説明

ノルマルプロピルブロマイド組成物

【課題】環境に優しい新規な安定剤によりノルマルプロピルブロマイドの安定化を図る。
【解決手段】 ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.1重量部〜10重量部、含有する。(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート。(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート。(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン。(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノルマルプロピルブロマイドを含有するノルマルプロピルブロマイド組成物に関し、特にその安定化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種洗浄用溶剤としては、フロンや塩素系のものが多用されていた。しかし、近年のオゾン層の破壊などの環境問題により、これらの洗浄用溶剤は、その使用が制限されるに至っている。このような状況から、これらフロンや塩素系溶剤に代わる新しい洗浄用溶剤として、ノルマルプロピルブロマイド(別名:n−臭化プロピル、1−ブロモプロパン。以下単にNPBともいう)を主成分とした組成物が提案されている。ノルマルプロピルブロマイドは、KB値が約125と比較的高く、脱脂洗浄に優れているとともに、引火点がなく不燃または難燃な性質を有している。このため、危険物に該当せず、安全で取り扱い易い。しかも、フッ素系溶剤または塩素系溶剤を一切含有しない。これらのことから、現在、環境に優しいとして注目を浴びている。
【0003】
しかしながら、このノルマルプロピルブロマイドにあっては、アルミニウム、亜鉛、鉄、銅等の各種金属によって誘発される分解反応を起こしやすい欠点がある。ノルマルプロピルブロマイドと金属との接触による分解反応は、金属の種類によって異なるが、特にアルミニウムの場合が著しい分解反応が生じ、また常温においては非常に緩やかに進行する。一方、加温条件下においては、臭化水素を発生しながら連鎖反応的に分解が進行し、最終的にはアルミニウムを激しく腐食させる場合があった。このようなことから、ノルマルプロピルブロマイドを各種金属部品の洗浄等に使用する場合には、各種金属、特にアルミニウムにより誘発する分解反応を抑制して被洗浄物や洗浄装置を腐食させないノルマルプロピルブロマイドの安定化が必要となる。
【0004】
そこで、従来より、ノルマルプロピルブロマイドの安定化を図るために、安定剤としてニトロアルカン類、エーテル類、エポキシド類、アミン類を添加する方法が開示されている(特許文献1、2参照)。しかしながら、ここで提案されている安定剤は、工業金属材料として一般に広く使用されている亜鉛、鉄、銅等の金属に対して十分に安定化効果を発揮するものとは必ずしも言えないものである。特に、蒸気洗浄のような高温度で長時間使用される条件下で使用する場合、被洗浄物や洗浄装置等を腐食する場合があった。
【0005】
このようなことから、亜鉛や鉄、銅等の各種金属についても十分な安定化を図れるようにするために、安定剤として、ニトロエタンまたはニトロメタンと、1,2−ブチレンオキサイドやトリメトキシメタンとを2種類組合せて使用することが提案されている(特許文献3〜7参照)。
【特許文献1】特開平6−220494号公報
【特許文献2】特開平7−150197号公報
【特許文献3】特開平8−311675号公報
【特許文献4】特開平8−337795号公報
【特許文献5】特開平9−302389号公報
【特許文献6】特開平11−343499号公報
【特許文献7】特開2000−26897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来より提案されている安定剤の中には、PRTR法の対象化学物質に該当し、今後、取り扱いが非常に厄介になる可能性がある化学物質も含まれている。例えば、1,2−ブチレンオキサイドについては、今現在、PRTR法の対象化学物質であるため、取り扱いが非常に煩雑であり、厳しく管理する必要がある。このようなことから、ノルマルプロピルブロマイドについては、なるべくPRTR法の対象化学物質に該当しない環境に優しい新しい安定剤の開発が必要であった。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みたものであって、その目的は、環境に優しい新しい安定剤の使用によりノルマルプロピルブロマイド組成物の安定化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するための主たる発明は、
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.1重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン
【0009】
本発明の他の特徴は、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0011】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.1重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン

このようなノルマルプロピルブロマイド組成物にあっては、(A)〜(D)の安定剤の使用によりノルマルプロピルブロマイドの安定化を十分に図ることができる。
【0012】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を、0.01重量部〜10重量部、および、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン

このようなノルマルプロピルブロマイド組成物にあっては、(A)〜(D)の安定剤の使用によりノルマルプロピルブロマイドの安定化を十分に図る。
【0013】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタンおよびニトロエタンのうちの少なくともどちらか一方の安定剤を0.01重量部〜10重量部、および、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン

このようなノルマルプロピルブロマイド組成物にあっては、(A)〜(D)の安定剤の使用によりノルマルプロピルブロマイドの安定化を十分に図る。
【0014】
===ノルマルプロピルブロマイド組成物の概要===
本発明に係るノルマルプロピルブロマイド組成物は、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.1重量部〜10重量部、含有することを特徴とする。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン(1,2,8,9−ジエポキシリモネン)

これら(A)〜(D)の安定剤は、ノルマルプロピルブロマイド組成物において、1種単独で含有されていても良く、また2種以上併用されて含有されていても良い。これら(A)〜(D)の安定剤がノルマルプロピルブロマイド組成物に含有されることで、ノルマルプロピルブロマイドと金属との接触による分解反応を十分に抑制することができ、臭化水素の発生を低減することができる。これにより、ノルマルプロピルブロマイド組成物を各種金属部品の洗浄等に使用することが可能になる。
【0015】
また、これら(A)〜(D)の安定剤の含有量を、0.1重量部〜10重量部に設定したのは、次の理由からである。つまり、これら(A)〜(D)の安定剤の含有量が0.1重量部未満である場合には、ノルマルプロピルブロマイドに対する十分な安定化効果を確認していないからである。また、(A)〜(D)の安定剤の含有量が10重量部を超えた場合には、安定化効果自体に問題はないが、更なる効果を期待することができず、経済的ではないからである。
【0016】
また、本発明に係る他のノルマルプロピルブロマイド組成物は、
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、および、
前記の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とする。
【0017】
これら(A)〜(D)の安定剤は、ノルマルプロピルブロマイド組成物において、1種単独で含有されていても良く、また2種以上併用されて含有されていても良い。また、ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンについても同様に、1種単独で含有されていても良く、また2種以上併用されて含有されていても良い。
【0018】
これら(A)〜(D)の安定剤と、ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンとが併用されることで、ノルマルプロピルブロマイドと金属との接触による分解反応をより十分に抑制することができ、臭化水素の発生を低減することができる。これにより、ノルマルプロピルブロマイド組成物を各種金属部品の洗浄等に使用することが可能になる。
【0019】
さらにまた、本発明に係る他のノルマルプロピルブロマイド組成物は、
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタンおよびニトロエタンのうちの少なくともどちらか一方の安定剤を0.01重量部〜10重量部、および、
前記の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とする。
【0020】
なお、本発明に係るノルマルプロピルブロマイド組成物にあっては、前述した(A)〜(D)の安定剤や、ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン以外に、他の種類の安定剤が含有されていても良い。
【0021】
===安定剤===
ここで、本発明に係るノルマルプロピルブロマイド組成物に含有される(A)〜(D)の安定剤について説明する。これら(A)〜(D)の安定剤は、過酢酸を用いたエポキシ化合物であり、エピクロロヒドリンを用いないため、塩素、ナトリウム等の含有量が少ない化合物である。これら(A)〜(D)の各安定剤について以下に詳しく説明する。
【0022】
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート[(3'-4'-Epoxycyclohexane)methyl 3'-4'-Epoxycyclohexyl-carboxylate]
この化合物(以下、安定剤(A)ともいう)は、分子量252.3、CAS番号『2386−87−0』の化合物であり、例えば、ダイセル化学工業株式会社から『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)として提供されるものである。この化合物は、過酢酸によるエポキシ化技術によって製造された脂肪族環状エポキシ樹脂で、低粘度の液状であり、塩素のようなハロゲンの不純物を含まない。
【0023】
この化合物の構造を以下に示す。
【化1】

【0024】
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3',4'−エポキシシクロヘキサンカルボキレート[(3'-4'-Epoxycyclohexane)methyl 3'-4'-Epoxycyclohexyl-carboxylate modified ε-caprolactone]
この化合物(以下、安定剤(B)ともいう)は、例えば、ダイセル化学工業株式会社から『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)として提供されている。
【0025】
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン(Vinylcyclohexene monoxide 1,2-epoxy-4-vinylcycloheane)
この化合物(以下、安定剤(C)ともいう)は、分子量124.18、CAS番号『106−86−5』の化合物である。この化合物は、例えば、ダイセル化学工業株式会社から『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)として提供されている。
【0026】
この化合物の構造を以下に示す。
【化2】

