説明

ハイブリドーマ細胞系列AR51A630.3により産生される癌性疾患修飾性抗体010207−01

本発明は、新規なスクリーニングのパラダイムを使用する、癌性疾患修飾性抗体を作製するための方法に関する。結果として癌性細胞細胞毒性を使用して抗癌抗体を分離することにより、このプロセスが、治療的及び診断的目的のための抗癌抗体を作製することを可能とする。当該抗体は、癌の病期分類及び診断のための補助として使用できるとともに、原発腫瘍及び腫瘍転移を治療するために使用できる。当該抗癌抗体は、毒、放射性化合物、及び血行性細胞と複合化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌性疾患修飾性抗体(CDMAB)の単離及び作製、及び治療及び診断の過程における、任意の1又は複数の化学療法剤との組み合わせでの当該CDMABの使用に関する。さらに本発明は、本発明のCDMABを活用する結合アッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
共同研究契約の宣言
本明細書中の請求の範囲で定義した本発明は、Arius Research Inc.とTakeda Pharmaceutical Company Limitedとの共同研究契約(「契約」"Agreement”)の関係者によって、契約の範囲内での活動の結果としてなされた。本契約は、本発明の日より前に有効であった。
【0003】
癌療法としてのモノクローナル抗体:癌に罹患する個人は各々唯一であり、人のアイデンティティと同じように、ある癌はその他の癌とは異なる。それにもかかわらず、現行の療法は全ての同じ種類の癌患者を、同じ段階において、同じ方法で治療する。これらの患者の少なくとも30%は、一次治療に失敗して、結局次の治療ラウンドとなり、さらに治療失敗、転移、及び最終的には死亡の可能性が高まる。治療についての優れた対処法としては、特定の個人のための療法のオーダーメイドが挙げられるだろう。オーダーメイドに適する唯一の現行の療法が外科手術である。化学療法及び放射線治療は、患者の目的をかなえることはできず、ほとんどの場合外科手術それだけでは、治癒をもたらすのに不十分である。
【0004】
モノクローナル抗体の出現により、単一のエピトープを対象として各抗体を作製することが可能となったため、オーダーメイド療法のための方法が発展する可能性がより現実的になった。さらに、特定の個人の腫瘍を一意的に規定するエピトープの配列を対象とする抗体の組み合わせを作製することが可能である。
【0005】
癌細胞と正常細胞との大きな違いは、癌細胞は形質転換細胞に特異的な抗原を含むことであると認識されていたため、科学界では、モノクローナル抗体を、癌抗原特異的な結合により形質転換細胞を特異的に標的とさせるよう設計することができると信じられてきた。すなわち、モノクローナル抗体が、癌細胞を除去する「特効薬」として機能できるという信念が生じていた。しかしながら、現在では、癌の全ての事例において機能できる単一のモノクローナル抗体は存在せず、モノクローナル抗体は、標的とされた癌の治療群として展開できることが広く認識されている。本開示の発明の教示に従って単離されたモノクローナル抗体は、腫瘍負担の低減等の患者に有益な方法で癌性疾患のプロセスを修正することを示した。本明細書で本抗体は、癌性疾患修飾性抗体(CDMAB)又は「抗癌」抗体として様々に記載するつもりである。
【0006】
現時点では、通常癌患者は治療についての選択肢がほとんどない。癌療法に対する管理された手法は、全世界的な生存率及び罹患率において改善をもたらしている。しかし、特定の個人にとってこの改善の統計値は、その独自の状況における改善と必ずしも相関しない。
【0007】
すなわち、同じ集団の別の患者の各々の腫瘍を独立に治療できる施術者を想定する方法論であれば、まさに一人の人間に対して目的にかなう療法の唯一の対処法が可能となるであろう。このような治療過程により、理想的には治癒率を上昇させ、より良好な結果を生み、その結果長年望まれた必要性を満たすであろう。
【0008】
歴史的には、ポリクローナル抗体の使用は、ヒト癌の治療において大した成果もなく使用されてきた。リンパ腫及び白血病をヒト血漿で処理したが、緩和又は応答の延長はほとんどなかった。さらに、再現性はなく、化学療法と比較して追加的な利益もなかった。また、乳癌、メラノーマ及び腎細胞癌等の固形腫瘍を、ヒト血液、チンパンジー血清、ヒト血漿及びウマ血清で処理したが、同様に予測不能で効果のない結果であった。
【0009】
固形腫瘍に対するモノクローナル抗体については多くの臨床試験が存在する。1980年代には、ヒト乳癌について少なくとも4つの臨床試験があったが、特異的な抗原に対する、又は組織選択性に基づく抗体を使用する少なくとも47人の患者のうち、応答者は1人のみであった。1998年には、ヒト化抗Her2/neu抗体(ハーセプチン(Herceptin(登録商標)))を、CLISPLATINとの組み合わせで使用する臨床試験の成功例があった。この試験では37人の患者を評価し、このうち約4分の1では部分的な応答率であり、別の4分の1では疾患進行が小規模又は安定的であった。応答者の進行期間の中心値は8.4ヶ月で、応答期間の中心値は5.3ヶ月であった。
【0010】
ハーセプチン(登録商標)は、タキソール(Taxol(登録商標))との組み合わせでの一次使用で、1998年に承認された。臨床研究の結果は、タキソール(登録商標)治療単独(3.0ヶ月)の群と比較して、抗体治療+タキソール(登録商標)(6.9ヶ月)を受けた者は疾患進行の期間中心値の増加を示した。生存率中心値でも、ハーセプチン(登録商標)+タキソール(登録商標)治療対タキソール治療単独が22対18とわずかな増加であった。さらに、抗体+タキソール(登録商標)の組み合わせ群が、タキソール(登録商標)単独との比較において、完全応答者数(8対2パーセント)及び部分的応答者数(34対15パーセント)両方が増加した。ただし、ハーセプチン(登録商標)及びタキソール(登録商標)での治療は、タキソール(登録商標)治療単独と比較して、心毒性の発生数がより高くなった(それぞれ13対1パーセント)。また、ハーセプチン(登録商標)療法は、機能又は生物学的重要なリガンドが現在知られていない受容体である、ヒト上皮増殖因子受容体2(Her2/neu)を過剰発現する、転移性乳癌に罹患する患者のおよそ25パーセントの患者(免疫組織化学(IHC)分析により決定した)のみにおいて有効であった。したがって、乳癌の患者にとって満たされていない大きな必要性が依然として存在する。それでもハーセプチン(登録商標)治療の恩恵を受ける者も、少なくともある程度の化学療法を必要とし、その結果としてこの種の治療の副作用に対処する必要がある。
【0011】
結腸直腸癌を検討する臨床試験は、糖タンパク質及び糖脂質の両方の標的に対する抗体を必要とする。腺癌に対するいくつかの特異性を有する17−1A等の抗体は、60人以上の患者での第2相臨床試験で、たった1人の患者が部分的応答を示すという結果であった。他の試験では、17−1Aの使用により、追加的にシクロホスファミドを使用するプロトコールでの52人の患者中、1人の完全応答及び2人の小規模応答しか得られなかった。これまで、17−1Aの第3相臨床試験では、結腸癌の段階3のアジュバント療法として改善の有効性が実証されなかった。ヒト化マウスモノクローナル抗体の使用は、当初は画像化用として承認され、腫瘍退縮は起きなかった。
【0012】
近年になってから、モノクローナル抗体を用いる直腸結腸癌の臨床研究から得られるいくつかの積極的な結果が存在するようになった。アービタックス(ERBITUX(登録商標))は、2004年に、イリノテカンをベースとする化学療法では効果のない、EGFR発現転移性直腸結腸癌の患者に対する第2治療として承認された。アービタックス(登録商標)とイリノテカンとの組み合わせでの、2つの第2相臨床試験及び1つの試験からは、疾患進行の期間中心値がそれぞれ4.1及び6.5ヶ月で、それぞれ23及び15パーセントの応答率であることが示された。同じ2つの第2相臨床試験と別の1つの試験からの結果では、アービタックス(登録商標)単独での治療は、疾患進行の期間中心値がそれぞれ1.5及び4.2ヶ月で、それぞれ11及び9パーセントの応答率を示した。
【0013】
結果的には、スイス及び米国両方におけるイリノテカンとの組み合わせでのアービタックス(登録商標)治療、米国におけるアービタックス(登録商標)治療単独が、イリノテカンの第1療法に失敗した直腸癌患者の第2治療として承認された。従って、スイスにおける治療は、ハーセプチン(登録商標)のようにモノクローナル抗体と化学療法との組み合わせとしてしか承認されない。さらに、スイス及びUSにおける治療は、第2治療としての患者のためにしか承認されていない。また、2004年には、転移性結腸直腸癌の第1治療として、アバスチン(AVASTIN(登録商標))が、5−フルオロウラシルをベースとする静脈内化学療法との組み合わせ使用で承認された。第3期臨床試験の結果からは、アバスチン(登録商標)+5−フルオロウラシルで治療した患者の生存率中心値は、5−フルオロウラシル単独で治療した患者と比較して(それぞれ20ヶ月対16ヶ月)延長することが実証された。ただし、ハーセプチン(登録商標)及びアービタックス(登録商標)と同様にまた、治療はモノクローナル抗体と化学療法の組み合わせとしてしか承認されていない。
【0014】
また、肺癌、脳癌、卵巣癌、脾臓癌、前立腺癌、及び胃癌については不良な結果のままである。近年の最も有望な非小細胞肺癌における結果は、殺細胞薬物であるドキソルビシン(doxorubicin)と結合させたモノクローナル抗体(SGN−15; dox−BR96, 抗−Sialyl−LeX)と化学療法剤タキソテール(TAXOTERE(登録商標))との組み合わせを含む治療の第2相臨床試験から得られた。タキソテール(登録商標)は、唯一の肺癌の第2治療用としてFDAに承認された化学療法である。当初のデータは、タキソテール(登録商標)単独と比較して全生存が向上したことを示唆した。研究のために募集された62人の患者のうち、3分の2がSGN−15とタキソテール(登録商標)との組み合わせを受け、残りの3分の1がタキソテール(登録商標)単独を受けた。全生存は、タキソテール(登録商標)単独を受けた患者での5.9ヶ月に対して、SGN−15とタキソテール(登録商標)との組み合わせを受けた患者では、7.3ヶ月であった。1年及び18ヶ月での全生存は、タキソテール(登録商標)単独を受けた患者でのそれぞれ24及び8パーセントと比較して、SGN−15+タキソテール(登録商標)を受けた患者はそれぞれ29及び18パーセントであった。
【0015】
前臨床的には、メラノーマ用のモノクローナル抗体の使用においていくつかの限定的な成果があった。これらの抗体はほとんど臨床試験に到達せず、これまで1つも承認されないか、又は第3相臨床試験における好ましい結果が実証されなかった。
【0016】
疾患を治療する新規な薬物の発見は、疾患の病因に寄与する可能性のある既知の30,000個の遺伝子産物における、関連性ある標的の識別がなされていないために遅れている。腫瘍学の研究において可能性ある薬物標的は、単に腫瘍細胞において過剰発現するという事実だけを根拠に選択されることが多い。すなわち識別された標的は、その後多数の化合物との相互作用でスクリーニングされる。可能性ある抗体治療の場合は、これらの候補化合物は通常、Kohler 及び Milstein の(1975, Nature, 256, 495-497, Kohler and Milstein)により構築された基本原理による、モノクローナル抗体発生の従来手法から得る。脾臓細胞を抗原(例えば細胞全体、細胞画分、精製抗原)で免疫化し、不死化ハイブリドーマパートナーと融合させたマウスから採取する。標的に対し最も強く結合する抗体のセレクションとして、得られたハイブリドーマをスクリーニング及び選択する。癌細胞を対象とする、ハーセプチン(登録商標)及びリツキシマブ(RITUXIMAB)等の多数の治療用及び診断用抗体はこれらの方法を用いて作製され、その親和性に基づき選択された。この戦略には2つの欠陥が存在する。第一に、治療用及び診断用抗体結合に適切な標的の選択は、周囲の組織特異的な発癌プロセスについての知識不足と、それによる、過剰発現によるセレクション等の単純化されすぎた方法でこれらの標的を識別することによって制限されている。第二に、通常最も大きい親和性で受容体に結合する薬物分子はシグナルを開始又は阻害する可能性が最も高い、という仮定が常に正しいとは限らない。
【0017】
乳癌及び結腸癌の治療でいくつかの進歩があるにもかかわらず、有効な抗体療法の確認及び開発は、単剤でも共治療(co-treatment)でも、全ての癌の種類のためには不十分である。
【0018】
先行特許:
米国特許第5,750,102号は、患者の腫瘍由来の細胞が、患者由来の細胞又は組織からクローン化される可能性のあるMHC遺伝子で形質移入されるプロセスを開示する。その後これらの形質移入細胞を、患者へのワクチン接種のために使用する。
【0019】
米国特許第4,861,581号は、哺乳類の腫瘍性及び正常細胞の内部細胞成分特異的であるが外部成分には非特異的であるモノクローナル抗体を獲得するステップ、モノクローナル抗体を標識するステップ、殺腫瘍性細胞に対する治療を受ける哺乳類の組織と前記標識された抗体を接触させるステップ、及び変質腫瘍性細胞の内部細胞成分への前記標識された抗体の結合を測定することにより治療の有効性を決定付けるステップを含んでなるプロセスを開示する。ヒト細胞内抗原を対象とする抗体の調製において、特許権者は悪性細胞が当該抗原の利便性のある供給源であることを認識する。
【0020】
米国特許第5,171,665号は、新規な抗体及びその作製のための方法を提供する。特に、この特許は、結腸及び肺のもの等のヒト腫瘍に関連するタンパク質抗原に強力に結合するが、正常細胞への結合特性はより低いモノクローナル抗体の構造を教示する。
【0021】
米国特許第5,484,596号は、癌療法を提供する。ここで当該方法は、ヒト癌患者から腫瘍細胞を外科的に除去するステップ、腫瘍細胞を得る腫瘍組織を処置するステップ、非腫瘍形成性以外の生存能力ある腫瘍細胞に放射線照射するステップ、及び原発腫瘍の再発を阻害すると同時に転移を阻害できる患者のためのワクチンを調製するこれらの細胞を使用するステップを含んでなる。当該特許は、腫瘍細胞の表面抗原と反応するモノクローナル抗体の開発を教示する。col. 4, lines 45(以下参照)で説明されるように、特許権者等は、ヒトの新形成(neoplasia)において活性特異的な免疫療法を表すモノクローナル抗体の開発において特発性腫瘍細胞を利用する。
