説明

ハイブリッド燃焼触媒の製造方法

【課題】 各種可燃性物質や廃棄物等を低い温度で完全燃焼させるとともに、燃焼時に発生する有害酸性ガスを吸収してダイオキシン類の発生の抑制と酸性ガスの効率的吸収除去を同時にできるハイブリッド触媒を製造することを目的とする。
【解決手段】 酸化鉄と酸化鉄よりも過剰のカルシウム化合物とを混合し、この混合物を焼成する。焼成によって、カルシウム化合物を分解反応により酸化カルシウムにするとともに、カルシウム化合物と酸化鉄からカルシウムフェライトを生成させて酸化カルシウム中に分散させる。焼成によって得た生成物を水和し、酸化カルシウムを溶解させて微細化させた多孔質状の水酸化カルシウムを形成させることにより、カルシウムフェライトを微細化分散させ、多孔質の水酸化カルシウム中に微細化した酸化鉄を分散させたハイブリッド触媒を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物焼却炉等にて被焼却物を低温で完全燃焼させることを可能にすることによりダイオキシン類の発生を防ぐとともに、燃焼により発生する有害酸性ガス(塩化水素や硫黄酸化物など)を吸収除去できるハイブリッド燃焼触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物や家庭ごみ等の廃棄物を焼却する過程において、廃棄物に含まれる有機化合物と塩素が反応してダイオキシン類が生成する可能性がある。このため、焼却施設から排出される排出ガスやフライアッシュ等は、一般にダイオキシン類による汚染を受けているものと考えられる。ダイオキシン類は、皮膚障害や内臓障害を引き起こす可能性があり、また、催奇性や発がん性を有する猛毒の有害物質である。
【0003】
焼却過程で生成するダイオキシン類は、燃焼が高温で均一(一般的には850℃で3秒以上が必要といわれている)に行われ、完全燃焼させれば、他の有機ハロゲン化合物と同様に二酸化炭素、水及び塩化水素に分解する。しかし、旧式の焼却炉では不完全燃焼のためダイオキシン類の発生があり、その改善が要望されている。また、燃焼時に発生する塩化水素等の有害酸性ガスはアルカリ吸収剤(例えば、消石灰、重曹など)により吸収除去されているが、この反応は固体吸収剤の表面反応のため、十分に内部まで反応できず多大な添加剤を必要としており、その低減が求められている。このため、被焼却物の完全燃焼及び有害酸性ガス除去に資する触媒の開発が模索されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、カルシウムフェライトを含む酸化触媒の製造方法について開示されている。カルシウム源及びフェライト源の少なくとも一方を含む原料を準備し、この原料を酸素雰囲気下で600〜1449℃で加熱して酸化触媒を製造している。得られた酸化触媒は、カルシウムによるHCl等の酸性ガスの吸収機能、酸化鉄による低温度での完全燃焼を促進する燃焼機能によってダイオキシン類の生成を抑制している。
【0005】
また、特許文献2は、可燃廃棄物をカルシウム化合物と酸化鉄粒子との共存下で850℃以上の温度で燃焼する方法であり、可燃廃棄物の燃焼時に発生する燃焼排ガス中の希薄HClを効果的に除去するとともに、他の有害物をも効率良く除去することが記載されている。
【0006】
特許文献3では、ダイオキシン類の分解剤に関する発明について開示されている。焼却灰等のダイオキシン類汚染物質に含まれるダイオキシン類を分解するためのものであり、本分解剤は、鉄酸化物と、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくとも一つを含んでいる。この分解剤と焼却灰等のダイオキシン類汚染物質とを混合して加熱することにより、ダイオキシン類を除去している。
【特許文献1】特開2006−297324号公報
【特許文献2】特開平8−270924号公報
