説明

ハイブリッドレンズ、ハイブリッドレンズの製造方法および光学素子

【課題】ガラスと樹脂とで構成されたハイブリッドレンズにおいて、ガラスと樹脂との境界での光の反射を極力少なくする。
【解決手段】ガラス3と樹脂5,7とで構成されたハイブリッドレンズ1において、ガラス3と樹脂5,7との境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッドレンズ、ハイブリッドレンズの製造方法および光学素子に係り、たとえば、ガラスと樹脂とで構成されているものに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、レンズを含むカメラモジュールは、デジタルカメラ、カメラ搭載の携帯電話を始め、その他監視カメラ、あるいは今後車載カメラなど、その用途を拡大しつつある。
【0003】
上記用途のうち、デジタルカメラ、携帯電話などモバイル系の製品では、光学系のスケール縮小ニーズが大きい。そのため複数の光学素子を1デバイスに集積する必要性がある。
【0004】
たとえば、レンズの表面に回折格子溝を製作することで、回折光学素子とレンズの複合機能を実現することができ、光学素子の数と収納スペースの低減、及び2つの光学素子の光軸調整工程を省くことができる(図21参照)。ちなみに、回折格子は、平面、あるいはレンズ面に凹凸を設け、平板内、レンズ内部を通過する光の光路長を変化させ、波面収差、及び色収差をなくす光学デバイスである。一般的に光線断面が円形であるため、回折格子デバイスには、同心円状の溝が設けられている。
【0005】
しかし、ガラスレンズの場合、このような微細溝加工をすることができないか極めて困難である。通常、ガラス金型は、耐熱性の高い超硬材料で製作されるが、硬度が高いため、研削加工しかできず、上記のような細かい同心円状溝加工ができないか極めて困難だからである。
【0006】
一方、プラレンズ成形で使用される金型材は、超硬材料に比して硬度が低く、バイトでの細かい切削加工が可能であるため、回折格子溝の加工が可能であるが、プラレンズは、ガラスに対して、「屈折率、アッベ数などの光学定数のバリエーションが少ない」、「耐熱性に劣る」など、材料上のデメリットを有しているため、使用範囲が限られている。
【0007】
このようなガラスとプラスティックのデメリットを解消すべく、ハイブリッドレンズ201というものが作られている。これは、ガラス203と樹脂205,207との複合材料からなる。すなわち、回折格子など微細形状209を要する表面部分にプラスティック(樹脂205,207)を用い、内部にはガラス203を使用するものである(図22参照)。
【0008】
図22中の樹脂205,207の部分には、たとえば、紫外線硬化樹脂(UV硬化樹脂)が使用される。樹脂205,207は、硬化前は、通常、水のように粘性が低く、紫外線照射されることで硬化するものである。硬化前の粘度が低いため、微細な溝部分にも、毛細管現象で樹脂205,207を十分に充填させることが可能である。
【0009】
ところで、従来のハイブリッドレンズ201に係る技術として、たとえば、特許文献1を掲げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−180602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、図23で示すように、樹脂205,207の部分とガラス203の部分では、屈折率、あるいはアッベ数などの光学定数が異なる。光学定数の異なる界面(樹脂205,207とガラス203との境界面)では、必ず反射が生じ、矢印A11のようにしてハイブリッドレンズ201に入射した光のうちの一部が、樹脂205,207とガラス203との界面で反射し、光源側に戻ることになる(矢印A13参照)。そのため、感光部(感光側)に到達する光量が減少し、あるいは光源側に戻った光が再反射し再びハイブリッドレンズ201に再入射することで、迷光の発生など、得られる画像が劣化する問題を引き起こす。
【0012】
樹脂205,207として、ガラス203と同じ屈折率を有したUV硬化樹脂を使用することも行われているが、アッベ数が異なれば、光の波長によって迷光が生じることとなる。光通信のように単色光であれば、このような対処も有効であるが、様々な波長の光を扱う通常のカメラモジュールでは、波長によって迷光が発生することになる。
【0013】
なお、屈折率とアッベ数との両方がガラスと同一であるプラスティック材料を開発することは非常に困難である。
【0014】
