説明

ハイブリッド膜およびガスセンサ

【課題】粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供すること。
【解決手段】本発明は、粘土鉱物シート10a〜10cと、前記粘土鉱物シートの表面に結合され、それぞれ異なる配位子を有し、前記異なる配位子により異なる波長の光を発光する複数の金属錯体12a〜12cと、を具備するハイブリッド膜である。また、異なる種類の複数の粘土鉱物シート10a〜10cと、前記複数の粘土鉱物シートのそれぞれの表面に結合され、光を発光する金属錯体12a〜12cと、を具備するハイブリッド膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド膜およびガスセンサに関し、例えば、粘土鉱物シートを備えたハイブリッド膜およびガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
粘土鉱物は、自然界に豊富な材料であり、安価である。非特許文献1および2には、粘土鉱物を半導体材料に用いることが開示されている。非特許文献3には、イリジウム金属錯体を発光材料として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J. Phys. Chem. C2700, 111, 12827-12833
【非特許文献2】Applied Physics Express 1 (2008) 035001
【非特許文献3】Chem. Eur. J. 2006 12, 7971
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘土鉱物を用い、簡単にガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料が求められている。本発明は、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、粘土鉱物シートと、前記粘土鉱物シートの表面に結合され、それぞれ異なる配位子を有し、前記異なる配位子により異なる波長の光を発光する複数の金属錯体と、を具備することを特徴とするハイブリッド膜である。本発明によれば、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供することができる。
【0006】
本発明は、異なる種類の複数の粘土鉱物シートと、前記複数の粘土鉱物シートのそれぞれの表面に結合され、光を発光する金属錯体と、を具備することを特徴とするハイブリッド膜である。本発明によれば、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供することができる。
【0007】
上記構成において、前記粘土鉱物シートは、スメクタイトである構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記粘土鉱物シートの前記表面は、水分子層から剥離された表面である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、積層された複数の前記粘土鉱物シート上に、それぞれ前記異なる配位子を有する前記金属錯体が結合している構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の粘土鉱物シートは積層されている構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記金属錯体は、疎水性配位子と発光性配位子とを有する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記金属錯体はイリジウム錯体である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、上記ハイブリッド膜を含み、前記金属錯体からの発光強度の変化によりガスを検知することを特徴とするガスセンサである。本発明によれば、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、スメクタイトの結晶構造の例を示す模式図である。
【図2】図2(a)および図2(b)は、疎水性の配位子の例を示す構造式である。
【図3】図3(a)から図3(c)は、発光のための配位子の構造式である。
【図4】図4は、イリジウム錯体の作製方法を示す図である。
【図5】図5(a)から図5(c)は、イリジウム錯体の例を示す構造式である。
【図6】図6(a)から図6(c)は、ハイブリッド膜の作製方法を示す模式図である。
【図7】図7は、ハイブリッド膜の模式図である。
【図8】図8は、積層したハイブリッド膜のX線回折の測定結果である。
【図9】図9は、各ハイブリッド膜における発光スペクトルを示す図である。
