説明

ハイドロゲル塗工和紙及びその製造装置

【課題】湿度に強く、伸縮率の小さいハイドロゲル塗工和紙及びその和紙を安定的に製造する装置を提供すること。
【解決手段】和紙の材料を含む原料をローラによって引き伸ばし、薄板状に形成する抄紙機と、該抄紙機の次段に設置され、引き伸ばされた原料の少なくとも両表面にハイドロゲルを浸透させるため、2個の対称的に配置されたローラを有するプレス機と、前記プレス機の2個のローラが互いに協働しあう個所に、連続的に一定量のハイドロゲルが蓄積されるように、ハイドロゲルを供給するするゲル供給手段を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、湿度に弱い壁紙や金箔用裏打ち用紙等に最適な、新しいタイプのハイドロゲル塗工和紙及びその製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
和紙は、基本的にはコウゾ、ミツマタ等の繊維の絡みで構成されているため、繊維同士の隙間に水分を吸収したり、放散したりする性質がある。特に、和紙は長繊維のため繊維同士の隙間が大きく、より多くの水分を吸収し、放散する。
【0003】
上述の和紙の特性は、昔ながらの和紙の使用方法や、生活様式では、最大の利点であった。しかし、現在では、水分の吸水や放散によって繊維の伸縮が起きることや、水分を吸収し易いことで、次のような問題が起きている。
1) 壁紙施工後の継目のめくれ
2) 襖のそり
3) 紙製品の紙むけや変形
4) 結露によるカビの発生や、紙に含まれる異物(鉄分など)の酸化による変色
これらの問題は気候などの環境変化による要因が大きく、紙の中の水分を一定に保つことができないことが原因であることが知られている。
【0004】
上述の問題点を解決するために、本発明者等は、カルボキシメチルセルロースやカルボキシメチルデンプンなどの高吸水性ハイドロゲル(例えば、特許文献1に記載のゲル)に着目し、これらの和紙への適用を試みた。これらの高吸水性ハイドロゲルは、その内部の橋かけ構造により、水分を素早く吸収するが、吸収した水分を逃さない性質も持っている。そこで、和紙にハイドロゲルを塗工する研究開発を行った結果(非特許文献1参照)、上述の4つの問題点をある程度解決できたものの、製品化にはまだ不十分であることがわかった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−48997号公報
【非特許文献1】「福井新聞」2007年(平成18年)2月24日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、これまでの製造装置では、和紙にハイドロゲルを添加した後、ハイドロゲルを乾燥させる工程において、和紙が水分を吸収してしまうことがあるために、湿度に強いハイドロゲル塗工和紙を安定的に得ることが極めて困難であることがわかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、湿度に強く、伸縮の小さいハイドロゲル塗工和紙及びそれを安定的に供給できる製造装置を提供することにある。
【0008】
さらに、本発明の他の目的は、カビなどの発生を防ぐことができると共に、大腸菌などの細菌の繁殖も押さえることができる抗菌性のあるハイドロゲル塗工和紙及びその製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る和紙は、紙の両面に、内部に浸透するようにして高吸水性ハイドロゲルが塗工されている。紙の両面に、内部に浸透するようにして高吸水性のハイドロゲルを塗工することによって、和紙本体の吸水率を一定に保つことができ、和紙の欠点である湿度による伸縮を防止できる。
【0010】
本発明の別の観点に係る和紙は、抗菌剤を含む紙の両面に、内部に浸透するようにして高吸水性ハイドロゲルが塗工されている。抗菌剤としては、例えば放射線橋かけを行ったキトサンが有効である。
【0011】
また、本発明に係るハイドロゲル塗工和紙の製造装置は、以下の構成を持つ。すなわち、この製造装置は、和紙の原料等をローラによって引き伸ばし、薄板状に形成する抄紙機と、該抄紙機の次段に設置され、引き伸ばされた原料の少なくとも両表面にハイドロゲルを浸透させるため、2個の対称的に配置されたローラを有するプレス機と、前記プレス機の2個のローラが互いに協働する個所に、連続的に一定量のハイドロゲルが蓄積されるように、ハイドロゲルを供給するするゲル供給手段を備えている。このような構成をとることによって、上記段落に記載されたハイドロゲル塗工和紙を安定的に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって、ハイドロゲルを和紙の両面に塗工することで、従来の和紙とは全く性質の違った和紙が得られた。すなわち、今までの和紙にはなかった「水分安定性」のある和紙が得られた。また、抗菌剤を付加することで、これまでの和紙には存在しなかった「抗菌性を有する和紙」が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るハイドロゲル塗工和紙の製造装置の概略図であり、図2は、抄紙工程、乾燥工程に続いて行われる、ハイドロゲルの塗工工程で使用される改良されたサイズプレス機の拡大図を示している。