【特許文献3】特開2005−118623号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、原料を加熱してカルシウムフェライトを含む酸化触媒を得ており、焼成するためカルシウムフェライトの結晶は焼結により巨大化するので粒径が大きくなってしまう。そして、焼結することから多孔質とはならないので表面積は小さいものとなってしまう。この酸化触媒を添加して廃棄物を焼却する場合、HCl等の酸性ガスの吸収は触媒表面のカルシウムのみが機能し、内部のカルシウムは機能することが無い。同様に、表面の鉄成分のみが酸化反応に寄与するのみで、内部の鉄成分は酸化反応に寄与できない。その結果、酸化触媒の効用は期待したほどのものを得られないため、必要以上に酸化触媒を添加しなければならず、歩留りが悪いという問題がある。
【0008】
また、この酸化触媒を物理的に粉砕して微粒化し、表面積を大きくすることが考えられるが、高価な粉砕装置が必要となり、その設備費、運転費用が掛かるのでコストが高くなってしまう。
【0009】
更に、主としてカルシウムフェライトからなる酸化触媒を製造するためには、鉄の混合比率が必然的に高くなることから、焼却炉で使用した場合、酸化鉄が比較的高価であることから処理費用が嵩むこと、焼却灰の重量が増える等の問題がある。
【0010】
特許文献2では、カルシウム化合物と酸化鉄粒子が一体化していないので、焼却炉内でのそれぞれの分布は不均一になってしまう。酸化鉄粒子の分布状態によって焼却炉内の温度分布も不均一になり、酸化鉄粒子の分布が少ない箇所では不完全燃焼が生じる。そして、カルシウム化合物の分布の少ない箇所ではHCl等の酸性ガスを除去することができない。このため、ダイオキシン類の発生を完全に抑えることが困難である。
【0011】
特許文献3は、鉄酸化物と、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物のうち少なくとも一つを含んだものを用いているが、ダイオキシン類に汚染されてしまった物質を処理するものであり、廃棄物を焼却する際に未然にダイオキシン類の発生を防止するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、酸化鉄と前記酸化鉄よりも過剰のカルシウム化合物とを混合する工程と、混合物を焼成し、前記カルシウム化合物を酸化カルシウムにするとともに前記カルシウム化合物と前記酸化鉄からカルシウムフェライトを生成させて前記酸化カルシウム中に分散させる工程と、前記焼成によって得た生成物を水和することにより、前記酸化カルシウムから微細化された多孔質状の水酸化カルシウムを形成させるとともに、前記カルシウムフェライトを微細化分散させる工程とを具備することを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、更に、前記水和によって得た生成物をろ過後、乾燥して解砕する工程を具備することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明は、前記酸化鉄としてFe、前記カルシウム化合物としてCaCOを用い、前記Fe/前記CaCOを0.2〜0.4の重量比で混合することを特徴とする。
【0015】
更に、本発明は、800〜1000℃の範囲で焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に依れば、酸化鉄とカルシウム化合物を焼成、水和して、多孔質化、及び微細化し、表面積の大きな燃焼触媒を製造している。水を加えて微細化、多孔質化を行うものであるので、高価な粉砕機が不要であるとともに運転コストも要らず、安価な製造方法を実現している。
【0017】
更に、本発明に依れば、酸化鉄とカルシウム成分を一体化して含んだ燃焼触媒を製造できるので、焼却の際に複数の触媒を添加することなく、本燃焼触媒のみを焼却物中に添加するだけでよいため作業性にも優れている。そして、一体化しているため、酸化鉄の酸化作用が発揮されて被焼却物が燃焼した際に生じる有害酸性ガスは、酸化鉄の周囲に存在するカルシウム成分により即座に吸収できる。
