説明

ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル

【課題】 飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れ、かつ透磁率の大きいトロイダルコアを備えたノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルを提供する。
【解決手段】 ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は、トロイダルコア3と、ノーマルモードチョークコイル部1Nとコモンモードチョークコイル部1Cからなる第1のコイル1と、コモンモードチョークコイル部2Cからなる第2のコイル2を備え、トロイダルコア3は、Fe‐Niを主成分とする圧粉磁心からなり、ギャップが設けられておらず、第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cと第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cは巻数が同じであり、第1のコイル1のノーマルモードチョークコイル部1Nとコモンモードチョークコイル部1Cは巻回方向が同じであるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルに関し、更に詳しくは、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れ、かつ透磁率の大きいトロイダルコアを備えた、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器、電子機器においては、外部からノイズを受けて誤作動することがないように、また他の機器にノイズを与えて誤作動させることがないように、例えば、電源ラインや、信号ラインに、ノーマルモードチョークコイル及びコモンモードチョークコイルが使われている。ノーマルモードチョークコイルはノーマルモードノイズを除去するためのもの、コモンモードチョークコイルはコモンモードノイズを除去するためのものである。
【0003】
従来、ノーマルモードチョークコイルとコモンモードチョークコイルは、互いに別部品として構成され、それぞれ別々に、電源ラインや信号ラインに挿入されていた。しかしながら、両機能を1つの部品にまとめると、機器に使用する部品点数を削減でき、材料費用を削減できるなどの利点があるため、両機能を兼ね備えたチョークコイルが開発されている。例えば、特許文献1(実開平4‐67309号出願明細書)には、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルが開示されている。
【0004】
特許文献1に開示されたノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルは、ドーナツ状のトロイダルコアを備え、トロイダルコアの半分に、第1のコイルが巻回され、トロイダルコアの残りの半分に、第2のコイルが巻回されている。第1のコイルと第2のコイルは巻数が異なり、例えば、第1のコイルの巻数は第2のコイルの巻数よりも多い。
【0005】
特許文献1のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルは、電源ラインや信号ラインの、一方のラインに第1のコイルが挿入され、他方のラインに第2のコイルが挿入されて使用される。そして、ノーマルモードノイズに対しては、第1のコイルの巻数から、第2のコイルの巻数を差し引いた、第1のコイルの残りの巻数部分が、ノーマルモードチョークコイルとして機能する。一方、コモンモードノイズに対しては、第2のコイルと、第1のコイルの第2のコイルの巻数と同数の巻数部分が、コモンモードチョークコイルとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4‐67309号出願明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルには、次のような問題があった。
【0008】
すなわち、トロイダルコアの材料として、Mn‐Zn系フェライト、アモルファス材、珪素鋼板などを用いると、透磁率は大きいが、電流が大きくなると磁気飽和により直流重畳特性が悪くなり、ノーマルモードチョークコイルとして機能しなくなるという問題があった。このため、コアにギャップを設け、直流重畳特性の改善を図ることが行われているが、コアにギャップを設けると、使用中にギャップ部分が振動して異常音が発生する、いわゆる“鳴き現象”が発生するという別の問題があった。
【0009】
また、別の方法として、コアに、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れた、圧粉磁心(ダストコア)を用いることも行われている。圧粉磁心は、強磁性体粉末の表面を絶縁被膜で覆った上で、加圧成形しで形成したものである。圧粉磁心は、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れる。しかしながら、圧粉磁心は透磁率が小さいため、圧粉磁心をトロイダルコアに用いた場合には、コイルの巻数を多くしなければならず、製造に手間がかかる、コイル線材の費用が大きくなる、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルが大型化するなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した従来のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルの問題点を改善するためになされたものである。その手段として、本発明のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルは、トロイダルコアと、トロイダルコアに巻回された、ノーマルモードチョークコイル部とコモンモードチョークコイル部からなる第1のコイルと、トロイダルコアに巻回された、コモンモードチョークコイル部からなる第2のコイルを備え、トロイダルコアは、Fe‐Niを主成分とする圧粉磁心からなり、ギャップが設けられておらず、第1のコイルのコモンモードチョークコイル部と第2のコイルのコモンモードチョークコイル部は、巻数が同じであり、第1のコイルのノーマルモードチョークコイル部と第1のコイルのコモンモードチョークコイル部は、巻回方向が同じであるようにした。
