説明

ハイブリッド微粒子及びその製造方法

【課題】原料や触媒に由来する不純物を含有せず、溶液中でも安定に保存できるシリカ微粒子を提供すること。
【解決手段】微粒子の内殻が有機物で、微粒子の外殻がシリカ層である、シリカおよび有機物からなる微粒子であって、珪素以外の金属分及びハロゲン元素の合計量が100ppm以下であることを特徴とする、ハイブリッド微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物とシリカとからなるハイブリッド微粒子に関し、具体的には、有機物が内殻にありシリカが外殻にあるコアシェル型の微粒子であって、不純物の少ないハイブリッドシリカ微粒子及びそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカに代表されるシリカ微粒子は、電子材料、土木建材、製紙工業、塗料、食品等の様々な分野で利用されている。シリカ微粒子はいくつかの方法で製造されており、例えば、水溶液中でケイ酸ソーダ等の塩を加水分解して製造する方法、水溶液中でテトラエトキシシラン等のアルコキシシランを加水分解して製造する方法、シリカの粉砕あるいは高温気相反応により製造する方法等が挙げられ、一般的に水中で製造したものを湿式シリカと呼び、水を使用しないものを乾式シリカと呼んでいる(例えば、特許文献1〜4を参照)。
【0003】
理想的なシリカ微粒子としては、粒子が球状で、粒子径にばらつきがなく、必要な粒子径のものを自由に製造でき、不純物を含有しておらず、溶液中でも安定的に保存できるものである。しかし、乾式シリカは純度は高いが粒子が球状ではなく、更に粒子径のばらつきが非常に大きい。また、二次凝集、三次凝集するため小さな粒径のものを得ることが難しく、水や溶媒に分散させることができない。
【0004】
一方、湿式シリカの粒子は球状にちかく、乾式シリカのように凝集することは少ないが、必要な粒子径のものを得るために酸やアルカリの触媒を使用して加水分解するため、これらの触媒が系内に残存するという問題や、ケイ酸ソーダ等を原料とした場合はアルカリ金属が残存するという問題がある。更に湿式シリカは、水や溶媒等の中に分散することはできるが、長期間安定に分散させることは難しく、長期保存において常に沈殿する危険がある。また、シリカとシリカ以外の無機酸化物とからなる微粒子(例えば、特許文献5を参照)も知られているが、アルミニウムやチタン等の金属分や、アルカリ金属、アンモニウム塩等の多くの不純物を含有するという欠点や、比重の大きい金属を含有するため溶液中での安定性が悪いという欠点があった。シリカ微粒子を電子材料や半導体分野で使用する場合、上記のような金属分等の不純物は、微量であっても問題になることがあり、不純物の少ないシリカ微粒子が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭51−25235号公報
【特許文献2】特開昭61−171533号公報
【特許文献3】特開平4−77309号公報
【特許文献4】特開平6−287013号公報
【特許文献5】特開平5−132309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明が解決しようとする課題は、原料や触媒に由来する不純物を含有せず、溶液中でも安定に保存できるシリカ微粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者等は鋭意検討し、工業的に有用なシリカ化合物を主成分とする新規な粒子を見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は、微粒子の内殻が有機物で、微粒子の外殻がシリカ層である、シリカおよび有機物からなる微粒子であって、珪素以外の金属分及びハロゲン元素の合計量が100ppm以下であることを特徴とするハイブリッド微粒子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の効果は、原料や触媒に由来する不純物を含有しておらず、溶液の中でも安定に保存できるシリカ微粒子およびそれらの微粒子の製造方法を提供したことにある。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明のハイブリッド微粒子は、有機物を内殻に有し、更にシリカを外殻層に有する微粒子である。製造方法は後に詳しく記載するが、基本的な製造方法としては、有機物の微粒子に有機珪素化合物を反応させてシリカ外殻層を形成させて得られるものである。なお本願では、二酸化珪素(SiO)をシリカと呼び、二酸化珪素にアルキル基やアミノ基等のその他の基を含有するものを変性シリカと呼ぶ。
【0010】