【0022】
米国特許第5,693,763号は、ヒトの細胞癌固有であって、起源の上皮組織に依存しない糖タンパク質抗原について教示する。
【0023】
米国特許第5,783,186号は、細胞を発現するHer2においてアポトーシスを誘導する抗Her2抗体、抗体を産生するハイブリドーマ細胞系、前記抗体を使用する癌治療の方法、及び前記抗体を含む医薬組成物について述べている。
【0024】
米国特許第5,849,876号には、腫瘍及び非腫瘍組織源から精製されたムチン抗原に対する、モノクローナル抗体の作製のための新規なハイブリドーマ細胞系についての記載がある。
【0025】
米国特許第5,869,268号は、所望の抗原に特異的な抗体を作製するヒトリンパ球の産生のための方法、モノクローナル抗体を作製する方法、及び前記方法により作製されたモノクローナル抗体について述べている。特に当該特許は癌の診断及び治療に有用な、抗HDヒトモノクローナル抗体の作製について述べている。
【0026】
米国特許第5,869,045号は、ヒト癌細胞と反応する、抗体、抗体断片、抗体複合物及び一本鎖の免疫毒素に関する。これらの抗体機能による機序は2つ存在する。すなわち分子がヒト細胞癌の表面に存在する細胞膜抗原と反応すること、並びにさらに当該抗体が癌細胞中に内部移行でき、結合した後に、これらを抗体−薬物及び抗体−毒の複合体を形成するために特に有用にさせることである。未修飾の状態で、前記抗体はまた特異的な濃度で細胞毒特性を発現する。
【0027】
米国特許第5,780,033号は、腫瘍の療法及び予防のための自己抗体の使用を開示する。ただし、当該抗体は、高齢の哺乳類由来の抗核性自己抗体である。この場合、自己抗体は免疫系において見出される天然抗体の一種であると言われる。自己抗体が「高齢の哺乳類」由来であるため、実際には、自己抗体は治療される患者由来である必要性はない。さらに、当該特許は、高齢の哺乳類由来の天然のモノクローナル抗核性自己抗体、及びモノクローナル抗核性自己抗体を作製するハイブリドーマ細胞系列を開示する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0028】
本特許出願は、癌性疾患修飾性モノクローナル抗体をコードするハイブリドーマ細胞系列を単離する米国特許第6,180,357号で教示される、患者特異的な抗癌抗体を作製するための方法論を利用する。これらの抗体は1つの腫瘍に対して特異的に作製できる。すなわち、癌療法のオーダーメイドが可能となる。本出願に関連して、殺細胞性(細胞毒性(cytotoxic))又は細胞増殖阻害(cytostatic)特性のいずれか一方を有する抗癌抗体は、これ以降「細胞毒性」と言う。これらの抗体は、癌の病期分類及び診断のための補助として使用できるとともに、腫瘍転移を治療するために使用できる。これらの抗体はまた、予防的治療の手段により癌を防ぐために使用することができる。従来の薬物発見パラダイムに従って産生された抗体とは異なり、本手段は、悪性組織の増殖及び/又は生存に不可欠であることが従来示されていない、分子及び経路を標的としてもよい。さらに、これらの抗体の結合親和性は、より強い親和性相互作用の影響を受けにくい可能性のある、細胞毒性事象開始の要請に適している。また、放射線核種等の標準的な化学療法の様式と、本発明のCDMABとを組み合わせることは本発明の範囲内であるため、前記化学療法の使用に焦点を当てる。CDMABはまた、毒、細胞毒性成分、酵素、例えばビオチン結合酵素、又は血行性細胞と組み合わせることができ、抗体複合体を形成する。
【0029】
個別的な抗癌治療の有望性は、患者が管理される方法に変化をもたらす。可能性ある臨床的シナリオは、腫瘍サンプルが提示の時点で得られ、且つ保存されることである。このサンプルから、当該腫瘍を一群の先行癌性疾患修飾性抗体に分類できる。従来的には、患者は病期分類されるが、この利用可能な抗体はさらに進行した病期の患者に使用できるものである。患者を、存在する自己抗体で迅速に治療でき、当該腫瘍に特異的な一群の抗体を、本明細書で概説した方法を使用して作製することも、本明細書に開示のスクリーニング方法との組み合わせにおいて、ファージディスプレイライブラリーの使用を介して作製することもできる。その他の腫瘍は治療されたものと同じいくつかのエピトープを生み出すことができる可能性が存在するため、作製された全ての抗体は、抗癌抗体のライブラリーに加えられるはずである。本方法に従って作製された抗体は、これらの抗体に結合する癌を有するかなりの数の患者における癌性疾患を治療するために有用であり得る。
【0030】
患者は、抗癌抗体に加えて治療の集学的レジメの一部として現在推奨される療法を受けることを選択できる。本方法論により単離された抗体は、非癌性細胞に対して比較的非毒性であるという事実により、単独又は従来の療法との複合のいずれかによって使用される、高用量での抗体の組み合わせが可能となる。治療指数が高いことにより、治療耐性細胞の発生の可能性を低減させることになる、短い時間スケールでの再治療が可能となるであろう。
【0031】
患者が、治療の初期過程が無効であるか又は転移を発症する場合に、腫瘍に対して特異的な抗体を産生するプロセスでは、再治療を繰り返すことができる。さらに、抗癌抗体は、その癌患者から得られる赤血球と複合化し、転移の治療のために再注入することができる。転移性癌に有効な治療はほとんどなく、通常転移は結果的に死をもたらす不良な結果に至る。ただし、通常転移性癌は、十分に血管新生がなされ、赤血球による抗癌抗体の送達は、腫瘍の部分で抗体を濃縮する効果を有する。転移の前でも、大部分の癌はその生存のための宿主の血液供給に依存し、赤血球と複合化した抗癌抗体は同様にインサイツ(in situ)で腫瘍に対して有効であり得る。あるいは、抗体はその他の血行性細胞、例えばリンパ球、マクロファージ、単球、ナチュラルキラー細胞等と複合化してもよい。
【0032】
5群の抗体が存在し、各々はその重鎖により与えられる機能を伴っている。一般的には、ネイキッド抗体による癌細胞死滅は、抗体依存性細胞毒性か、又は補体に依存する細胞毒性いずれかを介して媒介されると考えられている。例えばマウスIgM及びIgG2a抗体は、補体系列のC−1成分の結合によりヒト補体を活性化するので、腫瘍分解を導くことができる従来の補体活性化の経路を活性化できる。ヒト抗体にとって抗体を活性化する大部分の有効な補体は、一般的にはIgM及びIgG1である。IgG2a及びIgG3アイソタイプのマウス抗体は、単球、マクロファージ、顆粒球及び特定のリンパ球により細胞死滅に導くFc受容体を有する細胞毒性細胞のリクルートに有効である。IgG1及びIgG3の両アイソタイプのヒト抗体はADCCを媒介する。
【0033】
抗体介在性癌死滅の別の機序の可能性としては、細胞膜及びその関連する糖タンパク質又は糖脂質における種々の化学結合の加水分解を触媒する機能を有する抗体、いわゆる触媒抗体の使用を介することが考えられる。
【0034】
抗体介在性癌細胞死滅について追加の3つの機序がある。1つ目は、癌細胞に存在する想定される抗原に対して、免疫応答をもたらす抗体を誘導するワクチンとしての抗体の使用である。2つ目は、増殖受容体を標的としてその機能を阻害する抗体、又は機能が有効に喪失するように受容体を下方制御する抗体の使用である。3つ目は、例えばTRAIL R1もしくはTRAIL R2等の死受容体、又はアルファVベータ3等のインテグリン分子のライゲーション等の直接細胞死に導く可能性のある、細胞表面部分の直接ライゲーションにおける当該抗体の影響である。
【0035】
癌薬物の臨床的用途は、患者に対する許容可能なリスクプロファイルの下での、当該薬物の利益に基づく。癌療法において、一般的に利益の中でも生存率が最も追求されるものであったが、寿命の延長に加えて、広く認識される多数のその他の利益が存在する。治療が生存率に不利な影響を及ぼさない場合、これらのその他の利益には、症状緩和、有害事象に対する保護、再発まで又は無病生存の期間延長、進行に至るまでの期間延長が含まれる。これらの診断基準は一般的に受容され、米国食品医薬局(F.D.A)等の取締機関はかかる利益をもたらす薬物を承認している(Hirschfeld et al. Critical Reviews in Oncology/Hematolgy 42:137-143 2002)。これらの診断基準に加え、この種の利益の前兆となり得る他の終点が存在することが広く認識されている。一つには、米国F.D.Aにより許可された加速された承認審査方式は、患者の利益を予測する可能性のある代理の存在を承認する。2003年末以後、この方式の下で承認された薬物は16個あり、これらのうち4個が完全な承認に至った。すなわち、追跡研究によって代理終点により予測された通りの患者の直接の利益が実証された。固形腫瘍における薬物の効果を決定するための1つの重要な終点は、治療への応答を測定することによる腫瘍負荷の評価である(Therasse et al. Journal of the National Cancer Institute 92(3):205-216 2000)。この評価のための臨床的診断基準(RECIST基準)は、癌における国際的専門家グループである、固形腫瘍作業グループでの応答評価基準により公表された。RECIST基準による客観的反応(objective responses)が示すように、適切なコントロール群との比較で、腫瘍負荷に対して実証された効果を有する薬物は、最終的に患者の直接の利益を生み出す傾向がある。一般的に予備臨床の状況では、腫瘍負荷は評価及び証明についてより直接的である。予備臨床研究は臨床の状況に置き換えることができるので、予備臨床モデルで生存の延長をもたらす薬物は、期待される臨床用途が最も大きい。臨床治療に正の応答をもたらすことと同様に、予備臨床の状況で腫瘍負荷を低減する薬物は、当該疾患に大きな直接的影響を及ぼす可能性もある。生存の延長は癌薬物治療からの臨床転帰の後に最も望まれるものであるが、臨床用途を有するという他の利益があるとともに、疾患の進行の遅延、延長された生存又はその両方に相関し得る腫瘍負荷の減少が、直接の利益に導き、且つ臨床的影響を与えることは明らかである(Eckhardt et al. Developmental Therapeutics: Successes and Failures of Clinical Trial Designs of Targeted Compounds; ASCO Educational Book, 39th Annual Meeting, 2003, pages 209-219)。
【0036】
本発明は、細胞毒性アッセイ及びヒト癌の動物モデルにおける効果により識別されたAR51A630.3の開発及び使用について述べる。この発明は、標的分子上で1又は複数のエピトープに特異的に結合し、且つインビトロ(in vitro)で悪性腫瘍細胞に対抗するが正常細胞には対抗しないネイキッド抗体として細胞毒特性を有するとともに、ネイキッド抗体として腫瘍増殖の阻害を直接的に媒介する試薬について述べる。さらなる特徴として、このような抗癌抗体を、同族の抗原マーカーを発現する腫瘍を標的とするために使用することにより、腫瘍増殖阻害や、癌治療のその他の好適な結果を達成することができる。
【0037】
全体において、本発明はまた、投与した場合に哺乳類で抗原を発現する癌の腫瘍負荷を低減できる、治療剤の標的としてのAR51A630.3抗原の使用を教示する。本発明はまた、CDMAB(AR51A630.3)、及びその誘導体、及びその抗原結合断片、及びその細胞毒性誘導リガンドを、哺乳類において抗原を発現する癌の腫瘍負荷を低減させるために前記抗原を標的とする使用について教示する。さらに、本発明はまた、この抗体を発現する腫瘍を持つ哺乳類の診断、治療の予測、及び予後診断のために有用であり得る、癌細胞におけるAR51A630.3抗原検出の使用を教示する。
【0038】
従って、特定の個人、又は1もしくは複数の特定の癌細胞系列由来の癌細胞に対する癌性疾患修飾性抗体(CDMAB)を作製するための方法を活用することが本発明の目的である。ここでハイブリドーマ細胞系列及び対応する単離モノクローナル抗体及びハイブリドーマ細胞系列をコードするその抗体結合断片を単離するために、前記CDMABは癌細胞に関しては細胞毒性であるが、同時に非癌細胞に対しては比較的非毒性である。
【0039】
癌性疾患修飾性抗体、そのリガンド及び抗原結合断片を作製することは、本発明の追加の目的である。
その細胞毒性が、抗体依存性の細胞性の毒を介して媒介される、癌性疾患修飾性抗体を作製することは、本発明のさらなる目的である。
その細胞毒性が、相補体依存性の細胞性の毒を介して媒介される、癌性疾患修飾性抗体を作製することは、本発明のさらに追加の目的である。
【0040】
その細胞毒性が、細胞の化学結合の加水分解を触媒できる機能である、癌性疾患修飾性抗体を作製することは、本発明のさらなる目的である。
癌の診断、予後診断、及び監視のための結合アッセイにおいて有用な、癌性疾患修飾性抗体を作製することは、本発明のさらなる目的である。
本発明のその他の目的及び優位性は、本発明の特定の実施態様を、例証及び実施例として説明する以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、細胞毒性の割合及び細胞系列OCC−1、OVCAR−3及びCCD−27skに対するハイブリドーマ上清の結合レベルを比較した。
【図2】図2は、癌及び正常細胞系に対するAR51A630.3の結合を表す。
【図3】図3は、複数の癌及び非癌細胞系について対象とされる、AR51A630.3及び抗EGFR抗体の代表的なFACSヒストグラムである。
