説明

ハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカー

【課題】振動板を一枚にして、複雑な構造を簡素化させ、振動板の選択を簡単にしてコストダウンを図ることができるハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカーを提供する。
【解決手段】 ハイブリッド型スピーカーユニット1は、マグネット2およびヨーク3を有する磁気回路13と、磁気回路13との電磁力の作用で振動を起こすためのコイル11と、振動によって音声を発生させる振動板12と、スピーカーユニットの構成要素を内在する筐体5と、を有し、コイル11は筐体5に固定され、磁気回路13は、振動板12および筐体5を振動させるように、振動板12および筐体5と連結して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨伝導によって音を伝達することもできるハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカーの構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホン、携帯電話、イヤホンなどのスピーカーを利用した製品において、音声に応じた振動を発生する骨伝導音を使用すると、単なる空気から伝わる音声すなわち音波のみでなく、いわゆる伝音性難聴の人でも音楽を楽しんだり、騒音がある環境においても、耳をふさぎ鼓膜を保護した状態で音を聞いたりすることが可能となる。近年、一つのユニットで、振動すなわち骨伝導音と、音声すなわち気道音の両方を発生させるハイブリッド型スピーカーユニットが開発され、実用化されている。
【0003】
このハイブリッド型スピーカーユニットを使用すると、個人差があるものの高音が聞きにくくなるといわれる老人性難聴の人や、外耳や中耳に障害のある伝音性難聴の人や、特定の周波数を気道音では聞くことができない難聴者でも、音楽を楽しむことができ、また補聴器としても機能させることが可能である。また、双方の音を聞くことによる臨場感を使用者が楽しむことを想定することができる。
【0004】
このハイブリッド型スピーカーユニットの基本構造は、音声電流を受けて振動する振動板と、その反作用で磁気回路部を振動させるように磁気回路を支持するサスペンションなどを有してなるものである。こうしたハイブリッド型スピーカーユニットは、いずれも振動と音波を発生させることができるが、その構成上の問題から発生させる周波数に制限があるといった問題を有している。
【0005】
そこで、特許文献1に記載の発明では、ボイスコイルとの磁気干渉作用によって音声を再生させる第1の振動板と、磁気回路全体をケーシングに対して揺動自在に支持する第2の振動板とを有し、第2の振動板にも磁気回路の一部と干渉するボイスコイルを設けたハイブリッド型スピーカーユニットが開示されている。このことにより、第1の振動板と、第2の振動板それぞれに固有の周波数の音声電流を流すことが可能になり、発生する振動周波数を自由に選択できる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明は、振動板を2つ用いる必要があるため原価が高くなり、その構造も複雑なものとなる。また、第1の振動板と、第2の振動板の材質の硬さを変えて、異なる周波数で、気道音が主体になるか骨伝導音が主体になるかを振り分けているため、振動板の選択が難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4032369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカーにおいて、以上説明した従来技術の問題点を解消するためになされたもので、従来2枚必要であったハイブリッド型スピーカーユニットの振動板を一枚にし、複雑な構造を簡素化させ、振動板の選択を簡単にすることにより、コストダウンを図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットは、マグネットおよびヨークを含む磁気回路構成部材と、上記磁気回路構成部材との間に作用する電磁力で振動を起こすためのコイルと、上記振動によって音声を発生させる振動板と、上記磁気回路構成部材、コイル、振動板を含むスピーカーユニットの構成要素を内在する筐体と、を有し、上記コイルは上記筐体に固定され、上記磁気回路構成部材は、上記振動板および上記筐体を振動させるように、上記振動板の外周縁部が上記筐体に連結されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカーによると、コイルを筐体に固定し、磁気回路構成部材を振動板および筐体を振動させるように振動板および筐体と連結して構成させることで、従来2枚必要であったハイブリッド型スピーカーユニットの振動板を一枚にすることができるため、複雑であった構造を簡素なものにしてコストダウンを図ることができ、また、振動板の材質などの選択を容易なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットの実施例を示す断面図である。