使用できる有機物は微粒子状のものであればいずれの材質でもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ナイロン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、尿素樹脂等の合成樹脂;セルロース、キチン、キトサン等の天然高分子が挙げられる。これらの材質は、粉砕、造粒等により微粒子状にすればよいが、合成樹脂を使用する場合には製造段階で微粒子状に製造してもよい。微粒子状を製造する方法としては、例えば乳化重合が挙げられる。乳化重合で製造した微粒子は粒子の形状がほぼ球状であり、反応条件によって小さな粒子径から大きな粒子径まで自由に製造でき、更に得られた微粒子の粒子径はばらつきが非常に小さいという利点を持つ。つまり乳化重合で製造すると、粒度の整った球状の微粒子が容易に得られる。よって、本発明のハイブリッド微粒子の原料として用いる有機物としては、乳化重合によって得られる合成樹脂が好ましい。
【0011】
上記に挙げた有機物は、粉砕、造粒あるいは乳化重合によって微粒子にすればよいが、粉砕の方法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、サイクロンミル等の粉砕機を使用する方法や、少量であれば乳鉢等ですりつぶす方法等が挙げられる。また、乳化重合によって微粒子を得る方法としては、乳化重合として公知の方法であればいずれの方法を使用してもよく、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、アクリル酸エステル等のモノマーを水と界面活性剤(乳化剤)で乳化して重合開始剤で重合すればよい。モノマーの種類、モノマー濃度、反応温度、乳化剤濃度、開始剤濃度等の条件によって得られる合成樹脂の微粒子の大きさや粒度分布が決定するので、微粒子の大きさに指定がある場合にはこれらの条件を適宜調整して乳化重合を行えばよい。
【0012】
上記の乳化重合により得られる具体的なエマルションとしては、例えば、ウレタン系エマルション、アクリレート系エマルション、スチレン系エマルション、酢酸ビニル系エマルション、SBR(スチレン/ブタジエン)エマルション、ABS(アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン)エマルション、BR(ブタジエン)エマルション、IR(イソプレン)エマルション、NBR(アクリロニトリル/ブタジエン)エマルション、あるいはこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
ウレタン系エマルションとしては、例えば、ポリエーテルポリオール系、ポリエステルポリオール系、ポリカーボネートポリオール系等が挙げられる。
アクリレート系エマルションとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(エステル)単独、(メタ)アクリル酸(エステル)/スチレン、(メタ)アクリル酸(エステル)/酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸(エステル)/アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸(エステル)/ブタジエン、(メタ)アクリル酸(エステル)/塩化ビニリデン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アリルアミン、(メタ)アクリル酸(エステル)/ビニルピリジン、(メタ)アクリル酸(エステル)/アルキロールアミド、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N―ジメチルアミノエチルエステル、(メタ)アクリル酸(エステル)/N,N−ジエチルアミノエチルビニルエーテル、シクロヘキシルメタクリレート系、エポキシ変性系、ウレタン変性系等の重合物が挙げられる。
【0014】
スチレン系エマルションとしては、例えば、スチレン単独、スチレン/アクリロニトリル、スチレン/ブタジエン、スチレン/フマルニトリル、スチレン/マレインニトリル、スチレン/シアノアクリル酸エステル、スチレン/酢酸フェニルビニル、スチレン/クロロメチルスチレン、スチレン/ジクロロスチレン、スチレン/ビニルカルバゾール、スチレン/N,N−ジフェニルアクリルアミド、スチレン/メチルスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、スチレン/アクリロニトリル/メチルスチレン、スチレン/アクリロニトリル/ビニルカルバゾール、スチレン/マレイン酸等の重合物が挙げられる。
【0015】
