説明

ノンオイルの酸性液体調味料及びその食味改善方法

【課題】旨味や厚み、複雑さ、ボディ感ではなく、塩味の持続感が十分に付与された、ノンオイルまたは低オイルの酸性食品を提供すること。
【解決手段】本発明の酸性食品は、油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有するとともに、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする。カゼインを含有させるために、例えば、精製されたカゼイン、カゼインナトリウム、及びこれら以外の乳タンパク質から選択される1種以上が、酸性食品に対して添加される。食塩の含有量は食品当たり0.5質量%以上であることがよく、油分の含有量は食品当たり3質量%未満であることがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンオイルまたは低オイルの(油分を全く含まないかまたは少量しか含まない)酸性食品、及びそのような酸性食品に一般的に不足しがちな塩味の持続感を付与する食味改善方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、油分を多く含む食品には濃厚な味があるとされる。特に食塩を含む食品は、油分を多く含むことにより塩味の持続感が増強される効果がある。塩味の持続感とは、一般に食塩と共に油分多く含む食品を食したときに、塩味が舌の上でしばらくの間持続して濃厚な塩味を感じる感覚のことである。
【0003】
そのため、塩味の持続感を好む消費者は油分の多い食品を好む傾向にある。例えば、ドレッシングで言えば、調味液に油を加えて2液分離タイプや乳化タイプのドレッシングが消費者に好まれてきた。
【0004】
しかしながら、昨今の健康ブームやダイエットブームから油分を多く含む食品へのイメージは低下しており、なるべく油分を摂取したくないという意識が高まっている。
【0005】
このため、食品中の油分をできるだけ減らすような様々な検討が行なわれ、様々な商品が市販されている。しかしながら、単純に油分を低減しただけでは塩味の持続感が損なわれ、消費者を満足させることができていない。そこで、塩味の持続感を求める消費者にも好まれるとともに、油分の含有量が少ない食品を提供することが望まれている。
【0006】
このような要求の中、食品中の油脂を減少しても風味を維持する種々の工夫がなされている。その例を挙げると、微細セルロースとローカストビーンガムとキサンタンガムと親水性物質とを分散させることで油脂を代替する手法が従来提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、イヌリンとポリグルタミン酸とを含有させることで脂肪感を付与する手法が従来提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3665010号公報
【特許文献2】特開2008−72993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1,2記載の技術を用いた場合、主になめらかさ、口溶け等の口当たりを油脂に近づけることによりボディ感を付与することはできるが、塩味の持続感を十分に得ることができなかった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は食塩を含有するノンオイルまたは低オイル食品に、旨味や厚み、複雑さ、ボディ感ではなく、塩味の持続感を付与することであり、油分を少量しか含まないかまたは全く含まないにもかかわらず十分に塩味の持続感を有する食品を提供することにある。本発明の第二の目的は、塩味の持続感のある風味を付与することで食塩を含有するノンオイルまたは低オイル食品の食味を改善する好適な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、上記課題を解決すべく、本願発明者らは食塩を含有するノンオイルまたは低オイル食品に塩味の持続感を付与し得る素材を探索すべく、数多くの試行錯誤を行った。その結果、食塩を含有するノンオイルまたは低オイル食品にカゼインを含有させることで、塩味の持続感を付与できることを新規に知見した。また、塩味の持続感の付与には、食品中に食塩を含有していることは当然ながら、食品が酸性であることが必須条件であることも併せて新規に知見した。そして本願発明者らはこれらの知見に基づき最終的に下記の課題解決手段[1]〜[6]を想到するに至ったのである。ここにそれらを列挙する。