【図2】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーの着用時の一態様を示す模式図である。
【図3】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーの着用時の他の態様を示す模式図である。
【図4】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーの着用時の他の態様を示す模式図である。
【図5】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーの着用時の他の態様を示す模式図である。
【図6】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーのサスペンションの態様を示す上面図である。
【図7】本発明にかかるハイブリッド型スピーカーのサスペンションの他の態様を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットおよびハイブリッド型スピーカーの実施例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットは、特にこの実施例の構成に限定されるものではない。
【0013】
図1において、ハイブリッド型スピーカーユニット1は、リング状のマグネット2およびヨーク3を含む磁気回路構成部材13と、磁気回路構成部材13との間に作用する電磁力で振動を起こすリング状のコイル11と、その振動によって音声を発生させる振動板12と、上記磁気回路構成部材13、コイル11、振動板12を含むスピーカーユニット1の構成要素を内在する扁平で有底円筒状かつその底に孔を有する筐体5で主に構成される。コイル11は筐体5に固定され、磁気回路構成部材13は、後述するマグネットホルダー4の下面側に固着され、マグネットホルダー4の上面にはサスペンション7が固着され、サスペンション7の外周縁部は筐体5の上端内周部に固着されている。マグネットホルダー4およびサスペンション7と振動板12は連結部材10によって連結されている。このようにして、振動板12の外周縁部、連結部材10、磁気回路構成部材13、サスペンション7、筐体5、スペーサー6は、振動板12および筐体5を振動させることができるように、互いに連結されている。振動板12の上方には、カバー8が、その底部の周縁部がスペーサー6の上に固着されることによって設けられている。また、筐体5の底面には回路基板9が備えられている。
【0014】
上記磁気回路構成部材13は、リング状の平面形状をしたマグネット2とヨーク3で構成されている。ヨーク3は、そのリング状の形状に沿って図1における下方向に開口するU字状の窪みを有し、マグネット2は、その窪みの中に組み込まれている。より具体的には、マグネット2はヨーク3の外側の周壁の内面側に固着されている。磁気回路構成部材13は、平面形状が円形をしたマグネットホルダー4の下面に適宜の方法で、例えば接着によって固着されている。これによりマグネットホルダー4と磁気回路構成部材13は、可動部14を形成している。振動板12と可動部14との間には、薄い円盤状のサスペンション7が設けられている。サスペンション7は、その外周縁部が筐体5の内周側上端部に設けられた肩状の部分に載せられて固着され、サスペンション7の内周側は、マグネットホルダー4の上面に固着されている。サスペンション7の平面形状の中心には、孔7Aが設けられ、そこに連結部材10の挿入部10Aが挿通されている。
【0015】
サスペンション7の平面形状は、目的に応じて適宜のものが選択できる。図6、図7はそれぞれサスペンション7の例を示す。図6に示すサスペンション7は、円板の中心に円形の孔7Aを、その周囲の同心円に沿って等間隔に4つの円形の孔7Bを、さらにその外側に4つの三日月状の孔7Cを周方向に等間隔に形成することによって、円形の外周縁部と中心部とを結ぶ渦形の連結部7Dを有してなるものである。上記連結部7Dが弾性を発揮して、振動板12および可動部14の振動を許容する。
【0016】
図7に示すサスペンションは、円板の中心に円形の孔7Aを、その周囲4つの円形の孔7Bを形成している点は図6の例と同じであるが、上記4つの孔7B形成部の外側に3つの半月状の孔7Eを形成することによって、円形の外周縁部の内周側に三角形状の部分が残っている点が異なっている。さらに、上記三角形状の部分の各頂点に対応する部分に、2辺が上記各頂点を形成する三角形の2辺と平行をなす三角形状の孔7Fが形成され、これら三角形状の孔7Fの2辺と平行に、円形の外周縁部と中心部とを結ぶ幅の狭い連結部7Gを有してなるものである。上記連結部7Gが弾性を発揮して、振動板12および可動部14の振動を許容する。
【0017】