【図4】図4は、予防的PL−45膵臓癌モデルにおける腫瘍増殖へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【図5】図5は、予防的PL−45膵臓癌モデルにおける体重へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【図6】図6は、予防的DLD−1結腸癌モデルにおける腫瘍増殖へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【図7】図7は、予防的DLD−1結腸癌モデルにおける体重へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【図8】図8は、予防的BxPC−3膵臓癌モデルにおける腫瘍増殖へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【図9】図9は、予防的BxPC−3膵臓癌モデルにおける体重へのAR51A630.3の影響を示すものである。垂直破線は抗体が投与される期間を示す。データ点は平均+/−SEMを表す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
一般的に、以下の語又は句は、要約、明細書、実施例及び請求の範囲において使用される場合の定義を示す。
【0043】
「抗体」なる用語は、最も広い意味で使用される。具体的には、例えば単一モノクローナル抗体(例えばアゴニスト、アンタゴニスト、及び中性抗体、脱免疫化、マウスの、キメラの又はヒト化抗体)、ポリエピトープ(polyepitopic)特異性を伴う抗体組成物、単鎖抗体、免疫複合体及び抗体断片を包含する(以下を参照)。
【0044】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」なる用語は、実質的に同種の抗体集団から得られた抗体のことを言う。すなわち、わずかに存在し得る自然発生的な突然変異を除けば、その集団を含んでなる個々の抗体は同一である。モノクローナル抗体は特異性が高く、単一の抗原部位を対象とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を対象とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、各々のモノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基を対象とする。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、その他の抗体による汚染を受けずに合成できる点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、抗体の実質的に同種の抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の作製を要するものと解すべきではない。例えば、本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al. Nature, 256:495 (1975)で最初に報告された、ハイブリドーマ(マウス又はヒト)法によって作製しても、又は組み換えDNA法(米国特許第4,816,567号参照)により作製してもよい。「モノクローナル抗体」はまた、例えばClackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)に記載の技術を用いる、ファージ抗体ライブラリーから単離してもよい。
【0045】
「抗体断片」は、未処理抗体の一部を含んでなり、好ましくはその抗原結合領域又は可変領域を含んでなる。抗体断片の例としては、全長抗体より短く、Fab、Fab'、F(ab')2、及びFv断片;二特性抗体;直鎖抗体;単鎖抗体分子;単鎖抗体、単一ドメイン抗体分子、融合タンパク質、遺伝子組み換えタンパク質及び(1又は複数の)抗体から形成した多選択性抗体が挙げられる。
【0046】
「未処理の」抗体は、抗原結合性可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含んでなるものである。定常ドメインは、天然配列の定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異であってもよい。好ましくは、未変性抗体は、1又は複数のエフェクター機能を有する。
【0047】
重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存するため、未変性抗体は異なる「クラス」に割り振ることができる。未変性抗体の5つの主要なクラスとしては、IgA,IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、このうちいくつかは、さらに「サブクラス」(アイソタイプ)に分けてもよく、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2等がある。対応する異なる抗体クラスに対応する重鎖定常ドメインが、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。異なる免疫グロブリンのクラスのサブユニット構造及び3次元立体配置が周知である。
【0048】
抗体「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因する生物活性のことを言う。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合;相補体依存性細胞毒性;Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞毒性(ADCC);貪食作用;細胞表面受容体の下方制御(例えばB細胞受容体;BCR)等がある。
【0049】
「抗体依存性細胞媒介細胞毒性」及び「ADCC」とは、Fc受容体(FcR)(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)を発現する非特異的細胞毒性細胞が標的細胞に結合した抗体を認識し、実質的に標的細胞の分解を引き起こす、細胞媒介性の反応のことを言う。ADCCに介在する主要な細胞であるNK細胞は、単球はFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する中で、FcγRIIIのみを発現する。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991)の、464ページの表3に要約されている。注目の分子のADCC活性を評価するため、米国特許第5,500,362号又は5,821,337号に記載されるようなインビトロADCCアッセイを行ってもよい。このアッセイにとって有用なエフェクター細胞には、抹消血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞がある。あるいは、又は追加的には、注目の分子のADCC活性は、Clynes et al. PNAS (USA) 95:652-656 (1998)で開示されるような動物モデル等のインビボで評価してもよい。
【0050】
「エフェクター細胞」は、1又は複数のFcRを発現し、且つエフェクター機能を発揮する白血球である。好ましくは、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、且つADCCエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、抹消血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞毒性T細胞及び好中球が挙げられ、PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、天然原料から単離してもよく、例えば本明細書で記載の通りの、血液又はPBMC由来があり得る。
【0051】
「Fc受容体」又は「FcR」なる用語は、抗体のFc領域に結合する受容体を記述するために使用する。好ましいFcRは天然配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(ガンマ受容体)に結合するとともに、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIサブクラスの受容体を含むものであり、これらの受容体の対立遺伝子変異体であり且つ選択的に接合された状態である。FcγRII受容体には、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が含まれ、主にその細胞質ドメインが異なる、類似するアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに、免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)を有する。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに、免疫受容体チロシン阻害モチーフ(ITIM)を有する(M. in Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997)の概説を参照)。FcRは、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991); Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994); 及び de Haas et al., J. Lab. Clin. Med. 126:330-41 (1995)において概説されている。将来識別されるもの等の他のFcRは、本明細書の用語「FcR」に包含される。当該用語はまた、母体IgGの胎児への転移に寄与する新生児受容体FcRnを含む(Guyer et al., J. Immunol. 117:587 (1976) and Kim et al., Eur. J. Immunol. 24:2429 (1994))。
【0052】
「補体依存性細胞毒性」又は「CDC」とは、補体の存在下、標的を分解する分子の能力を言う。補体活性経路は、補体システムの第一成分(C1q)が同族の抗原と複合化した分子(例えば抗体)に結合することにより開始する。補体活性を評価するために、Gazzano-Santoro et al., J. Immunol. Methods 202:163 (1996)等に記載される、CDCアッセイを行ってもよい。
【0053】
用語「可変の(variable)」とは、可変ドメインの特定の部分の配列が、抗体間で著しく異なり、それが個別具体的な抗体の抗原に対する結合及び特異性のために使用されることを言う。ただし、その可変性は抗体の可変ドメイン全体にわたって均等に分布してはいない。軽鎖及び重鎖の両方の可変ドメインにおける、超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中する。より高度に保存された可変ドメインの部分は、フレームワーク領域と呼ばれる(FR)。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々4つのFRを含んでなり、これは大部分が3つの超可変領域により接続されるβシートの立体配置を採用しており、その超可変領域は、そのβシート構造を接続し、ある場合にはβシート構造の一部を形成することもあるループを形成する。各鎖における超可変領域は、その他の鎖由来の超可変領域と共に、FRにより近接した状態でまとめられており、抗体の抗原結合部位の構成に寄与する(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. pp 15-17; 48-53 (1991)参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接的には関与しないが、様々なエフェクター機能を示し、例えば抗体依存性細胞毒性(ADCC)への抗体の参加等がある。
【0054】
本明細書で使用される場合「超可変領域」なる用語は、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基のことを言う。一般的に超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基24〜34(L1)、50〜56(L2)及び89〜97(L3)及び重鎖可変ドメイン中の31〜35(H1)、50〜65(H2)及び95〜102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. pp 15-17; 48-53 (1991))及び/又は「超可変ループ」由来のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメイン中の残基2632(L1)、50〜52(L2)及び91〜96(L3)及び重鎖可変ドメイン中の26〜32(H1)、53〜55(H2)及び91〜96(H3);; Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))を含んでなる。「フレームワーク領域」又は「FR」残基は、本明細書で定義する超可変領域の残基以外の可変ドメインの残基のことである。抗体のパパイン分解により、「Fab」断片と呼ばれる、各々が単一の抗原結合部位を有する2つの同じ抗原結合断片と、残りのその名前が容易に結晶化できることを反映する「Fc」断片とを作製する。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、さらに抗原を架橋できる、F(ab')2断片を作製する。
【0055】
「Fv」は、完全な抗原認識及び抗原結合部位を含有する、最小の抗体断片である。この領域は、1の重鎖及び1の軽鎖可変ドメインの、緊密な、非共有的会合状態の二量体からなる。各可変ドメインの3つの超可変領域は、VH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を特徴づけるための相互作用するのはこの立体配置のためである。集団的に、当該6つの超可変領域は、抗体に対する抗原結合特異性を提供する。ただし、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つの超可変領域のみからなるFvの半分)でも、結合部位全体よりも低い親和性ではあるが、抗原を認識且つ結合する能力を有する。Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメインの重鎖の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab'断片は、その抗体ヒンジ領域由来の1又は複数システイン等の重鎖CH1領域のカルボキシ末端での数個の残基の添加により、Fab断片と区別される。本明細書で指定するFab'−SHは、少なくとも1個の遊離チオール基を持つ定常ドメインの(1又は複数の)システイン残基におけるFab'のことである。F(ab')2抗体断片はもともと、Fab'断片のペアとして作製され、これはこれらの間にヒンジシステインを有する。その他の抗体断片の化学共役も知られている。