【図10】図10(a)から図10(c)は、真空中と空気中における各ハイブリッド膜における発光スペクトルを示す図である。
【図11】図11は、積層数に対する発光強度を示す図である。
【図12】図12は、各サンプルの発光スペクトルを示す図である。
【図13】図13は、各サンプルに各種ガスを導入後排気した際の時間に対する発光強度を示す図である。
【図14】図14は、実施例1に係るハイブリッド膜の模式図である。
【図15】図15は、ハイブリッド膜を用いたガスセンサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、粘土鉱物についてスメクタイトを例に説明する。図1は、スメクタイトの結晶構造の例を示す模式図である。(Si,Al)O四面体シート54がMO八面体シート(M:Mg,Fe,Alなど)56を挟む構造を有する2:1型と呼ばれる複合層50を形成している。八面体シート56には、陽イオンの入るサイトが3つあり、Mg2+やFe2+などの2価の陽イオンはこの3つのサイト全てを占めるが、Al3+などの3価の陽イオンは3つのサイトのうち2つだけを占めることになる。前者を3八面体型、後者を2八面体型と分類している。スメクタイトは、2八面体型または3八面体型の2:1層状ケイ酸塩であり、複合層50と水分子層52とが積層した構造を有している。水分子層52は水分子58と水分子58に囲まれた交換性陽イオン60とからなる。
【0017】
スメクタイトを例として、合成サポナイト、合成ヘクトライトおよびモンモリロナイトについて説明する。理想化学組成時の各構造式は以下である。
合成サポナイト:E0.66Mg6 (Si7.34Al0.66)O20(OH)4
合成ヘクトライト:E0.66(Mg5.34Li0.66) Si8O20(OH)4
モンモリロナイト:E0.66(Al3.34Mg0.66) Si8O20 (OH)4
ここで、Eは、Na、Li、Ca、Mgなどの交換性の層間のカチオンである。
なお、以下の実験では、以下の化学組成のサポナイト、ヘクトライトおよびモンモリロナイトを用いた。
サポナイト:(Na0.77)[(Si7.20Al0.80)(Mg5.97Al0.03)]O20(OH)4
ヘクトライト:(Na0.70)[(Si8.00)( Mg3.50Li0.30)]O20(OH)4
モンモリロナイト:(Na0.49 Mg0.14)[(Si7.70 Al0.30)(Al3.12Mg0.68Fe0.19)]O20(OH)4
また、各構造および、イオン交換容量(実測例)を以下に示す。
合成サポナイト:3八面体型、70meq/100g
合成ヘクトライト:3八面体型、63meq/100g
モンモリロナイト:2八面体型、115meq/100g
【0018】
次に、イリジウム錯体について説明する。以下の実施例において用いたのは陽イオン性の両親媒性イリジウム(III)錯体である。陽イオン性の両親媒性イリジウム(III)錯体は、イリジウム金属に3つの配位子を有する。図2(a)および図2(b)は、疎水性の配位子の例を示す構造式である。図2(a)は、dc18bpy(4,4’-dioctadecyl-2,2’-bipyridine)、図2(a)は、dc9bpy(4,4’-dinonyl-2,2’-bipyridine)の構造式である。図2(a)および図2(b)のように、比較的長いアルキル基を有するbpyを用いることにより疎水性となる。図3(a)から図3(c)は、発光のための配位子の構造式である。図3(a)は、dfppy(2-(2’,4’-difluorophenyl)pyridine)、図3(b)は、ppy(2-phenylpyridine)、図3(c)はpiq(1-phenyisoquinoline)の構造式である。これらの配位子を有するイリジウム錯体は三重項からのりん光を発する。
【0019】
イリジウム錯体の作製方法について説明する。図4は、イリジウム錯体の作製方法を示す図である。例えば配位子としてppyを付加する例である。IrClを、2−エトキシエタノールと水との溶媒にppyHおよびIrClを溶解させ、110℃で24時間反応させる。これにより、dimer−[Ir(ppy)Cl]が生成される。さらに、グリセロールを溶媒にdimer−[Ir(ppy)Cl]と疎水性の配位子Lを溶解させ、90℃で22時間反応させる。これにより、[Ir(ppy)L]Xが生成される。ここで、Xは陰イオンであり、例えばPFである。dfppy、ppy、piqは電気的に中性なため、dc9bpy等を1つ設けることによりイリジウム錯体は陽イオンとなる。
【0020】
