説明

ハイドレート製造輸送方法

【課題】ハイドレートの輸送効率を向上しうるハイドレートの製造輸送方法を提供すること。
【解決手段】メタンを主体とする混合ガスaを、所定温度以下、平衡圧力以上の圧力で水bに混合接触させてハイドレートaを生成し、該ハイドレートdを水bと一緒にスラリー貯槽3に移送する。スラリー貯槽3でスラリーから余分な水bを除去してスラリー濃度を高め、しかる後に、スラリー濃度の高いハイドレートをスラリー貯槽3ごと中継基地に輸送する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、天然ガスなどのメタンを主体とする混合ガスと水または不凍液からハイドレートを生成し、該ハイドレートを水または不凍液と一緒に輸送するハイドレート製造輸送方法に関する。
【0002】
【従来の技術】天然ガスなどのメタンを主体とする混合ガス(以下、混合ガスと称する)を、ガスタンクまたはガスボンベに充填して中継基地に輸送する場合には、混合ガスを圧縮機によって略200kg/cm2 に昇圧する必要がある。
【0003】しかし、ガスタンクまたはガスボンベから中継基地の貯蔵タンクに混合ガスを払いだす場合、ガスタンクまたはガスボンベの残圧により混合ガスを、ガスタンクまたはガスボンベから貯蔵タンクに100%払いだすことができない。
【0004】従って、払いだせなかった混合ガスは、ガスタンクまたはガスボンベと一緒に持ち帰ることになるため、輸送コストが増大するという問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】一方、天然ガスをハイドレート設備により温度0℃〜10℃、圧力15〜70ataの範囲の任意値に調整された水中に吹き込んでハイドレートを生成することが知られている(特開2001−192683号公報参照)。
【0006】このハイドレートは、水分子が弱く結合して形成された籠状構造体内に、天然ガスの成分であるメタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素が閉じ込められたシャーベット状の固体化合物であるから、例えば、配管やタンクローリー車などを用いて輸送することができる。
【0007】しかし、シャーベット状のハイドレートは、ハイドレート以外に多量の水を含んでいるので、そのまま輸送すると、ハイドレートの輸送効率が低下することになる。
【0008】本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、ハイドレートの輸送効率を向上しうるハイドレートの製造輸送方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため、本発明は、次のように構成されている。
【0010】(1) メタンを主体とする混合ガスを、所定温度以下、平衡圧力以上の圧力で水または不凍液に混合接触させてハイドレートを生成し、該ハイドレートを水または不凍液と一緒にスラリー貯槽に移送し、該スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去してスラリー濃度を高め、しかる後に、スラリー濃度の高いハイドレートをスラリー貯槽ごと中継基地に輸送することを特徴とするハイドレート製造輸送方法。
【0011】(2) スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去する際に、ハイドレートと水または不凍液とを網状物により分離する(1)記載のハイドレート製造輸送方法。
【0012】(3) スラリー貯槽を可搬ユニットに設置するとともに、該可搬ユニットに、少なくともスラリー貯槽内のハイドレートを循環又は払いだすハイドレート供給ポンプ、及びハイドレート冷却装置を設置する(1)又は(2)記載のハイドレート製造輸送方法。
【0013】(4) スラリー貯槽内のハイドレートを、中継基地の気化タンクに供給する(1)又は(3)記載のハイドレート製造輸送方法。
【0014】(5) スラリー貯槽内のハイドレートに十分な流動性を確保できない場合、貯蔵タンクに水又は温水を散布し、貯蔵タンク内で気化させる方法。