【0056】
任意の脊椎動物種由来の抗体の「軽鎖」は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2つの明確な特徴のある種類の1つに割り振ることができる。
【0057】
「単鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVH及びVLドメインを含んでなり、ここで当該ドメインは単一のポリペプチド鎖に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドは、scFvに抗原結合のための所望の構造を形成させる、VH及びVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含んでなる。scFvの概説として、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol. 113, Rosenburg and Moore eds., Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)を参照のこと。
【0058】
「二特異性抗体」なる用語は、2つの抗原結合部位を伴う抗体小断片のことを言い、当該断片は、同じポリペプチド鎖に、可変軽ドメイン(VL)と接続する可変重ドメイン(VH)を含んでなる(VH−VL)。同じ鎖上の2つのドメインの間でペアを組ませるには短すぎるリンカーを使用することにより、当該ドメインは別の鎖の相補ドメインとペアを組まされ、2つの抗原結合部位を作り出す。二特異性抗体についてより詳細な記載としては、例えば欧州特許第404,097号、国際公開第93/11161号;及びHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448 (1993)がある。
【0059】
「単離」抗体は、その天然環境の成分から、識別及び分離及び/又は回収されたものである。その天然環境の混入成分は、抗体の診断的又は治療的使用を妨げる可能性がある物質であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質様又は非タンパク質様溶質等が挙げられる。単離抗体には、少なくとも1個の抗体の天然環境成分は存在しないはずなので、インサイツで遺伝子改変細胞内のインサイツでの抗体が含まれる。ただし、通常単離抗体は少なくとも1回の精製ステップにより調製する。
【0060】
注目の抗体「(それ)が結合する」抗原とは、抗原を発現する細胞を標的とする点で治療的又は診断的剤として抗体が有用であるよう、十分な親和性を有する抗原を結合できることである。抗体が抗原部位に結合できるものである場合、通常他の受容体とは対照的に優先的に結合し、非特異的Fc接触等の偶発的結合、又は他の抗原と共通する翻訳後修飾のための結合は含まず、他のタンパク質と重要な交差反応をしないものであってよい。注目の抗原を結合する抗体検出のための方法は、当業者において周知であり、限定するものではないが、FACS、細胞ELISA及びウェスタンブロット等のアッセイを包含できる。
【0061】
本明細書で使用されるように、「細胞」、「細胞系列」、及び「細胞培養物」なる表現は同じ意味で使用され、いずれの語も子孫を包含する。全ての子孫は、計画的又は偶発的な変異により、DNA含有物が正確に同じでなくてもよい。最初に形質移入された細胞でのスクリーニングと同じ機能又は生物活性を有する変異体子孫が含まれる。これらの語を区別することを意図する場合は、本文から明らかになるはずである。
【0062】
「治療又は治療すること」は、療法的な治療及び予防的又は妨害的な測定のことを言い、ここで本目的は、標的とする病因の症状又は障害を、防止又は遅延(緩和)することである。治療を必要とする対象には、既に障害を患うもの、及び障害を患う傾向のあるもの、又はその障害が防止されるべきであるものが含まれる。それ故、本明細書において治療される哺乳類は、障害を患うと診断されていてもよいし、障害を患いやすく又は影響を受けやすくなっていてもよい。
【0063】
「癌」及び「癌性」とは、哺乳類における生理的症状のことを言い、典型的には、細胞の増殖又は死が制御されていないことが特徴である。癌の例としては、限定するものではないが、細胞癌、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病又はリンパ様悪性疾患が挙げられる。当該癌のより具体的な例としては、扁平細胞癌(例えば上皮扁平細胞癌)、肺癌、例えば小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平細胞癌、腹膜の癌、肝細胞癌、胃腸癌等の胃癌(gastric or stomach cancer)、膵臓癌、グリオブラストーマ、頸部癌、卵巣癌、肝癌、膀胱癌、へパトーム、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜及び子宮細胞癌、唾液腺細胞癌、腎臓又は腎性癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、肝細胞癌、肛門細胞癌、陰茎細胞癌、並びに頭部及び頸部癌が挙げられる。
【0064】
「化学療法剤」は癌の治療に有用な化学化合物である。化学療法剤の例としては、アルキル化剤、例えばチオテパ(thiotepa)及びシクロホスファミド(cyclosphosphamide)(シトキサン(CYTOXAN(登録商標)));スルホン酸アルキル、例えばブスルファン(busulfan)、インプロスルファン(improsulfan)及びピポスルファン(piposulfan);アジリジン、例えばベンゾドパ(benzodopa)、カルボクオン(carboquone)、メツレドパ(meturedopa)、及びウレドパ(uredopa);エチレンイミネス(ethylenimines)及びメチラメラミネス(methylamelamines)、例えばアルトレタミン(altretamine)、トリエチレンメラミン(triethylenemelamine)、トリエチレンホスフォラミド(triethylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスフォラミド(triethylenethiophosphoramide)及びトリメチルオロメラミン(trimethylolomelamine);ナイトロジェンマスタード(nitrogen mustards)、例えばクロランブシル(chlorambucil)、クロルナフェジン(chlornaphazine)、クロロフォスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン(estramustine)、イホスファミド(ifosfamide)、メクロレタミン(mechlorethamine)オキシド塩酸塩、メルファラン(melphalan)、ノベンビシン(novembichin)、フェネストリン(phenesterine)、プレドニムスチン(prednimustine)、トロフォスファミド(trofosfamide)、ウラシルマウタード;ニトロソ尿素(nitrosureas)、例えばカルムスチン(carmustine)、クロロゾトシン(chlorozotocin)、フォテムスチン(fotemustine)、ロムスチン(lomustine)、ニムスチン(nimustine)、ラニムスチン(ranimustine);抗生物質、例えばアクラシノマイシン(aclacinomysins)、アクチノマイシン(actinomycin)、オートラマイシン(authramycin)、アザセリン(azaserine)、ブレオマイシン(bleomycins)、カクチノマイシン(cactinomycin)、カリケアミシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、カルノマイシン(carnomycin)、カルジノフィリン(carzinophilin)、クロモマイシン(chromomycins)、ダクチノマイシン(dactinomycin)、ダウノルビシン(daunorubicin)、デトルビシン(detorubicin)、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン(doxorubicin)、エピルビシン(epirubicin)、エソルビシン(esorubicin)、イダルビシン(idarubicin)、マルセロマイシン(marcellomycin)、ミトマイシン(mitomycins)、ミコフェノリール酸(mycophenolic acid)、ノガラマイシン(nogalamycin)、オリボマイシン(olivomycins)、ペプロマイシン(peplomycin)、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、プロマイシン(puromycin)、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン(streptonigrin)、ストレプトゾシン(streptozocin)、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメックス(ubenimex)、ジノスタチン(zinostatin)、ゾルビシン(zorubicin);抗代謝物、例えばメトトレキサート(methotrexate)及び5−フルオロウラシル(5−FU);葉酸類似体、例えばデノプテリン(denopterin)、メトトレキサート、プテロプテリン(pteropterin)、トリメトレキサート(trimetrexate);プリン類似体、例えばフルダラビン(fludarabine)、6−メルカプトプリン、チアミプリン(thiamiprine)、チオグアニン(thioguanine);ピリミジン類似体、例えばアンシタビン(ancitabine)、アザシチジン(azacitidine)、6−アザウリジン(6-azauridine)、カルモフル(carmofur)、シタラビン(cytarabine)、ジデオキシウリジン(dideoxyuridine)、ドキシフルリジン(doxifluridine)、エノシタビン(enocitabine)、フロクスウジン(floxuridine)、5−FU;アンドロゲン、例えばカルステロン(calusterone)、ドロモスタノロン(dromostanolone)、プロピオナート(propionate)、エピチオスタノール(epitiostanol)、メピチオスタン(mepitiostane)、テストラクトン(testolactone);抗アドレナル、例えばアミノグルテチミド(aminoglutethimide)、ミトタン(mitotane)、トリロスタン(trilostane);葉酸補充物(replenisher)、例えばフォリン酸(frolinic acid);アセグラトン(aceglatone);アルドホスファミド(aldophosphamide)グリコシド;アミノブリン酸(aminolevulinic acid);アムサクリン(amsacrine);ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン(bisantrene);エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルシン(demecolcine);ジアジコン(diaziquone);エルホルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム(elliptinium acetate);エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン(lentinan)、ロニダミン(lonidamine);ミトグアゾン(mitoguazone);ミトキサントロン(mitoxantrone);モピダモル(mopidamol);ニトラクリン(nitracrine);ペントスタチン(pentostatin);フェナメット(phenamet);ピラルビシン(pirarubicin);ポドフィリン酸(podophyllinic acid);2−エチルヒドラジド;プロカルバジン(procarbazine);PSK(登録商標);ラゾキサン(razoxane);シゾフィラン(sizofiran);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸(tenuazonic acid);トリアジコン(triaziquone);2,2',2"−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン(urethan);ビデシン(vindesine);デカルバジン(dacarbazine);マンノムスチン(mannomustine);ミトブロニトール(mitobronitol);ミトラクトール(mitolactol);ピポブロマン(pipobroman);ガサイトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C]);シクロホスファミド;チオテパ(thiotepa);タキサン(taxanes)、例えばパクリタキセル(paclitaxel)(タキソール(登録商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology, Princeton, N.J.)