図1において、連結部材10の縦断面形状はT字型となっており、上部は円盤状で、下部は円盤状の下面から突き出た円筒状の挿入部10Aが一体に設けられている。サスペンション7を挿通した上記挿入部10Aは、マグネットホルダー4の平面の中心に設けられた孔に挿入され、サスペンション7とマグネットホルダー4が固着されている。連結部材10の上には振動板12が乗せられている。
【0018】
振動板12は、平面形状が円形状になっていて、その平面の中心に、ドーム状をしたメインドーム12Aと、メインドーム12Aをリング状に囲むサブドーム12Bを有している。したがってその断面には、図1のように中心に円弧状の1つの突部と、その左右に円弧上の2つ突部が現れている。メインドーム12Aの直径は、連結部材10の円盤状の上面の直径とほぼ同じになるように設計され、上述のように連結部材10の上には振動板12が乗せられている。筐体5の上端には、筐体5とその円周が略同じ大きさである円筒状のスペーサー6が連結されている。スペーサー6は、その内周に向かって伸びた突縁部6Aを有している。突縁部6Aは、振動板12のサブドーム12Bの外周縁部の位置まで、この外周縁部の上面を覆うようにして伸びていて、振動板12は上記突縁部6Aに固着されている。スペーサー6の外周縁部上面には、扁平な皿形のカバー8が伏せられた態様で固着され、振動板12がカバー8で保護されている。カバー8は、メッシュ状の部材、あるいはパンチングメタルなどで製作するとよい。
【0019】
磁気回路構成部材13によって形成されている磁場にコイル11が配置されているため、コイル11に音声信号を入力すると、コイル11を横切っている磁束と、コイル11に流れる電流とによって生じる電磁力で、磁気回路構成部材13などからなる可動部14が音声信号に従って振動する。この振動はサスペンション7、連結部材10を介して振動板12に伝達され、振動板12から音波を発することができる、この音波を耳で聞くことができる。また、磁気回路構成部材13、振動板12などからなる可動部14が上記のように振動することにより、この振動の反力で筐体5が振動し、筐体5の振動を骨伝導として使用者に伝達することができる。
【0020】
このように、本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニット1は、コイル11を筐体5に固定し、磁気回路構成部材13を振動板12および筐体5を振動させるように振動板12および筐体5と連結して構成させることで、従来2枚必要であったハイブリッド型スピーカーユニット1の振動板を一枚にすることができる。したがってハイブリッド型スピーカーユニット1の複雑であった構造を簡素なものにして原価を下げることができ、振動板の材質などの選択を容易なものにすることができる。なお、上述の可動部を構成する各部材の連結の方法および可動部と筐体5の連結の方法としては、上記のものに限らず、コイル11を筐体5に固定し、磁気回路構成部材13を振動板12および筐体5を振動させるように振動板12および筐体5と連結して構成されていれば、適宜の構造を選択できる。例えば、スペーサー6と筐体5は一体にすることも可能である。また、連結部材10とマグネットホルダー4は一体にすることができる。さらに全体的な平面形状の設計を適宜の変更することも可能であり、四角状や三角状にすることもできる。
【0021】
次に、上に説明したような本発明にかかるハイブリッド型スピーカーユニットを使用したハイブリッド型スピーカーの実施例を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明にかかるハイブリッド型スピーカーは、特にこの実施例に限定されるものではない。
【0022】
図2乃至図4において、ハイブリッド型スピーカー15は、ハイブリッド型スピーカーユニット1を一般的なイヤホンの適宜の構成要素とともに組み込んでいる。また、ハイブリッド型スピーカーユニット1は、その底面を使用者の頭部19のこめかみ18に当て、使用者の外耳道17に挿入できるように、ハイブリッド型スピーカーユニット1の上面に円弧上に伸び出た放音管16を有している。使用者は、こめかみ18と外耳道17に上述のようにハイブリッド型スピーカー15が当接するように着用する。このように構成することにより、放音管16によって気道音Aが外耳道17方向に進行し、ハイブリッド型スピーカー15本体の振動によって、骨伝導音Bが使用者のこめかみ18から使用者の図示しない聴細胞へ伝わる。そして使用者は、骨伝導音と音波である気道音の双方を聞くことができ、例えば特定の周波数を気道音では聞くことができない難聴者でも、ハイブリッド型スピーカー15によって音楽を楽しむことができ、このスピーカーを補聴器として機能させることも可能となる。また、双方の音を聞くことによる臨場感を使用者は楽しむことができる。なお、図2乃至図4のハイブリッド型スピーカー15は、使用者の一部と、使用者の外耳道に放音管が挿入できるように構成されていれば適宜の形状にすることができ、例えば耳掛けを有していてもよい。
【0023】