酢酸ビニル系エマルションとしては、例えば、酢酸ビニル単独、酢酸ビニル/スチレン、酢酸ビニル/塩化ビニル、酢酸ビニル/アクリロニトリル、酢酸ビニル/マレイン酸(エステル)、酢酸ビニル/フマル酸(エステル)、酢酸ビニル/エチレン、酢酸ビニル/プロピレン、酢酸ビニル/イソブチレン、酢酸ビニル/塩化ビニリデン、酢酸ビニル/シクロペンタジエン、酢酸ビニル/クロトン酸、酢酸ビニル/アクロレイン、酢酸ビニル/アルキルビニルエーテル等の重合物が挙げられる。
上記に挙げたエマルションの中でも、容易に望みの粒径を得ることができることから、アクリレート系エマルジョン及びスチレン系エマルジョンが好ましい。
【0016】
上記の乳化重合に使用できる乳化剤は、公知の界面活性剤であればいずれも使用することができ、例えば、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0017】
アニオン界面活性剤としては、例えば、高級脂肪酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、硫化オレフィン塩、高級アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、硫酸化脂肪酸塩、スルホン化脂肪酸塩、リン酸エステル塩、脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、グリセライド硫酸エステル塩、脂肪酸エステルのスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸メチルエステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、脂肪酸アルカノールアミド又はそのアルキレンオキサイド付加物の硫酸エステル塩、スルホコハク酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゾイミダゾールスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンスルホコハク酸塩、N−アシル−N−メチルタウリンの塩、N−アシルグルタミン酸又はその塩、アシルオキシエタンスルホン酸塩、アルコキシエタンスルホン酸塩、N−アシル−β−アラニン又はその塩、N−アシル−N−カルボキシエチルタウリン又はその塩、N−アシル−N−カルボキシメチルグリシン又はその塩、アシル乳酸塩、N−アシルサルコシン塩、及びアルキル又はアルケニルアミノカルボキシメチル硫酸塩等の1種または2種以上の混合物を挙げることができる。
【0018】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの付加形態は、ランダム状、ブロック状の何れでもよい。)、ポリエチレングリコールプロピレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリン脂肪酸エステル又はそのエチレンオキサイド付加物、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、脂肪酸モノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸−N−メチルモノエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、脂肪酸ジエタノールアミド又はそのエチレンオキサイド付加物、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル(ポリ)グリセリンエーテル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、脂肪酸メチルエステルエトキシレート、N−長鎖アルキルジメチルアミンオキサイド等が挙げられる。
【0019】
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキル(アルケニル)トリメチルアンモニウム塩、ジアルキル(アルケニル)ジメチルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、エーテル基或いはエステル基或いはアミド基を含有するモノ或いはジアルキル(アルケニル)四級アンモニウム塩、アルキル(アルケニル)ピリジニウム塩、アルキル(アルケニル)ジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキル(アルケニル)イソキノリニウム塩、ジアルキル(アルケニル)モルホニウム塩、ポリオキシエチレンアルキル(アルケニル)アミン、アルキル(アルケニル)アミン塩、ポリアミン脂肪酸誘導体、アミルアルコール脂肪酸誘導体、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が挙げられる。