及びドセタキセル(docetaxel)(タキソテール(TAXOTERE(登録商標)、Aventis, Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロランブシル(chlorambucil);ゲンシタビン(gemcitabine);6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似体、例えばシスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン(vinblastine);白金;エトポシド(etoposide)(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC(mitomycin C);ミトキサントロン(mitoxantrone);ビンクリスチン(vincristine);ビノレルビン(vinorelbine);ネバルビン(navelbine);ノバントロン(novantrone);テニプシド(teniposide);デューロマイシン(daunomycin);アミノプテリン(aminopterin);ゼローダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);CPT−11;トポイソメラーゼ阻害剤RES 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン(esperamicins);カペシタビン(capecitabine);及び上記の任意の医薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体がある。また、この定義には、腫瘍でのホルモン作用を制御又は阻害の作用をする、抗エストロゲン等の抗ホルモン剤が含まれ、例えば、タモキシフェン(tamoxifen)、ラロキシフェン(raloxifene)、アロマターゼ阻害4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン(4-hydroxytamoxifen)、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェンン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)、及びトレミフェン(toremifene)(Fareston);及び抗アンドロゲン、例えばフルタミド(flutamide)、ニルタミド(nilutamide)、ビカルタミド(bicalutamide)、リュープロリド(leuprolide)、及びゴセレリン(goserelin);及び上記の任意の医薬的に許容可能な塩、酸又は誘導体がある。
【0065】
治療の目的のための「哺乳類」とは、哺乳類として分類される任意の動物、例えば、ヒト、マウス、SCIDもしくはヌードマウス又はマウス種、家畜(domestic and farm animal)、及び動物園の、スポーツの、もしくはペットの動物、例えばヒツジ、イヌ、ウマ、ネコ、ウシ等のことを言う。好ましくは、当該哺乳類はヒトである。
【0066】
「オリゴヌクレオチド」は、周知の方法で化学合成される、短い、一本鎖又は二本鎖のポリデオキシヌクレオチド(例えば、1988年5月4日に発行された欧州特許第266,032号等の記載に従う固相法を用いるか、又はFroehler et al., Nucl. Acids Res., 14:5399-5407, 1986に記載されたデオキシヌクレオシド H−ホスホネート中間体を経由することによる、ホスホトリエステル、亜リン酸エステル、又はホスホラミダイトの化学がある。その後これらをポリアクリルアミドゲルで精製する)。
【0067】
本発明によれば、「ヒト化」及び/又は「キメラ」状態の非ヒト(例えばマウス)免疫グロブリンは、もとの抗体と比較すると、ヒト抗マウス抗体(HAHA)、ヒト抗キメラ抗体(HACA)又はヒト抗ヒト抗体(HAHA)応答の減少をもたらす、特異的なキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はその断片(Fv、Fab、Fab'、F(ab')2又は抗体の抗原結合サブ配列等)を含有する抗体であるとともに、非ヒト免疫グロブリンと比較できる結合特徴を同時に保持し、所望の効果をもたらすのに必要な、当該非ヒト免疫グロブリン由来の必須部分(例えば、(1又は複数の)CDR、(1又は複数の)抗原結合領域、(1又は複数の)可変ドメイン等)を含有する抗体のことを言う。大部分においてヒト化抗体は、レシピエント抗体の相補的決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(マウス、ラット又はウサギ等)のCDR由来の残基で置き換えられる、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの例においては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒトFR残基と置き換えられる。さらにヒト化抗体は、レシピエント抗体にも移入CDRもしくはFR配列にも見出されない残基を含んでもよい。これらの変更は、抗体機能をさらに洗練し、最適化させる。一般的にヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリンのものに対応する全てもしくは実質的に全てのCDR領域、及びヒト免疫グロブリン共通配列のものに対応する全てもしくは実質的に全てのFR残基における、少なくとも1個、典型的には2個の可変ドメインの実質的に全てを含むであろう。最も有利なことには、ヒト化抗体は、典型的にはヒト免疫グロブリンものである免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含むであろう。
【0068】
「脱免疫化」抗体は、所与の種に対して非免疫原性又は低免疫原性の免疫グロブリンである。脱免疫化は、抗体への構造的変質を介して達成できる。当業者に周知のいずれかの脱免疫化技術を使用できる。抗体を脱免疫化するのに適した技術の1つとして、例えば2000年6月15日に発行された国際公開第00/34317号における記載が挙げられる。
【0069】
「アポトーシス」を誘導する抗体は、いずれかの方法により細胞死が予定されているもので、限定するものではないが、アネキシンVの結合、カスパーゼ活性、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の膨張、細胞断片化、及び/又は膜小胞(アポトーシス小体と呼ばれる)の形成によって例証される。
【0070】
本明細書で使用される「抗体誘導性細胞毒性」は、効果が結合度に関連する必要がない、受託番号010207−01でIDACに寄託されたハイブリドーマにより作製された、ハイブリドーマ上清又は抗体由来の細胞毒効果を意味すると解される。
【0071】
本明細書全体を通して、ハイブリドーマ細胞系列、及びそこから作製される単離モノクローナル抗体は、その内部での指定であるAR51A630.3又は寄託機関の指定であるIDAC010207−01のいずれかで択一的に言われる。
【0072】
本明細書で使用される「抗体−リガンド」には、標的抗原の少なくとも1つのエピトープに結合特異性を提示する部分であって、未処理の抗体分子、抗体断片、及び少なくとも1つの抗原結合領域又はその一部(すなわち、抗体分子の可変部分)を有するいずれかの分子であってもよく、例えば、IDAC010207−01として指定されたハイブリドーマ細胞系列により作製された単離モノクローナル抗体により結合される抗原の、少なくとも1つのエピトープで、特異的に認識及び結合する、Fv分子、Fab分子、Fab'分子、F(ab')2分子、二特異性抗体、融合タンパク質、又はいずれかの遺伝子操作分子等がある。
【0073】
本明細書で使用される、「癌性疾患修飾性抗体」(CDMAB)は、患者に有益な方法、例えば腫瘍負荷の低減、又は腫瘍を持つ個体の生存の延長により、細胞癌疾患プロセスを修正するモノクローナル抗体、及びその抗体−リガンドのことを言う。
【0074】
本明細書で使用される「抗原−結合領域」は、標的抗原を認識する分子の部分を意味する。
【0075】
本明細書で使用される「競合的阻害」は、IDCA 010207−01として指定されたハイブリドーマ細胞系列により作製されたモノクローナル抗体(IDCA 010207−01抗体)が、従来の相互抗体競合アッセイ(reciprocal antibody competition assay)(Belanger L., Sylvestre C. and Dufour D. (1973), Enzyme linked immunoassay for alpha fetoprotein by competitive and sandwich procedures. Clinica Chimica Acta 48, 15)を用いて、対象とする決定部位を認識及び結合できることを意味する。
【0076】
本明細書で使用される「標的抗原」は、IDCA 010207−01抗原又はその一部である。
【0077】
本明細書で使用される「免疫複合体」は、細胞毒、放射活性剤、酵素、毒素、抗腫瘍薬物又は治療剤と、化学的又は生物学的に連結した抗体等の任意の分子又はCDMABを意味する。当該抗体又はCDMABは、その標的に結合可能な限り分子に沿う任意の位置で、細胞毒、放射活性剤、抗腫瘍薬物又は治療剤と連結してもよい。免疫複合体の例としては、抗体−毒素の化学複合体及び抗体−毒素融合タンパク質が挙げられる。
【0078】
本明細書で使用される「融合タンパク質」は、抗原結合領域が生物活性のある分子、例えば毒素、酵素、又はタンパク質薬物と接続される、キメラタンパク質を意味する。
【0079】
本明細書で記載される発明がより十分に理解されるように以下の記載で説明する。
【0080】
本発明は、IDAC010207−01抗原と特異的に認識し、且つそれに結合する、CDMAB(すなわち、IDAC010207−01CDMAB)を提供する。
【0081】
受託番号010207−01としてIDACに寄託されたハイブリドーマから産生された単離モノクローナル抗体のCDMABは、ハイブリドーマIDAC010207−01から産生された単離モノクローナル抗体の、その標的抗原へ免疫特異的な結合を、競合的に阻害する抗原結合領域を有する限りどのような状態であってもよい。すなわち、IDAC010207−01抗体と同じ結合特異性を有する、任意の組み換えタンパク質(例えば抗体が、リンホカイン又は腫瘍抑制性増殖因子等の第二タンパク質と組み合わされる融合タンパク質)は本発明の範囲内である。
【0082】
本発明の1つの実施態様によれば、CDMABはIDAC010207−01抗体である。
本発明の他の実施態様によれば、CDMABは、IDAC010207−01抗体の抗原結合領域を有する、Fv分子(例えば単鎖Fv分子)、Fab分子、Fab'分子、F(ab')2分子、融合タンパク質、二特異性抗体、ヘテロ抗体又はいずれかの組み換え分子であり得る、抗原結合断片である。本発明のCDMABはIDAC010207−01モノクローナル抗体が対象とするエピトープを対象とする。
【0083】
本発明のCDMABは修飾されてもよく、すなわち、誘導体分子を作製するために、当該分子内でアミノ酸修飾により行われてもよい。化学修飾の可能性もあり得る。
誘導体分子はポリペプチドの機能特性を維持するべきであり、つまり、かかる置換を有する分子はIDAC010207−01抗原又はその一部に対する当該ポリペプチドの結合を可能にさせるであろう。
限定する必要はないが、これらのアミノ酸置換には「保存的」として当業界で既知のアミノ酸置換がある。
【0084】
例えば、「保存的アミノ酸置換」と言われる特定のアミノ酸置換をタンパク質に加えても、多くの場合タンパク質の立体配置又は機能が変化しないことは、タンパク質化学の十分に確立された原理である。
かかる変換としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、及びロイシン(L)のいずれかをこれらの疎水性アミノ酸へ置換すること;アスパラギン酸(D)をグルタミン酸(E)へ置換すること及びその逆;グルタミン(Q)をアスパラギン(N)へ置換すること及びその逆;並びにセリン(S)をトレオニン(T)へ置換すること及びその逆が挙げられる。また他の置換は、タンパク質の3次元構造における、特定のアミノ酸の環境及びその役割によって保存的と考えられる。例えば、グリシン(G)とアラニン(A)はしばしば相互変換可能であり、アラニンとバリン(V)も同様である。比較的疎水的なメチオニン(M)は、しばしばロイシン及びイソロイシンと相互変換可能であり、バリンと相互変換することもある。リジン(K)とアルギニン(R)は、アミノ酸残基の重要な特性がその電荷であるとともに、これら2つのアミノ酸残基のpKの差異が重要でないような位置において、しばしば相互変換可能である。さらに他の変換は、特定の環境において「保存的」であると考えられる。
【実施例1】
【0085】
ハイブリドーマ作製―ハイブリドーマ細胞系AR51A630.3
ハイブリドーマ細胞系AR51A630.3を、ブダペスト条約に従い、カナダの国際受託機関(IDAC)(Bureau of Microbiology, Health Canada, 1015 Arlington Street, Winnipeg, Manitoba, Canada, R3E 3R2)に、2007年2月1日に、受託番号010207−01で寄託した。米国特許法施行規則1.808に従い、寄託者等は、寄託物の公共の利用について課される全ての制限が、特許の付与の際に変更不可的に除去されることを保証する。寄託機関が生サンプルを分配できない場合、寄託物を取り替える。
【0086】
抗癌抗体AR51A630.3を作製するハイブリドーマを作製するために、凍結ヒト類子宮内膜腺癌の腫瘍組織の単細胞懸濁物(Genomics Collaborative, Cambridge, MA)を、PBS中で調製した。IMMUNEASYTM(Qiagen, Venlo, Netherlands)アジュバントを、穏やかな混合により使用のために調製した。50μLの抗原−アジュバント中の2百万個の細胞を、皮下に注入することにより、5〜7週齢BALB/cマウスを免疫化した。最初の免疫化から2週間後に、直前に調製した抗原−アジュバントを50〜60μL中の2百万個の細胞で、免疫化マウスに腹腔内に追加免疫するために使用した。最後の免疫化後3日目に融合のために脾臓を使用した。単離脾細胞とNSO−1骨髄腫パートナーとの融合により、ハイブリドーマを調製した。融合物から得られる上清を、ハイブリドーマのサブクローンとして試験した。
【0087】