【0027】
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン(1,2:8,9Diepoxylimonen)
『別名:1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン』
この化合物(以下、安定剤(D)ともいう)は、脂環式ジエポキシ化合物であり、CAS番号『96−08−2』の化合物である。この化合物は、例えば、ダイセル化学工業株式会社から『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)として提供されている。
【0028】
この化合物の構造を以下に示す。
【化3】

【0029】
===用途===
このようなノルマルプロピルブロマイド組成物の主な用途としては、レジスト剥離剤やフラックス洗浄剤・油脂類等の脱脂洗浄剤、バフ研磨洗浄剤、接着剤(ウレタンやエポキシ、シリコン等)の溶解剤、ドライクリーニング用溶剤、グリース・油・ワックス・インキ等の除去剤、塗料用溶剤、抽出剤、ガラス・セラミックス・ゴム・金属製各種物品、特にIC部品、電気機器、精密機器、光学レンズ等の洗浄剤や水切り剤などを挙げることができる。
【0030】
また、ノルマルプロピルブロマイド組成物を洗浄用溶剤として使用する場合には、例えば、手拭き、浸漬、スプレー、超音波洗浄、蒸気洗浄、接着剤(ウレタンやエポキシ、シリコン等)の充填装置のノズル洗浄、その他一般洗浄などといった各種洗浄方法で使用することができる。
【0031】
===安定化確認試験===
<試験1>
ここで用いられる安定剤(A)〜(D)によるノルマルプロピルブロマイドの安定化試験について説明する。この試験では、本発明に係るノルマルプロピルブロマイド組成物で用いられる先に説明した(A)〜(D)の安定剤と、従来より使用されている安定剤等との安定化効果を確認する試験を行った。従来より使用されている安定剤等としては、ニトロエタン、ニトロメタン、1,3−ジオキソラン、1,2−ブチレンオキサイド、トリメトキシメタン、1,1,1−トリメトキシエタン、およびリモネンを用いた。
【0032】
また、安定剤(A)[3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート]としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)を用いた。また、安定剤(B)[ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート]としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)を用いた。また、安定剤(C)[ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン]としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)を用いた。また、安定剤(D)[1,2:8,9ジエポキシリモネン]としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)を用いた。
【0033】
これら(A)〜(D)の安定剤と、従来より使用されている安定剤等とをそれぞれノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して3重量部ずつ混合して試験液「A1」〜「A11」を作製した。そして、作製した試験液をそれぞれ50mlずつ、100mlのガラス製三角フラスコに入れて、この中に表面を良く研磨して十分に洗浄乾燥したアルミニウム試験片(規格:JIS A−1100P、寸法:13mm×65mm×3mm)1枚を気液両相にまたがるように入れた。そして、三角フラスコの上部に還流冷却器を取り付けて湯浴上で沸騰温度まで過熱し、還流しながら試験片を気液両相に接触させる。還流冷却器にはpH試験紙を取り付けておき、140時間加熱還流後、室温まで冷却して試験片を取り出し、その腐食状況および液相の着色状況を観察した。さらに発生した酸性ガスをpH試験紙で確認した。
【0034】
表1は、この試験結果をまとめたものである。なお、アルミニウム試験片の状態の判定基準は、「◎;全く変化なし」、「×;光沢が落ちる。」とする。また、試験液の状態の判定基準としては、「◎;無色透明」、「×;着色する」とする。また、酸性ガスの発生の有無については、「◎;発生無し」、「×;発生有り」とした。
【0035】
[表1]

【0036】
表1に示すように、ニトロエタンおよびニトロメタンを用いた試験液「A1」および「A2」は、試験片および試験液の状態は良好である一方、酸性ガスが発生し、ニトロエタンまたはニトロメタンの単独での使用は困難であることが確認された。また、1,2−ブチレンオキサイド、1,3ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンを用いた試験液「A3」〜「A6」は、試験片の光沢が落ち、また試験液の着色が発生するものの、酸性ガスの発生は確認されなかった。いずれにしても、これら1,2−ブチレンオキサイド、1,3ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの単独での使用は困難であることが確認された。また、リモネンを用いた試験液「A7」については、試験片および試験液の状態が悪く、さらに酸性ガスが発生し、安定剤としての使用が困難であることが確認できた。
【0037】
これに対して安定剤(A)〜(D)を用いた試験液「A8」〜「A11」は、試験片および試験液の状態も共に良好であり、かつ酸性ガスの発生も確認されず、安定剤(A)〜(D)については単独での使用も十分に可能であることが判明した。
【0038】
<試験2>
次に安定剤(A)〜(D)の混合量について調べる試験を行った。この試験では、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して安定剤(A)〜(D)の混合量を0.001重量部〜10重量部の範囲で設定して試験液を作製した。そして、作製した各試験液を、100mlのガラス製三角フラスコに50mlずつ入れて、前述した試験と同様の試験を行い、アルミニウム試験片および試験液の状態についてそれぞれ調べるとともに、酸性ガスの発生の有無を調べた。安定剤(A)〜(D)としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)、『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)、『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)、および『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)を使用した。
【0039】
表2は、この試験結果をまとめたものである。なお、アルミニウム試験片の状態の判定基準は、「◎;全く変化なし」、「×;光沢が落ちる。」とする。また、試験液の状態の判定基準としては、「◎;無色透明」、「×;着色する」とする。また、酸性ガスの発生の有無については、「◎;発生無し」、「×;発生有り」とした。
【0040】
[表2]