両性界面活性剤としては、例えば、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン、アミドアミノ酸、イミダゾリニウムベタイン系界面活性剤等が挙げられる。
上記の界面活性剤の中では、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤が好ましい。
【0020】
また、分子内に二重結合を有する反応性界面活性剤も使用することができ、こうした反応性界面活性剤としては、例えば、特開昭58−203960号公報、特開昭61−222530号公報、特開昭63−023725号公報、特開昭63−091130号公報、特開平04−256429号公報、特開平06−239908号公報、特開平08−041113号公報、特開2002−301353号公報等に記載されたものが挙げられる。
【0021】
エマルションを製造する際、上記の乳化剤は通常の使用量の範囲で任意に使用することができるが、概ね原料モノマーに対して、好ましくは0.1〜20質量%、より好ましくは0.2〜10質量%、更に好ましくは0.5〜8質量%添加して使用することができる。
【0022】
本発明のハイブリッド微粒子を製造するときは、内殻の微粒子を水中に分散させた後、外殻層になるシリカを被覆させる。よって上記乳化重合で得られた微粒子は、そのまま次の反応に使用することができる。一方、粉砕等によって得られる微粒子状の化合物については、水に分散するものであれば、そのまま水中に分散させればよく、水に分散しないものであれば、乳化剤等を使用して水中に分散すればよい。使用できる乳化剤としては、上記に挙げた界面活性剤を使用することができる。
【0023】
外殻層にシリカ層を形成するためには、内殻の微粒子に特定の珪素化合物を反応させればよく、一般的には、硫酸やトルエンスルフォン酸などの強酸;四塩化チタン、塩化ハフニウム、塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化鉄、塩化スズ、フッ化硼素等の金属ハロゲン化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ソヂウムメチラート、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、アルコラート物、炭酸塩;酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム等の金属酸化物;テトライソプロピルチタネート、ジブチル錫ジクロライド、ジブチル錫オキサイド等の有機金属化合物等の触媒を入れて反応させることが知られている。しかし触媒を使用すると系内に触媒が残留する場合があるため、反応は無触媒で行なうことが好ましい。
【0024】
無触媒でシリカ層を形成できる珪素化合物としては、例えば、モノクロロシラン、ジクロロシラン、トリクロロシラン等のクロロシラン類;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類が挙げられる。しかし、クロロシラン類は塩素原子を含有するため、塩素含有化合物が不純物として含有する場合や、反応の制御が難しいことから、テトラアルコキシシラン類を使用することが好ましい。テトラアルコキシシラン類の中でも、反応の制御が良好なことから、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランが好ましく、テトラメトキシシランがより好ましい。なお、アルキルシランやアミノ変性シラン等の変性珪素化合物を使用すると、変性シリカが生成してシリカを生成させることはできない。また、反応性という観点から見ると、アルキルシランやアミノ変性シランは、テトラアルコキシシランと比較して反応性が劣るため、無触媒での反応には適さない。
【0025】
上記の珪素化合物は内殻の微粒子に対して任意の量を反応させればよいが、好ましくは内殻の微粒子100質量部に対して珪素化合物の珪素原子が0.5〜30質量部、より好ましくは1〜20質量部、更に好ましくは0.8〜10質量部になるように反応させればよい。珪素化合物の量が少なすぎると外殻層をうまく形成できない場合があり、珪素化合物の量が多すぎると粒子同士の融合や凝集が起こる場合がある。
【0026】
具体的な反応方法としては、例えば、内殻となる微粒子を0.1〜30質量%水中に分散させ、0〜50℃でテトラメトキシシラン等を添加し、同温度で1〜48時間攪拌して反応させる。その後、系の温度を60〜80℃に上げて1〜20時間熟成を行えばよい。得られる微粒子は、触媒に由来する不純物を含まず、更に、原料に由来するアルカリ金属やハロゲンも含まないシリカ微粒子の水分散物となる。