【0018】
更に、本発明に依れば、上述のように本燃焼触媒は多孔質の水酸化カルシウムに微小の酸化鉄を分散させた形態となるので触媒中の酸化鉄の表面積が大きく、更に、水酸化カルシウムが多孔質ゆえ、表層の酸化鉄だけでなく、空隙を介して水酸化カルシウム内部に分布する酸化鉄も有効に作用する利点がある。
【0019】
また、本発明に依れば、焼成時に原料酸化鉄に含有する硫黄や塩素が除去され、高純度の酸化鉄となる。このため、得られた燃焼触媒の酸化作用が高く、より低い温度で焼却物の完全燃焼が実現できる。
【0020】
更に、本発明に依れば、本触媒中の水酸化カルシウムについても多孔質ゆえ、空隙を通じて内部のカルシウム成分も効率的に塩素成分を吸収できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、主に、酸化鉄とカルシウム化合物とを混合する工程と、この混合物を焼成する工程と、焼成によって得た生成物を水和する工程からなり、酸化鉄とカルシウム化合物が分子レベルで化学的に反応微細化され、多孔質状の水酸化カルシウムの内部や表面に酸化鉄が担持された形態の燃焼触媒を得る方法である。
【0022】
また、水和により生成物が沈殿するので、その後ろ過、乾燥、解砕の各工程を行って、物理的に更に微細化を行ってもよい。
【0023】
図1を参照して、本発明のハイブリッド燃焼触媒の製造方法について詳細に説明する。図1はハイブリッド燃焼触媒の製造方法を示すフロー図である。
【0024】
まず、原料となる酸化鉄とカルシウム化合物を混合する。混合にはミキサー等を用いて物理的に混合する。酸化鉄としてFeを使用し、一方のカルシウム化合物として炭酸カルシウム(CaCO)を用いる。酸化鉄とカルシウム化合物との混合割合は、重量費で0.1〜0.5が良い。更に好ましくは0.2〜0.4である。本製造方法では、酸化鉄に対してカルシウム化合物を過剰に配合することが必要である。カルシウム化合物が少ないと後の焼成時に溶融させた際に酸化鉄が分散しなくなるためである。また、カルシウム化合物が多すぎると、酸化鉄が少なくなり過ぎ、酸化鉄の酸化機能が相対的に小さくなって燃焼温度を低下させる効果が低減してしまう。
【0025】
混合した後、焼成を行う。焼成することによって、酸化鉄の大部分は酸化カルシウムと反応してカルシウムフェライト(Fe・nCaO)となる。また、炭酸カルシウムを過剰に配合しているので、大半の炭酸カルシウムは分解反応により、酸化カルシウム(CaO)と二酸化炭素になる。したがって、存在比率の高い酸化カルシウム中にカルシウムフェライトが分散して存在することとなる。その結果、酸化鉄は焼成物の中に拡散された状態で分布している。
【0026】
焼成温度は800℃〜1000℃で行う事が好ましい。800℃以下であると十分に炭酸カルシウムが分解しないためである。また、1000℃以上で焼成すると、多くの燃料が必要となりエネルギー的にも無駄になってしまうとともに装置も耐熱性を高めるために高価となり好ましくない。
【0027】
焼成して得た生成物を常温程度まで冷却し、水と物理的に混合して水和を行う。生成物に水を添加すると、発泡が始まり、酸化カルシウムはアルカリ金属化合物であるので発熱を伴った溶解反応が起こる。酸化カルシウムが溶解反応によって水酸化カルシウム(Ca(OH))となり、多孔質状になるとともに、分子レベルで微細化が進む。また、焼成時にできたカルシウムフェライトは、酸化カルシウムの溶解に伴って微細化されて分散する。これによりカルシウムフェライトの内部に分散している酸化鉄も、この酸化カルシウムの溶解に伴って砕かれ微細化分散される。
【0028】
