説明

ハイドロタルサイト様化合物及びその製造方法並びに陰イオン除去剤

【課題】 カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料としたハイドロタルサイト様化合物及びその製造法並びに陰イオン除去剤を提供すること。
【解決手段】 カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料として製造したハイドロタルサイト様化合物である。カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを酸処理して酸可溶性の金属成分を抽出する抽出工程と、酸可溶性の金属成分を含む溶液にアルミニウムイオンを添加し、pHを調整して生成物を沈殿させる沈殿工程を備えることを特徴とするハイドロタルサイト様化合物の製造方法、及びその製造方法で製造したハイドロタルサイト様化合物である。さらに、前記ハイドロタルサイト様化合物を含有する陰イオン除去剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料としたハイドロタルサイト様化合物及びその製造方法並びに陰イオン除去剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストは、産業廃棄物として埋め立て処分されたり、セメント原料の一部や脱硫促進剤の原料として利用されている(特許文献1、2)。また、鋳鉄溶鉱炉から排出された溶解ダストからハイドロタルサイト様化合物を製造する方法が開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特公昭60−5643号公報
【特許文献2】特公平1−41682号公報
【特許文献3】特開2004−167408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料として製造したハイドロタルサイト様化合物及びその製造方法並びに陰イオン除去剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、(1)カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料として製造したハイドロタルサイト様化合物、(2)カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを酸処理して酸可溶性の金属成分を抽出する抽出工程と、酸可溶性の金属成分を含む溶液にアルミニウムイオンを添加し、pHを調整して生成物を沈殿させる沈殿工程を備えることを特徴とするハイドロタルサイト様化合物の製造方法、(3) (2)の製造方法により製造してなるハイドロタルサイト様化合物、(4)(1)または(3)のハイドロタルサイト様化合物を含有する陰イオン除去剤、である。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料としてハイドロタルサイト様化合物が製造できる。また、前記ハイドロタルサイト様化合物は、優れた陰イオン除去剤となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のハイドロタルサイト様化合物は、組成式が[M2+1−x3+(OH)][An−x/n・nHO]で表され、層状複水酸化物とも呼ばれる化合物である。ここでM2+及びM3+は、それぞれ2価及び3価の金属であり、An−はn価の陰イオンを表す。ハイドロタルサイト様化合物は、水酸化物層からなるホスト層と陰イオン及び層間水からなるゲスト層が交互に積み重なった構造からなっている。通常、ホスト層の2価及び3価金属イオンの置換割合(n)により、ホスト層の正電荷量が変化し、それをゲスト層の陰イオンが補償するような構造になっている。このゲスト層の陰イオンは、ハイドロタルサイト様化合物を浸漬した溶液中の他の陰イオンによって交換可能なことから、無機イオン交換体として知られている。
【0007】
また、ハイドロタルサイト様化合物は、ホスト層を構成する金属イオン種やゲスト層を構成する陰イオン種を合成時に変化させることにより、その陰イオン交換性を変化させることが可能である。このゲスト層を構成する2価の金属としては、マグネシウム、亜鉛、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、カルシウム等があり、中でもマグネシウムが好ましい。3価の金属としてはアルミニウム、鉄、クロム等があり、中でもアルミニウムが好ましい。なお、対象とする陰イオンとしてリン酸、ハロゲン、硝酸、亜硝酸、炭酸、硫酸、ヒ酸、亜ヒ酸、クロム酸、水酸化物イオン等があげられる。
従って、ハイドロタルサイト様化合物は、陰イオン除去剤として使用することができる。
【0008】
本発明は、カルシウムカーバイドを製造する電炉から発生したダスト(以下、本ダストという)であり、例えば、カルシウムカーバイド製造用電炉や、それに付設した原料供給ライン等の付帯設備から発生したダストをいう。本ダストは、例えば、カルシウムカーバイド製造用電炉から排出される排ガスを外気と遮断し、煙道を通じて、バックフィルターや沈殿槽等に導き、除塵や分離を行う際に回収することにより得られる。
本ダストの主成分としては、炭素、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、マンガン化合物等である。また、本発明に使用する本ダストの平均粒子径は、0.01〜0.5μmの範囲のものが好ましい。
【0009】
本ダストを原料としたハイドロタルサイト様化合物の製造方法は、例えば、以下の通りである。
本ダストを酸処理して酸可溶性の金属成分を抽出する抽出工程と、酸可溶性の金属成分を含む溶液にアルミニウムイオンを添加し、pHを調整して生成物を沈殿させる沈殿工程からなるものである。
【0010】
抽出工程では、本ダストを酸で処理することにより、カルシウム、マグネシウム及びマンガン等といった酸可溶性の金属成分が抽出され、酸可溶性の金属成分を含む溶液が得られる。酸としては、塩酸、硫酸及び硝酸等の無機酸や、クエン酸、リンゴ酸及び酢酸等の有機酸等が挙げられる。
【0011】