【0015】ここで、ハイドレート生成時の最終スラリー濃度、及びハイドレートを水または不凍液と一緒にスラリー貯槽に移送する時のスラリー濃度は、生産性及び流動性を考慮して設定することが望ましく、例えば、10〜35%、更には、20〜30%が好ましい。
【0016】また、スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去してスラリー濃度を高める場合には、貯蔵性及び流動性を考慮して設定することが望ましく、例えば、40〜70%、更には、50〜60%が好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0018】図1は、本発明に係るハイドレート製造輸送方法を実施する設備の概略図、図2は、当該設備の配置図である。
【0019】図1及び図2に示すように、この設備は、ハイドレート生成装置A、及び可搬ユニットBから構成されている。
【0020】ハイドレート生成装置Aは、主に、ハイドレート生成器1、生成水タンク2、バッファータンク4、ガス冷却器5、ハイドレート冷却器6、生成水冷却器8、ガス圧縮機9、生成水供給ポンプ10、ハイドレート循環ポンプ11、ブライン用循環ポンプ13a、生成器用攪拌機14、散気用エジェクター15、圧損計19から構成されている。
【0021】一方、可搬ユニットBは、主に、ハイドレート貯槽3、供給ハイドレート冷却器7、ハイドレート供給ポンプ12、ブライン用循環ポンプ13bから構成されている。
【0022】次に、図8のフロー図にしたがってハイドレートを製造して中継基地に輸送する工程について説明する。
【0023】先ず、混合ガス製造装置(図示せず)によりメタンを主体とする混合ガスaを生成する(101)。この混合ガスaは、ガス圧縮機9によって、例えば、29kg/cm2 に昇圧(102)された後、ガス冷却器5によって、例えば、2℃に冷却(103)され、バッファータンク4に貯蔵される(104)。バッファータンク4は、ハイドレート生成器1の急激な圧力変動に対応するように設けられている。図中、20はアフタークーラー、21は圧力計、22は温度計を示している。
【0024】一方、生成水タンク2に貯蔵(105)された上水bは、生成水タンク2→生成水供給ポンプ10→生成水冷却器8→生成水タンク2から構成される第1循環経路23を循環し、その間に生成水冷却器8によって、例えば、2℃に冷却される(106)。そして、所定温度(例えば、2℃)になると(107)、生成水供給ポンプ10によってハイドレート生成器1に供給される(108)。
【0025】バッファータンク4内の混合ガスaは、ハイドレート生成器1に設けられている攪拌機14の回転軸26に供給され、当該回転軸26に設けられている微細な孔27からハイドレート生成器1の上水b内に噴出される(108)。そして、上水bと混合接触してハイドレートdを生成する(109)。ハイドレートdは、水分子が結合して形成された籠状構造体内に、メタンを主体とする混合ガスの炭化水素が閉じ込められたシャーベット状の固体化合物である。
【0026】攪拌機14の駆動系は、マグネット式になっており、モーター28の回転が回転軸26に間接的に伝達されるようになっている。
【0027】ハイドレート生成器1内のハイドレートd及び上水bは、ハイドレート生成器1→ハイドレート循環ポンプ11→ハイドレート冷却器6→圧損計19→散気用エジェクター15→ハイドレート生成器1から構成される第2循環経路29を循環し、その間にハイドレート化が進行する。
【0028】即ち、散気用エジェクター15は、ハイドレート循環ポンプ11により循環しているハイドレートdをハイドレート生成器1の上水b中に噴射するようになっている(112)。すると、ハイドレート生成器1の上部に溜まっている混合ガスaが散気用エジェクター15に設けられているシュノーケル30から散気用エジェクター15に導入され、ハイドレート生成器1の上水b中に細かい気泡として噴射されるからである。その間、ハイドレートd及び上水bは、ハイドレート冷却器6及びハイドレート生成器1の外側に設けた冷却チューブ31によって、例えば、2℃に保持される(111)。
【0029】そして、圧損計19によってハイドレートdのスラリー濃度を測定し、その濃度が、例えば、30%に達するまで(113)、ハイドレート生成器1内のハイドレートd及び上水bを循環させる。