【0011】
なお、上記の圧粉磁心は、例えば、表面に絶縁被膜が被覆されたFe‐Ni合金を原料にして作製することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルは、トロイダルコアに圧粉磁心を用いており、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れているため、電流が大きくなっても、ノーマルモードチョークコイルとしての機能が損なわれることがない。従って、トロイダルコアにギャップを設ける必要がなく、使用中に“鳴き現象”が問題になることがない。
【0013】
また、本発明のノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイルは、トロイダルコアの圧粉磁粉の主成分は、透磁率の大きいFe‐Niを用いているため、第1のコイル及び第2のコイルの巻数を多くする必要がなく、全体が大型化してしまったり、製造に手間がかかったり、コイル線材の費用が大きくなってしまったりすることがない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面とともに、本発明を実施するための形態について説明する。
【0016】
本実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は、第1のコイル1と、第2のコイル2が、トロイダルコア3に巻回された構造からなる。
【0017】
トロイダルコア3は、Fe‐Niを主成分とした圧粉磁心からなり、ドーナツ状で、ギャップは有していない。トロイダルコア3の大きさは、例えば、厚み10mm、内径30mm、外径50mmとされる。
【0018】
トロイダルコア3は、圧粉磁心により構成されているため、飽和磁束密度が高く、直流重畳特性に優れているため、大きな電流が流れても飽和せず、ノーマルモードチョークコイルとしての機能が損なわれることがない。従って、トロイダルコア3には、ギャップを設ける必要がない。
【0019】
また、トロイダルコア3には、主成分に透磁率の大きいFe‐Niの圧粉磁粉が用いられており、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は、第1のコイル1及び第2のコイル2の巻数を多くしなくても、ノーマルモードチョークコイルやコモンモードチョークコイルとして機能する。
【0020】
第1のコイル1及び第2のコイル2には、例えば、直径がΦ1.3からなる、ポリエステル銅線が用いられる。
【0021】
第1のコイル1の巻数は、第2のコイル2の巻数よりも多い。例えば、第1のコイル1の巻数は15ターン、第2のコイル2の巻数は10ターンとされる。
【0022】
第1のコイル1は、ノーマルモードチョークコイル部1Nと、コモンモードチョークコイル部1Cからなる。
【0023】
第2のコイル2は、コモンモードチョークコイル部2Cのみからなる。従って、第2のコイルのコモンモードチョークコイル部2Cの巻数は10ターンである。
【0024】
第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cの巻数は、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cの巻数と同じである。すなわち、上記の例では、第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cの巻数は、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cの巻数と同じ10ターンとされる。そして、第1のコイル1の巻数である15ターンから、コモンモードチョークコイル部1Cの巻数である10ターンを引いた残りの5ターンが、第1のコイル1のノーマルモードチョークコイル部1Nの巻数となる。
【0025】
なお、第1のコイル1において、ノーマルモードチョークコイル部1Nがどの部分であり、コモンモードチョークコイル部1Cがどの部分であるかを、厳密に区別することはできない。あくまでも巻数として把握され、上記の例であれば、第1のコイル1のうち、5ターンがノーマルモードチョークコイル部1N、10ターンがコモンモードチョークコイル部1Cとして把握される。
【0026】
第1のコイルにおいて、ノーマルモードチョークコイル部1Nと、コモンモードチョークコイル部1Cは、巻回方向が同じである。これは、コモンモードノイズを受けた場合に、コモンモードチョークコイル部1Cで発生した磁束を、ノーマルモードチョークコイル部1Nで打ち消すことがないようにしたものである。
【0027】
第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cと、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cは、コモンモードノイズを受けた場合に、それぞれがトロイダルコア3に発生させる磁束の向きが同じとなる方向に巻回されている。すなわち、例えば、図1に示すように、第1のコイル1の巻回方向と、第2のコイル2の巻回方向が、仮想線である破線A‐Aにより対象となるように巻回される。あるいは、これに代えて、第1のコイルと第2のコイルを平行にして、両者を同じ方向に巻回するようにしても良い。なお、第1のコイル1と第2のコイル2の絶縁性を確保するためには、前者の方法(図1に示す方法)が、後者の方法よりも優れている。