【0011】
[1]油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
【0012】
[2]精製されたカゼイン、カゼインナトリウム、及びこれら以外の乳タンパク質から選択される1種以上を添加することにより、前記カゼインを含有させたことを特徴とする手段1に記載の酸性食品。
【0013】
[3]前記食塩の含有量が、食品当たり0.5質量%以上であることを特徴とする手段1または2のいずれか1項に記載の酸性食品。
【0014】
[4]前記油分の含有量が、食品当たり3質量%未満であることを特徴とする手段1乃至3のいずれか1項に記載の酸性食品。
【0015】
[5]前記酸性食品が、ノンオイルまたは低オイルの液体調味料であることを特徴とする手段4に記載の酸性食品。
【0016】
[6]油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品に、カゼインを含有させることにより塩味の持続感を付与することを特徴とする酸性食品の食味改善方法。
【発明の効果】
【0017】
従って、請求項1〜5に記載の発明によれば、食塩を含有するノンオイルまたは低オイル食品であるにも関わらず、塩味の持続感を有する酸性食品を提供することができる。つまり、油脂分が少なく健康的であるにもかかわらず、塩味の持続感のある風味を十分に感じられるドレッシング、ソース類、つゆ類、たれ類、ぽん酢等の酸性食品を提供することができる。また、請求項6に記載の発明によれば、塩味の持続感が不足しているノンオイルまたは低オイル食品に、塩味の持続感を付与することで、その食味を確実に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した一実施の形態を詳細に説明する。
本発明において塩味の持続感を付与する食品は、食塩を含有する酸性の食品であって、ノンオイルまたは低オイルの食品である。具体的には、油分が15質量%未満の食品である。本発明は油分が少ないために塩味の持続感が不足する食品に塩味の持続感を付与するものである一方、油分が15質量%以上の食品では塩味の持続感が不足するといった本発明における課題は生じない。本発明は、特に好ましくは油分が10質量%未満の食品に好適に用いられる。
【0019】
食塩を含有する酸性の食品は特に限定されないが、その代表例としては、ノンオイルまたは低オイルのドレッシング、ドレッシングタイプ調味料、ノンオイルまたは低オイルのマヨネーズ、ソース類、つゆ類、たれ類、ぽん酢、食酢等の液状食品あるいは半固体状食品が挙げられる。また、食塩を含有し、油分が15質量%未満の酸性食品(pH5.5以下)であれば、液状あるいは半固体状食品に限らず、乾燥スープ、粉末調味料、ふりかけ、調味塩等の粉末食品であってもよい。なお、粉末食品のpHとは、一般的にはその食品に適した濃度となるよう通常数倍〜100倍程度の水で薄めてpHを測定することが行われるが、本発明における粉末食品のpHは以下の内容を指す。即ち、使用時に水に溶解させる粉末食品においては、使用を想定した濃度に溶解させた際のpHが5.5以下であることを指す。また、食品にそのままふりかけて使用する粉末調味料等の食品については、10倍の水で薄めた際のpHが5.5以下であることを指す。これは粉末食品を食す際、一緒に食す食品や口の中の水分によって溶解した状態で味を感じることとなるが、本発明の塩味の持続感付与はその溶解した状態でのpHが関与していると考えられるため、上記のような条件で測定を行うものである。
【0020】
ここで、本発明の食品には食塩が含有されていることが必須条件である。食塩を含有しない状態では、カゼインを含有させても食品の塩味を持続することができないからである。食品中における食塩の含有量としては、塩味の持続感を付与したい食品に通常入れる食塩の量とすればよいが、十分に塩味を持続するためには食品当たり0.5質量%以上を含有することが好ましい。また、食塩の含有量の上限は食品の種類によって適宜選択すればよい。
【0021】
また、本発明の食品は酸性食品であることが必須条件であり、具体的にはpH5.5以下の酸性食品であることが好適である。食品のpHが高すぎると、カゼインを含有させても食品に十分に塩味の持続感を付与することができないからである。なお、酸性食品のpHは、さらには5.0以下であることがよく、特にはカゼインの等電点の値(4.6)以下であることがよい。
【0022】