【0027】
本発明のハイブリッド微粒子は、上記の有機物およびシリカ層からなるハイブリッド微粒子に、更に第2外殻層として変性シリカを被覆することが好ましい。変性シリカを被覆した微粒子は、内殻の有機物の周りに外殻層としてシリカ層(第1外殻層)があり、その周りに変性シリカ層(第2外殻層)のある、3層構造の微粒子になる。変性シリカを被覆することにより、水溶媒から有機溶媒への置換が可能になることや、反応基やアミノ基等の活性基の導入により、様々な特性を持つ微粒子が得られる。
【0028】
変性シリカを形成させる珪素化合物(変性珪素化合物)としては、下記の一般式(1)の化合物を挙げることができる。
Si(OR')4−n (1)
(式中、Rは炭素数1〜18のアミノ基を含有してもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、または炭化水素基を含有してもよいフルオロアルキル基を表し、R'は炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、アリール基を表し、nは1〜3の数を表す。)
【0029】
こうした変性珪素化合物の具体的な例としては、例えば、モノメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルモノメトキシシラン、モノエチルトリメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、トリエチルモノメトキシシラン等のアルキルアルコキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルモノメトキシシラン等のフェニルアルコキシシラン化合物;アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基含有シラン化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シラン化合物;3-グリシドキシプロピルメチルエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のグリシジル基含有シラン化合物;3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シラン化合物;ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン、ノナフルオロヘキシルトリエトキシシラン、トリデカフルオロヘキシルトリメトキシシラン、トリデカフルオロヘキシルトリエトキシシラン等のフッ素原子含有シラン化合物等が挙げられる。これらの変性珪素化合物は本発明のハイブリッド微粒子の用途に合わせて適時選択すればよく、2種類以上の変性珪素化合物を使用してもよい。
【0030】
これらの変性珪素化合物は、本発明のハイブリッド微粒子に直接反応させればよく、反応時に触媒を使用しなくても反応する。ここで、変性珪素化合物の反応性について詳しく説明する。先にも述べたが、アルキルシランやアミノ変性シランは、テトラアルコキシシランと比較して反応性が劣るため、一般的に触媒がないと反応しない。しかしアルキルシランやアミノ変性シラン等の変性珪素化合物は、親和性の高い基材に付着すると反応するという特性持っており、中でもシリカは最も親和性の高い基材の一つである。本発明のハイブリッド微粒子における第2外殻層は、第1外殻層であるシリカの表面に変性珪素化合物が付着して形成されるため、変性珪素化合物であっても無触媒で反応が進むと推定される。内殻の微粒子に直接変性珪素化合物を反応させるためには触媒が必要となるが、第2外殻層を持つ本発明のハイブリッド微粒子は製造時に触媒を必要としないため、得られる微粒子には触媒に由来する不純物が含まれることはない。
【0031】
第2外殻層を得た本発明のハイブリッド微粒子は様々な特性を持ち、例えば、アルキル変性により溶媒を有機溶媒に置換することができ、また、アクリルやグリシジル変性により粒子そのものに反応性を持たせることもできる。変性珪素化合物は任意の量を反応させればよいが、あまりに少ない量だと効果を発揮できない場合があり、あまりに多い量だと粒子が凝集する場合があるため、好ましくは第1外殻層の原料であるテトラアルコキシシラン化合物の珪素原子1モルに対して、変性珪素化合物の珪素原子が0.01〜5モル、より好ましくは0.03〜3モル、更に好ましくは0.05〜1モルになるように反応させればよい。
【0032】