ハイブリドーマ細胞により分泌された抗体が、IgG又はIgMアイソタイプのいずれであるかを確認するために、ELISAアッセイを使用した。ヤギ抗マウスIgG+IgM(H+L)を、コーティングバッファ(0.1M 炭酸/重炭酸バッファ、pH 9.2〜9.6)中の2.4μg/mLの濃度、100μL/ウェルの量で、ELISAプレートに4℃で一晩添加した。このプレートを洗浄バッファ(PBS+0.05% Tween)中で3回洗浄した。100μL/ウェルのブロッキングバッファ(洗浄バッファ中5%のミルク)を、室温で1時間このプレート添加し、その後洗浄バッファ中で3回洗浄した。100μL/ウェルのハイブリドーマ上清を添加し、このプレートを1時間室温でインキュベートした。プレートを洗浄バッファで3回洗浄し、ヤギ抗−マウスIgG又はIgMセイヨウワサビ過酸化酵素複合体(5%ミルク含有のPBS中で希釈)のいずれか一方での1/100,000希釈物を、100μL/ウェルで添加した。室温で1時間プレートをインキュベートした後、プレートを洗浄バッファで3回洗浄した。100μL/ウェルのTMB溶液を、室温で1〜3分インキュベートした。50μL/ウェル 2M H2SO4を添加することにより、呈色反応を終了させ、Perkin-Elmer HTS7000プレートリーダーを用い、450nmでプレートを測定した。図1に示すように、AR51A630.3ハイブリドーマは、主にIgGアイソタイプの抗体を分泌した。
【0088】
ハイブリドーマ細胞により分泌された抗体のサブクラスを決定するために、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(a Mouse Monoclonal Antibody Isotyping Kit)(HyCult Biotechnology, Frontstraat, Netherlands)を用いて、アイソタイピング実験を行った。500μLのバッファ溶液を、ラット抗マウスサブクラス特異的抗体を含有する検査片に添加した。500μLのハイブリドーマ上清を試験管に添加し、穏やかな攪拌により沈水させた。捕捉したマウス免疫グロブリンは、コロイド粒子と結合させた第二のラットモノクローナル抗体により直接検出された。これら2つのタンパク質の組み合わせが、アイソタイプを分析するために使用される可視的シグナルを作り出す。抗癌抗体AR51A630.3は、カッパアイソタイプのIgG2Bのものである。
【0089】
1回の限界希釈後、ハイブリドーマの上清について、標的細胞に結合する抗体の試験を細胞ELISAアッセイで行った。2つのヒト卵巣癌細胞系列及び1つのヒト非癌皮膚細胞系列:それぞれOCC−1、OVCAR−3及びCCD−27skを試験した。全ての細胞系列は、American Type Tissue Collection (ATCC, Manassas, VA)から入手した。プレーティングした細胞を使用前に固定させた。このプレートを、MgCl2及びCaCl2含有のPBSを用いて室温で3回洗浄した。PBS中2%パラホルムアルデヒド、100μLを、室温で10分間にわたり各ウェルに添加した後に捨てた。プレートを、MgCl2及びCaCl2含有のPBSを用いて再び室温で3回洗浄した。洗浄バッファ(PBS+0.05%Tween)中5%ミルクの100μL/ウェルを用いて、室温で1時間ブロッキングを行った。プレートを洗浄バッファで3回洗浄し、ハイブリドーマ上清を75μL/ウェルで、1時間室温で添加した。プレートを洗浄バッファで3回洗浄し、ヤギ抗−マウスIgG又はセイヨウワサビ過酸化酵素との複合化IgM抗体(5%ミルク含有のPBS中で希釈)の1/25,000希釈物を、100μL/ウェルで添加した。室温で1時間インキュベーション後、プレートを洗浄バッファで3回洗浄し、100μL/ウェルのTMB培地を室温で1〜3分インキュベートした。50μL/ウェル 2M H2SO4を添加することにより、反応を終了させ、Perkin-Elmer HTS7000プレートリーダーを用い、450nmでプレートを測定した。図1に表で示した結果は、試験された細胞系列と結合しないことが従前に示されていた自家製IgGアイソタイプコントロールと比較し、バックグラウンドの何倍であるかを表した。ハイブリドーマAR51A630.3由来の抗体は、試験された細胞系列との検出可能な結合を示し、OCC−1卵巣癌細胞系列では検出可能な結合の最高値を示した。
【0090】
抗体結合の試験とともに、ハイブリドーマ上清の細胞毒性効果(抗体誘導性細胞毒性)を細胞系列、OCC−1.OVCAR−3及びCCD−27skについて試験した。カルセインAMは、Molecular Probes (Eugene, OR)から入手し、アッセイを以下に概説した通りに実施した。アッセイの前に既定の適正密度で細胞をプレーティングした。2日後、ハイブリドーママイクロタイタープレートから得た75μLの上清を、細胞プレートに移植し、5%CO2インキュベーターで5日間インキュベートした。ポジティブコントロールの役割をするウェルを真空まで吸引し、培養培地に溶解させた、100μLのアジ化ナトリウム(NaN3、0.1%、Sigma, Oakville, ON)、シクロヘキシミド(CHX、0.5μM、Sigma, Oakville, ON)又は抗EGFR抗体(c225、IgG1、カッパ、5μg/mL、 Cedarlane, Hornby, ON)を添加した。処理の5日後、プレートを反転及び拭き取り乾燥させることにより取り出した。室温の、MgCl2及びCaCl2含有のDPBS(ダルベッコのリン酸バッファ化生理食塩水)を、多チャンネルのスクイーズドボトルから各ウェルに分注し、3回軽くたたき、反転により中身を空にし、及びその後に拭き取り乾燥させた。MgCl2及びCaCl2含有のDPBSで希釈した蛍光カルセイン色素を各ウェルに50μLずつ添加し、5%CO2インキュベーター中、37℃で30分間インキュベートした。このプレートを、Perkin-Elmer HTS7000蛍光プレートリーダーで測定し、データをマイクロソフトのエクセルで解析した。結果を表1に示した。AR51A630.3ハイブリドーマから得られる上清は、OCC−1細胞に対して18%、及びOVCAR−3細胞に対して40%の特異的な細胞毒性をもたらした。これは、OCC−1についてポジティブコントロールのアジ化ナトリウム及びシクロヘキシミドで得られたそれぞれ21及び19%の細胞毒性、同様にOVCAR−3ついてc225及びシクロヘキシミドで得られたそれぞれ64及び89%である。非癌皮膚細胞系列CCD−27skについて、観察できる細胞毒性は存在しなかった。既知の非特異的細胞毒性剤のシクロヘキシミド及びNaN3は、予想通り穏やかな細胞毒性をもたらした。抗EGFR抗体c225は、OVCAR−3に対して予想通りの細胞毒性をもたらした。
【0091】
図1の結果は、異なる細胞系列に対するAR51A630.3の細胞毒性効果が結合レベルと相関しないことを実証する。結合の最高レベルはOCC−1細胞系列へのものであったが、細胞毒性の最高レベルはOVCAR−3細胞系列に対するものであった。AR51A630.3は、CCD−27sk非癌皮膚細胞系列に対して結合はするものの、細胞毒性はもたらさなかった。従って、抗体は、必ずしも結合度合いと関連しない機能的な特異性を提示した。
【実施例2】
【0092】
インビトロ結合
CL-1000フラスコ(BD Biosciences, Oakville, ON)又はローラーボトル(Fisher Scientific, Ottawa, Ontario)中でハイブリドーマを培養することにより、AR51A630.3モノクローナル抗体を作製した。CL-1000フラスコでは2回/週で回収及び再播菌を行い、ローラーボトルでは1回の播菌及び回収(10日後)を行った。その後Protein G Sepharose 4 Fast Flow (Amersham Biosciences, Baie d'Urfe QC)を用いる、標準的な抗体精製方法をいった。ヒト化、脱免疫化、キメラ又はネズミのモノクローナル抗体を利用することは本発明の範囲内である。
【0093】
前立腺(PC−3及びDU−145)、結腸(DLD−1、Lovo及びSW1116)、膵臓(BxPC−3、PL−45及びAsPC−1)、胸(MDA−MB−231及びMCF−7)、肺(A549)及び卵巣(OVCAR−3、OCC−1、ES−2、A2780−cp、A2780−s、C−13、Hey、OV2008及びOVCA−429)の癌細胞系列、並びに皮膚(CCD−27sk)及び肺(Hs888.Lu)由来の非癌細胞系列との、AR51A630.3の結合をフローサイトメトリー(FACS)により評価した。卵巣癌細胞系列の大部分以外の、全ての細胞系列は、American Type Tissue Collection (ATCC, Manassas, VA)から入手した。A2780−cp、A2780−s、C−13、OV2008、ES−2、Hey、OCC−1及びOVCA−429卵巣癌細胞系列は、Ottawa Regional Cancer Center (Ottawa, ON)から入手した。
【0094】
初めに細胞単層をDPBS(Ca++及びMg++不存在)で洗浄することにより、FACS用に細胞を調製した。その後、細胞培養プレートから細胞を除去するために、細胞分離バッファ(Cell dissociation buffer)(Invitrogen, Burlington, ON)を37℃で使用した。遠心分離及び回収後、細胞をMgCl2、CaCl2及び2%ウシ胎仔血清含有のDPBS(染色培地)に4℃で再懸濁させ、カウントし、適正な細胞密度に分割し、スピンダウンして細胞をペレットとし、試験抗体(AR51A630.3)又はコントロール抗体(アイソタイプコントロール、抗EGFR)の存在下4℃で染色培地中に再懸濁した。氷上で30分間、アイソタイプコントロール及び試験抗体を20μg/mLで評価し、一方で抗EGFRを5μg/mLで評価した。Alexa Fluor 546複合化二次抗体の添加の前に、細胞を染色培地で洗浄した。その後、染色培地中のAlexa Fluor 546複合化抗体を30分間4℃で添加した。その後、細胞を最後の洗浄に供し、固定培地(1.5%パラホルムアルデヒド含有の染色培地)に再懸濁させた。FACSarray(商標)System Software(BD Biosciences, Oakville, ON)を用いる、FACSarray(商標)でサンプルを実行することにより、細胞のフローサイトメトリーの収集サンプルを評価した。細胞の前方散乱光(FSC)及び側方散乱光(SSC)は、FSC及びSSC検出器上で、電圧及び振幅の増幅率を調整することにより設定した。蛍光(Alexa-546)チャネル用の検出器は、細胞がおよそ1〜5単位の蛍光強度の中央値で均一なピークを有するように、未染色の細胞に実行することにより調整した。各サンプルについて、分析のためにおよそ10,000のゲート事象(染色された固定化細胞)を得て、その結果を図2に示した。
【0095】
図2は、平均蛍光強度が、アイソタイプコントロールを超えて倍増することを示す。AR51A630.3抗体の代表的なヒストグラムを図3にまとめた。AR51A630.3は試験された細胞系列への結合を実証した。以下の癌細胞系列、結腸のDLD−1(190.5倍);胸のMDA−MB−231(74.9倍)及びMCF−7(27.4倍);卵巣のOVCAR−3(20.9倍)、OCC−1(80.5倍)、C−13(32.9倍)、OV2008(72.2倍)及びOVCA−429(42.8倍);前立腺のPC−3(39.3倍);膵臓のPL−45(22.3倍)及びBxPC−3(43.7倍)及び肺のA549(27.5倍)への強力な結合が存在した。また、以下の癌細胞系列、結腸SW11126(15.4倍)及びLovo(10.7倍);膵臓のAsPC−1(9.7倍);前立腺のDU−145(16.0倍)及び卵巣のA2780−cp(2.7倍)、A2780−s(2.0倍)、ES−2(18.1倍)及びHey(14.0倍)、並びに非癌皮膚のCCD−27sk(5.0倍)及び肺のHs888.Lu(19.8倍)細胞系列への結合が存在した。これらのデータは、抗原発現の様々なレベルで、異なる細胞系列へのAR51A630.3の結合を実証する。
【実施例3】
【0096】
PL−45細胞を用いるインビボ腫瘍実験
実施例1では、AR51A630.3がヒト癌細胞系列に対して抗癌特性を有することを実証した。図4及び5に関連して、8〜10週齢の雌SCIDマウスの、首筋の皮下に100μLPBS溶液中の5百万個のヒト膵臓癌細胞(PL−45)を注入することにより移植した。当該マウスを無作為に5匹ずつの2つの処置群に分けた。移植後その当日に、2.7 mM KCl、1mM KH2PO4、137 mM NaCl及び20 mM Na2HPO4含有の希釈剤でストック濃縮物から希釈した後、300μLの量でコホートに対し、AR51A630.3試験抗体又はバッファコントロールの20mg/kgを、腹腔内に投与した。その後抗体及びコントロールサンプルを、その実験期間中1週間に1度投与した。腫瘍増殖を約7日ごとにキャリパーで測定した。実験を抗体8回の投薬後に完了させた。動物の体重を実験期間中1週間に1回記録した。実験の終わりに、CCAC指針に従って全ての動物を安楽死させた。
【0097】
AR51A630.3は、ヒト膵臓癌のPL−45インビボ予防モデルにおいて、腫瘍増殖を低減させた。抗体の最後の投薬(dose)後6日の54日目での測定では、ARIUS抗体AR51A630.3での処置は、バッファ処置の群と比較して、PL−45腫瘍の増殖を38.9%(t検定、p=0.2048)低減させた(図4)。抗体の最後の投薬後19日の67日目での測定では、バッファ処置の群と比較して、腫瘍の増殖を33.7%(t検定、p=0.0828)低減させ、継続したAR51A630.3の処置の効果が見られた。
【0098】
実験全体を通して毒性の臨床的兆候はなかった。週1回の間隔で測定した体重は、健康状態及び発育障害の指標であった。平均体重は、実験期間中、全ての群において上昇した(図5)。0日目〜67日目の間の平均体重増加は、コントロール群において2.2g(10.8%)であり、AR51A630.3処置群においては1.8g(8.7%)であった。処置期間の終わりの時点で、群間において有意な差異はなかった。
【0099】
要約すると、AR51A630.3は、このヒト膵臓癌異種移植モデルにおいて、十分に寛容であるとともに、腫瘍負荷を低減させた。
【実施例4】
【0100】
DLD−1細胞を用いるインビボ腫瘍実験