【0014】
図1において、初めに、原料投入機10に和紙の原料であるパルプ、コウゾ、ミツマタなどが適当量投入される。これの原料は原料調整機12において、それぞれ適切な配分に調整され、必要な場合には、この段階で、色素、抗菌剤などの補助剤が添加されて、一緒に混合される。調整された原料は、原料貯蔵タンク14に移送される。その後、原料は濃度調整機16に送られ、水分調製が行われた後、ミキシングボックス18に送られる。さらなる補助剤等を添加したい場合には、このミキシングボックス18において添加される。その後、原料は抄紙機20にかけられ抄紙され、乾燥機22で乾燥させられる。
【0015】
乾燥させられた和紙は、次に、サイズプレス機すなわち塗工機28によって、その両面に高吸水性ハイドロゲルが塗工される。このハイドロゲルは、事前に塗工液調整機26において、適切な濃度に調整されて、塗工機28に送られる。和紙は、この塗工機28において、内部に浸透するようにしてその表面付近を塗工された後、乾燥機30に送られ、ここで乾燥させられる。その後、最終製品として巻き取り機32によって巻き取られる。以上で、和紙の両面塗工が完了する。
【0016】
次に図2を参照して、改良されたサイズプレス機すなわち本発明に係る製造装置において使用される塗工機28についてさらに詳細に説明する。塗工液調整機(図示せず)において、適切な粘度に調製されたハイドロゲルは、配管34a及び34bを介してローラの上部に供給される。配管34a及び34bは、それぞれローラ38a及び38bの軸方向に沿って長く延びている。供給されたハイドロゲルは、配管34a及び34bの軸方向に沿って均等に開けられた開口から図示のように、それぞれ受板36a及び36bに流れ出るようになっている。ハイドロゲルはこの受板36a及び36bによって、ローラ38a及び38bの軸方向全長に渡ってほぼ均一の厚さになるように配分される。その後、ハイドロゲルは受板36a及び36bからそれぞれローラ38a及び38bの表面に供給される。なお、供給されるハイドロゲルが、2つのローラが協働する位置において、常時一定量だけ溜まるように、ローラの回転速度に合わせてその供給量が調製されるようになっている。図中、符号100は紙の流れを示し、波線はハイドロゲルの供給状態を模式的に表している。なお、上述の高吸水性ハイドロゲルは、背景技術において説明した特開2003−48997号公報に記載されたゲルと実質的に同一のゲルであっても良いし、カルボキシメチルセルロースゲルなどの他のゲルであっても良いことは、発明の原理から明らかである。
【0017】
上述の塗工工程において、塗工液調整機(図示せず)での塗工に必要な均一に分散したハイドロゲル溶液の作成について説明する。溶液は均一に分散させる必要があることから、その粘度があまり高くならないように、1%溶液と、2%溶液を作成した。これらの溶液は、固形分1%と、2%を水によく分散させた後に、熱で煮込み、1日〜3日の間熟成させ、均一なハイドロゲル溶液とした。ここで、固形分2%でもかなりの粘度を持つため、固形分が2%よりも大きい場合には、固形分が残留するなどして、均一の溶液を作成することは困難である。
【実施例1】
【0018】
(2.0%溶液を塗工)
再び、図1及び図2を参照しながら、本発明者等が行った実施例について説明する。初めに、原料投入機10に和紙の各種原料を投入し、原料調整機12においてそれらの原料の配分を調整すると共に、ここで対重量比3%のキトサンを添加した。調整した原料を、原料貯蔵タンク14に移送した後、濃度調整機16に送り、原料の水分調製を行った。その後、抄紙機20にかけて抄紙し、約150℃の蒸気を使用して乾燥機22において乾燥させた。
【0019】
次に、抄紙した和紙の両面に、改良されたサイズプレス機28を用いて、2%濃度の特開2003−48997号公報に記載の高吸水性デンプンゲルを塗工した。その後、両面塗工した和紙を乾燥機30に送り、約150℃の蒸気を使用して加熱乾燥し、最終製品として巻き取り機32によって巻き取った。
【0020】
その結果、図3から図6に示される特性を持つハイドロゲル塗工和紙が得られた。これらの特性から、高吸水性ハイドロゲルを和紙の両面に塗工することによって、特に浸水伸度、引張強度、表面強度において顕著な特性変化が見られた。
【比較例1】
【0021】
(0.8%溶液を塗工)
製造の仕方は、実施例1と同様にして行った。
【0022】
その結果、図7のような特性を有するハイドロゲル塗工和紙が得られた。このことから、0.8%溶液の塗布ではあまり効果が現れてはいないが、溶液濃度を1%以上とすれば、ある程度の効果があるものと考えられる。