具体的な反応方法としては、例えば、第1外殻層を持った微粒子を0.1〜30質量%水中あるいは水と有機溶媒の混合液中に分散させ、0〜50℃で変性珪素化合物を添加し、同温度で1〜48時間攪拌して反応させる。その後、系の温度を60〜80℃に上げて1〜20時間熟成を行えばよい。
【0033】
コロイダルシリカ等で知られる公知のシリカ微粒子は、テトラアルコキシシラン化合物や珪酸ナトリウム等から製造されるが、一般的にテトラアルコキシシラン化合物では粒子径の大きいものを製造しやすく、珪酸ナトリウム等は粒子径の小さなものを製造しやすい。本発明のハイブリッド微粒子の内核を乳化重合で製造した場合、得られるハイブリッド微粒子は乳化重合の条件等によって小さな粒子から大きな粒子まで容易に製造することができる。具体的には粒径が10〜350nmのものであれば自由に製造することができ、また、得られたハイブリッド微粒子の粒子径のばらつきが少なく、均一な大きさの粒子を製造することができるという利点を持つ。
【0034】
本発明のハイブリッド微粒子は、珪素以外の金属分及びハロゲン原子の合計量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下、より好ましくは10ppm以下である。なお、ここでいう金属分とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属(第3族元素〜第11族元素)、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Ti、Sn、Pb及びBi等の金属元素のことである。触媒に金属分(特にアルカリ金属)が少量でも存在していると、電子材料や半導体分野では大きな問題になることがあるため、その含有量は少なければ少ないほどよい。反応に金属分を含む触媒を使用した場合、反応後にこれらの触媒を除去したとしても、シリカ粒子は多孔質であるため、触媒の一部がシリカの中に取り込まれて完全に除去することはできない。また、特開2002−093796号公報のように、低誘電率の皮膜を形成するような場合であれば、金属分が含有していても、金属分は皮膜の中で保護されて外部へ漏洩する可能性は低くなるが、例えば、酸化アルミニウムの比誘電率が8.5であるように、金属や金属酸化物の比誘電率はシリカ(シリカの比誘電率は3.8)に比べて高いため、低誘電率の皮膜においては誘電率を上げてしまう場合や、更にこれらの金属分の影響で絶縁性を下げてしまうという悪影響がでる場合がある。こうした悪影響は、粒子中に金属分が100ppmより多く存在すると顕著に現れると考えられる。
【0035】
本発明のハイブリッド微粒子は既存のシリカ微粒子と比較して、微粒子の構成上、溶液内での安定性が向上する。多くのシリカ微粒子は粒子全体がシリカで構成されており、シリカの比重は1.95〜2.15g/cm程度である。一方、本発明のハイブリッド微粒子は、内殻層が樹脂等で構成されているためシリカと比較すると微粒子の比重が軽くなる。例えば、有機物がポリスチレンであればその比重は1.05〜1.07g/cm程度であり、ABSであれば1.04g/cm程度である。よって、これらの有機物を使用した本発明のハイブリッド微粒子の比重は、1.1〜1.5g/cm程度になる。つまり微粒子の一部に有機物等を使用しているため、本発明のハイブリッド微粒子は通常のシリカ微粒子と比較して質量が軽くなるため溶液中で沈降等が起こりにくくなり、結果として溶液中での安定性が向上する。
【0036】
本発明のシリカ化合物微粒子は、従来知られているコロイダルシリカや中空シリカが使用できる用途であればいずれの用途にも使用することができるが、不純物濃度が低いことから、電子材料や半導体分野等に使用することが好ましい。
【実施例】
【0037】
以下本発明を実施例により、具体的に説明する。尚、以下の実施例等において%、ppmは特に記載が無い限り質量基準である。
【0038】
ハイブリッド微粒子1
温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの1000mlの4つ口フラスコに、スチレンモノマー50g、蒸留水500g、乳化剤としてドデシルトリメチルアンモニウムクロライド4gを入れて窒素置換し、攪拌しながら70℃まで昇温させた。昇温後、開始剤として水溶性アゾ系重合開始剤V−50(和光純薬工業株式会社製)を0.7g添加し、70℃で3時間反応させて、乳白色液状のポリスチレン乳化物を得た。得られたポリスチレン乳化物100gを、温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの2000mlの4つ口フラスコに入れ、更に蒸留水を886.9g添加して窒素置換をおこなった。系内の温度を25℃に調整した後、系内を攪拌しながらテトラメトキシシラン13.2g(珪素原子換算で2.4g)添加し、25℃のまま24時間反応させ、その後70℃に昇温して更に6時間反応させて本発明のハイブリッド微粒子1の2.3%水溶液を得た。