実施例1及び3では、AR51A630.3が異なるヒト癌適応症(indication)に対する抗癌特性を有することを実証した。図6及び7に関連して、8〜10週齢の雌SCIDマウスの、首筋の皮下に100μLPBS溶液中の5百万個のヒト結腸直腸癌細胞(DLD−1)を注入することにより移植した。当該マウスを無作為に5匹ずつの2つの処置群に分けた。移植後その当日に、2.7 mM KCl、1mM KH2PO4、137 mM NaCl及び20 mM Na2HPO4含有の希釈剤でストック濃縮物から希釈した後、300μLの量でコホートに対し、AR51A630.3試験抗体又はバッファコントロールの20mg/kgを、腹腔内に投与した。その後抗体及びコントロールサンプルを、その実験期間中1週間に1度投与した。腫瘍増殖を約7日ごとにキャリパーで測定した。実験を抗体8回の投薬後に完了させた。動物の体重を実験期間中1週間に1回記録した。実験の終わりに、CCAC指針に従って全ての動物を安楽死させた。
【0101】
AR51A630.3は、ヒト結腸直腸癌のDLD−1インビボ予防モデルにおいて、腫瘍増殖を低減させた。抗体の最後の投薬(dose)後9日の34日目での測定では、ARIUS抗体AR51A630.3での処置は、バッファ処置の群と比較して、DLD−1腫瘍の増殖を53.97%(t検定、p=0.0049)低減させた(図6)。全てのマウスが34日目にまだ生存していた。実験は最後の投薬後5日である、48日目まで継続した。コントロール群の3匹のマウス及び抗体処置群の2匹が、腫瘍体積のために、48日目に除去され、これが実験の終点の1つである。ただし、48日目にもなお、AR51A630.3は、DLD−1腫瘍の増殖を64.1%(t検定、p=0.0305)まで有意に低減させた。
【0102】
実験全体を通して毒性の臨床的兆候はなかった。週1回の間隔で測定した体重は、健康状態及び発育障害の指標であった(図7)。処置期間の終わりの時点で、群間において有意な差異はなかった。また、実験の開始から終了まで、各群における平均体重に有意な差異はなかった。
【0103】
要約すると、AR51A630.3は、このヒト結腸直腸癌異種移植モデルにおいて、十分に寛容であるとともに、腫瘍負荷を低減させた。
【実施例5】
【0104】
BxPC−3細胞を用いるインビボ腫瘍実験
実施例1、3及び4では、AR51A630.3が異なるヒト癌細胞系列に対する抗癌特性を有することを実証した。図8及び9に関連して、8〜10週齢の雌SCIDマウスの、首筋の皮下に100μLPBS溶液中の5百万個のヒト結腸直腸癌細胞(DLD−1)を注入することにより移植した。当該マウスを無作為に5匹ずつの2つの処置群に分けた。移植後その当日に、2.7 mM KCl、1mM KH2PO4、137 mM NaCl及び20 mM Na2HPO4含有の希釈剤でストック濃縮物から希釈した後、300μLの量でコホートに対し、AR51A630.3試験抗体又はバッファコントロールの20mg/kgを、腹腔内に投与した。その後抗体及びコントロールサンプルを、その実験期間中1週間に1度投与した。腫瘍増殖を約7日ごとにキャリパーで測定した。実験を抗体8回の投薬後に完了させた。動物の体重を実験期間中1週間に1回記録した。実験の終わりに、CCAC指針に従って全ての動物を安楽死させた。
【0105】
AR51A630.3は、ヒト膵臓癌のBxPC−3インビボ予防モデルにおいて、腫瘍増殖を低減させた。抗体の最後の投薬後4日の54日目での測定では、ARIUS抗体AR51A630.3での処置は、バッファ処置の群と比較して、BxPC−3腫瘍の増殖を58.4%(t検定、p=0.044)低減させた(図8)。
【0106】
実験全体を通して毒性の臨床的兆候はなかった。週1回の間隔で測定した体重は、健康状態及び発育障害の指標であった。平均体重は、実験期間中、全ての群において上昇した(図9)。0日目〜54日目の間の平均体重増加は、コントロール群において1.2g(5.5%)であり、AR51A630.3処置群においては1.2g(5.5%)であった。処置期間の終わりの時点で、群間において有意な差異はなかった。
【0107】
要約すると、AR51A630.3は、このヒト膵臓癌異種移植モデルにおいて、十分に寛容であるとともに、腫瘍負荷を有意に低減させた。
【実施例6】
【0108】
競合結合物の単離
抗体については、当業界で通常の知識を有する者であれば、競合的に阻害するCDMABを作製でき、例えば、同じエピトープを認識する競合抗体がある(Belanger L et al. Clinica Chimica Acta 48:15-18 (1973))。1つの方法では、抗体により認識される抗原を発現する免疫原を伴う免疫化を必要とする。サンプルは、限定されるものではないが、組織、(1又は複数の)単離タンパク質又は(1又は複数の)細胞系列を含んでもよい。得られたハイブリドーマは、試験抗体の結合を阻害する抗体を識別する、ELISA、FACS又はウェスタンブロッティング等の競合アッセイを用いてスクリーニングができた。別の方法では、ファージディスプレイ抗体ライブラリーと少なくとも1つの当該抗原を認識する抗体のパニングを利用できた(Rubinstein JL et al. Anal Biochem 314:294-300 (2003))。いずれの場合においても、抗体は、オリジナルの標識抗体の結合を、その標的抗原の少なくとも1つのエピトープに置き換える抗体の能力に基づいて選択される。従って当該抗体は、オリジナルの抗体として、少なくとも1つの抗原のエピトープを認識する特徴を有するはずである。
【実施例7】
【0109】
AR51A630.3モノクローナル抗体の可変領域のクローニング
AR51A630.3ハイブリドーマ細胞系列により作製されるモノクローナル抗体の、重鎖(VH)及び軽鎖(VL)由来の可変領域の配列を決定できる。免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖をコードするRNAは、グアニジンイソチオシアネートでの細胞可溶化を要する標準的な方法を用いて、対象のハイブリドーマから抽出できる(Chirgwin et al. Biochem. 18:5294-5299 (1979))。mRNAは、当業界で既知のPCR方法論により、その後のVH及びVLの単離用のcDNAを調製するために使用できる((Sambrook et al., eds., Molecular Cloning, Chapter 14, Cold Spring Harbor laboratories Press, N.Y. (1989))。重鎖及び軽鎖のN末端アミノ酸配列は、自動化したエドマン分解法により独立に決定できる。CDR及び隣接するFRのさらなる伸展はまた、VH及びVL断片のアミノ酸配列決定により決定できる。その後合成プライマーを、AR51A630.3モノクローナル抗体由来のVH及びVL遺伝子の単離用に設計できるとともに、単離遺伝子を配列決定のために適切なベクターにライゲーションできる。キメラ及びヒト化IgGを作製するために、可変軽鎖及び可変重鎖ドメインを発現のために適切なベクターにサブクローニングできる。
【0110】
(i)モノクローナル抗体
(実施例1で概説したような)モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手法を用いて容易に単離及び配列決定できる(例えば、モノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合できる、オリゴヌクレオチドプローブを用いることにより)。ハイブリドーマ細胞は、かかるDNAの好ましい供給源としての役割を果たす。単離した後、DNAを発現ベクターに入れ、その後、免疫グロブリンタンパク質を作製しないE.coli細胞、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、骨髄腫細胞等の宿主細胞に形質移入し、組み換え宿主細胞におけるモノクローナル抗体の合成物を得る。DNAはまた修飾されてもよく、例えば、同族のマウス配列における、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインをコードする配列を置換することにより行ってもよい。キメラ又はハイブリッド抗体はまた、合成タンパク質化学において既知の方法を用いてインビトロで調製してもよく、例えば架橋剤を要するものなどが挙げられる。例えば、免疫毒性は、ジスルフィド交換反応の使用又はチオエーテル結合の形成により構築できる。本目的に適する試薬の例としては、イミノチオレート(iminothiolate)及びメチル−4−メルカプトブチルイミデートが挙げられる。
【0111】
(ii)ヒト化抗体
ヒト化抗体は、非ヒト供給源から、そこに導入された1又は複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「移入」残基と呼ばれ、典型的には「移入」可変ドメインから取られる。ヒト化は、齧歯類の1又は複数のCDR配列を、ヒト抗体の対応する配列に置換することによる、Winter及び共同研究者の方法を実施できる(Jones et al., Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988); Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536 (1988); reviewed in Clark, Immunol. Today 21:397-402 (2000))。
【0112】
ヒト化抗体は、親及びヒト化配列の3次元モデルを用いて、親配列及び様々な概念のヒト化産物の解析のプロセスにより調製できる。3次元免疫グロブリンモデルは、一般的に利用され、当業者によく知られている。選択した候補免疫グロブリン配列の有望な3次元立体構造を例示及び表示するコンピュータプログラムを利用できる。これらの表示の検査により、候補免疫グロブリン配列の機能においてその残基の可能性ある役割の解析、すなわち、抗原に結合する候補免疫グロブリンの能力に影響を及ぼす残基の解析が可能となる。これにより、FR残基が、(1又は複数の)標的抗原への親和性向上等の所望の抗体特徴を達成するような、共通配列及び移入配列から選択し、組み合わせることができる。一般的には、CDR残基は、抗原結合への影響に、直接的且つ最も実質的に関与する。
【0113】
(iii)抗体断片
抗体断片の作製のための様々な技術が開発されている。これらの断片は組み換え宿主細胞により作製できる(Hudson, Curr. Opin. Immunol. 11:548-557 (1999); Little et al., Immunol. Today 21:364-370 (2000)に概説されている)。例えば、Fab'−SH断片をE.coliから直接除去し、化学的に共役させF(ab')2断片を形成させることができる(Carter et al., Biotechnology 10:163-167 (1992))。別の実施態様によれば、F(ab')2分子の集合を促進するロイシンジッパーGCN4を用いてF(ab')2を形成する。別の手法によれば、Fv、Fab又はF(ab')2断片を、組み換え宿主細胞培養物から直接単離できる。
【実施例8】
【0114】
本発明の抗体を含んでなる組成物
本発明の抗体は、癌の予防/処置のための組成物として使用できる。本発明の抗体を含んでなる癌の予防/処置のための組成物は低毒性であるとともに、液体製剤の状態で、又はヒトもしくは哺乳類(例えばラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル等)に対し、経口もしくは非経口(例えば、静脈内、腹腔内、皮下等)での投与に適切な製剤の医薬組成物として投与できる。本発明の抗体は、それ自体を投与してもよいし、適切な組成物として投与してもよい。投与用に使用される組成物は、本発明の抗体又はその塩とともに医薬的に許容可能な担体を、そして希釈剤又は賦形剤を含有してもよい。かかる組成物は経口又は非経口投与に適する医薬製剤の形態で投与される。
【0115】
非経口投与のための組成物の例としては、注射用製剤、坐剤等が挙げられる。注射用製剤には、静脈内、皮下、皮内及び筋肉内注射、点滴、関節内注射等の投薬形態があり得る。これらの注射用製剤は周知の方法で調製できる。例えば、注射用製剤は、本発明の抗体又はその塩を、注射用として従来から使用されている滅菌水媒体又は油性媒体中に、溶解、懸濁又は乳化させることにより調製してもよい。注射用の水性媒体としては、例えば生理食塩水、グルコース及び他の補助剤を含有する等張溶液等があり、アルコール(例えばエタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、HCO−50(水素化ヒマシ油のポリオキシエチレン(50モル)付加物))等の適切な可溶化剤との組み合わせで使用してもよい。油性媒体としては、ゴマ油、ダイズ油等が使用され、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等の可溶化剤との組み合わせで使用してもよい。すなわち、注射剤は通常、適切なアンプルに充填される。直腸投与用の坐剤は、本発明の抗体又はその塩を、坐剤用の従来基材と混合することにより調製してもよい。経口投与のための組成物には、固体又は液体製剤が含まれ、特に錠剤(糖衣錠及びフィルムコート錠剤がある)、丸剤、顆粒、粉末製剤、カプセル(軟カプセルがある)、シロップ、エマルション、懸濁物等が挙げられる。当該組成物は周知の方法で製造され、医薬製剤の分野で従来から使用されるビヒクル、希釈剤又は賦形剤を含有してもよい。錠剤用のビヒクル又は賦形剤の例としては、乳糖、スターチ、スクロース、ステアリン酸マグネシウム等がある。
【0116】
有利なことには、上記の経口又は非経口使用のための組成物は、活性成分の用量に適合する適切な単位用量での医薬製剤を調製する。かかる単位用量製剤には、例えば錠剤、丸薬、カプセル、注射(アンプル剤)、坐剤等がある。前述の含有される化合物の量は、一般的に投薬単位形態当たり5〜500 mgである。特に注射の形態では上記抗体が約5〜約100 mgで含まれ、その他の形態では10〜250 mgであることが好ましい。
【0117】
本発明の抗体を含んでなる、前述の予防的/治療的な剤又は調節因子の用量は、投与される対象、標的疾患、症状、投与経路等によって変動し得る。例えば成人の乳癌の処置/予防の目的で使用する場合、本発明の抗体を用量として約0.01〜約20 mg/体重kgで、好ましくは約0.1〜約10 mg/体重kgで、より好ましくは約0.1〜約5 mg/体重kgで、頻度として約1〜5回/日で、好ましくは約1〜3回/日、静脈内に投与することが有利である。他の非経口及び経口投与においては、剤を上記に示した用量に対応する用量で投与できる。症状が特に重篤な場合は、その症状によって用量を増加してもよい。