図5(a)から図5(c)はイリジウム錯体の例を示す構造式である。図5(a)は、配位子として2つのdfppyと1つのdc9bpyを有するイリジウム錯体の構造式である。図5(b)は、配位子として2つのppyと1つのdc9bpyを有するイリジウム錯体の構造式である。図5(c)は、配位子として2つのpiqと1つのdc9bpyを有するイリジウム錯体の構造式である。図5(a)から図5(c)においては、1つのイリジウム錯体に疎水性配位子を1つ発光性配位子を2つ設けたが、疎水性配位子を2つ発光性配位子を1つでもよい。しかしながら、発光強度を高めるためには、発光性配位子は2つが好ましい。
【0021】
次に、粘土鉱物シートにイリジウム錯体を結合させたハイブリッド膜を作製する方法としてLB(Langmuir-Blodgett)法を説明する。図6(a)から図6(c)は、ハイブリッド膜の作製方法を示す模式図である。図6(a)のように、水20内にスメクタイト等の粘土鉱物を浸すと、粘土鉱物は、図1の水分子層52から剥離する。このため、水20内において、粘土鉱物は例えば1nm程度の薄い粘土鉱物シート10となる。水面にバリア22を形成し、バリア22内にイリジウム錯体12を滴下(矢印24)する。
【0022】
図6(b)のように、バリア22に表面圧力(矢印26)を加えバリア22内の面積を小さくする。粘土鉱物シート10が水分子層52において剥離すると、粘土鉱物シート10は負に帯電する。このため、陽イオンであるイリジウム錯体12が粘土鉱物シート10の表面と結合する。イリジウム錯体12のうち疎水性の配位子は水に溶解しない。このため、疎水性配位子が水面から出るように、粘土鉱物シート10が水面に浮く。粘土鉱物シート10は、粘土鉱物の複合層50が1層または数層から形成される。このため、粘土鉱物シート10の膜厚は5nm以下であり、好ましくは2nm以下である。例えば、スメクタイトの場合、粘土鉱物シート10の膜厚は約1nmである。このように粘土鉱物シート10は非常に薄いため、粘土鉱物ナノシートともいう。
【0023】
図6(c)のように、親水性のガラス等の親水性基板30を水面から垂直に引き上げる(矢印28)。親水性基板30の表面に、イリジウム錯体12が結合した薄い粘土鉱物シート10が付着する。
【0024】
図7は、ハイブリッド膜の模式図である。図7のように、親水性基板30上に、粘土鉱物シート10が付着し、粘土鉱物シート10の表面にイリジウム錯体12が結合している。このように、イリジウム錯体12が疎水性配位子と発光性配位子とを有することにより、LB法を用いハイブリッド膜を簡単に形成できる。
【0025】
LB法による図6(a)から図6(c)の操作を複数行い、粘土鉱物シート10とイリジウム錯体12とのハイブリッド膜を積層させることもできる。図8は、積層したハイブリッド膜のX線回折の測定結果である。粘土鉱物としてモンモリロナイト、イリジウム錯体として、[Ir(ppy)dc18bpy]を用い、11層のハイブリッド膜を積層している。X線源はCuKαを用いている。図8のように、ハイブリッド膜は3.1nm間隔で積層されていることがわかる。粘土鉱物シート10の膜厚は約1nmであり、イリジウム錯体12の厚さは約2nmである。3.1nmはこれらの値とよく一致する。このように、LB法を用い、粘土鉱物シート10とイリジウム錯体12とのハイブリッド膜を積層させることもできる。
【0026】
次に、粘土鉱物としてモンモリロナイトを用い、各イリジウム錯体を結合させた1層のハイブリッド膜を作製した。このハイブリッド膜を用い発光スペクトルを測定した。イリジウム錯体として、それぞれ[Ir(dfppy)(dc9bpy)]、[Ir(ppy)(dc9bpy)]および[Ir(piq)(dc9bpy)]を用いたサンプルをサンプルdfppy、サンプルppyおよびサンプルpiqとする。LB法の条件は、水中の粘土鉱物濃度を10mg/リットル、バリア22の表面圧力を10mN/m、水の温度(トラフ温度)を20℃としてハイブリッド膜を作製した。なお、粘土鉱物濃度と表面圧力とは、後述する発光強度が大きくなるように、それぞれ5mg/リットルから20mg/リットルの範囲、0〜25mN/mの範囲から最適化し、トラフ温度は、ハイブリッド膜形成後のハイブリッド膜の表面観察により10から40℃の範囲から最適化した。また、疎水性配位子のアルキル鎖長は、dc9としているが、さらに短くてもよい。
【0027】
発光スペクトルは、図7の矢印32のように基板30に対し45°の方向から波長が430nmの励起光を照射した。基板に対し反対側の45°の方向(矢印34)から発光された光のスペクトルを測定した。
【0028】
図9は、各ハイブリッド膜における発光スペクトルを示す図である。発光スペクトルは真空中で測定した。図9のように、サンプルdfppy、ppyおよびpiqはピーク波長が、それぞれ約500nm、約550nmおよび約600nmである。このように、イリジウム錯体12の配位子を異ならせることにより、りん光の波長が異なる。また、発光強度は、サンプルdfppy、ppyおよびpiqの順に小さくなる。
