説明

ハイドロゲル粒子の製造方法

【課題】媒体が水系の商品に配合した場合でも、油性成分がハイドロゲル粒子の外部に漏出することがないハイドロゲル粒子の製造方法を提供すること。
【解決手段】次の(A)成分〜(C)成分:(A)ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤、(B)油性成分、及び(C)界面活性剤、並びに水を含む混合物に、200〜5000[kW×分/m3]の攪拌エネルギーを付与して分散液を得る攪拌処理工程を有する、ハイドロゲル粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル粒子の製造方法、及びその製造方法により得られるハイドロゲル粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤を用いて、界面活性剤によって油性成分又は油性成分と固体粒子とを乳化・分散した分散液から製造されるハイドロゲル粒子としては、以下に挙げるものが知られている。
【0003】
特許文献1では、寒天溶液中でポリオキシエチレンラウリルリン酸ナトリウムのような界面活性剤を用いて、油性成分のみ又は油性成分とタルクをホモミキサーの攪拌(分散液総量500g,ホモミキサー回転数8000r/m,処理時間1分:後述の攪拌エネルギー量=67[kW×分/m3])により分散液を作製し、液滴を形成させた後、該液滴を冷却固化してハイドロゲル粒子を製造している。特許文献2では、寒天溶液中でモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタンのような界面活性剤を用いて、疎水化処理粉体及び油性成分を混合分散させ、型に流し込んで冷却固化している。
【特許文献1】特開2002−58990号公報
【特許文献2】特開平8−208435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、油性成分や固体粒子を、寒天溶液中でクリーミングや沈降を生じさせずに安定に配合させるために、界面活性剤が使用されている。しかしながら、界面活性剤を用いてハイドロゲル粒子を製造した場合、媒体が水系の商品にこのようなハイドロゲル粒子を配合すると、商品の保存、流通中に油性成分がハイドロゲル粒子の外部に漏出することが分かった。さらに、ハイドロゲル粒子に固体粒子を含有させようとする場合、分散液中で固体粒子が沈降してしまい、製品の均一性を保てないばかりか、固体粒子の偏在により粒子化に用いる噴霧ノズル等の閉塞を引き起こしてしまうことも分かった。
【0005】
従って、本発明の課題は、媒体が水系の商品に配合した場合でも、油性成分がハイドロゲル粒子の外部に漏出することがないハイドロゲル粒子の製造方法を提供することにある。さらに本発明の課題は、分散液中で固体粒子が沈降しないハイドロゲル粒子の製造方法を提供することにある。さらに本発明の課題は、かかる製造方法によって得られる、油性成分がハイドロゲル粒子の外部に漏出することがなく、分散液中で固体粒子が沈降しないハイドロゲル粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情を鑑み、本発明者らが鋭意検討を行った結果、分散液の調製時の攪拌エネルギーが不足すると、油性成分の外部への漏出や、分散液中の固体粒子の沈降が生じる傾向があることが分かった。さらに本発明者らが検討を進めた結果、分散液の調製時の攪拌エネルギーを特定の範囲とすることで、かかる課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕 次の(A)成分〜(C)成分:(A)ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤、(B)油性成分、及び(C)界面活性剤、並びに水を含む混合物に、200〜5000[kW×分/m3]の攪拌エネルギーを付与して分散液を得る攪拌処理工程を有する、ハイドロゲル粒子の製造方法;並びに
〔2〕 前記〔1〕に記載の製造方法により得られるハイドロゲル粒子;に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のハイドロゲル粒子の製造方法によれば、得られたハイドロゲル粒子の油性成分の外部への漏出や分散液中での固体粒子の沈降が生じない優れたハイドロゲル粒子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書にいう「ハイドロゲル粒子」とは、ハイドロゲル中に油性成分又は油性成分と固体粒子とを分散させた1個または複数個の粒子をいう。なお、ハイドロゲル粒子の概念には、外層である外皮と内層である芯成分とからなる、内層と外層が同心状のカプセルは含まれない。
【0010】