以上説明したように、従来のハイブリッドレンズ201では、大なり小なり迷光が発生し、感光部への光量低下が避けられないという問題を有している。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ガラスと樹脂とで構成されたハイブリッドレンズ、ハイブリッドレンズの製造方法および光学素子において、ガラスと樹脂との境界での光の反射を極力少なくすることができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、ガラスと樹脂とで構成されたハイブリッドレンズにおいて、前記ガラスと前記樹脂との境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されていることを特徴とするハイブリッドレンズである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、表面がモスアイ構造に構成されているガラスと、前記ガラスの表面に密着して前記ガラスを覆っている樹脂とを有するハイブリッドレンズである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、光軸に垂直な各面が、透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されているガラスと、前記ガラスの、微細な凹凸状に形成されている一方の面で、前記ガラスに密着し前記ガラスに一体的に設けられた第1の樹脂と、前記ガラスの、微細な凹凸状に形成されている他方の面で、前記ガラスに密着し前記ガラスに一体的に設けられた第2の樹脂とを有するハイブリッドレンズである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、ガラスの表面に、このガラスを透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸を形成する微細凹凸形成工程と、樹脂成形型を用いて、前記ガラスの微細な凹凸が形成されている面に樹脂を設ける樹脂設置工程とを有するハイブリッドレンズの製造方法である。
【0020】
請求項5に記載の発明は、光を透過する第1の材料と、光を透過する第2の材料とで構成された光学素子において、前記各材料の境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されている光学素子である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ガラスと樹脂とで構成されたハイブリッドレンズ、ハイブリッドレンズの製造方法および光学素子において、ガラスと樹脂との境界での光の反射を極力少なくすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るハイブリッドレンズ1の概略構成を示す図である。
【図2】図1におけるII部の拡大図である。
【図3】ハイブリッドレンズ1の製造工程の概要を示す図である。
【図4】ガラス3の微細な凹凸9を構成する円錐状の突起13の概略構成を示す斜視図である。
【図5】図4におけるV矢視図である。
【図6】円錐状の突起13の配置に係る変形例の概略構成を示す斜視図である。
【図7】図6におけるVII矢視図である。
【図8】図5や図7に対応した図であって、円錐状の突起13の配置に係る変形例を示す図である。
【図9】図5や図7に対応した図であって、円錐状の突起13の配置に係る変形例を示す図である。
【図10】突起13の変形例の概略構成を示す斜視図である。
【図11】図10におけるXI矢視図である。
【図12】図11に対応した図であって、四角錐状の突起13の配置に係る変形例を示す図である。
【図13】図11等に対応した図であって、六角錐状の突起13の配置を示す図である。
【図14】突起13の変形例の断面を示す図である。
【図15】突起13の変形例の断面を示す図である。
【図16】突起13の変形例の断面を示す図である。
【図17】突起13の変形例の概略構成を示す斜視図である。
【図18】図17におけるXVIII矢視図である。
【図19】図17に示す突起13の展開図である。
【図20】図18におけるXXA−XXA断面、XXB−XXB断面を示す図である。
【図21】レンズ表面に回折格子溝を形成して、回折光学素子とレンズとの複合機能を実現した従来のレンズの概略構成を示す図である。
【図22】樹脂とガラスとで構成された従来のハイブリッドレンズ201の概略構成を示す図である。
【図23】従来のハイブリッドレンズ201における光の反射状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッドレンズ1の概略構成を示す図であり、図2は、図1におけるII部の拡大図である。
【0024】