例えば、本発明の食塩を含有する酸性の食品が低オイルタイプのドレッシングである場合には、一般的に、水、食用植物油脂及び食酢若しくはかんきつ類の果汁、砂糖などの糖分、食塩などの塩分などがその主原料となる。本発明の食塩を含有する酸性の食品がノンオイルタイプのドレッシングである場合には、原料に食用植物油脂を用いず、一般的に、水、食酢またはかんきつ類の果汁、砂糖などの糖分、食塩などの塩分などがその主原料となる。
【0023】
本発明において用いるカゼインとは、牛乳などに含まれるリンタンパク質の一種である。本発明においては、カゼインが食品当たり0.5質量%以上含有されている。この含有量より少ないと、塩味の持続感付与の効果が発揮されないためである。カゼイン自体には風味や味が感じられないため、カゼイン含有量の上限は食品の種類によって適宜選択すればよいが、食品当たり50質量%以下とすることが適当である。例えば、液体あるいは半固体状食品の場合には、溶解度や粘度の点において当該上限を10質量%以下とすることが好ましい。粉末食品の場合には、その他原料とのバランスを考慮し、当該上限を50質量%以下とすることが好ましく、さらには40質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
酸性食品にカゼインを含有する方法は、求める酸性食品の特性(香味、物性など)に合わせて選択すればよい。例えば、牛乳や無脂肪乳から酸沈殿により精製されたカゼインを添加する方法が挙げられる。カゼインナトリウムやカゼインカルシウムなどのカゼイネートとして添加する方法を用いてもよい。また、カゼインを含有する乳タンパク質やその加工品として酸性食品に添加することでカゼインを含有してもよい。
【0025】
ここで、本発明に用いる乳タンパク質とは、乳由来のタンパク質及び/またはその加工品のことである。乳由来のタンパク質はカゼインとホエーとに大別されるが、本発明で用いる乳タンパク質は、例えばトータルミルクプロテインのようにカゼイン及びホエーの両方を含むものであってもよいし、酸カゼインやカゼインカルシウムのようにカゼインを含みホエーを含まないものであってもよい。その製造方法としては、牛乳や無脂肪乳から限外ろ過により乳タンパク質を精製する方法などが挙げられる。なお、牛乳や無脂肪乳から酸沈殿により精製されたカゼインも乳タンパク質の一つである。また、酸沈殿などにより精製した乳タンパク質をアルカリ処理して得られるカゼインナトリウムやカゼインカルシウムなどのカゼイネートは乳由来のタンパク質の加工品の一つである。一方、チーズ等の乳製品そのものは、本発明における乳タンパク質には含まない。本発明に用いる乳タンパク質は、固形分中にカゼインを80質量%以上含んでいることが望ましい。
【0026】
本発明において使用するのに好適な乳タンパク質としては、例えば、「ミルカ」(商品名、日本新薬株式会社製)、「タツア400」(商品名、森永乳業株式会社製)等がある。
【0027】
また、乳タンパク質の一つであるカゼインナトリウムも、食品添加物として指定されており広く市販されているため、本発明において酸性食品にカゼインを含有する素材として用いやすい。カゼインナトリウムとはカゼインのナトリウム塩のことであり、例えば、乳から分離したカゼインを水酸化ナトリウム水溶液に溶解し乾燥させることによって得られる。本発明において使用するのに好適なカゼインナトリウムとしては、「ハプロR」(商品名、日本新薬株式会社製)、「ハロスターL」(商品名、日本新薬株式会社製)、「カゼロンL」(商品名、株式会社第一化成製)等がある。
【0028】
また、本発明におけるカゼインやそれ以外の乳タンパク質には、プロテアーゼ処理等の各種酵素処理物(即ちカゼイン分解物)も含まれるが、ペプチドの状態となるまで低分子化されたこれらの酵素処理物は未処理のものと比べて塩味の持続感を付与する能力が著しく弱まる。そのため、酵素未処理のもの(即ち未分解状態のもの)を用いることが望ましい。
【0029】
本発明において食品にカゼインを含有させる方法としては、乳タンパク質を用いるのではなく、乳そのものや乳製品を食品に添加することでカゼインを含有させる方法も一応可能である。しかし、乳特有のフレーバーや乳脂肪分が付与されるため、求める酸性食品の種類によっては好ましくない場合がある。例えば、さっぱりした風味のドレッシングに乳特有のフレーバーが付与されることは、さっぱり感の低下をもたらすことがある。つまり、乳を原料として乳タンパク質を得るような場合、本発明では乳脂肪分及び乳糖が十分に除去(例えば、カゼイン含有物の固形分あたり乳脂肪分及び乳糖が合計で20質量%以下となるまで除去)されていることが望ましい。