本明細書にいう「ハイドロゲル」とは、水を溶媒としてゲル化剤から得られたゲルをいう。また、本明細書にいう「非架橋型ハイドロゲル」とは、ゲル化がイオン、例えば、カリウムイオンやカルシウムイオン等との反応によって生じるのではなく、ゲル化剤が寒天である場合のようにゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるものをいう。寒天の水への溶解温度は、一般に75℃以上、その主なものについては75〜90℃であり、寒天を水に溶解させた後、冷却したときのゲル化温度は30〜45℃である。
【0011】
<(A)成分>
(A)成分は、ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤である。例えば、寒天、ゼラチン、ジェランガム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。これらの中では、寒天が好ましい。なお、用いる寒天のゼリー強度としては、使用時の感触の観点から、68.6kPa(700g/cm)以下が好ましく、19.6kPa(200g/cm)〜63.7kPa(650g/cm)がより好ましい。
【0012】
ここで、ゼリー強度は、日寒水式法により求められる。日寒水式法によれば、ゼリー強度は、ゲル化剤の1.5重量%水溶液を調製し、その水溶液を20℃で15時間放置して凝固せしめたゲルに、日寒水式ゼリー強度測定器((株)木屋製作所製)により荷重をかけ、20℃においてゲルが20秒間その荷重に耐えるときの表面積1cmあたりの最大重量[g]である。
【0013】
ハイドロゲル粒子における(A)成分の含有量は、ハイドロゲル粒子を媒体が水系の商品に配合する時の壊れを防止する観点から、0.1〜8.0重量%が好ましく、0.5〜5.0重量%がより好ましい。
【0014】
<(B)成分>
(B)成分は油性成分である。(B)成分は、融点35℃以上の固体脂及び/又は融点35℃未満の液体油であることが好ましく、例えば、香料、油脂類、ロウ類、炭化水素類、高級脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、油性薬効成分及びシリコーン油類からなる群より選択される1種以上の成分が挙げられる。
【0015】
香料としては、メントール、リモネン等の単品香料、オレンジ、レモン、グレープフルーツ等のシトラス系、アップル等のフルーツ系、紅茶、緑茶等の茶系、コーヒー等のビーンズ系、ブラックペッパー、カレー等のスパイス系、ペパーミント、スペアミント等のミント系、デイリー系、ワニラ系、コーラナッツ等の調合香料やオレンジ油、ユーカリ油等の精油、抽出物の各種が挙げられる。
【0016】
油脂類としては、例えば大豆油、ヌカ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ごま油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、また、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油、並びにミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等の合成トリグリセリドなどが挙げられる。
【0017】
ロウ類としては、例えばカルナウバロウ、鯨ロウ、ミツロウ、ラノリン等が挙げられる。
炭化水素類としては、例えば流動パラフィン、固形パラフィン、セラミド、ワセリン、パラフィンマイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、プリスタン等が挙げられる。
【0018】
高級脂肪酸類としては、例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。
高級アルコール類としては、例えばラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、オレイルアルコール、ラノリンアルコール、コレステロール、イソステアリルアルコール等が挙げられる。
【0019】
エステル類としては、例えばオクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸イソステアリル等が挙げられる。
【0020】
油性薬効成分としては、トコフェロール、レチノール、アスコルビン酸パルミテート、L−メントール、トリクロサン等が挙げられる。
シリコーン油類としては、例えばジメチルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル等が挙げられる。
これらの油性成分は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0021】
製造したハイドロゲル粒子を、界面活性剤を含む水系の媒体に配合して保存する場合、油性成分の漏れ抑制の観点より、油性成分の一部として上記の炭化水素類を含むことが好ましく、炭化水素類がセレシンであることがより好ましい。