【0039】
ハイブリッド微粒子2
実施例1の製造方法において、スチレンモノマー50gをスチレンモノマー40gとビニルピリジン10gに変更し、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド4gをドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム4gに変更した以外は、実施例1と同様の方法で製造し、本発明のハイブリッド微粒子2の2.3%水溶液を得た。
【0040】
ハイブリッド微粒子3
実施例1で得たハイブリッド微粒子1の2.3%水溶液950gを、温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの2000mlの4つ口フラスコに入れ、系内を攪拌しながらジメチルジメトキシシラン1.6g(珪素原子換算で0.37g)添加し、25℃のまま24時間反応させ、その後70℃に昇温して更に6時間反応させて本発明のハイブリッド微粒子3の2.5%水溶液を得た。
【0041】
ハイブリッド微粒子4
実施例2で得たハイブリッド微粒子1の2.3%水溶液950gを、温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの2000mlの4つ口フラスコに入れ、系内を攪拌しながらアミノプロピルトリエトキシシラン5.3g(珪素換算で0.83g)添加し、25℃のまま24時間反応させ、その後70℃に昇温して更に6時間反応させて本発明のハイブリッド微粒子4の2.8%水溶液を得た。
【0042】
ハイブリッド微粒子5
実施例1の製造方法において、テトラメトキシシラン13.2gをテトラエトキシシラン18.1g(珪素原子換算で2.4g)に変更、及び25℃での反応時間を150時間に変更した以外は、実施例1と同じ方法で製造し、本発明のハイブリッド微粒子5の2.2%水溶液を得た。
【0043】
比較微粒子1
平均粒径5nm、SiO2濃度20%のシリカゾル10gと純水190gの混合物を80℃に加温した。この反応液のpHは10.5であり、同反応液にSiO2として1.17%の珪酸ナトリウム水溶液900gとAl23として0.83%のアルミン酸ナトリウム水溶液900gとを同時に添加した。その間、反応液の温度を80℃に保持した。添加終了後、反応液を室温まで冷却し、限外ろ過膜で洗浄して固形分濃度20%のSiO2・Al23粒子の分散液を調製した。この粒子の分散液50gに純水170gを加えて98℃に加温し、この温度を保持しながら、珪酸ナトリウム水溶液を陽イオン交換樹脂で脱アルカリして得られた珪酸液(SiO2濃度3.5%)300gを添加して粒子表面にシリカ膜を形成し、比較微粒子1の3.9%水溶液を得た。
【0044】
比較微粒子2
温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの1000mlの4つ口フラスコに、スチレンモノマー50g、蒸留水500g、乳化剤としてドデシルトリメチルアンモニウムクロライド4gを入れて窒素置換し、攪拌しながら70℃まで昇温させた。昇温後、開始剤として水溶性アゾ系重合開始剤V−50(和光純薬工業株式会社製)を0.7g添加し、70℃で3時間反応させて、乳白色液状のポリスチレン乳化物を得た。得られたポリスチレン乳化物100gを、温度計、窒素導入管及び攪拌機付きの2000mlの4つ口フラスコに入れ、更に蒸留水を886.9g添加して窒素置換をおこなった。系内の温度を25℃に調整した後、触媒としてドデシルベンゼンスルホン酸を10g添加し、系内を攪拌しながらテトラメトキシシラン13.2g(珪素原子換算で2.4g)添加し、25℃のまま10時間反応させた。反応終了後、水酸化ナトリウム水溶液を使って系内のpHが7になるように中和し、限外ろ過にて微粒子を取り出し、自然乾燥することにより比較微粒子2を得た。なお、比較微粒子2は、比較のため純水を加えて2.3%水溶液にしてから下記の試験に用いた。
【0045】
比較微粒子3
コロイダルシリカ(湿式シリカ):(アデライトAT−20Q:株式会社ADEKA製)
なお、上記コロイダルシリカはイオン交換樹脂で2回精製を行っている。
【0046】
<元素分析>
(i)金属分分析
得られた微粒子水溶液を、いずれも2%になるように純水で希釈した後、塩酸で溶解後、フッ化水素酸を加えて更に溶解し、蒸発乾燥させた残分に塩酸と水を加えて試料とした。得られた試料は、ICP発光分析装置(ICPS−8100:島津製作所製)でAl、Ti、Zr、Mg、Fe、Ni、Cu、Na、K、Snを分析し、微粒子水溶液中の濃度を測定した。