【0029】
図10(a)から図10(c)は、真空中と空気中における各ハイブリッド膜における発光スペクトルを示す図である。図10(a)はサンプルdfppy、図10(b)はサンプルppy、図10(c)はサンプルpiqの測定結果である。各サンプルの発光強度は真空中のピーク強度を用い規格化している。図10(a)から図10(c)において、実線が真空中、破線が空気中のスペクトルである。真空中に比べ、空気中では発光強度が弱くなる。これは、酸素分子により消光するためと考えられる。図10(a)から図10(c)のように、サンプル間で、真空中と空気中との発光強度の比率が異なる。図10(a)のように、dfppyにおいては、空気中の発光強度は真空中の約30%である。図10(b)のように、ppyにおいては、空気中の発光強度は真空中の約50%である。図10(c)のように、piqにおいては、空気中の発光強度は真空中の約40%である。図9および図10においては、dfppy、ppyおよびpiqを配位子の例としたが、発光波長、および真空中と空気中との発光強度比は、配位子により特有の値となる。
【0030】
次に、粘土鉱物としてモンモリロナイト、イリジウム錯体12として、[Ir(ppy)dc9bpy]を用い、ハイブリット膜の積層数と発光強度を測定した。図11は、積層数に対する発光強度を示す図である。図11のように、ハイブリッド膜を積層することにより、発光強度を大きくできることがわかる。
【0031】
次に、合成サポナイト、合成ヘクトライト、モンモリロナイトおよび粘土なし上にイリジウム錯体12として[Ir(ppy)dc18bpy]を用いLB法を用いハイブリッド膜を作製した。このハイブリッド膜を用い発光スペクトルを測定した。
【0032】
図12は、各サンプルの発光スペクトルを示す図である。図12のように、合成サポナイトおよび合成ヘクトライトを用いると、発光強度が大きくなる。一方、AFM観察では、モンモリロナイトを用いると、粘土鉱物シートの粒径を大きくできる。これにより、堅固で均一なハイブリッド膜を形成できる。また、粘土鉱物シート10の種類によって発光波長を変調できる。
【0033】
図13は、各サンプルに各種ガスを導入後排気した際の時間に対する発光強度を示す図である。各グラフは、各サンプルをチャンバ内に入れ、真空中で発光強度を測定している状態で、各種ガスを導入し、所定時間後、ガスを排出し再度真空とした場合の時間に対する発光強度を示している。合成サポナイト、合成ヘクトナイトおよびモンモリロナイトにおいて発光波長がそれぞれ550nm、544nmおよび559nmの発光強度を測定している。各種ガスとして、酸素、水、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトニル、クロロホルムおよびシクロヘキサンを用いている。ここで、メタノールおよびエタノールはOH基、アセトンはCO基、アセトニトニルはCN基、クロロホルムはCl基が、発光強度の振る舞いに寄与している。シクロヘキサンは官能基がない場合を想定している。
【0034】
図13のように、各粘土鉱物、各ガスにより、発光強度の振る舞いが異なる。例えば、酸素では、各サンプルとも同様の振る舞いを示す。一方、水、メタノール、エタノール、アセトニトニルおよびクロロホルムに対しては、合成サポナイトとモンモリロナイトの発光強度は、ガス導入で低下するが、合成ヘクトナイトの発光強度はガス導入で増加する。アセトニトニルおよびクロロホルムにおいては、合成サポナイトに対しモンモリロナイトの発光強度の変化が小さい。以上のように、粘土鉱物シートの種類により、各種ガスに対する発光強度の振る舞いが異なる。
【0035】
以上のような実験結果に基づく実施例について説明する。
【実施例1】
【0036】
図14は、実施例1に係るハイブリッド膜の模式図である。ハイブリッド膜40においては、イリジウム錯体12a、12bおよび12cが結合した粘土鉱物シート10a、10bおよび10cが積層されている。粘土鉱物シート10a〜10cは、例えばスメクタイトであり、同じ材料の粘土鉱物である。一方、イリジウム錯体12a、12bおよび12cは、それぞれ異なる。例えば、それぞれ、dfppy、ppy、piqを含むイリジウム錯体である。
【0037】
図15は、ハイブリッド膜を用いたガスセンサを示す図である。図15のように、チャンバ42内にハイブリッド膜40が設けられている。チャンバ42にはガス導入排出孔49が設けられている。光源44はハイブリッド膜40に光を照射する。光源44は、例えば430nmの紫外線を出射する。検出器46は、ハイブリッド膜40から発光強度を検出する。例えば、複数の所定の波長の光の強度を測定する。また、ガス導入および排出前後の光強度を検出する。演算部48は、検出器46が検出した光の強度からガスの種類または濃度を算出する。
【0038】