【0022】
ハイドロゲル粒子における(B)成分の含有量は、1〜60重量%が好ましく、5〜40重量%がより好ましい。油性成分の添加による効果を発揮させる観点から、当該含有量は1重量%以上が好ましく、分散液の増粘抑制の観点から、当該含有量は60重量%以下が好ましい。
【0023】
<(C)成分>
(C)成分は界面活性剤であり、(B)成分を分散液中で安定に配合するのに必要な成分である。(C)成分の例としては、非イオン性界面活性剤ではポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油が挙げられ、陰イオン性界面活性剤ではアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル酢酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、脂肪酸塩、N-アシルタウリン塩及びN-アシルアミノ酸塩が挙げられ、陽イオン性界面活性剤ではアルキルアミンアセテート、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド及びアルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライドが挙げられ、両イオン性界面活性剤ではアルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン及び酵素分解レシチンが挙げられる。
【0024】
(C)成分は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。油性成分の乳化安定性及び寒天ゲル強度低下抑制の観点より、(C)成分としては陰イオン性界面活性剤が好ましく、N-アシルタウリン塩がより好ましく、中でもN-ステアロイルメチルタウリンナトリウムがさらに好ましい。
【0025】
ハイドロゲル粒子における(C)成分の含有量は、0.1〜5.0重量%が好ましく、0.15〜3.0重量%がより好ましい。(B)成分及び(D)成分の分散液中における安定維持の観点から、当該含有量は0.1重量%以上が好ましく、寒天のゲル強度低下回避の観点から、当該含有量は5.0重量%以下が好ましい。
【0026】
本発明におけるハイドロゲル粒子は水を含む。ハイドロゲル粒子における水の含有量は、40〜90重量%が好ましく、50〜80重量%がより好ましい。
【0027】
<(D)成分>
本発明におけるハイドロゲル粒子は、(D)成分として固体粒子を含み得る。かかる固体粒子は水不溶性であることがさらに好ましく、ここで水不溶性とは、25℃における水への溶解が0.1重量%以下のものを指す。(D)成分の平均粒径は、沈降抑制の観点から50μm以下が好ましく、0.01〜50μmがより好ましく、0.05〜20μmがさらに好ましい。本明細書において、(D)成分の平均粒径は、別に規定のない限り、レーザー回折/散乱式により測定できる値である。レーザー回折/散乱式においては、粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いて測定して得られるメジアン径を平均粒径とする。さらに、(D)成分の水に対する比重は1.1〜8.0であることが好ましい。
【0028】
(D)成分の具体的な例としては、顔料、化粧料粉末、天然高分子系粉末が挙げられ、これらはハイドロゲル粒子の着色剤、ハイドロゲル粒子を化粧品に配合したものを肌等に使用した際にさらさら感を向上させる等の感触向上剤として機能しうる。顔料としては、例えば、カーボンブラック、タルク、カオリン、雲母、雲母チタン、酸化鉄(べんがら)、黄酸化鉄、黒酸化鉄、オキシ塩化ビスマス、珪酸マグネシウム、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機顔料、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色206号、赤色219号、赤色228号、赤色404号、黄色205号、黄色401号、だいだい色401号、青色404号等の有機顔料が挙げられる。化粧料粉末としては、例えば、タルク、カオリン、セリサイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、無水ケイ酸、酸化チタン、酸化亜鉛、雲母チタン、シリカ、ゼオライト、硫酸バリウム、リン酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、金属石鹸、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末等が挙げられる。天然高分子系粉末としては、例えば、セルロール粉末、キトサン粉末、澱粉粉末、シルク粉末、結晶セルロース粉末等が挙げられる。(D)成分は、単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。これらの中で、抑泡の観点より炭酸カルシウムがより好ましい。また、上記の各固体粒子の水に対する比重は、いずれも1.1〜8.0の範囲内である。