沈殿工程では、酸可溶性の金属成分を含む溶液にアルミニウムイオンを添加し、pHを好ましくは8以上、より好ましくは9以上に調整することにより、ハイドロタルサイト様化合物を沈殿、生成できる。アルミニウムイオンを添加に用いるアルミニウムイオン供給用溶液としては、例えば、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム及びアルミン酸ナトリウムの水溶液等が挙げられる。中でも、本ダストから金属成分を抽出する際に用いた酸と同じ陰イオンを含有するアルミニウム塩の水溶液がより望ましい。pHを調整に用いるpH調整用の溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等のアルカリが例示される。
【0012】
沈殿工程で生成されたハイドロタルサイト様化合物は、濾紙やフィルターを用いて濾別し、乾燥することにより、例えば、陰イオン除去剤、制酸剤、又は、難燃剤等の樹脂用添加剤として使用できる。ハイドロタルサイト様化合物を、500℃以上と高い温度で乾燥することにより、酸化物とし、陰イオン吸着剤として排水処理等にも利用できる。
【実施例】
【0013】
「実施例1」
カルシウムカーバイド製造用電炉から排出される排ガスを外気と遮断し、煙道を通じて、バックフィルターに導き、除塵することにより、本ダスト(平均粒子径0.35μm:レーザー式粒径分布測定器で測定)を得た。本ダストを105℃の乾燥機で24時間乾燥し、走査型蛍光X線分析装置(XRF:リガク社製ZSX100e)で成分を測定したところ、酸化カルシウム24.8質量%、酸化マグネシウム10.7質量%、酸化マンガン0.8質量%、その他63.7質量%という結果が得られた。
【0014】
本ダスト50gを1モル/Lの塩酸500mLに溶解させ、不溶分を孔径0.2μmのメンブランフィルターを用いて取り除き、酸可溶の金属成分を抽出し、抽出液とした。
【0015】
前記抽出液50mLに0.1モル/Lの塩化アルミニウム溶液を21.5mL加えたところ、白色の沈殿物が生成した。なお、塩化アルミニウム溶液を加える時には、0.1モル/Lの水酸化ナトリウム溶液も用い、反応温度を58〜62℃に調整し、反応液のpHが9.5〜10.5になるように調整した。
【0016】
前記沈殿物を室温にて1時間静置、熟成を行った後、濾紙で濾過、水洗、乾燥して生成物を得た。本生成物の結晶構造をX線回折装置(XRD:リガク社製MultiFlex、測定条件:Cu Kα、40kV,40mA)にて解析したところ、図1のようにハイドロタルサイト様化合物であることが確認された。図中の○はハイドロタルサイトのピークを示す。さらに、XRFにて組成分析を実施したところ、表1に示す結果となり、2価の金属としてMgとMn、3価の金属としてAlから構成されたホスト層を持つハイドロタルサイト様化合物であることが確認された。また、ゲスト層として塩素イオンを含み、その他に水酸化物イオンを含有しているものと考えられた。
【0017】
さらに、市販のリン酸二水素ナトリウムを純水に溶解させてリン酸(PO2−)イオン濃度32ppmの溶液を調製し、本試料液50mLに前記合成ハイドロタルサイト様化合物50mgを投入し、20℃で2時間撹拌させた。撹拌後、孔径0.2μmのメンブランフィルターで濾過し、濾液中のリン酸イオン濃度をイオンクロマトグラフ(島津製作所社製パーソナルイオンアナライザ PIA−1000)にて測定し、リン酸イオン吸着性を調べた。その結果、表2に示したように、本合成ハイドロタルサイト様化合物でリン酸イオン濃度の低下が認められ、陰イオン除去剤としての効果が確認された。
【0018】
「実施例2」
実施例1の抽出液50mLに0.1モル/Lの塩化アルミニウム溶液を32.0mL加えたこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、沈殿物を得た。沈殿物をXRD及びXRFにより確認したところ、実施例1と同様にハイドロタルサイト様化合物であることを確認した。また、実施例1と同様にリン酸溶液を用いてリン酸イオン除去効果を調べたところ、表2に示したように、リン酸イオンはイオンクロマトグラフの検出下限以下であり、本ハイドロタルサイト様化合物のリン酸イオン除去効果が確認された。
【0019】
「比較例1」
試薬として市販されている塩化マグネシウムと塩化アルミニウムを用いて、マグネシウムとアルミニウムのモル比が1:3になるように混合した溶液を準備し、実施例1と同様の操作を行って、沈殿物を得た。また、実施例1と同様にリン酸溶液を用いてリン酸イオン除去効果を調べたところ、表2に示すように、リン酸イオン除去効果は認められるものの実施例1に比べて残存するリン酸イオン濃度は高かった。
【0020】
「比較例2」
ハイドロタルサイト様化合物を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、リン酸イオン除去効果を調べた。結果を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明によれば、カーバイド製造用電炉の集塵ダストを原料として、ハイドロタルサイト様化合物を製造することができる。このハイドロタルサイト様化合物は、リン酸イオン等の陰イオンを除去する機能を有する優れた陰イオン除去剤などとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1(a)及び実施例2(b)で得られた化合物のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを原料として製造したハイドロタルサイト様化合物。
【請求項2】
カルシウムカーバイド製造用電炉から発生したダストを酸処理して酸可溶性の金属成分を抽出する抽出工程と、酸可溶性の金属成分を含む溶液にアルミニウムイオンを添加し、pHを8以上に調整して生成物を沈殿させる沈殿工程を備えることを特徴とするハイドロタルサイト様化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の製造方法により製造してなるハイドロタルサイト様化合物。
【請求項4】
請求項1または3記載のハイドロタルサイト様化合物を含有する陰イオン除去剤。

【図1】
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【公開番号】特開2007−51022(P2007−51022A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237047(P2005−237047)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】