図10(a)から図10(c)のように、イリジウム錯体の種類により、真空中とガス中途の光の強度比が異なる。そこで、例えば、イリジウム錯体12a、12bおよび12cをそれぞれdfppy、ppyおよびpiqを含む錯体とする。検出器46は、dfppyに対応する波長、ppyに対応する波長およびpiqに対応する波長を検出する。例えば、演算部48は、ガス濃度に対する各波長間の発光強度の比のテーブルを予め有している。演算部48は、各波長間の発光強度の比を演算する。演算した各波長間の発光強度の比とテーブルの値とを用い、ガス濃度を算出することができる。なお、演算部48は、実施例2と同様に、ガスの種類を検出することもできる。
【0039】
なお、図9のように、発光強度は、dfppy、ppyおよびpiqの順に大きい。よって、最もガスに曝されるイリジウム錯体12cはpiqであり、イリジウム錯体12cはppyであり、最もガスに曝され難いイリジウム錯体12aはdfppyであることが好ましい。
【0040】
図15の例では、光源44からの励起光によって、イリジウム錯体を発光させているが、陰極と陽極との間にハイブリッド膜40を配置し、陰極と陽極間に電圧を印加することにより、イリジウム錯体を発光させてもよい。陽極としては例えばAg、陰極としては例えばITOを用いることができる。
【0041】
実施例1のように、ハイブリッド膜40においては、それぞれ異なる配位子を有し、異なる配位子により異なる波長の光を発光する複数のイリジウム錯体12が粘土鉱物シート10の表面に結合されている。異なる配位子によりイリジウム錯体12の発光波長が異なる。これにより、異なるガス分圧または異なるガスに依存し異なる波長の光を発光するハイブリッド膜を作製できる。このように、粘土鉱物を用い簡単に、ガスの分圧またはガスの種類等を検出できる材料を提供することができる。図15のように、このハイブリッド膜40のイリジウム錯体からの発光強度の変化によりガスを検知するガスセンサを作製することもできる。
【0042】
図14においては、積層された複数の粘土鉱物シート10a〜10c上に、それぞれ異なる配位子を有するイリジウム錯体12a〜12cが結合している。一方、1つの粘土鉱物シート10上に複数の異なる配位子を有するイリジウム錯体12を結合させてもよい。粘土鉱物シート10a〜10cを積層する場合は、LB法による積層を複数回行なう。このため、各層毎のイリジウム錯体の量を制御しやすい。1つの粘土鉱物シート10上に複数の異なる配位子を有するイリジウム錯体12a〜12cを結合させる場合、LB法を1回行なうだけでよいが、各イリジウム錯体の量を制御し難い。さらに、発光強度を増すため、各イリジウム錯体12a〜12cを結合した粘土鉱物シート10a〜10cを複数積層してもよい。すなわち、イリジウム錯体12aを結合した粘土鉱物シート10aを複数積層し、イリジウム錯体12bを結合した粘土鉱物シート10bを複数積層し、イリジウム錯体12cを結合した粘土鉱物シート10cを複数積層してもよい。
【実施例2】
【0043】
実施例2においては、イリジウム錯体12a、12bおよび12cは同じ材料であり、粘土鉱物シート10a、10bおよび10cを異ならせる。例えば粘土鉱物シート10a〜10cとして、合成サポナイト、合成ヘクトライトおよびモンモリロナイトを用いる。すなわち、異なる種類の複数の粘土鉱物シート10a〜10cのそれぞれの表面に,光を発光するイリジウム錯体12a〜12cが結合されていている。
【0044】
図13のように、粘土鉱物シートの種類により、各ガスの導入および排気に伴う振る舞いが異なる。演算部48は、各粘土鉱物シートと各ガス種類とに対応したガスの導入前後または/および排気の前後の発光強度の変化のテーブルを予め有している。演算部48は、ガス導入前後、または/およびガス排出前後の発光強度の振る舞いからガスの種類を特定することができる。また、演算部48は、実施例1と同様に、ガスの濃度を検出することもできる。なお、各粘土鉱物シートからの発光は、波長で区別することができる。例えば、粘土鉱物シート10aから10cに発光波長が異なるイリジウム錯体12aから12cを結合させることにより、各粘土鉱物シートからの発光をより区別することができる。実施例2のハイブリッド膜を用い図15のように、ガスセンサを作成することもできる。
【実施例3】
【0045】
図6(a)から図6(c)のように、LB法を用い粘土鉱物シート10上にイリジウム錯体12を結合させる。その後、クロロホルムまたはメタノール等を用い、粘土鉱物シート10からイリジウム錯体12を除去する。その後、イリジウム錯体12を溶解させたクロロホルムを用い、粘土鉱物シート10上にイリジウム錯体12を結合させることができる。
【0046】
