0052】
また、反応生成物成分(残渣)の組成は、BTDが0.2%、ノルボルネンジメタノール(NBDM)が96.5%、及び重質成分が3.3%であった。
未反応成分回収塔を分離タンク(デカンター)に送液し、40℃に冷却して、静置するとBTD相とDCP相とに分離した。それぞれの相の5%を廃棄して、残部を反応装置に未反応回収分として送液した。
【0053】
未反応成分回収塔の残渣である反応生成物成分を精製塔(重質成分分離塔)に送液し、175℃、0.5kPaの条件でノルボルネンジメタノール(NBDM)を蒸留精製した。NBDMは、54.2kg/hの流量で得られた。このNBDMは非常に純度が高く、得
られたNBDMの純度は99.7%であった。
【0054】
供給原料に基いて算定される収率は79%であり、非常に効率よくNBDMを製造することができた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のノルボルネンジオール誘導体の製造方法によれば、ノルボルネンジオール誘導体を高い収率で製造することができる。しかも、本発明の方法で得られるノルボルネンジ
オール誘導体は非常に純度が高い。
【0056】
しかも本発明によれば、ノルボルネンジオール誘導体を連続的に製造することができる。
本発明の方法により得られたノルボルネンジオールは、光学部材等を製造するのに好適な特性を有する重合体の製造原料として使用することができる。特に純度が高いので、本発明のノルボルネンジオール誘導体をモノマーの製造原料として使用することにより製造される樹脂は光学的特性が特に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は本発明のノルボルネンジオール誘導体を製造する工程の例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0058】
11・・・タンク
12・・・配管
13・・・タンク
14・・・配管
15・・・タンク
16・・・配管
18・・・配管
20・・・ディールスアルダー反応装置
22・・・導入配管
30・・・未反応成分回収塔
32・・・導入配管
39・・・配管
40・・・精製塔
42・・・配管
44・・・廃棄用配管
50・・・分離タンク
52・・・ジオール化合物の供給配管
53・・・配管
60・・・NBDMホールドタンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジシクロペンタジエン類および/または式(2)で表されるシクロペンタジエン類と式(3)で表されるジオール化合物とを有する原料成分を、反応装置内で加熱下に相溶させ、反応させて式(4)で表されるノルボルネンジオール誘導体を生成する工程、
該反応液から、該ノルボルネンジオール誘導体と残存する原料成分とを分離する操作を少なくとも1回行う工程、および、
該分離された原料成分の少なくとも一部を、上記反応装置内に再供給して再使用する工程を有することを特徴とするノルボルネンジオール誘導体の製造方法;
【化1】

(上記式(1)において、nは、0〜12の何れかの数を表し、Rは、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。);
【化2】

(上記式(2)において、R41〜R46は、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。);
【化3】

(上記式(3)において、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の2価の炭化水素基を表す。);
【化4】

(式(4)において、R11、R12は、それぞれ独立に、炭素数1〜30の2価の炭化水
素基を表し、R20〜R27は、それぞれ独立に、水素原子あるいは炭素数1または2の炭化水素基を表す。)。
【請求項2】
ノルボルネンジオール誘導体と残存する原料成分とを分離する操作を、少なくとも2回
行うことを特徴とする請求項第1項記載のノルボルネンジオール誘導体の製造方法。
【請求項3】
反応液から分離された原料成分を、30〜50℃の温度で静置して相分離させ、不純物を除去した後、反応装置内に再供給することを特徴とする請求項第1項記載のノルボルネ
ンジオール誘導体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−44918(P2008−44918A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−224731(P2006−224731)
【出願日】平成18年8月21日(2006.8.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】