(ii)ハロゲン元素分析
微量塩素分析装置(TS−300:株式会社ダイヤインスツルメンツ社製)を使用して微粒子水溶液中のハロゲン元素分を測定した。
【0047】
<粒度分布の測定>
粒度分布計(MICROTRAC UPA:日機装株式会社製)を使用して、動的光散乱法にて得られた微粒子の粒度分布を測定した。粒度分布の中央値を粒子径とし、更に、得られたデータを使用し、下記の計算方法で粒度分布の標準偏差(sd)を算出した。
標準偏差(sd)=(d84%−d16%)/2
d84%:累積カーブで84%の点の粒子径
d16%:累積カーブで16%の点の粒子径
【0048】
<比重の測定>
JIS−R7212に準拠して比重を測定した。空の比重瓶1の秤量(M1)、比重瓶1に乾燥させた微粒子を入れて秤量(M2)、サンプルを入れた比重瓶1(M2と同量のサンプル)に溶媒(ブタノール)を入れて脱泡し、30℃にしてから秤量(M3)、比重瓶1に溶媒(ブタノール)のみを入れて秤量(M4)。以上、4つの測定結果を使用し、下記の式より微粒子の比重を算出した。
比重=(M1−M2)ρ/{(M4−M1)−(M3−M2)}
ρは30℃の溶媒(THF)の比重
【0049】
<安定性>
ハイブリッド微粒子1〜4、及び比較微粒子1〜3を2%水溶液になるように純水で希釈し、均一化後、40℃の恒温槽に7日間放置し、7日後の状態を観察した。状態は下記の通りに判断した。
○:分離、沈殿が確認されない。
×:分離、または沈殿が確認される。
【0050】
【表1】

ND:測定限界(1ppm以下)のためデータなし
【0051】
本発明のハイブリッド微粒子は、金属分をまったく含有していない。一方、触媒を使用して同様の方法で製造した比較微粒子2は、触媒に由来するナトリウムが観測された。なお、比較微粒子2の安定性が悪いのは、精製のため一旦粉末状にしてから水に溶解させたためと考えられる。また、原料に珪酸ナトリウムを使用している比較微粒子3は、イオン交換樹脂で2回精製しているにもかかわらず、金属分は完全に除去することができなかった。このことからも、金属分やハロゲン元素を実質含有しない微粒子を得るには、触媒や金属分等を含有した原料を使用しないことが望ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微粒子の内殻が有機物で、微粒子の外殻がシリカ層である、シリカおよび有機物からなる微粒子であって、珪素以外の金属分及びハロゲン元素の合計量が100ppm以下であることを特徴とする、ハイブリッド微粒子。
【請求項2】
有機物が乳化重合で得られる樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載のハイブリッド微粒子。
【請求項3】
外殻のシリカ層が、テトラメトキシシランの反応物で形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載のハイブリッド微粒子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のハイブリッド微粒子の周りに、第2外殻層として変性シリカ層を有することを特徴とするハイブリッド微粒子。
【請求項5】
変性シリカ層が、下記の一般式(1)
Si(OR')4−n (1)
(式中、Rは炭素数1〜18のアミノ基を含有してもよいアルキル基、アルケニル基、アリール基、または炭化水素基を含有してもよいフルオロアルキル基を表し、R'は炭素数1〜8のアルキル基、アルケニル基、アリール基を表し、nは1〜3の数を表す。)
で表される変性珪素化合物から選択される1種又は2種以上の反応物で形成されることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッド微粒子。
【請求項6】
平均粒径が10〜350nmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のハイブリッド微粒子。
【請求項7】
水または有機溶媒に、請求項1〜6のいずれか一項に記載のハイブリッド微粒子が0.1〜50質量%含有することを特徴とする、ハイブリッド微粒子溶液。
【請求項8】
有機物の微粒子に、有機珪素化合物を無触媒下で反応させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のハイブリッド微粒子の製造方法。

【公開番号】特開2010−264416(P2010−264416A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119887(P2009−119887)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】