ハイブリッドレンズ1は、ガラス3と樹脂5,7とを備えて構成されている。
【0025】
樹脂5,7として、たとえば、紫外線硬化樹脂(UV硬化樹脂)が用いられている。樹脂5,7の屈折率やアッベ数は、ガラス3のものとは異なっているが、屈折率、アッベ数の少なくともいずれかが、ガラス3のものとほぼ等しくてもよい。また、樹脂5,7は、ガラス3に密着し積層されて設けられており、光(たとえば、可視光)がガラス3と樹脂5,7とを透過するようになっている。
【0026】
ガラス3と樹脂5との境界が、ハイブリッドレンズ1を透過する光の波長よりも小さい周期(図2に示すピッチP1)の微細な凹凸状に形成されている。同様にして、ガラス3と樹脂7との境界も、ハイブリッドレンズ1を透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されている。すなわち、ハイブリッドレンズ1は、表面がモスアイ構造(サブマイクロメーター周期の微細な凹凸構造)に構成されているガラス3と、ガラス3の表面に密着してガラス3を覆っている樹脂5とを具備している。
【0027】
ハイブリッドレンズ1は、凸レンズであり、図1で示す矢印A1のように、光が図1の左側から右側に進み、このときに、ハイブリッドレンズ1を透過するようになっている。また、ハイブリッドレンズ1は、光の進行方向(光路の方向)から見た場合には、たとえば円形状に形成されている。
【0028】
ガラス3は平板状(たとえば、円形な平板状)に形成されており、ハイブリッドレンズ1の光軸に対して垂直なガラス3の両面(ガラス3の厚さ方向で一方の側に位置している面と他方の側に位置している面)が微細な凹凸状に形成されている(図2参照)。すなわち、光軸に垂直なガラス3の両面には、透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸(ガラス3の本体部と一体である凹凸)9が設けられている。
【0029】
樹脂5は、ガラス3の光軸方向の一方の面(微細な凹凸9が設けられている一方の面)で、ガラス3に密着しガラス3に一体的に設けられており、樹脂7は、ガラス3の光軸方向の他方の面(微細な凹凸9が設けられている他方の面)で、ガラス3に密着しガラス3に一体的に設けられている。光の進行方向から見た場合、樹脂5,7は、たとえば円形状に形成されており、樹脂5と樹脂7とはお互いが重なっている。また、樹脂5と樹脂7との中心とガラス3の中心(光軸になる中心)とはお互いに一致しており、樹脂5と樹脂7とは、ガラス3の中央部に設けられている。これにより、ガラス3の円環状の周辺部には、樹脂が設けられておらず、ガラス3が露出している。
【0030】
ガラス3と樹脂5との境界やガラス3と樹脂7との境界における微細な凹凸9の高さH1(図2参照)は、たとえば、光の波長の値よりも高くなっていることが多い。
【0031】
ガラス3と樹脂5,7との境界の形態についてさらに説明する。ハイブリッドレンズ1の光軸の方向(図1や図2の左右方向)が多数の微細な凹凸9の高さ方向であり、ハイブリッドレンズ1の光軸とほぼ直交する方向(図1や図2の上下方向、図1や図2の紙面に直交する方向)が多数の微細な凹凸9が並んでいる方向、すなわち、微細な凹凸9の周期の方向になっている。
【0032】
ガラス3における微細な凹凸9は、ガラス3の基底面11から起立している多数の微細な突起(ガラス3や樹脂5,7の厚さ方向でH1の高さで起立し、ガラス3や樹脂5,7の厚さ方向とほぼ直交する方向に所定のピッチP1で並んでいる多数の微細な突起)13で構成されている。ここで基底面11は、ガラス3の多数の微細な凹凸9の谷底15をつないで形成される面(ガラス3や樹脂5,7の厚さ方向とほぼ直交する方向に展開している仮想的な平らな面)である。
【0033】
各突起13は、基底面11から起立している微細な多数の円錐(底面が基底面11に接するようして基底面11から起立している円錐)で形成されている(図4、図5参照)。なお、図4や図5では、4つの突起13のみを示しているが、実際には、多数の突起13で微細な凹凸9が形成されている。
【0034】
各突起13の高さH1は、お互いが等しくなっている。また、ガラス3における微細な凹凸9(各突起13)との間に隙間が発生しないように樹脂5,7が設けられている。すなわち、樹脂5,7は、ガラス3に密着しガラス3の微細な凹凸9を埋めるようにして設けられている。これにより、樹脂5,7にも、多数の微細な凹凸が形成されている。また、ガラス3と樹脂5との境界やガラス3と樹脂7との境界では、この境界が展開している方向(基底面11の展開方向)でガラス3と樹脂5(ガラス3と樹脂7)とが交互に入り込んでいる。
【0035】