また、焼成時に酸化鉄に含まれる塩素や硫黄の不純物はカルシウムと結合し、鉄より除去される。このため、酸化鉄は清浄された状態となり、酸化鉄の高純度化も同時に行われる。酸化鉄の高純度化によって、酸化作用が高く高活性な燃焼触媒が得られる。このように製造過程で酸化鉄が高純度化されるので、原料の酸化鉄としては高純度のものを使用する必要がなくなり、鋼板の酸洗工程にて発生する副産物の酸化鉄等を利用してもよい。
【0029】
発泡が納まるまで静置した後、遠心分離機や吸引ろ過を行い、生成物と水とを分離する。
【0030】
これを乾燥させ、完全に水分を除去する。
【0031】
乾燥によって、生成物は固まってしまうので、ミキサー等の解砕機を使って衝撃を与ええ、粉末状に解砕する。
【0032】
以上の工程を経ることにより、多孔質の水酸化カルシウムの内部や表面に微小且つ高純度の酸化鉄が分散したハイブリッド燃焼触媒が得られる。
【0033】
上述した本方法について、図2の模式図を参照して更に説明する。酸化鉄11と炭酸カルシウム12を混合して焼成することにより、炭酸カルシウム12が分解して生成した酸化カルシウム13の内部や表面に酸化鉄11が分散して配置される。なお、酸化鉄11の大部分はカルシウムとの化学反応によりカルシウムフェライト(Fe・nCaO)11Bとして存在している。
【0034】
そして、この焼成によって得られた生成物を水和することにより、酸化カルシウム13が溶解され多孔質化するとともに、微細化された水酸化カルシウム14となる。酸化カルシウム13の溶解に伴ってカルシウムフェライト11Bが同時に微細化分散される。したがって、カルシウムフェライト11B中の鉄成分も一緒に微細化分散される。結果として、破線で部分的に拡大して示しているが、微細化した多孔質状の水酸化カルシウム14の内部や表面に微粒状のカルシウムフェライト(Fe・nCaO)11Bが分散したハイブリッド燃焼触媒1が生成される。ハイブリッド燃焼触媒1は多孔質ゆえ、内部にも空隙15が形成されるので、燃焼時には空隙15を通じて内部の鉄成分、カルシウム成分による酸化機能、酸性ガス吸収機能が発揮される。
【0035】
本製造方法によって得られたハイブリッド燃焼触媒は、酸化鉄とカルシウム成分を一体化して含んでいるので、これを被焼却物の燃焼に用いた場合、酸化鉄の酸化作用による低い燃焼温度での完全燃焼に加え、カルシウム成分による有害酸性ガスの吸収作用が発揮される。
【0036】
本触媒は多孔質の酸化カルシウムに微小の酸化鉄を分散させた形態となるので、触媒中の酸化鉄の表面積が大きく、更に、酸化カルシウムが多孔質ゆえ、表層の酸化鉄だけでなく、空隙を介して酸化カルシウム内部に分布する酸化鉄も有効に作用する。このため、高活性な酸化鉄による酸化機能が効率的に発揮される。
【0037】
また、水酸化カルシウムについても多孔質ゆえ、表面積が大きいものであるので、接触する酸性ガスの吸収が効率的に行われる。更に、空隙を通じて内部のカルシウム成分も効率的に酸性ガスを吸収する。
【0038】
これにより、焼却時の無駄なエネルギーを必要とせずともダイオキシンの発生を抑制することができる。
【0039】
本触媒は、酸化鉄とカルシウム成分を一体化して含んでいるので、複数の触媒を添加することなく、本ハイブリッド燃焼触媒のみを焼却物中に添加するだけでよく、作業性にも優れる。そして、一体化しているため、酸化鉄の酸化作用が発揮されて被焼却物が燃焼した際に生じる酸性ガスは、酸化鉄の周囲に存在するカルシウム成分により即座に吸収できる。
【実施例1】
【0040】
原料であるFeとCaCOを、重量比1/10の割合で配合し、ミキサー(11,100rpm、205W)を用いて物理的に1分間混合した。ここまでを製造段階Aとする。
【0041】
次にこの混合物を磁性の容器に移し、電気炉を用いて焼成を行った。焼成は950℃の温度で5時間行った。焼成物を一昼夜常温にて放冷した。ここまでを製造段階Bとする。
【0042】