【0030】
精製度の高い乳タンパク質あるいはカゼインナトリウムは、カゼインの含有割合が高い。このため、本発明においてカゼインを含有させるに際し、添加量が少なくてよい点で好ましい。また、乳特有のフレーバーや乳脂肪分など余計なものが付与されにくい点において様々な食品に使用できるため好ましい。
【0031】
ここで、カゼインやその他乳タンパク質を乳化目的で調味料に添加して使用した事例は、いくつか報告されている(例えば、特許第3441579号公報、特開2003−24017号公報など)。しかしながら、これらの使用事例は、本発明とは構成も技術思想も全く異なるものである。つまり、従来のカゼイン使用事例では、カゼインの持つ乳化特性を利用した乳化目的あるいは乳化安定性の向上を目的としており、それゆえ油分を多く(例えば30質量%程度)含む乳化食品に用いられている。そして、油分を多く含む乳化食品は塩味の持続感が十分に感じられるものであるため、そもそも不足した塩味の持続感を付与しようとする動機も存在しない。一方、本発明では、油分15質量%未満であって塩味の持続感が不足している食品に対して塩味の持続感を付与するためにカゼインを用いており、従来のカゼイン使用例とは油分含有量において全く異なる構成である。さらに付言すると、カゼインはpH5.5以下では乳化が不安定化することが広く知られていることから(「食品の乳化−基礎と応用−初版第1刷(株式会社幸書房)」P.270参照)、従来のカゼイン使用例は低pHではない食品に使用されているものと推察される。よって、低pHにおいてのみ効力を発揮する本発明とは全く構成が異なり、また根本的に目的も使用場面も異なるものである。つまり、本発明において使用されるカゼインは、あくまで塩味の持続感付与作用を主目的として添加されたものであって、他の作用(例えば乳化作用、乳化安定化作用など)を主目的として添加されたものではない。
【0032】
なお、一般的に牛乳には牛乳特有の濃厚な味があることは知られているが、それは乳脂肪分に由来すると考えられており、乳タンパク質であるカゼインが食塩を含有する酸性食品の塩味の持続感付与に効果があることは従来全く知られていなかった。
【0033】
ここで、本発明においてカゼインの添加により得られる塩味の持続感付与作用のメカニズムは、現時点では明らかではないが、以下のことが言える。即ち、唾液中には糖タンパク質の一種であるムチンが含まれているが、酸性条件下ではカゼインがムチンと結合して凝固し、凝固物が舌を覆うことで食塩の味が唾液に流されにくくなり、この作用によって塩味の持続感が付与されるものと推測される。
【0034】
以下、本発明をより具体化した実施例を示すが、本発明は勿論これに限定されるわけではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1](カゼインによる塩味の持続感付与効果の検証)
【0036】
(1)ドレッシングの製造
表1の配合のドレッシングのサンプル1〜5を製造した。詳細には、表1の配合割合に示す原料を上から記載順に混合・攪拌し、得られたドレッシングを300mL入りのPET容器に充填し密栓した。
【0037】
ただし、サンプル5だけは、表1に記載の原料(食用植物油脂以外)を攪拌・混合した後、さらに食用植物油脂を混合し、ホモジナイズ(12000rpmで2分間)し、乳化することで、液状ドレッシングを得た。サンプル5のキサンタンガムの量だけ他と異なるが、これはサンプル1〜4と粘度を合わせるために調整しているからである。
【0038】
なお、本実施例で用いた乳タンパク質(森永乳業株式会社製、商品名「タツア400」)は、カゼインを90質量%の割合で含んでいる。
【0039】
得られたドレッシングの食塩含有量、pH、カゼイン含有量、油分含有量は、表1に記載したとおりである。
【0040】
(2)試食評価
上記(1)で製造したドレッシングのサンプル1〜5を、5名のパネルに試食してもらい、評価を行った。評価は、○(塩味の持続感を感じる)、△(やや塩味の持続感を感じる)、×(塩味の持続感を感じないか、非常に弱い)の3段階とした。また、各サンプルについてコメントを付した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0041】