ところで、図4や図5に示す円錐状の各突起13は、基底面11に対して直交する方向から見た場合、各底面(円形状の底面)がお互いに接するようにして、縦方向および横方向に、所定のピッチP1で並んで設けられている。これにより、各突起13のピッチP1と突起13の底面の半径R1との関係は、「2×R1=P1」になっている。
【0036】
また、基底面11に対して直交する方向から見た場合、各突起13の頂点17が、お互いが平行であって平面上に所定の等間隔で描かれた第1の直線群と、この第1の直線群に対して直交し前記平面上に前記所定の等間隔で描かれた第2の直線群との各交点上に位置している。さらに、平面状の基底面11の一部が実存している。なお、図4や図5で示す態様では、各突起13同士が接触しているが、各突起13同士(各突起13の底面同士)が所定の間隔だけ離れていてもよい。
【0037】
また、図6や図7で示すように、各突起13同士の距離を、図4や図5に示す状態よりも小さくして、平面状の基底面11が実存しないようにしてもよい。この場合、各突起13のピッチP1と突起13の底面の半径R1との関係は、「2×R1=√2×P1」になる。
【0038】
また、図8に示すように、各突起13間の距離を、図4や図5で示す距離と、図6や図7で示す距離との間の値にしてもよい。この場合、各突起13のピッチP1と突起13の底面の半径R1との関係は、「√2×R1<P1<2×R1」になる。
【0039】
また、図5や図7や図8に示す態様ものにおいて、図の左右方向における各突起13のピッチと、図の上下方向における各突起13のピッチとが、異なった値になっていてもよい。
【0040】
さらに、図9で示すように、基底面11に対して直交する方向から見た場合、各突起13が、突起13の各底面(円形状の底面)がお互いに接するようにして、横方向および斜め方向で、所定のピッチP1で並んで設けられていてもよい。これにより、各突起13のピッチP1と突起13の底面の半径R1との関係は、「2×R1=P1」になる。また、基底面11に対して直交する方向から見た場合、各突起13の頂点17が、お互いが平行であって平面上に所定の等間隔で描かれた第1の直線群と、この第1の直線群に対して60°の角度で交差し前記平面上に前記所定の等間隔で描かれた第2の直線群との各交点上に位置していることになる。さらに、平面状の基底面11の一部が実存している。
【0041】
なお、図9の示す各突起13の設置の態様を、図7や図8で示すもののように変更してもよい。
【0042】
図4〜図9では、突起13が円錐状に形成されているが、図10や図11で示すように、突起13を、四角錐状(たとえば、ピラミッド状;正四角錐状)に形成してもよい。この場合、図5で示した場合と同様にして、各突起13の頂点17が各直線群の交点にところに位置している。図11に破線で示す線分は、突起13の稜線である。
【0043】
また、図12で示すように、正四角錐状の各突起13が、半ピッチ分ずれて設けられていてもよい。図12に破線で示す線分も、突起13の稜線である。
【0044】
さらに、図13で示すように、各突起13を正六角錐状に形成してあってもよいし、正多角錐状等の他の錐体状に形成してあってもよい。図13に破線で示す線分も、突起13の稜線である。
【0045】
また、図14で示すように、各突起13を、円錐台や正多角錐台等の錐体台(大きな径側の面である底面が基底面11に接するようして基底面11から起立している錐体台)で形成してもよいし、図15で示すように、各突起13を、円柱や正多角形柱等の柱体で形成してもよい。さらには、図16で示すように、各突起13が、釣鐘状等の他の形状に形成されていてもよい。
【0046】
さらにまた、図17〜図20で示すように、ガラス3と樹脂5(樹脂7)との間における微細な凹凸9の形態が対称性を備えていてもよい。すなわち、ガラス3の微細な凹凸9と樹脂5(樹脂7)の微細な凹凸とが同形状に形成されて、ガラス3に樹脂5(樹脂7)が隙間無く設置されていてもよい。
【0047】
ここで、ガラス3と樹脂5(樹脂7)との間における微細な凹凸9の形態が対称性を備えているものについて、例を掲げて説明する。
【0048】
ガラス3の表面(各突起13が所定のピッチP1で連続して隙間無く設けられている面)は、ひし形D1を組み合わせた形状に形成されている(図19参照)なお、図19は、図17や図18で示す1つの突起13の展開図である。
【0049】
1つの突起13は、図19で示すように、ひし形(一方の対角線L1が他方の対角線L2よりも長いひし形)D1を4つ組み合わせた形状に展開することができる。そして、図19で各点線L3を山折りし、各辺L4、L5を互いに線接合することで、4つのひし形D1により1つの突起(四角錐状の1つの突起)13が形成される。基底面11に直交する方向から見た場合、図18で示すように、1つの突起13は、正方形になっている。また、ガラス3の表面の微細な凹凸9は、正方形に見える1つの突起13を、縦横方向に規則正しくつなげて並べた形状に形成されている。