放冷後、ビーカー内で水に浸して水和を行い、発泡が納まるまで静置した。その後、吸引ろ過で脱水し、100℃の乾燥機にて一昼夜乾燥した。生成物は乾燥すると固まってしまうため、ミキサーで衝撃を与え粉末状に解砕し、ハイブリッド燃焼触媒を得た。ここまでを製造段階Cとする。
【0043】
図3〜図8に、上記製造段階A〜製造段階Cにおける生成物の状態を示す。
【0044】
図3、図4は製造段階Aにおける混合物の状態を示すものであり、図3(A)はSEM写真、(B)は(A)の部分拡大写真、(C)は粒度分布図、図4は原料のFeとCaCOのX線回折図である。
【0045】
図3(A)、(B)を見ると、多孔質ではなく、表面積は小さいものとなっている。また、図3(C)の粒度分布図から、この混合物の平均粒子径は8.5ミクロンと比較的大きい。なお、図4のX線回折図から、原料がFeとCaCOであることが確認できる。
【0046】
図5、図6は製造段階Bにおける混合物を焼成した後の状態を示すものであり、図5(A)はSEM写真、(B)は(A)の部分拡大写真、(C)は粒度分布図、図6はX線回折図である。
【0047】
図5(A)、(B)から、焼成段階では多孔質になっていないことがわかる。また、図6から、焼成によって酸化鉄の大部分は炭酸カルシウムと反応しカルシウムフェライト(CaFe)となっている。また、他の炭酸カルシウムは、ほぼ酸化カルシウム(CaO)となっていることがわかる。
【0048】
図7、図8は製造段階Cにおける混合物の状態を示すものであり、図7(A)はSEM写真、(B)は(A)の部分拡大写真、(C)は粒度分布図、図8はX線回折図である。
【0049】
水和することによって、図7(A)、(B)のSEM写真からわかるように、多孔質化し、表面積が大きくなっていることがわかる。また、図7(C)の粒度分布図から約0.6μm付近にピークが現れている。水和によって、微細な粒子が生成したことがわかる。なお、約12μm、100μm付近にもピークが現れているため、平均粒子径は製造段階A及び製造段階Bよりも大きなものとなっているが、解砕が不十分なためと考えられ、十分に解砕すればほとんどは0.6μm程度の粒径になると考えられる。
【0050】
図8をみると、酸化カルシウムは水酸化カルシウム(Ca(OH))になっていることが確認できる。また、焼成時に生成したカルシウムフェライト(CaFe)は、カルシウムフェライト(CaFe)として存在するとともに、水和時の酸化カルシウムの溶解に伴う分解によって、酸化鉄(Fe)に変わり、また、一部の酸化鉄は水和により水酸化鉄(Fe(OH))になったものと考えられる。
【0051】
次に、上述のように製造したハイブリッド燃焼触媒を用い、図9に示す装置を使用してメタンの燃焼性について検討した。本装置は電気炉24に石英ガラス管23を貫通させたものである。石英ガラス管23にはハイブリッド燃焼触媒21を充填し、その両側を石英ウール22で覆って使用した。ヘリウム(He)ガスをキャリヤーガスとして、5%空気を混入したメタンガスを石英ガラス管24に流入させ、電気炉を様々な温度域に設定し、メタンガスを燃焼させた。そして、排出された燃焼排ガス中の未燃メタンガスの量をガスクロマトグラフィーで検出し、メタン燃焼率(=(供給したメタンガス量−未燃メタンガス量)/供給したメタンガス量)を測定した。また、予備実験として触媒を充填せずに、メタンの自然燃焼の有無を確認した。なお、石英ガラス管の径Dは4mm、触媒充填長さLは50mmとした。
【0052】
図10に予備実験の測定結果を示す。メタンは通常650℃付近に自然燃焼温度を持つが、本実験においてはほぼ燃焼していない。なお、ガスクロマトグラフィー分析の誤差のため、燃焼率は0とはなっていない。
【0053】
続いて、図11に触媒を用いた測定結果を示す。図中、A、B、Cはそれぞれ、上記製造段階A、製造段階B、製造段階Cに対応しており、それぞれの製造段階における生成物を触媒として使用した燃焼結果を示している。
【0054】
製造段階AにおけるFeとCaCO混合物、及び製造段階BにおけるFeとCaCO焼成物では、いずれも550℃においても燃焼率は40%程度とよくない。