【0030】ところで、図1に示すように、ハイドレート生成器1側の配管32,33と、ハイドレート貯槽3側の配管34,35とは、予め、フレキシブルな連結チューブ36,37を介して連通されている。
【0031】しかして、図3に示すように、ハイドレートdのスラリー濃度が、例えば、30%に達すると(113)、第2循環経路29に設けられているバブル38を閉じ、しかる後に、ハイドレート生成器1側の配管32,33のバルブ39,40と、ハイドレート貯槽3側の配管34,35のバルブ41,42とを開く。すると、図4に示すように、ハイドレート生成器1内のハイドレートdと上水bとがハイドレート循環ポンプ11によって払いだされ、スラリーとなってハイドレート貯槽3に供給される。ハイドレート生成器1内のハイドレートdと上水bとが全て払いだされると、上記バルブ39,40,41,42を閉じるとともに、バルブ38を開いてハイドレートの生成を再開する。なお、ハイドレート貯槽3内の混合ガスaは、配管32,34を通ってハイドレート生成器1に戻される。
【0032】ハイドレートは、ハイドレート貯槽3内で圧力約9.8kg/cm2 、温度2℃で貯蔵される。
【0033】上記のように、ハイドレート生成器1内のハイドレートdと上水bとがハイドレート貯槽3内に供給されると、ハイドレート貯槽3を可搬ユニットBごと中継基地(図示せず)に輸送するのであるが、その前に、ハイドレート貯槽3内のスラリー濃度をアップする。
【0034】図5に示すように、ハイドレート貯槽3は、その底部に液溜部43を備えるとともに、液溜部43の上端部に網状物(メッシュ)44を設けて液溜部43内にハイドレートdが入り込まないようになっているので、ハイドレート自圧により、水分のみが押し出され、液溜部43内に溜まる。そこで、ポンプ45によって液溜部43内の上水bを排水し、ハイドレート貯槽3内のスラリー濃度を、例えば、50%にアップさせる(114)。排水された上水bは、図示しないタンクに溜め、生成水タンク2に戻される。
【0035】ハイドレート貯槽3内に貯蔵(115)されたハイドレートdは、ハイドレートどうしが結合しないように、ハイドレート貯槽3→ポンプ46→ハイドレート供給ポンプ12→供給ハイドレート冷却器7→ハイドレート貯槽3からなる第3の循環経路47を循環する。その間、ハイドレートdは、供給ハイドレート冷却器7によって、例えば、2℃に保持される(116)。
【0036】次に、図6に示すように、ハイドレート生成装置Aから可搬ユニットBを切り離してトラック(図示せず)に搭載し、中継基地(図示せず)に輸送する(117)。輸送中もハイドレートdどうしが結合しないように、ハイドレート貯槽3→ポンプ46→ハイドレート供給ポンプ12→供給ハイドレート冷却器7→ハイドレート貯槽3からなる第3の循環経路47内を循環させる。その間、スラリー状のハイドレートは、供給ハイドレート冷却器7によって、例えば、2℃に保持される(116)。可搬ユニットBの切り離しは、接続用のフレキシブルチューブ36,37の箇所で行われる。
【0037】中継基地に輸送された可搬ユニットBは、トラックから降ろされた後(118)、図7に示すように、ハイドレート貯槽3の配管34が気化タンク48の配管49に接続される。しかる後に、ハイドレート貯槽3の配管34に設けられているバルブ50を開いてハイドレート供給ポンプ46を駆動させると、ハイドレート貯槽3から気化タンク48にスラリー状のハイドレートdが供給される。気化タンク48内に供給されたスラリー状のハイドレートdは、温水eによって加熱され、メタンを主体とする混合ガスaに戻り(121)、消費者へ供給される(121)。
【0038】気化タンク48の配管49に設けたバルブ51は、ガス消費量に応じて自動調節される。即ち、気化タンク48の蓋部52に取り付けたラック53が、蓋部52の上下運動に同調して上下し、バルブ51を開けしめするからである。
【0039】なお、輸送トラックは、可搬ユニットBを中継基地に残して回送される(122)。また、気化タンク48からオーバーフローした上水は、回収されるが、この上水を生成水タンクに戻して再利用する。
【0040】以上の説明では、生成水として、上水を用いる場合について説明したが、上水の代わりに不凍液を用いても差し支えがない。また、スラリー貯槽3内のハイドレートdに十分な流動性を確保できない場合、貯蔵タンク(スラリー貯槽)3に水又は温水を散布し、貯蔵タンク3内で気化させることもできる。