【0029】
分散液中において、(B)成分と(D)成分とは相互作用を起こすと推定している。(B)成分がクリーミングしようとする力と(D)成分が沈降しようとする力を釣り合わせることで、クリーミングも沈降も生じない安定な分散液を得ることができると考えた。本観点より、(B)成分/(D)成分の重量比は3/1〜20/1が好ましく、4/1〜18/1がより好ましく、5/1〜15/1が特に好ましい。
【0030】
<その他の成分>
本発明におけるハイドロゲル粒子中には、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分、及び水以外にも、必要に応じて他の物質が含まれていても良い。かかる他の物質の例としては、糖類、多価アルコール、水溶性高分子化合物等の水溶性有機化合物や防腐剤、水溶性着色剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0031】
<ハイドロゲル粒子の製造方法>
本発明のハイドロゲル粒子の製造方法は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び水を含む混合物に、特定の攪拌エネルギーを付与して分散液を得る攪拌処理工程を有する。当該分散液を一般的な方法、例えば滴下法、噴霧法又は攪拌法に付して液滴を形成させた後、当該液滴を冷却固化してハイドロゲル粒子を製造する。
【0032】
混合物を攪拌処理する際、本発明においては、200〜5000[kW×分/m3]の攪拌エネルギーを混合物に付与することを必須とする。当該攪拌エネルギーの好ましい範囲は230〜4500[kW×分/m3]であり、より好ましい範囲は250〜4200[kW×分/m3]である。分散液中での固体粒子の沈降を抑制し、かつ、ハイドロゲル粒子を水系の媒体に配合した際の油性成分の漏れを防止する観点から、当該攪拌エネルギーは200[kW×分/m3]以上であることが好ましく、分散液の安定性を維持し、粘度の上昇を抑制する、更には生産時間の長期化を避ける観点から、当該攪拌エネルギーは5000[kW×分/m3]以下であることが好ましい。分散液の粘度が高い場合、例えば600mPa・sを超える場合、ハイドロゲル粒子化するのが困難となる傾向がある。
【0033】
また、混合物に攪拌エネルギーを付与する装置としては、特に制限されず、公知の攪拌装置を使用することができる。ただし、かかる攪拌エネルギーを付与するためには高い剪断力を発揮できる装置を要するため、装置としてはホモミキサー、ラインミキサー、ディスパーなどが好ましく、操作面からホモミキサーがより好ましい。
【0034】
攪拌処理工程において、好ましい温度範囲としては60〜90℃であり、好ましい分散液のpHとしてはpH5.5〜8.5(80℃)である。
【0035】
なお、本明細書で規定する「攪拌エネルギー」とは、攪拌動力P/V[kW/m3]×時間[分]であり、詳細な計算式は、特開2007−161683号公報に記載されている。ホモミキサーを使用したときの攪拌エネルギーの算出式を(I)に示す。
【0036】
攪拌エネルギー〔kW×分/m3〕=〔攪拌動力P(kW)〕/〔処理液体積V(m3)〕×攪拌時間(分) (I)
上記式(I)中、攪拌動力P(kW)は、下記の実験式1で算出する。
攪拌動力P(kW)=Np×n3×d5×ρ/1000 (実験式1)
ここで、Np:動力数→ホモミキサーでは、攪拌槽容量が10L未満:1.5、10L以上:1.3
n:攪拌回転数[-/sec]
d:攪拌翼の直径[m]
ρ:内容物の密度[kg/m3]
【0037】
滴下法は、孔から分散液を吐出させ、吐出された分散液がその表面張力又は界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を空気等の気相中又は液相中で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。なお、粒径の均一なハイドロゲル粒子を形成する観点から、孔から吐出される分散液に振動を与えることが好ましい。
【0038】
噴霧法は、噴霧ノズルを用い、噴霧ノズルから分散液を気相に吐出(噴霧)させると共に、その表面張力によって液滴を形成させ、その液滴を気相で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。
【0039】
攪拌法は、分散液と実質的に混じり合わない性状を有し且つゲル化温度以上の温度に調製した液に分散液を投入し、攪拌による剪断力により分散液を微粒化し、界面張力によって液滴になる性質を利用し、その液滴を分散液と実質的に混じり合わない液中で冷却固化させてハイドロゲル粒子を形成する方法である。