【0118】
本発明の抗体は、そのままで投与しても、適切な組成物の形態で投与してもよい。投与のために使用される組成物は、前述の抗体又はその塩と共に、医薬的に許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤を含有してもよい。かかる組成物は、経口又は非経口投与(例えば静脈注入、皮下注入等)に適した医薬製剤の形態で提供される。上記の各組成物は、他の活性成分をさらに含有してもよい。さらに、本発明の抗体は、他の薬物との組み合わせで使用してもよく、例えば、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホスファミド等)、代謝性アンタゴニスト(例えば、メトトレキサート、5−フルオロウラシル等)、抗腫瘍抗体(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン等)、植物誘導性抗腫瘍剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール等)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポシド、イリノテカン等がある。本発明の抗体は及び上記の薬物は、患者に対して同時に投与しても、時間差で投与してもよい。
【0119】
AR51A630.3は、癌細胞系列に存在するエピトープのライゲーションを通して抗癌効果を媒介することを、多数の証拠が示している。さらにAR51A630.3抗体は、限定するものではないが、FACS、細胞ELISA又はIHCにより例示される技術を利用して、特異的に結合するエピトープを発現する細胞の検出において使用できる。
【0120】
本明細書中で述べられた全ての特許文献及び刊行物は、本発明の属する技術分野の、通常の知識を有する者に対するレベルの指標となる。全ての特許文献及び刊行物は、個々の刊行物が具体的且つ個別的に参照により組み込まれると指示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0121】
本発明の特定の形態が例示されているが、これは本明細書で記載及び示されている部分の、具体的な形態又はアレンジに限定するものではないと解すべきである。本発明の範囲を逸脱することなく様々な変更がなされるとともに、本発明が明細書中に示し、記載したものに限定されると考えられないことは、当業者にとって明らかである。
【0122】
当業者であれば、本発明を、目的を実施し、及び上述の結果と利益、並びにその固有のものを得るために十分適応させることは容易に理解できるはずである。本明細書中で記載した、いずれかのオリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、生物的関連化合物、方法、手法、及び技術は、現在のところの好ましい実施態様の代表例であり、例とする意図であるが、その範囲を限定する意図はない。この中における変更及び他の使用は当業者であれば想到できるはずであり、本発明の精神の範囲内に包含されるとともに、添付の請求の範囲により規定されるものである。本発明は特定の好ましい実施態様との関連で記載されているが、請求された本発明がかかる特定の実施態様に過度に限定されるべきではないことは当然理解されるはずである。実際、当業者に自明な発明の実施のための記載の様式の様々な変更は、以下の請求の範囲内であることを意図している。
【0123】
【表1】

【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体。
【請求項2】
IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のヒト化抗体、又は当該ヒト化抗体から作製される抗原結合断片。
【請求項3】
IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のキメラ抗体、又は当該キメラ抗体から作製される抗原結合断片。
【請求項4】
IDAC受託番号010207−01で寄託された、単離ハイブリドーマ細胞系列。
【請求項5】
ヒト腫瘍から選択された組織標本における癌性細胞に、抗体誘導性細胞毒性を引き起こすための方法であって、
当該ヒト腫瘍からの組織標本を用意するステップ、
IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のヒト化抗体、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のキメラ抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABを用意するステップ、及び
前記単離モノクローナル抗体、前記ヒト化抗体、前記キメラ抗体又はそのCDMABを前記組織標本と接触させるステップ、
を含んでなり、ここで単離モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体又はそのCDMABと、組織標本との結合が細胞毒性を誘導する、方法。
【請求項6】
請求項1の単離モノクローナル抗体のCDMAB。
【請求項7】
請求項2のヒト化抗体のCDMAB。
【請求項8】
請求項3のキメラ抗体のCDMAB。
【請求項9】
細胞毒性成分、酵素、放射性化合物、及び血行性細胞からなる群から選択される1つと複合化された、請求項1、2、3、6、7又は8のいずれか1項に記載の単離抗体又はそのCDMAB。
【請求項10】
哺乳類において抗体誘導性細胞毒性の影響を受けやすいヒト腫瘍を治療する方法であって、当該ヒト腫瘍は、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABに特異的に結合する抗原のエピトープを少なくとも1つ発現するものであり、前記哺乳類に、前記抗体又はそのCDMABを、当該哺乳類の腫瘍量を低減させる有効な量で投与するステップを含んでなる方法。
【請求項11】
前記単離モノクローナル抗体が細胞毒性成分と複合化された、請求項10の方法。
【請求項12】
前記細胞毒性成分が放射性同位体である、請求項11の方法。
【請求項13】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、補体を活性化する、請求項10の方法。
【請求項14】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、抗体依存性細胞毒性を媒介する、請求項10の方法。
【請求項15】
前記単離モノクローナル抗体がヒト化されている、請求項10の方法。
【請求項16】
前記単離モノクローナル抗体がキメラである、請求項10の方法。
【請求項17】
IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体と、同じ1又は複数のエピトープに特異的に結合することができるモノクローナル抗体。
【請求項18】
哺乳類においてヒト腫瘍を治療する方法であって、前記ヒト腫瘍が、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABに特異的に結合する抗原のエピトープの少なくとも1つを発現するものであり、前記哺乳類に、前記抗体又はそのCDMABを、当該哺乳類の腫瘍量を低減させる有効な量で投与するステップを含んでなる方法。
【請求項19】
前記単離モノクローナル抗体が細胞毒性成分と複合化された、請求項18の方法。
【請求項20】
前記細胞毒性成分が放射性同位体である、請求項19の方法。
【請求項21】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、補体を活性化する、請求項18の方法。
【請求項22】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、抗体依存性細胞毒性を媒介する、請求項18の方法。
【請求項23】
前記単離モノクローナル抗体がヒト化される、請求項18の方法。
【請求項24】
前記単離モノクローナル抗体がキメラである、請求項18の方法。
【請求項25】
哺乳類においてヒト腫瘍を治療する方法であって、前記ヒト腫瘍が、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABに特異的に結合する抗原のエピトープの少なくとも1つを発現するものであり、前記哺乳類に、前記抗体又はそのCDMABを少なくとも1つの化学療法剤と複合化した状態で、当該哺乳類の腫瘍量を低減させる有効な量で投与するステップを含んでなる方法。
【請求項26】
前記単離モノクローナル抗体が細胞毒性成分と複合化された、請求項25の方法。
【請求項27】
前記細胞毒性成分が放射性同位体である、請求項26の方法。
【請求項28】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、補体を活性化する、請求項25の方法。
【請求項29】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、抗体依存性細胞毒性を媒介する、請求項25の方法。
【請求項30】
前記単離モノクローナル抗体がヒト化される、請求項25の方法。
【請求項31】
前記単離モノクローナル抗体がキメラである、請求項25の方法。
【請求項32】
IDAC受託番号010207−01を有するハイブリドーマ細胞系列AR51A630.3により産生される単離モノクローナル抗体、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のヒト化抗体、又はIDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体のキメラ抗体に特異的に結合される、ヒト腫瘍から選択された組織標本における癌性細胞の存在を決定するための結合アッセイであって、
当該ヒト腫瘍からの組織標本を用意するステップ、
IDAC受託番号010207−01を有するハイブリドーマ細胞系列AR51A630.3により産生される単離モノクローナル抗体に認識されるものと、同じ1又は複数のエピトープを認識する、単離モノクローナル抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体又はそのCDMABの少なくとも1つを用意するステップ、
前記用意された抗体又はそのCDMABを、前記組織標本と接触させるステップ、及び
前記用意された抗体又はそのCDMABと、前記組織標本との結合を決定するステップ、
を含んでなり、それにより組織標本における前記癌性細胞の存在が示されるアッセイ。
【請求項33】
ヒト腫瘍量を低減させるためのモノクローナル抗体の使用であって、前記ヒト腫瘍は、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABに特異的に結合する抗原のエピトープを少なくとも1つ発現するものであり、前記哺乳類に、前記抗体又はそのCDMABを、当該哺乳類の腫瘍量を低減させる有効な量で投与することを含んでなる、使用。
【請求項34】
前記単離モノクローナル抗体が細胞毒性成分と複合化された、請求項33の方法。
【請求項35】
前記細胞毒性成分が放射性同位体である、請求項34の方法。
【請求項36】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、補体を活性化する、請求項33の方法。
【請求項37】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、抗体依存性細胞毒性を媒介する、請求項33の方法。
【請求項38】
前記単離モノクローナル抗体がヒト化される、請求項33の方法。
【請求項39】
前記単離モノクローナル抗体がキメラである、請求項33の方法。
【請求項40】
ヒト腫瘍量を低減させるためのモノクローナル抗体の使用であって、前記ヒト腫瘍は、IDAC受託番号010207−01で寄託されたハイブリドーマにより産生される単離モノクローナル抗体、又はそのCDMABであって、標的抗原への当該単離モノクローナル抗体の結合を競合的に阻害できることにより特徴付けられるCDMABに特異的に結合する抗原のエピトープを少なくとも1つ発現するものであり、前記哺乳類に、前記抗体又はそのCDMABを、少なくとも1つの化学療法剤と共に、当該哺乳類の腫瘍量を低減させる有効な量で投与することを含んでなる、使用。
【請求項41】
前記単離モノクローナル抗体が細胞毒性成分と複合化された、請求項40の方法。
【請求項42】
前記細胞毒性成分が放射性同位体である、請求項41の方法。
【請求項43】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、補体を活性化する、請求項40の方法。
【請求項44】
前記単離モノクローナル抗体又はそのCDMABが、抗体依存性細胞毒性を媒介する、請求項40の方法。
【請求項45】
前記単離モノクローナル抗体がヒト化される、請求項40の方法。
【請求項46】
前記単離モノクローナル抗体がキメラである、請求項40の方法。
【請求項47】
ヒト癌性腫瘍を治療するために有効な組成物であって、以下の、
請求項1、2、3、6、7、8、又は17のいずれか1項に記載の抗体又はCDMAB;
細胞毒性成分、酵素、放射性化合物、及び血行性細胞からなる群から選択される1つと、前記抗体又はその抗原結合断片との複合体;及び
必要量の医薬的に許容可能な担体;
の組み合わせを含んでなり、前記ヒト癌性腫瘍の治療に有効である組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−523479(P2010−523479A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500034(P2010−500034)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000553
【国際公開番号】WO2008/116299
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】