【0050】
図18において、点17は突起13の頂点(凹凸9の頂点)であり、点19は、ガラス3の表面の微細な凹凸9の谷点(最深点)を示している。また、図18において、破線は、各突起13の稜線を示しており、実線は、各突起13の谷線を示している。
【0051】
なお、図18では、各突起13が正方形状に見えているが、各突起13が長方形状に見えるように形成されていてもよい。すなわち、図18において、縦方向を一定の割合で縮めた形態になっていてもよい。
【0052】
次に、樹脂5(樹脂7)の表面(空気と接する面)の形態について説明する。
【0053】
ハイブリッドレンズ1において、ガラス3との境界とは反対側に位置している樹脂5(樹脂7)の表面(空気との境界面)に、回折格子21を設けてあってもよい(図1参照)。回折格子21は、ハイブリッドレンズ1の内部を通過する光の光路長を変化させることによって波面収差および色収差を無くすため設けられており、たとえば、光軸を中心とした同心円状のミクロンオーダの微細溝もしくは突起で構成されている。
【0054】
なお、回折格子21に代えてもしくは加えて樹脂5(樹脂7)の表面(空気と接する面)に、樹脂5とガラス3との境界と同様にして、透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸が形成されていてもよい。
【0055】
次に、ハイブリッドレンズ1の製造工程について説明する。
【0056】
図3は、ハイブリッドレンズ1の製造工程を示す図である。
【0057】
まず、ガラス3の表面(ハイブリッドレンズ1の光軸に垂直なガラス3の両面)に、このガラス3を透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸9を形成する。
【0058】
ガラス3への微細な凹凸9の形成は、たとえば、半導体の製造プロセスで使用されているフォトリソ工程によってなされる。なお、アモルファスカーボン(ガラス状炭素)や、炭化ケイ素(Silicon Carbide、化学式SiC)等の素材にフォトリソ工程で微細な凹凸を形成し、この微細な凹凸が形成されたものをガラス成形型(金型)として用いることにより、ガラス3に微細な凹凸9を形成してもよい。
【0059】
続いて、樹脂成形型(金型)23を用いて、ガラス3の微細な凹凸9が形成されている面に樹脂5(樹脂7)を設ける。
【0060】
すなわち、工具鋼等で構成された金型23に微細な凹凸9が形成されたガラス3を設置する(図3(a)参照)。このガラス3の設置は、金型23の平面25に形成されている凹部27を塞ぐようにしてなされる。なお、ハイブリッドレンズ1の樹脂5(樹脂7)の表面に回折格子21等を形成する場合にあっては、金型23の凹部27の表面に回折格子21のパターンが形成されている。また、金型23にガラス3を設置した状態では、ガラス3の周辺が金型23の凹部27周辺の平面25に密着しており、ガラス3の微細な凹凸9が形成されている一方の面と金型23の凹部27の表面とで、樹脂5が入り込む空間29が形成される。続いて、金型23とガラス3との雰囲気を、好ましくは、真空もしくは真空に近い状態にして、空間29に硬化前のUV硬化樹脂を供給し空間29をUV硬化樹脂で満し、空間29内に供給されたUV硬化樹脂に、矢印A3で示すように紫外線を照射しUV硬化樹脂を硬化させる(図3(b)参照)。
【0061】
続いて、一方の面に硬化した樹脂5が形成されているガラス3を金型から離し(図3(c)参照)裏返して、工具鋼等で構成された樹脂成形型(金型;樹脂5を設けるときに使用される金型と同じ金型であるが、異なる金型であってもよい。)に設置する。この設置も、金型の平面に形成されている凹部を塞ぐようにしてなされる。なお、金型にガラス3を設置した状態では、前述した状態と同様に、ガラス3の周辺が金型の凹部周辺の面に密着しており、ガラス3の微細な凹凸9が形成されている他方の面と金型の凹部の表面とで空間が形成される。続いて、前記空間に硬化前の樹脂を供給し前記空間を樹脂で満し、空間内に供給された樹脂を硬化させる。これにより、ガラス3の他方の面に樹脂7が設置される。
【0062】
ハイブリッドレンズ1について、さらに説明する。
【0063】
図1に示すハイブリッドレンズ1の外径(直径)は、5mmであり、直径5mmの円形のガラス基板(ガラス)3の両面にUV硬化樹脂5,7がレンズ面形状を有して設けられている。なお、ガラス基板3とUV硬化樹脂層5,7の間の界面1及び界面2()には、周期(ピッチP1)が約350nm、高さH1が約350nmのピラミッド形状の微細な凹凸9が設けられている。