【0055】
一方、Cでは、400℃以上から高温になるにつれてメタン燃焼率が向上し、550℃の温度で100%となり完全燃焼した。
【0056】
燃焼温度の低下は、主に酸化鉄の酸化機能によるものであり、酸化鉄を構成する酸素の吸脱過程で酸素供給体となり、有機物の燃焼、すなわち酸化を促進するものと考えられる。Cは水和反応を行った本製造方法によって得られたハイブリッド燃焼触媒であるが、焼成時に出来たカルシウムフェライト中の酸化鉄が水和により砕かれて微細化していること、微細化により酸化鉄の表面積が大きくなっていることに加え、焼成時に原料の酸化鉄に含有している塩素や硫黄等が除去されて高純度化していることから、良好且つ効率的に酸素供給を行う高活性な触媒になったためと考えられる。本実験ではメタンガスを使用しているが、メタンは有機物の中でも最も着火温度が高い物質の一つであるので、他の有機物においては更なる燃焼温度の低下を成し得ることを示している。
【実施例2】
【0057】
次に、原料であるFeとCaCOの配合比率を変えて、上述同様に触媒を生成し、メタンガスの燃焼を行った。FeとCaCOを重量比で0.1,0.15,0.2,0.25,0.33,0.4,0.5として配合した。また、図9と同じ装置を用い、燃焼温度は550℃としてメタンガスの燃焼を行った。
【0058】
図12にその結果を示す。この結果をみると配合比率によって燃焼率が変化し、m(重量比:Fe/CaCO)=0.2〜0.4近辺で燃焼率が高くなっていることがわかる。mが0.4より大きいと、酸化鉄が多いため、カルシウムの多くがカルシウムフェライトを形成し、酸化カルシウムが相対的に少なくなり、水和反応で水酸化カルシウムの生成量が減少し、多孔質微細化が十分おこなわれないためと考えられる。また、mが0.2より小さいと酸化鉄が少なくなり過ぎ、酸化鉄の酸化機能が小さくなるためと考えられる。
【実施例3】
【0059】
焼却能力が100kg/hの実験用のバッチ式焼却炉を使用して、本発明に基づくハイブリッド燃焼触媒の効果を調査した。実験に供した焼却炉の構造の概略を図13に示す。この焼却炉は、焼却物投入口31、燃焼室32、熱交換器33、ガス冷却室34、バグフィルター方式の集塵機35、煙道36、排気ブロアー37より構成される。そして、煙道36に京都電子工業株式会社製排ガス中塩化水素濃度計(HL−36N)、島津製作所株式会社製のポータブル酸素計(POT−101)、赤外線式二酸化硫黄測定装置(SOA−7000)を設置し、排ガス成分の測定を行った。なお、ダイオキシン類の濃度は、「JIS K 0311 排ガス中のダイオキシン類およびコプラナPCBの測定法」に準じて測定した。
【0060】
可燃物として木屑(おがくず)100kgを撹拌槽(コンクリートミキサー)に入れ、これに塩化ビニール樹脂のペレット1kgを撹拌しながら順次入れた。次に実施例1で製造したハイブリッド燃焼触媒1kgを撹拌しながら投入した後、20分間撹拌した。
【0061】
このハイブリッド燃焼触媒を混合させた可燃物100kg全量を焼却炉に投入し着火した。そして、着火開始から消炎するまでの間の排ガス成分の測定を行った。また、参考例として、ハイブリッド燃焼触媒の代わりに水酸化カルシウム(Ca(OH))を添加した以外はすべて上記同様の条件にて行った。
【0062】
その結果を表1に示す。なお、表1の結果は着火開始から消炎するまでの間の平均値を示している。また、HCl濃度及びダイオキシン類濃度は、12%O換算して求めた値である。
【0063】
【表1】