【0028】
このような構造からなる本実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は、例えば、次の方法で製造される。
【0029】
まず、トロイダルコア3の材料となる、Fe‐Niを主成分とする強磁性体粉を用意する。例えば、D50が50μm、Feが45重量%、Niが55重量%からなるFe‐Ni合金の強磁性体粉を用意する。ただし、粒子径や、FeとNiの比率は、上記には限られない。
【0030】
次に、強磁性体粉の表面を、例えば、シリコーン樹脂からなる絶縁被膜で被覆する。ただし、絶縁被膜の種類は上記には限られず、他の種類の樹脂であっても良い。あるいは、リン酸処理などを施し、強磁性体の表面に酸化物絶縁体を形成するようにしても良い。
【0031】
次に、絶縁被膜の被覆された強磁性体粉を、所望の形状からなる金型に充填し、加熱及び加圧して、トロイダルコア3を得る。加熱は例えば250℃、加圧は例えば700MPaとされるが、これらの値には限られない。
【0032】
次に、汎用されている巻線装置を用いて、トロイダルコア3に、それぞれ所定の巻数からなる第1のコイル1及び第2のコイル2を巻回し、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は完成する。
【0033】
本実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100は、電源ラインや信号ラインの、一方のラインに第1のコイル1が挿入され、他方のラインに第2のコイル2が挿入されて使用される。
【0034】
そして、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100がノーマルモードノイズを受けた場合には、第1のコイル1のノーマルモードチョークコイル部1Nにインピーダンスが発生し、ノーマルモードチョークコイルとして機能する。このとき、第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cがトロイダルコア3に発生させる磁束と、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cがトロイダルコア3に発生させる磁束は、向きが逆となり、相互に打消し合うため、これらの部分は、ノーマルモードチョークコイルとしての機能にほとんど影響を与えない。
【0035】
一方、ノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100がコモンモードノイズを受けた場合には、第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cと、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cは、トロイダルコア3に同じ向きの磁束を発生させ、両者は足し合わされるため、第1のコイル1のコモンモードチョークコイル部1Cと、第2のコイル2のコモンモードチョークコイル部2Cの両方にインピーダンスが発生し、コモンモードチョークコイルとして機能する。このとき、第1のコイル1のノーマルモードチョークコイル部1Nは、コモンモードチョークコイル部1Cを補足するように機能する。
【0036】
以上、本発明の実施形態にかかるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル100の構造、製造方法の一例、及び使用方法の一例について説明した。しかしながら、本発明が上述した内容に限定されることはなく、発明の趣旨に沿って、種々の変更をなすことができる。
【0037】
例えば、トロイダルコア3の形状、大きさなどは任意であり、上述した内容には限られない。例えば、トロイダルコア3の形状は、上述したドーナツ状ではなく、中央に孔を有する多角形状であっても良い。
【0038】
また、第1のコイル1及び第2のコイル2の材質、直径、巻数なども任意であり、上述した内容には限られない。
【符号の説明】
【0039】
1:第1のコイル
1N:ノーマルモードチョークコイル部
1C:コモンモードチョークコイル部
2:第2のコイル
2C:コモンモードチョークコイル部
3:トロイダルコア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロイダルコアと、
前記トロイダルコアに巻回された、ノーマルモードチョークコイル部とコモンモードチョークコイル部からなる第1のコイルと、
前記トロイダルコアに巻回された、コモンモードチョークコイル部からなる第2のコイルを備え、
前記トロイダルコアは、Fe‐Niを主成分とする圧粉磁心からなり、ギャップが設けられておらず、
前記第1のコイルのコモンモードチョークコイル部と前記第2のコイルのコモンモードチョークコイル部は、巻数が同じであり、
前記第1のコイルのノーマルモードチョークコイル部と前記第1のコイルのコモンモードチョークコイル部は、巻回方向が同じであるノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル。
【請求項2】
前記圧粉磁心が、表面に絶縁被膜が被覆されたFe‐Ni合金を原料に作製されている、請求項1に記載されたノーマルモード及びコモンモード兼用チョークコイル。

【図1】
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【図2】
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