上記の結果より、油分を含まなくとも、カゼインを含ませることにより塩味の持続感が付与されることがわかった(サンプル1〜3)。また、十分な塩味の持続感を付与するには、カゼインの含有量を0.5質量%以上に設定する必要があることもわかった(サンプル1、2)。なお、油分もカゼインも含まないと(サンプル4)、塩味の持続感をほとんど感じないドレッシングとなってしまい、油分を20質量%含ませると(サンプル5)、カゼインを含ませなくとも十分に塩味の持続感を感じることも確認できた。
【0042】
[実施例2](食塩含有量と塩味の持続感付与効果との関係の検証)
【0043】
(1) ドレッシングの製造
表2の配合のドレッシングのサンプル6〜8を製造した。詳細には、表2の配合割合に示す原料を上から記載順に混合・攪拌し、得られたノンオイルドレッシングを300mL入りのPET容器に充填し密栓した。
【0044】
得られたドレッシングの食塩含有量、pH、カゼイン含有量、油分含有量は、表2に記載したとおりである。
【0045】
(2)試食評価
上記(1)で製造したドレッシングのサンプル6〜8を、5名のパネルに試食してもらい、3段階で評価を行った。また、各サンプルについてコメントを付した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0046】
上記の結果より、塩味の持続感が食塩含有量と非常に関係が深いことがわかった。つまり、食塩を全く含まないと(サンプル8)、カゼインを含有していても塩味の持続感を感じないことがわかった。また、食塩含有量が少ないと(サンプル7)、塩味の持続感も弱いが、食塩を一定以上(0.5質量%以上)含ませれば(サンプル6)、十分に塩味の持続感が付与されることがわかった。
【0047】
[実施例3](pHと塩味の持続感付与効果との関係の検証)
【0048】
(1) ドレッシングの製造
表3の配合のドレッシングのサンプル9〜11を製造した。詳細には、表3の配合割合に示す原料を上から記載順に混合・攪拌し、得られたノンオイルドレッシングを300mL入りのPET容器に充填し密栓した。
【0049】
得られたドレッシングの食塩含有量、pH、カゼイン含有量、油分含有量は、表3に記載したとおりである。
【0050】
(2)試食評価
上記(1)で製造したドレッシングのサンプル9〜11を、5名のパネルに試食してもらい、3段階で評価を行った。また、各サンプルについてコメントを付した。その結果を表3に示す。
【表3】

【0051】
上記の結果より、塩味の持続感がpHと非常に関係が深いことがわかった。つまり、pHが高いと(サンプル11:pH6.8)、カゼインを含有していても塩味の持続感を感じないことがわかった。また、pHが低くなるにつれ塩味の持続感が強く感じられ、pH5.0になると十分に塩味の持続感が感じられることがわかった。
【0052】
[実施例4](様々なカゼイン含有素材による塩味の持続感付与効果の検証)
【0053】
(1)無脂肪乳濃縮物の調製
無脂肪乳を分子量20万のフィルターを使用して限外ろ過により濃縮した。限外ろ過には、攪拌式ウルトラフィルター「UHP−76K」(商品名、アドバンテック東洋株式会社製)及びウルトラフィルター「Q2000 076E」(商品名、アドバンテック東洋株式会社製)を使用した。200gの無脂肪乳を100gまで濃縮した時点で蒸留水100gを加えて限外ろ過を継続した。この工程を3回繰り返し、最終的に100gまで濃縮し、無脂肪乳濃縮物を得た。
【0054】
(2)ドレッシングの製造
表4の配合のドレッシングのサンプル12〜16を製造した。詳細には、表4の配合割合に示す原料を上から記載順に混合・攪拌し、得られたドレッシングを300mL入りのPET容器に充填し密栓した。
【0055】
ただし、サンプル14、15、16については、表4に記載の原料(食用植物油脂以外のもの)を攪拌・混合した後、さらに食用植物油脂を混合し、ホモジナイズ(12000rpmで2分間)して、乳化することで、液状ドレッシングを得た。サンプル14、15、16のキサンタンガムの量は、サンプル12、13の量と異なるが、これはサンプル間で粘度を合わせるために調整しているからである。
【0056】
なお、本実施例ではカゼインを含有する原料として、乳タンパク質(森永乳業株式会社製、商品名「タツア400」)、(1)で製造した無脂肪乳濃縮物、カゼインナトリウム(日本新薬株式会社製、商品名「ハプロR」)を用いた。なお、無脂肪乳濃縮物はカゼインを5.7質量%の割合で、カゼインナトリウム(日本新薬株式会社製、商品名「ハプロR」)はカゼインを92.5質量%の割合で含んでいる。
【0057】
得られたドレッシングの食塩含有量、pH、カゼイン含有量、油分含有量は、表4に記載したとおりである。