(まとめ)
【0023】
以上まとめると、図3から図7に示されるように、0.8%(図7参照)に比べ、2%(図3から図6参照)の方が浸水伸度、引張強度、表面強度で効果があつた。特に、浸水伸度では大きな効果があつた。今回の試験を行った和紙は、長繊維を多く配合した原料を使用した一般的な和紙であったにも関わらず、塗布前と塗布後では0.3%の差が生じた。原料に短繊維を多く配合するなどすることにより、浸水伸度0.5%〜0.6%が確保できるものと考える。
【0024】
紙に水分が染みこみ易くした原紙(弱サイズ紙)にも塗工試験を行った結果、通常品に比べ、ゲル溶液が紙の内部にまで染み込んだために、普通紙より優れた結果が得られた。この場合、サイズ剤もゲルに混合し塗布することで、最大の効果が得られると考えられる。
【0025】
次に、上述の本発明に係る製造装置を用いて壁紙用和紙を製造した。2%のハイドロゲル溶液を塗工した製品の試験結果について、図8を用いて説明する。壁紙の専門メーカにて各種試験を行った結果、図8から明らかなように、本発明に係るハイドロゲル塗工和紙は、壁紙としての、防炎性能、防かび性、退色性、対摩擦性、隠ぺい性、湿潤強度、ホルムアルデヒド放出量、硫化汚染性及び施工性のいずれも、優れた特性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0026】
新機能の和紙として、住宅内装用、装飾用等数多くの用途が期待されている。特に、本発明によって製造された製品は、紙に弾力性がある上に、水による紙の伸び縮みが少ないので、壁紙や金箔用裏打ち用紙に最適である。
また、キトサンを3%混合することで、抗菌作用もあることが確認できたので、一般的な用途とは別に、例えば病院等の抗菌壁紙や、鮮度保持用の紙袋や箱などへの利用も期待されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るハイドロゲル塗工和紙の製造装置の概略構成図である。
【図2】図2は、ハイドロゲルの塗工工程で使用される改良されたサイズプレス機の概略構成の拡大図である。
【図3】図3は、2.0%ゲル溶液を塗工した製品の紙質試験の結果を示す図である。
【図4】図4は、2.0%ゲル溶液を塗工した製品の紙質試験の結果を示す図である。
【図5】図5は、2.0%ゲル溶液を塗工した製品の紙質試験の結果を示す図である。
【図6】図6は、2.0%ゲル溶液を塗工した製品の紙質試験の結果を示す図である。
【図7】図7は、0.8%ゲル溶液を塗工した製品の紙質試験の結果を示す図である。
【図8】図8は、2.0%ゲル溶液を塗工した製品の壁紙品質試験表を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10…原料投入機
12…原料調整機
14…原料貯蔵タンク
16…濃度調整機
18…ミキシングボックス
20…抄紙機
22…乾燥機
24…巻き取り機
26…塗工液調整機
28…塗工機
30…乾燥機
32…巻き取り機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
和紙の両面に、内部に浸透するようにして高吸水性ハイドロゲルが塗工されているハイドロゲル塗工和紙。
【請求項2】
抗菌剤を含む和紙の両面に、内部に浸透するようにして高吸水性ハイドロゲルが塗工されているハイドロゲル塗工和紙。
【請求項3】
請求項1または2に記載の和紙において、前記ハイドロゲルが対重量比1%以上2%以下であることを特徴とするハイドロゲル塗工和紙。
【請求項4】
和紙の原料等をローラによって引き伸ばし、薄板状に形成する抄紙機と、該抄紙機の次段に設置され、引き伸ばされた原料の少なくとも両表面にハイドロゲルを浸透させるため、2個の対称的に配置されたローラを有するプレス機と、前記プレス機の2個のローラが互いに協働しあう個所に、常時一定量のハイドロゲルが蓄積されるように、ハイドロゲルを供給するするゲル供給手段とを備えているハイドロゲル塗工和紙の製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の製造装置において、前記抄紙機の前段に、前記原料に抗菌剤を供給する手段を備えていることを特徴とするハイドロゲル塗工和紙の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−266823(P2008−266823A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−110400(P2007−110400)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【出願人】(507129189)石川製紙株式会社 (2)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】