【0064】
金型23の凹部27は、所定の光学面形状を有している。硬化前のUV硬化樹脂は非常に粘度が低いため、空間29に硬化前のUV硬化樹脂を満たすときには、金型23が傾かないよう注意を要する。
【0065】
紫外線の照射は、ガラス3の面上から、所定光量で所定時間行われる。これにより、金型23とガラス基板(ガラス)3との間のUV硬化樹脂が硬化し、この後、離型すれば、図3(c)に示したようなレンズが完成する。
【0066】
ただし、UV硬化樹脂が硬化する際、収縮が生じるため、金型23の面形状と、成形品の面形状がずれる。従って、予めその収縮量を求め、成形品で所定の面形状が得られるよう、金型23の形状を再設計し加工する必要がある。
【0067】
ハイブリッドレンズ1に光を透過して、反射を測定したところ、反射率を1/10に減少させることが出来た。
【0068】
ハイブリッドレンズ1によれば、ガラス3と樹脂5(樹脂7)との境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されているので(モスアイ構造になっているので)、この境界部分の実効屈折率やアッベ数が、樹脂5からガラス3あるいはガラス3から樹脂7に向かう方向で(ハイブリッドレンズ1を透過する光路の方向で)滑らかに変化している。この屈折率やアッベ数の滑らかな変化があることにより、ハイブリッドレンズ1に入射した光は、樹脂5(樹脂7)とガラス3との境界を判別することができなくなり、樹脂5(樹脂7)とガラス3との境界での光の反射がほとんど無くなる。そして、樹脂5(樹脂7)とガラス3との境界における光の反射が防止されることによってハイブリッドレンズ1の光学性能が向上する。
【0069】
また、ハイブリッドレンズ1によれば、ガラス3と樹脂5(樹脂7)との屈折率、アッベ数がお互いに異なっていても、樹脂5(樹脂7)とガラス3との境界での光の反射を無くすことができるので、屈折率とアッベ数とがガラス3のものと等しい樹脂を新たに開発することなく、簡便な方法で樹脂5(樹脂7)とガラス3との境界での光の反射を無くすことができ、これにより迷光の発生、あるいは、感光部への光の到達量減少を防止することができる。
【0070】
また、ハイブリッドレンズ1がガラス3と樹脂5(樹脂7)とで構成されているので、樹脂だけで構成されている場合に比べて、ハイブリッドレンズ1の剛性が高くなっていると共にハイブリッドレンズ1が壊れにくくなる。また、ハイブリッドレンズ1のカメラ等の機器への組み付けがしやすくなる。すなわち、ハイブリッドレンズ1をカメラ等の機器に設置する場合、ハイブリッドレンズ1のガラス3の部分(樹脂5や樹脂7よりも剛性や硬度の高い部分)をカメラ等の機器の係合させることにより、カメラ等の機器の正しい箇所にハイブリッドレンズ1を設置することが容易になる。
【0071】
ハイブリッドレンズ1によれば、ガラス3の両面に樹脂5,7を設けてあるので、ハイブリッドレンズ1における設計の自由度を増すことができる。
【0072】
また、ハイブリッドレンズ1において、樹脂5,7の表面に回折格子21を設けてあれば、波面収差および色収差を無くすことができる。また、樹脂5,7の表面に、透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸が形成してあれば、樹脂5,7の表面での光の反射(樹脂5,7と空気との屈折率の違いによる反射)を防止することができる。
【0073】
ハイブリッドレンズ1において、微細な凹凸9(各突起13)の高さH1を、光の波長よりも低く形成すれば、光の反射を一層回避することができる。
【0074】
また、ハイブリッドレンズ1のガラス3が平板状になっていれば、ガラス3への微細な凹凸9の形成を容易に行うことができる。すなわち、ガラス3が平板状に形成されているので、微細な凹凸9を形成するためのフォトリソ工程におけるレジスト塗布や露光等がしやすくなっている。また、ガラス3が平板状に形成されているので、金型(図3で示す金型23とは異なる金型)を用いてガラス3に微細な凹凸9を形成する場合においては、微細な凹凸9が形成されたガラス3が金型から離れやすくなっており、ガラス3の離型を容易に行うことができる。すなわち、微細な突起13がガラス3の平板状の基底面11からほぼ垂直に起立しているので、ガラス3を金型から離すときに突起13と金型の微細な凹凸パターンとが干渉することがなく、ガラス3の離型を容易行うことができる。
【0075】