【0040】
滴下法、噴霧法及び攪拌法のいずれの場合も、吐出時、噴霧時、或いは、投入時の分散液の温度を、ゲル化温度以上で且つ100℃以下の温度とすることが好ましい。また、美観に優れた球状の粒子を容易に製造することができるという観点からは、分散液の温度を、ゲル化温度+10℃以上とすることが好ましく、ゲル化温度+20℃以上とすることがより好ましい。なお、この温度の上限は、水の沸点である100℃である。具体的には、分散液の温度としては、60〜90℃の範囲が好ましく、70〜80℃の範囲がより好ましい。
【0041】
以上のようにして形成されたハイドロゲル粒子を必要に応じてさらに粉砕等により、微細なハイドロゲル粒子にしてもよい。
【0042】
本発明の製造方法においては、分散液を構成するほぼ全ての成分がそのままハイドロゲル粒子を構成することになるので、分散液中の各成分の含有量をハイドロゲル粒子中の各成分の含有量とみなすことができる。
【0043】
<ハイドロゲル粒子>
本発明の製造方法によって得られるハイドロゲル粒子中において、(B)成分は、(A)成分及び水を含む連続相中に分散して内包されている。かかるハイドロゲル粒子の構造は、例えばハイドロゲル粒子のSEM写真を分析することにより確認することができる。
【0044】
本発明の製造方法によって得られるハイドロゲル粒子の形状は特に限定されないが、曲面で構成された回転体の形状を有することが好ましい。ここで、「曲面で構成された回転体」とは、仮想軸及び連続的な曲線で構成された閉じた図を仮想軸で回転させたものをいい、三角錐や円柱等の平面を有する形状は含まない。ハイドロゲル粒子の形状は、美観の観点から、球状又は楕円状であることがより好ましい。
【0045】
本発明により製造されるハイドロゲル粒子の平均粒径及び油性成分の乳化径は、レーザー回折/散乱式により測定できる。レーザー回折/散乱式は粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いて測定したメジアン径を平均粒径とした。ハイドロゲル粒子の平均粒径は、5〜10000μmが好ましく、30〜3000μmがより好ましく、50〜1000μmが特に好ましい。また、油性成分の乳化径は、0.01〜20μmが好ましく、0.02〜15μmがより好ましく、0.03〜10μmが特に好ましい。
【0046】
分散液の粘度は、B型粘度計で測定することができる。分散液の粘度は、特に限定されないが、その吐出時又は噴霧時又は投入時の温度において、通常0.1〜700mPa・s、好ましくは1〜500mPa・sであることが望ましい。
【実施例】
【0047】
以下の例中で用いられる%は、特記しない限り重量%である。
【0048】
分散液の粘度は80℃の分散液をB型粘度計で測定して得た。ハイドロゲル粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(堀場製作所(株)製)を用いて測定したメジアン径を平均粒径とした。
【0049】
混合攪拌するための装置としてはホモミキサー(T.K.ロボミクス:プライミクス製)を用いた。羽径は2.5cmであった。
【0050】
実施例1〜4及び比較例1〜5
次のようにして溶液A及び油性成分を調製した。具体的な成分及び配合割合を表1及び表2に示す。溶液Aは、常温でイオン交換水に各成分を配合し、90℃で30分間加熱混合し、次いで80℃に冷却して調製した。油性成分は、各成分を80℃で加熱混合して調製した。
【0051】
その後、溶液Aに油性成分を加えて混合物を得た。この混合物を800gに調整し、次いでホモミキサーに投入した。表2に示す条件で攪拌処理を行うことによって、各混合物に攪拌エネルギーを付与して、各分散液を調製した。
【0052】
得られた各分散液の一部を透明な容器に移して80℃で静置保存し、12時間後の分散液の状態を観察した。観察結果を表2に示す。
【0053】
一方、得られた各分散液の残りを、分散液の温度を80℃に維持しながら、孔径0.9mmの1流体ノズルを用いて、流量18〜20L/hr、噴霧圧0.45〜0.75MPaにて冷却空気中に噴霧して、分散液のハイドロゲル粒子化を行った。ここで、比較例5の分散液は粘度が720mPasと非常に高く、噴霧法による粒子化が困難であった。
【0054】
得られたハイドロゲル粒子の3gを1重量%の濃度のアルキル硫酸ナトリウム水溶液の30gに分散させた後、透明な容器に移して50℃で24時間静置保存し、ハイドロゲル粒子からの油性成分の漏出の有無を観察した。観察結果を表2に示す。
【0055】
12時間後の分散液の状態を、次のように評価した。
安定:分散液において、固体粒子(顔料)の沈降及び油性成分の分離のいずれもが見られなかった。