図6(a)から図6(c)の例では、疎水性配位子として長いアルキル鎖を用いるため、イリジウム錯体の発光強度が弱くなる。実施例3によれば、短いアルキル基を用いることができるため、イリジウム錯体の発光強度を強くすることができる。また、イリジウム錯体の配位子を全て発光に寄与する配位子とすることにより、発光強度を高めることもできる。
【0047】
以上の説明においては、金属錯体としてイリジウム錯体について説明したが、他の金属錯体でもよい。金属錯体は、発光性の金属錯体であればよい。例えば、ルテニウム錯体でもよい。
【0048】
また、発光性の配位子としてdfppy、ppy、piqを例に説明したが、ppz(1-phenypyrazole)、tpy((2-p-tolyl)pyridine)および bzq(benzohquinoline)等を用いることができる。また、疎水性の配位子としてdcnbpy(nは自然数)を例に説明したが、dcnphen(phen=1,10-phenanthroline)、dcnacac(acac= acetylacetonato)等を用いることができる。
【0049】
さらに、粘土鉱物として、合成サポナイト、合成ヘクトライトおよびモンモリロナイトを例に説明したが、これらに制限されない。例えば、粘土鉱物がスメクタイトの場合、バイデライト、ノントロナイト、スチブンサイト、ソーコナイト等を用いることもできる。層間の陽イオンとしてナトリウムやリチウムを有する合成テニオライト、合成四珪素雲母等の膨潤性雲母、2−八面体型バーミキュライト、3−八面体型バーミキュライト等を用いることもできる。これらの層状珪酸塩は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法または固相法等による合成物であってもよい。また、粘土鉱物シートとしては、上記の層状粘土鉱物のうちの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
以上、発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 粘土鉱物シート
12 イリジウム錯体
20 水
22 バリア
30 基板
40 ハイブリッド膜
42 チャンバ
44 光源
46 検出器
48 演算部
49 ガス導入排出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物シートと、
前記粘土鉱物シートの表面に結合され、それぞれ異なる配位子を有し、前記異なる配位子により異なる波長の光を発光する複数の金属錯体と、
を具備することを特徴とするハイブリッド膜。
【請求項2】
異なる種類の複数の粘土鉱物シートと、
前記複数の粘土鉱物シートのそれぞれの表面に結合され、光を発光する金属錯体と、
を具備することを特徴とするハイブリッド膜。
【請求項3】
前記粘土鉱物シートは、スメクタイトであることを特徴とする請求項1または2記載のハイブリッド膜。
【請求項4】
前記粘土鉱物シートの前記表面は、水分子層から剥離された表面であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項記載のハイブリッド膜。
【請求項5】
積層された複数の前記粘土鉱物シート上に、それぞれ前記異なる配位子を有する前記金属錯体が結合していることを特徴とする請求項1記載のハイブリッド膜。
【請求項6】
前記複数の粘土鉱物シートは積層されていることを特徴とする請求項2記載のハイブリッド膜。
【請求項7】
前記金属錯体は、疎水性配位子と発光性配位子とを有することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項記載のハイブリッド膜。
【請求項8】
前記金属錯体はイリジウム錯体であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載のハイブリッド膜。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項記載のハイブリッド膜を含み、
前記金属錯体からの発光強度の変化によりガスを検知することを特徴とするガスセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−229952(P2012−229952A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97322(P2011−97322)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名 New Journal of Chemistry Volume 35 Number 2 発行所 Royal Society of Chemistry 発行日 平成23年2月
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】