また、ハイブリッドレンズ1によれば、樹脂5(樹脂7)が設置されたガラス3を金型23から離す場合、剛性や硬度の高いガラス3の部分に力を加えることができるので、樹脂5(樹脂7)が設置されたガラス3の離型(金型23からの引き離し)を容易に行うことができる。
【0076】
また、ハイブリッドレンズ1によれば、ガラス3を金型23に設置する場合や一方の面に硬化した樹脂5が形成されているガラス3を裏返して金型23に設置する場合、剛性や硬度の高いガラス3の部分を位置決めの基準にして金型23に係合させればよいので、金型23へのガラス3の設置を正解にしかも容易に行うことができ、ガラス3に対する樹脂5(樹脂7)の設置位置を正確なものにすることができる。
【0077】
また、金型23が樹脂5,7をモールド成型してガラス3に設置するためのものなので、金型23を工具鋼等で構成することができ、金型23に切削加工を施ことができ、回折格子21などのミクロンオーダの微細溝を作成する場合等における金型23の作成が容易になっている。
【0078】
なお、上述したハイブリッドレンズ1は、ガラス3の両面に樹脂5,7を設けてあるが、ガラス3の一方の面にのみ樹脂を設けた構成であってもよい。この場合、樹脂が設けられていないガラス3の他方の面に、微細な凹凸9が形成されていてもよいし、微細な凹凸9が形成されておらず滑らかな面(たとえば、平面)になっていてもよい。
【0079】
また、ハイブリッドレンズ1は、両凸レンズであるが、ハイブリッドレンズ1が、平凸レンズ、メニスカス凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、メニスカス凹レンズであってもよい。さらに、フィルター等の光学素子において、ガラスと樹脂との境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されていてもよい。
【0080】
すなわち、ハイブリッドレンズ1を、光を透過する第1の材料と、光を透過する第2の材料(第1の材料とは、屈折率やアッベ数等の光学特性が異なる材料)とを備えて構成された光学素子であって、前記各材料の境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されている光学素子として把握してもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 ハイブリッドレンズ
3 ガラス
5、7 樹脂
9 凹凸
23 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと樹脂とで構成されたハイブリッドレンズにおいて、
前記ガラスと前記樹脂との境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されていることを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項2】
表面がモスアイ構造に構成されているガラスと;
前記ガラスの表面に密着して前記ガラスを覆っている樹脂と;
を有することを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項3】
光軸に垂直な各面が、透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されているガラスと;
前記ガラスの、微細な凹凸状に形成されている一方の面で、前記ガラスに密着し前記ガラスに一体的に設けられた第1の樹脂と;
前記ガラスの、微細な凹凸状に形成されている他方の面で、前記ガラスに密着し前記ガラスに一体的に設けられた第2の樹脂と;
を有することを特徴とするハイブリッドレンズ。
【請求項4】
ガラスの表面に、このガラスを透過する光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸を形成する微細凹凸形成工程と;
樹脂成形型を用いて、前記ガラスの微細な凹凸が形成されている面に樹脂を設ける樹脂設置工程と;
を有することを特徴とするハイブリッドレンズの製造方法。
【請求項5】
光を透過する第1の材料と、光を透過する第2の材料とで構成された光学素子において、
前記各材料の境界が、光の波長よりも小さい周期の微細な凹凸状に形成されていることを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−181742(P2010−181742A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−26531(P2009−26531)
【出願日】平成21年2月6日(2009.2.6)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】