図5に示すハイブリッド型スピーカーは、前記実施例について説明したようなハイブリッド型スピーカーユニット1が、使用者の外耳道17に挿入するための放音管23を有しているカナル型イヤホン21に組み込まれている。カナル型イヤホン21は、ハイブリッド型スピーカーユニットを、一般的なイヤホンの構成要素とともにカナル型イヤホン21の適宜の形状にすることができる円筒状をした筐体24の内部に組み込んでいる。カナル型イヤホン21は、細長い円筒状の放音管23にイヤーピース22をはめ込んでいる。使用者は、その耳介20の外耳道17にカナル型イヤホン21を装着することができる。このように構成することにより、放音管23によって気道音Aが外耳道17方向に進行し、使用者の耳介20に当接される筐体24によって、骨伝導音Bが使用者の図示しない聴細胞へ伝わる。そして使用者は、上述の図2乃至図4の実施例と同様に、骨伝導音と気道音の双方を聞くことができ、例えば特定の周波数を気道音では聞くことができない難聴者でも、音楽を楽しむことができ、補聴器としても機能させることが可能である。また、双方の音を聞くことによる臨場感を使用者は楽しむことができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
以上、本発明の実施形態の一例について説明したが、本発明はこの例に限るものではない。本発明におけるハイブリッド型スピーカーユニットは、イヤホンに使用すると好ましいが、ヘッドホンや補聴器などの医療機器に応用可能である。また、例えばスピーカーに小型マイクを内蔵させ、そのマイクを利用していわゆるノイズキャンセリング機能を備えるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0025】
1 ハイブリッド型スピーカーユニット
2 マグネット
3 ヨーク
4 マグネットホルダー
5 筐体
6 スペーサー
7 サスペンション
8 カバー
9 回路基板
10 連結部材
11 コイル
12 振動板
13 磁気回路構成部材
14 可動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットおよびヨークを含む磁気回路構成部材と、
上記磁気回路構成部材との間に作用する電磁力で振動を起こすためのコイルと、
上記振動によって音声を発生させる振動板と、
上記磁気回路構成部材、コイル、振動板を含むスピーカーユニットの構成要素を内在する筐体と、を有し、
上記コイルは上記筐体に固定され、
上記磁気回路構成部材は、上記振動板および上記筐体を振動させるように、上記振動板の外周縁部が上記筐体に連結されていることを特徴とするハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項2】
磁気回路構成部材は、マグネットホルダーによって保持され、上記マグネットホルダーと上記磁気回路構成部材が可動部を形成している請求項1に記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項3】
振動板と、可動部との間にサスペンションを有し、上記振動板と上記可動部は上記サスペンションの中央を挿通する連結部材を介して接合している請求項2に記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項4】
マグネットと、ヨークと、コイルは、リング状をしている請求項1乃至3のいずれかに記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項5】
ヨークは、リング状の形状に沿って窪みを有し、マグネットは、上記ヨークの窪みに組み込まれている請求項4に記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項6】
コイルは、ヨークの窪みに組み込まれているマグネットと、上記ヨークとの隙間に設置されている請求項5に記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項7】
コイルは、筐体の下部中央に固定されている請求項6に記載のハイブリッド型スピーカーユニット。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のハイブリッド型スピーカーユニットを使用したハイブリッド型スピーカーであって、
上記ハイブリッド型スピーカーユニットの底面を使用者の一部にあて、上面に使用者の外耳道に挿入するための放音管を有するイヤホンを構成しているハイブリッド型スピーカー。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれかに記載のハイブリッド型スピーカーユニットを使用したハイブリッド型スピーカーであって、
上面に使用者の外耳道に挿入するための放音管を有するカナル型イヤホンを構成しているハイブリッド型スピーカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−119913(P2011−119913A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274637(P2009−274637)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】