顔料沈降:分散液において、油性成分の分離は見られなかったが、固体粒子(顔料)の沈降が見られた。
油分分離:分散液において、固体粒子(顔料)の沈降は見られなかったが、油性成分の分離が見られた。
【0056】
ハイドロゲル粒子からの油性成分の漏出の有無を、次のように評価した。
あり:ハイドロゲル粒子を含む水溶液において、水面に油性成分の浮遊が多く見られた。
なし:ハイドロゲル粒子を含む水溶液において、水面に油性成分の浮遊が殆ど見られなかった。
【0057】
以上のように、所定の各成分を含む分散液を200〜5000[kW×分/m3]の攪拌エネルギーで処理を施した後、当該分散液からハイドロゲル粒子を製造することによって、得られたハイドロゲル粒子を水溶液中に保存しても油性成分の漏れを防ぐことが可能となり、しかも分散液の安定性も優れていた(実施例1〜4)。一方、処理時の攪拌エネルギーが本発明の範囲外の例では、ハイドロゲル粒子からの油性成分の漏れを防ぐことができなかったり(比較例1、2及び4)、分散液の安定性に劣っていたりした(比較例3)。さらに比較例5では、付与される攪拌エネルギーが多過ぎるため、消費エネルギーが増大するだけでなく、攪拌処理中に混合物(分散液)の粘度が急激に上昇し、攪拌処理を続けることが極めて困難となった。かかる粘度の上昇のために、比較例5においてはハイドロゲル粒子を形成させることができなかった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
さらに表3に、得られたハイドロゲル粒子中の各成分の含有量を示す。
【0061】
【表3】

【0062】
実施例等で用いた各成分の物性値等は次のとおりであった:
ベンガラ七宝の平均粒径と比重(対水):1.6μm、5.2
イエローLLXLOの平均粒径と比重(対水):1.8μm、5.2
トヨホワイトの平均粒径と比重(対水):7.0μm、2.7。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)成分〜(C)成分:
(A)ゾル−ゲルの熱可逆性によってゲル化が生じるゲル化剤、
(B)油性成分、及び
(C)界面活性剤、
並びに水を含む混合物に、200〜5000[kW×分/m3]の攪拌エネルギーを付与して分散液を得る攪拌処理工程を有する、ハイドロゲル粒子の製造方法。
【請求項2】
さらに前記混合物が、
(D)固体粒子、
を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
(A)成分が、寒天、ゼラチン及びジェランガムからなる群より選択される1種以上の成分であり、ハイドロゲル粒子における(A)成分の含有量が0.1〜8.0重量%である、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
ハイドロゲル粒子における(B)成分の含有量が1〜60重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
(C)成分が陰イオン性界面活性剤を含み、ハイドロゲル粒子における(C)成分の含有量が0.1〜5.0重量%である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記陰イオン性界面活性剤がN-アシルタウリン塩である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
(D)成分の水に対する比重が1.1〜8.0である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
(D)成分が、顔料、化粧料粉末及び天然高分子系粉末からなる群より選択される1種以上の成分である、請求項2〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
(D)成分の顔料が炭酸カルシウムである、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
ハイドロゲル粒子における(B)成分/(D)成分の重量比が3/1〜20/1である、請求項2〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記攪拌処理工程により得られた分散液を、噴霧ノズルから吐出して液滴を形成させた後、該液滴を冷却固化する工程、
をさらに含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法により得られるハイドロゲル粒子。

【公開番号】特開2010−142711(P2010−142711A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321156(P2008−321156)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】