水酸化カルシウムのみを添加した参考例では、100ng−TEQ/mNと多量のダイオキシン類が生成している。一方、本発明にて製造したハイブリッド燃焼触媒を添加した方では、ダイオキシン類の発生量は2ng−TEQ/mNであり、参考例に比べ98%ものダイオキシン類の発生を抑制していることがわかる。また、塩化水素濃度も約半分に低下している。回収した灰分を分析したところ、触媒有の場合、未反応カルシウムは数パーセントであり、効率的にカルシウムが酸性ガスの吸収に使用されていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明によるハイブリッド燃焼触媒の製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明によるハイブリッド燃焼触媒の製造原理を示す概略図である。
【図3】本発明に用いる原料のSEM写真及び粒度分布図である。
【図4】本発明に用いる原料のX線回折図である。
【図5】本発明の製造途中の焼成後の生成物のSEM写真及び粒度分布図である。
【図6】本発明の製造途中の焼成後の生成物のX線回折図である。
【図7】本発明の製造方法にて得たハイブリッド燃焼触媒のSEM写真及び粒度分布図である。
【図8】本発明の製造方法にて得たハイブリッド燃焼触媒のX線回折図である。
【図9】本発明のハイブリッド燃焼触媒を用いて燃焼実験に使用する装置の概略図である。
【図10】本発明のハイブリッド燃焼触媒を用いないメタンの燃焼率を示すグラフである。
【図11】本発明のハイブリッド燃焼触媒を用いた場合とそうでない場合のメタン燃焼率の比較を示すグラフである。
【図12】本発明の方法にて原料の混合比を変えて製造したハイブリッド燃焼触媒によるメタンの燃焼率を示すグラフである。
【図13】本発明のハイブリッド燃焼触媒を用いて燃焼実験に使用する装置の概略図である。
【符号の説明】
【0065】
1 ハイブリッド燃焼触媒
11 酸化鉄
11B カルシウムフェライト
12 カルシウム化合物(炭酸カルシウム)
13 酸化カルシウム
14 水酸化カルシウム
15 空隙
21 ハイブリッド燃焼触媒
22 石英ウール
23 石英ガラス管
24 電気炉
31 焼却物投入口
32 燃焼室
33 熱交換器
34 ガス冷却室
35 集塵機
36 煙道
37 ブロワー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化鉄と前記酸化鉄よりも過剰のカルシウム化合物とを混合する工程と、
混合物を焼成し、前記カルシウム化合物を酸化カルシウムにするとともに前記カルシウム化合物と前記酸化鉄からカルシウムフェライトを生成させて前記酸化カルシウム中に分散させる工程と、
前記焼成によって得た生成物を水和することにより、前記酸化カルシウムから微細化された多孔質状の水酸化カルシウムを形成させるとともに、前記カルシウムフェライトを微細化分散させる工程とを具備することを特徴とするハイブリッド燃焼触媒の製造方法。
【請求項2】
更に、前記水和によって得た生成物をろ過後、乾燥して解砕する工程を具備することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド燃焼触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酸化鉄としてFe、前記カルシウム化合物としてCaCOを用い、前記Fe/前記CaCOを0.2〜0.4の重量比で混合することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド燃焼触媒の製造方法。
【請求項4】
800〜1000℃の範囲で焼成することを特徴とする請求項1に記載のハイブリッド燃焼触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−160485(P2009−160485A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−339365(P2007−339365)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(592157098)ラボテック株式会社 (10)
【Fターム(参考)】