【0041】
表2に示すように、安定剤(A)〜(D)の混合量が、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、0.001重量部〜0.08重量部設定された場合には、試験片および試験液の状態が悪く、さらに酸性ガスの発生が確認され、ノルマルプロピルブロマイドに対して十分な安定化効果が得られないことが判明された。一方、安定剤(A)〜(D)の混合量が、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、0.1重量部以上混合された場合には、試験片および試験液の状態が良好であり、さらに酸性ガスの発生が確認されず、ノルマルプロピルブロマイドに対して十分な安定化効果が得られることが判明された。
【0042】
<試験3>
次に安定剤(A)〜(D)の他に、さらにニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンを混合する試験を行った。この試験では、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、安定剤(A)〜(D)の混合量を0.01重量部〜10重量部の範囲で混合し、かつニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンの混合量を3重量部に設定して試験液を作製した。そして、作製した各試験液を、100mlのガラス製三角フラスコに50mlずつ入れて、前述した試験と同様の試験を行い、アルミニウム試験片および試験液の状態についてそれぞれ調べるとともに、酸性ガスの発生の有無を調べた。安定剤(A)〜(D)としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)、『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)、『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)、および『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)を使用した。
【0043】
表3〜表7は、これらの試験結果をまとめたものである。なお、アルミニウム試験片の状態の判定基準は、「◎;全く変化なし」、「×;光沢が落ちる。」とする。また、試験液の状態の判定基準としては、「◎;無色透明」、「×;着色する」とする。また、酸性ガスの発生の有無については、「◎;発生無し」、「×;発生有り」とした。
【0044】
[表3]

【0045】
[表4]

【0046】
[表5]

【0047】
[表6]

【0048】
[表7]

【0049】
表3および表4に示すように、安定剤(A)〜(D)の他に、ニトロメタンまたはニトロエタンを混合した場合には、安定剤(A)〜(D)の混合量が0.05重量部以上の場合には、酸性ガスの発生が確認されず、ノルマルプロピルブロマイドに対して、さらに十分な安定化効果が得られることが判明された。また、表5〜表7に示すように、安定剤(A)〜(D)の他に、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンを混合した場合には、安定剤(A)〜(D)の混合量が0.05重量部以上の場合には、試験片および試験液の状態が非常に良好であり、さらに酸性ガスの発生が確認されず、ノルマルプロピルブロマイドに対して、さらに十分な安定化効果が得られることが判明された。
【0050】
<試験4>
さらにニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの適切な混合量を調べる試験を行った。この試験では、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、安定剤(A)〜(D)の混合量を0.05重量部に設定し、かつニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンの混合量を0.01重量部〜10重量部の範囲で設定して試験液を作製した。そして、作製した各試験液を、100mlのガラス製三角フラスコに50mlずつ入れて、前述した試験と同様の試験を行い、アルミニウム試験片および試験液の状態についてそれぞれ調べるとともに、酸性ガスの発生の有無を調べた。安定剤(A)〜(D)としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)、『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)、『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)、および『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)を使用した。
【0051】
表6〜表8は、これらの試験結果をまとめたものである。なお、アルミニウム試験片の状態の判定基準は、「◎;全く変化なし」、「×;光沢が落ちる。」とする。また、試験液の状態の判定基準としては、「◎;無色透明」、「×;着色する」とする。また、酸性ガスの発生の有無については、「◎;発生無し」、「×;発生有り」とした。
【0052】
[表8]

【0053】
[表9]

【0054】
[表10]

【0055】
[表11]

【0056】
[表12]