【0058】
(2)試食評価
上記(1)で製造したドレッシングのサンプル12〜16を、5名のパネルに試食してもらい、3段階で評価を行った。また、各サンプルについてコメントを付した。その結果を表4に示す。
【表4】

【0059】
上記の結果より、カゼインは、乳タンパク質、無脂肪乳濃縮物、カゼインナトリウムのいずれの形態によって食品に含有していても、同様に塩味の持続感付与の効果があることがわかった。また、少量(10質量%)の油分が含まれている場合であって、元々塩味の持続感を感じる場合であっても、カゼインを含有させることでさらに塩味の持続感が強く感じられるようになることがわかった。
【0060】
[実施例5](粉末食品にカゼインを含有させることによる塩味の持続感付与効果の検証)
【0061】
(1)カゼイン含有粉末調味料の調整
自社製品である「ミツカン中華の素 酢豚」に下記配合で乳タンパク質を混合し、粉末調味料Aを調製した。得られた粉末調味料Aには12.9質量%のカゼインが含まれている。
【0062】
<粉末調味料Aの配合割合>
・「ミツカン中華の素 酢豚」 85.7%
・乳タンパク質(森永乳業株式会社製「タツア400」) 14.3%
合計 100%
【0063】
なお、「ミツカン中華の素 酢豚」は食塩を10.2質量%含有するため、粉末調味料Aは食塩を8.7質量%含有するものとなる。「ミツカン中華の素 酢豚」のpHは3.5であり、また、粉末調味料AのpHは4.1である。ここで、pHは、「ミツカン中華の素 酢豚」または粉末調味料Aを所定量の水(それぞれの調理例に記載の水の量)に溶解し、実際使用するあんの状態で測定したものである。
【0064】
(2)酢豚の調理
(調理例a)豚ロース肉165gを2cm角に切り、しょうゆ7.5mL、料理酒7.5mLで下味を付けて揉み込み、10分静置後、30gの片栗粉をまぶして170℃の食用植物油脂で3分間揚げた。にんじん50gを乱切りにして熱湯で1分間下茹でした。たまねぎ65g及びピーマン25gを乱切りにした。これらの具材を、油を使用せずに炒めた後、粉末調味料A35gを水80gに溶解させたあんを用いて、酢豚aを調理した。
【0065】
(調理例b)調理例aと同様に準備した具材を、油を使用せずに炒めた後、「ミツカン中華の素 酢豚」30gを水80gに溶解させたあんを用いて、酢豚bを調理した。
【0066】
(調理例c)調理例aと同様に準備した具材を、20gの食用植物油脂を使用して炒めた後、「ミツカン中華の素 酢豚」30gを水80gに溶解させたあんを用いて、酢豚cを調理した。
【0067】
(3)試食評価
上記(2)で製造した酢豚a〜cを、5名のパネルに試食してもらい、3段階で評価を行った。また、各サンプルについてコメントを付した。その結果を表5に示す。
【表5】

【0068】
上記の結果より、調理時に食用直物油脂を使わないと(酢豚b)、油脂を使った場合(酢豚c)に比べ塩味の持続感が不足するが、粉末調味料にカゼインを含有させることで(酢豚a)、油脂を用いないにも関わらず、油脂を用いたときと同様に塩味の持続感を感じることがわかった。つまり、粉末調味料においてもカゼインを含有させることで、塩味の持続感を付与することができることがわかった。
【0069】
次に、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする非乳化酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、塩味の持続感付与作用を主目的とするカゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、乳化作用を主目的としないカゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有し、pHが5.5以下である酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有し、pHが5.0以下である酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有し、pHがカゼインの等電点以下の値である酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼイン及びカゼイン塩から選択される少なくとも1種を0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼイネートの添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有する一方で乳脂肪分及び乳糖の含有量が合計で0.1質量%未満であることを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼイネートの添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、乳を原料として乳脂肪分及び乳糖を除去して得た乳タンパク質の添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、乳を原料として得られた固形分中のカゼイン濃度が80質量%以上の乳タンパク質の添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼインの酵素未処理品の添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、未分解状態のカゼインの添加によって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の液体状または半固形状食品であって、カゼインを0.5質量%以上10質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の粉末状食品であって、カゼインを0.5質量%以上40質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、唾液中に含まれる糖タンパク質と結合可能なタンパク質を0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、ムチンと結合可能なタンパク質を0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、精製されたカゼイン、カゼインナトリウム、及びこれら以外の固形分中のカゼイン含量が80質量%以上の乳タンパク質から選択される1種以上を添加することにより、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品(ただし乳製品を除く)であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品に、カゼインを含有させることにより、乳特有の風味を付与することなく塩味の持続感を付与することを特徴とする酸性食品の食味改善方法。
・油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品(ただし乳製品を除く)に、カゼインを含有させることにより、乳特有の風味を付与することなく塩味の持続感を付与することを特徴とする酸性食品の食味改善方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品であって、カゼインを0.5質量%以上50質量%以下含有することを特徴とする酸性食品。
【請求項2】
精製されたカゼイン、カゼインナトリウム、及びこれら以外の乳タンパク質から選択される1種以上を添加することにより、前記カゼインを含有させたことを特徴とする請求項1に記載の酸性食品。
【請求項3】
前記食塩の含有量が、食品当たり0.5質量%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の酸性食品。
【請求項4】
前記油分の含有量が、食品当たり3質量%未満であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸性食品。
【請求項5】
前記酸性食品が、ノンオイルまたは低オイルの液体調味料であることを特徴とする請求項4に記載の酸性食品。
【請求項6】
油分が15質量%未満でありかつ食塩を含有する酸性の食品に、カゼインを含有させることにより塩味の持続感を付与することを特徴とする酸性食品の食味改善方法。

【公開番号】特開2011−41509(P2011−41509A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191492(P2009−191492)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【特許番号】特許第4437840号(P4437840)
【特許公報発行日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】