【0041】
【発明の効果】上記のように、本発明は、メタンを主体とする混合ガスを、所定温度と平衡圧力以上の圧力で水または不凍液に混合接触させてハイドレートを生成し、該ハイドレートを水または不凍液と一緒にスラリー貯槽に移送し、該スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去してスラリー濃度を高め、しかる後に、スラリー濃度の高いハイドレートをスラリー貯槽ごと中継基地に輸送するので、スラリー中に占めるハイドレートの割合が増加し、ハイドレートの輸送効率が飛躍的に向上するようになった。
【0042】また、本発明によれば、29kg/cm2 程度の比較的低圧でハイドレートの製造、貯蔵が可能となり、従来に比べて省エネルギーを計ることが可能になった。
【0043】また、中継基地に輸送したハイドレートを100%払いだすことが可能になり、計画的な配送が可能となるため、従来に比べて輸送コストの低減を計ることが可能になった。
【0044】また、本発明は、スラリー貯槽を可搬ユニットに設置するとともに、該可搬ユニットに、少なくともスラリー貯槽内のハイドレートを循環又は払いだすハイドレート供給ポンプ、及びハイドレート冷却装置を設置したので、貯蔵中や輸送中もハイドレートどうしの結合を防ぐことが可能になり、ハイドレートの払い出しが容易になった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るハイドレート製造輸送方法を実施する設備の概略図である。
【図2】当該設備の配置図である。
【図3】ハイドレートが所定濃度に達したときの説明図である。
【図4】ハイドレートをハイドレート生成器からハイドレート貯槽に移送させた説明図である。
【図5】ハイドレート貯槽のスラリー濃度を高める説明図である。
【図6】可搬ユニットをトラックにて輸送する説明図である。
【図7】可搬ユニットのハイドレート貯槽から気化タンクにスラリー状のハイドレートを供給する説明図である。
【図8】本発明のフロー図である。
【符号の説明】
a メタンを主体とする混合ガス
b 水
d ハイドレート
3 スラリー貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】 メタンを主体とする混合ガスを、所定温度以下、平衡圧力以上の圧力で水または不凍液に混合接触させてハイドレートを生成し、該ハイドレートを水または不凍液と一緒にスラリー貯槽に移送し、該スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去してスラリー濃度を高め、しかる後に、スラリー濃度の高いハイドレートをスラリー貯槽ごと中継基地に輸送することを特徴とするハイドレート製造輸送方法。
【請求項2】 スラリー貯槽にて余分な水または不凍液を除去する際に、ハイドレートと水または不凍液とを網状物により分離する請求項1記載のハイドレート製造輸送方法。
【請求項3】 スラリー貯槽を可搬ユニットに設置するとともに、該可搬ユニットに、少なくともスラリー貯槽内のハイドレートを循環又は払いだすハイドレート供給ポンプ、及びハイドレート冷却装置を設置する請求項1又は2記載のハイドレート製造輸送方法。
【請求項4】 スラリー貯槽内のハイドレートを、中継基地の気化タンクに供給する請求項1又は3記載のハイドレート製造輸送方法。
【請求項5】 スラリー貯槽内のハイドレートに十分な流動性が無い場合は、貯蔵タンク内ハイドレートに水又は温水を散布することにより、貯蔵タンク内で気化させる方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−95998(P2003−95998A)
【公開日】平成15年4月3日(2003.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−297324(P2001−297324)
【出願日】平成13年9月27日(2001.9.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】