【0057】
表8および表9に示すように、ニトロメタンまたはニトロエタンの混合量を0.01重量部以上に設定すれば、試験片および試験液の状態が良好であり、かつ酸性ガスの発生もなく、十分な安定化効果が得られることが確認できた。一方、表10〜表12に示すように、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンまたは1,1,1−トリメトキシエタンの場合、混合量が0.01重量部の場合には、試験片および試験液の状態が悪く、また酸性ガスの発生が確認され、良好な試験結果が得られない一方、0.05重量部以上の場合には、試験片および試験液の状態が良好であり、かつ酸性ガスの発生もなく良好な試験結果が得られることが確認できた。
【0058】
これらのことから、ニトロメタンおよびニトロエタンについては、その混合量を0.01重量部以上に設定すれば、さらなる安定化効果が得られることがわかった。また、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの場合には、その混合量を0.05重量部以上に設定すれば、さらなる安定化効果が得られることがわかった。
【0059】
<試験5>
次に鉄および銅に対する影響を調べる試験を行った。この試験では、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、安定剤(A)〜(D)の混合量を0.001重量部〜10重量部の範囲で設定して試験液を作製した。そして、作製した試験液をそれぞれ50mlずつ、100mlのガラス製三角フラスコに入れて、この中に表面を良く研磨して十分に洗浄乾燥した鉄試験片または銅試験片(共に寸法13mm×65mm×3mm)1枚を気液両相にまたがるように入れた。そして、三角フラスコの上部に還流冷却器を取り付けて湯浴上で沸騰温度まで過熱し、還流しながら試験片を気液両相に接触させる。還流冷却器にはpH試験紙を取り付けておき、140時間加熱還流後、室温まで冷却して試験片を取り出し、その腐食状況および液相の着色状況を観察した。さらに発生した酸性ガスをpH試験紙で確認した。安定剤(A)〜(D)としては、ダイセル化学工業株式会社の『セロキサイド2021P(CEL2021)』(商品名)、『セロキサイド2081(CEL2081)』(商品名)、『セロキサイド2000(CEL2000)』(商品名)、および『セロキサイド3000(CEL3000)』(商品名)を使用した。
【0060】
表13および表14は、これらの試験結果をまとめたものである。表13は、鉄の場合についてまとめたものである。表14は、銅の場合についてまとめたものである。なお、鉄試験片または銅試験片の状態の判定基準は、「◎;全く変化なし」、「×;光沢が落ちる。」とする。また、試験液の状態の判定基準としては、「◎;無色透明」、「×;著く着色する」とする。また、酸性ガスの発生の有無については、「◎;発生無し」、「×;発生有り」とした。
【0061】
[表13]

【0062】
[表14]

【0063】
表13および表14に示すように、アルミニウムの場合と同様に、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、安定剤(A)〜(D)の混合量が0.001重量部〜0.08重量部設定された場合には、試験片および試験液の状態が悪く、さらに酸性ガスの発生が確認され、ノルマルプロピルブロマイドに対して十分な安定化効果が得られないことが判明された。一方、安定剤(A)〜(D)の混合量が、ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、0.1重量部以上混合された場合には、試験片および試験液の状態が良好であり、さらに酸性ガスの発生が確認されず、ノルマルプロピルブロマイドに対して十分な安定化効果が得られることが判明された。このことから、鉄や銅の場合には、安定剤(A)〜(D)の混合量を0.1重量部以上に設定する必要があることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.1重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン
【請求項2】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタン、ニトロエタン、1,3−ジオキソラン、トリメトキシメタンおよび1,1,1−トリメトキシエタンの中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、および、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3,'4'−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン
【請求項3】
ノルマルプロピルブロマイド100重量部に対して、
ニトロメタンおよびニトロエタンのうちの少なくともどちらか一方の安定剤を0.01重量部〜10重量部、および、
次の(A)〜(D)の中から選ばれる少なくとも1種の安定剤を0.05重量部〜10重量部、含有することを特徴とするノルマルプロピルブロマイド組成物。
(A)3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート
(B)ε-カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキレート
(C)ヴィ゛ニルシクロヘキセンモノオキサイド 1,2−エポキシ−4−ビニルシクロヘキサン
(D)1,2:8,9ジエポキシリモネン

【公開番号】特開2007−145944(P2007−145944A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−340279(P2005−340279)
【出願日】平成17年11月25日(2005.11.25)
【特許番号】特許第3817573号(P3817573)
【特許公報発行日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(597115750)株式会社カネコ化学 (12)
【Fターム(参考)】